(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
F04C18/02 311J
(21)【出願番号】P 2021543734
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032543
(87)【国際公開番号】W WO2021044954
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019161634
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019161637
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】二上 義幸
(72)【発明者】
【氏名】河野 博之
(72)【発明者】
【氏名】作田 淳
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035748(JP,A)
【文献】特開平05-149270(JP,A)
【文献】特開2005-147101(JP,A)
【文献】特開2005-140016(JP,A)
【文献】特開2006-161818(JP,A)
【文献】特開平09-021389(JP,A)
【文献】特開2001-090680(JP,A)
【文献】特開平11-013655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内を高圧空間と低圧空間とに区画する仕切板と、
前記仕切板に隣接して配置された固定スクロールと、
前記固定スクロールと噛み合わされて複数の圧縮室を形成する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールの自転を防止する自転抑制部材と、
前記旋回スクロールを支持する主軸受と、
電動機の駆動により回転して前記自転抑制部材によって前記旋回スクロールを旋回運動させる回転軸と
を有
し、
前記主軸受は、上面の略中央に設けられたボス収容部と、前記ボス収容部の下方に設けられた軸受部とを備え、
前記ボス収容部は、前記旋回スクロールの下方ボス部を収納し、
前記主軸受は、前記上面で前記旋回スクロールを支持するとともに、前記軸受部で前記回転軸を軸支するスクロール圧縮機であって、
前記固定スクロール、前記旋回スクロール、前記自転抑制部材、及び前記主軸受は、前記低圧空間に配置され、
前記固定スクロール及び前記旋回スクロールは、前記仕切板と前記主軸受との間に配置され、
前記自転抑制部材は、前記旋回スクロールと前記固定スクロールとの間に配置され、
前記回転軸の内部には、下端を油溜まり内に開口して上端を前記ボス収容部に開口している油路が形成され、
前記主軸受には、一端が前記ボス収容部に開口し、他端が前記主軸受の下面で開口する返送経路が形成され、
前記旋回スクロールの背面における最外周部と前記ボス収容部を低圧領域とし、
前記主軸受の前記ボス収容部の外側の前記上面に、複数の環状溝を形成し、
前記環状溝にはシール部材を挿入することで、前記シール部材の間に圧力室を形成し、
前記圧力室を、さらに前記シール部材により、高圧室と中間圧室とに仕切り、
前記高圧室を、前記中間圧室よりも中心部側に配置し、
前記旋回スクロールの中心部の前記圧縮室と前記高圧室とを旋回スクロール端板に形成された高圧導入経路によって連通し、
前記旋回スクロールの中間部の前記圧縮室と前記中間圧室とを前記旋回スクロール端板に形成された中間圧導入経路によって連通した
スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記固定スクロールから作動媒体の吐出される吐出空間と前記高圧室とが間欠的に連通される、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記中間圧室及び前記高圧室は、前記旋回スクロールの前記背面において、前記旋回スクロールと前記固定スクロールとのスラスト摺動面の最外周部よりも内側に配置された、
請求項1
又は請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記
環状溝として、第1格納溝
、第2格納溝
、及
び第3格納溝が形成されており、
前記シール部材として、前記第1格納溝に格納され
る第1シール部材と、
前記第2格納溝に格納され
る第2シール部材と、
前記第3格納溝に格納され
る第3シール部材とを有し、
前記第1シール部材の背面に第1バネ部材が配置され、
前記第2シール部材の背面に第2バネ部材が配置され、
前記第3シール部材の背面に第3バネ部材が配置された、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
組立時における、前記第1バネ部材のバネ荷重と前記第2バネ部材のバネ荷重と前記第3バネ部材のバネ荷重とが同じである、
請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記第1バネ部材のバネ定数と前記第2バネ部材のバネ定数と前記第3バネ部材のバネ定数とが同じである、
請求項4又は
請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記第1バネ部材のバネ定数と前記第2バネ部材のバネ定数と前記第3バネ部材のバネ定数とが互いに異なり、且つ、前記第1バネ部材の自然長と前記第2バネ部材の自然長と前記第3バネ部材の自然長とが同じである、
請求項4又は
請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記第1バネ部材のバネ定数と前記第2バネ部材のバネ定数と前記第3バネ部材のバネ定数とが互いに異なり、且つ、前記第1格納溝の深さと前記第2格納溝の深さと前記第3格納溝の深さとが同じである、
請求項4又は
請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、密閉容器内低圧型のスクロール圧縮機を開示する。このスクロール圧縮機は、
図12に示すように、仕切板1で仕切られた低圧側の室2に、固定スクロール3及び旋回スクロール4で構成した圧縮要素5と、この旋回スクロール4を旋回駆動する電動要素6とが配置されて構成されている。圧縮要素5で圧縮された冷媒は、固定スクロール3の吐出ポート7を介して、仕切板1で仕切られた高圧側の室8に吐出される。このような密閉容器内低圧型のスクロール圧縮機では、旋回スクロール4の背面、すなわち低圧の室2側に、低圧と高圧の中間の圧力を有する圧縮室9の圧力が導入される。これにより、固定スクロール3から旋回スクロール4が離反しないように、旋回スクロール4が固定スクロール3に対して押し付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、固定スクロールに対する旋回スクロールの押し付けを過不足なく行うようにして、性能及び信頼性を向上させたスクロール圧縮機を提供する。
【0005】
本開示のスクロール圧縮機は、旋回スクロールの背面に、低圧空間と、低圧と高圧の中間圧室と、高圧室が配置され、これらの各室からの圧力によって旋回スクロールが固定スクロールに対して押し付けられるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態1にかかるスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、同スクロール圧縮機の圧縮要素主要部の要部断面図である。
【
図3】
図3は、同スクロール圧縮機の仕切板部分の要部断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2にかかるスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態3にかかるスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、同スクロール圧縮機の圧縮要素主要部の要部断面図である。
【
図7】
図7は、同スクロール圧縮機の固定スクロールの下面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態4にかかるスクロール圧縮機の組立後の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【
図9】
図9は、同スクロール圧縮機にかかる組立前の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態5にかかるスクロール圧縮機の組立前の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態6にかかるスクロール圧縮機の組立前の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【
図12】
図12は、従来のスクロール圧縮機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、密閉容器内低圧型のスクロール圧縮機は、特許文献1に示すように、旋回スクロール4の背面に低圧と高圧の中間の圧縮室9の圧力が導入され、固定スクロール3から旋回スクロール4が離反しないように構成されていた。特許文献1に示す構成においては、旋回スクロール4の背面における中心部に、旋回スクロール4を旋回運動させるための偏心した回転軸が設置されている。ここで、当該スクロール圧縮機は密閉容器内が低圧であるため、旋回スクロール4の背面における中心部の領域は、低圧領域となる。一方、特許文献1に示す構成においては、旋回スクロール4の背面において、圧縮室9の圧力を導入する領域が形成し難い。従って、圧縮室9の圧力が低い場合、旋回スクロール4の背面に導入される圧力も低くなり、旋回スクロール4が固定スクロール3から離反してしまう。その結果、旋回スクロール4と固定スクロール3との間に隙間が形成され、圧力の漏れにより圧縮効率が低下するおそれがある。また、圧縮室9の圧力が高い場合は、旋回スクロール4の背面に導入される圧力も高くなる。その結果、旋回スクロール4は固定スクロール3から離反しないが、旋回スクロール4の固定スクロール3に対する押付け力が過大となり、性能の悪化又は信頼性の悪化を引き起こすおそれがある。
【0008】
このように従来のスクロール圧縮機は、性能及び信頼性について改善の余地があることを発明者らは把握し、これを解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0009】
本開示は、効率の低下を抑制し、性能及び信頼性を向上させたスクロール圧縮機を提供する。
【0010】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0011】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0012】
(実施の形態1)
以下、
図1~
図3を用いて、実施の形態1を説明する。
【0013】
[1-1.構成]
図1~
図3において、圧縮機10は、上下方向が長手方向となる円筒状の密閉容器20を、外殻として備えている。なお、本実施の形態において、上下方向とは、各図におけるZ軸方向である。
【0014】
圧縮機10は、密閉容器20の内部に、冷媒を圧縮するための圧縮機構部30と圧縮機構部30を駆動するための電動機40と、を備えた密閉型スクロール圧縮機である。
【0015】
密閉容器20の内部の上方には、密閉容器20の内部を上下に仕切る仕切板50が設けられている。仕切板50は、密閉容器20の内部を、高圧空間60と低圧空間70とに区画している。高圧空間60は、圧縮機構部30で圧縮された後の高圧の冷媒で満たされる空間である。低圧空間70は、圧縮機構部30で圧縮される前の低圧の冷媒で満たされる空間である。
【0016】
密閉容器20は、密閉容器20の外部と低圧空間70とを連通させる冷媒吸込管80と、密閉容器20の外部と高圧空間60とを連通させる冷媒吐出管90とを備えている。圧縮機10には、冷媒吸込管80を介して、密閉容器20の外部に設けられた冷凍サイクル回路(図示せず)から低圧空間70に低圧の冷媒が導入される。圧縮機構部30で圧縮された高圧の冷媒は、まず、高圧空間60に導入される。その後、冷媒は、高圧空間60から冷媒吐出管90を介して、冷凍サイクル回路に吐出される。
【0017】
低圧空間70の底部には、潤滑油が貯留される油溜まり100が形成されている。
【0018】
圧縮機10は、低圧空間70に、圧縮機構部30と電動機40と、を備えている。
【0019】
圧縮機構部30は、少なくとも、固定スクロール110、旋回スクロール120、主軸受130及び自転抑制部材(以下、オルダムリングと称す)140で構成されている。固定スクロール110は、仕切板50の下方に仕切板50と隣接して配置されている。旋回スクロール120は、固定スクロール110の下方に、固定スクロール110と噛み合わされて配置されている。
【0020】
固定スクロール110は、円板状の固定スクロール端板111と、固定スクロール端板111の下面に立設された渦巻状の固定渦巻きラップ112とを備えている。
【0021】
旋回スクロール120は、円板状の旋回スクロール端板121と、旋回スクロール端板121の上面に立設された渦巻状の旋回渦巻きラップ122と、下方ボス部123とを備えている。下方ボス部123は、旋回スクロール端板121の下面の略中央に形成された円筒状の突起である。
【0022】
旋回スクロール120の旋回渦巻きラップ122と固定スクロール110の固定渦巻きラップ112とが噛み合わされることで、旋回スクロール120と固定スクロール110との間に圧縮室150が形成される。圧縮室150は、旋回渦巻きラップ122の内壁面側及び外壁面側に形成される。
【0023】
固定スクロール110及び旋回スクロール120の下方には、旋回スクロール120を支持する主軸受130が設けられている。主軸受130は、上面の略中央に設けられたボス収容部131と、ボス収容部131の下方に設けられた軸受部132とを備えている。ボス収容部131は、旋回スクロール120の下方ボス部123を収納するための凹部である。軸受部132は、上端がボス収容部131に開口し、且つ、下端が低圧空間70に開口する貫通孔である。
【0024】
主軸受130は、上面で旋回スクロール120を支持するとともに、軸受部132で回転軸160を軸支する。
【0025】
回転軸160は、
図1における上下方向が長手方向となる軸である。回転軸160の一端側は軸受部132により軸支され、他端側は副軸受170で軸支される。副軸受170は、低圧空間70の下方、望ましくは、油溜まり100内に設けられた軸受である。回転軸160の上端には、回転軸160の軸心に対して偏心した偏心軸161が設けられている。偏心軸161は、スイングブッシュ180及び旋回軸受124を介して、下方ボス部123に摺動自在に挿入されている。下方ボス部123は、偏心軸161によって、旋回駆動される。
【0026】
回転軸160の内部には、潤滑油が通過する油路162が形成されている。油路162は、回転軸160の軸方向に形成された貫通孔である。油路162の一端は、回転軸160の下端に設けられた吸込口163として、油溜まり100内に開口している。吸込口163の上部には、吸込口163から油路162に潤滑油を汲み上げるパドル190が設けられている。
【0027】
回転軸160の内部において、回転軸160の上部に第1分岐油路164、回転軸160の下部に第2分岐油路165が形成されている。第1分岐油路164の一端は第1給油口166として軸受部132の軸受面で開口し、第1分岐油路164の他端は油路162に連通する。また、第2分岐油路165の一端は第2給油口167として副軸受170の軸受面で開口し、第2分岐油路165の他端は油路162に連通する。
【0028】
油路162の上端は第3給油口168としてボス収容部131の内部に開口する。
【0029】
回転軸160は電動機40に連結されている。電動機40は、主軸受130と副軸受170の間に配置されている。電動機40は、密閉容器20に固定されたステータ41と、このステータ41の内側に配置されたロータ42とを備えている。
【0030】
回転軸160はロータ42に固定されている。回転軸160は、ロータ42の上方に設けられたバランスウェイト200aと、下方に設けられたバランスウェイト200bとを備えている。バランスウェイト200aとバランスウェイト200bとは、回転軸160の周方向に180°ずれた位置に配置されている。
【0031】
回転軸160は、バランスウェイト200a及びバランスウェイト200bによる遠心力と、旋回スクロール120の公転運動により発生する遠心力とで、バランスを取って回転する。なお、バランスウェイト200a及びバランスウェイト200bは、ロータ42に設けられていてもよい。
【0032】
固定スクロール110、旋回スクロール120及びオルダムリング140は、仕切板50と主軸受130との間に配置されている。
【0033】
仕切板50及び主軸受130は密閉容器20に固定されている。固定スクロール110は、主軸受130にボルト等で締結されている。旋回スクロール120は、固定スクロール110と主軸受130との間を軸方向に移動自在に設けられている。
【0034】
本開示では、旋回スクロール120の背面における中心部と最外周部には、低圧の圧力を有する低圧空間(低圧領域)71,72が配置されている。中心部の低圧空間71と最外周部の低圧空間72との間に、高圧の圧力を有する高圧室221と、中間の圧力を有する中間圧室222が配置されている。高圧室221は、旋回スクロール120の背面において、中間圧室222よりも内側、すなわち中心部側に配置されている。
【0035】
また、
図2に示すように、主軸受130のボス収容部131の外側の、旋回スクロール120を支持する面には、複数の環状溝133が形成されている。環状溝133にはシール部材210が挿入されている。シール部材210が旋回スクロール120の背面に接することで、シール部材210の間に圧力室220が形成されている。この空間(圧力室220)には低圧空間(低圧領域)71,72よりも高い圧力が導入されている。シール部材210は、一般にシール性のよいとされるPTFE等の樹脂材料によって形成されている。なお、シール部材210は、環状に構成されていてもよい。
【0036】
本実施の形態では、圧力室220はさらに、シール部材210により、高圧室221と中間圧室222とに仕切られている。高圧室221には吐出ガスと同等の圧力が導入される。中間圧室222には、圧縮室150の低圧と高圧の間の圧縮途中のガスの圧力が導入される。
【0037】
この構成により、高圧室221及び中間圧室222の旋回スクロール120に対する面積、および、中間圧室222に導入する圧縮室150の圧力を適切に設定することができる。従って、密閉容器内低圧型圧縮機においても、圧縮圧力が低圧及び高圧の異なる種々の運転条件において、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反せず、かつ、旋回スクロール120が固定スクロール110に対して押付けられすぎない、最適な押付力を設定することが可能となる。
【0038】
主軸受130には、一端がボス収容部131に開口し、他端が主軸受130の下面で開口する返送経路134が形成されている。
【0039】
オルダムリング140は、固定スクロール110と旋回スクロール120との間に設けられている。オルダムリング140は、旋回スクロール120の自転を防止し、旋回運動をする。
【0040】
圧縮機10の詳細な構成について、
図2を用い更に説明する。
【0041】
旋回渦巻きラップ122は、旋回スクロール端板121の中心側から外周側に向けて徐々に半径の拡大する、インボリュート曲線状の断面を備える壁である。旋回渦巻きラップ122は、所定の高さ(上下方向の長さ)と所定の壁厚(旋回渦巻きラップ122の径方向の長さ)とを有する。
【0042】
旋回スクロール120の略中心部には、後述の第1吐出ポート113へと連通する圧縮室150に吐出ザグリ125が形成されている。
図2に示すように、旋回スクロール端板121には、吐出ザグリ125と高圧室221とを連通する高圧導入経路126が形成されている。
【0043】
また、旋回スクロール端板121には、圧縮途中の中間圧力の冷媒が存在する領域に中圧ポート127が形成されている。中間圧導入経路128は、中圧ポート127と中間圧室222とを連通する(
図2参照)。
【0044】
旋回スクロール端板121におけるオルダムリング140側には、一対のキー溝が設けられている。
【0045】
固定渦巻きラップ112は、固定スクロール端板111の中心側から外周側に向けて徐々に半径の拡大する、インボリュート曲線状の断面を備える壁である。固定渦巻きラップ112は、旋回渦巻きラップ122と等しい所定の高さ(上下方向の長さ)と、所定の壁厚(固定渦巻きラップ112の径方向の長さ)とを有する。
【0046】
固定スクロール端板111の略中心部には、
図3に示すように、第1吐出ポート113が形成されている。また、固定スクロール端板111には、バイパスポート114が形成されている。バイパスポート114は、第1吐出ポート113の近傍であって、圧縮完了直前の高圧圧力の冷媒が存在する領域に配置されている。バイパスポート114としては、旋回渦巻きラップ122の外壁面側に形成される圧縮室150と連通するバイパスポート、及び、旋回渦巻きラップ122の内壁面側に形成される圧縮室150と連通するバイパスポートの2セットが設けられている。
【0047】
固定スクロール110の外周部には、
図1及び
図2に示すように、固定渦巻きラップ112の先端に対して段差を有する外周段差部115が形成されている。外周段差部115は、固定渦巻きラップ112の先端からオルダムリング140の厚み分以上低くなる位置に配置されている。外周段差部115にオルダムリング140が配置されている。
【0048】
固定スクロール110の外周部には、一対のキー溝が設けられている。
【0049】
固定スクロール110の周壁には、冷媒を圧縮室150に取り込むための吸入部(図示せず)が形成されている。
【0050】
図3に示すように、固定スクロール110の上面(仕切板50側の面)には、中央に上方ボス部119が設けられている。上方ボス部119は、固定スクロール110の上面から突出する円柱状の突起である。第1吐出ポート113及びバイパスポート114は、上方ボス部119の上面で開口する。上方ボス部119の上面側には、上方ボス部119と仕切板50との間に吐出空間110Hが形成される。第1吐出ポート113及びバイパスポート114は、吐出空間110Hと連通する。
【0051】
上方ボス部119の上面には、バイパスポート114を開閉自在とするバイパス逆止弁230と、バイパス逆止弁230の過度な変形を防止するバイパス逆止弁ストップ240とが設けられている。バイパス逆止弁230にリードバルブを用いることで高さ方向の大きさをコンパクトにできる。
【0052】
オルダムリング140は、固定スクロール110と旋回スクロール120との間に配置されている。既述のように、オルダムリング140は、固定スクロール110の外周段差部115に配置されている。
【0053】
オルダムリング140は、略円環状のリング部と、リング部の上面から突出する一対の第1のキー及びリング部の下面から突出する一対の第2のキーとを備えている。第1のキーは、一直線上に無い平行な直線上に配置されている。第2のキーは、一直線上に無い平行な直線上に配置されている。第1のキーの配置されている直線と、第2のキーの配置されている直線とは、直交するように設けられている。
【0054】
第1のキーは、固定スクロール110の第1のキー溝と係合し、第2のキーは、旋回スクロール120の第2のキー溝と係合する(図示せず)。これによって、旋回スクロール120は、固定スクロール110に対して自転することなく旋回運動が可能となる。
【0055】
図3は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の仕切板部分の要部断面図である。
【0056】
仕切板50の中心部には、第2吐出ポート51が設けられている。仕切板50の上面には、第2吐出ポート51を開閉自在とする吐出逆止弁250と、吐出逆止弁250の過度な変形を防止する吐出逆止弁ストップ260とが設けられている。
【0057】
仕切板50と固定スクロール110との間には、吐出空間110Hが形成される。吐出空間110Hは、第1吐出ポート113及びバイパスポート114によって圧縮室150と連通する。吐出空間110Hは、第2吐出ポート51によって高圧空間60と連通する。
【0058】
吐出逆止弁250の板厚は、バイパス逆止弁230の板厚より厚い。これによって、吐出逆止弁250がバイパス逆止弁230より先に開くことを防止できる。
【0059】
第2吐出ポート51の断面積は、第1吐出ポート113の断面積よりも大きい。これによって、圧縮室150から吐出される冷媒の圧力損失を低減できる。
【0060】
また、第2吐出ポート51の流入側にテーパが形成されていてもよい。これによって、より圧力損失を低減できる。
【0061】
仕切板50の下面には、第2吐出ポート51の周りに凹部52が設けられている。固定スクロール110の上方ボス部119が凹部52に挿入されて、吐出空間110Hが形成されている。ボスシール部材270により、吐出空間110Hと低圧空間70との間がシールされている。ボスシール部材270は、環状に構成されていてもよい。
【0062】
[1-2.動作]
以上のように構成された圧縮機10について、以下その動作、作用について説明する。電動機40の駆動により、ロータ42とともに回転軸160が回転する。回転軸160の回転に伴う偏心軸161の回転と、オルダムリング140とによって、旋回スクロール120は自転することなく回転軸160の中心軸を中心に旋回運動する。これにより、冷媒吸込管80から冷媒が低圧空間70へと導入される。低圧空間70に導入された冷媒は、電動機40を冷却するとともに、固定スクロール110の吸入部から圧縮室150へ吸入される。圧縮室150へ吸入された冷媒は、容積が縮小していくのに従って圧縮される。
【0063】
圧縮途中における中間圧力の冷媒は、
図2に示す中圧ポート127から中間圧導入経路128を通って、旋回スクロール120の背面に設けられた中間圧室222(
図2参照)に導入される。
【0064】
また、圧縮の終了した高圧の冷媒は、
図2に示す吐出ザグリ125から高圧導入経路126を通って、旋回スクロール120の背面に設けられた高圧室221(
図2参照)に導入される。
【0065】
従って、旋回スクロール120は、適切に設定された中間圧室222の圧力及び高圧室221の圧力で、旋回スクロール120の背面から固定スクロール110に押付けられる。よって、中間圧室222のみを設けた場合よりも、圧縮圧力が低圧及び高圧の異なる種々の運転条件において、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反せず、かつ、旋回スクロール120が固定スクロール110に対して押付けられすぎない、最適な押付力を設定することが可能となる。従って、密閉容器内低圧型圧縮機において、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0066】
また、中間圧導入経路128の中間圧室222側の開口部は、旋回スクロール120が旋回運動することにより、シール部材210をまたいで、間欠的に中間圧室222に連通する。
【0067】
これにより、冷媒の圧縮により圧力の変動する圧縮室150と、中間圧室222とを間欠的に連通させることができる。このため、中間圧室222の圧力脈動を低減することができ、旋回スクロール120が固定スクロール110の離反をより確実に抑制して圧縮機の効率の向上を図ることができる。
【0068】
また、本開示のスクロール圧縮機では、オルダムリング140が、固定スクロール110と旋回スクロール120との間に配置されている。これにより、オルダムリング140が旋回スクロール120の背面側に配置される従来の圧縮機に比べて、旋回スクロール120の背面に設けられた中間圧室222及び高圧室221を広くすることができる。よって、旋回スクロール120を固定スクロール110に対して適正に押し付けるために必要な中間圧室222及び高圧室221の面積を確保することができる。従って、密閉容器内低圧型圧縮機においても、低圧及び高圧の圧縮圧力の異なる種々の運転条件において、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反するのを抑制し、かつ、旋回スクロール120が固定スクロール110に対して押付けられすぎない最適な押付力を設定することが可能となる。よって、圧縮機の効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0069】
オルダムリング140は、低圧空間70に連通している外周段差部115に設置されている。このため、オルダムリング140の摺動部は、吸入冷媒に含まれるオイルで潤滑されるため、信頼性の低下を防ぐことができる。
【0070】
また、本開示のスクロール圧縮機では、旋回スクロール120の背面における中心部及び最外周部には、低圧空間(低圧領域)71,72が配置されている。旋回スクロール120の背面における低圧空間(低圧領域)71,72の間には、高圧室221及び中間圧室222が配置されている。高圧室221は、中間圧室222よりも内側(中心部側)に配置されている。このような構成により、適正な押付力によって旋回スクロール120が固定スクロール110に対して押付けられる。
【0071】
旋回スクロール120と固定スクロール110とで形成される圧縮室150において、外周から中心に向かうに伴って冷媒が低圧から高圧に圧縮される。このため、旋回スクロール120の中心部は、高圧に近い圧力によって固定スクロール110から離反する方向に力を受ける。しかしながら、本実施の形態の構成によれば、旋回スクロール120の背面において、高圧室221が中間圧室222より中心部側に配置されているため、旋回スクロール120の中心部分を外周部よりも強く固定スクロール110に押し付けることができる。よって、固定スクロール110に対する旋回スクロール120の離反をより効果的に抑制することができるため、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロール120に対して適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0072】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態におけるスクロール圧縮機は、密閉容器20内を高圧空間60と低圧空間70に区画する仕切板50と、仕切板50に隣接する固定スクロール110と、固定スクロール110と噛み合わされて圧縮室150を形成する旋回スクロール120と、旋回スクロール120の自転を防止する自転抑制部材140と、旋回スクロール120を支持する主軸受130と、を有する。固定スクロール110、旋回スクロール120、自転抑制部材140、及び主軸受130は、低圧空間70に配置されている。固定スクロール110及び旋回スクロール120は、仕切板50と主軸受130との間に配置されている。旋回スクロール120の背面に、低圧空間(低圧領域)71,72と、低圧と高圧の中間圧室222と、高圧室221が配置されている。
【0073】
これにより、密閉容器内が低圧であっても、旋回スクロール120の背面において、中間圧室222及び高圧室221によって適正な領域に適正な圧力を導入できる。従って、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反するのを抑制して、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロールの背面に、圧力を付与する領域を拡大するための特別な部品を装着しなくてもよいため、簡素な構成で、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0074】
なお、本実施の形態のスクロール圧縮機は、旋回スクロールの背面における中心部と最外周部を低圧空間(低圧領域)71,72とし、高圧室221を中間圧室222より内側に配置した構成である。これにより、固定スクロール110から離反する方向に強い圧力の印可される旋回スクロール120中心部へ、大きな圧力を印加することができる。従って、固定スクロール110に対する旋回スクロール120の離反を効果的に抑制して圧力の漏れを低減できるととともに、旋回スクロール120に対して適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0075】
なお、本実施の形態のスクロール圧縮機においては、旋回スクロール120の背面に、低圧空間(低圧領域)71,72と中間圧室222と高圧室221とをそれぞれ仕切る環状のシール部材210が配置されている。これにより、低圧空間(低圧領域)71,72と中間圧室222と高圧室221とのそれぞれの間の圧力の漏れを低減することができる。従って、中間圧室222及び高圧室221に適正な圧力を安定して導入することができるため、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反することを抑制でき、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロール120に対して適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。そして、中間圧室222及び高圧室221から低圧空間(低圧領域)71,72に圧力が漏れるのを抑制することができるため、効率の低下を抑制することができる。
【0076】
なお、本実施の形態のスクロール圧縮機においては、圧縮室150と中間圧室222とを連通させているので、圧縮室150と連通する圧力を任意に決めることができる。従って、最適な圧力で旋回スクロール120を固定スクロール110に対して押付けることが可能となる。よって、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反することを抑制して、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロール120に対して適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0077】
なお、本実施の形態のスクロール圧縮機においては、旋回スクロール120と固定スクロール110との間に自転抑制部材140が配置されている。これにより、旋回スクロール120の背面の領域に、高圧室221及び中間圧室222を最大限に設けることができる。従って、旋回スクロール120を固定スクロール110に対して適正に押付けることが可能となり、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反することを抑制して、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロール120に対して適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0078】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2にかかるスクロール圧縮機の縦断面図である。
【0079】
[2-1.構成]
圧縮機10は、
図4に示すように、上下方向が長手方向となる円筒状の密閉容器20を、外殻として備えている。なお、本実施の形態において、上下方向とは、各図におけるZ軸方向である。
【0080】
本実施の形態の基本的な構成は、実施の形態1と同一であるので説明を省略する。また、実施の形態1で説明した構成と同一構成には同一符号を付して説明を一部省略する。
【0081】
本実施の形態では、固定スクロール110の内部に高圧導入経路129が配置されている。また、旋回スクロール120の内部に高圧導入経路126が配置されている。
【0082】
これにより、旋回スクロール120が旋回することで、高圧導入経路126と高圧導入経路129とが間欠的に連通し、固定スクロール110から高圧冷媒の吐出される吐出空間110Hと高圧室221とが連通される。
【0083】
[2-2.動作]
上記構成によれば、より安定した、脈動の少ない圧力を高圧室221に導入することができる。このため、旋回スクロール120を固定スクロール110に安定して押付けることが可能となり、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反することを抑制して、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロール120に適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0084】
また、吐出空間110Hに溜まったオイルを、旋回スクロール120と固定スクロール110との摺動部に供給することができるため、摺動部の信頼性を向上することができる。
【0085】
[2-3.効果等]
本実施の形態におけるスクロール圧縮機においては、吐出空間110Hと高圧室221とが連通される。これにより、比較的変動の少なく、安定した圧力を高圧室221に印可することができるため、旋回スクロール120を固定スクロール110に安定して押付けることが可能となる。よって、旋回スクロール120が固定スクロール110から離反するのをより確実に抑制でき、圧力の漏れを低減できる。また、旋回スクロール120に適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0086】
(実施の形態3)
図5は、実施の形態3にかかるスクロール圧縮機の縦断面図である。また、
図6は、同スクロール圧縮機の圧縮要素主要部の要部断面図、
図7は、固定スクロールの下面図である。
【0087】
[3-1.構成]
圧縮機10は、
図5及び
図6に示すように、上下方向を長手方向とする円筒状の密閉容器20を、外殻として備えている。なお、本実施の形態において、上下方向とは、各図におけるZ軸方向である。
【0088】
本実施の形態の基本的な構成は、実施の形態1と同一であるので説明を省略する。また、実施の形態1で説明した構成と同一構成には同一符号を付して説明を一部省略する。
【0089】
本実施の形態では、中間圧室222及び高圧室221は、固定スクロール110における旋回スクロール120とのスラスト摺動面最外周部116(
図6及び
図7の一点鎖線)よりも内側に配置されている。ここで、スラスト摺動面最外周部116とは、固定スクロール110における旋回スクロール120とのスラスト摺動面の最大範囲の周縁のことを指す。
【0090】
上述のように圧力室が配置されることによって、旋回スクロール120には、スラスト摺動面最外周部116よりも内側において、中間圧室222及び高圧室221による押圧力が印加される。
【0091】
[3-2.動作]
本実施の形態のスクロール圧縮機において、旋回スクロール120は、固定スクロール110の旋回スクロール120とのスラスト摺動面最外周部116よりも内側に設けられた中間圧室222及び高圧室221の圧力で、固定スクロール110へ押付けられる。このため、旋回スクロール端板121の外周部が、中間圧室222及び高圧室221の圧力で変形することを抑制することができる。
【0092】
[3-3.効果等]
本実施の形態におけるスクロール圧縮機は、実施の形態1又は実施の形態2の構成について、さらに、中間圧室222及び高圧室221が、旋回スクロールと固定スクロールのスラスト摺動面最外周部116よりも内側に配置されたものである。
【0093】
これにより、旋回スクロール端板121の外周部が、中間圧室222及び高圧室221の圧力で変形することを抑制することができる。このため、特に、固定スクロール110のスラスト摺動面最外周部116付近での局所的な摺動を抑制することが可能となり、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0094】
(実施の形態4)
本実施の形態のスクロール圧縮機について、上記実施の形態1~3への追加の構成又は異なる構成を中心に説明する。本実施の形態においては、低圧空間(低圧領域)71,72と高圧室221と中間圧室222との間のシールが、以下に説明するように構成されている。これにより、性能の低下及び信頼性の低下をより確実かつ効果的に防止できるようにしている。
【0095】
図8は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の組立後の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。本実施の形態の基本的な構成は、実施の形態1~3と同様であるので説明を省略する。また、既に説明した構成と同一構成には同一符号を付して説明を一部省略する。
【0096】
図8に示すように、低圧空間(低圧領域)71,72と高圧室221と中間圧室222との間は、主軸受130に設けられた複数の格納溝133に複数の環状シール部材210が挿入されることでシールされる。具体的には、格納溝133a,133b,133cに複数の環状シール部材210a,210b,210cがそれぞれ挿入されている。また、複数の環状シール部材210a,210b,210cと、格納溝133a,133b,133cの底面との間には、複数のバネ部材211a,211b,211cがそれぞれ挿入されている。なお、本実施の形態においては、複数のバネ部材211a,211b,211cは、組立時のバネ荷重Fが互いにほぼ同じになるように構成されている。
【0097】
具体的には、複数のバネ部材211の各々のバネ荷重Fは、複数のバネ部材211のバネ荷重の平均に対して、±10%以内が望ましい。これにより、複数のバネ部材211によって複数の環状シール部材210が旋回スクロール120に均一に押し付けられる。従って、効率の低下や信頼性の低下をより確実かつ効果的に防止できる。
【0098】
特に圧縮機の始動直後、あるいは運転条件によっては、環状シール部材210の動作が不安定になるおそれがある。環状シール部材210の動作が不安定になると、環状シール部材210が旋回スクロール120背面に押圧されず、その結果、高圧室221の圧力より低い圧力の中間圧室222に、高圧室221の高圧の冷媒およびオイルが過大に流入する可能性がある。そのような場合には、旋回スクロール120が固定スクロール110に過剰に押付けられ、圧縮機の効率を低下させるとともに、信頼性の低下を招くおそれがある。
【0099】
しかしながら、本実施の形態の構成によれば、複数の環状シール部材210a,210b,210cは、それぞれ複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ荷重によって、旋回スクロール120の背面に対して押印される。また、複数のバネ部材211a,211b,211cは、組立時のバネ荷重Fが互いにほぼ同じ大きさに構成されている。このため、旋回スクロール120の背面が環状シール部材210a,210b,210cによってバランスよく押印される。つまり、旋回スクロール120の背面を、圧力変動等に影響されることなく安定して押印することが可能となる。このため、圧縮機の起動時から、効率を向上させ、且つ、旋回スクロール120の不安定な挙動による性能の低下及び信頼性低下を抑制することができる。
【0100】
一般的に、バネ荷重Fは、バネ荷重F=バネ定数k×バネの縮み量xで表される。本実施の形態では、バネ部材(第1バネ部材)211aのバネ定数ka、バネ部材(第2バネ部材)211bのバネ定数kb、及びバネ部材(第3バネ部材)211cのバネ定数kcのバネ定数を、互いにほぼ同じにしている。
【0101】
具体的には、それぞれのバネ部材211のバネ定数は、バネ部材211のバネ定数の平均に対して、±10%以内にするのが望ましい。これにより、各バネ部材211のバネ荷重Fをバネ荷重Fの平均に対して±10%以内にすることができる。
【0102】
図9は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の組立前の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【0103】
バネ部材(第1バネ部材)211aのバネ定数ka、バネ部材(第2バネ部材)211bのバネ定数kb、バネ部材(第3バネ部材)211cのバネ定数kcをほぼ同じにしている。さらに、バネの縮み量xを一定にするため、主軸受130に配置された格納溝(第1格納溝)133a、格納溝(第2格納溝)133b、及び格納溝(第3格納溝)133cのそれぞれの深さ133h(深さ133ch,133bh,133ah)を一定にするとともに、複数のバネ部材211a,211b,211cの自然長211h(自然長211ah,211bh,211ch)を一定にしている。
【0104】
この構成により、複数のバネ部材211a,211b,211cの外径が異なる構成において、例えば、複数のバネ部材211として板バネが用いられた場合、板バネのバネ厚み、バネ幅及び折り返しの数等で、容易にバネ定数ka,kb,kcを一定にすることが可能である。そして、バネの縮み量xをほぼ同じにすれば、複数のバネ部材の間で容易にバネ荷重をほぼ同じにすることができる。
【0105】
なお、上記説明においては、主軸受130の格納溝133a,133b,133cのそれぞれの深さ133h(深さ133ah,133bh,133ch)を一定とし、且つ、複数のバネ部材211a,211b,211cの自然長211h(自然長211ah,211bh,211ch)を一定としている。しかしながら、格納溝133a,133b,133cのそれぞれの深さ133h、及び、複数のバネ部材211a,211b,211cの自然長211hの少なくともいずれかをそれぞれ変えて、バネ部材211a,211b,211cの各バネの縮み量xを一定としてもよいことは言うまでもない。
【0106】
以上のように、本実施の形態におけるスクロール圧縮機は、密閉容器内を高圧空間と低圧空間に区画する仕切板と、仕切板に隣接する固定スクロールと、固定スクロールと噛み合わされて圧縮室を形成する旋回スクロールと、旋回スクロールの自転を防止する自転抑制部材と、旋回スクロールを支持する主軸受とを有する。固定スクロール、旋回スクロール、自転抑制部材、及び主軸受は、低圧空間に配置され、固定スクロール及び旋回スクロールは、仕切板と主軸受との間に配置されている。旋回スクロールの背面に、低圧空間と、低圧と高圧の中間圧室と、高圧室とが配置されている。更に、低圧空間と中間圧室と高圧室とを仕切る複数の環状シール部材が配置され、且つ、環状シール部材の背面に複数のバネ部材が配置されている。
【0107】
これにより、密閉容器内が低圧であっても、旋回スクロールの背面において適正な領域に適正な圧力を導入して、旋回スクロールが固定スクロールから離反するのを抑制することができる。従って、圧力の漏れを低減できるととともに、旋回スクロールに適正な押付力を印可できるため、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。
【0108】
また、複数の環状シール部材の背面に、複数のバネ部材が配置されているので、複数のバネ部材の間で各々のバネ荷重をほぼ同じにすることにより、特に圧縮機の始動直後に、旋回スクロールの背面において複数の環状シール部材をバランス良く固定スクロールに押付けることが可能となってシール性が向上する。従って、旋回スクロールを安定的に固定スクロールに押付けることができ、性能及び信頼性を効果的に向上させることができる。
【0109】
なお、複数のバネ部材のバネ定数は、互いに一定であってもよい。
【0110】
これにより、複数のバネ部材の外径が互いに異なる構成において、例えば複数のバネ部材として板バネが用いられる場合、板バネのバネ厚み、バネ幅及び折り返しの数等によって容易にバネ定数を一定に調整することが可能である。そして、複数のバネ部材のバネの縮み量を互いにほぼ同じにすれば、容易に複数のバネ部材のバネ荷重をほぼ同じにすることができる。
【0111】
(実施の形態5)
図10は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の組立前の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【0112】
本実施の形態の基本的な構成は、実施の形態1~4と同様であるので説明を省略する。また、既に説明した構成と同一構成には同一符号を付して説明を一部省略する。
【0113】
本実施の形態では、複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ定数ka,kb,kcは互いに異なる。また、複数のバネ部材211a,211b,211cの自然長211hは互いにほぼ同じである。
【0114】
この構成によれば、複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ定数ka,kb,kcが互いに異なっていても、複数のバネ部材211a,211b,211cの自然長211hを互いにほぼ同じとし、且つ、主軸受130における複数の格納溝133a,133b,133cの各々の深さ133ah,133bh,133chを調整することにより、複数のバネ部材211a,211b,211cの縮み量xを調整することができる。従って、主軸受130の格納溝133の加工による調整によって、容易に複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ荷重Fを互いにほぼ同じにすることができる。
【0115】
複数のバネ部材211a,211b,211cの自然長211hは、具体的には、±30%以内が望ましい。格納溝の深さ133ah,133bh,133chは、精度良く加工することができるため、格納溝の深さ133ah,133bh,133chを各々調整することにより、複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ荷重Fを互いにほぼ同じにすることができる。
【0116】
以上のように、本実施の形態のスクロール圧縮機は、複数のバネ部材のバネ定数が互いに異なり、且つ、複数のバネ部材の自然長が互いにほぼ同じとなるように構成されている。
【0117】
これにより、複数のバネ部材のバネ定数が異なっていても、複数のバネ部材の自然長を同じにして、主軸受における複数の格納溝の深さを調整することにより、複数のバネ部材の縮み量を調整することができる。従って、格納溝の加工によって容易に複数のバネ部材のバネ荷重を互いにほぼ同じにすることができる。
【0118】
(実施の形態6)
図11は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の組立前の環状シール部材付近の拡大縦断面図である。
【0119】
本実施の形態の基本的な構成は、実施の形態1~4と同様であるので説明を省略する。また、既に説明した構成と同一構成には同一符号を付して説明を一部省略する。
【0120】
本実施の形態では、複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ定数ka,kb,kcは互いに異なる。また、主軸受130に設けられた格納溝133a,133b,133cの深さ133hは互いにほぼ同じに構成されている。
【0121】
この構成によれば、複数のバネ部材のバネ定数ka,kb,kcが互いに異なっていても、主軸受130に設けられた複数の格納溝133a,133b,133cの深さ133hを互いにほぼ同じとし、且つ、複数のバネ部材211a,211b,211cの各々の自然長211ah,211bh,211chを調整することにより、複数のバネ部材211a、211b、211cの縮み量xを調整することができる。従って、容易に、かつ加工時のコストを安価に、複数のバネ部材211a,211b,211cのバネ荷重Fを互いにほぼ同じにすることができる。
【0122】
主軸受130に設けられた格納溝133a,133b,133cの深さ133h(深さ133ah,133bh,133ch)は、具体的には、±5%以内が望ましい。これにより、バネ部材211a,211b,211cの自然長211h(自然長211ah,211bh,211ch)の加工公差を拡大できるため、バネの加工を容易にできるため、加工時のコストをより安価にできる。
【0123】
以上のように、本実施の形態のスクロール圧縮機は、複数のバネ部材のバネ定数が互いに異なり、且つ、主軸受に設けられた格納溝の深さが互いにほぼ同じになるように構成されている。
【0124】
これにより、複数のバネ部材のバネ定数が互いに異なっていても、主軸受に設けられた複数の格納溝の深さを互いに同じとして、複数のバネ部材の自然長を調整することにより、複数のバネ部材の縮み量を調整することができる。従って、容易に、かつ加工時のコストをより安価に、複数のバネ部材のバネ荷重を互いにほぼ同じにすることができる。
【0125】
なお、上述の各実施の形態及び変形例は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加及び省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示にかかるスクロール圧縮機は、密閉容器内低圧型圧縮機においても、旋回スクロールを固定スクロールに対して適正な力で押し付けて、効率の低下及び信頼性の低下を防ぐことができる。従って、給湯機、温水暖房装置及び空気調和装置などの電気製品に利用される冷凍サイクル装置のスクロール圧縮機に有用である。
【符号の説明】
【0127】
10 圧縮機
20 密閉容器
30 圧縮機構部
40 電動機
41 ステータ
42 ロータ
50 仕切板
51 第2吐出ポート
52 凹部
60 高圧空間
70 低圧空間
71,72 低圧空間(低圧領域)
80 冷媒吸込管
90 冷媒吐出管
100 油溜まり
110 固定スクロール
110H 吐出空間
111 固定スクロール端板
112 固定渦巻きラップ
113 第1吐出ポート
114 バイパスポート
115 外周段差部
116 スラスト摺動面最外周部
119 上方ボス部
120 旋回スクロール
121 旋回スクロール端板
122 旋回渦巻きラップ
123 下方ボス部
124 旋回軸受
125 吐出ザグリ
126 高圧導入経路
127 中圧ポート
128 中間圧導入経路
129 高圧導入経路
130 主軸受
131 ボス収容部
132 軸受部
133 環状溝(格納溝)
133a 環状溝(第1格納溝)
133b 環状溝(第2格納溝)
133c 環状溝(第3格納溝)
133h 深さ
133ah 深さ(第1格納溝)
133bh 深さ(第2格納溝)
133ch 深さ(第3格納溝)
134 返送経路
140 オルダムリング(自転抑制部材)
150 圧縮室
160 回転軸
161 偏心軸
162 油路
163 吸込口
164 第1分岐油路
165 第2分岐油路
166 第1給油口
167 第2給油口
168 第3給油口
170 副軸受
180 スイングブッシュ
190 パドル
200a,200b バランスウェイト
210 シール部材(環状シール部材)
210a シール部材(第1シール部材)
210b シール部材(第2シール部材)
210c シール部材(第3シール部材)
211 バネ部材
211a バネ部材(第1バネ部材)
211b バネ部材(第2バネ部材)
211c バネ部材(第3バネ部材)
211h 自然長
211ah 自然長(第1バネ部材)
211bh 自然長(第2バネ部材)
211ch 自然長(第3バネ部材)
220 圧力室
221 高圧室
222 中間圧室
230 バイパス逆止弁
240 バイパス逆止弁ストップ
250 吐出逆止弁
260 吐出逆止弁ストップ
270 ボスシール部材