(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】育苗用ポット
(51)【国際特許分類】
A01G 9/02 20180101AFI20230414BHJP
A01G 9/029 20180101ALI20230414BHJP
【FI】
A01G9/02 101E
A01G9/029 C
(21)【出願番号】P 2020106811
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2022-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510140906
【氏名又は名称】環緑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】中山 賀央
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-39912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/02
A01G 9/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の周面部(1)と、その周面部(1)の下端側に形成された底部(2)と、その周面部(1)の上端側に形成された蓋部(3)とを具備
し、
前記蓋部(3)は、前記周面部(1)の内側に、それぞれポットの上部の中心に向かって延在する複数の蓋用の舌片部(4)からな
る育苗用ポットにおいて、
周面部(1)には、周面部(1)の上端縁から前記底部(2)側へ折返される第1折返し部(5)と、さらに底部(2)側から上端縁側に折返される第2折返し部(6)を有する折返し部(4c)が上端縁の周方向に離間して複数形成されており、
各舌片部(4)は、第2折返し部(6)の端部に形成されており、
前記折返し部(4c)が周面部(1)の上部の内面に固定されており、
第2折返し部(6)の端縁を付根にして、周面部(1)の上端縁の開口から下方の位置で、その位置の中心に向かって各舌片部(4)の先端が延在しており、
隣接する舌片部(4)の幅方向の一部分どうしがクロスして重ね合わされた状態で、舌片部(4)の重ね合わされている部分の間に、舌片部(4)の重ね合わせ方向に隙間が設けられている育苗ポット。
【請求項2】
請求項1に記載の育苗ポットにおいて、
舌片部(4)は、その幅方向の両側に、その幅が広く形成された幅広部(4a1)を有し、隣接する舌片部(4)が、その幅広部(4a1)で重ね合わされている育苗用ポット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の育苗用ポットにおいて、
前記周面部(1)と前記蓋部(3)と底部(2)とが一体の材料からなり、
前記周面部(1)は底部(2)から蓋部(3)にかけて拡開する筒型に形成され、
舌片部(4)は、その先端部が先割れした形状であり、
舌片部(4)が重ね合わされた状態で、ポットの上部の中心部に露出部が形成されている育苗用ポット。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の育苗用ポットにおいて、
蓋用の前記舌片部(4)は、その長さの長い長舌片部(4a)と、その長さの短い短舌片部(4b)とを周方向に有し、
各長舌片部(4a)が重ね合わされた状態で、長舌片部(4a)の付根近傍に生じた隙間(13)に、短舌片部(4b)が前記重ね合わせ方向に被覆されている育苗用ポット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹などの樹木や花、野菜等の育苗用ポットに関し、防草や水やりが可能で苗の輸送及び定植が容易なものに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の苗木用ポットは、プラスチック製又は不織布製のポットであって、底部と周面部と蓋部とを有する。そして、蓋部に複数の穴が設けられ、その穴に結束具を通すことにより、ポットの上部を絞り込んで巾着形状に形成できるものである。
これにより、作業性の優れた苗木用ポットを提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の苗木用ポットは、結束具を複数の穴に通して絞る巾着形状を有し、その結束作業が面倒である欠点があった。また、蓋部を閉じなければ防草効果がないため、水を供給する度に、蓋部を開閉する必要がある欠点があった。
さらには、その形状の故、多数のポットを積み重ねることが難しく、トラック搬送時や販売店等で多くのスペースを必要としていた。
そこで本発明は、これらの欠点を解決する育苗用ポットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、筒状の周面部1と、その周面部1の下端側に形成された底部2と、その周面部1の上端側に形成された蓋部3とを具備し、
前記蓋部3は、前記周面部1の内側に、それぞれポットの上部の中心に向かって延在する複数の蓋用の舌片部4からなる育苗用ポットにおいて、
周面部1には、周面部1の上端縁から前記底部2側へ折返される第1折返し部5と、さらに底部2側から上端縁側に折返される第2折返し部6を有する折返し部4cが上端縁の周方向に離間して複数形成されており、
各舌片部4は、第2折返し部6の端部に形成されており、
前記折返し部4cが周面部1の上部の内面に固定されており、
第2折返し部6の端縁を付根にして、周面部1の上端縁の開口から下方の位置で、その位置の中心に向かって各舌片部4の先端が延在し、
隣接する舌片部4の幅方向の一部分どうしがクロスして重ね合わされた状態で、舌片部4の重ね合わされている部分の間に、舌片部4の重ね合わせ方向に隙間が設けられている育苗ポットである。
【0006】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の育苗ポットにおいて、
舌片部4は、その幅方向の両側に、その幅が広く形成された幅広部4a1を有し、隣接する舌片部4が、その幅広部4a1で重ね合わされている育苗用ポットである。
【0007】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の育苗用ポットにおいて、
前記周面部1と前記蓋部3と底部2とが一体の材料からなり、
前記周面部1は底部2から蓋部3にかけて拡開する筒型に形成され、
舌片部4は、その先端部が先割れした形状であり、
舌片部4が重ね合わされた状態で、ポットの上部の中心部に露出部が形成されている育苗用ポットである。
請求項4に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の育苗用ポットにおいて、
蓋用の前記舌片部4は、その長さの長い長舌片部4aと、その長さの短い短舌片部4bとを周方向に有し、
各長舌片部4aが重ね合わされた状態で、長舌片部4aの付根近傍に生じた隙間13に、短舌片部4bが前記重ね合わせ方向に被覆されている育苗用ポットである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明は、舌片部4の重ね合わされている部分の間に、舌片部4の重ね合わせ方向に隙間が設けられているものである。
この構造により、ポット内に培土を入れた状態とした時、蓋用の舌片部4により土上を覆うことで、簡単な構造でポット上面の防草を可能とする。また、各舌片部4の間に隙間が設けられているため、その隙間を介して、供給された水を培土11に給水することができる。
また、各舌片部4は、第2折返し部6の端部に形成されており、前記折返し部4cが周面部1の上部の内面に固定されており、第2折返し部6の端縁を付根にして、周面部1の上端縁の開口から下方の位置で、その位置の中心に向かって各舌片部4の先端が延在しているので、各舌片部4の風の影響による捲れ上がりの防止効果を得られる。
さらに、上記の位置で、隣接する舌片部4の幅方向の一部分どうしがクロスして重ね合わされているため、舌片部4の捲れ上がりの防止効果がより効果的に得られる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、上記構成において、舌片部4は、その幅方向の両側に、その幅が広く形成された幅広部4a1を有し、隣接する舌片部4が、その幅広部4a1で重ね合わされているものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、舌片部4は、その先端部が先割れした形状であり、舌片部4が重ね合わされた状態で、ポットの上部の中心部に露出部が形成されているので、苗12を傷つけることなく培土11上の大部分を覆うことが可能となる。
また、周面部1と前記蓋部3と底部2とが一体の材料からなる。それにより、ポットの製造が容易となり安価に提供できる。
さらに、周面部1は底部2から蓋部3にかけて拡開する筒形に形成されているものである。この構造上、多数のポットを積層することができ、嵩張らず搬送が容易で、販売時にもスペースを必要以上に取らないものとすることができる。
請求項4に記載の発明は、蓋用の舌片部4が、長舌片部4aと短舌片部4bとを周方向に有し、各長舌片部4aが重ね合わされた状態で、長舌片部4aの付根近傍に生じた隙間13に、短舌片部4bが前記重ね合わせ方向に被覆されているので、この舌片部4の重なり構造により、防草を確実にできる。それとともに、風による長舌片部4aの捲れ上がり防止効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の育苗用ポットであって、内部に培土を入れる前の状態を示す斜視図。
【
図2】その組立て説明図であって、(A)は展開図、(B)は組立ての第1段階を示す斜視図、(C)は同第2段階を示す斜視図。
【
図3】同ポットの平面図(A)、(A)のB-B矢視断面図(B)。
【
図4】同ポットの使用状態を示し、(A)はその蓋部3を開放した状態を示す斜視図、(B)はそれを閉塞した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
図1は本育苗用ポットの斜視図であり、
図2は同ポットの組立て説明図である。
この育苗用ポットは、
図1に示す如く、周面部1を有し、その周面部1の下端側に底部2が形成され、その周面部1の上端側に蓋部3が形成されている。
このポットの材料の一例として、遮光性を有する不織布、樹脂フィルムを使用できる。このようにポットが遮光材料からなる場合、雑草の繁殖を効果的に防止できる。また、耐水性のある紙、布、板材、樹脂フィルム等であっても、このポットを製造することができる。
【0013】
図2に基づいて、このポットの製造の一例を示す。
図2(A)は、
図1のポットの展開図を示している。育苗ポットの底部2と周面部1と蓋部3は、
図2(A)に記載の如く、同一の材料から一体的に構成することが好ましい。
具体的には、ポットの展開状態においては、周面部1は扇状に形成されている。その周面部1の下方には、底部2を形成する多数の底用舌片部9が形成され、その周面部1の上方には、蓋部3を形成する多数の舌片部4として、長舌片部4aと短舌片部4bとが交互に形成されている。
【0014】
この展開状態においては、周面部1の左右の両端には接続しろが形成されている。その接続しろを重ね合わせて接合することで、
図2(B)のように、周面部1が筒状となる。この状態では、各底用舌片部9は、下方へ突設された状態になる。
各底用舌片部9は、
図2(C)の如く、折り畳まれ、重ね合わされる。
重なり合わされた各底用舌片部9の接続部8は、
図3(A)(B)の如く、接合されて底部2が形成される。
【0015】
周面部1の上部に交互に配置された長舌片部4a、短舌片部4bは、夫々
図2(B)のように、第1折返し部5の位置で、周面部1の内側に底部2側に向けて畳まれ、次に、
図2(C)のように、第2折返し部6の位置で、夫々の長舌片部4a,短舌片部4bの先端が上方に向けて折り畳まれる。
図3(B)の如く、長舌片部4a,短舌片部4bと周面部1との間には、2重に折り畳まれている折返し部4cを有する状態になる。
ここで、各第1折返し部5、各第2折返し部6、および各各底用舌片部9と周面部1の付根には、
図2(A)の点線で示されているように、任意の幅のスリットを定間隔に形成しておくことが好適である。それにより、容易に各部5、6、9の折返しを行うことができる。
【0016】
各長舌片部4aは、短舌片部4bよりも幅も大きく形成されている。また、この例では、折返し部4cとの付根から中間に向けて、その幅が広くなる幅広部4a1を有する。そして、
図1、
図4に記載のように、各長舌片部4aの先端部は先割れしている形状とすることが好ましい。短舌片部4bは、折返し部4cとの付根から半円状に形成されている。
【0017】
各折返し部4cの一部は、それぞれの長舌片部4a、短舌片部4bとともに、周面部1の内面に弱く接合され、仮固定部7が形成される。そして長舌片部4aと短舌片部4bとが周面部1の上方に周方向に交互に配置され、少なくとも長舌片部4aは周面部1の上端から突出する。
各部の接合の方法、仮固定部7の形成の方法は、溶着により行うことが好ましい。
【0018】
このようにしてなるポット10は、
図1及び
図3(A)(B)に示す如く、周面部1の断面が底部2から上方に向かうにつれて拡開するように形成されている。
それぞれの長舌片部4a、短舌片部4bは、周面部1の傾斜に沿って接合されているので、多数のポット10を積層するとき、それらの舌片部4a、4bが積層の邪魔にならない。積層が可能となる為、ポットの置き場所を取らずに、大量に搬送することができ、販売の際、販売スペースを効率的に使用することができる。
また、
図1に示す如く、少なくとも長舌片部4aは周面部1の上端から突出しているため、長舌片部4aを持って、各ポット10を容易に分離することができる。
【0019】
この育苗用ポットは、
図4(A)のように、ポット10の内部に培土11を入れると共に、そこに苗12を植えて使用する。
次いで、
図4(B)の如く、長舌片部4a、短舌片部4bを内側に引き戻して、培土11の表面を各長舌片部4a、短舌片部4bで覆い、蓋部3を形成する。
各舌片部4の間には隙間があり、培土11の上面に給水の水を保持し易く、それを培土11に供給することができる。
【0020】
各舌片部4の間に生じる隙間は、次のように、形成される。
各長舌片部4aを仮固定部7から引き剥がし、培土11上に各長舌片部4aの隣接する幅広部4a1をクロスしながら順に重ね合わせる。
各長舌片部4aを、
図4に記載のように、幅広部4a1でクロスして重ね合わせた場合、重なり部により、多少の風が吹きつけても、長舌片部4aが容易に捲れ上がらないようになっている。また、このクロス重ね合わせ構造は、重ね合わせの作業が容易に行える。
その重なり部には、若干の隙間が生じる。その隙間は、外部からの雑草の種の侵入には十分耐えるものである。
育苗用ポットの材料として用いる不織布は、植物に給水すると蓋部3の上面が湿潤し、培土11へ保湿効果は得られる。上記の隙間を有する構造により、供給された水がその隙間を介して培土11に浸透し、長舌片部4aの重なりを解除することなく、植物に給水することができる。
また、先端部の先割れの構造により、それらを重ね合わせた時に、ポット上部の中央位置に僅かな露出部を形成し、苗12を傷つけることなく培土11上の大部分を覆うことが可能となる。
【0021】
各長舌片部4aを重ね合わせると、隣接する長舌片部4aの付根近傍には、
図5の如く、隙間13が生じる。その隙間13に防草効果を与える為、短舌片部4bを仮固定部7から剥がし、隣接する長舌片部4a間の隙間13を塞ぐように短舌片部4bが重ね合わされる。
これにより、露出部を除いて、培土11の上面を被蔽し、そこに雑草が生えるのを防止する。また、この短舌片部4bが長舌片部4aの押さえとなりなり、ポットに強い風が吹きつけた時に、より効果的に、長舌片部4aがめくれ上がらないようになっている。
【0022】
この短舌片部4bの長舌片部4aへの積層状態は、
図5のように、わずかに隙間が生じる。この隙間があることにより、蓋部3が培土11上に被蔽されている場合でも、供給された水がその隙間を介して十分に培土11に浸透し、蓋部3の被蔽を解除することなく、植物に給水することができ、作業性が向上する。
【0023】
各長舌片部4a、短舌片部4bに接続された折返し部4cは、この例では、第1折返し部5から第2折返し部6までの長さが一定となっており、第2折返し部6を目安として培土11を入れる量を調整できる機能も担っている。
第2折返し部6の位置は、ポット10の上端縁から下方に設定されており、各長舌片部4a、短舌片部4bは、各第2折返し部6の位置を付根にして引き剥がされるので、各舌片部4の風の影響によるめくれ上がり防止をより効果的なものとする。
【0024】
なお、苗が十分育ち、ポット10から苗12を取り出すときは、単に、培土11の上部を手で押さえながら、ポット10の上下を逆さまにすることで、培土11の自重により、容易に各舌片部4が解除され、容易に育った苗12を取り出すことができる。
【0025】
(変形例)
上記実施例の図面では、周面部1が多角形に図示されているが、それに変えて円筒形とすることもできる。
蓋部3と周面部1とを別部材で形成することもできる。また、底部2と周面部1とを別部材で形成することもできる。
舌片部4を構成する長舌片部4a、短舌片部4bの形状は任意である。
接続しろ、接続部8、仮固定部7は、接着剤を用いて接合しても良い。また、ホチキス等の針留めにより、接合することもできる。
また、周面部1に
図1において縦方向にミシン目を入れ、それを容易に剥ぎ取ることができるようにしても良い。
なお、底部2と周面部1とを、シート材から一体にブロー成形することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、花苗,果樹等を育苗する育苗用ポットとして利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 周面部
2 底部
3 蓋部
4 舌片部
4a 長舌片部
4b 短舌片部
4c 折返し部
【0028】
5 第1折返し部
6 第2折返し部
7 仮固定部
8 接続部
9 底用舌片部
10 ポット
11 培土
12 苗
13 隙間