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特許7262050電動工具システム、電動工具及び電動工具の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】電動工具システム、電動工具及び電動工具の管理方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20230414BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B25B23/14 620Z
B25B23/14 640W
G05B19/418 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019125507
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021010963
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 政憲
(72)【発明者】
【氏名】村上 弘明
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-351683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0331829(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部、及び、前記締付部を制御して前記締付部から出力される出力トルクを調整する制御部を備えた電動工具と、
前記締付部からの締付トルクを測定する測定部を備えた検査装置と、
を備え、
前記電動工具の前記制御部は、
前記出力トルクを推定するトルク推定部を備え、
前記トルク推定部で推定された前記出力トルクがトルク設定値に達したら、前記モータの回転を停止させ、
前記検査装置は、前記締付トルクの測定値が所定の目標値になると、現在の前記締付トルクの前記測定値を示す校正指示信号を前記電動工具へ送信し、
前記電動工具は、前記検査装置の前記測定部で測定された前記測定値に基づいて、前記制御部の校正を行う校正処理部を更に備え、
前記電動工具の前記校正処理部は、受信した前記校正指示信号に含まれる前記測定値に基づいて、前記トルク推定部で推定される前記出力トルクの大きさが前記校正指示信号で示される前記測定値に近づくように、前記校正を行う、
電動工具システム。
【請求項2】
前記校正処理部は、前記測定値が所定の目標値になったことをトリガとして、前記出力トルクが前記測定値に近付くように、前記校正を行う、
請求項1に記載の電動工具システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動工具システムに用いられる、
電動工具。
【請求項4】
モータの駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部、及び、前記締付部を制御して前記締付部から出力される出力トルクを調整する制御部を備えた電動工具の管理方法であって、
前記電動工具の前記制御部は、
前記出力トルクを推定するトルク推定部を備え、
前記トルク推定部で推定された前記出力トルクがトルク設定値に達したら、前記モータの回転を停止させ、
前記管理方法は、
前記締付部からの締付トルクを検査装置によって測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定した測定値に基づいて、前記制御部の校正を行う校正ステップと、
を備え、
前記測定ステップでは、前記検査装置は、前記締付トルクの前記測定値が所定の目標値になると、現在の前記締付トルクの前記測定値を示す校正指示信号を前記電動工具へ送信し、
前記校正ステップでは、前記校正指示信号に含まれる前記測定値に基づいて、前記トルク推定部で推定される前記出力トルクの大きさが前記校正指示信号で示される前記測定値に近づくように、前記校正を行う、
電動工具の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に電動工具システム、電動工具及び電動工具の管理方法に関し、より詳細には、トルクを測定可能な電動工具を備える電動工具システム、電動工具及び電動工具の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工具システムが開示されている。工具システムは、工具と管理装置とを備えている。
【0003】
工具は、作業対象に対して作業を行うために使用される。工具は、動力源によって駆動されて作業対象を被取付部材に締め付ける締付部と、締付部が発生する振動と音との少なくとも一方を測定するセンサと、センサの測定結果を出力する出力部と、を備えている。
【0004】
管理装置は、工具の状態を管理する。管理装置は、工具から出力されたセンサの測定結果に基づいて、工具の状態を判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-122429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動工具の分野では、電動工具で測定される締付トルク値の信頼性の向上が望まれることがある。
【0007】
本開示は、上記事由に鑑みてなされており、電動工具で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能な電動工具システム、電動工具システムに用いられる電動工具及び電動工具の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る電動工具システムは、電動工具と、検査装置と、を備える.前記電動工具は、モータの駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部、及び、前記締付部を制御して前記締付部から出力される出力トルクを調整する制御部を備える。前記検査装置は、前記締付部からの締付トルクを測定する測定部を備える。前記電動工具の前記制御部は、前記出力トルクを推定するトルク推定部を備え、前記トルク推定部で推定された前記出力トルクがトルク設定値に達したら、前記モータの回転を停止させる。前記検査装置は、前記締付トルクの測定値が所定の目標値になると、現在の前記締付トルクの前記測定値を示す校正指示信号を前記電動工具へ送信する。前記電動工具は、前記検査装置の前記測定部で測定された前記測定値に基づいて、前記制御部の校正を行う校正処理部を更に備える。前記電動工具の前記校正処理部は、受信した前記校正指示信号に含まれる前記測定値に基づいて、前記トルク推定部で推定される前記出力トルクの大きさが前記校正指示信号で示される前記測定値に近づくように、前記校正を行う。
【0011】
本開示の一態様に係る電動工具の管理方法は、モータの駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部、及び、前記締付部を制御して前記締付部から出力される出力トルクを調整する制御部を備えた電動工具の管理方法である。前記電動工具の前記制御部は、前記出力トルクを推定するトルク推定部を備え、前記トルク推定部で推定された前記出力トルクがトルク設定値に達したら、前記モータの回転を停止させる。前記管理方法は、前記締付部からの締付トルクを検査装置によって測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定した測定値に基づいて、前記制御部の校正を行う校正ステップと、を備える。前記測定ステップでは、前記検査装置は、前記締付トルクの前記測定値が所定の目標値になると、現在の前記締付トルクの前記測定値を示す校正指示信号を前記電動工具へ送信する。前記校正ステップでは、前記校正指示信号に含まれる前記測定値に基づいて、前記トルク推定部で推定される前記出力トルクの大きさが前記校正指示信号で示される前記測定値に近づくように、前記校正を行う。




【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、電動工具で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態の電動工具システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、同上の電動工具システムの概略的なシステム構成図である。
図3図3は、同上の電動工具システムに用いられる電動工具の一例を示す概略図である。
図4図4は、同上の電動工具システムに用いられる検査装置の一例を示す概略図である。
図5図5は、同上の電動工具システムの動作の一例を示す説明図である。
図6図6は、同上の電動工具システムの動作を説明するフローチャートである。
図7図7は、変形例1の電動工具システムの概略構成を示すブロック図である。
図8図8は、変形例2の電動工具システムに用いられる管理システムのサーバの概略構成を示すブロック図である。
図9図9は、変形例3の電動工具システムの概略構成を示すブロック図である。
図10図10は、一変形例の電動工具システムに用いられる電動工具の概略構成を示すブロック図である。
図11図11は、一変形例の電動工具システムに用いられる検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係る電動工具システム10について、図面を用いて説明する。
【0015】
(1)概要
図1は、電動工具システム10の概略的なブロック図である。図2は、電動工具システム10の概略的なシステム構成図である。
【0016】
図1図2に示すように、電動工具システム10は、電動工具1と、検査装置2と、を備えている。また、電動工具システム10は、紐付け処理部F1を備えている。
【0017】
電動工具1は、例えば工場や建築現場などで使用される事業者向けの工具である。電動工具1は、例えば、作業対象(例えばボルト、ネジ等の締結部材)を締め付けることで取付対象(例えば太陽電池パネル等)を被取付部材(例えば架台等)に取り付ける作業を行うために使用される。電動工具1は、ここでは、作業対象としてのボルト等を回転させて打撃力を加えることによって締め付ける、電動式のインパクトレンチである。なお、電動工具1は、電動式のインパクトレンチに限定されず、電動式のインパクトドライバでもよいし、打撃力を与えるタイプではない電動式のトルクレンチ、電動ドリルドライバ等でもよい。
【0018】
図1に示すように、電動工具1は、締付部11と、センサ部12と、を備える。締付部11は、動力源としてのモータ111(図3参照)を備える。締付部11は、モータ111の駆動力により、作業対象(締結部材)を被取付部材に締め付ける。センサ部12は、締付部11による締付トルクを測定する。
【0019】
図1に示すように、検査装置2は、測定部21を備える。測定部21は、締付部11からの締付力を測定する。締付力は、締付部11から作業対象に加えられた力、又は、締付部11から作業対象に与えられたトルク(被締付トルク)である。
【0020】
紐付け処理部F1は、センサ部12による測定結果に対応する第1トルク測定値(締付トルク値)と、測定部21による測定結果に対応する第2トルク測定値(被締付トルク値)と、を紐付ける。
【0021】
電動工具システム10では、電動工具1のセンサ部12で測定された締付トルクに対応する第1トルク測定値と、検査装置2の測定部21で測定された締付力(被締付トルク)に対応する第2トルク測定値とが、紐付け処理部F1によって紐付けられる。そのため、電動工具システム10では、電動工具1の詳細な状態を把握することが可能となる。例えば、電動工具1のセンサ部12と検査装置2の測定部21とのうちの一方が、経年劣化等により正確な値を測定できなくなった場合に、上記一方が劣化していることを把握することができる。これにより、例えば電動工具システム10は、第1トルク測定値と第2トルク測定値とのうちの一方を用いて他方を校正する等の処置を行うことが可能となり、電動工具1で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0022】
(2)詳細
以下、本実施形態の電動工具システム10について、図面を参照して更に詳細に説明する。
【0023】
図1に示すように、電動工具システム10は、電動工具1及び検査装置2に加えて、管理システム3を更に備えている。
【0024】
図1に示すように、電動工具1は、締付部11及びセンサ部12に加えて、制御部13と、操作部14と、通信部15と、電源部16と、を備えている。また、電動工具1は、各部を収容又は保持するためのボディ100を備えている。
【0025】
図3に示すように、電動工具1のボディ100は、筒形状の胴体部101と、胴体部101の周面から径方向に突出する握り部102と、を備えている。胴体部101の軸方向における一端側からは出力軸113が突出している。出力軸113には、ソケット114が設けられている。ソケット114には、作業対象の締結部品に合わせたビット(例えばトルクレンチビット等)が着脱自在に取り付けられる。握り部102の一端(図3における下端)には、電源部16を収容した電池パック103が着脱自在に取り付けられる。
【0026】
制御部13は、締付部11、センサ部12、通信部15等の動作を制御する。制御部13は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにて構成されている。言い換えれば、制御部13は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムにて実現されており、1以上のプロセッサがメモリに格納されているプログラムを実行することにより、コンピュータシステムが制御部13として機能する。プログラムは、ここでは制御部13のメモリに予め記録されているが、インターネット等の電気通信回線を通じて、又はメモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。制御部13は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。制御部13を構成するマイクロコントローラ(回路基板等)は、握り部102の内部に収容されている。
【0027】
操作部14は、握り部102に設けられたトリガスイッチ141を備える。トリガスイッチ141がユーザ等により操作されると、トリガスイッチ141の引き込み量(操作量)に比例した大きさの操作信号が、制御部13に入力される。制御部13は、操作部14からの操作信号に応じた速度で回転するように、モータ111の速度を調整する。
【0028】
締付部11は、モータ111に加えて、駆動回路(図示せず)と、インパクト機構112と、出力軸113と、を備えている。駆動回路は、制御部13から入力される制御信号に応じて、モータ111の回転を制御する。モータ111の出力軸の回転は、インパクト機構112を介して出力軸113に伝達される。出力トルクが所定レベル以下であれば、インパクト機構112は、モータ111の出力軸の回転を減速して出力軸113に伝達する。出力トルクが所定レベルを超えると、インパクト機構112は、出力軸113に打撃力を加えて、作業対象の締結部品(ボルト等)を回転させるように構成されている。図3に示すように、モータ111及びインパクト機構112は、胴体部101内に収容されている。
【0029】
センサ部12は、締付部11による締付トルクを測定する。センサ部12は、出力軸113に取り付けられた磁歪式のトルクセンサ121を備えている。磁歪式のトルクセンサ121は、モータ111の出力軸にトルクが加わることにより発生する歪みに応じた透磁率の変化を、非回転部分に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を出力する。これによりセンサ部12は、出力軸113に加わったトルクを測定する。つまり、センサ部12は、電動工具1が作業対象に与えるトルク(締付トルク)を測定する。センサ部12は、測定したトルク(締付トルク)を制御部13へ送信する。
【0030】
制御部13は、締付トルクがトルク設定値となるように締付部11を制御する。制御部13は、例えば、トルクセンサ121で測定された締付けトルクが、トルク設定値に達したら、モータ111の回転を停止させる。電動工具1は、トルク設定値を可変に設定可能なトルク設定部を備えていてもよい。
【0031】
通信部15は、電波を媒体とする無線通信を行う通信モジュールである。通信部15は、例えばBLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)の規格に準拠した通信方式で近距離無線通信を行うように構成されている。「BLE」は、無線PAN(Personal Area Network)技術であるBluetooth(登録商標)の仕様における、低消費電力仕様の呼称である。尚、通信部15の通信方式は、BLEに限定されず、無線局の免許が不要な通信方式であれば、ZigBee(登録商標)等の通信方式でもよい。通信部15は、ここでは管理システム3の受信機4(後述)と無線で通信する。
【0032】
制御部13は、通信部15を介して、受信機4に第1測定信号を送信する。第1測定信号は、ここでは、センサ部12で測定された締付トルクの大きさに対応する第1トルク測定値を示す信号である。制御部13は、操作部14(トリガスイッチ141)が操作されている場合、言い換えれば、モータ111が回転して出力軸113からトルクが出力されている場合に、第1測定信号を管理システム3へリアルタイムで送信させてもよい。電動工具1から送信される第1測定信号で示される第1トルク測定値は、電動工具1で作業対象に対して作業を行う場合の測定値も含むし、検査装置2で電動工具1の検査を行う場合の測定値も含む。なお、本開示でのリアルタイムとは、厳密に即座にデータを処理することに限られず、誤差程度の遅れは許容される。
【0033】
電源部16は、蓄電池を備えている。電源部16は、電池パック103内に収容されている。電池パック103は、樹脂製のケース内に電源部16を収容して構成されている。電池パック103を握り部102から取り外し、取り外した電池パック103を充電器に接続することによって、電源部16の蓄電池を充電することができる。電源部16は、蓄電池に充電された電力で、制御部13を含む電気回路とモータ111とに動作に必要な電力を供給する。
【0034】
検査装置2は、電動工具1が正常に動作しているかを検査するための装置である。検査装置2は、電動工具1の締付部11からの締付力を測定することで、電動工具1の検査を行う。図1に示すように、検査装置2は、測定部21に加えて、制御部22と、通信部23と、を備えている。また、検査装置2は、各部を収容又は保持するための筐体200を備えている。
【0035】
検査装置2の筐体200は、図4に示すように、台座201と、本体202と、を備えている。
【0036】
台座201は、検査装置20を、机、壁等の所望の位置に固定するための部材である。台座201は、矩形板状に形成されている。台座201には、固定用のネジを通すための貫通孔が、2つ形成されている。なお、検査装置2は台座201を備えていなくてもよい。
【0037】
本体202は、台座201の上面に台座201と一体的に配置される。本体202は、ここでは矩形箱状である。ただし、本体202の形状は特に限定されず、円柱状等の他の形状であってもよい。本体202には、計測部材204が設けられている。計測部材204の上面には、電動工具1のビットを差し込むための差込孔203が形成されている。
【0038】
測定部21は、計測部材204を含む。測定部21は、差込孔203に電動工具1のビットが差し込まれた状態で、電動工具1を動作(モータ111を回転)させた場合に、計測部材204がビットから受ける力(締付力)を測定する。電動工具1がインパクト機構を備えている場合、測定部21は、電動工具1のインパクト機構による一打毎の打撃力の反力を、締付力として検知する。測定部21は、例えば、計測部材204で生じるひずみを測定するためのひずみゲージを備えている。測定部21は、ひずみゲージの測定結果に基づいて、電動工具1から受ける締付力を測定する。なお、測定部21による締付力の測定方式は、ひずみゲージを用いた方式に限られず、磁歪式等の適宜の方式が用いられてもよい。
【0039】
制御部22は、測定部21、通信部23等の動作を制御する。制御部22は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにて構成されている。制御部22は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。
【0040】
通信部23は、電動工具1の通信部15の通信方式と同じ通信方式で、近距離の無線通信を行う通信モジュールである。通信部23は、ここでは管理システム3の受信機4と無線で通信する。
【0041】
制御部22は、通信部23を介して、受信機4に第2測定信号を送信する。第2測定信号は、ここでは、測定部21で測定された締付力から求められる被締付トルクの大きさに対応する第2トルク測定値を示す信号である。第2トルク測定値は、測定部21で測定された締付力に基づいて、制御部22によって算出される。制御部22は、測定部21が締付力の測定を行っている場合、すなわち電動工具1の検査中に、第2測定信号を管理システム3へリアルタイムで送信させてもよい。
【0042】
図1に示すように、管理システム3は、受信機4と、サーバ5と、を備える。
【0043】
受信機4は、第1通信部41と、第2通信部42と、制御部43と、表示部44と、を備えている。
【0044】
制御部43は、第1通信部41、第2通信部42、表示部44等の動作を制御する。制御部43は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにて構成されている。制御部43は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。
【0045】
表示部44は、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等のディスプレイ装置を備える。表示部44は、制御部43の制御下で、電動工具1から送信された第1測定信号で示される第1トルク測定値を表示したり、検査装置2から送信された第2測定信号で示される第2トルク測定値を表示したりする。
【0046】
第1通信部41は、電動工具1の通信部15及び検査装置2の通信部23の通信方式と同じ通信方式で、近距離の無線通信を行う通信モジュールである。第1通信部41は、ここでは電動工具1及び検査装置2と通信する。
【0047】
第2通信部42は、通信線を介して有線通信を行う通信モジュールである。第2通信部42は、例えばルータを介して、インターネットのような広域通信網NT1に接続されている。第2通信部42は、広域通信網NT1を介してサーバ5と通信する通信機能を有している。
【0048】
制御部43は、第1通信部41を介して、電動工具1から第1測定信号を受信する。制御部43は、第1測定信号を受信すると、第1測定信号で示される第1トルク測定値を、第1測定信号を受信した時間と紐付けて内蔵のメモリに記録する。ここで、第1測定信号を受信した時間は、この第1測定信号で示される第1トルク測定値に対応する締付トルクを電動工具1のセンサ部12が測定した時間(測定時間)に、ほぼ対応する。つまり、制御部43は、電動工具1のセンサ部12で測定された締付トルクに対応する第1トルク測定値を、測定時間と紐付けて記憶する。
【0049】
また、制御部43は、第1通信部41を介して、検査装置2から第2測定信号を受信する。制御部43は、第2測定信号を受信すると、第2測定信号で示される第2トルク測定値を、第2測定信号を受信した時間と紐付けて内蔵のメモリに記録する。第2測定信号を受信した時間は、この第2測定信号で示される第2トルク測定値に対応する締付力を検査装置2の測定部21が測定した時間(測定時間)に、ほぼ対応する。つまり、制御部43は、検査装置2の測定部21で測定された締付力に対応する第2トルク測定値を、測定時間と紐付けて記憶する。
【0050】
制御部43は、受信した第1トルク測定値、第2トルク測定値を、それぞれに紐付けた測定時間とともに、第2通信部42を介してサーバ5へ送信する。
【0051】
サーバ5は、通信部51と、制御部52と、記憶部53と、を備えている。
【0052】
通信部51は、通信線を介して有線通信を行う通信モジュールである。通信部51は、例えばルータを介して、インターネットのような広域通信網NT1に接続されている。通信部51は、広域通信網NT1を介して受信機4と通信する通信機能を有している。
【0053】
制御部52は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにて構成されている。制御部52は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。制御部52は、通信部51等の動作を制御する。また、制御部52は、紐付け処理部F1、履歴生成部F2、比較処理部F3、校正処理部F4、及び通知部F5としての機能を実現する。
【0054】
記憶部53は、情報を記憶するための装置である。記憶部53は、ROM(ReadOnly Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等である。
【0055】
制御部52は、受信機4から送信される第1トルク測定値及び第2トルク測定値を、記憶部53に時系列で記録させる。ここで制御部52は、受信機4から送信される第1トルク測定値と第2トルク測定値とを、それらに紐付けられている測定時間に基づいて紐付ける、紐付け処理を行う。より詳細には、制御部52は、第1トルク測定値に紐付けられた時間(測定時間)と第2トルク測定値に紐付けられた時間(測定時間)とが同じである場合、第1トルク測定値(締付トルク)と第2トルク測定値(締付力)とは、同じ時間に測定された値であると判断する。そして制御部52は、測定時間が同じである第1トルク測定値と第2トルク測定値とは、同じ時間において電動工具1から出力されているトルク(締付トルク)と電動工具1から受けているトルク(被締付トルク)とを示す、とみなし、それらを互いに紐付ける。制御部52は、紐付けた第1トルク測定値と第2トルク測定値とを、時系列で記憶部53に記録させる。なお、「測定時間が同じ」とは、第1トルク測定値に対応する測定時間と第2トルク測定値に対応する測定時間とが厳密に同じ場合に限られず、誤差程度の時間差は許容され得る。
【0056】
すなわち、制御部52は、センサ部12による測定結果に対応する第1トルク測定値と測定部21による測定結果に対応する第2トルク測定値とを紐付けする紐付け処理部F1を備えている。本実施形態の電動工具システム10では、紐付け処理部F1は、電動工具1及び検査装置2とは別体であって電動工具1と検査装置2とのうちの少なくとも一方(ここでは両方)と通信可能な管理システム3に、設けられている。
【0057】
また、制御部52は、第2トルク測定値を第1トルク測定値と時系列で紐付けて検査履歴を生成する履歴生成部F2を備えている、と言える。また、制御部52は、電動工具1で作業対象に対して作業を行う場合に得られた第1トルク測定値も、合わせて記録している。そのため、制御部52(履歴生成部F2)は、電動工具1の使用履歴(第1トルク測定値)を検査履歴と紐付けている、と言える。生成された検査履歴及び使用履歴は、記憶部53に記録される。なお、電動工具1は、電動工具1に固有の識別情報を第1測定信号に含めて送信してもよく、この場合には、制御部52は、識別情報と紐付けて、検査履歴及び使用履歴を記憶部53に記録してもよい。
【0058】
制御部52は、さらに、同じ時間で紐付けられた第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較を行う。ここで、同じ時間で測定された第1トルク測定値と第2トルク測定値とは、測定を行った主体は異なっているものの測定対象は同じであり、実質的には同じ物理量(トルク)を測定した測定値である。そのため、電動工具1(例えばセンサ部12)と検査装置2(例えば測定部21)とのうちの一方に、故障、経年劣化等の不具合がなければ、第1トルク測定値と第2トルク測定値とは、実質的に同じ値を示す。そこで制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値とを比較することで、電動工具1と検査装置2とのうちの一方に不具合があるか否かを判定する。このように、制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値とを比較する比較処理部F3を備えている。なお、第1トルク測定値と第2トルク測定値とが同じ値を示すことを担保するためには、電動工具1の使用の初期段階において、第1トルク測定値が第2トルク測定値と同じ値となるように電動工具1の校正を行っておくことが好ましい。
【0059】
制御部52は、同じ時間で測定された第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較結果に基づいて、第1トルク測定値と第2トルク測定値とが所定の関係を満たした場合に、電動工具1又は検査装置2に測定値の校正を行わせる。例えば、制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値との差分ΔTが、所定の第1閾値ΔThを超えると、電動工具1又は検査装置2に校正を行わせる。要するに、制御部52は、比較処理部F3の比較結果に基づいて、第1トルク測定値と第2トルク測定値との差分ΔTが小さくなるように電動工具1又は検査装置2を校正する校正処理部F4を、更に備えている。
【0060】
ここで、電動工具1と検査装置2とでは通常、使用頻度に大きな差があり、電動工具1の方が使用頻度が高い。そのため、電動工具1の方が検査装置2よりも、経年劣化等の不具合が発生しやすい。そのため制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値とが異なっている場合、基本的には、検査装置2の測定値に基づく第2トルク測定値が正しいと判断し、第1トルク測定値が第2トルク測定値に近付くように、電動工具1に校正を行わせる。
【0061】
電動工具システム10による電動工具1の校正の一例について、図5を参照して説明する。図5の縦軸は、第2トルク測定値から第1トルク測定値を差し引いた差分ΔTを表し、横軸は、時間を表している。
【0062】
例えばユーザは、電動工具1で通常の作業を行う以外のタイミングで、検査装置2を用いて電動工具1の検査(第2トルク測定値の測定)を定期的又は不定期に行う(図5の各時点t1~t9)。電動工具1の検査としては、検査装置2の差込孔203に電動工具1のビットを差し込んで電動工具1を動作させている状態で、第1トルク測定値と第2トルク測定値とを測定し、測定した第1トルク測定値と第2トルク測定値とを比較する検査が挙げられる。なお、ユーザが電動工具1の検査を行う間隔は、特に限定されないが、例えば数日~数ヶ月程度である。
【0063】
ユーザが検査装置2によって電動工具1の検査を行うと、そのときに得られた第1トルク測定値及び第2トルク測定値は、受信機4を介してサーバ5へ送信される。サーバ5の制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較を行い、第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較結果に基づいて、電動工具1の校正が必要か否かを判定する。
【0064】
図5の例では、時点t1~t5までは、差分ΔTの大きさが第1閾値ΔThよりも小さい。そのため、制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値とのずれが小さく、校正は不要と判定する。一方、時点t6では、差分ΔTの大きさが第1閾値ΔThを超えている。そのため、制御部52は、校正が必要と判断する。
【0065】
一具体例において、第1閾値ΔThが15N・mに設定されているとする。そして、時点t6では、第1トルク測定値が120N・m、第2トルク測定値が100N・mであったとする。この場合、差分ΔTの大きさが第1閾値ΔThより大きいため、制御部52は、電動工具1の校正が必要と判断し、通信部51から、電動工具1に校正を行わせるための校正指示信号を送信する。校正指示信号は、例えば、校正後の締付けトルク値が100N・m(被締付けトルク値と同じ値)であることを指示する信号である。電動工具1の制御部13は、受信機4を介して校正指示信号を受信すると、現在の締付けトルク値が120N・mではなく100N・mであると認識する。そして、電動工具1の制御部13は、センサ部12で測定された締付トルクが、校正指示信号で示される締付けトルク値(100N・m)と対応するように、センサ部12の校正を行う。これにより、差分ΔTが0となる。
【0066】
また、その後の検査において、差分ΔTの大きさが第1閾値ΔThを超えると(時点t9)、制御部52は、電動工具1へ校正指示信号を送信し、電動工具1に再度校正を行わせる。
【0067】
制御部52は、さらに、同じ時間で測定された第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較結果に基づいて、第1トルク測定値と第2トルク測定値とが所定の関係を満たした場合に通知を行う。例えば、制御部52は、第1トルク測定値と第2トルク測定値との差分ΔTが、所定の第2閾値を超えると、通知を行う。要するに、制御部52は、比較処理部F3の比較結果に基づいて通知を行う通知部F5を、更に備えている。第2閾値は、第1閾値ΔThよりも小さくてもよい。つまり、制御部52は、校正処理部F4により校正を行う前に、通知部F5により通知を行ってもよい。
【0068】
制御部52が行う通知には、適宜の手段が用いられてよい。一例として、制御部52は、通信部51を介して受信機4に通知信号を送信することで、受信機4の表示部44に所望のメッセージを表示させる。メッセージの内容は、第1トルク測定値と第2トルク測定値とがずれている、すなわち第1トルク測定値と第2トルク測定値とのうちの一方が正常な値と異なっている可能性があるため、電動工具1と検査装置2とのうちの一方の校正が必要であることを示す内容であってもよい。もちろん、メッセージの内容は、校正が必要であることを直接的に示していなくてもよく、校正が必要な時期が近付いていることを示す内容であってもよい。
【0069】
通知部F5が通知信号を送信する送信先は、受信機4に限られず、電動工具1、検査装置2等であってもよいし、電動工具システム10外の装置であってもよい。電動工具システム10外の装置としては、例えば、電動工具1のユーザが携帯する情報端末(タブレット型のコンピュータ、又はスマートフォン等)が挙げられる。また、通知の手段は、メッセージの表示に限られず、適宜の装置による発光・振動・報知音等の適宜の手段が用いられ得る。
【0070】
なお、通知部F5は、電動工具1の校正回数が所定の閾値を超えると、電動工具1の修理を促すメッセージを通知させてもよい。
【0071】
次に、電動工具システム10の基本的な動作を図6に基づいて説明する。
【0072】
ユーザが電動工具1を動作させて、作業対象に対して締付作業を行う(S1)と、センサ部12は締付けトルクを測定し、測定した締付けトルクに対応する第1トルク測定値を示す第1測定信号を、管理システム3へリアルタイムで無線送信する(S2)。管理システム3のサーバ5は、受信機4を介して第1測定信号を受信すると、受信した第1測定信号で示される第1トルク測定値から使用履歴を生成し、使用履歴を記憶部53に記録する(S3)。
【0073】
また、検査装置2を用いて電動工具1の検査を行なう場合(S4)、電動工具1のセンサ部12は締付けトルクを測定し(S5)、検査装置2の測定部21は締付力を測定する(S6)。電動工具1は、測定した締付けトルクに対応する第1トルク測定値を示す第1測定信号を管理システム3へリアルタイムで無線送信し、検査装置2は、測定した締付力に対応する第2トルク測定値を示す第2測定信号を管理システム3へリアルタイムで無線送信する。管理システム3のサーバ5は、受信機4を介して第1測定信号及び第2測定信号を受信すると、例えば測定時間と電動工具1の識別情報とに基づいて、第1トルク測定値と第2トルク測定値との紐付けを行い(S7)、検査履歴を生成して、検査履歴を記憶部53に記録する(S8)。また、サーバ5は、紐付けた第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較を行う(S9)。管理システム3は、第1トルク測定値と第2トルク測定値との差分ΔTの大きさが第2閾値を超えている場合、通知を行う(S10)。また、管理システム3は、差分ΔTの大きさが第1閾値ΔThを超えている場合、電動工具1に校正指示信号を送信し(S11)、電動工具1に校正を行わせる(S12)。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の電動工具システム10では、制御部52(紐付け処理部F1)が、第1トルク測定値と第2トルク測定値との紐付け処理を行う。そのため、電動工具システム10では、電動工具1による測定結果に対応する第1トルク測定値に基づいて電動工具1の状態を把握するのみならず、第2トルク測定値に基づいて、第1トルク測定値が正しいかどうかの判断を行うことが可能となる。これにより、電動工具1による測定結果のみに基づいて締付けトルク値を求める場合に比べて、電動工具1で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0075】
また、本実施形態の電動工具システム10では、制御部52(履歴生成部F2)が、電動工具1の使用履歴を、検査履歴と紐付けて記録している。そのため、例えば、電動工具1の実際の使用状況(使用頻度、モータ111の速度、使用時間、電源部16の蓄電池の残量等)を電動工具1の制御部13等が記録しておけば、その電動工具1の使用状況と検査装置2の検査結果とを比較することで、電動工具1の使用状況と劣化速度との間の関係等についての知見が得られ得る。
【0076】
また、本実施形態の電動工具システム10では、制御部52(校正処理部F4)が、第1トルク測定値と第2トルク測定値との比較結果に基づいて電動工具1の校正を行う。これにより、電動工具1で測定される締付けトルク値の信頼性の更なる向上を図ることが可能となる。なお、制御部52(校正処理部F4)は、検査装置2により電動工具1の検査が行われる度に、電動工具1の校正を行ってもよい。
【0077】
(3)変形例
上述の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つにすぎない。上述の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、電動工具システム10の管理システム3と同様の機能は、管理方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0078】
一態様に係る電動工具1の管理方法は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部11、及び、締付部11による締付トルクを測定するセンサ部12を備えた電動工具1の管理方法である。この管理方法は、締付部11からの締付力を測定する測定ステップと、センサ部12による測定結果に対応する第1トルク測定値と測定ステップによる測定結果に対応する第2トルク測定値とを紐付けする紐付けステップと、を備える。また、一態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサ(例えば、検査装置2の制御部22及びサーバ5の制御部52)に、上記の管理方法を実行させる。
【0079】
以下、上述の実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。以下では、上述の実施形態を「基本例」と呼ぶこともある。
【0080】
(3.1)変形例1
変形例1の電動工具システム10について、図7を参照して説明する。
【0081】
図7に示すように、本変形例の電動工具システム10は、電動工具1を複数備えており、管理システム3の受信機4は、複数の電動工具1と通信可能である。複数の電動工具1の各々は、ここでは互いに同一の構成を有している。ただし、複数の電動工具1は、互いを区別するための識別情報(識別番号等)が異なっている。また、本変形例の制御部52は、図7に示すように、時期判定部F6を更に備えている。
【0082】
本変形例において、各電動工具1は、第1トルク測定値を示す第1測定信号に、識別情報を含ませて送信する。また、サーバ5の制御部52は、受信機4を介して第1測定信号を受信すると、第1測定信号に含まれる識別情報に基づいて、複数の電動工具1のうちのどの電動工具1から送信された第1測定信号であるかを判定する。また、制御部52は、判定した第1測定信号に含まれる第1トルク測定値を、識別情報毎(つまり電動工具1毎)に区別して、記憶部53に記録させる。
【0083】
また、制御部52の紐付け処理部F1は、受信機4を介して、検査装置2から第2トルク測定値を含む第2測定信号を受信すると、第2トルク測定値と、その時に第1測定信号を送信している電動工具1の識別情報並びに第1測定信号に含まれる第1トルク測定値と、を紐付ける。制御部52は、紐付けた第1トルク測定値及び第2トルク測定値を、この識別情報に対応付けて、記憶部53に記録させる。
【0084】
時期判定部F6は、一つの電動工具1の検査履歴(第1及び第2トルク測定値の履歴)及び使用履歴(第1トルク測定値の履歴)と、他の電動工具1の使用履歴(第1トルク測定値の履歴)とに基づいて、上記他の電動工具1の校正時期を判定する。
【0085】
具体的には、制御部52(時期判定部F6)は、一つの電動工具1の検査履歴に基づいて、この電動工具1の校正が必要と判断した場合、この電動工具1と同様の使用状況(例えば使用時間)の電動工具1についても校正が必要であると判断する。例えば、ある電動工具1(以下、「第1電動工具」ともいう)の検査履歴に基づいて、第1電動工具の校正が必要と判断した場合に、第1電動工具の総使用時間が1000時間であったとする。この場合、制御部52は、他の電動工具(以下、「第2電動工具」ともいう)の総使用時間が1000時間に達した時点で、第2電動工具の校正が必要と判断する。そして、制御部52は、第2電動工具の校正が必要である旨の通知信号を、通信部51から受信機4等へ送信させる。
【0086】
このように、本変形例の電動工具システム10では、複数の電動工具1のうちの1つの電動工具1の検査を行うだけで、複数の電動工具1のうちの他の電動工具1の校正時期を判定することが可能となる。これにより、電動工具1(上記他の電動工具1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0087】
(3.2)変形例2
変形例2の電動工具システム10について、図8を参照して説明する。
【0088】
図8に示すように、本変形例の電動工具システム10では、サーバ5の制御部52が、電動工具1での故障、経年劣化等の不具合の発生を予測する予測部F7を備えている。
【0089】
予測部F7は、ここでは学習済みモデルを利用して、電動工具1での不具合の発生を予測する。学習済みモデルは、与えられた入力(第1トルク測定値及び第2トルク測定値)に対して、電動工具1での不具合が発生する確率を出力するように設計されている。学習済みモデルは、一定量以上の学習用データを用いて、機械学習アルゴリズムによって生成される。学習用データは、予め用意されていてもよいし、受信機4から送信されたデータから生成されてもよい。予測部F7は、受信機4から得た入力を学習済みモデルに与え、これによって学習済みモデルから得られた状態値(確率)に基づいて、電動工具1での不具合の発生を予測する。このような学習済みモデルは、第1トルク測定値及び第2トルク測定値と不具合の発生確率との関係を規定する学習用データ(データセット)を用いた教師あり学習により生成することができる。学習済みモデルは、例えば記憶部53に記憶されている。
【0090】
このように、本変形例の電動工具システム10では、予測部F7が、電動工具1での不具合の発生を予測する。これにより、電動工具1の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0091】
なお、予測部F7が予測するのは、電動工具1の不具合に限られず、例えば、電動工具1で作業が行われた作業対象の不具合、例えばネジ締め不良の発生等であってもよい。
【0092】
(3.3)変形例3
変形例3の電動工具システム10について、図9を参照して説明する。
【0093】
図9に示すように、本変形例の電動工具システム10では、電動工具1はセンサ部12を備えていない。その一方、電動工具1の制御部13が、校正処理部F8を備えている。また、制御部13は、トルク推定部を備えている。トルク推定部は、出力軸113から出力される出力トルクを推定する。トルク推定部は、インパクト機構112の打撃間におけるモータ111の回転速度、回転量変化等に基づいて、出力トルクの大きさを推定する。制御部13は、推定された出力トルクがトルク設定値に達したら、モータ111の回転を停止させる。
【0094】
図9に示すように、電動工具1は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締付ける締付部11と、締付部11を制御して締付部11から出力される出力トルクを調整する制御部13と、を備えている。また、検査装置2は、締付部11からの締付力を測定する測定部21を備えている。電動工具1の校正処理部F8は、検査装置2の測定部21で測定した測定値に基づいて、制御部13の校正を行う。
【0095】
より詳細には、検査装置2は、電動工具1の検査時に、測定値(締付力又は被締付トルク値)が所定の目標値になると、受信機4を介して電動工具1へ校正指示信号を送信する。校正指示信号は、現在の被締付トルク値(第2トルク測定値)を示す信号である。電動工具1の校正処理部F8は、受信した校正指示信号に含まれる第2トルク測定値に基づいて、トルク推定部で推定される出力トルクを、(推定された出力トルクの大きさが、校正指示信号で示されるトルク値に近付くように)校正する。
【0096】
これにより、本変形例の電動工具システム10でも、電動工具1で測定される締付けトルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0097】
なお、本変形例の校正処理部F8と同様の機能は、管理方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係る電動工具1の管理方法は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部11、及び、締付部11を制御して締付部11から出力される出力トルクを調整する制御部13を備えた電動工具1の管理方法である。この管理方法は、締付部11からの締付力を測定する測定ステップと、測定ステップで測定した測定値に基づいて、制御部13の校正を行う校正ステップと、を備える。また、一態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサ(例えば、電動工具1の制御部13及び検査装置2の制御部22)に、上記の管理方法を実行させる。
【0098】
なお、本変形例では、電動工具1と検査装置2とが互いに通信可能であれば、管理システム3(受信機4及びサーバ5)は不要である。
【0099】
(3.4)その他の変形例
以上述べた電動工具システム10は、例えば制御部13,22,43,52等に、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを有する。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における制御部13,22,43,52等としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されていてもよいが、電気通信回線を通じて提供されてもよい。また、プログラムは、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1乃至複数の電子回路で構成される。ここでは、ICやLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、若しくはULSI(ultralarge scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FGPA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができる再構成可能な論理デバイスも同じ目的で使うことができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。
【0100】
一変形例において、第1トルク測定値と測定時間との紐付け、及び第2トルク測定値と測定時間との紐付けは、受信機4の制御部43以外が行ってもよく、例えば、サーバ5の制御部52が行ってもよい。例えば、制御部52は、受信機4から、第1トルク測定値(或いは第2トルク測定値)を含む信号を受信した場合、この信号を受信した時間を測定時間として、第1トルク測定値(或いは第2トルク測定値)と紐付ける。
【0101】
一変形例において、第1測定信号は、第1トルク測定値と、センサ部12によってトルクの測定が行われた時間であって電動工具1に設けられている計時部で計時された時間(測定時間)と、を紐付けて示す信号であってもよい。また、第2測定信号は、第2トルク測定値と、測定部21によって締付力の測定が行われた時間であって検査装置2に設けられている計時部で計時された時間(測定時間)と、を紐付けて示す信号であってもよい。
【0102】
一変形例において、複数の電動工具1を備えた電動工具システム10において、制御部52は、検査装置2の不具合についての判断を行ってもよい。例えば、複数の電動工具1による第1トルク測定値の平均値と、検査装置2による第2トルク測定値との差分ΔTが、閾値よりも大きい場合、検査装置2に不具合があると判断してもよい。或いは、複数の電動工具1についての検査を行なった場合に、検査装置2による第2トルク測定値が、全ての電動工具1の検査について、第1トルク測定値よりも大きい(又は小さい)場合、制御部52は、検査装置2に不具合があると判断してもよい。そして、制御部52(校正処理部F4)は、比較処理部F3の比較結果に基づいて、第1トルク測定値と第2トルク測定値との差分ΔTが小さくなるように検査装置2を校正してもよい。
【0103】
一変形例において、電動工具1と検査装置2とは、互いに通信可能であってもよい。この場合、受信機4は、電動工具1と検査装置2とのうちの少なくとも一方と通信可能であればよい。
【0104】
一変形例において、管理システム3はサーバ5を備えていなくてもよい。この場合、管理システム3におけるサーバ5の制御部52の構成(紐付け処理部F1、履歴生成部F2、比較処理部F3、校正処理部F4、通知部F5、時期判定部F6、予測部F7)は、受信機4が備えていてもよい。
【0105】
一変形例において、電動工具システム10は、管理システム3を備えていなくてもよい。この場合、管理システム3におけるサーバ5の制御部52の構成(紐付け処理部F1、履歴生成部F2、比較処理部F3、校正処理部F4、通知部F5、時期判定部F6、予測部F7等)は、図10に示すように電動工具1が備えていてもよいし、図11に示すように検査装置2が備えていてもよい。
【0106】
一変形例において、受信機4は、電動工具1を使用するユーザが携帯する情報端末であってもよい。
【0107】
一変形例において、制御部52は、校正処理部F4と通知部F5とのうちの一方のみを備えていてもよいし、校正処理部F4と通知部F5との両方を備えていなくてもよい。
【0108】
一変形例において、サーバ5のユーザとしての電動工具1の製造業者は、検査履歴から求まる検査頻度に基づいて、電動工具1のユーザに対する保証を変更してもよい。例えば、検査頻度が高いユーザに対しては、電動工具1の修理時に、修理代を割り引く等してもよい。
【0109】
(4)態様
以上説明した実施形態及び変形例等から以下の態様が開示されている。
【0110】
第1の態様の電動工具システム(10)は、電動工具(1)と検査装置(2)とを備える。電動工具(1)は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部(11)、及び、締付部(11)による締付トルクを測定するセンサ部(12)を備える。検査装置(2)は、締付部(11)からの締付力を測定する測定部(21)を備える。電動工具システム(10)は、センサ部(12)による測定結果に対応する第1トルク測定値と測定部(21)による測定結果に対応する第2トルク測定値とを紐付けする紐付け処理部(F1)を、更に備える。
【0111】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0112】
第2の態様の電動工具システム(10)は、第1の態様において、電動工具(1)及び検査装置(2)とは別体であって電動工具(1)と検査装置(2)とのうちの少なくとも一方と通信可能な管理システム(3)を更に備える。紐付け処理部(F1)は、管理システム(3)に設けられている。
【0113】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0114】
第3の態様の電動工具システム(10)では、第1の態様において、紐付け処理部(F1)は、電動工具(1)と検査装置(2)とのうちの少なくとも一方に設けられている。
【0115】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0116】
第4の態様の電動工具システム(10)は、第1~第3のいずれか1つの態様において、履歴生成部(F2)を更に備える。履歴生成部(F2)は、第2トルク測定値を第1トルク測定値と時系列で紐付けて検査履歴を生成する。
【0117】
この態様によれば、電動工具システム(10)の管理者が、電動工具(1)の検査履歴を利用することが可能となる。
【0118】
第5の態様の電動工具システム(10)では、第4の態様において、履歴生成部(F2)は更に、電動工具(1)の使用履歴を、検査履歴と紐付ける。
【0119】
この態様によれば、電動工具システム(10)の管理者が、電動工具(1)の使用履歴と紐付けられた検査履歴を利用することが可能となる。
【0120】
第6の態様の電動工具システム(10)は、第1~第5のいずれか1つの態様において、第1トルク測定値と第2トルク測定値とを比較する比較処理部(F3)を更に備える。
【0121】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0122】
第7の態様の電動工具システム(10)は、第6の態様において、比較処理部(F3)の比較結果に基づいて、第1トルク測定値と第2トルク測定値との差分(ΔT)が小さくなるように電動工具(1)又は検査装置(2)を校正する校正処理部(F4)を、更に備える。
【0123】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0124】
第8の態様の電動工具システム(10)は、第6又は第7の態様において、比較処理部(F3)の比較結果に基づいて通知を行う通知部(F5)を、更に備える。
【0125】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0126】
第9の態様の電動工具システム(10)は、電動工具(1)と、検査装置(2)と、を備える。電動工具(1)は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部(11)、及び、締付部(11)を制御して締付部(11)から出力される出力トルクを調整する制御部(13)を備える。検査装置(2)は、締付部(11)からの締付力を測定する測定部(21)を備える。電動工具(1)は、検査装置(2)の測定部(21)で測定された測定値に基づいて、制御部(13)の校正を行う校正処理部(F8)を更に備える。
【0127】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0128】
第10の態様の電動工具システム(10)では、第9の態様において、校正処理部(F8)は、測定値が所定の目標値になったことをトリガとして、出力トルクが測定値に対応するトルク値に近付くように、校正を行う。
【0129】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0130】
第11の態様の電動工具(1)は、第1~第10のいずれか1つの態様の電動工具システム(10)に用いられる電動工具(1)である。
【0131】
第12の態様の電動工具(1)の管理方法は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部(11)、及び、締付部(11)による締付トルクを測定するセンサ部(12)を備えた電動工具(1)の管理方法である。この管理方法は、締付部(11)からの締付力を測定する測定ステップと、センサ部(12)による測定結果に対応する第1トルク測定値と測定ステップによる測定結果に対応する第2トルク測定値とを紐付けする紐付けステップと、を備える。
【0132】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0133】
第13の態様の電動工具(1)の管理方法は、動力源(モータ111)の駆動力により作業対象を被取付部材に締め付ける締付部(11)、及び、締付部(11)を制御して締付部(11)から出力される出力トルクを調整する制御部(13)を備えた電動工具(1)の管理方法である。この管理方法は、締付部(11)からの締付力を測定する測定ステップと、測定ステップで測定した測定値に基づいて、制御部(13)の校正を行う校正ステップと、を備える。
【0134】
この態様によれば、電動工具(1)で測定される締付トルク値の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0135】
10 電動工具システム
1 電動工具
11 締付部
111 モータ(動力源)
12 センサ部
13 制御部
2 検査装置
21 測定部
3 管理システム
F1 紐付け処理部
F2 履歴生成部
F3 比較処理部
F4,F8 校正処理部
F5 通知部
ΔT 差分
図1
図2
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図11