(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230414BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230414BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230414BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230414BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20230414BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/66 A
H01M4/38 Z
H01M10/0587
(21)【出願番号】P 2020507422
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019004946
(87)【国際公開番号】W WO2019181277
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018057010
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 倫久
(72)【発明者】
【氏名】定兼 拓也
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-258103(JP,A)
【文献】特開2004-172117(JP,A)
【文献】特開平08-096849(JP,A)
【文献】特開2014-026932(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169771(WO,A1)
【文献】特表2018-501615(JP,A)
【文献】特開2016-143449(JP,A)
【文献】特表2017-511588(JP,A)
【文献】特開2014-035956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0587
H01M 4/13-4/62
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、セパレータと、前記セパレータを介して前記正極と対向する負極と、電解液と、を有し、
前記負極には、充電によりリチウム金属が析出し
てリチウム金属層が形成され、
前記電解液は、
オキサレート錯体をアニオンとし、リチウムイオンをカチオンとするオキサレート塩と、
ジカルボン酸ジエステル化合物と、を含み、
前記ジカルボン酸ジエステル化合物は、前記電解液に
0.5質量%以上、10質量%未満含まれる、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記オキサレート塩は、前記電解液に0.1質量%以上、20質量%以下含まれる、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記ジカルボン酸ジエステル化合物が、下記式(1):
【化1】
(式中、R
1は、単結合または炭素数1~3の炭化水素基であり、R
aおよびR
bは、それぞれ炭素数1~4の炭化水素基である。)
で表される、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記オキサレート塩は、リチウムジフルオロオキサレートボレートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記負極は、負極集電体を備え、
前記負極集電体は、リチウム金属と反応しない金属材料を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記金属材料は、銅または銅合金である、請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
完全放電状態において、前記負極が実質的に放電可能なリチウム金属を有さない、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記負極は、前記負極集電体と、前記負極集電体に貼り付けられたリチウム金属箔、あるいは、前記負極集電体に電析または蒸着されたリチウム金属を有する、請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記正極および前記負極が前記セパレータを介して巻回されている電極群と、前記電解液とが、外装体に収容されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属を負極活物質として用いるリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、パソコン、スマートフォン等のICT用、車載用、蓄電用等として広く用いられている。このような用途に用いられる非水電解質二次電池には、さらなる高容量化が求められる。高容量の非水電解質二次電池としては、リチウムイオン電池が知られている。リチウムイオン電池の高容量化は、負極活物質として、例えば、黒鉛とシリコン化合物等の合金活物質とを併用することにより達成され得る。しかし、リチウムイオン電池の高容量化は限界に達しつつある。
【0003】
リチウムイオン電池を超える高容量の非水電解質二次電池として、リチウム二次電池が有望である。リチウム二次電池では、充電時にリチウム金属が負極上に析出し、放電時に当該リチウム金属が電解液中に溶解する。特許文献1は、リチウム金属をアノードとして用いる二次電池に、アニオンとしてオキサレート錯体を含む電解液を用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
特許文献1によれば、サイクル動作による容量の減衰が抑制される。しかし、その効果は十分ではない。
【0006】
本発明の一側面は正極と、セパレータと、前記セパレータを介して前記正極と対向する負極と、電解液と、を有し、前記負極には、充電によりリチウム金属が析出し、前記電解液は、オキサレート錯体をアニオンとし、リチウムイオンをカチオンとするオキサレート塩と、ジカルボン酸ジエステル化合物と、を含み、前記ジカルボン酸ジエステル化合物は、前記電解液に0.1質量%以上、10質量%未満含まれる、リチウム二次電池に関する。
【0007】
本発明のリチウム二次電池は、サイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、正極と、セパレータと、セパレータを介して正極と対向する負極と、電解液と、を有する。負極には、充電によりリチウム金属が析出する。負極に析出したリチウム金属は、放電により電解液中にリチウムイオンとして溶解する。
【0010】
一般にリチウム二次電池では、負極にリチウム金属がデンドライト状に析出し易い。これにより副反応が増加して充放電効率が低下し、サイクル特性が低下することがある。電解液が、オキサレート錯体をアニオンとし、リチウムイオンをカチオンとするオキサレート塩を含む場合、オキサレート錯体であるアニオンとリチウムとの相互作用により、リチウム金属が細かい粒子状で均一に析出し易くなる。よって、デンドライトの生成は抑制され易い。
【0011】
ところが、オキサレート塩のみでは、デンドライトの生成を抑制する効果は十分ではない。そこで、本実施形態では、電解液に、オキサレート塩とともに、ジカルボン酸ジエステル化合物を0.1質量%以上、10質量%未満の範囲で添加する。これにより、負極上におけるデンドライトの生成はさらに抑制される。
【0012】
ジカルボン酸ジエステル化合物によって、デンドライトの生成がさらに抑制されるメカニズムは明らかではないが、1以上のジカルボン酸ジエステル化合物が、オキサレート錯体が配位するリチウムイオンの周囲に、さらに配位するものと考えられる。これにより、リチウムイオンは、見かけ上、より嵩高くなる。そのため、リチウムイオン同士の近接が妨げられるとともに、時間をかけて負極に到達する。よって、リチウム金属は、負極上に均一に析出し易くなる。言い換えれば、ジカルボン酸ジエステル化合物は、オキサレート塩のリチウムイオンに対する作用を高める。ジカルボン酸ジエステル化合物は、単独のリチウムイオンにも配位し得ると考えられる。しかし、ジカルボン酸ジエステル化合物のみでは、デンドライトの生成抑制効果は極めて低い。
【0013】
リチウム金属析出の際、析出したリチウム金属と電解液との界面で副反応物が生成し得る。ただし、リチウム金属は均一に析出しているため、析出したリチウム金属と電解液との接触面積は小さく、副反応物の生成量は低減される。副反応物が生成する場合であっても、リチウム金属は均一に析出しているため、副生成物は偏りなく均質に生成する。副反応物が生成する際、その内部に空隙が形成される場合がある。副反応物は均質に形成されるため、当該空隙の偏在化が抑制されるとともに、その大きさの偏りも抑制され得る。これらの総合的な作用により、負極から離間して孤立するリチウム金属が減少して、充放電効率が向上し、容量維持率が高まる。
【0014】
(オキサレート塩)
オキサレート塩は、オキサレート錯体をアニオンとし、リチウムイオンをカチオンとする。
【0015】
オキサレート塩は特に限定されず、例えば、ホウ素(B)およびリン(P)の少なくとも一方を含んでいてもよい。このようなオキサレート塩としては、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiBF2(C2O4)、LiFOB)、リチウムビスオキサレートボレート(LiB(C2O4)2、LiBOB)、LiB(CN)2(C2O4)、LiPF4(C2O4)、LiPF2(C2O4)2等が挙げられる。なかでも、デンドライトの生成の抑制効果が高い点で、オキサレート塩はLiFOBであってもよい。
【0016】
電解液中のオキサレート塩の濃度は、0.1質量%以上、20質量%以下(0.01モル/リットル以上、2モル/リットル以下)が好ましく、3質量%以上、10質量%以下がより好ましく、3質量%以上、8質量%以下が特に好ましい。オキサレート塩の濃度がこの範囲であると、リチウム金属がデンドライト状に析出することが抑制され易くなる。
【0017】
(ジカルボン酸ジエステル化合物)
ジカルボン酸ジエステル化合物は、エステル化された2つのカルボキシ基を有する限り、特に限定されない。電解液の粘度を考慮すると、ジカルボン酸ジエステル化合物の分子量は、100~230であることが好ましい。
【0018】
ジカルボン酸ジエステル化合物を構成する具体的なジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、アスパラギン酸、コハク酸、フタル酸等が挙げられる。
【0019】
配位子として機能することを考慮すると、ジカルボン酸ジエステル化合物は、立体障害の少ない構造、例えば鎖状構造を有することが好ましい。このとき、カルボキシ基はそれぞれ、鎖状構造の末端に位置していることが好ましい。さらに、ジカルボン酸ジエステル化合物の構造は、線対称であることが好ましい。
【0020】
好ましいジカルボン酸ジエステル化合物は、例えば、下記式(1):
【0021】
【0022】
で表される。
【0023】
式中、R1は単結合または炭素数1~3の炭化水素基である。R1は、飽和結合を有する炭化水素基であってもよいし、不飽和結合を有する炭化水素基であってもよい。R1が主鎖に不飽和結合を有する場合、2つのカルボキシ基はシス位に配置していることが好ましい。リチウムイオンに配位し易くなるためである。R1は、炭素数1~2の飽和炭化水素基(メチレン基またはエチレン基)であることが好ましい。
【0024】
炭化水素基であるR1に含まれる少なくとも1つの水素原子は、他の官能基に置換されてもよい。ただし、ジカルボン酸ジエステル化合物の配位子としての機能を考慮すると、上記水素原子は、電子供与性の官能基に置換されることが好ましい。電子供与性の官能基としては、例えば、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0025】
RaおよびRbは、それぞれ炭素数1~4の炭化水素基である。なかでも、RaおよびRbは、メチル基またはエチル基であることが好ましい。RaおよびRbは、同一でもよいし、異なっていてもよい。RaおよびRbが同一であると、ジカルボン酸ジエステル化合物の構造が線対称になるため好ましい。
【0026】
特に好ましいジカルボン酸ジエステル化合物を構成するジカルボン酸としては、マロン酸が挙げられる。特に好ましいジカルボン酸ジエステル化合物としては、マロン酸ジエチルが挙げられる。
【0027】
電解液中のジカルボン酸ジエステル化合物の濃度は、0.1質量%以上、10質量%未満である。ジカルボン酸ジエステル化合物の濃度がこの範囲であると、デンドライトの生成はさらに抑制される。ジカルボン酸ジエステル化合物の濃度は、0.5質量%以上、8質量%以下が好ましく、0.8質量%以上、6質量%以下がより好ましい。
【0028】
電解液中のオキサレート塩とジカルボン酸ジエステル化合物との質量割合は特に限定されない。デンドライトの生成抑制効果を考慮すると、電解液中のオキサレート塩に対するジカルボン酸ジエステル化合物の質量割合:ジカルボン酸ジエステル化合物/オキサレート塩は、0.01~50が好ましく、0.5~10がより好ましく、0.1~5が特に好ましい。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係るリチウム二次電池について詳述する。リチウム二次電池は、例えば、以下のような負極と、セパレータと、正極と、電解液とを備える。
【0030】
[負極]
負極は、充電時にリチウム金属が析出する電極である。析出するリチウム金属は電解液中のリチウムイオンに由来し、放電により、再び電解液に溶解する。電解液に含まれるリチウムイオンは、電解液に添加したリチウム塩に由来するものであってもよく、充電により正極活物質から供給されるものであってもよく、これらの双方であってもよい。
【0031】
負極は、例えば、金属リチウムおよび/またはリチウム合金により構成される。あるいは、負極は、リチウム金属と反応しない金属材料で構成される負極集電体を備えていてもよい。この場合、負極集電体に、リチウム金属を含む負極活物質層が形成されてもよい。負極活物質層は、例えば、箔状のリチウム金属の貼り付け、リチウム金属の電析または蒸着等によって形成される。
【0032】
ただし、電池の完全放電状態において、負極は、実質的に放電可能なリチウム金属を有さなくてもよい。電池の体積エネルギー密度が高まるためである。つまり、負極は、負極集電体を備える一方、完全放電状態において負極活物質層を備えていなくてもよい。この場合、電池の放電後、負極は負極集電体のみにより構成されており、充電により、負極集電体の表面にリチウム金属が析出して、負極活物質層(リチウム金属層)が形成される。
【0033】
電池の完全放電状態とは、リチウム二次電池が使用される機器分野での所定の電圧範囲において、最も低い電圧までリチウム二次電池を放電した状態である。完全放電状態において、負極が実質的に放電可能なリチウム金属を有さないことは、下記のようにして調べることが可能である。例えば、完全放電状態のリチウム二次電池を分解して負極を取り出し、エステル等の非水溶媒で洗浄し、乾燥する。得られた負極と、対極としてリチウム金属とを備える試験電池を作製して、負極の放電ができない場合、負極は完全放電状態であるといえる。
【0034】
負極集電体を構成する金属材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびこれらの金属元素を含む合金などが挙げられる。合金としては、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好ましい。金属材料としては、導電性の点で、銅および/または銅合金が好ましい。負極集電体中の銅の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であってもよい。金属材料の形態は、例えば、箔状である。負極集電体の厚みは特に限定されず、例えば、5μm~20μmである。
【0035】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極活物質、結着剤および導電剤などを含む正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0036】
正極活物質としては、層状岩塩型の複合酸化物を用いることができる。例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-bO2、LiaCobM1-bOc、LiaNibM1-bOc、LiaMn2O4、LiaMn2-bMbO4、LiMPO4、Li2MPO4F(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも一種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0037】
なかでも、ニッケル元素を含む層状岩塩型の複合酸化物が好ましい。このような複合酸化物は、LiaNibM1-bO2(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表される。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。さらに、結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(NCA):LiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)がさらに好ましい。NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.8Co0.18Al0.02O2、LiNi0.9Co0.05Al0.05O2等が挙げられる。
【0038】
NCA以外のニッケル元素を含む層状岩塩型の複合酸化物の具体例としては、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.4Co0.2Mn0.4O2等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2O2等)が挙げられる。
【0039】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0042】
[電解液]
電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩と、ジカルボン酸ジエステル化合物と、を含む。リチウム塩は、上記のオキサレート塩を含む。
【0043】
電解液におけるオキサレート塩を含む全リチウム塩の濃度は、例えば5質量%以上、20質量%以下(0.5モル/リットル以上、2モル/リットル以下)が好ましい。全リチウム塩濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。ただし、全リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0044】
オキサレート塩以外のリチウム塩としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2など)、フッ素含有酸イミドのリチウム塩(LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(C2F5SO2)2など)、フルオロスルホン酸のリチウム塩(LiSO3F2など)、モノフルオロリン酸またはジフルオロリン酸のリチウム塩(LiPO2F2など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)などが使用できる。これら1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、LiPF6が好ましい。オキサレート塩とLiPF6とを併用することで、良質なSEI被膜が形成され易くなる。
【0045】
リチウム塩としてオキサレート塩およびLiPF6を含む場合、オキサレート塩とLiPF6との合計に占めるオキサレート塩の割合は、好ましくは1質量%以上、60質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上、40質量%以下である。
【0046】
リチウム塩としてオキサレート塩およびLiPF6に加え、他のリチウム塩が含まれる場合、リチウム塩に占めるオキサレート塩とLiPF6との合計量の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。リチウム塩に占めるオキサレート塩とLiPF6との合計量の割合を上記範囲に制御することで、サイクル特性に優れた電池が得られ易くなる。
【0047】
非水溶媒としては、特に限定されないが、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、環状スルホン、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。環状スルホンとしては、スルホラン、メチルスルホラン等が挙げられる。環状エーテルとしては、1,3-ジオキソラン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等が挙げられる。
【0048】
なかでも、充放電効率が向上する点で、フッ素を含む環状カーボネートが好ましい。フッ素含有環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。また、負極集電体上での電解液の分布が均一になり易い点で、鎖状カーボネートが好ましく、DMC、EMCがより好ましい。
【0049】
非水溶媒は、特に、フッ素含有環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒であることが好ましい。特に好ましい電解液は、例えば、FEC、EMCさらにはDMCを含む非水溶媒と、上記のジカルボン酸ジエステル化合物と、電解質塩としてLiPF6およびオキサレート塩を含む。
【0050】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを介在させる。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0051】
[リチウム二次電池]
以下、本実施形態にかかるリチウム二次電池の構成を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る角形のリチウム二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0052】
電池は、有底角形の電池ケース6と、電池ケース6内に収容された電極群9および電解液(図示せず)とを備えている。電極群9は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群9は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0053】
リチウム二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、電解液とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。リチウム二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0054】
負極の負極集電体には、負極リード14の一端が溶接などにより取り付けられている。正極の正極集電体には、正極リード11の一端が溶接などにより取り付けられている。負極リード14の他端は、封口板5に設けられた負極端子13に電気的に接続される。正極リード11の他端は、正極端子を兼ねる電池ケース6に電気的に接続される。電極群9の上部には、電極群9と封口板5とを隔離するとともに負極リード14と電池ケース6とを隔離する樹脂製の枠体4が配置されている。そして、電池ケース6の開口部は、封口板5で封口される。
【0055】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(1)正極の作製
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02O2)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0057】
(2)負極の作製
電解銅箔(厚み10μm)を所定の電極サイズに切断して、負極とした。
【0058】
(3)電解液の調製
FECとEMCとDMCとを、FEC:EMC:DMC=20:5:75の容積比で混合した。得られた混合溶媒に、LiFOBを5.8質量%、マロン酸ジメチルを1質量%、LiPF6を12.2質量%となるようにそれぞれ溶解させて、電解液を調製した。
【0059】
(4)電池の作製
上記で得られた正極に、Al製のタブを取り付けた。上記で得られた負極に、Ni製のタブを取り付けた。不活性ガス雰囲気中で、正極と負極とをポリエチレン薄膜(セパレータ)を介して渦巻状に捲回し、捲回型の電極体を作製した。得られた電極体を、Al層を備えるラミネートシートで形成される袋状の外装体に収容し、上記電解液を注入した後、外装体を封止してリチウム二次電池T1を作製した。
【0060】
[実施例2]
電解液の調製(3)において、マロン酸ジメチルを5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T2を作製した。
【0061】
[実施例3]
電解液の調製(3)において、マロン酸ジメチルに替えて、マロン酸ジエチルを5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T3を作製した。
【0062】
[比較例1]
電解液の調製(3)において、マロン酸ジメチルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池R1を作製した。
【0063】
[比較例2]
電解液の調製(3)において、マロン酸ジメチルを10質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池R2を作製した。
【0064】
[比較例3]
電解液の調製(3)において、マロン酸ジメチルを20質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池R3を作製した。
【0065】
[比較例4]
電解液の調製(3)において、オキサレート塩を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池R4を作製した。
【0066】
[評価]
得られた電池T1~T3、R1~R4について、充放電試験を行い、充放電特性を評価した。
【0067】
充放電試験では、25℃の恒温槽内において、以下の条件で電池の充電を行った後、20分間休止して、以下の条件で放電を行った。
【0068】
(充電)20mAの電流で電池電圧が4.1Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.1Vの電圧で電流値が2mAになるまで定電圧充電を行った。
【0069】
(放電)20mAの電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0070】
上記充電および放電を1サイクルとし、50サイクルの充放電試験を行った。25サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で割った値を容量維持率R25(%)とし、50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で割った値を容量維持率R50(%)とした。評価結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に示すように、電池T1~T3はいずれも電池R1~R4に比較してサイクル特性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のリチウム二次電池は、放電容量およびサイクル特性に優れるため、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末のような電子機器、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを含む電気自動車、太陽電池と組み合わせた家庭用蓄電池などに用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
4:枠体
5:封口板
6:電池ケース
9:電極群、
11:正極リード
13:正極端子
14:負極リード