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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】カーボン材料分散液及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/18 20060101AFI20230414BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230414BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230414BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20230414BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20230414BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20230414BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20230414BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230414BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230414BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20230414BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230414BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230414BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C08L33/18
C08K7/06
C08K3/04
C08F293/00
C09C1/44
C09C1/48
C09C3/10
C09D17/00
C09D7/61
C09D5/24
C09D7/20
C09D201/00
C09K3/16 101B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022149305
(22)【出願日】2022-09-20
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2022121689
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】土居 誠司
(72)【発明者】
【氏名】下岡 理沙
(72)【発明者】
【氏名】梅田 大地
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 淳
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-163679(JP,A)
【文献】特開2020-163362(JP,A)
【文献】特開2021-190331(JP,A)
【文献】特開2015-128006(JP,A)
【文献】特開平06-212106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C08F6/00-283/00、283/02-289/00、291/00-297/08、301/00
C08C19/00-19/44
C09C1/00-3/12
C09D15/00-17/00
C09D1/00-10/00、101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種のカーボン材料と、水と、高分子分散剤と、を含有し、
前記高分子分散剤が、少なくとも一部がアルカリで中和されたカルボキシ基を有する、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(1)50~80質量%、及び(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(2)20~50質量%(但し、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)の合計を100質量%とする)で構成されるポリマーであり、
前記ポリマーの数平均分子量が、10,000~50,000であり、
前記ポリマーが、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-A)70~90質量%及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-A)10~30質量%(但し、前記構成単位(1-A)と前記構成単位(2-A)の合計を100質量%とする)で構成されるポリマーブロックAと、
アクリロニトリルに由来する構成単位(1-B)10~70質量%及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-B)30~90質量%(但し、前記構成単位(1-B)と前記構成単位(2-B)の合計を100質量%とする)で構成されるポリマーブロックBと、を含むA-Bブロックコポリマーであり、
前記ポリマーブロックAの数平均分子量が8,000~40,000であり、分子量分布が1.8以下であり、
前記ポリマーブロックA中のカルボキシ基の含有量が、前記ポリマーブロックB中のカルボキシ基の含有量に比して少ないカーボン材料分散液。
【請求項2】
前記アルカリが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記アルカリの量が、前記カルボキシ基の50~120mol%に相当する量である請求項1に記載のカーボン材料分散液。
【請求項3】
ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、テトラメチル尿素、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、及びアセトニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の水溶性有機溶媒をさらに含有する請求項1又は2に記載のカーボン材料分散液。
【請求項4】
前記カーボン材料100質量部に対する、前記高分子分散剤の含有量が、10~350質量部であり、
前記カーボン材料の含有量が、15質量%以下である請求項1又は2に記載のカーボン材料分散液。
【請求項5】
バインダー樹脂をさらに含有する請求項に記載のカーボン材料分散液。
【請求項6】
塗料、インキ、コーティング剤、樹脂成形品材料、導電性材料、熱伝導性材料、及び帯電防止材料のいずれかの製品を製造するための、請求項に記載のカーボン材料分散液の使用。
【請求項7】
カーボン材料分散液で形成された皮膜を備える、電池材料及び機械部品のいずれかの製品を製造するための、請求項に記載のカーボン材料分散液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン材料分散液及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェン等のカーボン材料(ナノカーボン材料)は、炭素原子の共有結合によって形成される六員環グラファイト構造を有する、導電性や伝熱性等の種々の特性が発揮される材料であり、幅広い分野でその特性を活かすための方法が検討されている。例えば、カーボン材料の電気的性質、熱的性質、及びフィラーとしての性質に注目し、帯電防止剤、導電材料、プラスチック補強材、半導体、燃料電池電極、及びディスプレーの陰極線等に用いることが検討されている。
【0003】
これらの用途には、カーボン材料の分散性が良好であるとともに、分散性が長期間にわたって維持されるカーボン材料分散液が必要である。但し、ナノサイズのカーボン材料は表面エネルギーが高く、強いファンデルワールス力が働いているために凝集しやすい。このため、液媒体中に分散させた場合であっても、直ちに凝集することが多い。
【0004】
カーボン材料を液媒体中に安定して分散させるために、一般的に分散剤が用いられている。例えば、アルカノールアミン塩等のカチオン性界面活性剤や、スチレン-アクリル系樹脂等の高分子分散剤を用いた、カーボンナノチューブの溶剤系分散液が提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-174084号公報
【文献】特表2013-537570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
界面活性剤を分散剤として用いると、カーボンナノチューブ等のカーボン材料を液媒体中に分散させることは可能ではある。しかし、得られる分散液中におけるカーボン材料の分散性は必ずしも優れているとはいえず、さらには再凝集しやすいといった課題もあった。また、従来の高分子分散剤を用いると、得られる分散液がチキソトロピックな性質を示しやすい。このため、時間経過とともにカーボン材料が沈降したり、分散液がゲル化したりする場合があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、カーボン材料を高濃度に含む場合であっても、カーボン材料の分散性に優れているとともに、長期間にわたって分散性が安定的に維持されるカーボン材料分散液を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、このカーボン材料分散液の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すカーボン材料分散液が提供される。
[1]カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種のカーボン材料と、水と、高分子分散剤と、を含有し、前記高分子分散剤が、少なくとも一部がアルカリで中和されたカルボキシ基を有する、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(1)50~80質量%、及び(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(2)20~50質量%(但し、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)の合計を100質量%とする)を有するポリマーであり、前記ポリマーの数平均分子量が、10,000~50,000であるカーボン材料分散液。
[2]前記ポリマーが、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-A)60~95質量%及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-A)5~40質量%(但し、前記構成単位(1-A)と前記構成単位(2-A)の合計を100質量%とする)を有するポリマーブロックAと、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-B)10~70質量%及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-B)30~90質量%(但し、前記構成単位(1-B)と前記構成単位(2-B)の合計を100質量%とする)を有するポリマーブロックBと、を含むA-Bブロックコポリマーであり、前記ポリマーブロックAの数平均分子量が8,000~40,000であり、分子量分布が1.8以下である前記[1]に記載のカーボン材料分散液。
[3]前記アルカリが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記アルカリの量が、前記カルボキシ基の50~120mol%に相当する量である前記[1]又は[2]に記載のカーボン材料分散液。
[4]ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、テトラメチル尿素、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、及びアセトニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の水溶性有機溶媒をさらに含有する前記[1]~[3]のいずれかに記載のカーボン材料分散液。
[5]前記カーボン材料100質量部に対する、前記高分子分散剤の含有量が、10~350質量部であり、前記カーボン材料の含有量が、15質量%以下である前記[1]~[4]のいずれかに記載のカーボン材料分散液。
[6]バインダー樹脂をさらに含有する前記[1]~[5]のいずれかに記載のカーボン材料分散液。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示すカーボン材料分散液の使用が提供される。
[7]塗料、インキ、コーティング剤、樹脂成形品材料、導電性材料、熱伝導性材料、及び帯電防止材料のいずれかの製品を製造するための、前記[1]~[6]のいずれかに記載のカーボン材料分散液の使用。
[8]カーボン材料分散液で形成された皮膜を備える、電池材料及び機械部品のいずれかの製品を製造するための、前記[1]~[6]のいずれかに記載のカーボン材料分散液の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボン材料を高濃度に含む場合であっても、カーボン材料の分散性に優れているとともに、長期間にわたって分散性が安定的に維持されるカーボン材料分散液を提供することができる。また、本発明によれば、このカーボン材料分散液の使用を提供することができる。
【0011】
本発明のカーボン材料分散液は、分散性、保存安定性、粘度特性、及び加工性に優れており、塗布等することでカーボン塗膜を容易に形成することができる。また、カーボン材料を適宜選択することで、透明性の高い皮膜を形成することも期待される。さらに、高分子分散剤の含有量が少なくても、カーボン材料が良好な状態で分散されているので、カーボン材料の含有量の多い塗膜を形成することが可能であり、導電性及び熱伝導性等のカーボン材料自体の特性を生かすことが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<カーボン材料分散液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のカーボン材料分散液の一実施形態は、カーボン材料、水、及び高分子分散剤を含有する、カーボン材料の水性分散液である。以下、本発明のカーボン材料分散液の詳細について説明する。
【0013】
(カーボン材料)
カーボン材料は、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種である。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等を挙げることができる。
【0014】
カーボンナノチューブとしては、多層のマルチウォールカーボンナノチューブ及び単層のシングルウォールカーボンナノチューブを用いることができる。マルチウォールカーボンナノチューブの平均長は、40~3,000μmであることが好ましい。シングルウォールカーボンナノチューブの平均長は、5~600μmであることが好ましい。
【0015】
カーボンファイバーとしては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、ピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維、及びこれらの再生品等を挙げることができる。なかでも、繊維径がナノサイズであり、六員環グラファイト構造を巻いて筒状にした形状を有する、いわゆるカーボンナノファイバーや、その径がシングルナノサイズであるカーボンナノチューブが好ましい。カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブは、多層及び単層のいずれであってもよい。
【0016】
グラファイトは、炭素で構成された六角板状結晶を含む層状物質である。なかでも、グラファイトが剥がれて原子1個分の厚さの単一層となったグラフェンや、複数層で形成されているグラフェンを用いることができる。
【0017】
カーボン材料には、白金、パラジウム等の金属や金属塩がドープされていてもよい。また、カーボン材料は、酸化処理、プラズマ処理、放射線処理、コロナ処理、及びカップリング処理等で表面改質されていてもよい。
【0018】
(高分子分散剤)
高分子分散剤(以下、単に「分散剤」とも記す)は、水を含む分散媒体(液媒体)中にカーボン材料を分散させるための成分であり、少なくとも一部がアルカリで中和されたカルボキシ基を有するポリマーである。より具体的には、高分子分散剤は、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(1)及び(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(2)を有するポリマーであり、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(1)及び(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(2)のみで実質的に構成されるポリマーであることが好ましい。
【0019】
構成単位(1)は、(メタ)アクリロニトリルに由来するシアノ基(-CN)を有する。このため、シアノ基の三重結合がカーボン材料の表面と作用し、分散剤であるポリマーがカーボン材料に電子的に吸着する。また、構成単位(2)は、(メタ)アクリル酸に由来するカルボキシ基を有する。このため、このカルボキシ基の少なくとも一部をアルカリで中和してイオン化することで、水を含む液媒体中に分散剤であるポリマーを溶解させることができる。これらの構成単位(1)及び構成単位(2)を含むポリマーを分散剤として用いることで、水を含む液媒体中にカーボン材料を長期間にわたって微分散させることができる。
【0020】
ポリマー中の(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(1)の割合は50~80質量%であり、好ましくは55~75質量%である。また、ポリマー中の(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(2)の割合は20~50質量%であり、好ましくは25~45質量%である。なお、構成単位(1)と構成単位(2)の合計を100質量%とする。ポリマー中の構成単位(2)の割合が20質量%未満であると、ポリマーの水溶解性が不足する。一方、ポリマー中の構成単位(2)の割合が50質量%超であると、ポリマーの水溶解性が過度に高くなる。このため、カーボン材料分散液の粘度が過剰に高くなるとともに、親水性のカルボキシ基の量が多いため、形成される塗膜の耐水性が低下することがある。
【0021】
高分子分散剤(ポリマー)は、構成単位(1)及び構成単位(2)以外のその他の構成単位をさらに有してもよい。その他の構成単位を構成するモノマーとしては、従来公知のスチレン系モノマーや(メタ)アクリレート系モノマー等を挙げることができる。なかでも、エステル結合やアミド結合等の加水分解しやすい構造を含まないモノマーを用いることが好ましい。そのようなモノマーとしては、スチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルビフェニル、ビニルアルコール等を挙げることができる。
【0022】
高分子分散剤として用いるポリマーの数平均分子量は10,000~50,000であり、好ましくは12,000~45,000である。ポリマーの数平均分子量が10,000未満であると、カーボン材料に吸着しても脱離しやすくなるので、分散安定性を向上させることが困難になることがある。一方、ポリマーの数平均分子量が50,000超であると、粘度が過度に高くなることがある。本明細書における数平均分子量は、N,N-ジメチルホルムアミドを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン又はポリメタクリル酸メチル換算の値である。
【0023】
高分子分散剤であるポリマーは、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-A)及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-A)を有するポリマーブロックAと、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-B)及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-B)を有するポリマーブロックBと、を含むA-Bブロックコポリマーであることが好ましい。なお、ポリマーブロックAは、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-A)及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-A)のみで実質的に構成されるポリマーブロックであることが好ましい。また、ポリマーブロックBは、アクリロニトリルに由来する構成単位(1-B)及びメタクリル酸に由来する構成単位(2-B)のみで実質的に構成されるポリマーブロックであることが好ましい。
【0024】
ポリマーブロックA(以下、「A鎖」とも記す)中のアクリロニトリルに由来する構成単位(1-A)の割合は、60~95質量%であることが好ましく、65~90質量%であることがさらに好ましい。また、A鎖中のメタクリル酸に由来する構成単位(2-A)の割合は、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがさらに好ましい。なお、構成単位(1-A)と構成単位(2-A)の合計を100質量%とする。
【0025】
A鎖は、ポリマーブロックB(以下、「B鎖」とも記す)に比してカルボキシ基の含有量が少なく、水溶解性が相対的に低いポリマーブロックである。このため、カーボン材料に吸着したA鎖はB鎖よりも脱離しにくいので、カーボン材料の分散性をより向上させる機能を有する。A鎖中の構成単位(2-A)の割合が5質量%未満であると、A鎖の水溶解性が不足することがある。一方、A鎖中の構成単位(2-A)の割合が40質量%超であると、A鎖の水溶解性が高くなりすぎることがあり、カーボン材料から脱離しやすくなる場合がある。
【0026】
ポリマーブロックA(A鎖)の数平均分子量は、8,000~40,000であることが好ましく、10,000~35,000であることがさらに好ましい。A鎖の数平均分子量が8,000未満であると、カーボン材料への吸着性が不足することがある。一方、A鎖の数平均分子量が40,000超であると、カルボキシ基を有する構成単位(2-A)を有していたとしても、水溶解性が不十分になる場合がある。
【0027】
ポリマーブロックA(A鎖)の分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.8以下であることが好ましく、1.6以下であることがさらに好ましい。分子量が比較的揃っていることで、カーボン材料により均一に吸着しうるとともに、分散性をさらに向上させることができる。A鎖の分子量分布(PDIの値)が1.8超であると、前述の数平均分子量の範囲外のポリマーブロックが多く含まれることになり、分散性の向上効果が低下することがある。
【0028】
ポリマーブロックB(B鎖)中のアクリロニトリルに由来する構成単位(1-B)の割合は、10~70質量%であることが好ましく、15~65質量%であることがさらに好ましい。また、B鎖中のメタクリル酸に由来する構成単位(2-B)の割合は、30~90質量%であることが好ましく、35~85質量%であることがさらに好ましい。なお、構成単位(1-B)と構成単位(2-B)の合計を100質量%とする。
【0029】
B鎖は、A鎖に比してカルボキシ基を多く含む、水溶解性が相対的に高いポリマーブロックである。B鎖中の構成単位(2-B)の割合が30質量%未満であると、A-Bブロックコポリマー全体の水溶解性が不足する場合がある。一方、B鎖中の構成単位(2-B)の割合が90質量%超であると、水親和性が過度に高くなることがある。このため、カーボン材料分散液の粘度が過剰に高くなるとともに、形成される塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0030】
A-Bブロックコポリマーは、例えば、リビングラジカル重合法によって製造することができる。なお、A-Bブロックコポリマーは、アクリロニトリル及びメタクリル酸で構成されることから、その構造制御が容易であるとともに、分子量の調整も容易である。
【0031】
高分子分散剤(ポリマー)中の少なくとも一部のカルボキシ基を中和するアルカリとしては、例えば、アンモニア;トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール等の有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;等の従来公知のアルカリを用いることができる。なかでも、水溶性向上及びイオン作用による塗膜の導電性向上等の観点から、アルカリは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0032】
ポリマー中のすべてのカルボキシ基をアルカリで中和してもよいが、ポリマーが水に溶解する範囲内であれば、一部のカルボキシ基のみをアルカリで中和することも好ましい。アルカリで中和されなかったカルボキシ基(-COOH)は、カーボン材料と水素結合することができる。このため、一部のカルボキシ基のみをアルカリで中和ポリマーを分散剤として用いると、カーボン材料分散液の分散性安定性をより向上させることができる。カルボキシ基を中和するアルカリの量は、カルボキシ基の50~120mol%に相当する量であることが好ましく、カルボキシ基の70~110mol%に相当する量であることがさらに好ましい。
【0033】
高分子分散剤として用いるポリマーは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。なかでも、有機溶剤を用いる溶液重合法;アゾ系ラジカル発生剤や過酸化物系ラジカル発生剤用いるラジカル重合法;等によって製造することができる。有機溶剤としては、従来公知の有機溶剤を用いることができる。但し、ポリマーが汎用の有機溶剤に溶解しにくいことがあるので、水に溶解しうる極性有機溶剤を用いることが好ましい。そのような極性有機溶剤としては、アミド系溶剤、スルホキシド系溶剤、尿素系溶剤、及びニトリル系溶剤等を挙げることができる。なかでも、アミド系溶剤、尿素系溶剤、及びニトリル系溶剤を用いることが好ましい。これらの有機溶剤中で重合した後、アルカリ水溶液を添加してカルボキシ基を中和して水溶液化することで、有機溶剤を含有するカーボン材料分散液を得ることができる。
【0034】
アミド系溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。尿素系溶剤としては、テトラメチル尿素、1,3-ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができる。ニトリル系溶剤としては、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0035】
高分子分散剤として用いるA-Bブロックコポリマーを通常のラジカル重合法によって製造することは困難である。このため、A-Bブロックコポリマーは、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、及びリビングラジカル重合法等のリビング性を有する重合法によって製造することが好ましい。なかでも、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合法が特に好ましい。
【0036】
リビングラジカル重合法としては、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂型連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキサイド法(NMP法)、有機テルル法(TERP法)、可逆的移動触媒重合法(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合法(RCMP法)等を挙げることができる。なかでも、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。これらの方法は、比較的安全な市販の化合物を使用し、重金属や特殊な化合物を使用せず、コスト及び精製の面で有利である。さらに、成長末端を第3級のヨウ素とすることで、精度のよいブロック構造を一般的な設備で容易に形成することができる。
【0037】
A-Bブロックコポリマーを製造する際には、ポリマーブロックAとポリマーブロックBのいずれのポリマーブロックを先に重合してもよい。但し、ポリマーブロックBを先に重合すると、重合系にメタクリル酸が残存する場合がある。この場合、その後に重合するポリマーブロックAにメタクリル酸に由来する構成単位が過剰に導入されてしまうことがある。このため、ポリマーブロックAを先に重合した後、ポリマーブロックBを重合することが好ましい。
【0038】
(液媒体)
本実施形態のカーボン材料分散液は、カーボン材料を分散させる分散媒体(液媒体)として水を含有する。すなわち、本実施形態のカーボン材料分散液は、水性の分散液である。分散媒体には、必要に応じて、水以外の液媒体を含有させてもよい。水以外の液媒体としては、水溶性有機溶媒を用いることができる。
【0039】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類;ピロリドン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド類;テトラメチル尿素、ジメチル1,3-イミダゾリジノン等の尿素系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄含有溶媒;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイオン液体;等を挙げることができる。
【0040】
なかでも、高分子分散剤を重合する際に用いた溶剤を液媒体としてそのまま含有させることが好ましい。すなわち、本実施形態のカーボン材料分散液は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、テトラメチル尿素、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、及びアセトニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の水溶性有機溶媒をさらに含有することが好ましい。これらの水溶性有機溶媒を用いることで、分散媒体に対するカーボン材料の濡れ性を向上させることができる。さらに、形成される塗膜のレベリング性を向上させることができるとともに、形成される塗膜に乾燥防止性などの機能を付与することができる。
【0041】
カーボン材料分散液中の水溶性有機溶媒の含有量は、20質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
(カーボン材料分散液)
カーボン材料分散液中の高分子分散剤の含有量は、カーボン材料100質量部に対して、10~350質量部であることが好ましく、20~300質量部であることがさらに好ましく、30~250質量部であることが特に好ましい。また、カーボン材料分散液中のカーボン材料の含有量は、15質量%以下であることが好ましい。カーボン材料に対する高分子分散剤の含有量を上記の範囲とすることで、カーボン材料がより安定的に分散したカーボン材料分散液とすることができる。カーボン材料に対して高分子分散剤が過度に少ないと、分散性がやや不十分になることがある。一方、カーボン材料に対して高分子分散剤が過度に多くなると、カーボン材料分散液が増粘しやすくなるとともに、固形分中のカーボン材料の比率が相対的に低くなることがある。
【0043】
カーボン材料分散液は、バインダー樹脂をさらに含有することが好ましい。バインダー樹脂(以下、「バインダー」とも記す)を含有させることで、伸びや曲げ等の特性に優れているとともに、基材等に対する密着性がさらに向上した導電性の塗膜を形成することができる。バインダー樹脂としては、高分子分散剤との親和性等を考慮すると、カルボキシメチルセルロース(Na塩を含む)等のセルロース誘導体;スチレン-ブタジエン共重合体;スチレン-アクリル樹脂等のアクリル系樹脂;を用いることが好ましい。
【0044】
塗膜形成用の材料や塗料としてカーボン材料分散液を用いる場合、カーボン材料分散液中のバインダー樹脂の含有量は、カーボン材料1質量部に対して0.3~200質量部とすることが好ましく、3~100質量部とすることがさらに好ましい。バインダー樹脂の量が少なすぎると、基材への塗工がやや困難になり、塗膜の均質性が不足する場合がある。一方、バインダー樹脂の量が多すぎると、カーボン材料の量が相対的に少なくなるため、形成される塗膜の導電性がやや不十分になる場合がある。
【0045】
電池材料を構成する電極の皮膜の形成材料としてカーボン材料分散液を用いる場合、カーボン材料分散液中のバインダー樹脂の含有量は、カーボン材料1質量部に対して0.5~500質量部とすることが好ましく、5~300質量部とすることがさらに好ましい。バインダー樹脂の量が少なすぎると、基材への塗工がやや困難になり、均質な電極を得ることが困難になる場合がある。一方、バインダー樹脂の量が多すぎると、活物質として機能するカーボン材料の量が相対的に少なくなるため、得られる電池の容量が不十分になる場合がある。
【0046】
カーボン材料分散液には、添加剤や樹脂等をさらに含有させることができる。添加剤としては、水溶性染料、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、光重合開始剤、及びその他の顔料分散剤等を挙げることができる。樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリハロゲン化オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリフェノール樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂等を挙げることができる。
【0047】
(カーボン材料分散液の製造方法)
本実施形態のカーボン材料分散液は、前述のポリマーを高分子分散剤として使用し、カーボン材料を従来公知の方法にしたがって水を主成分とする分散媒体(液媒体)中に分散させることで調製することができる。例えば、ディスパー撹拌、三本ロールでの混練、超音波分散、ビーズミル分散、乳化装置、高圧ホモジナイザー等を用いる分散等の分散方法を用いることができる。なかでも、分散効果が高いことから、ビーズミル分散、超音波分散、高圧ホモジナイザーを用いる分散が好ましい。
【0048】
(カーボン材料の分散状態の確認方法)
カーボン材料分散液中におけるカーボン材料の分散性は、以下に示すような、分光光度計を使用して吸光度を測定する方法によって確認することができる。まず、カーボン材料の濃度が既知の極低濃度の分散液を複数調製するとともに、特定波長におけるこれらの分散液の吸光度を測定し、カーボン材料の濃度に対して吸光度をプロットした検量線を作成しておく。そして、カーボン材料分散液を遠心分離処理して分散しきれないカーボン材料を沈降分離しして上澄み液を得る。吸光度を測定可能な濃度となるように得られた上澄み液を希釈して吸光度を測定し、検量線からカーボン材料の濃度を算出する。算出したカーボン材料の濃度と、カーボン材料の仕込み量とを比較することで、カーボン材料の分散性を評価することができる。
【0049】
また、遠心分離処理後のカーボン材料分散液を長期間静置した後、凝集物の有無を確認することによっても、カーボン材料の分散性を確認することができる。さらに、ガラスプレート等に滴下したカーボン材料分散液の状態を、電子顕微鏡等を使用し観察したり、カーボン材料分散液を塗布及び乾燥して形成した膜の電気導電率等の物性値を測定したりすることによっても、カーボン材料の分散性を確認することができる。
【0050】
<カーボン材料分散液の使用>
本実施形態のカーボン材料分散液は水系の分散液であることから、環境にやさしい材料であり、塗料、インキ、コーティング剤、樹脂成形品材料等を製造するための材料として有用である。また、導電性材料や熱伝導性材料としての利用が期待できるほか、帯電防止材料への応用も期待される。さらには、リチウムイオン電池や燃料電池等の電池を構成する電極材料等の電池材料やキャパシタ材料を構成する皮膜、及び各種の機械部品を構成する皮膜を形成するための材料として有用である。
【0051】
水性の塗料やインキは、例えば、溶剤、樹脂、及び添加物等の各種成分をカーボン材料分散液に添加して調製することができる。また、市販の塗料やインキにカーボン材料分散液を添加してもよい。
【0052】
樹脂成形品は、例えば、溶融状態のプラスチック材料にカーボン材料分散液を添加した後、水を除去することによって製造することができる。また、微粉末状態のプラスチック材料にカーボン材料分散液を添加した後、水を除去する、又はカーボン材料を析出させることによっても、カーボン材料が分散した樹脂成形品を製造することができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0054】
<高分子分散剤(ポリマー)の合成>
(合成例1)
N-メチルピロリドン(NMP)233.3部を反応容器に入れて撹拌し、70℃まで昇温した。また、アクリロニトリル(AN)70部、アクリル酸(AA)30部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フイルム和光純薬社製)(V-65)5.0部をビーカーに入れ、V-65を完全に溶解させてモノマー溶液を調製した。調製したモノマー溶液を滴下ロートに入れ、反応容器内の温度が70℃に達した時点で全量の1/3を投入し、残液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、2.5時間経過してからV-65 1.0部を添加した。70℃で1時間維持した後、80℃に昇温して2時間保持してポリマーを形成した。冷却後、水分計を使用して固形分を測定し、ほぼ全てのモノマーが消費されていることを確認した。臭化リチウムのN,N-ジメチルホルムアミド溶液(臭化リチウムの濃度:10mmol/L)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した、ポリメタクリル酸メチル換算のポリマーの数平均分子量(Mn)は14,400であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.85であった。
【0055】
水酸化ナトリウム(NaOH)18.3部(AAに対して110mol%)及びイオン交換水83.2部をビーカーに入れ、NaOHを完全に溶解させてNaOH水溶液を調製した。反応容器内の温度が60℃以下になってからNaOH水溶液を投入してカルボキシ基を中和し、高分子分散剤溶液AA-1を得た。得られた高分子分散剤溶液AA-1の固形分は23.2%であった。
【0056】
(合成例2及び3)
表1に示す組成としたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、高分子分散剤溶液AA-2、AA-3を得た。得られた高分子分散剤溶液AA-2、AA-3の物性を表1に示す。また、表1中の略号の意味を以下に示す。
・MAN:メタクリロニトリル
・MAA:メタクリル酸
・DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
【0057】
【0058】
(合成例4)
反応容器に、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(MDMPA)255.4部、ヨウ素1.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フイルム和光純薬社製)(V-70)3.7部、ジフェニルメタン(DPM)0.2部、AN106.1部、及びMAA26.5部を反応容器に入れた。窒素を流しながら撹拌し、40℃に昇温して4時間重合してA鎖を形成した。反応液の固形分は34.8%であり、固形分から算出した重合転化率は約100%であった。形成したA鎖のMnは14,800であり、PDIは1.41であり、ピークトップ分子量(PT)は20,700であった。
【0059】
V-70 3.1部を添加した後、AN30.0部、MAA31.8部、及びMDMPA216.9部を含有するモノマー溶液をさらに添加した。その後、40℃で4時間重合してB鎖を形成し、A-Bブロックコポリマーを得た。反応液の固形分は29.9%であり、ほぼ定量的に目的物を得たことを確認した。得られたA-BブロックコポリマーのMnは21,600であり、PDIは1.52であり、PTは32,700であった。B鎖の分子量は、A-BブロックコポリマーのMnから、A鎖のMnを差し引いて算出することができる。すなわち、B鎖のMnは6,800であり、PTは12,000であった。
【0060】
NaOH29.8部(MAAに対して110mol%)及びイオン交換水105.1部をビーカーに入れ、NaOHを完全に溶解させてNaOH水溶液を調製した。反応容器内にNaOH水溶液を投入してカルボキシ基を中和し、高分子分散剤溶液AB-1を得た。得られた高分子分散剤溶液AB-1の固形分は25.1%であった。
【0061】
(合成例5~8)
表2に示す組成としたこと以外は、前述の合成例4と同様にして、高分子分散剤溶液AB-2~5を得た。得られた高分子分散剤溶液AB-1~5の物性を表2に示す。また、表2中の略号の意味を以下に示す。
・BDMPA:3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド
【0062】
【0063】
(比較合成例1)
NMP233.3部を反応容器に入れて撹拌し、70℃まで昇温した。また、メタクリル酸メチル(MMA)70.0部、AA30.0部、及びV-65 5.0部をビーカーに入れ、V-65を完全に溶解させてモノマー溶液を調製した。調製したモノマー溶液を滴下ロートに入れ、反応容器内の温度が70℃に達した時点で全量の1/3を投入し、残液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、2.5時間経過してからV-65 1.0部を添加した。70℃で1時間維持した後、80℃に昇温して2時間保持してポリマーを形成した。冷却後に固形分を測定し、ほぼ全てのモノマーが消費されていることを確認した。ポリマーのMnは21,900であり、PDIは2.21であった。
【0064】
NaOH18.3部(AAに対し110mol%)及びイオン交換水83.2部をビーカーに入れ、NaOHを完全に溶解させてNaOH水溶液を調製した。反応容器内の温度が60℃以下になってからNaOH水溶液を投入してカルボキシ基を中和し、高分子分散剤溶液AH-1を得た。得られた高分子分散剤溶液AH-1の固形分は23.0%であった。
【0065】
(比較合成例2)
NMP233.3部を反応容器に入れて撹拌し、70℃まで昇温した。また、MMA85.0部、AA15.0部、及びV-65 5.0部をビーカーに入れ、V-65を完全に溶解させてモノマー溶液を調製した。調製したモノマー溶液を滴下ロートに入れ、反応容器内の温度が70℃に達した時点で全量の1/3を投入し、残液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、2.5時間経過してからV-65 1.0部を添加した。70℃で1時間維持した後、80℃に昇温して2時間保持してポリマーを形成した。冷却後に固形分を測定し、ほぼ全てのモノマーが消費されていることを確認した。ポリマーのMnは22,400であり、PDIは2.02であった。
【0066】
NaOH9.2部(AAに対し110mol%)及びイオン交換水92.4部をビーカーに入れ、NaOHを完全に溶解させてNaOH水溶液を調製した。反応容器内の温度が60℃以下になってからNaOH水溶液を投入した。しかし、ポリマーが析出してしまい、水溶液を調製することができなかった。
【0067】
(比較合成例3)
NMP400.0部を反応容器に入れて撹拌し、70℃まで昇温した。また、AN40.0部、AA60.0部、及びV-65 5.0部をビーカーに入れ、V-65を完全に溶解させてモノマー溶液を調製した。調製したモノマー溶液を滴下ロートに入れ、反応容器内の温度が70℃に達した時点で全量の1/3を投入し、残液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、2.5時間経過してからV-65 1.0部を添加した。70℃で1時間維持した後、80℃に昇温して2時間保持してポリマーを形成した。冷却後に固形分を測定し、ほぼ全てのモノマーが消費されていることを確認した。ポリマーのMnは19,300であり、PDIは2.42であった。
【0068】
水酸化カリウム(KOH)46.7部(AAに対し100mol%)及びイオン交換水120.0部をビーカーに入れ、KOHを完全に溶解させてKOH水溶液を調製した。反応容器内の温度が60℃以下になってからKOH水溶液を投入してカルボキシ基を中和し、高分子分散剤溶液AH-2を得た。得られた高分子分散剤溶液AH-2の固形分は15.1%であった。
【0069】
<カーボンナノチューブ(CNT)分散液の調製>
(実施例1)
多層カーボンナノチューブ(商品名「K-nanos100T」、KUMHO社製、平均径:11~13nm、平均長:40~50μm)(100T)1.0部、水94.69部、高分子分散剤溶液AA-1(固形分23.2%)4.31部、及びジルコニアビーズ(直径0.8mmφ)180部を樹脂製の容器に入れた。CNTは湿潤したが容器の底に沈んでおり、上部には透明層があった。スキャンデックスを使用して60分間分散処理したところ、液は均一に黒くなり、CNTの凝集状態が解れた状態となった。次いで、遠心分離処理して十分に分散しなかったCNTを沈降分離し、上澄み液をCNT分散液-1として取り出した。
【0070】
(実施例2~18、比較例1~4)
表3に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、CNT分散液-2~22を調製した。表3中の略号の意味を以下に示す。
・MWCNT:(浜松カーボニクス社製、多層カーボンナノチューブ、平均径:10~40nm、平均長:1,000μm±500μm)
・SG101:(商品名「SG-101」、日本ゼオン社製、単層カーボンナノチューブ、平均径:3~5nm、平均長:100~600μm)
・Tuball:(OCSiAl社製、単層カーボンナノチューブ、平均径:1.6±0.4nm、平均長:5μm)
【0071】
【0072】
<CNT分散液の評価>
E型粘度計(測定条件:25℃、ローター回転速度100rpm)を使用し、分散直後(初期)及び10日間静置後のCNT分散液の25℃における粘度を測定した。そして、初期粘度を基準とする、10日間静置後粘度の変化率(粘度変化率(%))を算出し、以下に示す評価基準にしたがってCNT分散液の粘度安定性を評価した。さらに、10日間静置後のCNT分散液の状態を光学顕微鏡観察(200倍)で観察し、凝集物の有無を確認した。
◎:粘度変化率が5%未満であった。
〇:粘度変化率が5%以上10%未満であった。
×:粘度変化率が10%以上であった。
【0073】
また、遠心分離後のCNT分散液のCNT濃度を測定した。CNT濃度の測定には、分光光度計を使用した。具体的には、CNT濃度既知のサンプルの吸光度を測定して検量線を作成した。そして、吸光度を測定可能な濃度に希釈した試料の吸光度を測定し、検量線から試料のCNT濃度を算出した。設計したCNT濃度に対する、遠心分離後のCNT濃度の割合(%)を「分散安定性(%)」として算出した。分散安定性が100%に近いほど、CNTの分散性が良好であることを意味する。CNT分散液の評価結果を表4に示す。
【0074】
【0075】
<カーボンブラック(CB)分散液の調製>
(実施例19)
カーボンブラック(商品名「Li-435」、デンカ社製、アセチレンブラック)(CB)3.0部、水84.07部、高分子分散剤溶液AA-1(固形分23.2%)12.93部、及びジルコニアビーズ(直径0.8mmφ)180部を樹脂製の容器に入れた。CBは湿潤したが容器の底に沈んでおり、上部には透明層があった。スキャンデックスを使用して60分間分散処理したところ、液は均一に黒くなり、CBの凝集状態が解れた状態となった。次いで、遠心分離処理して十分に分散しなかったCBを沈降分離し、上澄み液をCB分散液-1として取り出した。
【0076】
(実施例20~26、比較例5及び6)
表5に示す配合としたこと以外は、前述の実施例19と同様にして、CB分散液-2~10を調製した。
【0077】
【0078】
<CB分散液の評価>
E型粘度計(測定条件:25℃、ローター回転速度100rpm)を使用し、分散直後(初期)及び10日間静置後のCB分散液の25℃における粘度を測定した。そして、初期粘度を基準とする、10日間静置後粘度の変化率(粘度変化率(%))を算出し、以下に示す評価基準にしたがってCB分散液の粘度安定性を評価した。
◎:粘度変化率が5%未満であった。
〇:粘度変化率が5%以上10%未満であった。
×:粘度変化率が10%以上であった。
【0079】
さらに、10日間静置後のCB分散液の状態を光学顕微鏡観察(200倍)で観察し、凝集物の有無を確認した。CB分散液の評価結果を表6に示す。
【0080】
【0081】
<バインダー入りCNT分散液の調製>
(実施例27~29、比較例7~8)
表7中、「原料として用いたCNT分散液」に示す種類のCNT分散液と、バインダー(スチレン-アクリル樹脂、商品名「YL-1098」、星光PMC社製)とを、形成される塗膜(固形分)中のカーボン材料(CNT)の濃度が3%となる比率で配合した後、マグネチックスターラーを使用して混合し、バインダー入りのCNT分散液B-1~5を得た。
【0082】
<バインダー入りCNT分散液の評価>
E型粘度計(測定条件:25℃、ローター回転速度100rpm)を使用し、分散直後(初期)及び10日間静置後のCNT分散液の25℃における粘度を測定した。そして、初期粘度を基準とする、10日間静置後粘度の変化率(粘度変化率(%))を算出し、以下に示す評価基準にしたがってCNT分散液の粘度安定性を評価した。さらに、10日間静置後のCNT分散液の状態を光学顕微鏡観察(200倍)で観察し、凝集物の有無を確認した。結果を表7に示す。
◎:粘度変化率が5%未満であった。
〇:粘度変化率が5%以上10%未満であった。
×:粘度変化率が10%以上であった。
【0083】
また、カーボン材料を含有しないこと以外は分散液と同一組成のブランク液を用意した。用意したブランク液を用いてベースラインを測定した上で、試料液の吸光度を測定した。試料液の吸光度は、光路長10mmの石英製セルを備えた分光光度計(商品名「日立分光光度計U-3310形」、日立ハイテクサイエンス社製)を使用して測定した。ブランク液による希釈については、希釈倍率の変化による波長580nmにおいての吸光度をプロットした検量線を作成し、前記吸光度が1.8±0.02となるような希釈倍率を算出することで、目的の濃度に希釈した分散液を準備する。また、分散前の段階で目的のカーボン成分濃度に調整することや、初期の配合段階で前記吸光度を満たすカーボン成分濃度に調整して分散を行うことも可能である。具体的な試料液作成方法は、まずポリ瓶(ポリエチレン製ボトル)に分散液を採取するとともに、検量線によって求められた希釈倍率を元に、適当量のブランク液を添加した。ボルテックスミキサー(サイエンティフィックインダストリーズ社製)を使用して30秒間撹拌して、波長580nmの吸光度A580が1.8±0.02である試料液を得た。得られた試料液の波長380nmの吸光度A380及び波長780nmの吸光度A780を測定するとともに、吸光度比(A380/A780)を算出した。
【0084】
<塗膜の評価>
CNT分散液を、厚さ100μmのPETフィルム(商品名「ルミラー」、東レ社製)にバーコーターを用いてそれぞれ塗工した後、90℃の電気オーブン中で30分間乾燥させて揮発成分を除去し、膜厚1μmの塗膜を形成した。形成した塗膜の表面抵抗率の測定結果を表7に示す。表面抵抗率が10Ω/sqを超える場合には、高抵抗の抵抗率計(商品名「ハイレスタ-UP MCP-HT450」、三菱化学アナリテック社製)を使用し、10V印加で5点測定した塗膜の表面抵抗率の平均値を算出した。また、表面抵抗率が10Ω/sq以下の場合は、低抵抗の抵抗率計(商品名「ロレスタ-GP MCP-T610」、三菱化学アナリテック社製を使用し、10V印加で5点測定した塗膜の表面抵抗率の平均値を算出した。
【0085】
【0086】
<応用例>
(応用例1:電池材料(負極))
リチウムイオン電池の負極を製造するにあたり、以下の材料を使用した。
[負極活性剤]
・グラフェン(富士フイルム和光純薬社製)
・一酸化ケイ素(富士フイルム和光純薬社製)
[バインダー]
・10%ポリアクリル酸水溶液(商品名「CLPA-C07」、富士フイルム和光純薬社製)
・カルボキシメチルセルロース(商品名「CMCダイセル2200」、ダイセルミライズ社製)
・スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名「ナルスターSR-112」、日本エイアンドエル社製)
【0087】
一酸化ケイ素15部、グラフェン85部、実施例4で製造した分散液3部、10%ポリアクリル酸水溶液30部、及びカルボキシメチルセルロース21.6部、及びスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス0.4部を、プラネタリーミキサーを使用して混合し、負極材料を得た。なお、混合には、自転・公転ミキサー等の他の混合装置を用いてもよい。乾燥後の目付け量が15mg/cmとなるように、アプリケーターを使用して厚さ20μmの銅箔上に負極材料を塗布した。120℃に設定したオーブン中に30分間入れて乾燥させた後、ロールプレスで圧延して負極を得た。得られた負極の体積抵抗率は0.18Ω・cmであった。
【0088】
(応用例2:電池材料(負極))
実施例13で製造した分散液を用いたこと以外は、前述の応用例1と同様にして負極を製造した。製造した負極の体積抵抗率は0.16Ω・cmであった。
【0089】
(応用例3:電池材料(負極))
比較例2で製造した分散液を用いたこと以外は、前述の応用例1と同様にして負極を製造した。製造した負極の体積抵抗率は0.49Ω・cmであった。以上のことから、分散性評価の良い分散液を用いることで、より体積抵抗率の値が小さい負極を製造できることがわかった。
【0090】
(応用例4:電池材料(負極))
一酸化ケイ素15部、グラフェン85部、実施例13で製造した分散液3部、及び10%ポリアクリル酸水溶液32部を、プラネタリーミキサーを使用して混合し、負極材料を得た。乾燥後の目付け量が15mg/cmとなるように、アプリケーターを使用して厚さ20μmの銅箔上に負極材料を塗布した。120℃に設定したオーブン中に30分間入れて乾燥させた後、ロールプレスで圧延して負極を得た。得られた負極の体積抵抗率は0.15Ω・cmであった。以上のことから、バインダーと分散剤を(メタ)アクリル系樹脂で統一することで、より体積抵抗率の値が小さい負極を製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のカーボン材料分散液は、例えば、高導電性や高伝熱性等の特性を示す水性塗料、水性インキ、プラスチック成形物等の構成材料として有用であるとともに、電池材料、電子部品トレイ、ICチップ用カバー、電磁波シールド、自動車用部材、ロボット用部品等の様々な用途に好適である。
【要約】
【課題】カーボン材料を高濃度に含む場合であっても、カーボン材料の分散性に優れているとともに、長期間にわたって分散性が安定的に維持されるカーボン材料分散液を提供する。
【解決手段】カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種のカーボン材料と、水と、高分子分散剤と、を含有し、高分子分散剤が、少なくとも一部がアルカリで中和されたカルボキシ基を有する、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(1)50~80質量%、及び(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(2)20~50質量%(但し、構成単位(1)と構成単位(2)の合計を100質量%とする)を有するポリマーであり、ポリマーの数平均分子量が、10,000~50,000であるカーボン材料分散液。
【選択図】なし