(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールおよびそれを用いた冷却装置または温度測定装置または熱流センサまたは発電装置
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20230414BHJP
H10N 10/817 20230101ALI20230414BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
H10N10/17 Z
H10N10/817
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2020550218
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034679
(87)【国際公開番号】W WO2020071036
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-03-18
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】志水 大助
(72)【発明者】
【氏名】池内 宏樹
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-036178(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143178(WO,A1)
【文献】特開2017-208478(JP,A)
【文献】特開2016-171230(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056549(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045602(WO,A1)
【文献】特開2006-135142(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102664232(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/817
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の半導体素子と、複数の第2の半導体素子とを配列してなる熱電素子群と、
前記熱電素子群の上側に接合された第1の基板と、
前記熱電素子群の下側に接合された第2の基板と、
前記第1の基板または前記第2の基板の少なくとも一方の基板の一端から外部まで引き出された引き出し部とを備え、
前記引き出し部の長手方向に垂直な方向の幅は、前記第1の基板または前記第2の基板に近い第1の領域の第1の幅が、前記第1の基板または前記第2の基板から前記第1の領域よりも遠い第2の領域の第2の幅よりも大き
く、
前記引き出し部が引き出された前記第1の基板または前記第2の基板は、
絶縁材からなる基材と、
前記基材の前記熱電素子群が形成された側の面に形成された金属配線と、
前記基材の前記熱電素子群が形成された側の面と反対側の面に形成された金属層とからなり、
前記引き出し部は、
前記第1の領域では、前記第2の基板の表面両面に、前記金属配線と前記金属層とが存在し、
前記第2の領域では、前記金属配線のみが存在する
ことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記引き出し部は、前記第1の基板または前記第2の基板から前記第2の幅の領域よりも遠い第3の幅の領域で前記垂直な方向の第3の幅は、前記第2の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記引き出し部の、前記第1の基板または前記第2の基板から前記第2の幅の領域よりも遠い第3の幅の領域には、外部電源と接続するためのコネクタが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記金属層は、前記基材の前記熱電素子群が形成された領域および前記第1の幅の領域で連続し、前記第1の幅の領域に形成された前記金属層の前記垂直な方向の第4の幅は、前記第2の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記第1の基板または前記第2の基板を構成する、絶縁材からなる基材の前記熱電素子群が形成された側の面に形成された金属配線と前記第1の半導体素子または前記第2の半導体素子との間には、Sn、CuおよびNiからなる半田が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記第1の基板または前記第2の基板を構成する、絶縁材からなる基材の前記熱電素子群が形成された側の面に形成された金属配線が形成された前記第1の基板または前記第2の基板の表面には、前記金属配線の表面の一部を露出させるように絶縁層が形成され、前記絶縁層の、前記露出された部分の周囲の一部では前記絶縁層が形成されていないことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記第1の基板の前記熱電素子群が形成された側および前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された側には、各々温度を感知するサーミスタが設置されていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記第1の基板および前記第2の基板は、各々絶縁樹脂からなる基材と、前記基材の両面に金属配線または金属層が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項9】
請求項1~8に記載されたいずれかの熱電変換モジュールを備え、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする冷却装置。
【請求項10】
請求項1~8に記載されたいずれかの熱電変換モジュールを備え、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする温度測定装置。
【請求項11】
請求項1~8に記載されたいずれかの熱電変換モジュールを備え、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする熱流センサ。
【請求項12】
請求項1~8に記載されたいずれかの熱電変換モジュールを備え、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルチェ効果を利用し、P型熱電素子とN型熱電素子からなる直列回路に直流電流を流すことで吸熱、放熱が得られる熱電変換モジュールおよびそれを用いた冷却装置または温度測定装置または熱流センサまたは発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、ペルチェ冷却技術および熱電発電技術が知られている。ペルチェ冷却技術では、ペルチェ効果による電気エネルギーから熱エネルギーへの変換を利用した技術であり、この技術を用いてペルチェ式冷蔵庫、コンピューター等に用いられるCPU等の半導体デバイス冷却、さらに光通信の半導体レーザー発振器の温度制御などに用いられている。一方、熱発電技術はゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用した技術であり、この技術を用いて排熱エネルギーを回収利用したエネルギーハーベスト分野への利用が期待されている。
【0003】
このような熱電変換を利用した熱電変換装置として、P型熱電素子とN型熱電素子が直列回路として交互に接続するため、素子を上下方向から2枚の基板で挟み込み、熱電素子形状と直列回路に合わせた電極パターンを有したAl2O3やAlNからなるセラミック基板が知られている。この種の装置を使用するにあたっては、熱電素子へ電源供給するためのリード線等を電極形成された回路基板上に半田接合するため、半田接続工数の追加が必要となり、その代替構造として配線部を電極形成された樹脂フィルムからなるフレキシブル基板で構成されたモジュール技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-208741号公報
【文献】特開2007-36178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この種の装置を使用するにあたっては筐体に組み込んで使用する場合、電源供給装置との配線を曲げて使用する場合が多くあるため、従来のリード線で配線を行う場合、基板電極とリード線の接合強度を確保する必要があった。また、電源供給装置との配線部にフレキシブル基板を用いた場合、フレキシブル基板部分は柔軟性が要求されるので可能な限り薄く、細く仕上げることが望まれるが、配線部を曲げた際、熱電素子領域に負荷がかかり、熱電変換モジュールとして十分な信頼性が確保できない課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記内容を鑑み、熱電素子への安定した電源供給を確保するとともに、熱電変換モジュールの信頼性を高めることが可能な熱電変換モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、第1の態様の技術的手段を採用する。すなわち、第1の態様では、複数の第1の半導体素子と、複数の第2の半導体素子とを配列してなる熱電素子群と、前記熱電変換素子群の上側に接合された第1の基板と、前記熱電変換素子群の下側に接合された第2の基板と、前記第1の基板または前記第2の基板の少なくとも一方の基板の一端から外部まで引き出された引き出し部とを備え、前記引き出し部の長手方向に垂直な方向の幅は、前記第1の基板または前記第2の基板に近い第1の領域の第1の幅が、前記第1の基板または前記第2の基板から前記第1の領域よりも遠い第2の領域の第2の幅よりも大きいことを特徴としている。
【0008】
この態様によれば、本態様では面状の引き出し部を設けて、従来のような個別に引き出し配線を接続する工数を低減することが可能になる他に、各配線パターンを一括して束ねる構成であり、配線に必要なパターン幅に絞ることにより第一くびれを形成させて、引き出し部の柔軟性を持たせることが可能となる。熱電素子群より離れた位置での第一くびれの形成により曲げ起点を熱電素子群が配列されたエリアから一定距離を離すことにより信頼性を向上させることが可能となる。
【0009】
第2の態様では、第1の態様の構造に加えて、引き出し部は、前記第1の基板または前記第2の基板から前記第2の幅の領域よりも遠い第3の幅の領域で前記垂直な方向の第3の幅は、前記第2の幅よりも大きいことを特徴としている。
【0010】
この態様によれば、引き出し部に形成される引き出し配線の表面がレジストで被覆され、引き出し配線の劣化や損傷を防止し、信頼性を向上させることが可能となる。
【0011】
第3の態様では、第1の態様の構造に加えて、引き出し部の前記第3の領域には、外部電源と接続するためのコネクタが設けられていることを特徴としている。
【0012】
この態様によれば、引き出し部に形成される引き出し配線は、熱電素子群に対し外部より電源供給をするための電源供給配線パターンを有し、従来の個別のリード線と比較して接続の信頼性が高いため、外部からの電源供給を安定的に行うことが可能となる。
【0013】
第4の態様では、第1の態様の構造に加えて、前記引き出し部が引き出された前記第1の基板または前記第2の基板は、絶縁材からなる基材と、前記基材の前記熱電素子群が形成された側の面に形成された金属配線と、前記基材の前記熱電素子群が形成された側の面と反対側の面に形成された金属層とからなり、前記金属層は、前記基材の前記熱電素子群が形成された領域および前記第1の幅の領域で連続し、前記第1の幅の領域に形成された前記金属層の前記垂直方向の第4の幅は、前記第2の幅よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
この態様によれば、熱電素子群と反対側の金属層を熱電素子群の領域より引き出し部の長手方向に延長されており、第一くびれ部まで下側基板の表裏両面に金属配線・金属層が存在し、その先は片側のみの金属配線が存在することになり、その境界にて剛性差が生じ、曲げ起点として機能する。
【0015】
第5の態様では、第1の態様の構造に加えて、前記金属配線と前記第1の半導体素子または前記第2の半導体素子との間には、Sn、CuおよびNiからなる半田が形成されていることを特徴とする。
【0016】
この態様によれば、柔らかく伸縮性に優れた材料であるため、基板からの熱電素子への応力負荷を半田接合部で吸収できるため、高信頼性を実現することができる。
【0017】
第6の態様では、前記金属配線が形成された前記第1の基板または前記第2の基板の表面には、前記金属配線の表面の一部を露出させるように絶縁層が形成され、前記絶縁層の、前記露出された部分の周囲の一部では前記絶縁層が形成されていないことを特徴とする。
【0018】
この態様によれば、半田層周囲のレジストに対して素子間距離が広い方向に対して半田逃げ用のパターン逃がしを形成することにより、ショート不良が低減することが可能となる。
【0019】
第7の態様では、前記第1の基板の前記熱電素子群が形成された側および前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された側には、各々温度を感知するサーミスタが設置されていることを特徴とする。
【0020】
この態様によれば、サーミスタの搭載位置は、上側基板、下側基板の両方に設けられており、吸熱側、放熱側の温度を精度よく検出し、熱電変換モジュールの通電制御などに利用することで可能となる。
【0021】
第8の態様では、前記第1の基板および前記第2の基板は、各々絶縁樹脂からなる基材と、前記基材の両面に形成された金属配線または金属層が形成されていることを特徴とする。
【0022】
この態様によれば、上側基板の金属層から基材、金属配線、熱電素子群、下側基板の金属配線、基材、金属層の熱移動を面内で均一に行うことが可能となる。
【0023】
第9の態様では、第1~第8の態様のいずれかの熱電変換モジュールを備えた冷却装置であって、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする。
【0024】
第10の態様では、第1~第8の態様のいずれかの熱電変換モジュールを備えた温度測定装置であって、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする。
【0025】
第11の態様では、第1から第8の態様のいずれかの熱電変換モジュールを備えた熱流センサであって、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする。
【0026】
第12の態様では、第1~第8の態様のいずれかの熱電変換モジュールを備えた発電装置であって、前記引き出し部が、前記第2の基板の前記熱電素子群が形成された領域の面に対して曲がっていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第一実施形態における熱電変換モジュールの全体構成を示す、熱電変換モジュールの上面視模式図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第一実施形態における熱電変換モジュールの全体構成を示す、熱電変換モジュールの断面模式図である。
【
図2A】
図2Aは、従来の熱電変換モジュールの全体構成を示す、熱電変換モジュールの上面視模式図である。
【
図2B】
図2Bは、従来の熱電変換モジュールの全体構成を示す、熱電変換モジュールの断面模式図である。
【
図4】
図4は、温度サイクル試験結果(圧延銅箔/電解銅箔比較)である。
【
図5】
図5は、温度サイクル試験結果(半田比較)である。
【
図6】
図6は、筐体取り付け例(90度曲げ)である。
【
図7】
図7は、筐体取り付け例(同一平面内)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の第1実施形態における熱電変換モジュールを、
図1A、
図1Bに基づいて説明する。
【0029】
図1A、
図1Bは熱電変換モジュールの全体構成を示し、そのうち
図1Aは熱電変換モジュールの上面視模式図、
図1Bは断面模式図である。
【0030】
本実施形態の熱電変換モジュールは、熱電素子群(3)、上側基板(4)および下側基板(5)から主に形成されている。具体的には、熱電素子群(3)は上側基板(4)と下側基板(5)に挟み込まれた構造となり、それぞれの基板上に形成された金属配線(12)と半田(14)により接合され、P型熱電素子(1)とN型熱電素子(2)とを交互に複数個並べた構造である。
【0031】
なお、これらの熱電素子群(3)の個数や列数は、熱電変換モジュールへの要求特性などにより任意に選択可能な数である。
【0032】
P型熱電素子(1)は、ビスマス・テルル(Bi-Te)系化合物からなるP型半導体により構成され、N型熱電素子(2)は、同じくビスマス・テルル系化合物からなるN型半導体により構成された半導体部品である。
【0033】
もちろん、熱電素子としては、ビスマス・テルル系化合物以外にも、鉄・シリコン系化合物半導体やコバルト・アンチモン系化合物半導体などの他の熱電半導体素子を用いることもできる。
【0034】
基板(4)(5)は、絶縁性の基材(11)、この絶縁基材(11)上の熱電素子群(3)側に形成された金属配線(12)と反対側に形成された金属層(13)、さらに熱電素子群(3)側の面には半田接合箇所外に絶縁性のレジスト(15)がオーバーコートされた構成となっている。
【0035】
基材(11)は、可撓性を有し熱的かつ電気的に絶縁性の樹脂フィルム、例えば、厚さが薄くても耐熱性や強度に優れた樹脂として、ポリイミドまたはアラミド系の樹脂が選択される。尚、基材の厚みとしては5μm以上50μm未満、更には10μm以上30μm以下が望ましい。5μm未満の場合、基材が破断しやすく強度面で問題がある。一方、50μmを超える場合、基板の熱伝導性が低下し、熱電変換モジュールの性能が低下する。本実施形態においては、25μmのポリイミド樹脂を選択した。
【0036】
金属配線(12)には、銅などの導電性金属層をエッチング技術により電極パターン形状にパターニングされ熱電素子群(3)を電気接続する電極(23)が形成されている。熱電素子群(3)を直列接続する電極回路が構成され、下側基板(5)においては、更に電源を供給する電源供給配線パターン(20)と、外部と温度センサ素子(例えば、サーミスタ)(16)との間で信号入出力を行うセンサ信号配線パターン(24)とが引き出し部(6)に形成されている。この温度センサ素子(16)は、チップ素子であり、センサ信号パターン部(24)に半田接合される。この温度センサ素子(16)の搭載位置は、上側基板(4)、下側基板(5)の両方に設けられており、吸熱側、放熱側の温度を精度よく検出し、熱電変換モジュールの通電制御などに利用する。
【0037】
電極部(23)は各熱電素子を直列接続する電極回路部を構成し、更に電源を供給する電源供給配線パターン(20)に接続され、その一方が直流電源の正端子に接続され、他方が直流電源の負側端子に接続される。
【0038】
電源供給配線パターン(20)は引き出し部(6)に形成されており、センサ信号配線パターンも同一平面内に隣接している。引き出し部(6)は引き出し第一領域(6a)、引き出し第二領域(6b)、コネクタ部(6c)で構成される。信頼性向上の観点から熱電素子群(3)より離れた位置に曲げ起点を設けるため、引き出し第一領域を形成している。引き出し第一領域では熱電素子群(3)と反対側の金属層(13)が引き出し部(6)の長手方向に延長されている。つまり第一くびれ部(18)まで下側基板(5)の表裏両面に金属配線(12)、金属層(13)が存在し、その先の第二領域は片側のみの金属配線(12)が存在することになり、その境界にて剛性差が生じ、曲げ起点として機能する。
【0039】
したがって、引き出し部の曲げ起点が、下側基板から引き出し領域(突出部)の長さだけ下側基板の熱電素子の形成領域から離れるため、曲げによる応力が熱電素子と下側基板との接合部に与える影響が小さく、接合部の破断等の不具合を抑制できる。
【0040】
尚、引き出し第一領域の幅(7)は、引き出し第二領域の幅(8)つまり第一くびれ以上で、熱電素子群(3)の配列エリアつまり熱電変換モジュールの幅未満が好ましい。引き出し第二領域(6b)の幅未満の場合、曲げ起点の効果が小さくなり信頼性が問題となる。熱電変換モジュールの幅以上の場合、熱電変換モジュールサイズの規格を超えることになる。また引き出し第一領域(6a)の長手方向の突出幅(26)は熱電素子サイズ(熱電素子の直径または一辺の長さ)の半分以上、引き出し第一領域の幅(7)未満が好ましい。熱電素子サイズ(熱電素子の直径または一辺の長さ)の半分未満の場合、曲げ起点の近傍の熱電素子と基板の電極部に曲げ負荷が集中し、信頼性が問題となる。引き出し第一領域の幅(7)以上の場合、長手方向に引き出し部中の引き出し第一領域(6a)の割合が増えるため、引き出し部(6b)の柔軟性が損なわれる。本実施の形態においては引き出し第一領域の幅(7)を8mmとし、長手方向の突出幅(26)を1mmとした。
【0041】
引き出し第二領域(6b)は、熱電変換モジュールの使用条件の一つである使用電流規格に適合させた電源供給配線パターン(20)の配線幅まで狭め、熱電素子群(3)と反対側に金属層(13)が形成されないことで剛性を低下させ柔軟性を確保している。尚、引き出し第二領域の幅(8)は1mm以上、引き出し第一領域幅(7)以下が好ましい。引き出し第二領域の幅(8)が1mm未満の場合、熱電変換モジュールの投入電流許容値が0.5A以下の小電流しか投入できない。引き出し第一領域の幅(7)以上の場合、配線部の柔軟性が低下する。本実施の形態においては、最大投入電流の3Aから電源供給配線パターン幅(20)を2mmで設計し、センサ信号パターン(24)も合わせて引き出し第ニ領域の幅(8)を5.5mmにして柔軟性を確保している。
【0042】
更に長手方向延長部の先端部は、電源供給パターン部(20)とセンサ信号配線パターン部(24)がコネクタ(10)とマッチングを考慮された幅および補強板(25)によりコネクタ(10)に差し込み時の剛性が確保されるよう設計されている。
【0043】
金属配線(12)と金属層部(13)の導電性金属材料は、本実施形態では銅であるが、柱状結晶性の電解銅箔材でなく、当方結晶性の圧延銅箔材を選択している。圧延銅箔にすることにより、従来、熱電素子は劈開性を持ったビスマス・テルル系の材料で構成されているため熱履歴による上側基板(4)、下側基板(5)の伸縮により半田接合を介して熱電素子群(3)への熱応力負荷で信頼性に課題があったが、圧延銅箔は電解銅箔と比較して、柔らかく伸縮性に優れた材料であるため、基板(4)(5)からの熱電素子群(3)への応力負荷を低減できるため、電解銅箔材よりも高信頼性を実現することができる。本実施形態において、温度サイクル試験に対し圧延/電解銅箔材での比較実験を行い、その効果を確認した(
図4参照)。100サイクル後の熱電変換モジュールの抵抗値上昇について両面圧延銅箔基板が1.5%に対し、両面電解銅箔基板が6.7%と劣化する結果となり、圧延銅箔基板の優位性が示された。
【0044】
半田(14)は、本実施形態においては、Sn-0.7Cu-0.05Ni-Geを用いた。従来、熱電素子は劈開性を持ったビスマス・テルル系の材料で構成されているため熱履歴による上側基板(4)、下側基板(5)の伸縮により半田接合を介して熱電素子群(3)への熱応力負荷で信頼性に課題があったが、Sn-Cu-Ni系の半田は一般的に使用されているSn-Ag-Cu系の半田と比較して、柔らかく伸縮性に優れた材料であるため、基板(4)(5)からの熱電素子群(3)への応力負荷を半田接合部で吸収できるため、高信頼性を実現することができる。本実施形態において、温度サイクル試験に対し半田比較実験を行い、その効果を確認した(
図5参照)。熱電変換モジュールの抵抗値上昇について一般的に使用されるSn-3Ag-0.5Cu半田が61サイクル目で5.5%上昇に対して、Sn-Cu-Ni半田は500サイクルでも3.0%と抵抗値上昇が抑制される結果となり、Sn-Cu-Ni半田の優位性が示された。半田レジスト(絶縁層)(15)については、基板(4)(5)をオーバーコートすることで隣接配列した熱電素子同士の半田ブリッジによるショート不良や半田溶融時の熱電素子ズレを予防することができる。本例においては、
図3にあるように特に狭ピッチで熱電素子群(3)を配列する際に課題であった半田ブリッジによるショート不良防止策として、半田層周囲のレジスト(15a)に対して素子間距離が広い方向に対して半田逃げ用のパターン逃がし(15c)を形成することにより、ショート不良が低減することが可能となる。本実施形態においては熱電素子間距離が85μmで格子上に配列しているため、素子間距離の広がる対角方向(素子間距離:534μm)にレジスト抜き(15b)面積の1割分サイズのパターン逃がし(15c)を設けた。その結果、パターン逃がし有り無しでショート不良発生が熱電モジュール組立において8個組立のうち2個ショート発生していたが、パターン逃がし有で0個に減少させることができた。なお、本例では便宜的に熱電素子群(3)に対して上側基板(4)を吸熱側、下側基板(5)を放熱側としているが、熱電素子の直列回路に与える直流電源の極性を逆にすれば、放熱と吸熱の関係が入れ替えることは可能であり、
図1A、
図1Bに示す設定関係に限定されるものではない。
【0045】
次に、本実施形態の熱電変換モジュールを備えた冷却装置、温度測定装置等について説明する。
【0046】
本実施形態の熱電変換モジュールは、各種の冷却装置、温度測定装置および熱流センサ等に搭載され、電子部品や人体を冷却したり、温度や熱流を測定する様々な用途で用いられる。また、室温等の基準温度から冷却することに加え、加熱も行って精密に温度を制御する温度調整装置や、熱を電気に変換する発電装置に搭載されることもある。
【0047】
本実施形態の熱電変換装置は、その引き出し部が曲げられない状態で冷却装置や温度測定装置、熱流センサ等に搭載されてもよいし、次のように引き出し部が曲げられて搭載されてもよい。
【0048】
本実施形態の熱電変換モジュールは、下側基板の引き出し部が可撓性を有しているため、
図6に示すように、下側基板を上側基板の側または上側基板の側とは反対側に折り曲げることができる。折り曲げ角度は、下側基板が上側基板の側に曲げる場合は、折り曲がる下側基板が上側基板に干渉しない程度の角度になる。このような少なくとも下側基板およびその引き出し部の可撓性から、例えば熱流センサまたは温度測定装置の熱流または温度を測定するセンシング部または温度測定部が、空洞の長細い円筒状の場合、下側基板を80~100度、好ましくは90度程度折り曲げることによって、センシング部または温度測定部の長手方向の引き出し部が下側基板の長手方向と一致するように熱電変換モジュールを温度測定部に収納することが可能となる。
【0049】
また、
図7に示すように、引き出し部の曲げ角度は90度に満たなくともよい。
図7に示すように、下基板の下側の金属層の下面とコネクタの下面とが同じ面に搭載される場合には、コネクタの下面と基材との距離が、下基板の下側の金属層の厚みよりも大きいために、下側基板の引き出し部が、下側基板の熱電素子群が形成された領域の面に対して上側基板の側に折れ曲がっている。
【0050】
なお、熱流センサは、センサの表面に加えられた総熱量に比例する電気信号を生成する変換器のことである。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体素子(第1)/P型熱電素子
2 半導体素子(第2)/N型熱電素子
3 熱電素子群
4 基板(第1)/上側基板/吸熱面基板
5 基板(第2)/下側基板/放熱面基板
6 引き出し部
6a 引き出し第一領域
6b 引き出し第二領域
6c 引き出し第三領域、コネクタ部
7 引き出し第一領域の幅
8 引き出し第二領域の幅
9 引き出し第三領域の幅
10 コネクタ
11 基材
12 金属配線
13 金属層
14 半田
15 レジスト/絶縁層
15a 半田層周囲のレジスト
15b レジスト抜き
15c レジスト逃がし
16 サーミスタ
17 引き出し配線
18 第一くびれ
19 第二くびれ
20 電源供給配線パターン
21 リード線
22 第4領域の幅
23 電極
24 センサ信号配線パターン
25 補強板
26 突出幅