(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】合成皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20230414BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230414BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20230414BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20230414BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230414BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
D06N3/00
D06M15/564
D06M15/643
D06M15/263
B32B27/12
D04B21/00 Z
(21)【出願番号】P 2018208743
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢尾 優丞
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314919(JP,A)
【文献】国際公開第2015/059924(WO,A1)
【文献】特開2015-214773(JP,A)
【文献】特開2010-180363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G18/00-18/87
71/00-71/04
D04B 1/00-1/28
21/00-21/20
D06M13/00-15/715
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の一方の主面に配置された表皮層と、
前記表皮層を覆うように配置された防汚層と、を備える合成皮革であって、
前記防汚層は、ベース樹脂を含み、
前記ベース樹脂は、
アクリル系ポリウレタン樹脂と、ヒドロキシ基およびフェノール基性水酸基を有する変性シリコーン由来のユニットと、
アクリル樹脂と、を有し、
前記防汚層において、前記
変性シリコーン由来のケイ素原子に対するフッ素原子の割合:フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01以下であり、
前記合成皮革を、JASO M 403/88に準じて、荷重19.6N、摩擦距離140mm、60回/分のサイクルで10000回往復摩擦して摩耗させた第1の合成皮革と、
前記第1の合成皮革をISO12947-1に準拠したマーチンデイル試験機に固定し、水分率65±2質量%に調整され、かつ、前記合成皮革との色差ΔE
*が50以上であるデニム片を取り付けた摩擦子を用いて、荷重12kPaで500回摩擦することにより汚染された第2の合成皮革との、
分光測色計により測色された第1の色差ΔE1
*は、5以下である、合成皮革。
【請求項2】
前記第1の合成皮革と、
前記第2の合成皮革をJIS L0849に準拠したクロックメーター試験機に固定し、水分を含む綿布を取り付けた摩擦子を用いて、荷重9N、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで10回摩擦することにより、汚れの少なくとも一部が除去された第3の合成皮革との、分光測色計により測色された第2の色差ΔE2
*は、3以下である、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
黒原着ポリエステル糸により編成されたトリコット編地と、
前記合成皮革をJIS L0849に準拠したクロックメーター試験機に固定し、前記トリコット編地を取り付けた摩擦子を用いて、荷重9N、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで50回往復摩擦することにより得られた摩擦されたトリコット編地との、
分光測色計により測色された第3の色差ΔE3
*は、1.5以下である、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項4】
基材および表皮層用樹脂組成物を準備する第1準備工程と、
防汚層用樹脂組成物を準備する第2準備工程と、
前記基材の一方の主面に、前記表皮層用樹脂組成物を含む表皮層を形成する表皮層形成工程と、
前記表皮層を覆うように、前記防汚層用樹脂組成物を含む防汚層を形成する防汚層形成工程と、を備え、
前記防汚層用樹脂組成物は、
アクリル系ポリウレタン樹脂を含む原料樹脂と、
アクリル樹脂と、ケイ素含有化合物と、前記原料樹脂と前記ケイ素含有化合物とを結合させる架橋剤と、を含
み、
前記ケイ素含有化合物は、ヒドロキシ基およびフェノール基性水酸基を有する変性シリコーンである、合成皮革の製造方法。
【請求項5】
前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物である、請求項4に記載の合成皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革およびその製造方法に関し、特に防汚性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、基材に樹脂層が積層された合成皮革が用いられている。合成皮革は、通常、容易に洗浄ができないため、長期間の使用による汚れが問題となる。
そこで、合成皮革の防汚性を向上させるために、フッ素樹脂をコーティングする方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素樹脂を含有するコーティング層は硬くなり易く、風合いが低下しやすい。また、フッ素樹脂を用いると、防汚性は長期間の使用により低下し易い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基材と、前記基材の一方の主面に配置された表皮層と、前記表皮層を覆うように配置された防汚層と、を備える合成皮革であって、前記防汚層は、ベース樹脂を含み、前記ベース樹脂は、ケイ素原子と、ウレタン結合を有する化合物由来のユニットと、を有し、前記防汚層において、前記ケイ素原子に対するフッ素原子の割合:フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01以下であり、
前記合成皮革を、JASO M 403に準じて、荷重19.6N、摩擦距離140mm、60回/分のサイクルで10000回往復摩擦して摩耗させた第1の合成皮革と、
前記第1の合成皮革をISO12947-1に準拠したマーチンデイル試験機に固定し、水分率65±2質量%に調整され、かつ、前記合成皮革との色差ΔE*が50以上であるデニム片を取り付けた摩擦子を用いて、荷重12kPaで500回摩擦することにより汚染された第2の合成皮革との、
分光測色計により測色された第1の色差ΔE1*は、5以下である、合成皮革に関する。
【0006】
また、本発明は、基材および表皮層用樹脂組成物を準備する第1準備工程と、防汚層用樹脂組成物を準備する第2準備工程と、前記基材の一方の主面に、前記表皮層用樹脂組成物を含む表皮層を形成する表皮層形成工程と、前記表皮層を覆うように、前記防汚層用樹脂組成物を含む防汚層を形成する防汚層形成工程と、を備え、前記防汚層用樹脂組成物は、ウレタン結合を有する化合物を含む原料樹脂と、ケイ素含有化合物と、前記原料樹脂と前記ケイ素含有化合物とを結合させる架橋剤と、を含む、合成皮革の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、風合いがよく、長期間にわたって防汚性が維持される合成皮革が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】リサジューパターンの一例を示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る合成皮革の一部を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る合成皮革の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る合成皮革は、基材と、基材の一方の主面に配置された表皮層と、表皮層を覆うように配置された防汚層と、を備える。防汚層は、ベース樹脂を含み、ベース樹脂は、ケイ素原子と、ウレタン結合を有する化合物由来のユニットとを有する。
【0010】
ケイ素原子は、例えばケイ素含有化合物に由来する。
防汚層は、フッ素原子を含んでもよいが、ケイ素原子に対するフッ素原子の割合:フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01以下である。すなわち、防汚層において、フッ素原子の含有量は、ケイ素原子に対して十分に少ない。フッ素原子は、例えばフッ素樹脂に由来する。従来、合成皮革の防汚性は、主にフッ素樹脂が有する撥水および撥油性能を利用することにより実現されている。一方、本実施形態では、フッ素樹脂に替えて、主にケイ素含有化合物の特性を利用し、防汚性能を発現させている。ケイ素含有化合物は、防汚層の表面エネルギーを低下させて、汚れの付着を抑制する。さらに、防汚層に汚れが付着した場合にも、ケイ素含有化合物によれば、汚れは除去され易い。加えて、フッ素樹脂の含有量が少ないため、合成皮革の風合いはより損なわれ難い。
【0011】
フッ素樹脂等の樹脂により形成される層に含まれるケイ素含有化合物は、本来、ブリードアウトし易く、長期間の使用により防汚性は低下し易い。しかし、本実施形態の合成皮革の防汚性は長期間にわたって維持される。つまり、下記の摩耗試験を行った後であっても、合成皮革の防汚性は維持される。ここで、防汚性とは、汚れの付着し難さ(汚れ付着性)および汚れの除去され易さ(汚れ除去性)をいう。ブリードアウトとは、ある物質が層の表面から浮き出たり、浸み出したりする現象をいう。
【0012】
(摩耗試験)
摩耗試験は、合成皮革を、公益社団法人 自動車技術会(Society of Automotive Engineers of Japan Inc.)によって定められたJASO M 403/88/シート表皮用布材料の平面摩耗試験機(B法)に準じて、荷重19.6N、摩擦距離140mm、60回/分のサイクルで10000回往復摩擦することにより行われる。
【0013】
摩耗試験は、具体的には以下のようにして行われる。
直径150mmの円形の合成皮革を、同サイズにカットした厚み10mmのウレタンフォームに重ねてT-Type平面摩耗試験機(例えば、株式会社大栄科学精器製作所製)に、両面テープを用いて取り付ける。このとき、ウレタンフォームを、合成皮革と試験機との間に位置させる。試験機の摩擦子に綿布(6号綿帆布)をかぶせて、付属の冶具で固定する。上記摩擦子に荷重19.6Nをかけながら、合成皮革を、摩擦距離140mm、60回/分サイクルで10000回往復摩擦する。ウレタンフォームには、JASO M 403/88/シート表皮用布材料の平面摩耗試験機(B法)に規定されるように、厚さ10±1mm、20%圧縮応力が0.79~1.08N/cm2(0.08~0.11kgf/cm2)のものを用いる。ウレタンフォームの密度は、0.02±0.002g/cm2であってよい。
このようにして摩耗された合成皮革を、第1の合成皮革とする。
【0014】
(汚れ付着試験)
第1の合成皮革(直径150mmの円形)を、ISO12947-1に準拠したマーチンデイル試験機に固定し、水分率65±2質量%に調整され、かつ、合成皮革との色差ΔE*が50以上であるデニム片を取り付けた摩擦子を用いて、荷重12kPaで500回摩擦する。これにより、デニムに含まれる染料によって汚染された第2の合成皮革を得る。
【0015】
汚れ付着試験は、具体的には以下のようにして行われる。
直径40mmにカットしたデニム片(2550Y、Testfabrics社製)2枚を、蒸留水を入れたビーカーの底に沈め、30秒間浸漬する。ビーカーから取り出したデニム片の水滴を、パルパーにて軽く拭き取り、2枚のデニム片の水分率がいずれも65±2質量%となるよう調整する。
【0016】
次いで、第1の合成皮革を、ISO12947-1に準拠したマーチンデイル試験機(例えば、株式会社グロッツ・ベッケルト ジャパン製)の試験台に付属の冶具で固定する。上記デニム片の1枚を、厚み3mm、直径38mmのウレタンフォームシートを介して摩擦子に取り付ける。この摩擦子に荷重12kPaをかけて、
図1に示すリサジューパターン(Lissajous pattern)で、250回摩擦する。摩擦子に取り付けられたデニム片をもう1枚のデニム片に取り替えて、同じパターンでさらに250回摩擦する。その後、マーチンデイル試験機から第1の合成皮革を取り外し、20℃、65%RHの環境下で1時間静置して乾燥させて、第2の合成皮革を得る。
【0017】
本実施形態の合成皮革は、第1の合成皮革と第2の合成皮革との色差、つまり、汚れ付着試験前後における第1の色差ΔE1*が5以下である。すなわち、合成皮革に対して、防汚層が剥離されるような条件で摩耗試験を行った後でも、汚れの付着は抑制される。第1の色差ΔE1*は4.5以下であってよい。
【0018】
リサジューパターンは、互いに直角方向に振動する二つの単振動を合成して得られる平面図形である。具体的には、横軸をAcos(nt)、縦軸をBcos(mt+δ)として、入力振幅比(A/B)、周波数比(n:m)および位相差(δ)を任意に変化させて得られるパターンである。
図1に示すリサジューパターンは、A/B=1、n:m=5:6、δ=90°としたときに得られる。
図1では、便宜的に、第1の合成皮革の外縁も示している。なお、摩擦する際のパターンはこれに限定されない。
【0019】
(汚れ除去試験)
汚れ付着試験により得られた第2の合成皮革を、JIS L0849に準拠したクロックメーター試験機に固定し、水分を含む綿布を取り付けた摩擦子を用いて、荷重9N、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで10回摩擦することにより、汚れの少なくとも一部が除去された第3の合成皮革を得る。
【0020】
汚れ除去試験は、具体的には以下のようにして行われる。
50mm四方にカットした綿布(例えば、JIS L0803準拠 かなきん3号)2枚に、蒸留水を1mL滴下し、10秒放置する。第2の合成皮革を、JIS L0849に準拠したクロックメーター試験機(例えば、670 HD CROCKMASTER、James Heal社製)に両面テープを用いて取り付ける。摩擦子に上記の綿布1枚を取り付ける。この摩擦子に荷重9Nをかけて、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで5回摩擦する。摩擦子に取り付けられた綿布をもう一枚の綿布に取り替えて、さらに5回摩擦して、第3の合成皮革を得る。
【0021】
本実施形態の合成皮革は、第1の合成皮革と第3の合成皮革との色差、つまり、汚れ付着試験前の合成皮革と汚れ除去試験後における第2の色差ΔE2*が3以下であってもよい。すなわち、合成皮革に対して防汚層が剥離されるような条件で摩耗試験を行った後でも、汚れは除去され易い。第2の色差ΔE2*は2.7以下であってよい。
【0022】
合成皮革の色は特に限定されない。本実施形態にかかる防汚層は汚れが付着し難いため、色の薄い合成皮革であっても、長期間にわたって初期の色味を維持することができる。合成皮革のL*値は、60以上であってよく、70以上であってよく、80以上であってよい。また、合成皮革のL*値は、99以下であってよく、96以下であってよい。L*値は、色の明るさ(明度)を表しており、0以上、100以下の値を取り得る。L*値が大きいほど、色が明るいことを示す。
【0023】
(測色法)
合成皮革のL*値および各色差(ΔE*)は、以下のようにして計測される。
分光測色計(例えば、Color I 5DV、X-Rite社製、光源:C光源)を用いて、合成皮革、第1の合成皮革、第2の合成皮革、第3の合成皮革について、それぞれ4カ所を測色し、各平均値を求める。この平均値を、各合成皮革のL*値、a*値、b*値とする。平均値は、小数点第3位を四捨五入し、小数点第2位で表記する。
【0024】
それぞれの色差(ΔE*)は、第1の合成皮革、第2の合成皮革、第3の合成皮革についての上記平均値から算出される。具体的には、色差(ΔE*)は、Lab表色系におけるL*値、a*値、b*値の各値から下記式により求められる。ただし、(L1*、a1*、b1*)および(L2*、a2*、b2*)は比較対象の皮革の一方および他方の測定値である。
【0025】
ΔE*=√((L2*-L1*)2+(a2*-a1*)2+(b2*-b1*)2)
【0026】
このように防汚性が維持されるのは、上記の通り、フッ素樹脂を含有するコーティング層に比べると、ケイ素含有化合物が防汚層からブリードアウトし難いためであると考えられる。そのため、本実施形態の合成皮革は、以下のような特徴を備えてもよい。
【0027】
(ブリードアウト促進試験)
合成皮革をJIS L0849に準拠したクロックメーター試験機に固定し、黒原着ポリエステル糸により編成されたトリコット編地を取り付けた摩擦子を用いて、荷重9N、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで50回往復摩擦する。
【0028】
上記試験では、摩擦により、防汚層を構成する材料のブリードアウトを促進させている。摩擦前後のトリコット編地の色差が小さいほど、防汚層を構成する材料がブリードアウトし難いことを示す。防汚層を構成する材料のうち、ブリードアウトし易いのはケイ素含有化合物である。つまり、摩擦前後のトリコット編地の色差が小さいほど、ケイ素含有化合物のブリードアウトが抑制されているといえる。本実施形態の合成皮革を用いる場合、摩擦前後のトリコット編地の色差(第3の色差ΔE3*)は、例えば、1.5以下である。第3の色差ΔE3*は1以下であってよい。
【0029】
上記のブリードアウト促進試験は、具体的には以下のようにして行われる。
幅50mm、長さ130mmの合成皮革を、クロックメーター試験機(例えば、670 HD CROCKMASTER、James Heal社製)に両面テープを用いて取り付ける。摩耗子に50mm四方の黒原着ポリエステル糸により編成されたトリコット編地をかぶせ、付属の冶具で固定する。この摩擦子に荷重9Nをかけて、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで50回往復摩擦する。
【0030】
上記トリコット編地は、例えば、28ゲージのトリコット編機を用いて、筬L1、L2およびL3からいずれも同じ黒原着ポリエステル糸(例えば、WY-Z、山越株式会社製、84dtex/36f)を導糸して編成される。編密度は、49±2コース/25.4mm、38±1ウエル/25.4mmであり、編組織は、例えば以下の通りである。
【0031】
編組織
L1:1-0,2-3,1-0,2-3,4-5,3-2,4-5,3-2,1-0
L2:4-5,3-2,4-5,3-2,1-0,2-3,1-0,2-3,4-5
L3:1-0,3-4,1-0,3-4
【0032】
摩擦前後のトリコット編地との色差は、上記と同様にして算出される。
【0033】
(基材)
基材は特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、基材として、織物、編物および不織布などの布帛、天然皮革(床革を含む)等が挙げられる。基材は、染料または顔料により着色されていてもよい。染料および顔料の種類は特に限定されない。
【0034】
布帛を構成する繊維の種類は特に限定されない。繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維等の従来公知の繊維が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。強度および加工性の点で、布帛は合成繊維、特にポリエステル繊維により構成されてよい。
【0035】
基材の厚みも特に限定されず、用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、合成皮革をカーシートのカバーとして用いる場合、基材の単位面積当たりの質量は、例えば、150g/m2以上、350g/m2以下であってよく、260g/m2以上、320g/m2以下であってよい。
【0036】
(表皮層)
表皮層は、基材を保護するために基材の少なくとも一方の主面に配置される。
表皮層は、例えば樹脂により形成される。防汚層との密着性および風合いの観点から、表皮層はポリウレタン樹脂により形成されてよい。表皮層は、一層の樹脂層により形成されてよく、同種または異種の二層以上の樹脂層により形成されてよい。
【0037】
表皮層の形成に用いられるポリウレタン樹脂は、特に限定されない。ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、アクリル系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。難燃性、耐久性および耐光性の点で、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂であってよい。ポリウレタン樹脂の形態は特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。ポリウレタン樹脂は、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系または水系であってよく、一液型または二液硬化型であってよい。
【0038】
表皮層の厚みは、例えば、20μm以上、50μm以下であってよく、25μm以上、40μm以下であってよい。表皮層の厚みが20μm以上であると、均質な層になり易く、保護性能が発揮され易い。さらに、表皮層に凹凸(シボ模様)が付与し易くなって、意匠性が向上する。厚みが50μm以下であると、表皮層が粗硬になり難く、合成皮革の風合いの低下がさらに抑制される。
【0039】
(防汚層)
防汚層は、ケイ素原子と、ウレタン結合を有する化合物由来のユニットと、を有するベース樹脂を含む。
【0040】
ケイ素原子は、例えばケイ素含有化合物に由来する。
ケイ素含有化合物は、例えばシリコーンであり、シリコーンとは、主鎖にシロキサン結合(-Si-O-Si-)を有する化合物の総称である。シリコーンとしては、例えば、ケイ素に結合するメチル基またはフェニル基を備えるストレートシリコーン、これら以外のケイ素に結合する官能基を有する変性シリコーン、または、ポリオルガノシロキサンと重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0041】
ストレートシリコーンとしては、例えば、ジメチルシリコーン(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン等が挙げられる。変性シリコーンとしては、例えば、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、異種官能基変性、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性等が挙げられる。上記共重合体としては、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステルとポリジメチルシロキサンとの共重合体等が挙げられる。
【0042】
汎用性の観点から、ジメチルシリコーンであってよく、耐水性および耐油性の観点から、ポリ(メタ)アクリル酸エステルとポリジメチルシロキサンとの共重合体であってよい。
【0043】
シリコーンは、防汚性がより維持され易い点で、変性シリコーンであってよい。変性シリコーンは、防汚層を形成する他の材料と化学結合し易く、ブリードアウトが抑制され易い。なかでも、ポリエーテル変性シリコーンであってよく、カルボキシ基および/または水酸基(フェノール性水酸基を含む)を有する変性シリコーンであってよい。
【0044】
防汚層は、フッ素原子を含んでもよい。ただし、防汚層に含まれるケイ素原子に対するフッ素原子の割合:フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01以下である。フッ素原子は、検出限界以下で含まれていてよい。
【0045】
ベース樹脂は、さらに、ウレタン結合を有する化合物由来のユニットを有する。このようなユニットは、ポリウレタン樹脂に由来してよい。ポリウレタン樹脂は特に限定されず、表皮層の形成に用いられるポリウレタン樹脂と同様のものが例示できる。なかでも、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂またはアクリル系ポリウレタン樹脂であってよい。アクリル系ポリウレタン樹脂は、ウレタン結合およびアクリロイル基を有する高分子化合物であり、例えば、ポリオ―ル、イソシアネート化合物および(メタ)アクリル酸エステルを共重合させることにより得られる。
【0046】
ベース樹脂は、さらに、他のユニットを含んでいてよい。緻密な防汚層が形成され易い点で、他のユニットは、アクリル樹脂由来であってよい。アクリル樹脂由来のユニットは、官能基を有する変性シリコーンと化学的に結合し得る。防汚層におけるアクリル樹脂の含有量は特に限定されない。
【0047】
アクリル樹脂は特に限定されない。アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの誘導体から得られる重合体、これら2種以上のモノマーあるいはその誘導体から得られる共重合体、あるいは、それらの変性物を挙げることができる。モノマー誘導体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1.3-ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート等の多官能メタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0048】
防汚層の厚みは特に限定されない。防汚層の厚みTは、例えば、0.6μm以上であってよく、1.2μm以上であってよい。防汚層の厚みTは、11μm以下であってよく、8μm以下であってよい。防汚層の厚みTが0.6μm以上であると、防汚層に亀裂が生じ難くなって、防汚性能が発揮され易くなる。
【0049】
防汚層の厚みTは、合成皮革の厚み方向の断面から算出できる。上記断面を走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、走査電子顕微鏡S-3000N)で観察し、任意の10カ所の厚みを測定して、それらの平均値を防汚層の厚みとする。
【0050】
防汚層は凹凸(シボ模様)を有していてもよい。この場合、合成皮革は、本革のような外観を備える。本実施形態によれば、防汚層が凹凸を備える場合にも、優れた防汚性が維持される。防汚層の凹凸は、例えば、表皮層に形成された凹凸に倣って形成されてもよい。
【0051】
防汚層において、凸部から表皮層までの厚みT1と凹部から表皮層までの厚みT2との比:T1/T2は、0.02~1.5であってよく、0.05~1であってよい。比:T1/T2が上記範囲であると、防汚層に亀裂が生じ難くなって、防汚性能が発揮され易くなる。また、凹凸(シボ模様)が明確になり易く、意匠性が向上する。
【0052】
防汚層が凹凸を備える場合、以下のようにして、凸部における防汚層の厚みT1と凹部における防汚層の厚みT2とを算出し、これらの平均値を防汚層の厚みTとすればよい。上記厚みの比:T1/T2は、上記で算出されたT1とT2との比である。
【0053】
合成皮革の厚み方向の断面において、任意の一つの凸部に焦点を合わせて、走査型電子顕微鏡により倍率5000倍で観察する。当該凸部における2箇所厚みを測定し、測定した厚みの平均値を、当該視野における凸部の厚みとする。この作業を、同じ観察視野内で焦点を合わせる凸部を変えて、計10カ所に対して行う。得られた10カ所の凸部の厚みの平均値を、凸部の厚み(T1)とする。凹部の厚みT2についても、凸部を凹部に変えて、同様に算出する。
【0054】
防汚層は、必要に応じて、増粘剤、レベリング剤、酸化防止剤、耐光性向上剤、消泡剤、光沢調整剤等の任意成分を含んでもよい。防汚層は、ケイ素含有化合物以外の従来公知の防汚剤を含んでもよい。このような防汚剤としては、例えば、フッ素含有化合物、ワックス等が挙げられる。ただし、フッ素含有化合物は、割合:フッ素原子/ケイ素原子が、原子比で0.01以下となる範囲で用いる。
【0055】
合成皮革は、表皮層および防汚層以外の第3の樹脂層を有していてもよい。第3の樹脂層は、例えば、基材と表皮層との間に配置される。このような第3の樹脂層は、基材に、高分子化合物(例えば、従来公知のポリウレタン樹脂やその共重合体)を含む溶液を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させることにより形成することができる。第3の樹脂層の単位面積当たりの質量は、例えば、200±20g/m2であってよい。
【0056】
図2は、本実施形態に係る合成皮革の一部を模式的に示す断面図である。合成皮革10は、基材11と、基材11の一方の主面に配置された表皮層13と、表皮層13を覆うように配置された防汚層14と、を備える。
図2では、基材11と表皮層13との間に、接着剤層12が介在しているが、これに限定されない。さらに、
図2では、表皮層13および防汚層14が凹凸を備えるが、これに限定されない。
【0057】
(製造方法)
本実施形態の合成皮革は、例えば、基材および表皮層用樹脂組成物を準備する第1準備工程(S1)と、防汚層用樹脂組成物を準備する第2準備工程(S2)と、基材の一方の主面に、表皮層用樹脂組成物を含む表皮層を形成する表皮層形成工程(S3)と、表皮層を覆うように、防汚層用樹脂組成物を含む防汚層を形成する防汚層形成工程(S4)と、を備える方法により製造される。防汚層用樹脂組成物は、ウレタン結合を有する化合物を含む原料樹脂と、ケイ素含有化合物と、原料樹脂とケイ素含有化合物とを結合させる架橋剤と、を含む。
図3は、本実施形態に係る合成皮革の製造方法を示すフローチャートである。
【0058】
(1)第1準備工程
上記の基材および表皮層用樹脂組成物を準備する。
表皮層用樹脂組成物は特に限定されないが、上記のポリウレタン樹脂から選択すればよい。
【0059】
(2)第2準備工程
防汚層用樹脂組成物を準備する。
防汚層用樹脂組成物は、ウレタン結合を有する化合物を含む原料樹脂と、上記のケイ素含有化合物と、原料樹脂とケイ素含有化合物とを結合させる架橋剤と、を含む。防汚層用樹脂組成物は、例えば、架橋剤と反応可能なケイ素含有化合物(以下、第1ケイ素含有化合物と称す。)を含み、当該架橋剤は原料樹脂と反応可能である。そのため、防汚層において、第1ケイ素含有化合物は、架橋剤を介して原料樹脂に化学結合されて、ベース樹脂が形成される。第1ケイ素含有化合物が原料樹脂に結合することにより、長期間にわたって防汚性が維持される。なお、架橋剤は、必ずしも原料樹脂およびケイ素含有化合物と反応して両者の間に介在する残基を形成するものである必要はなく、原料樹脂とケイ素含有化合物との結合を促進する材料(例えば触媒)であってもよい。
【0060】
原料樹脂は、上記のポリウレタン樹脂から選択すればよく、さらに上記のアクリル樹脂を含んでいてもよい。
【0061】
無機の主鎖と有機の側鎖を有するケイ素含有化合物は、原料樹脂との相溶性が低く、防汚層の表皮層とは反対側の表面に位置し易い。また、ケイ素含有化合物は凝集しやすい性質を有する。ところが、架橋剤を用いることで、第1ケイ素含有化合物が防汚層の表面に位置した場合であっても、そのブリードアウトは抑制される。さらに、第1ケイ素含有化合物の凝集が抑制されるため、第1ケイ素含有化合物は防汚層に均一に配置されて、防汚性が高まる。
【0062】
第1ケイ素含有化合物および原料樹脂と化学的に結合できる架橋剤は、特に限定されず、これらが有する官能基に応じて適宜選択される。上記架橋剤としては、例えば、カルボジイミド基(N=C=N)を有する化合物(以下、カルボジイミド系架橋剤と称する)、イソシアネート系架橋剤、エポキシ樹脂系架橋剤等が挙げられる。なかでも、第1ケイ素含有化合物がカルボキシ基または水酸基(フェノール性水酸基を含む)を有する変性シリコーンである場合、化学結合し易い点で、カルボジイミド系架橋剤であってよい。
【0063】
カルボジイミド系架橋剤は、カルボジイミド基を2つ以上有していてよい。このようなカルボジイミド系架橋剤としては、例えば、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド;ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂環族ポリカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等の脂肪族ポリカルボジイミド等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0064】
表皮層がポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含む場合、カルボジイミド系架橋剤が有するカルボジイミド基は、例えば表皮層のポリカーボネート系ウレタン樹脂が有するカルボキシル基と反応して、三次元の架橋構造を有するN-アシルウレアを形成することができる。これにより、防汚層と表皮層との密着性が向上し、防汚性はさらに維持され易くなる。
【0065】
防汚層用樹脂組成物において、第1ケイ素含有化合物の含有量(固形分)は特に限定されない。防汚性能を考慮すると、第1ケイ素含有化合物の含有量は、原料樹脂(固形分)100質量部に対して、10質量部以上、40質量部以下であってよく、15質量部以上、30質量部以下であってよい。
【0066】
防汚層用樹脂組成物における架橋剤の含有量は特に限定されない。架橋剤の含有量(固形分)は、防汚層用樹脂組成物の固形分の0.1質量%以上、10質量%以下であってよく、2質量%以上、7質量%以下であってよい。架橋剤が上記範囲で含まれることにより、第1ケイ素含有化合物と反応し易くなって、防汚性が維持され易くなるとともに、防汚層が粗硬になるのが抑制される。
【0067】
カルボジイミド系架橋剤の形態は特に限定されない。環境負荷の観点から、カルボジイミド系架橋剤は、水溶性または水分散性(エマルジョンタイプ)であってよい。原料樹脂の形態は特に限定されない。環境負荷の観点から、原料樹脂はエマルジョンタイプであってよい。
【0068】
防汚層用樹脂組成物は、架橋剤と結合しない第2ケイ素含有化合物を含んでもよい。第2ケイ素含有化合物は、原料樹脂と化学結合可能であってよい。防汚層用樹脂組成物に含まれる第2ケイ素含有化合物の量は特に限定されず、本実施形態の効果を妨げない範囲であればよい。上記合成皮革の防汚層に含まれるケイ素原子は、第1ケイ素含有化合物由来のケイ素原子を含み、第2ケイ素含有化合物由来のケイ素原子を含み得る。
【0069】
(3)表皮層形成工程
基材の一方の主面に、表皮層用樹脂組成物を含む表皮層を形成する。
表皮層を形成する方法は特に限定されず、コーティング法であってよく、ラミネート法であってよい。
コーティング法では、例えば、ナイフコーター、コンマコーター、ロールコーター、ダイコーター、リップコーターなどの公知の装置により、基材の一方の主面に表皮層用樹脂組成物を塗布した後、乾燥させることにより、表皮層が形成される。
【0070】
ラミネート法では、表皮層用樹脂組成物を離型紙上に成膜し、得られた樹脂膜を基材の一方の主面に積層する。離型紙は凹凸加工されていてもよい。積層方法としては、例えば、転写法、熱融着、熱圧着、接着剤を用いた貼着など、公知の方法が挙げられる。接着剤を用いる場合、接着剤は特に限定されず、公知の接着剤が使用できる。接着剤としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂またはポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0071】
(4)防汚層形成工程
表皮層を覆うように、防汚層用樹脂組成物を含む防汚層を形成する。
防汚層を形成する方法も特に限定されず、例えば、上記のコーティング法が用いられる。
【0072】
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。まず、各試験方法について説明する。
【0073】
(A)摩耗試験
直径150mmの円形の合成皮革を、同サイズにカットした厚み10mmのウレタンフォーム(20%圧縮応力:0.79~1.08N/cm2、密度:0.02±0.002g/cm2)に重ねてT-Type平面摩耗試験機(株式会社大栄科学精器製作所製)に、両面テープを用いて取り付けた。このとき、ウレタンフォームを、合成皮革と試験機との間に位置させた。試験機の摩擦子に綿布(6号綿帆布)をかぶせて、付属の冶具で固定した。上記摩擦子に荷重19.6Nをかけながら、合成皮革を、摩擦距離140mm、60回/分サイクルで10000回往復摩擦した。
【0074】
(B)汚れ付着試験
直径40mmにカットしたデニム片(2550Y、Testfabrics社製)2枚を、蒸留水を入れたビーカーの底に沈め、30秒間浸漬した。ビーカーから取り出したデニム片の水滴を、パルパーにて軽く拭き取り、2枚のデニム片の水分率がいずれも65±2質量%となるよう調整した
【0075】
次いで、摩耗試験後の合成皮革(第1の合成皮革)を、ISO12947-1に準拠したマーチンデイル試験機(株式会社グロッツ・ベッケルト ジャパン製)の試験台に付属の冶具で固定した。上記デニム片の1枚を、厚み3mm、直径38mmのウレタンフォームシートを介して摩擦子に取り付けた。この摩擦子に荷重12kPaをかけて、
図1に示すリサジューパターンで、250回摩擦した。摩擦子に取り付けられたデニム片をもう1枚のデニム片に取り替えて、さらに同じパターンで250回摩擦した。その後、マーチンデイル試験機から第1の合成皮革を取り外し、20℃、65%RHの環境下で1時間静置して乾燥させた。
【0076】
(C)汚れ除去試験
50mm四方にカットした綿布(JIS L0803準拠 かなきん3号)2枚に、蒸留水を1mL滴下し、10秒放置した。
汚れ付着試験後の合成皮革(第2の合成皮革)を、JIS L0849に準拠したクロックメーター試験機(670 HD CROCKMASTER、James Heal社製)に両面テープを用いて取り付けた。摩擦子に上記の綿布1枚を取り付けた。この摩擦子に荷重9Nをかけて、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで5回摩擦した。摩擦子に取り付けられた綿布をもう一枚の綿布に取り替えて、さらに5回摩擦した。
【0077】
(D)ブリードアウト促進試験
幅50mm、長さ130mmの合成皮革を、JIS L0849に準拠したクロックメーター試験機(670 HD CROCKMASTER、James Heal社製)に、両面テープを用いて取り付けた。摩耗子に50mm四方の黒原着ポリエステル糸により編成されたトリコット編地をかぶせ、付属の冶具で固定した。この摩擦子に荷重9Nをかけて、合成皮革を、摩擦距離100mm、60回/分サイクルで50回往復摩擦した。
【0078】
上記トリコット編地は、28ゲージのトリコット編機を用いて、筬L1、L2およびL3からいずれも同じ黒原着ポリエステル糸(例えば、WY-Z、山越株式会社製、84dtex/36f)を導糸して編成されている。編密度は、49±2コース/25.4mm、38±1ウエル/25.4mmであり、編組織は、以下の通りであった。
【0079】
編組織
L1:1-0,2-3,1-0,2-3,4-5,3-2,4-5,3-2,1-0
L2:4-5,3-2,4-5,3-2,1-0,2-3,1-0,2-3,4-5
L3:1-0,3-4,1-0,3-4
【0080】
測色および色差の算出は、以下のようにして行った。
分光測色計(Color I 5DV、X-Rite社製、光源:C光源)を用いて、合成皮革、第1の合成皮革、第2の合成皮革、第3の合成皮革およびブリードアウト促進試験前後の黒原着トリコット編地について、それぞれ4カ所を測色し、それぞれの合成皮革のL*値、a*値、b*値の平均値を求めた。平均値は、小数点第3位を四捨五入し、小数点第2位で表記した。これらの平均値を用いて、それぞれの色差(ΔE*)を算出した。
【0081】
[実施例1]
(I)基材準備
基材として、淡ベージュ色のトリコット編地(ポリエステル繊維、単位面積当たりの質量174g/m2)を準備した。
【0082】
(II)表皮層用樹脂組成物の調製
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ジメチルホルムアミド40質量部を加え、粘度を約2,000mPa・s(B型粘度計、ローター:No.3、10rpm、23℃)になるように調整して、表皮層用樹脂組成物を調製した。このとき、顔料を添加し、表皮層が所望の色となるように調整した。
【0083】
(III)防汚層用樹脂組成物の調製
以下に示す材料を準備した。
処方1
1)アクリル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂とを含む原料樹脂(固形分20質量%)100質量部
2)第1ケイ素含有化合物(ヒドロキシ基およびフェノール性水酸基を有する変性シリコーン、固形分22.7質量%)20質量部
3)架橋剤(カルボジイミド系架橋剤、固形分40質量%)3質量部
4)増粘剤(ウレタン分子会合型増粘剤、固形分45質量%)2質量部
5)レベリング剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%)1質量部
6)消泡剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%)0.1質量部
ただし、原料樹脂には、さらに、第2ケイ素含有化合物(ストレートシリコーン)および光沢調整剤(多孔質シリカ、2.7質量%)が配合されている。
【0084】
原料樹脂および第1ケイ素含有化合物を混合し、混合物を得た。この混合物に、増粘剤、レベリング剤および消泡剤を添加し、混合した後、さらに架橋剤を添加し、混合して、防汚層用樹脂組成物を調製した。防汚層用樹脂組成物の粘度は、1,250mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.3、10rpm、23℃)であった。
【0085】
(IV)表皮層の形成
得られた表皮層用樹脂組成物を、凹凸を有する離型紙にコンマコーターを用いて塗布し、乾燥機にて130℃で2分間加熱して、樹脂膜を形成した。樹脂膜の厚みは30μmであった。
樹脂膜の表面に、接着剤(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)を、コンマコーターを用いて塗布し、乾燥機にて100℃で1分間加熱した。樹脂膜の接着剤を塗布した面を基材に対向させて積層し、荷重392.3kPaで4秒間プレス圧着した。その後、離型紙を剥離し、基材の一方の主面に表皮層を形成した。
【0086】
(V)防汚層の形成
得られた防汚層用樹脂組成物を、表皮層の表面にリバースコーターを用いて塗布し、乾燥機にて130℃で1分30秒間処理した。これにより合成皮革を得た。防汚層の厚みTは5.4μmであった。防汚層は凹凸を有しており、凸部から表皮層までの厚みT1と凹部から表皮層までの厚みT2との比:T1/T2は、0.6であった。防汚層において、フッ素原子は検出されず、フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01以下であった。
【0087】
(VI)評価
得られた合成皮革に対して、上記(A)~(D)の試験を行い、それぞれの色差を算出した。結果を表1に示す。実施例1で得られた合成皮革のL*値は87.1であった。汚れ付着試験(B)で使用された乾燥状態のデニム片と合成皮革との色差ΔE*は63.46であった。
【0088】
[比較例1]
防汚層用樹脂組成物の調製(III)に替えて、以下のようにして下地用樹脂組成物および比較樹脂組成物Aを調製(iii-1)したこと、および、防汚層の形成(V)において、下地用樹脂組成物を用いて下地層を形成した後、比較樹脂組成物Aを用いて防汚層を形成したこと以外、実施例1と同様にして合成皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。下地層の形成は、耐摩耗性向上を目的としている。
【0089】
(iii-1)樹脂組成物の調製
下地用樹脂組成物として、以下に示す材料を準備した。
処方2
1)ウレタン樹脂(ポリカーボネート系ウレタン、固形分16.5質量%)100質量部
2)レベリング剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%)1質量部
3)水 8質量部
4)架橋剤(カルボジイミド系架橋剤、固形分40質量%)2質量部
【0090】
ウレタン樹脂、レベリング剤および水を混合した後、さらに架橋剤を添加し、混合して、下地用樹脂組成物を調製した。下地用樹脂組成物の粘度は、250mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.3、10rpm、23℃)であった。
【0091】
比較樹脂組成物Aとして、以下に示す材料を準備した。
処方3
1)フッ素系樹脂(四フッ化エチレンと六フッ化プロピレンとの共重合体、固形分20質量%)100質量部
2)架橋剤(イソシアネート系架橋剤、固形分40質量%)30質量部
3)消泡剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%)0.5質量部
4)整泡剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分56質量%)1質量部
5)レベリング剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%)1質量部
6)シリコーン系化合物水分散液(アクリル変性シリコーン、固形分37質量%)4質量部
7)増粘剤(ウレタン分子会合型増粘剤、固形分45質量%)4質量部
【0092】
フッ素系樹脂に、消泡剤、整泡剤、レベリング剤、シリコーン系化合物水分散液および増粘剤を添加し、混合した後、さらに架橋剤を添加し、混合して、比較樹脂組成物Aを調製した。比較樹脂組成物Aの粘度は、3,000mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.3、10rpm、23℃)であった。
【0093】
(V)防汚層の形成
得られた下地用樹脂組成物を、表皮層の表面にリバースコーターを用いて塗布し、乾燥機にて130℃で1分30秒間処理して、表皮層を覆う下地層を形成した。
次いで、得られた比較樹脂組成物Aを、下地層の表面にリバースコーターを用いて塗布し、乾燥機にて130℃で1分30秒間処理して防汚層を形成した。これにより合成皮革を得た。防汚層の厚みTは4.7μmであった。防汚層は凹凸を有しており、凸部から表皮層までの厚みT1と凹部から表皮層までの厚みT2との比:T1/T2は、0.49であった。防汚層において、フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01を大きく超えていた。得られた合成皮革のL*値は88.1であった。汚れ付着試験(B)で使用された乾燥状態のデニム片と合成皮革との色差ΔE*は64.07であった。
【0094】
[比較例2]
防汚層用樹脂組成物の調製(III)に替えて、以下のようにして比較樹脂組成物Bを調製(iii-2)したこと、および、防汚層の形成(V)において、防汚層用樹脂組成物に替えて比較樹脂組成物Bを用いたこと以外、実施例1と同様にして防汚層を形成して合成皮革を製造し、評価した。防汚層の厚みTは10.9μmであった。防汚層は凹凸を有しており、凸部から表皮層までの厚みT1と凹部から表皮層までの厚みT2との比:T1/T2は、0.52であった。防汚層において、フッ素原子は検出されず、フッ素原子/ケイ素原子は、原子比で0.01以下であった。得られた合成皮革のL*値は87.7であった。汚れ付着試験(B)で使用された乾燥状態のデニム片と合成皮革との色差ΔE*は62.78であった。
【0095】
(iii-2)比較樹脂組成物Bの調製
以下に示す材料を準備した。
処方4
1)アクリル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂とを含む原料樹脂(固形分35質量%)80質量部
2)ポリカーボネート系ウレタン樹脂(固形分21質量%)20質量部
3)ケイ素含有化合物(ポリジメチルシロキサン、固形分30質量%)10質量部
4)水 11.5質量部
5)架橋剤(カルボジイミド系架橋剤、固形分20質量%)10質量部
6)増粘剤(ウレタン分子会合型増粘剤、固形分15.8質量%)6質量部
7)レベリング剤(シリコーン系界面活性剤、固形分100質量%)1質量部
8)消泡剤(ミネラルオイルタイプ、固形分100質量%)0.1質量部
ただし、原料樹脂には、さらに、第2ケイ素含有化合物(ストレートシリコーン)が配合されている。
【0096】
原料樹脂およびケイ素含有化合物を混合し、混合物を得た。この混合物に、増粘剤、レベリング剤および消泡剤を添加し、混合した後、さらに架橋剤を添加し、混合して、比較樹脂組成物Bを調製した。比較樹脂組成物Bの粘度は、1,250mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.3、10rpm、23℃)であった。
【0097】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る合成皮革は、防汚性が長期間にわたって維持されるため、カーシート等の自動車内装材、インテリア資材等の産業用資材として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0099】
10:合成皮革
11:基材
12:接着剤層
13:表皮層
14:防汚層