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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】軸受材料、軸受要素、使用、および方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20230414BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20230414BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20230414BHJP
   C10M 105/70 20060101ALI20230414BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
F16C33/20 A
F16C17/02 Z
F16C33/10 Z
C10M105/70
F16C9/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018211913
(22)【出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2019100543
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】1720428.0
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511128228
【氏名又は名称】マーレ エンジン システムズ ユーケイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MAHLE Engine Systems UK Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マッキューアン ケイリー
(72)【発明者】
【氏名】ハーヴィー ジェニファー
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-045463(JP,A)
【文献】特開2017-198325(JP,A)
【文献】特開2015-232127(JP,A)
【文献】特開2013-234219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/00-33/00
C10M 105/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受要素基体の上に軸受材料により形成されたオーバーレイ層を備え、
前記軸受材料は、
ポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料のポリマーマトリクスと、
上記ポリマーマトリクス中に分散されたメラミンシアヌレート粒子と
アルミニウム片とを含み、
前記オーバーレイ層は、厚さが8μm以上、12μm以下であり、複数のサブレイヤの積層体である、軸受要素
【請求項2】
請求項1において、
上記メラミンシアヌレート粒子は、0.2~5μmの平均粒子サイズを有する軸受要素
【請求項3】
請求項1または2において、
前記軸受材料は、
2~30重量%のメラミンシアヌレートを含む軸受要素
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項において、
前記軸受材料は、
分散剤、接着剤、および/またはレベラをさらに含む軸受要素
【請求項5】
軸受要素基体上にオーバーレイ層を形成するオーバーレイ層形成工程を備え、
前記オーバーレイ層形成工程は、
ポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料、メラミンシアヌレート粒子、及びアルミニウム片を溶媒に混合した分散液を、軸受要素基体上に堆積してサブレイヤを形成するステップと、堆積したサブレイヤから溶媒を除去するステップとを複数回繰り返し、
複数のサブレイヤの積層体である、厚さが8μm以上、12μm以下のオーバーレイ層を形成する、軸受要素形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受材料、軸受要素、ポリアミドイミド(PAI)軸受材料における固体潤滑剤としてのメラミンシアヌレートの使用、軸受材料の形成方法、および軸受要素の形成方法に関する。特に、本発明は、滑り軸受の軸受面または摺動面を形成するオーバーレイにおける使用のための改良された合成樹脂軸受材料に関する。本発明に係る軸受材料および要素は、回転可能または摺動可能なエンジン部品の支持と、その他の回転可能または摺動可能な部品、例えばスラストワッシャおよびフランジ軸受アセンブリとして、またはその一部としての使用とを含む、自動車環境における使用に特に適する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンにおいて、主軸受アセンブリは、一般的に、軸回りに回転可能なクランクシャフトを保持する一対の半割軸受をそれぞれに備える。各半割軸受は、概ね半円筒状の軸受シェルであって、一般的に、少なくとも一方が、各軸方向端部から(径方向)外方へ延びる半環状スラストワッシャが設けられたフランジ付き半割軸受になっている。
【0003】
従来、軸受シェルの軸受面は、強固なバッキング材を含む基体が1つまたはそれ以上の層で被覆された層状構造を有する。当該1つまたはそれ以上の層は、好ましいトライボロジー特性を有し、使用時にクランクシャフトジャーナルなどの対応する可動部品に面する軸受面にその特性を与える。公知の軸受シェルでは、基体は、ライニング層で被覆されたバッキングを備え、さらに軸受材料からなるオーバーレイで被覆されている。オーバーレイは、一般的に、6~25μmの厚みを有し、合成樹脂ポリマーベースの複合層または金属合金層(例えば、スズベース合金オーバーレイ)で構成されていてもよい。
【0004】
オーバーレイの機能は、より硬い鋼クランクシャフトジャーナルと軸受シェルとの間における何らかの小さな位置合わせ不良を吸収でき、かつオイル供給内を循環して軸受に入り得る汚染粒子を受けて埋めることのできる比較的軟らかく順応的な層を提供することであり、それによりジャーナルの損傷または摩損を阻止することができる。オーバーレイのこれらの機能は、それぞれに順応性および埋込性と呼ばれる。
【0005】
軸受材料、およびオーバーレイが摩耗すると、オーバーレイ材料が適用されるライニング層が露出し得ることが広く知られている。このことは、焼付きに起因する摺動部品の故障につながり得る。
【0006】
近年では、ポリマーベースの軸受材料が、オーバーレイとして使用するのに普及してきており、摺動部品に関する研究により、ポリマー軸受材料の広範な組成がもたらされている。
【0007】
ストップスタートエンジンの出現およびエンジンの小型化の傾向に伴って、エンジン軸受、特にコネクティングロッドおよび主軸受は、ますます厳しい環境下での動作を要求されている。オイル膜が欠乏するストップスタートサイクルが増大することは、軸受オーバーレイの摩擦特性およびオーバーレイの寿命が軸受性能の鍵となることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、軸受材料の性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、これから参照する添付の独立請求項で規定されるように、軸受材料、軸受要素、ポリアミドイミド(PAI)軸受材料における固体潤滑剤としてのメラミンシアヌレートの使用、軸受材料を形成する方法、および軸受要素を形成する方法を提供する。本発明の好ましいまたは有利な特徴は、独立請求項で規定される。
【0010】
本発明の第1の態様によると、ポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料と、メラミンシアヌレートとを含む軸受材料が提供される。
【0011】
軸受材料は、ポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料のポリマーマトリクスと、当該ポリマーマトリクス中に分散されたメラミンシアヌレート粒子とを含んでもよい。
【0012】
発明者は、本発明におけるポリマーマトリクスとして使用するためにポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料を選択した。なぜなら、PAIは、堅牢かつ効率的な軸受材料を提供し得ることを見出したためである。
【0013】
現代の内燃エンジンの厳しい条件において、ストップスタート動作は、典型的なエンジンに対して非常に多くの回数にわたる同動作に耐えることを要求する。エンジンが再始動する際には完全な流体潤滑が存在しないため、クランクシャフト軸受などの軸受は、多くの回数にわたる流体的に非潤滑の始動動作を耐え抜ける必要がある。適当なフィラー材料を含むPAIベースの軸受材料は、そのような条件下において他のポリマー材料よりも優れた性能を示した。
【0014】
よって、本発明の軸受材料にポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料を使用することにより、有利には、順応性および埋込性を含む優れた性能を有する軸受材料を得ることができる。
【0015】
メラミンシアヌレートは、メラミンシアヌル酸付加物、メラミンシアヌル酸複合物、またはMCAとしても知られ、難燃材料として広く使用される。しかしながら、本発明において、発明者は、メラミンシアヌレートがPAIベースの軸受材料における有効な固体潤滑剤として使用可能であることを見出した。
【0016】
本発明の発明者は、メラミンシアヌレートを、その水素結合網および低摩擦係数のために、またその高い熱的安定性および低い腐食性のために、固体潤滑剤として使用するのに選択した。このような特性は、メラミンシアヌレートを、特にストップスタートエンジンでの使用中に高温にさらされ得るPAIベースの軸受材料における固体潤滑剤としての使用に対して特に有利なものにし得る。
【0017】
メラミンシアヌレート粒子の存在により、有利には、使用中におけるメラミンシアヌレート水素結合網の連続的な破壊および再生のおかげで、軸受材料の負荷容量が増大し得る。これにより、有利には、軸受材料の耐疲労性および耐摩耗性が向上し得る。また、メラミンシアヌレートの高い熱的安定性および低い腐食性により、有利には、従来技術から公知の軸受材料と比較して、本発明の軸受材料で被覆された軸受要素の耐用年数が長くなり得る。
【0018】
メラミンシアヌレート粒子における分子レベルの水素結合網の存在により、横力の印加に際する隣の層のせん断が許容される。よって、メラミンシアヌレートは、有利には、軸受の動作中に横力にさらされる軸受材料における有効な固体潤滑剤として機能し得る。
【0019】
メラミンシアヌレートは、軸受材料からなるオーバーレイにおいて、硬化した軸受材料の摩擦係数を低減する固体潤滑剤として機能し得る。よって、軸受材料にメラミンシアヌレート固体潤滑剤を添加することにより、ならし運転挙動、トルク切替試験、および軸受寿命が改善され得る。エンジン内の軸受の摩擦係数を改善することにより、メラミンシアヌレート固体潤滑剤の使用は、さらにエンジン効率の改善および排気ガスの低減を促進し得る。
【0020】
軸受材料は、メラミンシアヌレートを含む、またはメラミンシアヌレートからなる固体潤滑剤を含んでもよい。
【0021】
好ましい実施形態では、軸受材料は、唯一の固体潤滑剤としてメラミンシアヌレートを含み、そのため、軸受材料は、グラファイト、二硫化モリブデン、またはPTFEといった他の固体潤滑剤を含まない。
【0022】
固体潤滑剤としてメラミンシアヌレートを含むPAIベースの軸受材料は、有利には、望ましい物理的特性を実現し得る。好ましくは、そのような軸受材料は、公知のPAI軸受材料と同様の、またはこれよりも優れた物理的特性を示し得る。例えば、本発明の軸受材料は、増大された負荷容量を示し得る。また、軸受材料は、メラミンシアヌレートの水素結合網によって改善された耐疲労性や、メラミンシアヌレートの熱的安定性および低い腐食性によって改善された耐用年数を呈し得る。
【0023】
メラミンシアヌレートは、有利には、優れた耐せん断特性を呈し、これはメラミンシアヌレートにおける水素結合の切断および再形成に帰せられ得る。これにより、本発明の軸受材料は、高い負荷容量を提供し得る一方で、軸受材料の摩擦特性をも改善し得る。
【0024】
軸受材料は、PAIポリマー材料のマトリクス中に分散されたメラミンシアヌレートの固体粒子を含んでもよい。
【0025】
好ましくは、メラミンシアヌレート粒子のサイズは、軸受材料からなるオーバーレイ層の意図する厚みよりも小さく選択される。軸受要素における典型的なオーバーレイ層は、25μm未満、または12μm未満の厚みを有し得る。意図するオーバーレイ厚みよりも小さな粒子サイズは、メラミンシアヌレート粒子がオーバーレイ表面から突出しないように選択されてもよい。
【0026】
粒子サイズは、動的光散乱法により測定されてもよい。
【0027】
また、メラミンシアヌレート粒子は、PAIポリマー材料中で均一に分散するように十分に大きく選択されてもよい。特定のサイズ以下、例えば約0.2μm以下では、メラミンシアヌレート粒子が、製造中にPAIポリマー材料内で塊になる傾向にあり、それにより軸受材料の摩擦特性にむらが出る。
【0028】
好ましくは、メラミンシアヌレート粒子は、約0.2~5μm、好ましくは約0.5~3μm、特に好ましくは約1~2μmの平均粒子サイズを有する。
【0029】
メラミンシアヌレート粒子は、少なくとも約0.2μm、約0.5μm、約1μm、または約2μmの平均粒子サイズを有してもよく、および/または約2.5μm以下、約3μm以下、約5μm以下、または約10μm以下の平均粒子サイズを有してもよい。
【0030】
好ましくは、軸受材料は、約2~30重量%、好ましくは約5~25重量%、特に好ましくは約8~20重量%のメラミンシアヌレートを含む。ある好ましい実施形態では、軸受材料は、約8~12重量%のメラミンシアヌレートを含む。このような範囲内でメラミンシアヌレートを含有することにより、有利には、軸受材料の摩擦特性が改善され得る。特に有利には、メラミンシアヌレートのこのような量は、満足のいく耐摩耗特性を有する軸受材料を提供し得る。
【0031】
好ましくは、軸受材料は、少なくとも2重量%、3重量%、5重量%、または8重量%のメラミンシアヌレートを含んでもよく、および/または10重量%以下、12重量%以下、15重量%以下、20重量%以下、25重量%以下、または30重量%以下のメラミンシアヌレートを含んでもよい。
【0032】
軸受材料は、さらに、当該軸受材料にその特性を変えるべく導入され得る1つまたはそれ以上の追加的なフィラー材料を含んでもよい。軸受材料は、例えば、耐摩耗性を高めるための硬質フィラー粒子を含んでもよい。軸受材料は、当該軸受材料の順応性、耐疲労性、および熱伝導率を高め得る金属片、好ましくはアルミニウム片などの添加物を含んでもよく、それによりポリマーマトリクスにおける熱分散が促進される。
【0033】
軸受材料は、さらに、当該軸受材料の粒子含有物がポリマーマトリクス中に均一に分散されるのを可能とする分散剤などの添加物と、当該軸受材料の軸受要素に対する付着を強め得る接着剤と、レベラとを含んでもよい。
【0034】
本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様に係る軸受材料を備えた軸受要素が提供される。
【0035】
軸受は、本発明の第1の態様に係る軸受材料から構成され、オーバーレイ層または軸受面層とも呼ばれるオーバーレイを備えてもよい。
【0036】
好ましくは、オーバーレイの総厚みは、3~25μmである。より好ましくは、オーバーレイの総厚みは、8~10μmである。
【0037】
好ましくは、オーバーレイは、軸受材料の単一層から構成される。すなわち、オーバーレイは、好ましくは、当該オーバーレイの全体にわたって均一な組成を有する。オーバーレイは、同じ軸受材料を複数回にわたって被覆することで形成されてもよく、それにより得られるオーバーレイは、全体が本発明の軸受材料から構成される。好ましくは、オーバーレイは、別の軸受材料から構成される第2の層を備えない。
【0038】
軸受材料の特徴は、本発明の第1の態様に関連して上述したものであってもよい。
【0039】
本発明を具現化する軸受要素は、流体潤滑されるアプリケーションでの使用に特に適する。軸受要素に対する特に有利なアプリケーションは、燃焼エンジンにおける滑り軸受、例えばクランクシャフトやカムシャフトを支持する軸受、大端部軸受、および小端部ブッシュである。本発明を具現化する軸受要素は、ストップスタートエンジン技術を備えたものを含む車両エンジンでの使用に特に適する。そのような技術を備えたエンジンでは、従来のエンジンに比べて、エンジンの寿命期間内に相当に多数の始動にエンジンがさらされると共に、クランクシャフトが、軸受面に潤滑剤の均一な流体膜が形成される前に停止状態からたびたび加速される。
【0040】
また、本発明を具現化する軸受要素は、ブッシュ、ピストンスカート、ピストンリング、ライナ、カムシャフト、およびコネクティングロッドを含むエンジン部品の任意の摺動面を構成するために使用されてもよい。また、そのような軸受要素は、スラストワッシャ、フランジ、およびハーフライナのうち任意のものとして、またはその一部として使用されてもよい。その他の適当なアプリケーションも想定され、それらは当業者にとって容易にわかるだろう。
【0041】
本発明の第3の態様によると、ポリアミドイミド(PAI)ポリマー軸受材料における固体潤滑剤としてのメラミンシアヌレートの使用が提供される。
【0042】
本発明の第4の態様によると、軸受材料を形成する方法であって、ポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料とメラミンシアヌレート粒子とを混合して分散状態にするステップを含む方法が提供される。
【0043】
メラミンシアヌレートは、好ましくは、約2~30重量%、好ましくは約5~25重量%、特に好ましくは約8~12重量%だけポリマー材料に添加されて分散される。
【0044】
メラミンシアヌレート粒子は、少なくとも約0.2μm、約0.5μm、約1μm、または約2μmの平均粒子サイズを有してもよく、および/または約2.5μm以下、約3μm以下、約5μm以下、または約10μm以下の平均粒子サイズを有してもよい。
【0045】
方法は、例えば適当なモノマーからの公知の重合反応を介して、ポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料を形成する追加的な第1ステップを含んでもよい。
【0046】
本発明の第5の態様によると、軸受要素を形成する方法であって、軸受要素基体上に、本発明の第1の態様に係る軸受材料を堆積するステップを含む方法が提供される。
【0047】
よって、軸受要素を形成する方法は、軸受要素基体上に、軸受面層またはオーバーレイ層を形成する方法を提供する。
【0048】
軸受材料は、従来技術から公知の方法、例えばスプレー法によって基体上に堆積されてもよい。
【0049】
方法は、軸受要素基体上に堆積された軸受材料を硬化させる追加的なステップを含んでもよい。
【0050】
第1の態様に関連して上述した本発明の特徴は、本発明の第2、第3、第4、および第5の態様の対応する特徴に同様に当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、本発明に係る軸受要素の例示的な実施形態である半円筒状の半割軸受シェルの概略的な斜視図である。
図2図2は、図1の2つの半割軸受シェルからなる軸受シェルの概略的な断面図である。
図3図3は、図1および図2の軸受シェルの一部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0053】
図1は、クランクシャフトの円筒形ジャーナルを保持するための内燃エンジンの主軸受アセンブリ用の半円筒状の軸受シェル100を概略的に示している。軸受シェル100は、半割軸受または半割シェルとも一般に呼ばれる。軸受シェル100の一部の断面図が、図3に示されている。
【0054】
軸受シェル100は、鋼バッキング102を含む基体と、アルミニウム-スズ合金の層を含むライニング層104とを有する層状構造を備える。軸受材料のオーバーレイ106が、基体のライニング層上におけるスプレー被覆によりライニング層104上に形成されている。
【0055】
バッキング102は、軸受シェル100が主軸受ハウジングに組み付けられる場合における当該軸受シェル100の強度および耐変形性を提供する。
【0056】
図2は、図1の2つの半割軸受シェル100から構成される円筒状の軸受シェル200の正面断面図である。円筒状の軸受シェル200は、2つの半割軸受シェル100からなり、当該2つの半割軸受シェル100の端部が互いに接続され、それによりクランクシャフト(図示せず)の対応するジャーナルを保持するのに適した中空中心を伴う円筒状の軸受シェルが構成されている。
【0057】
2つの半円筒状の軸受シェル100が接続されて円筒状の軸受シェル200を構成する場合、オーバーレイ106は、軸受シェルの最内側面を構成する。よって、オーバーレイ106は、軸受アセンブリにおける対応する可動部品に面する軸受面(または、摺動面)を提供するように構成されている。使用時には、組み立てられた軸受において、軸受シェル100のオーバーレイ106とジャーナル軸とが、潤滑オイルの膜(好ましくは、通常運転時に流体力学的な潤滑を提供する)を介在させて互いに協働する。オーバーレイ106は、軸受面と軸ジャーナルとの間における小さな位置合わせ不良を吸収するのに特に適し(順応性)、潤滑オイル供給内を循環する汚染粒子を受けて埋め、それにより細片によるジャーナル面の摩損または損傷を阻止し得る(埋込性)。また、オーバーレイ106は、介在するオイル膜が損なわれた場合に、軸受100と軸ジャーナルとの間における適当なトライボロジー特性を提供する。
【0058】
オーバーレイ106は、10重量%(重量%の割合は、オーバーレイが硬化した後における当該オーバーレイの含有物に対して規定される)のメラミンシアヌレート粒子(図示せず)が全体に分散されたポリアミドイミド(PAI)ポリマー材料のマトリクスを含む軸受材料から構成されている。メラミンシアヌレート粒子は、約2.1μmの平均粒子サイズを有する。
【0059】
メラミンシアヌレート粒子は、オーバーレイにおける固体潤滑剤として機能し、またPAIオーバーレイ106の摩擦係数を低減する。PAIオーバーレイにメラミンシアヌレート固体潤滑剤が含まれることにより、ならし運転挙動、トルク切替試験、および軸受寿命が改善され得る。エンジンにおいて軸受の摩擦係数を改善することにより、メラミンシアヌレート固体潤滑剤の使用は、さらに、エンジン効率を向上させかつ排気ガスを低減し得る。
【0060】
その優れた熱的安定性および低い腐食性のために、メラミンシアヌレートは、有利には、オーバーレイ106の長寿命化を実現し得る。さらに、メラミンシアヌレートの水素結合網により、負荷容量および耐疲労特性が改善され得る。
【0061】
適当なメラミンシアヌレート粒子の一例は、0.24g/mlのバルク密度と、2.1μmの平均粒子サイズと、0.5μmのD10と、1.3μmのD50と、4.7μmのD90とを有する。
【0062】
また、オーバーレイ106は、PAIポリマー材料のマトリクスの全体に分散された約26重要%のアルミニウム片、0.5重量%未満のレベラ、およびシラン接着剤からなるフィラー材料(図示せず)を備える。
【0063】
本発明に係る軸受材料およびオーバーレイは、好適には、ポリマーマトリクス中にフィラーを含むオーバーレイを形成するための従来技術に関して記述される技術を用いて作られてもよい。そのような技術は当業者によく知られているが、完全さを期すために例示的なコメントを以下に示す。
【0064】
オーバーレイ106は、メラミンシアヌレート粒子(および、任意のその他の所望のオーバーレイフィラーまたは粒子)が懸濁された溶媒に溶けたポリマー性のPAI材料を含む軸受材料を堆積することで形成される。堆積に先立って、メラミンシアヌレート粒子(および、任意のその他の懸濁固体粒子)が、好ましくは、PAIに添加されて堆積混合物の撹拌によって懸濁状態に保たれる。
【0065】
メラミンシアヌレート粒子のサイズは、有利には、粒子が凝集を回避するのに十分に大きく、かつ堆積されるオーバーレイ内における粒子の均一な分散のために十分に小さい場合に、ポリマー材料の堆積に先立って、軸受材料内における粒子の分散を促進し得る。
【0066】
オーバーレイ106は、スプレーガンからの軸受材料のスプレー被覆により基体上に堆積されてもよい。あるいは、オーバーレイは、スクリーン印刷(すなわち、マスクを介して)により、パッド印刷プロセス(すなわち、間接オフセット印刷プロセス、例えばシリコンパッドが合成樹脂ポリマー複合材料のパターン層を滑り軸受基体上に移すもの)により、または転写圧延プロセスにより堆積されてもよい。
【0067】
オーバーレイ106は単一の堆積ステップにおいて堆積されてもよいが、より分厚くするために、オーバーレイが一連のサブレイヤの堆積により構築されてもよく、連続する堆積の間にはサブレイヤから溶媒を除去するための洗浄段階が伴う。
【0068】
堆積されたオーバーレイの硬化には、PAI合成樹脂ポリマー中の分子の分子架橋が含まれる。また、硬化は、オーバーレイから実質的に全ての溶媒を取り除き、これには洗浄されたサブレイヤからの残余の溶媒が含まれる。
【0069】
硬化されたオーバーレイ106は、3~14μmの厚みを有してもよく、一連のサブレイヤから構成されるさらに分厚い層を伴ってもよい。例えば、8~12μm厚のオーバーレイ106は、同じ軸受材料からなる2つまたは3つのサブレイヤを堆積することで構築され得る。
【0070】
ここまで、半割軸受シェルおよび円筒状の軸受シェルに関して説明および図示したが、本発明は、その他の摺動エンジン部品(半環状、環状、または円形のスラストワッシャおよびブッシュを含む)ならびにそのような摺動エンジン部品を備えたエンジンにも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
100 半割軸受シェル(軸受要素)
102 バッキング
104 ライニング層
106 オーバーレイ
200 軸受シェル(軸受要素)
図1
図2
図3