(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】被膜形成外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/12 20060101AFI20230414BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230414BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230414BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230414BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230414BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230414BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230414BHJP
A61K 31/01 20060101ALN20230414BHJP
A61K 31/727 20060101ALN20230414BHJP
A61K 31/436 20060101ALN20230414BHJP
【FI】
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/20
A61K9/107
A61K45/00
A61P17/16
A61P17/00
A61K31/01
A61K31/727
A61K31/436
(21)【出願番号】P 2018557441
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039294
(87)【国際公開番号】W WO2019082873
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017204273
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【氏名又は名称】入佐 大心
(74)【代理人】
【識別番号】100199794
【氏名又は名称】西口 涼子
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】土肥 孝彰
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-139525(JP,A)
【文献】国際公開第2012/011566(WO,A1)
【文献】特開2000-034218(JP,A)
【文献】特開2000-063261(JP,A)
【文献】特開2015-199709(JP,A)
【文献】特表2006-507285(JP,A)
【文献】特開平07-291827(JP,A)
【文献】特開2012-031116(JP,A)
【文献】特開平06-287137(JP,A)
【文献】特開2005-239678(JP,A)
【文献】特表2012-526738(JP,A)
【文献】特開平11-180821(JP,A)
【文献】ヒルドイドクリーム0.3%、添付文書,2017年09月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)を含有す
る水中油型乳剤性の被膜形成外用剤
であって、かかる成分(B)を5~30重量%の範囲内で含むことを特徴とする、水中油型乳剤性の被膜形成外用剤:
(A)薬効成分
(B)
ステアリン酸、セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物、セトステアリル硫酸ナトリウム、セトステアリルアルコール、及びミリスチルアルコールから選ばれる
3種以上の成分。
【請求項2】
前記成分(A)が局所で作用する成分である、請求項1に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
【請求項3】
前記成分(A)が、保湿剤、副腎皮質ホルモン剤、乾癬治療剤、ざ瘡治療剤、白癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、ヘルペス治療剤、脱毛症治療剤、皮膚潰瘍治療剤、皮膚疾患治療剤、壊死組織除去剤及び局所麻酔剤から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1及び2のいずれか1項に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
【請求項4】
前記成分(A)が水溶性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
【請求項5】
前記成分(A)が脂溶性である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患の治療や皮膚環境の維持及び改善に有用な被膜形成外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
軟膏、クリーム剤、ローション剤及びゲル剤といった外用剤は、皮膚や粘膜といった凹凸面の激しい部位や伸び縮みをする疾患部位にも薬効成分を直接投与することができる等の優れた特徴を持っている。
しかし、その反面、塗布部位が衣服などに接触することで衣服などに付着してしまい、衣服を汚してしまうばかりか塗布部位の薬効成分が減少し効果の持続性に乏しいという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するものとして、例えば、被膜形成型外用液剤(特許文献1)が提案されている。この液剤では、メタクリル酸とアクリル酸エチル又はメタクリル酸メチルとの共重合体を配合し強固な被膜を形成させ、衣服などで拭い取られずに効果が持続するとされている。
【0004】
しかしながら特許文献1に開示された液剤は、共重合体の可溶化に低級アルコールの添加が必須であり、組成物中のエタノール及びイソプロパノールの合計量(重量%)として40.98%、52.5%、55.25%及び74.98%の実施例が示されている。さらに形成した被膜は石鹸を用いて洗い流す必要がある。皮膚疾患では、皮膚が刺激に対して敏感になっており、高濃度の低級アルコールの使用や石鹸による洗浄は避けることが望ましく、当該液剤の皮膚疾患への適用には問題があった。
【0005】
特許文献2には、エマルジョン型接着剤成分又はラテックス型接着剤成分によって被膜を形成させる外用製剤が提案されている。しかしながら、当該外用製剤は塗布24時間後においても強固な被膜が確認できるほどに残る上、被膜形成にあたり水分の蒸散を待つ乾燥時間が必要なため、利便性が極めて悪いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-2943号公報
【文献】特開2004-123633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、皮膚や粘膜の疾患に対し刺激を与えることなく、塗布直後から違和感のない被膜を形成することで、衣服等への付着を抑え、さらに薬効の持続性を持った被膜形成外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、長鎖炭化水素の酸、長鎖炭化水素のアルコール、長鎖炭化水素のエステル及び/又はそれらの塩を含めることで、衣服等への付着を抑え、水により容易に洗い流すことが可能な被膜が形成され、それにより薬効成分の効果を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤としては、例えばクリーム剤、ローション剤、スプレー剤、液剤などが挙げられ、好ましくはクリーム剤及びローション剤が挙げられる。
【0010】
即ち本発明は、
(1)下記成分(A)及び(B)を含有する、水中油型乳剤性の被膜形成外用剤:
(A)薬効成分
(B)長鎖炭化水素の酸、長鎖炭化水素のアルコール、長鎖炭化水素のエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の成分。
(2)前記成分(A)が局所で作用する成分である、(1)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(3)前記成分(A)が、保湿剤、副腎皮質ホルモン剤、乾癬治療剤、ざ瘡治療剤、白癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、ヘルペス治療剤、脱毛症治療剤、皮膚潰瘍治療剤、皮膚疾患治療剤、壊死組織除去剤及び局所麻酔剤から選ばれる1種又は2種以上である、(1)及び(2)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(4)前記成分(A)が水溶性である、(1)~(3)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(5)前記成分(B)が脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種である、(4)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(6)前記成分(B)がステアリン酸、ステアリン酸カリウム、セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物、セトステアリル硫酸ナトリウム、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール及びセタノールから選ばれる1種又は2種以上である、(5)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(7)前記成分(B)を0.1~40重量%含む、(6)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(8)前記成分(B)を2.5~30重量%含む、(7)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(9)前記成分(B)を5~15重量%含む、(8)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(10)前記成分(A)が脂溶性である、(1)~(3)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(11)前記成分(B)が脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種である、(10)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(12)前記成分(B)がステアリン酸、ステアリン酸カリウム、セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物、セトステアリル硫酸ナトリウム、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール及びセタノールから選ばれる1種又は2種以上である、(11)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(13)前記成分(B)を0.1~40重量%含む、(12)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(14)前記成分(B)を2.5~30重量%含む、(13)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
(15)前記成分(B)を5~15重量%含む、(14)に記載の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤。
に係る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中油型乳剤性の被膜形成外用剤は、塗布直後からハリ感が無く目視では確認できない被膜を形成する。被膜を形成することで衣服等への付着が抑えられ皮膚上に製剤が長く留まり、薬効を高めかつ維持することができる。使用後にむくように剥がさずとも必要に応じて水で容易に洗い流せるため、皮膚や粘膜に刺激を起こさない上に利便性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は試験例1に記載の方法で確認される被膜を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る薬効成分とは、特に限定されないが、例えば人用の医薬、医薬部外品や化粧品に用いられる皮膚や粘膜に作用する成分が挙げられ、好ましくは投与局所で効果を示す成分が挙げられ、特に好ましくは保湿成分が挙げられる。
【0014】
投与局所で効果を示す成分としては、例えば、保湿剤、副腎皮質ホルモン剤、乾癬治療剤、ざ瘡治療剤、白癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、ヘルペス治療剤、脱毛症治療剤、皮膚潰瘍治療剤、壊死組織処置剤、局所麻酔剤等が挙げられ、これらは単独でも2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0015】
保湿剤の成分としては、好ましくはヘパリン類似物質、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、グリセリン、マクロゴール、1,3-ブチレングリコール、尿素、プロピレングリコール、加水分解酵母エキス、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコース、マルトース、キシリトール、ソルビトール、スフィンゴ脂質、大豆レシチン、天然保湿因子、セラミドが挙げられ、より好ましくはヘパリン類似物質、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、グリセリン、マクロゴール、1,3-ブチレングリコール、尿素、プロピレングリコールが挙げられ、さらに好ましくはヘパリン類似物質、グリセリンが挙げられる。
【0016】
副腎皮質ホルモン剤としては、好ましくはデキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、アムシノニド、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、フルドロキシコルチド、クロベタゾン、フルオシノニド、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ジフルプレドナート、アルクロメタゾン又はそれらの塩もしくはエステルが挙げられ、より好ましくはデキサメタゾン吉草酸エステル、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルが挙げられる。
【0017】
乾癬治療剤としては、好ましくは副腎皮質ホルモン剤、レチノイド、ビタミンD3誘導体が挙げられ、より好ましくはカルシポトリオール、カルシポトリエン、タカルシトール、マキサカルシトール、ペフカルシトール、トレチノイントコフェリル、イソトレチノイン、エトレチナート、アダパレン、タザロテン、アシトレチン、アリトレチノイン、ベキサロテンが挙げられ、さらに好ましくはマキサカルシトール、ペフカルシトールが挙げられる。
【0018】
ざ瘡治療剤としては、好ましくは抗菌剤、レチノイドが挙げられ、より好ましくはトレチノイントコフェリル、イソトレチノイン、エトレチナート、アダパレン、タザロテン、アシトレチン、アリトレチノイン、ベキサロテン、オゼノキサシン、ナジフロキサシン、過酸化ベンゾイル、ファロペネムナトリウムが挙げられ、さらに好ましくはアダパレン、オゼノキサシン、過酸化ベンゾイル、ファロペネムナトリウムが挙げられる。
【0019】
白癬治療剤としては、好ましくは抗真菌剤が挙げられ、より好ましくはミコナゾール硝酸塩、スルコナゾール硝酸塩、オキシコナゾール硝酸塩、ビホナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、アモロルフィン塩酸塩、テルビナフィン塩酸塩、ブテナフィン塩酸塩、エフィナコナゾールが挙げられ、さらに好ましくはラノコナゾール、アモロルフィン塩酸塩が挙げられる。
【0020】
アトピー性皮膚炎治療剤としては、好ましくは副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤が挙げられ、より好ましくはシクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、エベロリムスが挙げられ、さらに好ましくはシクロスポリン、タクロリムスが挙げられる。
【0021】
ヘルペス治療剤としては、好ましくは抗ヘルペス剤が挙げられ、より好ましくはビダラビン、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルが挙げられ、さらに好ましくはファムシクロビル、アメナメビルが挙げられる。
【0022】
脱毛症治療剤としては、好ましくはミノキシジル、カルプロニウム塩化物、免疫抑制剤が挙げられる。
【0023】
皮膚潰瘍治療剤としては、好ましくは混合死菌、トレチノイントコフェリル、ヨウ素、ブクラデシンナトリウムが挙げられ、より好ましくは混合死菌、ヨウ素が挙げられる。
【0024】
壊死組織処置剤としては、好ましくはブロメライン、メトロニダゾールが挙げられる。
【0025】
局所麻酔剤としては、好ましくはリドカイン、リドカイン塩酸塩、プロピトカインが挙げられる。
【0026】
本発明で用いられる薬効成分としては、水溶性及び脂溶性の何れの成分も使用することができる。
【0027】
本発明で用いられる水溶性の薬効成分としては、水に対して日本薬局方に規定される「やや溶けやすい」「溶けやすい」「極めて溶けやすい」成分であり、ヘパリン類似物質、グリセリン、ネチコナゾール塩酸塩、テトラサイクリン塩酸塩、オキシテトラサイクリン塩酸塩、クリンダマイシンリン酸エステル、ゲンタマイシン硫酸塩、フラジオマイシン硫酸塩、ポリミキシンB硫酸塩、ファロペネムナトリウム、バラシクロビル塩酸塩、カルプロニウム塩化物、ブクラデシンナトリウム、アルプロスタジルアルファデクス、ブロメライン、リドカイン塩酸塩、プロカイン塩酸塩、ジブカイン塩酸塩等を例示することができる。
【0028】
本発明で用いられる脂溶性の薬効成分としては、水に対して日本薬局方に規定される「やや溶けにくい」「溶けにくい」「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」成分であり、デキサメタゾン、デキサメタゾン吉草酸エステル、デキサメタゾンプロピオン酸エステル、ベタメタゾン吉草酸エステル、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル、プレドニゾロン、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン酪酸エステル、アムシノニド、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、フルドロキシコルチド、クロベタゾン酪酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、フルオシノニド、ジフロラゾン酢酸エステル、ジフルコルトロン吉草酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ジフルプレドナート、アルクロメタゾンプロピオン酸エステル、カルシポトリオール、カルシポトリエン、タカルシトール、マキサカルシトール、ペフカルシトール、トレチノイントコフェリル、イソトレチノイン、エトレチナート、アダパレン、タザロテン、アシトレチン、アリトレチノイン、ベキサロテン、ミコナゾール硝酸塩、スルコナゾール硝酸塩、オキシコナゾール硝酸塩、ビホナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾール、ルリコナゾール、アモロルフィン塩酸塩、テルビナフィン塩酸塩、ブテナフィン塩酸塩、エフィナコナゾール、オゼノキサシン、ナジフロキサシン、過酸化ベンゾイル、メトロニダゾール、イブプロフェンピコノール、ウフェナマート、スプロフェン、ビダラビン、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビル、イミキモド、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、エベロリムス、ミノキシジル、混合死菌、トレチノイントコフェリル、ヨウ素、リドカイン、プロピトカイン等を例示することができる。
【0029】
本発明に係る長鎖炭化水素の酸及び長鎖炭化水素のアルコールとは、分子中に炭素数8~30の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の一価炭化水素基を有し、親水性基として、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基又は水酸基を有するものであり、薬学的または香粧品科学的に許容可能なそれらの塩を含む。
【0030】
前記カルボキシル基を有するものは、一般に高級脂肪酸と呼ばれることもあり、炭素数10~24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐脂肪酸が好ましい。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ミード酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0031】
前記水酸基を有するものは、一般に高級アルコールと呼ばれることもあり、炭素数10~24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐アルコールが好ましい。具体的には、カプリンアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、パルミトレイルアルコール、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール、リシノレイルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、リグノセリルアルコール等が挙げられる。
【0032】
本発明に係る長鎖炭化水素のエステルとは、前記カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基又は水酸基を有するもののエステル体であり、特に限定されないが、好ましくはグリセリン、ポリグリセリン、ソルビタン、プロピレングリコール、ショ糖、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリセリン、ポリオキシエチレンソルビタン、硫酸等とのエステル体が挙げられる。より好ましくはステアリン酸ポリエチレングリコール、セトステアリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0033】
本発明において、塩は薬学的又は香粧学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩等)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0034】
皮膚や粘膜等に塗布する外用剤は使用感の良いものが望まれるため、適度な固さや塗り広げやすさに調整することが行われる。本発明において、成分(B)の含有量は、特に限定はされないが、外用剤の硬さ、塗り広げやすさといった使用感の点から、本発明の被膜形成外用剤中の含量として0.1%~40重量%が好ましく、2.5%~30重量%がより好ましく、3.5~20重量%がさらに好ましく、5~15重量%が最も好ましい。
当該範囲内であれば、良好な被膜を形成することで薬効成分を塗布部位へ持続的に供給し、薬効を維持するとともに、乳剤性外用剤としての良好な使用感にも優れる。
【0035】
本発明の被膜形成外用剤は、上述した成分を必須とするが、本発明の効果を損なわない範囲で、通常、医薬、医薬部外品、化粧品等に配合される他の成分、例えば界面活性剤、油性成分水性成分を適宜配合することができる。
【0036】
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用することができる。
陽イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ヤシアルコールエトキシ硫酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン、イミダゾリン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
油性成分しては、例えば、炭化水素、油脂類、ロウ類等が挙げられる。これら油性成分は、使用目的に応じて適宜組み合わせて配合することができる。
炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、合成スクワラン、白色ワセリン、セレシンワックス、固形パラフィン、マイクロスタリンワックス等が挙げられる。
油脂類としては、オリーブ油、大豆油、ツバキ油、パーム油、ヒマシ油、セバシン酸ジエチル等が例示できる。
ロウ類の具体例としては、ミツロウ、カルナウバロウ、モクロウ、液状ラノリン、硬質ラノリン等が挙げられる。
【0038】
水性成分は、水、アルコール、増粘剤、pH調節剤等の通常水中油型乳化製剤において使用する水性の成分であれば特に限定することなく用いることができ、使用目的に応じて適宜組み合わせて配合することができる。
【0039】
アルコールとしては、例えば、ブタノール、プロパノール等の一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール、グリセリン等が挙げられる。但し、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールは皮膚に対し刺激を与え、揮発する際に角層内の水分も同時に蒸散し急激な乾燥状態になるため多量の配合は問題となる。刺激や乾燥を避けるためには組成物中の量(重量%)として40%未満が好ましく、10%未満がさらに好ましく、5%未満が最も好ましい。
【0040】
増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カラギーナン、キサンタンガム、ゼラチン等が例示できる。
【0041】
pH調節剤としては、例えば、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸、酒石酸、dl-リンゴ酸、氷酢酸等が挙げられる。
【0042】
本発明に係る乳剤性外用剤とは、油性成分と水性成分を界面活性剤によって乳化させた外用剤を指す。水中油型乳剤性とは最外相が水相である乳化物の総称を意味し、水中油中水型乳化剤型などの複合乳化剤型も包含し、特に限定されないが、複合乳化剤型ではないものが好ましい。
【0043】
本発明に係る被膜とは、皮膚や粘膜にハリ感を与えず、カス状に剥がれることなく皮膚になじむものであり、むくように剥がすことなく自然と消失するものである。皮膚上でその存在を感知できるほどの違和感はなく、試験例1に記載の方法により目視にて膜として検出される。
【0044】
本発明に係る被膜は、衣服などへの付着が抑えられた。人工皮革に本発明に係る被膜形成外用剤を塗布し、塗布直後に綿布を接触させ、綿布への付着量を評価すると、本発明に係る被膜形成外用剤は被膜を形成するため、被膜を形成しない製剤に比べて綿布への付着量が低い特性を有した。
【0045】
さらに、人工皮革に本発明に係る被膜形成外用剤を塗布し、一定時間静置後、綿布で摩擦した際の綿布への付着量を評価すると、本発明に係る被膜形成外用剤は被膜を形成するため、被膜を形成しない製剤に比べて綿布への付着量が低い特性を有した。
【0046】
本発明の被膜形成外用剤中に薬効成分は包含されており、被膜形成外用剤は皮膚や粘膜に塗布されることで被膜を形成する。被膜中に薬効成分は包含されているが、驚くべきことに、経時的に被膜から薬効成分が塗布部位に放出されることにより効果が維持される。
【0047】
本発明に係る被膜形成外用剤は、正常皮膚に比べ刺激に対して敏感になっている皮膚疾患の患部に塗布しても刺激感を起こさない。この皮膚疾患とは、皮膚、粘膜、爪又は頭皮といった、生体の表面を覆っている層の疾患を示し、例えば、アトピー性皮膚炎、乾癬、湿疹・皮膚炎群、痒疹群、掌蹠膿疱症、虫さされ、薬疹、紅皮症、瘢痕、ケロイド、苔癬、菌状息肉症、皮脂欠乏症、単純疱疹、帯状疱疹、ざ瘡、白癬、膿痂疹、白斑、軟属腫、脱毛症、天疱瘡、類天疱瘡、色素異常、脂漏性皮膚炎等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に試験例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【0049】
[試験例1]
【0050】
【0051】
1)調製方法
表1に記載の成分(合計100重量%)を用い、
成分1及び成分2~7を70℃以上で加温溶解し油相とする。
成分8及び9を70℃以上で加温攪拌し水相とする。
油相と水相を混合し、室温になるまで冷却攪拌する。
2)被膜形成の評価方法
調製した製剤を黒色アクリル板上の半径2.5cmの円内に塗布し、室温条件下に3時間静置後、40℃の湯浴に浸し、目視にて被膜形成の状態を確認した。
塗布量は4.8mg/cm2とした。
3)被膜形成の評価基準
・- :被膜無し
・± :被膜状様なものを確認
・+ :一部にのみ被膜を形成
・++ :薄い被膜を形成
・+++ :強固な被膜を形成
・++++ :非常に強固な被膜を形成
【0052】
長鎖炭化水素の酸、長鎖炭化水素のアルコール、長鎖炭化水素のエステル及び/又はそれらの塩を含む製剤例1~11は水中油型乳剤性のクリーム剤又はローション剤の形態を示し、被膜が確認された。被膜は湯浴に浸すことで、むくように剥がさずとも黒色アクリル板から分離された。確認された被膜の写真を
図1に示す。
【0053】
[試験例2]
【0054】
【0055】
1)調製方法
製剤例12~17
表2に記載の成分(合計100重量%)を用い、
成分2~10を70℃以上で加温溶解し油相とする。
成分1、12、13及び14を攪拌、溶解し、70℃以上で加温し水相とする。油相と水相を混合攪拌し、室温まで冷却攪拌する。
製剤例18~20
表2に記載の成分(合計100重量%)を用い、
成分2~10を70℃以上で加温溶解し油相とする。
成分1、11、12、13及び14(一部)を攪拌、溶解し、70℃以上で加温し水相とする。
油相と水相を混合攪拌する。
成分12及び14(残量)を添加し、室温まで冷却攪拌する。
製剤例12~20全てにおいて、水中油型乳剤性のクリーム剤又はローション剤の形態を示した。
2)皮膚刺激
雌性4週齢のモルモットの腹部皮膚を除毛し、各製剤を4.8mg/cm2となるように、均一に塗布した。各製剤の例数は5例とした。塗布前及び塗布1、3、6、9及び24時間後に、投与部位皮膚の刺激性を評価した。
製剤例12~20全てにおいて、投与部皮膚に紅斑や浮腫等の皮膚刺激は認められなかった。
3)角層水分量
雌性4週齢のモルモットの腹部皮膚を除毛し、各製剤を4.8mg/cm2となるように、均一に塗布した。各製剤の例数は5例とした。塗布前及び塗布1、3、6、9及び24時間後に、皮表角層水分量測定装置(株式会社ヤヨイ製:SKICON-200EX)のセンサープローブを投与部位に押し当ててコンダクタンスを測定した。なお、コンダクタンスは数値が大きいほど角層水分量が高いことを示す。
【0056】
【0057】
表中の数値は5例の平均値を示す。製剤例12~20には薬効成分として同量の保湿成分を含有しており、保湿成分の効果は角質水分量として確認することができる。
表3から、製剤例12~17として示される本発明の被膜形成外用剤は、塗布直後から製剤例18~20に比べて高い効果が得られ、その後も高い効果が長時間維持された。塗布9時間後においても、塗布3時間後値に匹敵する効果が維持されており、さらに24時間後においても、塗布3時間後値の約60%から約90%の効果を維持していることが確認された。
一方、被膜を形成しない製剤例18~20においては、塗布24時間後値は製剤例12~17の塗布3時間後値の約30%程度の効果を示すに留まり、効果の持続性は確認されなかった。
【0058】
[試験例3]
【0059】
【0060】
1)調製方法
製剤例21~23
表4に記載の成分(合計100重量%)を用い、
成分1と2を攪拌溶解させた後に、成分5~9を添加し70℃以上に加温混合し油相とする。
成分11及び12を攪拌し、水相とし、70℃以上に加温する。
油相に水相を投入し、高速攪拌後、室温になるまで冷却攪拌する。
製剤例24及び25
成分1と2を攪拌溶解させた後に、成分3又は4を添加し70℃以上に加温混合し油相とする。
成分10及び12(一部)を攪拌溶解後、70℃以上に加温し水相とする。
油相と水相を混合攪拌する。
成分11及び12(残量)を添加し、室温まで冷却攪拌する。
2)被膜形成の評価方法
調製した製剤を黒色アクリル板上の半径2.5cmの円内に塗布し、室温条件下に3時間静置後、40℃の湯浴に浸し、目視にて被膜形成の状態を確認した。
塗布量は2.8mg/cm2とした。
3)被膜形成の評価基準
・- :被膜無し
・± :被膜状様なものを確認
・+ :一部にのみ被膜を形成
・++ :薄い被膜を形成
・+++ :強固な被膜を形成
・++++ :非常に強固な被膜を形成
製剤例21~25全てにおいて、水中油型乳剤性のクリーム剤又はローション剤の形態を示し、長鎖炭化水素の酸、長鎖炭化水素のアルコール、長鎖炭化水素のエステル及び/又はそれらの塩を含む製剤例21~23は被膜が確認された。
4)In vitro経皮吸収試験
・使用皮膚:ヘアレスマウス背部皮膚
・使用装置:In vitro経皮吸収自動サンプリングシステム(商品名:Microette Plus、ハンソンリサーチ社製)
・適用量:2.8mg
・レセプター液:PBS緩衝液(pH7.4、液温32℃)
・サンプリング時点:試験開始後、12時間、24時間、72時間及び84時間の時点
・試験回数:製剤例毎に3回
5)タクロリムスの測定
・使用装置:LC/MS/MS装置(Triple Quad 6500+、AB SCIEX社製)、液体クロマトグラフ装置(島津社製)
・カラム:Inertsil ODS-SP(ジーエルサイエンス社製)
・移動相:移動相A;0.1%ぎ酸含有5mmol/Lぎ酸アンモニウム水溶液
移動相B;アセトニトリル
・移動相流速:0.8mL/分
・モニターイオン:(Q1)m/z 822.400、(Q3)m/z769.300
・固相抽出プレート(OASIS HLB μElution plate、Water社製)
【0061】
【0062】
表中の数値は3例の平均値を示す。製剤例21~25には薬効成分として脂溶性化合物であるタクロリムス水和物が同量含まれており、タクロリムスの効果は皮膚を透過した量として確認することができる。なお、タクロリムス水和物を薬効成分として含有するプロトピック軟膏の添付文書によると、プロトピック軟膏塗布後6時間までにタクロリムスは最高血中濃度に達する。
表5から、製剤例21~23として示される本発明は、皮膚透過の早期の時点である適用後12時間及び皮膚透過の定常状態にある適用後12~24時間の皮膚透過量が、適用後72~84時間においても同程度に維持できることが確認された。
一方、被膜を形成しない製剤例24及び25においては、皮膚透過量は時間経過と共に速やかに減少し、適用後72~84時間での皮膚透過量は適用後何れの時間間隔に対しても半分以下に留まり、効果の持続性は確認されなかった。
【0063】
[試験例4]
【0064】
【0065】
1)調製方法
[試験例1及び2]に記載の製剤例1~6及び18を用いた。
2)接触試験方法
人工皮革の直径4cmの円内に各製剤を20mg(成人の体表面積のおよそ2%に対する適量)塗布し、塗布直後に直径3.5cmのプラスティック製円柱を覆った綿布を、進入距離1.2mmで10回接触させ綿布への製剤付着量を測定した。
3)摩擦試験方法
人工皮革の5.2×7.2cmの面積に各製剤を60mg(成人の体表面積のおよそ2%に対する適量)塗布し、23℃で15分間静置後に質量55g、大きさ3.5×1.5cmのアームを覆った綿布を、移動速度毎秒1mm、移動距離3cmで30往復させ綿布への製剤付着量を測定した。
【0066】
接触試験及び摩擦試験共に、製剤例1~6は被膜を形成するため、被膜を形成しない製剤例18に比べて綿布への付着量が低い特性が確認された。