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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】摩擦体並びに筆記具及び筆記セット
(51)【国際特許分類】
   B43K 29/02 20060101AFI20230414BHJP
   B43L 19/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B43K29/02 F
B43L19/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018557634
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2017042836
(87)【国際公開番号】W WO2018116767
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2016245347
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】千賀 邦行
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】藤本 義仁
【審判官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-123324(JP,A)
【文献】特開2012-82401(JP,A)
【文献】特開2004-244489(JP,A)
【文献】特開2016-165842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 29/00-/31/00,1/00-1/12,5/00-8/24
C09D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変色性インキによる筆跡を摩擦熱で変色させる摩擦体であって、粘弾性体を含み、ショアA硬度(JIS K 7215に準拠)の押針接触開始直後の値が、60以上91以下の範囲にあり、
前記ショアA硬度の下式で定義される値(ΔHS)が、10以上25以下である摩擦体。
ΔHS=(押針接触開始直後のショアA硬度値-押針接触開始から15秒後のショアA硬度値)
【請求項2】
粘弾性体が、αオレフィン系コポリマーを含む請求項1に記載の摩擦体。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の摩擦体を備え、熱変色性インキを内蔵する筆記具。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の摩擦体と、熱変色性インキを内蔵する筆記具とを含む筆記セット。
【請求項5】
前記熱変色性インキが金属光沢顔料を含む請求項3又は4に記載の筆記具又は筆記セット。
【請求項6】
前記金属光沢顔料の平均粒子径が10μm以上である請求項5に記載の筆記具又は筆記セット。
【請求項7】
前記熱変色性インキが熱変色性マイクロカプセル顔料を含む請求項3から6のいずれかに記載の筆記具又は筆記セット。
【請求項8】
前記熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が2μm以上である請求項7に記載の筆記具又は筆記セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦体並びに筆記具及び筆記セットに関する。更には、熱変色性インキによる筆跡を熱変色させるための摩擦体と、それを備える筆記具、並びに摩擦体及び筆記具を含む筆記セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱変色性インキを内蔵することで、形成した筆跡を加熱して消色や変色させることができる熱変色性筆記具が広く普及している。前記筆記具では、紙面に形成した筆跡を素早く且つ容易に熱変化させるために、弾性体からなる摩擦体が適用されており、軸筒の後端や口金、キャップ等に一体に形成される他、別体で設けられることで実用に供される(例えば、特開2009-285927号公報、特開2009-143207号公報及び特開2011-136556号公報参照)。
【0003】
前記特許文献で開示される、現在市場に流通している摩擦体は、弾性体であるため、着色成分として熱変色性材料のみを用いる現状の熱消色性インキによる筆跡に対しては、擦過することで摩擦熱により化学的に消色することができる。しかしながら、メタリック調の筆跡とすることを目的に、金属光沢顔料を熱変色性インキ中に添加した場合、該インキによる筆跡を摩擦することで熱消色性材料は消色するものの、金属光沢顔料は筆跡上に残るために筆跡が十分に消去されたように視認できない。更に、金属光沢顔料が筆跡周辺の紙面に散らばってしまうことで、見栄えを損なうものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前述の不具合を解消するものであって、熱変色性インキ中に金属光沢顔料が添加される新規構成のインキによる筆跡であっても、該筆跡を摩擦することで熱変色性材料の消色や変色と、金属光沢顔料の剥離を同時に行うことができる、化学的消去性と物理的消去性を兼ね備えた新規の摩擦体を提供することを目的とするものである。更に、前記摩擦体を用いることで、新規構成のインキにより形成される筆跡に対する不具合の解消が可能となり、消去時に見栄えを損なうことなく十分な筆跡消去性が確保できる利便性と実用性に優れた筆記具と、筆記セットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、熱変色性インキによる筆跡を摩擦熱で変色させる摩擦体であって、粘弾性体を含み、ショアA硬度(JIS K 7215に準拠)の押針接触開始直後の値が、55以上90以下であることを要件とする。
【0006】
更に、前記摩擦体は、ショアA硬度の下式で定義される値(ΔHS)が、5以上40以下であってもよい。
ΔHS=(押針接触開始直後のショアA硬度値-押針接触開始から15秒後のショアA硬度値)
【0007】
更に、前記摩擦体は、粘弾性体にαオレフィン系コポリマーを含んでいてもよい。
【0008】
更には、前記いずれかに記載の摩擦体を備え、熱変色性インキを内蔵する筆記具、又は前記いずれかに記載の摩擦体と、熱変色性インキを内蔵する筆記具とを含む筆記セットを要件とする。
【0009】
更に、前記熱変色性インキが金属光沢顔料を含んでいてもよく、前記金属光沢顔料の平均粒子径が10μm以上であってもよく、前記熱変色性インキが熱変色性マイクロカプセル顔料を含んでいてもよく、前記熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が2μm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、熱変色性インキ中に金属光沢顔料等の粒子を添加した新規構成のインキによる筆跡であっても、該筆跡を摩擦することで熱変色性材料の消色や変色と、粒子の剥離を同時に行うことができるという、化学的消去性と物理的消去性を兼ね備えた新規の摩擦体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】摩擦体を備えた筆記具の一実施例を示す縦断面図である。
図2】摩擦体と熱変色性筆記具からなる筆記セットの一実施例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「上」、「前」とは、摩擦体の筆跡接触部方向を示し、「下」、「後」とは、反対側を示す。また、筆記具においては、「前」とはペン先側を示し、「後」とは軸筒側を示す。また、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
<摩擦体>
摩擦体は、粘弾性体を含み、JIS K 7215に準拠するショアA硬度の押針接触開始直後の値が、55以上95以下の範囲を示すものである。前記摩擦体は、従来の摩擦体と同様に、熱変色性インキによる筆跡を擦過することで摩擦熱によって筆跡を消色、変色させるために用いられる。その際、弾性体として作用することで摩擦熱を発し、粘性体として作用することで吸着剥離性能が得られるため、一つの摩擦体で化学的消去性と物理的消去性を兼ね備えることができる。
【0014】
前記摩擦体を用いることで、新規構成のインキによる筆跡であっても、消去時に筆跡やその周辺に残色を生じて見栄えを損なうことがなく、十分な筆跡消去性が確保できる利便性と実用性に優れた筆記具及び筆記セットが得られる。その際、従来の筆記具本体に設けられている摩擦体と同様に、一部材で形成できるため、筆記具外装がそのまま利用できる汎用性が高いものとなる。また前記摩擦体は、従来の消しゴムと類似の作用を発現できることから、例えば紙面から黒鉛を剥離することも可能となる。そのため、ひとつの摩擦体で熱変色性インキの熱変色と、鉛筆芯、シャープ芯等による筆跡の除去とを可能にする新しい消去具を構成できる。
【0015】
粘弾性体とは、粘性体としての性質と弾性体としての性質とを兼ね備える材料からなるものである。一般に、粘性体では外力に応じて変形し、外力がなくなっても元の形には戻らない。一方、弾性体では外力に応じて変形するが、外力がなくなれば元の形に戻る。ある材料が粘弾性体か、あるいは粘性体または弾性体に近いのかは、例えば、その材料に一定のひずみを与えたときの応力緩和(応力の時間変化)の緩和時間を見ることで判別できる。緩和時間が観測の時間スケールに対して十分短ければ粘性体、長ければ弾性体であるといえ、同等のスケールであれば粘弾性体ということができる。具体的には例えば、ショアA硬度の測定において、押針接触開始直後のショアA硬度値から、押針接触開始から15秒後のショアA硬度値を差し引いた差分が5以上40以下であれば、本発明における粘弾性体であるといえる。
【0016】
粘弾性体としては、特に限定されず、例えば、ゴム成分、樹脂成分、エラストマー成分等の高分子材料を用いることができ、必要に応じて各種成分が添加されていてもよい。特に、αオレフィン系コポリマーにパラフィン系オイルが添加されてなる粘性の高いαオレフィン系コポリマー組成物を主成分とするものが好適である。具体的には、前記粘性の高いαオレフィン系コポリマー組成物を主成分とし、そこに弾性体であるポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、更には弾性の少ない結晶性ポリオレフィンを適宜溶融混合し、粘弾性を調整することで得られる樹脂組成物が摩擦体の材料として好適である。それらの混合比率は、成形等の加工性や、摩擦熱の発生効率、顔料粒子の剥離性の観点から選択できる。
【0017】
特に摩擦体は、JIS K 7215に準拠したショアA硬度において、ΔHS=(押針接触開始直後のショアA硬度値-押針接触開始から15秒後のショアA硬度値)で定義される値(ΔHS)が、例えば5以上40以下であり、好ましくは10以上30以下、より好ましくは15以上25以下である。前記上限値以下であると、紙面上の筆跡を擦過した際に、摩擦熱をより効率的に発生させることができる。また前記下限値以上であると、粒状物(顔料)をより容易に吸着剥離できるものとなる。尚、前述のΔHSは、高分子材料においてはコモノマー種及びコモノマー組成によって任意に変えることができる他、複数種を混合することでも任意に設定できる。
【0018】
更に、前記摩擦体は、前記押針接触開始直後のショアA硬度値が55以上95以下の範囲にあるが、好ましくは70以上、より好ましくは80以上である。押針接触開始直後のショアA硬度値が前記下限値以上であるものは、特に摩擦熱の発生効率が高く、筆跡を容易に熱変色させることができることからより好適である。尚、前記ショアA硬度値は、ショアD硬度を測定した値を換算したものであってもよい。
【0019】
前記摩擦体を構成するαオレフィン系コポリマーは、例えば、炭素原子数2から20のαオレフィンから選ばれる少なくとも2種のαオレフィンに由来する構成単位を含んで構成される。コポリマーを形成するαオレフィンは、例えば、4-メチル-1-ペンテンと、4-メチル-1-ペンテン以外のαオレフィンの少なくとも1種とを含む。4-メチル-1-ペンテン以外のαオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン等を挙げることができ、エチレン及びプロピレンの少なくとも一方を含むことが好ましい。αオレフィン系コポリマーは、例えば、5モル%以上95モル%以下の4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位と、5モル%以上95モル%以下の4-メチル-1-ペンテン以外のαオレフィンに由来する構成単位とを含むことができる。またαオレフィン系コポリマーは、10モル%以下の非共役ポリエンに由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。
【0020】
αオレフィン系コポリマーは、135℃のデカリン中での極限粘度(dL/g)が、例えば、0.01dL/g以上5dL/g以下であり、好ましくは0.5dL/g以上2.5dL/g以下である。またαオレフィン系コポリマーの重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は、例えば、1以上3.5以下、好ましくは1.5以上2.5以下である。また重量平均分子量(Mw)は、例えば、1,000以上2,500,000以下である。なお、αオレフィン系コポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算値である。
【0021】
前記摩擦体は、前記αオレフィン系コポリマーを含む樹脂組成物で構成されていてもよい。樹脂組成物は、前記αオレフィン系コポリマーに加えて、耐候安定剤、耐熱安定剤、可塑剤、軟化剤、加工助剤等の添加剤等を含むことができる。軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、ポリエチレンワックス、パラフィン系オイル等の石油系物質;コールタール類;脂肪油;ロウ類;エステル系可塑剤などを挙げることができる。
【0022】
前記αオレフィン系コポリマーを含む樹脂組成物は、機械物性の観点から、熱可塑性樹脂の少なくとも1種を更に含むことが好ましい。樹脂組成物は、例えば、5重量部以上49重量部以下の前記αオレフィン系コポリマーと、51重量部以上95重量部以下の熱可塑性樹脂とを含むことができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル芳香族系樹脂、ポリウレタン共重合体ゴム等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体、1-ブテン・αオレフィン共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。ビニル芳香族系樹脂としては、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、スチレン系エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレンブロックポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックポリマー、スチレン・イソブチレン・スチレンブロックポリマー、水素添加物ポリスチレン)等が挙げられる。前記αオレフィン系コポリマーを含む樹脂組成物の詳細については例えば、国際公開第2011/055803号の記載を参照して、所望のショアA硬度、ΔHSを有する樹脂組成物を構成することができる。
【0023】
前記摩擦体は、筆跡を擦過できる形態で構成され実用に供される。その際、摩擦体は単独で構成される他、摩擦部分が筆跡(紙面)に接触できる形態で硬質樹脂等の他部材へ併設する等、把持できる状態で構成されればよい。その他、熱変色性インキを内蔵する筆記具に設けた熱変色性筆記具形態や、別体からなる熱変色性インキを内蔵する筆記具とともに筆記セット形態として構成することができる。
【0024】
<熱変色性筆記具>
前記摩擦体とともに適用される筆記具としては、熱変色性インキを収容し、熱変色性の筆跡を形成できるものであれば水性インキ、油性インキを問わず、どのような形態であってもよい。尚、本発明による熱変色性インキとは、筆跡を形成する材料の総称であり、鉛筆芯等の形態も含む。以下に詳細を説明する。
【0025】
前記筆記具に収容される熱変色性インキとしては、従来汎用の加熱により消色或いは変色可能なインキがいずれも適用できる。尚、インキ中に配合される着色剤としては、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、及び前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物を用いたものが好適であり、特に、可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させてなるマイクロカプセル顔料が有効である。
【0026】
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔHが1℃以上7℃以下)を有する可逆熱変色性組成物が例示でき、これをマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
【0027】
更に前記可逆熱変色性組成物として、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH値が8℃以上50℃以下)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示すものが例示できる。ヒステリシス特性が大きいとは、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色することを意味する。このような可逆熱変色性組成物は、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有し、これを内包する加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
【0028】
尚、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50℃以上0℃以下、好ましくは-40℃以上-5℃以下、より好ましくは-30℃以上-10℃以下、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱で得られる温度、即ち50℃以上95℃以下、好ましくは50℃以上90℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下の範囲に特定し、ΔH値を40℃以上100℃以下に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができるものを挙げることができる。
【0029】
マイクロカプセル顔料とする場合、その平均粒子径が例えば0.05μm以上5.0μm以下、好ましくは0.1μm以上4.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上3.0μm以下の範囲のものが筆記性能と筆跡濃度の点から好適である。更に、本発明の摩擦体を用いた消色性能をより効率的に発揮することを目的とし、マイクロカプセル顔料の平均粒子径を2.0μm以上とした際には、摩擦熱による化学的消色と、吸着剥離による物理的消去を利用した消色(変色)が可能となるため、不可逆的な消去や変色には高い効果を発揮する。尚、平均粒子径は、マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0030】
また、全ての粒子或いは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、製品名:Multisizer 4e)を用いてコールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として平均粒子径を測定することも可能である。
【0031】
更に、着色剤成分として、筆跡に熱変色を伴わない所望の色相を付与するために、染料や一般顔料等を使用することが可能である。例えば、染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。一般顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に媒体中に分散された分散顔料製品等が用いられる。その他、金属粉やパール顔料等の金属光沢顔料、蛍光顔料、蓄光性顔料、二酸化チタン等の特殊顔料も適用できる。尚、これらの着色成分は前述のマイクロカプセル顔料と併用されてもよいし、前述のマイクロカプセル顔料中に内包させることもできる。
【0032】
特に、金属光沢顔料を熱変色性インキに添加した場合、メタリック調のインキが構成できるため、筆記時には光沢感を備えた装飾性に富んだ筆跡が形成され、より有用なものとなる。また、前述の熱変色性マイクロカプセル顔料を着色剤として使用した際には、前記熱変色性マイクロカプセル顔料が透明化した際に得られる白紙上の筆跡が、光輝性もなく完全に消去したように視覚されることから、透明性金属光沢顔料が有用である。
【0033】
前記筆跡を消去する場合、熱変色と剥離除去をする必要があるために、従来はショア硬度が大きい弾性体からなる摩擦体と、ショア硬度が小さい弾性体や消しゴムの二種類を用いる必要があった。しかしながら、本発明の摩擦体であれば、一つの摩擦体を用いた一度の擦過で、摩擦熱と吸着剥離による消色(変色)が可能となるため、特に利便性が高いものとなる。特に、使用する金属光沢顔料の平均粒子径が10μm以上である場合には、光輝性の高い筆跡が得られるとともに、吸着剥離性が高くなるため、筆跡装飾性と不可逆的消去性に高い効果を発揮する。
【0034】
前記透明性金属光沢顔料としては、天然雲母、合成雲母、偏平ガラス片、薄片状酸化アルミニウム等から選ばれる材料を芯物質とし、前記芯物質を金属酸化物で被覆した光輝顔料、コレステリック液晶型光輝顔料が挙げられる。
【0035】
天然雲母を芯物質とする光輝顔料は、その表面に酸化チタンを被覆したもの、前記酸化チタンの上層に酸化鉄や非熱変色性染顔料を被覆したもの等が有効であり、具体的には、メルク社製の商品名「イリオジン」、エンゲルハード社製の商品名「ルミナカラーズ」等を例示できる。
【0036】
合成雲母を芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したものが有効であり、金属酸化物としては、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物を例示でき、好適には酸化チタンを主成分とする金属酸化物が挙げられる。具体的には、日本光研工業(株)製の商品名「アルティミカ」等を例示できる。
【0037】
偏平ガラス片を芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したもの等が有効であり、具体的には、日本板硝子(株)製の商品名「メタシャイン」等を例示できる。
【0038】
薄片状酸化アルミニウムを芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したものが有効であり、金属酸化物としては、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物を例示でき、好適には酸化チタンを主成分とする金属酸化物が挙げられる。具体的には、メルク社製の商品名「シラリック」等を例示できる。
【0039】
コレステリック液晶型光輝顔料として用いられる液晶ポリマーは、光の干渉効果によって広いスペクトル領域で入射する光の一部の領域のみが反射し、これ以外の領域は全て光が透過する性質を有するものであり、優れた金属光沢と視点により色相が変化するカラーフロップ性を有する。また、透明性も有する。前記コレステリック液晶型光輝顔料として具体的には、ワッカーケミー社製の商品名「ヘリコーンHC」等を例示できる。
【0040】
また、フィルムに金、銀等金属を真空蒸着させた後、箔を剥離して細かく粉砕した光輝性材料として、尾池工業(株)製の商品名「エルジーneo」等を例示できる。
【0041】
前記金属光沢顔料は、その平均粒子径が0.1μm以上50μm以下、好ましくは2μm以上40μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下の範囲のものが筆記性能と輝度の点から好適である。尚、平均粒子径の測定はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製;LA-300〕を用いて粒子径分布を測定し、その数値を基に体積基準で平均粒子径(メジアン径)を算出する。
【0042】
特に、平均粒子径が10μm以上のものは輝度が極めて高い反面、筆記時に紙面内に浸透し難い。そのため、弾性体からなる従来の摩擦体での擦過では散らばる傾向があり、視認角度によっては擦過部分全体に散乱した金属光沢顔料が視覚され、見栄えを損なうことがある。特に、黒紙上では高い輝きが強調されるため、更に見栄えが悪いものとなる。一方、粘弾性体からなる摩擦体を用いて擦過することで、前記金属光沢顔料を吸着することが可能となり、擦過部分に散乱させることなく剥離し、筆跡をきれいに消去することができる。従って、金属光沢調熱変色性インキによる筆跡は、摩擦熱による化学的消色と、吸着剥離による物理的消去を利用した消色(変色)が可能となるため、不可逆的な消去や変色には特に高い効果を発揮する。
【0043】
熱変色性インキには、その他必要に応じて、各種添加剤を添加することもできる。水性インキであれば、従来適用されるような、pH調整剤、防錆剤、防腐剤或いは防黴剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、潤滑剤、樹脂等の定着剤、剪断減粘性付与剤、ペン先乾燥防止剤、垂れ下がり防止剤等を添加することができる。また、油性インキであれば、従来適用されるような、粘性調節剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、潤滑剤、分散剤、カスレ防止剤、洩れ防止剤、界面活性剤等を添加することができる。
【0044】
前記熱変色性インキを収容する筆記具の形態としては、万年筆、マーキングペン、ボールペン、繰り出し式固形筆記具等が挙げられ、ペン先(チップ)を覆うキャップを備えたキャップ式形態の他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式形態であってもよい。出没式形態とする場合、レフィルを一本収容するタイプだけでなく、二本以上収容して所望のレフィルを選択的に出没できる複式タイプとすることもできる。また、相異なる形態のペン先を装着させたり、相異なる色相のインキを導出させるペン先を装着させたりする両頭式形態であってもよい。
【0045】
前記マーキングペンとしては、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、金属チップ等のマーキングペン用ペン先を筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させて筆記先端部に所定量のインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、弁機構により筆記先端部に所定量のインキを供給する構造のマーキングペン等が挙げられる。
【0046】
ボールペンとしては、例えば、軸筒内にインキ組成物を充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したチップに連通しており、更にインキの端面にはインキ逆流防止体が密接する構造、チップを軸筒先端に接続し、該軸筒内にインキ組成物を直に充填すると共に、インキの端面にインキ逆流防止体が密接する構造、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、チップにインキを供給する構造、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させてチップに所定量のインキを供給する構造のボールペン等が例示できる。
【0047】
前記熱変色性筆記具形態における摩擦体は、前述の筆記具を構成する筆記具外装に一体又は別体(即ち、筆記セット形態)で設けられ、その摩擦面が筆跡(紙面)に接触可能な構造となっている。具体的な外装としては、キャップ、クリップ、頭冠、口金、軸筒、尾栓、グリップ、ノック部材(出没機構用押圧部材)等が挙げられる。更に、被覆部材を被せて保管時に汚れを防止する構造であってもよい。別体で形成する場合、粘弾性体単独で構成する他、硬質材料とともに構成することもできる。
【実施例
【0048】
本発明の実施例を以下の図面に従って説明する。尚、組成物中の数値は質量部を示す。熱変色性顔料の平均粒子径は、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、製品名:Multisizer 4e)を用いてコールター法により等体積球相当径を測定して求めた値である。また金属光沢顔料の平均粒子径は、堀場製作所製レーザ式粒子径分布測定機LA-300を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、そのメジアン径の値である。ショアA硬度は、JIS K 7215に準拠した方法で手押し式デュロメータによる押圧測定で得られた値である。
【0049】
図1は本発明の熱変色性筆記具を表す一例の図であり、図2は摩擦体と熱変色性筆記具からなる筆記セットを表す一例の図である。
【0050】
実施形態1(図1参照)
実施例1
αオレフィン系共重合体にパラフィン系オイルを添加してなる粘弾性ポリオレフィン系エラストマーと、スチレン系エラストマーと、結晶性ポリプロピレンとからなるペレット混合物を用いて、前方に筆跡接触部11となる曲面を有し、後方に係止部を有する段付円柱形に射出成型することで、乳白色の摩擦体1を得た。
得られた摩擦体1のショアA硬度は、押針接触開始直後:85、押針接触開始から15秒後:60であり、下式で定義される値の変化(ΔHS)が25であった〔ΔHS=(押針接触開始直後のショアA硬度値-押針接触開始から15秒後のショアA硬度値)〕。
尚、摩擦体1の上方縁部は、面取りにより筆跡接触部(摩擦部分11)を形成することで、筆跡(紙面)を擦った際に安定感のある擦過摩擦がし易い構造となっている。
【0051】
得られた摩擦体1を、操作部84のスライド押圧操作によって回転カムを可動し、収容する筆記具レフィル4のペン先5を出没させる出没式形態の筆記具軸筒82の後端に設けられる係止孔81に装着することで、図1の熱変色性筆記具3を得た。すなわち、熱変色性筆記具3は、筆記具本体8と筆記具本体8の係止孔81に装着される摩擦体1とを備える。
【0052】
具体的には、前記軸筒82は、筆記具レフィル4のペン先(ボールペンチップ)5を突出可能な先端開口部82cが軸方向に貫設される円筒体である前軸82bと、該前軸82bの後端部と螺合する円筒状の後軸82aによって構成され、出没機構が内設される。尚、前記後軸82aは、摺動体84aを組み付けるために前後方向に分割可能な二部材から構成されており、更に内面には、回転カム誘導用の軸方向溝部が、内周に亘って等間隔に複数本形成されている。前記後軸82aの後方側壁(即ち、分割可能部分)には、前後方向に延びる細長状の窓孔が径方向に貫設され、該窓孔から外部に突出するように摺動体84aの操作部84が配設される。
尚、摺動体84a前方に配設されるレフィル保持部85には、前端にボールが回転可能に抱持されたボールペンチップ5と、該ボールペンチップ5を前端に備え且つ後端が開口された金属製パイプからなるインキ収容筒6とから構成され、チップ5とインキ収容筒6が透明性を有する樹脂製接続部材7によって接続されるレフィル4が接続されている。
【0053】
前記摺動体84aは、窓孔から外部に突出する操作部84を備え、該操作部84のスライド(押圧)操作によりレフィル保持部85(回転カム)を前方に移動するとともに回転を誘導するように先端に複数の鋸歯状凸部を形成した樹脂成形物である。そのため操作部84を前方に移動することで、レフィル4のペン先5が先端開口部82cから突出する。
【0054】
前記摺動体84a前方に配設されるレフィル保持部85は、レフィル4を挿嵌する接続部材であるとともに、出没機構を構成する回転カムとして機能するものである。
前記レフィル保持部85は、摺動体前端の鋸歯状凸部と係合可能な段部を後端に備え、前方の略中心にレフィル4が圧入嵌合される挿嵌孔が形成される略円筒状樹脂成形物である。また、円筒外面には、回転カム機構を構成する複数本のリブが、外周に亘って等間隔に形成されている(図示せず)。
更に、前端外縁には、外周に亘って段部が形成され、該段部により圧縮コイルスプリングからなる弾発部材83の後端を係止している。尚、前記弾発部材83の前端は、軸筒内に固設される樹脂製の係止部材86によって係止される。そのため、レフィル保持部85が弾発部材83により後方に付勢されており、加えてレフィル保持部85外周と軸筒内面とで回転カム機構が構成されることで、出没可能な筆記具構造となっている。
【0055】
前記の後軸82aの頂部(分割可能部分の後端)には、軸方向に貫通する係止孔81が摩擦体取付部として設けられている。前記係止孔81の開口部近傍内壁面には、二本のリングビードが形成されており、摩擦体1下側を挿入することで圧入嵌合状態となり、更に係止部12で係止されている。そのため、使用時には外れ難いが、交換時には引き抜くことが可能な構造となっている。
【0056】
前記レフィル4内には、熱変色性インキ組成物61及びインキ追従体組成物62が内蔵されている。
【0057】
前記インキ61として具体的には、可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包した可逆熱変色性顔料(発色温度:-10℃、消色温度:65℃、平均粒子径:2.5μm、ピンク色から無色に色変化する)11部、合成雲母の表面を金属酸化物で被覆した透明性金属光沢顔料〔メルクジャパン(株)製、商品名:イリオジン6103Icy White、平均粒子径25μm、銀色〕3部、金属蒸着樹脂顔料〔尾池工業(株)製、商品名:エルジーneoシルバー#325、平均粒子径35μm、銀色〕2部、剪断減粘性付与剤(キサンタンガム)0.3部、尿素10部、グリセリン10部、ノニオン系浸透性付与剤〔サンノプコ(株)製、商品名:SNウエット366〕0.6部、疎水シリカ系消泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ8034〕0.1部、防腐剤〔ロンザジャパン(株)製、商品名:プロキセルXL-2〕部、水62.9部からなる金属光沢調の熱変色性水性インキ組成物である。
【0058】
インキ追従体62として具体的には、ポリブテン98.5部を基油として、脂肪酸アマイド1.5部を増粘剤として添加した後、3本ロールにて混練して得られたものである。
【0059】
前記構成からなる熱変色性筆記具3の筆記時には、摺動体84aの操作部84を前方にスライド押圧することで、回転カムを兼ねるレフィル保持部85が前方へ移動して回転保持されるため、該レフィル保持部85前方に嵌着される筆記具レフィル4のペン先5が先端開口部82cから突出した状態で保持され筆記可能状態となる。
前記状態で紙面(筆記用紙A)に形成されたインキ61による筆跡は、熱変色性顔料によるピンク色の筆跡中に、銀色の光輝性顔料が分散されたメタリックピンク色を呈するものであった。また、黒色用紙に筆記した際には、同様の色相であるが、特に光輝性が高い筆跡が得られた。
【0060】
前記各筆跡は、装着した摩擦体1で消去することができる。
具体的には、摩擦部分11で筆跡を繰り返し擦ることで、摩擦体1が弾性体としての性能を発揮し、摩擦熱が発生して熱変色性顔料が透明化する。その際、粘性体としての性能も発揮することで、光輝性顔料が吸着され、紙面から剥離される。そのため、紙面上を汚染することなく、筆跡がきれいに消去される。特に、黒色用紙上に光輝性顔料が残った場合、視認角度によることなく光輝性が視覚されるため、本発明の摩擦体1の使用が特に有用なものとなる。
【0061】
前記実施例1及び他の実施例2~7と比較例の摩擦体1(比較例3,4は消しゴム)について、以下の表1に硬度と試験結果を記載する。
尚、前記実施例1~7の摩擦体は、いずれもαポリオレフィン系コポリマー、オレフィン系あるいはスチレン系エラストマー、及び結晶性ポリオレフィンの混合物であり、例えば、実施例6の摩擦体では、αポリオレフィン系コポリマー40%、スチレン系エラストマー40%、及び結晶性ポリプロピレン20%からなる。また、比較例1はスチレン系エラストマー(アロン化成:AR‐885C)、比較例2はポリエステル系エラストマー(三菱化学:B1910N)、比較例3、4は市販の塩ビ消しゴム(比較例3:ぺんてる社製、比較例4:パイロットコーポレーション社製)である。
【0062】
【表1】
【0063】
また、前述の実施例1と同様に、前記ボールペンによる筆跡を用いて行った試験方法を以下に示す。
消去性試験
前記ボールペンにより、白色筆記用紙A及び黒紙(厚さ:0.09mm、目付量:80g/m)に手書きで螺旋状の丸を10個連続筆記した後、各用紙の筆跡を摩擦体1で擦過して消色させた際の状態を目視により確認した。
更に、擦過後に摩擦体からの消しカスの発生の有無を確認した。
【0064】
試験結果の評価は以下の通りである。
消去性試験
A:残色を生じることなく筆跡が消去された。
B:熱変色性の筆跡又は金属光沢性の筆跡が薄く残った。
C:熱変色性の筆跡又は金属光沢性の筆跡(顔料)が消去されなかった。
【0065】
消しカスの発生
A:実用上問題なかった。
B:表面が剥離して消しカスが摩擦体に付着し、実用上問題があった。
C:多量の消しカス(消しゴム屑)が発生し、実用上問題があった。
【0066】
実施形態2(図2参照)
実施形態1の実施例及び比較例1、2で用いた材料を略楕円板状に射出成形し、硬質PP樹脂からなる略楕円柱支持体2の先端に嵌合することで摩擦体1を形成した。
【0067】
更に、可逆熱変色性顔料の色相を青色から無色に色変化するものに、透明性金属光沢顔料をメルクジャパン(株)製、商品名:イリオジン6107(平均粒子径25μm、銀色)に変えた以外は同様にして得られる金属光沢調の熱変色性水性インキ組成物61を調製した。
得られたインキ組成物61を、実施形態1の筆記具本体8(レフィル4内)に収容することで、出没式形態の熱変色性筆記具3を得た。
前記インキ61による白紙への筆跡は、熱変色性顔料による青色の筆跡中に、銀色の光輝性顔料が分散されたメタリックブルー色を呈するものであった。また、黒色用紙に筆記した際には、同様の色相でるが、特に光輝性が高い筆跡が得られた。
【0068】
前記摩擦体1と熱変色性筆記具3とを組み合わせることで筆記セット9とした。
前記筆記セット9の筆記具3を用いて、実施形態1と同様に白色筆記用紙A及び黒紙に筆記し、前記摩擦体1を用いて筆跡を擦過した際の結果は、前記表の実施例1~7及び比較例1、2と同様の結果となった。
【0069】
消去性試験の具体的な結果として、摩擦部分11で筆跡を繰り返し擦ることで、摩擦体1が弾性体としての性能を発揮し、摩擦熱が発生して熱変色性顔料が透明化する。その際、粘性体としての性能も発揮することで、光輝性顔料が吸着され、紙面から剥離される。そのため、紙面上を汚染することなく、筆跡がきれいに消去される。特に、黒色用紙上に光輝性顔料が残った場合、視認角度によることなく光輝性が視覚されるため、本実施例の摩擦体1の使用が特に有用なものとなった。
【0070】
参考試験
前記実施形態2の摩擦体及び比較例3、4の消しゴムを用いて、市販の鉛筆による筆跡に対して以下の試験を行った。
鉛筆消去試験
市販の鉛筆(トンボ鉛筆製、8900-B)を用いて、筆記用紙Aに手書きで螺旋状の丸を10個連続筆記した後、筆跡を摩擦体で擦過して消去させた際の状態を目視により確認した。
更に、擦過後の消しカスの発生の有無を確認した。
試験結果を以下に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
試験結果の評価は以下の通りである。
鉛筆消去試験
A:残色を生じることなく筆跡が消去された。
C:筆跡表面の黒鉛が散って筆跡周辺を汚染した、又は筆跡が消去されなかった。
【0073】
消しカスの発生
A:実用上問題なかった。
B:表面が剥離して消しカスが摩擦体に付着して、実用上問題があった。
C:多量の消しカス(消しゴム屑)が発生し、実用上問題があった。
【0074】
日本国特許出願2016-245347号(出願日:2016年12月19日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2