IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社田中化学研究所の特許一覧

特許7262230非水電解質二次電池用複合水酸化物小粒子
<>
  • 特許-非水電解質二次電池用複合水酸化物小粒子 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用複合水酸化物小粒子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230414BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230414BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230414BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019008264
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020119685
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】片桐 一貴
(72)【発明者】
【氏名】増川 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 正洋
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-501727(JP,A)
【文献】特表2017-525090(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204164(WO,A1)
【文献】特開2013-246983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種を含む複合水酸化物であって、
累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が4.0μm以下、タップ密度(g/ml)/累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)(μm)が0.60g/ml・μm以上、BET法により測定される比表面積が15.0m/g以下、[累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(D90)-累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(D10)]/累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が、1.00以上1.73以下である複合水酸化物。
【請求項2】
累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が、3.5μm以下である請求項1に記載の複合水酸化物。
【請求項3】
前記複合水酸化物が、ニッケルと、コバルトと、マンガンと、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上の添加金属元素Mと、を含み、ニッケル:コバルト:マンガン:Mのモル比が、1-x-y-z:x:y:z(0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3、0<z≦0.05、x+y+z=1を意味する。)である請求項1または2に記載の複合水酸化物。
【請求項4】
[累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(D90)-累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(D10)]/累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が、1.30以上1.73以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合水酸化物。
【請求項5】
平均粒子強度が、45MPa以上100MPa以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合水酸化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である複合水酸化物、特に、粒子径の大小に関わらず、リチウム化合物との反応性が均一化された複合水酸化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減の点から、携帯機器の電源や電気を使用または併用する車両等の動力源など、広汎な分野で二次電池が使用されている。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池がある。リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池は、小型化、軽量化に適し、また、高利用率、高サイクル特性、大きな放電容量といった優れた電池特性を有している。
【0003】
非水電解質を用いた二次電池の上記電池特性が十分に発揮されるには、二次電池の容量を大きくすることが有利となるので、非水電解質二次電池の正極活物質が正極に高密度に充填されることが要求される。非水電解質二次電池の正極活物質は、例えば、正極活物質の前駆体である複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成することで製造することができる。従って、正極活物質の前駆体である複合水酸化物にも、正極活物質と同様に、充填密度が高いことが要求されている。
【0004】
そこで、高密度な非水電解質二次電池の正極活物質を得ることができるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物として、BET比表面積が1.0~10.0m/g、炭素含有量が0.1質量%以下、X線回折における(101)面の半価幅が1.5°以下、平均粒径が5~25μmであるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が提案されている(特許文献1)。
【0005】
一方で、正極活物質の前駆体である複合水酸化物は、その粒子径の大小によりリチウム化合物との反応性が相違する。すなわち、複合水酸化物の粒子径が大きくなるのに応じて、複合水酸化物の比表面積が低下するので、リチウム化合物との反応性が低下する傾向がある。特許文献1のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物では、正極活物質の充填密度が向上して優れた電池特性に寄与するものの、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子径の大小によりリチウム化合物との反応性が変化する。特許文献1では、粒子径の大きいニッケルコバルトマンガン複合水酸化物に良好な電池特性を付与するためにリチウム化合物の添加量を増大させると、粒子径の小さいニッケルコバルトマンガン複合水酸化物にリチウムが過剰に反応してしまい、粒子径の小さいニッケルコバルトマンガン複合水酸化物に、優れた電池特性が付与できない場合がある。
【0006】
上記から、特許文献1では、粒子径の大小に関わらずリチウム化合物との反応性を均一化することで、電池特性を向上させることに改善の余地があった。
【0007】
また、高密度の正極活物質を得るために、複数の粒度分布のピークを有する正極活物質、すなわち、粒子径の大きい側の粒度分布のピークを有する正極活物質と粒子径の小さい側の粒度分布のピークを有する正極活物質が混在した、いわゆるバイモーダルの正極活物質が用いられることがある。複数の粒度分布のピークを有する正極活物質を製造する際に、粒子径の大きい複合水酸化物にリチウムを十分に反応させると、上記の通り、粒子径の小さい複合水酸化物にリチウムが過剰量反応してしまうこととなる。そこで、複数の粒度分布のピークを有する正極活物質用の複合水酸化物では、複合水酸化物を粒子径の大きい複合水酸化物と粒子径の小さい複合水酸化物とに分けて、それぞれについて、適量のリチウム化合物を添加して、焼成後に混合する正極活物質の製造も行われている。
【0008】
しかし、粒子径の大きい複合水酸化物と粒子径の小さい複合水酸化物、それぞれについてリチウム化合物を添加して焼成すると、複数の焼成ラインの設置が必要となるので、正極活物質の生産効率に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-171744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、リチウム化合物との反応性が、粒子径の大きい他の複合水酸化物と同等化された複合水酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種を含む複合水酸化物であって、
累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が4.0μm以下、タップ密度(g/ml)/累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)(μm)が0.60(g/ml・μm)以上、BET法により測定される比表面積が15.0m/g以下である複合水酸化物。
[2]累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が、3.5μm以下である[1]に記載の複合水酸化物。
[3]前記複合水酸化物が、ニッケルと、コバルトと、マンガンと、アルミニウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン及びタングステンからなる群から選択される1種類以上の添加金属元素Mと、を含み、ニッケル:コバルト:マンガン:添加元素Mのモル比が、1-x-y-z:x:y:z(0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3、0<z≦0.05、x+y+z=1を意味する。)である[1]または[2]に記載の複合水酸化物。
[4][累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(D90)-累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(D10)]/累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が、1.30以上1.80以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の複合水酸化物。
[5]平均粒子強度が、45MPa以上100MPa以下である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の複合水酸化物。
【0012】
上記[5]の態様において、「粒子強度」とは、微小圧縮試験機を用いて、任意に選んだ複合水酸化物粒子1個に対して試験圧力(負荷)をかけ、複合水酸化物粒子の変位量を測定し、試験圧力を徐々にあげて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値を試験力(P)とし、下記数式(A)に示す平松らの式(日本鉱業会誌,Vol.81,(1965))により算出した強度(St)意味する。「平均粒子強度」とは、上記操作を計5回行い、粒子強度の5回平均値から算出した値を意味する。
St=2.8×P/(π×d×d) (d:複合水酸化物粒子径) (A)
微小圧縮試験機としては、例えば、株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合水酸化物の態様によれば、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が4.0μm以下、タップ密度(g/ml)/累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)が0.60g/ml・μm以上、BET法により測定される比表面積が15.0m/g以下であることにより、本発明の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物と、リチウム化合物との反応性を同等化することができる。
【0014】
従って、本発明の複合水酸化物と、本発明の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物と、を用いて複数の粒度分布のピークを有する正極活物質を製造する際に、本発明の複合水酸化物と上記他の複合水酸化物とを混合した状態で、リチウム化合物を添加して焼成することができる。上記から、本発明の複合水酸化物を用いることで、複数の粒度分布のピークを有する正極活物質の生産効率を向上させることができる。
【0015】
本発明の複合水酸化物の態様によれば、平均粒子強度が45MPa以上100MPa以下であることにより、本発明の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物と、リチウム化合物との反応性がより確実に同等化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)図は、実施例1のTG及びDTGの結果のグラフ、(b)図は、比較例1のTG及びDTGの結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の、非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である複合水酸化物について、詳細を説明する。本発明の、非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である複合水酸化物(以下、単に、「本発明の複合水酸化物」ということがある。)は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された金属のうち少なくとも1種を含む。すなわち、本発明の複合水酸化物は、必須金属成分として、ニッケル、コバルト、マンガンのうちの1種以上を含む。
【0018】
本発明の複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子である。本発明の複合水酸化物の粒子形状は、特に限定されず、多種多様な形状となっており、例えば、略球形状、略楕円形状等を挙げることができる。
【0019】
本発明の複合水酸化物は、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(以下、単に「D50」ということがある。)が、4.0μm以下である。本発明の複合水酸化物のD50は4.0μm以下であれば、特に限定されないが、その上限値は、複数の粒度分布のピークを有する正極活物質の密度をより確実に向上させる点から、3.7μmが好ましく、3.5μmが特に好ましい。一方で、本発明の複合水酸化物のD50の下限値は、リチウム化合物との反応性を、より確実に、本発明の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物(以下、単に「他の複合水酸化物」ということがある。)と同等化する点から、2.0μmが好ましく、2.3μmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0020】
本発明の複合水酸化物は、D50(単位:μm)に対するタップ密度(単位:g/ml)の比、すなわち、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.60g/ml・μm以上である。本発明の複合水酸化物のタップ密度(g/ml)/D50(μm)の値は0.60g/ml・μm以上であれば、特に限定されないが、その下限値は、リチウム化合物との反応性を、より確実に他の複合水酸化物と同等化する点から、0.62g/ml・μmが好ましく、0.64g/ml・μmが特に好ましい。一方で、本発明の複合水酸化物のタップ密度(g/ml)/D50(μm)の値の上限値は、複合水酸化物の生産の容易性の点から、0.90g/ml・μmが好ましく、0.75g/ml・μmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0021】
本発明の複合水酸化物は、BET法により測定される比表面積が15.0m/g以下である。本発明の複合水酸化物のBET法により測定される比表面積は15.0m/g以下であれば、特に限定されないが、その上限値は、リチウム化合物との反応性を、より確実に他の複合水酸化物と同等化する点から、12.0m/gが好ましく、10.0m/gが特に好ましい。一方で、BET法により測定される比表面積の下限値は、リチウム化合物との反応性の過度な低下を防止する点から、5.0m/gが好ましく、8.0m/gが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0022】
本発明の複合水酸化物では、D50が4.0μm以下、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.60g/ml・μm以上、BET法により測定される比表面積が15.0m/g以下であることにより、本発明の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物と、リチウム化合物との反応性を同等化することができる。従って、本発明の複合水酸化物と、本発明の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物と、を用いて複数の粒度分布のピークを有する正極活物質を製造する際に、本発明の複合水酸化物と上記他の複合水酸化物とを混合した状態で、リチウム(Li)化合物を添加・焼成処理しても、本発明の複合水酸化物がリチウム(Li)と過剰に反応せず、粒子径の大小にかかわらずリチウム(Li)化合物と均一な反応をすることができる。上記から、本発明の複合水酸化物を用いることで、複数の粒度分布のピークを有する複合水酸化物を粒子径の大きい複合水酸化物と粒子径の小さい複合水酸化物とに分けてリチウム化合物を添加・焼成処理する必要がない。従って、本発明の複合水酸化物を用いることにより、複数の粒度分布のピークを有する正極活物質の生産効率を向上させることができる。
【0023】
本発明の複合水酸化物のタップ密度は、タップ密度(g/ml)/D50(μm)の値が0.60g/ml・μm以上であれば、特に限定されないが、例えば、その下限値は、リチウム化合物との反応性を、より確実に他の複合水酸化物と同等化する点から、1.50g/mlが好ましく、1.70g/mlがより好ましく、1.80g/mlが特に好ましい。一方で、タップ密度の上限値は、リチウム化合物との反応性の過度な低下を防止する点から、2.50g/mlが好ましく、2.20g/mlが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0024】
本発明の複合水酸化物の粒度分布幅を示す、[累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(以下、単に「D90」ということがある。)-累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(以下、単に「D10」ということがある。)]/D50の値は、特に限定されない。本発明の複合水酸化物では、分級工程等の粒度分布幅を調整する工程を実施しなくても、他の複合水酸化物と、リチウム化合物との反応性を同等化することができる。例えば、本発明の複合水酸化物の粒度分布幅の下限値は、粒度分布幅の調整工程を省略することで、複合水酸化物の生産効率を向上できる点から、1.00が好ましく、1.15がより好ましく、1.30が特に好ましい。上記粒度分布幅の上限値は、本発明の複合水酸化物における、粒子径の小さい粒子と粒子径の大きい粒子のリチウム(Li)化合物に対する反応性を均一化する点から、1.90が好ましく、1.80が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0025】
本発明の複合水酸化物のD90の下限値は、リチウム(Li)化合物に対する反応性の均一化及び生産効率の点から4.2μmが好ましく、4.4μmが特に好ましく、D90の上限値は、6.2μmが好ましく、5.2μmが特に好ましい。また、本発明の複合水酸化物のD10の下限値は、0.2μmが好ましく、0.4μmが特に好ましく、D10の上限値は、1.6μmが好ましく、1.4μmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。なお、上記したD10、D50、D90は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。
【0026】
本発明の複合水酸化物の平均粒子強度は、特に限定されないが、その下限値は、リチウム化合物との反応性を、より確実に他の複合水酸化物と同等化する点から、45MPaが好ましく、55MPaが特に好ましい。一方で、平均粒子強度の上限値は、リチウム化合物との反応性の過度な低下を防止する点から、100MPaが好ましく、80MPaが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0027】
本発明の複合水酸化物の成分は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された金属のうち少なくとも1種を含んでいれば、特に限定されないが、例えば、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、マンガン(Mn)と、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上の添加金属元素Mと、を含み、ニッケル(Ni):コバルト(Co):マンガン(Mn):添加金属元素Mのモル比が、1-x-y-z:x:y:z(0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3、0<z≦0.05を意味する。)である複合水酸化物等を挙げることができる。
【0028】
次に、本発明の複合水酸化物の製造方法について説明する。まず、共沈法により、金属塩を含む溶液、例えば、ニッケル塩(例えば、硫酸塩)、コバルト塩(例えば、硫酸塩)及びマンガン塩(例えば、硫酸塩)からなる群から選択された金属塩のうち少なくとも1種を含む溶液と、錯化剤と、pH調整剤と、を適宜添加することで、反応槽内にて中和反応させて、複合水酸化物を含むスラリーを得る。スラリーの溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0029】
錯化剤としては、水溶液中で、金属元素のイオン、例えば、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種の金属のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、例えば、アンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等が挙げられる。なお、中和反応に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)をpH調整剤として添加してもよい。
【0030】
上記金属塩を含む溶液とpH調整剤とアンモニウムイオン供給体とを反応槽に、適宜連続して供給し、反応槽内の物質を、適宜撹拌すると、金属塩を含む溶液の金属(例えば、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種)が共沈反応し、複合水酸化物を含むスラリーが調製される。共沈反応に際しては、反応槽内の混合液の温度を30℃~60℃の範囲に制御し、pH調整剤とアンモニウムイオン供給体を反応槽に供給する際に、反応槽内の混合液のアンモニア濃度を3.5g/L~5.0g/Lの範囲に制御することで、D50が4.0μm以下、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.60g/ml・μm以上、BET法により測定される比表面積が15.0m/g以下である複合水酸化物を得ることができる。また、液温40℃基準の反応槽内の混合液のpHは、11.0以上12.5以下が好ましく、11.5以上12.3以下が特に好ましい。なお、反応槽に設置された撹拌装置の撹拌条件と反応槽における滞留時間は、所定範囲に適宜調整すればよい。
【0031】
本発明の複合水酸化物の製造方法に用いる反応槽としては、例えば、得られた複合水酸化物を含むスラリーを分離するためにオーバーフローさせる連続式や、反応終了まで系外に排出しないバッチ式を挙げることができる。
【0032】
上記のように、中和反応工程で得られた複合水酸化物を含むスラリーをろ過後、アルカリ水溶液で洗浄、続いて水洗することにより、含まれる不純物を除去しその後、加熱処理して乾燥させることで、粒子状の複合水酸化物を得ることができる。
【実施例
【0033】
次に、本発明の複合水酸化物の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0034】
実施例及び比較例のニッケル複合水酸化物の製造
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンとを、所定割合にて混合した水溶液、硫酸アンモニウム水溶液(アンモニウムイオン供給体)及び水酸化ナトリウム水溶液を、所定容積を有する反応槽へ滴下して、反応槽内に収容された混合液のアンモニア濃度と液温40℃基準のpHを下記表1の値に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。また、反応槽内の混合液の液温は下記表1の値に維持した。中和反応により生成した複合水酸化物を含むスラリーは、反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて、取り出した。反応槽内で3滞留以上させた後に取り出した上記複合水酸化物を含むスラリーを、ろ過後、アルカリ水溶液で洗浄、続いて、水洗し、さらに、脱水、乾燥の各処理を施して、粒子状の複合水酸化物を得た。
【0035】
実施例と比較例の複合水酸化物の中和反応条件を、下記表1に示す。
【0036】
実施例と比較例の複合水酸化物の物性とリチウム化合物との反応性の評価項目は、以下の通りである。
(1)複合水酸化物の組成分析
組成分析は、得られた複合水酸化物を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製、Optima7300DV)を用いて行った。
【0037】
(2)D10、D50、D90
得られた複合水酸化物を、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、「マイクロトラックMT3300 EXII」)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。D10、D50、D90の測定結果を用いて、タップ密度/D50の値及び粒度分布幅を示す(D90-D10)/D10の値を、それぞれ、算出した。
粒度分布測定装置の測定条件 : 溶媒:水、溶媒屈折率:1.33、粒子屈折率:1.55、透過率80±5%、分散媒:10.0wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液
【0038】
(3)タップ密度(TD)
得られた複合水酸化物について、タップデンサー(株式会社セイシン企業製、「KYT-4000」)を用いて、JIS R1628に記載の手法のうち、定容積測定法によってタップ密度の測定を行った。
【0039】
(4)BET比表面積
得られた複合水酸化物1gを、窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、「Macsorb」)を用い、1点BET法によって測定した。
【0040】
(5)平均粒子強度
得られた複合水酸化物について、微小圧縮試験機「MCT-510」(株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選んだ複合水酸化物の粒子1個に対して試験圧力(負荷)をかけ、複合水酸化物の変位量を測定した。試験圧力を徐々に上げて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値を試験力(P)とし、下記数式(A)に示す平松らの式(日本鉱業会誌,Vol.81,(1965))により、粒子強度(St)を算出した。この操作を計5回行い、粒子強度の5回平均値から平均粒子強度を算出した。
St=2.8×P/(π×d×d) (d:複合水酸化物の径)・・・・(A)
【0041】
(6)TG測定(熱重量測定)
実施例1及び比較例1の複合水酸化物に対し、それぞれ、水酸化リチウム・1水和物をリチウム/(ニッケル+コバルト+マンガン)のモル比率が1.05となるように混合し、混合物を調製した。得られた混合物について、最高温度1000℃、昇温速度10℃/分、サンプリング頻度1回/30秒、ドライエアー供給量200ml/minにて、TG測定(熱重量測定)を行った。また、TG測定データを微分することで、DTGを算出した。TGの測定装置には、株式会社日立製作所製の「TG/DTA6300」を使用した。実施例1のTG及びDTGの結果を図1(a)、比較例1のTG及びDTGの結果を図1(b)に示す。また、複合水酸化物が水酸化リチウム・1水和物と反応を開始する温度は、DTGグラフから、350℃±50℃の範囲のうち、DTGが最低となる温度とした。なお、実施例2~3及び比較例2の複合水酸化物についても、同様にして、TG及びDTGの結果(図示せず)から、水酸化リチウム・1水和物との反応開始温度を求めた。
【0042】
実施例と比較例の複合水酸化物の組成分析を下記表1に、それ以外の評価結果を下記表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
上記表2に示すように、D50が2.64~3.40μm、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.60~0.73g/ml・μm、BET比表面積が8.4~9.9m/gである複合水酸化物を前駆体として使用した実施例1~3では、水酸化リチウムとの反応開始温度が355.4~365.7℃に上昇して、水酸化リチウムとの反応性が抑制された。上記から、実施例1~3では、D50が実施例1~3よりも大きい他の複合水酸化物と、リチウム化合物との反応性を同等化することができることが判明した。従って、実施例1~3の複合水酸化物と、実施例1~3の複合水酸化物のD50よりも大きいD50を有する他の複合水酸化物と、を用いて複数の粒度分布のピークを有する正極活物質を製造する際に、実施例1~3の複合水酸化物と上記他の複合水酸化物とを混合した状態で、リチウム化合物を添加・焼成しても、本発明の複合水酸化物がリチウム(Li)と過剰量に反応せず、粒子径の大小にかかわらずリチウム(Li)化合物と均一な反応をすることができることが判明した。また、BET比表面積が8.4~9.9m/gである実施例1~3では、平均粒子強度が60.7~77.9MPaに向上した。
【0046】
特に、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.65~0.73g/ml・μmである実施例1、2では、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.60g/ml・μmである実施例3と比較して水酸化リチウムとの反応開始温度がさらに上昇して、水酸化リチウムとの反応性をさらに抑制することができた。
【0047】
一方で、D50が2.58~2.81μm、タップ密度(g/ml)/D50(μm)が0.38~0.58、BET比表面積が16.8~33.2m/gである複合水酸化物を前駆体として使用した比較例1~2では、水酸化リチウムとの反応開始温度が330.9~350.2℃にとどまり、水酸化リチウムとの反応性を抑制できなかった。従って、比較例1~2では、依然として、D50が比較例1~2よりも大きい他の複合水酸化物と、リチウム化合物との反応性を同等化することはできないことが判明した。また、BET比表面積が16.8~33.2m/gである比較例1~2では、平均粒子強度が15.7~43.3MPaにとどまった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の複合水酸化物は、複数の粒度分布のピークを有する複合水酸化物の粒子径の大小に関わらず、リチウム(Li)化合物と均一な反応をすることができるので、本発明の複合水酸化物を含有する前駆体から得られた正極活物質が非水電解質を用いた二次電池に搭載されることで、高利用率、高サイクル特性、大きな放電容量といった優れた電池特性を付与することができる。従って、本発明の複合水酸化物は、携帯機器や車両等、広汎な分野で利用可能である。
図1