(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】半導体ウェハ表面保護剤
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230414BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230414BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 Z
(21)【出願番号】P 2019013877
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】坂西 裕一
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-006538(JP,A)
【文献】特開2009-099819(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124229(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的機械的研磨による表面平坦化処理に付す前に、半導体ウェハ表面に塗布して使用する、半導体ウェハ表面保護剤であって、
下記式(1)で表される化合物を含
み、
前記半導体ウェハ表面保護剤の不揮発分全量において、下記式(1)で表される化合物の含有量が90重量%以上である、半導体ウェハ表面保護剤。
R
1O-(C
3H
6O
2)
n-H (1)
(式中、R
1は、水素原子、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基、又はR
2COで表される基を示し、前記R
2は炭素数1~24の炭化水素基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、2~60である)
【請求項2】
式(1)で表される化合物の分子量が100~3000である、請求項1に記載の半導体ウェハ表面保護剤。
【請求項3】
シリコンウェハ表面保護剤である、請求項1又は2に記載の半導体ウェハ表面保護剤。
【請求項4】
半導体ウェハ表面を低欠陥化する目的で使用される、請求項1~3の何れか1項に記載の半導体ウェハ表面保護剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の半導体ウェハ表面保護剤を
、半導体ウェハ表面に塗布して表面保護層を形成し、その後、表面保護層が形成された半導体ウェハに化学的機械的研磨による表面平坦化処理を施す工程を有する、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの表面保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスは、微細化且つ高集積化の傾向にある。そして、半導体ウェハ表面に回路を形成してなる配線層を、配線の段切れや局所的な抵抗値の増大を防止しつつ、設計通りに積み重ねるために、半導体ウェハ表面を高度に平坦化することが求められる。
【0003】
前記半導体ウェハ表面の平坦化技術として広く使用されているのがCMP(化学的機械的研磨;Chemical Mechanical Planarization)である。CMPは、塩基性化合物と微細な砥粒とを含有した研磨用組成物を用い、塩基性化合物による化学的作用と砥粒による機械的作用の両方によって、半導体ウェハ表面の段差を解消する技術である。
【0004】
そして、通常、前記研磨用組成物を研磨パッド表面に供給しながら圧接した研磨パッドと半導体ウェハとを相対的に移動させることによって、半導体ウェハの表面が研磨される。しかし、微細な砥粒は凝集し易く、砥粒の凝集体によって半導体ウェハの表面にスクラッチ(かき傷)が生じ易いことが問題であった。
【0005】
前記問題を解決する手段として、特許文献1には、研磨用組成物に、界面活性剤の1つであるポリオキシアルキレン誘導体を添加することが記載されている。そして、当該方法によれば、砥粒の凝集を抑制して、スクラッチの発生を防止できることができ、半導体ウェハの表面を高度に平坦化することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、半導体デバイスの更なる微細化且つ高集積化にともない、半導体ウェハに対する品質要求はより一層厳しくなっている。そして、高平坦化と共に、低欠陥化が求められるようになった。低欠陥化を実現する手段としては、結晶育成時に結晶内に生成するCOP(Crystal Originated Particle)を低減することが挙げられる。
【0008】
しかし、従来のCMPでは、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物がCOP内部に入り込み、その周辺部を腐食することで、かえって凹部が拡大することが問題であった。尚、COPは、結晶欠陥の一つであり、単結晶の格子点にシリコン原子がない、すなわち「空孔」が集まって形成される空洞状の欠陥である。そして、COPはゲート酸化膜の耐圧に悪影響を及ぼす。
【0009】
従って、本発明の目的は、塩基性化合物により半導体ウェハ表面が腐食するのを抑制して、半導体ウェハを低欠陥化する表面保護剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、塩基性化合物により半導体ウェハ表面が腐食するのを抑制して、半導体ウェハを低欠陥化すると共に、スクラッチの発生をより一層低減して高平坦化する表面保護剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記表面保護剤を使用して半導体ウェハを研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物によって、半導体ウェハの欠陥部(COP等)の内壁が被覆されることによって、CMPにおける化学的作用により欠陥部が拡大するのを抑制することができること、下記式(1)で表される化合物によって、半導体ウェハの表面が被覆されることによって、CMPにおける機械的作用が緩和されること、下記式(1)で表される化合物によって砥粒の凝集が抑制され、砥粒の凝集体によるスクラッチの発生が低減されること、これらの効果が合わさることで、半導体ウェハ表面の高平坦化、且つ低欠陥化を実現できること、を見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される化合物を含む半導体ウェハ表面保護剤を提供する。
R1O-(C3H6O2)n-H (1)
(式中、R1は、水素原子、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基、又はR2COで表される基を示し、前記R2は炭素数1~24の炭化水素基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、2~60である)
【0012】
本発明は、また、式(1)で表される化合物の分子量が100~3000である前記半導体ウェハ表面保護剤を提供する。
【0013】
本発明は、また、シリコンウェハ表面保護剤である前記半導体ウェハ表面保護剤を提供する。
【0014】
本発明は、また、半導体ウェハ表面を低欠陥化する目的で使用される前記半導体ウェハ表面保護剤を提供する。
【0015】
本発明は、また、半導体ウェハ表面を、前記半導体ウェハ表面保護剤を使用して保護しつつ研磨する工程を有する、半導体デバイスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤によれば、前記式(1)で表される化合物が半導体ウェハの表面に吸着して、半導体ウェハの表面に親水性の保護層を形成することにより、CMPにおける化学的作用により欠陥部が拡大するのを抑制すると共に、砥粒の凝集を抑制しつつ、CMPにおける機械的作用を緩和することによって、スクラッチの発生を低減することができる。そのため、本発明の半導体ウェハ表面保護剤を使用して、CMPを施せば、半導体ウェハ表面を高平坦化且つ低欠陥化することができる。
【0017】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤を用いて研磨された半導体ウェハは、表面が極めて平坦であり、且つ欠陥部(若しくは、凹部)が小さい。そのため、配線の段切れや局所的な抵抗値の増大を防止しつつ高集積化することが可能であり、高集積化された半導体デバイスを製造することができる。
【0018】
従って、本発明の半導体ウェハ表面保護剤によれば、半導体デバイスを搭載する電子機器の小型化、高機能化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[半導体ウェハ表面保護剤]
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、半導体ウェハを表面平坦化処理に付す際に、或いは表面平坦化処理に付す前に使用する表面保護剤であって、下記式(1)で表される化合物を含む。
R1O-(C3H6O2)n-H (1)
(式中、R1は、水素原子、ヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1~24の炭化水素基、又はR2COで表される基を示し、前記R2は炭素数1~24の炭化水素基を示す。nは括弧内に示されるグリセリン単位の平均重合度を示し、2~60である)
【0020】
式(1)の括弧内のC3H6O2は、下記式(2)及び/又は(3)で示される構造を有していても良い。
-CH2-CHOH-CH2O- (2)
-CH(CH2OH)CH2O- (3)
【0021】
R1、R2における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの2個以上が結合してなる基が含まれる。
【0022】
前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~24(好ましくは5~20、特に好ましくは10~20)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、オレイル基、リノレイル基等の炭素数2~24(好ましくは10~20)の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~24の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0023】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の3~24員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の3~24員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基等の橋かけ環式炭化水素基等を挙げることができる。
【0024】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~24(好ましくは6~15)のアリール基を挙げることができる。
【0025】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基等のシクロアルキル置換アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル置換C1-4アルキル基等)等が含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基等)、アルキル置換アリール基(例えば、1~4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基等)等が含まれる。
【0026】
前記R2COで表される基には、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ステアロイル、オレオイル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル、トルオイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが挙げられる。
【0027】
R1としては、なかでも、アルキル基(なかでも、ラウリル基、ステアリル基、イソステアリル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基)又は水素原子が特に好ましい。
【0028】
式(1)におけるnは、グリセリンの平均重合度を示し、2~60である。nとしては、なかでも、半導体ウェハに対する吸着性に優れる点で、2~30が好ましく、特に好ましくは2~20である。
【0029】
また、式(1)中のR1がアルキル基(なかでも、ラウリル基、ステアリル基、イソステアリル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基)の場合、nは2~60であり、なかでも、半導体ウェハに対する吸着性に優れる点で2~30が好ましく、特に好ましくは2~20、最も好ましくは2~15、とりわけ好ましくは4~10である。
【0030】
一方、式(1)中のR1が水素原子の場合、nは2~60であり、なかでも、半導体ウェハに対する吸着性に優れる点で2~30が好ましく、特に好ましくは10~30、最も好ましくは10~25、とりわけ好ましくは10~20である。
【0031】
nの値が前記範囲を外れると、半導体ウェハへの吸着性が低下する傾向がある。また、nの値が前記範囲を下回ると、親水性が低下して、砥粒の凝集を抑制する効果は得られにくくなる傾向がある。
【0032】
式(1)で表される化合物の分子量は、例えば100~3000であり、半導体ウェハに対する吸着性に優れる点で、好ましくは200~3000、より好ましくは200~2000、特に好ましくは300~2000、最も好ましくは400~1500である。また、半導体ウェハに対する吸着性に優れると共に、作業性にも優れる点で、更に好ましくは400~1000、最も好ましくは400~800である。
【0033】
本発明における式(1)で表される化合物としては、なかでも、下記式(1-1)~(1-7)で表される化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、特に、下記式(1-1)~(1-4)、(1-6)、及び(1-7)で表される化合物から選択される少なくとも1種が好ましい。
C12H25O-(C3H6O2)4-H (1-1)
C12H25O-(C3H6O2)10-H (1-2)
C18H37-O-(C3H6O2)4-H (1-3)
C18H37-O-(C3H6O2)10-H (1-4)
CH2=CH-CH2-O-(C3H6O2)6-H (1-5)
HO-(C3H6O2)10-H (1-6)
HO-(C3H6O2)20-H (1-7)
【0034】
本発明における式(1)で表される化合物の製造方法として、例えば、[1]アルカリ触媒の存在下、R
1OHで表される化合物(前記R
1は上記に同じ)に、2,3-エポキシ-1-プロパノールを付加重合する方法、[2]ポリグリセリンに、R
1Xで表される化合物(前記Xはハロゲン原子を示す。R
1は上記に同じ。例えば、アルキルハライド、酸ハライドが挙げられる)を反応させる方法、[3]ポリグリセリンに、下記式(4)
【化1】
(式中、R
1は上記に同じ)
で表されるグリシジルエーテル化合物を反応させる方法などが挙げられる。
【0035】
上記[1]の方法で使用するアルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、金属ナトリウム、水素化ナトリウム等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
上記[2]の方法で使用するポリグリセリンとしては、例えば、商品名「ポリグリセリン04」、「ポリグリセリン06」、「ポリグリセリン10」、「ポリグリセリンX」(ダイセル化学工業社製)等の市販品を好適に使用することができる。
【0037】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、上記式(1)で表される化合物を少なくとも1種含有する。上記式(1)で表される化合物には上述の通り、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステルが含まれる。従って、本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステルから選択される少なくとも1種のポリグリセリン誘導体を含有する。
【0038】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、ポリグリセリン誘導体として、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステル以外にも、例えば、前記化合物に対応するポリグリセリンジエーテルやポリグリセリンジエステルを含有していても良いが、ポリグリセリン、ポリグリセリンモノエーテル、及びポリグリセリンモノエステルの合計含有量は、本発明の半導体ウェハ表面保護剤に含まれるポリグリセリン誘導体全量の75%以上であることが、半導体ウェハへの吸着性に優れ、半導体ウェハに吸着して表面を保護する効果に優れる点で好ましく、特に90%以上であることが好ましい。また、ポリグリセリンジエーテル及びポリグリセリンジエステルの合計含有量は、本発明の半導体ウェハ表面保護剤に含まれるポリグリセリン誘導体全量の5%以下であることが、半導体ウェハへの吸着性に優れ、半導体ウェハに吸着して表面を保護する効果に優れる点で好ましく、特に1%以下であることが好ましい。尚、ポリグリセリン誘導体に含まれる各成分の含有割合は、高速液体クロマトグラフィーで各成分を分離し、示差屈折率検出器でピーク面積を算出し、面積比を算出することによって求められる。
【0039】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、不揮発分として上記式(1)で表される化合物を含有する。本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、不揮発分として更に他の成分(例えば、セルロース誘導体等の水溶性高分子化合物など)を含んでいても良いが、本発明の半導体ウェハ表面保護剤に含まれる不揮発分全量において、式(1)で表される化合物の含有割合(=式(1)で表される化合物の含有量の占める割合)は、例えば10重量%以上であることが、半導体ウェハへの吸着性に優れ、半導体ウェハに吸着して表面を保護する効果に優れる点で好ましく、より好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。すなわち、本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、不揮発分として、実質的に式(1)で表される化合物のみを含有していてもよい。
【0040】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、式(1)で表される化合物と共に溶媒を含有していても良く、例えば、溶媒中に式(1)で表される化合物が溶解或いは分散してなる組成物であっても良い。前記溶媒としては、水が好ましい。
【0041】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤が、式(1)で表される化合物と水を含む組成物である場合、式(1)で表される化合物の含有量は、前記組成物全量の、例えば1~50重量%の範囲であることが、適度な粘度で取扱性に優れる点で好ましく、より好ましくは3~40重量%の範囲であり、特に好ましくは5~30重量%の範囲である。
【0042】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、式(1)で表される化合物が、半導体ウェハ表面に優れた吸着力で吸着し、特に完全に酸化膜が除去された状態の半導体ウェハ表面に対して優れた吸着力で吸着する。このため、半導体ウェハの表面処理工程において、以下の3つの効果が得られ、これによって半導体ウェハ表面を高平坦化、低欠陥化することができる。
1.式(1)で表される化合物が、半導体ウェハの欠陥部(COP等)の内壁に吸着し、前記内壁を被覆する表面保護層を形成することにより、CMPにおける化学的作用によって欠陥部が更に拡大するのを抑制することができる。
2.式(1)で表される化合物が、半導体ウェハの表面に吸着し、前記表面を被覆する親水性の表面保護層を形成することにより、CMPにおける機械的作用(具体的には、半導体ウェハ表面と砥粒との間の摩擦)が緩和され、半導体ウェハ表面にスクラッチ等の微小な凹凸が生じるのを抑制することができる。
3.式(1)で表される化合物が、砥粒の凝集を抑制し、砥粒の分散性を向上することにより、CMPにおける機械的作用(具体的には、半導体ウェハ表面と砥粒との間の摩擦)が緩和され、半導体ウェハ表面にスクラッチ等の微小な凹凸が生じるのを抑制することができる。
【0043】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤の使用方法としては、特に制限されないが、例えば、半導体ウェハにCMPを施す前に、本発明の半導体ウェハ表面保護剤を半導体ウェハに塗布して、半導体ウェハの表面に、式(1)で表される化合物からなる表面保護層を形成する方法や、CMPの際に使用する研磨用組成物に本発明の半導体ウェハ表面保護剤を添加し、半導体ウェハの表面に、式(1)で表される化合物からなる表面保護層を形成しつつ、半導体ウェハにCMPを施す方法が挙げられる。
【0044】
(研磨用組成物)
前記研磨用組成物は、微細な砥粒と塩基性化合物と水を含有する組成物である。そして、本発明の半導体ウェハ表面保護剤を研磨用組成物に添加する場合、その添加量は、式(1)で表される化合物の含有量が、研磨剤用組成物全体の例えば0.001~10重量%程度(好ましくは、0.005~5重量%)となる範囲である。
【0045】
本発明の半導体ウェハ表面保護剤は、研磨用組成物に添加しても砥粒の凝集を惹起せず、かえって砥粒の分散性を向上する効果を発揮する。それは、式(1)で表される化合物が界面活性作用を発現して、砥粒の凝集を抑制するためである。従って、本発明の半導体ウェハ表面保護剤を研磨用組成物に添加すると、砥粒の分散性が向上するため、砥粒によるスクラッチの発生を抑制することができる。
【0046】
前記砥粒としてはコロイダルシリカを使用することが好ましい。
【0047】
砥粒の含有量は、研磨用組成物全量の、例えば0.1~50重量%程度、好ましくは1~30重量%、特に好ましくは3~20重量%である。砥粒を前記範囲で含有する研磨用組成物は、研磨用組成物中において砥粒の分散性が保持され、スクラッチの発生を抑制することができる。そして、このような研磨用組成物を使用すれば、CMPにより良好な速度で半導体ウェハを研磨して、平坦性に優れる半導体ウェハを製造することができる。砥粒の含有量が前記範囲を下回ると、研磨速度が遅くなり、作業性が低下する傾向がある。一方、砥粒の含有量が前記範囲を上回ると、研磨用組成物中における砥粒の分散性を保持することが困難となる傾向があり、このような研磨用組成物を使用すればスクラッチが発生し易くなる。
【0048】
砥粒の平均粒子径は、研磨速度と研磨後の半導体ウェハ表面の平坦性の観点から適宜選択することができるが、例えば2~500nmであり、好ましくは5~300nm、特に好ましくは5~200nmである。
【0049】
前記塩基性化合物としては、水溶性のものを使用することが好ましい。このような塩基性化合物には、アルカリ金属水酸化物、アミン、アンモニア、水酸化アンモニウム塩等が含まれる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせてを使用することができる。
【0050】
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルペンタミン、テトラエチルペンタミン等が挙げられる。水酸化アンモニウム塩としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0051】
前記塩基性化合物としては、なかでも、半導体ウェハに対する汚染が少ない点からアンモニア及び/又は水酸化アンモニウム塩が好ましい。
【0052】
前記塩基性化合物の含有量は、本発明の半導体ウェハ表面保護剤のpHが例えば8~13(好ましくは8.5~12、特に好ましくは9.0~11.0)となる程度である。
【0053】
水の含有量は、研磨用組成物の25℃における粘度が、例えば0.1~10mPa・s(好ましくは0.3~8mPa・s、特に好ましくは0.5~5mPa・s)となる程度であることがより好ましい。
【0054】
研磨剤用組成物には、上記成分以外にも、必要に応じて他の成分(例えば、有機溶剤、各種キレート剤、界面活性剤等)を1種又は2種以上含有していてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0056】
実施例1
ラウリルアルコール1molに、2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、(株)ダイセル製)を4mol付加して、化合物(A1)(C12H25O-(C3H6O2)4-H、分子量:482)を得た。
得られた化合物(A1)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(A1)を得た。
【0057】
実施例2
2,3-エポキシ-1-プロパノールの使用量を10molに変更した以外は実施例1と同様にして、化合物(A2)(C12H25O-(C3H6O2)10-H、分子量:926)を得た。
得られた化合物(A2)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(A2)を得た。
【0058】
実施例3
2,3-エポキシ-1-プロパノールの使用量を6molに変更した以外は実施例1と同様にして、化合物(A3)(C12H25O-(C3H6O2)6-H、分子量:630)を得た。
得られた化合物(A3)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(A3)を得た。
【0059】
実施例4
イソステアリルアルコール1molに、2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、(株)ダイセル製)を10mol付加して、化合物(A4)(C18H37O-(C3H6O2)10-H、分子量:1010)を得た。
得られた化合物(A4)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(A4)を得た。
【0060】
実施例5
グリセリン1molに、2,3-エポキシ-1-プロパノール(商品名「グリシドール」、(株)ダイセル製)を9mol付加して、化合物(A5)(HO-(C3H6O2)10-H、分子量:758)を得た。
得られた化合物(A5)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(A5)を得た。
【0061】
実施例6
2,3-エポキシ-1-プロパノールの使用量を19molに変更した以外は実施例5と同様にして、化合物(A6)(HO-(C3H6O2)20-H、分子量:1498)を得た。
得られた化合物(A6)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(A6)を得た。
【0062】
比較例1
エチレングリコール1molに、エチレンオキシドを48mol付加した後、プロピレンオキシドを38mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(B1)(分子量:4378)を得た。
得られたポリオキシアルキレン誘導体(B1)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(B1)を得た。
【0063】
比較例2
エチレングリコール1molに、エチレンオキシドを32mol付加した後、プロピレンオキシドを20mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(B2)(分子量:2630)を得た。
得られたポリオキシアルキレン誘導体(B2)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(B2)を得た。
【0064】
比較例3
ラウリルアルコール1molに、エチレンオキシドを10mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(B3)(分子量:626)を得た。
得られたポリオキシアルキレン誘導体(B3)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(B3)を得た。
【0065】
比較例4
ラウリルアルコール1molに、エチレンオキシドを20mol付加して、ポリオキシアルキレン誘導体(B4)(分子量:1066)を得た。
得られたポリオキシアルキレン誘導体(B4)の濃度が15重量%となるよう水で希釈して半導体ウェハ表面保護剤(B4)を得た。
【0066】
実施例及び比較例で得られた半導体ウェハ表面保護剤について、下記評価を行った。
【0067】
<耐腐食性試験>
(サンプルの調製)
シリコンウェハを、3%フッ酸水溶液に20秒浸漬してシリコンウェハ表面の酸化膜を除去し、その後、純水で10秒洗浄した。この作業を、シリコンウェハの表面が完全撥水となるまで繰り返した。このようにして酸化膜を除去したシリコンウェハをサンプルとして使用した。
【0068】
(耐腐食性試験液の調製)
次いで、アンモニア:水の重量比が1:19であるアンモニア水に、実施例及び比較例で得られた半導体ウェハ表面保護剤を、半導体ウェハ表面保護剤の濃度が0.18重量%となるように添加して、試験液Aを調製した。
【0069】
上記サンプルを試験液Aに完全に浸漬させ、25℃で12時間静置した。そして、下記式により算出される腐食速度から、耐腐食性を評価した。尚、腐食速度が小さい方が、耐腐食性に優れる。
【数1】
【0070】
また、試験液Aから引き上げたサンプル表面を目視で確認し、以下の基準により耐腐食性を評価した。
評価基準
耐腐食性極めて良好(○):表面に荒れが認められない
耐腐食性良好(△):表面がやや荒れている
耐腐食性不良(×):表面が著しく荒れている
【0071】
<吸着性試験>
(吸着性試験液の調製)
実施例及び比較例で得られた半導体ウェハ表面保護剤を水に溶解して、0.18重量%の濃度の試験液Bを調製した。
【0072】
上記<耐腐食性試験>のサンプル調製と同様の方法で調製されたサンプルを、40℃において、前記試験液Bに5分間浸漬した。その後、ピンセットを用いて、サンプルの表面が液面に対して垂直になるように引き上げ、10秒経過時点での、サンプル端部からの撥水距離を計測して、以下の基準により、実施例及び比較例で得られた半導体ウェハ表面保護剤のサンプルへの吸着性を評価した。尚、実施例及び比較例で得られた半導体ウェハ表面保護剤がサンプルの表面に良好に吸着し、サンプルの表面を被覆すると、サンプルの表面は親水化され、撥水距離は小さくなる。
【0073】
評価基準
吸着性極めて良好(○):撥水距離5mm未満
吸着性良好(△):撥水距離5~10mm
吸着性不良(×):撥水距離10mm超
【0074】
<砥粒の分散性試験>
アンモニア水を加えてpHを10.0に調整したコロイダルシリカ分散液(A)(1次粒子径:30~50nm、シリカ固形分濃度:10%)5.0gに、実施例及び比較例で得られた半導体ウェハ表面保護剤の水溶液(半導体ウェハ表面保護剤濃度:20%)0.5gを添加し、良く混合して得られたコロイダルシリカ分散液(B)を得た。
コロイダルシリカ分散液(A)中のシリカの粒子径[A]、及びコロイダルシリカ分散液(B)中のシリカの粒子径[B]を動的光散乱法(ELSZ-1000、大塚電子(株)製)により測定した。
粒子径の変化率を下記式に従って算出し、以下の基準より判定した。
変化率(%)={(B-A)/A}×100
【0075】
評価基準
分散性極めて良好(○):変化率が10%未満
分散性良好(△):変化率が10%以上、30%未満
分散性不良(×):変化率が30%以上
【0076】