(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】高膨張泡消火設備
(51)【国際特許分類】
A62C 5/02 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
A62C5/02 Z
(21)【出願番号】P 2019051235
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】植田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】池亀 主則
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-099277(JP,A)
【文献】特開2008-086453(JP,A)
【文献】特開平05-146523(JP,A)
【文献】米国特許第05337830(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0030855(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の内部に設けられ、泡水溶液を前方に放射するノズルと、
前記筐体の後端側に設けられ、空気を後方から吸引する空気吸引部と、
前記筐体の前端側に設けられ、高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網と、
前記筐体の空気吸引部に露出して設けられ、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する吸気アダプタと、を有する発泡機を備え
、
前記吸気アダプタは、網状、かつ有底筒状の形状をなし、
前記網状の形状は、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する網目サイズを有することを特徴とする高膨張泡消火設備。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体の内部に設けられ、泡水溶液を前方に放射するノズルと、
前記筐体の後端側に設けられ、空気を後方から吸引する空気吸引部と、
前記筐体の前端側に設けられ、高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網と、
前記筐体の空気吸引部に露出して設けられ、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する吸気アダプタと、を有する発泡機を備え、
前記発泡機は、複数が防護領域の長さ方向に沿って所定の間隔で配置されて設けられるものであり、
また、前記吸気アダプタは、前記発泡機全体としての長さが前記複数の発泡機間の所定の間隔の略半分となる長さを有することを特徴とする高膨張泡消火設備。
【請求項3】
前記吸気アダプタは、網状、かつ有底筒状の形状をなすことを特徴とする請求項2に記載の高膨張泡消火設備。
【請求項4】
筐体と、
前記筐体の内部に設けられ、泡水溶液を前方に放射するノズルと、
前記筐体の後端側に設けられ、空気を後方から吸引する空気吸引部と、
前記筐体の前端側に設けられ、高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網と、
前記筐体の空気吸引部に露出して設けられ、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する吸気アダプタと、を有する発泡機を備え、
前記吸気アダプタは、長さ方向に移動可能であることを特徴とする高膨張泡消火設備。
【請求項5】
筐体と、
前記筐体の内部に設けられ、泡水溶液を前方に放射するノズルと、
前記筐体の後端側に設けられ、空気を後方から吸引する空気吸引部と、
前記筐体の前端側に設けられ、高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網と、
前記筐体の空気吸引部に露出して設けられ、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する吸気アダプタと、を有する発泡機を備え、
前記吸気アダプタは、前記空気吸引部側の面を含む6面すべてが網状の箱状であることを特徴とする高膨張泡消火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高発泡の泡を発泡、放出して消火する高膨張泡消火設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高膨張泡消火設備は、ノズルから放射される泡水溶液が空気と共に発泡網に衝突して高い発泡倍率(650~1000倍程度、1000倍を超えることもある)で発泡し、その高発泡の泡で窒息消火を行うものである。
【0003】
高膨張泡消火設備には、発泡機による発泡時の空気の吸引方式として、アウトサイドエア式などと呼ばれる、泡を放出する区画外の空気を吸引して発泡するものと、インサイドエア式などと呼ばれる、泡を放出する区画内の空気を吸引して発泡するものがあるが、閉鎖空間を防護領域とする場合、インサイドエア式のものの方が施工を安価にすることができ、有利である(インサイドエア式のものとして、例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような高膨張泡消火設備を、ケーブル(通信ケーブル等)の洞道等の細長い閉鎖空間を防護領域として設けることが考えられる。その場合、発泡機をインサイドエア式のものとして、それを複数、防護領域の上方に長さ方向に沿って縦列に配置して設けることになる。
【0006】
しかしながら、発泡機を縦列に配置して設ける場合、防護領域に積み上がる泡の高さ次第では、発泡機後端部側の空気吸引部から後方の発泡機が放出する泡が流入してしまい、それにより十分に空気を吸引することができなくなり、発泡倍率が低下するという問題が生じることがある。
【0007】
例えば、ケーブルの洞道が防護領域である場合、防護対象物となるケーブルが洞道内の壁面に設けられるラックに支持されて、天井付近の高さにまで敷設されるため、天井部に発泡機を設置しても、そのケーブルを泡で埋め尽くす状態(「冠泡」と呼ばれる状態)にするには、発泡機の設置高さまで泡を積み上げる必要があり、後方の発泡機が放出する泡が発泡機内に流入することによる、前記の発泡倍率が低下するという問題が必然的に生じることになる。
【0008】
この発明は、上記の事情に鑑み、高膨張泡消火設備において、発泡機が縦列に配置される場合でも、その発泡倍率が低下するのを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、高膨張泡消火設備であり、筐体と、前記筐体の内部に設けられ、泡水溶液を前方に放射するノズルと、前記筐体の後端側に設けられ、空気を後方から吸引する空気吸引部と、前記筐体の前端側に設けられ、高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網と、前記筐体の空気吸引部に露出して設けられ、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する吸気アダプタと、を有する発泡機を備える(請求項1乃至5)。
【0010】
そして、この発明において、前記吸気アダプタは、網状、かつ有底筒状の形状をなし、前記網状の形状は、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する網目サイズを有する(請求項1)。
【0011】
また、この発明において、前記発泡機は、複数が防護領域の長さ方向に沿って所定の間隔で配置されて設けられるものであり、前記吸気アダプタは、前記発泡機全体としての長さが前記複数の発泡機間の所定の間隔の略半分となる長さを有する(請求項2)。前記吸気アダプタは、網状、かつ有底筒状の形状をなす(請求項3)。前記吸気アダプタは、長さ方向に移動可能である(請求項4)。前記吸気アダプタは、前記空気吸引部側の面を含む6面すべてが網状の箱状である(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
この発明においては、吸気アダプタによって、発泡機に泡が流入するのを防ぐことができ、十分に空気を吸引することができる。
【0013】
したがって、この発明によれば、高膨張泡消火設備において、発泡機が縦列に配置される場合でも、その発泡倍率が低下するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の高膨張泡消火設備の実施形態の一例を示したものであり、防護領域の一例であるケーブルの洞道(細長い閉鎖空間)に長さ方向に縦列に配置される発泡機から泡が放出されて、その泡が積み上がる途中の状態における洞道内部の様子を側方から見て示した説明図である。
【
図2】
図1と同様の説明図であり、同図の状態からさらに泡が積み上がり、発泡機の設置高さまで到達して、防護対象物であるケーブル(図示省略)を泡で埋め尽くした状態(「冠泡」の状態)における洞道内部の様子を示したものである。
【
図3】発泡機とケーブルを支持するラックの位置関係を示したものであり、洞道内部を前方から見て示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の高膨張泡消火設備の実施形態の一例について、細長い閉鎖空間であるケーブル(通信ケーブル等)の洞道を防護領域として設ける場合を例に、
図1乃至3を参照しつつ説明する。なお、この発明の高膨張泡消火設備は、発泡機が縦列に配置される防護領域であれば、ケーブルの洞道に限らず、他の洞道を防護領域としても、好適に設けることができるし、洞道に限らず、他の細長い閉鎖空間を防護領域としても、好適に設けることもできる。
【0016】
・発泡機
この発明の高膨張泡消火設備1は、高発泡の泡を発泡、放出する構成部分として、発泡機2を備える(
図1乃至3参照)。なお、発泡機2に泡水溶液を供給する手段等の他の構成部分もさらに備えるが、それら他の構成部分の図示及び説明は省略する。
【0017】
発泡機2は、筐体3と、筐体3内に設けられて、泡水溶液を筐体3内前方に放射するノズル(図示省略)と、筐体3の後端側に設けられて、筐体3内に開口(図示省略)を介して空気を後方から吸引する空気吸引部4と、筐体3の前端側に設けられて、ノズルによって放射される泡水溶液が空気吸引部4によって吸引される空気と共に衝突し、高発泡の泡を発泡して前方に放出する発泡網5と、を有する(
図1及び2参照)。
【0018】
・吸気アダプタ
そして、発泡機2は、筐体3の空気吸引部4に露出して設けられて、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引する吸気アダプタ6をさらに有する(
図1及び2参照)。この吸気アダプタ6を有することにより、発泡機2は、後記で詳細に説明するように、防護領域に縦列に配置される場合でも、空気を十分に吸引することができ、その発泡倍率が低下するのを防ぐことができる。
【0019】
・・全体形状
本実施形態において、吸気アダプタ6は、有底筒状(図示の例の場合、筐体3の四角形の断面形状と同様の四角形の断面形状の有底四角筒状)の外形を有し、中空の内部が空気吸引部4の開口を介して筐体3の内部に連通しつつ、開口側が空気吸引部4に連結されて、底側が後方に向かう向きで、全体として空気吸引部4から後方に延出するように露出して設けられる。
【0020】
なお、この吸気アダプタ6の外形については、その外形を画定する壁部6aが後記で説明するような網状をなすものとして形成されれば、有底筒状の形状に限らず、例えば、球欠状等の他の形状としてもよい。また、吸気アダプタ6の空気吸引部4への取り付け方法としては、空気吸引部4の内側(開口内)に吸気アダプタ6を挿入するようにして取り付けてもよいし、空気吸引部4の外側に被せるようにして取り付けてもよい。さらに、吸気アダプタ6を筐体3に長さ方向に移動可能に取り付けて、吸気アダプタ6の後方への出幅を調節可能としてもよい。
【0021】
・・網状の壁部
さらに、吸気アダプタ6は、その外形を画定する壁部6aが網板からなり、泡の流入を防ぎつつ、空気を吸引することができる網目サイズを有する網状をなすものとして形成される。その網板としては、金属製の網板(織金網だけでなく、エキスパンドメタルやパンチングメタル等を含む)等を用いることができる。また、その網目サイズとしては、例えば、10メッシュ/インチ以上、好ましくは10メッシュ/インチ程度とすることができる。網目をその程度のサイズのものとすることにより、吸気を過度に妨げずに、泡の流入を十分に防ぐものとすることができる、すなわち、泡の流入を十分に防ぎつつ、空気を十分に吸引するのに好適なものとすることができる。なお、吸気アダプタ6の表面積を大きくすれば、全体の網目数を増加させて、吸気量を増加させることができるので、網目のサイズを前記のものよりも小さくしたとしても、泡の流入を十分に防ぎつつ、空気を十分に吸引させるようにすることは可能である。つまり、吸気アダプタ6の表面積を大きくすれば、網目のサイズを10メッシュ/インチよりも小さくすることは可能である。
【0022】
なお、吸気アダプタ6は、その外形を画定する壁部6aのすべてを全面網状(図示の例は、全面網状)をなすものとすることができる。一部の壁部6aだけを全面網状をなすものとしたり、一部網状をなすものとしたりすることもできるが、すべての壁部6aを全面網状をなすものとすれば、より多くの空気を吸引することができる。さらに、吸気アダプタ6の空気吸引部4側に取り付けられる面も網状になっていてもよい。すなわち、吸気アダプタ6を、例えば6面のすべてが網状の箱状のものとしてもよい。
【0023】
・防護領域(洞道)
この発明の高膨張泡消火設備1は、例えば、ケーブル(通信ケーブル等)の洞道を防護領域として設けることができる。
【0024】
ケーブルの洞道Tは、細長い閉鎖空間を形成し(
図1及び2参照)、通常、その壁面には、長さ方向に沿って敷設されるケーブルを支持する複数段のラックRが壁面上の高い位置(天井近くの位置)まで設けられる(
図3参照)。このような洞道Tに対し、発泡機2は、複数台が、天井面に吊り下げられて上方に位置しつつ、長さ方向に沿って所定の間隔で縦列に配置されて設けられる(
図1乃至3参照)。
【0025】
・泡の放出、積み上げ
洞道T内に発泡機2が前記のように縦列に配置される場合、発泡機2から放出される泡Fは、前後に泡の山を連ねて形成するように積み上がっていくことになる(
図1参照)。そして、ラックRの最上段が上方の発泡機2の設置高さと同程度の高さに位置する場合(
図3参照)、防護対象物であるケーブルをラックRの最上段に支持されるものまで泡Fで覆い尽くして冠泡の状態にするには、発泡機2の設置高さまで泡Fを積み上げることになる(
図2参照)。
【0026】
・・泡の流入防止
発泡機2は、前記の通り、空気吸引部4に設けられて、泡の流入を防ぎつつも、空気を吸引する吸気アダプタ6を有する。そのため、発泡機2は、放出される泡Fが発泡機2の設置高さまで積み上がったときでも、すなわち、吸気アダプタ6がなければ、空気吸引部4から泡Fが流入するほどに泡Fが積み上がったときでも、吸気アダプタ6があることによって、発泡機2内に泡Fが流入するのを防ぐことができ、吸気アダプタ6の上部側から空気を十分に吸引することができる(
図2参照)。これにより、発泡機2は、前記のように縦列に配置される場合でも、発泡倍率が低下するのを防ぐことができる。
【0027】
・・空気溜まりの発生防止
発泡機2から放出される泡Fは、前記の通り、前後に泡の山を連ねて形成するように積み上がっていく(
図1参照)。その過程で、積み上がる泡の山と山の間に挟まれて、それ以上の泡の積み上げができない空気溜まりが、縦列に配置される発泡機2と発泡機2との間に発生することがある。特に、発泡機2と発泡機2との間の中間部付近に空気溜まりが発生し易い。空気溜まりが発生すると、その発生した箇所で必要な高さまでの泡の積み上げができなくなり、ケーブル等の防護対象物を冠泡することができなくなる。
【0028】
しかしながら、発泡機2は、前記の通り、吸気アダプタ6を有し、それが空気吸引部4から後方に延出するように設けられる。そのため、吸気アダプタ6を有する分、より後方から空気を吸引することができる。つまり、発泡機2は、吸気アダプタ6を有することにより、空気溜まりが発生し易い、発泡機2の間の中間部付近により近い位置から空気を吸引することができ、空気溜まりが発生するのを防ぐことができる。
【0029】
ここで、図示は省略するが、吸気アダプタ6を長尺のものとして、その吸気アダプタ6を含む発泡機2全体の長さが発泡機2と発泡機2との間の間隔の長さの半分になる長さのものとすることができる。そのようにすれば、吸気アダプタ6の後端部を、空気溜まりが発生し易い、発泡機2の間の中間部付近に位置させて、その位置から空気を吸引することができ、空気溜まりが発生するのをより防ぐことができる。
【0030】
・実施形態の変更例等
以上、この発明の高膨張泡消火設備の実施形態の一例について説明したが、この発明は上記の例に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で種々の変更等が可能である。
【0031】
例えば、上記の実施形態では、この発明の高膨張泡消火設備を、細長い閉鎖空間を防護領域として設ける場合を例に説明したが、この発明の高膨張泡消火設備は、防護領域を冠泡する必要のある閉鎖空間であれば、細長いものに限らず、設けることは可能である。
【符号の説明】
【0032】
1:高膨張泡消火設備 2:発泡機 3:筐体 4:空気吸引部
5:発泡網 6:吸気アダプタ 6a:壁部 F:泡 R:ラック
T:洞道