(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】柱固定構造及び柱建て替え方法
(51)【国際特許分類】
E04H 12/22 20060101AFI20230414BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230414BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
E04H12/22
E04G23/02 C
E04B1/58 510Z
E04B1/58 511H
(21)【出願番号】P 2019051731
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 栄昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌記
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-232505(JP,A)
【文献】特開2004-201239(JP,A)
【文献】特開2000-073532(JP,A)
【文献】特開2006-112051(JP,A)
【文献】特開2009-275390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 12/22
E04B 1/58
E04B 1/24
E04G 23/02
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置された張り出し部の上方に立設される
、鉄道の架線を支持する鋼管柱を固定する柱固定構造であって、
前記張り出し部に固定されるブラケットと、
前記
鋼管柱の下端に形成されたベースプレートと、を備え、
前記張り出し部は、
一方の側面を前記構造物に接続されている四角柱形状であり、
前記
鋼管柱の中心軸を
当該張り出し部側に延長した仮想線を囲むように形成された張り出し部側面と、
前記
仮想線と交わるように形成された張り出し部上面と、を備え、
前記張り出し部側面は、
前記四角柱形状の一方の側面以外の側面であって、
前記張り出し部上面は、
前記鋼管柱が立設される側に向かって部分的に突出した切断された既設柱である凸部が形成され、
前記ブラケットは、
前記ベースプレートが上面に当接するフランジ部と、
前記張り出し部側面に固定される固定部と、を備え、
前記フランジ部の前記上面は、
前記張り出し部上面
及び前記凸部よりも上方に位置し、
前記ベースプレートが、
前記凸部から上方に離れた状態で前記フランジ部に固定される、柱固定構造。
【請求項2】
前記張り出し部側面は、
アンカーボルトが立設され、
前記ブラケットの前記固定部は、
前記アンカーボルトにナットを締結することにより前記張り出し部側面に固定される、請求項
1に記載の柱固定構造。
【請求項3】
前記ブラケットの前記フランジ部及び前記固定部は、
板状部材により構成され、
前記ブラケットは、
前記フランジ部及び前記固定部の表面に対し立設されたリブを備える、請求項1
又は2に記載の柱固定構造。
【請求項4】
前記ベースプレートは、
前記張り出し部上面に対向する面から突出して形成された補強リブを備える、請求項1~
3の何れか1項に記載の柱固定構造。
【請求項5】
前記補強リブは、
十字形状に設けられている、請求項
4に記載の柱固定構造。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の柱固定構造を使用した柱建て替え方法であって、
高架橋に設けられた張り出し部の上面に立設された既設柱の根元部を切断して前記既設柱を撤去する撤去工程と、
3つの
前記張り出し部側面のそれぞれに
前記ブラケットを固定し、前記ブラケットが上部に備える
前記フランジ部を前記既設柱の切断面よりも上方に位置するように固定するブラケット固定工程と、
前記張り出し部に固定された3つの前記ブラケットのそれぞれの前記フランジ部に
前記ベースプレートを固定するベースプレート固定工程と、を備える、柱建て替え方法。
【請求項7】
前記張り出し部
側面にアンカーボルトを立設するアンカーボルト設置工程を更に備える、請求項
6に記載の柱建て替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱を構造物に固定するための柱固定構造及び柱建て替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の高架橋等の構造物に設置される架線構造は、一般に、構造物上に設置された軌道に沿って架線柱が複数設置されており、軌道上に吊架線又はトロリー線等の電線を配置し、架線柱によって支持することにより構成される。架線柱は、走行する電車の障害にならないように軌道の側方に軌道に沿って配置される。架線柱には、例えばコンクリート柱が用いられる。
【0003】
コンクリート柱は、大地震の振動により高架橋等の構造物と共振を起こし、破損が生じる場合がある。また、コンクリート柱は長期の使用により強度が低下している場合がある。そこで、特許文献1に開示されている柱の元位置建替え構造においては、既存のコンクリート柱を切断し、切断された既存のコンクリート柱の残った基部を鋼管分割体により囲む。次に、コンクリート柱の基部と鋼管分割体との間にモルタルが充填される。そして、鋼管分割体の上部に新設の鋼管柱をはめ込み、コンクリート柱から鋼管柱への建て替えを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている柱の建替え構造においては、既設のコンクリート柱を切断し、新設の鋼管柱を支持する基部として利用するものである。従って、既設のコンクリート柱の経年劣化及び地震等の振動が加わることによる強度の低下により、新設の鋼管柱を支持する基部の強度は、既設のコンクリート柱の状態によってばらつきが出てしまうという課題があった。
【0006】
また、既設のコンクリート柱の上部を切断し、残った基部を鋼管分割体とモルタルにより補強した後に新設の鋼管柱を立設するため、既設のコンクリート柱を撤去してから新設の鋼管柱を立設するまでに時間が掛かり、工期が延びるという課題があった。また、電車が走行する高架橋の柱の建て替えにおいては、夜間、つまり終電から始発までの間に建て替えを実施する必要があり、建て替え実施可能な時間に制約があるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、強度及び剛性を確保でき、速やかに新設柱を設置できる、柱固定構造及び柱建て替え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る柱固定構造は、構造物に設置された張り出し部の上方に立設される、鉄道の架線を支持する鋼管柱を固定する柱固定構造であって、前記張り出し部に固定されるブラケットと、前記鋼管柱の下端に形成されたベースプレートと、を備え、前記張り出し部は、一方の側面を前記構造物に接続されている四角柱形状であり、前記鋼管柱の中心軸を当該張り出し部側に延長した仮想線を囲むように形成された張り出し部側面と、前記仮想線と交わるように形成された張り出し部上面と、を備え、前記張り出し部側面は、前記四角柱形状の一方の側面以外の側面であって、前記張り出し部上面は、前記鋼管柱が立設される側に向かって部分的に突出した切断された既設柱である凸部が形成され、前記ブラケットは、前記ベースプレートが上面に当接するフランジ部と、前記張り出し部側面に固定される固定部と、を備え、前記フランジ部の前記上面は、前記張り出し部上面及び前記凸部よりも上方に位置し、前記ベースプレートが、前記凸部から上方に離れた状態で前記フランジ部に固定されるものである。
【0009】
本発明に係る柱建て替え方法は、上記の柱固定構造を使用した柱建て替え方法であって、高架橋に設けられた張り出し部の上面に立設された既設柱の根元部を切断して前記既設柱を撤去する撤去工程と、3つの前記張り出し部側面のそれぞれに前記ブラケットを固定し、前記ブラケットが上部に備える前記フランジ部を前記既設柱の切断面よりも上方に位置するように固定するブラケット固定工程と、前記張り出し部に固定された3つの前記ブラケットのそれぞれの前記フランジ部に前記ベースプレートを固定するベースプレート固定工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、必要な強度及び剛性を確保しつつ、速やかに柱を立設することができるため、新設の柱の設置にあたり工期を短縮することができる。また、既設の柱を建て替える場合においては、新設の柱の設置までの時間を短縮することができるため、柱を使用できない時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る柱固定構造100を有する構造物1の説明図である。
【
図2】
図1に示される柱固定構造100を拡大した側面図である。
【
図3】
図1に示される柱固定構造100を拡大した正面図である。
【
図4】実施の形態1に係る柱固定構造100の断面構造を示す説明図である。
【
図5】実施の形態1に係る柱固定構造100において、張り出し部81にブラケット20、30を取り付けた状態の上面図である。
【
図6】
図5に示された取付面50上に柱10を載置した状態を示す上面図である。
【
図7】実施の形態1に係る柱固定構造100の設置方法を説明する模式図である。
【
図8】実施の形態1に係る柱建て替え方法の比較例の説明図である。
【
図9】実施の形態1に係る柱建て替え方法の比較例の説明図である。
【
図10】実施の形態2に係る柱固定構造200のベースプレート12を張り出し部上面84側からみた底面図である。
【
図11】実施の形態1及び実施の形態2に示された柱固定構造100、200の設置位置を変更した変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。また、各図に記載の構成について、その形状、大きさ、及び配置等は、本発明の範囲内で適宜変更することができる。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る柱固定構造100を有する構造物1の説明図である。構造物1は、例えば、上面に軌道90が設けられ、軌道90上を電車等が走行する高架橋である。
図1は、軌道90に垂直な断面における構造物1の構造を示している。構造物1は、軌道90を地表から上方に離れた位置に設置できる様に、例えば、地面に立設された橋脚上に橋梁80を設置して構成される。橋梁80の上面には、レール91を敷設することにより軌道90が形成されている。
【0014】
軌道90の側方であって、橋梁80の端部には例えば防音壁95が立設されている。また、軌道90側から見て防音壁95の外側には、軌道90上を走行する電車に電気を供給する架線98を支持するための柱10が設置されている。柱10は、橋梁80の側面82から突出して設置されている張り出し部81の上面84から上方に向かって立設されている。
【0015】
柱10は、ブラケット20、30を介して張り出し部81に支持されている。張り出し部81は、橋梁80の側面82から側面82の垂直方向に突出して形成されている四角柱形状である。ブラケット20、30は、その四角柱形状の張り出し部81の側面83に固定されている。柱10は、ブラケット20、30の上面24、34に当接して固定され、四角柱形状の張り出し部81の上面84から上方に向かって中心軸Xが延びる様に立設されている。
【0016】
ブラケット20、30は、柱10の中心軸Xを下方に延長した仮想線を囲む様に位置する張り出し部側面83に固定されている。張り出し部側面83は、四角柱形状の張り出し部81の側面のうち橋梁80の側面82に接続されている一方の側面以外の3つの側面である。
図1において、張り出し部側面83a及びそれに隣接する張り出し部側面83bのみが図示されている。
図1には図示されていないが、張り出し部側面83aに対向する張り出し部81の側面を張り出し部側面83c(
図3参照)と称する。
【0017】
柱10の上部には、架線支持構造97が固定部材14、15により固定されている。架線支持構造97は、架線98を吊り下げて支持している。架線98は、電車等のパンタグラフが接触し、電車に電気が供給される。なお、柱10は、軌道90に沿って複数設けられている。また、
図1においては、構造物1の断面のうち一方の側面82の周辺のみが示されており、他方の側面82の周辺の構造は示されていないが、他方の側面82側は、一方の側面82と対称な構造になっている。
【0018】
図2は、
図1に示される柱固定構造100を拡大した側面図である。
図3は、
図1に示される柱固定構造100を拡大した正面図である。
図3は、橋梁80の側面82に対し垂直な方向から見た柱固定構造100を示している。
図4は、実施の形態1に係る柱固定構造100の断面構造を示す説明図である。
図4は、
図3のA-A部における断面を示している。ブラケット20は、張り出し部側面83b、即ち橋梁80の側面82に対向するように位置する側面に固定されている。ブラケット30は、張り出し部側面83a及び張り出し部側面83cのそれぞれに固定されている。ブラケット20、30は、張り出し部側面83に立設されたアンカーボルト43にナット42を螺合させて締結固定される。なお、アンカーボルト43は、ブラケット20、30を張り出し部81に取り付ける前に設置されるものである。
【0019】
図2~
図4に示される様に、ブラケット20は、それぞれ平板状の固定部21と平板状のフランジ部22とを接合して形成されている。固定部21とフランジ部22とは、平板形状でありそれぞれの板面が互いに垂直になるように接合されている。フランジ部22は、固定部21の上端に接合されており、ブラケット20の上面24を形成している。また、平板状に形成されている固定部21及びフランジ部22のそれぞれの表面にリブ23が立設されている。固定部21、フランジ部22、及びリブ23は、それぞれ鋼板から形成され、互いに溶接等の接合手段により接合されている。実施の形態1においては、ブラケット20は、それぞれ別体の部材を接合して製造されている。しかし、ブラケット20は、この形態のみに限定されるものではなく、例えば鋳造して固定部21、フランジ部22、及びリブ23のうち全ての部材を一体に製造しても良いし、一部の部材を一体に製造しても良い。
【0020】
また、ブラケット30もブラケット20と同様な構造であり、固定部31、フランジ部32、及びリブ33を接合して形成されている。
【0021】
柱10は、ブラケット20、30のフランジ部22、32により形成された柱10の取付面50に固定されている。柱10は、柱体11の下端にベースプレート12が取り付けられて構成されている。柱体11は、筒形状又は柱形状であり、鋼管又はコンクリートを充填した鋼管等により構成される。ベースプレート12は、平板状の鋼板であり、柱10の下端に接合されている。柱10は、柱体11とベースプレート12とを溶接等の接合手段により接合して形成される。さらに、柱体11及びベースプレート12には、柱リブ13が接合されている。柱リブ13は、柱体11及びベースプレート12の表面に立設され、柱10の根元部の強度及び剛性を向上させるものである。ただし、柱10は、上記に説明した形態のみに限定されるものではなく、材料、柱体11の形状、ベースプレート12の形状、柱リブ13の形状、数量、及び設置箇所、並びに柱体11、ベースプレート12、及び柱リブ13の接合手段を適宜変更することができる。
【0022】
ブラケット20、30は、上面24、34が同一平面を形成するように張り出し部側面83に設置される。ただし、上面24、34の位置及び姿勢は、柱10の位置精度に影響の無い程度であれば、誤差が生じていても良い。柱10の固定は、ブラケット20、30の上面24、34により形成される取付面50に柱10のベースプレート12を載置し、固定手段40により行われる。実施の形態1において、固定手段40は、ボルト41と、ボルト41に螺合させたナット42とから構成される。ボルト41は、ベースプレート12に設けられた貫通孔17とブラケット20、30のフランジ部22、32に設けられた貫通孔25、35に通される。ナット42は、ボルト41に螺合される。ベースプレート12とフランジ部22、32とは、ボルト41とナット42により締結固定される。
【0023】
図5は、実施の形態1に係る柱固定構造100において、張り出し部81にブラケット20、30を取り付けた状態の上面図である。ブラケット20、30は、張り出し部81を三方から囲む様に取り付けられている。ブラケット20、30のフランジ部22、32の上面24、34は、上方に向けられており、
図5において張り出し部81の側方に位置している。この3つの上面24、34がベースプレート12の取付面50となる。柱10のベースプレート12の取付面50は、
図4に示される様に、張り出し部81の上面84の上方、及び張り出し部81の上面84から突出する凸部96よりも上方に位置する。
【0024】
図6は、
図5に示された取付面50上に柱10を載置した状態を示す上面図である。柱10の下端に設けられたベースプレート12とブラケット20、30により形成された取付面50とは、上方から見るとベースプレート12の周縁部のうち3方の周縁部で重なっている。
図6において、点線で囲まれた部分が、ブラケット20、30の上面24、34を示しており、取付面50である。実施の形態1において、ベースプレート12は、取付面50とのみ当接しており、柱10の荷重及び柱10に加わる荷重が全てブラケット20、30を介して張り出し部81に伝達するように構成されている。
【0025】
以上のように、実施の形態1に係る柱固定構造100は、構造物1が有する張り出し部81の上方に立設される柱10を固定する柱固定構造100であって、張り出し部81に固定されるブラケット20、30と、柱10の下端に形成されたベースプレート12と、を備える。張り出し部81は、柱10の中心軸Xを囲むように形成された張り出し部側面83と、中心軸Xと交わるように形成された張り出し部上面84と、を備える。ブラケット20、30は、柱10のベースプレート12が上面24、34に当接するフランジ部22、32と、張り出し部側面83に固定される固定部21、31と、を備える。フランジ部22、32の上面24、34は、張り出し部上面84よりも上方に位置する。ベースプレート12が、フランジ部22、32に固定される。
【0026】
実施の形態1に係る柱固定構造100によれば、フランジ部22、32の上面24、34が張り出し部上面84よりも上方に位置しているため、張り出し部上面84に対しベースプレート12を上方に離した状態で柱10を立設することができる。つまり、柱10のベースプレート12は、張り出し部81の側面83に固定されたブラケット20、30に固定される。そのため、柱10は、張り出し部上面84により支持されず、張り出し部側面83により支持されることになる。よって、柱固定構造100は、張り出し部上面84の状態に影響を受けることなく柱10を固定することが可能となる。
【0027】
また、実施の形態1に係る柱固定構造100によれば、張り出し部81の少なくとも上部は、一方の側面を構造物1に接続されている四角柱形状となっている。張り出し部側面83は、四角柱形状の一方の側面以外の三方の側面により構成されるものである。
【0028】
鉄道の高架橋等の構造物1においては、鉄道が走行する軌道90と架線98を支持する柱10との間に距離を取る必要がある。そのため、橋梁80の側面82に突出するように四角柱形状の張り出し部81を設けて、その張り出し部81の上方に柱10が立設される。柱固定構造100によれば、ブラケット20、30を四角柱形状の3つの側面、つまり張り出し部側面83a、83b、83cに固定する。そして、その3つのブラケット20、30のフランジ部22、32の上面24、34を柱10のベースプレート12の取付面50とすることができる。フランジ部22、32の上面24、34は、張り出し部81に対して側方に広がる様に形成されるため、ベースプレート12を大きくすることができ、ベースプレート12の取付面50の幅も広く設定できる。よって、柱体11に作用する力により、柱固定構造100にモーメント荷重が掛かっても、幅の広い取付面50により支持できるため、柱10の固定強度を十分に確保することができる。
【0029】
実施の形態1に係る柱固定構造100によれば、張り出し部上面84は、柱10が立設される側に向かって部分的に突出している凸部96が形成されており、フランジ部22、32の上面24、34は、凸部96よりも上方に位置している。
【0030】
例えば鉄道の高架橋において架線98を支持する柱を建て替えるときに、建て替える前の柱1010(
図7参照)を切断して撤去する場合がある。このとき、張り出し部上面84は、建て替える前の柱1010の根元部分が突出し、凸部96となって形成されている。柱固定構造100によれば、張り出し部上面84に形成されている凸部96よりも上方にベースプレート12の取付面50を設けることができる。そのため、柱10の建て替えにより張り出し部上面84に形成された凸部96があっても、ベースプレート12の取付面50を凸部96よりも上方に設けることができる。特に、鉄道の高架橋においては、柱10の立て替え工事は、電車が走行していない時間帯で実施される必要がある。よって、建て替える前の柱1010の撤去の時間は速やかに行う必要があるが、撤去するに当たり根元を切断するのは、速やかに建て替える前の柱1010を撤去する工法の1つである。従って、このような工法が採用された場合であっても、柱固定構造100は、張り出し部上面84の凸部96の突出量に合わせてブラケット20、30を固定することができる。そのため、柱10は、設置が容易であり、設置時間の変動も少なく、鉄道の高架橋における架線98を支持する柱10の建て替えに適している。
【0031】
実施の形態1に係る柱固定構造100によれば、張り出し部側面83は、アンカーボルト43が立設され、ブラケット20、30の固定部21、31は、アンカーボルト43にナット42を締結することにより張り出し部側面83に固定される。
【0032】
ブラケット20、30の固定部21、31が、張り出し部側面83に立設されたアンカーボルト43とナット42とを螺合させて締結することにより、張り出し部側面83に当接し固定される。そのため、柱10のベースプレート12からブラケット20、30のフランジ部22、32を介して入力される柱10の荷重及び柱10に入力された荷重を、張り出し部側面83、アンカーボルト43とナット42との締結力、及びアンカーボルト43のせん断強度により支持することができる。張り出し部側面83に立設されたアンカーボルト43は、柱10を支持するに当たり必要な本数及び箇所に設置することができる。そして、ブラケット20、30の固定部21、31もアンカーボルト43の設置本数及び設置箇所に応じて大きさ及び形状を設定することができる。よって、柱固定構造100は、柱10の荷重及び柱10に入力される荷重に応じて設計の自由度が向上する。
【0033】
また、建て替える前の柱1010を撤去する前に、予めアンカーボルト43及びブラケット20、30を張り出し部81に設置することができる。従って、予め設置されたアンカーボルト43及びブラケット20、30に、撤去する柱1010の下端を支持する部材等を取り付けることにより、撤去作業が安全に行えるという利点がある。また、ブラケット20、30及びアンカーボルト43は、橋梁80の側面にある張り出し部81に設置されるため、電車が走行している時間帯でも施工できる。従って、ブラケット20、30及びアンカーボルト43を設置する工程は、夜間に行われる撤去工程等に先行して施工できるという利点がある。
【0034】
実施の形態1に係る柱固定構造100によれば、ブラケット20、30のフランジ部22、32及び固定部21、31は、板状部材により構成される。さらに、ブラケット20、30は、フランジ部22、32及び固定部21、31の表面に対し立設されたリブ23、33を備える。
【0035】
ブラケット20、30は、フランジ部22、32及び固定部21、31の表面(板状部材の表面)に立設されたリブ23、33を備えることにより、剛性及び強度が向上する。
【0036】
図7は、実施の形態1に係る柱固定構造100の設置方法を説明する模式図である。実施の形態1に係る柱固定構造100は、鉄道の高架橋に設置された架線98を支持する柱10を建て替える際に有利な構成になっている。以下に、柱固定構造100の設置方法の一例として既設柱1010を新設柱10に建て替える場合の柱建て替え方法について説明する。
【0037】
柱建て替え方法は、特に鉄道の高架橋等に設置された架線98を支持する既設柱1010を、新設柱10に交換するためのものである。一例として、新幹線等の鉄道の高架橋においては、架線98を支持する架線柱にコンクリート柱を用いている場合があり、これらのコンクリート柱の中には、長期間使用されているもの、又は耐震性向上の必要があるものがあるため、必要に応じ建て替える必要がある。既設柱1010が軌道90の近くに建てられているため、同じ位置に新設柱10を建てる場合には、新幹線等の鉄道の運行が無い夜間等に既設柱1010を撤去し、新設柱10を設置する必要がある。従って、柱10の建て替えは、掛かる時間が短ければ短いほど良い。
【0038】
図7(a)及び
図7(b)は、柱建て替え方法の既設柱1010の撤去工程を説明する図である。既設柱1010は、張り出し部81に様々な形態で稙設されている場合がある。実施の形態1においては、一例として、既設柱1010の下端部1011が張り出し部81に設けられた投げ込み穴86に挿入され、下端部1011と投げ込み穴86との隙間にコンクリート等の充填材85を充填して稙設された既設柱1010について説明する。このような構造の既設柱1010は、撤去するにあたり、投げ込み穴86から既設柱1010を引き抜くのは困難であるため、張り出し部81の上面84の近傍で切断して撤去する。
【0039】
既設柱1010を切断して撤去する場合、張り出し部81の上面84と面一になるように切断するのが困難であり、上面84を新設柱10が設置できるような1つの面に加工するには時間が掛かる。そのため、張り出し部81の上面84は、上方に向かって突出する凸部96が形成される。以上の様に、既設柱1010の根元部を張り出し部81の上面84の上方にて切断して既設柱1010を撤去する工程を、撤去工程と称する。
【0040】
図7(c)は、柱建て替え方法のうちブラケット20、30を張り出し部側面83に固定する工程の説明図である。ブラケット20、30は、アンカーボルト43を固定部21に設けられた貫通孔26に通し、ナット42を締結することにより固定される。このとき、ブラケット20、30の上面24、34は、凸部96よりも上方に位置するように固定される。この工程をブラケット固定工程と称する。
【0041】
なお、ブラケット20、30を固定するためのアンカーボルト43は、ブラケット固定工程の前に設置される。この工程をアンカーボルト設置工程と称する。アンカーボルト43は、ブラケット固定工程を開始する前に設置されていれば良く、撤去工程の前に予め行っても良い。アンカーボルト43は、張り出し部81の内部に配筋されている鉄筋を避けて設置される。アンカーボルト43の配置及び数量は、張り出し部81の配筋の状態及び柱固定構造100に必要な強度及び剛性に応じて適宜設定される。
【0042】
図7(d)は、柱建て替え方法のうち新設柱10をブラケット20、30に固定する工程の説明図である。新設柱10は、下端にベースプレート12が設けられている。ベースプレート12は、ブラケット20、30の上面24、34の上に載置され、固定手段40により固定される。この工程を、ベースプレート固定工程と称する。
【0043】
以上の様に、実施の形態1に係る柱建て替え方法は、構造物1に設けられた張り出し部81の上面84に立設された既設柱1010の根元部を切断して既設柱1010を撤去する撤去工程を備える。そして、張り出し部81の3つの側面のそれぞれにブラケット20、30を固定し、ブラケット20、30が上部に備えるフランジ部22、32を既設柱1010の切断面よりも上方に位置するように固定するブラケット固定工程が行われる。張り出し部81に固定された3つのブラケット20、30のそれぞれのフランジ部22、32に新設柱10の下端に形成されたベースプレート12を固定するベースプレート固定工程が行われる。
【0044】
図8及び
図9は、実施の形態1に係る柱建て替え方法の比較例の説明図である。比較例の柱建て替え方法においては、
図8(a)に示される様に、張り出し部81に稙設されている既設柱1010Aを投げ込み穴86から引き抜くことにより既設柱1010Aを撤去している。一般に、既設柱1010Aと投げ込み穴86との隙間には、コンクリート等の充填材85が充填されており、既設柱1010Aを引き抜くには、固化した充填材85を破砕する必要がある。また、新設柱1010Bを設置する際には、新設柱1010Bを投げ込み穴86に挿入し、隙間に充填材85を充填し、固化させる必要がある。よって、既設柱1010Aを撤去してから新設柱1010Bを設置するまでの時間が長くなる。また、充填材85が固化するまでの間に新設柱1010Bを仮止めしておく必要もある。
【0045】
図9に示されるもう一つの比較例の柱建て替え方法においては、実施の形態1と同様に既設柱1010Cは切断されて撤去されている。しかし、新設柱1010Dを張り出し部上面84に直接固定するために、張り出し部上面84にアンカーボルト87が設置されている。この場合、張り出し部上面84の凸部1012Cを除去して取付面を整える必要があり、この作業に時間が掛かる。また、それに加え、既設柱1010Cを撤去してから新設柱1010Dを固定する前までにアンカーボルト87を設置する工程も必要となるため、既設柱1010Cを撤去してから新設柱1010Dを設置するまでの時間が長くなる。
【0046】
一方、実施の形態1に係る柱建て替え方法は、既設柱1010を切断して撤去するため、工法が容易である。しかも、張り出し部上面84の凸部96の突出量に合わせてブラケット20、30を固定することができるため、既設柱1010の切断に高い精度を必要とせず、撤去工程を速やかに完了することができる。また、ブラケット20、30及び新設柱10の設置が容易であり、設置時間の変動も少なく、鉄道の高架橋における架線98を支持する柱の建て替えに有利である。
【0047】
また、実施の形態1に係る柱建て替え方法は、張り出し部81の側面83にアンカーボルト43を立設するアンカーボルト設置工程を更に備える。この工程はベースプレート固定工程の前であればいつでも実施することができるため、既設柱1010を撤去してから新設柱10を設置するまでの時間に、アンカーボルト設置工程に掛かる時間を考慮に入れる必要がない。従って、既設柱1010を撤去してから新設柱10を設置するまでの時間は、比較例と比較して短くなる。
【0048】
実施の形態2.
次に実施の形態2に係る柱固定構造200について説明する。実施の形態2に係る柱固定構造200は、実施の形態1に係る柱固定構造200の柱10の下端に設けられたベースプレート12の形状を変更したものである。実施の形態2では、実施の形態1に対する変更点を中心に説明する。実施の形態2に係る柱固定構造200の各部については、各図面において同一の機能を有するものは実施の形態1の説明で使用した図面と同一の符号を付して表示するものとする。
【0049】
図10は、実施の形態2に係る柱固定構造200のベースプレート12を張り出し部上面84側からみた底面図である。実施の形態2に係る柱固定構造200のベースプレート12は、張り出し部上面84に対向する面から突出して形成された補強リブ18を備える。補強リブ18は、ベースプレート12の底面側に設置されており、張り出し部上面84と対向する面である領域12aから張り出し部81に向かって立設されている。
図10において二点鎖線で囲まれた領域12aが、張り出し部上面84と対向している領域であり、補強リブ18はこの領域12a内に設置される。
【0050】
ベースプレート12は、板状の部材であり、板面の3方向の端縁部をブラケット20、30に固定されている。しかし、
図1における橋梁80側の端縁部は、上下方向に支持されていない部分がある。従って、ベースプレート12の領域12aは、柱10の荷重又は柱10に加わる荷重により変形し易い。ベースプレート12は、変形し易い領域12aに補強リブ18を設けることにより強度及び剛性を向上させることができる。
【0051】
また、補強リブ18は、十字形状に設けられている。このようにベースプレート12に補強リブ18を十字形状に設けることにより、ベースプレート12の面に沿った2方向に剛性及び強度が向上するため、柱10の支持強度及び支持剛性が向上する。なお、補強リブ18のうち縦方向リブ18aと横方向リブ18bとは、直角に交差しているがこの形態のみに限定されるものではない。また、縦方向リブ18a及び横方向リブ18bは、位置をずらして設置しても良く、設置本数をさらに増やしても良い。例えば、縦方向リブ18aを端縁19寄りの位置に設けても良い。
【0052】
図11は、実施の形態1及び実施の形態2に示された柱固定構造100、200の設置位置を変更した変形例の断面図である。実施の形態1及び実施の形態2に係る柱固定構造100、200は、構造物1の外側に突出した張り出し部81だけでなく、内側に突出して設置された張り出し部81においても同様に設置することができる。以上に本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施の形態の構成のみに限定されるものではない。要するに、いわゆる当業者が必要に応じてなす種々なる変更、応用、利用の範囲をも本発明の要旨(技術的範囲)に含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0053】
1 構造物、10 (新設)柱、11 柱体、12 ベースプレート、12a 領域、13 柱リブ、14 固定部材、15 固定部材、17 貫通孔、18 補強リブ、18a 縦方向リブ、18b 横方向リブ、19 端縁、20 ブラケット、21 固定部、22 フランジ部、23 リブ、24 上面、25 貫通孔、26 貫通孔、30 ブラケット、31 固定部、32 フランジ部、33 リブ、34 上面、35 貫通孔、40 固定手段、41 ボルト、42 ナット、43 アンカーボルト、50 取付面、80 橋梁、81 張り出し部、82 側面、83 (張り出し部)側面、83a 張り出し部側面、83b 張り出し部側面、83c 張り出し部側面、84 (張り出し部)上面、85 充填材、86 投げ込み穴、87 アンカーボルト、90 軌道、91 レール、95 防音壁、96 凸部、97 架線支持構造、98 架線、100 柱固定構造、200 柱固定構造、1010 既設柱、1010A 既設柱、1010B 新設柱、1010C 既設柱、1010D 新設柱、1011 下端部、1012C 凸部、X 中心軸。