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特許7262316グラビアロール及びこれを備えたグラビア塗工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】グラビアロール及びこれを備えたグラビア塗工装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/08 20060101AFI20230414BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B05C1/08
B05C11/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019107284
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020199446
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314017635
【氏名又は名称】株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】団 一星
(72)【発明者】
【氏名】岩坂 充裕
(72)【発明者】
【氏名】荒堀 和真
(72)【発明者】
【氏名】舘沼 利憲
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-273124(JP,A)
【文献】特開2012-170939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00- 3/20
7/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に塗液を塗工するために用いられる略円柱形状のグラビアロールであって、
前記グラビアロールの軸方向における一方端側に設けられる第1の塗布部と、
前記グラビアロールの軸方向における他方端側に設けられ、前記グラビアロールの軸方向において前記第1の塗布部に隣接する第2の塗布部とを備え、
前記第1の塗布部には、塗工時における前記グラビアロールの所定の回転方向への回転に伴って、前記第1の塗布部及び前記第2の塗布部の境界部から前記一方端へと向かう前記塗液の流れを発生させる複数の第1の彫刻溝が設けられ、
前記第2の塗布部には、塗工時における前記グラビアロールの前記所定の回転方向への回転に伴って、前記境界部から前記他方端へと向かう前記塗液の流れを発生させる複数の第2の彫刻溝が設けられ
前記第1の彫刻溝は、前記グラビアロールの前記所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて前記一方端に近づく螺旋形状を有しており、
前記第2の彫刻溝は、前記グラビアロールの前記所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて前記他方端に近づき、かつ、前記第1の彫刻溝の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状を有しており、
前記第1の塗布部には、前記グラビアロールの前記所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて前記境界部に近づき、かつ、前記第1の彫刻溝の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状を有する複数の第3の彫刻溝が更に設けられ、
前記第2の塗布部には、前記グラビアロールの前記所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて前記境界部に近づき、かつ、前記第2の彫刻溝の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状を有する複数の第4の彫刻溝が更に設けられ、
前記第3の彫刻溝の数及び前記第4の彫刻溝の数は、それぞれ、前記第1の彫刻溝の数及び前記第2の彫刻溝の数よりも少ない、グラビアロール。
【請求項2】
記グラビアロールの直径をRとしたとき、前記第1の彫刻溝及び前記第2の彫刻溝の螺線形状のピッチが1/√3・πR~√3・πRである、請求項1に記載のグラビアロール。
【請求項3】
請求項1または2に記載のグラビアロールと、
前記グラビアロールを前記所定の回転方向に回転させる駆動機構と、
前記グラビアロールに前記塗液を供給するマニホールドブロックと、
前記グラビアロールから過剰な塗液を掻き取るドクターブレードとを備える、グラビア塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の塗液を塗工するためのグラビアロール及びこれを用いたグラビア塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、連続走行している帯状の基材に塗液を塗工する塗工装置として、塗液を貯留するマニホールドブロックと、塗液を基材に転移させるマイクログラビア版と、マイクログラビア版の外周面に付着した余分な塗液を掻き落とすためのドクターとを備えたマイクログラビアコーターが記載されている。また、特許文献2には、リバースグラビア塗工装置に用いるグラビアロールの表面に、塗液を掻き上げるための螺旋状の複数の斜線彫刻溝を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-170939号公報
【文献】特開2010-005543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載されるような斜線彫刻溝を設けたグラビアロールを用いて塗液を塗工する際、グラビアロールの回転に伴って塗液が彫刻溝に沿って移動し、グラビアロールの一方端から他方端へ向かう塗液の流れが生じる。彫刻溝の加工上の制約により、彫刻溝の端部の深さはそれ以外の部分よりも浅くなっているため、ワークに対して高速で塗工を行うと、塗液の流れの上流側となる彫刻溝の端部において塗液の供給不足が発生し、塗液中に気泡が混入する場合がある。混入した気泡は塗液の流れに伴ってグラビアロールの軸方向に移動し、塗工不良を引き起こす可能性がある。
【0005】
それ故に、本発明は、基材上の塗膜の塗工不良を抑制できるグラビアロール及びこれを備えたグラビア塗工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材の表面に塗液を塗工するために用いられる略円柱形状のグラビアロールに関する。本発明に係るグラビアロールは、グラビアロールの軸方向における一方端側に設けられる第1の塗布部と、グラビアロールの軸方向における他方端側に設けられ、グラビアロールの軸方向において第1の塗布部に隣接する第2の塗布部とを備える。第1の塗布部には、塗工時におけるグラビアロールの所定の回転方向への回転に伴って、第1の塗布部及び第2の塗布部の境界部から一方端へと向かう塗液の流れを発生させる複数の第1の彫刻溝が設けられる。第2の塗布部には、塗工時におけるグラビアロールの所定の回転方向への回転に伴って、境界部から他方端へと向かう塗液の流れを発生させる複数の第2の彫刻溝が設けられ、第1の彫刻溝は、グラビアロールの所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて一方端に近づく螺旋形状を有しており、第2の彫刻溝は、グラビアロールの所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて他方端に近づき、かつ、第1の彫刻溝の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状を有しており、第1の塗布部には、グラビアロールの所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて境界部に近づき、かつ、第1の彫刻溝の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状を有する複数の第3の彫刻溝が更に設けられ、第2の塗布部には、グラビアロールの所定の回転方向と逆方向に向かうにつれて境界部に近づき、かつ、第2の彫刻溝の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状を有する複数の第4の彫刻溝が更に設けられ、第3の彫刻溝の数及び第4の彫刻溝の数は、それぞれ、第1の彫刻溝の数及び第2の彫刻溝の数よりも少ない
【0007】
また、本発明に係るグラビア塗工装置は、上記のグラビアロールと、グラビアロールを所定の回転方向に回転させる駆動機構と、グラビアロールに塗液を供給するマニホールドブロックと、グラビアロールから過剰な塗液を掻き取るドクターブレードとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材上の塗膜の塗工不良を抑制できるグラビアロール及びこれを備えたグラビア塗工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るグラビア塗工装置の概略構成を示す斜視図
図2図1に示すII-IIラインに沿う断面図
図3】従来のグラビアロールを用いて高速塗工を行った場合の問題点を説明するための図
図4】実施形態に係るグラビアロールの概略構成を示す正面図
図5】実施形態に係るグラビアロールの使用状態を示す図
図6】実施形態に係るグラビアロールに設けられた彫刻溝のピッチを説明するための図
図7】変形例に係るグラビアロールの概略構成を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施形態に係るグラビア塗工装置の概略構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示すII-IIラインに沿う断面図である。
【0011】
グラビア塗工装置1は、基材10の表面に塗液を塗工するための装置であり、グラビアロール11と、駆動機構2と、マニホールドブロック3と、ドクターブレード4とを備える。
【0012】
グラビアロール11は、略円柱形状を有し、中心軸周りに回転可能に支持されている。グラビアロール11は、所定の回転方向に回転しながら、マニホールドブロック3から供給された塗液を基材10の表面に塗工する。グラビアロール11は、例えば、金属により形成することができる。グラビアロール11は、グラビア塗工装置1を上方から平面視したときに、基材10の搬送をガイドするための搬送ロール5及び6の間に位置するように配置される。グラビアロール11の表面には、マニホールドブロック3から塗液を掻き上げて保持するための複数の彫刻溝が形成されているが、彫刻溝の詳細については後述する。
【0013】
駆動機構2は、モータ及びコントローラを含むアクチュエータであり、コントローラによる制御に従ってグラビアロール11を中心軸周りに回転させる。
【0014】
マニホールドブロック3は、グラビアロール11の円柱面に対応する形状の凹部7と、図示しない送液装置から供給された塗液を貯留するマニホールド8と、マニホールド8を凹部7に連通させるスリット9とを有する。図示しない送液装置から供給された塗液は、マニホールド8及びスリット9を介して凹部7に供給される。図2に示すように、グラビアロール11の下方部は、凹部7の内面との間に所定の隙間が生じるように凹部7に収容されており、凹部7内の塗液がグラビアロール11の表面に供給される。
【0015】
ドクターブレード4は、マニホールドブロック3と基材10との間に配置される。ドクターブレード4の端縁は、グラビアロール11と基材10との接触箇所より上流側(グラビアロールの回転方向と逆方向側)において、グラビアロール11の外周面に所定の接触圧力で当接しており、グラビアロール11の表面から過剰な塗液を掻き取る。
【0016】
塗工時には、基材10は、搬送ロール5及び6によってガイドされながら、図示しない搬送装置によって所定の搬送速度で矢印の方向に搬送される。グラビアロール11は、搬送ロール5及び6の間の部分で基材10に接触しており、駆動機構2の駆動力によって、基材10の搬送速度に同期した回転速度で図1及び2の矢印の方向に回転しながら、マニホールドブロック3から供給された塗液を基材10の表面(図1及び図2における下面)に塗工する。一例として、グラビアロール11の直径は60mm以下であり、塗工時には、110~270rpmの回転数で使用される。
【0017】
ここで、本実施形態に係るグラビアロール11の詳細な説明に先立ち、従来のグラビアロールの構成と課題を説明する。尚、以下で説明する図3図4図6及び図7では、グラビアロールの表面に形成された螺旋状の彫刻溝を簡略化して斜線で表す。
【0018】
図3は、従来のグラビアロールを用いて高速塗工を行った場合の問題点を説明するための図である。図3は、図1に示したF-Fラインから見た図に相当する図であり、図3においては、簡略化のため、搬送ロール5と、従来のグラビアロール90と、基材10のみを模式的に示している。
【0019】
グラビアロール90の表面には、複数の彫刻溝91が形成されている。図3の例では、全ての彫刻溝91が、右巻きの螺旋形状を有する。塗工時にグラビアロール90図3に示す矢印方向に回転させると、グラビアロール90上の塗液に働く慣性力に従い、彫刻溝91上に保持された塗液は彫刻溝91に沿って、図3における右下方向に移動する。複数の彫刻溝91に沿った塗液の動きにより、グラビアロール90の表面において、図3における左側から右側へと向かう塗液の流れが発生する。ここで、彫刻溝91の端部の深さは、加工上の制約により、それ以外の部分よりも浅くなっている。グラビアロール90を高速回転させて、基材10に対して塗液を高速で塗工した場合、塗液の流れの上流側となる彫刻溝91の端部(図3で破線で囲んだ部分)において、マニホールドブロックからグラビアロール90への塗液の供給不足が発生する。塗液の供給不足が発生すると、グラビアロール90と基材10との接触箇所に形成されるビード19に気泡20が混入する場合があるが、ビード19内に混入した気泡20は、発生した右方向への塗液の流れに乗ってビード19内を右方向に移動する。基材10は、塗工時に長手方向に連続搬送されているので、気泡20がビード19内において基材10の幅方向に移動すると、基材10の搬送方向に対して斜め方向に延びる線状の痕跡(図3に二点鎖線で示す)が残り、この痕跡が塗工不良となる場合がある。
【0020】
そこで、本実施形態に係るグラビア塗工装置1においては、グラビアロール11の表面に形成する彫刻溝を工夫することにより、図3で説明した塗工不良を抑制する。以下、本実施形態に係るグラビアロール11の詳細を説明する。
【0021】
図4は、実施形態に係るグラビアロールの概略構成を示す正面図であり、図5は、実施形態に係るグラビアロールの使用状態を示す図である。図4は、図1に示したF-Fラインから見た図に相当する図であり、図4においては、簡略化のため、搬送ロール5と、グラビアロール11と、基材10のみを模式的に示している。
【0022】
本実施形態に係るグラビアロール11は、複数の第1の彫刻溝21が形成された第1の塗布部13と、複数の第2の彫刻溝22が形成された第2の塗布部14とを有する。第1の塗布部13及び第2の塗布部14は、グラビアロール11の軸方向に隣接して設けられており、第1の塗布部13がグラビアロール11の一方の端部15側に位置し、第2の塗布部14がグラビアロール11の他方の端部16側に位置する。
【0023】
第1の塗布部13に形成された第1の彫刻溝21は、塗工時におけるグラビアロール11の回転方向(矢印で示す)と逆方向に向かうにつれて端部15に近づく螺線形状を有する。より具体的には、本実施形態における第1の彫刻溝21は、左巻きの螺線形状を有する。塗工時にグラビアロール11を回転させると、グラビアロール11上の塗液は第1の彫刻溝21に沿って図5における左下方向に移動するので、第1の塗布部13には、第1の塗布部13及び第2の塗布部14の境界部17から端部15に向かう塗液の流れが発生する。
【0024】
一方、第2の塗布部14に形成された第2の彫刻溝22は、塗工時におけるグラビアロール11の回転方向と逆方向に向かうにつれて端部16に近づく螺線形状を有する。第2の彫刻溝22の螺線形状は、第1の彫刻溝21と逆回転の螺線形状である。より具体的には、本実施形態における第2の彫刻溝22は、右巻きの螺線形状を有する。塗工時にグラビアロール11を回転させると、グラビアロール11上の塗液は第2の彫刻溝22に沿って図5における右下方向に移動するので、第2の塗布部14には、第1の塗布部13及び第2の塗布部14の境界部17から端部16に向かう塗液の流れが発生する。
【0025】
尚、螺旋形状の「右巻き」とは、グラビアロール11の中心軸Axに直交する平面から螺旋の進行方向を見たときに、中心軸Axを中心とした螺旋の回転方向が右回り(時計回り)であることをいい、螺旋形状の「左巻き」とは、グラビアロール11の中心軸Axに直交する平面から螺旋の進行方向を見たときに、中心軸Axを中心とした螺旋の回転方向が左回り(反時計回り)であることをいう。
【0026】
第1の彫刻溝21がグラビアロール11の中心軸Axに対してなす角度θ1と、第2の彫刻溝22がグラビアロール11の中心軸Axに対してなす角度θ2は、いずれも30~60°であることが好ましい。第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22は、螺旋状であり、平面視したときに第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22は厳密には直線とはならない。したがって、θ1及びθ2はいずれも第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22の近似直線が中心軸Axに対してなす角度である。具体的には、グラビアロール11を平面視したときに、グラビアロール11の頂点を中心とした所定長さの彫刻溝にフィットする直線を近似曲線としてθ1及びθ2を算出することができる。θ1及びθ2が30~60°の範囲内であれば、境界部17から端部15及び16のそれぞれに向かう適度な塗液の流れを発生させることができるので、第1の彫刻溝21の端部または第2の彫刻溝22の端部からビード19内への気泡の混入を防止することができる。また、図5に示すように、何らかの要因で塗液のビード19内に気泡20が混入したとしても、境界部17から端部15及び16のそれぞれに向かう塗液の流れにより、図3に示した従来のグラビアロール90 と比べて、より速やかに混入した気泡20をビード19の外部へと排出することができる。θ1及びθ2が小さくなりすぎると、グラビアロール11の塗液の保持量の均一性が低下する可能性がある。一方、θ1及びθ2が大きくなりすぎると、境界部17から端部15または16へ向かう塗液の流れが少なくなりすぎ、何らかの要因でビード19に混入した気泡20を外部に排出することが困難となったり、気泡20の排出に要する時間が長くなったりする。したがって、θ1及びθ2は上記の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
上述した通り、θ1及びθ2は、第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22を直線に近似したときに求められる値である。θ1及びθ2の大きさは、第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22のそれぞれのピッチと対応して定まる値である。したがって、θ1及びθ2に代えて第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22のピッチを用いれば、第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22の好ましい条件をより厳密に定義することが可能である。
【0028】
図6は、実施形態に係るグラビアロールに設けられた彫刻溝のピッチを説明するための図である。より詳細には、図5は、グラビアロール11の外周面に形成された一周期分の第1の彫刻溝21及び一周期分の第2の彫刻溝22を平面に展開した展開図である。ここで、彫刻溝のピッチとは、一周期分(すなわち、グラビアロール11の1周分)に相当する彫刻溝の一部の両端間の距離(中心軸Ax方向の距離)である。図5に示す展開図上において、中心軸Ax方向に対して第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22がなす角度をそれぞれθ1’及びθ2’とする。境界部17から端部15及び端部16へと向かう適度な塗液の流れを発生させるためには、図4で説明した理由により、θ1’及びθ2’もまた30~60°の範囲内であることが好ましい。ここで、グラビアロール11の直径をRとすると、グラビアロール11の周長はπRであるので、θ1’及びθ2’が30°の場合、彫刻溝のピッチは√3・πRとなり、θ1’及びθ2’が60°の場合、彫刻溝のピッチは1/√3・πRとなる。したがって、第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22の一周期分のピッチは、1/√3・πR~√3・πRであることが好ましい。第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22の一周期分のピッチがこの範囲内であれば、境界部17から端部15及び16のそれぞれに向かう適度な塗液の流れを発生させて、第1の彫刻溝21の端部または第2の彫刻溝22の端部からビード内への気泡の混入を防止することができ、何らかの要因で塗液のビード内に混入した気泡を速やかに外部に排出することができる。
【0029】
尚、第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22の数(条数)は、特に限定されない。また、第1の塗布部13及び第2の塗布部14の中心軸Ax方向の長さは同一であっても異なっていても良いが、第1の塗布部13及び第2の塗布部14の中心軸Ax方向の長さが同一であれば、境界部17近傍に混入した気泡をより速やかに排出できるので好ましい。
【0030】
図7は、変形例に係るグラビアロールの概略構成を示す正面図である。
【0031】
変形例に係るグラビアロール12は、第1の塗布部13及び第2の塗布部14に、更に、複数の第3の彫刻溝23及び複数の第4の彫刻溝24がそれぞれ設けられている。
【0032】
第3の彫刻溝23は、第1の彫刻溝21の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状、すなわち、塗工時におけるグラビアロール12の回転方向(矢印で示す)と逆方向に向かうにつれて境界部17に近づく螺線形状を有する。より具体的には、本変形例における第3の彫刻溝23は、右巻きの螺線形状を有する。第3の彫刻溝23の数は、第1の彫刻溝21の数より少なく設定される。
【0033】
第4の彫刻溝24は、第2の彫刻溝22の螺旋形状と回転方向が逆の螺旋形状、すなわち、塗工時におけるグラビアロール12の回転方向(矢印で示す)と逆方向に向かうにつれて境界部17に近づく螺線形状を有する。より具体的には、本変形例における第4の彫刻溝24は、左巻きの螺線形状を有する。第4の彫刻溝24の数は、第2の彫刻溝22の数より少なく設定される。
【0034】
塗工時にグラビアロール12を回転させると、グラビアロール12上の塗液は、第1の彫刻溝21に沿って図4における左下方向に移動すると共に、第2の彫刻溝22に沿って図5における右下方向に移動する。したがって、グラビアロール12上に、第1の塗布部13及び第2の塗布部14の境界部17から端部15及び16のそれぞれに向かう塗液の流れが発生する。第3の彫刻溝23及び第4の彫刻溝24は、それぞれ第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22と逆の螺旋形状を有しているので、第1の塗布部13及び第2の塗布部14に発生した塗液の流れを弱める働きをする。第3の彫刻溝23及び第4の彫刻溝24を、第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22のそれぞれより少ない本数だけ設けることにより、塗工時における塗液の流れを調整することが可能となる。
【0035】
尚、第3の彫刻溝23及び第4の彫刻溝24がグラビアロール12の中心軸Axに対してなす角度は、上記の第1の彫刻溝21及び第2の彫刻溝22と同様に、30~60°とすることが好ましい。あるいは、第3の彫刻溝23及び第4の彫刻溝24の一周期分のピッチを1/√3・πR~√3・πRとすることが好ましい。
【0036】
(その他の変形例)
上記の実施形態及び変形例では、グラビアロールに設ける彫刻溝を等ピッチの螺旋状とした例を説明したが、彫刻溝は、ピッチが一定でない螺旋状としても良い。また、彫刻溝の形状は螺旋状に限定されず、グラビアロールの回転に伴って意図した方向に塗液の流れを発生させることができるものであれば、他の形状であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、基材に塗液を塗工するためのグラビアロール及びグラビア塗工装置に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 グラビア塗工装置
2 駆動機構
3 マニホールドブロック
4 ドクターブレード
10 基材
11、12 グラビアロール
13 第1の塗布部
14 第2の塗布部
15、16 端部
17 境界部
21 第1の彫刻溝
22 第2の彫刻溝
23 第3の彫刻溝
24 第4の彫刻溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7