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特許7262340超音波CT装置、画像処理装置、および、画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】超音波CT装置、画像処理装置、および、画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019141628
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021023431
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪田 悠史
(72)【発明者】
【氏名】川畑 健一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】武 文晶
(72)【発明者】
【氏名】山中 一宏
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-095002(JP,A)
【文献】特表2008-501436(JP,A)
【文献】特開2018-183448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0281125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質中の被写体に複数方向から超音波を照射し、前記被写体において反射された超音波および/または前記被写体を透過した超音波を受信する振動子アレイと、
前記振動子アレイの受信信号を用いて前記被写体の断層画像を生成する画像生成部と、
前記断層画像から前記被写体の輪郭における前記被写体の表面の傾斜角の分布を求め、前記傾斜角の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正する補正部とを有し、
前記補正部は、前記被写体の表面の傾斜角の分布から、前記被写体内における超音波の強度低下の分布を推定し、推定した前記超音波の強度低下の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正し、
前記補正部は、前記被写体の表面の傾斜角の分布として、前記被写体の表面への超音波の入射角の分布を算出し、
前記補正部は、前記被写体の輪郭における前記超音波の入射角の分布を二次元補間することにより、前記被写体内における前記入射角に対応する値の分布を求め、前記入射角に対応する値の分布に基づいて、前記被写体内の前記超音波の強度低下の分布を推定することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項2】
請求項に記載の超音波CT装置であって、前記補正部は、前記媒質および前記被写体の音速と密度と、前記入射角に対応する値の分布とを用いて、前記被写体内の前記超音波の強度低下の分布を補正する補正値を前記被写体内の位置ごとに求めることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波CT装置であって、前記補正部は、前記被写体の輪郭を前記断層画像から算出することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項4】
請求項に記載の超音波CT装置であって、前記被写体が乳房である場合、前記補正部は、前記輪郭を算出したい前記断層画像に、当該断層画像よりもスライス位置が乳頭寄りの1以上のスライスの断層画像を合成し、合成後の断層画像から前記輪郭を抽出することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項5】
請求項に記載の超音波CT装置であって、前記補正部は、前記断層画像の合成を、最大値投影により行うことを特徴とする超音波CT装置。
【請求項6】
媒質中の被写体に複数方向から超音波を照射し、前記被写体において反射された超音波および/または前記被写体を透過した超音波を受信する振動子アレイと、
前記振動子アレイの受信信号を用いて前記被写体の断層画像を生成する画像生成部と、
前記断層画像から前記被写体の輪郭における前記被写体の表面の傾斜角の分布を求め、前記傾斜角の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正する補正部とを有し、
前記補正部は、スライス位置の異なる2以上の前記断層画像の輪郭の距離から、前記被写体の表面の傾斜角を算出することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波CT装置であって、前記断層画像は、前記被写体において反射された超音波の受信信号から前記画像生成部が生成した反射波画像であることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項8】
請求項に記載の超音波CT装置であって、前記補正部は、前記補正値を前記被写体の断面積に依存する補正項をもつ関数として算出することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項9】
請求項1に記載の超音波CT装置であって、前記補正部は、補正前の前記断層画像と、補正後の断層画像とを、接続されている表示部に表示させることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項10】
請求項に記載の超音波CT装置であって、前記補正部の補正の適用強度の設定をユーザーから受け付ける受付部を備え、前記補正部は、前記受付部が受け付けた適用強度に応じて補正値を調整することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項11】
媒質中の被写体に複数方向から超音波を照射し、前記被写体において反射された超音波および/または前記被写体を透過した超音波を受信する振動子アレイと、
前記振動子アレイの受信信号を用いて前記被写体の断層画像を生成する画像生成部と、
前記断層画像から前記被写体の輪郭における前記被写体の表面の傾斜角の分布を求め、前記傾斜角の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正する補正部とを有し、
前記補正部は、前記被写体の表面の傾斜角の分布から、前記被写体内における超音波の強度低下の分布を推定し、推定した前記超音波の強度低下の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正し、
前記補正部は、前記被写体の表面の傾斜角の分布として、前記被写体の表面への超音波の入射角の分布を算出し、
前記補正部は、算出した前記入射角の分布を接続されている表示部に表示することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項12】
請求項に記載の超音波CT装置であって、前記補正部は、算出した前記入射角が、予め定めた閾値を越えている場合、そのことをユーザーに報知することを特徴とする超音波CT装置。
【請求項13】
複数方向から超音波を照射された被写体において反射された超音波および/または前記被写体を透過した超音波を受信した受信信号を受け取って、前記被写体の断層画像を生成する画像生成部と、
前記断層画像から前記被写体の輪郭における前記被写体の表面の傾斜角の分布を求め、前記傾斜角の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正する補正部とを有し、
前記補正部は、前記被写体の表面の傾斜角の分布から、前記被写体内における超音波の強度低下の分布を推定し、推定した前記超音波の強度低下の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正し、
前記補正部は、前記被写体の表面の傾斜角の分布として、前記被写体の表面への超音波の入射角の分布を算出し、
前記補正部は、前記被写体の輪郭における前記超音波の入射角の分布を二次元補間することにより、前記被写体内における前記入射角に対応する値の分布を求め、前記入射角に対応する値の分布に基づいて、前記被写体内の前記超音波の強度低下の分布を推定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項14】
コンピュータを、
複数方向から超音波を照射された被写体において反射された超音波および/または前記被写体を透過した超音波を受信した受信信号から、前記被写体の断層画像を生成する画像生成手段と、
前記断層画像から前記被写体の輪郭における前記被写体の表面の傾斜角の分布を求め、前記傾斜角の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正する補正手段として、機能させる画像処理プログラムであって、
前記補正手段は、前記被写体の表面の傾斜角の分布から、前記被写体内における超音波の強度低下の分布を推定し、推定した前記超音波の強度低下の分布を用いて、前記受信信号の信号レベルまたは前記断層画像の画素値を補正し、
前記補正手段は、前記被写体の表面の傾斜角の分布として、前記被写体の表面への超音波の入射角の分布を算出し、
前記補正手段は、前記被写体の輪郭における前記超音波の入射角の分布を二次元補間することにより、前記被写体内における前記入射角に対応する値の分布を求め、前記入射角に対応する値の分布に基づいて、前記被写体内の前記超音波の強度低下の分布を推定することを特徴とする画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波CT(Computed Tomography)装置とは、振動子アレイを用いて、媒質中の被写体へ、複数の方向から超音波を照射し、被写体を透過もしくは反射した超音波を振動子アレイで受信し、受信信号から被写体内部の物性値(音速や減衰率や反射率など)を断層画像化するための装置である。振動子アレイは、例えば圧電素子を振動子として用い、振動子をリング状に並べた構造とする。被写体は、リング状の振動子アレイの開口に挿入され、撮影される。特許文献1には、超音波CTの基本構成と画像化技術が開示されている。
【0003】
一方、特許文献2には、保持カップに保持された被写体に光を照射し、これにより被写体において発生した音響波を受信して超音波画像を生成する装置が開示されている。このとき特許文献2の技術では、被写体内の関心位置で発生した音響波が受信手段まで到達する経路において、音響波が固体を通過する際に波形が歪むという課題を解決するため、受信信号に透過フィルタを掛け、歪んだ波形を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3133764号公報
【文献】特開2017-184972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳房検査に用いる超音波CT装置では、ベッドに設けた開口にうつ伏せ姿勢で乳房を下垂させ、振動子から発生する超音波を水などの媒質を介して照射する。このとき、超音波はリング状の振動子アレイから水平方向に照射されるが、下垂させた乳房の皮膚表面は垂直方向に対して傾斜しているため、超音波は乳房の皮膚表面に斜めに入射し、一部は散乱し、振動子アレイの受信面から外れる。このため、反射波および透過波の受信信号強度が低下する。しかも、下垂させた乳房は、中心対称な形状ではなく、方向によって傾斜角が異なるため、反射波画像および透過波画像上に、傾斜角に起因するムラが生じることが課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、乳房の傾斜角に分布があることに起因する超音波画像のムラを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の超音波CT装置は、媒質中の被写体に複数方向から超音波を照射し、被写体において反射された超音波および/または被写体を透過した超音波を受信する振動子アレイと、振動子アレイの受信信号を用いて被写体の断層画像を生成する画像生成部と、断層画像から被写体の輪郭における被写体の表面の傾斜角の分布を求め、傾斜角の分布を用いて、受信信号の信号レベルまたは断層画像の画素値を補正する補正部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被写体の輪郭における被写体表面の傾斜角の分布を求めることにより、超音波の斜め入射に伴う断層画像中の輝度低下のムラを少ない計算コストで補正あるいは本計測前に予防でき、ユーザーに読影しやすい画像を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態における超音波CT装置のサジタル断面の概略の構造を示すブロック図。
図2図1の装置の信号処理部7の構成を示す機能ブロック図。
図3】振動子アレイのコロナル断面の概略の構造を示す図。
図4】(a)~(i)図1の装置の補正部72における処理の流れを示す説明図。
図5図1の装置全体の処理の流れを示すフローチャート。
図6図2の傾斜角(入射角)算出部73の処理を示すフローチャート。
図7】乳房への超音波の入射角とスライスを示す説明図。
図8】隣接するスライスの輪郭位置と、乳房表面の傾斜と、超音波の入射角の関係を示す説明図。
図9図2の補正値分布算出部74の処理を示すフローチャート。
図10】変形例の装置全体の処理の流れを示すフローチャート。
図11】変形例の表示画面例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態の超音波CT装置について図面を用いて説明する。
以下の説明では、超音波CT装置を乳房検査用に利用する形態について述べるが、撮影対象は乳房に限定されない。
【0011】
<<超音波CT装置の主要部>>
まず、本実施形態の超音波CT装置の主要部について説明する。
【0012】
本実施形態の超音波CT装置は、図1に示したように、振動子アレイ3と、信号処理部7とを備えて構成される。図2に示すように、信号処理部7内には、画像生成部71と、補正部72が配置されている。
【0013】
振動子アレイ3は、例えば図3に示すように振動子をリング状に配置したアレイであり、媒質10中の配置された被写体1に対して、複数方向から超音波を照射し、被写体1において反射された超音波および/または被写体を透過した超音波を受信する。
【0014】
画像生成部71は、振動子アレイ2の各振動子の受信信号を用いて被写体1の断層画像を生成する。
【0015】
補正部72は、断層画像(図4(a)参照)から被写体1の輪郭(図4(e))における被写体1の表面の傾斜角の分布(図4(f))を求め、この傾斜角の分布を用いて、受信信号の信号レベルまたは断層画像の画素値を補正する(図4(i))。
【0016】
このように本実施形態では、被写体1の輪郭における表面の傾斜角の分布を求めることにより、超音波の斜め入射に伴う断層画像中の輝度低下のムラを少ない計算コストで補正あるいは本計測前に予防でき、ユーザーに読影しやすい画像を提供できる。
【0017】
具体的には、補正部72は、被写体1の表面の傾斜角の分布(図4(f))から、被写体1内における超音波の強度低下の分布(図4(g))を推定し、推定した超音波の強度低下の分布を用いて、受信信号の信号レベルまたは断層画像の画素値を補正する。被写体1の表面の傾斜角の分布として、補正部72は、被写体1の表面への超音波の入射角の分布(図4(f))を算出することができる。
【0018】
補正部72は、算出した超音波の入射角の分布を二次元補間することにより、被写体1内における入射角に対応する値の分布を求め、入射角に対応する値の分布に基づいて、被写体1内の超音波の強度低下の分布を推定する。すなわち、被写体1の表面においては、超音波の入射角が大きければ、振動子アレイ3で検出される超音波の強度の低下が大きく、その影響は、被写体1の内部に超音波が入射した後にも及ぶため、被写体1の輪郭における超音波の入射角の値を二次元補間することにより、被写体1の内部における入射角に対応する値を算出する。これにより、補正部72は、被写体1内部における超音波の強度低下の分布を推定する。
【0019】
さらに具体的には、補正部72は、算出した入射角に対応する値の分布と、媒質10および被写体1の音速と密度とを用いて、被写体1内の超音波の強度低下の分布を補正する補正値を算出する。
【0020】
<<超音波CT装置の具体的な構成>>
以下、本実施形態の超音波CT装置について具体的に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の超音波CT装置のサジタル断面の概略の構造である。本実施形態の超音波CT装置には、被写体1を乗せるベッド2が備えられ、ベッド2には、胸部を挿入する開口2aが設けられている。開口2aの下部には、円柱状の水槽4が配置されている。水槽4の内部には、図3に示したようなリング状の振動子アレイ3が、水槽4の軸方向に平行移動可能に備えられている。振動子アレイ3は、超音波送受信器として機能する圧電素子等の振動子をリング状に配列した構成である。水槽4には、温水が満たされている。水槽4には予備タンク5が接続されている。予備タンク5は、水槽4の温水を浄化、過熱、脱気する機能を備えている。
【0022】
振動子アレイ3および予備タンク5には、制御部6および信号処理部7が接続されている。信号処理部7は、図2にその機能ブロック図を示したように、画像生成部71、補正部72が備えられている。補正部72内には、傾斜角(入射角)分布算出部73と、補正値分布算出部74が備えられている。これらの各部の動作については後で詳しく説明する。信号処理部7には、入出力部9と記憶部8が接続されている。
【0023】
信号処理部7は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサーと、メモリとを備えたコンピュータ等によって構成され、CPUが、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、信号処理部7の各部の機能をソフトウエアにより実現する。なお、信号処理部7は、その一部または全部をハードウエアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて信号処理部7を構成し、信号処理部7の各部の機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0024】
超音波CT装置の撮影条件は、ユーザにより、入出力部9のタッチパネルやキーボード等を通して設定される。設定された条件等は、記憶部8のメモリやハードディスクドライブ等に保存される。これらの条件を基に、信号処理部7のCPU(Central Processing Unit)等で処理された制御信号が、制御部6内に配置されている各種コントローラーに送られる。コントローラーは、振動子アレイ3の各振動子による超音波信号の送受信やスイッチング、振動子アレイ3の上下動の制御、予備タンク5による水圧制御や温水の温度制御などを行う。振動子アレイ3の各振動子の受信した被写体1からの反射波および被写体1の透過波の受信信号は、記憶部8に記録されると共に、信号処理部7において反射波画像および/または透過波画像等の断層画像の再構成や、断層画像の補正等の演算が実行される。生成されたた被写体1の断層画像等の情報は、入出力部9のモニタ等に表示される。制御部6と信号処理部7と記憶部8は、ベッド2の下部の空間に収めることもできる。
【0025】
<<超音波CT装置の動作>>
本実施形態の超音波CT装置の動作について説明する。本実施形態の超音波CT装置は、図5のフローに示したように、制御部6の制御下により、振動子アレイ3から被写体1に超音波信号の送受信(ステップ101)、断層画像(反射波画像および/または透過波画像)の生成(ステップ102)、断層画像の輪郭における傾斜角(入射角)分布の算出(ステップ103)、断層画像の補正値分布の算出およびそれを用いた断層画像の補正(ステップ104)、補正結果の表示(ステップ105)、の5つの処理を行う。以下、順に説明する。
【0026】
<ステップ101:超音波信号の送受信>
制御部6は、振動子アレイ3から被写体1に超音波信号の送受信を行う(ステップ101)。具体例としては、振動子アレイ3の各振動子から照射する超音波の中心周波数を1.5MHzとすると、水中での超音波の波長は約1mmである。振動子(圧電素子)のピッチを0.5mmとすると、振動子2048チャネルで、直径326mmの振動子アレイ3が構成される。制御部6は、振動子アレイ3の512チャネルの振動子を駆動し、位相を揃えた平面波の超音波を照射した後、同じ512チャンネルの振動子により反射波を受信し、送信した振動子と対向する位置のある512チャネルの振動子により透過波を受信する。これによって撮影視野(Field of View:FOV)を直径230mmの円形に確保することができる。制御部6振動子アレイ3上で駆動する512チャネルの振動子を4チャネルずつずらして、平面波を照射し、反射波および透過波を受信することを繰り返すことで、被写体1の周囲360度からの透過波及び反射波の信号を、0.7度ずつ角度がずれた512ビューについて得ることができる。振動子の水槽4の軸方向の厚みを10mmとすると、水槽4の軸方向に5mmピッチで振動子アレイ3を変位させて、上述の超音波送受信を繰り返すことにより、200mmの変位で40スライスのデータが得られる。信号処理部7は、得られた受信信号(透過波信号および反射波信号)をデジタル信号化して記憶部8に保存する。
【0027】
なお、透過波画像を生成する場合には、上記手順を、被写体1を挿入した状態と、挿入していない状態とに対して行い、信号処理部7は、それぞれ透過波信号を記憶部8に保存する。
【0028】
<ステップ102:断層画像の生成>
信号処理部7の画像生成部71は、断層画像を生成する(ステップ102)。
【0029】
(反射波画像)
まず、反射波画像の生成処理について説明する。信号処理部7の画像生成部71は、計測された反射波の受信信号を記憶部8から読み出して、時間方向にヒルベルト変換を実施する。超音波が返って来るタイミングは、送信した振動子から注目画素までの距離と、注目画素から受信した振動子までの距離の和を適当な音速(例えば水の音速)で割ることで求まる。注目画素で反射した信号が、受信した振動子のそれぞれに到達すると推定されるタイミングで得られた受信信号を加算する。この方法を遅延加算法(Delay and Sum、 DAS)と呼ぶ。これを視野内の全画素について行うことで、超音波エコー検査で広く利用されているBモード画像が得られる。
【0030】
同一スライスの各照射角度で求まったBモード画像を加算することで、被写体1の反射率分布に対応する画像(反射波画像)が得られる。スライス毎に上記方法を繰り返して反射波画像を生成する。
【0031】
(透過波画像)
つぎに、透過波画像の生成処理について説明する。信号処理部7の画像生成部71は、超音波素子ごとに計測された透過波の受信信号(受信信号)について、時間方向にヒルベルト変換(包絡線検波)を実施し、受信信号のピーク位置の振動子への到達時間と、ピーク位置の信号強度を求める。
【0032】
画像生成部71は、到達時間および信号強度を、予め求めておいた被写体1を挿入せずに計測した到達時間および信号強度と比較することにより、被写体1の挿入前後の到達時間差t及び信号強度比(減衰率)αを算出する。これを、ビュー(投影角度)ごと、受信した振動子(チャネル)ごとに行う。画像生成部71は、得られた到達時間差tをビュー(投影角度)番号および受信した振動子(チャネル)番号を2軸とする2次元平面に配列することにより、到達時間差tのサイノグラムを得る。同様に、得られた信号強度比αを配列することにより、信号強度比αのサイノグラムを得る。画像生成部71は、これら2種類のサイノグラムをスライス毎に得る。
【0033】
画像生成部71は、到達時間差tのサイノグラムおよび信号強度比αのサイノグラムをそれぞれ、X線CT装置の分野で広く利用されているフィルタ補正逆投影法(Filtered Back Projection、FBP)や逐次近似再構成法等により再構成する。これにより、到達時間差tのサイノグラムからは、被写体1内の音速分布を示す音速画像が生成され、信号強度比αのサイノグラムからは、減衰率分布を示す減衰率画像が生成される。なお、音速と等価な物理量である屈折率や遅さ(音速の逆数)についても同様に画像化が可能である。これら音速画像や減衰率画像等が透過波画像である。
【0034】
<ステップ103:傾斜角(入射角)分布の算出>
補正部72の傾斜角(入射角)分布算出部(以下、入射角分布算出部と呼ぶ)73は、補正値分布算出部74が補正値の算出に用いる、断層画像の輪郭における被写体1の表面の傾斜角(超音波の入射角)の分布を算出する。これを図6のフローを用いて説明する。ここでは被写体1は下垂させた乳房とする。また、断層画像としては、輪郭が明確に表れやすい反射波画像を用いる例について説明するが、透過波画像を用いることももちろん可能である。
【0035】
図7に示したように、被写体1である乳房の表面は、一般的には、頭側の表面の方が、足側の表面よりも鉛直方向に対して大きく傾斜しているため、振動子アレイ3から水平方向に照射される超音波の入射角θiは、頭側の乳房表面の方が、足側の乳房表面よりも大きくなり、振動子アレイ3で受信される反射波の強度が低下する。そのため、図4(a)のように、反射波画像は、頭側に近い領域の輝度(反射波信号の強度)が、足側に近い領域の輝度よりも低下している。
【0036】
このような輝度分布を補正するため、入射角分布算出部73は、まずステップ201~205により、補正対象である注目スライス30の反射波画像(図4(a))の輪郭を抽出する。具体的には、入射角分布算出部73は、注目スライス30の反射波画像30(図4(a))と、それよりも頂点(乳頭)側に位置する全スライス130の反射波画像とを合成する。例えば、合成するすべての反射波画像の対応する画素ごとに最大値を選択することにより、最大値投影(Maximum Intensity Projection、MIP)像を作成する(図4(b)、ステップ201)。このようにMIP像を作成することにより、比較的輝度が高い反射波画像の輪郭を重ね合わせる効果が得られるため、注目スライス30の輝度が低い輪郭領域の輝度を高めることができる。
【0037】
つぎに、入射角分布算出部73は、図4(b)のMIP像を適当な閾値で二値化し、被写体1の二値化画像を得る(図4(c))。二値化画像に残存する小さな構造やノイズを除去する処理を行う(ステップ204)。例えば、公知の穴埋め処理や、収縮処理から膨張処理を行うことによる孤立点除去を行う。
【0038】
つぎに、入射角分布算出部73は、微分フィルタ等を用いて、二値化画像の境界を検出することにより、被写体1の輪郭を抽出することができる(ステップ204)。
【0039】
超音波がある境界(乳房の表面)に進入する際の入射角θは、送信した振動子と注目画素と受信した振動子を繋ぐ音線経路が、境界と交わる3次元の角度として定義できるが、振動子や画素数が多くなると、その組合せごとに入射角θを計算する必要があり、計算量が増加する。更に、より正確に入射角θを計算しようとすると、音速差のある境界での音波の屈折も考慮する必要があり、計算コスト増加に繋がる。そこで、本実施形態では、計算コスト低減のため、振動子アレイ3により受信される反射波信号の強度低下は、境界(乳房の表面(皮膚))での散乱が支配的であると仮定し、境界(皮膚表面)への超音波の代表的な入射角を求める。
【0040】
具体的には、入射角分布算出部73は、図4(e)の輪郭で囲まれた被写体1の領域の重心41を算出し、輪郭上の画素について重心41を中心とする極座標(φ、r)を求める(図4(f))。ある輪郭画素(極座標(φ1、r1))の動径r1と、隣接するスライスの同じ偏角φ1の輪郭画素(座標(φ1、r2))の動径r2間の差d(すなわち2スライスの輪郭の距離)と、スライスピッチpとから、図8のように、その画素におけるスライス方向の傾斜角度は、p/dにより与えられる。ここでは、入射角分布算出部73は、超音波がスライス面内(水平方向)に照射されているので、図8に示すように、輪郭のある画素への入射角θを、θ=|arctan(d/p)|により求める。
【0041】
入射角分布算出部73は、入射角θを、輪郭上のすべての画素について算出することにより、入射角分布を算出する(ステップ205)。
【0042】
なお、二値化(ステップ202)の閾値や、ノイズ除去処理(ステップ203)の拡大縮小率や、輪郭抽出(ステップ205)のフィルタの種類を複数種類変えて、それぞれ入射角θを再計算し、得られた複数種類の入射角θの平均値を用いて入射角分布としても良い。
【0043】
上記ステップ202-204において、二値化された領域を出力装置に表示して、ユーザーがその領域でよいかどうか確認し、必要であれば手動で二値化された領域の形状を編集する構成としてもよい。
【0044】
<ステップ104:補正値分布の算出と補正>
補正値分布算出部74は、傾斜角(入射角)分布算出部73が算出した輪郭上の入射角分布を用いて、断層画像の補正値の分布を算出する(ステップ104)。これを図9のフローを用いて説明する。
【0045】
被写体1表面において入射角θが大きいほど、散乱が大きくなり、被写体1から反射した反射波および被写体1を透過した透過のうち振動子アレイ1に到達して検出される超音波の強度は低下する。そのため、低下した超音波強度を入射角θの値から算出し、低下した分だけ、受信信号の振幅や断層画像の画素値を補正することにより、被写体1の表面形状の影響を抑制した見やすい画像が得られる。
【0046】
ここで、補正するのは断層画像であるため、被写体1の内部においても低下した超音波強度を推定する必要がある。そこで、本実施形態では、被写体1の表面における超音波入射角による超音波の強度の低下の影響は、被写体1の内部に超音波が入射した後にも及ぶため、被写体1の輪郭における超音波の入射角の値を二次元補間することにより、被写体1の内部における入射角に対応する値を算出する。これにより、補正値分布算出部74は、被写体1内部における超音波の強度低下の分布を求める。
【0047】
具体的には、図9のように、補正値分布算出部74は、ステップ205で傾斜角(入射角)分布算出部73が算出した、輪郭上の入射角分布を二次元補間し(ステップ301)、被写体1の内部における入射角に対応する値の分布(推定入射角分布)を得る(図4(g))。この入射角分布の二次元補間結果(図4(g))は、入射角の分布により、被写体1の輪郭および内部における超音波信号の低下の分布を表している。
【0048】
つぎに、補正値分布算出部74は、得られた入射角分布の二次元補間結果に平滑化処理を行う(ステップ302)。
【0049】
さらに、補正値分布算出部74は、超音波信号の低下の分布を表す、平滑化後の入射角分布の二次元補間結果を用いて、断層画像の画素値の補正値の分布を算出する。音響インピーダンスziの媒質と音響インピーダンスztの媒質との境界に縦波が入射する際の入射波の音圧をpとし、透過波の音圧をpとし、その振幅比を音圧透過係数Tとすると、音圧透過係数Tは、入射角θi、屈折角θtを用いて、下式(1)により表される。
【0050】
【数1】
【0051】
屈折角度θtは、音響インピーダンスziの媒質と音響インピーダンスztの媒質媒質の音速をそれぞれCi、Ctとすると、スネルの法則(下式(2))により入射角θiの関数として求めることができる。
【0052】
【数2】
【0053】
したがって、媒質の音響特性として、温水から皮膚への超音波入射を想定すると、音響特性が異なる媒質に入射することにより超音波の音圧が低下し、反射波画像において生じる輝度低下は、入射角θiの関数である音圧透過係数T(θi)を用いて、デシベル単位で20log10 T(θi)となる。
【0054】
よって、補正値分布算出部74は、反射波画像における輝度低下を補正する補正値を、-20log10 T(θi)により算出する(ステップ303)。ただし、入射角θiは、ステップ302で求めた、入射角θの二次元補間結果に平滑化処理を施した画像(図4(f))の各画素値である。これにより、補正値分布算出部74は、補正値の分布を算出する。
【0055】
つぎに、補正値分布算出部74は、超音波が被写体1の表面に垂直入射(θi=0)した場合には、補正値がゼロ(すなわち無補正)になるようにステップ303で求めた補正値を規格化する(ステップ304)。これにより、各画素の補正値は、-20log10 T(θi) +20log10 T(0)となる。
【0056】
また、二値化した被写体1よりも外側の領域は、入射角が定義されていないため、補正値分布算出部74は、二値化した被写体1よりも外側の領域には補正値を外挿するか、0もしくはNaN値とする。
【0057】
補正値分布算出部74は、反射波画像に上記補正値を加算する(ステップ305)。これにより、入射角θに依存して低下していた超音波強度を補正することができ、図4(i)のように輝度ムラのない反射波画像を得ることができる。
【0058】
なお、乳頭部付近のように被写体の断面積が小さい場合には、皮膚表面付近の反射信号であっても、複数の異なる角度からの反射信号を合成する影響で、輝度低下は相対的に小さくなる。この場合、被写体の断面積Aに依存する規格化を行っても良い。すなわち、規格化(ステップ304)において補正値にf(A)を加えても良い。関数fは、例えば二次関数などの多項式を用いれば良い。
【0059】
なお、上記ステップ305において、透過波画像に上記補正値を加算して、透過波画像の示す物性値を補正してもよい。ただし、透過波画像を補正する場合、ステップ303,304では、入射角分布の二次元補間結果に基づいて物性値を補正する補正値を算出する構成とする。
【0060】
<ステップ105:補正結果の表示>
最後に、補正値分布算出部74は、補正後の画像を入出力部9の表示部に表示する(図5のステップ105)。
【0061】
上述してきたように、本実施形態の超音波CT装置では、超音波の斜め入射に伴う反射波画像中の輝度低下を少ない計算コストで補正あるいは本計測前に予防でき、ユーザーに読影しやすい画像を提供できる。
【0062】
なお、上述のステップ103では、傾斜角(入射角)分布算出部73は、傾斜角から入射角を求め、ステップ104では、補正値分布算出部74が、入射角分布から補正値の分布を算出する構成であったが、ステップ103において傾斜角(入射角)分布算出部73が傾斜角を算出し、ステップ104において補正値分布算出部74は、傾斜角から直接補正値分布を算出する構成としてもよい。
【0063】
<<変形例>>
上述の実施形態では、断層画像の生成のたびに補正した画像を生成する構成であったが、ユーザーが補正の適用の有無を切替可能な構成にすることも可能である。
【0064】
例えば、図10にフローを示したように、図5のステップ101~ステップ103を行って傾斜角(入射角)分布算出部73が、被写体1の輪郭上の傾斜角(入射角)分布を算出した後、算出した入射角に、予め定めた所定値(例えば、40°)以上の値があるかどうかを補正部72が判定し(ステップ1106)、所定位置以上の入射角がある場合、補正部72は、ユーザーに補正をするかどうかを尋ねる表示を表示する(ステップ1107)。
【0065】
ユーザーが、入出力部9を介して、補正をする意思を入力した場合、ステップ104に進み、補正値分布算出部74は、補正値分布を算出し、断層画像を補正し、補正後の画像を表示部に表示する(ステップ104、105)。
【0066】
補正後の画像を表示した表示画面の例を図11に示す。図11の表示画面には、補正後の断層画像(反射波画像)403と、補正前の断層画像(反射波画像)402が並べて表示され、ユーザーは、補正の前後の画像を比較することができる。
【0067】
また、図11の表示画面には、ステップ103で算出された輪郭上の入射角分布の画像401も表示され、ユーザーは入射角分布を確認することができる。入射角分布の画像401には、入射角が閾値以上である領域401aが色付けなどにより強調表示されている。なお、入射角分布の画像401は、補正前または補正後の断層画像402,403に重畳して表示しても良い。
【0068】
また、補正部72は、ステップ105の後で、再計測を実施するかどうかをユーザに尋ねる表示をする(ステップ1109)。このとき、補正部72は、ステップ1106において、入射角分布の入射角に予め定めた所定値(例えば、40°)以上の値があった場合には、ステップ1109において、再計測の実施を促すメッセージを表示するか、音声を再生する構成にしてもよい。
【0069】
再計測を行うことをユーザが入出力部9を介して選択した場合、補正部72は、被写体1の入射角が大きな部分を減らすように、被写体1の姿勢を調整したうえで再計測をするようにユーザーに促す(ステップ1110)。そして、ステップ101に戻って再計測を行う。
【0070】
なお、ステップ1106において、入射角分布の入射角はすべて所定値より小さい場合、および、ステップ1107において、ユーザーが補正しないことを選択した場合には、補正部72は、ステップ1108に進み、ステップ102で生成した断層画像を表示部に表示させる。
【0071】
また、ステップ1107において、補正をすることをユーザが選択する場合、ユーザーは、補正の適用強度βを入出力部9を介して入力(設定)できるように構成してもよい。補正の適用強度βをユーザーが入力した場合、ステップ104において、補正値分布算出部74は、補正値に補正の適用強度βを掛ける等して補正値の強弱を調整する。
【0072】
なお、上述した実施形態では、超音波CT装置の信号処理部7に補正部72を配置し、断層画像の補正を行う構成であったが、データ取得を行う超音波CT装置と、補正部72の処理を行う装置を別の装置にすることもできる。
【0073】
この場合、補正のみを別の補正装置で行う構成とすることも可能である。また、超音波CT装置が取得した超音波受信データを受け取って、信号処理部7、記憶部8、入出力部9を有する画像処理装置へ転送し、画像処理装置において、図5のステップ102~105の断層画像の生成および補正を実施する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 被写体
2 ベッド
3 振動子アレイ
4 水槽
5 予備タンク
6 制御部
7 信号処理部
8 記憶部
9 入出力部
図1
図2
図3
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図5
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図11