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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】電子吹奏楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/18 20060101AFI20230414BHJP
   G10H 1/00 20060101ALI20230414BHJP
   G10H 1/46 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
G10H1/18 Z
G10H1/00 A
G10H1/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019163296
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021043261
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正和
(72)【発明者】
【氏名】寺田 裕司
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-115794(JP,U)
【文献】特開昭60-004994(JP,A)
【文献】特開2018-155792(JP,A)
【文献】特開2016-080769(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0268791(US,A1)
【文献】特開平6-83333(JP,A)
【文献】特開2016-177119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏操作子に対して行われた操作を取得する取得手段と、
ブレスを検出するブレス検出手段と、
検出した前記ブレスと、前記取得手段が取得した操作と、の少なくともいずれかに基づいて楽音信号を生成する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、前記ブレスの検出を条件として楽音信号を生成する第一のモードと、前記ブレスの検出有無にかかわらず前記操作に基づいて楽音信号を生成する第二のモードと、を、前記ブレスの検出結果に基づいて切り替える
ことを特徴とする、電子吹奏楽器。
【請求項2】
前記制御手段は、現在のモードが前記第二のモードであり、前記ブレス検出手段が前記ブレスを検出した場合に、モードを前記第一のモードに切り替える
ことを特徴とする、請求項1に記載の電子吹奏楽器。
【請求項3】
前記制御手段は、現在のモードが前記第一のモードであり、前記ブレス検出手段が前記ブレスを検出しない状態が所定の時間以上継続した場合に、モードを前記第二のモードに切り替える
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の電子吹奏楽器。
【請求項4】
前記制御手段は、モードが前記第一のモードにある期間に、第一のパターンと合致するブレスを検出した場合に、モードを前記第二のモードに切り替え、モードが前記第二のモードにある期間に、第二のパターンと合致するブレスを検出した場合に、モードを前記第一のモードに切り替える
ことを特徴とする、請求項1に記載の電子吹奏楽器。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第二のモードにおける前記楽音信号の音量を、モードが前記第一のモードにある期間に検出したブレスの流量に基づいて設定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の電子吹奏楽器。
【請求項6】
演奏操作子とブレスセンサを有する電子吹奏楽器の制御方法であって、
前記演奏操作子に対して行われた操作を取得する取得ステップと、
ブレスを検出するブレス検出ステップと、
検出した前記ブレスと、前記取得ステップにて取得した操作と、の少なくともいずれかに基づいて楽音信号を生成する制御ステップと、
を含み、
前記制御ステップでは、前記ブレスの検出を条件として楽音信号を生成する第一のモードと、前記ブレスの検出有無にかかわらず前記操作に基づいて楽音信号を生成する第二のモードと、を、前記ブレスの検出結果に基づいて切り替える
ことを特徴とする、電子吹奏楽器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子吹奏楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
奏者が吹き込んだ空気流をブレスセンサによって検出し、検出したブレスの流量に基づいて、楽音信号の生成や音量の制御を行う電子吹奏楽器が知られている。一般的な電子吹奏楽器では、ブレスの流量によって音量を制御し、演奏操作子によって音高を制御する。
【0003】
一方で、奏者の労力を軽減するため、ブレスを省略して発音をさせたいという要望がある。これに対応する発明として、例えば、特許文献1には、ブレスセンサの出力信号をホールドできる電子吹奏楽器が開示されている。当該電子吹奏楽器では、発音中にホールドスイッチを押下することで、発音状態を維持させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-004994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明によると、ブレスセンサの出力信号を保持できるため、ホールド機能が有効である間は、ブレスを行わずとも連続した発音をさせることが可能になる。
しかし、当該発明は、あくまでブレスセンサの出力を保持するものであるため、発音を開始するためにはブレスが必要となる。また、ホールドを解除したい場合、ホールドスイッチをオフにする操作が必要であり、操作が煩雑になるという課題がある。
【0006】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、ブレスの要否を簡便な操作で切り替えることができる電子吹奏楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電子吹奏楽器は、
演奏操作子に対して行われた操作を取得する取得手段と、ブレスを検出するブレス検出手段と、検出した前記ブレスと、前記取得手段が取得した操作と、の少なくともいずれかに基づいて楽音信号を生成する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記ブレスの検出を条件として楽音信号を生成する第一のモードと、前記ブレスの検出有無にかかわらず前記操作に基づいて楽音信号を生成する第二のモードと、を、前記ブレスの検出結果に基づいて切り替えることを特徴とする。
【0008】
ブレスとは、奏者による息の吹吸である。
第一のモードは、ブレスの検出を要件として楽音信号を生成する演奏モードである。第一のモードでは、検出したブレスの流量に応じた音量で楽音信号を生成および出力し、ブレスが停止すると楽音信号の出力も停止する。また、第二のモードは、ブレスの検出を要件とせず、演奏操作子に対して行われた操作に基づいて楽音信号を生成する演奏モードである。第二のモード(ホールドモードとも言う)では、ブレスの有無にかかわらず、演奏操作子によって指定された音高で楽音信号を生成する。
制御手段は、ブレスの検出結果、例えば、所定時間における吹き込みの有無、吸い込みの有無等によって、第一のモード(通常のモード)と第二のモード(ホールドモード)を互いに切り替えることができる。ブレスをトリガとしてモードを切り替え可能に構成する
ことで、楽器を両手で保持したまま、すなわち演奏姿勢をとったままでモードを自由に切り替えることができる。
【0009】
また、前記制御手段は、現在のモードが前記第二のモードであり、前記ブレス検出手段が前記ブレスを検出した場合に、モードを前記第一のモードに切り替えることを特徴としてもよい。
【0010】
奏者がブレスによる発音を希望する場合、ブレスを行うことで第一のモードに移行する。これにより、ただちにモードを切り替えることができる。第一のモードに遷移した後は、ブレスの流量に応じて発音が行われるため、スムーズに演奏を継続することができる。
【0011】
また、前記制御手段は、現在のモードが前記第一のモードであり、前記ブレス検出手段が前記ブレスを検出しない状態が所定の時間以上継続した場合に、モードを前記第二のモードに切り替えることを特徴としてもよい。
【0012】
このように、ブレスが所定の時間以上行われなかった場合、ブレスを要件としない演奏モードに移行してもよい。この場合であっても、奏者がブレスによる発音を希望する場合、ブレスを行うことで即座に第一のモードに切り替わる。すなわち、奏者の意思を阻害せずにモード間の遷移を行うことができる。
【0013】
また、前記制御手段は、前記ブレス検出手段が検出したブレスが第一のパターンと合致した場合に、モードを前記第一のモードに切り替え、前記ブレス検出手段が検出したブレスが第二のパターンと合致した場合に、モードを前記第二のモードに切り替えることを特徴としてもよい。
【0014】
このように、ブレスのパターンに基づいてモードの切り替えを指示するようにしてもよい。パターンは、例えば、吹き込みや吸い込みの回数、停止秒数、それらの組み合わせなどによって定義することができる。
【0015】
また、前記制御手段は、前記第二のモードにおける前記楽音信号の音量を、モードが前記第一のモードにある期間に検出したブレスの流量に基づいて設定することを特徴としてもよい。
【0016】
このように、ホールドモードに移行する前のブレス流量に基づいて、ホールドモード中の音量を設定してもよい。かかる構成によると、環境に応じて適切な音量で演奏を行うことが可能になる。
【0017】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む電子吹奏楽器として特定することができる。また、前記電子吹奏楽器の制御方法として特定することもできる。また、前記制御方法を実行させるためのプログラムとして特定することもできる。上記処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電子吹奏楽器100の外観図である。
図2】電子吹奏楽器100のハードウェア構成図である。
図3】制御部101のソフトウェア機能ブロック図である。
図4】楽音決定部が行う処理のフローチャート図である。
図5】モード選択部が行う処理のフローチャート図である。
図6】第二の実施形態においてモード選択部が行う処理のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係る電子吹奏楽器は、音源を内蔵し、奏者が行ったブレスおよび演奏操作子に対する操作に基づいて楽音信号を生成し、音声として出力する装置(電子楽器)である。
【0020】
図1に、本実施形態に係る電子吹奏楽器100の外観図を示す。
本実施形態に係る電子吹奏楽器100は、吹奏楽器を模擬した電子楽器である。具体的には、ブレスセンサが内蔵された吹き口と、演奏操作子と、楽音を生成するユニットを有しており、奏者によって行われたブレスおよび演奏操作に基づいて、例えば、サックス、トランペット、フルート等といった吹奏楽器の音色を持つ楽音信号を生成し、スピーカから放音する。
【0021】
従来技術に係る電子吹奏楽器では、奏者が行ったブレスの流量ないし圧力に基づいて、楽音信号の音量を決定する構成が一般的に採用されている。また、所定の操作に基づいて、ホールド機能(ブレスが継続して行われていることを模擬する機能)を有効にできる製品も存在する。ホールド機能は、例えば、ホールドボタンを押下した瞬間におけるブレス圧力を記憶し、当該圧力でブレスが継続しているとみなして楽音信号を生成することで実現することができる。
しかし、ボタン操作によってホールド機能の有効/無効を切り替える構成を採用すると、操作が煩雑になってしまう。吹奏楽器は両手の運指によって音階を決定するため、演奏に直接関係のない操作は指で行わないことが好ましい。本実施形態に係る電子吹奏楽器100は、ブレスのみに基づいてホールド機能の有効/無効を切り替えることで、この課題を解決する。
【0022】
図2を参照して、電子吹奏楽器100のハードウェア構成について説明する。
電子吹奏楽器100は、制御部101、ブレス検出器102、記憶装置103、設定操作子104、演奏操作子105、出力部106を有して構成される。これらの手段は、充電式のバッテリから供給される電力によって駆動される。
【0023】
制御部101は、電子吹奏楽器100が行う制御を司る演算装置である。制御部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等によって構成される。
ブレス検出器102は、奏者によるブレスを検出する手段である。ブレス検出器102は、吹き込まれた空気の流量を検出し、検出結果に応じた電圧の電気信号を出力するセンサと、当該電気信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータを含んで構成される。なお、ブレスの検出は、単位時間あたりの空気の流量を測定することで行ってもよいし、空気圧を測定することで行ってもよい。例えば、吹き口内の空気圧をセンシングすることで、ブレスの流量を間接的に取得するようにしてもよい。
【0024】
記憶装置103は、書き換え可能な不揮発性メモリ(RAM)を含む。記憶装置103には、CPU101において実行される制御プログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが記憶される。記憶装置103に記憶されたプログラムがロードされ、制御部101によって実行されることで、以降に説明する処理が行われる。
なお、本例では、CPUとRAMの組み合わせを例示したが、図示した機能の全部または一部は、専用に設計された回路を用いて実行されてもよい。また、図示した以外の、主記憶装置および補助記憶装置の組み合わせによってプログラムの記憶ないし実行を行ってもよい。
【0025】
設定操作子104は、演奏を行うためのパラメータ等を設定するためのインタフェースである。設定操作子104は、例えば、音色、マスタボリューム、移調、コーラスレベル
、リバーブレベル等の設定を行うためのスイッチ等を含んで構成される。設定操作子104によって設定されたこれらの情報を、以降、楽音パラメータと称する。
演奏操作子105は、楽音信号の音高を指定するためのインタフェースである。演奏操作子105は、例えば、リコーダーのキー配列に準拠した複数のキーを含んで構成される。演奏操作子105によって行われる操作(すなわち、音高を指定するためのキー押下操作)を以降、演奏操作と称する。
【0026】
出力部106は、制御部101によって生成された楽音信号を出力する手段である。具体的には、D/Aコンバータ、アンプ(増幅器)、スピーカなどを含んで構成される。
【0027】
次に、制御部101が行う処理について説明する。
図3は、電子吹奏楽器100が有する制御部101によって実行される処理を機能ブロックによって表した図である。制御部101は、機能ブロックとして、楽音決定部1011、楽音生成部1012、モード選択部1013の三つを有している。
【0028】
楽音決定部1011は、奏者が行った操作に基づいて、生成すべき楽音を決定する。具体的には、(1)ブレス検出器102が取得したブレスの流量、(2)演奏操作子105が取得した演奏操作の内容(どのキーが押下されているか)、(3)設定操作子104によって設定された楽音パラメータの内容等に基づいて、鳴らすべき楽音の音色、音階、音量等を決定する。
【0029】
楽音決定部1011が決定した内容は、楽音生成部1012に送信される。楽音決定部1011と楽音生成部1012との間の通信は、MIDIインタフェースによって行ってもよい。この場合、MIDI規格に準拠した制御メッセージ(ノートオン信号、ノートオフ信号、コントロールチェンジ、プログラムチェンジ等)が、楽音決定部1011と楽音生成部1012との間において送受信されてもよい。以下の説明では、MIDIインタフェースを利用した形態を例示する。
【0030】
楽音決定部1011は、後述するモード選択部1013によって指定されたモードに従って動作する。具体的には、ブレスと演奏操作の双方に基づいて楽音信号を生成する第一のモードと、ブレスを省略し、演奏操作のみによって楽音信号を生成する第二のモードのいずれかによって動作する。
【0031】
動作モードとして、第一のモードが指定された場合、楽音決定部1011は、演奏操作に応じた音高の楽音が、ブレス流量に応じた音量で生成されるよう、楽音生成部1012に対して制御メッセージを送信する。
動作モードとして、第二のモードが指定された場合、楽音決定部1011は、演奏操作に応じた音高の楽音が、所定の音量で生成されるよう、楽音生成部1012に対して制御メッセージを送信する。
【0032】
また、第一のモードでは、楽音決定部1011は、ブレス流量が所定値を上回った場合にノートオン信号を生成し、ブレス流量が所定値を下回った場合にノートオフ信号を生成する。一方、第二のモードでは、楽音決定部1011は、演奏操作子105が有する複数のキーのうちの少なくともいずれかが押下された場合にノートオン信号を生成し、押下されていたキーが離された場合にノートオフ信号を生成する。
【0033】
楽音生成部1012は、楽音決定部1011から受信した制御メッセージ(MIDIメッセージ)に基づいて、ソフトウェア処理によって楽音信号を合成し、出力部106に出力する。なお、楽音生成部1012は、ソフトウェア処理のみによって楽音信号を生成してもよいし、ハードウェアで構成された音源を利用して楽音信号を生成してもよい。
【0034】
モード選択部1013は、ブレス検出器102が取得したブレスの有無に基づいて、第一のモードと第二のモードのいずれかを選択する。具体的には、所定期間内においてブレスの有無を検出した結果に基づいて、第一のモードと第二のモードのどちらのモードで動作するかを決定し、楽音決定部1011に指示する。
なお、本実施形態では、ブレスの有無に基づいてモードの切り替えを行うが、モードは固定されてもよい。例えば、設定操作子104を介して、ユーザがモードを固定する旨の操作を行った場合、モード選択部1013は当該操作に従って、第一のモードと第二のモードのいずれかにモードを固定してもよい。
【0035】
次に、楽音決定部1011が行う処理のフローチャートについて、図4を参照して説明する。図4に示した操作は、楽器の電源が投入されたタイミングで開始される。
【0036】
まず、ステップS11で、設定操作子104を介して設定された楽音パラメータに基づいて、楽音生成部1012に送信する制御メッセージを生成する。本ステップでは、音色や効果(コーラス,リバーブ等)などを指定する制御メッセージ(例えば、プログラムチェンジやコントロールチェンジ)が生成される。なお、前回の処理から楽音パラメータが変化していない場合、本ステップは省略してもよい。
【0037】
次に、ステップS12で、奏者が演奏操作子105に対して行った操作(演奏操作)に基づいて、発音する楽音の音高を決定する。演奏操作から音高への変換は、実際の吹奏楽器に即したルールで行うことが好ましい。例えば、リコーダーのキー操作に準拠して音高を決定することができる。
なお、電子吹奏楽器100がサックス等の移調楽器であって、奏者によって移調が指定されていた場合、本ステップで楽音の音高を変更してもよい。例えば、アルトサックスやバリトンサックスはE♭管であり、ソプラノサックスやテナーサックスはB♭管であるが、電子楽器においては容易に移調を行うことができる。この場合、所定のルール(移調元と移調先の組み合わせ)に沿って移調を行ってもよい。
【0038】
次に、ステップS13で、指定されているモードを判定する。ここで、モード選択部1013によって第一のモードが指定されていた場合、処理はステップS14へ遷移する。
【0039】
ステップS14では、ブレス検出器102から、奏者が行っているブレスの流量を取得し、当該流量に基づいて、楽音の音量を指定する制御メッセージを生成する。流量(絶対値)から音量への変換は、例えば、予め記憶されたテーブルや数式等を参照することで行うことができる。
【0040】
次に、ステップS15で、ブレスイベントが発生したか否かを判定する。ブレスイベントとは、ブレスがされている状態からされていない状態への変化、および、ブレスがされていない状態からされている状態への変化があった場合に発生するイベントである。ここで、ブレスが開始されたと判定された場合、ステップS16で、ノートオン信号を生成する。また、ブレスが終了したと判定された場合、ステップS16で、ノートオフ信号を生成する。ブレスが行われているか否かは、ブレス検出器102から取得したブレス流量と、所定の閾値とを比較することで判定することができる。なお、ステップS16で生成するノートオン信号に音量の指定を付随させる場合、当該音量を、ブレス流量に基づいて決定してもよい。
ブレスイベントが発生していない場合、処理はステップS19へ遷移する。
【0041】
ステップS13で、モード選択部1013によって第二のモードが指定されていた場合、処理はステップS17へ遷移する。
ステップS17では、楽音の音量を所定値に設定する制御メッセージを生成する。所定値は、例えば、予め奏者によって設定された値とすることができる。第二のモードはブレスによらず発音を行うモードであるため、奏者が所望する音量を事前に設定可能にすることが好ましい。
【0042】
次に、ステップS18で、キーイベントが発生したか否かを判定する。キーイベントとは、演奏操作子のキーを押下する操作、および、キーを離す操作があった場合に発生するイベントである。ここで、キーが押下されたと判定された場合、処理はステップS16へ遷移し、ノートオン信号を生成する。また、キーが離されたと判定された場合、ステップS16で、ノートオフ信号を生成する。
キーイベントが発生していない場合、処理はステップS19へ遷移する。
【0043】
ステップS19では、生成した制御メッセージを楽音生成部1012へ送信する。具体的には、ステップS11で生成された制御メッセージ、ステップS14およびS17で決定された音量を指定する制御メッセージ、ステップS16で生成されたノートオン/ノートオフ信号を送信する。これにより、楽音生成部1012によって楽音信号が生成される。
【0044】
次に、モード選択部1013が行う処理のフローチャートについて、図5を参照して説明する。図5に示した操作は、楽器の電源が投入されたタイミングで開始される。
【0045】
まず、ステップS21で、楽音決定部1011に対して、第一のモードへの移行を指示する。
次に、ステップS22で、ブレス検出器102から取得した情報に基づいて、ブレスが行われていない時間をカウントする。カウンタは、所定の時間が経過するごとにインクリメントされ、ブレスを検知したタイミングでリセットされる。例えば、所定の時間が1秒であった場合、カウンタは、ブレスが行われていない秒数となる。
【0046】
次に、ステップS23で、ブレスが行われていない時間が所定時間(例えば、5秒)を経過したか否かを判定する。ここで肯定判定となった場合、処理はステップS24へ遷移する。否定判定となった場合、処理はステップS22へ戻り、カウントを継続する。
ステップS23で肯定判定、すなわち、ブレスが所定時間以上行われていないと判定された場合、ステップS24で、楽音決定部1011に対して、第二のモードへの移行を指示する。
【0047】
ステップS25では、ブレス検出器102から取得した情報に基づいて、奏者によってブレスが行われたか否かを判定する。ここで、ブレスを検出した場合(ステップS26-Yes)、処理はステップS21へ戻り、楽音決定部1011に対して、第一のモードへの移行を指示する。ブレスを検出しない場合、処理はステップS25へ戻り、第二のモードを継続する。
【0048】
以上に説明したように、本実施形態に係る電子吹奏楽器は、ブレスが所定時間以上行われなかった場合に、ブレスを省略して発音を行うことができるモードに移行し、かつ、ブレスを検出した場合に、元来のモード(発音にブレスを要するモード)に移行する。
かかる構成によると、スイッチやキー操作を行うことなくモード変更を行うことができる。すなわち、楽器を両手でホールドしたままでモード変更を行うことができるため、奏者の利便性が大きく向上する。
【0049】
(第二の実施形態)
第一の実施形態では、ステップS22~23で、所定時間以上ブレスが無いことを判定
し、当該判定をトリガとして第二のモードへの遷移を行った。これに対し、第二の実施形態は、第二のモードへの遷移を行うトリガにもブレスを利用する実施形態である。
第二の実施形態における電子吹奏楽器100のハードウェア構成およびモジュール構成は、第一の実施形態と同様であるため詳細な説明は省略し、相違点のみを説明する。
【0050】
図6は、第二の実施形態においてモード選択部1013が行う処理のフローチャートである。第二の実施形態では、ステップS22Aにおいて、所定の期間内に行われたブレスの流量変化(時間の経過に対する流量の変化)を取得する。また、ステップS23Aにおいて、取得したブレスの流量変化が第一のパターンと一致するか否かを判定する。なお、本実施形態におけるパターンとは、ブレス流量の時系列変化を表すものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、「一回吹く」「続けて二回吹く」「一回吸う」などであってもよい。ここで、取得したパターンが第一のパターンと一致していた場合、処理はステップS24へ遷移する。
【0051】
また、ステップS25Aにおいても、所定の期間内に行われたブレスの流量変化を取得する。ステップS26Aにおいては、取得したブレスの流量変化が第二のパターンと一致するか否かを判定する。ここで、取得したパターンが第二のパターンと一致していた場合、処理はステップS21へ遷移する。第一のパターンと第二のパターンは、同じパターンでもよいし、それぞれ別のパターンであってもよい。例えば、第二のパターンが、第一の実施形態と同様に「一回吹く」ものであり、第一のパターンが、「続けて二回吹く」といったものであってもよい。
【0052】
第二の実施形態では、このように、ブレスによってジェスチャを行うことで、第一のモードと第二のモードの切り替えを行う。かかる形態によると、所定の時間の経過を待つことなく第二のモードへ遷移させることが可能になり、奏者の利便性が向上する。
【0053】
(第三の実施形態)
第一の実施形態では、ステップS17で説明したように、第二のモードにおける音量を所定値に設定した。これに対し、第三の実施形態は、第一のモードにある期間において取得されたブレス流量に基づいて、第二のモードに移行した後の音量を決定する実施形態である。
【0054】
第三の実施形態では、楽音決定部1011が、第一のモードにある間に行われたブレス流量(例えば、ステップS14において取得されたブレス流量)に基づいて、第二のモードにおける音量を決定する。音量は、例えば、第二のモードに移行する直前の値を用いてもよいし、第一のモードにおける代表値(例えば、平均値や最大値)を用いてもよい。例えば、第一のモードで演奏している間に音量の代表値を決定して一時的に記憶し、第二のモードに移行した後、ステップS17にて、当該代表値を音量に設定するようにしてもよい。
【0055】
第三の実施形態によると、第二のモードに移行した後も、演奏環境に応じた適切な音量で楽器の演奏を継続することができる。
【0056】
(変形例)
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。
例えば、実施形態の説明では、モード間の遷移を行う条件として、「ブレスを行う」「所定時間ブレスを行わない」「所定のパターンと一致するブレスを行う」といったものを例示したが、奏者がブレスによって表現できるものであれば、例示したもの以外をトリガとしてモード間の遷移を行うようにしてもよい。
【0057】
また、実施形態の説明では、リコーダー、サックス、トランペット、フルート等といった吹奏楽器を模した電子楽器を例示したが、吹奏楽器以外の電子楽器としての実施形態も考えられる。例えば、鍵盤ハーモニカや、アコーディオン等であってもよい。また、ユーザがサンプリングした音声や、当該音声を加工した音声を出力する電子楽器として実施してもよい。この場合、当該電子楽器は、ブレスに基づいて発音を行うものの、吹奏楽器を模したものである必要はない。
【0058】
さらに、実施形態の説明では、ブレスに基づいて楽音信号を生成する例を挙げたが、指で行う操作以外であれば、ブレスを他の操作に置き換えてもよい。例えば、ブレス検出器102を音声検出器に置き換え、検出した音声の大小に基づいて楽音信号を生成するようにしてもよい。このように、ヴォコーダーの要素を取り入れた実施形態も考えられる。
さらに、モードの切り替えが発生した場合に、所定の制御メッセージを楽音決定部1011から楽音生成部1012へ送信するようにしてもよい。例えば、第一のモードから第二のモードへの遷移が発生した場合に、第一の音色から第二の音色に切り替える制御メッセージを生成し、送信してもよい。逆も同様である。かかる構成によると、モードごとに適した楽音を生成することができる。
【符号の説明】
【0059】
100:電子吹奏楽器
101:制御部
102:ブレス検出器
103:記憶装置
104:設定操作子
105:演奏操作子
106:出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6