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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィ分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/32 20060101AFI20230414BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230414BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
G01N30/32 C
G01N30/88 Q
G01N30/34 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019181953
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021056174
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 明
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高木 毅
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027326(JP,A)
【文献】特開昭59-077360(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158430(WO,A1)
【文献】特開2012-032187(JP,A)
【文献】特開2008-264640(JP,A)
【文献】実開昭62-095727(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/32,30/34,30/88,
G01N 35/08,
B01F 25/00,25/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィカラム(LCカラム)と、
複数種類の溶離液を貯留する複数の貯留槽と、
前記複数の貯留槽と接続する複数の流路が合流する合流部と、
前記LCカラムと前記合流部を接続する合流路と、
前記LCカラムに前記合流路を介して前記複数種類の溶離液を送出する送液手段と、
前記複数種類の溶離液を、単位時間当たりに前記合流路を流れる前記複数種類の溶離液の流量の合計である流量Qで、あらかじめ定めた順番で前記LCカラムに送出することを送液周期Cyで繰り返すように前記送液手段を制御する制御部と、を有し、
前記合流路の長さをL及び断面積をD、としたとき、
Ma=(Q・Cy)/(L・D)
で定義される混合係数Maが、
0<Ma≦1
である、液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項2】
前記送液手段は前記複数の流路に設けられた複数のポンプを有し、
前記制御部は前記複数のポンプをあらかじめ決められた順番で駆動することにより前記複数の溶離液を前記LCカラムへ送出する、請求項1に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項3】
前記複数のポンプはプランジャーポンプを含み、
前記制御部は前記プランジャーポンプが前記溶離液を前記LCカラムへ送出していない時間に、前記貯留槽から前記プランジャーポンプ内に前記溶離液を取り込むように前記プランジャーポンプを駆動する、請求項2に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項4】
前記送液手段は前記複数種類の溶離液を前記合流路に送液するポンプと、
前記貯留槽と前記合流路の間に設けられた弁を有し、
前記制御部は前記弁の導通を切り替えることにより、前記ポンプで送液される前記複数種類の溶離液を予め決められた順番で前記LCカラムに送出する、請求項1に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項5】
記流量Qは、前記送液周期Cyの1回において前記貯留槽に貯留されている前記複数種類の溶離液が前記送液手段によって送出される流量の総計を前記送液周期Cyの1回の時間で除したものである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項6】
記流量Qは、前記貯留槽に貯留されている複数種類の溶離液それぞれの送液周期Cyの1回の時間における単位時間当たり流量の和である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記LCカラムに送液する前記溶離液の混合比率に基づいて、複数の前記貯留槽に貯留されている溶離液それぞれの単位時間当たり流量を調整する、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項8】
血液ヘモグロビンのうちHbA1c分画を測定する、請求項7に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【請求項9】
前記LCカラムはHPLCカラムである、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィ分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば血中ヘモグロビンを分離分析する高速液体クロマトグラフィ(HPLC)のような液体クロマトグラフィ(LC)において、液体クロマトグラフィカラム(LCカラム)に溶離液を送出する液体クロマトグラフィ分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
HPLCによる検体の分析においては、単一の溶離液を用いて分析することは困難である。そこで複数の溶離液を流路に送液し、溶離液の組成を種々変化させて分析するグラジエント方式が主流である。このとき、複数の溶離液が均一に混ざった混合液が高速液体クロマトグラフィカラム(HPLCカラム)に流れるよう、下記特許文献1記載の技術のように流路内にミキサーを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-3203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、HPLC分析システムで用いられる溶離液のミキサーは、その容量が大きいほど、溶離液の混合が十分になされる。しかし、その分混合完了までの時間も遅くなる。近年、臨床現場において、多数の検体を短時間に処理するという要請に基づき、HPLCにおける分析時間の短縮が計られてきたが、これに伴い、溶離液の混合完了までの時間が分析時間に占める割合が無視できなくなってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の液体クロマトグラフィ分析システムは、LCカラムと、複数種類の溶離液を貯留する複数の貯留槽と、複数の貯留槽と接続する複数の流路が合流する合流部と、LCカラムと合流部とを接続する合流路と、LCカラムに合流路を介して複数種類の溶離液を送出する送液手段と、複数種類の溶離液を、単位時間当たり流量Qで、あらかじめ決められた順番でLCカラムに送出することを送液周期Cyで繰り返すように送液手段を制御する制御部と、を有し、合流路の長さをL及び断面積をD、としたとき、Ma=(Q・Cy)/(L・D)で定義される混合係数Maが、0<Ma≦1である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流路にミキサーを設けずとも、混合した溶離液をLCカラムに送出することが可能なシステムが提供される
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の送液システムを含むHPLC分析システムの第1実施態様を示す模式図。
図2】制御部のハードウェア構成を示すブロック図。
図3】送液周期の一例を示すタイムチャート。
図4図3の送液周期による合流路における溶離液の送液状態の模式図。
図5】送液周期の別の例を示すタイムチャート。
図6】送液周期のさらに別の例を示すタイムチャート。
図7】本開示の送液システムの第2実施態様を示す模式図。
図8】本開示の送液システムの第3実施態様を示す模式図。
図9】送液周期(Cy)が0.25秒の場合の検証における、合流路終点で測定した吸光度を時系列で示すグラフ。
図10】送液周期(Cy)が0.5秒の場合の検証における、合流路終点で測定した吸光度を時系列で示すグラフ。
図11】送液周期(Cy)が0.25秒及び0.5秒の場合についてそれぞれ混合係数(Ma)と吸光度のシグナル/ノイズ比(S/N)との関係を示すグラフ。
図12】実施例において血中ヘモグロビンのクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の液体クロマトグラフィ分析システムでは、HPLCカラムのような液体クロマトグラフィカラム(LCカラム)の上流に位置する合流路に、少なくとも1つの送液手段(たとえばポンプ)によって、複数種類の溶離液があらかじめ定めた順番で送出され、合流路においてこの複数種類の溶離液を所望の比率で実質的に混合することができる。ここで、複数種類の溶離液とは、互いに組成を異にするものであり、検体の種類に応じて適宜選択可能であるとともに、ピークとして溶出したい成分に応じて所望の比率で混合された状態でLCカラムに送出される。この液体クロマトグラフィ分析システムとしてのHPLC分析システムは、特に、血液ヘモグロビンのうちHbA1c分画を測定するのに適している。
【0009】
<第1実施態様>
本開示の液体クロマトグラフィ分析システムは、たとえば、図1の模式図に示す第1実施態様のようにHPLC分析システム10として構成することができる。このHPLC分析システム10では、分析対象に応じて種々の担体が充填されたLCカラムとしてのHPLCカラム20に、送液システム100によって複数種類の溶離液が周期的に送出される。以下、複数種類の溶離液として、第1液体と第2液体を1:1で混合した混合液を単位時間当たり流量QでHPLCカラムに送出する例を挙げて、第1実施態様の送液周期の第1例を説明する。なお、本開示の送液システム100は、短時間で分離分析を行うHPLC分析システム及びHPLCカラムに溶離液を送出するものが特に望ましいが、液体クロマトグラフィを原理とするLCカラムに溶離液を送出するものであってもよい。
【0010】
[送液システム]
この第1実施態様の送液システム100は、以下の構成を備える。この第1実施態様の送液システム100においては、複数の溶離液として第1液体及び第2液体の2種類が使用される。第1液体は貯留槽としての第1貯留槽141に貯留され、第1ポンプ121によって第1流路131を経て合流路110へ送出される。第2液体は貯留槽としての第2貯留槽142に貯留され、第2ポンプ122によって第2流路132を経て合流路110へ送出される。換言すると、第1貯留槽141と接続する第1流路131と、第2貯留槽142と接続する第2流路132とは合流部130で合流している。そして合流路110は合流部130とLCカラムとを接続する。なお、第1ポンプ121の上流及び下流並びに第2ポンプ122の上流及び下流にはそれぞれ、上流から下流への流れのみが通ることが可能な逆止弁170が装着されている。そのため、第1貯留槽141から第1流路131に送液された第1液体は第2流路132には流れず、合流路110に流れる。同様に第2貯留槽142から第2流路132に送液された第2液体は第1流路131には流れず、合流路110に流れる。
【0011】
本実施態様において第1ポンプ121及び第2ポンプ122に用いられるポンプはプランジャーポンプ(シリンダーポンプ)である。なお、第1ポンプ121及び第2ポンプ122に用いられるポンプは送液及び停止を繰り返し行うことができるものであれば特に種類は限定されないが、送液の立ち上がり及び立ち下がりに要する時間を短くすることができることから、本第1実施態様のようにプランジャーポンプ(シリンダーポンプ)を用いることが望ましい。
【0012】
なお、第1流路131から、第3ポンプ123に連絡する第3流路133が分岐する。この第3流路133の途中には、開閉可能な第1弁151が設けられている。第3ポンプ123に用いられるポンプは、吸引ができるようなものであれば特に種類は限定されない。
【0013】
合流路110は長さL(m)、断面積D(m)の管状を呈し、その途中には開閉可能な第2弁152が設けられている。合流路110の下流端は、HPLCカラム20の上流端と連結している。なお、合流路110にインジェクションバルブなどを別途設けてもよい。その場合、インジェクションバルブ内部の溶離液の流路の長さと断面積の積を合流路110の長さLと断面積Dの積に足し合わせた値を、Maを定義する式中の長さL(m)と断面積D(m)の積として用いてもよい。
【0014】
第1弁151を開放させ、かつ、第2弁152を閉鎖させた状態で、分析開始前に、各流路からの空気抜きが行われる。また、第1弁151を閉鎖させ、第2弁152を開放させた状態で、検体のHPLCによる分析が実行される。これらの点については実施例にて後述する。
【0015】
なお、上記した第1ポンプ121、第2ポンプ122及び第3ポンプ123の作動及び停止、並びに第1弁151及び第2弁152の開閉は、いずれも制御部180による制御に服する。図1中の破線は、制御部180による各部分への制御系統を示す。制御部180は、図2のハードウェア構成に示すように、CPU(Central Processing Unit)181、ROM(Read Only Memory)182、RAM(Random Access Memory)183及びストレージ184を有する。各構成は、バス189を介して相互に通信可能に接続されている。
【0016】
CPU181は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU181は、ROM182又はストレージ184からプログラムを読み出し、RAM183を作業領域としてプログラムを実行する。CPU181は、ROM182又はストレージ184に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御を行う。
【0017】
ROM182は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM183は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ184は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はフラッシュメモリにより構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。本第1実施態様では、ROM182又はストレージ184には、測定や判定に関するプログラムや各種データが格納されている。また、ストレージ184には、測定データを保存しておくこともできる。
【0018】
制御部180は、上記ハードウェア構成のうちCPU181が、前記したプログラムを実行して送液システム100を制御することによって、HPLC分析システム10において検体の分析を実施する。
【0019】
[送液パターン:第1例]
第1実施態様の送液システム100による送液パターンの第1例を、図3のタイムチャートを参照しつつ説明する。図3の上段は、プランジャーポンプである第1ポンプ121によって第1液体を実際に送出している時間をハッチングにて示し、また、第1液体を送出していない時間を白抜きにて示している。図3の下段は同様に、プランジャーポンプである第2ポンプ122によって第2液体を実際に送出している時間を別のハッチングにて示し、第2液体を送出していない時間を白抜きにて示している。
【0020】
具体的には図3の上段は、第1ポンプ121の第1液体を含むシリンジ内にプランジャーを押し込む時間をハッチングにて示し、また、第1ポンプ121のシリンジ内に押し込まれたプランジャーをシリンジ内から引き上げる時間を白抜きにて示している。図3の下段は同様に、第2ポンプ122の第2液体を含むシリンジ内にプランジャーを押し込む時間を別のハッチングにて示し、また、第2ポンプ122のシリンジ内に押し込めれたプランジャーをシリンジ内から引き上げる時間を白抜きにて示している。
【0021】
まず、制御部180は第1ポンプ121のシリンジ内にプランジャーを所定時間(t)の間押し込み、第1ポンプ121のシリンジ内にある第1液体を合流路110へ送出させる。その間、制御部180は第2ポンプ122のシリンジ内からプランジャーを引き上げ、第2液体を第2貯留槽142から第2ポンプのシリンジ内に取り込む。つまりその間、第2液体は合流路110へは送出されない。
【0022】
そして、制御部180は第1ポンプ121を同じ所定時間(t)の間第1ポンプ121のシリンジ内からプランジャーを引き上げ、第1液体を第1貯留槽141から第1ポンプ121のシリンジ内に取り込む。つまりその間、第1液体は、合流路110へは送出されない。その間、制御部180は第2ポンプ122のシリンジ内にプランジャーを押し込み、第2ポンプ122のシリンジ内にある第2液体を合流路110へ送出させる。
【0023】
すなわち、複数種類の溶離液である第1液体及び第2液体は、それぞれ、送出されている時間と送出されていない時間とが繰り返される。つまり、あらかじめ定めた順番で、第1液体と第2液体との順で交互に合流路110に送出することを繰り返す。換言すると、所定の順番として、第1液体と第2液体との順で交互に合流路110に送出することを繰り返す、ともいえる。又は、第1液体のみを送出し、続いて第2液体のみを合流路110に送出することを繰り返す、ともいえる。又は、第1液体及び第2液体のそれぞれを合流路110に周期的に送出する、ともいえる。この合流路110へ第1液体、第2液体の送出の繰り返しを送液パターンと称する。この送液パターンの1単位の時間長さ(すなわち、第1液体の送出時間(第2液体の停止時間)であるtと第2液体の送出時間(第1液体の停止時間)であるtとを合わせた時間)が送液周期Cy(秒)である。ここで、1回の送液周期(Cy)においては、個々の溶離液について、それぞれ送液手段による送出が継続している時間と、この送出が停止している時間とが含まれる。
【0024】
なお、第1ポンプ121の駆動による第1液体の合流路110への送出を行う時間(すなわち、第2ポンプ122の駆動による第2液体の合流路110への送出を停止する時間)であるtと、第2ポンプ122の駆動による第2液体の合流路110への送出を行う時間(すなわち、第1ポンプ121の駆動により第1液体の合流路110への送出を停止する時間)であるtとは、同じ時間である必要はなく、異なる時間であってもよい。この場合も同様に、この異なる時間の合計(t+t)が、送液周期Cyとなる。
【0025】
この送液周期Cyの1回に要する時間において第1液体と第2液体とが送液手段によって合流路を介して、LCカラムとしてのHPLCカラム20に送出する流量の総計を送液周期Cyの1回に要する時間で除したものが、溶離液の単位時間当たり流量(Q)である。換言すると、送液周期Cyの1回の間の第1液体の単位時間当たり流量Qと第2液体の単位時間当たり流量Qとの合計が、第1液体と第2液体との混合液を単位時間当たり流量(Q)となるように、第1液体と第2液体とをHPLCカラムに送液する。つまり、1回の送液周期Cy中のtの間に第1液体を流量V送出し、次いでtの間に第2液体を流量V送出する場合、第1液体の単位時間当たり流量Qは流量Vを送液周期(Cy)で除したものであり、他方の第2液体の単位時間当たり流量Qは流量Vを送液周期(Cy)で除したものである。そして、単位時間当たり流量Qは、
Q=Q+Q
である。このQとQの合計が、HPLCカラム20に送液したいQとなるように、QとQを調整する。溶離液が3種類以上の場合も同様である。なお、第1液体と第2液体との混合液を合流路110を介してHPLCカラム20に均一の圧力で送液するために、換言すると、合流路110を流れる際の圧力の脈動を軽減して混合液を送液するために、流量Vをtで除した値である第1液体の送液速度と、流量Vをtで除した値である第2液体の送液速度とを同じにすることが好ましい。
【0026】
この溶離液の単位時間当たり流量(Q)に対する複数種類の溶離液それぞれの単位当たり流量の割合を変更することで、所望の混合比率の溶離液の混合液を合流路の下流に送液することができる。つまり、第1液体と第2液体とを1:1で混合した混合液を送出する場合は、第1液体の単位時間当たり流量Qと流量Qとはそれぞれ、単位時間当たり流量Qの2分の1にすればよい。たとえば、溶離液1と溶離液2とを3:7で混合した溶離液を単位時間当たり流量Qで合流路を介してHPLCカラム20に送液する場合、溶離液1の単位時間当たり流量Qは単位時間当たり流量Qの10分の3、溶離液2の単位時間当たり流量Qは単位時間当たり流量Qの10分の7にすればよい。
【0027】
このとき、複数種類の溶離液である第1液体と第2液体との単位時間当たり流量QとQとを変更する場合は、送液周期中で送液する時間であるt又はtを変更せずに流量Vをtで除した値である第1液体の送液速度、又は、流量Vをtで除した値である第2液体の送液速度を変更してもよいし、第1液体の送液速度又は第2液体の送液速度は変更せずに送液周期中でその溶離液を送液する時間であるt又はtを変更して行ってもよいし、またこれらを組み合わせてもよい。なお、溶離液の単位時間当たり流量(Q)は合流路の下流に設けられたHPLCカラム20で検体を分析するために適した流量に適宜設定できる。制御部180は送液システム100を制御して、適宜複数種類の溶離液の混合比率の調整を行うことができる。
【0028】
図3に示す送液パターンにより、第1流路131より送出される第1液体と、第2流路132より送出される第2液体とが、図4に示すように、合流路110において交互に流れていき、混合された溶離液がHPLCカラム20に到達する。このとき、
Ma=(Q・Cy)/(L・D)
で定義される混合係数Maが、
0<Ma≦1
となるように、送液システム100において各パラメータを設定する。すなわち、後述する図11で示すように、Maを0<Ma≦1とすることで、S/Nが急激に増加する。つまり、混合された溶離液がHPLCカラムに送液される。ここで、詳細は後述するが、S/Nの値が高いほど、複数種類の溶離液がよく混合されていることを示す。そのため、合流路110において特段の混合手段(たとえば、ミキサー)を用いずとも、複数種類の溶離液が、事実上完全に混合された状態でHPLCカラム20に送出される。このMaを0<Ma≦1とすることの意義については後述する。
【0029】
混合係数(Ma)とは、上記した送液周期(Cy)及び溶離液の単位時間当たり流量(Q)並びに合流路の管長(L)及び断面積(D)というパラメータによって、前記した関係式によって定義される無名数である。この混合係数(Ma)が、0を超え、かつ、1以下の値となるように上記各パラメータを調整した送液システムでは、複数種類の溶離液のそれぞれは断続的に合流路を流れる。そしてこの溶離液の断続的な送液によって生じる送液周期(Cy)1回当たりの溶離液の体積は、合流路の容積に対して十分に小さくなる。そのため、複数種類の溶離液は、合流路を経てHPLCカラムに到達した段階で、実質的にあらかじめ完全に混合されているのに等しい状態となる。
【0030】
たとえば、長さL(m)、断面積D(m)の合流路110を介してHPLCカラム20に第1液体と第2液体とを1:1で混合した混合液を単位時間当たり流量Qで送液する場合、Maを定義する前記の式にL、D及びQを代入し、Maが0<Ma≦1となる送液周期Cyを算出する。そして算出した送液周期Cyで、第1ポンプ121と第2ポンプ122とで交互にそれぞれ単位時間当たり流量Qの2分の1の流量で送液することを繰り返す。これにより、合流路110においてミキサーを要さずとも、混合した溶離液をHPLCカラム20に送出することができる。
【0031】
また、HPLC分析システム10における送液システム100の流路を変更することは通常困難であることから、合流路110の長さL(m)、断面積D(m)は所与の数値として定まっている場合が多い。また、分離分析する成分やカラムによって単位時間当たり流量Qも定まっている場合が多い。その場合は、送液周期Cyを短くすることで混合係数Maを0<Ma≦1とする。そのため送液周期Cyは短いほどよく、好ましくは0.5秒以下である。
【0032】
ここで混合係数Maを0<Ma≦1とする意義について、以下の送液システム100の検証にて説明する。
【0033】
<送液システムの検証>
[溶離液の組成]
複数種類の溶離液として、下記表1に示す組成の液体を基に第1液体及び第2液体を調整し使用した。
【0034】
【表1】
【0035】
上記液体に、色素として青色2号(イソジゴカルミン)を0.01g/Lの濃度で添加したものを第1液体とし、色素を添加していない上記液体を第2液体とした。
【0036】
[装置構成]
前記の第1実施態様(図1参照)のHPLCカラム20の替わりに吸光度計を設置し、検証に用いる送液システム100とした。上記した第1液体及び第2液体をそれぞれ、この構成の送液システム100の第1貯留槽141及び第2貯留槽142にそれぞれ充填した。合流路110は、下記表2に示すサイズの6種類をそれぞれ用い、合流路の終点に設置した吸光度計にて、波長420nmにて溶離液の吸光度を経時的に測定した。なお、第1ポンプ121及び第2ポンプ122にはいずれもプランジャポンプを用いた。
【0037】
【表2】
【0038】
[測定手順]
図1に示す構成及び符号を参照しつつ、本実施態様における吸光度の測定手順を説明する。
【0039】
(測定前処理)
測定前処理として、第3流路133に設けられている第1弁151を開放させ、かつ、第2弁152を閉鎖させた状態で、第3ポンプ123を駆動させて合流路110から空気を吸引した。この状態で第1ポンプ121及び第2ポンプを同時に駆動させて、第1貯留槽141から第1液体で第1流路131から第3流路133までを満たし、同時に第2貯留槽142から第2液体で第2流路132から第3流路133までを満たした。
【0040】
その後、第1弁151を閉鎖させ、かつ、第2弁152を開放させた状態で、第1ポンプ121は停止させて第2ポンプ122を駆動させて、色素が添加されていない第2液体で第2流路132及び合流路110を満たした。
【0041】
その後、第2ポンプ122は停止させて第1ポンプ121を駆動させて、色素が添加されている第1液体で、第1流路131及び合流路110を満たした。
【0042】
(検証1)
測定前処理に続き、まず、第1液体を流量7.4ml/分で0.125秒送液し、その後0.125秒は送液を停止するように第1ポンプ121を設定することで、0.25秒間の第1液体の平均流量である流量Qを3.7ml/分とした。同様に、第2液体を流量7.4ml/分で0.125秒送液し、その後0.125秒は送液を停止するように第2ポンプ122を設定し、0.25秒間の第2液体の平均流量である流量Qを3.7ml/分とした。そして、第1ポンプ121による第1液体の0.125秒の送液と、第2ポンプ122による第2液体の0.125秒の送液を交互に繰り返すことで、送液周期Cyを0.25秒とした。この送液周期Cyにおける第1液体及び第2液体を合わせた流量Q(=Q+Q)は、7.4ml/分(=1.23×10-7/秒)である。
【0043】
そして、前記した吸光度計にて、合流路110から流出した液体の吸光度(mO.D)を5秒間測定した。その結果を図9に示す。なお、合流路110の長さは、太い実線が150mm(=0.15m)、細い実線が300mm(=0.30m)、太い破線が450mm(=0.45m)、細い破線が900mm(=0.90m)、太い点線が2000mm(=2.00m)及び細い点線が3000mm(=3.00m)である。
【0044】
(検証2)
測定前処理に続き、まず、第1液体を流量7.4ml/分(=1.23×10-7/秒)で0.25秒送液し、その後0.25秒は送液を停止するように第1ポンプ121を設定することで、0.5秒間の平均流量である流量Qを3.7ml/分とした。同様に、第2液体を流量7.4ml/分で0.25秒送液し、その後0.25秒は送液を停止するように第2ポンプ122を設定することで、0.5秒間の平均流量である流量Qを3.7ml/分とした。そして、第1ポンプ121による第1液体の0.25秒の送液と、第2ポンプ122による第2液体の0.25秒の送液を交互に繰り返すことで、送液周期Cyを0.5秒とした。
【0045】
そして、前記した吸光度計にて、合流路110から流出した液体の吸光度(mO.D)を5秒間測定した。その結果を図10に示す。
【0046】
ここで、第1液体と第2液体とが完全に混合された混合液を流すと仮定すると、吸光度は時間経過によって一定であり変化しないはずである。そのため、時間経過による吸光度の振れ幅が小さいほど、第1液体と第2液体との混合の度合いが高くなっているといえる。
【0047】
この考えに基づいて、図9及び図10を参照すると、図9及び図10ともに合流路110の長さが長くなるほど、吸光度(mO.D)の振れ幅は小さくなった。これは、合流路110の長さが長くなることで合流路110の体積が大きくなり、第1液体と第2液体との混合の度合いが高くなっていることを示す。
【0048】
また、図9図10とを比較すると、同じ合流路110の長さであっても送液周期Cyを短くすることで、吸光度の振れ幅は小さくなった。これは、1回の送液周期Cyにおいて送液される体積を小さくすると、第1液体と第2液体との混合の度合いが高くなっていることを示す。
【0049】
図9及び図10の測定結果を基に、複数種類の溶離液の混合度合いを示す尺度としてシグナル/ノイズ(S/N)を定義する。シグナル(S)については、合流路110の各長さの下で同じ送液周期Cyで一定時間(すなわち、5秒間)測定した吸光度の平均と定義する。ノイズ(N)については、上記一定時間中における吸光度の極大値の平均から、上記一定時間中における吸光度の極小値の平均を差し引いた値、と定義する。
【0050】
ここで、仮に、第1液体と第2液体とが完全に混合された混合液を流すと、検出部で検出される吸光度は、時間経過によって変化しない。そのため、第1液体と第2液体との混合度合いが高くなると、S/Nは大きくなる。一方、第1液体と第2液体との混合の度合いが低くなると、図9及び図10に示すように、吸光度は一定の振れ幅で周期的に変化するため、S/Nは小さくなる。
【0051】
次に、各条件下における、混合の度合いを示すS/Nと、混合係数Maとを算出した結果を、下記表3に示す。なお、下記表3の他、混合係数Maを算出するのに必要な数値は、流量Qが7.4ml/min(=1.23×10-7/秒)及び合流路110の断面積Dが0.0707mm(7.07×10-2)である。
【0052】
【表3】
【0053】
なお、上記表3において、シグナルS及びノイズNは、図9及び図10に示した吸光度変化の実測値から算出したものである。
【0054】
上記表3を基に、検証1及び検証2のそれぞれについて、対応する混合係数Maの値とS/Nの値とを、混合係数MaをX軸とし、S/NをY軸とした二次元平面上にプロットした上で、それぞれ最適なべき関数で近似した近似曲線を併せて図11に示す。なお、実線の近似曲線は検証1で、破線の近似曲線は検証2である。この近似曲線において、混合係数Maと対応する値が、上記表3におけるS/N近似値である。
【0055】
その結果、送液周期Cyが0.25秒の検証1における近似曲線は、送液周期Cyが0.5秒の検証2における近似曲線に近い形状と傾向を示した。これは、送液周期Cyや合流路の長さLの値に関わらず、混合係数Maによって、混合の度合いであるS/Nが推定できることを示す。そして、混合の度合いであるS/Nの値は、Maが1付近へ減少するまでは水平に近く緩やかな曲線を示すが、Maが1以下に減少していくにつれて急激な上昇カーブに転じた。
【0056】
すなわち、混合係数Maの値としての1とは、X軸においてMaが減少していく方向において、水平に近い緩やかな曲線から、急激な上昇カーブに転ずる境界としての意義を有する。
【0057】
ここで、上記表3中で、各検証において上下に隣接する2通りの合流路の長さLに対し、S/N近似値の差の絶対値を、対応する混合係数Maの差の絶対値で除した値が、上記表3中に示すS/N上昇率である。換言すると、各実施態様において上下に隣接する2つのS/N近似値において、対応する上段の混合係数Maが下段の混合係数Maまで減少する間に、隣接する上段のS/N近似値から下段のS/N近似値まで増加する割合が、当該下段のS/N近似値に対するS/N上昇率である。よって、最上段のS/N近似値に対してはS/N上昇率は定義できないため、そのことを上記表3中の「―」で示している。
【0058】
このS/N上昇率を基準とすると、検証1においては、L=0.45のときにMa=0.97とほぼ1となっているが、これを境にS/N上昇率は1.3から3.5へ増加し、以下さらに急激な増加を示している。同様に、検証2においては、L=0.90のときにMa=0.97とほぼ1となっているが、これを境にS/N上昇率は0.7から1.9へ増加し、以下さらに急激な増加を示している。
【0059】
これは、混合係数Maが1以下であることによって、第1液体と第2液体とが混合したものと同等とみなすことができることを意味する。
【0060】
このことから、混合係数Maが1以下となるように第1液体と第2液体とを送液することで、ミキサーのような混合するための構造を用いなくても、第1液体と第2液体とが混合したものと同等の液体を、合流路へ供給することができることが示された。
【0061】
[送液パターン:第2例]
本実施態様の送液システム100による送液パターンの第2例を、図5のタイムチャートを参照しつつ説明する。本例は、複数種類の溶離液として、第1液体、第2液体、第3液体を1:1:1で混合した混合液を単位時間当たり流量QでHPLCカラム20に送出する例である。これに応じて、図1に示す送液システム100において、第3液体に対応した貯留槽、プランジャーポンプ及び合流路に至る流路が設けられるが、これらについては第1液体及び第2液体に対応したものと同じであり、図示は省略する。
【0062】
図5の上段及び中段は、それぞれ第1ポンプ121及び第2ポンプ122の駆動を経時的に示したもので、その表示については上記した第1例と同じである。図5の下段は同様に、第3液体の送出を行うプランジャーポンプの駆動を経時的に示したもので、第3液体を含むシリンジ内にプランジャーを押し込む時間を、第1ポンプ121及び第2ポンプ122体とは別のハッチングにて示し、シリンジ内に押し込まれたプランジャーをシリンジ内から引き上げる時間を白抜きにて示している。
【0063】
本例では、第1液体を含む第1ポンプ121のシリンジ内にプランジャーを所定時間(t11)の間押し込み、第1液体を合流路110へ送出する。次に第2液体を含む第2ポンプ122のシリンジ内にプランジャーを所定時間(t)の間押し込み、第2液体を合流路110へ送出する。そして第1液体のみを再び所定時間(t12)の間送出し、その後第3液体のみを所定時間(t)の間送出することを繰り返す。また、あるプランジャーポンプのプランジャーがシリンジに押し込んでいる間は、他のプランジャーポンプはシリンジ内に押し込まれたプランジャーを引き上げて、貯留槽からシリンジ内に液体を取り込む。
【0064】
すなわち、本例では、あらかじめ定めた順番として、合流路110へ第1液体のみ、第2液体のみ、第1液体のみ、第3液体のみをこの順で送出することの繰り返しが1単位の送液パターンである。そしてこの送液パターンの1単位の時間長さ、すなわち、第1液体の2回にわたる送出時間t(=t11+t12)と、第2液体の送出時間tと、第3液体の送出時間tとの合計が、送液周期Cy(秒)である。この送液周期Cyの間に、第1液体が送出される単位時間当たり流量Q(m/秒)と、第2液体が送出される単位時間当たり流量Q(m/秒)と、第3液体が送出される単位時間当たり流量Q(m/秒)との合計が、この送液周期Cyの1回によって送出される溶離液の単位時間当たり流量Q(m/秒)である。本例では第1液体、第2液体、第3液体を1:1:1で混合する。そのため、単位時間当たり流量Q、Q、Qはそれぞれ単位時間あたり流量Qの3分の1にする。なお、溶離液の混合液の混合比を変更する場合は第1例と同様である。また本例では第1液体は1回の送液周期中に2回送液される。この2回の送液のそれぞれの流量の合計が流量Q1となるように、第1液体を送液すればよい。この単位時間当たり流量Qをパラメータとする混合係数(Ma)の意義については上記第1例と同様である。
【0065】
[送液パターン:第3例]
本実施態様の送液システム100による送液パターンの第3例を、図6のタイムチャートを参照しつつ説明する。本例では、複数種類の溶離液として、第1例と同様に第1液体及び第2液体の2種類が使用する。第1液体、第2液体を1:1で混合した混合液を単位時間当たり流量QでHPLCカラムに送出する例である。図6の上段及び下段は、それぞれ第1ポンプ121及び第2ポンプ122の駆動を経時的に示したもので、その表示については上記した第1例と同じである。
【0066】
本例では、第1液体及び第2液体はそれぞれ、所定時間tの間は合流路110へ送出され、次いで別の所定時間tの間は合流路110への送出が停止されるという送液パターンを繰り返す。本例は、上記した第1例とは、第1液体の送出と第2液体の送出とが同時に行われる時間がある、という点で相違する。つまり、あらかじめ定めた順番として、合流路110へ第1液体及び第2液体を同時に送出し、第1液体のみを送出し、再び第1液体及び第2液体を同時に送出し、第2液体のみを送出することを繰り返す。この合流路110への第1液体、第2液体の送出の繰り返しが送液パターンである。
【0067】
ここで、第1液体の送出時間tは、第1液体及び第2液体が同時に合流路110へ送出される時間であるtと、第1液体のみが合流路110へ送出される時間(すなわち、第2液体の合流路110への送出が停止されている時間)であるtと、再び第1液体及び第2液体が同時に合流路110へ送出される時間であるtとの合計である。一方、第2液体の送出時間tもまた、第1液体及び第2液体が同時に合流路110へ送出される時間であるtと、第2液体のみが合流路110へ送出される時間(すなわち、第1液体の合流路110への送出が停止されている時間)であるtと、再び第1液体及び第2液体が同時に合流路110へ送出される時間であるtとの合計である。したがって、本例では、第1液体のみの送出時間tと、第2液体のみの送出時間tと、第1液体と第2液体を同時に送出する送出時間tと送出時間tとの合計時間が、送液周期Cy(秒)である。換言すると、第1液体の送出開始時点から、送出停止時間(t)を経て次の送出開始時点までを送液周期Cyと捉えることができる。あるいは、第2液体の送出時間tと、第1液体の送出が停止されている時間tとの合計が、送液周期Cy(秒)ということもできる。また、第2液体の送出開始時点から、送出停止時間(t)を経て次の送出開始時点までを送液周期Cyと捉えることもできる。いずれの場合も、この送液周期Cyの間に、第1液体を送出する単位時間当たり流量Q(m/秒)と、第2液体を送出する単位時間当たり流量Q(m/秒)との合計が、この送液周期Cyの1回によって送出される溶離液の単位時間当たり流量Q(m/秒)である。本例では第1液体、第2液体を1:1で混合する。そのため、単位時間当たり流量Q1、Q2はそれぞれ単位時間あたり流量Qの2分の1にする。なお、溶離液の混合液の混合比を変更する場合は第1例と同様である。この単位時間当たり流量Qをパラメータとする混合係数(Ma)の意義については上記第1例と同様である。
【0068】
<第2実施態様>
本開示の送液システム100を含むHPLC分析システム10は、たとえば、図7の模式図に示す第2実施態様のように構成することができる。この第2実施態様の送液システム100は、弁の導通を切り替えることで合流路110に複数の溶離液として第1液体及び第2液体の2種類を順に送液する点で第1実施態様とは送液手段の構成が異なる。具体的には、以下の構成を備える。第1液体は第1貯留槽141に貯留され、また、第2液体は第2貯留槽142に貯留される。第1貯留槽141から第1液体が合流路110へ送出される第1流路131と、第2貯留槽142から第2液体が合流路110へ送出される第2流路132とが、合流路110の直前で合流する合流部130には三方弁160が設けられている。合流路110の途中には、第1液体と第2液体との両方の送出に関与する共通ポンプ120が設置されている。共通ポンプ120の上流及び下流にはそれぞれ、上流から下流への流れのみが可能な逆止弁170が装着されている。共通ポンプ120は、持続的な送液が可能なものであれば特に種類は限定されないが、たとえば、ペリスタポンプを用いることが望ましい。
【0069】
合流路110は、共通ポンプ120以外の部分は管状を呈し、共通ポンプ120を含んだ長さがL(m)、管状部分の断面積がD(m)である。なお、共通ポンプ120以外の管状部分の流路の長さ、断面積を合流路110の長さL(m),断面積D(m)としてもよい。また共通ポンプ120内部の流路の長さ、断面積を合流路110の長さL(m),断面積D(m)としてもよい。また、合流路110の管状部分と共通ポンプ120内部の流路の断面積が異なる場合は、合流路110の管状部分と共通ポンプ120内部の流路の長さと断面積の積をそれぞれ算出し、その積の和をMaを定義する式中の長さL(m)と断面積D(m)の積として用いてもよい。合流路110の下流端は、HPLCカラム20の上流端と連結している。HPLCカラム20については前記第1実施態様と同様である。
【0070】
上記した共通ポンプ120の作動及び三方弁160の流路切り替えは、いずれも制御部180による制御に服する。制御部180については前記第1実施態様と同様である。
【0071】
本実施態様の送液システム100においては、溶離液の送出が行われる間、制御部180は共通ポンプ120を持続的に作動させる。そして、制御部180が、三方弁160を制御することで、第1流路131と合流路110との導通と、第2流路132と合流路110との導通とを切り替える。すなわち、第1流路131と合流路110とが導通している間は、共通ポンプ120により第1液体が合流路110に送出される。また、第2流路132と合流路110とが導通している間は、共通ポンプ120により第2液体が合流路110に送出される。
【0072】
つまり、第1実施態様は第1ポンプ121及び第2ポンプ122のプランジャーの駆動によって合流路110に複数種類の溶離液を順に送液するが、第2実施態様は三方弁160の導通を切り替えることで合流路110に複数種類の溶離液を順に送液する。第1実施態様の送液パターンの第1例を例に挙げて第2実施態様の送液パターンの第1例を説明する。制御部180が、三方弁160を制御することで、図3に示す所定時間(t)の間、第1流路131と合流路110とを導通させる。その間、制御部180は三方弁160を制御し、第2流路132と合流路110を遮断する。次いで制御部180は三方弁160を制御することで所定時間(t)の間、第1流路131と合流路110とを遮断する。その間、第2流路132と合流路110とを導通させる。すなわち、複数種類の溶離液である第1液体及び第2液体は、それぞれ、送出されている時間と送出されていない時間とが繰り返される。この時間t(秒)とt(秒)との合計が、送液周期Cy(秒)となる。なお、時間t(秒)とt(秒)とは、互いに違う長さであっても、また、同じ長さであってもいずれでもよい。この送液周期Cyの間に、第1液体が送出される流量Q(m/秒)と、第2液体が送出される流量Q(m/秒)との合計が、この送液周期Cyの1回によって送出される溶離液の流量Q(m/秒)である。
【0073】
なお、本実施態様においては、第1流路131と合流路110との導通、第2流路132と合流路110との導通を切り替えることができればよい。そのため三方弁160の替わりに第1流路131、第2流路132のそれぞれに弁を設け、それぞれの弁の導通を制御部180で切り替えてもよい。
【0074】
第2実施態様の送液パターンの第2例、第3例は、合流路への複数種類の溶離液の送液を弁の導通で切り替えること以外は第1実施態様の送液パターンの第2例、第3例と同様である。
【0075】
本実施態様においても、前記した混合係数Maの意義については前記した第1実施態様と同様である。
【0076】
<第3実施態様>
本開示の送液システム100を含むHPLC分析システム10は、たとえば、図8の模式図に示す第3実施態様のように構成することができる。この第3実施態様の送液システム100は、弁の導通を切り替えることで合流路110に複数の溶離液として第1液体及び第2液体の2種類を順に送液する点で第1実施態様とは送液手段の構成が異なる。またポンプを溶離液の種類ごとに設ける点で第2実施態様とも異なる。この第3実施態様の送液システム100においてもまた、複数の溶離液として第1液体及び第2液体の2種類が使用される。第1液体は第1貯留槽141に貯留され、第1ポンプ121によって持続的に第1流路131を経て合流路110へ送出される。第2液体は第2貯留槽142に貯留され、第2ポンプ122によって持続的に第2流路132を経て合流路110へ送出される。なお、第1ポンプ121の上流及び下流並びに第2ポンプ122の上流及び下流にはそれぞれ、上流から下流への流れのみが可能な逆止弁170が装着されている。
【0077】
第1ポンプ121及び第2ポンプ122に用いられるポンプは、持続的な送液が可能なものであれば特に種類は限定されないが、たとえば、ペリスタポンプを用いることが望ましい。
【0078】
第1流路131と第2流路132とが、合流路110の直前で合流する合流部130には三方弁160が設けられている。
【0079】
合流路110は長さL(m)、断面積D(m)の管状を呈し、その容積はLとDの積である。合流路110の下流端は、HPLCカラム20の上流端と連結している。
【0080】
上記した第1ポンプ121及び第2ポンプ122の作動並びに三方弁160の流路切り替えは、いずれも制御部180による制御に服する。制御部180については前記第1実施態様と同様である。
【0081】
本実施態様の送液システム100においては、溶離液の送出が行われる間、制御部180は第1ポンプ121及び第2ポンプ122を持続的に作動させる。そして、制御部180が、三方弁160を制御することで、第1流路131と合流路110との導通と、第2流路132と合流路110との導通とを切り替える。すなわち、第1流路131と合流路110とが導通している間は、第1ポンプ121により第1液体が合流路110に送出される。また、第2流路132と合流路110とが導通している間は、第2ポンプ122により第2液体が合流路110に送出される。
【0082】
つまり、第1実施態様は第1ポンプ121及び第2ポンプ122のプランジャーの駆動によって合流路110に複数種類の溶離液を順に送液するが、第3実施態様は三方弁160の導通を切り替えることで合流路110に複数種類の溶離液を順に送液する。第1実施態様の送液パターンの第1例を例に挙げて第3実施態様の送液パターンの第1例を説明する。制御部180が、三方弁160を制御することで、図3に示す所定時間(t)の間、第1流路131と合流路110とを導通させる。その間、制御部180は三方弁160を制御し、第2流路132と合流路110を遮断する。次いで制御部180は三方弁160を制御することで所定時間(t)の間、第1流路131と合流路110とを遮断する。その間、第2流路132と合流路110とを導通させる。すなわち、複数種類の溶離液である第1液体及び第2液体は、それぞれ、送出されている時間と送出されていない時間とが繰り返されるこの時間t(秒)とt(秒)との合計が、送液周期Cy(秒)となる。なお、時間t(秒)とt(秒)とは、互いに違う長さであっても、また、同じ長さであってもいずれでもよい。この送液周期Cyの間に、第1液体が送出される流量Q(m/秒)と、第2液体が送出される流量Q(m/秒)との合計が、この送液周期Cyの1回によって送出される溶離液の流量Q(m/秒)である。
【0083】
なお、本実施態様においては、第1流路131と合流路110との導通、第2流路132と合流路110との導通を切り替えることができればよい。そのため三方弁160の替わりに第1流路131及び第2流路132のそれぞれに弁を設け、それぞれの弁の導通を制御部180で切り替えてもよい。
【0084】
第3実施態様の送液パターンの第2例、第3例は、合流路110への複数種類の溶離液の送液を弁の導通で切り替えること以外は第1実施態様の送液パターンの第2例、第3例と同様である。
【0085】
本実施態様においても、前記した混合係数Maの意義については前記した第1実施態様と同様である。
【実施例
【0086】
実施例として、本開示のHPLC分析システム10を用いて第1液体、第1液体と第2液体の混合液を流量3.6mL/分で合流路110を介してHPLCカラム20に送液し、血中ヘモグロビンを測定した例を示す。
【0087】
[溶離液の組成]
表1に記載の成分を含むpH5.25の溶離液を調製し、第1液体とした。また下記表4に記載の成分を含むpH6.85の溶離液を調製し、第2液体とした。
【0088】
【表4】
【0089】
[装置構成]
断面が直径0.3mmの円形で合計長さが530mmの管の途中に血液検体を導入するためのインジェクションバルブを設けた。管の長さL(m)と断面積D(m)の積、つまり管の容積は37.4mm(37.4×10-9)である。そしてインジェクションバルブ内部の溶離液が流れる流路の長さは15.3mm、断面の直径は0.5mm、断面積は0.196mmであり、インジェクションバルブ内部の流路の長さL(m)と断面積D(m)の積、つまりインジェクションバルブ内部の流路の容積は3mm(3×10-9)である。合流路110の下流にヘモグロビン分離用のカラムを設けた。そしてカラムの下流の流路に415nmの吸光度を測定してヘモグロビンを検出するための吸光度計を設けた。また、第1ポンプ121及び第2ポンプとしてそれぞれプランジャーポンプを用いた。それ以外の構成は第1実施態様と同様である。
【0090】
[測定手順]
(測定前処理)
測定前処理は送液システムの検証1と同様に行った。
【0091】
(カラム平衡化)
第1ポンプ121で第1貯留槽141の第1液体を3.6mL/分で3分間送液し、カラムを平衡化させた。
【0092】
(分離分析)
蒸留水で溶血させた血液検体16μLをインジェクションバルブを介して合流路110に導入した。導入後、第1ポンプ121を駆動し、合流路110に第1液体を流量3.6mL/分で17秒間送液した。
【0093】
次に、合流路110に第1液体及び第2液体を3:7で混合した溶離液を流量3.6mL/分(60×10(-9)/秒)で7秒間カラムに送液した。ここで合流路110の長さL(m)と断面積D(m)の積、つまり合流路110の容積は、管のL(m)と断面積D(m)の積である37.4mm(37.4×10-9)とインジェクションバルブの長さL(m)と断面積D(m)の積である3mm(3×10-9)との和である40.4mm(40.4×10-9)である。そこで合流路110の容積である40.4mm(40.4×10-9)及び単位時間当たり流量3.6mL/分(60×10(-9)/秒)によってMaが1となる送液周期Cyを算出したところ、送液周期Cyは0.673秒であった。同様にMaが0となる送液周期Cyを算出すると、送液周期Cyは0秒であった。ここから、Maが0<Ma≦1とするためには、送液周期Cyを0秒よりも大きく0.673秒以下にすればよいことがわかった。換言すると、合流路110に第1液体と第2液体を混合した溶離液を流量3.6mL/分(60×10-6/秒)で送液するためには、第1液体と第2液体とを交互に送液することを0.673秒以下の周期で繰り返せばよいことがわかった。そこで第1液体及び第2液体の合流路110への送液を0.5秒の周期で繰り返すこととし、第1ポンプ121で第1液体を0.25秒送液して停止し、引き続き、第2ポンプ122で第2液体を0.25秒送液して停止することにした。そして、第1液体と第2液体を3:7で混合した溶離液を送液するために、第1液体の単位時間当たり流量Qは合流路110への単位時間当たり流量3.6mL/分(60×10-6/秒)の10分の3である1.08mL/分とした。同じく第2液体の単位時間当たり流量Qは合流路110への単位時間当たり流量3.6mL/分(60×10-6/秒)の10分の7である2.52mL/分とした。換言すると、第1ポンプ121で第1液体を2.16mL/分で0.25秒送液して停止した。その後第2ポンプ122で第2液体を5.04mL/分で0.25秒送液して停止した。この第1ポンプ121及び第2ポンプ122による合流路110への溶離液の送液及び停止の繰り返しを7秒間行った。なお、第1ポンプ121又は第2ポンプのいずれか一方が合流路110へ溶離液を送液している間、他方のシリンジ内からプランジャーを引き上げて、貯留槽からシリンジ内に溶離液を取り込ませた。
【0094】
次に、合流路110に第1液体と第2液体を1:9で混合した溶離液を流量3.6mL/分で16秒間カラムに送液した。上記と同様に合流路110に第1液体及び第2液体を1:9で混合した溶離液を流量3.6mL/分(60×10-6/秒)で送液するためには、第1液体と第2液体とを交互に送液することを0.673秒以下の周期で繰り返せばよい。そこで第1液体及び第2液体の送液を0.5秒の周期で繰り返すこととし、第1ポンプ121で第1液体を0.25秒送液して停止し、引き続き、第2ポンプ122で第2液体を0.25秒送液して停止することにした。そして、第1液体及び第2液体を1:9で混合した溶離液を送液するために、第1液体の単位時間当たり流量Qは合流路110への単位時間当たり流量3.6mL/分(60×10-6/秒)の10分の1である0.36mL/分とした。同じく第2液体の単位時間当たり流量Qは合流路110への単位時間当たり流量3.6mL/分(60×10-6/秒)の10分の9である3.24mL/分とした。換言すると、第1ポンプ121で合流路110へ第1液体を0.72mL/分で0.25秒送液して停止した。その後第2ポンプ122で合流路110へ第2液体を6.48mL/分で0.25秒送液して停止した。この第1ポンプ121及び第2ポンプ122の駆動と停止の繰り返しを16秒間行った。
【0095】
インジェクションバルブを切り替えた時点から、カラムの下流の流路に設けた吸光度計で415nmの吸光度を経時的に測定し、経過時間(秒)と415nmの吸光度とのクロマトグラムを得た。
【0096】
[測定結果]
本実施例の分離分析で得られた血中ヘモグロビンのクロマトグラムを図12に示す。なお、図中、Aで示す区間は第1液体のみを溶離液として送液した時間を示し、Bで示す区間は第1液体及び第2液体を3:7で混合した溶離液を送液した時間を示し、Cで示す区間は第1液体及び第2液体を1:9で混合した溶離液を送液した時間を示す。経過時間約13秒の時点でHbA1cのピークが得られた。また経過時間約22秒の時点にHbAのピークが得られた。このことから合流路にミキサーを設けなくても、血中ヘモグロビンを分離分析することができることが示された。このように、本実施例によって、測定中に、検出したいピークに応じた適切な割合になるよう、溶離液を速やかに調整することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、HPLCに代表される液体クロマトグラフィによる分析システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0098】
10 HPLC分析システム
20 HPLCカラム
100 送液システム
110 合流路
120 共通ポンプ
121 第1ポンプ
122 第2ポンプ
123 第3ポンプ
130 合流部
131 第1流路
132 第2流路
133 第3流路
141 第1貯留槽
142 第2貯留槽
151 第1弁
152 第2弁
160 三方弁
170 逆止弁
180 制御部
181 CPU
182 ROM
183 RAM
184 ストレージ
189 バス
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