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特許7262370放射線治療計画のためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】放射線治療計画のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019196900
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2020096810
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】18203596.4
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】スタル,オスカー
(72)【発明者】
【氏名】エングワル,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ヤンソン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】グリメリウス,ラーズ
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,ヒェル
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0297850(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0275696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにおいて行われる以下の工程:
a)所望の線量を予め定められたスポットの集合にわたって分布させるために最適化を実行する工程であって、前記最適化は前記スポットの集合における各スポットの所望の線量に応じてスポット重量を前記予め定められたスポットのそれぞれに割り当てることを含む工程と、
b)前記最適化を中断する工程と、
c)第1の閾値未満のスポット重量を有する少なくとも第1および第2の低重量スポットを特定する工程と、
d)前記第1の特定された低重量スポットを前記スポットの集合内に維持しながら前記第2の特定された低重量スポットを前記スポットの集合から破棄して減少したスポットの集合を得る工程と、
e)前記最適化を実行して、前記所望の線量が前記減少したスポットの集合によって送達されるような放射線治療計画を得る工程と
を含む、イオン治療の放射線治療計画を最適化する方法。
【請求項2】
多くの低重量スポットを特定し、かつ前記第2の特定された低重量スポットを破棄する前記工程は、最低重量を有するスポットを破棄すること、または、最小重量よりも低い閾値未満の重量を有する全ての低重量スポットを破棄することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記破棄された第2の低重量スポットの重量を補償するために前記減少したスポットの集合において少なくとも1つの残りのスポットの重量を増加させる工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記破棄された第2の低重量スポットのスポット重量を前記少なくとも1つの残りのスポットのスポット重量に追加する工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
2つ以上の前記破棄された低重量スポットのスポット重量を前記少なくとも1つの残りのスポットに追加する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記スポット重量の合計が第2の閾値を超えるまで前記第2の閾値未満のスポット重量を前記少なくとも1つの残りのスポットに追加する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの残りのスポットは、前記予め定められたスポットの集合内の次のスポットまたは前記予め定められたスポットの集合内の次の低重量スポットとして選択する、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの残りのスポットは、前記破棄されたスポットの重量によって重み付けされた多くの破棄されたスポット間の幾何学的もしくは放射線学的重心への近接に基づいて選択する、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記予め定められたスポットの集合における最低重量スポットを特定して破棄する工程と、その重量を別のスポットに再分布させる工程と、新しい最低重量スポットのためにこの工程を繰り返す工程とを含む、請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
新しいスポットのための位置を決定する工程と、スポット重量を前記新しいスポットに割り当てて1つ以上の破棄されたスポットを補償する工程とをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記新しいスポットのための位置は、前記破棄されたスポットの重量によって重み付けされた多くの破棄されたスポット間の幾何学的もしくは放射線学的重心に基づいて決定する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程b)~e)を少なくとも1回繰り返す、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
プロセッサで実行されると前記プロセッサに請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を実行させる非一時的記憶媒体に格納されたコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項14】
プロセッサ(43)、データメモリ(44)およびプログラムメモリ(45)を備えるコンピュータシステム(41)であって、前記プログラムメモリは、前記プロセッサにおいて実行されて放射線治療計画を制御するように構成されている請求項13に記載のコンピュータプログラム製品を含むコンピュータシステム(41)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子線治療の治療計画、特にペンシルビームスキャニング(PBS)を含む計画などのイオン放射線治療計画を計画するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PBSでは、イオン線量はエネルギー層として組織化されるスポットの離散集合を用いて患者に送達される。エネルギー層内の各スポットは、ビーム送達システムにおいて定められた横方向位置に対応しており、その位置に送達される粒子の数を指定する割り当てられた重量を有する。イオンビームは連続的に作動状態にすることも(準離散PBSすなわちラスタースキャニング)、スポット位置間を移動する際に電源を切ることもできる(ステップアンドシュート(step-and-shoot)PBS)。エネルギー層、スポット位置および重量は一緒にPBS治療計画を構成する。逆方向治療計画ではその重量は、一般に患者の体内の異なる領域における所望の計画すなわちビーム線量に基づく計画目的を果たすための繰り返し最適化プロセスにおいて最適化変数として使用される。
【0003】
患者を治療する際に、送達システムを使用して治療計画に従って各スポットから正しい数の粒子を送達する。送達システムは典型的に、最小スポット重量と最大スポット重量との間の重量を有するスポットのみを送達することができるという点で制約を有する。この限界は、計画目的を最も良好に果たす数学的に最適な計画のための好ましい解と対立することがある。特に最適化された計画は多くの場合、ゼロを超えるが最小値に満たない重量を有する多くのスポットを含む。場合によっては、送達システムが送達することができない多数のそのような低重量スポットが存在する場合がある。故に得られる線量は最適化の所望の目標から逸脱する可能性がある。特定の領域が低重量スポットのみからなるクラスターを有する場合、その領域内の全てのスポットが送達不可能であり、かつその領域全体が非常に低い線量を受けるというリスクが存在する。
【0004】
理論上、これは最適化が開始される前のスポットの最適な位置決めによって対処することができる。実際には、これはほぼ不可能な作業である。現実には、スポットの位置決めおよび特にその間隔はトレードオフを必要とする。互いに密接に位置決めされたスポットは高い線量均質性を保証するが、送達システムが取り扱うことができない場合がある多くの低重量スポットも生じる。
【0005】
送達不可能なスポットを含む治療計画の問題を解決する1つの手法は、当該計画の最適化後に最小スポット重量に満たない重量を有する全てのスポットを除去することによるものである。そのような解決法は例えば、「Howardら:スポットスキャニングプロトン計画品質に対する最小モニタ単位閾値の効果(Effects of minimum monitor unit threshold on spot scanning proton plan quality),Med.Phys.41(9),2014年9月」に記載されている。上で説明し、かつこの論文に示されているように、スポットの除去は、特に多くの低重量スポットが互いに近くに位置している場合(これはよくあることである)には常に問題を含んでいる。
【0006】
僅かに異なる手法は、特定の数の最適化の繰り返し後にスポットの濾過、つまり除去を行うことである。この場合、送達システムによって許容される最小スポット重量と同じかそれによりも低くすることができる最小値を設定してもよく、この最小値よりも低いスポット重量を有するスポットのみを破棄する。次いで最適化を再開し、今度は濾過において維持されたスポットのみを用いて多くの繰り返しを行う。これは通常、破棄されたスポットの近くの残りのスポットのスポット重量の増加に繋がる。これにより最適化が終了した後に全ての低重量スポットを単に除去する場合よりも良好な計画が得られることが多いが、濾過工程において特定の領域で過剰に多くのスポットが除去されてしまうことがあるという問題がなお存在する。また、再開された最適化から得られるスポット重量が最小の許容されるスポット重量を超えるという保証はない。
【0007】
RayStation4.5で紹介された他の解決法では、濾過工程後に最適化問題において許容されるスポット重量に対して束縛を与える。これにより、当該計画が許容される重量よりも低い重量を有するあらゆるスポットを含まないことが保証される。「Caoら,強度調整される陽子線治療の治療計画におけるスポット強度の最適化への送達可能なモニタ単位制約の組み込み(Incorporating deliverable monitor unit constrains into spot intensity optimization in intensity modulated proton therapy treatment planning),Phys Med Biol.PMC 2014,2007年8月」は、スポット強度を最適化し、かつこの最初の最適化後にゼロの重量を有する全てのスポットを破棄する同様の解決法について記載している。その後の最適化において、各スポット重量がB(Bは真の最小値の割合である)よりも高くなければならないように全てのスポット重量に制約を課す。これらの2つの解決法からの結果は上に概説されている方法に匹敵し、過剰に多くのスポットが濾過されるという同じ問題が残っている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、放射線治療の治療計画の品質に対する送達システムの制約の影響を最小限に抑えることである。特に本発明は、スポット重量に関する制約の悪影響を最小限に抑えることに努める。
【0009】
本発明は、コンピュータにおいて行われる以下の工程:
a)所望の線量を予め定められたスポットの集合にわたって分布させるために最適化を実行する工程であって、前記最適化はそのスポットへの所望の線量に応じてスポット重量を予め定められたスポットのそれぞれに割り当てることを含む工程と、
b)最適化を中断する工程と、
c)第1の閾値未満のスポット重量を有する少なくとも第1および第2の低重量スポットを特定する工程と、
d)第1の特定された低重量スポットを当該スポットの集合内に維持しながら第2の特定された低重量スポットを当該スポットの集合から破棄して減少したスポットの集合を得る工程と、
e)最適化を再開して、減少したスポットの集合によって所望の線量が送達されるような放射線治療計画を得る工程と
を含む、放射線治療計画を最適化する方法に関する。
【0010】
工程b)~e)を好適な回数で繰り返してもよい。
【0011】
好ましい実施形態では、第1の閾値を送達システムの最小スポット重量として選択する。他の実施形態では、それを最小スポット重量に満たないがゼロより大きい値として選択してもよい。またそれを、例えば送達システムにおける不確実性を補償するために送達システムの最小スポット重量よりも大きい値として選択してもよい。
【0012】
従って本発明によれば、全てではないがいくつかの低重量スポットを最適化の間に当該計画から除去する。これは、全てが共通していくつかの低重量スポットの除去およびその後の最適化の繰り返しの間に1つ以上の他のスポットへのスポット重量の再分布を有するような異なる方法で実行することができる。試験結果から、そのような方法により上に考察されているような先行技術の解決法よりも良好な計画が得られることが分かった。全ての低重量スポットの特定の割合、例えば最低重量を有するスポットを破棄してもよい。あるいは、最小重量よりも低い閾値未満の重量を有する全ての低重量スポットを破棄してもよい。いくつかの低重量スポットの除去それ自体により、工程e)におけるその後の最適化の間に当該計画における残りのスポットのスポット重量を増加させて所望の線量レベルを維持する。
【0013】
本方法は好ましくは、最適化関数を再開する前に少なくとも1つの残りのスポットの重量を増加させて破棄された第2の低重量スポットの重量を補償する工程をさらに含む。最適化を継続する前に1つ以上の残りのスポットのスポット重量を増加させてスポット重量の再分布を容易にすることが必要というわけではないが可能である。これは破棄されたスポットのスポット重量に基づいて、あるいはいくつかの他の好適な規則に従って行ってもよい。単純な実施形態では、減少したスポットの集合における全ての残りの低重量スポットの重量を、最小スポット重量または最小スポット重量の特定の割合、例えば最小スポット重量の80%または90%などの特定の重量まで増加させてもよい。1つ以上の除去されたスポットの重量は1つ以上の残りのスポットまたは既存のスポットの集合に追加された1つ以上の新しいスポットに再分布させてもよい。
【0014】
好ましい実施形態では、破棄されたスポットに割り当てられたスポット重量を最適化を継続する前に別の第2のスポットに再び割り当てる。第2のスポットはランダムに選択してもよく、あるいはそれを幾何学的もしくは放射線学的距離のいずれかにおけるスポット位置、スポットエネルギー、スポット重量またはスポット線量分布から構築されるいくつかの尺度における破棄されたスポットへの近接に基づいて選択してもよい。好ましい実施形態では、スポットをスポットの集合において規則正しく並べ、かつ破棄されたスポットからのスポット重量を当該集合内の次のスポットに追加する。当該集合内の次の低重量スポットを特定し、かつ破棄されたスポットのスポット重量を当該集合内の次の低重量スポットに追加することも可能である。これを、低重量スポットに割り当てられたスポット重量の合計が第2の閾値を超え、かつこの低重量スポットが当該集合内に維持されるまで繰り返してもよい。あるいは、第2のスポットは、破棄されたスポットの重量によって重み付けされた多くの破棄されたスポット間の幾何学的もしくは放射線学的重心への近接に基づいて選択してもよい。
【0015】
好ましい実施形態は、予め定められたスポットの集合における最低重量スポットを特定して破棄する工程と、その重量を別のスポットに再分布させる工程と、新しい最低重量スポットのためにこの工程を繰り返す工程、すなわち新しい最低重量スポットを特定して破棄する工程と、その重量を別のスポットに再分布させる工程とを含む。これを好適な回数で繰り返してもよい。このように、最低重量スポットを破棄し、かつそれらの重量を再分布させる。
【0016】
第2のスポットの位置は、破棄されたスポットのエネルギー層内または別の既存のエネルギー層において選択してもよい。第2のスポットの重量は、その元の重量および除去されたスポットの重量の関数、最も単純には合計として再計算する。第2のスポットを減少したスポットの集合内に維持してもよく、あるいはそれをその後の工程で破棄してもよく、かつその重量を第3のスポットに再び割り当ててもよい。この方法は、継続される最適化の間にスポット重量の再分布を容易にするために選択される。当然ながら、第2のスポット重量を再計算して2つ以上の破棄されたスポットの重量を含めることが可能である。破棄されたスポットのスポット重量をいくつかの他のスポットにわたって分布させることも可能である。2つ以上の低重量スポットを破棄する場合にはこのスポット重量を累積して、このスポット重量の累計を保存すると共にそれをより好ましくは残りのスポットにわたって分布させるような方法でそれらを再び割り当てることも可能である。
【0017】
いくつかの実施形態では、予め定められたスポットの集合の中にない1つ以上の新しいスポットを定めてもよく、かつ破棄されたスポットのスポット重量をこれらの新しいスポットに再び割り当ててもよい。そのような実施形態では、本方法は、新しいもしくは既存のエネルギー層における長手方向位置および新しいスポットのために選択されたエネルギー層における横方向位置を決定する工程と、スポット重量を新しいスポットに割り当てて1つ以上の破棄されたスポットを補償する工程とを含む。これにより新しいスポットのための最適な位置の選択が可能になり、これは例えば、好ましくは破棄されたスポットの重量によって重み付けされた多くの破棄されたスポット間の幾何学的もしくは放射線学的重心を基づいて選択してもよい。
【0018】
提案されている解決法の最終結果として、最小スポット重量の限界の存在下でも所望の最適化結果により近い線量分布を有するより高い品質の計画が得られる。これは特に、所望の線量分布を得るために低重量スポットの存在が必要な標的体積の領域に当てはまる。得られる計画は、低重量の(送達不可能な)スポットの最終除去による影響を受けにくい。得られる計画は、エネルギー層間隔および横方向スポット間隔などの最初のスポット分布パラメータの選択に対してもよりロバストである。例えばその結果は、最初に過剰に多くのスポットが標的内に配置されている場合でさえも安定しており、これにより、より小さい間隔を有する最適なスポット分布を探すことが可能になり、それにより計画品質における向上が可能になる。同様に、得られる計画は最小スポット重量に対する正確な機械限界による影響を受けにくい。数学的に最適な計画からの逸脱は最小スポット重量の平滑化関数であり、その挙動をより予測可能なものにする。
【0019】
本発明は、プロセッサにおいて実行されるとプロセッサに本発明の方法を実行させる好ましくは非一時的記憶媒体に格納されたコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品にも関する。本発明はプロセッサ、データメモリおよびプログラムメモリを備えるコンピュータシステムにも関し、ここではプログラムメモリは、放射線治療計画を制御するためにプロセッサにおいて実行されるように構成された上記に係るコンピュータプログラム製品を含む。
【0020】
以下、本発明を添付の図面を参照しながら例としてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1a、図1bおよび図1cはイオンPBS計画におけるエネルギー層の概略図である。図1aはスポットの最初の分布を示し、図1bは先行技術の方法に従って得られたスポットの分布を示し、図1cは本発明に従って得られたスポットの分布を示す。
図2図2aおよび図2bは多くのスポットのスポット重量を概略的に示すヒストグラムである。
図3】本発明に係る方法の実施形態全体のフローチャートである。
図4】本方法を実施するために使用することができるコンピュータシステムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1aは、最初に定められたスポット、すなわち最適化手順の始めから使用されるスポットの集合を含むイオンPBS計画の1つのエネルギー層を示す。これらのスポットはイオンペンシルビームが方向づけられるべき定められた横方向位置を有する。典型的には完全な計画では、これらのスポットから送達される線量が標的形状に3次元で従うように、異なるスポット分布を有するいくつかのそのようなエネルギー層が存在する。図に示すように、これらのスポットはこの例では均一な横方向間隔を有して分布されており、これは典型的な事例である。これらのスポットの位置および間隔はデフォルト値によるか送達システムの特性などのパラメータの検討による任意の好適な方法で決定してもよい。
【0023】
図1bは、先行技術に係る計画最適化および濾過後の同じエネルギー層におけるスポット分布を示す。送達システムの最小スポット重量に満たないスポット重量を有する全てのスポットが濾過(除去)されている。図に示すように、ほぼ全てのスポットが最小スポット重量に満たないスポット重量を有していたかなりの中心領域が存在する。これは典型的により遠位の(より高いエネルギー)層からのスポットが同じ領域に線量を堆積させる場合に生じる。全てのスポットがこの領域において破棄されているので、これらのスポットを用いて線量を調整して最適化目的を果たす可能性はない。いくつかの先行技術システムでは、これが当該計画の最終結果となる。他の先行技術システムでは、これはさらなる最適化のための出発点となる。後者の場合、さらなる最適化はおそらく、中心の空の領域の中およびそれを直接取り囲む残りのスポットのスポット重量を増加させることによってこれを補償することを試みる。但しどちらの場合も、破棄されたスポットは永久に失われたままであり、おそらく次の工程はその始めに戻ってスポット配置を再開することである。
【0024】
図1cは、本発明の一実施形態に係る計画の最適化後の同じエネルギー層におけるスポット分布を示す。図に示すように、中心領域において低重量スポットのいくつかのみが破棄されているがそれ以外は保持されている。この中心領域における残りのスポットのスポット重量を再計算して、いくつかのスポットが破棄されている場合に失われている線量を補償する場合、この領域における残りのスポットのそれぞれが最小スポット重量を超える重量を有する機会が増える。その結果として、特に最適化アルゴリズムのいくつかの繰り返し後に多くの低重量スポットを有していた中心領域において先行技術による結果よりも均一な線量分布が得られる。
【0025】
図2aは、どのスポットを破棄または維持するかをそれぞれ選択する方法の単純化された例としての役割を果たすための、1~7の番号が付された7つのスポットのスポット重量を示すヒストグラムである。水平の破線は使用される送達システムによって取り扱われる最小スポット重量を示す。図に示すように、この例ではスポット3および5は最小スポット重量に満たないスポット重量を有する。従って本発明によれば、それらのうちの1つを破棄すべきであり、1つは維持すべきである。現実の状況では当然ながらより多くのスポットが存在し、かつより多くの低重量スポットが存在する。これらの低重量スポットのいくつかを破棄すべきであり、いくつかを維持すべきである。低重量スポットの一部の除去それ自体により、その後の最適化工程において隣接する残りのスポットのスポット重量を増加させる。以下で考察されているように、互いに若干の近接を有する低重量スポットのグループ内で、破棄されたスポットのスポット重量を維持されている低重量スポットのスポット重量に追加してこの後者のスポットのスポット重量が最小スポット重量を超える機会を増やすと有利である。
【0026】
図2bは、ここでも単純化された例としての役割を果たすための、図2aと同じスポット重量および同じ最小スポット重量を示すヒストグラムである。図2bには、ゼロよりも大きく、かつ実線によって示されている最小スポット重量よりも低い最小閾値も存在する。これはスポットのさらに適合した処理を可能にする。例えば、最小閾値未満の重量を有する完全に全てのスポットを破棄し、かつ最小閾値を超える重量を有するスポットを維持することを決定してもよい。ここでも、維持されている低重量スポットの重量を必ずしもではないが好ましくは増加させる。低重量スポットが互いに若干の近接を有する場合、これを達成する好適な方法は、破棄された低重量スポットのスポット重量の追加によるものである。
【0027】
図3は本発明の1つの方法の全体フローチャートである。線量計画において一般的であるように、患者の1つ以上の画像を入力データとして使用する。第1の工程S31では、スポットの集合およびそれらの最初のスポット重量、最適化関数およびスポット重量の最小閾値を含む入力データを提供する。最適化関数はスポット重量を変数として使用する。当業者は最適化関数を定義する方法に精通している。最小閾値は送達システムの最小スポット重量に等しくてもよく、あるいは好適な値に設定してもよい。この値はゼロと最小スポット重量との間の値であってもよい。最小閾値が最小スポット重量よりも低い場合、プロセス中により少ないスポットが低重量スポットとしてマークされる。またこの値は、例えば最小値に近い重量を有するスポットを回避することにより送達システムにおける不確実性を補償するために、送達システムの最小スポット重量を超える値であってもよい。第2の工程S32では、最適化を従来の方法で多くの繰り返しにより実行する。第3の工程S33では、任意の低重量スポット、すなわち最小閾値よりも低いスポット重量を有するスポットを特定する。高い割合の低重量スポットを有するあらゆる領域も特定する場合には、それによりさらなる処理を容易にすることができる。図1a、図1bおよび図1cに示されている状況では、これは大部分が低重量スポットからなる中心領域である。次の工程S34では、低重量スポットのいくつを破棄する。破棄するスポットの数およびどのスポットを破棄するかは、以下で考察されているように異なる方法で決定してもよい。
【0028】
工程S35は任意の工程であり、ここでは残りの低重量スポットのスポット重量を増加させる。これは、破棄されたスポットのスポット重量を残りのスポットの1つ以上、好ましくは残りの低重量スポットに再分布させることによって行ってもよい。以下で考察されているように、スポット重量を再分布させる方法は多くの異なる方法で決定してもよい。工程S36では、最終の治療計画が最適化され、かつ工程S37として出力されるまで、少なくとも1回のその後の繰り返しにより最適化を継続する。最適化のこの継続される繰り返しの間に、最適化により破棄されたスポットにより失われた線量が補償されるので、スポット重量は残りのスポット間で再分布される。工程S35を行う場合、それにより工程S36における最適化が容易になる。
【0029】
工程S33では、本方法は、最小スポット重量またはゼロと最小スポット重量との間の値であってもよい最小閾値未満のスポット重量を有する全てのスポットを特定するように設定されていてもよい。またそれは最小スポット重量を超える値であってもよい。あるいは本方法は、最低スポット重量を有するN個(Nはスポットの指定された数である)のスポットまたはスポットの総数の割合を特定するように設定されていてもよい。最小閾値がゼロと最小スポット重量との間の値に設定されている場合、最小閾値と最小スポット重量との間の重量を有する低重量スポットは残っているので、最小閾値未満の重量を有する全てのスポットを破棄することを可能にしてもよい。
【0030】
工程S34では、低重量スポットのいくつかを破棄する。また一般的な事例では、低重量スポットのいくつかを維持する。破棄するスポットの数および維持するスポットの数は多くの異なる方法で決定してもよい。1つの好ましい実施形態では、低重量スポットの特定の割合、例えば20、30、40または50%を破棄してもよい。どの個々のスポットを破棄するかは異なる方法で、例えばランダムに決定してもよく、あるいは2つ、3つまたは4つごとの低重量スポットを破棄してもよい。あるいは、どのスポットを破棄するかに関する決定は、エネルギー層内または全体におけるスポット位置、スポット線量情報、標的もしくはリスク臓器の幾何学的形状または任意の他の計画パラメータに基づいていてもよい。あるいは、低重量スポットの中のスポットをそれらの重量ごとに規則正しく並べて最低重量を有するスポットを破棄してもよい。
【0031】
一実施形態によれば、最低重量スポットを破棄し、かつその重量を別のスポットに再分布させる。次いで新しい最低重量スポットを破棄し、かつその重量を別のスポットに再分布させる。最小閾値よりも低い重量を有する残りのスポットがなくなるまでこの手順を繰り返す。破棄されたスポットの重量を再分布させるスポットは任意の好適な方法で選択してもよい。
【0032】
任意の工程S35における重量の再分布は異なる方法で達成してもよい。再分布のために一緒に検討される低重量スポットは、2Dまたは3Dの幾何学的スポットの分布を考慮に入れるいくつかの尺度において互いに近くに位置し、好ましくは互いに隣接していなければならない。この尺度は、場合により関係しているスポットのスポット重量の関数によって重み付けされた幾何学的もしくは放射線学的距離に関連づけられていてもよい。最も単純な事例では、全ての残りのスポットのスポット重量を例えば、例えば最小スポット重量に関連する任意の好適な方法で決定することができる特定の値または特定の割合だけ、あるいは特定の値まで増加させる。この増加は破棄されたスポットと維持されている低重量スポットとの比を考慮して決定することもできる。
【0033】
スポット重量の再分布は、典型的にはCT画像からの患者の幾何学的形状および輪郭が描かれた関心領域に関する情報も考慮に入れてもよい。例えば、この情報を使用して標的内部のスポットを標的外部のスポットとは異なる方法で取り扱ってもよい。1つの可能なルールは、標的外部のスポットはそれらのスポット重量のどんな再分布もなしに除去することができるが、標的内のスポットは、それらのスポット重量の標的内の1つ以上の他のスポットへの再分布なしに除去することができないというものであってもよい。
【0034】
好ましくは、1つ以上の破棄されたスポットのスポット重量を考慮して残りのスポットのスポット重量を増加させる。これを達成するための1つの単純な方法は全てのスポットまたは工程S33で低重量スポットとして特定された全てのスポットに番号を付すことである。最初の低重量スポットに遭遇した場合、本プロセスは番号が付された順番に従って次のスポットを特定し続ける。あるいは、最初の低重量スポットに隣接する全てのスポットを調べて隣接するスポットを選択することによって次のスポットを特定することができる。どちらの場合も、次いで最初の低重量スポットを破棄し、その重量を次のスポットの重量に追加する。低重量スポットの配列内の2つ以上のスポットを破棄し、かつ破棄されたスポットの全ての重量をその配列内の1つの低重量スポットに追加することも可能である。この1つの低重量スポットを、その配列内の最初または最後の1つのスポット、その配列の中間に近いスポットまたはその配列内のランダムなスポットを含む任意の好適な方法で選択してもよい。またそれを、追加前に最高もしくは最低スポット重量または低重量スポットの平均に最も近いスポット重量を有するスポットの配列内のスポットとして選択してもよい。本方法は所定の数、例えば3つ、4つまたは5つのスポットの重量を追加するように構成されていてもよく、あるいはより多くのスポットを破棄し、かつ維持されるスポットの総スポット重量が必ずしもではないが典型的に最小スポット重量である閾値を超えるまで、それらのスポット重量を追加し続けるように構成されていてもよい。
【0035】
工程S35では、1つ以上の破棄されたスポットのスポット重量を2つ以上のスポットにわたって再分布させることも可能である。また1つ以上の破棄されたスポットのスポット重量を最初に最小閾値を超えている多くのスポットにわたって分布させてもよい。これは例えば、破棄されたスポットのグループからのスポット重量を累積させるが最小スポット重量に到達しない一実施形態において有用であり得る。この場合、そのグループ内の全てのスポットを破棄してもよく、かつそれらの累積されたスポット重量を最小閾値を超えるスポット重量を既に有する1つの近くのスポットに割り当ててもよく、あるいは多くのそのようなスポットにわたって分布させてもよい。例えば、再分布を行って、全ての残りのスポットのスポット重量をさらに等しくしてもよい。あるいは、まず再分布されるスポット重量のより高い割合をより低いかより高いスポット重量を有するスポットに追加するように再分布を行ってもよい。スポット重量の再分布は、このスポット重量が再分布される残りのスポットの線量分布を考慮して行ってもよい。
【0036】
なお、一緒に検討される破棄されたスポットのグループは、1つのエネルギー層のみからのスポットまたは、異なるエネルギー層から破棄されたスポットが互いにある種の近接を有する場合には異なるエネルギー層からのスポットを含んでいてもよい。上述のようにこの近接は、場合により関係しているスポットのスポット重量に従って重み付けされた幾何学的距離または放射線学的距離に基づいていてもよい。また近接は、例えば関係しているスポットの線量分布に関する類似性尺度を考慮に入れるために一般化されていてもよい。
【0037】
図4は本発明に係る方法を行うことができるコンピュータシステムの概略図である。コンピュータ41はプロセッサ43、データメモリ44およびプログラムメモリ45を備える。好ましくは、1つ以上のユーザ入力手段47、48もキーボード、マウス、ジョイスティック、声認識手段または任意の他の入手可能なユーザ入力手段の形態で存在する。またユーザ入力手段は外部メモリユニットからデータを受信するように構成されていてもよい。
【0038】
データメモリ44は、予め計算された計画および臨床的目標などの本手順で使用されるデータを含む。プログラムメモリ45はコンピュータに図3との関連で考察した方法の工程を行わせるように構成されたコンピュータプログラムを保持する。
【0039】
当然のことながら、データメモリ44およびプログラムメモリ45は概略的に図示および考察されている。それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持するいくつかのデータメモリユニットが存在してもよく、あるいは好適に構造化された方法で全てのデータを保持する1つのデータメモリが存在してもよく、これはプログラムメモリを保持している。例えば、予め計算された計画、臨床的目標および1つにまとめられた計画のそれぞれのための別個のメモリまたはメモリセグメントが存在してもよい。1つ以上のメモリが他のコンピュータにも備えられていてもよい。
【0040】
先の考察では、低スポット重量を理由にスポットを破棄することができるが、スポットを最初に定められたスポットの集合に追加することができないものと仮定していた。しかし、1つ以上の新しいスポットを定め、かつ1つ以上の破棄されたスポットからのスポット重量をそのような新しいスポットに再分布させることも可能である。新しいスポットは好ましくは、破棄されたスポットの位置および重量とは無関係に多くの破棄されたスポットを置き換えるために選択する。例えば、好ましくはそれらのそれぞれのスポット重量に従って重み付けされた破棄されたスポットの位置間の幾何学的重心を新しいスポット位置として使用してもよい。また新しいスポット位置は、放射線学的深さ、CT幾何学的形状、スポットおよび総線量分布、スポット特性またはスポット間隔などのあらゆる計画パラメータを考慮して決定してもよい。また新しいスポット位置は、例えば高重量を有するスポットまでの距離を増加させることにより、破棄されていない1つ以上のスポットの位置を考慮に入れてもよい。全ての破棄されたスポットが同じエネルギー層内に位置している場合であっても、新しいスポット位置は必ずしもそのエネルギー層内に定められるものではなく、つまり異なるエネルギー層内に配置することがさらに可能であってもよい。故に、新しいスポットは最も近い既存のエネルギー層内に配置しても新しいエネルギー層内に配置してもよい。
図1
図2
図3
図4