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特許7262372NiCuZn系フェライトおよびNiCuZn系フェライト用造粒粉
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】NiCuZn系フェライトおよびNiCuZn系フェライト用造粒粉
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20230414BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20230414BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20230414BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230414BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230414BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C04B35/30
H01F1/34 140
H01F1/36
C01G53/00 A
C01G49/00 A
C04B35/626 950
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019207390
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2020083752
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018217683
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】菊地 孝宏
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-269017(JP,A)
【文献】特開平07-307212(JP,A)
【文献】特開2001-093718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01G 49/00-49/08
H01F 1/34-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本成分、副成分および不可避的不純物からなるNiCuZn系フェライトであって、
前記基本成分がFe酸化物、Zn酸化物、Ni酸化物およびCu酸化物からなり、
基本成分中の組成比で、
Fe酸化物:Fe換算で48.2~50.0mol%、
Zn酸化物:ZnO換算で23.0~34.0mol%、
Ni酸化物:NiO換算で11.0~22.0mol%、および
Cu酸化物:CuO換算で3.0~6.9mol%
であり、
前記副成分がLi酸化物からなり、
Li酸化物:LiO換算で、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して150~1250質量ppmであるNiCuZn系フェライト。
【請求項2】
前記不可避的不純物のPの含有量が前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して100質量ppm以下である請求項1に記載のNiCuZn系フェライト。
【請求項3】
基本成分、副成分および不可避的不純物からなるNiCuZn系フェライト用の造粒粉であって、
Fe化合物、Zn化合物、Ni化合物およびCu化合物を、
前記NiCuZn系フェライトの基本成分中組成比が、
Fe化合物:Fe換算で48.2~50.0mol%、
Zn化合物:ZnO換算で23.0~34.0mol%、
Ni化合物:NiO換算で11.0~22.0mol%、および
Cu化合物:CuO換算で3.0~6.9mol%
となる範囲でそれぞれ含有し、
Li化合物を、
Li化合物:LiO換算で、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して150~1250質量ppmとなる範囲で含有し、残部が不可避的不純物であるNiCuZn系フェライト用造粒粉。
【請求項4】
前記残部の不可避的不純物のPの含有量を、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して100質量ppm以下とする請求項3に記載のNiCuZn系フェライト用造粒粉。
【請求項5】
前記NiCuZn系フェライト用造粒粉が請求項1または2に記載のNiCuZn系フェライト用の造粒粉である、請求項3または4に記載のNiCuZn系フェライト用造粒粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初透磁率が高く、かつ初透磁率の温度に対する変化率が小さく、温度特性に優れたNiCuZn系フェライトおよびそれを得るのに好適なNiCuZn系フェライト用造粒粉に関する。特に、温度に対する初透磁率の変化が小さいことが求められる精密機器、車載用途、アンテナ等の分野に適するNiCuZn系フェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
NiCuZn系フェライトは、トランス、インダクターおよびノイズフィルターなどに多く使用されてきた。従来は、各種民生機器が主体であったが、近年は車載用途、アンテナ用途等電子部品としても多く使用されるようになってきている。
【0003】
従来のソフトフェライトは、初透磁率が温度に対する変化率が大きいという問題があった。上記のような電子部品は、様々な環境で使用されるが、温度の影響を受けやすいため、温度変化に対して初透磁率が安定した材料が求められる。特に、精密機器などの用途で、安定した特性を発揮するには、初透磁率の温度変化は小さい方が望ましい。
【0004】
これまでも、初透磁率の温度変化を小さくする方法が提案されている。
特許文献1では、Sn酸化物をSnO2に換算して1.5重量部~3.0重量部、Co酸化物をCo34に換算して0.02重量部~0.20重量部、Bi酸化物をBi23に換算して0.45重量部以下を含有させる方法が提案されている。しかし、初透磁率については、特許文献1の実施例によれば、いずれも130以下と低いものしか得られていない。
【0005】
特許文献2では、Fe23とZnOのモル比が0.54~0.67で、かつMoO3の含有率が0.14質量%以下の原料混合物を用いて、粉砕粉のD90を5μm以下となるように粉砕し、平均結晶粒径D50が5~15μmとなるように焼成する方法が提案されている。しかし、D90を5μm以下に粉砕したり、平均結晶粒径D50を5~15μmにしたり調整するのは容易ではない。
【0006】
特許文献3では、CoOとBi23を添加する方法が提案されているが、高周波での使用が前提である。
【0007】
また、特許文献4、特許文献5および特許文献6には、Li化合物のフェライトにおける温度依存性に関する記載があるが、いずれも初透磁率が低い組成のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-255637号公報
【文献】特開2006-206420号公報
【文献】特開平08-325056号公報
【文献】特開昭59-213627号公報
【文献】特開昭59-213628号公報
【文献】特開平01-198003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のNiCuZn系フェライトは、温度に対する初透磁率の変化が大きいという問題があった。また、従来、提案された初透磁率の温度に対する変化が小さいNiCuZn系フェライトは、室温における初透磁率が500よりも低いという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み開発されたもので、NiCuZn系フェライトにLiを含む化合物を添加することで、10kHz付近でμiが500以上、かつ温度に対する初透磁率の変化が小さいNiCuZn系フェライトを提供することを目的とする。さらに、それを得るのに好適なNiCuZn系フェライト用造粒粉を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するため、所定の組成に加え、かかる組成に適したLi量を添加することで、室温、10kHzにおける初透磁率が500以上で、かつ温度に対する初透磁率の変化が小さいNiCuZn系フェライトおよびそれを得るのに好適な造粒粉を得るものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.基本成分、副成分および不可避的不純物からなるNiCuZn系フェライトであって、
前記基本成分がFe酸化物、Zn酸化物、Ni酸化物およびCu酸化物からなり、
基本成分中の組成比で、
Fe酸化物:Fe23換算で48.2~50.0mol%、
Zn酸化物:ZnO換算で23.0~34.0mol%、
Ni酸化物:NiO換算で11.0~22.0mol%、および
Cu酸化物:CuO換算で3.0~7.0mol%
であり、
前記副成分がLi酸化物からなり、
Li酸化物:Li2O換算で、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して150~1250質量ppmであるNiCuZn系フェライト。
【0013】
2.前記不可避的不純物のPの含有量が前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して100質量ppm以下である前記1に記載のNiCuZn系フェライト。
【0014】
3.基本成分、副成分および不可避的不純物からなるNiCuZn系フェライト用の造粒粉であって、
Fe化合物、Zn化合物、Ni化合物およびCu化合物を、
前記NiCuZn系フェライトの基本成分中組成比が、
Fe化合物:Fe23換算で48.2~50.0mol%、
Zn化合物:ZnO換算で23.0~34.0mol%、
Ni化合物:NiO換算で11.0~22.0mol%、
Cu化合物:CuO換算で3.0~7.0mol%
となる範囲でそれぞれ含有し、
Li化合物を、
Li化合物:Li2O換算で、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して150~1250質量ppmとなる範囲で含有し、残部が不可避的不純物であるNiCuZn系フェライト用造粒粉。
【0015】
4.前記残部の不可避的不純物のPの含有量を、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して100質量ppm以下とする前記3に記載のNiCuZn系フェライト用造粒粉。
【0016】
5.前記NiCuZn系フェライト用造粒粉が前記1または2に記載のNiCuZn系フェライト用の造粒粉である、前記3または4に記載のNiCuZn系フェライト用造粒粉。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、室温、10kHzにおける初透磁率が500以上で、かつ温度変化に対する初透磁率の変化が小さいNiCuZn系フェライトが提供できる。また、それを得るのに好適な造粒粉を併せて提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】発明例3および比較例3の初透磁率の温度特性を示す図である。
図2】CuO(mol%)に対する飽和磁束密度Bm(mT)の変化を示す図である。
図3】CuO(mol%)に対する焼結密度の変化を示す図である。
図4】CuO(mol%)に対する初透磁率の変化を示す図である。
図5】CuO(mol%)に対する相対損失係数tanδ/μiの変化を示す図である。
図6】CuO(mol%)に対する初透磁率の相対温度係数αμirの変化を示す図である。
図7】CuO(mol%)に対するキュリー温度の変化を示す図である。
図8】CuO(mol%)に対する比抵抗の変化を示す図である。
図9】Li添加量(Li2O換算値)に対する初透磁率の相対温度係数αμirの変化を示す図である。
図10】Li添加量(Li2O換算値)に対する飽和磁束密度Bm(mT)の変化を示す図である。
図11】実施例4(発明例8~15)における初透磁率の温度変化を示す図である。
図12】実施例4(発明例8~15、比較例13~16)におけるフェライト粉中のP濃度(含有量)に対する初透磁率の相対温度係数αμirの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のNiCuZn系フェライトは、前述の通り、Fe、Zn、NiおよびCuの酸化物を基本成分とする。なお、以下のmol%は基本成分中の組成比である。
【0020】
本発明では、Fe酸化物をFe23換算で48.2~50.0mol%含有する。Fe23換算で48.2mol%未満では、室温の初透磁率が低下する。一方、Fe23換算で50.0mol%を超えると室温の初透磁率が低下すると共に、損失成分が増え、相対損失係数tanδ/μiが大きくなってしまうためである。好ましくは、Fe23換算で48.6~49.7mol%の範囲である。
【0021】
NiCuZn系フェライトにおいて、室温の初透磁率は、NiとZnの比率によって変えることができることが知られている。本発明では、Zn酸化物の含有量がZnO換算で23.0~34.0mol%、またNi酸化物の含有量がNiO換算で11.0~22.0mol%とする。Zn酸化物の含有量とNi酸化物の含有量をかかる範囲としたのは、Zn酸化物の含有量がZnO換算で34.0mol%よりも多いまたはNi酸化物の含有量がNiO換算で11.0mol%より少ないと、室温の初透磁率は高くなるもののキュリー温度が低くなり、実用的でなくなるためである。一方、ZnO酸化物の含有量がZnO換算で23.0mol%よりも少ない、またはNi酸化物の含有量がNiO換算で22.0mol%よりも多いと、室温の初透磁率が500よりも低くなって、Liを含有させても温度に対する初透磁率の変化に充分な改善効果が見られなくなるためである。好ましくは、Zn酸化物の含有量がZnO換算で24.5~32.5mol%、Ni酸化物の含有量がNiO換算で12.0~20.0mol%である。
【0022】
NiCuZnフェライト系において、Cu酸化物は焼結性を改善するのに有効な成分である。本発明では、Cu酸化物の含有量がCuO換算で3.0~7.0mol%含有するのが必須である。一般に、NiZnフェライトにCuOを添加する場合は、NiOの一部をCuOで置き換える形で使われることが多い。
ここで、CuOが3.0mol%より少ないと、キュリー温度は高くなるものの、焼結性が悪くなるため焼結密度が低下し、初透磁率が低下すると伴に相対損失係数が大きくなる。また、焼結密度が下がるので飽和磁束密度が低下する。一方、CuOが7.0mol%よりも多い場合は、焼結が進んで粒成長するため、比抵抗が低下する。非磁性のCuOが増えるので、初透磁率は低下し相対損失係数が大きくなる。また、飽和磁束密度が低下し、キュリー温度が低くなるので適当でない。
【0023】
なお、メカニズムについては明らかではないが、Cuを含むNiZnフェライトでLiを含む場合、初透磁率の温度に対する変化率は、CuOが3.0~7.0mol%の場合に小さく、3.0mol%よりも少ない場合および7.0mol%よりも多い場合に高くなる。よって、本発明を達成するためには、Liの存在と共に、CuOを3.0~7.0mol%含有していることが重要である。
また、好ましいCuO含有量は、CuO換算で4.0~6.5mol%である。
【0024】
さらに、本発明は、副成分として、NiCuZn系フェライトの総質量に対してLiをLi2O換算で150~1250ppm添加して含有させることを特徴とする。というのは、Liの添加量がLi2O換算で150ppmよりも少ないと、初透磁率の温度特性の改善効果が充分ではなく、1250ppmよりも多いと室温の初透磁率が低下すると共に、相対損失係数tanδ/μiの増大や、飽和磁束密度の低下が起きるためである。好ましくはLi2O換算で150ppm以上750ppm未満の範囲であり、より好ましくはLi2O換算で200ppm以上750ppm未満の範囲である。
【0025】
なお、本発明において、Liを含む化合物としては、Li2OやLi2CO3などを用いることができるが、添加するリチウム化合物としては、Li2CO3を用いるのが好ましい。Li2Oは二酸化炭素を吸収してLi2CO3に変化しやすい一方で、Li2CO3は化学的に安定しているからである。
【0026】
また、本発明のNiCuZn系フェライトの残部は不可避的不純物である。具体的には、P、Cl、B、Al、CrおよびSなどである。なお、不可避的不純物の合計量は200質量ppm以下とするのが好ましく、100質量ppm以下とするのがさらに好ましい。
【0027】
ここで、本発明の成分組成の場合、NiCuZn系フェライト中のPの含有量が多くなると、初透磁率の温度に対する変化率が大きくなり、本発明の目的である温度特性に優れたフェライトを得にくくなる。これは、Pが多く含まれると、フェライトの焼結工程において、LiがPと結合してリン酸リチウムLi3PO4を形成することで、結晶粒内に入らず粒界に押し出されるリチウムが増えてしまう結果、結晶粒内で磁気特性の改善に寄与するリチウムの量が減ってしまうためと考えられる。
なお、フェライトに含まれるPの含有量は100質量ppm以下が好ましく、より好ましくは70質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下である。また、より一層の磁気特性の改善を目標とする場合、Pの含有量は15質量ppm以下、さらには10質量ppm以下に抑制することが望ましい。一方、Pの含有量の下限に特に規定はなく、0質量ppmで良い。
【0028】
また、フェライトに含まれるPは、原料である酸化鉄に含まれていて、多くの場合、鉄鋼の製造工程において副生する酸化鉄を用いて、フェライトは生産されている。一般に、酸化鉄は、不純物を多く含む一般酸化鉄と、精製して不純物を減らした高純度酸化鉄に分けられる。一般酸化鉄に含まれるPは、100質量ppmを超えるものがあるのに対し、高純度酸化鉄に含まれるPはそれよりも少ない。
よって、本発明の温度特性に優れたフェライトを製造するためには、Pの含有量が少ない高純度酸化鉄の使用が望ましい。
【0029】
さらに、本発明では、前記NiCuZn系フェライトを得るのに好適な造粒粉を提供することができる。
本発明の造粒粉は、Fe化合物、Zn化合物、Ni化合物およびCu化合物、並びにLi化合物を含有する。さらに、残部は、造粒粉中に存在しているがNiCuZn系フェライトには含まれない揮発成分、およびNiCuZn系フェライトにも含まれる不可避的不純物である。
【0030】
上記造粒粉は、前記NiCuZn系フェライトの基本成分中の組成比で、Fe化合物をFe23換算で48.2~50.0mol%、Zn化合物をZnO換算で23.0~34.0mol%、Ni化合物をNiO換算で11.0~22.0mol%およびCu化合物をCuO換算で3.0~7.0mol%の範囲となるようにそれぞれ含有する。いずれも、本発明のNiCuZn系フェライトの効果を得るためである。
【0031】
また、本発明の造粒粉は、Li化合物を、Li2O換算で、前記NiCuZn系フェライトの総質量に対して150~1250質量ppmの範囲となるように含有することが肝要である。
【0032】
なお、造粒粉の残部は、造粒粉中に存在する揮発成分および不可避的不純物である。ここで、本発明における揮発成分とは、PVA(ポリビニルアルコール)や分散剤、消泡材などの造粒時に一般的に用いられる結着剤や添加剤であって、焼成時に蒸発や分解するものや造粒粉の焼成時に揮発するCO2成分等ガス成分であり、焼結後のNiCuZn系フェライトには不可避的不純物以内の程度しか残存しないものである。
【0033】
かかる揮発成分は、クレームに記載されないが、本発明の効果の発現には影響しないからである。また、上記造粒紛における不可避的不純物は、厳密には本発明のNiCuZn系フェライトにおける不可避的不純物と異なるが、NiCuZn系フェライトにおける不可避的不純物が上記Pにかかる規定を満足すれば本発明の効果の発現には影響しない。さらに、上記NiCuZn系フェライトにおける不可避的不純物は、上記造粒紛における不可避的不純物と、揮発成分由来および上記造粒紛をNiCuZn系フェライトに加工する工程内由来のものとからなるが、NiCuZn系フェライトの不可避的不純物におけるPは、基本的に造粒紛における不可避的不純物に含まれる。
【0034】
また、本発明の造粒粉は不可避的不純物のPを含有するが、かかるPの含有量は、好ましくは100質量ppm以下である。Pの含有量が100質量ppmを超えると、フェライトの焼結工程において、LiがPと結合してリン酸リチウムLi3PO4を形成することで、結晶粒内に入らず粒界に押し出されるリチウムが増えてしまう結果、結晶粒内で磁気特性の改善に寄与するリチウムの量が減ってしまうと考えられるからである。このため、初透磁率の温度に対する変化率が大きくなるので、より好ましいPの含有量は70質量ppm以下であり、さらに好ましくは30質量ppm以下である。なお、一層、初透磁率の温度に対する変化率を下げたい場合は、Pの含有量を、15質量ppm以下、さらには10質量ppm以下とすることが望ましい。一方、Pの含有量の下限に特に規定はなく、0質量ppmで良い。
さらに、前述の通り、本発明の造粒粉を製造するためには、Pの含有量が少ない高純度酸化鉄を用いることが望ましい。
【0035】
本発明のNiCuZn系フェライトおよび造粒粉の製造方法については、公知の一般的な製造方法を用いることができる。一般的な製造方法とは、例えば、次の通りである。
まず、基本成分となるFe、Ni、ZnおよびCuの化合物を所定量秤量し、アトライターやボールミルを用い混合して混合粉を得る。その際の混合方法は、乾式法または湿式法のいずれでも構わない。ついで、上記混合粉を800~1000℃の範囲の温度で仮焼して仮焼粉を得る。さらに、得られた仮焼粉を、アトライターやボールミルを用いて粉砕を行い、粉砕後の粒径が0.8~1.6μm程度になるまで粉砕して粉砕粉とするが、その粉砕の工程中に、副成分となるLiを含む化合物を添加する。Liを含む化合物としては、前述したようにLi2Oや、Li2CO3などを用いることができる。
【0036】
このようにして得られた粉砕粉に、PVAなどの結着剤を添加し、スプレードライヤーなどを用いて造粒することで本発明に従う造粒粉を得る。
その後、上記造粒粉を所定の形状の金型に充填して、プレス成型を行い、成形体を得る。かくして得られた成形体を1000~1250℃の範囲の温度で1~5時間程度焼成することにより、本発明に従うNiCuZn系フェライトコアが得られる。
なお、本発明で用いられる成形方法については、プレス成形に限定されるものではなく、射出成形法、フェライトペースト印刷法、グリーンシート法など、公知の成形技術であればいずれも好適に適用することができる。
【実施例1】
【0037】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
・試料作製手順
まず、基本成分となるFe23、ZnO、NiOおよびCuOを表1に示す組成比になるように秤量し、ボールミルで30分間乾式混合した後、大気中900℃で仮焼した。次いで、得られた仮焼粉にLiを含む化合物を添加し、アトライターを用いて湿式で2時間粉砕してスラリーとした。用いたLi化合物の種類と添加量は表1の通りである。
続いて、得られたスラリーにバインダーとしてPVAを添加して、スプレードライヤーにより乾燥、造粒を行い、NiCuZn系フェライトの原料となる造粒粉を得た。さらに、かかる造粒粉をリング形状に成形した後、電気炉を用いて、大気中1100℃にて2時間焼成し、リング状の焼結コア(寸法:外径31mm、内径19mm、高さ6mm)を得た。得られた焼結コアを用いて、以下の通りに、電磁気特性をそれぞれ測定した。
【0038】
・初透磁率μi、相対損失係数tanδ/μiの測定
得られた焼結コアに、銅線を10ターン巻き、プレシジョンLCR メータ(Keysight Technologies社製4980A)を用いて室温、10kHzの条件で測定した。
【0039】
・キュリー温度Tcの測定
恒温槽を使用して焼結コアの温度を変えながら初透磁率μiを測定し、磁性がなくなる温度をキュリー温度Tcとして求めた。
【0040】
・初透磁率の相対温度係数αμirの測定
初透磁率の温度特性の比較には、10kHzにおける初透磁率の相対温度係数を用いた。初透磁率の相対温度係数αμirは、以下のような計算式を用いて求めることができる。
αμir =[(μi2 -μi1)/μi2]/(T2-T1)
T1およびT2:測定温度
μi1:温度T1における初透磁率
μi2:温度T2における初透磁率
【0041】
本実施例では、T1=20℃、T2=60℃とし、20℃から60℃の範囲における相対温度係数αμirを求めた。なお、20℃と60℃における初透磁率μiは、恒温槽を使用して温度を20℃および60℃に調整し、上記したμiの測定に準拠した方法により測定した。
なお、αμirがマイナスを示す場合があるが、これはμi1>μi2の場合に起こる。このような場合、温度変化の大きさを比べるには絶対値で比較すればよい。
【0042】
・Pの分析法
上記フェライト造粒粉を400℃で1時間熱処理して、PVAを分解し揮発させた後、蛍光X線分析装置を用いて分析を行った。
【0043】
表1に、Li化合物を添加した本発明に従う実施例(発明例)とLi化合物を添加していない比較例の、基本成分および副成分の添加条件並びに各種特性値をそれぞれ示す。
【0044】
【表1】
【0045】
発明例1~7と比較例1~7の比較から、本発明に従い、所定の基本成分にLi化合物を添加することで初透磁率の温度特性(相対温度係数:αμir)が小さくなることがわかる。
また、ZnOが23.0mol%より小さくかつNiOが22.0mol%より大きい場合(比較例8、9)にはμiが500未満であり、相対温度係数の改善効果が小さくなっている。
Fe23が50.0mol%を超える場合(比較例10)には、発明例1より、μiが低下し、相対損失係数tanδ/μiが著しく大きくなることがわかる。
Fe23が48.2mol%未満の場合(比較例11)も、発明例1より、μiが低下し、相対損失係数が大きくなることがわかる。
なお、フェライト分野では、通常、初透磁率μiのレベル(例:μi=400、800、1100、1700など)が異なる複数の材質を品揃えしている。これは、組成(例えば、CuOの含有量)を変える事で、特性の異なる材質を品揃えしている。よって、比較例10,11の組成は実施例1とほぼ同じ組成なので、これらの間で特性を比較する必要がある。
ZnOが24.0mol%より大きくかつNiOが11.0mol%より少ない場合(比較例12)には、キュリー温度Tcが低く、実用的ではないことがわかる。
【0046】
ここで、図1に、発明例3および比較例3の初透磁率の温度特性を示す。同図に示したように、発明例3では-20~140℃まで初透磁率はほぼ一定であるが、比較例3では-20~140℃までの間に約1400も初透磁率が変化する。
【実施例2】
【0047】
CuOの含有量をXmol%としたとき、基本成分となるFe23、ZnO、NiOおよびCuOを、Fe23を49.2mol%、ZnOを26.9mol%、NiOを(23.9-X)mol%、CuOをXmol%(X=2.0~8.0)含有し、さらに添加物としてLi2OをNiCuZn系フェライトの総質量に対して360ppmになるように含有したNiCuZn系フェライト用造粒粉を、実施例1に記載の手順で作製した(ただし、Fe23、ZnO、NiOおよびCuOの合計は100.0mol%となるように調整している)。また、比較例として、同じ組成で、Liを含まないNiCuZnフェライト用造粒粉を、同様な手順で作成した。さらに、かかる手順で得られた造粒粉を用いて焼結コアを作製し、以下の方法で飽和磁束密度等の物性値を求めた。
【0048】
・飽和磁束密度の測定
焼結コアに、銅線を一次側に80ターン、二次側に20ターン巻き、直流磁化特性試験装置(メトロン技研社製 SK110)を用いて、磁場±2400A/mを印加して飽和磁束密度Bmを求めた。
【0049】
・焼結密度
アルキメデス法に従って求めた。
【0050】
・初透磁率、相対損失係数tanδ/μi、初透磁率の相対温度係数αμir
実施例1と同様の方法で求めた。
【0051】
・キュリー温度Tc
より精密にキュリー温度を求めるため、室温(23℃)、50℃、80℃、100℃、120℃の各温度で飽和磁束密度Bmを求め、温度と飽和磁束密度の2乗(Bm 2)の関係からキュリー温度を求めた。
【0052】
・比抵抗
Advantest製の超高抵抗計R8340Aを用いて焼結コアの抵抗を測定し、コアの寸法を用いて比抵抗に換算した。
【0053】
図2に、CuO(mol%)の含有量に対する飽和磁束密度Bm(mT)の変化を示す。同図に示したように、CuOが3.0mol%より少ない場合、CuOが7.0mol%よりも多い場合には、飽和磁束密度が低下する事から、CuOは3.0~7.0mol%の範囲がCuO含有量の適正範囲であることがわかる。CuO含有量が低い場合は、発明例(Liを含有)と比較例(Li無添加)の飽和磁束密度の差異は小さいが、CuO含有量が多くなると、かかる飽和磁束密度の差異は大きくなる。CuO含有量が多いと、Liの添加効果をより強く受けて、特性が変わるためである。
【0054】
図3に、CuO(mol%)の含有量に対する焼結密度の変化を示す。同図に示したように、CuOが3.0mol%より少ない場合は焼結密度が低く、CuOが2.0mol%では焼結密度が5.2g/cm3を下回っている。よって、焼結密度の観点からは、CuO:3.0mol%以上が適正範囲と言える。なお、CuO含有量が少ない場合は、発明例(Liを含有)と比較例(Li無添加)で焼結密度の差異はほとんど見られないが、CuO含有量が多くなると、比較例に比べて発明例の焼結密度が少し高くなる。これは、CuO含有量が多いと、Liの添加効果をより強く受けて、特性が変わるからと考えられる。
【0055】
図4に、CuO(mol%)の含有量に対する初透磁率の変化を示す。CuOが3.0mol%より少ない場合、CuOが7.0mol%よりも多い場合には、初透磁率が低下することから、CuOは3.0~7.0mol%の範囲がCuO含有量の適正範囲であることがわかる。
【0056】
図5に、CuO(mol%)の含有量に対する相対損失係数tanδ/μiの変化を示す。CuOが3.0mol%より少ない場合、CuOが7.0mol%よりも多い場合には、tanδ/μiが増大することから、CuOは3.0~7.0mol%の範囲がCuO含有量の適正範囲であることがわかる。なお、CuO含有量が多いと、Liの添加効果をより強く受けて、tanδ/μiの差異が大きくなるものと考えられる。
【0057】
図6に、CuO(mol%)の含有量に対する初透磁率の相対温度係数αμirの変化を示す。CuOが3.0mol%より少ない場合、CuOが7.0mol%よりも多い場合には、αμirが増大することから、CuOは3.0~7.0mol%の範囲がCuO含有量の適正範囲であることがわかる。なお、CuO含有量が少ない場合(2.0mol%の場合)は、発明例(Liを含有)と比較例(Li無添加)のαμirの差異は小さいが、CuO含有量が多くなるにつれ、発明例と比較例のαμirの差異が大きくなっている。これは、CuO含有量が多いほどLiの添加効果をより強く受けて、αμirが改善するからと考えられる。
【0058】
図7に、CuO(mol%)の含有量に対するキュリー温度の変化を示す。CuO含有量の増加に伴いキュリー温度は低下する。キュリー温度の観点から、CuO含有量が高すぎるのは好ましくないことがわかる。なお、CuO含有量が少ない場合(2.0mol%の場合)は、発明例(Liを含有)と比較例(Li無添加)のキュリー温度の差異は小さいが、CuO含有量が多くなるにつれ、発明例と比較例のキュリー温度の差異が大きくなっている。これは、キュリー温度の場合も、CuO含有量が多いほどLiの添加効果をより強く受けて、発明例と比較例に差異が生じているからと考えられる。
【0059】
図8に、CuO(mol%)の含有量に対する比抵抗の変化を示す。NiZnCuフェライトは、比抵抗が高いことが重要で、比抵抗が低い場合にはフェライトコアに銅線を直巻きできなくなるので、比抵抗は高いことが望ましい。
CuOが3.0mol%より少ない場合、CuOが7.0mol%よりも多い場合には、比抵抗が低くなる。CuOは3.0~7.0mol%の範囲が適正範囲であると言える。CuO含有量が少ない場合(2.0mol%の場合)は、発明例(Liを含有)と比較例(Li無添加)の比抵抗度の差異は小さいが、CuO含有量が多くなると、発明例と比較例の差異が大きくなっている。比抵抗についても、CuO含有量が多いほどLiの添加効果をより強く受けて、実施例と比較例に差異が生じていることが考えられる。
【0060】
以上の結果から、CuO(mol%)の含有量は、3.0~7.0mol%の範囲が適正であることがわかる。また、CuO含有量が高いほど、Liの添加効果がより強く発現されることから、CuOとLiは相乗的に作用していることがわかる。
【実施例3】
【0061】
基本成分となるFe23、ZnO、NiOおよびCuOについて、Fe23を49.4mol%、ZnOを32.2mol%、NiOを12.2mol%およびCuOを6.2mol%含有し、さらに添加物としてLi2CO3(Li2O換算:0~2827質量ppm)を添加し、実施例1に記載の手順で得たNiCuZn系フェライト造粒粉を用いて、フェライト焼結コアを作製した。かかる焼結コアを用いて、実施例2に記載の方法で飽和磁束密度を求めた。
【0062】
図9に、Li添加量(Li2O換算値)(質量ppm)に対する初透磁率の相対温度係数αμirの変化を示す。また、図10に、Li添加量(Li2O換算値)(質量ppm)に対する飽和磁束密度Bmの変化を示す。
【0063】
図9から、Li添加量(Li2O換算値)が150質量ppmより少ないと、相対温度係数αμirは充分に小さく(3.27×10-6/℃以下 at 10kHz)ならないことがわかる。また、図10から、Li添加量(Li2O換算値)が1250質量ppmよりも大きいと、飽和磁化が低下する(290mT以下になる)ことがわかる。これらの結果から、Li添加量(Li2O換算値)は、150~1250質量ppmの範囲が適正範囲であることがわかる。
なお、前記したように特性の比較は組成がほぼ同等のものの間で行う必要がある。
【実施例4】
【0064】
Pを2.0ppm含有するJFEケミカル製の高純度酸化鉄JC-CPWと、Pを210ppm含有する一般酸化鉄JC-DCを表2の条件で混合してP濃度が異なる酸化鉄を作製した。これらの酸化鉄を用いて、基本成分となるFe23、ZnO、NiOおよびCuOについて、Fe23を49.3mol%、ZnOを30.2mol%、NiOを14.4mol%、CuOを6.1mol%含有し、さらに添加物としてLi2CO3をフェライト粉の総質量に対して900質量ppm(Li2O換算:364ppm)を添加し、実施例1に記載の手順でNiCuZnフェライト粉を得た。これらのフェライト造粒粉を用いて、フェライト焼結コア(発明例8~15)を得た。さらに、P濃度がそれぞれ43質量ppmおよび139質量ppmの酸化鉄を用いて、Li2CO3無添加のフェライト粉、及び添加物としてLi2CO3を3700質量ppm(Li2O換算:1494質量ppm)添加したフェライト粉を作り、同様にフェライト焼結コア(比較例13~16)を得た。得られたフェライト焼結コアは、実施例1に記載の方法で、初透磁率や飽和磁化などを求めた。
【0065】
【表2】
【0066】
図11に、フェライト粉に含まれるP濃度を変え、Li2CO3をフェライト粉の総質量に対して900質量ppm(Li2O換算:364質量ppm)を添加した場合の初透磁率の温度特性を示す。
この結果から、同じLi2CO3添加量であっても、P含有量の増加に伴い、20~60℃における初透磁率の温度特性の傾きが大きくなることがわかる。また、フェライト粉に含まれるP濃度が100質量ppm以下であれば、比較的平坦な温度特性が得られることがわかる。
【0067】
図12に、フェライト粉に含まれるP濃度とαμirの関係を示す。フェライト粉に含まれるP濃度の増加に伴ってαμirも大きくなる。フェライト粉に含まれるP濃度が100質量ppm以下であり、Li2Oの含有量が150~1250質量ppmを満たす場合はαμirの低減効果が見られる。なお、比較例16はαμirの値は小さいが、Bmが低下(発明例15が370mTに対し、比較例16は330mT)するので不適当と考えられる例である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明により、精密機器や、車載用途、アンテナ等、初透磁率の変化が小さいことが求められる用途において、その要望に応えることができるフェライトを、その製造に適した中間生成物である造粒粉と共に提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12