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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】電極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20230414BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230414BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230414BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20230414BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230414BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20230414BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20230414BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20230414BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/66 A
H01M4/13
H01G11/24
H01G11/26
H01G11/28
H01G11/68
H01G11/70
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019545195
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036559
(87)【国際公開番号】W WO2019066066
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017191551
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】辻田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】大杉 勇太
(72)【発明者】
【氏名】田邊 森人
(72)【発明者】
【氏名】向井 寛
(72)【発明者】
【氏名】亘 幸洋
(72)【発明者】
【氏名】田渕 徹
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/005301(WO,A1)
【文献】特開2010-157512(JP,A)
【文献】特開2012-134149(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057031(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/073012(WO,A1)
【文献】特開2004-288520(JP,A)
【文献】特開2010-225544(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063875(WO,A1)
【文献】特開2017-130283(JP,A)
【文献】特開2013-73830(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053087(WO,A1)
【文献】特開2000-164206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02
H01M 4/66
H01M 4/13
H01G 11/24
H01G 11/26
H01G 11/28
H01G 11/68
H01G 11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、
上記中間層が、導電剤、無機酸化物及びバインダーを含み、
上記中間層における上記無機酸化物の含有量が、30質量%以上90質量%以下であり、
上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記無機酸化物の含有量が、質量比で6倍以上である蓄電素子用の電極。
【請求項2】
上記中間層における上記無機酸化物の含有量が、60質量%以上85質量%以下である請求項1の電極。
【請求項3】
上記中間層における上記バインダーの含有量が、5質量%以上である請求項1又は請求項2の電極。
【請求項4】
上記中間層における上記導電剤の含有量が、2質量%以上15質量%以下である請求項1、請求項2又は請求項3の電極。
【請求項5】
上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記無機酸化物の含有量が、質量比で20倍以下である請求項1から請求項4のいずれか1項の電極。
【請求項6】
上記バインダーが、フッ素樹脂を含む請求項1から請求項5のいずれか1項の電極。
【請求項7】
上記中間層が、さらに熱により架橋反応が生じる化合物を含む請求項1から請求項6のいずれか1項の電極。
【請求項8】
正極である請求項1から請求項7のいずれか1項の電極。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項の電極を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などに多用されている。このような二次電池やキャパシタ等の蓄電素子には、通常予見されない使用などにより発熱、発火等の異常が生じる場合がある。例えば、落下等の衝撃や、製造時に混入した異物などを原因として電極間で短絡が生じ、その結果、過剰に発熱が起きることがある。
【0003】
従来技術においては、過充電状態となって電池温度が急激に上昇しても、確実に充電電流を遮断して電池の安全性を確保する技術として、正極集電体上に形成された導電層が過充電状態での高電位で分解する物質(炭酸リチウム)を備え、過充電により高電位(例えば4.5~5.5V)となった場合には、高電位で分解する物質が分解されてガスを発生し、電池の内部抵抗が上昇して充電電流を遮断することができるリチウムイオン二次電池が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-77061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような導電層が高抵抗となるためには、電池が過充電状態の高電圧である必要があり、過充電状態でない場合の短絡時における発熱抑制効果は十分ではない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、電極間における短絡発生時に短絡電流の増大を抑制することにより安全性が高い電極及びこの電極を備える蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、上記中間層が、導電剤、無機酸化物及びバインダーを含み、上記中間層における上記無機酸化物の含有量が、30質量%以上90質量%以下である蓄電素子用の電極である。
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様は、当該電極を備える蓄電素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極間における短絡発生時に短絡電流の増大を抑制することにより安全性が高い電極及びこの電極を備える蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3】実施例の加熱に伴う抵抗の変化を示すグラフである。
図4】実施例の加熱に伴う抵抗の変化を示すグラフである。
図5】実施例の加熱試験結果を示すグラフである。
図6】実施例の釘刺し試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る電極は、導電性の基材、中間層及び活物質層をこの順に備え、上記中間層が、導電剤、無機酸化物及びバインダーを含み、上記中間層における上記無機酸化物の含有量が、30質量%以上90質量%以下である蓄電素子用の電極である。
【0012】
当該電極によれば、電極間における短絡発生時に短絡電流の増大を抑制することにより高い安全性を備えることができる。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、次のように考えられる。無機酸化物は、化合物の種類により、高温下における優れた安定性、温度が高くなると電気抵抗値が正の数の係数だけ変化するPTC(Positive Temperature Coefficient)特性等を有し、短絡等による過剰な発熱時において絶縁材としての良好な機能を発揮する。このため中間層中の導電剤同士や、基材と活物質層との間の電子伝導経路が分断されるため、短絡発生時に短絡電流の増大を抑制できる。このように、当該電極においては、短絡等による過剰な発熱に伴って、電流のシャットダウン機能が働き、短絡電流の増大を抑制することができるため、高い安全性を備えることができる。特に、上記中間層における上記無機酸化物の含有量が、30質量%以上90質量%以下であることで、通常時には良好な導電性を確保しつつ、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。
【0013】
上記中間層における上記無機酸化物の含有量としては、85質量%以下が好ましい。上記中間層における無機酸化物の含有量を上記上限以下とすることで、通常使用時に良好な導電性と、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果とをバランス良く発現することができる。
【0014】
上記中間層における上記バインダーの含有量としては、5質量%以上が好ましい。上記中間層における上記バインダーの含有量を上記下限以上とすることで、十分な結着性を有する。
【0015】
上記中間層における上記導電剤の含有量としては、2質量%以上15質量%以下が好ましい。上記導電剤の含有量を上記範囲とすることで、通常時には良好な導電性を確保しつつ、過剰な発熱時に導電剤間の電子伝導経路が十分に分断され、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。上記導電剤の含有量の上限が上記範囲であることで、短絡電流の大きさが抑制されるので、より安全性を向上できる。
【0016】
上記中間層における上記導電剤の含有量に対する上記無機酸化物の含有量としては、質量比で3倍以上20倍以下が好ましい。無機酸化物の含有量を上記範囲とすることで、通常時には良好な導電性を確保しつつ、過剰な発熱時に導電剤間の電子伝導経路が十分に分断され、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。
【0017】
上記バインダーが、フッ素樹脂を含むことが好ましい。上記バインダーが、フッ素樹脂を含むことで、分子間力が小さく、表面エネルギーが低いフッ素を含有するフッ素樹脂は発熱に伴って膨潤し、バインダーとして適度な結着性を有する。その結果、フッ素樹脂を用いることで、発熱時の無機酸化物の絶縁作用により導電剤間や基材と活物質層との間が比較的容易に分断され、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。
【0018】
上記中間層が、さらに熱により架橋反応が生じる化合物を含むことが好ましい。上記中間層が、熱により架橋反応が生じる化合物を含むことで、過剰な発熱時に架橋性化合物の架橋反応に伴って導電剤間や基材と活物質層との間が比較的容易に分断され、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。
【0019】
当該電極は、正極であることが好ましい。正極活物質層よりも導電性が高い活物質層を備え、基材も導電性の良い銅箔を使用する負極に中間層を設けるよりも、負極より導電性が低い正極に中間層を設けるほうが、電極間における短絡発生時において、導電性に対するより高い遮断効果を得ることができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、当該電極を備える蓄電素子である。当該蓄電素子は、当該電極を備えるため、電極間における短絡発生時に短絡電流の増大を抑制することにより安全性を高めることができる。
【0021】
以下、本発明の電極の一実施形態としての正極、及び本発明の蓄電素子の一実施形態としての非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」と称することもある)について詳説する。
【0022】
<正極(電極)>
本発明の一実施形態に係る正極は、正極基材と中間層と正極活物質層とをこの順に備える。正極基材は、基材の一例であり、正極活物質層は、活物質層の一例である。中間層及び正極活物質層は、正極基材の一方の面側にのみ積層されていてもよいし、両面に積層されていてもよい。本実施形態においては、当該正極は、蓄電素子の正極として用いられる。当該電極が正極である場合、中間層を設けることで起こりうる通常時の導電性の低下による影響が生じ難い。このため、通常時には良好な導電性を確保しつつ、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。
【0023】
[正極基材]
正極基材は、導電性を有する基材である。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0024】
[中間層]
中間層は、正極基材及び正極活物質層の間に配置され、正極基材の表面の少なくとも一部を被覆している。中間層は、導電剤、無機酸化物、及びバインダーを含む。一般的に、中間層は正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する機能を有する層である。この中間層においては、上記機能に加えて、過剰な発熱時に電流を遮断する機能を有する。
【0025】
(導電剤)
中間層に含有される導電剤としては、導電性を有する限り、特に限定されない。導電剤としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然又は人造の黒鉛、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤としては、これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。導電剤の形状は、通常、粒子状である。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味する。
【0026】
導電剤の一次粒子径としては、例えば20nm以上1μm以下であることが好ましい。このような粒子径の導電剤を用いることで、無機酸化物の絶縁作用によって導電剤間の電子伝導経路の分断が生じやすく、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果をより高めることができる。粒子径は、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。
【0027】
中間層における導電剤の含有量の下限としては、例えば1質量%であってもよいが、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。中間層における導電剤の含有量が上記下限以上であることにより、通常使用時に良好な導電性を発現することができる。中間層における導電剤の含有量の上限としては、例えば20質量%であってもよいが、15質量%が好ましく、13質量%がより好ましい。中間層における導電剤の含有量の上限が上記範囲であることで、無機酸化物の絶縁作用に伴い導電剤間の電子伝導経路が効果的に分断され、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果をより高めることができる。中間層における導電剤の含有量が15質量%以下であることで、短絡電流の大きさが抑制されるので、より安全性を向上できる。
【0028】
(無機酸化物)
無機酸化物は、酸化マグネシウムのような金属酸化物、チタン酸塩のようなチタン酸化合物を構成要素とする無機化合物を含む。無機酸化物は、通常、絶縁性である。
【0029】
無機酸化物としては、例えば金属酸化物、チタン酸化合物等が挙げられる。金属酸化物は、高温下で安定であることから、短絡等による過剰な発熱時において中間層のバインダーが溶解した場合においても絶縁層として機能することができる。チタン酸化合物は、温度が高温になると抵抗も増加することから、短絡等による過剰な発熱時において、より良好な絶縁作用を発揮する。従って、中間層が無機酸化物を含有することにより、電流のシャットダウン機能が働き、短絡電流の増大を抑制することができるため、高い安全性を備えることができる。無機酸化物は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
金属酸化物としては、例えばアルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、アルミノシリケート等が挙げられる。これらの中では、アルミナが好ましい。
【0031】
チタン酸化合物としては、例えばチタン酸アルカリ土類金属化合物、チタン酸希土類金属化合物等が挙げられる。チタン酸アルカリ土類金属化合物としては、例えばチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム等が挙げられる。チタン酸希土類金属化合物としては、例えばチタン酸イットリウム、チタン酸ネオジム、チタン酸サマリウム、チタン酸ジスプロシウム、チタン酸ランタン等が挙げられる。これらの中では、誘電率が高い観点から、チタン酸バリウムが好ましい。
【0032】
無機酸化物の粒子径は、導電剤の粒子径より大きいことが好ましい。このような粒子径の無機酸化物を用いることで、無機酸化物が導電剤よりも高さがある状態で存在する。そのため、導電剤を介して正極基材と正極活物質層とが接触することを阻止することができ、短絡電流の増大の抑制効果を向上できる。無機酸化物の粒子径としては例えば50nm以上10μm以下であることが好ましい。無機酸化物の粒子径が上記範囲であることで、中間層の平坦性を良好に保つことができる。粒子径は、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。
【0033】
無機酸化物のBET比表面積としては、例えば4m/g以上100m/g以下であることが好ましく、10m/g以上80m/g以下がより好ましい。BET比表面積がこのような範囲であることで、無機酸化物のアンカー効果を増すことができ、短絡電流増大の抑制効果を向上できる。
【0034】
中間層における導電剤の含有量に対する無機酸化物の含有量の下限は、質量比で3倍が好ましく、4倍がより好ましく、6倍がさらにより好ましい。導電剤に対する無機酸化物の含有量を上記下限以上とすることで、上記分断が生じるために十分な量の無機酸化物による絶縁作用が導電剤に対して得られることから、短絡電流の増大に対する抑制効果を高めることができる。中間層における導電剤の含有量に対する無機酸化物の含有量の上限は、質量比で20倍が好ましく、16倍がより好ましく、12倍がさらに好ましい。導電剤に対する無機酸化物の含有量を上記上限以下とすることで、中間層中に十分な量の導電剤を存在させることができ、通常時における良好な導電性を確保することができる。
【0035】
中間層における無機酸化物の含有量の下限としては、30質量%であり、50質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。中間層における無機酸化物の含有量が上記下限以上であることにより、上記分断が生じるために十分な量の無機酸化物による絶縁作用が導電剤に対して得られることから、導電剤同士あるいは正極基材と正極活物質層との間の電子伝導経路が効果的に分断され、より優れたシャットダウン機能を発現させることができる。中間層における無機酸化物の含有量の上限としては、90質量%であり、85質量%が好ましく、82質量%がより好ましい。中間層における無機酸化物の含有量を上記上限以下とすることで、通常使用時に良好な導電性と、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果とをバランス良く発現することができる。
【0036】
(バインダー)
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。これらの中でも、フッ素樹脂が好ましく、PVDFがより好ましい。分子間力が小さく、表面エネルギーが低いフッ素を含有するフッ素樹脂は発熱に伴って膨潤し、バインダーとして適度な結着性を有する。その結果、フッ素樹脂を用いることで、発熱時の無機酸化物の絶縁作用により導電剤間や基材と活物質層との間が比較的容易に分断され、シャットダウン機能をより効果的に発現できる。
【0037】
中間層におけるバインダーの含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。この含有量の上限としては、30質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。中間層におけるバインダーの含有量を上記範囲とすることで、十分な結着性と、過剰な発熱時の導電剤同士あるいは正極基材と正極活物質層との間の電子伝導経路の分断性とをバランス良く発現することができる。
【0038】
(他の成分)
中間層には、短絡電流の増大の抑制効果を向上する観点から、導電剤、無機酸化物及びバインダー以外の他の成分がさらに含有されていてもよい。上記他の成分としては、例えば熱により架橋反応が生じる化合物等が挙げられる。
【0039】
熱により架橋反応が生じる化合物(以下、熱架橋性化合物ともいう。)としては、例えばエポキシ化合物(ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等)、多官能(メタ)アクリレート(トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等)、ポリオキシアルキレン化合物(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、イソシアネート化合物(2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート等)等を挙げることができる。熱架橋性化合物としては、後述する熱硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂のモノマーも挙げられる。熱架橋性化合物は、熱重合開始剤と併用して用いることができる。
【0040】
上記熱架橋性化合物としては、複数の分岐構造を有する重合体であることが好ましい。架橋性化合物が、単量体である場合、比較的低温で架橋反応が生じる場合があり、架橋反応の制御が難しくなるおそれがある。これに対し、重合体である架橋性化合物の場合、異常時の発熱に対応した温度(例えば、100℃超や150℃超)で架橋反応を開始及び進行させることができる。このため、重合体である架橋性化合物を用いることで、通常使用時においては架橋反応が進行することなく良好な充放電を行うことができ、異常時においてシャットダウン機能をより効果的に発現させることができる。架橋性化合物が、複数の分岐構造を有する重合体であることにより、末端に存在する多数の反応性基によって効率的に架橋反応が生じると共に、架橋により密な三次元架橋構造が形成され、効果的に電気抵抗を上昇させることができる。
【0041】
上記熱架橋性化合物としては、オリゴマーであることがより好ましい。具体的に、架橋性化合物の数平均分子量の下限としては200が好ましく、上限としては3,000が好ましい。架橋性化合物の数平均分子量を上記下限以上とすることで、異常時の発熱に対応した温度での架橋反応をより適切に生じさせることができる。架橋性化合物の数平均分子量を上記上限以下とすることで、架橋反応に伴ってより効果的に絶縁性を高めることができる。
【0042】
複数の分岐構造を有する重合体である熱架橋性化合物としては、いわゆる熱硬化性樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂、アリル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、フラン樹脂、全芳香族ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ビスマレイミドとバルビツール酸類との反応生成物等を挙げることができる。
【0043】
これらの中でも、ビスマレイミドとバルビツール酸類との反応生成物、すなわちビスマレイミドとバルビツール酸類とを反応物として得られる化合物が好ましい。この化合物は、多数の分岐を有し、ビスマレイミドに由来するビニレン基(-CH=CH-)及びバルビツール酸類に由来するアミノ基を末端の反応性基として有する構造を有する。これらの基は、100℃超で、良好には150℃程度で架橋反応が進行する。従って、この化合物を用いることで、発熱等の異常時に、効果的に架橋反応が進行し、絶縁性を高めることができる。
【0044】
ビスマレイミドとしては、N,N’-ビスマレイミド-4,4’-ジフェニルメタン、1,1’-(メチレンジ-4,1-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-(1,1’-ビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビスマレイミド、1,1’-(3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-エチレンジマレイミド、N,N’-(1,2-フェニレン)ジマレイミド、N,N’-(1,3-フェニレン)ジマレイミド、N,N’-チオジマレイミド、N,N’-ジチオジマレイミド、N,N’-ケトンジマレイミド、N,N’-メチレン-ビス-マレインイミド、ビス-マレインイミドメチル-エーテル、1,2-ビス-(マレイミド)-1,2-エタンジオール、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテル-ビス-マレイミド、4,4’-ビス(マレイミド)-ジフェニルスルホン等を挙げることができる。
【0045】
バルビツール酸類とは、バルビツール酸及びその誘導体をいう。バルビツール酸類は、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤、連鎖停止剤、ラジカル捕捉剤等として機能するものである。このような機能を有するバルビツール酸類をビスマレイミドと反応させることで、複雑な多分岐構造を有するオリゴマー又はポリマーが形成される。
【0046】
上記熱架橋性化合物は、ビニル基(CH=CH-)又はビニレン基(-CH=CH-)と、アミノ基とを有することが好ましい。ビニル基及びビニレン基のうちでは、ビニレン基が好ましい。上記アミノ基は、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基のいずれでもよいが、これらの中では第2級アミノ基(-NH-)が好ましい。ビニル基又はビニレン基とアミノ基とは、上述のように、通常、二次電池の異常時の発熱に対応した温度(例えば、100℃超)で架橋反応が生じるため、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果をより高めることができる。ビニル基又はビニレン基とアミノ基とを有する架橋性化合物としては、上述したビスマレイミドとバルビツール酸類とを原料(反応物)とする樹脂の他、ポリアミノビスマレイミド樹脂などを挙げることができる。
【0047】
中間層における熱架橋性化合物の含有量の下限としては特に限定されず、例えば5質量%であってもよいが、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、25質量%がさらに好ましい。上記含有量の上限としては特に限定されず、例えば80質量%であってもよいが、50質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。架橋性化合物の含有量が上記下限以上であることにより、過剰な発熱時における短絡電流の増大に対する抑制効果をより高めることができる。架橋性化合物の含有量が上記上限以下であることにより、通常使用時に良好な導電性を発現することができる。
【0048】
中間層の平均厚みとしては、特に限定されないが、下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、2μmがさらに好ましい。この平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、6μmがより好ましい。中間層の平均厚みを上記下限以上とすることで、シャットダウン機能をより高めることができる。中間層の平均厚みを上記上限以下とすることで、正極の薄膜化を図ることなどができる。中間層の平均厚みとは、導電性の基材、中間層及び活物質層を備えた電極の断面SEM(Scanning Electron Microscope)において、上記中間層の厚みを5点以上測定し平均した値をいう。断面SEMとは、サンプルの切断面を作製し、その断面を走査電子顕微鏡で観察する方法である。
【0049】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0050】
上記正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO型結晶構造を有するLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiNiαCo(1-α)、LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn、LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO,LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
正極活物質層に含有される導電剤及びバインダーは、中間層と同様のものを挙げることができる。
【0052】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0053】
上記フィラーは、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0054】
当該電極が正極である場合、通常時は中間層を設けることによる導電性に対する影響が生じ難い。このため、通常時には良好な導電性を確保しつつ、発熱時に効果的に絶縁性を高めることができる。
【0055】
(製造方法)
当該正極の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、正極基材に中間層形成用ペースト、及び正極活物質層形成用ペーストを順に塗工し、乾燥することにより当該正極を得ることができる。
【0056】
<二次電池(非水電解質蓄電素子)>
本発明の一実施形態に係る二次電池は、当該電極である正極、負極及び非水電解質を有する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0057】
(正極)
当該二次電池に備わる正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。当該二次電池に備わる正極は、上述した本発明の一実施形態に係る正極であることが好ましい。
【0058】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。正極が上述した本発明の一実施形態に係る正極ではない場合は、負極基材と中間層と負極活物質層とをこの順に備える、本発明の一実施形態に係る負極である。
【0059】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができる。材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0060】
上記負極における中間層の構成は特に限定されず、例えばバインダー及び導電剤を含有する組成物により形成することができる。負極における中間層は、上述した正極における中間層と同様の組成で形成してもよい。
【0061】
上記負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0062】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素または難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
【0063】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0064】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0065】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、非水電解質二次電池に通常用いられる公知の電解質が使用でき、非水溶媒に電解質塩が溶解されたものを用いることができる。
【0066】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートなどを挙げることができる。
【0067】
上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、これらの中ではリチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0068】
非水電解質として、常温溶融塩(イオン液体)、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0069】
(製造方法)
当該二次電池の製造方法は特に限定されるものではない。当該二次電池の製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池(非水電解質蓄電素子)を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子(二次電池)を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0070】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記実施形態においては、正極の中間層が無機酸化物を含有しているが、正極の中間層が無機酸化物を含有せず、負極の中間層が無機酸化物を含有していてもよい。正極の中間層及び負極の中間層の双方が無機酸化物を含有していてもよい。正極の中間層が無機酸化物を含有している場合、負極は中間層を有していなくてよい。逆に、負極の中間層が無機酸化物を含有している場合、正極は中間層を有していなくてもよい。正極又は負極において、活物質層を被覆する被覆層等が設けられていてもよい。
【0071】
本実施形態において、当該電極は、蓄電素子の正極として用いられていたが、負極として用いられてもよく、正極及び負極の双方に用いられてもよい。
【0072】
上記実施の形態においては、蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)や、電解質が水を含む二次電池などが挙げられる。
【0073】
図1に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1(二次電池1)の概略図を示す。同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して巻回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。電池容器3内に、非水電解質が注入されている。正極等の各要素の具体的構成等は、上述したとおりである。
【0074】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0075】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1](正極の作製)
正極基材としてのアルミニウム箔(平均厚さ15μm)の表面に、以下の要領で中間層を形成した。アセチレンブラック(AB)、アルミナ(住友化学社製、粒子径約300nm、BET比表面積4.9m/g)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を8:77:15の質量比で秤量した。これらを分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混ぜ、中間層形成用ペーストを調製した。この中間層形成用ペーストをアルミニウム箔に塗布した。その後、乾燥を行い、平均厚さ8μmの中間層を得た。
【0077】
正極活物質としてのLi(Ni0.82Co0.15Al0.03)O、AB及びPVDFを質量比95:3:2の割合(固形分換算)で含有し、N-メチル-2-ピロリドンを分散媒とする正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを中間層の表面に塗布し、乾燥することで分散媒を除去した。その後、ローラープレス機により加圧成形し、実施例1の正極を得た。加圧成形後の中間層の平均厚さは4μmだった。正極には、中間層及び正極活物質層を積層していないタブを設けた。
【0078】
[実施例2]
アセチレンブラック(AB)、アルミナ(日本アエロジル株式会社製、粒子径約70nm、BET比表面積94m/g)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を8:62:30の質量比で秤量し、これらを分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混ぜ、中間層形成用ペーストを調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の正極を得た。
【0079】
[実施例3]
アセチレンブラック(AB)、アルミナ(日本アエロジル株式会社製)、熱架橋性化合物であるビスマレイミドとバルビツール酸との反応物及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を8:55:20:15の質量比で秤量し、これらを分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混ぜ、中間層形成用ペーストを調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の正極を得た。
【0080】
[実施例4]
アセチレンブラック(AB)、チタン酸バリウム及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を8:77:15の質量比で秤量し、これらを分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混ぜ、中間層形成用ペーストを調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の正極を得た。
【0081】
[実施例5]
正極活物質としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3、AB及びPVDFを質量比93:4:3の割合(固形分換算)で含有し、N-メチル-2-ピロリドンを分散媒とする正極活物質層形成用ペーストを用い、中間層の乾燥後(加圧成形前)の平均厚みを6μm、加圧成形後の平均厚みを2.5μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例5の正極を得た。
【0082】
[実施例6]
中間層形成用ペーストに含まれるAB、アルミナ及びPVDFの質量比を4:81:15としたこと以外は、実施例5と同様にして実施例6の正極を得た。
【0083】
[実施例7]
中間層形成用ペーストに含まれるAB、アルミナ及びPVDFの質量比を12:73:15としたこと以外は、実施例5と同様にして実施例7の正極を得た。
【0084】
[実施例8]
中間層形成用ペーストに含まれるAB、アルミナ及びPVDFの質量比を20:65:15としたこと以外は、実施例5と同様にして実施例8の正極を得た。
【0085】
[比較例1]
中間層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極を得た。
【0086】
[比較例2]
中間層の材料として、AB及びPVDFを8:92の質量比で用い、アルミナを含めなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極を得た。
【0087】
[評価]
(加熱に伴う抵抗の変化)
実施例1~実施例8及び比較例1で得られた正極について、温度を上昇させながら交流インピーダンス(ACR)を測定した。具体的には、まず、同一種類の2枚の正極を正極活物質同士が対向するようにセパレータを介して積層させ、LiPFを1M含有したEC:EMC=20:80(体積比)の電解液に含浸させた。この積層体に対し、交流抵抗計を用いて、5℃ずつ又は10℃ずつ160℃まで段階的に昇温しながら、正極基材間のACRを測定した。測定結果を図3及び図4に示す。
【0088】
(釘刺し試験)
実施例1~実施例3及び比較例1で得られた正極と、負極活物質が黒鉛である負極とで、ポリオレフィン製多孔質樹脂フィルムセパレータを挟むことにより、電極体を作製した。この電極体を、各電極のタブが露出するように、外装体としての金属樹脂複合フィルムに収納し、封止した。これにより、ドライセルを得た。このドライセルに対して、正負極間に4.35Vの電圧を印加しつつ、釘を電極の積層方向に貫通させる釘刺し試験を行った。釘を刺して短絡が生じてから5秒後までの抵抗値Rdzの変化の値を元に、0~0.5秒、0.5~2.0秒及び2.0~5.0秒の範囲における熱発生量を解析した。0~0.5秒で発生し始める熱は、釘刺しの短絡によって生じるもの、0.5~2.0秒で発生し始める熱は、セパレータの溶融現象によるもの、2.0~5.0秒で発生し始める熱は、大電流の放電によるものと推測される。上記解析結果を図5に示す。
【0089】
(非水電解質二次電池の加熱試験)
実施例1~実施例3及び比較例1の正極と、負極活物質が黒鉛である負極とで、ポリオレフィン製多孔質樹脂フィルムセパレータを挟むことにより、電極体を作製した。この電極体を、各電極のタブが露出するように、外装体としての金属樹脂複合フィルムに収納し、上記電解液を注入後、封止した。これにより、非水電解質二次電池を得た。
得られた各非水電解質二次電池について、充電終止条件を充電電流が1/100Cとなるまでし、充電終止電圧を4.35Vとして充電した。この後、非水電解質二次電池を固定した状態で、加熱器により加熱して、電圧の変化を測定した。加熱速度は、5℃/分とした。加熱に伴い、短絡が生じ、電圧が低下していった。各非水電解質二次電池の電圧を、各非水電解質二次電池の温度に対してプロットしたグラフを図6に示す。
【0090】
図3に示されるように、アルミナを含有する中間層を備える実施例1~実施例3の正極及びチタン酸バリウムを含有する中間層を備える実施例4の正極においては、温度上昇により大きく電気抵抗が上昇し、発熱に対する良好なシャットダウン機能を有し、安全性が高いことがわかる。特に、アルミナ及び熱架橋性化合物を含有する実施例3においては、温度上昇により非常に電気抵抗が上昇し、発熱に対するシャットダウン機能が優れていた。中間層を設けていない比較例1及びアルミナを含有しない中間層を有する比較例2の正極においても、ある程度の抵抗上昇は見られるものの、実施例1~実施例4に比べてシャットダウン機能が劣ることがわかる。
【0091】
図4に示されるように、正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3を含有する正極活物質層と、65質量%~81質量%のアルミナ及び4質量%~20質量%の導電剤ABを含有する中間層とを備える実施例5~実施例8においても、温度上昇により大きく電気抵抗が上昇し、発熱に対する良好なシャットダウン機能を有することがわかる。これらの中でも、中間層におけるABの含有量が4質量%の実施例6及び上記含有量が12質量%の実施例7が温度上昇による電気抵抗の上昇度が高かった。特に、実施例6は温度上昇により非常に電気抵抗が上昇し、発熱に対するシャットダウン機能が優れていた。
【0092】
図5に示されるように、中間層がアルミナを含有する実施例1及び実施例2、並びにアルミナ及び熱架橋性化合物を含有する実施例3の正極を用いたドライセルにおいては、中間層を設けていない比較例1と比べて釘刺し後の発熱が抑制されていることがわかる。
【0093】
図6(a)~(c)に示されるように、中間層がアルミナを含有する実施例1~実施例3の正極を用いた非水電解質二次電池は、中間層を設けていない比較例1の正極を用いた非水電解質二次電池と比べて、高温下においても高い電圧が保たれていることがわかる。これは、短絡が生じた際、良好なシャットダウン機能が発現していることを意味する。すなわち、実施例1~実施例3の非水電解質二次電池は、比較例1の非水電解質二次電池に比べて安全性が高いことがわかる。特に、アルミナ及び熱架橋性化合物を含有する実施例3においては、電圧低下が非常に少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池などに適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 非水電解質二次電池
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6