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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】貫通構造を有するシート状細胞培養物
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20230414BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20230414BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20230414BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
A61L27/38 300
A61L27/38 100
A61L27/52
A61L27/40
A61L27/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020509191
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013172
(87)【国際公開番号】W WO2019189353
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2018059792
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】松田 勇
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-195103(JP,A)
【文献】特開2016-052272(JP,A)
【文献】国際公開第2017/044682(WO,A1)
【文献】特開2010-161952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61F 2/00- 2/97
C12N 5/00- 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋芽細胞または心筋細胞を含む少なくとも1つの単層シート状細胞培養物を含むシート状細胞培養物層および生体適合性ゲルを含む補強層を含む心臓移植用積層体であって、心臓移植用積層体は、補強層をシート状細胞培養物層の上に含み、1~4つの補強層貫通構造をシート状細胞培養物層の周縁部に有し、周縁部は、上面または下面の形状の外縁から中心までを結ぶ線分上において、外縁から50%までの距離にあたる部分であり、貫通構造は、補強層とシート状細胞培養物層とが積層された部分に位置し、貫通構造は、200μm~5mmの大きさの孔または切れ込みであり、貫通構造は、心臓に移植される前に形成されている、前記心臓移植用積層体。
【請求項2】
貫通構造が、周縁部にのみ存在する、請求項1に記載の心臓移植用積層体。
【請求項3】
周縁部が、上面または下面の形状の外縁から中心までを結ぶ線分上において、外縁から5%までの距離にあたる部分である、請求項1または2に記載の心臓移植用積層体。
【請求項4】
貫通構造の切れ込みの形状が、直線状または十字状である、請求項1~3のいずれか一項に記載の心臓移植用積層体。
【請求項5】
シート状細胞培養物層が、1つのみの単層のシート状細胞培養物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の心臓移植用積層体。
【請求項6】
シート状細胞培養物層が、1つまたは少なくとも2つの単層のシート状細胞培養物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の心臓移植用積層体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の心臓移植用積層体、および縫合固定用の針を含む、心臓移植用医薬組成物。
【請求項8】
貫通構造を周縁部に1~4つ有し、筋芽細胞または心筋細胞を含む心臓移植用シート状細胞培養物および生体適合性ゲルを含む、心臓移植用キットであって、周縁部は、上面または下面の形状の外縁から中心までを結ぶ線分上において、外縁から50%までの距離にあたる部分であり、貫通構造は、補強層とシート状細胞培養物層とが積層される部分に位置し、貫通構造は、200μm~5mmの大きさの孔または切れ込みであり、貫通構造は、心臓に移植される前に形成されている、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針を通すための貫通構造を周縁部に少なくとも1つ有するシート状細胞培養物、該シート状細胞培養物と生体適合性ゲルとの積層体およびその製造方法、当該積層体を含む移植用医薬組成物、当該移植用組成物を製造するためのキット、前記シート状細胞培養物を用いた疾患の処置方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞等の利用が試みられている(非特許文献1)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(特許文献1)。
シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道ガン内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用など、再生医療を中心に検討が進められている。
【0004】
このように、シート状細胞培養物は再生医療などにおいて高い有用性を有するが、そのままでは一般に脆弱であり、培養基材からの単離時やその後の操作中に皺や破れなどを生じやすく、移送、保存、移植などの操作が極めて困難である。かかる問題を改善するために、シート状細胞培養物にフィブリノゲン液とトロンビン液とを同時に噴霧し、シート状細胞培養物上にフィブリンを含む支持体層を形成して、シート状細胞培養物とフィブリンとの積層体を製造する方法が試みられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2007-528755号公報
【文献】特開2011-172925号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
シート状細胞培養物を心臓などの臓器に適用する際には、シート状細胞培養物を臓器に貼り付ける形で行われるが、特に心臓など動きの大きい臓器に適用する場合には、術後適用したシート状細胞培養物が適用箇所から剥離、脱落してしまうという問題が生じていた。かかる問題に対しては、一般に貼付したシート状細胞培養物を臓器に少なくとも1針縫いとめることにより脱落を防止している。
【0008】
しかしながら、補強層を有しないシート状細胞培養物では、縫いとめの際にシート状細胞培養物を破損してしまうリスクが高く、また上述の支持体層などの補強層を形成することにより取り扱いを容易にした積層体は、かかる補強層の存在により、縫合用の針を貫通させにくくなるため、縫いとめ操作が困難になるという問題が生じることが新たに見出された。したがって本発明は、これらの問題点を有しない、操作性に優れ、移植に適したシート状細胞培養物、該シート状細胞培養物と生体適合性ゲルとの積層体およびその製造方法、当該積層体を含む移植用医薬組成物、当該移植用組成物を製造するためのキット、前記シート状細胞培養物を用いた疾患の処置方法の提供を目的とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、操作性に優れ、かつ縫いとめを含む移植の術式を簡便にするシート状細胞培養物を研究する中で、シート状細胞培養物に針を貫通させるための孔を予め形成しておくことにより、シート状細胞培養物を容易に縫いとめることができることを見出し、さらに鋭意研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に下記に掲げるものに関する:
[1]貫通構造を周縁部に少なくとも1つ有する、縫合固定用の移植用シート状細胞培養物。
[2]貫通構造が、周縁部にのみ存在する、[1]の移植用シート状細胞培養物。
[3]貫通構造が、孔または切れ込みである、[1]または[2]の移植用シート状細胞培養物。
[4]単層のシート状細胞培養物である、[1]~[3]の移植用シート状細胞培養物。
[5]筋芽細胞または心筋細胞を含む、[1]~[4]の移植用シート状細胞培養物。
[6]シート状細胞培養物に、貫通構造を形成して製造する、[1]~[5]の移植用シート状細胞培養物。
[7]少なくとも1つの単層シート状細胞培養物を含むシート状細胞培養物層および生体適合性ゲルを含む補強層を含む医療用積層体であって、少なくとも1つの補強層貫通構造を周縁部に有する、前記医療用積層体。
[8]シート状細胞培養物が、1つまたは少なくとも2つである、[7]の医療用積層体。
[9][7]または[8]の医療用積層体、および縫合固定用の針を含む、移植用医薬組成物。
[10]貫通構造を周縁部に少なくとも1つ有する移植用シート状細胞培養物および生体適合性ゲルを含む、移植用キット。
[11][1]~[6]のシート状細胞培養物、[7]または[8]の医療用積層体および/または[9]の移植用医薬組成物の有効量を、対象の疾患部位に適用し、貫通構造に針を通して縫合固定することを特徴とする、シート状細胞培養物の適用により改善される疾患を処置する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシート状細胞培養物および医療用積層体は、脆弱なシート状細胞培養物の破損のリスクを軽減し、また操作性に優れ、患部への適用が容易である。また、縫いとめ操作を簡便化できることにより、施術者の熟練度による操作上の差が小さくなり、疾患の確実な処置が可能となるため、再生医療等のさらなる普及拡大が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】例1において作製した本開示の医療用積層体の写真図である。点線で囲まれた部分に貫通構造として孔を有する。
図2】Aは貫通構造を有しない医療用積層体に縫合針を貫通させようとした際の写真図である。貫通構造がないため、補強層に阻まれて縫合針がなかなか貫通しないことがわかる。Bは本開示の医療用積層体に縫合信を貫通させた際の写真図である。貫通構造に縫合針を通すことにより容易に縫合針で医療用積層体を貫通することができる。
図3】Aは、例2において、障害物を置いた培養基材上にシート形成細胞を播種した際の写真図である。Bは、例2において、培養基材から剥離する直前のシート状細胞培養物の写真図である。点線で囲まれた部分に貫通構造として孔を有する。Cは、例2において、培養基材から剥離したシート状細胞培養物の写真図である。点線で囲まれた部分に貫通構造として孔を有する。
図4】本開示の医療用積層体のいくつかの態様を表す模式図である。Aは貫通構造として孔を有する態様、Bは貫通構造として切れ込みを有する態様を表す。どちらの態様においても、シート状細胞培養物10および補強層11が積層されて医療用積層体1を構成しており、シート状細胞培養物10および補強層11を貫通するように孔101または切れ込み102を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を詳細に説明する。
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願、公開された出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。また本明細書において参照された出版物と本明細書の記載に矛盾が生じた場合は、本明細書の記載が優先されるものとする。
【0014】
本開示において「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)体、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0015】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本開示のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本開示のシート状細胞培養物は、好ましくは、シート状細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0016】
シート状細胞培養物を構成する細胞(以下、「シート形成細胞」という場合がある)は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来接着細胞)であってもよい。シート状細胞培養物を構成する細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。iPS細胞由来接着細胞の非限定例としては、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0017】
本開示において「筋芽細胞」は、横紋筋細胞の前駆細胞であり、骨格筋芽細胞および心筋芽細胞を含む。
本開示において「骨格筋芽細胞」は、骨格筋に存在する筋芽細胞を意味する。骨格筋芽細胞は当該技術分野でよく知られており、骨格筋から任意の既知の方法(例えば、特開2007-89442号公報に記載の方法など)により調製することもできるし、商業的に入手することもできる(例えば、Lonza、Cat# CC-2580)。骨格筋芽細胞は、限定されずに、例えば、CD56、α7インテグリン、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、MyoD、Myf5、Myf6、ミオゲニン、デスミン、PAX3などのマーカーにより同定することができる。特定の態様において、骨格筋芽細胞はCD56陽性である。さらに特定の態様において、骨格筋芽細胞はCD56陽性およびデスミン陽性である。骨格筋芽細胞は、骨格筋を有する任意の生物、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に由来してもよい。一態様において、骨格筋芽細胞は哺乳動物の骨格筋芽細胞である。特定の態様において、骨格筋芽細胞はヒト骨格筋芽細胞である。
【0018】
本開示において「心筋芽細胞」は、心筋に存在する筋芽細胞を意味する。心筋芽細胞は当該技術分野でよく知られており、Isl1などのマーカーにより同定することができる。心筋芽細胞は、心筋を有する任意の生物、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に由来してもよい。一態様において、心筋芽細胞は哺乳動物の心筋芽細胞である。特定の態様において、心筋芽細胞はヒト心筋芽細胞である。
本開示において「心筋細胞」は、心筋細胞の特徴を有する細胞を意味し、心筋細胞の特徴としては、限定されずに、例えば、心筋細胞マーカーの発現、自律的拍動の存在などが挙げられる。心筋細胞マーカーの非限定例としては、例えば、c-TNT(cardiac troponin T)、CD172a(別名SIRPAまたはSHPS-1)、KDR(別名CD309、FLK1またはVEGFR2)、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。心筋細胞としては、iPS細胞由来の心筋細胞が好ましく例示される。
【0019】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギなどが含まれる。また、シート状細胞培養物を構成する細胞の種類の数は特に限定されず、1種類のみ細胞で構成されていてもよいが、2種類以上の細胞を用いたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の含有比率(純度)は、シート状細胞培養物の形成終了時において、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。
【0020】
細胞は異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。ここで「異種由来細胞」は、シート状細胞培養物が移植に用いられる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、サルやブタに由来する細胞などが異種由来細胞に該当する。また、「同種由来細胞」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト細胞が同種由来細胞に該当する。同種由来細胞は、自己由来細胞(自己細胞または自家細胞ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する細胞と、同種非自己由来細胞(他家細胞ともいう)を含む。自己由来細胞は、移植しても拒絶反応が生じないため、本開示においては好ましい。しかしながら、異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用することも可能である。異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用する場合は、拒絶反応を抑制するため、免疫抑制処置が必要となることがある。なお、本明細書中で、自己由来細胞以外の細胞、すなわち、異種由来細胞と同種非自己由来細胞を非自己由来細胞と総称することもある。本開示の一態様において、細胞は自家細胞または他家細胞である。本開示の一態様において、細胞は自家細胞である。本開示の別の態様において、細胞は他家細胞である。
【0021】
シート状細胞培養物は、既知の任意の方法(例えば、特許文献1、特許文献2、特開2010-081829、特開2011-110368など参照)で製造することができる。シート状細胞培養物の製造方法は、典型的には、細胞を培養基材上に播種するステップ、播種した細胞をシート化するステップ、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から剥離するステップを含むが、これに限定されない。細胞を培養基材上に播種するステップの前に、細胞を凍結するステップおよび細胞を解凍するステップを行ってもよい。さらに、細胞を解凍するステップの後に細胞を洗浄するステップを行ってもよい。これら各ステップは、シート状細胞培養物の製造に適した既知の任意の手法で行うことができる。本開示の製造方法は、シート状細胞培養物を製造するステップを含んでもよく、その場合、シート状細胞培養物を製造するステップは、サブステップとして上記シート状細胞培養物の製造方法に係るステップの1または2以上を含んでもよい。ある一態様において、細胞を解凍するステップの後、細胞を培養基材上に播種するステップの前に細胞を増殖させるステップを含まない。
【0022】
培養基材は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養物の形成が可能な培養基材で構成された底面と、液体不透過性の側面とを備えた培養容器が挙げられる。かかる培養容器の特定の例としては、限定されずに、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。容器の底面は透明であっても不透明であってもよい。容器の底面が透明であると、容器の裏側から細胞の観察、計数などが可能となる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corningなど)。培養基材は全体または部分が透明であっても不透明であってもよい。
【0023】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN-イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、CellSeed Inc.のUpCell(R))、これらを本開示の製造方法に使用することができる。
【0024】
培養基材は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、例えば、約1cm~約200cm、約2cm~約100cm、約3cm~約50cmなどであってよい。例えば、培養基材として直径10cmの円形の培養皿が挙げられる。この場合、面積は56.7cmとなる。
培養基材は血清でコート(被覆またはコーティング)されていてもよい。血清でコートされた培養基材を用いることにより、より高密度のシート状細胞培養物を形成することができる。「血清でコートされている」とは、培養基材の表面に血清成分が付着している状態を意味する。かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血清で処理することにより得ることができる。血清による処理は、血清を培養基材に接触させること、および、必要に応じて所定期間インキュベートすることを含む。
【0025】
血清としては、異種血清および/または同種血清を用いることができる。異種血清は、シート状細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清(自家血清ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する血清、およびレシピエント以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。
培養基材をコートするための血清は、市販されているか、または、所望の生物から採取した血液から定法により調製することができる。具体的には、例えば、採取した血液を室温で約20分~約60分程度放置して凝固させ、これを約1000×g~約1200×g程度で遠心分離し、上清を採取する方法などが挙げられる。
【0026】
培養基材上でインキュベートする場合、血清は原液で用いても、希釈して用いてもよい。希釈は、任意の媒体、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7など)等で行うことができる。希釈濃度は、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0.5%~約100%(v/v)、好ましくは約1%~約60%(v/v)、より好ましくは約5%~約40%(v/v)である。
【0027】
インキュベート時間も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約1時間~約72時間、好ましくは約2時間~約48時間、より好ましくは約2時間~約24時間、さらに好ましくは約2時間~約12時間である。インキュベート温度も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0℃~約60℃、好ましくは約4℃~約45℃、より好ましくは室温~約40℃である。
【0028】
インキュベート後に血清を廃棄してもよい。血清の廃棄手法としては、ピペットなどによる吸引や、デカンテーションなどの慣用の液体廃棄手法を用いることができる。本開示の好ましい態様においては、血清廃棄後に、培養基材を無血清洗浄液で洗浄してもよい。無血清洗浄液としては、血清を含まず、培養基材に付着した血清成分に悪影響を与えない液体媒体であれば特に限定されず、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7など)等で行うことができる。洗浄手法としては、慣用の培養基材洗浄手法、例えば、限定することなく、培養基材上に無血清洗浄液を加えて所定時間(例えば、約5秒~約60秒間)撹拌後、廃棄する手法などを用いることができる。
【0029】
本開示において、培養基材を、成長因子でコートしてもよい。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。成長因子による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、例えば、約0.0001μg/mL~約1μg/mL、好ましくは約0.0005μg/mL~約0.05μg/mL、より好ましくは約0.001μg/mL~約0.01μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
【0030】
本開示において、培養基材を、ステロイド剤でコートしてもよい。ここで「ステロイド剤」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。ステロイド剤による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、デキサメタゾンとして、例えば、約0.1μg/mL~約100μg/mL、好ましくは約0.4μg/mL~約40μg/mL、より好ましくは約1μg/mL~約10μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
【0031】
培養基材は、血清、成長因子およびステロイド剤のいずれか1つでコートしても、これらの任意の組合わせ、すなわち、血清と成長因子、血清とステロイド剤、血清と成長因子とステロイド剤、または、成長因子とステロイド剤の組合わせでコートしてもよい。複数の成分でコートする場合、これらの成分を混合して同時にコートしてもよいし、別々のステップでコートしてもよい。
【0032】
培養基材は、血清等でコートした後直ちに細胞を播種してもよいし、コートした後に保存しておき、その後細胞を播種することもできる。コートした基材は、例えば約4℃以下、好ましくは約-20℃以下、より好ましくは約-80℃以下に保つことにより長期間保存することができる。
培養基材への細胞の播種は、既知の任意の手法および条件で行うことができる。培養基材への細胞の播種は、例えば、細胞を培養液に懸濁した細胞懸濁液を培養基材(培養容器)に注入することにより行ってもよい。細胞懸濁液の注入には、スポイトやピペットなど、細胞懸濁液の注入操作に適した器具を用いることができる。
【0033】
<1>本開示のシート状細胞培養物および医療用積層体
本開示の一側面において、貫通構造を周縁部に少なくとも1つ有する、縫合固定用の移植用シート状細胞培養物が提供される。
本開示において「周縁部」とは、例えばシート状細胞培養物や積層体構造物などの構造体において、上面または下面の形状の比較的外側に位置する部分をいう。具体的には例えば、上面または下面の形状の外縁から中心までを結ぶ線分上において、外縁から50%まで、外縁から40%まで、外縁から30%まで、外縁から20%まで、外縁から15%まで、好ましくは外縁から10%まで、さらに好ましくは外縁から5%までの距離にあたる部分をいう。
【0034】
本開示において「貫通構造」とは、構造物を一定方向に貫通する構造を意味する。典型的には、例えばシート状細胞培養物の上面から下面までを貫通する孔や切れ込みなどが挙げられる。
本開示のシート状細胞培養物は、移植の際に適用箇所、例えば心臓などの臓器に縫合により固定されるシート状細胞培養物である。このため適用箇所が拍動や蠕動運動などにより頻繁に動く場合であっても、脱落することがない。
【0035】
本開示のシート状細胞培養物は、周縁部に少なくとも1つの貫通構造を有するものである。かかる貫通構造は、針を通すためのものであり、前記シート状細胞培養物の上面から下面まで貫通するように存在する。かかる貫通構造は、針を通すことが可能な構造であればいかなる構造であってもよく、例えば孔や切れ込みなどのように細胞の連結が断絶している構造のほか、細胞等の連結力が他の部分と比較して弱く、針が通しやすい構造などが挙げられる。
【0036】
貫通構造は、シート状細胞培養物中に複数存在してよいが、少なくとも1つはシート状細胞培養物の周縁部に存在する。好ましい一態様において、貫通構造は、シート状細胞培養物の周縁部にのみ存在する。貫通構造は上述のとおり複数存在してもよいが、シート状細胞培養物の強度や構成細胞の数などの観点から、数が少ない方が好ましい。貫通構造の好ましい具体例としては、例えば1個、2個、3個、4個などが挙げられ、より好ましくは1個または2個である。
【0037】
上述のとおり貫通構造は針を通すことが可能な構造をしており、好ましくは孔または切れ込みなど、細胞の連結が断裂した構造である。貫通構造が孔である場合、形状はいかなる形状であってもよく、これに限定するものではないが、例えば円形、楕円形、多角形などであり得る。孔の大きさ(ここで「孔の大きさ」は、孔に内接する最も大きな円の直径を意味する)は手術用の縫合針が通れば特に限定されず、例えば約200μm以上、約500μm以上、約1mm以上、約1.5mm以上、約2mm以上などであってよい。また、孔はあまり大きすぎると、シート状細胞培養物全体の強度や構成する細胞数が低下する要因となるため、好ましくない。したがって好ましくは、孔の大きさは約5mm以下、約4mm以下、約3mm以下、約2.5mm以下。約2mm以下、約1.5mm以下、約1mm以下などであってよい。
【0038】
したがって孔の大きさの採り得る範囲としては、上記下限値および上限値の任意の組み合わせであってよく、例えば200μm~5mm、200μm~4mm、200μm~3mm、200μm~2.5mm、200μm~2mm、200μm~1.5mm、200μm~1mm、500μm~5mm、500μm~4mm、500μm~3mm。、500μm~2.5mm、500μm~2mm、500μm~1.5mm、500μm~1mm、1mm~5mm、1mm~4mm、1mm~3mm、1mm~2.5mm、1mm~2mm、1mm~1.5mm、1.5mm~5mm、1.5mm~4mm、1.5mm~3mm、1.5mm~2.5mm、1.5mm~2mm、2mm~5mm、2mm~4mm、2mm~3mm、2mm~2.5mmなどであり得る。
【0039】
貫通構造が切れ込みである場合、その形状は特に制限されず、例えば直線状、十字状などであってよい。切れ込みの大きさ(ここで「切れ込みの大きさ」は、最も大きな切れ込みの長さを意味する)は、手術用の縫合針が通れば特に限定されず、例えば約200μm以上、約500μm以上、約1mm以上、約1.5mm以上、約2mm以上などであってよい。また、切れ込みはあまり大きすぎるとシート状細胞培養物全体の強度が低下することになるため好ましくない。したがって好ましくは、切れ込みの大きさは約5mm以下、約4mm以下、約3mm以下、約2.5mm以下。約2mm以下、約1.5mm以下、約1mm以下などであってよい。
【0040】
したがって切れ込みの大きさの採り得る範囲としては、上記下限値および上限値の任意の組み合わせであってよく、例えば200μm~5mm、200μm~4mm、200μm~3mm、200μm~2.5mm、200μm~2mm、200μm~1.5mm、200μm~1mm、500μm~5mm、500μm~4mm、500μm~3mm。、500μm~2.5mm、500μm~2mm、500μm~1.5mm、500μm~1mm、1mm~5mm、1mm~4mm、1mm~3mm、1mm~2.5mm、1mm~2mm、1mm~1.5mm、1.5mm~5mm、1.5mm~4mm、1.5mm~3mm、1.5mm~2.5mm、1.5mm~2mm、2mm~5mm、2mm~4mm、2mm~3mm、2mm~2.5mmなどであり得る。
【0041】
本開示のシート状細胞培養物は、上述のとおり単層のシート状細胞培養物であっても複数のシート状細胞培養物が積層された積層体であってもよいが、好ましくは単層のシート状細胞培養物である。
本開示のシート状細胞培養物に用いられる細胞としては、例えば上述の「シート状細胞培養物を構成する細胞」において詳述した細胞などが挙げられる。シートの脆弱性、適用部位等に鑑みて、筋芽細胞または心筋細胞を含むシート状細胞培養物が好ましい。
【0042】
本開示のシート状細胞培養物は、後述する製造方法により製造され得る。特に本開示のシート状細胞培養物が有する貫通構造は、シート状細胞培養物の形成中または形成後に形成されてよい。シート状細胞培養物の形成の簡便性などの観点から、本開示の好ましい一態様において、貫通構造は、シート状細胞培養物を形成した後に形成される。
【0043】
貫通構造を形成する方法としては、当該技術分野において公知の任意の方法を用いることができる。シート状細胞培養物の形成中に貫通構造を形成する方法としては、これに限定するものではないが、例えば細胞非接着領域を有する培養基材にシート形成細胞を播種してシートを形成する方法、培養基材上に障害物などを置いた状態でシート形成細胞を播種してシートを形成する方法などが挙げられる。
【0044】
シート状細胞培養物の形成後に貫通構造を形成する方法としては、これに限定するものではないが、例えばメスやはさみなどの刃物で切れ込みや孔を形成する方法、針などの突起物で貫通する方法、ポンチなどで孔を形成する方法、レーザー光などで細胞を消失させる方法などが挙げられる。
【0045】
本開示の別の側面は、少なくとも1つの単層シート状細胞培養物および生体適合性ゲルを含む補強層を含む医療用積層体を包含する。かかる医療用積層体は、少なくとも1つの貫通構造を周縁部に有している。ここで前記医療用積層体に存在する貫通構造は、少なくとも補強層を貫通する構造を有しており、好ましくはシート状細胞培養物と補強層とを両方貫通する構造を有している。
【0046】
本開示の積層体に用い得る生体適合性ゲルとしては、生体内に導入した際に生体に悪影響を及ぼさないゲルであればいかなるものであってもよく、これに限定するものではないが、例えばフィブリンゲル、フィブリノーゲンゲル、ゼラチンゲル、コラーゲンゲルなどが挙げられる。
【0047】
生体適合性ゲルを含む補強層の形成方法は、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物状に生体適合性ゲルを噴霧する方法、シート状細胞培養物上にゾル状の生体適合性物質を積層してゲル化する方法、液状のゲルに浸漬したのちゲルを固形化させる方法などのほか、特開2016-52271号公報等に記載の方法などが挙げられる。
【0048】
少なくとも補強層を貫通する構造を形成する方法としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物上に障害物などを置いた状態で補強層を形成する方法、補強構造を形成した後、シート状細胞培養物と補強層とを貫通するように、刃物、突起物、ポンチなどで孔または切れ込みを形成する方法、形成したシート状細胞培養物に縫合針などを貫通させた状態で補強層を形成する方法などが挙げられる。
【0049】
本開示の医療用積層体は、少なくとも1つの単層シート状細胞培養物を含むものである。好ましい一態様において、本開示の医療用積層体は、1つの単層シート状細胞培養物を含む。別の好ましい一態様において、本開示の医療用積層体は、少なくとも2つの単層シート状細胞培養物を含む。かかる少なくとも2つの単層シート状細胞培養物は、積層されて1つの積層シート状細胞培養物として含まれてもよいし、少なくとも2つの独立したシート状細胞培養物(単層または積層)が1つの補強層で連結された形で含まれてもよい。
【0050】
また本開示は別の側面において、本開示の医療用積層体と縫合固定用の針とを含む移植用医薬組成物を包含する。縫合固定用の針は、本開示の医療用積層体と別々に包装されていてもよいし、本開示の医療用積層体の貫通構造を貫通した状態で付属していてもよい。
縫合固定用の針が貫通構造を貫通した状態で付属する態様において、かかる移植用組成物は、シート状細胞培養物上に補強層を形成した後針を貫通させて製造してもよいし、シート状細胞培養物に針を貫通させた後補強層を形成して製造してもよい。
【0051】
さらに本開示は別の側面において、本開示の医療用積層体を製造するための移植用キットも包含する。かかるキットには、例えば貫通構造を周縁部に少なくとも1つ有する移植用シート状細胞培養物および生体適合性ゲルを含み得る。本開示の移植用キットの一態様において、移植用キットはさらに縫合固定用の針を含んでよい。
【0052】
<2>本開示のシート状細胞培養物および/または医療用積層体の製造方法
本開示は別の側面において、本開示のシート状細胞培養物および/または医療用積層体を製造する方法を包含する。
本開示のシート状細胞培養物の製造方法は、以下の工程:
(i)少なくとも1種のシート形成細胞を含む細胞集団を培養基材に播種すること、
(ii)上記(i)で播種された細胞集団を細胞培養液中でシート化し、シート状細胞培養物を形成すること、および
(iii)上記(ii)で形成されたシート状細胞培養物を培養基材から剥離すること、
を含み、さらに任意に貫通構造を形成することを含み得る。
【0053】
ステップ(i)において、少なくとも1種のシート形成細胞を含む細胞集団が、培養基材に播種される。ここで「シート形成細胞」および「シート形成細胞を含む細胞集団を播種する培養基材」は、上述したとおりである。さらに培養基材はシート状細胞培養物の貫通構造が存在する箇所に対応する位置に、貫通構造形成用の部材を有していてもよい。貫通構造形成用の部材としては、これに限定するものではないが、例えば除去可能な障害物(例えば柱状の追加部材や折り取り可能なでっぱり等)、細胞非接着性物質で形成された培養面などが挙げられる。
【0054】
(ii)において、播種された細胞集団は、細胞培養液中でインキュベートしてシート化され、シート状細胞培養物として形成される。
播種した細胞のシート化は、既知の任意の手法および条件で行うことができる。かかる手法の非限定例は、例えば、特許文献1、WO 2014/185517などに記載されている。細胞のシート化は、細胞同士が接着分子や、細胞外マトリックスなどの細胞間接着機構を介して互いに接着することにより達成されると考えられている。したがって、播種した細胞のシート化は、例えば、細胞を、細胞間接着を形成する条件下で培養することにより達成することができる。かかる条件は、細胞間接着を形成することができればいかなるものであってもよいが、通常は一般的な細胞培養条件と同様の条件であれば細胞間接着を形成することができる。かかる条件としては、例えば、約37℃、5%COでの培養が挙げられる。また、培養は通常の圧力下(大気圧下、非加圧下)で行うことができる。培養は任意の大きさおよび形状の容器で行うことができる。シート状細胞培養物の大きさや形状は、培養容器の細胞付着面の大きさ・形状を調整すること、または、培養容器の細胞付着面に、所望の大きさ・形状の型枠を設置し、その内部で細胞を培養することなどにより任意に調節することができる。本明細書において、播種した細胞をシート化するための培養を、「シート化培養」と称することもある。シート化培養により、培養基材上(培養容器内)のシート状細胞培養物の厚みは減少する。すなわち、播種後、細胞が沈降した後、その後のシート化により培養基材上で細胞層の厚みは減少するが、シート状細胞培養物は培養基材からの剥離により収縮し、再び厚みを増す。シート化による厚みの減少は、播種直後の細胞層の厚みを100%とすると、約90%~約10%程度である。培養基材からの剥離によりシート状細胞培養物はふたたび収縮し、その際のシート状細胞培養物の厚みの増加率は剥離直後の細胞層の厚みを100%とすると、約120%~300%である。
【0055】
シート化のためのインキュベート時間は、シートが形成され得る時間であれば特に限定されない。シートが形成され得る時間は、播種された細胞集団に含有される細胞の種類(特にシート形成細胞の種類)や細胞の状態により変化し得るが、例えばシート形成細胞として骨格筋芽細胞を含む細胞集団を播種した場合、2時間程度でシートが形成され得る。したがって一態様において、シート化のためのインキュベート時間は、2~12時間、2~11.5時間、2~11時間、2~10時間、2~9時間、2~8時間、2~7時間、2~6時間、2~5時間または2~4時間、好ましくは2~4時間または2~6時間であり得る。
【0056】
培養に用いる細胞培養液(単に「培養液」もしくは「培地」と称することもある)は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本開示の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。
基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本開示に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
【0057】
基礎培地に含まれるアミノ酸としては、限定されずに、例えば、L-アルギニン、L-シスチン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンなどが、ビタミン類としては、限定されずに、例えば、D-パントテン酸カルシウム、塩化コリン、葉酸、i-イノシトール、ナイアシンアミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ビオチン、リポ酸、ビタミンB12、アデニン、チミジンなどが、そして、電解質としては、限定されずに、例えば、CaCl、KCl、MgSO、NaCl、NaHPO、NaHCO、Fe(NO、FeSO、CuSO、MnSO、NaSiO、(NHMo24、NaVO、NiCl、ZnSOなどがそれぞれ含まれる。基礎培地には、これらの成分のほか、D-グルコースなどの糖類、ピルビン酸ナトリウム、フェノールレッドなどのpH指示薬、プトレシンなどを含んでもよい。
【0058】
本開示の一態様において、基礎培地に含まれるアミノ酸の濃度は、L-アルギニン:約63.2mg/L~約84mg/L、L-シスチン:約35mg/L~約63mg/L、L-グルタミン:約4.4mg/L~約584mg/L、グリシン:約2.3mg/L~約30mg/L、L-ヒスチジン:約42mg/L、L-イソロイシン:約66mg/L~約105mg/L、L-ロイシン:約105mg/L~約131mg/L、L-リジン:約146mg/L~約182mg/L、L-メチオニン:約15mg/L~約30mg/L、L-フェニルアラニン:約33mg/L~約66mg/L、L-セリン:約32mg/L~約42mg/L、L-トレオニン:約12mg/L~約95mg/L、L-トリプトファン:約4.1mg/L~約16mg/L、L-チロシン:約18.1mg/L~約104mg/L、L-バリン:約94mg/L~約117mg/Lである。
また、本開示の一態様において、基礎培地に含まれるビタミン剤の濃度は、D-パントテン酸カルシウム:約4mg/L~約12mg/L、塩化コリン:約4mg/L~約14mg/L、葉酸:約0.6mg/L~約4mg/L、i-イノシトール:約7.2mg/L、ナイアシンアミド:約4mg/L~約6.1mg/L、リボフラビン:約0.0038mg/L~約0.4mg/L、チアミン:約3.4mg/L~約4mg/L、ピリドキシン:約2.1mg/L~約4mg/Lである。
【0059】
細胞培養液は、上記のほか、血清、成長因子、ステロイド剤成分、セレン成分などの1種または2種以上の添加物を含んでもよい。しかし、これらの成分が自己由来のものではない場合は、臨床においてはレシピエントに対するアナフィラキシーショック等の副作用要因となり得ることが否定できない製造工程由来不純物となり得るため、臨床への適用にあたってはかかる非自己由来成分を排除することが望ましい場合がある。したがって、本開示の好ましい態様において、細胞培養液は、これらの非自己由来の添加物の少なくとも1種の有効量を含まない。また、本開示のより好ましい態様において、細胞培養液は、これらの非自己由来の添加物の少なくとも1種を実質的に含まない。さらに、本開示の特に好ましい態様において、細胞培養液は、非自己由来の添加物を実質的に含まない。一態様において、細胞培養液は、基礎培地のみを含んでもよい。
【0060】
本開示の一態様において、細胞培養液は血清を実質的に含まない。血清を実質的に含まない細胞培養液のことを、本明細書中で「無血清培地」と呼ぶこともある。ここで、「血清を実質的に含まない」とは、培養液における血清の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度(例えば、シート状細胞培養物中の血清アルブミン含量が約50ng未満となる量)であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないことを意味する。本開示においては、移植時の副作用を回避するために、細胞培養液は異種血清を実質的に含まないことが好ましく、非自己血清を実質的に含まないことがさらに好ましい。
【0061】
本開示の一態様において、細胞培養液は血清を含む。血清は、同種血清であっても異種血清であってもよい。特定の態様において、細胞培養液は自己血清を含む。血清でコートされた培養基材上で細胞を培養する場合、細胞培養液に含まれる血清(細胞の培養に用いる血清)は、培養基材をコートするために用いる血清と同じであっても異なってもよい。一態様において、細胞培養液に含まれる血清は、培養基材をコートするために用いる血清と同一であり、特定の態様において、該血清は自己血清である。血清は、本開示の製造方法に用いるためのものであってもよい。例えば、血清は、細胞の培養に用いるためのものであっても、培養基材をコートするためのものであってもよい。
【0062】
本開示の一態様において、細胞培養液は有効量の成長因子を含まない。ここで、「有効量の成長因子」とは、細胞の増殖を、成長因子がない場合に比べて、有意に促進する成長因子の量、または、便宜的に、当該技術分野において細胞の増殖を目的として通常添加する量を意味する。細胞増殖促進の有意性は、例えば、当該技術分野で知られた任意の統計学的手法、例えば、t検定などにより適宜評価することができ、また、通常の添加量は当該技術分野の種々の公知文献から知ることができる。具体的には、細胞培養におけるEGFの有効量は、例えば約0.005μg/mL以上である。
【0063】
したがって、「有効量の成長因子を含まない」とは、本開示における培養液における成長因子の濃度がかかる有効量未満であることを意味する。例えば、細胞培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは約0.005μg/mL未満、より好ましくは約0.001μg/mL未満である。本開示の好ましい態様においては、培養液における成長因子の濃度は、生体における通常の濃度未満である。かかる態様においては、例えば、細胞培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは約5.5ng/mL未満、より好ましくは約1.3ng/mL未満、さらに好ましくは、約0.5ng/mL未満である。さらに好ましい態様において、本開示における培養液は、成長因子を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、培養液中の成長因子の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液に成長因子を積極的に添加しないことを意味する。したがって、この態様においては、培養液は、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度の成長因子を含まない。
【0064】
本開示の一態様において、細胞培養液は、ステロイド剤成分を実質的に含まない。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。したがって、「ステロイド剤成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの化合物の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの化合物を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のステロイド剤成分を含まないことを意味する。
【0065】
本開示の一態様において、細胞培養液は、セレン成分を実質的に含まない。ここで「セレン成分」は、セレン分子、およびセレン含有化合物、特に、生体内でセレン分子を遊離し得るセレン含有化合物、例えば、亜セレン酸などを含む。したがって、「セレン成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの物質の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のセレン成分を含まないことを意味する。具体的には、例えば、ヒトの場合、培養液中のセレン濃度は、ヒト血清中の正常値(例えば、10.6μg/dL~17.4μg/dL)に、培地中に含まれるヒト血清の割合を乗じた値よりも低い(すなわち、ヒト血清の含量が約10%であれば、セレン濃度は、例えば、約1.0μg/dL~約1.7μg/dL未満である)。
【0066】
本開示の上記好ましい態様においては、生体に適用する細胞培養物を作製する場合に従来必要であった、成長因子、ステロイド剤成分、異種血清成分などの製造工程由来不純物を、洗浄などにより除去するステップが不要となる。したがって、本開示の方法の一態様は、この製造工程由来不純物を除去するステップを含まない。
ここで、「製造工程由来不純物」とは、典型的には、製造各工程に由来する以下に列挙するものが含まれる。すなわち、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来タンパク質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものなどである(例えば、医薬審発第571号参照)。
【0067】
(iii)において、形成されたシート状細胞培養物が、培養基材から剥離される。
シート状細胞培養物の培養基材からの剥離は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている培養基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養基材上で培養して細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。
【0068】
例えば、細胞を温度応答性培養皿で培養して細胞培養物を形成した場合には、温度を温度応答性材料の水に対する下限臨界溶液温度(LCST)以下または上限臨界溶液温度(UCST)以上とする温度処理により、シート状細胞培養物を非酵素的に遊離することができる。かかる温度処理は、限定されずに、例えば、形成されたシート状細胞培養物が付着した培養基材を、LCSTより高い温度の培養環境(例えば、約37℃の温度のインキュベーター内など)から、LCST以下の環境(例えば、インキュベーター外の室温環境など)に移行させることなどにより達成することができる。LCST以下の環境への移行は、限定されずに、例えば、形成されたシート状細胞培養物が存在するLCSTより高い温度の培養液を、LCST以下の温度の媒体(例えば、緩衝液(PBS、HBSS等)や、培養液などの液体等)に置換することなどにより達成することができる。したがって、上記緩衝液等の媒体は、本開示の製造方法において、シート状細胞培養物を培養基材から非酵素的に遊離するために用いることができる。
【0069】
(iii)の工程により剥離されたシート状細胞培養物は、剥離前と比較して収縮し、面積が小さくなる。本開示の製造方法により製造されたシート状細胞培養物は、剥離後に収縮しにくく、より大きな面積を有するという特徴がある。本開示の一態様において、剥離後のシート状細胞培養物は、剥離前のシート状細胞培養物の面積(すなわち培養基材の面積)に対して、約20%以上、例えば約20%、約25%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約50%、約60%の面積を有し、好ましくは約35%以上、例えば約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約50%、約60%の面積を有する。
【0070】
本開示のシート状細胞培養物の製造方法は、任意に貫通構造を形成するステップを含み得る。かかるステップは、1回またはそれ以上の回数含まれてよく、またステップ(i)において貫通構造形成用の部材を有しない培養基材を用いた場合(すなわちシート状細胞培養物の形成中に貫通構造を形成しなかった場合)は、ステップ(iii)の後に必ず含まれる。貫通構造を形成する方法としては、上記<1>において詳述した方法などを用いることができる。
【0071】
本開示のシート状細胞培養物の製造方法は、ステップ(iii)の後に、同様にして作製された複数の単層シート状細胞培養物を積層して1つの積層シート状細胞培養物とするステップを含み得る。かかる積層ステップは、単層シート状細胞培養物に貫通構造を形成した後に実施されてもよいし、積層ステップの後に貫通構造形成ステップを含んでもよいが、好ましくは積層ステップの後に貫通構造が形成される。
【0072】
本開示の製造方法は、(i)の前に、細胞(細胞集団)を凍結するステップと凍結細胞を解凍するステップとを含んでもよい。細胞の凍結は、既知の任意の手法により行うことができる。かかる手法としては、限定されずに、例えば、容器内の細胞を、凍結手段、例えば、フリーザー、ディープフリーザー、低温の媒体(例えば、液体窒素等)に供することなどが挙げられる。凍結手段の温度は、容器内の細胞集団の一部、好ましくは全体を凍結させ得る温度であれば特に限定されないが、典型的には約0℃以下、好ましくは約-20℃以下、より好ましくは約-40℃以下、さらに好ましくは約-80℃以下である。また、凍結操作における冷却速度は、凍結解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には4℃から冷却を始めて約-80℃に達するまで約1時間~約5時間、好ましくは約2時間~約4時間、特に約3時間かける程度の冷却速度である。具体的には、例えば、約0.46℃/分の速度で冷却することができる。かかる冷却速度は、所望の温度に設定した凍結手段に、細胞を含む容器を直接、または、凍結処理容器に収容して供することにより達成することができる。凍結処理容器は、容器内の温度の下降速度を所定の速度に制御する機能を有していてもよい。かかる凍結処理容器としては、既知の任意のもの、例えば、BICELL(R)(日本フリーザー)、プログラムフリーザーなどを用いることができる。
【0073】
凍結操作は、細胞を培養液や生理緩衝液などに浸漬させたまま行ってもよいが、細胞を凍結・解凍操作から保護するための凍結保護剤を培養液に加えたり、培養液を凍結保護剤が含まれる凍結保存液と置換するなどの処理を施したうえで行ってもよい。したがって、凍結ステップを含む本開示の製造方法は、培養液に凍結保護剤を添加するステップ、または、培養液を凍結保存液に置換するステップをさらに含んでもよい。培養液を凍結保存液に置換する場合、凍結時に細胞が浸漬している液に有効濃度の凍結保護剤が含まれていれば、培養液を実質的に全て除去してから凍結保存液を添加しても、培養液を一部残したまま凍結保存液を添加してもよい。ここで、「有効濃度」とは、凍結保護剤が、毒性を示すことなく、凍結保護効果、例えば、凍結保護剤を用いない場合と比べた、凍結解凍後の細胞の生存率、活力、機能などの低下抑制効果を示す濃度を意味する。かかる濃度は当業者に知られているか、ルーチンの実験などにより適宜決定することができる。
【0074】
凍結保護剤は、細胞に対して凍結保護作用を示すものであれば特に限定されずに、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セリシン、プロパンジオール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルデンプン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、アドニトール、ペルセイトール、ラフィノース、ラクトース、トレハロース、スクロース、マンニトールなどを含む。凍結保護剤は、単独で用いても、2種または3種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
培養液への凍結保護剤の添加濃度、または、凍結保存液中の凍結保護剤の濃度は、上記で定義した有効濃度であれば特に限定されず、典型的には、例えば、培養液または凍結保存液全体に対して約2%~約20%(v/v)である。しかしながら、この濃度範囲からは外れるが、それぞれの凍結保護剤について知られているか、実験的に決定した代替的な使用濃度を採用することもでき、かかる濃度も本開示の範囲内である。
【0076】
凍結した細胞を解凍するステップは、既知の任意の細胞解凍手法により行うことができ、典型的には、例えば、凍結した細胞を、解凍手段、例えば、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器などに供したり、または、凍結した細胞を、凍結温度より高い温度の媒体(例えば、培養液)で浸漬することにより達成されるが、これに限定されない。解凍手段または浸漬媒体の温度は、細胞を所望の時間内に解凍できる温度であれば特に限定されないが、典型的には約4℃~約50℃、好ましくは約30℃~約40℃、より好ましくは約36℃~約38℃である。また、解凍時間は、解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には約2分以内であり、特に約20秒以内とすることで生存率の低下を大幅に抑制することができる。解凍時間は、例えば、解凍手段または浸漬媒体の温度、凍結時の培養液または凍結保存液の容量もしくは組成などを変化させて調節することができる。凍結した細胞は、任意の手法により凍結させた細胞を含み、その非限定例としては、例えば、上記の細胞を凍結するステップにより凍結された細胞などが挙げられる。一態様において、凍結した細胞は、凍結保護剤の存在下で凍結された細胞である。一態様において、凍結した細胞は、本開示の製造方法に用いるためのものである。
【0077】
本開示の製造方法は、上述の凍結した細胞を解凍するステップの後、かつ、シート状細胞培養物を形成するステップ、好ましくは細胞を培養基材に播種するステップの前に、細胞を洗浄するステップを含んでいてもよい。細胞の洗浄は、既知の任意の手法により行うことができ、典型的には、例えば、細胞を洗浄液(例えば、血清や血清成分(血清アルブミンなど)を含むもしくは含まない、培養液(例えば、培地等)または生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)など)に懸濁し、遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿した細胞を回収することにより達成されるが、これに限定されない。細胞を洗浄するステップにおいては、かかる懸濁、遠心分離、回収のサイクルを1回または複数回(例えば、2、3、4、5回など)行ってもよい。本開示の一態様において、細胞を洗浄するステップは、凍結した細胞を解凍するステップの直後に行われる。
【0078】
本開示の製造方法は、上述の細胞を凍結するステップの前に、細胞を増殖させるステップをさらに含んでもよい。細胞を増殖させるステップは、既知の任意の手法で行ってもよく、当業者は各種細胞の増殖に適した培養条件に精通している。
【0079】
一態様において、本開示の製造方法は、細胞に遺伝子を導入するステップを含まない。別の態様において、本開示の製造方法は、細胞に遺伝子を導入するステップを含む。導入する遺伝子は、対象とする疾患の処置に有用なものであれば特に限定されず、例えば、HGF、VEGFなどのサイトカインであってもよい。遺伝子の導入は、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、超音波導入法、電気穿孔法、パーティクルガン法、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクター利用する方法、マイクロインジェクション法などの既知の任意の方法を用いて行うことができる。細胞への遺伝子の導入は、限定されずに、例えば、細胞を凍結するステップの前に行うことができる。
【0080】
一態様において、本開示の製造方法はその全ステップがin vitroで行われる。別の態様において、本開示の製造方法は、in vivoで行われるステップ、限定されずに、例えば、対象から細胞または細胞の給源となる組織(例えば、横紋筋組織、特に骨格筋組織)を採取するステップを含む。一態様において、本開示の製造方法はその全ステップが無菌条件下で行われる。一態様において、本開示の製造方法は、最終的に得られるシート状細胞培養物が実質的に無菌となるように行われる。一態様において、本開示の製造方法は、最終的に得られるシート状細胞培養物が無菌となるように行われる。
【0081】
また本開示の別の側面は、本開示の医療用積層体を製造する方法を包含する。
本開示の医療用積層体の製造方法は、以下の工程:
(i)少なくとも1種のシート形成細胞を含む細胞集団を培養基材に播種すること、
(ii)上記(i)で播種された細胞集団を細胞培養液中でシート化し、シート状細胞培養物を形成すること、
(iii)上記(ii)で形成されたシート状細胞培養物を培養基材から剥離すること、および
(iv)上記(iii)で剥離したシート状細胞培養物上に、生体適合性ゲルで補強層を形成すること、
を含み、さらに任意に貫通構造を形成することを含み得る。
【0082】
本開示の医療用積層体の製造方法におけるステップ(i)~(iii)は、上記本開示のシート状細胞培養物の製造方法のステップ(i)~(iii)について詳述したとおりである。また、かかるステップにより形成されるシート状細胞培養物には、任意に貫通構造が形成されてもよい。
【0083】
(iv)において、シート状細胞培養物上に、生体適合性ゲルで補強層が形成される。かかるステップに用い得る生体適合性ゲルは、上記<1>において詳述したとおりである。補強層を形成する方法としては、上記<1>において、生体適合性ゲルを含む補強層の形成方法として詳述したとおりである。
補強層が形成されるシート状細胞培養物は、単層シート状細胞培養物であっても積層シート状細胞培養物であってもよい。積層シート状細胞培養物である場合、ステップ(iii)の後ステップ(iv)の前に任意に、複数の単層シート状細胞培養物を積層して1つの積層シート状細胞培養物を形成するステップを含んでよい。
【0084】
またステップ(iv)において、補強層は、複数の独立したシート状細胞培養物(単層または積層)上に形成されてもよい。この場合、複数の独立したシート状細胞培養物(単層または服装)が、1つの補強層により連結された医療用積層体が形成されることになる。
本開示の医療用積層体の製造方法は、任意に貫通構造を形成するステップを含み得る。かかる貫通構造は、少なくとも補強層を貫通する貫通構造であり、好ましくは補強層及びシート状細胞培養物を貫通する貫通構造である。
【0085】
貫通構造を形成するステップは、1回またはそれ以上の回数含まれてよく、またステップ(i)~(iv)において、医療用積層体の形成中に貫通構造を形成しなかった場合は、ステップ(iv)の後に必ず含まれる。貫通構造を形成する方法としては、上記<1>において詳述した方法などを用いることができる。
【0086】
<3>本開示のシート状細胞培養物、医療用積層体および/または移植用医薬組成物を用いた処置方法
本開示は別の側面において、本開示のシート状細胞培養物、医療用積層体および/または移植用医薬組成物(以下、「本開示のシート状細胞培養物等」と称する場合がある)の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、対象において疾患を処置する方法を包含する。本開示の処置方法の対象となる組織や疾患は、本開示のシート状細胞培養物について上記したとおりである。また、本開示の処置方法においては、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、本開示のシート状細胞培養物または組成物等と併用することができる。
【0087】
本開示の処置方法は、本開示の製造方法に従って、シート状細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよい。本開示の処置方法は、シート状細胞培養物を製造するステップの前に、対象からシート状細胞培養物を製造するための細胞または細胞の供給源となる組織を採取するステップをさらに含んでもよい。一態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象と同一の個体である。別の態様において、細胞または細胞の供給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象とは異種の個体である。
【0088】
本開示において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。本開示において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、シート状細胞培養物の適用により改善される疾患(例えば、組織の異常に関連する疾患など)の処置が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
【0089】
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、シート状細胞培養物の適用により改善される疾患(例えば、組織の異常に関連する疾患など)の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0090】
本開示において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、シート状細胞培養物のサイズや重量、枚数など)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0091】
適用方法としては、典型的には組織への直接的な適用が挙げられる。適用頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合などには、複数のシートを適用することも可能である。組織への直接的な適用は、例えば本開示のシート状細胞培養物等を組織の疾患部位に貼付するように適用する方法などが用いられる。
【0092】
処置の対象となる組織(適用組織)としては、限定されずに、例えば、心臓(心筋)、角膜、網膜、食道、皮膚、関節、軟骨、肝臓、膵臓、歯肉、腎臓、甲状腺、骨格筋、中耳などが挙げられる。また、処置の対象となる疾患としては、限定されずに、例えば、心疾患(例えば、心筋傷害(心筋梗塞、心外傷等)、心筋症(虚血性心筋症、拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症等)など)、角膜疾患(例えば、角膜上皮幹細胞疲弊症、角膜損傷(熱・化学腐食)、角膜潰瘍、角膜混濁、角膜穿孔、角膜瘢痕、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡など)、網膜疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症など)、食道疾患(例えば、食道手術(食道ガン除去)後の食道の炎症・狭窄の予防など)、皮膚疾患(例えば、皮膚損傷(外傷、熱傷)など)、関節疾患(例えば、変形性関節炎など)、軟骨疾患(例えば、軟骨の損傷など)、肝疾患(例えば、慢性肝疾患など)、膵臓疾患(例えば、糖尿病など)、歯科疾患(例えば、歯周病など)、腎臓疾患(例えば、腎不全、腎性貧血、腎性骨異栄養症など)、甲状腺疾患(例えば、甲状腺機能低下症など)、筋疾患(例えば、筋損傷、筋炎など)、中耳疾患(例えば、中耳炎など)が挙げられる。
【0093】
適用組織が心臓などの臓器である場合など、適用箇所が拍動や蠕動運動などにより頻繁に動く場合、本開示のシート状細胞培養物等を貼付するだけでは適用箇所から脱落してしまう場合がある。したがって本発明の処置方法の好ましい一態様において、本開示のシート状細胞培養物等を疾患部位に適用した後、貫通部位に縫合針などを通して本開示のシート状細胞培養物等を縫合固定することが含まれる。これにより疾患部位に適用された本開示のシート状細胞培養物等が、適用箇所から脱落することを防止できる。
【実施例
【0094】
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これらは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
例1.貫通構造を有する医療用積層体の製造
(1)シート状細胞培養物の製造
成人大腿部から無菌的に採取した骨格筋組織から得られた細胞を培養フラスコに播種し、筋芽細胞数と線維芽細胞数の比率を調整するために、20%FBSを含有するMCDB131培地中で増殖させた。増殖させた細胞をタンパク質分解酵素液で培養フラスコから剥離させ、回収後、遠心分離により濃縮した。
【0096】
20%ヒト血清を含有するDMEM/F12培地をφ10cm温度応答性培養皿に添加し一晩静置した。その後、添加した培地を廃棄した。
20%ヒト血清を含有するDMEM/F12培地1mLあたり細胞を6.0×10~6.1×10個懸濁して得た細胞懸濁液を10mL、φ10cm温度応答性培養皿(UpCell(R)、セルシード製、培養基材の面積:56.7cm)に播種した。播種後、細胞を、37℃、5%COの条件でインキュベートし、20時間後に培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップに供した。
【0097】
(2)補強層および貫通構造の形成
剥離したシート状細胞培養物にまんべんなくフィブリノゲン液とトロンビン液を同時に滴下した。5分静置後、HBSS(+)でゲル化されていない余剰分の液を洗浄し、フィブリンゲルを含む補強層が形成されたことを確認した。
フィブリンゲルを含む補強層を形成したシート状細胞培養物の周縁部に、補強層及びシート状細胞培養物を貫通するように、はさみで直径約1mm程度の孔を形成した(図1)。孔を形成しないシート状細胞培養物では縫合針がなかなか貫通しないが、孔を形成した場合は簡単に縫合針を通すことができた(図2)。
【0098】
例2.貫通構造を有するシート状細胞培養物の製造
成人大腿部から無菌的に採取した骨格筋組織から得られた細胞を培養フラスコに播種し、筋芽細胞数と線維芽細胞数の比率を調整するために、20%FBSを含有するMCDB131培地中で増殖させた。増殖させた細胞をタンパク質分解酵素液で培養フラスコから剥離させ、回収後、遠心分離により濃縮した。
20%ヒト血清を含有するDMEM/F12培地をφ10cm温度応答性培養皿に添加し一晩静置した。その後、添加した培地を廃棄した。
20%ヒト血清を含有するDMEM/F12培地1mLあたり細胞を6.0×10~6.1×10個懸濁して得た細胞懸濁液を、貫通構造形成のための障害物を置いた10mL、φ10cm温度応答性培養皿(UpCell(R)、セルシード製、培養基材の面積:56.7cm)に播種した(図3A)。播種後、細胞を、37℃、5%COの条件でインキュベートし、20時間後に培養基材からシート状細胞培養物を剥離するステップに供した。貫通構造として孔を有するシート状細胞培養物が製造された(剥離前:図3B、剥離後:図3C)。
【符号の説明】
【0099】
1 医療用積層体
10 シート状細胞培養物
11 補強層
101 孔
102 切れ込み
図1
図2
図3
図4