(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】車両用窓ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60J 1/00 20060101AFI20230414BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20230414BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B60J1/00 H
C03C27/12 L
B32B17/06
(21)【出願番号】P 2020510831
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012632
(87)【国際公開番号】W WO2019189042
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018060961
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018121902
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】浅井 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】藤野 一也
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-506308(JP,A)
【文献】特開2007-112710(JP,A)
【文献】特開2008-037668(JP,A)
【文献】特開2007-250430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
C03C 27/12
B32B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのガラス板を有するガラス体と、
少なくとも一つの前記ガラス板の表面に積層され、表面抵抗値が11~15Ω/□の導電性膜により形成された膜領域と、
を備え
、
前記膜領域には、
少なくとも一部に車両に対して水平な方向に開いた箇所を有する不連続線で形成され、前記導電性膜が積層されていない、少なくとも一つの第1除去領域が形成されており、
前記不連続線の線幅は1mm以上である、車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記膜領域には、閉じた線により形成され、前記導電性膜が積層されていない、少なくとも一つ
の除去領域が形成されている、請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記ガラス板の波長短縮率をαとしたとき、前
記除去領域は、一辺が50×α(mm)以上の矩形状に形成されている、請求項2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前
記除去領域の全周の長さをL1(mm)としたとき、L1≧200×αを充足する、請求項3に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記各第1除去領域の内側に、当該第1除去領域に沿って前記導電性膜が積層されていない、第2除去領域が形成され、
前記第1除去領域と前記第2除去領域との間に前記導電性膜で形成された領域が形成されている、請求項
1から4のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記各第2除去領域の内側に、当該第2除去領域に沿って前記導電性膜が積層されていない、第3除去領域が形成され、
前記第2除去領域と前記第3除去領域との間に前記導電性膜で形成された領域が形成されている、請求項
5に記載の車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記第1から第3除去領域のうち、いずれか2つの除去領域において、全長の長い除去領域の長さをL2、全長の短い除去領域の長さをL3としたとき、L2≧1.5×L3を充足する、請求項
6に記載の車両用窓ガラス。
【請求項8】
複数の前記第1除去領域の外側に、当該複数の第1除去領域を囲むように配置された閉じた線により形成され、前記導電性膜が積層されていない、少なくとも一つの第4除去領域が形成されている、請求項
1から7のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【請求項9】
前記導電性膜は、CVD法により形成されている、請求項1から
8のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【請求項10】
前記導電性膜は、JIS R3221:2002に規定される耐光性、耐摩耗性、耐酸性、および耐アルカリ性の全ての項目において、A類及びB類の要求品質を全て満たす導電性膜である、請求項1から
9のいずれかに記載に車両用窓ガラス。
【請求項11】
前記導電性膜は、前記ガラス体の車内側の面に積層されている、請求項1から
10のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【請求項12】
前記ガラス体は
外側ガラス板と、
内側ガラス板と、
前記外側ガラス板及び内側ガラス板の間に配置される中間膜と、
を備え、
前記導電性膜は、前記外側ガラス板における車内側の面、及び前記内側ガラス板の車外側の面の少なくとも一方に積層されている、請求項1から11のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【請求項13】
前記導電性膜は、前記外側ガラス板における車内側の面、及び前記内側ガラス板の車外側の面の両方に積層されている、請求項
12に記載の車両用窓ガラス。
【請求項14】
周波数X(X≧0.7×10
9Hz)の電波を-24dB以上透過する、請求項
1から13のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【請求項15】
前記ガラス板の波長短縮率をα、光速をc(mm/s)、前記第1除去領域の全周の長さをL1(mm)としたとき、L1≧λ×α(但し、λ(mm)=c/X)を充足する、請求項
14に記載の車両用窓ガラス。
【請求項16】
前記第1除去領域は、矩形状に形成され、少なくとも一部に開いた箇所を有する不連続線で形成され、
前記開いた箇所の長さが、λ×α以上である、請求項
15に記載の車両用窓ガラス。
【請求項17】
フロート法によるガラス板の製造中において、前記ガラス板の表面に、表面抵抗値が11~15Ω/□の導電性膜により形成された膜領域を積層するステップと、
前記膜領域の一部の前記導電性膜を除去した少なくとも1つの除去領域を形成するステップと、
を備
え、
前記除去領域は、
少なくとも一部に車両に対して水平な方向に開いた箇所を有する不連続線で形成され、前記導電性膜が積層されておらず、
前記不連続線の線幅は1mm以上である、車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項18】
前記ガラス板において、車内側を向く面に前記膜領域が形成されている、請求項
17に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項19】
外側ガラス板及び内側ガラス板の間に、中間膜を配置した合わせガラスを形成するステップをさらに備え、
前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板の少なくとも一方が、前記膜領域が積層されたガラス板である、請求項
17に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項20】
前記内側ガラス板が、前記膜領域が積層されたガラス板であり、前記膜領域は、前記内側ガラス板において車内側の面に積層されている、請求項
19に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項21】
前記外側ガラス板及び内側ガラス板の両方が、前記膜領域が積層されたガラス板であり、前記膜領域は、前記外側ガラス板及び内側ガラス板において車内側の面にそれぞれ積層されている、請求項
19に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項22】
前記除去領域
の少なくとも1つは、閉じた線により構成されている、請求項
17から21のいずれかに記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項23】
前記除去領域を形成するステップでは、レーザーを照射することで前記導電性膜を除去
する、請求項
17から22のいずれかに記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項24】
前記レーザーは、赤外線レーザー、グリーンレーザー、紫外線レーザーの内から選択される、請求項
23に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項25】
前記レーザーは、赤外線レーザーである、請求項
23に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用窓ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンで駆動する自動車(以下、ガソリン車)においては、エンジンが熱源となるため、この熱源を利用して、エアコンの使用時には車内へ熱を供給することができる。これに対して、電気自動車には熱源となるエンジンがないため、車内へ熱の供給を行うには、自動車の動力源である電池を利用しなければならない。しかしながら、電池を走行以外に利用すると、航続距離に影響を及ぼすという問題がある。
【0003】
そのため、電気自動車では、従来のガソリン車以上に車内側の熱を外部に逃がさない工夫が求められている。そこで、電気自動車用の窓ガラスとして、遮熱ガラス(Low-Eガラス)の使用が検討されている。Low-Eガラスは、一般的にはガラスの表面ほぼ全面に金属膜を形成し、熱線を反射させることで遮熱をしている。しかしながら、この金属膜は導電性膜であり、この膜の影響により、電波の透過率が低下するという問題がある。例えば、現代の自動車には、ラジオ、テレビ、携帯電話、車両と地上との通信など、種々の電波を透過させる性能が求められている。
【0004】
これに対して、特許文献1には、金属膜の一部を線状に除去することにより、電波の透過性を向上する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Low-Eガラスにおける電波の透過性能については、十分ではなく、さらなる改良が要望されていた。なお、このような問題は、主として電気自動車において生じうるが、ガソリン車においてもLow-Eガラスが用いられることが期待されるため、車両全般に生じうる問題である。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、金属膜が積層された遮熱性能を有するとともに、電波の透過性能も向上することができる、車両用窓ガラス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
項1.少なくとも一つのガラス板を有するガラス体と、
少なくとも一つの前記ガラス板の表面に積層され、表面抵抗値が11~15Ω/□の導電性膜により形成された膜領域と、
を備えている、車両用窓ガラス。
【0008】
項2.前記膜領域には、閉じた線により形成され、前記導電性膜が積層されていない、少なくとも一つの第1除去領域が形成されている、項1に記載の車両用窓ガラス。
【0009】
項3.前記ガラス板の波長短縮率をαとしたとき、前記第1除去領域は、一辺が50×α(mm)以上の矩形状に形成されている、項2に記載の車両用窓ガラス。
【0010】
項4.前記第1除去領域の全周の長さをL1(mm)としたとき、L1≧200×αを充足する、項3に記載の車両用窓ガラス。
【0011】
項5.前記膜領域には、少なくとも一部に開いた箇所を有する不連続線で形成され、前記導電性膜が積層されていない、少なくとも一つの第1除去領域が形成されている、項1に記載の車両用窓ガラス。
【0012】
項6.前記各第1除去領域の内側に、当該第1除去領域に沿って前記導電性膜が積層されていない、第2除去領域が形成され、
前記第1除去領域と前記第2除去領域との間に前記導電性膜で形成された領域が形成されている、項2から5のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【0013】
項7.前記各第2除去領域の内側に、当該第2除去領域に沿って前記導電性膜が積層されていない、第3除去領域が形成され、
前記第2除去領域と前記第3除去領域との間に前記導電性膜で形成された領域が形成されている、項6に記載の車両用窓ガラス。
【0014】
項8.前記第1から第3除去領域のうち、いずれか2つの除去領域において、全長の長い除去領域の長さをL2、全長の短い除去領域の長さをL3としたとき、L2≧1.5×L3を充足する、項7に記載の車両用窓ガラス。
【0015】
項9.複数の前記第1除去領域の外側に、当該複数の第1除去領域を囲むように配置された閉じた線により形成され、前記導電性膜が積層されていない、少なくとも一つの第4除去領域が形成されている、項2から8のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【0016】
項10.前記導電性膜は、CVD法により形成されている、項1から9のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【0017】
項11.前記導電性膜は、JIS R3221:2002に規定される耐光性、耐摩耗性、耐酸性、および耐アルカリ性の全ての項目において、A類及びB類の要求品質を全て満たす導電性膜である、項1から10のいずれかに記載に車両用窓ガラス。
【0018】
項12.前記導電性膜は、前記ガラス体の車内側の面に積層されている、項1から11のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【0019】
項13.前記ガラス体は
外側ガラス板と
内側ガラス板と、
前記外側ガラス板及び内側ガラス板の間に配置される中間膜と、
を備え、
前記導電性膜は、前記外側ガラス板における車内側の面、及び前記内側ガラス板の車外側の面の少なくとも一方に積層されている、項1から11のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【0020】
項14.前記導電性膜は、前記外側ガラス板における車内側の面、及び前記内側ガラス板の車外側の面の両方に積層されている、項13に記載の車両用窓ガラス。
【0021】
項15.周波数X(X≧0.7×109Hz)の電波を-24dB以上透過する、項2から14のいずれかに記載の車両用窓ガラス。
【0022】
項16.前記ガラス板の波長短縮率をα、光速をc(mm/s)、前記第1除去領域の全周の長さをL1(mm)としたとき、L1≧λ×α(但し、λ(mm)=c/X)を充足する、項15に記載の車両用窓ガラス。
【0023】
項17.前記第1除去領域は、矩形状に形成され、少なくとも一部に開いた箇所を有する不連続線で形成され、
前記開いた箇所の長さが、λ×α以上である、項16に記載の車両用窓ガラス。
【0024】
項18.フロート法によるガラス板の製造中において、前記ガラス板の表面に、表面抵抗値が11~15Ω/□の導電性膜により形成された膜領域を積層するステップと、
前記膜領域の一部の前記導電性膜を除去した少なくとも1つの除去領域を形成するステップと、
を備えている、車両用窓ガラスの製造方法。
【0025】
項19.前記ガラス板において、車内側を向く面に前記膜領域が形成されている、項18に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0026】
項20.外側ガラス板及び内側ガラス板の間に、中間膜を配置した合わせガラスを形成するステップをさらに備え、
前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板の少なくとも一方が、前記膜領域が積層されたガラス板である、項18に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0027】
項21.前記内側ガラス板が、前記膜領域が積層されたガラス板であり、前記膜領域は、前記内側ガラス板において車内側の面に積層されている、項20に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0028】
項22.前記外側ガラス板及び内側ガラス板の両方が、前記膜領域が積層されたガラス板であり、前記膜領域は、前記外側ガラス板及び内側ガラス板において車内側の面にそれぞれ積層されている、項20に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0029】
項23.前記除去領域は、閉じた線により構成されている、項18から24のいずれかに記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0030】
項24.前記除去領域は、少なくとも一部に開いた箇所を有する不連続線により構成されている、項18から22のいずれかに記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0031】
項25.前記除去領域を形成するステップでは、レーザーを照射することで前記導電性膜を除去する、項18から24のいずれかに記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0032】
項26.前記レーザーは、赤外線レーザー、グリーンレーザー、紫外線レーザーの内から選択される、項25に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【0033】
項27.前記レーザーは、赤外線レーザーである、項25に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、金属膜が積層された遮熱性能を有するとともに、電波の透過性能も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に係る窓ガラスをウインドシールドに適用した場合の一実施形態の正面図である。
【
図11D】ウインドシールドの他の例を示す平面図である。
【
図13】実施例1,2、比較例における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図14】実施例3~23の除去領域を示す平面図である。
【
図15】実施例3~5における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図16】実施例6~10における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図17】実施例11~16における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図18】実施例17~23における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図19】実施例24~26の除去領域を示す平面図である。
【
図20】実施例24~26における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図21】実施例27~30の除去領域を示す平面図である。
【
図22】実施例31~34の除去領域を示す平面図である。
【
図23】実施例27~34における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図24】実施例35,36の除去領域を示す平面図である。
【
図25】実施例35,36における電波の透過性能を示すグラフである。
【
図26】実施例37の除去領域を示す平面図である。
【
図27】実施例37~39における電波の透過性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る車両用窓ガラスをウインドシールドに適用した場合の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るウインドシールドは、合わせガラス(ガラス体)1と、この合わせガラス1に積層された導電性膜2と、を備えている。以下、このウインドシールドについて、詳細に説明する。
【0037】
<1.合わせガラス>
図1は合わせガラスの平面図、
図2は
図1の断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る合わせガラス1は、外側ガラス板11と、内側ガラス板12と、これらのガラス板11,12の間に配置される樹脂製の中間膜13と、を備えている。なお、
図2では、内側ガラス板12に導電性膜2が形成されているが、これは一例である。以下、これらについて説明する。
【0038】
<1-1.外側ガラス板及び内側ガラス板>
外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、この合わせガラス1を自動車の窓ガラスに用いる場合には、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板11により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板12により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0039】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0040】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0041】
外側ガラス板11は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラス1を自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。この観点から、外側ガラス板11の厚みは1.8mm以上、1.9mm以上、2.0mm以上、2.1mm以上、2.2mm以上の順で好ましい。一方、外側ガラス板11の厚みの上限は、5.0mm以下、4.0mm以下、3.1mm以下、2.5mm以下、2.4mm以下の順で好ましい。この中で、2.1mmより大きく2.5mm以下、特に、2.2mm以上2.4mm以下が好ましい。
【0042】
一方、内側ガラス板12は、合わせガラス1の軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることが好ましい。具体的には、内側ガラス板12の厚みは、0.6mm以上、0.8mm以上、1.0mm以上、1.3mm以上の順で好ましい。一方、内側ガラス板12の厚みの上限は、1.8mm以下、1.6mm以下、1.4mm以下、1.3mm以下、1.1mm未満の順で好ましい。この中で、例えば、0.6mm以上1.1mm未満が好ましい。
【0043】
また、本実施形態に係る外側ガラス板11及び内側ガラス板12の形状は、平面形状及び湾曲形状のいずれであってもよい。但し、ガラスが湾曲形状である場合には、ダブリ量が大きくなると遮音性能が低下するとされている。ダブリ量とは、ガラス板の曲げを示す量であり、例えば、ガラス板の上辺の中央と下辺の中央とを結ぶ直線を設定したとき、この直線とガラス板との距離のうち最も大きいものをダブリ量と定義する。
【0044】
ここで、ガラス板が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線S上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。なお、ガラス板が平坦な場合でも、湾曲している場合と同様に測定することができる。
【0045】
<1-2.中間膜>
中間膜13は、複数の層で形成されており、一例として、
図2に示すように、軟質のコア層131を、これよりも硬質のアウター層132で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、軟質のコア層131を有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層131を含む2層(コア層が1層と、アウター層が1層)、またはコア層131を中心に配置した5層以上の奇数の層(コア層が1層と、アウター層が4層)、あるいはコア層131を内側に含む偶数の層(コア層が1層と、他の層がアウター層)で形成することもできる。あるいは、一層で中間膜13を構成することもできる。
【0046】
コア層131はアウター層132よりも軟質の材料により形成することができるが、これに限定されない。また、各層131,132を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、コア層が軟質となるような材料で形成することができる。例えば、アウター層132は、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層131は、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層132を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層131を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜3と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0047】
また、中間膜13の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。一方、コア層131の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。0.1mmよりも小さくなると、軟質なコア層131の影響が及びにくくなり、また、2.0mmや0.6mmより大きくなると総厚があがりコストアップとなるからである。一方、アウター層132の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜13の総厚を一定とし、この中でコア層131の厚みを調整することもできる。
【0048】
なお、中間膜13の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜13の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。
【0049】
中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。
【0050】
<2.導電性膜>
<2-1.導電性膜の概要>
次に、導電性膜2について説明する。導電性膜2は、合わせガラス1を低放射(Low-E)ガラスとするためのものであり、合わせガラス1の全面に亘って形成することができる。なお、導電性膜2は、合わせガラス1のいずれの面に形成することもできるが、例えば、外側ガラス板11の車内側の面、及び内側ガラス板12の車外側の面の少なくとも一方に形成することができる。また、以下では、導電性膜2が形成されている領域を膜領域20と称することとする。
【0051】
導電性膜2は、面抵抗が11~15Ω/□である材料で形成される。面抵抗の測定は、三菱化学社製、ロレスタIPを使用して実施することができる。
【0052】
このような導電性膜を形成する材料としては、少なくとも一つの金属を含んでいればよいが、例えば、銀、モリブデン、タンタル、ニオブ、アンチモン、アルミニウム又はこれらの合金、及び/又は少なくとも1つの金属酸化物層、好適にはタンタルドープ酸化チタン、タンタルドープ酸化スズ、ITO(酸化スズインジウム)、フッ素ドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、ニオブドープ酸化チタン、アルミニウムドープ酸化亜鉛を含むことができる。
【0053】
また、導電性膜20の厚さは、特には限定されないが、例えば、10nm~5μmとすることが好ましく、30nm~1μmとすることがさらに好ましい。
【0054】
次に、導電性膜の形成方法は、特には限定されないが、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法などのいわゆる物理蒸着法、スプレー法、あるいは、化学気相法(CVD法)を採用することができる。特に、CVD法を採用する場合、オンラインCVD法を採用することが好ましい。オンラインCVD法とは、フロート法ガラス製造工程において、溶融錫浴上にある温度が615℃以上のガラスリボン上に、導電性膜用の材料を供給し、熱分解酸化反応により導電性膜を形成する化学蒸着法の一つである。
【0055】
上記のように、導電性膜2を合わせガラス1に積層することで、熱線を反射させることができる。これにより、遮熱を行うことができ、車内の断熱効果を向上することができる。但し、導電性膜2により、車外からの電波の透過率が低減するため、ラジオ、テレビ、携帯電話、車両と地上との各種通信など、種々の電波が合わせガラス1を透過するのが妨げられ、通信障害が生じる可能性がある。
【0056】
そこで、本発明者は、上記のように、面抵抗が11~15Ω/□の導電性膜2を合わせガラス1に積層すると、合わせガラス1の全面に導電性膜2を積層したとしても、電波の透過性能の低減を抑制することができることを見出した。特に、CVD法で導電性膜2を形成すると、電波透過性能の低減の抑制効果が高いことも見出した。また、本発明者は、膜領域20に以下のような除去領域を形成すると、電波透過性能の低減をさらに抑制できることを見出した。以下、除去領域について、説明する。
【0057】
<2-2.除去領域>
除去領域は膜領域20から導電性膜2を除去した領域であり、種々の形状にすることができるが、以下のような例がある。
【0058】
(1)
図3に示すように、膜領域20の中に、矩形状の閉じた線による複数の第1除去領域21が形成されている。この第1除去領域21は、導電性膜2が積層されていない領域であり、各第1除去領域21の中に、矩形状の導電性膜が形成されている。そして、複数の第1除去領域21は所定間隔をおいて配置されている。
【0059】
(2)
図4に示すように、膜領域20の中に、上述した複数の第1除去領域21が形成され、この第1除去領域21の内側に、間隔をおいて矩形状の第2除去領域22が形成されている。第2除去領域22は、第1除去領域21に沿う矩形状の閉じた線により形成された導電性膜2が積層されていない領域である。すなわち、第1除去領域21と第2除去領域22とは概ね同心状に形成されている。これにより、第1除去領域21と第2除去領域22との間には、矩形の線状の第1導電領域31が形成されている。なお、この例では、第1除去領域21と第2除去領域22との隙間が小さいため、第1導電領域31は線状に形成されるが、両除去領域21,22の隙間が大きい場合には、必ずしも線状にはならない。この点は、後述する他の導電領域においても同様である。
【0060】
(3)
図5に示すように、膜領域20の中に、上述した複数の第1除去領域21及び第2除去領域22が形成され、各第2除去領域22の内側に、間隔をおいて矩形状の第3除去領域23が形成されている。第3除去領域23は、第2除去領域22に沿う矩形状の閉じた線により形成された導電性膜2が積層されていない領域である。すなわち、第1~第3除去領域21~23は同心状に形成されている。これにより、上述した第1導電領域31に加え、第2除去領域22と第3除去領域23との間には、矩形の線状の第2導電領域32が形成されている。
【0061】
(4)
図6に示すように、膜領域20の中に、上述した複数の第1除去領域21及び第2除去領域22が形成されている。そして、4つの第1除去領域21を囲むように、各第1除去領域21の外側に間隔をあけて、矩形状の第4除去領域24が形成されている。第4除去領域24は、矩形状の閉じた線により形成され、導電性膜2が積層されていない領域である。これにより、第1除去領域21と第4除去領域24との間には、矩形の線状の第3導電領域33が形成されている。
【0062】
(5)
図7に示すように、膜領域20の中に、上述した各第4除去領域24の外側に間隔をあけて、矩形状の第5除去領域25が形成されている。第5除去領域25は、矩形状の閉じた線により形成され、導電性膜2が積層されていない領域である。これにより、第4除去領域24と第5除去領域25との間には、矩形の線状の第4導電領域34が形成されている。
【0063】
上記(1)~(5)は、一例であり、各除去領域21~25は矩形状以外でもよく、円形、多角形状であってもよい。
図5に示す(3)の例では、同心状の3つの除去領域21~23を形成しているが、4つ以上の同心状の除去領域を形成することもできる。
図6に示す(4)の例では、4つの第1除去領域21を囲むように第4除去領域24を形成しているが、囲むべき第1除去領域21の数は特には限定されず、2以上の第1除去領域21を囲むように形成されていればよい。また、
図7に示すように、第4除去領域24を囲む第5除去領域25を設けることもでき、複数の除去領域(例えば、第1及び第2除去領域21,22)を囲む同心状の除去領域の数は特には限定されない。さらに、厳密な同心状でなくてもよく、多少ずれていてもよい。
【0064】
(6)上記(1)~(5)における各除去領域21~25は、閉じた線により形成されているが、少なくとも1つの開いた箇所を形成することもできる。すなわち、各除去領域21~25を、少なくとも一つの開いた箇所を有する不連続線で形成することもできる。例えば、
図8には、
図4に示す第1及び第2除去領域21、22が示されているが、これら除去領域21,22の一部、つまり右辺の中央付近に開いた箇所211、221を形成している。これにより、第1及び第2除去領域21,22は、一部が開いた領域、つまりC字状の領域を形成している。
【0065】
(7)
図9の例では、第1及び第2除去領域21、22が示されているが、右辺及び左辺の中央付近に開いた箇所211,221を形成している。したがって、この例の第1及び第2除去領域21,22は、U字状の線を上下方向に所定間隔をおいて配置し、全体として矩形状に形成したものである。
【0066】
(8)
図10の例では、第1及び第2除去領域21,22が示されているが、右辺全体に開いた箇所211,221を形成している。これにより、第1及び第2除去領域21,22は、U字状の領域の形成している。また、同図の左側に示すように、下側(または上側)に開いた箇所があってもよい。
【0067】
なお、開いた箇所211,221の位置、数、及び長さは特には限定されないが、開いた箇所の全長は、閉じた線の長さの概ね25%以内であることが好ましい。また、(6)~(8)の例は、
図4の第1及び第2除去領域21,22に基づいて形成しているが、他の除去領域に開いた箇所を設けることもできる。また、(1)~(8)の例を適宜組み合わせることができる。
【0068】
上記のような除去領域21~25により、特に、0.7×109Hz以上の周波数X(Hz)における電波の透過減衰量を大きくすることができ、例えば、この周波数Xの電波を-24dB以上透過させることが好ましい。
【0069】
この場合、第1除去領域の全周の長さL1(mm)は、L1≧λ(但し、λ(mm)=(c/X)を充足する)ことが好ましい(c(mm/s)は、光速)。また、第1除去領域21における開いた箇所211の長さは、例えば、λ(mm)以上であることが好ましい。
【0070】
また、上記第1から第5除去領域のいずれかを設ける場合、そのうちのいずれか2つの除去領域であって、一方の除去領域が他方の除去領域の内部に配置されている場合、これら2つの除去領域の関係が以下の式(A)を充足すれば、特定の周波数域の透過減衰量が大きくなる。
L2≧1.5×L3 (A)
但し、L2はいずれか2つの除去領域のうち、全長の長い除去領域の長さであり、L3はいずれか2つの除去領域のうち、全長の短い除去領域の長さである。なお、除去領域に開いた箇所が形成されているとき、L2,L3は、除去領域を外挿して閉じた図形としたときの長さとする。
【0071】
この関係を充足していれば、全長の長い除去領域により低周波域の電波の透過減衰量が大きくなり、全長の短い除去領域により高周波域の電波の透過減衰量が大きくなることが、本発明者により確認されている。
【0072】
除去領域の線幅は特には限定されないが、例えば、0.025~0.3mmとすることが好ましく、0.03~0.14mmとすることがさらに好ましい。また、このような除去領域は、例えば、膜領域に、レーザービームを照射し、これによって導電性膜を線状に除去することができる。
【0073】
レーザービームとしては、例えば、赤外線レーザー、グリーンレーザー、UVレーザー等、ガラスの切断や穴開けに一般的に用いられるレーザーであれば使用できる。中でも、膜部分だけを除去し、ガラス部分を除去せずに残すためには赤外線レーザーを用いることが好ましく、YAGレーザーを用いることが特に好ましい。なお、除去領域の線幅が太すぎると、除去領域と開いた箇所の透過光の差が顕著になり、除去領域が視認されやすくなる。そこで、除去領域の視認を抑制するには、除去領域の線幅を、電波透過に影響がない程度まで細くすることが好ましい。例えば、出力10~50WのYAGレーザーをガルバノ光学系を使用して集光し、走査速度200mm/s~1,000mm/sで照射加工することで、適切な除去領域を作製することができる。
【0074】
また、車両用ガラスの場合、搭乗者の視線の動きとガラス角度の関係から、一般的には、車両に対して水平な方向に透過光の差が存在する場合(横筋状)が、車
両に対して垂直に存在する場合(縦筋状)よりも、差が視認されやすいことが知られている。このような点から、車両に対して水平な方向の除去領域を減らす、すなわち車両に対して水平な方向に前記開いた箇所を多く設けることで、除去領域がより視認されにくくなる効果も期待できる。したがって、例えば、
図10の右側の図のような除去領域を設けることが好ましい。
【0075】
除去領域は、ウインドシールドのいずれの位置にも形成することができるが、電波の受信を考慮すると、ウインドシールドの上部に形成することが好ましい。
【0076】
<3.ウインドシールドの製造方法>
本実施形態に係る合わせガラスの製造方法は、特に限定されず、従来より公知の合わせガラスの製造方法を採用することができる。まず、外側ガラス板11及び内側ガラス板12の少なくとも一方に導電性膜2を上述したCVD法(特に、オンラインCVD法)により積層し、膜領域20を形成する。その後、必要に応じて、レーザーによって除去領域を形成する。次に、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着は、これ以外の方法を用いることもできる。例えば、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、オーブンにより45~65℃で加熱する。続いて、この合わせガラス1を0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。次に、この合わせガラス1を、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0077】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。こうして、本実施形態に係るウインドシールドが製造される。
【0078】
<4.特徴>
上記のように、面抵抗が11~15Ω/□の導電性膜2を合わせガラス1に積層すると、遮熱効果により、車内の断熱性を確保することができる。特に、電気自動車においては、エアコンの使用を少なくすることができ、節電効果が高い。そして、このような導電性膜2であれば、合わせガラス1の全面に積層したとしても、電波透過性能の低減を抑制することができる。
【0079】
また、膜領域20の中に、除去領域21~25を形成することで、電波透過性能の低減をさらに抑制することができる。例えば、第1除去領域21と第2除去領域22との間には、矩形状の第1導電領域31が形成されるが、これがループアンテナの役割を果たしていると考えられる。したがって、このような除去領域を設けることで、遮熱性能を有しながらも、電波透過性能の低減の抑制も可能となる。
【0080】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。また、以下の変形例及び上記実施形態で示した除去領域の態様は、2以上を適宜組み合わせることができる。
【0081】
除去領域は、上記実施形態以外の形態でもよい。例えば、
図11Aの左図に示すように、第1除去領域21の各辺の外側に、それぞれ直線状の補助除去領域210を設けることもできる。これら4つの補助除去領域210は接続されていない。同様に、
図11Aの右図に示すように、第1除去領域21の各辺の内側にも、それぞれ直線状の補助除去領域210を設けることもできる。これら4つの補助除去領域210も接続されていない。なお、補助除去領域を第1除去領域の内側と外側の両方に配置することもできる。このような補助除去領域も電波の透過減衰量の増大に寄与することが、本発明者により確認されている。なお、補助除去領域210は、第1除去領域21の各辺の概ね全長に亘って設ける必要はなく、辺の一部に長さに亘って設けることもできる。また、後述するように、第2~第5除去領域22~25に設けることもできる。
【0082】
図11Bでは、隣接する補助除去領域210が、L字状に連結された態様を示している。つまり、一つの第1除去領域21に対して、2つの補助除去領域210が設けられている。具体的には、
図11Bの左図は第1除去領域21の外側に補助除去領域210を設けており、
図11Bの右図は第1除去領域21の内側に補助除去領域210を設けている。
【0083】
図11Cの左図では、第1除去領域21の内側に4つの補助除去領域210を設けているが、各補助除去領域210の端部が、第1除去領域21の外側まで延びている。
図11Cの右図では、さらに第2除去領域22を設け、その内側に第1除去領域21と同様の補助除去領域220を有している。なお、
図11Cの例では、補助除去領域210を、通常の除去領域として扱うこともできる。すなわち、4つの補助除去領域210によって形成された閉じた図形の全長を除去領域とすることができ、この閉じた図形の全長が上述したL1,L2,またはL3となる。
【0084】
以上のように、除去領域は種々の態様にすることができ、以上挙げた除去領域は、一例であり、種々の変更が可能である。
【0085】
図11Dに示すように、ウインドシールドの周縁部には、マスク層15を形成することができる。このマスク層15は、車内または車外から視野を遮蔽するものであり、例えば黒などの濃色のセラミックなどの材料で形成することができる。マスク層15は、外側ガラス板11、内側ガラス板12の少なくとも一つの面に形成することができる。
【0086】
上記実施形態では、本発明の車両用窓ガラスをウインドシールドに適用した例を示したが、サイドガラス、リアガラスなどに適用することもできる。この場合、合わせガラスではなく、一枚のガラス板を、本発明のガラス体とし、このガラス板の車外側の面または車内側の面の少なくとも一方の面に、導電性膜2を積層し、膜領域20を形成することができる。そして、サイドガラスやリアガラスに用いるガラス体としては、プライバシーガラスのように透過率が低いガラスを用いることができる。また、膜領域20には、上述した各種の除去領域を形成することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0088】
以下、ガラス板に導電性膜や除去領域を形成し、周波数と電波の透過減衰(透過減衰量)との関係をシミュレーションした。シミュレーションの条件は以下の通りである。(1) ガラス板 今回、ガラスを考慮せず、空気中に導電性膜が存在する前提で計算を実施した。なお、クリアのフロートガラス板の場合、以下に述べる除去領域の線長さは、ガラスの波長短縮率(比誘電率)を考慮し、シミュレーションで用いられた線長さを0.64(ガラスの波長短縮率)倍することで、シミュレーション結果とよく整合することが知られている。また、この倍率は、ガラス板の組成、ガラス板の厚み、及びウインドシールドに存在する中間膜による影響を受けることも知られている。実際にはこれらの要因も考慮し、線長さは、シミュレーション時の0.6~0.7倍の範囲で適宜調整される。すなわち、以下の検討において示される除去領域等の長さは、上記のように、空気中に導電性膜が配置されたときの長さであるため、例えば、導電性膜をガラス板に配置したときの除去領域等の長さは、以下に示す各長さを、ガラス板の波長短縮率αである0.64で掛けたものとなる。その他、単板以外の基材上に導電性膜を配置する場合には、以下に示す各長さを、その基材の波長短縮率で掛ければよい。
(2) 導電性膜の組成(3層を積層した)
FL/SnO2(25nm)/SiO2(25nm)/SnO2:F(350nm)
(3) 導電性膜の各層の複素屈折率(対象波長での値、波長依存性はない)
500+500i
(4) シミュレーションソフト
使用ソフトはDiffractMOD(RCWA法による電磁波解析ソルバー)である。
(5) 対象波長範囲
100mm~1000mm(周波数:0.3GHz~3GHz)
これは、携帯電話の電波波長単位が、将来使用される見込みも含めて、0.7GHz~2.4GHzであることを考慮したものである。携帯電話の波長を中心に考慮する理由は、次の通りである。つまり、車両用に電波を受発信する機器としては様々なものがあり、将来的な使用が想定されているものも多数ある。そして、車載機器は車内の一定場所に固定設置することが可能であり、それに対応したある特定部分だけ機器特有の電波透過性能を向上させておけばよいのに対し、携帯電話は搭乗者が車内のさまざまな位置で使用し、位置が固定できない。したがって、車両の全周囲に渡って電波透過性能を確保しておくことが必要となる。
【0089】
上記の導電性膜を用いて透過減衰量を算出した。透過減衰量は、電波の通りにくさであり、以下のように算出される。
透過減衰量(dB)=20×log(透過電界強度/入射電界強度)
【0090】
以下では、上記透過減衰量を評価値として、電波の透過性能を検討した。すなわち、透過減衰量が低いほど、電波の透過性能が高いと評価した。以下のような実施例及び比較例を準備し、透過減衰量を算出した。
【0091】
(1)態様1
・実施例1
上述した導電性膜をガラス板の全面に形成し、シミュレーションを行った。導電性膜は、CVD法による膜として典型的な面抵抗値13Ω/□の膜とした。
【0092】
・実施例2
図12に示すように、実施例1の膜領域に、一辺の長さlが50mmの正方形の第1除去領域を多数形成した。第1除去領域の幅dは、0.1mmであり、隣接する第1除去領域の間隔bは、2mmである。なお、
図12では、説明の便宜のため、第1除去領域を3つだけ形成しているが、シミュレーションにおいては、評価対象となるガラス板の全体に複数の第1除去領域を形成している。この点については、以下の実施例3~40においても、特に断りのない限り(例えば、実施例16)、同じであり、ガラス板の全体に亘って、多数の除去領域を形成してシミュレーションを行った。
【0093】
・比較例
上述した導電性膜をガラス板の全面に形成し、シミュレーションを行った。導電性膜は、スパッタリング膜として典型的な面抵抗値4Ω/□の膜とした。
【0094】
透過減衰量のシミュレーション結果は、
図13に示すとおりである。同図に示すように面抵抗が低いスパッタリング膜の比較例は、透過減衰量が-34dBであった。携帯電話を用いると、透過減衰量が-30dB以上では電波を検知できず、圏外になる可能性がある。一方、実施例1は、除去領域は形成していないが、導電性膜の透過減衰量が-24dBとなった。これは、携帯電話の場合、電波を検知して使用は可能なレベルである。ただし、自動車は必ずしも電波状態の良いところを走行するとは限らないため、第1除去領域を形成している実施例2のように、実施例1よりも電波の透過性能がさらに高いことが好ましい。
【0095】
(2)態様2
図14に示すように、正方形の第1除去領域及び第2除去領域を、膜領域に複数形成した。以下では、第1除去領域の一辺(除去領域の線端部から、他端側の線端部までの距離)をl(mm)、第1除去領域及び第2除去領域の線幅をd(mm)、第1除去領域と第2除去領域との間の距離(第一除去領域の線内側端から、第二除去領域の線外側端間の距離)をh(mm)、隣接する第1除去領域間の距離(除去領域の線端部から、隣接する除去領域の線端部までの距離)をb(mm)としている。
【0096】
そして、実施例3~5では、
図14のような除去領域を有する窓ガラスを採用し、d=0.1mm、b=2mm、h=1mmとするとともに、以下のように、lを変化させて電波の透過性能を算出した。
・実施例3: l=37.5mm
・実施例4: l=50mm
・実施例5: l=75mm
【0097】
結果は、
図15に示すとおりである。
図15に示すように、第1除去領域の一辺の長さが長いほど、より長波長側に至るまで一定の透過性能を示した。すなわち、第1除去領域の一辺の長さが長くなるにつれて、長波長側での電波の透過性能が向上していた。一般に、透過減衰量が-10dB以内であれば遮蔽効果はほとんどないとされるため、携帯電話の波長域(300mm以下)において、透過減衰量がほぼ-10dB以内を示す実施例4が最も好ましい。また、実施例5は、携帯電話の波長域での透過減衰量は実施例4よりもやや劣るが、広い波長域に亘って透過減衰量が高いため、好ましい。一方、実施例4よりも一辺の長さがそれより短くなると、長波長域で透過減衰量が上がるため、この観点からは、実施例4の方が好ましい。実施例3の透過減衰量がこのようになるのは、一辺の長さが短いほどピーク性能が短波長側にシフトするからであると考えられる。
【0098】
上記
図15の結果から、特に、実施例4、5は、携帯電話の周波数域である1GHz以上の周波数域において、透過減衰量が上がるため好ましい。実施例4,5は、それぞれl=50mm、l=75mmであるが、膜領域をガラス板に配置する場合には、これらをガラス板の波長短縮率α(=0.64)で掛けた数値、つまり、50×α(mm)、75×α(mm)が一辺の長さとなる。したがって、携帯電話の周波数域で有効な第1除去領域の1辺の長さは、50×α(mm)以上であることが好ましい。また、第1除去領域は正方形状であるため、第1除去領域の全長の長さL1は、200×α(mm)以上であることが好ましい。なお、第1除去領域が正方形ではなく、長方形である場合も、同様に、全長の長さL1は、200×α(mm)以上であることが好ましい。
【0099】
実施例6~10では、
図14の除去領域パターンにおいて、d=0.1mm、b=2mm、l=50mmとし、以下のように、hを変化させて電波の透過性能を算出した。
・実施例6: h=0.1mm
・実施例7: h=0.5mm
・実施例8: h=1mm
・実施例9: h=3mm
・実施例10: h=5mm
【0100】
結果は、
図16に示すとおりである。
図16に示すように、実施例6、7は携帯電話の波長域において電波の透過性能が局所的に低くなる領域が発生した。すなわち、第1除去領域と第2除去領域との間隔が狭いほど、電波の透過性能が低くなっている。その他の実施例8~10における透過減衰量は、概ね-10dB程度を示した。このことから、第1除去領域と第2除去領域パターンとの間隔は、1mm以上が好ましい。これは、除去領域が近づきすぎると、実質的に1つの除去領域を設けた場合と変わらないためである、と考えられる。
【0101】
実施例11~16では、
図14の窓ガラスにおいて、d=0.1mm、h=1mm、l=50mmとし、以下のように、bを変化させて電波の透過性能を算出した。
・実施例11: b=0.1mm
・実施例12: b=0.5mm
・実施例13: b=2mm
・実施例14: b=5mm
・実施例15: b=10mm
・実施例16: b=50mm
【0102】
結果は、
図17に示すとおりである。
図17に示すように、実施例11~16に示すように、隣接する第1除去領域の間隔が大きくなるほど、電波の透過性能が低くなった。したがって、除去領域は間隔としては0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上で、好ましくは10mm以下に設置すれば良いことが分かった。これは、除去領域が接近しすぎると、除去領域が1つしか存在しないのと実質同等の性能しか得られず、一方で、離れすぎても除去領域間の相互効果が消え、実質単独にしか存在しないのと同等の性能しか得られなくなるためと考えられる。
【0103】
実施例17~23では、
図14の窓ガラスにおいて、b=2mm、l=50mm、h=1mmとし、以下のように、dを変化させて電波の透過性能を算出した。
・実施例17: d=0.01mm
・実施例18: d=0.02mm
・実施例19: d=0.03mm
・実施例20: d=0.04mm
・実施例21: d=0.05mm
・実施例22: d=0.1mm
・実施例23: d=1mm
【0104】
結果は、
図18に示すとおりである。
図18に示すように、除去領域の線幅が広いほど、電波の透過性能が高くなることが分かった。また、除去領域の線幅が広いほど、高周波側での電波の透過性能が高くなることが分かった。したがって、除去領域の幅は、携帯電話で使用される波長領域での透過性能を考慮して、0.05mm以上であることが好ましい。なお、線幅1mm以上でも透過減衰量上は許容されるが、除去領域の線が視認されやすくなるため、好ましくない。
【0105】
(3)態様3
図19に示すように、実施例24として、同心状の正方形の第1除去領域、第2除去領域、及び第3除去領域を、膜領域に複数形成した。以下では、第1除去領域の一辺をl=50(mm)、各除去領域の線幅をd=0.1(mm)、第1及び第2除去領域間の距離、第2及び第3除去領域間の距離をh=1(mm)、隣接する第1除去領域間の距離をb=2(mm)としている。また、同様の条件で、第1除去領域のみ形成したものを実施例25、第1及び第2除去領域を形成したものを実施例26として、併せて検討した。結果は、
図20に示すとおりである。同図に示すように、同心状の除去領域の数が多くなるほど、電波の透過性能が向上することが分かった。
【0106】
(4)態様4
図21に示す除去領域を作成した。これは、上述した実施形態における
図9と同じ態様である。このように開いた領域を設ける理由としては、視認性の観点がある。前述の通り、車両用ガラスの場合、搭乗者の視線の動きとガラス角度の関係から、一般的には、車両に対して水平な方向に透過光の差が存在する場合(横筋状)が、車両に対して垂直に存在する場合(縦筋状)よりも、差が視認されやすいことが知られている。したがって、除去領域としては、横筋状の線をできるだけ減らすことが望ましいためである。
【0107】
各除去領域間の間隔は、h=1mm、第1除去領域の一辺はl=50mm、除去領域の線幅d=0.1mmとし、左右の開いている箇所の長さSを変化させて、電波の透過性能を算出した(実施例27~30)。
【0108】
また、
図22に示すように、開いている箇所を一つにした態様についても評価を行った(実施例31~34)。さらに、参考として、実施例4との対比も行った。
・実施例27: S=0.1mm
・実施例28: S=1mm
・実施例29: S=10mm
・実施例30: S=47.5mm
・実施例31: S=0.1mm
・実施例32: S=1mm
・実施例33: S=10mm
・実施例34: S=47.5mm
【0109】
結果は、
図23に示すとおりとなった。同図に示すように、実施例27~30と、実施例31~34とを比較すると、開いた箇所が2つある実施例27~30は、実施例31~34よりも透過性能が短波長側にシフトし、短波長側での透過性能が高いことが分かった。この結果から、携帯電話の波長域である波長100~300mmに対しては、開いた箇所が2箇所より1箇所であることが好ましい。
【0110】
また、開いた箇所の長さSが長いほど、透過性能が低下していることになるが、開いた箇所の数が同じ実施例の組み合わせ間で比較すると、0.1mmの開いている場合でも47.5mm開いている場合でも、電波透過性能は大きく変わらないことが分かった。特に、開いた箇所が1箇所である実施例31~34は、開いた箇所のない実施例4と比較しても、実用上は影響がない程度の低下でしかないことが分かった。
【0111】
(5)態様5
態様4で得られた結果を検証するため、さらに
図24に示す除去領域を作成した。これは、上述した実施形態における
図10と同じ態様である。各除去領域間の間隔は、h=1mm、除去領域の線幅d=0.1mmとし、以下の通り、一辺の長さlを変化させて、電波の透過性能を算出した。また、参考のため、実施例4、5との対比も行った。
・実施例35: l=50mm
・実施例36: l=75mm
【0112】
結果は、
図25に示すとおりであった。実施例35及び36のように、除去領域の下側の1辺を完全に開いた領域としたUの字状に形成したとき、透過性能は、開いた領域がない時と比較しても実使用上は問題程度の低下しか発生しないことが確認された。以上から、除去領域中から開いた箇所を設ける場合は、線全長の25%まで設けることができ、かつ、車両に対して水平な方向を優先して設けることが好ましい。
【0113】
以上は、携帯電話の電波波長域を中心にしたシミュレーション結果であった。前述のとおり、実際に車両に搭載され、電波の送受信を行う機器は多種あり、使用される波長域も多様である。本来はより広い波長域の電波を透過させることが好ましいことは言うまでもない。この例として、複数の除去領域や組み合わせることで対応が可能である。この点について、以下の態様6で検討した。
(6)態様6
図26は、その一例である。
図26に示すように、第1除去領域及び第2除去領域を一つの単位形状とし、4つの単位形状を囲む正方形の第4除去領域、及びこの第4除去領域を囲む正方形の第5除去領域を複数形成した。各領域間の間隔は、h=1mm、第5除去領域間の間隔は、b=2mm、第1除去領域の一辺は50mm、第5除去領域の一辺は100mmとした。
【0114】
ここで、
図26に示す態様を実施例37、第1及び第2除去領域が存在せず第4及び第5除去領域のみを設けたものを実施例38、第1及び第2除去領域のみを設けたものを実施例39として、電波の透過性能を算出した。結果は、
図27に示すとおりとなった。第1及び第2領域のみを設けた実施例39では、特に携帯電話の波長域より長波長側では透過減衰量が強くなり、透過性能が低下した。逆に第4及び第5除去領域のみを設けた実施例38では、携帯電話の波長域より長波長側では透過減衰量が低下し、電波透過性が向上していた。実施例37については、この両実施例の透過性能を合算したものに近い透過性能を示し、より広い波長域で電波透過性能が向上していることが分かる。このように、除去領域や開いた箇所の適宜組み合わせや、大きさを調整することで、目的とする波長域の電波を透過させる設計が可能となる。
【符号の説明】
【0115】
1 :合わせガラス
2 :導電性膜
20 :膜領域
21 :第1除去領域
22 :第2除去領域
23 :第3除去領域
24 :第4除去領域