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▶ ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】NK細胞形質導入のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20230414BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230414BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230414BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N7/01
A61K35/76
A61K38/20
A61K35/17
A61P35/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020533699
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2018085890
(87)【国際公開番号】W WO2019121945
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】62/607,944
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520493902
【氏名又は名称】ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】バリ,ラフィジュル
(72)【発明者】
【氏名】グランジン,マルカス
(72)【発明者】
【氏名】ルン,ウィング
(72)【発明者】
【氏名】モーカー,ニナ
(72)【発明者】
【氏名】ユッペル,フォルカー
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/045639(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/139463(WO,A1)
【文献】特開2017-012010(JP,A)
【文献】特表2008-526245(JP,A)
【文献】C. LEVY et al.,Baboon envelope pseudotyped lentiviral vectors efficiently transduce human B cells and allow active factor IX B cell secretion in vivo in NOD/SCIDγc-/- mice.,J. Thromb. Haemost.,2016年11月08日,Vol.14, No.12,p.2478-2492,doi: 10.1111/jth.13520
【文献】Anais Girard-Gagnepain et al.,Babool envelope pseudotyped LVs outperform VSV-G-LVs for gene transfer into early-cytokine-stimulated and resting HSCs.,Blood,2014年06月20日,Vol.124, No.8,p.1221-1231,doi: 10.1182/blood-2014-02-558163
【文献】Jeffrey W. Leong et al.,Preactivation with IL-12, IL-15, and IL-18 induces CD25 and a functional high-affinity IL-2 receptor on human cytokine-induced memory-like natural killer cells.,Biol. Blood Marrow Transplant.,2014年01月13日,Vol.20, No.4,p.463-473,doi: 10.1016/j.bbmt.2014.01.006
【文献】Wolfgang Glienke et al.,Advantages and applications of CAR-expressing natural killer cells.,Front. Pharmacol.,2015年02月12日,6:21,doi: 10.3389/fphar.2015.00021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 7/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により活性化NK細胞に生体物質を導入するためのin-vitroでの方法であって、
a)NK細胞を活性化するステップと、
b)前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を前記活性化NK細胞に添加するステップと
を含み、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含み、それにより前記活性化NK細胞に生体物質を導入する、方法。
【請求項2】
NK細胞の前記活性化の前に、NK細胞が、CX3CR1陽性およびCX3CR1陰性NK細胞を含む試料から、CX3CR1陰性NK細胞について濃縮される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、少なくとも
ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質の膜貫通および細胞外ドメインと、マウス白血病ウイルス(MLV)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインとの融合を含むか、もしくはそれにより構成されるキメラエンベロープ糖タンパク質、または
細胞質尾部ドメインが融合阻害Rペプチドを欠く、修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記NK細胞の前記活性化が、少なくとも1つのサイトカイン、またはフィーダー細胞もしくはフィーダー細胞の膜粒子、あるいはNK細胞活性化試薬を前記NK細胞に添加することにより達成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのサイトカインが、IL-2および/またはIL-15である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
NK細胞の前記活性化が、NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインと、IL-1ファミリーサイトカインとを含む、サイトカインの組合せを添加することにより達成され、それによりNK細胞の短期的活性化をもたらす、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
サイトカインの前記組合せが、IL2および/またはIL-15と、IL-1ファミリーサイトカインである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記IL-1ファミリーサイトカインが、IL-18、IL-33またはIL-1ベータである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子によるNK細胞の形質導入効率が、少なくとも50%である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記生体物質が、前記レトロウイルスベクター粒子により前記NK細胞に形質導入される場合、1つまたは複数の核酸である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、レンチウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
閉鎖系の自動化プロセスにおいて実施される、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
活性化NK細胞に生体物質をin-vivoで導入することによる、障害を患うヒトの治療における使用のための医薬組成物であって、シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を含み、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含み、それにより前記活性化NK細胞に生体物質を導入するものである医薬組成物
【請求項14】
活性化NK細胞に生体物質をin-vivoで導入することによる、障害を患うヒトの治療における使用のための、組成物の組合せであって、
a)NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインを含む第1の組成物と、
b)シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を含む組成物
とを含み、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含む、組成物の組合せ。
【請求項15】
前記第1の組成物が、NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインと、IL-1ファミリーサイトカインとを含む、サイトカインの組合せを含む、請求項14に記載の組成物の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、細胞へ生体物質を導入する分野に、特に、活性化ナチュラルキラー(NK)細胞へ生体物質を導入することに関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー細胞(以下、「NK細胞」とも略す)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞としても知られる悪性変性細胞を検出および破壊可能である、ユニークなリンパ球集団である。加えて、NK細胞は、腫瘍細胞との接触時にサイトカインを産生および分泌する。これらの機能的特徴により、NK細胞は、がん治療のための魅力的な薬物となっている。臨床試験では、NK細胞の臨床的使用の可能性を強調している(Millerら2005;Rubnitzら2010;Childs&Berg 2013)。
【0003】
患者のためのドナーNK細胞の使用(「同種間使用」)では、望ましいNK細胞の効果を、非NK細胞、例えば、T細胞の望ましくない禁忌効果から分離するための細胞分離方法を必要とする。それらの方法は、十分に確立されており(Leung 2014)、無菌閉鎖系内において自動化することができる(Apelら2013)。
【0004】
遺伝子操作は、NK細胞特性をさらに修飾する有望な戦略であり、例えば、がん治療において、多様な臨床的意義を有する(Childs&Carlsten 2015)。例えば、免疫細胞を発現するキメラ抗原受容体(CAR)の使用は、CAR T細胞による臨床試験において示されるように、がんのための有望な治療の選択肢である。CAR NK細胞は、CAR T細胞の良い代替物であり得るが、初代NK細胞の遺伝子操作が、主要な技術的課題となっている(Klingemann 2014)。
【0005】
トランスフェクション方法、例えば、エレクトロポレーションは、導入遺伝子の効率的な送達をもたらすが、導入遺伝子発現は、一過性である。したがって、NK細胞のトランスフェクションは、持続的効果を必要とする場合、臨床適用に使用することができない。その上、トランスフェクションは、高い細胞死の割合をもたらし、これは別の主要な不利益となっている。
【0006】
一方、ウイルスベクターをベースとする、NK細胞への形質導入は、持続的遺伝子修飾のための選択肢である。NK細胞へのレトロウイルス形質導入は可能であるが、高いウイルス力価を必要とし、一方、効率は低いままである(Suerthら2015)。さらにより重要なことには、レトロウイルスベクターの挿入変異のため、レトロウイルスアプローチの臨床的使用は、臨床研究において明らかとなった遺伝毒性効果に関して、重大な安全性への懸念がある(Aiuti&Roncarolo 2009;Aiutiら2009)。
【0007】
しかし、レトロウイルスベクター群では、レンチウイルスベクターは、遺伝毒性がより低く、臨床適用のためのより安全な選択肢となっている(Montiniら2009;Papayannakos&Daniel 2013)。残念なことには、種々のサイトカインの組合せで刺激し、高力価のレンチウイルスベクターを使用した後であっても、NK細胞の約10%しか形質導入することができず、このことは、NK細胞の抗ウイルス防御機構により説明することができる(Sutluら2012)。この形質導入効率は、高力価のレンチウイルスベクターをプロタミン硫酸塩、およびTBK1/IKKe複合体の阻害物質であるBX795とともに使用して、約40%に増加させることができる(Sutluら2012)。しかし、TBK1は有糸分裂に必須であり、BX795は、一般に、細胞周期停止を引き起こし、非増殖細胞をもたらすことが知られている(Pillaiら2015;Baiら2015)。したがって、重大で、望ましくない副作用により、BX795は臨床的なNK細胞形質導入に不適切なものとなり、そこで、安定な形質導入、および着実な細胞増殖を含む適切なNK細胞の機能性が、緊急に必要とされている。
【0008】
WO2013/045639A1では、修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(baboon endogenous retrovirus)(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化したウイルスベクターを使用した、静止HSCならびに休止TおよびB細胞への形質導入のための方法を開示している。
【0009】
結論として、NK細胞の効率的かつ持続的な遺伝子修飾のための、方法および/またはウイルスベクター粒子系は、治療に臨床的に適用することができ、現在の最先端技術によってかなえられていない、差し迫ったニーズとなっている。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、活性化後の初代ヒトNK細胞では、NK細胞抗ウイルス防御機構の阻害物質を必要としなくても、修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子を使用することにより、効率的に形質導入することができ、一方、休止NK細胞では、これらのベクター粒子により、効率的に形質導入することができないことが見出された。形質導入は、低力価のレトロウイルスベクター粒子、例えば、低力価のレンチウイルスベクター粒子であっても検出可能であり、90%超に達することができ、これは、これまで報告された他のウイルスベクター粒子には見られない。低力価のベクター粒子を使用すると、先行技術の方法と比較して、より良い実用性がもたらされる。例えば、修飾ヒヒエンベロープタンパク質を有する、本明細書に開示のレンチウイルスベクター粒子は、VSV-Gエンベロープタンパク質を有するベクター粒子よりも、はるかに高い形質導入効率(7~10倍高い)を付与する。本明細書に開示の形質導入方法は、形質導入NK細胞に対して、細胞死を誘引しないか、または他の毒性効果を示さない。その上、この方法は、NK細胞有糸分裂に影響せず、このため、形質導入NK細胞は、非形質導入の対応物と同レベルで、長期にわたって高度に増殖性である。まとめると、使用するシュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子が、不要な副作用を有さず、性質が臨床的に適合していることにより、本明細書に開示の方法は、治療適用のための、NK細胞の安定な遺伝子修飾に関して、ユニークなものとなっている。
【0011】
ヒトNK細胞を活性化し、修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子を使用すると、思いのほか、形質導入NK細胞の存在頻度が高くなる。好ましくは、NK細胞は、可溶型もしくは表面結合型のいずれかの刺激作用物質により、またはフィーダー細胞の部分を含む、フィーダー細胞、例えば、膜粒子により活性化される。より好ましくは、NK細胞は、サイトカインなどの少なくとも1つの増殖因子、またはサイトカインなどの増殖因子の組合せにより活性化される、例えば、IL-2、IL-7、IL-15、IL-21を含むがそれらに限定されない共通ガンマ鎖サイトカイン、もしくはIL-1アルファ、IL1ベータ、IL-18、IL-33、Il-36、IL37およびIL38を含むがそれらに限定されないIL-1ファミリーサイトカインである。さらにより驚くべきことに、形質導入効率は、種々のサイトカインをIL-1ファミリーサイトカインとともに、例えば、IL-2および/またはIL-15をIL-1ファミリーサイトカイン、例えば、IL-18、IL-33またはIL-1ベータとともに組み合わせることにより、さらに増加させることができ。IL-1ファミリーサイトカイン、例えば、IL-18、IL-33またはIL-1ベータを、NK細胞を活性化する他の周知のサイトカインに添加すると、NK細胞の短期的活性化がもたらされ、NK細胞への形質導入が、先行技術のNK活性化方法、すなわち、IL-1ファミリーサイトカインを用いない方法を使用するよりも早く効率的に可能となる。本明細書に開示の条件下で、修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、本明細書に開示のウイルスベクター粒子により形質導入した、活性化NK細胞の割合が、非常に高いだけでなく、導入遺伝子発現も低下せずに、数週間安定なままであることは、驚くべき知見である。導入遺伝子発現の持続時間は、例えば、2、4、6、8週間以上にわたって維持され得る。ウイルスベクター粒子の代わりに、修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、本明細書に開示のウイルス様粒子により、活性化NK細胞に生体物質を導入することもできる。
【0012】
さらにより驚くべきことに、これらのNK細胞の活性化および形質導入の前に、CX3CR1陰性およびCX3CR1陽性NK細胞を含む試料からCX3CR1陰性NK細胞を濃縮すると、修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、本明細書に開示のウイルスベクター粒子によって、優れた増殖および形質導入がもたらされる。CX3CR1陰性NK細胞の濃縮は、CX3CR1陰性およびCX3CR1陽性細胞を含む、試料またはNK細胞の集団から、CX3CR1陽性およびCX3CR1陰性細胞を分離することにより達成することができる。
【0013】
本明細書に開示の活性化NK細胞への形質導入のための方法はまた、GMP条件下で、好ましくは閉鎖系において、自動化プロセスとして、完全に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】GFPの発現により実証されるように、BaEVシュードタイプ化ベクターによりNK細胞の形質導入は高くなるが、NK細胞を活性化する必要がある。
図2A】実験で使用したCD3T細胞およびCD3/CD56NK細胞をPBMCから単離して、高度に精製された細胞集団がもたらされた。
図2B】VSV-Gシュードタイプ化レンチウイルスベクターによるT細胞への形質導入はうまくいくが、高力価であっても、NK細胞には極めて非効率的である。
図2C】NK-92細胞株への、VSV-Gシュードタイプ化レンチウイルスベクターによる形質導入は、初代NK細胞への形質導入と同様に非効率的であるが、驚くべきことに、NK-92は、BaEVシュードタイプ化ベクターにより効率的に形質導入することができる。
図2D】T細胞および活性化初代NK細胞はがともに、ヒヒエンベロープシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより非常に効率的に形質導入することができる。
図3A】驚くべきことに、IL-33を用いたNK細胞の短期的活性化は、IL-33を用いない場合よりも、BaEVシュードタイプ化ベクターによるNK細胞の高い形質導入率を可能にする。
図3B】BaEVシュードタイプ化ベクターによる場合と同様に、IL-33でのNK細胞の短期的活性化は、VSV-Gシュードタイプ化レンチウイルスベクターを使用する場合であっても、NK細胞の形質導入率を増加させる。
図4】IL-18でのNK細胞の活性化は、IL-33と同様に、NK細胞の形質導入率を増加させる。
図5】BaEVシュードタイプ化ベクターにより形質導入した活性化NK細胞が、非形質導入NK細胞と同様の増殖率を示し、形質導入それ自体により、細胞死は誘導されず、細胞増殖は影響されない。
図6】BaEVシュードタイプ化ベクターによるNK細胞への形質導入後の導入遺伝子発現は長期間安定である。
図7A】NK細胞の活性化およびBaEVシュードタイプ化の使用は、非常に高い形質導入率を可能にし、これによりCAR発現が高いNK細胞の生成が可能となる。
図7B】異なる標的細胞は、表面マーカーCD19について異なる発現プロファイルを示し、これにより、それらはCD19-CAR発現NK細胞の機能性試験に適した標的となる。
図7C】形質導入方法により、K562細胞の殺滅(killing)により実証される不変で高い細胞毒性、及びCD19陽性のRS4;11細胞およびRaji細胞の殺滅により実証される著しく増加したCD19特異的細胞毒性活性を有する、CD19-CAR発現NK細胞の生成を可能にする。
図8】ナイーブおよび活性化NK細胞をウエスタンブロットに供して、ヒヒエンベロープ受容体ASCT2の発現を調べた。ナイーブではない活性化NK細胞は、ヒヒエンベロープASCT2の受容体を発現した。
図9A】細胞増殖および形質導入アッセイは、静止NK細胞ではなく、増殖性NK細胞のみが、ヒヒシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより形質導入可能であることを示した。
図9B】増殖性および形質導入可能なNK細胞のサブセットは、CD56brightである。対照的に、非増殖性かつ形質導入不可能なNK細胞は、CD56dimである。
図10】増殖性及び形質導入したNK細胞サブセット、増殖性であるが形質導入していないNK細胞サブセット、ならびに静止状態のNK細胞サブセット間におけるいくつかのNK細胞受容体の比較は、静止NK細胞は、増殖性NK細胞とは表現型が著しく異なることを示した。増殖性細胞は、よりCD56強陽性(bright)であり、CD16発現がより低く、活性化受容体NKp30、NKp44およびNKG2Dの発現がより高く、ならびにTRAILおよびNKG2Aの発現がより高い傾向を有した。
図11A-B】増殖された静止状態のNK細胞のサブセットの細胞表面タンパク質のマーカースクリーニング。5人のドナー由来のNK細胞を使用して、371種の表面マーカーについて、フローサイトメトリーにより解析した。静止NK細胞との直接比較では、増殖性およびGFP陽性のNK細胞は、32種のマーカーをより高いレベルで、5種のマーカーをより低いレベルで発現した(図11A)。増殖性および形質導入可能なNK細胞サブセットの最も明白なマーカーは、CX3CR1発現の非存在およびTRAILを強力に発現する細胞の高い頻度であった(図11Aおよび11B)。
図12A】種々のNK細胞サブセットを、形質導入および培養の前に、それらのCX3CR1発現に基づいて、MCASソーティングを使用して分離した。ソーティングなしでは、ドナー由来の血液由来NK細胞間のCX3CR1の発現は、86%であり、CX3CR1negNK細胞は、14%であった。ソーティング後、CX3CR1negNK細胞の平均頻度は、CX3CR1の濃縮により2%に低下し、一方、マーカーの枯渇はCX3CR1negNK細胞集団の91%の濃縮をもたらした。
図12B】別々にソートしたNK細胞画分の培養の直後、増殖における顕著な違いを観察した。非ソートNK細胞サブセット、CX3CR1濃縮(CX3CR1陽性)NK細胞サブセット、およびCX3CR1枯渇(CX3CR1陰性)NK細胞サブセット間では、NK細胞増殖の割合は、それぞれ28、11および81であった。
図12C】NK細胞のCX3CR1neg画分は、高度に形質導入可能である。ソートしたNK細胞画分の形質導入から2日後、非ソートNK細胞サブセット、CX3CR1enrichedNK細胞サブセット、およびCX3CR1depletedNK細胞サブセットの形質導入は、それぞれ21%、7%および69%であった。
図13】BaEVシュードタイプ化レンチウイルスベクターおよびIL-1ベータを使用したNK細胞へのレンチウイルス形質導入から10日後のキメラ抗原受容体(CAR)の発現。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一態様において、本発明は、シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により活性化NK細胞に生体物質を導入するためのin-vitroでの方法であって、
a)NK細胞を活性化するステップと、
b)前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を前記活性化NK細胞に添加するステップと
を含み、
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含み、それにより前記活性化NK細胞に生体物質を導入する、方法を提供する。
【0016】
前記NK細胞が、ヒトNK細胞である、前記方法。
【0017】
活性化する前記NK細胞が、NK細胞を含む試料、例えば、全血試料、または、例えば、バフィーコートから得ることができる末梢血単核細胞(PBMC)試料中に存在する、前記方法。
【0018】
NK細胞の前記活性化の前に、NK細胞が、CX3CR1陽性およびCX3CR1陰性NK細胞を含む集団または試料から、CX3CR1陰性NK細胞について濃縮され得る、前記方法。
【0019】
CX3CR1陰性NK細胞またはCX3CR1陰性NK細胞サブセット/亜集団の前記濃縮は、CX3CR1陽性およびCX3CR1陰性NK細胞を含む試料または集団からの分離プロセスにおけるCX3CR1陰性細胞の枯渇により実施することができ、枯渇した画分は、抗CX3CR1抗体またはその断片を使用した、例えば、細胞分離方法などの分離方法、例えば、MACS(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH)またはフローサイトメトリーなどの蛍光活性化細胞ソーティングによる、CX3CR1陰性細胞を含む標的画分である。
【0020】
CX3CR1陰性NK細胞亜集団(またはCX3CR1陰性NK細胞)は、極めて高い形質導入率を達成するため、本明細書に開示の方法により形質導入するために好ましい(実施例9を参照)。
【0021】
ステップa)において活性化する前記NK細胞が、CX3CR1陰性NK細胞である、前記方法。好ましくは、前記CX3CR1陰性NK細胞は、本明細書に開示の方法において活性化されるために使用されるNK細胞を含む組成物中に、20%、15%、10%、5%または1%未満のCX3CR1陽性NK細胞を含む。
【0022】
造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含む、シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、当技術分野において周知であり、例えば、WO2013/045639A1に開示されている。
【0023】
造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な前記修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質が、
ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質の膜貫通および細胞外ドメインと、マウス白血病ウイルス(murine leukemia virus)(MLV)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインとの融合を含むか、もしくはそれにより構成されるキメラエンベロープ糖タンパク質、または
細胞質尾部ドメインが融合阻害Rペプチドを欠く、修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質
であってもよい、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0024】
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、少なくとも
ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質の膜貫通および細胞外ドメインと、マウス白血病ウイルス(MLV)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインとの融合を含むか、もしくはそれにより構成されるキメラエンベロープ糖タンパク質、または
細胞質尾部ドメインが融合阻害Rペプチドを欠く、修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質
を含んでもよい。
【0025】
前記NK細胞の前記活性化が、少なくとも1つのサイトカイン、またはフィーダー細胞もしくはフィーダー細胞の膜粒子、あるいはNK細胞活性化試薬を前記NK細胞に添加することにより達成することができる、前記方法。通常は、2~3日後に、NK細胞活性化の効果によってNK細胞の増殖がもたらされる。
【0026】
前記少なくとも1つのサイトカインが、IL-2、IL-7、IL-15、IL-21を含むがそれらに限定されない共通ガンマ鎖サイトカイン、またはIL-1a(IL-1アルファ)、IL1b(IL-1ベータ)、IL-18、IL-33、Il-36、IL37およびIL38を含むがそれらに限定されないIL-1ファミリーサイトカインからなる群から選択される、前記方法。
【0027】
前記少なくとも1つのサイトカインは、IL-2であり得る。
【0028】
前記少なくとも1つのサイトカインは、IL-15であり得る。
【0029】
前記サイトカインは、IL-2およびIL15であり得る。
【0030】
NK細胞を活性化する、サイトカインまたはサイトカインの組合せ(例えば、IL-2および/またはIl-15)が、IL-1ファミリーサイトカインと組み合わされ、それにより、IL-1ファミリーサイトカインを用いない活性化と比較して、前記NK細胞の早期の活性化(「短期的活性化」)をもたらす、前記方法。
【0031】
NK細胞の前記活性化が、NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインと、IL-1ファミリーサイトカインとを含む、サイトカインの組合せを添加することにより達成され、それによりNK細胞の短期的活性化をもたらす、前記方法。
【0032】
サイトカインの前記組合せが、IL-2および/またはIL-15とIL-1ファミリーサイトカインである、前記方法。NK細胞を活性化する1つまたは複数のサイトカイン(例えば、IL-2および/またはIL-15)をIL-1ファミリーサイトカイン(例えば、IL-18またはIL-33)とともに使用すると、例えば、NK細胞の活性化のための培養プロセスの開始と、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子による活性化NK細胞の効率的な形質導入を可能とする開始点との間の期間を減少させる、短期的活性化がもたらされる。驚くべきことに、IL-1ファミリーサイトカインとNK細胞を活性化する1つまたは複数のサイトカイン(例えば、IL-2および/またはIL-15)との組合せ、および本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子による形質導入により、より長いプロセスにおいて活性化された、すなわち、IL-18、IL-33またはIL-1ベータなどのIL-1ファミリーサイトカインの存在により誘導される短期的活性化プロセスからの利点を得ない、NK細胞へのレトロウイルスベクター粒子の形質導入と比較して、より高い形質導入率がもたらされる。
【0033】
前記IL-1ファミリーサイトカインは、IL-1アルファ、IL-1ベータ、IL-1Ra、IL-18、IL-36Ra、IL-36アルファ、IL-37、IL-36ベータ、IL-36ガンマ、IL-38およびIL-33からなる群から選択することができる。
【0034】
好ましくは、前記IL-1ファミリーサイトカインは、IL-18、IL-33またはIL-1ベータであり得る。
【0035】
前記IL-1ファミリーサイトカインが、IL-18であり、それにより、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間(1日)、28時間、36時間、42時間または48時間(2日)以内の短期的活性化がもたらされる、前記方法。
【0036】
前記IL-1ファミリーサイトカインが、IL-33であり、それにより、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間(1日)、28時間、36時間、42時間または48時間(2日)以内の短期的活性化がもたらされる、前記方法。
【0037】
IL-1ファミリーサイトカイン、例えば、IL-18、IL-33またはIL-1ベータを、例えば、細胞培養系の初期に、NK細胞を活性化することが知られている他のサイトカインとともに、NK細胞を含む培地に添加すると、前記IL-1ファミリーサイトカインの添加後、早ければ、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間(1日)、28時間、36時間、42時間または48時間(2日)で前記NK細胞の活性化がもたらされる。したがって、IL-1ファミリーサイトカインを、好ましくは細胞培養培地中の、NK細胞に添加すると、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間(1日)、28時間、36時間、42時間または48時間(2日)以内にNK細胞の短期的活性化がもたらされる。
【0038】
上記のサイトカインは、当業者に周知であり、一般的に使用される濃度で、前記NK細胞を含む細胞培養培地に与えることができる。
【0039】
前記NK細胞の前記活性化が、他のサイトカイン、またはフィーダー細胞もしくはフィーダー細胞の膜粒子、あるいはNK細胞活性化試薬を、前記NK細胞に添加せずに、1つのIL-1ファミリーサイトカインを添加することにより達成することができる、前記方法。
【0040】
前記NK細胞の前記活性化が、1つのIL-1サイトカインを、フィーダー細胞もしくはフィーダー細胞の膜粒子、またはNK細胞活性化試薬とともに、前記NK細胞に添加することにより達成することができる、前記方法。
【0041】
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子によるNK細胞の形質導入効率が、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%である、前記方法。
【0042】
前記生体物質が、前記レトロウイルスベクター粒子により前記NK細胞に形質導入される場合、1つまたは複数の核酸である、前記方法。
【0043】
前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、レンチウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子である、前記方法。
【0044】
閉鎖系の自動化プロセスにおいて実施される、前記方法。
【0045】
別の態様において、本発明は、活性化NK細胞に生体物質をin-vivoで導入することによる、障害を患うヒトの治療における使用のための、シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子であって、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な、本明細書に開示の修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含み、それにより前記活性化NK細胞に生体物質を導入する、シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を提供する。
【0046】
障害は、前記NK細胞により治療されるか、または治療可能であり得る、障害であり得る。
【0047】
さらなる態様において、本発明は、活性化NK細胞に生体物質をin-vivoで導入することによる、障害を患うヒトの治療における使用のための、組成物の組合せであって、
a)NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインを含む第1の組成物と、
b)シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を含む組成物
とを含み、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な、本明細書に開示の修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含む、組成物の組合せを提供する。
【0048】
障害は、前記NK細胞により治療されるか、または治療可能であり得る、障害であり得る。
【0049】
前記第1の組成物が、NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインとIL-1ファミリーサイトカインとを含む、サイトカインの組合せを含む、前記組成物の組合せ。
【0050】
サイトカインの前記組合せが、IL-2および/またはIL-15とIL-1ファミリーサイトカインとを含む、前記組成物の組合せ。
【0051】
前記IL-1ファミリーサイトカインが、IL-18、IL-33またはIL-1ベータである、前記組成物の組合せ。
【0052】
改変NK細胞を調製するための前記組成物の組合せ。
【0053】
前記生体物質が、キメラ抗原受容体をコードする核酸である、前記組成物の組合せ。
【0054】
別の態様において、本発明は、活性化NK細胞に生体物質を導入するための、シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の使用であって、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な、本明細書に開示の修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質を含む、使用を提供する。
【0055】
改変NK細胞を調製するための、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の使用。
【0056】
前記生体物質が、キメラ抗原受容体をコードする核酸である、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の使用。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に開示の方法により入手可能な、形質導入および/または改変NK細胞を提供する。
【0058】
前記NK細胞が、キメラ抗原受容体を発現するように改変される、前記改変NK細胞。
【0059】
一態様において、本発明は、本明細書に開示の方法により得た改変NK細胞の医薬組成物を提供する。
【0060】
前記改変NK細胞が、キメラ抗原受容体を発現する、前記医薬組成物。
【0061】
別の態様において、本発明は、NK細胞を活性化する少なくとも1つのサイトカインとIL-1ファミリーサイトカインとを含む、NK細胞の短期的活性化のためのサイトカインの組合せを提供する。
【0062】
前記サイトカインの組合せは、IL2および/またはIL-15とIL-1ファミリーサイトカインであり得る。
【0063】
前記IL-1ファミリーサイトカインは、IL-18、IL-33またはIL-1ベータであり得る。
【0064】
本発明の態様、例えば、本発明の第1の態様に関する、本明細書に定義のすべての定義、特性および実施形態は、本明細書に開示の本発明の他の態様の文脈においても準用する。
【0065】
定義
他に定義しない限り、本明細書において使用する技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0066】
レトロウイルス科(Retroviridae)は、DNA中間体に逆転写され、次いで、宿主細胞ゲノムに組み込まれる、1本鎖で2倍体のプラス鎖RNAゲノムを有するウイルスファミリーである。レトロウイルス科由来のウイルスは、直径80~120nmの、エンベロープを有する粒子である。
【0067】
(レトロ/レンチ/ガンマレトロ)ウイルスベクターは、対応するウイルスファミリーに由来する、複製欠損ウイルス粒子である。それらは、GagおよびPolタンパク質、1本鎖RNAゲノムを含有し、通常、他のウイルスに由来する異種性エンベロープタンパク質により、例えば、本明細書に開示のヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質により、シュードタイプ化される。前記ウイルスベクターのRNAゲノムは、後代ウイルスを産生するいかなるウイルス遺伝子をも含有しないが、DNAの効率的なパッケージングおよび逆転写に必要とされるpsiエレメントおよびLTRを含有する。DNA中間体は、適切なプロモーター、例えば、CMVプロモーターの制御下で目的の遺伝子を含有し得、目的の遺伝子は、前記DNAを宿主細胞のゲノムに組み込むと発現する。宿主細胞への侵入、RNAゲノムの送達、目的の遺伝子の組込みおよび発現のプロセスは、形質導入と呼ばれる。ガンマレトロウイルスまたはレンチウイルスをベースとするウイルスベクターの最小必要要件は、当技術分野において十分に説明されている。
【0068】
加えて、インテグラーゼ欠損レトロウイルスベクター(ID-RV)が開発されており、これは、レトロウイルスベクターゲノムを宿主細胞ゲノムに組み込むことができない。ID-RVは、従来のレトロウイルスベクターに由来するが、レトロウイルスインテグラーゼもその変異型も含有しない。宿主細胞に侵入すると、レトロウイルスベクターゲノムは、細胞質で逆転写され、核に送達されるが、宿主細胞ゲノムに安定には組み込まれない。ID-RVは、目的の遺伝子を一過性に発現させるために有用なツールである。レトロウイルスベクターおよび形質導入の定義は、組込み欠損レトロウイルスベクターおよびその適用にも及ぶ。
【0069】
レンチウイルス(Lentivirus)は、長い潜伏期間により特徴づけられる、慢性的かつ致命的な疾患を、ヒトおよび他の哺乳動物種において引き起こす、レトロウイルス科の属である。最も知られているレンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)のHIVであり、これは、非分裂細胞に効率的に感染させることができ、このため、レンチウイルス由来のレトロウイルスベクターは、遺伝子送達の最も効率的な方法のうちの1つである。
【0070】
ガンマレトロウイルス属(Gammaretroviridae)は、レトロウイルス科ファミリーの属である。代表的な種は、マウス白血病ウイルスおよびネコ白血病ウイルス(feline leukemia virus)である。
【0071】
ウイルス様粒子(VLP)は、ウイルス粒子に似ているが、ウイルス様粒子のタンパク質をコードするウイルス遺伝物質をそれらが含有しないため、感染または形質導入しない。特に、レトロウイルスベクターの文脈におけるVLPは、psi陽性核酸分子を含有しない。一部のウイルス様粒子は、それらのゲノムと異なる核酸を含有し得る。ウイルス構造タンパク質、例えば、エンベロープまたはカプシドが発現すると、ウイルス様粒子(VLP)の集合がもたらされ得る。レトロウイルスベクターと同様に、VLPは、レトロウイルスベクターと同一のエンベロープ構築物を使用して、シュードタイプ化することもできる。VLPを使用して、タンパク質だけでなく核酸も、標的細胞の細胞質に送達することができる。特に、VLPは、ワクチンとして有用である。
【0072】
用語「VLP取込み」は、本明細書において使用する場合、VLPが標的細胞膜に結合し、それにより核酸分子、タンパク質またはペプチドを標的細胞に放出することを指す。
【0073】
用語「活性化」は、本明細書において使用する場合、標的細胞の機能、増殖および/または分化を高める細胞により生理学的変化を誘導することを指す。
【0074】
用語「シュードタイプ化する」または「シュードタイプ化」は、本明細書において使用する場合、エンベロープを有する他のウイルスに由来するエンベロープ糖タンパク質を有するベクター粒子を指す。したがって、本発明のレンチウイルスベクターまたはベクター粒子の宿主範囲は、糖タンパク質により使用される細胞表面受容体のタイプに応じて拡大または変更することができる。
【0075】
レトロウイルスベクターを生成するために、ベクター粒子の集合に必要とされるgag、polおよびenvタンパク質は、パッケージング細胞株、例えば、HEK-293Tによってトランスに供給される。これは、通常、gag、polおよびenv遺伝子を含有する1つまたは複数のプラスミドを用いた、パッケージング細胞株のトランスフェクションにより達成される。シュードタイプ化ベクターの生成では、gagおよびpol遺伝子、ならびにRNA分子または発現ベクターと同一のレトロウイルスに元来由来するenv遺伝子は、エンベロープを有する異なるウイルスのエンベロープタンパク質(複数可)と交換される。
【0076】
ヒヒ内在性レトロウイルスまたはBaEVは、ヒヒのDNAの複数のプロウイルスコピーに存在するC型レトロウイルスである。WO2013045639A1では、野生型BaEV糖タンパク質よりも高レベルでレンチウイルス表面に組み込まれた、野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質(非修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質)および定義の変異(修飾)を有するBaEVエンベロープ糖タンパク質が、詳細に記載されている。
【0077】
用語「BaEVエンベロープ糖タンパク質」は、本明細書において使用する場合、野生型形態のBaEVエンベロープ糖タンパク質、または前記変異糖タンパク質が、造血細胞膜に結合し、それと融合する野生型糖タンパク質の能力を保持する限りにおいて、前記野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%同一の、前記野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質の変異体を指す。
【0078】
好ましくは、野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質は、配列番号1の配列からなる。当業者に公知のように、BaEVエンベロープ糖タンパク質は、細胞質尾部ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインで構成される。エンベロープ糖タンパク質配列中の、細胞質尾部ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインに対応する領域は、当業者により容易に決定することができる。典型的には、細胞質尾部ドメインは、野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質のアミノ酸530~564の間に位置する。典型的には、膜貫通ドメインは、野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質のアミノ酸507~529の間に位置する。典型的には、細胞外ドメインは、野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質のアミノ酸1~506の間に位置する。
【0079】
本発明の特定の実施形態では、BaEVエンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインは、融合阻害Rペプチドを欠く。
【0080】
本発明の文脈では、表現「融合阻害Rペプチド」は、チロシンエンドサイトーシスシグナル-YXXL-(配列番号2)を内部に有し、ビリオンの成熟中にウイルスプロテアーゼにより切断され、それによりエンベロープ糖タンパク質の膜融合が促進される、エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインのC末端部を指す。BaEVエンベロープ糖タンパク質の融合阻害Rペプチドは、典型的には、野生型BaEVエンベロープ糖タンパク質のアミノ酸547~564の間に位置する。
【0081】
したがって、特に好ましい実施形態では、細胞質尾部ドメインが融合阻害Rペプチドを欠く、修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を含むか、またはそれにより構成される。
【0082】
別の特定の実施形態では、BaEVエンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインは、マウス白血病ウイルス(MLV)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインにより置換される。
【0083】
マウス白血病ウイルスエンベロープ糖タンパク質は、好ましくは、4070A株のエンベロープ糖タンパク質である。
【0084】
本発明の文脈では、用語「MLVエンベロープ糖タンパク質」は、野生型形態のMLVエンベロープ糖タンパク質、または前記変異糖タンパク質が、ウイルスコアタンパク質と、特に、レンチウイルスコアタンパク質と相互作用する野生型エンベロープ糖タンパク質の能力を保持する限りにおいて、前記野生型MLVエンベロープ糖タンパク質と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%同一の、前記野生型MLVエンベロープ糖タンパク質の変異体を指す。
【0085】
エンベロープ糖タンパク質配列中の細胞質尾部ドメインに対応する領域は、当業者により容易に決定することができる。典型的には、MLVエンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインは、野生型MLVエンベロープ糖タンパク質のアミノ酸622~654の間に位置する。
【0086】
したがって、特に好ましい実施形態では、BaEVエンベロープ糖タンパク質の膜貫通および細胞外ドメインと、MLVエンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインとの融合を含むか、またはそれにより構成されるキメラエンベロープ糖タンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列を含むか、またはそれにより構成される。
【0087】
本明細書において意図するように、表現「生体物質」は、細胞の構造および/または機能を変更しやすい、1つまたは複数の化合物に関する。本発明の文脈では、生体物質が、1つまたは複数の核酸であることが好ましく、これは、レンチウイルスベクター粒子の場合、ベクター粒子のゲノムに含むことができる。
【0088】
本明細書において意図するように、「導入すること」は、標的細胞に結合すると、標的細胞の膜または細胞質に生体物質を初めに送達する、ベクター粒子またはベクター様粒子の能力に関する。本明細書では、通常、標的細胞は、NK細胞である。
【0089】
用語「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」は、本明細書において使用する場合、通常、ヒトNK細胞であり、大型顆粒リンパ球(LGL)として定義され、リンパ球系共通前駆細胞を産生するBおよびTリンパ球から分化した第3種の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、および胸腺内で分化および成熟し、次いで、それらが循環に入ることが知られている。NK細胞は、由来およびそれぞれのエフェクター機能によって、ナチュラルキラーT細胞(NKT)と表現型的に異なり、NKT細胞活性により、IFNγが分泌されることによりNK細胞活性が促進されることが多い。NKT細胞とは対照的に、NK細胞は、T細胞抗原受容体(TCR)もしくはpan TマーカーCD3または表面免疫グロブリン(Ig)B細胞受容体を発現しないが、それらは、通常、表面マーカーCD16(FcγRIII)およびCD56をヒトにおいて、NK1.1またはNK1.2をC57BL/6マウスにおいて発現する。最大80%のヒトNK細胞は、CD8も発現する。持続的に増殖するNK細胞株は、がん患者から確立することができ、一般的NK細胞株は、例えば、NK-92、NKLおよびYTSである。
【0090】
用語「力価」または「形質導入効率」は、それらの標的細胞を形質導入するそれらの能力に関して、ベクター粒子を特徴づけ、比較する手段として使用する。したがって、「力価が高い」または「形質導入効率が高い」ベクター粒子は、同量の他のベクター粒子よりも多数の細胞に、所与のベクター粒子量で形質導入可能である。
【0091】
用語「活性化NK細胞」は、本明細書において使用する場合、ナイーブな新たに単離した非活性化NK細胞と比較した、刺激条件による細胞の変化を指し、これは、遺伝子発現プロファイルの変化または細胞シグナル伝達の変化として現れ、非活性化NK細胞と比較して種々の細胞特性を有するNK細胞をもたらす。「活性化NK細胞」は、例えば、ある特定の表面受容体、例えば、NKp44、NKG2D、DNAM-1もしくはTRAILの発現を増加させるか、またはサイトカイン受容体の発現を変化させ、例えば、CD25を上方制御し得る。活性化NK細胞は、それらの細胞周期を、G0の静止細胞からG1、SまたはG2へと変化させることができ、増殖を開始させるか、またはより急速に増殖させることができる。
【0092】
用語「CX3CR1陰性NK細胞」または「CX3CR1negNK細胞」または「CX3CR1NK細胞」または「CX3CR1枯渇NK細胞」または「CX3CR1depletedNK細胞」は、マーカーCX3CR1をそれらの細胞表面に発現しないNK細胞の集団を指す。
【0093】
フラクタルカイン受容体としても知られるCX3Cケモカイン受容体1(CX3CR1)またはGタンパク質共役受容体13(GPR13)は、ヒトにおいてCX3CR1遺伝子によりコードされるタンパク質である。名称が示唆するように、この受容体は、ケモカインCX3CL1(ニューロタクチンまたはフラクタルカインとも呼ばれる)を結合させる。
【0094】
用語「短期的活性化」は、本明細書において使用する場合、Il-1ファミリーサイトカインを、例えば、活性化するNK細胞を含む細胞培養培地に添加することにより、例えば、NK細胞を活性化することが知られている種々のサイトカインを使用するが、IL-1ファミリーサイトカインは使用しない標準的なNK細胞活性化と比較して、NK細胞を迅速に活性化させる可能性を指す。NK細胞活性化は、IL-1ファミリーの存在下で1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間(1日)、28時間、36時間、42時間または48時間(2日)を過ぎた後に発生する。
【0095】
用語「NK細胞活性化試薬」は、NK細胞に活性化シグナルをもたらす1つまたは複数の刺激作用物質、例えば、CD2およびCD335に対する刺激抗体とカップリングさせた分子、例えば、粒子、ビーズまたはナノマトリックス(nanomatrix)を指す。そのようなNK細胞活性化試薬の例は、Miltenyi BiotecのNK Cell Activation/Expansion Kit(Miltenyi Biotec GmbH、Bergisch Gladbach、Germany、注文番号130-094-483)またはEP2824112B1に記載されているナノマトリックスである。
【0096】
インターロイキン-1ファミリー(IL-1ファミリー)は、11種のサイトカインの群であり、感染症または無菌性傷害に対する免疫および炎症応答の制御において中心的役割を果たす。
【0097】
前記IL-1ファミリーサイトカインは、IL-1アルファ、IL-1ベータ、IL-1Ra、IL-18、IL-36Ra、IL-36アルファ、IL-37、IL-36ベータ、IL-36ガンマ、IL-38およびIL-33である。本明細書に開示するように、例えば、他のサイトカインを使用した、標準的(先行技術の)NK細胞活性化プロセスに、IL-1ファミリーサイトカインを添加すると、NK細胞活性化が加速され、NK細胞の短期的活性化がもたらされる。
【0098】
IL-1ファミリーサイトカインは、一部のアミノ酸が欠失、付加または置換されているがサイトカインの機能は依然として保持する、その変異体でもあり得る。したがって、この定義では、少なくとも70%、または少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の、アミノ酸配列レベルにおける配列同一性を有する、野生型サイトカインのアミノ酸配列の変異体を含む。本発明の文脈では、「配列同一性」は、当技術分野において周知のアミノ酸配列用アラインメントプログラムを使用した、ペアワイズアラインメントを使用して決定することができる。
【0099】
IL-1ファミリーサイトカインは、完全長サイトカイン(「Il-1ファミリーサイトカインまたはその機能性断片」)の対応する部分に対する、少なくとも70%、または少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%の、アミノ酸配列レベルにおける配列同一性を有する、前記完全長サイトカインの機能性断片でもあり得る。
【0100】
一般に、すべてのアミノ酸の変異(すなわち、IL-1ファミリーサイトカインのアミノ酸の置換、付加または欠失)が、この定義の下で包含され、これは、本明細書に開示のIL-1ファミリーサイトカインの特性の喪失をもたらさない。
【0101】
用語「発現」は、本明細書において使用する場合、細胞において、そのプロモーターにより引き起こされる、特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳として定義する。
【0102】
用語「フィーダー細胞」は、標的細胞(すなわち、ここではナチュラルキラー細胞)の培養物に添加して、それらの生存および/または増殖を支持する細胞を指す。フィーダー細胞は、インタクトおよび機能性の細胞外マトリックスおよびマトリックス関連因子をもたらし、公知および未知のサイトカインを馴化培地中に分泌する。フィーダー細胞は、通常、増殖が停止しており、培養物中でその増殖は阻止されるが、その生存は維持される。増殖停止は、有効量の放射線照射または有効量のマイトマイシン(Mytomycin)Cなどの化学物質による処置により達成することができる。放射線照射した末梢血単核細胞(以下、「PBMC」とも略す)、NK細胞が枯渇したPBMC、がん細胞株、遺伝子改変がん細胞株、およびエプスタイン-バーウイルス(Epstein-Barr Virus)(以下、「EBV」とも略す)による自然感染により不死化したリンパ球を含む、数種類のフィーダー細胞が存在する。
【0103】
本明細書において使用する場合、用語「培養すること」は、NK細胞の維持に必要とされる化学的および物理的条件(例えば、温度、気体)、ならびに増殖因子を供給することを含む。NK細胞を培養することは、増殖(expansion)(増殖(proliferation))のための条件をNK細胞に供給することを含むことが多い。NK細胞の増殖を支持し得る化学的条件の例としては、通常、NK細胞増殖に適する細胞培養培地に供給される(または手動で与えられ得る)、バッファー、血清、栄養素、ビタミン、抗生物質、サイトカインおよび他の増殖因子を含むが、これらに限定されない。一実施形態では、NK細胞培養培地は、5%のAB型ヒト血清(Life Technologies)、500U/mLのIL-2(Miltenyi)および10ng/mLのIL-15(Miltenyi)を添加した、NK MACS Research Medium(Miltenyi Biotec GmbH)を含む。NK細胞を増殖させるための使用に適する他の培地は、当技術分野において周知である。
【0104】
用語「細胞培養培地」は、本明細書において使用する場合、NK細胞の維持に必要とされる化学的条件を供給する液体を含む。NK細胞の増殖を支持し得る化学的条件の例としては、通常、細胞培養培地に供給される(または手動で与えられ得る)、溶液、バッファー、血清、血清成分、栄養素、ビタミン、サイトカインおよび他の増殖因子を含むが、これらに限定されない。当技術分野において公知の、NK細胞を培養するための使用に適する培地は、NK MACS(Miltenyi)、TexMACS(Miltenyi)、CellGro SCGM(CellGenix)、X-Vivo 10、X-Vivo 15、BINKIT NK Cell Initial Medium(Cosmo Bio USA)、AIM-V(Invitrogen)、DMEM/F12、NK Cell Culture Medium(upcyte technologies)を含む。用語「IL-2」および「IL-15」は、本明細書において使用する場合、サイトカインであるインターロイキン-2およびインターロイキン-15ならびにそれらの誘導体、例えば、IL-2スーパーカイン、IL-2ジフテリア毒素融合タンパク質またはIL-15Rα sushiを指す。
【0105】
用語IL-2および/またはIL-15は、一般的に、共通ガンマ鎖およびIL2/IL15Rβ(IL2Rβ、CD122としても知られる)を共有する、IL2およびIL15のヘテロ3量体の受容体に結合する、サイトカインの4α-ヘリックスバンドルファミリーのメンバーを指す。
【0106】
用語「有効濃度のIL-2および/またはIL-15を(繰返し)添加すること」は、本明細書において使用する場合、1U/mL~5000U/mLの間、好ましくは10U/mL~1000U/mLの間、より好ましくは50~500U/mLの間の、前記細胞培養培地中のIL-2の濃度を指し、および/または0.1~1000ng/mLの間、好ましくは1~200ng/mLの間、より好ましくは10~100ng/mLの間の、前記細胞培養培地中のIL-15の濃度を指す。通常、IL-2および/またはIL-15の濃度は、培養プロセス中、経時的に低下し、それによりIL-2および/またはIL-15を、細胞培養培地に繰返し添加して、有効濃度(複数可)のサイトカイン(複数可)のレベルを維持することができる。通常、IL-2および/またはIL-15は、細胞培養培地を交換することにより細胞培養物に再度添加することができる。この文脈において、「繰返し」は、全培養プロセスにおける少なくとも1回の繰返しを意味する。培養プロセスの初期にIL-2および/またはIL-15を添加することは必要ではないが、少なくとも最初の培地交換、すなわち、7日後に添加することは必要である。しかし、それにもかかわらず、培養プロセスの初期にIL2および/またはIL-15を添加することは、有益である。
【0107】
本明細書において使用する場合、用語「増殖(expansion)」または「増殖(proliferation)」は、細胞増殖または細胞数の増倍を指す。増殖(expansion)または増殖(proliferation)は、本明細書において使用する場合、培養プロセス中に発生するNK細胞数の上昇に関する。
【0108】
用語「培養プロセス」または「培養」は、本明細書において使用する場合、NK細胞の培養および増殖を指し、培養プロセス、すなわち、NK細胞増殖の開始日(開始点)は、0日目と定義する。培養プロセスは、オペレーターにより所望の限り持続させることができ、細胞培養培地が、細胞を生存および/または成長および/または増殖可能とする条件を有する限り実施することができる。
【0109】
用語「培養プロセスの初期」は、本明細書において使用する場合、IL-2および/またはIL-15などの増殖因子を細胞培養培地に添加することによる増殖プロセスの開始、すなわち、細胞の増殖プロセスの開始を惹起することを指す。IL-18またはIL-33などのIL-1ファミリーサイトカインを添加すると、NK細胞の活性化プロセスが加速され、効率的な形質導入が準備されるため、IL-1ファミリーサイトカインは、NK細胞を活性化する他の周知のサイトカインとともに培地に与えるべきである。好ましくは、有効濃度のIL-1ファミリーサイトカインは、細胞培養培地に一度だけ添加する。あるいは、有効濃度のIL-1ファミリーサイトカインは、繰返して、例えば、2回またはそれよりも頻繁に前記細胞培養培地に添加する。
【0110】
用語「有効濃度のIL-1ファミリーサイトカインを(繰返し)添加すること」は、本明細書において使用する場合、1U/mL~5000U/mLの間、好ましくは10U/mL~1000U/mLの間、より好ましくは50~500U/mLの間の、前記細胞培養培地中の前記IL-1ファミリーサイトカインの濃度を指す。用語「フィーダー細胞の膜粒子」は、本明細書において使用する場合、フィーダー細胞の表面分子を刺激するNK細胞を含有する、フィーダー細胞の膜調製物を指す。フィーダー細胞の膜粒子は、生フィーダー細胞の考えられる不利益を回避するために利用することができる。フィーダー細胞の膜粒子は、窒素キャビテーションの後、密度勾配遠心分離による細胞膜画分の単離および精製を使用した、細胞の溶解および破壊により生成することができ、例えば、Oyerらに記載されている(Oyer 2015)。通常は、本明細書に開示の方法では、フィーダー細胞は、前記フィーダー細胞の膜粒子により置換することができる。好ましくは、膜粒子は、使用する生フィーダー細胞により得ることができる量と同等の量で使用すべきである。好ましくは、使用する膜粒子の濃度は、100~400μg/mLの間、より好ましくは150~250μg/mLの間であり得る。膜粒子の添加は、生フィーダー細胞を添加する場合と同じ頻度で実施することができる。
【0111】
用語「改変細胞」および「遺伝子修飾細胞」(本明細書においては特にNK細胞)は、本明細書において使用する場合、互換的に使用することができる。用語は、外来の遺伝子または核酸配列を含有および/または発現し、次いで、細胞またはその後代の遺伝子型または表現型を修飾することを意味する。特に、用語は、当技術分野において周知の組換え方法により細胞を操作して、これらの細胞において自然の状態では発現しない、ペプチドまたはタンパク質を安定または一過性に発現させることができるということを指す。用語「閉鎖系」は、本明細書において使用する場合、新しい物質の導入などの培養プロセスの実施、ならびに細胞の増殖、分化、活性化、および/または分離などの細胞培養ステップの実施の間の細胞培養物夾雑のリスクを低下させる、任意の閉鎖系を指す。そのような系により、GMPまたはGMP様の(「無菌」)条件下で操作して、臨床的に適用可能な細胞組成物をもたらすことが可能となる。本明細書では例として、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、Germany)を閉鎖系として使用する。この系は、WO2009/072003に開示されている。しかし、本発明の方法の使用を、CliniMACS(登録商標)Prodigyに限定することを意図していない。用語「自動化方法」または「自動化プロセス」は、本明細書において使用する場合、自動ではなくオペレーターにより手動で実施し得るか、または実施可能な、デバイスならびに/またはコンピュータおよびコンピュータソフトウェアの使用によって自動化された任意のプロセスを指す。自動化された方法(プロセス)は、実現に必要なヒトによる介入が少なく、人的時間が少なくて済む。ある場合では、本発明の方法は、本方法の少なくとも1つのステップを、いかなるヒトの支援または介入もなしに実施する場合、自動化されている。好ましくは、本発明の方法は、本明細書に開示の方法のすべてのステップを、ヒトの支援または介入なしに実施する場合、自動化されている。好ましくは、自動化プロセスは、CliniMACS(登録商標)Prodigyなどの閉鎖系上で実行する。CARは、ヒンジおよび膜貫通領域を介して細胞シグナル伝達分子の細胞質ドメインとカップリングさせた、ある特定の標的抗原に特異的な抗体の単鎖可変断片(scFv)を含む。最も一般的なリンパ球活性化部分は、細胞トリガー(例えば、CD3ζ)部分と協力する、細胞共刺激(例えば、CD28、CD137、OX40、ICOSおよびCD27)ドメインを含む。CARにより媒介される養子免疫療法により、CAR移植細胞が、HLAによって制限されずに標的細胞上の所望の抗原を直接認識することが可能となる。
【0112】
実施形態
本発明の一実施形態では、トランスジェニック核酸、例えば、キメラ抗原受容体をコードする核酸は、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子により活性化NK細胞に導入する。
【0113】
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子は、ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質の膜貫通および細胞外ドメインと、マウス白血病ウイルス(MLV)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインとの融合を含むか、もしくはそれにより構成されるキメラエンベロープ糖タンパク質、または細胞質尾部ドメインが融合阻害Rペプチドを欠く、修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質を含んでもよい。
【0114】
NK細胞を含む細胞培養培地中のNK細胞は、例えば、IL-2および/またはIL-15を培地に添加することにより、活性化する。2~5日後、NK細胞活性化の効果により、NK細胞の増殖がもたらされる。次いで、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子を培地に、すなわち、活性化NK細胞に添加することができる。活性化NK細胞は、前記ベクター粒子により形質導入し、培地中で増殖させて、導入遺伝子、例えば、キメラ抗原受容体を発現させる。
【0115】
これらの改変NK細胞を使用して、それを必要とする対象を治療することができる。
【0116】
本発明の別の実施形態では、トランスジェニック核酸、例えば、キメラ抗原受容体をコードする核酸は、造血細胞膜に結合し、それと融合することが可能な修飾ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質によりシュードタイプ化した、レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子により活性化NK細胞に導入される。
【0117】
前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子は、ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)エンベロープ糖タンパク質の膜貫通および細胞外ドメインと、マウス白血病ウイルス(MLV)エンベロープ糖タンパク質の細胞質尾部ドメインとの融合を含むか、もしくはそれにより構成されるキメラエンベロープ糖タンパク質、または細胞質尾部ドメインが融合阻害Rペプチドを欠く修飾BaEVエンベロープ糖タンパク質を含んでもよい。
【0118】
NK細胞を含む細胞培養培地中のNK細胞は、IL-2および/またはIL-15と、IL-1ファミリーサイトカイン、例えば、IL-18またはIL-33とを培地に添加することにより活性化する。1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間(1日)、28時間、36時間、42時間または48時間(2日)後、NK細胞は、活性化される。次いで、前記シュードタイプ化レトロウイルスベクター粒子、例えば、レンチウイルスベクター粒子を培地に、すなわち、活性化NK細胞に添加する。活性化NK細胞は、前記ベクター粒子により形質導入し、培地中で増殖させて、導入遺伝子、例えば、キメラ抗原受容体を発現させる。
【0119】
これらの改変NK細胞を使用して、それを必要とする対象を治療することができる。
【0120】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、臨床規模の細胞分離装置(CliniMACS plus、Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、CD3の枯渇およびCD56の濃縮により精製したNK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0121】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、完全な閉鎖系(CliniMACS Prodigy(登録商標)、Miltenyi Biotec、Germany)における、すべての磁気標識するステップを含む、CD3の枯渇およびCD56の濃縮により精製することができる。
【0122】
これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0123】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、ヒト血液試料、例えば、PBMCから、陰性磁気細胞分離により精製したNK細胞であり得る。NK細胞は、非NK細胞に結合する抗体またはその断片のカクテルとカップリングさせた磁気ビーズを使用することにより分離する。次いで、濃縮したNK細胞の集団を含む陰性画分を、NK細胞の活性化および後続の形質導入に適する細胞培養培地、すなわち、Il-2および/またはIL-15および/またはIL-18を含む培地に添加する。
【0124】
これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0125】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、例えば、WO2013076070A1に開示するように、陰性磁気細胞分離および赤血球沈降により、ヒト全血から精製した(MACSxpress(登録商標)NK細胞単離キット、Miltenyi Biotec)、NK細胞であり得る。
【0126】
これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0127】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、精製したNK細胞の亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0128】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、精製したCX3CR1陰性NK細胞亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0129】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、精製したKLRG1またはCD57陰性NK細胞亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0130】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、精製したNKG2C陽性NK細胞亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0131】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、精製したメモリー様NK細胞亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0132】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、サイトカイン誘導メモリー様NK細胞である、NK細胞であり得る。これらのNK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0133】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、単一KIR分子に対して陽性であるか、または特定のKIR分子に対して陽性の、精製NK細胞亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0134】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、ウイルスペプチドに特異的な精製NK細胞亜集団である、NK細胞であり得る。これらの精製NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0135】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、サイトカインおよびケモカインを分泌する亜集団について濃縮した、NK細胞であり得る。これらの濃縮NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0136】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、蛍光活性化セルソーターを使用して単離した亜集団である、NK細胞であり得る。これらの単離NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0137】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、マイクロチップをベースとするセルソーター、例えば、MACSQuant Tyto(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH)を使用して単離した亜集団である、NK細胞であり得る。これらの単離NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0138】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させることができる。
【0139】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、タグ化タンパク質、例えば、ビオチン化抗体に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現させることができる。
【0140】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、T細胞受容体(TCR)を発現させることができるNK細胞であり得る。
【0141】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、1つまたは複数のケモカイン受容体を発現させることができるNK細胞であり得る。
【0142】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、天然に存在する受容体よりも親和性バージョンが高いか、または低いNK細胞受容体を発現させることができるNK細胞であり得る。前記NK細胞受容体は、CD16、CD314/NKG2D、CD335/NKp46、NKp44、NKp30、CD226/DNAM-1またはキラー免疫グロブリン様受容体の群から選択され得る。
【0143】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、免疫制御分子、例えば、PD-L1、CTLA-4、LAG-3、CD39またはCD73を発現させることができるNK細胞であり得る。
【0144】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、阻害受容体、例えば、KIR分子、NKG2A、PD-1またはA2ARの発現を増加または低下させることができるNK細胞であり得る。
【0145】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、サイトカイン、例えば、IL-2またはIL-15を産生することができるNK細胞であり得る。
【0146】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬、例えば、治療抗体を発現させることができるNK細胞であり得る。
【0147】
本発明の一実施形態では、NK細胞の集団を含む細胞培養培地中の前記NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入して、細胞追跡用のタンパク質、例えば、蛍光追跡用GFP、またはルシフェリンによる化学発光追跡用ルシフェラーゼを発現させることができるNK細胞であり得る。
【0148】
本発明の一実施形態では、NK細胞の単離、NK細胞の培養およびNK細胞への形質導入からなる方法は、当業者により公知の閉鎖系において実施する。さらなる実施形態では、閉鎖系は、細胞処理デバイスに取り付けられた使い捨てのチューブセットである。さらなる実施形態では、前記細胞処理デバイスは、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec)である。さらなる実施形態では、形質導入NK細胞は、第2の閉鎖系において、より大量に、さらに培養する。
【0149】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、形質導入後に、約200~1000リットルの容量で大規模に増殖させ、多数の患者のための遺伝子修飾NK細胞の臨床的産物がもたらされる。
【0150】
本発明の一実施形態では、前記形質導入NK細胞は、凍結保存する。凍結保存したNK細胞のアリコートは、解凍し、前記培養プロセスにおいてさらに培養し、凍結保存した細胞バンクから、形質導入NK細胞が生成可能となる。
【0151】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、単一NK細胞から、限界希釈して、表現型的に均一なNK細胞産物を生成することにより増殖させる。この均一なNK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0152】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、腫瘍生検から単離した腫瘍浸潤NK細胞である。これらの単離NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0153】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、細胞培養プロセスにおいて、臍帯血CD34+造血前駆細胞から生成する。これらの生成NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0154】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、細胞培養プロセスにおいて、誘導多能性幹細胞から生成する。これらの生成NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0155】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、高いNK細胞機能性のために選択したドナーの血液から単離する。これらの単離および選択したNK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【0156】
本発明の一実施形態では、前記NK細胞は、臍帯血から単離する。これらの単離NK細胞は、本明細書に開示のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子により形質導入することができる。
【実施例
【0157】
実施例1:驚くべきことに、ヒヒエンベロープ糖タンパク質(BaEV)によりシュードタイプ化したレンチウイルスベクターは、NK細胞が予め活性化されている場合、初代NK細胞への高い形質導入効率を示す。
バフィーコートからのNK細胞の単離では、末梢血単核細胞(PBMC)の調製を、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare)を使用して、標準的な密度勾配遠心分離により実施した。NK cell isolation kit human(Miltenyi Biotec)を適用して、PBMCからNK細胞を、そのまま濃縮(untouched enrichment)した。単離したNK細胞を3つの群に分割し、それらを異なる期間活性化し、GFPを含有するBaEVシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより形質導入した。すべての形質導入は、10ng/mlのvectofusin(Miltenyi Biotec社)およびスピノキュレーション(spinoculation)を用いて、製造者のプロトコールに従って実施した。第1の群のNK細胞は、単離直後に(活性化せずに)形質導入した。第2の群のNK細胞は、5%のAB型血清、500U/mlのIL-2および10ng/mlのIL-15を含有するNK MACS medium(Miltenyi Biotec)中で、1日培養し(IL-2+IL-15中で1日活性化)、次いで、形質導入した。第3の群のNK細胞は、5%のAB型血清、500U/mlのIL-2および10ng/mlのIL-15を含有するNK MACS medium(Miltenyi Biotec)中で、2日間培養し(IL-2+IL-15中で2日間活性化)、次いで、形質導入した。各形質導入群の対照として、ウイルスベクターを添加しないことを除いて(非形質導入)形質導入細胞と同一条件下で、NK細胞を培養した。形質導入から3日後、非活性化NK細胞は、わずか2.44%の形質導入を示した(非活性化、図1の左下パネル)。一方、5%のAB型血清、500U/mlのIL-2および10ng/mlのIL-15を含有するNK MACS medium(Miltenyi Biotec)中で、1日および2日間培養したNK細胞群は、14.59%および22.61%のGFP発現をそれぞれ示した(図1、形質導入、中央および右下のパネル)。各群では、非形質導入NK細胞は、GFP発現をまったく示さなかった(図1、上のパネル、非形質導入)。
【0158】
実施例2:BaEVによる活性化NK細胞の形質導入は、VSV-Gによる形質導入よりも著しく高く、長期にわたって安定であり、細胞死を誘導しない。
初代NK細胞を実施例1に記載のように単離することで、純粋なCD3およびCD56NK細胞を得た(図2A)。T細胞を同一の血液試料から、MiltenyiのCD4に対するMicroBeadsおよびCD8に対するMicroBeadsを使用して、ユーザーマニュアルに従って単離し、純粋なCD3陽性T細胞をもたらした(図2A)。単離後、NK細胞を2日間、5%のAB型血清、10ng/mLのIL-15および500U/mLのIL-2を含むNK MACS medium中で活性化した。単離後、T細胞を2日間、200U/mLのIL-2およびMiltenyiのT Cell Transact humanを含むTexMACS medium中で、ユーザーマニュアルに従って活性化した。次いで、活性化した初代T細胞およびNK細胞、ならびにNK-92細胞株に、VSV-GエンベロープまたはBaEVのいずれかでシュードタイプ化した、GFP発現をコードするレンチウイルスベクターを含有する上清により形質導入した。VSV-Gシュードタイプ化ウイルス粒子による形質導入から3日後、NK細胞は、高ウイルス力価でも、約2%のGFP発現しか示さず、一方、T細胞は、同一条件下で、約77%の高いGFP発現を示した(図2B)。この知見により、VSV-Gシュードタイプ化レンチウイルスベクターによるNK細胞への形質導入は、非効率的であるが、T細胞を含む他の細胞型には作用することが確認される。驚くべきことに、BaEVシュードタイプ化ウイルスベクターによるNK細胞株NK-92への形質導入から3日後、ほぼ100%の高いGFP発現が観察されたが、VSV-GによるGFP発現は、初代NK細胞と同様に、非効率的であった(図2C)。NK-92細胞は、活性化条件下で、200U/mLのIL-2を含有するNK MACS medium中に維持した。BaEVシュードタイプ化ベクターによる形質導入を適用した場合、NK-92についての知見と一致して、60%の驚くほど高い割合の活性化初代NK細胞がGFPを発現し、T細胞と同等の形質導入率に達した(図2D)。重要なことには、細胞数の経時的上昇を意味する増殖率は、非形質導入NK細胞、およびBaEVシュードタイプ化により形質導入したNK細胞と同等であり、形質導入方法により、NK細胞の細胞死も誘導されず、増殖も影響されないことが示された(図5)。これは、治療により高度の細胞死が引き起こされる、遺伝子修飾のための他の方法、例えば、エレクトロポレーションとは異なる。加えて、遺伝子修飾のための他の方法、例えば、エレクトロポレーションでは、導入遺伝子の一過性発現のみが可能となる。注目すべきことに、BaEVシュードタイプ化レンチウイルスベクターによる形質導入後、導入遺伝子を発現したNK細胞が、常に高い割合で、数週間にわたって安定であった(図6)。
【0159】
実施例3:驚くべきことに、IL-33によるNK細胞の短期的活性化により、NK細胞の形質導入率が、IL-33を使用しない場合よりも高くなる。
初代NK細胞を実施例1に記載のように単離した。精製NK細胞を2日間、IL-2(500U/ml)およびIL-15(10ng/ml)、またはIL-2(500U/ml)、IL-15(10ng/ml)およびIL-33(30U/ml)のいずれかを含有する、5%のAB型血清を含むNK MACS medium中で活性化した。2日目に、目的の遺伝子を含有する、ヒヒ(BaEV)(図3A)またはVSV-G(図3B)エンベロープによりシュードタイプ化した、レンチウイルスベクターによって細胞を形質導入した。形質導入は、実施例1に記載のように行った。非形質導入細胞は、形質導入細胞と同一条件下で培養した。形質導入後、IL-33を含まない培地中で細胞を培養した。形質導入NK細胞における導入遺伝子発現を、目的の遺伝子の産物に対する特異的モノクローナル抗体により、形質導入後3日目、8日目、および14日目に検出した。形質導入後3日目の導入遺伝子発現はそれぞれ、IL-33を用いない場合は、16.62であり、IL-33を用いた場合は、21.27%であった(図3A、左下のパネル)。形質導入後8日目の導入遺伝子発現はそれぞれ、IL-33を用いない場合は、32.59%であり、IL-33を用いた場合は、45.03%であった(図3A、中央のパネル)。形質導入後14日目では、導入遺伝子発現は、IL-33を用いない場合、33.66%であり、IL-33を用いた場合、60.17%であった(図3A、右下のパネル)。この結果は、NK細胞をIL-33により予め刺激すると、形質導入に相加効果があることを示唆する。非形質導入NK細胞は、非常に低いレベルの抗体染色を示した(1%未満、図3A、上のパネル)。VSV-Gエンベロープによりシュードタイプ化したレンチウイルスベクターは、ヒヒシュードタイプ化ベクターと比較して著しく低い形質導入効率を示したが、IL-33の相加効果は、依然として著しい(図3B)。
【0160】
実施例4:IL-18により、IL-33と同様に、NK細胞形質導入率が増加し、IL-1ファミリーサイトカインの一般的役割を示唆した。
3人の異なるドナーから、初代NK細胞を実施例1に記載のように単離した。単離後、同一のドナー由来のNK細胞を、2日間、5%のAB型血清、10ng/mlのIL-15および500U/mLのIL-2を含むNK MACS medium中で、20ng/mLのIL-18を添加するか、またはIL-18を添加せずに活性化した。次いで、活性化初代NK細胞を、BaEVによりシュードタイプ化した、GFPをコードするレンチウイルスベクターにより形質導入した。形質導入後、IL-18を含まないが、IL-2およびIL-15を含む培養培地中で、細胞を培養した。形質導入から3日後、NK細胞は、IL-18を用いずに予め活性化した場合、40%の平均GFP発現を示したが、同一のドナー由来のNK細胞は、IL-18を用いて予め活性化した場合、66%の著しく高いGFP発現を示した(図4)。
【0161】
実施例5:BaEVシュードタイプ化レンチウイルスベクターの使用により、CD19 CARを活性化NK細胞に効率的に形質導入して、CD19陽性標的細胞を特異的に殺滅することが可能となる。
CARを発現するT細胞は、CD19陽性B細胞白血病の治療のための臨床試験において非常に肯定的な結果をもたらした。CAR NK細胞が、CAR T細胞の代替物であり得るため、本発明者らは、NK細胞形質導入についての一例示的適用のように、CD19に対するCARをNK細胞に形質導入した。初代NK細胞は、4人の異なるドナーから、実施例1に記載のように単離した。単離後、同一のドナー由来のNK細胞を2日間、5%のAB型血清、10ng/mlのIL-15および500U/mLのIL-2を含むNK MACS medium中で活性化した。次いで、活性化初代NK細胞を、CD19-CARをコードするレンチウイルスベクターにより形質導入した。使用した「CD19B」CAR構築物およびVSV-Gによる形質導入後のT細胞におけるその発現は、これまでに記載されている(Schneiderら2017)。NK細胞への形質導入では、BaEVによりシュードタイプ化したレンチウイルスベクターは、この構築物のために生成し、使用した。形質導入から7日後、CAR発現およびNK細胞の細胞毒性を解析した。詳細には、NK細胞を48時間、無血清培養培地中でインキュベーション後、25μg/mLの組換えヒトCD19 Fc(R&D Systems)との30分間の結合により、CD19-CAR発現を判定し、Fcに対するマウスAPCコンジュゲートmAb(Miltenyi Biotec)を使用して、フローサイトメトリーにより検出した。CD19-CARの発現は、平均して、種々のドナー由来のNK細胞間で70%であり、一部のドナーは、形質導入率が90%に達した(図7A)。種々の標的細胞株の標的細胞の殺滅を、フローサイトメトリーをベースとするアッセイにより解析した。標的細胞をCellTrace Violet(Life Technologies)により標識し、1ウェルあたり2×10細胞を、96ウェルの丸底プレート中に播種した。次いで、対照として培地、またはNK細胞を種々のNK対標的比で添加した。24時間後、CellTrace Violet陽性標的細胞を、フローサイトメトリーにより定量化した。NK細胞を含む試料中の生標的細胞とNK細胞を含まない対応する試料との差を、殺滅された標的として定義した。K562細胞は、CD19を発現しないが(図7B)、それらが、NK細胞の天然の細胞毒性に対する感受性を有するため、NK細胞の一般的細胞毒性能を試験するための標準的な標的であると考えることができる。予想どおり、CAR NK細胞および非形質導入NK細胞はともに、まったく同様に用量依存的に、K562細胞を非常に効率的に殺滅し、CD19非依存性の天然細胞毒性が、形質導入により影響されないことを立証した(図7C)。K562細胞とは対照的に、RS4;11細胞は、CD19を発現するが(図7B)、それらは、NK細胞の天然細胞毒性に対して完全に非感受性である。結果的に、非形質導入NK細胞は、RS4;11細胞を殺滅することが不可能であり、一方、CD19-CAR NK細胞は、K562細胞と同等に効率的にRS4;11を殺滅し、使用したCD19 CARの高い機能性および特異性を実証した(図7B)。Raji細胞は、CD19陽性であるが(図7B)、RS4;11とは異なり、それらは、活性化NK細胞の天然細胞毒性に対して感受性であるが、K562細胞ほどではない。したがって、非形質導入NK細胞は、既に、用量依存的にRaji細胞を殺滅可能であったが、それにもかかわらず、CD19 CAR NK細胞によるRaji細胞の殺滅は、著しくより高く、CD-19特異的殺滅の相加効果を示唆していた。結論として、BaEVシュードタイプ化レンチウイルスベクターによるNK細胞への形質導入は、白血病標的細胞のCD19特異的殺滅が向上したCD19 CAR発現NK細胞を効率的に生成することを可能とした。
【0162】
実施例6:ナイーブNK細胞ではなく、活性化NK細胞が、ヒヒエンベロープASCT2の受容体を発現した。
NK細胞は、IL-2およびIL-15を含むNK MACS medium(Miltenyi Biotec GmbH)中で2日間、増殖することにより活性化した。ナイーブおよび活性化細胞をともに、RIPA溶解バッファー中に溶解し、ASCT2に対する抗体を使用してウエスタンブロット解析に供した。この結果は、ヒヒエンベロープ、ASCT2の受容体が、NK細胞活性化後のみに発現するが(図8)、ナイーブNK細胞では発現しないことを示し、ヒヒシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより形質導入するために、NK細胞を活性化する必要があることを示唆した。
【0163】
実施例7:静止NK細胞ではなく、増殖性NK細胞は、形質導入可能である。
NK細胞を増殖色素で標識し、広範に洗浄し、次いで、GFPを含有するヒヒシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより形質導入した。増殖開始および形質導入から4日後、細胞増殖および形質導入をフローサイトメトリーにより判定した。結果は、静止NK細胞ではなく、増殖性NK細胞のみが、ヒヒシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより形質導入可能であることを示唆する(図9A)。GFP形質導入NK細胞を抗CD56抗体で染色し、3つのNK細胞群(増殖GFP+、増殖GFP-、静止状態)にゲーティングしてCD56発現のレベルを判定した(図9B)。増殖し形質導入したNK細胞のすべてが、CD56brightであり、一方、形質導入せず静止状態のNK細胞が、CD56dimであり、CD56dimNKサブセットは、増殖性でなく、形質導入不可能であることを示唆した。次に、本発明者らは、他のNK細胞受容体を、増殖し形質導入した、増殖性であるが形質導入していない、および静止状態のNK細胞のサブセット間でさらに比較した(図10)。NK細胞を増殖色素で標識し、広範に洗浄し、次いで、GFPを含有するヒヒシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより形質導入した。形質導入から4日後、種々のNK細胞受容体に対するモノクローナル抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーを使用して発現を判定した。一般的に公知のNK細胞マーカーの種々のサブセット間での発現を示す(図10)。NKp46、DNAM-1、CD94およびNKG2Cの発現は、すべての異なるNK細胞サブセット間で同等であった。増殖性細胞の画分においては、GFPとGFPとの間の異なるNK細胞マーカーの発現の差は、顕著ではなかった。しかし、いくつかのマーカーの発現によれば、静止NK細胞は、増殖性NK細胞よりも表現型が顕著に異なった。増殖性細胞は、よりCD56強陽性(bright)であり、CD16発現がより低く、活性化受容体NKp30、NKp44およびNKG2Dの発現がより高く、ならびにTRAILおよびNKG2Aの発現がより高い傾向を有した(図10)。
【0164】
実施例8:CX3CR1 neg NK細胞サブセットは、高度に増殖性かつ形質導入可能である。
5人のドナー由来のNK細胞を使用して、371種の表面マーカーについて、フローサイトメトリーにより解析した。静止NK細胞と増殖性NK細胞のマーカープロファイル間の差を解析し、これをさらに、GFP発現集団とGFP陰性集団とに分けた。スクリーニングから、GFPを発現しない静止NK細胞と、形質導入することができGFPを発現する増殖性NK細胞との間で最良に識別されたマーカーを判定した。全体的に、静止NK細胞との直接比較では、増殖性およびGFP陽性のNK細胞は、32種のマーカーをより高いレベルで、5種のマーカーをより低いレベルで発現した(図11A)。これらのマーカーのうち、一部は、発現レベルが異なっただけでなく、特異的マーカーを発現するNK細胞の存在頻度も異なった。最も明白であったことは、増殖性およびGFP陽性のNK細胞間の、CX3CR1の発現の非存在およびTRAILを強力に発現する細胞の存在頻度の高さであった(図11B)。
【0165】
実施例9:CX3CR1 neg NK細胞サブセットは、ヒヒシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより高度に形質導入可能であり、マーカーとして使用され得る。
増殖および形質導入と最良に相関した表面分子から、さらなる調査のためにCX3CR1を選択して、このマーカーが、増殖および形質導入の種々の能力を有するNK細胞サブセット間で直接識別可能かどうかを試験した。種々のNK細胞サブセットは、形質導入および培養の前に、MCASソーティングを使用して、それらのCX3CR1発現に基づいて分離した。ソーティングなしでは、種々のドナー由来の血液由来NK細胞間のCX3CR1の発現は、86%であり、すべてのNK細胞のうちの約14%の小画分のみが、CX3CR1を発現しなかったことを意味した(図5A)。ソーティング後では、CX3CR1negNK細胞の平均存在頻度は、CX3CR1の濃縮により2%に低下させることができ、一方、マーカーの枯渇により91%のCX3CR1negNK細胞の平均存在頻度がもたらされた(図12A)。別々にソートしたNK細胞画分の培養および形質導入の直後、本発明者らは、導入遺伝子発現および増殖率に関して有意差を観察した(図12B、12C)。非ソート画分間では、増殖率およびGFP発現は、それぞれ28%および21%であった。同時に、限界容量のCX3CR1陰性細胞を有するCX3CR1濃縮画分は、たった11%の増殖細胞および7%のGFP陽性細胞しか含有しなかった。印象的なことには、CX3CR1negNK細胞の高い開始存在頻度を有するCX3CR1枯渇画分間で、既に81%が増殖し、69%がGFP陽性であった。CX3CR1濃縮画分においても、増殖およびGFP発現は、残存CX3CR1neg細胞において、主に観察された(図12C)。まとめると、実験により、BaEVシュードタイプ化LVにより効率的に形質導入することができ、高度に増殖性のNK細胞のサブセットを同定した。このNK細胞サブセットは、CX3CR1発現の非存在により明らかに定義することができ、この特性は、形質導入可能なNK細胞の予備濃縮に使用することができる。
【0166】
実施例10:IL-1ベータによりNK細胞形質導入率が増加した。
新たなNK細胞を末梢血単核細胞(PBMC)から単離し、IL-2/IL-15またはIL-2/IL-15/IL-1β(IL-1ベータ)で3日間刺激した。活性化後2日目に、感染多重度(MOI)3でリンパ球に形質導入した。翌日、細胞を洗浄し、IL-2/IL-15の存在下で、さらに7日間、増殖を継続させた。遺伝子修飾NK細胞の存在頻度を検出するために、CARのscFvドメインを特異的に標的とするビオチン化抗イディオタイプ抗体で細胞を標識した。ビオチンコンジュゲートの検出は、抗ビオチンPE 2次mAb標識化を使用して実施した。陽性細胞の割合は、各ドットプロットにより示し、IL-1ベータを含まずIL-2/IL-15で刺激したものと比較して、IL-2、IL-15およびIL-1ベータで刺激した新たなNK細胞により、優れた形質導入率をもたらすことを示す(68%対52%)。結果は、3つの独立した実験を代表する。
【0167】
参考文献
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図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図10
図11A-B】
図12A
図12B
図12C
図13
【配列表】
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