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特許7262477アルミニウム合金ブレージングシート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230414BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20230414BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20230414BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20230414BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230414BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22C21/00 J
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22F1/04 Z
C22F1/00 605
C22F1/00 614
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 651A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
【請求項の数】 48
(21)【出願番号】P 2020552623
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041895
(87)【国際公開番号】W WO2020085486
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018201411
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043277(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208940(WO,A1)
【文献】特表2015-528852(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100793(WO,A1)
【文献】特開2013-233552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
C22F 1/04 - 1/057
B23K 35/00 - 35/40
B32B 15/00 - 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気中又は真空中でのアルミニウム材のろう付けに用いられるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
ろう材/中間材/心材/ろう材の順に積層されている4層材であり、
該中間材が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該中間材の結晶粒径が20~300μmであり、
該心材が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の結晶粒径が20~300μmであり、
該ろう材が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記中間材が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記中間材が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
前記ろう材が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項6】
前記ろう材が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
前記ろう材が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
前記中間材が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする請求項1~7いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項9】
前記中間材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項1~8いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項10】
前記中間材が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1~9いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項11】
前記中間材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項1~10いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項12】
前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項1~11いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項13】
不活性ガス雰囲気中又は真空中でのアルミニウム材のろう付けに用いられるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
ろう材/中間材/心材/中間材/ろう材の順に積層されている5層材であり、
該中間材が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該中間材の結晶粒径が20~300μmであり、
該心材が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の結晶粒径が20~300μmであり、
該ろう材が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項14】
前記中間材が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする請求項13記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項15】
前記中間材が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする請求項13又は14いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項16】
前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項13~15いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項17】
前記ろう材が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項13~16いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項18】
前記ろう材が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする請求項13~17いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項19】
前記ろう材が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項13~18いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項20】
前記中間材が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする請求項13~19いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項21】
前記中間材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項13~20いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項22】
前記中間材が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項13~21いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項23】
前記中間材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項13~22いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項24】
前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項13~23いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項25】
ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物に、少なくとも熱間加工と、冷間加工と、冷間加工での圧延のパス間に1回以上の中間焼鈍と、最後の冷間加工のパス後に最終焼鈍と、を行うことにより、アルミニウム合金ブレージングシートを得るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
該中間材用鋳塊が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材用鋳塊が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該ろう材用鋳塊が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該中間焼鈍のうち最後の中間焼鈍後の板厚taに対する該最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%であること、
を特徴とする請求項1~12いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項26】
前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする請求項25記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項27】
前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする請求項25又は26いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項28】
前記ろう材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項25~27いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項29】
前記ろう材用鋳塊が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項25~28いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項30】
前記ろう材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする請求項25~29いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項31】
前記ろう材用鋳塊が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項25~30いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項32】
前記中間材用鋳塊が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする請求項25~31いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項33】
前記中間材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項25~32いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項34】
前記中間材用鋳塊が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項25~33いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項35】
前記中間用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項25~34いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項36】
前記ろう用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項25~35いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項37】
ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/中間材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物に、少なくとも熱間加工と、冷間加工と、冷間加工での圧延のパス間に1回以上の中間焼鈍と、最後の冷間加工のパス後に最終焼鈍と、を行うことにより、アルミニウム合金ブレージングシートを得るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
該中間材用鋳塊が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材用鋳塊が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該ろう材用鋳塊が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該中間焼鈍のうち最後の中間焼鈍後の板厚taに対する該最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%であること、
を特徴とする請求項13~24いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項38】
前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする請求項37記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項39】
前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする請求項37又は38いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項40】
前記ろう材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項37~39いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項41】
前記ろう材用鋳塊が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項37~40いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項42】
前記ろう材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする請求項37~41いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項43】
前記ろう材用鋳塊が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項37~42いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項44】
前記中間材用鋳塊が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする請求項37~43いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項45】
前記中間材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする請求項37~44いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項46】
前記中間材用鋳塊が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする請求項37~45いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項47】
前記中間用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項37~46いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項48】
前記ろう用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする請求項37~47いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス雰囲気中又は真空中でフラックスを使用せずに、アルミニウム材をろう付するために用いられるアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製の熱交換器や機械用部品など、細かな接合部を多数有する製品の接合方法としてろう付接合が広く用いられている。アルミニウム材(アルミニウム合金材を含む)をろう付接合するには、表面を覆っている酸化皮膜を破壊して、溶融したろう材を母材あるいは同じく溶融したろう材に接触させることが必須である。アルミニウム材の酸化皮膜を破壊するためには、大別してフラックスを使用する方法と、真空中で加熱する方法とがあり、いずれも実用化されている。
【0003】
ろう付接合の適用範囲は多岐に及んでいる。ろう付け接合により製造される最も代表的なものとして自動車用熱交換器がある。ラジエータ、ヒータ、コンデンサ、エバポレータ等の自動車用熱交換器の殆どはアルミニウム製であり、その殆どがろう付接合によって製造されている。そのうち、非腐食性のフラックスを塗布して窒素ガス中で加熱する方法が現在では大半を占めている。
【0004】
しかし、フラックスろう付法においては、フラックス費とフラックスを塗布する工程に要する費用が嵩み、熱交換器製造コストが増大する要因になっている。熱交換器を真空ろう付によって製造する方法もあるが、真空ろう付法は加熱炉の設備費とメンテナンス費が高く、生産性やろう付の安定性にも問題のあることから、窒素ガス炉中でフラックスを使用せずにろう付接合するニーズが高まっている。
【0005】
このニーズに応えるため、ろう付加熱中にろう材へMgを拡散させることによって、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用することなしにろう付接合を可能とする方法として、例えば、特許文献1には、心材に添加したMgをろう材中に拡散させる手法が提案されており、クラッド材の製造時やろう付加熱中にろう材表面の酸化皮膜形成が防止され、ろう材表面の酸化皮膜破壊にMgが有効に作用することが開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、Liを含有するろう材とMgを含有する心材の間に中間材を設け、その中間材にMgを含有させる手法が提案されており、ろう材に添加したLiと心材、中間材に添加したMgによってろう付加熱中にろう材表面の酸化皮膜を破壊し、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにろう付を可能とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-358519号公報
【文献】特開2014-233552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、心材に添加したMgをろう材中に拡散させる方法では、心材の固相線温度をろう付温度以上に確保することが必要であるため、心材に添加することができるMg量に制限があり、ろう付時に酸化皮膜を破壊するのに十分なMg量を添加することができず、良好なろう付性を確保できない場合がある。
【0009】
さらに、心材のMg量を制限したとしても、心材の結晶粒径が小さい場合には、ろう付中に心材へのろう材中のSiの拡散が著しくなることにより心材が溶融したり、プレス加工などを施した際の低加工部でろう付中に亜結晶粒が残存して心材へのろう材中のSiの拡散が著しくなることにより心材が溶融するなど、熱交換器の形状を維持できない問題があった。
【0010】
また、Liを含有するろう材とMgを含有する心材の間に中間材を設け、その中間材にMgを含有させる手法では、中間材を設けていることで、中間材へのMgの添加量に制約はなくなるものの、例えば、ろう材が厚い場合や、ろう付時の昇温速度が速い条件などでMgの拡散が十分に起こらず、十分な皮膜破壊効果が得られないおそれがある。
【0011】
従って、本発明の目的は、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中又は真空中でフラックスを使用せずにアルミニウム材をろう付する場合において、ろう付加熱中に、Mgがろう材中に速やかに供給され、ろう材溶融開始後にこのMgが溶融ろう中に十分に溶出されて、ろう材表面の酸化皮膜が効果的に破壊されるとともに、ろう付加熱中にろう材中のSiが心材へ拡散されることが抑制され、優れたろう付性が達成されるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、不活性ガス雰囲気中又は真空中でのアルミニウム材のろう付けに用いられるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
ろう材/中間材/心材/ろう材の順に積層されている4層材であり、
該中間材が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該中間材の結晶粒径が20~300μmであり、
該心材が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の結晶粒径が20~300μmであり、
該ろう材が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、前記中間材が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする(1)のアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、前記中間材が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(1)~(3)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、前記ろう材が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(1)~(4)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、前記ろう材が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする(1)~(5)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0018】
また、本発明(7)は、前記ろう材が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)~(6)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0019】
また、本発明(8)は、前記中間材が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする(1)~(7)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0020】
また、本発明(9)は、前記中間材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(1)~(8)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0021】
また、本発明(10)は、前記中間材が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(1)~(9)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0022】
また、本発明(11)は、前記中間材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(1)~(10)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0023】
また、本発明(12)は、前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(1)~(11)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0024】
また、本発明(13)は、不活性ガス雰囲気中又は真空中でのアルミニウム材のろう付けに用いられるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
ろう材/中間材/心材/中間材/ろう材の順に積層されている5層材であり、
該中間材が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該中間材の結晶粒径が20~300μmであり、
該心材が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の結晶粒径が20~300μmであり、
該ろう材が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0025】
また、本発明(14)は、前記中間材が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする(13)のアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0026】
また、本発明(15)は、前記中間材が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする(13)又は(14)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0027】
また、本発明(16)は、前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(13)~(15)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0028】
また、本発明(17)は、前記ろう材が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(13)~(16)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0029】
また、本発明(18)は、前記ろう材が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする(13)~(17)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0030】
また、本発明(19)は、前記ろう材が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする(13)~(18)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0031】
また、本発明(20)は、前記中間材が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする(13)~(19)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0032】
また、本発明(21)は、前記中間材が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(13)~(20)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0033】
また、本発明(22)は、前記中間材が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(13)~(21)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0034】
また、本発明(23)は、前記中間材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(13)~(22)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0035】
また、本発明(24)は、前記ろう材が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(13)~(23)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートを提供するものである。
【0036】
また、本発明(25)は、ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物に、少なくとも熱間加工と、冷間加工と、冷間加工での圧延のパス間に1回以上の中間焼鈍と、最後の冷間加工のパス後に最終焼鈍と、を行うことにより、アルミニウム合金ブレージングシートを得るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
該中間材用鋳塊が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材用鋳塊が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該ろう材用鋳塊が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該中間焼鈍のうち最後の中間焼鈍後の板厚taに対する該最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%であること、
を特徴とする(1)~(12)いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0037】
また、本発明(26)は、前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする(25)のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0038】
また、本発明(27)は、前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする(25)又は(26)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0039】
また、本発明(28)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(25)~(27)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0040】
また、本発明(29)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(25)~(28)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0041】
また、本発明(30)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする(25)~(29)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0042】
また、本発明(31)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする(25)~(30)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0043】
また、本発明(32)は、前記中間材用鋳塊が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする(25)~(31)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0044】
また、本発明(33)は、前記中間材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(25)~(32)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0045】
また、本発明(34)は、前記中間材用鋳塊が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(25)~(33)いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0046】
また、本発明(35)は、前記中間用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(25)~(34)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0047】
また、本発明(36)は、前記ろう用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(25)~(35)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0048】
また、本発明(37)は、ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/中間材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物に、少なくとも熱間加工と、冷間加工と、冷間加工での圧延のパス間に1回以上の中間焼鈍と、最後の冷間加工のパス後に最終焼鈍と、を行うことにより、アルミニウム合金ブレージングシートを得るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
該中間材用鋳塊が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材用鋳塊が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該ろう材用鋳塊が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該中間焼鈍のうち最後の中間焼鈍後の板厚taに対する該最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%であること、
を特徴とする(13)~(24)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0049】
また、本発明(38)は、前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のZnを含有することを特徴とする(37)のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0050】
また、本発明(39)は、前記中間材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、Mn、Cr及びZrの含有量の合計が0.10質量%以上であることを特徴とする(37)又は(38)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0051】
また、本発明(40)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(37)~(39)いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0052】
また、本発明(41)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、0.050質量%以下のNa及び0.050質量%以下のSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(37)~(40)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0053】
また、本発明(42)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、2.00質量%以下のMgを含有することを特徴とする(37)~(41)いずれか1のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0054】
また、本発明(43)は、前記ろう材用鋳塊が、更に、8.00質量%以下のZn、0.100質量%以下のIn、0.100質量%以下のSn及び4.00質量%以下のCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする(37)~(42)いずれか1項記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0055】
また、本発明(44)は、前記中間材用鋳塊が、更に、13.00質量%以下のSiを含有することを特徴とする(37)~(43)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0056】
また、本発明(45)は、前記中間材用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のBiを含有することを特徴とする(37)~(44)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0057】
また、本発明(46)は、前記中間材用鋳塊が、更に、0.100質量%以下のIn及び0.100質量%以下のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする(37)~(45)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0058】
また、本発明(47)は、前記中間用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(37)~(46)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【0059】
また、本発明(48)は、前記ろう用鋳塊が、更に、1.00質量%以下のFeを含有することを特徴とする(37)~(47)いずれかのアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中又は真空中でフラックスを使用せずにアルミニウム材をろう付する場合において、ろう付加熱中に、Mgがろう材中に速やかに供給され、ろう材溶融開始後にこのMgが溶融ろう中に十分に溶出されて、ろう材表面の酸化皮膜が効果的に破壊されるとともに、ろう付加熱中にろう材中のSiが心材へ拡散されることが抑制され、優れたろう付性が達成されるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することを提供することすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】実施例で作製したミニコアを示す図である。
図2】本発明のアルミニウム合金ブレージングシートにおけるドロップ型流動性試験の加熱後の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、不活性ガス雰囲気中又は真空中でのアルミニウム材のろう付けに用いられるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
ろう材/中間材/心材/ろう材の順に積層されている4層材であり、
該中間材が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該中間材の結晶粒径が20~300μmであり、
該心材が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の結晶粒径が20~300μmであり、
該ろう材が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートである。
【0063】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、ろう材1と、中間材1と、心材と、ろう材2とが、ろう材1/中間材1/心材/ろう材2の順に積層されてクラッドされている4層材である。つまり、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、心材の一方の面に、ろう材1及び中間材1が、心材側から中間材1/ろう材1の順にクラッドされ、且つ、心材の他方の面に、ろう材2がクラッドされているクラッド材である。なお、本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートでは、ろう材1の化学組成とろう材2の化学組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0064】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金クラッド材に係る中間材は、
0.40~6.00質量%のMgを含有し、
残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0065】
中間材はMgを含有する。中間材に含有されるMgは、酸化物生成自由エネルギーがアルミニウムよりも低いため、ろう付加熱時にろう材中へ拡散して、ろう材の表面を覆っているアルミニウムの酸化皮膜を破壊する。中間材中のMg含有量は、0.40~6.00質量%、好ましくは1.30~5.00質量%、特に好ましくは2.50~4.00質量%である。中間材中のMg含有量が上記範囲にあることにより、ろう材溶融後の酸化皮膜の破壊が起こり、ろう付性が良好となる。一方、中間材中のMg含有量が、上記範囲未満だと、ろう材中へ拡散及び溶出するMg量が不足して、ろう材表面の酸化皮膜の破壊効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、材料製造時に割れが生じ易くなり、ブレージングシートの製造が困難となる。
【0066】
中間材は、更に、Znを含有することができる。中間材に含有されるZnは、中間材の固相線温度を低下させ、ろう材へのMgの供給速度を上げることができる。また、中間材に含有されるZnは、電位を卑にする効果があり、中間材がZnを含有することにより、中間材と心材の電位差が形成され、犠牲防食効果が発揮される。中間材がZnを含有する場合、中間材中のZn含有量は、2.00質量%以下、好ましくは1.20質量%以下である。中間材中のZn含有量が上記範囲を超えると、自己耐食性が低くなるため、早期に消耗し、十分な防食性が発揮されない。
【0067】
中間材は、更に、Mn、Cu、Cr及びZrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することができる。MnとCuは、高温の変形抵抗を上げる効果があることから、熱間圧延におけるクラッド時に中間材の変形抵抗を増し、クラッド率の変動を小さくできる効果が得られる。また、CrとZrは、中間材の結晶粒径の調整のために添加される。中間材は、更に、2.00質量%以下のMn、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のCr及び0.30質量%以下のZrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することができる。中間材がMnを含有する場合、中間材中のMn含有量は、2.00質量%以下、好ましくは0.10~2.00質量%、特に好ましくは0.60~1.50質量%である。中間材中のMn含有量が上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。中間材がCuを含有する場合、中間材中のCuの含有量は、1.20質量%以下、好ましくは0.05~1.00質量%である。中間材のCuの含有量が、上記範囲を超えると、粒界腐食が発生するおそれが高くなる。中間材がCrを含有する場合、中間材中のCr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%、特に好ましくは0.10~0.20質量%である。中間材中のCr含有量が上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。中間材がZrを含有する場合、中間材中のZr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%、特に好ましくは0.10~0.20質量%である。中間材中のZr含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0068】
中間材が、Mn、Cr及びZrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有する場合、中間材中のMn、Cr及びZrの合計含有量は、0.10質量%以上、好ましくは0.60~1.80質量%、特に好ましくは1.00~1.50質量%である。中間材中のMn、Cr及びZrの合計含有量が上記範囲にあることにより、熱間圧延性と塑性加工性に優れる。
【0069】
中間材は、更に、Siを含有することができる。中間材がSiを含有することにより、中間材の固相線温度が低くなり、ろうが溶融する温度域において液相が生成して中間材が一部溶融することで、上述したろう材へのMgの供給速度が上がる。更に、中間材がSiを含有することにより、中間材自身がろう材として機能することもできる。中間材がSiを含有する場合、中間材中のSiの含有量は、13.00質量%以下、好ましくは1.00~13.00質量%である。中間材中のSi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な初晶Siが形成され易くなり、材料製造時に割れが発生し易くなり、塑性加工性が低くなる。また、中間材は、0.05~1.00質量%のSiを含有していてもよい。
【0070】
また、中間材は、1.00質量%以下、好ましくは0.05~0.50質量%のFeを含有していてもよい。
【0071】
中間材は、更に、Biを含有することができる。中間材に含有されるBiは、ろう付加熱時に中間材や心材からろう材へ供給されるMgによる酸化皮膜の破壊を促進し、ろう付性を向上させる。中間材がBiを含有する場合、中間材中のBiの含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.004~0.50質量%、特に好ましくは0.10~0.50質量%ある。中間材中のBi含有量が、上記範囲を超えると、材料の圧延時に割れを生じ易くなり、ブレージングシートの製造が困難になる。
【0072】
中間材は、更に、In及びSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することができる。中間材がInを含有する場合、中間材中のIn含有量は、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.050質量%である。中間材がSnを含有する場合、中間材中のSn含有量は、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.100質量%である。
【0073】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートに係る心材は、
0.20~2.00質量%のMgを含有し、
更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0074】
心材はMgを含有する。心材に含有されるMgは、マトリクス中に固溶して固溶強化により材料強度を向上させる。また、心材に含有されるMgは、Siと反応してMg2Si化合物の時効析出による強度向上に効果を発揮するとともに、酸化物生成自由エネルギーがアルミニウムよりも低いため、ろう付加熱時にろう材中へ拡散して、ろう材の表面を覆っているアルミニウムの酸化皮膜を破壊する。心材中のMg含有量は、0.20~2.00質量%、好ましくは0.50~1.50質量%、特に好ましくは0.50~1.00質量%である。一方、心材中のMg含有量が、上記範囲未満だと、ろう材中へ拡散及び溶出するMg量が不足してろう材表面の酸化皮膜の破壊効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、心材の固相線温度(融点)が低くなり、ろう付時に心材溶融が起こるおそれが高くなる。
【0075】
心材は、Mn、Si、Fe、Cu、Ti、Zr及びCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有する。
【0076】
心材に含有されるMnは、Fe、SiとともにAl-Fe-Mn系、Al-Mn-Si系、Al-Fe-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、あるいはマトリクス中に固溶して固溶強化により材料強度を向上させる。また、心材に含有されるMnは、電位を貴にして犠牲陽極材やフィンとの電位差を大きくし、犠牲陽極効果による防食効果を向上させる効果も発揮する。心材中のMn含有量は、1.80質量%以下、好ましくは0.60~1.50質量%である。心材中のMn含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が生成され易く、塑性加工性が低くなる。
【0077】
心材に含有されるSiは、Fe、MnとともにAl-Mn-Si系、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、或いはマトリクス中に固溶して固溶強化により材料強度を向上させる。また、心材に含有されるSiは、Mgと反応してMg2Si化合物の時効析出による強度向上に効果を発揮する。心材がSiを含有する場合、心材中のSi含有量は、1.50質量%以下、好ましくは0.05~1.00質量%、特に好ましくは0.20~1.00質量%である。心材中のSi含有量が、上記範囲を超えると、心材の固相線温度(融点)が低くなり、ろう付時に心材溶融が起こるおそれが高くなる。
【0078】
心材に含有されるFeは、Mn、SiとともにAl-Fe-Mn系、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、材料強度を向上させる。心材がFeを含有する場合、心材中のFe含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.05~0.70質量%である。心材中のFe含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0079】
心材に含有されるCuは、固溶強化により材料強度を向上させる。また、心材に含有されるCuは、電位を貴にして犠牲陽極材やフィンとの電位差を大きくし、犠牲陽極効果による防食効果を向上させる効果も発揮する。心材がCuを含有する場合、心材中のCu含有量は、1.20質量%以下、好ましくは0.05~1.00質量%である。心材中のCu含有量が、上記範囲を超えると、粒界腐食が発生するおそれが高くなるとともに、心材の融点低下による溶融のおそれが高まる。
【0080】
心材に含有されるTiは、固溶強化により強度を向上させ、また、耐食性を向上させる効果を発揮する。心材がTiを含有する場合、心材中のTi含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.10~0.20質量%である。心材中のTi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0081】
心材に含有されるZrは、固溶強化により強度を向上させ、また、Al-Zr系の微細化合物を析出させ、ろう付後の結晶粒粗大化に作用する。心材がZrを含有する場合、心材中のZr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.10~0.20質量%である。心材中のZr含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0082】
心材に含有されるCrは、固溶強化により強度を向上させ、また、Al-Cr系の微細化合物を析出させ、ろう付後の結晶粒粗大化に作用する。心材がCrを含有する場合、心材中のCr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.10~0.20質量%である。心材中のCr含有量が、上記範囲を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0083】
心材の結晶粒径は、20~300μm、好ましくは50~200μmであり、且つ、中間材の結晶粒径は、20~300μm、好ましくは50~200μmである。心材及び中間材の結晶粒径が上記範囲にあることにより、ろう付性に優れる。心材及び中間材の結晶粒径が小さいと、心材又は中間材と直接クラッドされた側のろう材に含有されているSiが、心材又は中間材の結晶粒界近傍で拡散し易くなるため、ろう量が少なくなり、ろう付け性が低くなる。心材及び中間材の結晶粒径が大きいと、Siの拡散量が抑制される。心材及び中間材の結晶粒径が、上記範囲未満だと、ろう付性が低くなり、また、上記範囲を超えると、アルミニウム合金ブレージングシートを塑性加工する際に肌荒れを生じる原因となる。なお、アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程において、冷間加工のパス間に行う中間焼鈍のうち、最後の中間焼鈍後の板厚taに対する最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)を20~70%とすることにより、心材及び中間材の結晶粒径を上記範囲とすることができる。
【0084】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートに係るろう材(ろう材1、ろう材2)は、
4.00~13.00質量%のSiを含有し、
残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。なお、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ろう材1の化学組成とろう材2の化学組成は、同一であっても、異なってもよい。
【0085】
ろう材中のSi含有量は、4.00~13.00質量%である。ろう材中のSi含有量が、上記範囲未満だと、ろう付性が十分でなく、また、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な初晶Siが形成され易くなり、材料製造時に割れが発生し易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0086】
ろう材は、更に、Biを含有することができる。ろう材に含有されるBiは、ろう付加熱時に中間材や心材からろう材へ供給されるMgによる酸化皮膜の破壊を促進し、ろう付性を向上させる。ろう材がBiを含有する場合、ろう材中のBi含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.004~0.50質量%、特に好ましくは0.05~0.30質量%である。ろう材中のBi含有量が上記範囲を超えると、ろう材の変色を伴って、ろう付性が著しく低くなる。
【0087】
ろう材は、更に、Na及びSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することができる。Na又はSrは、Si粒子微細化のために、ろう材に添加される。ろう材がNaを含有する場合、ろう材中のNa含有量は、0.050質量%以下、好ましくは0.003~0.050質量%、特に好ましくは0.005~0.030質量%である。ろう材がSrを含有する場合、ろう材中のSr含有量は、0.050質量%以下、好ましくは0.003~0.050質量%、特に好ましくは0.005~0.030質量%である。
【0088】
ろう材は、更に、Mgを含有することができる。ろう材中のMgは、ろう材の表面を覆っているアルミニウムの酸化皮膜を破壊し、ろう付性が向上する。ろう材がMgを含有する場合、ろう材中のMg含有量は、2.00質量%以下、好ましくは0.01~1.00質量%である。ろう材中のMg含有量が上記範囲を超えると、ろう付加熱中のろうが溶融する前に、ろう材表面にMgOが形成されるためろう付性が低下する。
【0089】
ろう材は、更に、Zn、In、Sn及びCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することができる。ろう材中のZn、In、Snともに、ろう付後に心材の表面に残留するろう材の電位を低下させることができる。そして、ろう材の犠牲防食効果により、ろう付後のアルミニウム製品の耐食性をより向上させることができる。ろう材がZnを含有する場合、ろう材中のZn含有量は、8.00質量%以下、好ましくは0.50~3.00質量%である。ろう材がInを含有する場合、ろう材中のIn含有量は、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.050質量%である。ろう材がSnを含有する場合、ろう材中のSn含有量は、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.100質量%である。ろう材がCuを含有する場合、Cuはろう材の電位を高めることができる。Zn、In、Snによりろう材電の電位が過度に低下した場合に、Cuを含有させることで、電位をより適切な値に調整する機能を有する。ろう材中のCu含有量は、1.20質量%以下、好ましくは0.01~0.50質量%、特に好ましくは0.05~0.30質量%である。
【0090】
また、ろう材は、1.00質量%以下、好ましくは0.05~0.50質量%のFeを含有していてもよい。
【0091】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上、好ましくは0.60以上である。ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、上記範囲にあることにより、ろう付加熱時にエロージョンが生じ難くなる。一方、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、上記範囲未満だと、ろう付加熱時にエロージョンが生じる。なお、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)の測定方法については後述する。
【0092】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、不活性ガス雰囲気中又は真空中でのアルミニウム材のろう付けに用いられるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
ろう材/中間材/心材/中間材/ろう材の順に積層されている5層材であり、
該中間材が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該中間材の結晶粒径が20~300μmであり、
該心材が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の結晶粒径が20~300μmであり、
該ろう材が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートである。
【0093】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、ろう材1と、中間材1と、心材と、中間材2と、ろう材2とが、ろう材1/中間材1/心材/中間材2/ろう材2の順に積層されてクラッドされている5層材である。つまり、本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、心材の一方の面に、ろう材1及び中間材1が、心材側から中間材1/ろう材1の順にクラッドされ、且つ、心材の他方の面に、中間材2/ろう材2が、心材側から中間材2/ろう材2の順にクラッドされているクラッド材である。なお、本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートでは、ろう材1の化学組成とろう材2の化学組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートでは、中間材1の化学組成と中間材2の化学組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0094】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートに係る心材、中間材(中間材1、中間材2)及びろう材(ろう材1、ろう材2)は、本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートに係る心材、中間材及びろう材と同様である。
【0095】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上、好ましくは0.60以上である。ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、上記範囲にあることにより、ろう付加熱時にエロージョンが生じ難くなる。一方、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、上記範囲未満だと、ろう付加熱時にエロージョンが生じる。なお、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)の測定方法については後述する。
【0096】
アルミニウム合金ブレージングシートの中間材又は心材がMgを含有する場合、中間材や心材の固相線温度が低くなっている上に、アルミニウム合金ブレージングシートに、ろう付加熱前にひずみが加わると、ろう付加熱時に、再結晶が生じ、粒径が粗大化するものの、亜結晶粒が残存し、亜結晶粒の亜粒界にSiが浸透するため、エロージョンが生じ易くなる。そこで、アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程において、最終焼鈍前の加工率を低くして、素材の結晶粒径を最適化し、熱間加工以降の入熱量を大きくすることで、微細なMn系化合物を粗大化させ、加えてMgを析出させることで、再結晶温度を高くし、ろう付加熱中の再結晶粒径を大きくするとともに、亜結晶粒の生成を抑制することにより、エロージョンを抑制することができる。そして、本発明者らは、(I)アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程において、最終焼鈍前の加工度を20~70%とすること、詳細には、冷間加工における冷間圧延のパス間に行う中間焼鈍のうち、最後の中間焼鈍後の板厚taに対する最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)を20~70%とすることにより、ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上、好ましくは0.60以上であるアルミニウム合金ブレージングシートが得られること、及び(II)ドロップ型流動性試験において、ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)が、0.50以上、好ましくは0.60以上であるアルミニウム合金ブレージングシートは、ろう付前に所定の形状に加工されるときにひずみが加わっても、エロージョンが生じ難いこと、すなわち、ドロップ型流動性試験における、アルミニウム合金ブレージングシートの「ひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)」を、0.50以上、好ましくは0.60以上とすることにより、ろう付加熱時のエロージョンを抑制できることを見出した。
【0097】
なお、本発明において、ドロップ型流動性試験によるひずみを加える前の流動係数Kbに対する5%のひずみを加えた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)は、以下の手順により求められる。試験材のアルミニウム合金ブレージングシート(ひずみが加えられる前)を2つ用意し、一方に、冷間圧延により5%のひずみを加え、5%のひずみが加えられた試験材を作製する。なお、冷間圧延により5%のひずみを加えるとは、試験材に対し、ひずみを加える前の板厚の5%に相当する厚み分を減ずる加工を加えることを指す。例えば、ひずみを加える前の試験材の板厚が0.500mmであった場合は、冷間圧延により、板厚を0.475mmまで減ずる加工を行ったときのひずみは5%である。次いで、ひずみが加えられる前の試験材と、5%のひずみが加えられた後の試験材を用いて、ドロップ型流動性試験により流動係数を求める。圧延方向を長手方向として幅40mm×長さ60mmに切り出して吊り下げ用の穴3φを二個設けた後、重量(W0)を測定し、図2のように吊り下げて、窒素ガス(酸素濃度:15~20ppm)炉中で、室温から600℃までの平均昇温速度20℃/分で、到達温度600℃まで加熱し、600℃で3分間保持する。加熱後、図2に示すように、ろう溜まり部(B)を切断して、重量(WB)を測定し、下記式(1):
K=(4WB-W0)/(3W0×クラッド率) (1)
により流動係数(K)を求める。ひずみが加えられる前の試験材の流動係数(Kb)と、5%のひずみが加えられた後の試験材の流動係数(Ka)と、を求め、下記式(2):
α=Ka/Kb (2)
により、ひずみが加えられる前の流動係数Kbに対する5%のひずみが加えられた後の流動係数Kaの比α(α=Ka/Kb)を算出する。なお、ろう材1とろう材2の成分が異なることにより、あるいは、中間材と心材の成分が異なることにより、あるいは、中間材1と中間材2の成分が異なることにより、ろう材1側とろう材2側の流動係数が異なる場合は、上記の流動係数比αは、ろう材1側とろう材2側の平均値として求められることになる。
【0098】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシート及び本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中又は真空中でフラックスを使用せずにアルミニウム材をろう付、すなわち、フラックスレスろう付に、好適に用いられる。本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、冷媒などが通る流路構成材となるチューブや、チューブと接合されて熱交換器の構造を形作るプレートなどに使用される。本発明のアルミニウム合金ブレージングシートがチューブ材に用いられる場合、ブレージングシートの厚みは、0.15~0.5mm程度であり、ろう材及び中間材のクラッド率は、通常3~30%程度である。本発明のアルミニウム合金ブレージングシートがプレート材に用いられる場合、ブレージングシートの厚みは、0.8~5mm程度であり、ろう材及び中間材のクラッド率は、3~30%程度である。
【0099】
次に、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法について説明する。本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法では、ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物に、また、本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法では、ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/中間材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物に、少なくとも熱間加工と、冷間加工と、冷間加工の圧延のパス間に1回以上の中間焼鈍と、最後の冷間加工のパス後に最終焼鈍と、を行うことにより、アルミニウム合金ブレージングシートを得るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
該中間材用鋳塊が、0.40~6.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材用鋳塊が、0.20~2.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下のMn、1.50質量%以下のSi、1.00質量%以下のFe、1.20質量%以下のCu、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該ろう材用鋳塊が、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該中間焼鈍のうち最後の中間焼鈍後の板厚taに対する該最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%であること、
を特徴とする本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法である。つまり、本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法と、本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法とでは、熱間圧延に供する積層物が異なること以外は同様である。以下、本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法と、本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法とで、共通する点については、本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法と本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を、総称して、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法と記載して説明する。
【0100】
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法では、先ず、心材、中間材及びろう材に用いる所望の成分組成を有するアルミニウム合金を、それぞれ溶解、鋳造することによって、心材用鋳塊、中間材用鋳塊及び皮材用鋳塊を作製する。これら溶解、鋳造の方法は、特に限定されるものではなく通常の方法が用いられる。
【0101】
次いで、心材用鋳塊、中間材用鋳塊及びろう材用鋳塊を、必要に応じて、均質化処理する。均質化処理の好ましい温度範囲は、400~600℃であり、均質化処理時間は2~20時間である。
【0102】
次いで、心材用鋳塊、中間材用鋳塊及び皮材用鋳塊を面削した後、所定の厚さにし、心材用鋳塊の一方の面に、心材用鋳塊側から順に、中間材用鋳塊とろう材用鋳塊を重ね合わせ、心材用鋳塊の他方の面に、ろう材用鋳塊を重ね合わせて、積層物とするか、または、心材用鋳塊の一方の面に、心材用鋳塊側から順に、中間材用鋳塊とろう材用鋳塊を重ね合わせ、心材用鋳塊の他方の面に、心材用鋳塊側から順に、中間材用鋳塊とろう材用鋳塊を重ね合わせて、積層物とする。
【0103】
中間材用鋳塊は、0.40~6.00質量%、好ましくは1.30~5.00質量%、特に好ましくは2.50~4.00質量%のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0104】
中間材用鋳塊は、更に、2.00質量%以下、好ましくは1.20質量%以下のZnを含有することができる。
【0105】
中間材用鋳塊は、更に、2.00質量%以下、好ましくは0.10~2.00質量%、特に好ましくは0.60~1.50質量%のMn、1.20質量%以下、好ましくは0.05~1.00質量%のCu、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%、特に好ましくは0.10~0.20質量%のCr及び0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%、特に好ましくは0.10~0.20質量%のZrうちのいずれか1種又は2種以上と、を含有することができる。中間材用鋳塊が、更に、Mn、Cr及びZrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有する場合、Mn、Cr及びZrの含有量の合計は、0.10質量%以上、好ましくは0.60~1.80質量%、特に好ましくは1.00~1.50質量%である。
【0106】
中間材用鋳塊は、更に、Siを含有することができる。中間材用鋳塊がSiを含有する場合、中間材用鋳塊中のSiの含有量は、13.00質量%以下、好ましくは1.00~13.00質量%である。また、中間材用鋳塊は、0.05~1.00質量%のSiを含有してもよい。
【0107】
中間材用鋳塊は、更に、Feを含有することができる。中間材用鋳塊がFeを含有する場合、中間材用鋳塊中のFeの含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.05~0.50質量%である。
【0108】
中間材用鋳塊は、更に、Biを含有することができる。中間材用鋳塊がBiを含有する場合、中間材用鋳塊中のBiの含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.004~0.50質量%、特に好ましくは0.10~0.50質量%ある。
【0109】
中間材用鋳塊は、更に、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.050質量%のIn及び0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.100質量%のSnのうちのいずれか1種又は2種を含有することができる。
【0110】
心材用鋳塊は、0.20~2.00質量%、好ましくは0.50~1.50質量%、特に好ましくは0.50~1.00質量%のMgを含有し、更に、1.80質量%以下、好ましくは0.60~1.50質量%のMn、1.50質量%以下、好ましくは0.05~1.00質量%、さらに好ましくは0.20~1.00質量%のSi、1.00質量%以下、好ましくは0.05~0.70質量%のFe、1.20質量%以下、好ましくは0.05~1.00質量%のCu、0.30質量%以下、好ましくは0.10~0.20質量%のTi、0.30質量%以下、好ましくは0.10~0.20質量%のZr及び0.30質量%以下、好ましくは0.10~0.20質量%のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0111】
ろう材用鋳塊は、4.00~13.00質量%のSiを含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0112】
ろう材用鋳塊は、更に、Biを含有することができる。ろう材用鋳塊がBiを含有する場合、ろう材用鋳塊中のBi含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.004~0.50質量%、特に好ましくは0.05~0.30質量%である。
【0113】
ろう材用鋳塊は、更に、Na及びSrのうちのいずれか1種又は2種を含有することができる。ろう材用鋳塊がNaを含有する場合、ろう材用鋳塊中のNa含有量は、0.050質量%以下、好ましくは0.003~0.050質量%、特に好ましくは0.005~0.03質量%である。ろう材用鋳塊がSrを含有する場合、ろう材用鋳塊中のSr含有量は、0.050質量%以下、好ましくは0.003~0.050質量%、特に好ましくは0.005~0.03質量%である。
【0114】
ろう材用鋳塊は、更に、Mgを含有することができる。ろう材用鋳塊がMgを含有する場合、ろう材中のMg含有量は、2.00質量%以下、好ましくは0.01~1.00質量%である。
【0115】
ろう材用鋳塊は、更に、Zn、In、Sn及びCuのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することができる。ろう材用鋳塊がZnを含有する場合、ろう材用鋳塊中のZn含有量は、8.00質量%以下、好ましくは0.50~3.00質量%である。ろう材用鋳塊がInを含有する場合、ろう材用鋳塊中のIn含有量は、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.050質量%である。ろう材用鋳塊がSnを含有する場合、ろう材用鋳塊中のSn含有量は、0.100質量%以下、好ましくは0.010~0.100質量%である。ろう材用鋳塊がCuを含有する場合、ろう材用鋳塊中のCu含有量は、1.20質量%以下、好ましくは0.01~0.50質量%、特に好ましくは0.05~0.30質量%である。
【0116】
ろう材用鋳塊は、更に、Feを含有することができる。ろう材用鋳塊がFeを含有する場合、ろう材用鋳塊中のFeの含有量は、1.00質量%以下、好ましくは0.05~0.50質量%である。
【0117】
熱間加工では、ろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物(本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法)、又はろう材用鋳塊/中間材用鋳塊/心材用鋳塊/中間材用鋳塊/ろう材用鋳塊の順に積層した積層物(本発明の第二の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法)を、400~550℃で熱間圧延する。熱間圧延では、例えば、2~8mmの板厚となるまで圧延を行う。
【0118】
冷間加工では、熱間加工を行い得られる熱間圧延物を、冷間で圧延する。冷間加工では、冷間での圧延を、複数回のパスで行う。
【0119】
冷間加工において、冷間での圧延のパス間に、1回又は2回以上の中間焼鈍を行う。中間焼鈍の温度は、200~500℃、好ましくは250~400℃である。中間焼鈍では、中間焼鈍温度まで昇温し、中間焼鈍温度に達した後、速やかに冷却を開始してもよいし、あるいは、中間焼鈍温度に達した後、中間焼鈍温度で一定時間保持後、冷却を開始してもよい。中間焼鈍の保持時間は、0~10時間、好ましくは1~5時間である。
【0120】
冷間圧延後、冷間加工を行い得られる冷間圧延物を、300~500℃、好ましくは350~450℃で焼鈍する最終焼鈍を行う。最終焼鈍では、最終焼鈍温度まで昇温し、最終焼鈍温度に達した後、速やかに冷却を開始してもよいし、あるいは、最終焼鈍温度に達した後、最終焼鈍温度で一定時間保持後、冷却を開始してもよい。最終焼鈍の保持時間は、0~10時間、好ましくは1~5時間である。
【0121】
そして、本発明のアルミニウム合金クラッド材の製造方法では、中間焼鈍のうち最後の中間焼鈍後の板厚taに対する最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%である。つまり、本発明のアルミニウム合金クラッド材の製造方法では、最後の中間焼鈍を行った後、最終焼鈍までの冷間圧延で、加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)が20~70%となるように冷間加工を行う。最後の中間焼鈍後の板厚taに対する最終焼鈍前の板厚tbの加工度(加工度=((ta-tb)/ta)×100)を20~70%とすることにより、心材及び中間材の結晶粒径を、20~300μm、好ましくは50~200μmに調整することができる。
【0122】
このようにして、本発明のアルミニウム合金クラッド材の製造方法(本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法又は本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法)を行うことにより、本発明のアルミニウム合金クラッド材(本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシート又は本発明の第一の形態のアルミニウム合金ブレージングシート)を得る。
【0123】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0124】
連続鋳造により、表1及び表2に示す化学成分を有するろう材、中間材、心材用鋳塊を作製する。次いで、心材用鋳塊を均質化した後面削を施し、心材用鋳塊の板厚を所定の厚さとする。次いで、ろう材用鋳塊と中間材用鋳塊に熱間圧延を行い、ろう材用鋳塊と中間材用鋳塊の板厚を所定の厚さとする。このようにして得られたろう材用鋳塊、中間材用鋳塊と心材用鋳塊を表1及び表2に示す組み合わせで重ね合わせ、積層物を作製する。得られた積層物に熱間圧延を行い、心材用鋳塊とろう材用鋳塊とを接合し、板厚3.0mmのクラッド材を作製する。得られたクラッド材に、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍の順に行い、板厚0.5mmの試験材を得た。なお、中間焼鈍と最終焼鈍に関しては、保持温度は400℃、また、保持時間3時間で行った。また、中間焼鈍後の板厚(ta)から最終焼鈍前の板厚(tb)までの加工度(加工度(%)=((ta-tb)/ta)×100)を表1及び表2に示す。
【0125】
<結晶粒径の測定>
作製した試験材の断面(L-LT面)を鏡面研磨して面出しし、その後バーカーエッチングを行い、顕微鏡写真を撮影する。顕微鏡写真において、中間材の結晶粒径については、ろう材と中間材の界面に平行な線分を中間材上に引き、線分によって切断される結晶粒を数え、中間材の結晶粒径を、「結晶粒径(μm)=(線分の長さ(mm)×1000)/(切断された結晶粒の数×写真倍率)」の計算式によって算出した。心材の結晶粒径については、顕微鏡写真において、中間材と心材の界面に平行な線分を心材上に引き、線分によって切断される結晶粒を数え、心材の結晶粒径を、「結晶粒径(μm)=(線分の長さ(mm)×1000)/(切断された結晶粒の数×写真倍率)」の計算式によって算出した。なお、線分端部の結晶粒数は0.5とする。中間材と心材の結晶粒径については、300μmを超える場合をX、300μm以下100μm以上をA、100μm未満20μm以上をB、20μm未満をYとして表1及び表2に示す。
【0126】
<ろう付性の評価>
50mm×50mmの試験材をアセトンで脱脂処理のみ行ったもの(エッチング無し)、及びアセトンで脱脂処理後、弱酸でエッチング処理したもの(エッチング有り)、並びに0.1mm厚さの3003合金板材をコルゲート加工した後に脱脂したものを準備し、図1に示すミニコアに組付けた。ミニコアの上側試験材は、コルゲートフィンとろう材1側で接触しており、下側試験材はコルゲートフィンとろう材2側で接触している。
次いで、ろう付加熱を、窒素ガス炉中で行った。窒素ガス炉は、バッチ式実験炉であり、ろう付時の酸素濃度は15~20ppmとした。試験片の到達温度をいずれも600℃とした。
次いで、ろう付後のミニコアからコルゲートフィンを切除した。そして、各平板上に存在するフィレットの痕跡について平板の幅方向における長さを測定し、これらの合計を算出する。これとは別に、平板とコルゲートフィンとが完全に接合されたと仮定した場合のフィレットの板幅方向における長さの合計を算出する。そして、後者の値に対する前者の値の比率を各試験体におけるコルゲートフィンの接合率(%)とする。接合率は、上側試験材と下側試験材それぞれで算出した。なお、後者の値は、例えば、コルゲートフィンの幅と、コルゲートフィンの頂部の数とを掛け合わせることにより算出できる。
【0127】
<ドロップ型流動性試験>
上記で得られた0.5mmの試験材と、上記で得られた0.5mm厚の試験材を冷間圧延により、板厚0.475mmまで圧延した試験材(ひずみ5%)を用いて、ドロップ型流動性試験によりそれぞれの流動係数を求めた。
まず、圧延方向を長手方向として幅40mm×長さ60mmに切り出して吊り下げ用の穴3φを二個設けた後、重量(W0)を測定し、図2のように吊り下げて、窒素ガス炉中で、室温から600℃までの平均昇温速度20℃/分で昇温し、到達温度600℃まで加熱し、更に、600℃で3分間保持した。加熱試験後、ろう溜まり部(B)を切断して重量(WB)を測定し、下記式(1):
K=(4WB-W0)/(3W0×クラッド率) (1)
により、流動係数(K)を求めた。次いで、ひずみが加えられる前の試験体の流動係数Kbと、5%のひずみが加えられた後の試験体の流動係数Kaの比αを、下記式(2):
α=Ka/Kb (2)
により算出した。αについては、0.70以上をA、0.70未満0.50以上をB、0.50未満をXとして表1及び表2に示す。
【0128】
<耐食性の評価>
試験材のうち中間材にZnを含有する試験材について、板厚0.5mmで50mm×100mmの試験材をアセトンで脱脂処理後、吊り下げ用の穴5φを一個設けた後、吊り下げた状態で窒素ガス炉中でろう付加熱した。試験片の到達温度をいずれも600℃とした。吊り下げ用の穴を含む吊り下げ上部10mmと、吊り下げ下部のろう溜まり20mmを除去し、ろう材1面が露出するようにろう材1の反対面と端部をシリコン樹脂でマスキングし、幅40mm×長さ70mm露出させて腐食試験片とした。これらをASTM G85に準拠したSWAAT(Sea WaterAcetic_ Acid Test)試験に供した。SWAAT試験後、表面のシリコン樹脂を剥離し、次いで、ヒータで昇温したリン酸クロム酸液に浸漬して、供試材表面の腐食生成物を除去して、測定顕微鏡を用いて最大腐食深さを測定した。最大腐食深さが0.20mm以下である場合を○、0.20mmを越える場合を×として表1及び表2に示す。
【0129】
表1及び表2中の「ミニコア試験体のろう付結果」欄には、ミニコア試験体についてろう付を行った結果、心材側の接合率と中間層側の接合率の両方が80%以上である場合を○、80%未満を×と記載した。本例のろう付性の評価においては、接合率の平均が80%以上の場合を、優れたろう付性を有するため合格と判定する。また、接合率の平均が80%未満の場合を、ろう付性に劣っているため不合格と判定する。
【0130】
【表1-1】
【0131】
【表1-2】
【0132】
【表1-3】
【0133】
【表1-4】
【0134】
【表2-1】
【0135】
【表2-2】
【0136】
表1及び表2に示すように、本発明例である試験材は、合格レベルの優れた接合状態と0.50以上の流動係数比αが得られることが確認された。また、最大腐食深さは0.200mm以下と良好であった。
【0137】
一方、比較例は以下に示すような結果となった。
試験材R1及びR10は、心材の結晶粒径が大きく、肌荒れを生じるレベルであった。試験材R2及びR11は、心材及び中間材の結晶粒径が小さく、ろう材Siが心材及び中間材に拡散し、心材及び中間材が溶融したため流動係数比が低下した。試験材R3及びR12は、中間材のMg濃度が低く、ろう付加熱中の酸化皮膜破壊が不十分で接合率が低下した。試験材R4及びR13は、中間材のMg濃度が高く、試験材製造途中で割れを生じて健全な板材を得られなかった。試験材R5及びR14は、心材のMg濃度が低く、ろう付加熱中の酸化皮膜破壊が不十分で接合率が低下した。試験材R6は、心材のMg濃度が高く、心材の融点が低下するとともに、ろう材Siが心材に拡散し、心材が溶融したため流動係数比が低下した。試験材R7及びR15は、ろう材のSi濃度が低く、接合率が低下するとともに、流動係数比も低下した。試験材R8及びR16は、ろう材のSi濃度が高く、試験材製造途中で割れを生じて健全な板材を得られなかった。試験材R9は、中間層のZn濃度が高く、SWAATにおいて中間層の消耗速度が速く十分な防食性能が発揮されず、耐食性が低下した。
図1
図2