(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】吸着用焼結体及びその製造方法並びに吸着装置
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20230414BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230414BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20230414BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230414BHJP
B01D 53/70 20060101ALI20230414BHJP
B01D 53/38 20060101ALI20230414BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20230414BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20230414BHJP
B01D 53/56 20060101ALI20230414BHJP
C02F 1/40 20230101ALI20230414BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20230414BHJP
B01J 20/12 20060101ALI20230414BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01J20/20 E ZAB
B01J20/20 D
B01J20/18 E
C02F1/28 D
C02F1/28 N
C02F1/28 F
C02F1/28 E
C02F1/28 T
B01D53/70
B01D53/38 110
B01D53/82
B01D53/50 100
B01D53/56 100
C02F1/40 E
B01J20/18 A
A61L9/014
B01J20/12 A
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2020559952
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047346
(87)【国際公開番号】W WO2020116491
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018227831
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220711
【氏名又は名称】森山 朗
(72)【発明者】
【氏名】清野 誠
(72)【発明者】
【氏名】矢野 英之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏文
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221502(WO,A1)
【文献】特表2008-500165(JP,A)
【文献】特開2010-254841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
A61L 9/014
B01D 53/38-53/82
C02F 1/28,1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末吸着材と、
空隙が三次元網目状に形成された樹脂構造体とを備え、
粉末吸着材は、樹脂構造体間の空隙に遊動可能に収容された遊離吸着材と、樹脂構造体の表面に固着され及び/又は樹脂構造体の内部に少なくともその一部が埋設された固定吸着材とを含み、
粉末吸着材は、粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする吸着用焼結体。
【請求項2】
粉末吸着材の平均径は、150μm未満である、請求項1に記載の吸着用焼結体。
【請求項3】
粉末吸着材を25~65質量%含有する、請求項1又は2に記載の吸着用焼結体。
【請求項4】
樹脂構造体の樹脂原料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、請求項1~3の何れか1項に記載の吸着用焼結体。
【請求項5】
熱可塑性樹脂の粒径は、10~200μmである、請求項1~4の何れか1項に記載の吸着用焼結体。
【請求項6】
複数の遊離吸着材は、少なくとも一部の空隙に遊動可能に収容され、隣接する複数の遊離吸着材は、互いに固着せずに、少なくとも一部の空隙の遊離吸着材間に流体の流路を形成する、請求項1~5の何れか1項に記載の吸着用焼結体。
【請求項7】
粉末吸着材は、尖形部分を有する粉末活性炭である、請求項1~6の何れか1項に記載の吸着用焼結体。
【請求項8】
流体中の被処理物質の吸着用である、請求項1~7の何れか1項に記載の吸着用焼結体。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の吸着用焼結体の単一又は複数の層を容器に装填したことを特徴とする吸着装置。
【請求項10】
粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である粉末吸着材と、熱可塑性樹脂とを混合して、吸着材混合物を形成する工程と、
熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ粉末吸着材原料の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱する工程と、
複数の熱可塑性樹脂を融着しかつ冷却固化して、空隙が三次元網目状に形成され、かつ空隙に遊離吸着材が遊動可能に収容された樹脂構造体を形成する工程とを含むことを特徴とする吸着用焼結体の製造方法。
【請求項11】
粉末吸着材の平均径は、150μm未満である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
吸着材混合物中の粉末吸着材の含有率が25~65質量%である、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体のから選ばれる少なくとも1種である、請求項10~12の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
熱可塑性樹脂の粒径は、10~200μmである、請求項10~13の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着用焼結体、特に、流体中の被処理物質を吸着する粉末吸着材を含む吸着用焼結体及びその製造方法並びに吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭、活性白土及びゼオライト等の吸着材は、大気浄化、ダイオキシン除去、排煙脱硫及び脱硝、悪臭除去、工場の廃ガス及び廃液処理、浄水の高度処理、化学薬品の精製、食品及び飲料の脱色、家庭用浄水器、空気清浄機、冷蔵庫脱臭剤、ガスマスク等、工業用、家庭用、医療用の様々な吸着用途に使用される。
【0003】
例えば、特許文献1は、粒径2.4~4.7mm(2400~4700μm)の粒状活性炭が内筒と外筒との間に充填されたガス浄化用の活性炭カートリッジを開示する。一般に「粒状」活性炭とは、粒度が大きい活性炭を指し、粒度が小さい微細粉状の活性炭は「粉末」活性炭と呼ばれる。JIS K 1474では、粒度表示150μm以上を「粒状」活性炭、150μm未満を「粉末」活性炭と定義されている。大粒径の粒状吸着材は、微細な粉末吸着材に比べ比表面積(単位質量当たりの外表面積)が小さいため、粉末吸着材を使用した場合と同程度の吸着性能を得るには、粒状吸着材の増量が必要であり、吸着装置等において、粒状吸着材をカートリッジ等に充填してフィルタ等として使用する場合、カートリッジや吸着装置が大型化する。また吸着性能を高めるために、粒状吸着材を容器に緊密充填しようとした場合、粉末吸着材と比べて、容器ごとに充填体積にばらつきが生じ易く、フィルタ用カートリッジ等の製品の製造において、一定品質を維持することが容易ではないという問題がある。また搬送又は使用時の振動や圧力等の外力により、容器内の粒状吸着材が粉砕、破壊等され、圧力損失が上昇するなどの不具合を生じることがある。
【0004】
一方、粉末活性炭等の粉末吸着材は、粒状吸着材に比べて比表面積が大きく吸着性能が高いが、仮にカートリッジ等の容器内に充填してフィルタ等として使用したとしても、粉末吸着材間の空隙が著しく減少し、流体が通り難く、通過しても高圧力損失(高差圧)となり実用に適さない。このため、粉末吸着材は、カートリッジ等の容器内に充填してのフィルタ用などには不向きであり、従来、専らバッチ式(回分式)の吸着処理に用いられてきた。
【0005】
吸着材を充填した容器における圧力損失を改善する試みとして、例えば、特許文献2は、吸着材を、熱可塑性樹脂をバインダとし、バインダを介して相互に結合及び/又は接着させて形成した凝集体に基づく吸着性成形品、およびそれを適用したフィルタを開示する。しかしこのような凝集体は、吸着材の表面の多くが熱可塑性樹脂に被覆されてしまうため、吸着性能が低下する。特に粒度の小さい粉末吸着材はその表面のほとんどが熱可塑性樹脂に被覆されてしまう傾向にあり、また圧力損失低下のために凝集体を所望の大きさにすることも困難となるため、特許文献2の実施例でも実際には粒度の大きい粒状活性炭が使用されている。
【0006】
また吸着性成形品に含まれる吸着材の表面が熱可塑性樹脂に被覆される問題を改善する試みとして、例えば、特許文献3は、活性炭粒子等の高機能性粒子に発泡剤を含浸あるいは吸着させ、マトリックス樹脂と混合し、該マトリックス樹脂の液体あるいは溶融状態において、該混合物を発泡させて固化し、高機能性粒子を発泡で生じた空孔内部に存在させた成形品を開示する。
【0007】
しかしながら、このようないわゆる発泡プラスチックを吸着材のマトリックスとして使用した場合、一般に成形品は柔軟で機械的強度に乏しく、特に高圧、高流速下で変形し易いため、流体(7)中の被処理物質を吸着する連続式の吸着装置に適さない。具体的には、例えば、
図14(a)及び
図15(a)に示すように、使用前の成形品10に対し、高圧又は高流速使用時の成形品10は、発泡プラスチック12で構成されるため、
図14(b)の圧縮力16により体積全体が潰れ易く、また、
図15(b)の通り空孔13が使用前に比べ縮小する傾向となるため、活性炭粒子11の密度が高くなり圧力損失が上昇し流速が著しく低下する。
【0008】
また、吸着材に発泡剤を含浸等させてマトリックス樹脂中に空孔を形成するため、吸着材に発泡剤が十分に含浸等していないと適切な空孔を形成することは容易ではない。また吸着性能を高める目的で吸着材の含有量を増量した場合、空孔も増大し機械的強度が低下する傾向となるため、吸収効率の向上が図り難い。
【0009】
また得られる成形品において好ましいとされている連続気泡構造は、いわゆるスポンジ状の構造となり、さらに機械強度が低下するため、上述のようにカートリッジ等の容器内に充填して用いる等、流体(7)中の被処理物質を吸着する連続式処理の用途には不向きであるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-104448号公報
【文献】特表2012-508645号公報
【文献】特開平1-301732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、吸着能力に優れると同時に低圧力損失を達成できる吸着性材料及びその製造方法並びに吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討した結果、空隙を三次元網目状に形成した樹脂構造体において、粉末吸着材が、空隙に遊動可能に収容されると同時に、樹脂構造体の表面に固着され及び/又は樹脂構造体の内部に少なくともその一部が埋設された、特定の吸着用焼結体が、吸着能力に優れると同時に低圧力損失を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1]粉末吸着材(1a,1b)と、
空隙(3)が三次元網目状に形成された樹脂構造体(2)とを備え、
粉末吸着材(1a,1b)は、樹脂構造体(2)間の空隙(3)に遊動可能に収容された遊離吸着材(1a)と、樹脂構造体(2)の表面(2a)に固着され及び/又は樹脂構造体(2)の内部に少なくともその一部が埋設された固定吸着材(1b)とを含み、
粉末吸着材(1a,1b)は、粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする吸着用焼結体。
[2]粉末吸着材(1a,1b)の平均径は、150μm未満である、[1]に記載の吸着用焼結体。
[3]粉末吸着材(1a,1b)を25~65質量%含有する、[1]又は[2]に記載の吸着用焼結体。
[4]樹脂構造体(2)の樹脂原料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、[1]~[3]の何れかに記載の吸着用焼結体。
[5]熱可塑性樹脂の粒径は、10~200μmである、[1]~[4]の何れかに記載の吸着用焼結体。
[6]複数の遊離吸着材(1a)は、少なくとも一部の空隙(3)に遊動可能に収容され、隣接する複数の遊離吸着材(1a)は、互いに固着せずに、少なくとも一部の空隙(3)の遊離吸着材(1a)間に流体(7)の流路(3a)を形成する、[1]~[5]の何れかに記載の吸着用焼結体。
[7]粉末吸着材(1a,1b)は、尖形部分を有する粉末活性炭である、[1]~[6]の何れかに記載の吸着用焼結体。
[8]流体(7)中の被処理物質の吸着用である、[1]~[7]の何れかに記載の吸着用焼結体。
[9][1]~[8]の何れかに記載の吸着用焼結体(20)の単一又は複数の層(20a,20b)を容器に装填したことを特徴とする吸着装置。
[10]粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である粉末吸着材と、熱可塑性樹脂とを混合して、吸着材混合物を形成する工程と、
熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ粉末吸着材原料の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱する工程と、
複数の熱可塑性樹脂を融着しかつ冷却固化して、空隙(3)が三次元網目状に形成され、かつ空隙(3)に遊離吸着材(1a)が遊動可能に収容された樹脂構造体(2)を形成する工程とを含むことを特徴とする吸着用焼結体の製造方法。
[11]粉末吸着材の平均径は、150μm未満である、[10]に記載の製造方法。
[12]吸着材混合物中の粉末吸着材の含有率が25~65質量%である、[10]または[11]に記載の製造方法。
[13]熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体のから選ばれる少なくとも1種である、[10]~[12]の何れかに記載の製造方法。
[14]熱可塑性樹脂の粒径は、10~200μmである、[10]~[13]の何れかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸着能力に優れると同時に低圧力損失を達成できる吸着性材料及びその製造方法並びに吸着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】吸着用焼結体の樹脂構造体のみを示す断面拡大画像
【
図4a】粉末活性炭から製造された本発明の吸着用焼結体を示す表面画像
【
図4b】粉末活性炭から製造された本発明の吸着用焼結体を示す表面拡大画像
【
図4c】粉末活性炭から製造された本発明の吸着用焼結体を示す表面拡大画像
【
図4d】粉末活性白土から製造された本発明の吸着用焼結体を示す表面拡大画像
【
図4e】ゼオライトから製造された本発明の吸着用焼結体を示す表面拡大画像
【
図5】本発明の吸着用焼結体を装填した吸着装置を示す断面図
【
図6】本発明の吸着用焼結体に通液又は通気した実施の形態を示す部分断面図
【
図11a】ヤシ殻活性炭を用いた通液吸着試験の結果を示すグラフ
【
図11b】大鋸屑活性炭を用いた通液吸着試験の結果を示すグラフ
【
図14】従来の成形品を容器に装填した状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の吸着用焼結体は、粉末吸着材(1a,1b)と、空隙(3)が三次元網目状に形成された樹脂構造体(2)とを備える。本発明における樹脂構造体(2)は、粉体、粒体、ペレット状等の熱可塑性樹脂の粒子を加熱することにより、複数の熱可塑性樹脂の接触部分が溶融して接合部を形成し、熱可塑性樹脂が互いに融着することにより形成させることができる。このようにして得られた樹脂構造体は、熱可塑性樹脂の形状に由来する凸部に挟まれた凹状の空隙が三次元網目状に形成された構造となる。粉末吸着材(1a,1b)は、樹脂構造体(2)間の空隙(3)に遊動可能に収容された遊離吸着材(1a)と、樹脂構造体(2)の表面(2a)に固着され及び/又は樹脂構造体(2)の内部に少なくともその一部が埋設された固定吸着材(1b)とを含む。粉末吸着材(1a,1b)は、粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種で構成される。
【0017】
本発明の吸着用焼結体は、特に流体(7)中の被処理物質の吸着用として有用である。吸着用焼結体(20)に流体(7)を通過させると、樹脂構造体(2)に固定されずかつ接合されない遊離吸着材(1a)の全表面が、流体(7)に直接接触して、流体(7)中の被処理物質を捕捉吸着する作用を発生し得る。また、本発明では、空隙(3)の遊離吸着材(1a)だけでなく、樹脂構造体(2)に固定吸着材(1b)を設けるため、本発明の吸着用焼結体(20)は、従来存在した、ほとんどの吸着材が、その全表面または一部表面をマトリックス樹脂に被覆されるタイプの吸着性材料や、空隙内だけに吸着材が存在するタイプの吸着性材料に比べて、より大きな吸着面積を確保でき、吸着効率が顕著に増大して吸着性能の向上が達成できる。
【0018】
また、吸着用焼結体(20)に流体(7)が通過するとき、また空隙(3)が三次元網目状に形成されていることにより、遊離吸着材(1a)は遊動可能である一方、遊離吸着材の移動がある程度制限されることにより、遊離吸着材の凝集が抑制される。従って、空隙(3)の目詰りと樹脂構造体(2)間の間隙(4)の目詰りの発生を抑制でき、その結果、粉末吸着材(1a,1b)を使用した場合でも、吸着用焼結体(20)での圧力損失の増加が抑制され、長期間継続的に流体(7)中の被吸着物質を吸着する作用が生じ得る。
【0019】
更に、遊離吸着材(1a)が捕捉した被吸着物質は、条件を選べば、流動する遊離吸着材(1a)から除去でき、吸着用焼結体(20)の再利用も可能である。即ち、吸着物質を除去するには、例えば吸着用焼結体(20)の構造を維持可能な範囲で加熱し、吸着物質の良溶媒を加え抽出する手法を選択できる。また、気相であれば減圧により、液相であればpHや塩濃度等の液性を変化させ、除去を促進させる手法も選択可能である。更に、これらの並立可能な手法を複数組み合わせて使用することもできる。本発明の吸着用焼結体において、被吸着物質の除去能力を高めるため、銀、銅、ニッケル等の金属やこれらの金属酸化物、不揮発性の酸・塩基等の薬剤をあらかじめ原料の粉末吸着材に担持させておくことができる。また吸着用焼結体に直接これらを担持させることもできる。
【0020】
本発明の吸着装置は、吸着用焼結体(20)の単一又は複数の層(20a,20b)を容器に装填する。容器内に粉末活性炭を直接充填した場合と比べ、吸着装置(30)は、剛性の樹脂構造体(2)により強度特性に優れ、搬送時及び使用時に一定の形態及び空隙(3)を維持できる。また、吸着用焼結体(20)の複数の層(20a,20b)を装填しても、各層(20a,20b)が混ざり合わない。
【0021】
本発明の吸着用焼結体の製造方法は、粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種の粉末吸着材原料と、熱可塑性樹脂とを混合して、吸着材混合物を形成する工程と、熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ粉末吸着材原料の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱する工程と、複数の熱可塑性樹脂を融着しかつ冷却固化して、樹脂構造体(2)を形成する工程とを含む。
【0022】
本発明による吸着用焼結体及びその製造方法の実施の形態をさらに詳細に、
図1~
図13を参照して以下に説明する。
【0023】
本発明の吸着用焼結体(20)の一態様を
図1に示す。吸着用焼結体(20)は、流体(7)中の被処理物質を吸着する粉末吸着材(粉末吸着剤)(1a,1b)と、空隙(空洞)(3)が三次元網目状に形成された樹脂構造体(2)とを備える。被処理物質は、気体又は液体中に含まれかつ粉末吸着材(1a,1b)に吸着可能なあらゆる成分及び物質、例えば、色素成分、臭気成分、有害物質、公害物質、重金属、有価金属、毒性成分、放射能成分、水分、油分等を含む。
【0024】
本発明における粉末吸着材(1a,1b)は、粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である。本発明の効果を達成し得る範囲で、吸着用焼結体(20)は、その他の吸着性物質、例えば、酸性白土、アルミナ、シリカ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、パーミキュライト、バーライト、カオリン、珪藻土、セピオライト等を含んでいてもよい。また吸着用焼結体を吸着装置等に使用する場合の圧力損失をさらに低下させるため、吸着能力が著しく低下しない範囲で、粒状活性炭等の粒状吸着材(平均径が150μm以上の吸着材)を含んでいてもよい。粉末吸着材(1a,1b)に使用する活性炭は、例えば、ヤシ殻、クルミ殻、杏殻、果実殻、籾殻、大豆、コーヒー、ナッツ、ピスタチオ、木炭、大鋸屑、鋸屑、樹皮、素灰、木質材料、泥炭、草炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、タール、ピッチ、コークス、石炭、石油、廃タイヤ、廃プラスチック、合成樹脂、繊維、建設廃材、下水汚泥から選択される原料を賦活化して形成され、無数の内部微細孔により吸着性能が付与される。賦活法としては、例えば、水蒸気、二酸化炭素、空気等によるガス賦活と、塩化亜鉛、リン酸、硫酸、塩化カルシウム、二クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、水酸化ナトリウム等による薬品賦活とを適用できる。
【0025】
本発明における粉末吸着材の平均径は、本発明の効果が達成し得る限り特に限定されるものではないが150μm未満が好ましい。すなわち本明細書においては、好ましくは平均径150μm未満の吸着材が粉末吸着材として定義される。またJIS K 1474に準じた、粒度表示150μm未満の「粉末」吸着材も本発明における粉末吸着材に含まれる。本明細書の「平均径」は、ミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折散乱法により測定される。具体的には、レーザー回折散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所社製LA-500、セイシン企業社製LMS-2000e等)により、粉末吸着材原料の粒径分布を体積基準で作成して、そのメディアン径を平均径とする。なお、例えば、吸着材の平均径が150μm未満とは、150μm未満のあらゆるメディアン径の吸着材を含む概念である。即ち、平均径の値は、分布範囲の中間値を表すに過ぎず、例えば、吸着材の平均径が150μm未満とは、150μm 以上の吸着材を全く含まない意味ではない。粉末吸着材の平均径は、より好ましくは1μm以上、150μm未満であり、さらに好ましくは5μm以上、150μm未満であり、特に好ましくは15μm以上、100μm以下である。吸着用焼結体(20)に含まれる粉末吸着材(1a,1b)の平均径は、吸着用焼結体(20)の製造時に使用する粉末吸着材の平均径を上記数値範囲に設定することで調整することができる。すなわち、製造時に使用する粉末吸着材の平均径を吸着用焼結体(20)に含まれる粉末吸着材(1a,1b)の平均径とすることができる。
【0026】
粉末吸着材(1a,1b)の平均径が小さすぎると、製造時に樹脂構造体(2)の樹脂原料に微細な粉末吸着材(1a,1b)が大量に混合され、樹脂構造体(2)の強度が低下する可能性がある。また微細な遊離吸着材(1a)は、樹脂構造体(2)間の間隙(4)を通じて、流体(7)と共に吸着用焼結体(20)から離脱し易くなる可能性がある。更に、圧力損失も上昇し易くなる可能性がある。平均径が大きすぎると(例えば、150μm以上であると)、吸着材の吸着面積が小さく吸着性能が低下する傾向となる。また、十分な量の遊離吸着材(1a)を空隙(3)に収容できず、吸着用焼結体(20)の構成が困難となる傾向となる。
【0027】
図2a~
図2eは、吸着用焼結体(20)を構成する粉末吸着材(1a,1b)の原料を示す電子顕微鏡写真画像である。特に、
図2aは、ヤシ殻の炭化物を水蒸気により、
図2bは、大鋸屑を薬品(リン酸)により、
図2cは、大鋸屑を薬品(塩化亜鉛)により、それぞれ賦活化した粉末活性炭の表面拡大画像(400倍)を示す。粉末活性炭は、一般に、尖形部分を有する部分を有する塊状、棒状又は細長板状の原料であるため、粉末吸着材(1a,1b)は、遊動時に尖端が樹脂構造体(2)の表面(2a)及び間隙(4)に係止して、吸着用焼結体(20)の外部への流出を阻止する。このため、粉末吸着材(1a,1b)が、複数の空隙(3)間を移動することも殆ど無い。
図2dは、粉末吸着材原料として、粉末活性白土を示し(400倍)、
図2eは、ゼオライトを示す(2000倍)各表面拡大画像である。吸着用焼結体(20)は、粉末吸着材(1a,1b)を好ましくは25~65質量%含有し、さらに好ましくは30~60質量%で含有する。粉末吸着材(1a,1b)の含有率が低すぎると、吸着用焼結体(20)の吸着性能が低下する傾向となる。一方、粉末吸着材(1a,1b)の含有率が高すぎると、高吸着能であるが、樹脂割合が小さく吸着用焼結体(20)全体の強度が低下する傾向となる。本発明において、吸着用焼結体(20)に含まれる粉末吸着材(1a,1b)の含有率は、吸着用焼結体(20)の製造時に使用する、焼結前の吸着材混合物中に含まれる粉末吸着材の含有率として定義でき、吸着材混合物中の粉末吸着材の含有量を適宜設定することで調整することができる。
【0028】
樹脂構造体(2)の樹脂原料としては、熱可塑性樹脂が用いられる。好ましくは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である。樹脂構造体(2)の樹脂原料としての熱可塑性樹脂は粒子状の固体で使用され、粉体、粒体、ペレット等のいずれの形態であってもよい。熱可塑性樹脂粒子の粒径は10~200μmであるのが好ましい。熱可塑性樹脂の粒径を前記範囲とすることにより、空隙(3)の大きさをばらつき無く略均一寸法に形成し易くなる。熱可塑性樹脂には、その種類および特性に応じて、アジピン酸エステル等の可塑剤やエポキシ系化合物等の安定剤、フェノール系化合物等の酸化防止剤等を添加して使用することもできる。
【0029】
本明細書における熱可塑性樹脂の粒径は、CCDカメラで撮影した画像解析法により測定される。具体的には、画像解析式粒度分布測定装置(ジャスコインタナショナル社製VD-3000、セイシン企業社製PITA-04等)により、無作為に分散させた熱可塑性樹脂の粒子1400~15,000個を撮影して得られた画像から各粒子の個別粒径Dを算出し、Dの分布を作成したのちそのメディアン径を熱可塑性樹脂の粒径とする。なお、個別粒径Dは、画像中の粒子の最大幅を最大径D1、最小幅を最小径D2とし、両者の算術平均(D1 + D2)/2 によって求めることができる。
【0030】
図3は、粉末吸着材(1a,1b)を含まない吸着用焼結体であり、樹脂原料のみを焼結して樹脂構造体を形成し、カッターで切断した断面の状態を示す、電子顕微鏡による断面拡大画像(500倍)である。
図3の白色部は、角部が無い連続房状かつ三次元網目構造の樹脂構造体(2)を示し、その内側の黒色部は、遊動可能に遊離吸着材(1a)が配置される空隙(3)を示す。
【0031】
図1に示す吸着用焼結体(20)の粉末吸着材(1a,1b)は、樹脂構造体(2)間の空隙(3)に遊動可能に収容された遊離吸着材(遊離吸着剤)(1a)を含む。ここで、遊動可能とは、粉末吸着材が樹脂構造体(2)に固着されず又は複数の粉末吸着材が互いに固着せずに、移動、揺動、振動、回転、伸縮、拡大縮小又は浮沈等、あらゆる運動が可能であることを意味する。
【0032】
図1に示す吸着用焼結体(20)の粉末吸着材(1a,1b)は、樹脂構造体(2)に担持された固定吸着材(1b)を更に備える。固定吸着材(1b)は、樹脂構造体(2)の表面(2a)に固着され又は樹脂構造体(2)の内部に少なくともその一部が埋設される。すなわち、固定吸着材(1b)は、樹脂構造体(2)の表面(2a)に固着された第1の固定吸着材(1b1)、樹脂構造体(2)内部にその一部(一部表面)が埋設されかつ残部(残部表面)が樹脂構造体(2)から突出した第2の固定吸着材(1b2)、及び/または樹脂構造体(2)内部に全体(全表面)が埋設された第3の固定吸着材(1b3)と、が存在し得る。固定吸着材(1b)において、空隙(3)に表面が露出する第1及び第2の固定吸着材(1b1,1b2)は、吸着能向上に寄与すると共に、樹脂構造体(2)に固定されて小径でも外部に流出しない。第3の固定吸着材(1b3)は、樹脂構造体(2)内に包含されるため、低吸着能ではあるが、より小径の粉末吸着材(1a,1b)が樹脂構造体(2)に取り込まれ易い傾向にあるため、固定吸着材(1b3)も比較的小径の粉末吸着材から構成され、小径の粉末吸着材(1a,1b)が空隙(3)に大量残存することにより生じる閉塞を防止し、圧力損失上昇を抑止できる。
【0033】
吸着用焼結体(20)の製造工程において、粉末吸着材(1a,1b)のうち、粒子径の小さいものほど、樹脂構造体(2)の表面(2a)に固着され、あるいは樹脂構造体(2)の内部に少なくともその一部が埋設され易い傾向にあるため、固定吸着材(1b)は、遊離吸着材(1a)に比べ、相対的にその粒径が小さくなる傾向となる。また逆に、遊離吸着材(1a)は相対的にその粒径が大きくなる傾向となる。従って、吸着用焼結体(20)の原料として使用した、粉末吸着材に比べて、吸着用焼結体を切断するなどして、内部の遊離吸着材の一部又は全部を回収し、その平均径を測定した場合、通常、遊離吸着材の平均径は粉末吸着材の平均径よりも大きくなる。遊離吸着材(1a)の平均径は、好ましくは5μ以上、150μm未満、さらに好ましくは15μ以上、100μm以下である。固定吸着材(1b)の平均径は1~50μm程度と推測される。
【0034】
図4a~
図4cは、粉末吸着材原料として、ヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活して得られた粉末活性炭(
図2a)、大鋸屑を薬品(リン酸)で賦活して得られた粉末活性炭(
図2b)及び大鋸屑を薬品(塩化亜鉛)で賦活して得られた粉末活性炭(
図2c)をそれぞれ用い製造された本発明による吸着用焼結体(20)の断面を各倍率で電子顕微鏡撮影した表面拡大画像を示す。何れも、黒色の空隙(3)を三次元網目状に形成して滑らかな丸みを帯びた表面(2a)を有する樹脂構造体(2)と、樹脂構造体(2)の内部に配置された粉末活性炭の遊離吸着材(1a)と、樹脂構造体(2)に固着した粉末活性炭の固定吸着材(1b)とを備える吸着用焼結体(20)を確認できる。樹脂骨格の内部の黒色の空隙(3)は、遊離吸着材(1a)が自由に運動できる三次元空間を構成する。固定吸着材(1b)は、その一部が樹脂構造体(2)の表面(2a)に固着され、また、その一部が表面(2a)の凹部(2b)に嵌合されて樹脂構造体(2)に保持され得る。
【0035】
本発明では、空隙(3)の遊離吸着材(1a)だけでなく、樹脂構造体(2)に固定吸着材(1b)が設けられるため、吸着面積及び飽和吸着容量を増大して高吸着性能を維持し得る。換言すると、樹脂構造体(2)には、特別な機能物質を付加しない限り吸着能が無いため、樹脂構造体(2)の表面(2a)又は内部に固定吸着材(1b)を担持させることにより、吸着用焼結体(20)全体の吸着性能を大幅に向上できる。また、本発明では、固定吸着材(1b)が樹脂構造体(2)間の間隙(4)から流出しない。
【0036】
図4a~
図4cから確認できるように、1又は2以上の遊離吸着材(1a)が空隙(3)に遊動可能に収容される。2以上の遊離吸着材(1a)が1の空隙(3)に収容される場合、隣接する複数の遊離吸着材(1a)は、互いに固着せずに、少なくとも一部の空隙(3)の遊離吸着材(1a)間に流体(7)の流路(3a)(
図1及び
図6)を形成して、遊離吸着材(1a)の全表面吸着を可能にする。遊離吸着材(1a)が他の遊離吸着材(1a)に又は樹脂構造体(2)に一度接触しても、流体(7)の流動により、再び離間して流路(3a)を形成できる。
【0037】
図4d及び
図4eは、粉末吸着材原料として、活性白土(
図2d)及びゼオライト(
図2e)をそれぞれ用い製造された本発明の吸着用焼結体(20)の断面を電子顕微鏡撮影した表面拡大画像(1500倍)を示す。
図4d及び
図4eから、黒色の空隙(3)を三次元網目状に形成して滑らかな丸みを帯びた表面(2a)を有する灰色の樹脂構造体(2)と、樹脂構造体(2)の内部に配置された遊離吸着材(1a)としての大径の粉末活性白土及びゼオライトと、樹脂構造体(2)に固着した固定吸着材(1b)としてのより小径の粉末活性白土及びゼオライトとを備える吸着用焼結体(20)を確認できる。
【0038】
吸着用焼結体(20)を充填した本発明の吸着装置は、単一層又は複数層の吸着用焼結体(20)を例えば
図10の符号(81)に示すように容器に装填して形成される。容器内に粒状吸着材を直接充填した従来技術と比べ、本発明の吸着装置は、機械的強度の高い樹脂構造体(2)により、搬送時及び使用時等において、容器内の吸着材が粉砕、破壊等され、圧力損失が上昇するなどの不具合を生じることなく、一定の形態及び空隙(3)を維持できる。
図5は、二層(20a,20b)の吸着装置(30)を示す。例えば、円柱状若しくは角柱状又は内部空洞を有する形状の吸着用焼結体(20)の各層(20a,20b)を順次、例えば直列に装填又は積層しても、剛性を保持して各層(20a,20b)が混ざり合わない。
図5は、二層(20a,20b)の吸着装置(30)を示すが、三層以上に積層した吸着装置も形成可能である。
【0039】
原料として粉末活性炭を用いた本発明による吸着用焼結体(20)の製造方法の一態様を以下に説明する。
最初に、粉末吸着材(1a,1b)を構成する原料として粉末活性炭(粉末吸着材原料)と、樹脂構造体(2)を構成する樹脂原料としての熱可塑性樹脂とを混合し、吸着材混合物を形成する。吸着材混合物には、必要により、その他の任意成分が含まれていてもよい。吸着材混合物中の粉末活性炭の含有率は25~65質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。吸着材混合物中の熱可塑性樹脂の含有率は35~75質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。粉末活性炭の平均径は150μm未満が好ましく、より好ましくは1μm以上、150μm未満であり、さらに好ましくは5μm以上、150μm未満であり、特に好ましくは15μm以上、100μm以下である。熱可塑性樹脂の粒径は10~200μmが好ましく、30~80μmがより好ましい。粉末活性炭は、破砕、膨張、収縮することが殆ど無く、当初の大きさを維持しながら粉末吸着材(1a,1b)を形成できる。粉末吸着材原料と製造後の粉末吸着材(1a,1b)との粉末径がほぼ等しいことは、例えば、等倍率(400倍)の画像を示す
図2aと
図4a、
図2bと
図4bからも見て取れる。熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びエチレン酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。本発明において、発泡剤を使用する必要はない。粉末活性炭の含水率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは8質量%以下、特に好ましくは実質的に水分を含まないものが好ましい。粉末活性炭の含水率が低いと、後述の加熱工程において、粉末活性炭付近の温度が低下せずエネルギ消費を抑え、より短時間でかつ安定的に吸着用焼結体を形成できる。なお熱可塑性樹脂については、本発明に使用するのに好ましいポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を使用する限り、これらは一般に水の吸収性に乏しく、本発明の吸着用焼結体(20)の製造方法において含水率の影響を考慮する必要はない。
【0040】
粉末吸着材の含水率は、以下のように測定される。粉末吸着材を1~3g測りとり(w1)、110℃にて質量変化率が0.05%/min以下となるまで十分な時間乾燥させ、乾燥後の質量(w2) を測定したとき、含水率(%)は100×(w1-w2)/w2となる。
【0041】
次に、吸着材混合物を加熱炉に導入して、熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ粉末活性炭の融点より低い温度、例えば90~180℃で吸着材混合物を加熱する。加熱により、複数の熱可塑性樹脂の接触部分が溶融し接合部を形成し、熱可塑性樹脂が互いに融着して空隙(3)を包囲する骨格を形成する。このとき、大部分の粉末活性炭は、熱可塑性樹脂に固着等しない。その後、冷却固化して、空隙(3)に遊動可能に遊離吸着材(1a)を収容した三次元網目状の樹脂構造体(2)が形成される。樹脂構造体(2)は立体格子状の三次元網目構造を有していてもよい。これにより、粉末活性炭からなる遊離吸着材(1a)を含む、高強度の吸着用焼結体(20)が製造される。
図4a~
図4cは、本発明の製造方法により粉末活性炭を原料として製造された吸着用焼結体(20)の各実施の形態の例である。本発明の吸着用焼結体(20)の製造において、好ましくは含水率の低い粉末活性炭および熱可塑性樹脂を樹脂原料として使用することにより、水分の激しい蒸発及び発泡による空隙の拡大を抑制でき、適度な寸法の空隙(3)を均一に形成し得る。含水率の低い原料を使用することで、加熱工程において、水分の影響を受けずに加熱源近位の外部から遠位の内部まで均一伝熱し温度差が無く、熱可塑性樹脂全体を均一に溶融できる。また、粉末活性炭から水分が殆ど蒸発放出せず、樹脂構造体(2)形成段階の熱可塑性樹脂に外力が加わらず変形が無いため、空隙(3)が膨張しないで所定範囲内の略均一な大きさに形成維持され得る。また、このような適度な寸法と空隙(3)を均一に形成する観点から、熱可塑性樹脂の粒径は10~200μmが好ましく、30~80μmがより好ましい。
【0042】
前記製造方法の実施の形態では、粉末活性炭を原料としたが、粉末活性白土又はゼオライトを原料に用いても、前記同様の製造方法により、吸着用焼結体(20)を製造できる(
図4d及び
図4e)。
【0043】
本発明による吸着用焼結体(20)に流体(7)を通液又は通気した実施の形態を
図6より以下説明する。
【0044】
単一層の吸着用焼結体(20)を装填した吸着装置(図示せず)に、被処理物質を含む流体(7)を通過させると、流体(7)は、樹脂構造体(2)間の間隙(4)を通過して空隙(3)に導入される。このとき、遊離吸着材(1a)は、樹脂構造体(2)に無接合状態のため、また、複数の遊離吸着材(1a)は互いに固着又は結合していないため、
図6のように、流動する流体(7)により空隙(3)内を遊動又は揺動し、遊離吸着材(1a)の全表面が流体(7)に直接接触して、流体(7)中の被処理物質を確実に捕捉吸着する。また、遊離吸着材(1a)間に形成された流路(3a)によって、吸着面積増大と共に、流体(7)の流れを確保して吸着用焼結体(20)の圧力損失上昇を防止できる。
【0045】
また、流体(7)は、樹脂構造体(2)の表面(2a)又は内部に固定された固定吸着材(1b)にも接触して、流体(7)中の被処理物質が捕捉吸着される。空隙(3)で処理された流体(7)は、間隙(4)を通過して他の空隙(3)に連続的に導入される。複数の他の空隙(3)でも同様の吸着処理を繰り返し、最終的に樹脂構造体(2)の外部、即ち吸着装置の外部に流出される。間隙(4)は小さいため、遊動する遊離吸着材(1a)は、樹脂構造体(2)間の空隙(3)に保持され、吸着用焼結体(20)の外部に流出しない。
【0046】
本発明の吸着用焼結体(20)は、吸着性能に優れる粉末吸着材を高い含有率で含有させることができ、被処理物質を高い効率で吸着処理が可能である。本発明の吸着用焼結体(20)は、強度にも優れるため、フィルタ等の用途において、カートリッジ等の容器に充填して使用する場合も、容器を小型化でき、フィルタ等の吸着装置の小型化を達成し得、運搬性、保管性も極めて良好なものとすることができる。
本発明の吸着用焼結体(20)は、圧力損失の上昇による吸着性能の低下が抑制され、所定処理量を保持しつつ吸着性能を長期間持続可能であるため、ランニングコストの低減を図ることができる。
本発明の吸着用焼結体(20)は、吸着性能に優れる粉末活性炭を焼結体として所望の形態及び大きさに一体成形でき、様々な形態の連続式の吸着処理が可能となる。更に、容器中に異なる吸着特性の複数の層を用途に応じて装填することもできるため、多機能を具備する吸着装置を提供できる。
また本発明の吸着用焼結体(20)は、バッチ式(回分式)の吸着処理にも使用し得る。粉末吸着材を使用したバッチ式の吸着処理では、粉末吸着材が空気中に飛散し易いため取扱い性が低く、局所排気設備の設置等により、粉塵による作業環境悪化を防ぐ対策が必要となる場合があるが、本発明の吸着用焼結体(20)は取扱い性も良好である。
【0047】
[実施例]
以下、本発明による吸着用焼結体(20)の実施例を説明する。
【0048】
[1]圧力損失試験
本発明の吸着用焼結体(20)(実施例1~4)の圧力損失について、粉末体(69)(比較例1~4並びに比較例1’及び2’)と共に下記試験を行った。
【0049】
[1-1]吸着用焼結体(20)及び粉末体(69)の製造
粉末吸着材(1a,1b)の原料としてヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均粒子径約30μmの粉末活性炭(
図2a)0.109質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてポリエチレン粉末0.164質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を40質量%含有する本発明の吸着用焼結体(20)(
図4a)(実施例1)を得た。同様に、粉末吸着材(1a,1b)の原料として大鋸屑を薬品(リン酸)で賦活した平均粒子径約42μmの粉末活性炭(
図2b)0.109質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてポリエチレン粉末0.109質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を40質量%含有する本発明の吸着用焼結体(20)(
図4b)(実施例2)を得た。実施例1及び2に使用した原料の粉末活性炭の含水率は何れも約7質量%であった。粉末吸着材(1a,1b)の原料として平均粒子径約11μmの粉末活性白土(
図2d)0.139質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてポリエチレン粉末0.139質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を50質量%含有する本発明の吸着用焼結体(20)(
図4d)(実施例3)を得た。粉末吸着材(1a,1b)の原料として平均粒子径約35μmのゼオライト(
図2e)0.139質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてポリエチレン粉末0.139質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を50質量%含有する本発明の吸着用焼結体(20)(
図4d)(実施例4)を得た。実施例3及び4に使用した原料の粉末活性白土及びゼオライトの含水率は何れも約7質量%であった。
【0050】
ヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均粒子径約30μmの粉末活性炭(
図2a)0.109質量部を粉末体(69)として得た(比較例1)。ヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均粒子径約30μmの粉末活性炭(
図2a)から振動分級機(フリッチュ社製)により32μm以下を分級除去した粉末活性炭0.109質量部を粉末体(69)として得た(比較例1’)。大鋸屑を薬品(リン酸)で賦活した平均粒子径約42μmの粉末活性炭(
図2b)0.109質量部を粉末体(69)として得た(比較例2)。大鋸屑を薬品(リン酸)で賦活した平均粒子径約42μmの粉末活性炭(
図2b)から振動分級機により32μm以下を分級除去した粉末活性炭0.109質量部を粉末体(69)として得た(比較例2’)。平均粒子径約11μmの粉末活性白土(
図2d)0.109質量部を粉末体(69)として得た(比較例3)。平均粒子径約35μmのゼオライト(
図2e)0.109質量部を粉末体(69)として得た(比較例4)。
【0051】
[1-2]試験方法
<実施例1~4>
容積約3mlの各シリンジ(61)内にフリット(粉体流出防止用フィルタ)(62a)を配置し、その上に実施例1~4の吸着用焼結体(20)を各々装填し、更にフリット(62b)を配置して、
図7の圧力損失用試験装置(60)とした。流量計(64)で0.2L/分に調整した空気を吸着用焼結体(20)に流したときの吸着用焼結体(20)間の差圧を圧力計(キーエンス社製 AP-53A)(63)により各実施例1~4について測定した。
<比較例1~4並びに比較例1’及び2’>
吸着用焼結体(20)の代わりに、比較例1~4並びに比較例1’及び2’の各粉末体(69)をシリンジ(61)に充填した以外は、前記実施例同様な試験方法で各比較例の差圧を測定した。
【0052】
[1-3]試験結果及び考察
横軸に試験対象物名、縦軸に差圧[kPa]を示す
図8の圧力損失試験結果の通り、粉末活性炭を充填した比較例1及び2は50kPa以上の高差圧値を示し、更に32μm以下の粉末活性炭を分級除去した比較例1’及び2’も30kPa以上の高差圧値を示した。比較例1及び2は、32μm以下の微細粉末を含む粉末活性炭が高密度で充填され、比較例1’及び2’も粉末活性炭が高密度で充填されて、粉末間の空隙が小さいため、高圧力損失であった。これに対し、実施例1及び2の本発明による吸着用焼結体(20)は、比較例と同量の粉末活性炭に加えて樹脂構造体(2)を含むにも関わらず、何れも10kPa以下の低差圧値を示した。粉末活性白土及びゼオライトの粉末体(69)を充填した比較例3及び4は、それぞれ29kPa及び97kPaの高差圧値を示した。比較例3及び4は、微細な粉末が高密度で充填されて、粉末間の空隙が小さいため高圧力損失であった。これに対し、実施例3及び4の本発明による吸着用焼結体(20)は、比較例3及び4と同量の粉末活性白土及びゼオライトに加え樹脂構造体(2)を含むにも関わらず、何れも10kPa以下の低差圧値を示した。よって、本発明の実施例1~4では、低圧力損失処理の実現を確認できた。また、実施例1~4の吸着用焼結体(20)は強度にも優れていた。
【0053】
[2]通液吸着試験
本発明の吸着用焼結体(20)(実施例5及び6)の通液吸着性能について、粒状活性炭を使用した粒状体(89)(比較例5及び6)と共に下記試験を行った。
【0054】
[2-1]吸着用焼結体(20)及び粒状体(89)の製造
粉末吸着材(1a,1b)の原料としてヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均粒子径約30μmの粉末活性炭(
図2a)0.076質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてのポリエチレン粉末0.177質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を30質量%含有する本発明による高強度の吸着用焼結体(20)(
図4a)(実施例5)を得た。同様に、粉末吸着材(1a,1b)の構成原料として大鋸屑を薬品(リン酸)で賦活した平均粒子径約42μmの粉末活性炭(
図2b)0.076質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてのポリエチレン粉末0.177質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を30質量%含有する本発明による高強度の吸着用焼結体(20)(
図4b)(実施例6)を得た。実施例5及び6に使用する粉末活性炭の含水率は約8質量%であった。
【0055】
ヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均径800μm程度の粒状活性炭0.076質量部と直径100μmポリエチレンビーズ0.177質量部とを混合して粒状体(89)(比較例5)を得た。粒径800μm程度の大径の粒状活性炭では、樹脂構造体間の空隙に遊動可能に活性炭を配置した本発明の吸着用焼結体を形成できず、また、粉末に比べ粒数が極めて少ないため、活性炭が存在しない空隙も多数形成されるため、可能な限り実施例5同様の条件にすべくポリエチレン粉末と同量のポリエチレンビーズを使用した。同様に、大鋸屑原料を薬品(リン酸)で賦活した平均径800μm程度の粒状活性炭0.076質量部と直径100μmポリエチレンビーズ0.177質量部とを混合して粒状体(89)(比較例6)を得た。尚、平均径800μmは、液相処理で多用される粒状活性炭の粒径に相当する。
【0056】
[2-2]試験方法
<実施例5及び6>
通液吸着試験装置(80)により、実施例5及び6の吸着用焼結体(20)を各々装填した内径8.6mmの容器(81)に対し、容器(82)に貯めた濃度1200mg/lのメチレンブルー溶液20mlをチューブポンプ(83)により3.2ml/分で送液し循環させた(
図10)。一定時間毎に0.1mlずつ循環液を採取し100倍に希釈した後、分光光度計(島津製作所製 UV-1700)で波長665nmの吸光度を測定し、実施例5及び6について循環液のメチレンブルー残留濃度を求めた。
【0057】
<比較例5及び6>
吸着用焼結体(20)の代わりに、各容器(81)に充填した比較例5及び6の粒状体(89)を使用した以外は、前記実施例5及び6と同様な試験方法で比較例5及び6についてメチレンブルー残留濃度を求めた。
【0058】
[2-3]試験結果及び考察
図11aは、実施例5及び比較例5の試験結果を示し、
図11bは、実施例6及び比較例6の試験結果を示し、それぞれ横軸に時間[分]、縦軸にメチレンブルー残留濃度[mg/l]を表す。例えば10分後のメチレンブルー残留濃度を比較すると、
図11aより、比較例5では約780mg/lであるのに対し、実施例5では約300mg/lまで減少した。また、
図11bより、比較例6では約500mg/lであるのに対し、実施例6では300mg/l以下まで減少した。従って、粒径800μmの粒状活性炭のみを含む比較例5及び6に比べ、粉末吸着材(1a,1b)を30質量%含む本発明の実施例5及び6では、液体の吸着性能、特に脱色特性に優れていることを確認できた。また、実施例5及び6の吸着用焼結体(20)は強度にも優れていた。
【0059】
[3]通気吸着試験
本発明の吸着用焼結体(20)(実施例5)の通気吸着性能について、粒状活性炭を使用した粒状体(99)(比較例7及び8)と共に下記試験を行った。
【0060】
[3-1]吸着用焼結体(20)及び粒状体(99)の製造
実施例5の吸着用焼結体(20)は前記同様の方法により得られた。ヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均径2000μm程度の粒状活性炭0.076質量部と直径100μmポリエチレンビーズ0.177質量部とを混合して粒状体(99)(比較例7)を得た。粒径2000μm程度の大径の粒状活性炭では、樹脂構造体間の空隙に遊動可能に活性炭を配置した本発明の吸着用焼結体を形成できず、また、粉末に比べ粒数が極めて少ないため、活性炭が存在しない空隙も多数形成されるため、可能な限り実施例5同様の条件にすべくポリエチレン粉末と同量のポリエチレンビーズを使用した。ヤシ殻の炭化物を水蒸気で賦活した平均径2000μm程度の粒状活性炭0.076質量部のみの粒状体(99)(比較例8)を得た。尚、平均径2000μmは、気相処理で多用される粒状活性炭の粒径に相当する。
【0061】
[3-2]試験方法
<実施例5>
図12に示す通気吸着試験装置(90)により、シクロヘキサンを含浸させた供給源を内部に配置してシクロヘキサンガス濃度を約100ppmに調製したガス捕集袋(92)から、ダイヤフラムポンプ(93)によって、吸着用焼結体(20)(実施例5)を装填した内径8.6mmの容器(91)に対し、シクロヘキサンガスを0.2ml/分で供給した。吸着用焼結体(20)通過後の出口ガスを10分間で2L採取し、ガス検知管(ガステック社 102L)により10分毎のシクロヘキサン濃度を測定した。また、官能試験により出口ガスの臭気を評価した。
【0062】
<比較例7及び8>
吸着用焼結体(20)の代わりに、容器(81)に充填した比較例7及び8の粒状体(99)をそれぞれ使用した以外は、実施例5同様な試験方法でシクロヘキサン濃度を測定し、官能試験をした。
【0063】
[3-3]試験結果及び考察
図13は、実施例5並びに比較例7及び8の試験結果を示し、横軸に時間[分]、縦軸にシクロヘキサン濃度[ppm]を表す。比較例7及び8では最初の10分からシクロヘキサンが破過するのに対し、実施例5では60分でもシクロヘキサンが破過せず完全に吸着を持続した。また、官能試験の結果、比較例7及び8では、最初の10分から出口ガスのシクロヘキサン臭気を感じたのに対し、実施例5では臭気を全く感じなかった。従って、粉末吸着材(1a,1b)を30質量%含む本発明の実施例5では、気体の吸着性能、特に脱臭性及び有害ガス除去特性に優れていることを確認できた。
【0064】
[4]焼結性及び強度確認試験
粉末吸着材(1a,1b)を含む吸着用焼結体(20)の焼結性及び強度を確認した。
[4-1]吸着用焼結体(20)製造及び試験方法
吸着用焼結体(20)が0.273gとなるように、粉末吸着材(1a,1b)の構成原料として大鋸屑を薬品(リン酸)で賦活した平均粒子径約42μmの粉末活性炭(
図2b)と、樹脂構造体(2)を形成するポリエチレン粉末とを混合し約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)をそれぞれ50及び60質量%含有する吸着用焼結体(20)(実施例7及び8)を得た。大鋸屑の粉末活性炭を使用する理由は、前記実施例1~6では、他の原料に比べ大鋸屑が比較的強度が弱く、大鋸屑粉末活性炭で高焼結性及び高強度を確認できれば、他のヤシ殻粉末活性炭、粉末活性白土及びゼオライトでも当然に十分な焼結性及び強度が得られると予測できるからである。
【0065】
[4-2]試験方法
実施例7~8について、外観目視により焼結性、及び触手により強度をそれぞれ確認した。
【0066】
[4-3]試験結果及び考察
粉末吸着材(1a,1b)を30質量%(実施例6)、40質量%(実施例2)、50質量%(実施例7)及び60質量%(実施例8)含有する吸着用焼結体(20)は、いずれも加熱炉から形状を維持した状態で取り出すことができ、強く押圧しても形状が変形せず十分な強度を確認できた。
【0067】
[5]回分式液相吸着試験
本発明の吸着用焼結体(20)の回分式液相吸着性能について、粉末活性白土(
図2d)と共に下記試験を行った。
【0068】
[5-1]吸着用焼結体(20)製造
粉末吸着材(1a,1b)の原料として平均粒子径約11μmの粉末活性白土(
図2d)0.197質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてポリエチレン粉末0.131質量部とを混合し、約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を60質量%含有する本発明の吸着用焼結体(20)(実施例9)を得た。使用した粉末活性白土の含水率は約7質量%であった。
【0069】
[5-2]試験方法
<実施例9>
100ml三角フラスコに実施例9の吸着用焼結体(20)を入れ、濃度100mg/lのカフェイン水溶液50mlを加え、ゴム栓をして振とう機にセットし、吸着がほぼ平衡に達するまで常温(20℃)、200rpmで振とうした。振とう後の液を採取し、高速液体クロマトグラフ装置(日立ハイテクサイエンス社製 Chromaster(登録商標))を用いてカフェインを分離し、波長280nmの吸光度より実施例9についてのカフェイン残留濃度を測定し、カフェインの吸着除去率を求めた。
【0070】
<比較例9>
吸着用焼結体(20)の代わりに、粉末活性白土(
図2d)0.197質量部を使用した以外は、前記実施例9と同様な試験方法でカフェインの吸着除去率を求めた。
【0071】
[4-3]試験結果及び考察
実施例9、比較例9ともにカフェインの吸着除去率は97%と等しい値を示した。したがって、粉末吸着材(1a,1b)の吸着性能は吸着用焼結体(20)中にあっても高度に維持されていることを確認できた。また、実施例9の吸着用焼結体(20)は強度にも優れていた。
【0072】
[6]回分式気相吸着試験
本発明の吸着用焼結体(20)の回分式気相吸着性能について、薬品担持ゼオライトと共に下記試験を行った。
【0073】
[6-1]吸着用焼結体(20)製造
粉末吸着材(1a,1b)の原料として、平均粒子径約35μmに粉砕した薬品担持ゼオライト0.055質量部と樹脂構造体(2)の樹脂原料としてポリエチレン粉末0.055質量部とを混合し約125℃で加熱焼結して、粉末吸着材(1a,1b)を50質量%含有する本発明による高強度の吸着用焼結体(20)(実施例10)を得た。使用した薬品担持ゼオライトの含水率は約7質量%であった。
【0074】
[6-2]試験方法
<実施例10>
ポリエステル製3Lにおい袋(近江オドエアーサービス社製)に実施例10の吸着用焼結体(20)と約3cm四方のろ紙片を入れ、清浄空気を3L加えてゴム栓で封止した。ジメチルスルフィド(以下DMSと称する)3%溶液を、内部のDMS濃度が200mg/m3となるようにマイクロシリンジでにおい袋に注入してろ紙片にしみこませ、注入口をセロハンテープで封止した。DMSをにおい袋内部で気化させ、吸着がほぼ平衡に達するまで常温(20℃)で静置した。ゴム栓を開けてにおい袋中のDMS濃度をガステック社製ガス検知管No.77を用いて測定し、DMSの吸着除去率を求めた。
【0075】
<比較例10>
吸着用焼結体(20)の代わりに、平均粒子径約35μmに粉砕した薬品担持ゼオライト0.055質量部を使用した以外は、前記実施例10と同様な試験を行い、DMSの吸着除去率を求めた。
【0076】
[6-3]試験結果及び考察
実施例10のDMSの吸着除去率は96%、比較例10のDMSの吸着除去率は97%とほぼ等しい値を示した。したがって、粉末吸着材(1a,1b)の吸着性能は吸着用焼結体(20)中にあっても高度に維持されていることを確認できた。また、実施例10の吸着用焼結体(20)は強度にも優れていた。
【0077】
[7]実施例の結論
前記実施例より、本発明の吸着用焼結体(20)は、高強度であると共に、液体及び気体において低圧力損失でも脱色及び脱臭等の優れた吸着性能を示すことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の吸着用焼結体、その製造方法および吸着装置は、大気浄化、ダイオキシン除去、排煙脱硫及び脱硝、工場の廃ガス及び廃液処理、浄水の高度処理、化学薬品の精製、食品及び飲料の脱色、家庭用浄水器、空気清浄機、冷蔵庫脱臭剤、ガスマスク等の様々な用途に使用できる。
【符号の説明】
【0079】
(1a,1b)・・粉末吸着材、 (1a)・・遊離吸着材、 (1b)・・固定吸着材、 (2)・・樹脂構造体、 (2a)・・表面、 (2b)・・凹部、 (3)・・空隙、 (20)・・吸着用焼結体、 (30)・・吸着装置、