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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】正極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230414BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021044450
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143761
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 護
(72)【発明者】
【氏名】平塚 秀和
(72)【発明者】
【氏名】寺内 真澄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕貴
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-139926(JP,A)
【文献】特開2020-119685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用の正極であって、
正極基材と正極活物質層とを含み、
前記正極活物質層は、前記正極基材の表面に配置されており、
前記正極活物質層は第1層と第2層とを含み、
前記第2層は、前記正極基材と前記第1層との間に配置されており、
前記第1層は第1正極活物質を含み、
前記第1正極活物質は第1凝集粒子を含み、
前記第2層は第2正極活物質を含み、
前記第2正極活物質は第2凝集粒子と単粒子とを含み、
前記第1凝集粒子および前記第2凝集粒子の各々は、50個以上の一次粒子が凝集することにより形成されており、
前記単粒子は、
前記第1凝集粒子に含まれる前記一次粒子に比して大きい算術平均径を有し、かつ
前記第2凝集粒子に含まれる前記一次粒子に比して大きい算術平均径を有する、
一次粒子である
正極。
【請求項2】
前記第1凝集粒子および前記第2凝集粒子の各々は、前記単粒子に比して大きい算術平均径を有する、
請求項1に記載の正極。
【請求項3】
式(I):
0.2≦T1/(T1+T2)≦0.5 …(I)
の関係が満たされており、
前記式(I)中、T1は前記第1層の厚さを示し、T2は前記第2層の厚さを示す、
請求項1または請求項2に記載の正極。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の正極を含む、
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、正極および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-087879号公報は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、単粒子とから構成されたリチウム金属複合酸化物粉末を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-087879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に非水電解質二次電池(以下「電池」と略記され得る。)の正極は、正極基材と正極活物質層とを含む。正極活物質層は正極基材の表面に形成される。
【0005】
正極活物質層は正極活物質を含む。多くの場合、正極活物質は凝集粒子である。凝集粒子は、多数の一次粒子が凝集した二次粒子である。
【0006】
凝集粒子に単粒子を混合することが提案されている。単粒子は、比較的大きく成長した一次粒子である。単粒子は凝集粒子から独立して存在し得る。単粒子は充填性が良好である。凝集粒子に単粒子が混合されることにより、正極活物質層の充填性が向上し得る。正極活物質層の充填性が向上することにより、電池のエネルギー密度が向上し得る。
【0007】
ただし単粒子は凝集粒子に比して高い抵抗率を有する傾向がある。凝集粒子に単粒子が混合されることにより、正極活物質層の抵抗率が上昇する傾向がある。正極活物質層の抵抗率が上昇することにより、例えば電池の入出力特性が低下する可能性がある。
【0008】
本技術の目的は、正極活物質層の充填性と抵抗率とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本技術の構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本技術の範囲を限定しない。
【0010】
〔1〕正極は非水電解質二次電池に使用される。正極は正極基材と正極活物質層とを含む。正極活物質層は、正極基材の表面に配置されている。正極活物質層は、第1層と第2層とを含む。第2層は、正極基材と第1層との間に配置されている。第1層は第1正極活物質を含む。第1正極活物質は第1凝集粒子を含む。第2層は第2正極活物質を含む。第2正極活物質は第2凝集粒子と単粒子とを含む。第1凝集粒子および第2凝集粒子の各々は、50個以上の一次粒子が凝集することにより形成されている。単粒子は、一次粒子に比して大きい算術平均径を有する。
【0011】
以下、本明細書においては、第1凝集粒子および第2凝集粒子が「凝集粒子」と総称され得る。なお第2凝集粒子は第1凝集粒子と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0012】
本技術の正極活物質層は多層構造を有する。すなわち正極活物質層は第1層(上層)と第2層(下層)とを含む。第1層(上層)は、第2層(下層)に比して正極活物質層の表面側に配置される。本技術の新知見によると、正極活物質層全体の抵抗率は、正極活物質層の表層付近の抵抗率の影響を強く受ける傾向がある。第1層(上層)は、主に凝集粒子から構成される。凝集粒子は、相対的に低い抵抗率を有し得る。上層が主に凝集粒子から構成されることにより、単粒子の混合に伴う抵抗率の上昇が軽減され得る。
【0013】
第2層(下層)は、凝集粒子と単粒子との混合物から構成される。単粒子が下層に混合されることにより、抵抗率の上昇が軽減されつつ、正極活物質層の充填性が向上し得る。
【0014】
〔2〕例えば第1凝集粒子および第2凝集粒子の各々は、単粒子に比して大きい算術平均径を有していてもよい。
【0015】
凝集粒子が単粒子に比して大きいことにより、例えば、充填性の向上等が期待される。
【0016】
〔3〕例えば下記式(I):
0.2≦T1/(T1+T2)≦0.5 …(I)
の関係が満たされていてもよい。
上記式(I)中、「T1」は第1層の厚さを示し、「T2」は第2層の厚さを示す。
【0017】
上記式(I)の関係が満たされることにより、例えば充填性と抵抗率とのバランスが向上することが期待される。以下、本明細書において「T1/(T1+T2)」が「厚さ比」とも記される。
【0018】
〔4〕非水電解質二次電池は、上記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の正極を含む。
【0019】
本技術の電池においては、例えば、エネルギー密度と入出力特性との両立が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態における非水電解質二次電池の構成の一例を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
図3図3は、本実施形態における正極の構成の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、凝集粒子および単粒子の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本技術の実施形態(本明細書においては「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、本技術の範囲を限定しない。例えば本明細書中の作用効果に関する記載は、当該作用効果が全て奏される範囲内に、本技術の範囲を限定しない。
【0022】
<用語の定義等>
本明細書において、「備える、含む(comprise, include)」、「有する(have)」およびこれらの変形〔例えば「から構成される(be composed of)」、「包含する(encompass,involve)」、「含有する(contain)」、「担持する(carry, support)」、「保持する(hold)」等〕の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる(consist of)」との記載はクローズド形式である。「実質的に…からなる(consist essentially of)」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式は、本技術の目的を阻害しない範囲で、必須要素に加えて追加要素をさらに含んでいてもよい。例えば、本技術の属する分野において通常想定される要素(例えば不可避不純物等)が、追加要素として含まれていてもよい。
【0023】
本明細書において、「…してもよい(may)、…し得る(can)」との表現は、義務的な意味「…しなければならない(must)の意味」ではなく、許容的な意味「…する可能性を有するの意味」で使用されている。
【0024】
本明細書において、単数形(a, an, the)で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形で表現される要素を含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も含み得る。
【0025】
本明細書において、例えば「10μmから20μm」および「10~20μm」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「10μmから20μm」および「10~20μm」は、いずれも「10μm以上20μm以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値および下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0026】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本技術の利用形態によって変化し得る近似値である。全ての数値は有効数字で表示される。全ての測定値等は有効数字の桁数を考慮して、四捨五入により処理され得る。全ての数値は、例えば検出限界等に伴う誤差を含み得る。
【0027】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。また微量元素によるドープ、置換も許容され得る。
【0028】
本明細書における幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0029】
本明細書における「算術平均径」は、正極活物質層の断面SEM(scanning electron microscope)画像において測定される。断面SEM画像は、正極活物質層の厚さ方向と平行な断面において取得される。測定対象は、凝集粒子、一次粒子、または単粒子である。観察倍率は測定対象に応じて適宜調整され得る。例えば一次粒子が測定対象である時、観察倍率は10000~30000倍であり得る。例えば凝集粒子、単粒子が測定対象である時、観察倍率は100~5000倍であり得る。個々の測定対象の径は、測定対象の輪郭線上において最も離れた2点間の距離を示す。100個以上の径の算術平均が、算術平均径とみなされる。
【0030】
<非水電解質二次電池>
図1は、本実施形態における非水電解質二次電池の構成の一例を示す概略図である。
電池100は、任意の用途で使用され得る。電池100は、例えば電動車両等において、主電源または動力アシスト用電源として使用されてもよい。複数個の電池100が連結されることにより、電池モジュールまたは組電池が形成されてもよい。電池100は、例えば1~200Ahの定格容量を有していてもよい。
【0031】
電池100は外装体90を含む。外装体90は角形(扁平直方体状)である。ただし角形は一例である。外装体90は任意の形態を有し得る。外装体90は、例えば円筒形であってもよいし、パウチ形であってもよい。外装体90は、例えばアルミニウム(Al)合金製であってもよい。外装体90は、電極体50と電解液(不図示)とを収納している。外装体90は、例えば封口板91と外装缶92とを含んでいてもよい。封口板91は、外装缶92の開口部を塞いでいる。例えばレーザ溶接等により、封口板91が外装缶92に接合されていてもよい。
【0032】
封口板91に、正極端子81と負極端子82とが設けられている。封口板91に、注入口(不図示)と、ガス排出弁(不図示)とがさらに設けられていてもよい。注入口から外装体90の内部に電解液が注入され得る。正極集電部材71は、電極体50と正極端子81とを接続している。正極集電部材71は、例えばAl板等であってもよい。負極集電部材72は、電極体50と負極端子82とを接続している。負極集電部材72は、例えば銅(Cu)板等であってもよい。
【0033】
図2は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
電極体50は巻回型である。電極体50は、正極10、セパレータ30および負極20を含む。すなわち電池100は、正極10と負極20と電解質とを含む。正極10、セパレータ30および負極20は、いずれも帯状のシートである。電極体50は複数枚のセパレータ30を含んでいてもよい。電極体50は、正極10、セパレータ30および負極20がこの順に積層され、渦巻状に巻回されることにより形成されている。正極10または負極20の一方がセパレータ30に挟まれていてもよい。正極10および負極20の両方がセパレータ30に挟まれていてもよい。電極体50は、巻回後に扁平状に成形されていてもよい。なお巻回型は一例である。電極体50は、例えば積層(スタック)型であってもよい。
【0034】
《正極》
正極10は、正極基材11と正極活物質層12とを含む。正極基材11は導電性シートである。正極基材11は、例えばAl合金箔等であってもよい。正極基材11は、例えば10~30μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層12は、正極基材11の表面に配置されている。正極活物質層12は、例えば正極基材11の片面のみに配置されていてもよい。正極活物質層12は、例えば正極基材11の表裏両面に配置されていてもよい。正極10の幅方向(図2のX軸方向)において、一方の端部に正極基材11が露出していてもよい。正極基材11が露出した部分には、正極集電部材71が接合され得る。
【0035】
正極活物質層12は、例えば10~200μmの厚さを有していてもよいし、50~150μmの厚さを有していてもよいし、50~100μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層12は、例えば3.5~3.8g/cm3の見かけ密度を有していてもよいし、3.5~3.7g/cm3の見かけ密度を有していてもよい。正極活物質層12の見かけ密度は、正極活物質層12の質量が正極活物質層12の見かけ体積で除されることにより求められる。
【0036】
例えば、正極活物質層12と正極基材11との間に中間層(不図示)が介在していてもよい。中間層は正極活物質を含まない。本実施形態においては、中間層が介在する場合も、正極活物質層12が正極基材11の表面に配置されているとみなされる。中間層は、正極活物質層12および正極基材11に比して、薄くてもよい。中間層は、例えば0.1~10μmの厚さを有していてもよい。中間層は、例えば導電材、絶縁材等を含んでいてもよい。
【0037】
(多層構造)
図3は、本実施形態における正極の構成の一例を示す概略断面図である。
正極活物質層12は多層構造を有する。すなわち正極活物質層12は第1層1と第2層2とを含む。第2層2は、正極基材11と第1層1との間に配置されている。
【0038】
第1層1および第2層2を含む限り、正極活物質層12は追加の層(不図示)を含んでいてもよい。追加の層は、第1層1および第2層2と異なる組成を有する。例えば、第1層1と第2層2との間に追加の層が形成されていてもよい。例えば、正極活物質層12の表面と、第1層1との間に追加の層が形成されていてもよい。例えば第2層2と正極基材11との間に追加の層が形成されていてもよい。
【0039】
(第1層)
第1層1は上層である。第1層1は、第2層2に比して正極活物質層12の表面側に配置されている。第1層1は正極活物質層12の表面に露出していてもよい。第1層1が正極活物質層12の表面を形成していてもよい。
【0040】
第1層1は第1正極活物質を含む。例えば、第1層1は実質的に第1正極活物質からなっていてもよい。例えば、第1層1は第1正極活物質に加えて、導電材およびバインダをさらに含んでいてもよい。例えば、第1層1は、質量分率で0.1~10%の導電材と、0.1~10%のバインダと、残部の第1正極活物質とからなっていてもよい。
【0041】
第1正極活物質は第1凝集粒子mc1を含む。第1凝集粒子mc1が上層に配置されることにより、単粒子sc2の混合に伴う抵抗率の上昇が軽減されることが期待される。第1正極活物質は実質的に第1凝集粒子mc1からなっていてもよい。第1正極活物質は、第1凝集粒子mc1に加えて、単粒子をさらに含んでいてもよい。ただし第1凝集粒子mc1は、第1正極活物質の主成分であり得る。本実施形態における「主成分」は、複数の成分の中で最高の質量分率を有する成分を示す。第1正極活物質において、第1凝集粒子mc1の質量分率は、例えば50%以上であってもよいし、70%以上であってもよいし、90%以上であってもよい。
【0042】
図4は、凝集粒子および単粒子の概念図である。
第1凝集粒子mc1は二次粒子である。第1凝集粒子mc1は「多結晶(multiple crystal)」とも称され得る。第1凝集粒子mc1は、50個以上の一次粒子が凝集することにより形成されている。例えば第1凝集粒子mc1は、100個以上の一次粒子を含んでいてもよい。一次粒子の個数に上限はない。例えば、第1凝集粒子mc1は、10000個以下の一次粒子を含んでいてもよい。なお「粒子の個数」は、断面SEM画像に現れている粒子の個数を示す。
【0043】
本実施形態における「一次粒子」は、断面SEM画像において、外観上、粒界が確認できない粒子である。一次粒子は、任意の形状を有し得る。一次粒子は、例えば球状、柱状、塊状等であってもよい。一次粒子は、例えば0.5μm未満の算術平均径を有していてもよいし、0.05~0.2μmの算術平均径を有していてもよい。
【0044】
第1凝集粒子mc1は、任意の形状を有し得る。第1凝集粒子mc1は、例えば球状、柱状、塊状等であってもよい。第1凝集粒子mc1は、例えば、単粒子sc2に比して大きい算術平均径を有していてもよい。これにより、例えば抵抗率の低減等が期待される。第1凝集粒子mc1の算術平均径は、例えば5~20μmであってもよいし、15~19μmであってもよい。
【0045】
(第2層)
第2層2は下層である。第2層2は、第1層1に比して正極基材11側に配置されている。第2層2は、正極基材11に直接接触していてもよい。第2層2は、正極基材11の表面に形成されていてもよい。
【0046】
第2層2は第2正極活物質を含む。例えば、第2層2は実質的に第2正極活物質からなっていてもよい。例えば、第2層2は第2正極活物質に加えて、導電材およびバインダをさらに含んでいてもよい。例えば第2層2は、質量分率で0.1~10%の導電材と、0.1~10%のバインダと、残部の第2正極活物質とからなっていてもよい。
【0047】
第2層2は、第2凝集粒子mc2と単粒子sc2とを含む。第2凝集粒子mc2と単粒子sc2との混合物が下層に配置されることにより、充填性の向上が期待される。第2凝集粒子mc2と単粒子sc2との混合比は任意である。例えば「第2凝集粒子/単粒子=9/1~5/5(質量比)」の関係が満たされていてもよいし、「第2凝集粒子/単粒子=9/1~7/3(質量比)」の関係が満たされていてもよい。
【0048】
第2凝集粒子mc2は、50個以上の一次粒子が凝集することにより形成されている。一次粒子の詳細は前述のとおりである。第2凝集粒子mc2は、例えば、第1凝集粒子mc1と実質的に同一の構造、形状およびサイズを有していてもよいし、異なる構造、形状およびサイズを有していてもよい。第2凝集粒子m2は、単粒子sc2に比して大きい算術平均径を有していてもよい。これにより、例えば充填性の向上が期待される。第2凝集粒子mc2の算術平均径は、例えば5~20μmであってもよいし、15~19μmであってもよい。
【0049】
単粒子sc2は、第2凝集粒子mc2から独立している。本実施形態における「単粒子」は、断面SEM画像において、外観上、粒界が確認できない粒子である。単粒子sc2は「単結晶(single crystal)」とも称され得る。単粒子sc2は1個単独で存在していてもよい。2~10個の単粒子sc2が凝集体を形成していてもよい(図4参照)。
【0050】
単粒子sc2は、任意の形状を有し得る。単粒子sc2は、例えば、球状、柱状、塊状等であってもよい。単粒子sc2は、相対的に大きく成長した一次粒子である。すなわち単粒子sc2は、第1凝集粒子mc1および第2凝集粒子mc2に含まれる一次粒子に比して、大きい算術平均径を有する。単粒子sc2の算術平均径は、例えば0.5~10μmであってもよいし、3.5~4.5μmであってもよい。
【0051】
(厚さ比)
第1層1および第2層2は、例えば下記式(I)の関係を満たしていてもよい。
0.2≦T1/(T1+T2)≦0.5 …(I)
上記式(I)中、「T1」は第1層1の厚さを示し、「T2」は第2層2の厚さを示す。上記式(I)の関係が満たされることにより、例えば充填性と抵抗率とのバランスが向上することが期待される。「T1/(T1+T2)」は、例えば0.3以下であってもよい。
【0052】
第1層1および第2層2は、例えば下記式(II)の関係を満たしていてもよい。
0.5≦T2/(T1+T2)≦0.8 …(II)
上記式(II)の関係が満たされることにより、例えば充填性と抵抗率とのバランスが向上することが期待される。「T2/(T1+T2)」は、例えば0.7以上であってもよい。
【0053】
各層の厚さは、正極活物質層12の断面SEM画像において測定される。断面SEM画像は、正極活物質層12の厚さ方向(図3のZ軸方向)と平行な断面において取得される。各層の厚さは、それぞれ5箇所以上で測定される。5箇所以上の厚さの算術平均が、各層の厚さとみなされる。
【0054】
(化学組成)
第1凝集粒子mc1、第2凝集粒子mc2および単粒子sc2は、任意の化学組成を有し得る。第1凝集粒子mc1、第2凝集粒子mc2および単粒子sc2は、互いに異なる化学組成を有していてもよいし、実質的に同一の化学組成を有していてもよい。
【0055】
例えば、第1凝集粒子mc1、第2凝集粒子mc2および単粒子sc2は、それぞれ独立に、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここで、例えば「Li(NiCoMn)O2」等の組成式においては、括弧内の組成比の合計が1である(Ni+Co+Mn=1)。組成比の合計が1である限り、各元素(Ni、Co、Mn)の組成比は任意である。
【0056】
例えば、第1凝集粒子mc1、第2凝集粒子mc2および単粒子sc2は、それぞれ独立に、例えば下記式(III)により表される化学組成を有していてもよい。
Li1-aNixMe1-x2 …(III)
上記式(III)中、「a」は「-0.3≦a≦0.3」の関係を満たす。「x」は「0.3≦x≦1.0」の関係を満たす。「Me」は、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、珪素(Si)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびゲルマニウム(Ge)からなる群より選択される少なくとも1種を示す。
【0057】
例えば、第1凝集粒子mc1、第2凝集粒子mc2および単粒子sc2は、それぞれ独立に、例えば下記式(IV)により表される化学組成を有していてもよい。
Li1-aNixCoyMn1-x-y2 …(IV)
上記式(IV)中、「a」は「-0.3≦a≦0.3」の関係を満たす。「x」は「0.5≦x≦0.8」の関係を満たす。「y」は「0.2≦y≦0.5」の関係を満たす。
【0058】
(導電材)
第1層1および第2層2は、それぞれ独立に、任意の導電材を含み得る。例えば第1層1および第2層2は、それぞれ独立に、例えばアセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンフレーク、および黒鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0059】
(バインダ)
第1層1および第2層2は、それぞれ独立に、任意のバインダを含み得る。例えば第1層1および第2層2は、それぞれ独立に、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリアクリル酸(PAA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0060】
《負極》
負極20は、例えば負極基材21と負極活物質層22とを含んでいてもよい。負極基材21は導電性シートである。負極基材21は、例えばCu合金箔等であってもよい。負極基材21は、例えば5~30μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層22は、負極基材21の表面に配置されていてもよい。負極活物質層22は、例えば負極基材21の片面のみに配置されていてもよい。負極活物質層22は、例えば負極基材21の表裏両面に配置されていてもよい。負極20の幅方向(図2のX軸方向)において、一方の端部に負極基材21が露出していてもよい。負極基材21が露出した部分には、負極集電部材72が接合され得る。
【0061】
負極活物質層22は、例えば10~200μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層22は負極活物質を含む。負極活物質は任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、SiO、Si基合金、Si、SnO、Sn基合金、SnおよびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0062】
負極活物質層22は負極活物質に加えて、例えばバインダ等をさらに含んでいてもよい。例えば負極活物質層22は、実質的に、質量分率で0.1~10%のバインダと、残部の負極活物質とからなっていてもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0063】
《セパレータ》
セパレータ30の少なくとも一部は、正極10と負極20との間に介在している。セパレータ30は、正極10と負極20とを分離している。セパレータ30は、例えば10~30μmの厚さを有していてもよい。
【0064】
セパレータ30は多孔質シートである。セパレータ30は電解液を透過する。セパレータ30は、例えば100~400s/100mLの透気度を有していてもよい。本明細書における「透気度」は、「JIS P 8117:2009」に規定される「透気抵抗度(air resistance)」を示す。透気度はガーレー試験法により測定される。
【0065】
セパレータ30は電気絶縁性である。セパレータ30は、例えばポリオレフィン系樹脂等を含んでいてもよい。セパレータ30は、例えば、実質的にポリオレフィン系樹脂からなっていてもよい。ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。セパレータ30は、例えば単層構造を有していてもよい。セパレータ30は、例えば、実質的にPE層からなっていてもよい。セパレータ30は、例えば多層構造を有していてもよい。セパレータ30は、例えばPP層とPE層とPP層とがこの順に積層されることにより形成されていてもよい。セパレータ30の表面に、例えば耐熱層(セラミック粒子層)等が形成されていてもよい。
【0066】
《電解液》
電解液は液体電解質である。電解液は溶媒と支持電解質とを含む。溶媒は非プロトン性である。溶媒は任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0067】
支持電解質は溶媒に溶解している。支持電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4、およびLiN(FSO22からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。支持電解質は、例えば0.5~2.0mоl/Lのモル濃度を有していてもよいし、0.8~1.2mоl/Lのモル濃度を有していてもよい。
【0068】
電解液は、溶媒および支持電解質に加えて、任意の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば電解液は、質量分率で0.01~5%の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO22)、フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)、およびリチウムビスオキサラトボラート(LiBOB)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0069】
なお、電解液に代えて、例えばゲル電解質が使用されてもよいし、固体電解質が使用されてもよい。固体電解質はセパレータとしても機能し得る。すなわち固体電解質層が正極と負極とを分離していてもよい。
【実施例
【0070】
以下、本技術の実施例(本明細書においては「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、本技術の範囲を限定しない。
【0071】
<正極の製造>
《No.1》
下記材料が準備された。
凝集粒子:Li(NiCoMn)O2
単粒子:Li(NiCoMn)O2
導電材:アセチレンブラック
バインダ:PVdF
分散媒:N-メチル-2-ピロリドン
正極基材:Al箔
【0072】
凝集粒子が第1正極活物質として扱われた。すなわち第1正極活物質は凝集粒子からなる。97.5質量部の第1正極活物質と、1質量部の導電材と、1.5質量部のバインダと、所定量の分散媒とが混合されることにより、第1スラリーが調製された。
【0073】
凝集粒子と単粒子とが混合されることにより、第2正極活物質が調製された。混合比は「凝集粒子/単粒子=5/5(質量比)」であった。97.5質量部の第2正極活物質と、1質量部の導電材と、1.5質量部のバインダと、所定量の分散媒とが混合されることにより、第2スラリーが調製された。
【0074】
同時多層コーティング装置が準備された。正極基材の表面(片面)に、第1スラリーと第2スラリーとが実質的に同時に塗布されることにより、塗膜が形成された。第2スラリーは、正極基材と第1スラリーとの間に吐出された。塗膜が乾燥されることにより、正極活物質層が形成された。正極活物質層は第1層と第2層とからなっていた。第1層は第1スラリーから形成された。第2層は第2スラリーから形成された。第2層は、正極基材と第1層との間に配置されていた。同様に、正極基材の裏面にも正極活物質層が形成された。すなわち正極基材の表裏両面に正極活物質層が形成された。圧延機により正極活物質層が圧縮された。以上よりNo.1に係る正極が製造された。
【0075】
《No.2》
単粒子が第1正極活物質として扱われることにより、第1スラリーと同様に、第3スラリーが調製された。第1スラリーに代えて第3スラリーが使用されることを除いては、No.1に係る正極と同様に、No.2に係る正極が製造された。
【0076】
《No.3》
第1スラリーにより、単層構造の正極活物質層が形成されることを除いては、No.1に係る正極と同様に、No.3に係る正極が製造された。
【0077】
《No.4》
第3スラリーにより、単層構造の正極活物質層が形成されることを除いては、No.1に係る正極と同様に、No.4に係る正極が製造された。
【0078】
《No.5》
第2スラリーにより、単層構造の正極活物質層が形成されることを除いては、No.1に係る正極と同様に、No.5に係る正極が製造された。
【0079】
<評価>
《充填率》
正極から所定サイズの試料片が切り出された。試料片の厚さと質量とから、正極活物質層の見かけ密度が求められた。本実施例においては、見かけ密度が充填率とみなされる。
【0080】
《抵抗率》
電極抵抗測定機により、正極活物質層の抵抗率が測定された。
【0081】
充填率および抵抗率の測定結果は下記表1に示される。本実施例においては、充填率が3.56g/cm3以上であり、かつ抵抗率が28Ω・cm以下である時、充填率と抵抗率とが両立されているとみなされる。
【0082】
《その他》
断面SEM画像において、厚さ比「T1/(T1+T2)」も測定された。断面SEM画像において、凝集粒子および単粒子の算術平均径も測定された。凝集粒子は、単粒子に比して大きい算術平均径を有していた。
【0083】
【表1】
【0084】
<結果>
No.1に係る正極においては、充填率と抵抗率とが両立されていた。No.1に係る正極においては、第1層1(上層)に凝集粒子が配置され、かつ第2層(下層)に凝集粒子と単粒子との混合物が配置されている。
【0085】
No.2に係る正極は、高い抵抗率を有していた。No.2に係る正極においては、第1層1(上層)に単粒子が配置されている。
【0086】
No.3に係る正極は、高い抵抗率を有していた。No.3に係る正極においては、正極活物質層が単層構造を有する。単層構造は凝集粒子からなる。正極活物質層の充填性が悪いために、接触抵抗が大きくなり、抵抗率が上昇していると考えられる。
【0087】
No.4に係る正極は、高い抵抗率を有していた。No.4に係る正極においては、正極活物質層が単層構造を有する。単層構造は単粒子からなる。単粒子が高い抵抗率を有するため、正極活物質層の抵抗率が上昇していると考えられる。
【0088】
No.5に係る正極は、高い抵抗率を有していた。No.5に係る正極においては、正極活物質層が単層構造を有する。単層構造は凝集粒子と単粒子との混合物(均一相)からなる。
【0089】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本技術の範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0090】
1 第1層、2 第2層、10 正極、11 正極基材、12 正極活物質層、20 負極、21 負極基材、22 負極活物質層、30 セパレータ、50 電極体、71 正極集電部材、72 負極集電部材、81 正極端子、82 負極端子、90 外装体、91 封口板、92 外装缶、100 電池(非水電解質二次電池)、mc1 第1凝集粒子、mc2 第2凝集粒子、sc2 単粒子。
図1
図2
図3
図4