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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】間柱型鋼材ダンパー
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230414BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20230414BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
E04H9/02 321C
F16F7/12
F16F15/02 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021106285
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023004536
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2022-12-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月20日発行の2020年度日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集DVDにて発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】戸張 涼太
(72)【発明者】
【氏名】吉永 光寿
(72)【発明者】
【氏名】植木 卓也
(72)【発明者】
【氏名】金城 陽介
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-153012(JP,A)
【文献】特開2001-214518(JP,A)
【文献】特開2010-276080(JP,A)
【文献】特開平11-303451(JP,A)
【文献】実開平07-021927(JP,U)
【文献】特開平10-153013(JP,A)
【文献】特開平09-328925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 7/12
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁とからなる架構の上側の梁と下側の梁との間に取り付けられる間柱型鋼材ダンパーであって、
板状断面を有するウェブ材及びフランジ材が、互いに交差する向きに交互に平行に並べられた状態で、接合されて構成され、
前記ウェブ材の長さ方向の中央部には開口部が設けられ、前記ウェブ材よりも降伏耐力が小さい低降伏点鋼からなるせん断パネルが前記開口部を塞ぐように配置されて前記ウェブ材及び/又は前記フランジ材に接合され、
前記フランジ材の厚さは40mm以下である、間柱型鋼材ダンパー。
【請求項2】
前記せん断パネルの幅厚比は56以下である、請求項に記載の間柱型鋼材ダンパー。
【請求項3】
前記せん断パネルの少なくとも一方の面には、スチフナが設けられている、請求項1または2に記載の間柱型鋼材ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁とからなる架構に取付けられ、地震時等に構造物に入力するエネルギーを吸収して構造物の振動を低減するために用いられる間柱型鋼材ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
柱と梁とからなる架構において上側の梁と下側の梁との間に取り付けられ、構造物に地震力等の外力が作用した時に構造物よりも先に塑性変形してエネルギーを吸収し、構造物の損傷や振動を抑制する、間柱型の耐震部材や制振部材が、種々用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ウェブに降伏耐力が低い領域(低降伏点領域)を有するH形鋼を、横方向に連続して接合した耐震壁が開示されている。特許文献1にはさらに、隣接するH形鋼のフランジどうしの固定範囲を変化させることにより、耐震壁が設置される構造物等の強度に応じて、耐震壁のフランジに作用する軸力及び剛性を調整して、構造物の座屈や破壊を防止することも開示されている。具体的には、横方向に連続して接合したH形鋼のフランジ同士の固定範囲を、各H形鋼の上端部及び下端部のみに限定することで、耐震壁を構成する各H形鋼のフランジから、耐震壁が取り付けられる構造物の梁に作用する力を抑え、梁の損傷を防ぐようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-153013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、耐震壁を構成するH形鋼のウェブに設けられる、低降伏点領域のエネルギー吸収能力を高めるための構造は、必ずしも開示されていない。特許文献1に開示されるように、横方向に連続して接合したH形鋼のフランジ同士の固定範囲を、各H形鋼の上端部及び下端部のみに限定すると、耐震壁全体の剛性が低下してしまうため、各H形鋼の低降伏点領域のエネルギー吸収能力を引き出しにくい。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、H形断面を有する複数本の鋼材が平行に配設された状態で互いに固定されて構成された間柱型鋼材ダンパーにおいて、各鋼材の中央部のウェブに設けられる降伏耐力が小さい領域のエネルギー吸収能力を効率的に引き出すことのできる間柱型鋼材ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 柱と梁とからなる架構の上側の梁と下側の梁との間に取り付けられる間柱型鋼材ダンパーであって、H形断面を有する複数本の鋼材が平行に並べられた状態で、前記複数本の鋼材のフランジ同士が接合されて構成され、前記複数本の鋼材の長さ方向の中央部の前記ウェブには開口部が設けられ、前記鋼材よりも降伏耐力が小さい低降伏点鋼からなるせん断パネルが前記開口部を塞ぐように配置されて前記ウェブ及び/又は前記フランジに接合され、前記鋼材のフランジの厚さは22mm以上であり、前記複数本の鋼材の前記フランジ同士の接合は、前記長さ方向において前記せん断パネルが設けられていない領域でなされている、間柱型鋼材ダンパー。
[2] 前記複数本の鋼材の前記フランジ同士は、前記長さ方向において前記せん断パネルが設けられていない領域の全てにおいて接合されている、[1]に記載の間柱型鋼材ダンパー。
[3] 柱と梁とからなる架構の上側の梁と下側の梁との間に取り付けられる間柱型鋼材ダンパーであって、板状断面を有するウェブ材及びフランジ材が、互いに交差する向きに交互に平行に並べられた状態で、接合されて構成され、前記ウェブ材の長さ方向の中央部には開口部が設けられ、前記ウェブ材よりも降伏耐力が小さい低降伏点鋼からなるせん断パネルが前記開口部を塞ぐように配置されて前記ウェブ材及び/又は前記フランジ材に接合され、前記フランジ材の厚さは40mm以下である、間柱型鋼材ダンパー。
[4] 前記せん断パネルの幅厚比は56以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の間柱型鋼材ダンパー。
[5] 前記せん断パネルの少なくとも一方の面には、スチフナが設けられている、[1]~[4]のいずれかに記載の間柱型鋼材ダンパー。
【発明の効果】
【0008】
本発明の間柱型鋼材ダンパーは、H形断面を有する複数本の鋼材が平行に並べられた状態でフランジ同士が接合されて構成され、各鋼材のフランジの厚さが22mm以上であり、各鋼材のフランジ同士の固定は、長さ方向においてせん断パネルが設けられていない領域でなされている。あるいは、本発明の間柱型鋼材ダンパーは、ウェブ材及びフランジ材が、断面が互いに垂直となるように交互に並行に並べられた状態で接合されて構成され、フランジ材の厚さが40mm以下である。よって、間柱型鋼材ダンパーのフランジ部分の剛性が大きくなることが抑制され、このフランジ部分によるせん断パネルの拘束度も抑えられる。よって、間柱型鋼材ダンパーのせん断パネルがせん断変形しやすくなり、せん断パネルを構成する低降伏点鋼のエネルギー吸収能力を効率的に引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第一の実施形態の間柱型鋼材ダンパーを示す正面図である。
図2図2は、本発明の第一の実施形態の間柱型鋼材ダンパーの要部を示す拡大図である。
図3図3は、本発明の第二の実施形態の間柱型鋼材ダンパーを示す正面図である。
図4図4は、本発明の間柱型鋼材ダンパーの一例を示す斜視図である。
図5図5は、本発明の間柱型鋼材ダンパーの他の一例を示す斜視図である。
図6図6は、従来の間柱型鋼材ダンパーの一例を示す斜視図である。
図7図7は、本発明及び比較例の間柱型鋼材ダンパーにおけるせん断パネルの変形を示すグラフである。
図8図8(a)及び図8(b)は、本発明及び比較例の間柱型鋼材ダンパーに発生するひずみ分布を示すコンター図である。
図9図9は、本発明及び比較例の間柱型鋼材ダンパーにおけるせん断パネルの耐力上昇を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の間柱型鋼材ダンパーの実施形態について、具体的に説明する。
[第一の実施形態]
図1に、本実施形態の間柱型鋼材ダンパー1が、鉄骨造の建築物(構造物)における柱5と梁6、7とからなる架構内に設置された状態を示す。また、図2に、間柱型鋼材ダンパー1の要部を拡大して示す。
【0011】
図1及び図2に示すように、本実施形態の間柱型鋼材ダンパー1は、柱5と梁6、7とからなる架構において、上側の梁6と下側の梁7にそれぞれ設けられる取付部材61、71を介して、上側の梁6と下側の梁7との間に取り付けられている。
【0012】
間柱型鋼材ダンパー1は、H形断面を有する複数本の鋼材11が、これら複数本の鋼材11のウェブ11wが同一面上に配置されるように、平行に並べられた状態で、複数本の鋼材11のフランジ11f同士が高力ボルト13により摩擦接合されて構成されている。H形断面を有する各鋼材11は、H形鋼又はI形鋼から構成されていても良く、鋼板をH形状に組み合わせて溶接してなるビルトH鋼であっても良い。
【0013】
図1及び図2に示すように、上側の梁6と下側の梁7に設けられる取付部材61、71は、H形断面を有する鋼材11を組み合わせて構成される間柱型鋼材ダンパー1と略同様の断面形状を有するように構成されている。そして、間柱型鋼材ダンパー1を構成する複数本の鋼材11のうち最も外側の2本の鋼材11の外側のフランジ11fと、間柱型鋼材ダンパー1を構成する全ての鋼材11のウェブ11wが、取付部材61、71のフランジに、添接板31及び高力ボルト32によって接合されている。このようにして、間柱型鋼材ダンパー1が、柱5と梁6、7とからなる上側の梁6と下側の梁7との間に取り付けられている。
【0014】
図1に示すように、各鋼材11の長さ方向の中央部のウェブ11wには、ガス切断等により開口部11oが設けられ、この開口部11oを塞ぐように、開口部11oと略同じ平面形状に形成されたせん断パネル12が配置されている。せん断パネル12は、鋼材11のウェブ11wよりも降伏耐力が低い低降伏点鋼から構成され、開口部11oの周囲のウェブ11wに、隅肉溶接により一体に接合されている。
【0015】
せん断パネル12の幅厚比は56以下に設定されている。また、図1及び図2に示すように、せん断パネル12の一方の面には縦方向に、他方の面には横方向に、それぞれスチフナ14が取り付けられている。このようにすると、せん断パネル12が塑性域まで変形しても、せん断パネル12の面外座屈が抑えられるため、せん断パネル12の変形性能を最大限引き出すことができ、好ましい。
【0016】
また、各鋼材11のフランジ11fの厚さは22mm以上に設定されている。そして、複数本の鋼材11は、その長さ方向においてせん断パネル12が設けられていない領域で、フランジ11f同士が高力ボルト13で摩擦接合されることにより、間柱型鋼材ダンパー1を構成する各鋼材11が互いに接合されている。
【0017】
このように、複数本の鋼材11のフランジ11f同士が、鋼材11の長さ方向においてせん断パネル12が設けられていない領域で接合されることにより、せん断パネル12の塑性化後の耐力上昇が抑えられる。その結果、せん断パネル12を大きくせん断変形させ、せん断パネル12を構成する低降伏点鋼のエネルギー吸収能力を効率的に引き出す効果が得られる。
【0018】
さらに、フランジ11fの厚さが22mm以上に設定されていると、せん断パネル12がウェブ11wのみに接合されフランジ11fに接合されていなくても、せん断パネル12が設けられている領域における鋼材11の剛性を確保できる。よって、複数本の鋼材11のフランジ11f同士を接合して間柱型鋼材ダンパー1を構成する前に、各鋼材11を単体で取り回す際に変形が生じにくく、間柱型鋼材ダンパー1の組立てを行いやすい。
【0019】
鋼材11の長さ方向においてせん断パネル12が設けられていない領域内で、鋼材11のフランジ同士11fを高力ボルト13で摩擦接合する範囲は、フランジ同士11fを固定することによるフランジ11f部分の剛性の上昇の度合いに応じて、せん断パネル12をせん断変形しやすくするように、適宜調整する。例えば、鋼材11のフランジ同士11fを高力ボルト13で摩擦接合する範囲を、鋼材11の長さ方向においてせん断パネル12が設けられていない領域の全体とすると、せん断パネル12よりも上側及びせん断パネル12よりも下側において、間柱型鋼材ダンパー1の剛性が高められる。この結果、せん断パネル12をせん断変形しやすくなり、せん断パネルを構成する低降伏点鋼のエネルギー吸収能力を効率的に引き出すことができる。
[第二の実施形態]
図3に、本実施形態の間柱型鋼材ダンパー2が、鉄骨造の建築物(構造物)における柱5と梁6、7とからなる架構内に設置された状態を示す。
【0020】
図3に示すように、本実施形態の間柱型鋼材ダンパー2は、板状断面を有するウェブ材21及びフランジ材22が、ウェブ材21の断面とフランジ材22の断面が互いに垂直となり、かつウェブ材21及びフランジ材22の断面中心が同一面上に配置されるように、交互に平行に並べられた状態で、部分溶け込み溶接又は隅肉溶接により接合されて構成されている。
【0021】
ウェブ材21の高さ方向の中央部には開口部21oが設けられ、この開口部21oにはウェブ材21よりも降伏耐力が小さい低降伏点鋼からなるせん断パネル23が接合されている。
【0022】
図3に示すように、各ウェブ材21の長さ方向の中央部には開口部21oが設けられ、この開口部21oを塞ぐように、開口部21oと略同じ平面形状に形成されたせん断パネル23が配置されている。せん断パネル23は、ウェブ材21よりも降伏耐力が低い低降伏点鋼から構成され、開口部21oの周囲のウェブ材21及びフランジ材22に部分溶け込み溶接又は隅肉溶接により一体に接合されている。
【0023】
せん断パネル23の幅厚比は56以下に設定されている。また、図3に示すように、せん断パネル23の一方の面には縦方向に、他方の面には横方向に、それぞれスチフナ24が取り付けられている。このようにすると、せん断パネル23が塑性域まで変形しても、せん断パネル23の面外座屈が抑えられるため、せん断パネル12の変形性能を最大限引き出すことができ、好ましい。
【0024】
また、各フランジ材22の厚さは40mm以下に設定されている。このようにすると、間柱型鋼材ダンパー2においてせん断パネル12を両側から拘束するフランジ材22部分の剛性が抑えられ、鋼材11のウェブ11wの開口部11oに設けられるせん断パネル12がせん断変形しやすくなり、せん断パネルを構成する低降伏点鋼のエネルギー吸収能力を効率的に引き出すことができる。
【0025】
その他の点については、本実施形態の間柱型鋼材ダンパー2は、第一の実施形態の間柱型鋼材ダンパー1と同様に構成されている。
【0026】
なお、上記各実施形態では、低降伏点鋼からなるせん断パネル12、23の幅厚比(せん断パネルの幅と高さのうちの大きい方を、厚さで除した数値)が56以下に設定され、せん断パネル12、23の両方の面にはスチフナ14、24が取り付けられている例について説明したが、本発明の間柱型鋼材ダンパー1はこれに限定されない。間柱型鋼材ダンパーの全体が、せん断パネルの塑性変形能力を十分に引き出せるように構成されていれば、せん断パネルの幅厚比が56よりも大きく設定されていても良く、せん断パネルの片面のみにスチフナが設けられていても良く、せん断パネルにスチフナが設けられていなくても良い。
【0027】
また、上記各実施形態では、間柱型鋼材ダンパー1、2が、鉄骨造の建築物の架構内に設置される例について説明したが、本発明の間柱型鋼材ダンパーが設置される構造物はこれに限定されない。例えば、本発明の間柱型鋼材ダンパーは、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物やその他の構造物にも設置可能である。
【実施例
【0028】
<実施例1>
本発明の間柱型鋼材ダンパーにせん断力が作用するときの、せん断パネルの応力-ひずみ関係を数値解析し、本発明の効果を検証したので、これについて説明する。
【0029】
図4図6に、本数値解析で対象とした解析モデルの形状を示す。本発明例として、図4及び図5にそれぞれ示すように、第一の実施形態の間柱型鋼材ダンパー1と同様の構成を有する解析モデル(発明例1)、及び第二の実施形態の間柱型鋼材ダンパー2と同様の構成を有する解析モデル(発明例2)を設定した。また、比較例として、図6に示すように、発明例1の間柱型鋼材ダンパー1において、複数本の鋼材11のフランジ同士11fの接合を、せん断パネル12が設けられている領域でも行うように変更した構成を有する間柱型鋼材ダンパー9の解析モデルを設定した。
【0030】
発明例1及び比較例では、間柱型鋼材ダンパー1、9を構成する各鋼材11は、断面サイズH-600×250×16×32(単位:mm)、長さ2400mmのH形鋼とし、日本産業規格JISG3136(建築構造用圧延鋼材)に規定されるSN490材を模擬した材料特性を設定した。せん断パネル12は、幅536mm、高さ600mm、厚さ9mmの鋼板とし、降伏強度205~245N/mm、引張強度300~400N/mmの低降伏点鋼を模擬した材料特性を設定した。スチフナ14は、厚さ12mm、高さ107mmの鋼板とし、SN490材を模擬した材料特性を設定した。
【0031】
発明例2では、間柱型鋼材ダンパー2を構成するウェブ材21は、高さ536mm、厚さ16mm、長さ884mmの鋼板とし、フランジ材22は、幅250mm、厚さ32mm、長さ2500mmの鋼板とし、ウェブ材21及びフランジ材22には、SN490材を模擬した材料特性を設定した。せん断パネル23は、幅536mm、高さ600mm、厚さ9mmの鋼板とし、発明例1同様、上述の低降伏点鋼を模擬した材料特性を設定した。スチフナ24は、厚さ12mm、高さ107mmの鋼板とし、SN490材を模擬した材料特性を設定した。
【0032】
各材料特性は、降伏応力度及び引張応力度で折れるトリリニアとし、降伏応力度及び引張応力度は規格下限値とし、2次勾配はE/60、3次勾配はE/1000とした(ただし、Eはヤング係数)。
【0033】
各解析モデルでは、間柱型鋼材ダンパー1、2、9の各構成要素をシェル要素としてモデル化し、初期不整には弾性固有値解析で得られた1次モード形を用いて、面外変形の最大値がH形鋼のせいの1/250となるように設定した。境界条件は、間柱型鋼材ダンパー1、2、9の下端全面を固定とし、上端全面を剛体面として、面外方向変位及び回転拘束とした。
【0034】
そして、各解析モデルの上下端にせん断力を与え、このせん断力を徐々に大きくする条件で、有限要素法による数値解析を行った。
【0035】
図7に、上述の数値解析により計算された、せん断パネルの荷重-変形関係を、本発明例1、2、比較例のそれぞれについて示す。
【0036】
図7に示すように、間柱型鋼材ダンパー1を構成する複数本の鋼材11のフランジ11fを、鋼材11の全長にわたって接合した比較例では、せん断パネル12の塑性化後の耐力上昇が大きくなっている。これに対し、せん断パネル12が設けられている領域でフランジ11f同士を接合しない発明例1、及びウェブ材21の間に挟まれるフランジ材22を一枚のみとした発明例2では、せん断パネル12、23の塑性化後の耐力上昇が抑えられている。このように、発明例1及び発明例2では、比較例よりも、せん断パネル12の塑性化後の耐力上昇が抑えられるので、せん断パネル12、23を大きくせん断変形させ、せん断パネルを構成する低降伏点鋼のエネルギー吸収能力を効率的に引き出す効果が得られることが確認された。
【0037】
また、図8(a)及び図8(b)に、発明例1の間柱型鋼材ダンパー1及び比較例の間柱型鋼材ダンパー9の上端の変位量が160mmとなった時点における、間柱型鋼材ダンパー1、9の各部位の相当塑性ひずみ分布をそれぞれ示す。
【0038】
図8に示すように、発明例1では、比較例よりも、せん断パネル12が塑性化した後の、せん断パネル12の上下のウェブ11wのひずみが小さくなっている。すなわち、比較例では、せん断パネル12が設けられている領域でもフランジ11f同士が接合されて、せん断パネル12に隣接するフランジ11fの曲げ剛性が大きくなり、せん断パネル12が隣接するフランジ11fによって拘束され、せん断変形が妨げられている。これに対し、発明例1では、せん断パネル12が設けられている領域ではフランジ11f同士が接合されていないため、せん断パネル12に隣接するフランジ11fの曲げ剛性の上昇が抑えられ、せん断パネル12が隣接するフランジ11fにより拘束されにくい。よって、せん断パネル12がせん断変形しやすくなり、せん断パネル12を構成する低降伏点鋼のエネルギー吸収能力を効率的に引き出すことができることが確認された。
<実施例2>
上述の実施例1で、第一の実施形態の間柱型鋼材ダンパー1と同様の構成を有する発明例1において、H形鋼11のフランジ11fの厚さを19mm、22mm、25mm、28mmの4種類に変更した解析モデルNo.1~No.4を設定した。また、実施例1の比較例において、H形鋼11のフランジ11fの厚さを19mm、22mm、25mm、28mmの4種類に変更した解析モデルNo.5~No.8を設定した。
【0039】
そして、これら解析モデルNo.1~No.8について、実施例1と同様の方法で数値解析を行い、各解析モデルNo.1~No.8のせん断パネル23に発生するせん断力Q(N)を計算した。
【0040】
図9に、各解析モデルNo.1~No.8のせん断力Qを、これら解析モデルNo.1~No.8においてH形鋼11のフランジ11f同士11fの接合をその全長にわたって全く行わなかった場合について同様に計算して得られるせん断力Q(N)に対する比Q/Qとして示す。また、せん断変形角が0.02radの時点における、各解析モデルNo.1~No.8のQ/Qの値を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
図9および表1に示すように、実施例1の比較例と同様に、複数本の鋼材11のフランジ同士11fの接合が、せん断パネル12が設けられている領域でも行われている解析モデルNo.5~No.8のうち、フランジ11fの厚さを22mm、25mm、28mmとした解析モデルNo.6~No.8では、せん断パネル23の塑性化後のQ/Qの値が、1.1を大きく超えている。せん断変形角が0.02radの時点における、各解析モデルNo.6~No.8のQ/Qの値は、それぞれ1.122、1.136、1.149となっており、せん断パネル12の塑性化後の耐力上昇が十分に抑えられていない。
【0043】
一方、解析モデルNo.6~No.8と同様に、複数本の鋼材11のフランジ同士11fの接合が、せん断パネル12が設けられている領域でも行われているが、フランジ11fの厚さを19mmとした解析モデルNo.5では、せん断パネル23の塑性化後のQ/Qの値が、1.1程度に抑えられている。せん断変形角が0.02radの時点における、各解析モデルNo.5のQ/Qの値は、1.086となっており、せん断パネル12の塑性化後の耐力上昇が抑えられている。
【0044】
また、解析モデルNo.5においては、全長にわたって接合されている二枚のフランジ11fのフランジの厚さ19mmの合計が、実施例1の発明例2においてフランジ材22の厚さを38mmに変更したものにほぼ対応すると捉えることができる。実施例1の発明例2のように、第二の実施形態の間柱型鋼材ダンパー2と同様の構成を有する場合は、フランジ材22の厚さが38mmであれば、せん断パネル23の塑性化後の耐力上昇が抑えられることがわかる。
【0045】
また、発明例1に対応する解析モデルNo.1~No.4は全て、せん断パネル23の塑性化後のQ/Qの値が、1.1未満に抑えられている。せん断変形角が0.02radの時点における、各解析モデルNo.1~No.4のQ/Qの値は、それぞれ1.050、1.049、1.048、1.047となった。
【0046】
このうち、フランジの厚さが22mm~28mmである解析モデルNo.2~No.4では、解析モデルNo.6~No.8のようにフランジ11f同士が全長にわたって接合されていると、上述のとおりせん断パネル23の塑性化後の耐力上昇が十分に抑えられない。よって、第一の実施形態に対応する解析モデルNo.1~No.4のうち、特にフランジ11fの厚さが22mm以上である場合は、本発明の有用性が高いことがわかる。
【符号の説明】
【0047】
1、2 間柱型鋼材ダンパー
5 柱
6 上側の梁
7 下側の梁
11 H形鋼(鋼材)
11w ウェブ
11f フランジ
11o 開口部
12 せん断パネル
13 高力ボルト
14 スチフナ
21 ウェブ材
21o 開口部
22 フランジ材
23 せん断パネル
24 スチフナ
31 添接板
32 高力ボルト
61、71 取付部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9