(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】バルブ用アクチュエータとこれを備えたダイヤフラムバルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 31/122 20060101AFI20230414BHJP
F16K 7/16 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
F16K31/122
F16K7/16 B
F16K7/16 E
(21)【出願番号】P 2021198767
(22)【出願日】2021-12-07
(62)【分割の表示】P 2017015741の分割
【原出願日】2017-01-31
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501417929
【氏名又は名称】株式会社キッツエスシーティー
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】高 朝克図
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5215286(US,A)
【文献】特開2011-163372(JP,A)
【文献】特開2004-183786(JP,A)
【文献】実公平7-50619(JP,Y2)
【文献】特開平4-248084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/122
F16K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のベースとケーシングからなるアクチュエータ本体内に設けた弾性部材と、この弾性部材により付勢されたピストンとエア圧により前記ピストンを動かすためのエア室を配置し、前記エア室に倍力機構を収容し、この倍力機構で弁閉方向に増幅された力を発揮させるバルブ用アクチュエータであって、前記倍力機構は、対向配置させた一対の支持部を環状部に一体形成してホルダを構成すると共に、一対のカム部材の端部を1本の揺動軸で軸着し、かつ前記揺動軸の両端を前記ホルダの前記支持部にそれぞれ回転可能に支持させて前記倍力機構を構成し、
前記アクチュエータ本体内に組み込まれた前記倍力機構は、前記倍力機構の前記環状部を前記ベースの底部に収納載置させ、前記ケーシングに設けたオネジ部を前記ベースに設けたメネジ部に螺着する締付力で前記ホルダの前記環状部を前記ケーシングの下端部で押圧して前記ベースの底部と前記環状部との間に挟着固定することにより、前記エア室内に収納固定したものであることを特徴とするバルブ用アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1項に記載のバルブ用アクチュエータを備え、出力部材を介してボデー内に設けた弁座シートにダイヤフラムを押圧して弁閉するようにしたダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ用アクチュエータとこれを備えたダイヤフラムバルブに関し、特に高圧流体に対しても高いバルブ閉止性を発揮しつつバルブ構造全体の小型化に極めて好適に構成されたバルブ用アクチュエータとこれを備えたダイヤフラムバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体製造プロセスにおけるガス供給系の制御弁等としては、いわゆるダイレクトタッチ型のダイヤフラムバルブの使用が主流である。ダイレクトダイヤフラムバルブは、外部に対する封止材として使用される金属ダイヤフラムで直接シートの閉止も行い、接ガス部に余分な部品を持たない非常にシンプルな流路を構成することができるので、接ガス部内に金属同士の摺動箇所がなく流体のクリーン化に最適な構造とされていることなどがその利点とされる。ただし、確保できるストロークに限度があり、ベローズバルブなど他の弁種と比べて、構造的に大流量は確保し難い。
【0003】
上記のような半導体製造プロセスに用いられるダイヤフラムバルブには、自動制御等のため、エア駆動アクチュエータが備えられる場合が多い。エア駆動アクチュエータはクリーン性やコスト性等に極めて優れ、半導体製造装置に用いるものとして極めて好適であると共に、機器類の集積化する必要があることから、通常は、矩形状に形成されたバルブボデーが占有するコンパクトなフットプリント領域に応じて、この領域内に収まるようにコンパクトに小型化されていることが要求される。特に、配管が継手を介さずベースブロックとしてブロック化された集積化ガスシステムでは、アクチュエータは、ベースブロック上部にインターフェースを介して着脱自在に取り付けられることで、無駄なスペースをほとんど生じることなく機器ごとの高いメンテナンス性も発揮され、多くの場面で使用されている。
【0004】
さらに、半導体素子などの高度に精密な機器を高品質に製造するためには、上記のようなガス供給系などの半導体製造プロセス設備は、いわゆるクリーンルーム内に全て収容されている必要がある。クリーンルームは、浮遊粒子・微生物が所定の清浄度レベルに管理(コンタミネーションコントロール)されると共に、搬入される材料、薬品、水などのほか、入室する作業者にも所定レベルの清浄度が確保され、必要に応じて温度、湿度、圧力などの環境条件も管理可能な密封空間であり、クリーンルームの導入に際しては、容積に応じて増大する初期設備費のほか、維持管理や常時運転のためのランニングコストが必要であり、生産設備費として大きな負担となる。このため、クリーンルームの導入においては、用途に応じて最適・最小限であって無駄を生じないような容積・構成に設計・施工されなければならない。
【0005】
一方で、近年はスマートフォンなど、半導体を搭載する機器の更なる高性能化や省電力化、パフォーマンス向上等への需要が益々高まり、これに伴って半導体素子には益々微細化・高集積化が要求されると共に、半導体製造プロセスの多様化が著しく進展してきている。このため、製造プロセスに使用される各種のプロセスガスにおいても、個々の用途に応じて高温化・高圧化などを伴うほか、特に、シリコンウェハーの大径化や液晶パネル等の大型化、或は生産システムの大型化や特別なガス供給方式への変更などに応じて、供給流量の更なる増加(ハイフロー)が基本的な需要となってきている。このため、供給ガスの制御弁として使用される上記のようなダイヤフラムバルブにも、個々の用途に最適なバルブ開発が必要とされ、特に大流量化(Cv値の増大)への要求は益々高まっている。
【0006】
ガス供給系或は半導体製造装置は、クリーンルーム内にすべて収容される一方で、クリーンルームは、必要最小限の容積にコンパクトに最適化されなければならないことから、ガス供給系に用いられる上記のようなバルブにも、益々小型化・コンパクト化されることが要求されることになる。このため、上記のようなダイヤフラムバルブには、小型化とハイフロー化との両立が要求がさらに高まっている。さらに、プロセスガスの多様化やハイフロー化の要請と相俟って、高圧対応への要求も高まっている。
【0007】
ここで、アクチュエータを備えたダイヤフラムバルブにおいて、スプリングでアクチュエータのピストンを付勢し、この付勢力でダイヤフラムをシートに着座させてバルブを閉止するタイプがあるが、上記のようにハイフロー化や高圧対応のため、さらに大きな閉止力が必要となってくるにもかかわらず、バルブの小型化に伴って、アクチュエータのスプリングの小型化が避けられず、スプリングの付勢力が低下してバルブの閉止力が低下する問題が生じる。バルブの閉止力が損なわれると、プロセスガスの精密な流体制御が損なわれて製品品質に重大な欠陥を生じかねず、また、プロセスガスは人体への有害性も高いので、僅かな量のリークでも大きな問題となるおそれがある。さらに、バルブの小型化により設置面積が限定されると、適用可能なスプリングとして、線径やスプリング径が小さい所定のものに限られ、1つのスプリングに加わる応力が上がってスプリングの耐久性にも問題が生じる。
【0008】
上記のようなバルブにおいて閉止力を維持乃至増大させるために、例えば、複数のピストンを多段構成してエア室とスプリングを縦方向に交互に形成する構造も考えられるが、この場合は、アクチュエータが高さ方向に伸びることでバルブが大型化する問題がある。
【0009】
ダイヤフラムバルブは上記のように他の機器類と共に集積化され、しかも通常は複数箇所に設けられるので、これを大型化すると設置面積や高さも増大し、クリーンルーム内における半導体製造装置の占有スペースも増大し、延いてはクリーンルームの大型化等により半導体の製造コストの増加などの問題をもたらす。特に、バルブサイズの横幅方向への増大は、フットスペースの増加となり、コンパクト且つ最適なスペースの充填を図るガス供給系の設計にあたって致命的な欠陥となり、また、高さ方向への増大も、周囲に配置される他の機器・装置との干渉や必要スペースの確保の障害などのおそれから問題となる。よって、バルブサイズが横方向や縦方向に増大することが避けられない構造は、採用し難いものとなる。
【0010】
その他、例えば、1つのピストンに対してスプリングを2重に設ける構造も考えられるが、この場合は、構造的に小型化に限界があり、バルブを適切に小型化できない問題を有している。さらに、上記のようなピストンやスプリングを多数用いた構造の場合、多数の部品を介した連動によりダイヤフラムを付勢するので、部品ごとの状態のバラツキなどによりバルブの閉止力が不安定化し易すくなり、精密な流体制御機能が損なわれるおそれがある。
【0011】
そこで、バルブを適切に小型化すると同時に、スプリングの付勢力を維持乃至増大させて十分なバルブ閉止力を確保するため、簡易に構成された倍力機構の採用が考えられる。この種の先行技術としては、特許文献1~3が提案されている。
【0012】
特許文献1に示される制御器においては、ケーシングは、上向きに開口した中空状の下部ケーシングと下向きに開口した中空状の上部ケーシングとよりなり、これらの突き合わせ部分の内周には、仕切りプレートが固定され、ケーシング内の仕切りプレート上方に水平断面円形のシリンダ室が、同下方に水平断面方形の動力増幅装置収納室がそれぞれ形成されている。また、動力増幅手段は、所定構造の先細りテーパ状部材と、円盤状部材と、テーパ状部材を介して対向するように配置されかつ下部を貫通する揺動軸の回りに揺動可能とされた第1及び第2の揺動体とを備えている。また、各揺動体の下当接面は、揺動軸の軸線から偏心した位置にある中心線を中心とする円弧状のカム面とされている。さらに、第1及び第2の揺動体は、その下部同士が重ね合わされており、両者の揺動軸が共通とされた形態が示されている。
【0013】
特許文献2には、熱負荷や繰り返し作動に対してもシール部の耐久性に優れたアクチュエータが示されており、ピストンの移動方向と逆に軸を移動させるカムが内蔵されている。具体的には、ステムの他端に結合された軸にはフランジが設けられ、このフランジに、ボンネット上の等角三方位置にピンにて回動可能に設けられたカムの一端が係合し、カムの他端にはローラが設けられてピストン下面に当接している。空気室に高圧空気が導入されると、ベローズの伸長と共にピストンが下へ押し出され、これによりカムの他端のローラが押されてピンを中心に回動し、この回動と共にカムの一端がフランジを押し上げて軸をピストンの押出方向とは逆の方向に移動させるようになっている。
【0014】
特許文献3には、同文献の
図1、2において、動力倍増機構(116)の構造が示されており、底壁(86)に対称的に連結された一対のサポート部材(124,126)の間を交差するように設けられた2本のピン(122,128)に、それぞれ棒状のレバー(118,120)が回動可能に設けられており、2本のレバー(118,120)は、各上端が擦り板(130)を介してピストン(98)に当接して摺動可能となっており、また、下端位置となる各中間部(134,136)が、いわゆるカム面となって受圧板(140)上面に当接して摺動可能に構成されている。
【0015】
この構成により、同文献の
図1、2において、スプリング(110,112)に押し下げられたピストン(98)の動力は、2本のレバー(118,120)の梃子の原理により増力され、受圧板(140)を介してロッド(78)に伝えられ、バルブを閉止するようになっている。開弁の際は、エア供給源(94)からのエアが流路(92,104)を介してチャンバー(106)下部に形成された密封空間に供給され、この密封空間の昇圧によりピストン(98)が押し上げられる。
【0016】
また、同文献の
図1、2において、ロッド(78)は、上端の球状ヘッド(142)が受圧板(140)下側に開口したテーパ部(144)に係合し、肩部(156)には、昇動をサポートする圧縮バネ(154)が係合しており、さらに、底壁(86)の下方に設けられた頸部(148)との間のシール部材として、上下摺動可能にシールリング(150)が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特許第4529023号公報
【文献】特開平9-26052号公報
【文献】米国特許登録第5253671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1は、ケーシング内に仕切りプレートを介してシリンダ室及び動力増幅装置収納室が縦方向にそれぞれ直列に積載されているから、縦方向へのバルブの大型化が不可避な構造となっている。また、動力増幅手段の構成も、揺動体の円弧状を呈する上当接面が、バルブの軸心位置付近に設けられる作動軸の下端に一体に設けられて垂直下方に伸びる先細りテーパ状部材と摺動することで、ピストンからの動力を倍力するように構成されているから、常に長尺状の板状本体が縦方向に立設した姿勢を維持しなければならず、やはり全体としてバルブの高さ方向に長くならざるを得ない。さらに、この動力増幅手段の構造は、テーパ状部材や所定構造の揺動体など、過度に複雑化しており、全体として小型化に不向きである。
【0019】
特許文献2に示されるような倍力機構は、複数の板状のカムが水平方向に倒れた姿勢で互いにバルブの軸心対称的に対向配置され、この状態でカムがピンの回りを僅かに回動してピストンからの動力を倍力するように構成されているから、これら複数のカムを収容するためには、アクチュエータ内部に横方向へ広い収容スペースを確保しなければならず、実際にカム機構はハウジング他端側の大径部に収容されており、やはりバルブの小型化に不向きな構造と言える。さらに、カム機構はピストンを介して大径部内に空気室と縦方向に連設されているから、縦方向にもバルブサイズが増大し易くなっている。
【0020】
一方で、特許文献3においては、先ず、エアが供給されるエア室となる密封空間は、チャンバー下部に唯一設けられているのみである。また、同文献のアクチュエータの構造では、エア室の容積を増大させたり個数を増設したりすることに関して全く言及はなく、よって、単独のエア室構造が前提である。これに対し、弁開の際にピストンを押し上げるエア圧は、エア室の成る空間の容積に応じて増大するから、同文献のようにエア室が単独構造の場合、特にアクチュエータを小型化した場合においては、十分なエア圧を確保できずバルブの良好な開弁性が損なわれるおそれがある。
【0021】
次に、同文献の倍力機構は、2本のレバーを、それぞれのピンに枢着しているから、構造が複雑化していると共に、アクチュエータに収容するスペースとして広い容積を確保しなければならず、コスト性、生産性や耐久性・メンテナンス性に関して不利であるほか、特に小型化の観点から採用し難い構造である。特に、アクチュエータの横幅方向に大きな収容スペースが不可欠となり小型化に制限が多くなっている。また、2本のレバーの中間部が受圧板と作用する位置(カム面の当接位置)は、ロッドが配置されているバルブの軸心位置から大きく離れた受圧板の周縁端部位置附近となっており、しかも、受圧板とロッドとは別部材であると共に、当接する領域も小さい。このためレバーからロッドへの力が伝わり難くなり、また、力の伝達が不均一且つ不安定化しやすく、よって、特に高圧の場合において、バルブの良好な閉止性が得られなくなるおそれがある。
【0022】
また、同文献に示される構造の場合、エアがチャンバー下部の密封空間に供給された際、底壁の開口面積に応じた内圧をロッドが受圧するため、エア供給に伴いロッドが下降させられてダイヤフラムが押され、バルブが適切に開かないおそれがあるが、この点に関する考慮、或は記載・示唆は一切認められない。さらに、ロッドにはシールリングや肩部を付勢する圧縮バネが設けられ構造が複雑化していると共に、小型化に際しては全く不適切な構造である一方で、これらを有しない簡易な構造としたような場合は、開弁力が不足するおそれがあるが、このような点に関しても一切言及はない。また、ピストンを付勢するスプリングが2重に設けられている点も、小型化に不適切である。
【0023】
さらに、2本のレバーの上端は擦り板と摺動し、受圧板もロッド上端のヘッドと摺動する。このため、部材間の大きな摩擦力により、力の伝達が損失すると共に、部材が損傷し易いことから耐久性悪化・寿命低下を招き、また、摺動による発塵によりエアが汚染される問題もある。また、このような別体で複雑な構造は、小型化に全く不適格な構造である。さらに、2本のレバーの上端とピストンとの2か所の当接位置は、ピストンの平面視において左右非対称となり、また、当接領域も小さい。このため、ピストンがスプリングと2本のレバーの当接箇所から受ける合力が偏ってチャンバー内周面からずれ易くなり、ピストンの変形や損傷、或はシール性が損なわれて開弁性が悪化するおそれがあると共に、多数の開閉動作に対する耐久性も疑わしく、また、小さな当接領域に力が集中して摺動により発塵・損傷も生じやすい。
【0024】
そこで、本発明は上記問題点を解決するために開発されたものであり、その目的とするところは、簡易な構造であって容易に小型化可能であり、且つ、高圧においても確実なバルブの開閉性を備え、しかもバルブの開閉頻度が多くても高い耐久性を発揮できるバルブ用アクチュエータとこれを備えたダイヤフラムバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、筒状のベースとケーシングからなるアクチュエータ本体内に設けた弾性部材と、この弾性部材により付勢されたピストンとエア圧によりピストンを動かすためのエア室を配置し、エア室に倍力機構を収容し、この倍力機構で弁閉方向に増幅された力を発揮させるバルブ用アクチュエータであって、倍力機構は、対向配置させた一対の支持部を環状部に一体形成してホルダを構成すると共に、一対のカム部材の端部を1本の揺動軸で軸着し、かつ揺動軸の両端をホルダの支持部にそれぞれ回転可能に支持させて倍力機構を構成し、アクチュエータ本体内に組み込まれた倍力機構は、倍力機構の環状部をベースの底部に収納載置させ、ケーシングに設けたオネジ部をベースに設けたメネジ部に螺着する締付力でホルダの前記環状部をケーシングの下端部で押圧してベースの底部と環状部との間に挟着固定することにより、エア室内に収納固定したものであるバルブ用アクチュエータである。
【0026】
請求項2に係る発明は、バルブ用アクチュエータを備え、出力部材を介してボデー内に設けた弁座シートにダイヤフラムを押圧して弁閉するようにしたダイヤフラムバルブである。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載の発明によると、倍力機構を、エア室内に収納するようにして構成したから、エア室及び倍力機構の両者に要する占有スペースが一体化される。よって、十分なバルブの閉止力を確保しつつアクチュエータを大幅に小型化することができる。しかも、環状部とこれと一体に設けた支持部を確実にかつ簡易に挟着固定できるので、アクチュエータ自体をコンパクトに形成することができると共に、倍力機構を高精度に収納保持できるため、安定した状態で、駆動できるばかりでなく、全体的なコンパクト性にも寄与し得るバルブ用アクチュエータの提供が可能となる。
【0028】
請求項2に記載の発明によると、十分に小型で簡易構造であると共に、十分な弁閉力が確保されたアクチュエータを備えることで、十分に小型、かつ、簡易構造により高い生産性・メンテナンス性・使用性を備えたダイヤフラムバルブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本例のバルブ用アクチュエータを備えたダイヤフラムバルブの断面図であり、中央線左側は全閉状態を、右側は全開状態をそれぞれ示している。
【
図2】
図1においてA-A線断面を模式的に示した模式断面図である。
【
図3】
図2におけるB-B線断面に対応する本例の倍力機構の半割構造を、模式的に示した模式斜視断面図である。
【
図4】本例のカム部材による倍力作用を模式的に説明した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態の構造を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態(本例)のバルブ用アクチュエータと、これを備えた状態の本例のダイヤフラムバルブの断面図であり、同図中央線の左側半分は本例のバルブの全閉状態を、右側半分は本例のバルブの全開状態をそれぞれ示している。
【0031】
図1において、本例のバルブ用アクチュエータは、アクチュエータ本体100内に設けた弾発部材8(スプリング8)により付勢されたピストン2と、エア圧によりピストン2を動かすための少なくとも2つのエア室3(3a、3b)とを配置すると共に、弁閉方向に増幅された力を発揮させるための倍力機構1を、何れかのエア室3に収納したエア駆動アクチュエータである。
【0032】
カバー4は、外観略円筒形状を呈し、軸心位置には、外部に設けられた図示しないエア源と接続するための接続部5が設けられ、これに繋がる流路5aが形成されており、さらに、これに繋がるピストン2と嵌合可能な嵌合部10が設けられている。カバー4の下端部には、ケーシング6のメネジ部7と螺着可能なオネジ部9が設けられている。また、カバー4の内部には、スプリング8を付勢するための受け部11が凹設されている。
【0033】
ケーシング6は、カバー4と略同径の円筒状の外観に形成されており、上端部に前記したメネジ部7が形成され、下端部には、ベース12のメネジ部13と螺着可能なオネジ部14が形成されている。メネジ部13とオネジ部14との間をシールするため、Oリング15が介装されている。また、ケーシング6の内周面には、サブベース16と係合する段部17が形成されている。
【0034】
ベース12は、上部がケーシング6と略同径の筒状に形成され、下部は上部より段状に縮径するように形成されていると共に、ボデー18のメネジ部19と螺着可能なオネジ部20が形成されている。また、中央の軸心位置には、出力部材21(ディスク部材21)と嵌合して取り付け可能な取付穴22が開口しており、この取付穴22の内周面には、Oリング23が設けられている。
【0035】
ボデー18は、入口流路24と、これに傾斜して繋がる1次側流路25が刻設され、この1次側流路25は、上向き方向に屈曲して開口部26(弁口)を介して2次側空間27(弁室)に連通している。開口部26の周縁部には、PCTFE製の弁座シート28が固着されており、上面にはダイヤフラム29の下面が可撓変形して密着(着座)可能となっている。2次側空間27は、断面略長方形状であり、深い環状溝形状となるように形成されており、コンパクトに形成された外観略直方体形状のボデー18の内部において、この2次側空間27のように、なるべく大容量かつ低い流体抵抗となるように流路空間が確保されていることで、高いCv値が実現できる。また、2次側空間27の一部が、直線状に形成された出口流路30に開口して連通している。
【0036】
ダイヤフラム29は、略円形状に形成され、本例では、9枚のCo合金製ダイヤフラムを重ねて構成している。ダイヤフラム29の周縁部は、2次側空間27の外周部に形成された凸部31と、ボンネット32の下面との間に挟着固定されてバルブの弁室を構成している。
【0037】
ボンネット32は、略筒状に形成されており、本例のバルブの組立の際においては、ベース12とボデー18との間に設けられ、メネジ部19をオネジ部20に螺合する際の締付力によりベース12の下端面がボンネット32を押圧し、この押圧力によりボンネット32の下面と凸部31との間にダイヤフラム29の周縁部が挟着されて弁室内に固定される。また、ボンネット32の内周面は略同一径に形成された筒状空間となっており、この内周面には、略円柱形状のダイヤフラムピース33が、この内周面とほぼ抵抗なく摺動可能に嵌合している。また、ダイヤフラムピース33の上面は、取付穴22に嵌合したディスク部材21の下端面が当接可能に設けられている。
【0038】
本発明のアクチュエータは、少なくとも2つのエア室を備えており、小型化に伴うエア駆動力(開弁力)不足を解消している。この複数のエア室の構成は実施に応じて任意に選択可能であるが、本例では、
図1、3に示すように、ピストン2をコンパクトに2段構成とすると共にケーシング6内周面の段部17にサブベース16を配置した構成により、供給エアによりこのピストン2を動かすためのエア室3を、2つに増設している。
【0039】
具体的には、ピストン2は、平行に2枚が張り出した円形フランジ状のピストン部2a、2bと、これらの中心軸位置を繋ぐ筒状の延部2c、2dを有しており、延部2cの内部には外部に開口して供給エアを導通する流路34が形成され、この流路34と連通して、延部2dにも横方向に開口した流路35と縦方向の流路36が形成されており、この流路36はピストン2の外部に開口している。
【0040】
ピストン2は、ピストン部2aと延部2d、及び、ピストン部2bと延部2cを、それぞれを一体に形成し、これら2つの部材を組み合わせて構成するようにしている。具体的には、ピストン部2aと延部2cの場合は、円盤状のピストン部2aと内部に流路36を有する円柱状の延部2dとを傘状に一体形成し、延部2dの円形端面に中心位置となる流路36の開口部を通るように溝を切り欠いて流路35を形成しており、ピストン部2bと内部に流路34を有した延部2cも同様に傘状に一体形成される。その後、流路35を切り欠いた延部2dの端面を、流路34、35が互いに連通するようにピストン部2bの中心位置に組み合わせ、2つの部材からピストン2が構成するようにしているが、単一の部材からピストン2全体を一体に構成するようにしてもよい。
【0041】
また、ピストン部2a、2bの外周縁部には、Oリング37、38がそれぞれ設けられ、ケーシング6の内周面との間を摺動しつつシール可能となっている。ピストン部2a、2bの外径は、ケーシング6の段部17より上側の内径と下側の内径にそれぞれ適合しており、後述のように、エアの給排に応じて、エア室3a、3b内の密封性を維持したままピストン2のアクチュエータ本体100内におけるバルブストローク動作を可能としている。
【0042】
上記の構造により、本例のアクチュエータの組立が完了した際は、ピストン部2aの下面側とベース12の内周面との間に形成される密封空間は、流路36からの供給エアが導入される第一のエア室3aとなり、ピストン部2bの下面側とサブベース16の上面側との間に形成される密封空間は、流路35からの供給エアが導入される第二のエア室3bとなる。このようにして、本例ではエア室3を第一のエア室3aと第二のエア室3bとの2つに増設している。このようなピストン2とケーシング6との構成によりコンパクトに複数のエア室を設けたから、本例では、アクチュエータ本体100の過度な大型化や部品点数の増加を回避しつつ、確実なエア駆動力が確保可能となる。なお、アクチュエータ本体100の高さが条件に許容される限りの範囲において、例えばケーシング6を長く設けてピストン2を3段以上の構成としてもよい。
【0043】
図1、3において、ディスク部材21は、後述のカム部材42、43のカム面42b、43bとそれぞれ当接する略円板状の大径部39と、アクチュエータ下部のベース12に形成された取付穴22に嵌合可能な略円筒状の小径部40とから成り、本例ではこれらを一体形成している。具体的には、
図1に示すように、本例のアクチュエータに内蔵されたディスク部材21は、小径部40が取付穴22に上下摺動自在に嵌合しており、大径部39の周縁部は、ベース12の内部底面に形成され大径部39の形状と適合するように形成された段部面41に、上下動自在に係合している。なお、本例のディスク部材21の材質は、機械構造用鋼(S45C-H HRC40)にMoS2コーティング処理(膜厚約10μm)を施した素材を使用している。
【0044】
取付穴22内周面には、Oリング23を装着して小径部40との間をシールするようにしている。本例の作用において後述のように、ベース12は静止側部材となると共にディスク部材21は可動側部材となるので、シール部材をベース12側に設けるとベース12の底部の厚みを小さくすることができるので、バルブの小型化に好適である。
【0045】
図1において、本例の倍力機構1は、一対のカム部材42、43を、共通の1本の揺動軸44(カムシャフト)に枢着すると共に、この一対のカム部材42、43を第一のエア室3aに収納するようにして構成し、これらカム部材42、43は、上端部にはピストン2と当接する当接部42a、43aがそれぞれ設けられ、一方、下端部にはディスク部材21と当接する凸状のカム面42b、43bがそれぞれ形成されている。なお、47a、47bは、
図1~3を用いて後述するホルダ47の構成部材である。
【0046】
当接部42a、43aには、ローラ部45、46がそれぞれ設けられている。ローラ部45、46は、ローラ45a、46aがそれぞれローラシャフト45b、46bに回動自在に設けられており、本例では、これらのローラ45a、46aがピストン部2aの下面に対して転動可能に当接していることで、当接部42a、43aが構成されている。なお、当接部は、上記のようなローラ部を設けず、例えば後述の
図4に模式的に示すように、カム部材の上端部に略円弧形状の円弧部を形成して、この円弧部が直接ピストンの下面に当接・摺動するように構成してもよく、このような場合は、アクチュエータの部品点数を削減して簡易に構成できる。
【0047】
図2、3は、本例の倍力機構1の構造を模式的に示しており、
図2は、
図1におけるA-A線断面から倍力機構1を見た場合の模式断面図である。
図3(a)、(b)の何れも
図2に示したB-B線断面に対応した倍力機構1の模式図であり、アクチュエータ内部において周辺に配置される部材の一部と共に構造を説明した斜視断面図である。
【0048】
図2、3に示すように、一対のカム部材42、43は、1本の揺動軸44に、ヒンジ状に枢着しており、カム部材42は二股のコ字状に形成された2本の軸着部60、60で軸着しており、これらの軸着部60、60の間で、カム部材43の1本の軸着部61が軸着している。このため、
図2に示すように、カム部材42のカム面42bがディスク部材21と当接する領域は、アクチュエータの平面視において領域42c付近となり、カム部材43のカム面43bがディスク部材21と当接する領域は、同図において領域43c付近となる。同様に、カム部材42(ローラ45a)がピストン2a部下面と当接する領域は領域42d付近となり、カム部材43(ローラ46a)がピストン部2a下面と当接する領域は領域43d付近となる。
【0049】
図2に示すように、3箇所の領域42c、43cは、ディスク部材21の軸心位置(小径部40)に近い位置となっており、しかも同図において上下に略対称位置となっているから、カム面42b、43bから受ける押圧力が均等にディスク部材21に伝わると共に、小径部40に直接伝わりやすく、このため、力の伝達が極めて良好となる。また、2箇所の領域42d、43dは、同図において左右に略対称位置となっているから、ピストン部2a下面がカム部材42、43から受ける反力が均等になり、ピストン2に無理な偏芯力が作用することがない。
【0050】
図3に示すように、揺動軸44の両端部は、対向した支持部47bの内側面にそれぞれ挿入されて回動可能に固定されている。
図1、3に示す本例のホルダ47は、ベース12の低側面に適合するように環状に形成された環状部47aと、この環状部47aの内周側にそれぞれ一体形成され対向配置された2つの支持部47bとから成り、本例のアクチュエータ本体100を組み立ての際は、環状部47aは、ベース12の底面に載置された状態で、ケーシング6のオネジ部14をベース12のメネジ部13に螺着していく際の締付力によりケーシング6の下端部に押圧されてベース12の底面との間に挟着されて固定される。
【0051】
続いて、
図1に示す本例のバルブ用アクチュエータとこれを備えたダイヤフラムバルブの作用を説明する。同図左側は、バルブの全閉状態であり、同図右側のバルブの全開状態である。以下、全開状態において、エア室3からエアを抜いた場合の作用を説明する。
【0052】
エア室3からエアを抜いていくと、所定の圧力となっていた第1のエア室3a、第2のエア室3bの内圧は外気圧まで下がっていき、ピストン2がエア室3から受ける圧力が減少していくに伴い、スプリング8の付勢力によって下方に押し下げられていく。押し下げられたピストン2の下面は、倍力機構1の当接部42a、43aに当接しながら押圧してカム部材42、43をそれぞれ揺動軸44の回りを回動させていき、この回動に伴い、カム面42b、43bがディスク部材21の大径部39を押圧してディスク部材21を下方に押し下げていく。なお、この際の力の増幅作用は後述する。
【0053】
ディスク部材21の小径部40下端部は、ダイヤフラムピース33の上面に当接しているので、ディスク部材21の押し下げに伴いダイヤフラムピース33も押し下げられていく。ダイヤフラムピース33の下面はダイヤフラム29に当接しているので、ダイヤフラムピース33が下降すると、その下面でダイヤフラム29の上面が押圧されて可撓変形していく。ダイヤフラムピース33の下面がダイヤフラム29を下側に向けて凹ませるように変形させていき、ダイヤフラム29の下面が弁座シート28の上面に所定の圧力で圧着することにより、ダイヤフラムピース33がバルブストロークの下限位置で係止されると共に、弁室の1次側流路25と2次側空間27とが隔離されてバルブが全閉状態となる。
【0054】
次に、この全閉状態において、エア室3にエアを充填して全開状態としていく場合の作用を説明する。エア室3にエアを導入する際は、図示しないエア源から圧入されるエアは、ピストン2の延部2cに設けられた流路34を通り、次いで延部2dに設けられた流路35を通って第2のエア室3bに圧入される。同時に、延部2dに設けられた流路36を通って第1のエア室3aにも圧入される。
【0055】
ピストン2はスプリング8により下方に向けて付勢されているが、第1のエア室3aにおいては可動部材は、後述のディスク部材21を除いて、ピストン部2aのみであるから、エア室3aのエア圧が上昇していきスプリング8の付勢力を上回ると、このエア圧はピストン部2aを上に押し上げるように作用する。同様に、第2のエア室3bにおいても、サブベース16はケーシング6の内周面に固定されているから、可動部材はピストン部2bのみであり、エア室3b内のエア圧が上昇してスプリング8の付勢力を上回ると、ピストン部2bが上に押し上げられる。よって、ピストン2全体が、ケーシング6の内周面との間の密封シールを維持したまま摺動して上方に押し上げられることになる。
【0056】
ここで、ピストン2に作用するエア圧はピストン2のエア室3内に向いた面積に比例するが、本例ではエア室3を、第1のエア室3aに加えて、同一のケーシング6内部に薄く形成したサブベース16を介してコンパクトに第2のエア室3bを2段構成していることにより、アクチュエータの大型化を回避しつつ十分なピストン面積を確保している。
【0057】
一方で、ダイヤフラム29は、形状自己復帰力を有しているので、上記のようにエア室3a、3b内の昇圧に伴い、カム部材42、43の当接部42a、43aが、ピストン2による押し下げ付勢から解除されていくと、ダイヤフラム29は自己復帰反力により、自然状態である上向きに緩やかに湾曲した凸形状に復帰することが可能となり、この自己復帰により弁座シート28から離座してバルブが全開状態となる。より具体的には、この反力によりダイヤフラムピース33が押し上げられ、これによりディスク部材21も押し上げられ、これによりディスク部材21はカム面42b、43bを押し上げ、これによりカム部材42、43が揺動軸44の回りを回動することになる。
【0058】
続いて、
図4を用いて、本例の倍力機構1による力の増幅原理を幾何学的に説明する。
図4は、本例のカム部材の一方の側面視を模式的に示しており、以下の力の増幅原理は、一対のカム部材42、43の両者で共通である。
【0059】
図4において、50は本例のカム部材の形状を模式的に示しており、上端部に当接部51、下端部に凸状のカム面52が設けられている。同図の当接部51は簡略化して示しており、上記のようなローラ部を有さない単純な円弧形状であり、点Qは、この円弧の中心位置である。当接部51はピストン下面53と当接し、カム面52はディスク部材上面54と当接している。55は揺動軸であり、点Oは、その軸心位置である。また、当接部51が下面53から受ける力をFとし、当接部51は円弧形状であるから、力Fは鉛直下方の点Qの方向を向いている。同様にカム面52が上面54に与える力をNとしていると共に、当接箇所を点Pで示している。
【0060】
また、線分OPの長さをlとし、線分OQの長さをLとし、線分OPとOQの交差角度をαとしている。これらは全てカム部材の形状に固有の定数である。また、水平方向からの線分OQの傾き角度をθとしている。この場合、梃子の原理(FとNとの関係)によれば力の増幅率N/Fは以下となる。
【0061】
【0062】
本例のバルブストロークの範囲内においては、角度θの変動域は小さな範囲であるから、ほぼカム部材の形状の設定次第で、安定した倍力作用を得ることができる。
【0063】
上記構造により、弾発部材(スプリング8)により付勢されたピストン2の動力は、当接部42a、43aを力点、揺動軸44を支点、カム面42b、43bを作用点として、梃子の原理により、カム部材42、43が揺動軸44の回りを回動することによって増幅されて出力部材(ディスク部材21)に伝達され、この出力部材を介してボデー18内に設けた弁座シート28にダイヤフラム29を押圧して弁閉するようにしている。
【0064】
また、
図1に示すように、本例のアクチュエータにおいては、当接部42a、43aにローラ部45、46をそれぞれ設けている。このため、ピストン部2aの下面(当接面)に対して、これらローラ部のローラ45a、46aが、付勢されるようにして当接している。また、上記のようにバルブの開閉に伴いピストン2が昇降動した際は、これに伴いローラ45a、46aがピストン部2aの下面をほぼ抵抗なく転動し、これに伴いカム部材42、43が揺動軸44の回りを回動する。
【0065】
さらに、本例のディスク部材21の小径部40の径は、第1のエア室3a内へエアを供給した際、ディスク部材21が、供給エア圧によりエア室3a外側へ向けて押し出される圧力よりも、ダイヤフラム29の自己復帰反力に基づいてエア室3a内側へ向けて動かされる力の方が大きくなる程度の径に設定している。
【0066】
つまり、第1のエア室3aにエアを供給して内圧が上昇した際は、エア室3a内周面において可動部材は、上面となるピストン部2aの当接面と、取付穴22に嵌合したディスク部材21となるので、ピストン部2aに加えて、密封空間であるエア室3aの内圧はディスク部材21に対しても作用し、これにより、小径部40を取付穴22のOリング23に対して摺動させつつディスク部材21を下へ向けて押し下げるように作用する。よって、ダイヤフラムピース33の付勢を開放してダイヤフラム29の自己復帰反力によりバルブを開くためにエア室3aへエアを導入した際、逆にこのエア圧がディスク部材21を押圧して弁開動作を阻害するおそれがある。これは、ディスク部材21と共に倍力機構1をエア室3a内に収容することに伴う特有の問題である。
【0067】
この際、エア室3aのエア圧によってディスク部材21が押し下げられる力は、大径部39上面の受圧面積から大径部39下面の受圧面積を減じた面積、すなわち、小径部40下面の面積に、エア圧を乗じた値となる。よって、ディスク部材21の自重等を除き、原理的には、小径部40の外径(或は、これに対応する取付穴22の内径)の大きさに応じて、上記のように弁開動作に反してエア室3aのエア圧によってディスク部材21が押し下げられる力が決まることになる。
【0068】
これに対し、本例のアクチュエータでは、小径部40の外径の大きさ(取付穴22の内径の大きさ)を、ダイヤフラム29が自己復帰反力でダイヤフラムピース33を介してディスク部材21を押し上げる力の方が、上記のようにディスク部材21が押し下がる力より大きく維持されるような大きさ以下の範囲内に設定しているので、エア室3aへのエア供給に伴いバルブの良好な開弁性が阻害されることがない。
【0069】
具体的には、本例のダイヤフラムバルブにおいて、予め、ダイヤフラム29の頂部を上から押圧する力とバルブの流量との関係を調べたところ、押圧力がゼロから小さい値の範囲においては、押圧力によるダイヤフラム29の沈み込みが小さいため、バルブの流量はほぼ全開状態における流量に等しく維持されていたが、30Nを超えたあたりからダイヤフラム29の沈み込みの影響でバルブの流量が徐々に減少し始めることが判明した。また、最終的には、約500Nの押圧力でダイヤフラム29が弁座シート28に着座して完全に弁閉状態に至ることも判明した。
【0070】
このため、ディスク部材21が弁開動作の際にエア室3aに導入されるエア圧によって悪影響、すなわち下に押し下げられてしまうことでダイヤフラム29を押圧し、弁開動作の障害や流量の減少を生ずることが無いようにするためには、ディスク部材21に作用するエア圧が、最大でも30N以下となるように設定すればよいことになる。
【0071】
一方で、本例のダイヤフラムバルブのエアの最大使用圧力は、0.7MPaを想定して設計しており、ディスク部材21の小径部40の径をΦ5.2mmに設定した際、ディスク部材21に作用するエア圧による押し下げ力は約15N程度であった。よって、小径部の径をこの程度の大きさに設定しておけば、エア室3aに導入した最大エア圧がディスク部材21に作用しながら押し下げられても、ダイヤフラム29が沈み込むことが無いので、上記のような弁開動作が阻害される問題が生じる事が無い。
【0072】
また、上記のように流量低下を引き起こす力は、設計するバルブのダイヤフラムの形状や材質、厚さ及び積載枚数、また、バルブや使用流体の温度、圧力、使用するエア圧力等によって、条件が様々となるので、それぞれの条件に応じて、流量低下が発生し得る力の値を考慮して、適宜ディスク部材の大径部・小径部を設計すればよい。
【0073】
更に、本発明は、前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 倍力機構
2 ピストン
3(3a、3b) エア室
6 ケーシング
8 スプリング(弾発部材)
12 ベース
18 ボデー
21 ディスク部材(出力部材)
23 Oリング
28 弁座シート
29 ダイヤフラム
39 大径部
40 小径部
42、43 カム部材
42a、43a 当接部
42b、43b カム面
44 揺動軸
45、46 ローラ部
45a、46a ローラ
47a 環状部
47b 支持部
100 アクチュエータ本体