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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】二重特異性抗体及びその作製方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230414BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230414BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230414BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230414BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230414BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230414BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230414BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230414BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C07K16/46
C07K16/28
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/02
A61P37/02
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021547639
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2020076516
(87)【国際公開番号】W WO2020186974
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】201910209330.4
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521183028
【氏名又は名称】益科思特(北京)医葯科技▲發▼展有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】袁 清安
(72)【発明者】
【氏名】孟 ▲慶▼武
(72)【発明者】
【氏名】白 ▲麗▼莉
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 立坤
(72)【発明者】
【氏名】李 延虎
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108690138(CN,A)
【文献】特表2018-500025(JP,A)
【文献】特表2017-504328(JP,A)
【文献】特表2016-531100(JP,A)
【文献】特表2018-512863(JP,A)
【文献】国際公開第2013/188693(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD19及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)2つの完全な軽鎖-重鎖ペアであり、CD19に特異的に結合できるモノクローナル抗体単位と、
(b)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、且つCD3に特異的に結合できる2つの一本鎖抗体を含む一本鎖抗体単位と、を含み、
(1)前記2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する方式と、
(2)前記2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する方式
のいずれかの連結方式によって連結された対称構造であり、
前記一本鎖抗体の軽鎖配列が配列番号5で示され、かつ、前記一本鎖抗体の重鎖配列が配列番号6で示され、もしくは、
前記一本鎖抗体の軽鎖配列が配列番号9で示され、前記一本鎖抗体の重鎖配列が配列番号10で示され、
前記一本鎖抗体の軽鎖と重鎖で膜融合ペプチドを構成し、前記膜融合ペプチドの配列が、下記のいずれかであり、
(1)前記2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する場合、前記膜融合ペプチドの配列が配列番号16で示される;
(2)前記2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する場合、前記膜融合ペプチドの配列が配列番号17で示される;
前記モノクローナル抗体の軽鎖可変領域の配列が配列番号18で示され、重鎖可変領域の配列が配列番号19で示され、
前記リンカーのアミノ酸配列が配列番号13で示されることを特徴とする二重特異性抗体。
【請求項2】
前記二重特異性抗体が、マウス抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体または組み換え抗体であることを特徴とする請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体の軽鎖と重鎖がジスルフィド結合によって連結されており、
前記モノクローナル抗体のFc断片が、ヒトまたはヒト化抗体のFc断片であり、前記ヒトまたはヒト化抗体が、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体のFc断片が、ヒトまたはヒト化IgG4抗体のFc断片であることを特徴とする請求項3に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体の軽鎖全長の配列が配列番号3で示され、重鎖全長の配列が配列番号1または配列番号20で示されることを特徴とする請求項3に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードする遺伝子であって、
前記モノクローナル抗体の軽鎖全長のコーディング遺伝子配列が配列番号4で示され、
前記モノクローナル抗体の重鎖全長のコーディング遺伝子配列が配列番号2または配列番号21で示され、
前記2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する場合、前記一本鎖抗体のコーディング遺伝子配列が配列番号14で示され、前記2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する場合、前記一本鎖抗体のコーディング遺伝子配列が配列番号15で示されることを特徴とする遺伝子。
【請求項7】
組換えDNA、発現カセット、ベクター、宿主細胞、組換え菌または細胞株を含むことを特徴とする請求項6に記載の遺伝子を含む生体材料。
【請求項8】
前記一本鎖抗体及びモノクローナル抗体のコーディング遺伝子を含む発現ベクターを構築すること、
前記発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記二重特異性抗体を安定して発現する宿主細胞を得ること、および
宿主細胞を培養し、分離精製によって前記二重特異性抗体を得ること、
を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の二重特異性抗体の作製方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、または請求項6に記載の遺伝子、または請求項7に記載の生体材料の下記のいずれかの使用であって、
(1)CD19を発現するB細胞関連疾患を治療または予防するための医薬品の製造における使用;
(2)CD19を標的とする疾患を治療または予防するための医薬品の製造における使用;
(3)CD19発現細胞を殺傷するための医薬品の製造における使用;及び
(4)CD19及び/またはCD3の検出試薬の製造における使用;
から選択され、前記CD19を発現するB細胞関連疾患がB細胞関連腫瘍、B細胞による自己免疫疾患を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年3月19日に出願された発明の名称が「二重特異性抗体、及びその作製方法と使用」である中国発明特許第201910209330.4号の優先権を主張し、引用によりその全内容を本願に援用する。
【0002】
本発明は、バイオテクノロジー及び免疫学の技術分野に関するものであり、具体的に、CD19とCD3に結合する二重特異性抗体、及びその作製方法と使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
抗体医薬品は、細胞工学技術及び遺伝子工学技術を主体とする抗体工学技術によって作製された高分子医薬品であり、特異性が高く、特性が均一で、特定の標的に的を絞って作製できるなどの利点がある。モノクローナル抗体は、主に腫瘍の治療、免疫疾患の治療、および感染症の治療という3つの点で臨床的に使用されている。その中で、腫瘍の治療は、現在モノクローナル抗体が最も広く使用されている分野であり、現在すでに臨床試験に入ったモノクローナル抗体製品や市販されているモノクローナル抗体製品において、腫瘍の治療に使用されている製品の数はおよそ50%を占めている。モノクローナル抗体による腫瘍の治療は、疾患細胞の特異的なターゲットを対象として免疫系を刺激して標的細胞を殺傷する免疫療法であり、抗体のエフェクター機能、特に腫瘍細胞を殺傷する効果を高めるために、さまざまな方法で抗体分子を改造することが試されていて、二重特異性抗体は、抗体の治療効果を改善するための開発方向の1つであり、抗体工学研究分野のホットスポットになっている。
【0004】
二重特異性抗体(bispecific antibody、BsAb)は、2つの異なる抗原または異なるエピトープを特異的に認識して結合する人工抗体である。当該2つの抗原が異なる細胞の表面にある場合、このような二重特異性抗体は2つの抗原分子の間に橋渡しをして、細胞間の架橋を形成し、細胞を介して指向性のエフェクター機能を獲得できる。BsAbは、生物医学、特に腫瘍の免疫治療で広い応用の見通しがある。免疫治療に使用される二重特異性抗体(免疫二重抗体)は、細胞受容体抗原と結合する2つの特異的抗原結合部位を含む人工抗体であり、疾患細胞(標的細胞)と機能性細胞(免疫細胞)との間に橋渡しをして、指向性を有する免疫反応を誘起できる。BsAbで免疫細胞(例えばT細胞、NK細胞など)により腫瘍細胞を殺傷することは、現在の免疫治療の使用研究のホットスポットとなり、その作用メカニズムは、BsAbが腫瘍関連抗原と免疫エフェクター細胞上の標的分子に同時に結合し、免疫細胞を活性化させるとともに、免疫エフェクター細胞が腫瘍細胞を特異的に殺傷するよう直接誘導することである。
【0005】
二重特異性抗体は、様々な手段により入手でき、その作製方法として主に化学的カップリング法、ハイブリッドハイブリドーマ法、および組み換え抗体の作製方法がある。化学的カップリング法は、化学的カップリングによって2つの異なるモノクローナル抗体を連結し、二重特異性モノクローナル抗体を作製するものであり、これが最初の二重特異性モノクローナル抗体である。ハイブリッドハイブリドーマ法は、ハイブリドーマ融合法またはトリオーマ法により二重特異性モノクローナル抗体を産生し、これらのハイブリドーマ融合法またはトリオーマは、構築されたハイブリドーマの融合、または作り出されたハイブリドーマとマウスからのリンパ球との融合により得られるものであり、マウス由来の二重特異性抗体の生産のみに使用できるため、その使用は大幅に制限されている。分子生物学技術の急速な発展に伴い、遺伝子工学におけるヒト化または全ヒト二重特異性抗体の複数種の構築法が現れ、主に二重特異性ミニ抗体、二本鎖抗体、一本鎖二価抗体、および多価二重特異性抗体という4種類を含む。現在、世界で複数種の遺伝子操作された二重特異性抗体医薬品が臨床試験段階に入っており、そして良好な応用の見通しを有することが示されている。
【0006】
T細胞表面におけるCD3分子は、δ、ε、γ、ζという4つのサブユニットから構成されたものであり、それぞれの分子量が18.9kDa、23.1kDa、20.5kDa、18.7kDaであり、それぞれの長さが171、207、182、164個のアミノ酸残基である。それらは、6本のペプチド鎖を形成し、さらにT細胞受容体(T cell receptor、 TCR)と密接に結合して8本のペプチド鎖を含むTCR-CD3複合体を形成し、その構造模式図を図1に示す。この複合体は、T細胞の活性化、シグナル伝達、TCR構造の安定化といった機能を有する。CD3の細胞質ドメインには免疫受容体チロシン活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif、ITAM)が含まれ、TCRが、MHC(major histo-compаtibility complex)分子によって提示されたペプチド抗原を認識して結合するため、CD3におけるITAMの保存配列内のチロシン残基が、T細胞内のp56lckチロシンキナーゼによりリン酸化され、SH2(Scr homology2)ドメインを含有する他のチロシンキナーゼ(例えばZAP-70)を動員する。ITAMのリン酸化及びZAP-70との結合は、T細胞の活性化シグナル伝達プロセスの初期段階での重要な生化学反応の1つである。このため、CD3分子の機能は、TCRを介した抗原認識による活性化シグナルを伝達することである。
【0007】
CD19はB4またはLeu-12とも呼ばれ、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのメンバーに属し、その分子量が95kDaであり、16番染色体の短腕に位置し、15個のエクソンを含み、556個のアミノ酸からなるI型膜貫通糖タンパク質をコードし、免疫グロブリン遺伝子に組換えが起こる場合、最初に後期前駆B細胞と初期プレB細胞に発現する。CD19は、B細胞から形質細胞に分化するまで、B細胞の発生及び成熟過程に渡って高発現し、その後発現量が低下していき、その成熟B細胞における発現レベルは未熟な細胞の3倍である。
【0008】
CD19は、B細胞受容体(B cell receptor、 BCR)依存性や非依存性シグナルを同時に調節することにより、B細胞シグナル閾値を決定し、B細胞の発生、増殖、および分化の制御において重要な役割を果たす。CD19は、成熟B細胞の表面多分子複合体の主な構成要素として、受容体CD21(CD2)、CD81(TAPA-1)及びCD225とともに複合体を形成し、内因性および受容体を介して誘導されるシグナルを調整することにより、B細胞の分裂及び分化を開始させるのに必要な抗原濃度の閾値を下げる。CD81は、シャペロンとして、シグナル伝達経路の分子結合部位を提供し、CD19の発現を制御する。CD19は、Srcファミリーのチロシンキナーゼを動員して活性化を増幅することにより、チロシンキナーゼ(PTK)を活性化させ、BCRシグナルを活性化させる。同時に、BCRシグナルが活性化された場合、CD19は、PI3K及び下流のAktキナーゼを活性化させることにより、BCRシグナルを増強し、B細胞の増殖を促進できる。
【0009】
CD19は、正常Bリンパ球および悪性Bリンパ球のいずれにおいても発現し、B細胞の発生過程において、長期間に渡る最も信頼できる表面マーカーの1つと見なされている。正常リンパ組織において、CD19は、プレB細胞、B細胞、濾胞樹状細胞、マントル細胞、濾胞間域T細胞領域の樹状細胞において発現している。また、フローサイトメトリー法によって検出すると、ヒト組織から分離された形質細胞においてCD19を検出できる。通常、CD19は、B細胞リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、バーキットリンパ腫、辺縁帯リンパ腫を含むB細胞腫瘍において発現している。このため、CD19は、B細胞性悪性腫瘍を治療するための特異的分子標的となっている。近年、CD19を標的とする免疫療法の戦略は、前臨床および臨床研究で広く発展しており、モノクローナル抗体、二重特異性抗体及びキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T)でも、通常の小分子薬の療法よりも顕著に優れる臨床効果を達成し、免疫療法の進歩を促進した。
【0010】
腫瘍に対する養子免疫療法は、自体又は異体からの免疫担当細胞を体外で増殖させた後、患者の体内に投与して腫瘍細胞を直接殺し、生体の免疫機能を調節・強化するものであり、主にLAK細胞、TIL細胞、活性化されたTリンパ球及びCIK細胞の免疫療法を含む。免疫療法は、散在しているわずかな腫瘍細胞しか除去できないため、末期の固形腫瘍に対する有効性が限られている。このため、免疫療法は補助療法として、手術、化学療法、放射線治療などの通常の方法と併用することがよくある。まず、通常の方法で大量の腫瘍細胞を除去した後、さらに免疫療法で残りの腫瘍細胞を除去することにより、腫瘍の集学的治療の効果を高めることができる。腫瘍の集学的治療での新しい方法の1つとして、養子免疫療法は、すでに通常の手術治療、放射線治療、化学療法及び他の免疫細胞療法並びに分子療法と広く併用されており、複数種の腫瘍の治療において幅広い応用の見通しがある。しかしながら、二重特異性抗体を組み合わせる、理想的な腫瘍養子免疫療法は、二重特異性抗体の一端が免疫細胞の表面抗原(例えばCD3)に結合して、それとともに生体内に投与され、二重特異性抗体のもう一端が腫瘍細胞の表面抗原によく結合するものでなければならず、これで、二重特異性抗体が、生体内で腫瘍細胞と免疫細胞との間に橋渡しをして、免疫細胞を腫瘍細胞の周りに集め、さらに腫瘍細胞を殺傷する。このような方法によれば、腫瘍細胞の転移及び拡散を効果的に抑制でき、手術、放射線治療、化学療法という従来の三大治療法の「完治できず、転移しやすく、副作用が強い」などの短所を克服できる。従って、腫瘍細胞と免疫細胞に結合する効率的な二重特異性抗体を開発することは、重要な意味を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】中国発明特許第201910209330.4号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、先行技術に存在する課題を解決するために、CD19とCD3に結合し、特異的な標的作用を有し、指向性免疫反応を効率的に誘起できる二重特異性抗体、及びその作製方法と使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の技術案は下記の通りである。
【0014】
本発明は、CD19とCD3に結合する二重特異性抗体の分子構造を設計・スクリーニングすることによって、下記のような対称構造を有する二重特異性抗体が、それに対応するモノクローナル抗体、または他の構造の二重特異性抗体と比べ、元の抗体の特異的結合能をよりよく保持できるとともに、2つのモノクローナル抗体の生物学的機能を有するため、製造プロセスや薬効などの点で明らかな優位性を有することを創造的に見出した。前記二重特異性抗体は、(a)2つの完全な軽鎖-重鎖ペアからなるモノクローナル抗体単位と、(b)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む完全に同じである2つの一本鎖抗体を含む一本鎖抗体単位とを含有するものであり、その中で、一本鎖抗体単位は免疫細胞の表面抗原CD3に対して特異的結合能を有し、モノクローナル抗体単位は腫瘍細胞の表面抗原CD19に対して特異的結合能を有する。一本鎖抗体単位はリンカーによってモノクローナル抗体単位のN末端又はC末端に連結している。本発明は、上記のような抗体分子構造を有する、CD19とCD3に結合する二重特異性抗体を開発した。この二重特異性抗体は、特異的な標的作用を有し、指向性を有する免疫反応を効率的に誘起でき、腫瘍細胞を殺傷することができる。
【0015】
具体的に、まず、本発明は、(a)2つの完全な軽鎖-重鎖ペアであり、CD19に特異的に結合できるモノクローナル抗体単位と、(b)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、且つCD3に特異的に結合できる2つの一本鎖抗体(ScFv)を含む一本鎖抗体単位と、を含み、下記のいずれかの連結方式によって連結された対称構造である二重特異性抗体を提供する。
【0016】
(1)前記2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する方式。
【0017】
(2)前記2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する方式。
【0018】
好ましくは、前記リンカーのアミノ酸配列が(GGGGX)nであり、その中で、XがGlyまたはSerであり、nが1~4の自然数である(即ち、1、2、3又は4である)。上記配列を有するリンカーを使用する場合、前記二重特異性抗体は、抗原結合能をよりよく発揮できる。
【0019】
本発明の好ましい実施態様として、前記リンカーのアミノ酸配列が配列番号13で示される。
【0020】
好ましくは、前記一本鎖抗体の軽鎖のアミノ酸配列が配列番号5または配列番号9で示される。
【0021】
前記一本鎖抗体の重鎖のアミノ酸配列が配列番号6または配列番号10で示される。
【0022】
前記一本鎖抗体の軽鎖及び重鎖はいずれも免疫細胞の表面抗原CD3に特異的に結合できる。
【0023】
本発明は、膜融合ペプチドを採用して一本鎖抗体を発現し、特定の抗体構造及び配列設計によって、一本鎖抗体とモノクローナル抗体との連結方式が異なる場合、それぞれ特定の一本鎖抗体膜融合ペプチド配列を採用することにより、抗体構造の安定性をより向上でき、2種類の抗原によりよく結合できることを発見した。
【0024】
前記二重特異性抗体における一本鎖抗体単位では、好ましくは、前記一本鎖抗体の軽鎖と重鎖で膜融合ペプチドを構成し、前記膜融合ペプチドの配列が下記のいずれかである。
(1)前記2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する場合、前記膜融合ペプチドの配列が配列番号17で示される。
(2)前記2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する場合、前記膜融合ペプチドの配列が配列番号16で示される。
【0025】
前記二重特異性抗体のモノクローナル抗体では、好ましくは、前記モノクローナル抗体の軽鎖可変領域の配列は、配列番号18で示されるか、または配列番号18で示されるアミノ酸配列における1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入により得られた同じ機能を持つポリペプチドのアミノ酸配列である。
【0026】
前記モノクローナル抗体の重鎖可変領域の配列は、配列番号19で示されるか、または配列番号19で示されるアミノ酸配列における1または複数のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入により得られた同じ機能を持つポリペプチドのアミノ酸配列である。
【0027】
本発明において、前記二重特異性抗体は、マウス抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体または組み換え抗体であってもよい。
【0028】
本発明の好ましい実施態様として、前記モノクローナル抗体の軽鎖と重鎖はジスルフィド結合によって連結されている。前記モノクローナル抗体のFc断片は、ヒトまたはヒト化抗体のFc断片である。
【0029】
好ましくは、前記ヒトまたはヒト化抗体はIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、IgG4抗体の1種を含む。
【0030】
本発明の好ましい実施態様として、前記モノクローナル抗体のFc断片は、ヒトまたはヒト化IgG4抗体のFc断片である。
【0031】
本発明の好ましい実施態様として、前記モノクローナル抗体の軽鎖全長の配列は配列番号3で示される。前記モノクローナル抗体の重鎖全長の配列は配列番号1または配列番号20で示される。
【0032】
本発明において、上記「1または複数のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入により得られた同じ機能を持つ蛋白質のアミノ酸配列」は、1または複数のアミノ酸残基が、示される配列と異なるが、得られた分子の生物学的活性を保持できる配列を意味する。それは「保存的に修飾された変異体」、または「保存的アミノ酸置換」によって改変されたものである。「保存的に修飾された変異体」、または「保存的アミノ酸置換」は、当業者が知っているアミノ酸置換を意味し、このような置換を行う場合、通常、得られた分子の生物学的活性が変化しない。一般的に、当業者は、ポリペプチドの非必須領域における単一アミノ酸置換が生物学的活性を基本的に変化させないことを認識している。例示的な置換は、好ましくは、以下に示す置換に従って行う。
【0033】
【表1】
【0034】
本発明は、上記二重特異性抗体の例示として、ヒトのCD3及びCD19に対する二重特異性抗体を提供する。本発明では、上記一本鎖抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域、及びモノクローナル抗体の重鎖と軽鎖を有する構造及びアミノ酸配列をスクリーニングすることで、2つの対応するモノクローナル抗体の生物学的機能を最大限に保持でき、且つ製造プロセスや薬効などの点において明らかな優位性を有する、CD19とCD3に結合する二重特異性抗体が得られた。その構造及びアミノ酸配列を下記に示す:
【0035】
(1)一本鎖抗体の軽鎖と重鎖とからなる膜融合ペプチドのアミノ酸配列が配列番号16で示され、モノクローナル抗体の軽鎖のアミノ酸配列が配列番号3で示され、モノクローナル抗体の重鎖のアミノ酸配列が配列番号1で示される。抗体の構造は、2つの一本鎖抗体の膜融合ペプチドのC末端がそれぞれアミノ酸配列が配列番号13で示されるリンカーによってモノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する対称構造である(図2Aに示す)。
【0036】
(2)一本鎖抗体の軽鎖と重鎖とからなる膜融合ペプチドのアミノ酸配列が配列番号17で示され、モノクローナル抗体の軽鎖のアミノ酸配列が配列番号3で示され、モノクローナル抗体の重鎖のアミノ酸配列が配列番号20で示される。抗体の構造は、2つの一本鎖抗体の膜融合ペプチドのN末端がそれぞれアミノ酸配列が配列番号13で示されるリンカーによってモノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する対称構造である(図2Bに示す)。
【0037】
上記二重特異性抗体のアミノ酸配列に基づいて、本発明は、前記二重特異性抗体をコードする遺伝子を提供する。
【0038】
コドンのコーディング規則及びコドンの縮退と偏位に従って、当業者は、上記二重特異性抗体のアミノ酸配列に応じて、コーディング遺伝子(coding gene)を設計することができる。
【0039】
本発明の好ましい実施態様として、前記モノクローナル抗体の軽鎖全長のコーディング遺伝子配列が配列番号4で示される。
【0040】
本発明の好ましい実施態様として、前記モノクローナル抗体の重鎖全長のコーディング遺伝子配列が配列番号2または配列番号21で示される。
【0041】
本発明の好ましい実施態様として、前記2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する場合、前記一本鎖抗体のコーディング遺伝子配列が配列番号14で示される。前記2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによって前記モノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する場合、前記一本鎖抗体のコーディング遺伝子配列が配列番号15で示される。
【0042】
上記遺伝子配列は、組み合わせることで前記二重特異性抗体の発現に使用でき、または、前記二重特異性抗体におけるほかの単位をコードする遺伝子配列と組み合わせることで前記二重特異性抗体の発現に使用できる。
【0043】
さらに、本発明は、前記遺伝子を含む生体材料を提供する。
【0044】
本発明において、前記生体材料は、組換えDNA、発現カセット、ベクター、宿主細胞、組換え菌または細胞株を含む。
【0045】
本発明は、さらに、前記一本鎖抗体及びモノクローナル抗体のコーディング遺伝子を含む発現ベクターを構築すること、前記発現ベクターを宿主細胞に導入して、前記二重特異性抗体を安定発現できる宿主細胞を得ること、および、宿主細胞を培養し、分離精製によって前記二重特異性抗体を得ること、を含む前記二重特異性抗体の作製方法を提供する。
【0046】
前記二重特異性抗体を作製する場合、当業者は、必要に応じて、当分野の慣用の宿主細胞、発現ベクター、発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、および抗体の分離精製方法を選択することができる。
【0047】
本発明の実施態様として、前記宿主細胞がCHO-K1細胞である。
【0048】
本発明の実施態様として、前記発現ベクターがpG4HKである。
【0049】
前記発現ベクターの構築では、当分野の慣用の方法を使用することができる。本発明の好ましい実施態様として、前記発現ベクターの構築では、前記抗CD19モノクローナル抗体の軽鎖のコーディング遺伝子をSalI及びBsiWIの二重酵素切断(Double Digests)により発現ベクターpG4HKに組み込み、抗CD19軽鎖の発現ベクターを得、プラスミドをpG4HK19VLと命名する。HindIII及びBstEIIの二重酵素切断によって、抗CD3一本鎖抗体のコーディング遺伝子と抗CD19モノクローナル抗体の重鎖遺伝子との融合断片をベクターpG4HK19VLに組み込み、二重特異性抗体の発現ベクターを得る。
【0050】
前記分離精製は、当分野の慣用の抗体分離精製の方法を使用することができる。
【0051】
本発明の実施態様として、前記分離精製は、下記の工程を含む:
(1)組換えrProtein Aアフィニティークロマトグラフィーカラムによって、培養上清からFcドメインを持つ抗体をすべで分離する工程、
(2)Qセファロースを用いる陰イオン交換クロマトグラフィーによって副生成物から二重特異性抗体を分離する工程、および
(3)分子ふるいクロマトグラフィーによって二重特異性抗体を精製する工程。
【0052】
上記二重特異性抗体に基づいて、本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。
【0053】
好ましくは、前記医薬組成物は、さらに、薬学的に許容される他の有効成分または賦形剤を含む。
【0054】
さらに、本発明は、前記二重特異性抗体、前記二重特異性抗体のコーディング遺伝子、または前記コーディング遺伝子を含む生体材料の、下記のいずれかの使用を提供する。
(1)CD19を発現するB細胞関連疾患を治療または予防する医薬品の製造における使用、
(2)CD19を標的とする疾患を治療または予防する医薬品の製造における使用、
(3)CD19発現細胞を殺傷するための医薬品の製造における使用、
(4)CD19及び/またはCD3検出試薬の製造における使用。
【0055】
本発明において、前記CD19を発現するB細胞関連疾患は、B細胞関連腫瘍、B細胞による自己免疫疾患を含むが、これらに限定されるものではない。
【0056】
前記B細胞関連腫瘍は、Bリンパ腫、B細胞性リンパ性白血病を含むが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明の有益な効果は以下の通りである。本発明は、遺伝子工学及び抗体工学的手法を利用して、一本鎖抗体及び完全なモノクローナル抗体の構造を含む、CD19とCD3に結合する二重特異性抗体を構築し、この二重特異性抗体融合タンパク質は、完全なモノクローナル抗体の構造を保持でき、且つ非常に安定した対称構造を有するため、抗CD3一本鎖抗体及び抗CD19モノクローナル抗体の生物学的機能をよりよく保持でき、1つの二重特異性抗体として抗CD19モノクローナル抗体および抗CD3モノクローナル抗体の優れる生物学的機能を同時に備えることを実現し、腫瘍細胞と免疫エフェクター細胞との間に橋渡しをして、免疫エフェクター細胞及び指向性免疫反応を効率的に誘起でき、腫瘍細胞を殺傷する免疫細胞の効力を大幅に高め、同時にADCC活性を最小限に抑え、高い安全性を有する。また、本発明が提供する二重特異性抗体は、構造が完全に対称となるという特徴を有するため、宿主に発現する場合、他の構造のタンパク質のアイソフォームを産生せず、抽出・精製プロセスの難易度を大幅に下げることができ、製造が簡単で、収率が高く、腫瘍免疫療法において広い使用の見通しがある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明の背景技術に記載の細胞の表面抗原CD3分子の構造模式図である。
図2】本発明の実施例1でスクリーニングにより得られた2つの二重特異性抗体YK001及びYK002の分子の構造模式図であり、その中で、Aが二重特異性抗体YK001であり、Bが二重特異性抗体YK002である。
図3】本発明の実施例2の二重特異性抗体YK001及びYK002のSDS-PAGEによる電気泳動図であり、その中で、A及びCが還元SDS-PAGEによる電気泳動検出であり、B及びDが非還元SDS-PAGEによる電気泳動検出であり、A及びBが二重特異性抗体YK001のSDS-PAGEによる電気泳動結果であり、C及びDが二重特異性抗体YK002のSDS-PAGEによる電気泳動結果であり、Mがタンパク質分子量マーカーを表し、レーン1が目的タンパク質である。
図4】本発明の実施例2の二重特異性抗体YK001及びYK002の、HPLC-SECによる純度に関するピークグラフであり、その中で、Aが二重特異性抗体YK001であり、Bが二重特異性抗体YK002である。
図5】本発明の実施例3のフローサイトメトリー法により測定された二重特異性抗体YK001及びYK002とRaji細胞との結合率であり、その中で、AがネガティブコントロールNCであり、Bが二重特異性抗体YK001であり、Cがポジティブコントロール抗体(PC)Anti-CD19であり、DがネガティブコントロールNCであり、Eが二重特異性抗体YK002であり、Fがポジティブコントロール抗体(PC)Anti-CD19である。
図6】本発明の実施例3のフローサイトメトリー法により測定された二重特異性抗体YK001及びYK002とT細胞との結合率であり、その中で、AがネガティブコントロールNCであり、Bが二重特異性抗体YK001であり、Cが二重特異性抗体YK002であり、Dがポジティブコントロール抗体(PC)Anti-CD3である。
図7】本発明の実施例4の二重特異性抗体YK001及びYK002がPBMC細胞を効率的に介してRaji腫瘍細胞を殺傷する結果を示す図であり、その中で、「▼」が二重特異性抗体YK001を表し、「▽」が二重特異性抗体YK002を表し、「■」がAnti-CD19モノクローナル抗体を表し、「■」が無関係コントロール0527×CD3二重特異性抗体(Her2×CD3二重特異性抗体)を表し、「●」がAnti-CD3モノクローナル抗体を表す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、実施例を組み合わせて本発明の好ましい実施形態を説明する。以下の実施例が、説明のために例示されたものであり、本発明の範囲を限定するためのものではないことを理解できるはずである。当業者は、本発明の趣旨および精神から逸脱しない範疇で本発明に対して様々な修正や置換を行い得る。
【0060】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用された実験方法は、いずれも一般的な方法である。
【0061】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用された材料、試薬などは、いずれも市販されたものである。
【0062】
実施例1 CD19×CD3二重特異性抗体の構造及び配列の設計
本実施例では、腫瘍細胞の表面抗原CD19及び免疫細胞の表面抗原CD3を標的とし、二重特異性抗体を設計した。
【0063】
タンパク質構造設計ソフトウェア及び大量の人工的実験によるスクリーニングと組み合わせて、本発明は、CD19及びCD3に結合する複数種の二重特異性抗体をスクリーニングして、一本鎖抗体単位及びモノクローナル抗体単位を含み、且つ対称構造を有する二重特異性抗体の構造を決定した。その中で、抗-CD19モノクローナル抗体単位がIgG抗体であり、2つの完全な軽鎖-重鎖ペアを含み(即ち、完全なFab及びFcドメインを有し、軽鎖と重鎖とがジスルフィド結合によって連結されている)、抗-CD3一本鎖抗体単位が2つの一本鎖抗体を含み、各一本鎖抗体がいずれも重鎖可変領域及び軽鎖可変領域ドメインを含み、重鎖可変領域と軽鎖可変領域でリンカーを介して膜融合ペプチドを構築した。一本鎖抗体とモノクローナル抗体がリンカーで連結されており、一本鎖抗体とモノクローナル抗体との連結方式として、2つの異なる連結方式を設計することにより、異なる対称構造を有する2つの二重特異性抗体を得た。
(1)リンカーGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号13で示される)により抗-CD3一本鎖抗体のC末端を抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖のN末端に連結し、二重特異性抗体YK001を得た(構造模式図を図2Aに示す)。
(2)リンカーGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号13で示される)により抗-CD3一本鎖抗体のN末端を抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖のC末端に連結し、二重特異性抗体YK002を得た(構造模式図を図2Bに示す)。
【0064】
上記二重特異性抗体の各ドメインのアミノ酸配列が下記の通りである。
【0065】
YK001の抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号19で示され、重鎖全長のアミノ酸配列は配列番号1で示される。
【0066】
YK002の抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号19で示され、重鎖全長のアミノ酸配列は配列番号20で示される。
【0067】
抗-CD19モノクローナル抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号18で示され、軽鎖全長のアミノ酸配列は配列番号3で示される(YK001とYK002が同じである)。
【0068】
YK001における抗-CD3一本鎖抗体のアミノ酸配列は配列番号16で示される。
【0069】
YK002における抗-CD3一本鎖抗体のアミノ酸配列は配列番号17で示される。
【0070】
実施例2 CD19×CD3二重特異性抗体の作製
1、二重特異性抗体のコーディング遺伝子の設計及び合成
実施例1で設計及びスクリーニングによって得られた2つの二重特異性抗体YK001及びYK002のアミノ酸配列、及び宿主細胞のコドンの偏位に従って、二重特異性抗体のコーディング遺伝子を設計し、具体的な配列は下記の通りである。
【0071】
YK001の抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2で示される。
【0072】
YK002の抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号21で示される。
【0073】
抗-CD19モノクローナル抗体の軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号4で示される(YK001とYK002が同じである)。
【0074】
YK001における抗-CD3一本鎖抗体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号14で示される。
【0075】
YK002における抗-CD3一本鎖抗体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号15で示される。
【0076】
発現ベクターの構築を容易にするために、抗-CD19モノクローナル抗体の軽鎖のコーディング遺伝子断片(YK001とYK002が同じである)、および抗-CD3一本鎖抗体のコーディング遺伝子-抗CD19モノクローナル抗体の重鎖のコーディング遺伝子の融合断片(YK001、即ち、抗-CD3一本鎖抗体のC末端を抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖のN末端に連結したもの)、及び抗CD19モノクローナル抗体の重鎖のコーディング遺伝子-抗CD3一本鎖抗体のコーディング遺伝子の融合断片(YK002、即ち、抗-CD3一本鎖抗体のN末端を抗-CD19モノクローナル抗体の重鎖のC末端に連結したもの)を合成した。
【0077】
2、二重特異性抗体の発現ベクターの構築
(1)SalI及びBsiWIの二重酵素切断により、抗-CD19モノクローナル抗体の軽鎖のコーディング遺伝子を、発現ベクターpG4HKに取り組み、抗-CD19モノクローナル抗体の軽鎖の発現ベクターを得、プラスミドをpG4HK19VLと命名した。
【0078】
(2)Hind III及びBstE IIの二重酵素切断により、抗-CD3一本鎖抗体の軽鎖のコーディング遺伝子-抗CD19モノクローナル抗体の重鎖のコーディング遺伝子の融合断片を、発現ベクターpG4HK19VLに取り組み、二重特異性抗体YK001の発現ベクターを得、プラスミドをpG4HK-YK001と命名した。
【0079】
(3)Hind III及びBstE IIの二重酵素切断により、抗CD19モノクローナル抗体の重鎖のコーディング遺伝子-抗CD3一本鎖抗体のコーディング遺伝子の融合断片を、発現ベクターpG4HK19VLに取り組み、二重特異性抗体YK002の発現ベクターを得、プラスミドをpG4HK-YK002と命名した。
【0080】
3、二重特異性抗体の発現
(1)EndoFree Plasmid Maxi Kit(Tiagen、4991083)を用いて、プラスミドを大規模に抽出し、具体的な操作は、キットの取扱説明書に従って行った。
【0081】
(2)トランスフェクション用細胞の用意
1)CHO-K1細胞を再培養し、6×10個の細胞をCD-CHO培地12ml(6mM GlutaMAXを含む)に接種し、密度が0.5×10/mlであり、5%CO、37℃、135rpmでシェーカー培養した。
2)トランスフェクトの前日に、細胞密度が0.5×10/mlとなるように調整し、5%CO、37℃、135rpmでシェーカー培養した。
【0082】
(3)エレクトロポレーションによるトランスフェクション
1)細胞数を計測して細胞濃度を測定し、細胞生存率95%以上を確保する。
2)1×10細胞を取り、1000rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、細胞を新鮮なCD-CHO培地に懸濁させ、1000rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、もう一度洗浄を繰り返した。
3)CD-CHO培地0.7mlに細胞を懸濁させ、発現ベクター40μgを加え、均一に混合し、0.4cmのキュベットに移し、電気ショックを行った。
4)電気ショックを行った後、細胞をCD-CHO培地(without GlutaMAX)中に速く移し、96ウェルプレートに均一にまき、5%CO、37℃で培養した。
5)トランスフェクション後の24時間目に、最終濃度が50μMになるように各ウェルにMSXを追加し、5%CO2、37℃で培養した。
6)二重特異性抗体を高度に発現するモノクローナル細胞株を選別し、流加培養し、14日間培養した後、上清を収集した。
【0083】
4、二重特異性抗体の精製
(1)試料液の前処理
培養された上清を2000rpmで10分間遠心分離した後、0.22μmのメンブレーンフィルターで濾過処理した。
【0084】
(2)アフィニティークロマトグラフィー
Mabselect SuReアフィニティークロマトグラフィーカラム(GE社から購入、商品番号18-5438-02)を用い、前処理された発酵液における抗体を捕捉した。緩衝液(10mM PBS、0.1M NaCl、pH7.0)でクロマトグラフィーカラムの平衡化を十分に行い、試料液をアフィニティークロマトグラフィーカラムに流し、溶離液(0.1M クエン酸、pH3.0)で溶出した。
【0085】
(3)陽イオン交換クロマトグラフィー
アフィニティークロマトグラフィーにより作製されたサンプルを、SP陽イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。陽イオン交換カラムはGE社(17-1014-01、17-1014-03)から購入したものであり、緩衝液(50mM PBS、pH5.5)でクロマトグラフィーカラムの平衡化を行い、前記サンプルをSPカラムに流して結合させ、20カラム体積の溶離液(50mM PBS、1.0M NaCl、pH5.5)でリニアグラジエント溶出を行った。
【0086】
(4)陰イオン交換クロマトグラフィー
SP陽イオン交換クロマトグラフィーによる精製後、さらにQセファロースを用いたイオン交換カラム(GE社から購入、商品番号:17-1153-01、17-1154-01)に流した。使用する緩衝液は50mM PBS、pH5.5である。
【0087】
上記精製後の二重特異性抗体YK001及びYK002に対して、SDS-PAGE及びHPLC-SEC検出を行った。SDS-PAGEの結果を図3に示し、YK001の還元SDS-PAGEによる電気泳動検出結果を図3Aに示し、非還元SDS-PAGEによる電気泳動検出結果を図3Bに示す。YK002の還元SDS-PAGEによる電気泳動検出結果を図3Cに示し、非還元SDS-PAGEによる電気泳動検出結果を図3Dに示す。HPLC-SECの結果を図4に示し、その中で、YK001のSEC検出結果を図4Aに示し、YK002のSEC検出結果を図4Bに示す。検出結果によれば、発現及び精製によって二重特異性抗体YK001及びYK002の作製に成功し、精製後の二重特異性抗体の純度が95%以上であることが示されている。
【0088】
実施例3 二重特異性抗体と腫瘍細胞や免疫細胞との結合活性の測定
Raji(ATCC社から購入、CCL-86)をCD19陽性細胞として、T細胞をCD3陽性細胞として、フローサイトメトリー法によって本発明の二重特異性抗体と、CD19を発現する腫瘍細胞やCD3を発現する免疫細胞の標的抗原との結合活性を測定した。
【0089】
1、フローサイトメトリー法による二重特異性抗体とRaji細胞との結合活性の測定。
(1)Raji細胞の収集:1×10cell/チューブで収集した。
(2)細胞の洗浄:staining buffer(0.5%w/vBSA+2mM EDTAを含むPBS)1mlで細胞を一回洗浄し、350×g、4℃で5min遠心分離した後、staining buffer 200μlで細胞を再懸濁した。
(3)Bs-antibody binding:5μg/mlまで二重特異性抗体YK001及びYK002をそれぞれ加え、氷上で45minインキュベートした。
(4)細胞の洗浄:細胞懸濁液にstaining buffer 1mlを添加し、均一に混合し、350×g、4℃で5min遠心分離し、上清を捨て、もう一度洗浄を繰り返した。遠心分離後、staining buffer 100μlで細胞を再懸濁した。
(5)サンプルチューブにbiolegend抗体5μl(PE anti-human IgG Fc Antibody、Biolegend、409304)を加え、アイソタイプコントロールチューブにアイソタイプコントロール(PE Mouse IgG2a、κ Isotype Ctrl(FC)Antibody、Biolegend、400213 )を加え、氷上で15min、遮光してインキュベートした。
(6)細胞の洗浄:細胞懸濁液にstaining buffer 1mlを添加し、均一に混合し、350×g、4℃で5min遠心分離し、上清を捨て、もう一度洗浄を繰り返した。
(7)アナライザーによる測定:PBS 200μlで細胞を再懸濁し、フローサイトメーターによって測定した。
【0090】
フローサイトメーターの検出結果を図5に示し、その中で、YK001とRaji細胞の結合の検出結果を図5A、B、Cに示し、YK002とRaji細胞の結合の検出結果を図5D、E、Fに示す。結果によれば、二重特異性抗体YK001及びYK002がいずれもRaji細胞に特異的に結合でき、即ち、二重特異性抗体融合タンパク質がモノクローナル抗体Anti-CD19の結合機能を保持したことが示されている。
【0091】
2、フローサイトメトリー法による二重特異性抗体とT細胞との結合活性の測定。
(1)T細胞の収集:1×10cell/チューブで収集する。
(2)細胞の洗浄:staining buffer(0.5%w/vBSA+2mM EDTAを含むPBS)1mlで細胞を一回洗浄し、350×g、4℃で5min遠心分離した後、staining buffer 200μlで細胞を再懸濁した。
(3)Bs-antibody binding:5μg/mlまで二重特異性抗体YK001及びYK002をそれぞれ加え、氷上で45minインキュベートした。
(4)細胞の洗浄:細胞懸濁液にstaining buffer 1mlを添加し、均一に混合し、350×g、4℃で5min遠心分離し、上清を捨て、もう一度洗浄を繰り返した。遠心分離後、staining buffer 100μlで細胞を再懸濁した。
(5)サンプルチューブにbiolegend抗体5μl(PE anti-human IgG Fc Antibody、Biolegend、409304)を加え、アイソタイプコントロールチューブにアイソタイプコントロール(PE Mouse IgG2a、κ Isotype Ctrl(FC)Antibody、Biolegend、400213)を加え、氷上で15min、遮光してインキュベートした。
(6)細胞の洗浄:細胞懸濁液にstaining buffer 1mlを添加し、均一に混合し、350×g、4℃で5min遠心分離し、上清を捨て、もう一度洗浄を繰り返した。
(7)アナライザーによる測定:PBS200μlで細胞を再懸濁し、フローサイトメーターによって測定した。
【0092】
フローサイトメーターの検出結果を図6に示し、その中で、YK001とT細胞の結合の検出結果を図6A、Bに示し、YK002とT細胞の結合の検出結果を図6C、Dに示す。結果によれば、二重特異性抗体YK001及びYK002がいずれもT細胞に特異的に結合でき、即ち、二重特異性抗体融合タンパク質が一本鎖抗体Anti-CD3の結合機能を保持したことが示されている。
【0093】
実施例4 二重特異性抗体が媒介した体外細胞への殺傷効率の測定
本実施例は、Raji-Lucを標的細胞として、PBMCを免疫エフェクター細胞として、二重特異性抗体YK001及びYK002が媒介した標的細胞への殺傷効果を測定し、抗-CD3モノクローナル抗体と抗-CD19モノクローナル抗体及び0527×CD3二重特異性抗体をコントロールとした。
【0094】
1、標的細胞の用意。
Raji-Luc(ルシフェラーゼ標識Raji細胞)を標的細胞として、ピペッティングしてから標的細胞を計数し、1000rpmで5min遠心分離し、PBSで一回洗浄した。標的細胞を遠心分離した後、GT-T551培地で密度が0.2×10/mlとなるように調節し、1ウェルあたり50μlを加え、1ウェルにおける細胞数が10000個となる。
【0095】
2、PBMCの用意。
PBMCをエフェクター細胞とした。液体窒素タンク内に凍結保存されたPBMCを取り出して解凍し(細胞の凍結保存及び再培養を参考)、PBSまたはGT-T551培地を含む15mlの遠心チューブに加え、1000rpmで5min遠心分離し、PBSまたはGT-T551培地で二回洗浄し、細胞数、生存率および密度を計測し、密度が0.2×10/mlとなるように調節し、1ウェルあたり50μlを加え、1ウェルにおける細胞数が100000個となる。
【0096】
3、抗体の希釈
GT-T551培地でそれぞれ二重特異性抗体YK001及びYK002を希釈し、抗体YK001及びYK002の初期濃度が10nMとなるように調節した。1:5の割合で順次希釈した。希釈された抗体100μlを上記で用意した細胞に加え、均一に混合し、96ウェルプレートをインキュベーターに置き、18時間後殺傷効果を検出した。
【0097】
4、検出
Raji標的細胞が、Luciferase遺伝子を持つため、LUMINEX技術で標的細胞への殺傷効果を検出した。
【0098】
steay-GLO(promega社)を基質として、キット内のbufferを解凍して基質粉末に加え、均一に混合し、1本あたり5mlまたは10ml分注し、steady-GLO基質の再構築を完了した。
【0099】
共培養された細胞をピペッティングしてから100μlを取って不透明な白プレートに移し、再構築のsteay-GLO基質100μlを加え、均一に混合するように軽くたたき、5分間放置した後プレートを読み取った。検出装置はsynergy HTである。
【0100】
5、データ処理
標的細胞の殺傷率の計算式は次の通りである。
【0101】
標的細胞の殺傷率=100×(Only target-test well)/Only target
【0102】
すべてのウェルの標的細胞の殺傷率に対応する抗体濃度をlog10に変換し、これを横軸に、殺傷率を縦軸にしてグラフを作成し、結果を図7に示す。ソフトウェアGraphpad Prism 7.0で結果を分析し、二重特異性抗体のIC50を計算し、結果を表2に示す。結果によれば、コントロール抗体(抗-CD3モノクローナル抗体と抗-CD19モノクローナル抗体及び0527×CD3二重特異性抗体)と比べて、二重特異性抗体YK001及び002はいずれもPBMCを介して腫瘍細胞系Raji-Lucを効率的に殺傷することができ、YK001や002の単一分子でも同時にAnti-CD19モノクローナル抗体とAnti-CD3モノクローナル抗体の生物学的機能を有し、YK001が媒介した標的細胞を殺傷する効力が、YK002より高いことが示されている。
【0103】
【表2】
【0104】
なお、上記において、一般的な説明及び具体的な実施形態を用いて本発明を詳しく説明したが、本発明に基づき、いくつかの修正や改善を行い得ることは、当業者にとって自明である。よって、本発明の趣旨から逸脱しない範疇で行われるこれらの修正やは改善は、いずれも本発明の保護しようとする範囲に属す。
【0105】
本発明は、二重特異性抗体、及びその作製方法と使用を提供する。本発明の二重特異性抗体は、2つの完全な軽鎖-重鎖ペアであり、腫瘍細胞の表面抗原に特異的に結合できるモノクローナル抗体単位と、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、且つ免疫細胞の表面抗原に特異的に結合できる2つの一本鎖抗体を含む一本鎖抗体単位と、を含む。本発明が提供する二重特異性抗体は、(1)2つの一本鎖抗体のC末端がそれぞれリンカーによってモノクローナル抗体の2つの重鎖のN末端に連結する方式と、(2)2つの一本鎖抗体のN末端がそれぞれリンカーによってモノクローナル抗体の2つの重鎖のC末端に連結する方式のいずれかの連結方式によって連結された対称構造である。本発明の二重特異性抗体は、同時に免疫細胞及び腫瘍細胞と結合でき、指向性免疫反応を誘起して、腫瘍細胞を効率的に殺傷することができ、良好な経済価値及び使用の見通しを有する。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【配列表】
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