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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】鉄筋およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230414BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230414BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/58
C21D8/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021564656
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 KR2020007971
(87)【国際公開番号】W WO2021256590
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジュンホ
(72)【発明者】
【氏名】キム、テヒョン
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145415(JP,A)
【文献】特開2011-208257(JP,A)
【文献】特開2008-196046(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1777974(KR,B1)
【文献】特表2010-509209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00ー38/58
C21D 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなり、
最終微細組織は、フェライト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトおよび銅を含有する析出物からなり、
降伏強度(YS)が750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上であることを特徴とする鉄筋。
【請求項2】
前記最終微細組織は、ベイナイト分率が90%以上であり、残留オーステナイト分率が5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄筋。
【請求項3】
(a)炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる鋼材を1050~1230℃で再加熱するステップと、
(b)前記再加熱された鋼材を仕上げ圧延温度950~1020℃の条件で熱間圧延するステップと、
(c)前記熱間圧延された鋼材に対して400~600℃で15~60分間エージング(aging)熱処理するステップと、を含み、
前記(c)ステップを行った後の鉄筋の降伏強度(YS)は750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上である、鉄筋の製造方法。
【請求項4】
前記(c)ステップを行った後の最終微細組織は、フェライト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトおよび銅を含有する析出物からなることを特徴とする、請求項に記載の鉄筋の製造方法。
【請求項5】
前記最終微細組織は、ベイナイト分率が90%以上であり、残留オーステナイト分率が5%以下であることを特徴とする、請求項に記載の鉄筋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋およびその製造方法に関し、より詳しくは、耐疲労特性に優れた高強度の鉄筋およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近は、構造物を設置するに際し、空間の活用度を高めるために、設置される構造物が巨大化および長大化されてきているのが現状である。予期せぬ自然災害や気候変化の原因は、地球環境の汚染によって地球温暖化が続いているためと分析されている。一方、地球温暖化の主因はCOの発生であると指摘されている。高強度鉄筋を配筋すれば、鉄筋量の減少により過密配筋を解消することができ、これにより、鉄筋1トンの生産時に発生するCO 0.4トンを、超高強度鉄筋の適用時に世帯1戸あたり0.2トンに節減する効果を得ることができる。これにより、以前よりは高い強度を有する鉄筋が必要である。例えば、降伏強度を基準として500MPaまで求められていたのが、最近は600~700MPaまで求められているのが現状であり、今後、1.0GPa級の鉄筋に対する需要も予想されている。しかし、鉄筋の高強度化だけでなく、巨大化および長大化されていく建築物自体の自重による負荷と地震などのような自然災害の中でも安全性を確保することも重要な懸案である。単純に合金元素の添加量を増加させるだけでは高合金添加によるコストアップおよび鉄筋の割れ傷の発生および靭性と延性が低下する問題がある。さらに、製品の表面硬化のために適用するテンプコア工程は生産性の面で負担になる問題がある。
【0003】
関連先行技術としては、特許文献1(発明の名称:高降伏比型高強度溶融亜鉛鉄筋の製造方法)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】大韓民国公開特許公報第10-2003-0095071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題を解決するために、本発明が解決しようとする技術的課題は、高強度鉄筋を製造するにあたり、コストを低減し、新たな設備が投入されず、生産性が低下しないようにテンプコア工程を最小化できる高強度鉄筋およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施例による鉄筋は、炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなり、最終微細組織は、フェライト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトおよび銅を含有する析出物からなる。
【0007】
前記鉄筋において、前記最終微細組織は、ベイナイト分率が90%以上であり、残留オーステナイト分率が5%以下であってもよい。
【0008】
前記鉄筋は、降伏強度(YS)が750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上であってもよい。
【0009】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施例による鉄筋の製造方法は、(a)炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる鋼材を1050~1230℃で再加熱するステップと、(b)前記再加熱された鋼材を仕上げ圧延温度950~1020℃の条件で熱間圧延するステップと、(c)前記熱間圧延された鋼材に対して400~600℃で15~60分間エージング(aging)熱処理するステップと、を含む。
【0010】
前記鉄筋の製造方法において、前記(c)ステップを行った後の最終微細組織は、フェライト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトおよび銅を含有する析出物からなる。
【0011】
前記鉄筋の製造方法において、前記最終微細組織は、ベイナイト分率が90%以上であり、残留オーステナイト分率が5%以下であってもよい。
【0012】
前記鉄筋の製造方法において、前記(c)ステップを行った後の鉄筋の降伏強度(YS)は750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施例によれば、高強度および高靭性鉄筋を製造するにあたり、コストを低減し、新たな設備が投入されず、生産性が低下しないようにテンプコア工程を最小化できる高強度鉄筋およびその製造方法を実現することができる。もちろん、このような効果によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例による鉄筋の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図2】本発明の実験例による試験片の硬度を示すグラフである。
図3】本発明の実験例による試験片の硬度を示すグラフである。
図4】本発明の実験例による試験片の最終微細組織を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例による鉄筋およびその製造方法を詳細に説明する。後述する用語は本発明における機能を考慮して適切に選択された用語であって、これらの用語に対する定義は本明細書全般にわたる内容に基づいて行われなければならない。以下、高価な合金元素などを一部低減し、生産性が低下しないようにテンプコア工程を最小化できる高強度鉄筋およびその製造方法を提供しようとする。
【0016】
鉄筋
本発明の一実施例による鉄筋は、炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる。
【0017】
以下、本発明の一実施例による鉄筋に含まれる各成分の役割および含有量について説明する。
【0018】
炭素(C)
炭素(C)は、鋼の強度を高めるのに最も効果的であり、重要な元素である。また、炭素の添加によってオーステナイトに固溶して、焼入れ時にマルテンサイト組織を形成させる。炭素量の増加によって焼入れ硬度を向上させるが、焼入れ時に変形の可能性を大きくする。さらに、鉄、クロム、モリブデン、バナジウムなどの元素と化合して炭化物を形成、強度と硬度を向上させる。炭素(C)は、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0.07~0.43重量%の含有量比で添加される。炭素の含有量が全重量の0.07重量%未満の場合には、上述した効果を実現することができず、十分な強度を確保するのに困難が伴うことがある。逆に、炭素の含有量が全重量の0.43重量%を超える場合には、過度な強度と溶接性の劣位性が現れることがある。
【0019】
マンガン(Mn)
マンガン(Mn)は、一部は鋼中に固溶し、一部は鋼中に含有された硫黄と結合して非金属介在物であるMnSを形成するが、このMnSは延性があり、塑性加工時、加工方向に長く延伸される。しかし、Mnsの形成により鋼中にある硫黄成分が減少しながら結晶粒が脆弱になり、低融点化合物であるFeSの形成を抑制させる。鋼の耐酸性と耐酸化性を阻害するが、パーライトが微細になり、フェライトを固溶強化させることにより、降伏強度を向上させる。マンガンは、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0.5~2.0重量%の含有量比で添加される。マンガンの含有量が0.5重量%より小さい場合、上述したマンガンの添加効果を十分に発揮することができない。また、マンガンの含有量が2.0重量%を超える場合、焼入れの亀裂や変形を誘発させ、溶接性が低下し、MnS介在物および中心偏析(center segregation)が発生して鉄筋の延性が低下し、耐腐食性が低下することがある。
【0020】
シリコン(Si)
シリコン(Si)は、フェライト安定化元素としてよく知られ、冷却中のフェライト分率を高めて延性を増加させる元素としてよく知られている。一方、シリコンは、アルミニウムとともに製鋼工程で鋼中の酸素を除去するための脱酸剤として添加され、固溶強化効果も有することができる。前記シリコンは、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0.05~0.5重量%の含有量比で添加される。シリコンの含有量が全重量の0.05重量%未満の場合には、上述したシリコン添加効果をまともに発揮することができない。逆に、シリコンの含有量が全重量の0.5重量%超過で多量添加時、靭性が低下し、塑性加工性が低下する問題があり、鋼の溶接性を低下させ、焼戻し時の軟化抵抗性を増大させ、再加熱および熱間圧延時に赤スケール(red scale)を生成させることにより、表面品質の問題を低減することができる。
【0021】
クロム(Cr)
クロム(Cr)は、フェライト安定化元素で、C-Mn鋼への添加時、溶質妨害効果で炭素の拡散を遅延させて粒度の微細化に影響を及ぼす。前記クロムは、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過0.5重量%以下の含有量比で添加される。クロムの含有量が全重量の0.5重量%超過で多量添加時、靭性が低下し、加工性と被削性が劣化しうる。
【0022】
銅(Cu)
銅(Cu)は、鋼の硬化能および低温衝撃靭性を向上させる元素である。常温でフェライトに固溶し、固溶強化効果を示すので、強度および硬度はやや改善されるが、延伸率を低下させる。前記銅は、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過4.5重量%以下の含有量比で添加される。銅の含有量が全重量の4.5重量%超過で多量添加時、熱間加工性が劣化し、赤熱脆性の原因になり、製品の表面品質を阻害することがある。
【0023】
ホウ素(B)
ホウ素(B)は、焼入れ性を確保するための重要な元素である。前記ホウ素は、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過0.003重量%以下の含有量比で添加される。ホウ素の含有量が全重量の0.003重量%超過で多量添加時、添加効果は飽和し、延伸率が減少しうるので、上限値を0.003重量%以下に制限することが好ましい。
【0024】
バナジウム(V)
バナジウム(V)は、固溶、析出強化に有用な成分で、炭化物形成能はクロムより強く、結晶粒を微細化させるため、炭素添加量を抑制できる効果を有し、結晶粒界にピニング(pinning)として作用して強度の向上に寄与する元素である。前記バナジウムは、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過0.25重量%以下の含有量比で添加される。バナジウムの含有量が全重量の0.25重量%超過で多量添加時、前記強度向上効果に対比して鋼の製造費用を過度に上昇させる問題がある。
【0025】
窒素(N)
窒素(N)は、バナジウムと窒化物あるいは炭窒化物を析出させて強度を上昇させる元素である。前記窒素は、発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過0.012重量%以下の含有量比で添加される。窒素の含有量が全重量の0.012重量%超過で多量添加時、靭性を阻害する元素として作用しうる。
【0026】
リン(P)
リン(P)は、固溶強化によって鋼の強度を高め、炭化物の形成を抑制する機能を行うことができる。前記リンは、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過0.03重量%以下の含有量比で添加される。リンの含有量が0.03重量%を超える場合には、衝撃抵抗を低下させ、焼戻し脆性を促進させ、析出挙動によって低温衝撃値が低下する問題がある。
【0027】
硫黄(S)
硫黄(S)は、マンガン、チタンなどと結合して鋼の被削性を改善させ、微細MnSの析出物を形成して加工性を向上させることができる。前記硫黄は、本発明の一実施例による鉄筋の全重量の0超過0.03重量%以下の含有量比で添加される。硫黄の含有量が0.03重量%を超える場合、靭性および溶接性を阻害し、低温衝撃値を低下させることがある。鉄筋中にマンガンの量が十分でない場合、鉄と結合してFeSを形成する。このFeSは、非常に脆弱で溶融点が低いため、熱間および冷間加工時に亀裂を起こす。したがって、このようなFeS介在物の形成を回避するために、マンガンと硫黄との比は5対1に調節可能である。
【0028】
ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)
ニッケル(Ni)は、硬化能を増大させ、靭性を向上させる元素であり、ニオブ(Nb)は、NbCまたはNb(C、N)の形態で析出して母材および溶接部の強度を向上させる元素であり、チタン(Ti)は、高温TiNの形成によりAlNの形成を抑制し、Ti(C、N)などの形成により結晶粒サイズの微細化効果を有する元素である。本発明の一実施例による鉄筋は、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくとも1種以上を含有しかつ、その含有量の合計が鉄筋の全重量の0.01~0.5重量%の含有量比で添加される。本発明の一実施例による鉄筋に含有されたニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくとも1種以上の含有量の合計が0.01重量%未満の場合、上述した添加効果を期待することができず、0.5重量%超過で含む時、部品の製造コストが高くなり、脆性クラックが発生し、母相中の炭素含有量が減少して鋼の特性が低下する問題が発生しうる。
【0029】
上述のような、合金元素の組成を有する本発明の一実施例による鉄筋は、最終微細組織は、フェライト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトおよび銅を含有する析出物からなる。さらに、前記最終微細組織において、ベイナイト分率が90%以上であり、残留オーステナイト分率が5%以下であってもよい。
【0030】
また、上述のような合金元素の組成を有する本発明の一実施例による鉄筋は、降伏強度(YS)が750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上であってもよい。
【0031】
例えば、前記鉄筋は、降伏強度(YS)750~1000MPa、引張強度(TS)1000~1300MPa、延伸率が11~25%であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25~1.40であってもよい。
【0032】
以下、上述した合金元素の組成を有する本発明の一実施例による鉄筋の製造方法を説明する。
【0033】
鉄筋の製造方法
図1は、本発明の一実施例による鉄筋の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0034】
図1を参照すれば、本発明の一実施例による鉄筋の製造方法は、(a)炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる鋼材を1050~1230℃で再加熱するステップS100と、(b)前記再加熱された鋼材を仕上げ圧延温度950~1020℃の条件で熱間圧延するステップS200と、(c)前記熱間圧延された鋼材に対して400~600℃で15~60分間エージング(aging)熱処理するステップS300と、を含む。
【0035】
本発明の一実施例による鉄筋は、再加熱過程、熱間変形工程、冷却工程により製造される。再加熱過程では、半製品状態であるビレット(Billet)を1050~1230℃まで再加熱する。次に、熱間圧延工程は、各圧延ロール(RM、IM、FM)を経て、950~1020℃で最終仕上げ圧延を実施して圧延完了後、400~600℃まで空冷後、要求物性に応じて、特定の時間だけ冷却床の前および冷却床で400~600℃で15分~60分維持してエージング熱処理することを特徴とする。
【0036】
鉄筋製鋼/連鋳工程は、一般的に電気炉、LF、連鋳炉で構成される。耐疲労特性向上のために、2次精錬工程であるLFの後、VD(vacuum Degassing)工程を経て、酸素含有量を所定の水準以下に下げた後、連鋳工程で半素材として凝固させることができる。
【0037】
前記鋼材は、炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる。
【0038】
一実施例において、前記鋼材は、1050~1230℃の温度で再加熱される。前記鋼材は、上述した温度で再加熱される時、連続鋳造工程時に偏析した成分が再固溶できる。本発明は、析出および固溶強化により強度の向上を図っている。そのため、熱間圧延前にこれらの元素をオーステナイト中に十分に固溶させなければならず、そのため、ビレットを1050℃以上に加熱する必要がある。再加熱温度が1050℃より低い場合、各種炭化物の固溶が十分でないことがあり、連続鋳造工程時に偏析した成分が十分に均一に分布しない問題がありうる。しかし、再加熱温度が1230℃を超える温度では、オーステナイトの粗大化や脱炭などの悪影響があり、目的とする強度を得ることができない。すなわち、再加熱温度が1230℃を超える場合、非常に粗大なオーステナイト結晶粒が形成されて強度確保が難しいことがある。また、再加熱温度が1230℃を超える場合、加熱費用が増加し、工程時間が追加されて、製造費用の上昇および生産性の低下をもたらすことがある。
【0039】
熱間圧延ステップS200において、再加熱された前記鋼材を熱間圧延する。熱間変形仕上げ温度の範囲は、950~1020℃であってもよい。熱間変形仕上げ温度は最終材質に及ぼす非常に重要な因子で、950~1020℃での圧延はオーステナイトを微細化できる温度である。しかし、熱間圧延温度が950℃未満での圧延時、圧延負荷が増加し、エッジ(EDGE)部の混粒組織が発生しうる。また、1020℃を超える高温領域での圧延時、結晶粒の粗大化により目標の機械的性質を得ることができない。
【0040】
熱間圧延直後の空冷後、400~600℃を維持できる保温タンクや保温槽内に直に投入する。保温槽内での線材温度は400~600℃程度となる。テンプコアを適用した降伏強度600MPa級の鉄筋に比べて表面部にマルテンサイトが発生しないので、延性と靭性にも有利である。また、製品自体の温度で温度を維持させるので、追加的な熱処理を必要とせず、生産費用の発生が節減される。保温時、400~600℃で15~60分間維持する時、強度、TS/YS比および延性の増加に有利であることを確認した。400℃より低い温度では、テンパリング効果が不足し、600℃より高い温度では、強度上昇効果が不足するので、400~600℃の温度範囲に定めた。
【0041】
エージング熱処理を行わない場合、最終微細組織はフェライトおよびパーライト組織を有するのに対し、エージング熱処理を行った本発明の鉄筋の場合、温度維持によりベイナイトを形成させ、残留オーステナイトも5%以下に形成され、鉄筋の降伏強度(YS)は750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上である機械的特性を確保することができる。すなわち、本発明の一実施例による鉄筋の製造方法により、銅添加によるナノ析出物の形成により高機能確保および既存のバナジウム系においてもテンプコア工程なしに特定の温度保温により十分な析出強化効果を極大化できる超簡単工程およびコスト節減型の製造方法を開示することで、工程が単純化されたにもかかわらず、従来の機械的特性を上回る高強度、高耐震特性、引張強度と降伏強度との高い比率を発現させることができることを示し、建築構造物の安定性をより一層向上させることができると期待される。
【実施例
【0042】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成および作用をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明の理解のためのものであり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されない。
【0043】
実験例
以下、本発明の理解のために好ましい実験例を提示する。ただし、下記の実験例は本発明の理解のためのものに過ぎず、本発明が下記の実験例によって限定されるのではない。
【0044】
1.試験片の製造
本実験例では、表1および表2の合金元素の組成(単位:重量%)と工程条件で実現された試験片を提供する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1に開示された組成は、炭素(C):0.07~0.43重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、シリコン(Si):0.05~0.5重量%、クロム(Cr):0超過0.5重量%以下、銅(Cu):0超過4.5重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、バナジウム(V):0超過0.25重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、リン(P):0超過0.03重量%以下、硫黄(S):0超過0.03重量%以下、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)からなる組成範囲をすべて満足する。
【0048】
一方、表2の実施例は、上述した組成の鋼材を1050~1230℃で再加熱するステップと、前記再加熱された鋼材を仕上げ圧延温度950~1020℃の条件で熱間圧延するステップと、前記熱間圧延された鋼材に対して400~600℃で15~60分間エージング(aging)熱処理するステップとを行う工程条件を満足するのに対し、表2の比較例1は、前記熱間圧延された鋼材に対してテンプコア工程を行うものの、エージング熱処理工程を適用しなかった。また、表2の比較例2、比較例3、比較例4は、エージング熱処理を500~600℃で15~60分を超えて120分間行った。
【0049】
2.物性および微細組織評価
図2および図3は、本発明の実験例による試験片の硬度を示すグラフである。
【0050】
図2の■項目(実施材1)は、表1の実施例1の組成条件と表2の実施例1の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材1に対して600℃のエージング熱処理を0分、30分、60分、90分、120分間行った。図2の●項目(実施材2)は、表1の実施例2の組成条件と表2の実施例2の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材2に対して600℃のエージング熱処理を0分、30分、60分、90分、120分間行った。図2の黒塗り三角形項目(実施材3)は、表1の実施例3の組成条件と表2の実施例3の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材3に対して600℃のエージング熱処理を0分、30分、60分、90分、120分間行った。図2の黒塗り逆三角形項目(比較材1)は、表1の比較例1の組成条件と表2の比較例1の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、比較材1に対して630℃の復熱条件を有するテンプコア工程を行った。
【0051】
図3の■項目(実施材1)は、表1の実施例1の組成条件と表2の実施例1の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材1に対して500℃のエージング熱処理を0分、30分、60分、90分、120分間行った。図3の●項目(実施材2)は、表1の実施例2の組成条件と表2の実施例2の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材2に対して500℃のエージング熱処理を0分、30分、60分、90分、120分間行った。図3の黒塗り三角形項目(実施材3)は、表1の実施例3の組成条件と表2の実施例3の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材3に対して500℃のエージング熱処理を0分、30分、60分、90分、120分間行った。図3の黒塗り逆三角形項目(比較材1)は、表1の比較例1の組成条件と表2の比較例1の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、比較材1に対して630℃の復熱条件を有するテンプコア工程を行った。
【0052】
【表3】
【0053】
表3は、本発明の実験例による試験片に対して500℃の温度で30分間エージング熱処理を行った鉄筋に対する強度、降伏強度(YS)、引張強度(TS)、延伸率、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)を示すものである。表3にて、実施材1は、表1の実施例1の組成条件と表2の実施例1の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材1に対して500℃のエージング熱処理を30分間行った後の機械的特性を評価した。表3にて、実施材2は、表1の実施例2の組成条件と表2の実施例2の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材2に対して500℃のエージング熱処理を30分間行った後の機械的特性を評価した。表3にて、実施材3は、表1の実施例3の組成条件と表2の実施例3の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、実施材3に対して500℃のエージング熱処理を30分間行った後の機械的特性を評価した。表3にて、比較材1は、表1の比較例1の組成条件と表2の比較例1の再加熱温度および仕上げ圧延温度の工程条件を適用した試験片に相当し、比較材1に対してエージング熱処理を適用せずにテンプコア工程を行った後の機械的特性を評価した。
【0054】
【表4】
【0055】
400~600℃で15~60分間維持する時、強度、TS/YS比および延性の増加に有利であることを確認した。エージング熱処理を行わない場合、最終微細組織はフェライトおよびパーライト組織を有するのに対し、エージング熱処理を行った本発明の鉄筋の場合、温度維持によりベイナイトを形成させ、残留オーステナイトも5%以下に形成され、鉄筋の降伏強度(YS)は750MPa以上であり、引張強度(TS)が1000MPa以上であり、延伸率が11%以上であり、引張強度と降伏強度との比(TS/YS)が1.25以上である機械的特性を確保できることを確認した。
【0056】
本発明の一実施例による鉄筋の製造方法により、銅添加によるナノ析出物の形成により高機能確保および既存のバナジウム系においてもテンプコア工程なしに特定の温度保温により十分な析出強化効果を極大化できる超簡単工程およびコスト節減型の製造方法を開示することで、工程が単純化されたにもかかわらず、従来の機械的特性を上回る高強度、高耐震特性、引張強度と降伏強度との高い比率を発現させることができることを示し、建築構造物の安定性をより一層向上させることができると期待される。
【0057】
以上、本発明の実施例を中心に説明したが、当業者のレベルで多様な変更や変形を加えることができる。このような変更と変形が本発明の範囲を逸脱しない限り本発明に属するといえる。したがって、本発明の権利範囲は以下に記載の特許請求の範囲によって判断されなければならない。
図1
図2
図3
図4