(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】パワー半導体素子及びパワーユニットの接合部のパラメーターを推定する方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/00 20060101AFI20230414BHJP
G01R 31/26 20200101ALI20230414BHJP
G01K 7/42 20060101ALI20230414BHJP
G01K 7/01 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
G01K7/00 381L
G01R31/26 A
G01R31/26 B
G01K7/42 Z
G01K7/01 M
(21)【出願番号】P 2022541105
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020040733
(87)【国際公開番号】W WO2021124707
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-03-08
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】デグランヌ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ボワイエ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】モロヴ、ステファン
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-269832(JP,A)
【文献】特表2020-527729(JP,A)
【文献】特開2009-113676(JP,A)
【文献】特表2011-529188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
G01R 31/26
H01L 21/822,27/04
H02M 1/00,7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法であって、
前記パワー半導体素子上のVon、Ion、Tcの測定により少なくとも1つの安定したオンライン動作条件を検出することであって、ここで、Ionは、
前記パワー半導体素子のオン状態電圧Vonが
温度感度である電流であり、Tcは、
前記パワー半導体素子のケースの温度であることと、
前記少なくとも1つの安定した動作条件のパラメーターの少なくとも1つのセットVon、Ion、Tcを測定し、記憶することと、
計算ユニットにおいて、未知のパラメーターの第1のセットθelecを含む電気モデルTj=F(Von,Ion,θelec)の接合部温度推定Tjと、未知のパラメーターの第2のセットθmodを含
む熱モデルTjmod=G(Ion,Tc,θmod)の別の接合部温度推定Tjmodとの間の
誤差最小化計算を提供し、前記誤差の最小化をもたらすパラメーターの少なくとも1つのセットθelec及びパラメーターの少なくとも1つのセットθmodを得ることと、
Tjの前記計算された値を、前記パラメーターの計算されたセットθelec及び/又はθmodのうちの少なくとも1つ及び測定されたVon、Ion、Tcと共に提供することと、
前記パラメーターの少なくとも1つのセットθelec及び/又はθmod、及び/又はTjを記憶することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記
誤差最小化計算は、前記パラメーターのセットの様々な組み合わせを走査し、所定の限界値よりも低い誤差εを呈する組み合わせを選択するアルゴリズムを含む、請求項1に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項3】
前記誤差最小化計算は、N元連立方程式を生成するのに十分
なVon、Ion、Tc、
Ionの二乗平均平方根であるIrmsのN個のオンライン
測定値のセットを提供することであって、ここで、Nはθelec
とθmod
とを一緒にしたパラメーターの数以上であることを含み、N個の方程式を解く分析計算アルゴリズムにより未知のθelecを計算することを含む、請求項1に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項4】
前記誤差最小化計算は、前記推定されたパラメーターのセットによる、前記電気モデルと前
記熱モデルとの間の二乗誤差
のオンライン測定値
(P)のセットにわたる和を最小にする
ことを含む、請求項1に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項5】
パワーがないときに第1の測定中に一様ベクトルを初期化することと、
前記オンライン測定値間の相関時点を計算し、インクリメントし、記憶することと、
前記相関時点の逆行列と前記一様ベクトルとの積として前記推定パラメーターを特定することと、
を更に含む、請求項4に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項6】
前記電気モデルは以下の形態をとり、
【数1】
前記熱モデルは以下の
簡略化された形態をとり、
【数2】
ここで、T0は基準温度であり、V0は前記基準温度T0におけるVon電圧であり、「a」はVonの温度感度であり、Tjは
前記パワー半導体素子のダイ温度であり、Hは用いられる前記パワー半導体
の種類に応じた
Irmsの関数を定義し、IrmsはIonから推定され、Tcは測定される、請求項
1に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項7】
前記電気モデルは、或る特定のIonにおいて測定されたTj=T0+α
Ion.(Von-V0
Ion)の形態をとり、前記方法は、前記電気モデルの前記パラメーターα
Ion及びV0
Ionを推定する、請求項
1に記載の
前記誤差最小化計算を含み、ここで、α
Ionは所定の電流IonについてのVonの温度感度であり、V0
Ionは、所定の基準温度T0及び前記所定の電流Ionにおける電圧である、請求項1~5のいずれか1項に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項8】
Vonの前記温度感度は、N個の電流Ion
i
i=1:
N及び測定値のM個のセットについて定義され、ここでM≧Nであり、ここで、前記方法は、前記電気モデルによって推定されたTjと前記熱モデルによって推定されたTjとの間の誤差を最小にすることによって
V0
i
=V0
Ion
、ただし、i=1:N、を特定することを含む、請求項6又は7に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項9】
同じ電流であるが異なる動作条件における少なくとも2つの測定値を用いた電圧V0の推定を含み、少なくとも2つのセッ
トVon1,Ion1,Tc1,Irms
1及びVon2,Ion2,Tc2,Irms
2がモニタリングされ、ここでIon1=Ion2、Tc1=Tc2であり、Irms1≠Irms2であり、ここで、θelecのパラメーターは、電流Ion=Ion1=Ion2及び
前記所定の温度値T0におけるVonの値V0であり、モニタリングは、以下の手順、すなわち、
前記負荷電流が前記所定の電流に等しい(Ion=Ion1)ときに第1の時点を検出し、この第1の時点における
Von1である第1のVonを保存することと、
前記負荷電流が前記所定の電流に等しく(Ion=Ion2=Ion1)、前記ケース温度Tc2=Tc1であり、この
第2の時点におけるVonが前記第1の時点において測定されたVonと異なるとき、少なくとも第2の時点を検出し、この第2の時点における
Von2である第2のVonを保存することと、
を用いて実行される、請求項
6に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項10】
前記電流Ionは、前記ピーク又はRMS電流に対する既知の係数に比例し、前記損失モデルは、このピーク又はRMS電流の関数として表され、前記方法は、前記電気モデルと前
記熱モデルとの間の誤差の最小化に基づいて少なくとも2つの推定を生成することを含み、前記方法は、
少なくとも3つの電流Ion1、Ion2、Ion3について、少なくとも2つのセット
、Irms1、Tc1に比例するVon1、Ion
1及びIrms2、Tc2に比例するVon2、Ion
2を選択して用いるプロセスを少なくとも2回実行することによってVonの温度感度を推定することであって、ここで、Ion1=Ion2、Irms1=Irms2及びTc1≠Tc2であることと、
少なくとも3つのセット
、Irms1、Tc1に比例するVonl、Ion
1、Irms2、Tc2に比例するVon2、Ion
2及びIrms3、Tc3に比例するVon3、Ion
3を選択して用いることによって、基準温度T0及び少なくとも3つの電流Ion1、Ion2及びIon3におけるVon電圧Von01、Von02及びVon03を推定することであって、ここで、Tc1≠Tc2≠Tc3又はIrms1≠Irms2≠Irms3であることと、
を含む、請求項9に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項11】
前記少なくとも3つの電流Ion1、Ion2及びIon3は、同じ温度における3つの点(Von01,Ion1)、(Von02,Ion2)及び(Von03,Ion3)が同じ線上に位置決めされるように
前記パワー半導体素子の静的特性の線形領域において更に選択される、請求項10に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を含む、パワー半導体素子の健全性状態を推定する方法であって、前記方法は、
前記パワー半導体素子の寿命における様々な時点に実行され、ここで、前記熱モデルの前記パラメーターθmodは、少なくとも、前記時点において記憶された熱抵抗Rthを表すパラメーターを提供し、Rthの進展を用いて
前記パワー半導体素子の前記健全性状態にアクセスする、方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を含む、パワー半導体素子の健全性状態を推定する方法であって、
Vonの前記温度感度は、N個の電流Ion
i
i=1:N及び測定値のM個のセットについて定義され、ここでM≧Nであり、ここで、前記方法は、前記電気モデルによって推定されたTjと前記熱モデルによって推定されたTjとの間の誤差を最小にすることによってV0
i
=V0
Ion
、ただし、i=1:N、を特定し、前記パラメーターを推定する方法は、
前記パワー半導体素子の寿命における様々な時点に行われ、これらの時点の間に少なくとも1つのパラメーターV0iを記憶することを含み、V0iの進展を調査して
前記パワー半導体素子の健全性状態の診断手段を提供することを含む、方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を含む、
パワー半導体素子の接合部の温度を推定する方法であって、
前記パワー半導体素子の動作の第1の時点において較正を実行することを含み、前記較正は、前記第1の時点において、θelec0パラメーターの第1のセットを計算し、記憶することを含み、他の時点において、前記パラメーターの第1のセットθelec0及び前記他の時点におけるVon及びIonのオンライン測定値を用いて式Tj=F(Von,Ion,θelec)を計算し、前記他の時点における前記接合部温度を推定することを含む、方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載のパワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を含む、前記パワー半導体素子の動作の初期時点において第1の較正を実行することと、前記初期時点において、パラメーターの第1のセットθmod0を計算し、記憶することとを含み、他の時点において、このパラメーターのセットを、前記他の時点におけるVon及びIonのオンライン測定値と共に用いて式Tj=G(Ion,Tc,θmod)を計算し、前記他の時点における前記接合部温度を推定することを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の半導体素子の接合部の温度を推定する方法。
【請求項16】
前記式Tj=F(Von,Ion,θelec)は
【数3】
であり、θelecは前記パラメーターセット(f,g,h,k)である、請求項14又は15に記載の半導体素子の接合部の温度を推定する方法。
【請求項17】
パワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子のオンラインVon、Ion及びTcを感知するセンサーと、モニタリングユニットとを備えるパワーユニットであって、前記モニタリングユニットは、前記センサーから測定データを受信するための入力インターフェースと、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法を
実施するように構成された計算プロセッサ及びストレージメモリとを備える、パワーユニット。
【請求項18】
前記モニタリングユニットは、
前記パワー半導体素子の寿命中に請求項1~16のいずれか1項に記載の方法に従って
前記パワー半導体素子の接合部のパラメーターの推定をスケジューリングし、
前記パワー半導体素子の潜在的に有害なTj値及び潜在的故障を検出する測定プログラムを備える、請求項17に記載のパワーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換器等の機器におけるIGBT、ダイオード、MOSFETモジュール等のパワー半導体の接合部のパラメーターを推定して、そのようなパラメーターの調査を提供し、モニタリングシステムにおいて、そのような半導体の接合部温度、及び/又は状態及び可能性のある劣化のモニタリングを提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような半導体接合部温度等のパラメーターの推定は、パワー半導体モジュールの診断及び予測に重要である。
【0003】
熱モデルに基づくパワー半導体モジュールの温度推定は、そのようなモジュールの全ての動作条件について温度推定値をもたらすため魅力的である。しかしながら、そのような推定は、パワー半導体モジュールの正確な電力損失測定、並びにパワー半導体モジュール及び冷却アセンブリの正確な熱モデルを必要とするが、これは、実装条件及び動作条件に対するそのようなモデルの感度及び変動性に起因して事前に確立するのが非常に困難である。加えて、モジュールの熱インピーダンスが、パワーモジュールの経年劣化と共に発展することで、そのような推定が信頼性のないものとなる。
【0004】
温度感知電気パラメーター(TSEP)としての電圧Vonに基づく温度推定は、IGBT、ダイオード及びMOSFETのいずれにも適用され、動作又はゲート信号の変更を必要とせず、測定が計算間で低速で(数μs範囲)行われるため、魅力的である。しかしながら、ゼロ温度係数(ZTC)電流領域、及び/又は高電流における寄生素子の影響、及び/又は広範にわたる較正要件に起因して、全ての動作点について推定を行うことは不可能であるか又はコストが高すぎる。
【0005】
Vonは、例えば、カソード-アノード間電圧、又はドレイン-ソース間電圧、又はコレクター-エミッター間電圧である。
【0006】
ZTCに関連付けられた問題は根本的であるが、他の電流値において温度測定を行うことによって扱うことができる。寄生素子の影響に関連付けられた問題は、オンラインデータを用いた較正を行い、寄生素子が較正データ自体において検討されることにより、部分的に補償されるようにすることによって最小限にすることができる。定期的な再較正により、デバイスの経年劣化を検出し(状態モニタリング)、接合部温度の推定においてこの経年劣化を補償することができる。オンラインデータを用いた再較正の場合、通常動作が再較正中に中断される必要がない。最後に、オンラインデータを用いた較正は、関連コストも低減することができる。なぜなら、製造ラインの最後に、又は製品寿命の間に、変換器の通常動作に影響を及ぼす特殊な専用診断手順を伴う専用ルーチンが必要とされないためである。
【0007】
しかしながら、TSEPとしてのVonについてのオンラインデータを用いる較正は、Vonが主に負荷電流に依存することに起因して特に困難である。
【0008】
負荷電流が正弦波であるインバーター又は整流器において、較正は、RMS電流Irms又はピーク負荷電流Ipkと異なる、これらと無関係の電流ImeasureにおいてVonを測定することが可能であることを用いることができる。測定電流が強力に拘束され、ピーク又はRMS電流にリンクしているDC/DC変換器の場合、オンライン較正は更に一層困難である。
【0009】
非特許文献1は、現場応用における、パワーモジュールにおける条件モニタリングのためのパラメーターとして定義及び提案される仮想温度を用いる方法を開示している。しかしながら、オンライン電圧、電流及び温度を用いてモニタリングモデルを較正することは、本発明によって対処される課題として残っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Document B. Rannestad、K. Fischer、P. Nielsen、K. Gadgaard及びS. Munk-nielsen「Virtual Temperature Detection of Semi-conductors in a Mega Watt Field Converter」IEE TRANSACTIONS ON INDUSTRIAL ELECTRONICS vol. 0067, no. 2, FEBRUARY 2020
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明によって対処される問題は、パワー半導体の接合部の温度Tjと、そのようなパワー半導体にわたる電圧Von及びそのようなパワー半導体を通る電流Ionとの間の関係におけるパラメーターの推定を提供し、半導体の健全性をその寿命の間調査することである。
【0012】
本発明は、上記関係の初期パラメーターと、通常動作条件中の更なる推定によるこれらのパラメーターの進展の分析とを提供し、パワー半導体(IGBT、ダイオード、MOSFET)又はパワー半導体モジュールの劣化の推定及び/又は接合部温度の推定を可能にする較正方法を含む。
【0013】
本発明は、特に、オンラインで取得されたデータを用いて行われる較正及び推定を特に対象とする。オンラインで取得とは、変換器の通常動作中に取得されることを意味し、ここで、変換器は、DC/DC又はDC/AC型とすることができ、電流は、動作条件と共に変動し、及び/又は正弦波である。
【0014】
より厳密には、本開示は、半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を提案し、この方法は、
半導体モジュール上のVon、Ion、Tcの測定により少なくとも1つの安定したオンライン動作条件を検出することであって、ここで、Ionは、半導体のオン状態電圧Vonが温度の影響を受ける電流であり、Tcは、上記半導体素子のケースの温度であることと、
少なくとも1つの安定した動作条件のパラメーターの少なくとも1つのセットVon、Ion、Tcを測定し、記憶することと、
計算ユニットにおいて、未知のパラメーターの第1のセットθelecを含む電気モデルTj=F(Von,Ion,θelec)の接合部温度推定Tjと、未知のパラメーターの第2のセットθmodを含む損失/熱モデルTjmod=G(Ion,Tc,θmod)の別の接合部温度推定Tjmodとの間の誤差を最小にする計算を提供し、当該誤差の最小化をもたらす、パラメーターの少なくとも1つのセットθelec及びパラメーターの少なくとも1つのセットθmodを得ることと、
Tjの計算された値を、パラメーターの計算されたセットθelec及び/又はθmodのうちの少なくとも1つ及び測定されたVon、Ion、Tcと共に提供することと、
パラメーターの少なくとも1つのセットθelec及び/又はθmod、及び/又はTjを記憶することと、
を含む。方法は、半導体ダイの外部の単純なオンライン測定値に基づいて接合部温度の推定を提供する。
【0015】
組み合わせることができる実現モード又は代替形態:上記方法は、上記パラメーターのセットの様々な組み合わせを走査し、定義された限界値よりも低い誤差εを呈する組み合わせを選択するアルゴリズムを含むことができる。
【0016】
上記方法は、N元連立方程式を生成するのに十分なN個のオンラインVon、Ion、Tc、Irms測定値のセットを提供することであって、ここで、Nはθelec+θmodのパラメーターの数以上であることを含み、N個の方程式を解く分析計算アルゴリズムにより未知のθelecを計算することを含むことができる。
【0017】
方法は、推定されたパラメーターのセットが、上記電気モデルと上記損失/熱モデルとの間の二乗誤差のP個のオンライン測定値のセットにわたる和を最小にするようなものとすることができる。
【0018】
方法は、さらに、
パワーがないときに第1の測定中に一様ベクトルを初期化することと、
オンライン測定値間の相関時点を計算し、インクリメントし、記憶することと、
相関時点の逆行列と一様ベクトルとの積として推定パラメーターを特定することと、
を含むことができる。
【0019】
電気モデルにおけるTjは以下の形態をとることができ、
【数1】
熱モデルは以下の形態をとることができ、
【数2】
ここで、T0は基準温度であり、V0は当該基準温度T0におけるVon電圧であり、「a」はVonの温度感度であり、Tjはパワー半導体のダイ温度であり、Hは用いられるパワー半導体に応じた一般Tjmod方程式であり、IrmsはIonから推定され、Tcは測定される。
【0020】
電気モデルは、或る特定のIonにおいて測定されたTj=T0+αIon.(Von-V0Ion)の形態をとることができ、方法は、電気モデルのパラメーターαIon及びV0Ionを推定する較正方法を含み、ここで、αIonは所定の電流IonについてのVonの温度感度であり、V0Ionは、所定の基準温度T0及び上記所定の電流Ionにおける電圧である。
【0021】
温度感度は、N個の電流Ioni(i=1:N)及び測定値のM個のセットについて定義することができ、ここでM≧Nであり、ここで、方法は、電気モデルによって推定されたTjと上記熱モデルによって推定されたTjとの間の誤差を最小にすることによってV0i(i=1:N)を特定することを含む。
【0022】
方法は、同じ電流であるが異なる動作条件における少なくとも2つの測定値を用いた電圧V0の推定を含むことができ、少なくとも2つのセット(Von1,Ion1,Tc1,Irms1)及び(Von2,Ion2,Tc2,Irms2)がモニタリングされ、ここでIon1=Ion2、Tc1=Tc2であり、Irms1≠Irms2であり、ここで、θelecのパラメーターは、電流Ion=Ion1=Ion2及び所定の温度値T0におけるVonの値V0であり、モニタリングは、以下の手順、すなわち、
負荷電流が所定の電流に等しい(Ion=Ion1)ときに第1の時点を検出し、この第1の時点における第1のVonlを保存することと、
負荷電流が所定の電流に等しく(Ion=Ion2=Ion1)、ケース温度Tc2=Tc1であり、この異なる時点におけるVonが第1の時点において測定されたVonと異なるとき、少なくとも第2の時点を検出し、この第2の時点における第2のVonを保存することと、
を用いて実行される。
【0023】
電流Ionは、ピーク又はRMS電流に対する既知の係数に比例し、損失モデルは、このピーク又はRMS電流の関数として表され、方法は、電気モデルと損失/熱モデルとの間の誤差の最小化に基づいて少なくとも2つの推定を生成することを含み、方法は、
少なくとも3つの電流Ion1、Ion2、Ion3について、少なくとも2つのセット(Irms1、Tc1に比例するVon1、Ion1)及び(Irms2、Tc2に比例するVon2、Ion2)を選択して用いるプロセスを少なくとも2回実行することによってVonの温度感度を推定することであって、ここで、Ion1=Ion2、Irms1=Irms2及びTc1≠Tc2であることと、
少なくとも3つのセット(Irms1、Tc1に比例するVonl、Ion1)、(Irms2、Tc2に比例するVon2、Ion2)及び(Irms3、Tc3に比例するVon3、Ion3)を選択して用いることによって、基準温度T0及び少なくとも3つの電流Ion1、Ion2及びIon3におけるVon電圧Von01、Von02及びVon03を推定することであって、ここで、Tc1≠Tc2≠Tc3又はIrms1≠Irms2≠Irms3であることと、
を含むことができる。
【0024】
これは、異なる動作条件における3つの測定値を用いたV0の推定に対応することができる。ここで、Vonの温度感度:≪a≫は、N>2個の電流についてVon=V0+a.(Tj-T0)において推定され、ここで、2つの電流のみを測定し、結果を補間してN>2個の電流を得ることが可能である。N≪V0≫は、Hが線形である式V0=H(Ion)における仮説によりVon=V0+a.(Tj-T0)において電流ごとに推定される。
【0025】
少なくとも3つの電流Ion1、Ion2及びIon3は、同じ温度における3つの点(Von01,Ion1)、(Von02,Ion2)及び(Von03,Ion3)が同じ線上に位置決めされるようにパワー半導体スイッチの静的特性の線形領域において選択することができる。
【0026】
本開示は、上記パワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を含む、パワー半導体素子の健全性状態を推定する方法にも関し、方法は、パワー半導体モジュールの寿命における様々な時点に実行され、ここで、熱モデルのパラメーターθmodは、少なくとも、上記時点において記憶された熱抵抗Rthを表すパラメーターを提供し、Rthの進展を用いてパワー半導体モジュールの健全性状態にアクセスする。
【0027】
パワー半導体素子の健全性状態を推定するために、パラメーターを推定する方法は、パワー半導体モジュールの寿命における様々な時点に行われ、これらの時点において少なくとも1つのパラメーターV0iを記憶することを含み、V0iの進展を調査してパワー半導体モジュールの健全性状態の診断手段を提供することを含むことができる。
【0028】
本開示は、パワー半導体素子の接合部のパラメーターを推定する方法を含む、半導体素子の接合部の温度を推定する方法にも関し、方法は、半導体コンポーネントの動作の第1の時点において較正を実行することを含み、当該較正は、当該第1の時点において、θelec0パラメーターの第1のセットを計算し、記憶することを含み、他の時点において、パラメーターの第1のセットθelec0及び当該他の時点におけるVon及びIonのオンライン測定値を用いて式Tj=F(Von,Ion,θelec)を計算し、当該他の時点における接合部温度を推定することを含む。
【0029】
半導体コンポーネントの動作の初期時点において第1の較正を実行することと、当該初期時点において、パラメーターの第1のセットθmod0を計算し、記憶することとと、他の時点において、このパラメーターのセットを、当該他の時点におけるVon及びIonのオンライン測定値と共に用いて式Tj=G(Ion,Tc,θmod)を計算し、当該他の時点における接合部温度を推定することとにより、温度を推定することもできる。
【0030】
式Tj=G(Ion,Tc,θmod)は
【数3】
であり、θelecはパラメーターセット(f,g,h,k)であるものとすることができる。
【0031】
本開示は、パワー半導体デバイスと、当該半導体デバイスのオンラインVon、Ion及びTcを感知するセンサーと、モニタリングユニットとを備えるパワーユニットにも関し、モニタリングユニットは、上記センサーから測定データを受信するための入力インターフェースと、本開示の方法を実施するための計算プロセッサ及びストレージメモリとを備える。
【0032】
モニタリングユニットは、パワー半導体の寿命中に本開示の方法に従って較正及び測定動作をスケジューリングし、上記半導体の潜在的に有害なTj値及び潜在的故障を検出する測定プログラムを備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本開示のシステムの簡略化された概略図である。
【
図2】本開示のアルゴリズムの概略フローチャートである。
【
図3】本開示の推定プロセスの概略フローチャートである。
【
図4】本開示のTj計算プロセスの概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、
図1に概略的に示されるような半導体又は半導体モジュール1等の電力変換器コンポーネントの動作中に正確な温度値を得るプロセスを提供する。そのようなプロセスは、1つ以上のパワー半導体又は半導体モジュールのオンライン作動条件中の1つ以上の較正フェーズ及び測定フェーズを含む。
【0035】
このため、最も一般的な形式において、本発明は、電流変換器等の電子デバイス20のパワー半導体モジュール又はコンポーネント1の劣化及び/又は温度の推定を可能にする較正方法を含む。この較正方法は、IGBT、ダイオード又はMOSFET等の様々なパワー半導体デバイスに適用される。二方向コンポーネントであるMOSFETの場合、温度推定は、MOSFET自体で高ゲート電圧又は低ゲート電圧を用いた順導通又は逆導通中に、すなわちボディーダイオードの導通中に行うことができる。プロセスは、電流センサー3、電圧センサー2及びヒートシンク温度センサー4等のセンサーからの電力変換器コンポーネント1に対するそのような限られた数の信号から入力データ10を得ることに基づき、そのようなセンサーは、入力値Von、パワーコンポーネントのオン電圧Ion、そのようなコンポーネントのオン電流、及びモニタリングユニット5においてモニタリングされるそのようなコンポーネントのヒートシンクの温度Tcを提供する。モニタリングユニット5は、アナログ/デジタルインターフェース等の入力インターフェース51を用いてセンサーの信号を受信し、較正及び測定方法を実施するのに必要な計算に進むDSP、マイクロコントローラー又はマイクロプロセッサ等の計算プロセッサ52を備え、限定ではないが、本方法を実施するためのプログラムを配置することができるROM、EPROM、及び/又はSSD等のデータストレージメモリ等の不揮発性メモリ、並びに計算データを記憶することができる揮発性メモリRAMを含むストレージメモリ54を備える。モニタリングユニットは、USB、無線等の通信インターフェース55、又は表示デバイス及び/又は遠隔モニタリングシステムに接続することを可能にする任意の他の通信インターフェースも有することができる。
【0036】
上述したVonは、例えば、パワー半導体におけるカソード-アノード間電圧、若しくはドレイン-ソース間電圧、若しくはコレクター-エミッター間電圧、又はパワー半導体モジュールにおける入力-出力間電圧である。
【0037】
較正に用いられる電流Ionは、パワー半導体スイッチにおける損失の原因となるピーク又はrms負荷電流と無関係である必要がない。モニタリングユニットにおいて、
図2に表す較正プロセス100が計算され、そのような較正プロセスは、一方で、電気モデル関数13の電気関数のパラメーターを計算することを含み、他方で、損失/熱モデル12関数のパラメーターを計算することを含むことで、2つの関数の誤差の最小化16が得られる。電気関数Fは、ステップ13において計算される式Tj=F(Von,Ion,θelec)に従い、較正中に推定される必要がある式の未知のパラメーターのセットθelecを含む。
【0038】
熱関数は、Tjmod=G(Ion,Tc,θmod)であり、同様に較正中に推定される必要があるパラメーターのセットθmodを含む。
【0039】
未知のパラメーターが減算ステップ17における誤差を最小にするように適合された誤差最小化プロセス16を含む較正フェーズによりこれらのパラメーターが特定されると。そのようなプロセスにおいて、式Fのパラメーターは、2つのモデル間の誤差の最小化をもたらすように変更される。
【0040】
較正後、新たな較正が行われるまで、いくつかの後続のオンライン測定においてTj温度を調査するためにθelec及び/又はθmodパラメーターが用いられる。
【0041】
加えて、パワーモジュールの寿命中のいくつかの較正フェーズは、時間に伴うθelec及び/又はθmodパラメーターの進展をモニタリングし、パワー半導体の劣化を反映するそのようなパラメーターの異常な変動を検出するために実行される。
【0042】
図3に説明されるような較正フェーズにおける誤差の最小化の計算に進むために、プロセス又は方法は、
-安定した動作条件、例えばTcが安定化されるオンライン動作条件を検出することと、
-少なくとも1つのパラメーターセット(Von,Ion,Tc)を測定し記憶することであって、ここで、Ionは、オン状態の電圧Vonが温度の影響を受ける電流であることと、
-電気モデルによって生成された温度推定Tjと損失/熱モデルによって生成された別の温度推定Tjmodとの間の誤差を最小にするパラメーターを得る方法により、パラメーターθelec及び少なくとも1つのパラメーターθmodの少なくとも1つのセットを推定することと、
-少なくとも1つのパラメーターセットθelec及び/又はθmodを記憶することと、
を含む。
【0043】
加えて、計算された接合部を、更なる比較又は温度モニタリング又は処理のために記憶し、表示のためにモニタリングユニットに提供するか、又は遠隔モニタリングセンターに送信することができる。
【0044】
安定した動作条件の検出
安定した動作条件の検出は、モジュールの構造から既知であるように、パワー半導体のダイとケース温度センサーとの間のパワー半導体モジュールの最も高い熱時定数を上回る時間間隔にわたって変化しない動作条件を検出することによって行われ、値Tcが得られる。ケース温度センサーは、パワー半導体モジュールのベースプレート上に位置決めすることができるか(これが最も頻度が高い)、又はパワー半導体モジュールの外部のベースプレート上に位置決めすることができるか、又はパワー半導体モジュールが熱的に接続されたヒートシンク内に位置決めすることができる。時定数は、通常、0.1sを上回り、温度センサーが、例えば水冷却ヒートシンクの水温度を感知している場合、数百秒に達する可能性がある。
【0045】
動作条件は、少なくともTc自体、及びダイにおける損失を示す、半導体を通る電流Irmsによって定義される。交流電流の場合、rms電流又はピーク電流を用いることができる。基準電流、基準電圧、基準モーター速度、基準モータートルク等の他の上位レベル動作条件も、価値のある動作条件を提供するものとみなすことができる。
【0046】
測定及び記憶
(Von,Ion,Tc)データセットの測定は、少なくとも1つのVonセンサー2、1つの電流センサー3、及び1つのケース温度センサー4によって行われる。物理的センサーがない場合、推定器等の仮想センサーを用いることができる。全ての観測されるセットが以下の推定の関心対象であるわけではない。このため、測定は、以前に観測されていないか、又は最も関心があると特定されたセットのみを記憶することができる。用途によっては、所与の予め定義された電流Ionを有するセットを、最も関心が高いものとすることができるか、又はパワー半導体における損失がIrmsにリンクしているため、Von、Tc及び/又はIrmsの大きな変動を示すセットを最も関心が高いものとすることができる。
【0047】
Ionは、通常、パワー半導体がオン状態であり、Vonが取得される或る特定の時点の負荷電流である。IonはIrmsにリンクしている。Irmsは、DC-DC変換器の場合、出力DC電流であり、Irmsは、交流変換器の場合、変換器のピーク電流に関係付けられる。
【0048】
Vonセンサーは、文献内に提示される様々な種類のものとすることができる。好ましい実施態様は、直列の抵抗器及びダイオードから構成されたR-Dクランプ回路を用いている。抵抗器はダイオードが電圧をクランプするとき、デバイスオフ状態中の電流を制限する。このタイプの回路は、或る特定の時間遅延を有し、Vonは、通常、電圧の安定化又は疑似安定化後にサンプリングされる。疑似安定化の場合、オフセット(通常、数mV)がin-situ較正中に補正される。
【0049】
電気モデル
既知の電流の場合、オンラインデータを用いた較正の目的は、式(1)において値V0及び「a」を推定することとして要約することができる。「a」は温度感度であり、V0は基準温度T0における電圧である。式(1)は、温度感度「a」が一定であり、所与の電流について温度と無関係であることを想定する。これは通常、IGBTの場合に想定することができる。式(1)において、V0は、ゼロ電流電圧と、抵抗コンポーネントにおける電圧降下に対応する電圧との双方を含む。
【数4】
式(1)は以下のように書くこともできる。
【数5】
この式において、求められるパラメーターθelecは(a,V0)であり、
-「a」は、所与の電流IonにおけるVonの温度感度(mV/℃単位)である。例えば10Aにおいてa=+4mV/℃であり、
-「V0」は、絶対基準温度T0及び所与の電流IonにおけるVonの値である。例えば、10Aにおいて25℃においてV0=1.1Vである。
【0050】
電気モデルは、或る特定のIonにおいて測定されたTj=T0+αIon.(Von-V0Ion)としても表現することができる。そのような場合、較正方法は、電気モデルのθelecパラメーターαIon及びV0Ionを推定し、ここで、αIonは、所定の電流IonについてのVonの温度感度であり、V0Ionは、所定の基準温度T0及び所定の電流Ionにおける電圧である。
【0051】
IGBT及びダイオード等のいくつかのコンポーネントについて、「a」は、電流に対して線形になるように以下のように更に近似することができる。
【数6】
加えて、或る電流領域(抵抗性領域とも呼ばれる)において、V0は、ほとんどのダイオード、IGBT及びMOSFETの場合に電流に対して線形とみなすことができる。
【数7】
このため、線形性のいくつかの想定により、電気モデルによって推定される温度の方程式の1つの一般的な例は以下の通りである。
【数8】
この場合、未知のθelecパラメーターセットは(f,g,h,k)となる。式(5)は、より正確な読み値が必要とされる場合、他の式と置き換えることができ、θelecパラメーターは、そのような式のパラメーターを反映することに留意されたい。
【0052】
本開示によれば、このとき、パラメーターのセットθelecは、用いられる式の予測精度に従って1つ以上のパラメーターを有することができる。
【0053】
損失及び熱モデル
損失を識別する2つの方式が存在する。好ましい実施態様において、RMS電流が測定又は計算され、損失モデルはこの値を変数として用いる。
【0054】
通常、Ionは、ピーク電流、又はrms電流、又はIon=P1.Irms若しくはIon=P2.Ipk等のピーク若しくはrms電流に比例する値とすることができ、ここで、P1及びP2は既知であるか、又は従来技術の方法によって特定可能である。この推定は、未知のパラメーターθmodによるモデル方程式に基づく。
【0055】
このとき、Tjmodのための一般方程式は、
【数9】
として表すことができる。ここで、HはIrmsの関数を定義する。
【0056】
パワー半導体における損失は、切り替え及び導通損失を含む。定常状態熱モデルと組み合わされ、電流Irms(電流発生損失、すなわち、平均若しくはrms、又はピーク)、Von及びTcのみの関数として表されるとき、推定接合部温度Tjmodの式の1つの例は以下とすることができる。
【数10】
ここで、パラメーターセットθmod=(c,d,e)又は(c’,d’,e’)である。これらのパラメーターは、パワーモジュールの特性、その動作条件(例えば、変調指数、cosφ)、及び熱特性に依拠する。
【0057】
Vonrmsは、導通損失の観点において重要性を有し、測定されたVonから直接導出することを通常想定することができる等価のVonである。例えば、定電流を発生するDC-DC変換器の場合、Vonrms=Vonである。
【0058】
Irmsは、Ionから推定することができる。熱モデルは、通常、ΔT=Rth.lossesとなるようにワットあたりのケルビン単位の熱抵抗Rthを用いて表される。式(6a)、式(6b)は、損失を、Irms及びVonrms.Irms又はIrms2に比例する、例えばlosses=d”.Irms+e”.Irms2とみなすとき、類似している。
【0059】
本開示によれば、このとき、パラメーターのセットθmodは、用いられる式の予測精度に従って1つ以上のパラメーターを有することができる。
【0060】
モードの推定
推定は、本発明の重要なポイントであり、
図2によって紹介される。これは、損失及び熱モデルによって提供される温度推定値Tjmodを、所与の及び既知の電流Ion及び測定されたVonにおいて電気モデルTj=F(Von,Ion,θelec)によって提供される推定値と比較することに基づく。
【0061】
パラメーターセットθelecは、通常、以下を求めることを可能にする。
所与の電流IonにおけるVonの温度感度(mV/℃単位)。
絶対基準温度及び所与の電流におけるVonの値、例えば、本明細書において上記で論考したように、例えば10Aにおいて25℃においてVon=1.1V。
【0062】
用いられる式に従って推定されたθelecパラメーターセットを記憶することは、較正を、後に、θelecパラメーターが一定のままであると仮定して、後続の測定における(例えば平均化による)フィルタリング、劣化推定及び/又は温度推定に用いることができるようにするために必要である。
【0063】
このため、式(5)及び式(6a)に基づく実施態様の1つの例において、誤差εは以下のように表すことができる。
【数11】
この場合、推定方法は、θelec=(f,g,h,k)を推定し、T0は所定であり、Von,Irms,Ion及びTcは測定される。
【0064】
N個(Nは未知数の総数よりも大きい)の異なるセット(Von,Ion,Tc,Irms)が取得され、εの最小化により少なくとも未知のθelecの推定を可能にするN元連立方程式が生成される。
【0065】
図2に紹介されているように、最小化アルゴリズムの1つの例は、パラメーターの様々な組み合わせを走査し、最低誤差εを呈するか又はεが所定の制限未満であるときの組み合わせを選択することである。当然ながら、誤差最小化に基づく、より精密な方法が可能である。
【0066】
パラメーターを推定する別の方法は、ε=0(ゼロフォーシング)を用いてN元連立方程式を分析的に解くことである。簡単にするために、以下の例はこの方法に基づく。
【0067】
MMSE及び低減されたデータストレージを用いた推定
モデルパラメーターの特定のために、別の方法は、ZF(ゼロフォーシング)の代わりにMMSE(最小平均二乗誤差)を用いることにある。そのような方法は、合わせて、P個の測定値のセットにわたって2つのモデル間の二乗誤差を最小にするモデルパラメーターを得ることにある。
【0068】
例として、計算を容易にし、読みやすくするために、式(7)からのモデルは以下のように線形化することができる。
【数12】
線形化モデルのパラメーターは、一次展開=1/k;m=-h/k
2;n=-f/k;o=-g/kにより容易に達せられる。MMSEは、P個の測定値にわたって、そのようなモデル間の二次誤差Ωを最小にするモデルのパラメーターを得ることにある。
【数13】
パラメーターo、cは、アイドル状態において、基準温度T
oにおいて求めることができることに留意されたい。ここで、導通/切り替え損失がないとき、すなわち、
【数14】
であるとき、T
J=T
c=T
oである。このとき、二次誤差は、一般化された方式で
【数15】
として書くことができ、ここで、Aは、モデルパラメーターを含むベクトルであり、M
j,pは測定結果であり、Cは定数である。
【数16】
未知のモデルパラメーターa
kの最適セットAは、
【数17】
を検証しなくてはならず、ここから以下が得られる。
【数18】
ここで、b
jkは、連続測定から構築された観測時点である。
【数19】
【0069】
最適条件は、行列積として書き換えることができ、ここから所望のパラメーターセットを特定することができる。
【数20】
パラメーターAを求めることにより、式(7)におけるパラメーターを求めることが可能になる。
【0070】
MMSE方法の利点
本方法は、過去の測定値を記憶する必要がない。6×6+1個の値を得るために、時点bjk及び数Pのみを各新たな測定時に増分的に更新すればよい。この結果として必要とされるストレージが大幅に節減されることになる。
【0071】
反復的計算は非常に単純であり、処理される測定サンプルの数と無関係である。大きな測定データベースを検索することは必要なく、これによりCPUパワーの大幅な節減がもたらされる。
【0072】
行列Bが正則になるやいなや、パラメーターを推定することができる。特殊な動作条件(例えば、同じIon、異なるTc等)が発生するのを待つ必要がない。このため、モデルパラメーターの取得がより高速で、より信頼性のあるものとなる。
【0073】
Von感度の推定
再び、ε=0及びeが小さいという上記の想定を用いて式(7)を検討すると、以下の式を生成することができる。
【数21】
この単純な例は、2つの四つ組(quadruple)のみを用いて或る特定の電流におけるVonの温度感度を推定することが達成可能であることを示す。
【0074】
実際には、Vonの温度感度は、以下となるように温度差に影響を及ぼす。
【数22】
ここで、ε2は、(Von2-Von1)に比例する誤差である。較正精度を改善するために、誤差ε2を推定し、これについて補正することが理論的に可能である。これは、Von2及びVon1に関連付けられた導通損失を推定することを必要とし、これは、コンポーネントデータシート情報から提供することができるeの推定を要する。
【0075】
2つの電流値IonA及びIonBにおいて温度感度「a」を測定することにより、式(3)のパラメーターh及びkを特定することが可能になる。式(3)を想定することができない場合、例えば「a」が二次多項式を有する電流と共に変動する場合、二次誤差方法の最小化を少なくとも3回実行することによって、任意の電流値について「a」を定義することが可能になる。次に、h及びkを分析的に又は当てはめにより推定することができる。
【0076】
別の例は、1つの点における「a」の推定を、パラメーター「a」がヌルである電流であるZTC電流推定の結果と組み合わせることである。ZTC推定方法については、従来技術において記載されている。
【0077】
「a」が接合部温度Tjと共に変動する場合、本方法を最初に実行することができ、次にTj推定についてV0を実行することができ、アルファ推定の結果を、推定されたTjに対し再実現することができる。満足する結果に達するために数回の反復が必要であり得る。
【0078】
同じ電流であるが異なる動作条件において2つの測定値を用いたV0の推定
この方法において、少なくとも2つのセット(Von1,Ion1,Tc1,Irms1)及び(Von2,Ion2,Tc2,Irms2)がモニタリングされる。ここで、Ion1=Ion2、Tc1=Tc2及びIrms1≠Irms2であり、ここで、θelecは、電流Ion=Ion1=Ion2及び所定の温度値T0におけるVonの値V0である。
【0079】
この方法は、ほとんどの場合、インバーター又はPFCに適用可能であり、ここで、異なるRMS電流における動作は、電流の正弦波に起因して、同一測定電流における測定と両立できる。
【0080】
実際には、モニタリングは以下のプロトコルを用いて行われる。
-負荷電流が所定の電流に等しい(Ion=Ion1)ときに第1の時点を検出し、この第1の時点における第1のVon1を保存する。
-負荷電流が所定の電流に等しく(Ion=Ion2=Ion1)、ケース温度Tc2=Tc1であり、この異なる時点におけるVonが第1の時点において測定されたVonと異なるとき、少なくとも第2の時点を検出し、この第2の時点における第2のVonを保存する。
このため、この場合、条件Irms1≠Irms2は、条件Von1≠Von2により保証される。
【0081】
IGBT及びPINダイオード等のバイポーラデバイスの場合、所定の電流値は、通常、以下の判断基準に基づいて選択される。
-電流に対するVonの低感度、
-温度に伴うVonの感度、
-自己加熱が存在することなく較正を容易にするための、またVonに対する相互接続の寄与を制限するための低電流。
【0082】
例えば、150AのIGBTデバイスの場合、所定の電流値は、通常、1.5A(公称定格電流の1%)~15A(交渉定格電流の10%)である。
【0083】
条件Ion1=Ion2は、等式の厳密な定義でないことに留意されたい。例えば、Ion1=Ion2±10%が受容可能である。負荷電流が所定の電流値に等しいときを検出する判断基準は、例えば、負荷電流が所定の電流値の±10%で所定の電流値に等しいときとすることができる。このため、十分な検出を行うことができ、所定の電流値と負荷電流値との間の差に起因したVonにおける誤差は最小化される。
【0084】
例:
実施態様の1つの例において、式(6)及び式(7)のパラメーターc及びeは無視され、εはゼロであると想定され、以下の式が導出される。
【数23】
「a」が例えば従来の方法を用いて以前に特定されていると仮定すると、唯一の未知数は、V0及びdである。2つの四つ組によって生成される2つの式は、これらの2つのパラメーターを推定するために解くことができる系を構成する。
【0085】
異なる動作条件における3つの測定値を用いたV0の推定
この方法は、N>2個の電流について、Vonの温度感度、式(1)におけるパラメーター「a」を推定することを含む。これは、2つの電流においてVonを測定し、結果を補間して、残りのN-2個の電流を得ることにより行うことができる。
【0086】
電流ごとのN≪V0≫が、式1において式V0=H(Ion)が線形であるという仮説を用いて推定される。
【0087】
これにより、式
【数24】
又は
【数25】
に関して、N個の電流Ion
i(i=1:N)及び測定値のM個のセットについて温度感度「a」又は「α
Ion」を定義することが可能になる。ここで、M≧Nである。次に、電気モデルによって推定されるTjと上記熱モデルによって推定されるTjとの間の誤差を最小にすることによってV0
i(i=1:N)が計算され、V0
iが記憶されるか、又は基準値と比較され、接合部の可能性のある劣化が調査される。
【0088】
この方法において、少なくとも3つのセット(Von1,Ion1,Tc1)、(Von2,Ion2,Tc2)及び(Von3,Ion3,Tc3)がモニタリングされる。ここで、Ion1≠Ion2≠Ion3、及びTc1≠Tc2≠Tc3である。電流Ionがピーク又はRMS電流に対する既知の係数に比例し、損失モデルがこのピーク又はRMS電流の関数として表される場合、半導体素子の接合部の温度を推定することは、
-電気モデルと損失/熱モデルとの間の誤差の最小化に基づいて少なくとも2つの推定を生成すること、
-少なくとも3つの電流Ion1、Ion2、Ion3について、少なくとも2つのセット(Irms1、Tc1に比例するVon1、Ion1)及び(Irms2、Tc2に比例するVon2、Ion2)を選択して用いるプロセスを少なくとも2回実行することによってVonの温度感度を推定することであって、ここで、Ion1=Ion2、Irms1=Irms2及びTc1≠Tc2であること、
-少なくとも3つのセット(Irms1、Tc1に比例するVonl、Ion1)、(Irms2、Tc2に比例するVon2、Ion2)及び(Irms3、Tc3に比例するVon3、Ion3)を選択して用いることによって、基準温度T0及び少なくとも3つの電流Ion1、Ion2及びIon3におけるVon電圧Von01、Von02及びVon03を推定することであって、ここで、Tc1≠Tc2≠Tc3又はIrms1≠Irms2≠Irms3であること、
を用いて行われる。この方法は、或る特定の動作範囲における一定のDC電流に起因して、異なるRMS電流における動作が同一測定電流における測定値と両立できないDC/DC変換器に適用可能である。しかしながら、負荷電流は、熱安定化が可能になるのに十分に長い時間の間、変動し、3つの別個の値を呈するはずである。
【0089】
例:
以下の例において、基準温度T0(4)における線形静的特性曲線の想定が用いられる。換言すれば、基準温度T0について、3つの電流Ion1、Ion2及びIon3において測定される3つのVon値は、V(I)グラフにおける線上に位置決めされる。これは以下の式に変換される。
【数26】
【0090】
ここで、Von01は、基準温度T0及び電流Ion1におけるVonであり、Von02は、基準温度T0及び電流Ion2におけるVonであり、Von03は、基準温度T0及び電流Ion3におけるVonである。
【0091】
これは、静的曲線における抵抗領域を想定する。これは、通常MOSFETにおいて存在し、IGBT及びダイオードにおいても十分に高い電流で存在する。この関係がより複雑であり、より高次の多項式によって表すことができる場合、追加の未知数を特定するために更なる測定が行われなくてはならない。
【0092】
ここで、3つの異なる電流値において、式(1)におけるようにVonの温度感度を以下のように表す。
【数27】
a1、a2及びa3は、例えば上記で提示した方法によって得られる。
【0093】
Ion=Irmsを有し、熱モデルの線形性を想定する(すなわち、式(6)及び式(7)のパラメーターc及びeが無視される)DC/DC変換器の場合、以下の3つの式を表すことができる。
【数28】
7つの未知数(Von01,Von02,Von03,Tj1,Tj2,Tj3,d)及び7つの式(11)~式(13)の系を解くと、パラメーターdは以下のように表すことができる。
【数29】
このため、3つの電流Ion1、Ion2及びIon3について、温度Tj1、Tj2及びTj3は、式(13)を用いて推定することができ、基準温度T0における電圧Von01、Von02及びVon03は、式(12)を用いて推定することができる。
【0094】
実際には、等温静的特性は必ずしも線形でない。いくつかのIGBTの場合等、場合によっては、これは以下のような冪乗則の形態で動作領域における最小誤差を用いて表すことができる。
【数30】
追加のパラメーターαは、例えば、事前較正を用いて求めることができる。
【0095】
加えて、ゼロ電流における温度増加cが無視できないが、以前の較正から既知である場合、これは容易に式(14)の定義に組み込むことができる。
【0096】
全体的に、提示された実施態様がより一般的な方法の例にすぎないことを示す目的で、式(14)は、a及びcを追加して以下のように表すことができる。
【数31】
ここで、Von1、Von2、Von3は、提示の理由からV1、V2、V3と意図的に置き換えられた。
【0097】
劣化の推定
計算されたパラメーターは、パワー半導体モジュールの経年劣化により進展しやすい。例えば、上側メタライゼーション、又は上側相互接続(例えば、ワイヤボンド)、又は下側相互接続(例えば、はんだ)の劣化は、誤差の最小化をもたらすパラメーターθelec及び/又はθmodを変化させる場合がある。ゲート酸化膜劣化等の半導体ダイの劣化又はセルパッシベーションも、パラメーターθelec及び/又はθmodの進展につながる場合がある。
【0098】
例えば、式(1)の単純化された例において、高電流におけるV0は、式(4)におけるfの増大の結果としてワイヤボンドが剥がれると共に変化する可能性が高い。例えば、式(6a)を用いた例において、c、d及びeは、熱経路に影響を及ぼすことが知られているはんだ劣化と共に変化する可能性が高い。
【0099】
最初に記憶されたθelec及び/又はθmodのデータを、半導体の寿命によるθelec及び/又はθmodのデータと比較することにより、変動が或る特定の制限を超えているときに警告を提供することが可能になる。
【0100】
温度の推定
図4によれば、
図3の較正方法100を用いて、第1の時点200におけるモニタリング中の較正データθ及びパラメーターのセットが得られる。このパラメーターのセット並びに別の時点220におけるVon及びIonのオンライン測定値を、式Tj=F(Von,Ion,θelec)と共に用いて、上記別の時点における接合部温度Tjが推定される。タイムカウンタ又はkWhカウンタ等のカウンタ210は、パワーコンポーネントの寿命中に更なる再較正及び新たな測定プロセスを開始する。
【0101】
これらの測定は、過去の値を記憶し、これを実際の値と比較するモニタリングユニット5において行うことができるか、又はいくつかのユニットのデータを記憶し、そのようなユニットにメンテナンス警告を提供するモニタリングセンターにおいてリモートで行うことができる。
【0102】
本発明の応用形態は、風力タービン電流変換器、又は電気自動車において用いられるもの等のモーター又は発電機のための任意の他のハイパワー電圧又は電流変換器とすることができる。