IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エンテックアジア株式会社の特許一覧

特許7262683ガラス繊維と熱融着性バインダー繊維を使用した鉛蓄電池用不織布
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】ガラス繊維と熱融着性バインダー繊維を使用した鉛蓄電池用不織布
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20230414BHJP
   H01M 4/20 20060101ALI20230414BHJP
   D04H 1/4218 20120101ALI20230414BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20230414BHJP
   D04H 1/542 20120101ALI20230414BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/20 Z
D04H1/4218
D04H1/541
D04H1/542
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022559948
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2022020140
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021084580
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】322003570
【氏名又は名称】エンテックアジア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100118094
【弁理士】
【氏名又は名称】殿元 基城
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】森 圭太
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌司
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-068494(JP,A)
【文献】特開2007-317405(JP,A)
【文献】特表2004-535047(JP,A)
【文献】国際公開第2021/171916(WO,A1)
【文献】特開2015-067928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0256823(US,A1)
【文献】国際公開第2020/080422(WO,A1)
【文献】特開2007-311333(JP,A)
【文献】特許第6920574(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14-23
D04H 1/4218
D04H 1/541
D04H 1/542
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロガラス繊維と熱融着性バインダー繊維とからなる鉛蓄電池用ペースティングマットであって、20kPaに加圧した時の厚さが0.02mm以上、0.1mm未満であり、5~10kPaの加圧下で、温度70~90℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしが接着する接着強度が0.05N未満である鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項2】
5kPaの加圧下で、温度70℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしの接着強度が0.05N未満である請求項1記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項3】
10kPaの加圧下で、温度70℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしの接着強度が0.05N未満である請求項1記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項4】
10kPaの加圧下で、温度90℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしの接着強度が0.05N未満である請求項1記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項5】
前記ペースティングマットの引張強度が、5N/10mm以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項6】
前記熱融着性バインダー繊維が、芯鞘構造を有する有機繊維であって、鞘部が結晶性の熱融着性ポリオレフィン系樹脂または結晶性の熱融着性ポリエステル系樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項7】
前記熱融着性バインダー繊維の繊度が2.2dtex以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項8】
5kPa以上の加圧を掛けて巻かれている捲回体である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項9】
前記熱融着性バインダー繊維の配合量が、3.0重量%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項10】
前記マイクロガラス繊維の数平均繊維径が4.5μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項11】
前記マイクロガラス繊維の数平均繊維径が2μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項12】
前記マイクロガラス繊維と前記熱融着性バインダー繊維の配合量の合計が60重量%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマット。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用ペースティングマットを使用した鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用に使用される不織布の改良に関する。より詳細には、マイクロガラス繊維と熱融着性バインダー繊維を使用した不織布(ペースティングマット)の電池製造に関わる課題を解決することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用鉛蓄電池は、満充電時の水の電気分解で発生するガスによって電解液が攪拌され、電解液の混合が起こり、電池内の電解液の比重を均一に保っていた。
しかし、近年の自動車用鉛蓄電池では、アイドリングスタートストップシステム(以後、ISSとする)の普及により、電池の使用状況が、従来のエンジンスタートにのみ電力が使用されるのではなく、エンジンスタートの他に、エンジンストップ時の電装システムへの電力供給も行っており、これまで以上に充放電サイクルが頻繁に行われている。
同時に、電池は常に満充電の状態になっていないため、電気分解で発生するガスによる電解液の混合が起こらず、電池内で電解液の比重差が発生し(電解液の成層化現象:以後、成層化とする)、電池寿命を低下させている要因になっている。
【0003】
一般的な自動車用鉛蓄電池ではペースト式鉛蓄電池が使用されている。この製造工程において、極板に鉛ペーストを塗り込んだ後の、製造プロセス間(貼り付け工程、キュア工程、熟成工程、組み立て工程)における鉛ペーストの脱落防止や、電池組立時の作業性の面から、パルプ素材を主体としたペースティングペーパーが支持体として使用されている。
しかしながら、パルプ素材を主体としたペースティングペーパーでは、電池使用時には電解液である硫酸によって分解されてしまうために、成層化を抑制することはできない。
そのため、成層化を抑制するための一つの方法として、電解液である硫酸に耐性のあるマイクロガラス繊維を主体とした、湿式法で作られた不織布(ペースティングマット)がペースティングペーパーの代わりに使用されている。
【0004】
このように、ペースティングマットとは、電池極板製造工程における極板格子体に活物質ペーストを塗り込める際に、極板格子体からの活物質ペーストの脱落を防止する目的で、極板格子体に接着させて使用されるマイクロガラス繊維を使用した不織布である。従来は、パルプ製の極薄(厚さ0.1mm以下)のペースティングペーパーが使用されていたが、近年では、単なる活物質の脱落防止機能の他に電池性能を向上させる目的で、マイクロガラス繊維を使用したマット材(ペースティングマット)がペースティングペーパーの代わりとして使用されてきている。
【0005】
自動車用鉛蓄電池は、コスト競争が激しくなっており、電池製造における生産タクトの改善は不可欠である。そのため、ペースティングマットにおいても高強度化が求められている。
一般的に、鉛蓄電池用セパレーターであるマイクロガラス繊維を使用した不織布(AGM:Absorbent Glass Mat)では、熱融着性バインダー繊維を利用することで、引張強度(シート強度)を改善することができる。
特許文献1では、熱融着性バインダー繊維として、PET/PE芯鞘タイプ、パルプ状PE繊維、共重合PET繊維(CoPET全融タイプ)およびこれらを組み合わせた物が使用されており、引張強度の改善やギアシール性の改善が記載されている。
また、特許文献2では、熱融着性バインダー繊維として、PET/CoPET、PP/PE、PET/PE、PET/CoPET等の芯鞘タイプが使用されており、不織布の引張強度の改善や通気度のばらつきを抑えることが記載されている。
また、特許文献3では、熱融着性バインダー繊維として、CoPET全融タイプやPET/CoPET芯鞘タイプが使用されており、不織布の引張強度や切断性の改善が記載されている。
この様に、鉛蓄電池用セパレーターであるマイクロガラス繊維を使用したAGMセパレーターでは、様々な熱融着性バインダー繊維を利用して引張強度を改善することは一般的であり、マイクロガラス繊維を使用するペースティングマットにおいても、これら熱融着性バインダー繊維が使用されている。
【0006】
一般的に、鉛蓄電池に使用されるペースティングマットの厚さは、ペースティングマットの引張強度(シート強度)と電解液の成層化抑制の観点から、0.1mm以上のものが使用されている。一方で、鉛蓄電池の電池設計における極板間隔は、充放電反応への影響を考慮して固定されているため、ペースティングマットの厚さに応じて、極板を隔離するために使用されるセパレーターの厚さを減少させる必要があり、電解液の成層化抑制の観点から問題があった。
そのため、ペースティングマットの厚さは、鉛蓄電池の充放電反応の低下を抑制するために、電解液の成層化を抑制できる程度に、より薄い方が望ましいとされている。
【0007】
一般的に、AGMセパレーターは電池の組み立て(電槽挿入)前に使用されるが、ペースティングマットは極板格子体に活物質ペーストを塗布する際に使用され、その後極板のキュア工程、極板熟成工程を経た後にセパレーターと共に電池に組み込まれることになる。
熱融着性バインダー繊維を使用したペースティングマットでは、重ねあわせておいた極板のペースティングマットどうしの表裏面が接着し、極群組み立て工程における極板のスタッキング時の打ち出し不良や、ペースティングマットの表層剥離により、ペースティングマットそのものの効果を損なうという不具合が生じることがあった。
【0008】
また、一般的に、鉛蓄電池に使用されるペースティングマットは、ロール状に捲回された状態で納入されており、巻き戻して使用する際にも、表裏面が接着して表層剥離が発生して不具合が生じることもあった。
ペースティングマットの巻き戻し時の表裏接着を起こす現象として、ペースティングマットの捲回圧力と製品輸送から保管ならびに実際の電池製造時における使用までの温湿度環境(条件)が影響を及ぼしていると考えられる。
一般的に、鉛蓄電池に使用されるペースティングマットを含む不織布は、ロール状に捲回された状態で納入されており、捲回するときの加圧は、捲回状態が崩れないようにするため、5kPa以上の加圧を掛けている。
そして、輸送時においては、コンテナーによる長期輸送や仕向地によっては、赤道を通る高温多湿の条件となり、赤道付近でのコンテナー内の温度は、70℃にまで上昇すると言われている。
また、電池メーカーにおける保管状況も、地域や会社によりその温湿度環境(条件)が大きく異なることは言うまでもない。
さらに、ペースティングマットの使用に際しては、極板格子体に活物質ペーストを塗布する際に使用され、その後、極板は、ペースティングマットが重なり合うように積み重ねられ、熟成工程へ運ばれる。この時にペースティングマットに掛かる荷重は、10kPa以上となっている。熟成工程では、最大で温度90℃、湿度95%の条件で処理される(例えば、特開2018-133135号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5160285号公報
【文献】特許第6518094号公報
【文献】特開2018-37335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、これらの過酷な条件(捲回時の加圧、輸送・保管・製造時の高温、多湿)下でも不織布(ペースティングマット)どうしの接着による剥離が生じない、かつ、鉛蓄電池の充放電反応の低下を抑制するために厚さの薄い不織布(ペースティングマット)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)は以下の特徴を有する鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)である。
(1)マイクロガラス繊維と熱融着性バインダー繊維とからなる鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)であって、20kPaに加圧した時の厚さが0.02mm以上、0.1mm未満であり、5~10kPaの加圧下で、温度70~90℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしが接着する接着強度が0.05N未満である鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(2)5kPaの加圧下で、温度70℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしの接着強度が0.05N未満である、上記(1)記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(3)10kPaの加圧下で、温度70℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしの接着強度が0.05N未満である、上記(1)記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(4)10kPaの加圧下で、温度90℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしの接着強度が0.05N未満である、上記(1)記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(5)前記ペースティングマットの引張強度が、5N/10mm以上である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(6)前記熱融着性バインダー繊維が、芯鞘構造を有する有機繊維であって、鞘部が結晶性の熱融着性ポリオレフィン系樹脂または結晶性の熱融着性ポリエステル系樹脂である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(7)前記熱融着性バインダー繊維の繊度が2.2dtex以下である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(8)5kPa以上の加圧を掛けて巻かれている捲回体である、上記(1)~(7)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(9)前記熱融着性バインダー繊維の配合量が、3.0重量%以上である、上記(1)~(8)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(10)前記マイクロガラス繊維の数平均繊維径が4.5μm以下である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(11)前記マイクロガラス繊維の数平均繊維径が2μm以下である、上記(1)~(10)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(12)前記マイクロガラス繊維と前記熱融着性バインダー繊維の配合量の合計が60重量%以上である、上記(1)~(11)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)。
(13)上記(1)~(12)のいずれかに記載の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)を使用した鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0012】
上述のような過酷な条件(捲回時の加圧、輸送・保管・製造時の高温、多湿)下でも不織布(ペースティングマット)どうしの接着による剥離が生じない不織布(ペースティングマット)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)は、マイクロガラス繊維および熱融着性バインダー繊維を主体として湿式抄造したものであり、前記マイクロガラス繊維および前記熱融着性バインダー繊維の他に、耐酸性、耐酸化性に優れた、シリカ等の無機粉体や、セルロース、カーボン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、非熱融着性ポリエステル繊維等の非熱融着性の有機繊維あるいは樹脂を含有していてもよい。
前記熱融着性バインダー繊維と共に、熱融着性を持たないモノフィラメント状有機繊維を配合することで、不織布(ペースティングマット)の圧縮破断強度(せん断力)を高めることができ(例えば、特許第4261821号公報参照)、更に良好な不織布(ペースティングマット)を得ることができる。
その他、熱融着性を持たない材料との種々の組み合わせによる複合効果を得ることも期待できる。
【0014】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)に用いられる、前記マイクロガラス繊維としては、鉛蓄電池用セパレーターと同様に硫酸中で使用されることから、Cガラス繊維が好まれるが、耐酸性を有するガラス繊維であればこの限りではない。
前記マイクロガラス繊維の繊維径については、組み合わせる前記熱融着性バインダー繊維やその他の副材料によっても異なるが、ペースティングマットの機能である成層化抑制の観点からは、数平均繊維径が4.5μm以下であることが好ましい。また、ISS向けの鉛蓄電池で使用される等で成層化抑制をより改善する必要がある場合、数平均繊維径が2μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)に用いられる、前記熱融着性バインダー繊維の合成樹脂成分としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフルオロエチレン樹脂などの合成樹脂であり、このうち熱溶融成分となるものは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、熱融着性のポリエステル樹脂である。
本発明においては、引張強度(シート強度)の改善効果の観点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、低融点結晶性ポリエステル樹脂などの結晶構造の強い熱融着性の樹脂が好ましく用いられ、ポリエチレン樹脂がより好ましい。
変性ポリエチレン樹脂、変性ポリエステル樹脂などの非結晶性の熱融着性の樹脂、具体的には、ポリエチレン共重合体(CoPE)や共重合ポリエチレンテレフタレート(CoPET)の場合、接着性が強すぎるため、捲回時の加圧や輸送、保管、製造時における高温、多湿条件下で、重ねあわせられた不織布(ペースティングマット)どうしが表面接着し、引き剥がし時に不織布(ペースティングマット)の表層剥離を引き起こすなどの不具合を生じることとなり好ましくない。
前記熱融着性バインダー繊維の繊維径としては、繊維径が太くなると不織布(ペースティングマット)に含まれる熱融着性バインダー繊維の本数が少なくなるため、引張強度の観点から繊度が2.2dtex以下の熱融着性バインダー繊維が好ましい。
【0016】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)に用いられる、前記熱融着性バインダー繊維としては、芯鞘構造を有するものが引張強度(シート強度)の改善効果が高く好ましい。
この場合、芯部はポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂などの通常用いられる樹脂で良いが、耐酸性を有し、融点が160℃以上のものが好ましい。
鞘部はポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、低融点結晶性ポリエステル樹脂などの結晶性の熱融着性の樹脂が好ましく、非結晶性の熱融着性の樹脂であるポリオレフィン系樹脂や変性ポリエステル樹脂など、具体的には、ポリエチレン共重合体(CoPE)や共重合ポリエチレンテレフタレート(CoPET)の場合、接着性が強すぎるため、捲回時の加圧や輸送、保管、製造時における高温、多湿条件下で、重ねあわせられた不織布(ペースティングマット)どうしが表面接着し、引き剥がし時に不織布(ペースティングマット)の表層剥離を引き起こすなどの不具合を生じることとなり好ましくない。
【0017】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)において、前記熱融着性バインダー繊維の配合量は、3.0重量%以上が好ましく、5.0重量%以上がより好ましく、12重量%以上がさらに好ましい。
3.0重量%未満では、不織布(ペースティングマット)の引張強度(シート強度)が不足する。
また、前記熱融着性バインダー繊維の配合量は、40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましい。
40%を超える場合には、電解液を保持する力が低下し、充電時に極板から放出される硫酸を保持しきれなくなって、電解液の成層化を引き起こすこととなる。
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)において、前記マイクロガラス繊維と前記熱融着性バインダー繊維の配合量の合計は、60重量%以上が好ましく、65重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0018】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)において、不織布(ペースティングマット)の厚さは、0.02~0.1mm未満であることが好ましく、0.03~0.1mm未満であることがより好ましい。
不織布(ペースティングマット)の厚さが0.02mm未満になると、極板格子体に活物質を塗り込める際に使用するぺースティングマットの中に活物質が浸透し、実質的に電解液を保持する層を有さないこととなるため、成層化を抑制するための機能が著しく低下することから、現在のISSの使用環境では不織布(ペースティングマット)の厚さは0.02mm以上であることが望まれている。
また、0.02mm未満の厚さになると、引張強度(シート強度)を維持するために熱融着性バインダー繊維の配合比率を高くする必要があり、不織布(ペースティングマット)中に含まれる密度も高くなることから、不織布(ペースティングマット)表面に配置される熱融着性バインダー繊維の本数も多くなる。その結果、重ね合わせた際の熱融着性バインダー繊維の接着交点の数も著しく多くなるため、表面剥離を発生し易くなることから、不織布(ペースティングマット)の厚さは0.02mm以上であることが望ましい。
一方、一般的な自動車用の鉛蓄電池では、正極と負極の間隔(極間)が1.5mm程度以下であることから、不織布(ペースティングマット)の厚さが厚すぎるとセパレーターの使用が困難になるため、厚さは0.1mm未満に抑える必要がある。
また、最近の自動車用の鉛蓄電池では極間は1.0mm以下となっていることから、不織布(ペースティングマット)の厚さは0.02mm以上から0.1mm未満であることが望ましい。さらに、極板への活物質を塗り込める際に不織布(ペースティングマット)への活物質の浸透を考慮した場合、不織布(ペースティングマット)の厚さは、0.03mm以上から0.1mm未満であることが望ましい。
【0019】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)において、不織布(ペースティングマット)の引張強度(シート強度)は、一般的な電池製造工程で問題無く使用するために、引張強度が2.5N/10mm以上であることが好ましく、今後の生産性向上の観点から考えると、引張強度は5.0N/10mm以上であることが望ましく、さらに7.5N/10mm以上であることがより望ましい。
引張強度が2.5N/10mmを下回ると、電池の組み立て性能、充放電反応時の基本物性が低下し、電池寿命が低下する。
【0020】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)において、不織布(ペースティングマット)の最大細孔径は、電解液の成層化抑制の観点から100μm未満であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)において、不織布(ペースティングマット)の伸び率の範囲が2.0%以上、9.0%未満の範囲内にあることが好ましく、2.5%以上、7.5%以下の範囲内にあることがより好ましい。
鉛蓄電池使用時の充放電反応においては、電解液の吸収、リリースが繰り返されるため、不織布(ペースティングマット)の膨張・収縮を伴う。
また、鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)は主として出荷時にロール形状にて出荷され、電池組み立て時に、ロールから不織布(ペースティングマット)が引張り出されて使用される。そのため、室温条件で測定された鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)の伸び率が9.0%以上になる場合、鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)を引張り出す際の力により、鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)が伸ばされ、不織布(ペースティングマット)の幅方向並びに厚さ方向の寸法が変化する。
このような場合、電池の電極の側面短絡防止のために設定された極板間隔とその寸法が変化することで、早期の電池短絡の原因になる。
また、電池組み立て時に、ロールから不織布(ペースティングマット)が引張り出されて使用される時、伸び率が2.0%未満の場合、不織布(ペースティングマット)に割れが生じ、製品不良となり出荷できなくなってしまう。
【実施例
【0022】
以下に実施例、参考例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の原料を使用して、実施例1~17、参考例1~2、および比較例1~14の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)を作成した。
【0023】
[配合原料]
(1)マイクロガラス繊維
日本板硝子(株)製 CMLF-208、数平均繊維径0.8μm
(2)非接着性モノフィラメント状有機繊維
(株)クラレ製 EP133-5、ポリエチレンテレフタレート、繊度1.45dtex
(3)熱融着性バインダー繊維
A:ユニチカ(株)製 メルティ6080、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリエチレンテレフタレート、鞘:ポリエチレン)、繊度1.50dtex
B:ダイワボウ製 PZ08-5、1成分全融タイプ(ポリプロピレン)、繊度0.80dtex
C:ユニチカ(株)製 キャスベン8080、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリエチレンテレフタレート、鞘:ポリエチレンテレフタレート)、繊度1.10dtex
D:宇部興産(株)製 RCE 1.7、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリプロピレン、鞘:低融点ポリエチレン)、繊度1.70dtex
E:ユニチカ(株)製 メルティ4000、1成分全融タイプ(共重合ポリエチレンテレフタレート)、繊度2.20dtex
F:ユニチカ(株)製 メルティ4080、2成分芯鞘タイプ(芯:ポリエチレンテレフタレート、鞘:共重合ポリエチレンテレフタレート)、繊度1.22dtex
【0024】
[不織布(ペースティングマット)の作製]
実施例1~17、参考例1~2、および比較例1~14の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)を、表1~2で示される配合に従って、次の手順で作製した。
原料を業務用ミキサー(Panasonic製 MX-152SP)の容器に7~10g程度入れ、pH3の硫酸酸性水を約1000ml加えて60秒間離解(回転数:約9700rpm)した。スラリー状の試料液を実験用の角型シートマシンに入れ、更にpH3の硫酸酸性水を加えて濃度0.25重量%になるように均一に攪拌した後にシート化した。箱型乾燥機を用いて温度180℃にて30分間加熱乾燥させて鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)を作製した。シートを乾燥させる際には、乾燥機内に水蒸気が籠らないように注意した。
【0025】
[試験および評価方法]
上記実施例、参考例および比較例に対して、下記の条件で評価を行い、その結果を表1~2にまとめて示した。
(1)重量(g/m
作製した不織布(ペースティングマット)を100mm×100mmの大きさに切断したものを試験片とし、その10枚の重量を電子天秤で測定して、重量(g/m)を算出した。
(2)厚さ(mm)
作製した不織布(ペースティングマット)を100mm×100mmの大きさに切断したものを試験片とし、その10枚を重ねて、鉛蓄電池用AGMセパレーターの電池工業会規格SBA S 0406-2017年版7.2.2.b)項の図1に記載の「厚さ測定用具」を用いて測定を行った。
(3)見掛け密度(g/cm
鉛蓄電池用AGMセパレーターの電池工業会規格SBA S 0406-2017年版7.2.3項記載の方法に基づいて測定を行い、下記計算式により算出した。
見掛け密度(g/cm)=[重量(g/m)]÷[厚さ(mm)]÷1000
(4)引張強度(N/10mm
測定は、鉛蓄電池用AGMセパレーターの電池工業会規格SBA S 0406-2017年版7.2.7項記載の方法に基づいて、以下の手順で行った。
作製した不織布(ペースティングマット)を10mm×70mmの大きさに切断して試験片とし、引張試験機(チャック間50mm、引張速さ200mm/分)を用いて測定を10回繰り返して行い、その平均値を算出して、引張強度(N/mm)とした。
(5)接着強度(N)
a.試験条件は、「温度:70℃、湿度:75%、5kPa加圧条件下で48時間放置」、「温度:70℃、湿度:75%、10kPa加圧条件下で48時間放置」、「温度:90℃、湿度:75%、10kPa加圧条件下で48時間放置」の3条件とした。
b.作製した不織布(ペースティングマット)を切断(5kPa加圧:100mm×100mm、10kPa加圧:70mm×70mm)して試料(各2枚を1セット)とした。
c.前処理として、試料(2枚1セット)を試験条件と同一の温湿度条件に設定した恒温恒湿槽内に1時間放置した。
d.前処理した試料(2枚1セット)を上質紙(試料と同じ大きさに切断したもの)2枚で挟み、さらにアクリル板(120mm×120mm×厚さ10mm)2枚で挟んだ後、試験条件の温湿度条件に設定した恒温恒湿槽内に入れ、所定の重り(5kPa加圧:5Kg、10kPa加圧:10Kg)をアクリル板の上に乗せた。
e.48時間放置後に恒温恒湿槽から試料を取り出し、接着強度を測定した。
f.接着強度は、JIS L3416:2000の「面ファスナー 7.4.2はく離強さ」に準じ、以下のように測定した。
処理後の試料から、幅25mmの試験片を接着された状態のまま採取し、接着した部分50mmの「接着強度」をオートグラフ((株)島津製作所製)を用いて測定して最大値を取り、合計6測定の結果の平均値を求めた。
試験片をつかみに装着するまでに接着状態を維持できない場合、「接着強度」を「0.00」とした。
(6)表層剥離(「無」・「モモケ」・「剥離」)
表層剥離の状態は、接着状態の試料(2枚1セット)を手で剥がした際に、どちらかの試料表面におけるモモケ、および表層剥離の有無を目視で確認することによって行った。
不織布(ペースティングマット)のいずれかの表面に、こすれてできるような毛状のものが確認できた場合、「モモケ」とした。
不織布(ペースティングマット)のいずれかの表面に、剥がれとれた部分を確認できた場合、「剥離」とした。
「モモケ」および「剥離」のいずれも確認できなかった場合、「無」とした。
【0026】
このような実施例1~17、参考例1~2、および比較例1~14の評価結果を、表1~2にまとめて示した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表1~2で示される実施例1~17、参考例1~2、および比較例1~14の試験結果から、不織布(ペースティングマット)どうしの接着による剥離を防止するため、不織布(ペースティングマット)どうしの接着条件として5kPa、または10kPaの加圧下、温度70℃、または90℃、湿度75%の条件下で48時間、恒温恒湿槽内に放置した後の状態を確認し、当該接着条件下でも引き剥がし時の表層に剥離が生じない、かつ接着強度が0.05N未満の熱融着性バインダー繊維の種類を特定することができた。
また、接着強度が0.05N未満を示したものの表層は、「剥離」が生じていなかった。これは、不織布(ペースティングマット)自体がもつ強度よりも接着する強度が小さいため、「剥離」が生じないものと推測される。
また、「モモケ」が発生したものについては、電池性能に与える影響はほとんどないと考えられるが、生産工程で問題が発生する可能性もあり、ない方がより好ましい。
【0030】
表1~2で示される実施例1~17、参考例1~2、および比較例1~14の試験結果から、本発明の鉛蓄電池用不織布(ペースティングマット)は、捲回による圧力、および/または輸送・保管・電池製造時における温湿度条件においても、不織布(ペースティングマット)どうしの表裏面が接着して引き起こされる表層剥離が起こらず、品質不具合と生産ロスを引き起こすことのない不織布(ペースティングマット)を提供することができることが確認できた。
【要約】
【課題】過酷な条件(捲回時の加圧、輸送・保管・製造時の高温、多湿)下でも不織布(ペースティングマット)どうしの接着が起こらない不織布(ペースティングマット)を提供すること。
【解決手段】マイクロガラス繊維と熱融着性バインダー繊維とからなる鉛蓄電池用ペースティングマットであって、20kPaに加圧した時の厚さが0.02mm以上、0.1mm未満であり、5~10kPaの加圧下で、温度70~90℃、湿度75%の環境下に48時間放置したときの、前記ペースティングマットどうしが接着する接着強度が0.05N未満である鉛蓄電池用ペースティングマット。
【選択図】なし