(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ガラスロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/245 20060101AFI20230417BHJP
B65H 20/02 20060101ALI20230417BHJP
B65H 7/20 20060101ALI20230417BHJP
B65H 23/18 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C03C17/245 A
B65H20/02 Z
B65H7/20
B65H23/18
(21)【出願番号】P 2019108654
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】森 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆義
(72)【発明者】
【氏名】稲山 尚利
(72)【発明者】
【氏名】山城 陸
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031539(JP,A)
【文献】特開2013-049876(JP,A)
【文献】特開2016-041630(JP,A)
【文献】特開2014-051429(JP,A)
【文献】特開2018-188320(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102836(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090693(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/245
C03C 17/09
C03C 17/34
B65H 20/02
B65H 7/20
B65H 23/18
C23C 14/34
C23C 14/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻出装置から送り出された第一ガラスフィルムに加熱成膜装置によって機能性膜を形成することで第二ガラスフィルムを形成し、前記第二ガラスフィルムを巻取装置によって巻き取ることでガラスロールを製造する方法において、
前記第一ガラスフィルムの始端部に連結された第一リードフィルムを、前記巻出装置から送り出して前記加熱成膜装置を通過させた後に前記巻取装置に巻き取らせる開始準備工程と、
前記第一リードフィルムが前記加熱成膜装置を通過した後に、前記加熱成膜装置により前記第一ガラスフィルムに機能性膜を形成する成膜工程と、を備え、
前記開始準備工程は、前記加熱成膜装置を成膜温度まで昇温させる昇温工程を備え、
前記加熱成膜装置が前記成膜温度まで昇温する前に、前記第一ガラスフィルムが前記加熱成膜装置に到達することを特徴とするガラスロールの製造方法。
【請求項2】
前記昇温工程は、前記第一ガラスフィルムと前記第一リードフィルムとの連結部が前記加熱成膜装置を通過した後に開始する請求項1に記載のガラスロールの製造方法。
【請求項3】
前記昇温工程における前記加熱成膜装置の昇温中に、前記第一ガラスフィルムが前記加熱成膜装置に到達する請求項1に記載のガラスロールの製造方法。
【請求項4】
前記第一ガラスフィルムの終端部に連結された第二リードフィルムを、前記巻出装置から送り出して前記加熱成膜装置を通過させた後に前記巻取装置に巻き取らせる終了準備工程を備え、
前記終了準備工程は、前記加熱成膜装置を降温させる降温工程を備え、
前記第一ガラスフィルムの前記終端部が前記加熱成膜装置に到達する前に前記降温工程を開始する請求項1から3のいずれか一項に記載のガラスロールの製造方法。
【請求項5】
前記加熱成膜装置は、前記第一ガラスフィルムに接触して加熱しながら搬送する加熱ローラを備え、
前記開始準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度が、前記成膜工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度よりも低く設定される請求項1から4のいずれか一項に記載のガラスロールの製造方法。
【請求項6】
前記加熱成膜装置は、前記第一ガラスフィルムに接触して加熱しながら搬送する加熱ローラを備え、
前記終了準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度が、前記成膜工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度よりも低く設定される請求項4に記載のガラスロールの製造方法。
【請求項7】
前記加熱成膜装置は、前記第一ガラスフィルムに接触して加熱しながら搬送する加熱ローラを備え、
前記終了準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度が、前記開始準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度よりも低く設定される請求項4に記載のガラスロールの製造方法。
【請求項8】
前記昇温工程において、前記第一ガラスフィルムが前記加熱成膜装置に到達した後に、前記第一ガラスフィルムを前記巻出装置と前記巻取装置との間で往復移動させる請求項1から7のいずれか一項に記載のガラスロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性膜が形成されたガラスフィルムを巻き取ることでガラスロールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロールトゥロール(Roll to Roll)方式により、母材ガラスロールからガラスフィルムを引き出して所定の方向に搬送しつつ、当該ガラスフィルムに機能性膜を形成する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、母材ガラスロールから引き出された第一ガラスフィルムを所定の方向に送り出すガラスフィルム供給工程と、この第一ガラスフィルムに機能性膜(透明導電膜)を加熱成膜して第二ガラスフィルムを形成する成膜工程と、保護フィルムを第二ガラスフィルムに重ねて第三ガラスフィルムを形成する保護フィルム供給工程と、第三ガラスフィルムをロール状に巻き取ってガラスロールを構成する巻取工程と、を備えるガラスロールの製造方法が開示されている。
【0004】
上記のように機能性膜が形成されたガラスフィルム(第三ガラスフィルム)をロール状に巻き取る場合、巻芯に当該ガラスフィルムを連結する必要がある。例えば特許文献2には、ガラスフィルムの破損を防止すべく、巻芯とガラスフィルムとを樹脂製のリードフィルム(リーダ)によって連結する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-188320号公報
【文献】特開2017-109850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のようにロールトゥロール方式でガラスフィルムに機能性膜を形成する場合において、樹脂製のリードフィルムは、ガラスフィルムよりも耐熱性が低いため、成膜工程を通過する際に成膜装置からの熱によって破断するおそれがあった。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたものであり、リードフィルムを破断させることなく、ガラスフィルムに加熱成膜を行うことを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、巻出装置から送り出された第一ガラスフィルムに加熱成膜装置によって機能性膜を形成することで第二ガラスフィルムを形成し、前記第二ガラスフィルムを巻取装置によって巻き取ることでガラスロールを製造する方法において、前記第一ガラスフィルムの始端部に連結された第一リードフィルムを、前記巻出装置から送り出して前記加熱成膜装置を通過させた後に前記巻取装置に巻き取らせる開始準備工程と、前記第一リードフィルムが前記加熱成膜装置を通過した後に、前記加熱成膜装置により前記第一ガラスフィルムに機能性膜を形成する成膜工程と、を備え、前記開始準備工程は、前記加熱成膜装置を成膜温度まで昇温させる昇温工程を備え、前記加熱成膜装置が前記成膜温度まで昇温する前に、前記第一ガラスフィルムが前記加熱成膜装置に到達することを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、加熱成膜装置が成膜温度に達する前に、第一ガラスフィルムに連結された第一リードフィルムは、当該加熱成膜装置を通過することができる。これにより、第一リードフィルムを破断させることなく、第一ガラスフィルムに加熱成膜を行うことが可能になる。なお、「加熱装置が成膜温度まで昇温する前」とは、昇温工程の開始後のみならず、昇温工程の開始前を含む。
【0010】
前記昇温工程は、前記第一ガラスフィルムと前記第一リードフィルムとの連結部が前記加熱成膜装置を通過した後に開始してもよい。第一リードフィルムが全て加熱成膜装置を通過した後に昇温工程を開始することで、成膜工程による第一リードフィルムの破断を確実に防止できる。
【0011】
本発明に係るガラスロールの製造方法では、前記昇温工程における前記加熱成膜装置の昇温中に、前記第一ガラスフィルムが前記加熱成膜装置に到達してもよい。
【0012】
本発明に係るガラスロールの製造方法は、前記第一ガラスフィルムの終端部に連結された第二リードフィルムを、前記巻出装置から送り出して前記加熱成膜装置を通過させた後に前記巻取装置に巻き取らせる終了準備工程を備え、前記終了準備工程は、前記加熱成膜装置を降温させる降温工程を備え、前記第一ガラスフィルムの前記終端部が前記加熱成膜装置に到達する前に前記降温工程を開始してもよい。
【0013】
かかる構成によれば、第一ガラスフィルムが加熱成膜装置を通過している間に降温工程を開始することで、第二リードフィルムが加熱成膜装置に到達するまでに、加熱成膜装置の温度を当該第二リードフィルムが破断しない温度まで低下させることが可能になる。
【0014】
本発明に係るガラスロールの製造方法において、前記加熱成膜装置は、前記第一ガラスフィルムに接触して加熱しながら搬送する加熱ローラを備え、前記開始準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度が、前記成膜工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度よりも低く設定されてもよい。
【0015】
かかる構成によれば、開始準備工程における搬送速度を成膜工程における搬送速度よりも低く設定することで、開始準備工程において成膜されることなく搬送される第一ガラスフィルムの量を可及的に低減できる。
【0016】
本発明に係るガラスロール製造方法において、前記終了準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度が、前記成膜工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度よりも低く設定されてもよい。
【0017】
かかる構成によれば、終了準備工程における搬送速度を成膜工程における搬送速度よりも低く設定することで、終了準備工程において成膜されることなく搬送される第一ガラスフィルムの量を可及的に低減できる。
【0018】
本発明に係るガラスロールの製造方法において、前記終了準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度が、前記開始準備工程における前記第一ガラスフィルムの搬送速度よりも低く設定されてもよい。
【0019】
終了準備工程の降温工程に要する時間は、開始準備工程の昇温工程に要する時間よりも長くなる。このため、終了準備工程に係る搬送速度を開始準備工程に係る搬送速度よりも低く設定することで、第二リードフィルムが加熱成膜装置に到達するまでの時間をより長く確保できる。
【0020】
本発明に係るガラスロールの製造方法では、前記昇温工程において、前記第一ガラスフィルムが前記加熱成膜装置に到達した後に、前記第一ガラスフィルムを前記巻出装置と前記巻取装置との間で往復移動させてもよい。これにより、開始準備工程において成膜されることなく搬送される第一ガラスフィルムの量を可及的に低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リードフィルムを破断させることなく、ガラスフィルムに加熱成膜を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第一実施形態に係るガラスロールの製造装置を示す断面図である。
【
図2】ガラスロールの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】ガラスロールの製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図4】ガラスロールの製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図5】ガラスロールの製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図6】第二実施形態に係るガラスロールの製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図7】ガラスロールの製造方法の一工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図5は、本発明に係るガラスロールの製造方法の第一実施形態を示す。
【0024】
本方法に使用される製造装置は、ロールトゥロール(Roll to Roll)方式を採用しており、母材ガラスロールから引き出された透明なガラスフィルムに機能性膜を形成し、ロール状に巻き取ることでガラスロールを製造する。以下、母材ガラスロールから引き出されるガラスフィルムを第一ガラスフィルムといい、機能性膜が形成された後のガラスフィルムを第二ガラスフィルムという。
【0025】
図1に示すように、製造装置1は、真空チャンバ2と、巻出装置3と、成膜装置4と、ガイドローラ5と、センサ6,7と、巻取装置8と、制御装置9と、を備える。
【0026】
真空チャンバ2は、巻出装置3、成膜装置4、ガイドローラ5、センサ6,7及び巻取装置8を内部に収容する。真空チャンバ2の内部空間は、真空ポンプにより所定の真空度に設定される。真空チャンバ2内には、アルゴンガス等の不活性ガスが供給され得る。
【0027】
巻出装置3は、母材ガラスロールGR1を回転可能に支持するとともに、当該母材ガラスロールGR1から第一ガラスフィルムGF1を引き出して成膜装置4へと送り出す。巻出装置3は、制御装置9の制御により、母材ガラスロールGR1の回転速度(第一ガラスフィルムGF1の送り出し速度)を変更できる。
【0028】
巻出装置3に装着される母材ガラスロールGR1は、第一ガラスフィルムGF1と、第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaに連結される第一リードフィルムLF1と、第一ガラスフィルムGF1の終端部GFbに連結される第二リードフィルムLF2と、第一ガラスフィルムGF1に重ねられる保護フィルムPF1と、巻芯WC1とを含む。
【0029】
第一ガラスフィルムGF1と各リードフィルムLF1,LF2は、粘着テープその他の連結部材により連結されている。以下、第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaと第一リードフィルムLF1との連結部を第一連結部10といい、第一ガラスフィルムGF1の終端部GFbと第二リードフィルムLF2との連結部を第二連結部11という。第二リードフィルムLF2は、その一端部(始端部)が第二連結部11を介して第一ガラスフィルムGF1の終端部GFbと連結され、その他端部(終端部)が巻芯WC1に連結されている。
【0030】
第一ガラスフィルムGF1の厚みは、500μm以下とされ、好ましくは10μm以上300μm以下とされ、最も好ましくは30μm以上200μm以下である。
【0031】
第一ガラスフィルムGF1の材料としては、ケイ酸塩ガラス、シリカガラスが用いられ、好ましくはホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、化学強化ガラスが用いられ、最も好ましくは無アルカリガラスが用いられる。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本発明におけるアルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0032】
各リードフィルムLF1,LF2には樹脂製のフィルムが使用される。具体的には、各リードフィルムLF1,LF2として、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アイオノマーフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、エチレン-メタクリル酸共重合体フィルム、ナイロン(登録商標)フィルム(ポリアミドフィルム)、ポリイミドフィルム、セロファンなどの有機樹脂フィルム(合成樹脂フィルム)などを使用することができる。
【0033】
巻出装置3は、母材ガラスロールGR1に含まれる保護フィルムPF1を巻き取る保護フィルム回収部12を備える。保護フィルム回収部12は、巻出装置3の上方の位置に配されているが、この位置に限定されるものではない。保護フィルム回収部12は、第一ガラスフィルムGF1に重ねられている保護フィルムPF1を剥離させるとともに、ロール状に巻き取ることによって回収する。
【0034】
成膜装置4は、第一ガラスフィルムGF1を加熱しながら搬送し、当該第一ガラスフィルムGF1に機能性膜を形成する加熱成膜装置により構成される。成膜装置4は、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等の各種成膜法により、第一ガラスフィルムGF1に機能性膜を形成できる。本実施形態では、スパッタリング法により機能性膜としての透明導電膜、例えばITO膜を形成する場合について説明する。
【0035】
成膜装置4は、イオンビームスパッタ装置やマグネトロンスパッタ装置などにより構成される。スパッタ装置としての成膜装置4は、ターゲットを含む複数のスパッタ源13と、第一ガラスフィルムGF1を加熱する加熱部14とを主に備える。
【0036】
各スパッタ源13は、ターゲットから飛散するスパッタ粒子(ITO粒子)が第一ガラスフィルムGF1の一方の面に付着するように、加熱部14から一定の間隔をおいて配置される。
【0037】
加熱部14は、第一ガラスフィルムGF1に接触しつつ加熱する回転可能な加熱ローラ(キャンローラ)により構成される。加熱部14は、第一ガラスフィルムGF1を支持する円筒状のローラ本体15と、このローラ本体15を加熱するヒータ16とを備える。
【0038】
ローラ本体15は、ガラス、セラミックス、又は金属により構成される。ローラ本体15は、軸部17により回転自在に支持されている。
【0039】
ヒータ16は、ローラ本体15を加熱すべく、当該ローラ本体15の内側に配置される。ヒータ16は、例えば赤外線ヒータ又は近赤外線ヒータにより構成されるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
複数のガイドローラ5は、図示しないモータにより回転駆動されるが、その一部がフリーローラにより構成されてもよい。ガイドローラ5は、巻出装置3と成膜装置4との間、及び成膜装置4と巻取装置8との間に間隔をおいて配置されている。
【0041】
センサ6,7は、成膜装置4の下流側(成膜装置4と巻取装置8との間)に配される第一センサ6と、成膜装置4の上流側(巻出装置3と成膜装置4との間)に配される第二センサ7とを含む。各センサ6,7は、例えば透過型レーザセンサ等の非接触式のセンサにより構成されるが、この構成に限定されるものではない。
【0042】
第一センサ6は、第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaを検出するとともに検出信号を制御装置9に送信する。第二センサ7は、第二連結部11及び第一ガラスフィルムGF1の終端部GFbを検出するとともに、検出信号を制御装置9に送信する。
【0043】
巻取装置8は、第二ガラスフィルムに保護フィルムPF2を重ねて巻芯WC2に巻き付けることで、ガラスロールを形成する。巻取装置8は、制御装置9の制御により、巻芯WC2の回転速度を変更できる。
【0044】
巻取装置8は、巻芯WC2に巻き取られる第二ガラスフィルムに保護フィルムPF2を供給する保護フィルム供給部18を備える。保護フィルム供給部18は、巻取装置8の上方位置に配されているが、この位置に限定されるものではない。保護フィルム供給部18は、保護フィルムロールPFRを備えており、保護フィルムロールPFRから引き出された保護フィルムPF2を第二ガラスフィルムに供給する。
【0045】
制御装置9は、例えばCPU、ROM、RAM、HDD、入出力インターフェース、ディスプレイ等の各種ハードウェアを実装するコンピュータ(例えばPC)を含む。制御装置9は、巻出装置3、ガイドローラ5、成膜装置4及び巻取装置8に通信可能に接続されており、巻出装置3の制御、ガイドローラ5の回転制御、成膜装置4の加熱、成膜、搬送に係る制御、巻取装置8の制御等を実行する。
【0046】
以下、上記構成の製造装置1を使用して、ガラスロールを製造する方法について説明する。本方法は、
図2に示すように、開始準備工程S1と、成膜工程S2と、終了準備工程S3とを備える。
【0047】
開始準備工程S1において、母材ガラスロールGR1が巻出装置3に装着され、当該母材ガラスロールGR1から第一リードフィルムLF1が引き出され、その始端部が巻取装置8の巻芯WC2に連結される。その後、真空チャンバ2が閉じられ、その内部空間が所定の真空度に設定される。また、真空チャンバ2内には、不活性ガスが充填される。
【0048】
次に、制御装置9は、巻出装置3、ガイドローラ5、加熱部14のローラ本体15、及び巻取装置8を同期して作動させ、所定の速度で第一リードフィルムLF1を上流側の巻出装置3から下流側の巻取装置8へと搬送する。この場合における第一リードフィルムLF1の搬送速度は、0.01~0.5m/minの範囲で一定とされることが望ましいが、この範囲に限定されるものではない。第一リードフィルムLF1は、成膜装置4を通過し、巻取装置8によって巻き取られる。
【0049】
開始準備工程S1において、母材ガラスロールGR1に含まれている第一ガラスフィルムGF1は、成膜装置4を通過した第一リードフィルムLF1が巻取装置8に巻き取られることによって、当該母材ガラスロールGR1から引き出される。第一ガラスフィルムGF1は、第一リードフィルムLF1とともに成膜装置4を経て巻取装置8へと搬送される。このとき、第一ガラスフィルムGF1は、第一リードフィルムLF1の搬送速度と同じ速度で搬送される。開始準備工程S1における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度は、後述する成膜工程S2における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度よりも低く設定されている。
【0050】
開始準備工程S1は、成膜装置4を昇温させる昇温工程を備える。
図3に示すように、第一センサ6は、第一連結部10が成膜装置4を通過したときに、第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaを検出し、検出信号を制御装置9に送信する。これにより、制御装置9は、加熱部14のヒータ16を作動させ、ローラ本体15の加熱を開始する。この昇温工程の開始時において、第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaが成膜装置4を通過しているため、昇温工程の実行中において第一リードフィルムLF1がローラ本体15に接触することはない。
【0051】
ローラ本体15は、第一ガラスフィルムGF1を下流側に案内しながらヒータ16により所定の成膜温度以上となるように加熱される。加熱されるローラ本体15の温度は、例えば200℃以上500℃以下に設定されるが、この範囲に限定されない。なお、昇温工程の実行中において、スパッタ源13は作動せず、スパッタ粒子を放出しない。
【0052】
制御装置9は、昇温工程が完了すると(ローラ本体15が所定の成膜温度以上に加熱されると)、成膜工程S2を開始する。制御装置9は、巻出装置3の送り出し速度、ローラ本体15の回転速度、及び巻取装置8の巻取速度を制御し、第一ガラスフィルムGF1の搬送速度を増加させる。成膜工程S2における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度は、0.1~10m/minの範囲内で一定とされることが望ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0053】
ローラ本体15は、第一ガラスフィルムGF1を加熱しながら下流側に案内する。第一ガラスフィルムGF1は、ローラ本体15によって150℃以上に加熱される。スパッタ粒子がITOである場合、第一ガラスフィルムGF1は、200℃以上に加熱されることが望ましく、250℃に加熱されることが更に望ましく、300℃以上に加熱されることが最も望ましい。
【0054】
制御装置9の制御により、成膜装置4は、複数のスパッタ源13からスパッタ粒子(例えばITO粒子)を飛散させ、ローラ本体15により搬送されている第一ガラスフィルムGF1に順次付着させる。
【0055】
ローラ本体15によって第一ガラスフィルムGF1が加熱されることで、当該第一ガラスフィルムGF1に付着したITO粒子が結晶化し、低抵抗(例えば20Ω/□以下)の機能性膜FMが形成される。これにより、
図4に示すように第二ガラスフィルムGF2が形成される。
【0056】
図4に示すように、成膜工程S2では、保護フィルム供給部18によって保護フィルムPF2を第二ガラスフィルムGF2に重ねつつ、巻取装置8によって巻芯WC2に第二ガラスフィルムGF2および保護フィルムPF2を巻き付ける。これにより、巻芯WC2の周囲にガラスロールGR2が形成される。ガラスロールGR2は、巻芯WC2の回転に応じてその外径を拡大する。
【0057】
成膜工程S2が終了に近づくと、全ての第一ガラスフィルムGF1が巻出装置3から送り出される。その後、第二連結部11が巻出装置3から送り出される。
図5に示すように、第二連結部11が第二センサ7に到達すると、第二センサ7は、当該第二連結部11及び第一ガラスフィルムGF1の終端部GFbを検出し、検出信号を制御装置9に送信する。
【0058】
第二センサ7から信号を受信すると、制御装置9は、終了準備工程S3を開始する。終了準備工程S3は、第二リードフィルムLF2の破断を防止するために成膜装置4を降温させる降温工程を備える。この降温工程は、第一ガラスフィルムGF1が成膜装置4を通過している間であって、終端部GFbが成膜装置4に到達する前に開始する。
【0059】
降温工程において、制御装置9は、加熱部14による加熱を停止させる。ヒータ16が停止することで、ローラ本体15の温度は徐々に低下する。また、制御装置9は、成膜装置4のスパッタ源13を停止させる。さらに制御装置9は、巻出装置3の送り出し速度、加熱ローラの回転速度、及び巻取装置8の巻取速度を制御し、第一ガラスフィルムGF1及び第二リードフィルムLF2の搬送速度を、成膜工程S2における搬送速度よりも低く設定する。より好ましくは、この搬送速度は、開始準備工程S1における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度よりも低く設定される。
【0060】
降温工程では、第一ガラスフィルムGF1が加熱部14を通過している間に、第二リードフィルムLF2が破断しない温度(例えば80℃以下)になるように、当該ローラ本体15を回転させながら降温させる。第一ガラスフィルムGF1が加熱部14を通過すると、当該第一ガラスフィルムGF1の終端部GFbに連結された第二リードフィルムLF2が当該加熱部14に到達する。このとき、ローラ本体15の温度が十分に低下しているため、第二リードフィルムLF2は破断することなく当該ローラ本体15によって下流側に搬送される。
【0061】
成膜装置4を通過した第二リードフィルムLF2が巻取装置8に巻き取られると、終了準備工程S3が終了し、ガラスロールGR2が巻取装置8に支持された状態で完成する。ガラスロールGR2は真空チャンバ2から取り出され、次工程へと送られる。
【0062】
なお、その後の工程において、ガラスロールGR2から第二ガラスフィルムGF2が引き出され、フォトリソグラフィ等の手段により、機能性膜FMに所定の回路パターン(例えば電極パターン)が形成される。所定の製造関連処理が実行されると、保護フィルムPF2は、第二ガラスフィルムGF2から除去(剥離)される。
【0063】
以上説明した本実施形態に係るガラスロールGR2の製造方法によれば、開始準備工程S1において、第一リードフィルムLF1が加熱部14の熱によって破断しないように、ローラ本体15が成膜温度まで昇温する前、すなわち昇温工程の開始前に第一ガラスフィルムGF1を加熱部14に到達させている。したがって、加熱部14のローラ本体15は、第一リードフィルムLF1に接触することなく、第一ガラスフィルムGF1を搬送しながらヒータ16によって加熱される。これにより、第一リードフィルムLF1を溶解させることなく、成膜工程S2を確実に行うことが可能になる。
【0064】
また、終了準備工程S3において、第一ガラスフィルムGF1が成膜装置4を通過している間に降温工程を実行することで、第二リードフィルムLF2は、加熱部14の熱によって破断することなく成膜装置4を通過し、巻取装置8に巻き取られる。
【0065】
本実施形態では、開始準備工程S1及び終了準備工程S3における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度を、成膜工程S2における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度よりも低く設定することで、昇温工程の実行中及び降温工程の実行中に、成膜されることなく成膜装置4を通過する第一ガラスフィルムGF1の量(長さ)を可及的に低減できる。
【0066】
また、終了準備工程S3における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度を開始準備工程S1における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度よりも低く設定することで、昇温工程よりも時間を長く要する降温工程において、成膜されることなく成膜装置4を通過する第一ガラスフィルムGF1の量(長さ)を可及的に低減できる。
【0067】
図6及び
図7は、本発明の第二実施形態を示す。本実施形態では、製造装置1における成膜装置4の構成が第一実施形態と異なる。本実施形態に係る加熱部14は、ローラ本体15を備えておらず、第一ガラスフィルムGF1に接触することなく当該第一ガラスフィルムGF1を加熱するヒータ16を備える。スパッタ源13とヒータ16とは所定の間隔をおいて配されている。ヒータ16の近傍位置には、第一リードフィルムLF1、第一ガラスフィルムGF1及び第二リードフィルムLF2をスパッタ源13とヒータ16との間に案内するガイドローラ5aが配されている。
【0068】
本実施形態におけるその他の構成は第一実施形態と同じである。本実施形態において第一実施形態と共通する構成要素には、第一実施形態と同じ符号を付している。
【0069】
以下、上記構成の製造装置1を使用してガラスロールGR2を製造する方法について説明する。本実施形態では、開始準備工程S1において、第一ガラスフィルムGF1が成膜装置4(加熱部14)に到達した後に、第一実施形態と同様に第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaを第一センサ6によって検出させ、昇温工程を開始させる。
【0070】
図6に示すように、昇温工程の実行中において、制御装置9は、巻出装置3、ガイドローラ5,5a、及び巻取装置8を制御し、第一リードフィルムLF1及び第一ガラスフィルムGF1を巻出装置3と巻取装置8との間の搬送経路上で往復移動させる。この場合において、第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaは、第一センサ6の下流側の領域で往復移動することが望ましい。これにより、第一リードフィルムLF1が破断することなく、かつ第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaが第一センサ6に再度検出されることなく、第一ガラスフィルムGF1を搬送経路に留まらせることができる。この往復移動により、機能性膜FMが形成されることなく巻取装置8に巻き取られる第一ガラスフィルムGF1の量を可及的に低減できる。なお、当該往復移動の形態は、
図1乃至
図5に記載されている本発明に係るガラスロールの製造方法の第一実施形態にも適用可能である。
【0071】
昇温工程が完了すると、制御装置9は、巻出装置3、ガイドローラ5,5a及び巻取装置8を制御し、第一ガラスフィルムGF1の往復移動を終了させるとともに、当該第一ガラスフィルムGF1を下流側の巻取装置8に向かって搬送させる。その後、
図7に示すように、成膜装置4による成膜工程S2を実行する。成膜工程S2が終了すると、制御装置9は、第一実施形態と同様に終了準備工程S3を実行する。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0073】
上記の実施形態では、開始準備工程S1及び終了準備工程S3におけるガラスフィルムGF1,GF2及びリードフィルムLF1,LF2の搬送速度を、成膜工程S2におけるガラスフィルムGF1,GF2の搬送速度よりも低く設定してガラスフィルムGF1,GF2及びリードフィルムLF1,LF2を搬送する例を示したが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、開始準備工程S1、終了準備工程S3において、ガラスフィルムGF1,GF2及びリードフィルムLF1,LF2の搬送を一時的に停止させてもよい。但し、加熱部14のローラ本体15の熱膨張・収縮により、ローラ本体15とガラスフィルムGF1,GF2とが擦過するおそれがある場合には、第一ガラスフィルムGF1を停止させることなく低速で搬送することが望ましい。
【0074】
また、開始準備工程S1における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度と終了準備工程S3における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度とを等しく設定してもよい。また、開始準備工程S1及び終了準備工程S3における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度と成膜工程S2における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度とを等しく設定してもよい。
【0075】
上記の実施形態では、第一連結部10及び第一ガラスフィルムGF1の始端部GFaが加熱部14を通過した後に、開始準備工程S1の昇温工程を開始させた例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、第一リードフィルムLF1が加熱部14のローラ本体15に搬送されている間に昇温工程を開始してもよい。すなわち、本発明では、昇温工程の実行中(ローラ本体15が成膜温度まで昇温する前)に第一ガラスフィルムGF1を加熱部14に到達させればよい。
【0076】
上記の実施形態では、終了準備工程S3の降温工程において加熱部14のヒータ16を停止させ、当該加熱部14を真空チャンバ2内で自然冷却させる例を示したが、本発明はこの態様に限定されない。例えば、降温工程において、真空チャンバ2内に配されたノズルから加熱部14に向かって不活性ガス等の冷媒を噴射させることで、当該加熱部14を冷却してもよい。
【0077】
上記の実施形態では、開始準備工程S1において、第一リードフィルムの搬送速度を比較的低速(例えば0.01~0.5m/min)としたが、この形態には限定されない。例えば、第1センサ6の位置を適宜調整するか、センサの個数を増加させることで、開始準備工程S1において、センサが第一連結部10を検出するまでの間を成膜工程S2における搬送速度(例えば0.1~10m/min)よりも高速の速度(例えば1~15m/min)とすることで、昇温工程を開始するまでのリードタイムを短縮することができる。この場合においては、センサが第一連結部10を検出した後に、搬送速度を比較的低速(例えば0.01~0.5m/min)として、昇温工程を開始しても良い。
【0078】
上記の実施形態では、終了準備工程S3において、第一ガラスフィルムGF1の搬送速度を開始準備工程S1における第一ガラスフィルムGF1の搬送速度よりも低く設定する実施形態で説明を行ったが、この実施形態には限定されない。例えば、終了準備工程S3において、降温工程終了後に十分に成膜装置4の温度が下がった場合は、リードタイムを短縮するため、第二リードフィルムLF2の搬送速度を高速(例えば1~15m/min)としても良い。
【符号の説明】
【0079】
3 巻出装置
4 成膜装置
8 巻取装置
14 加熱部(加熱ローラ)
FM 機能性膜
GF1 第一ガラスフィルム
GF2 第二ガラスフィルム
GFa 第一ガラスフィルムの始端部
GFb 第一ガラスフィルムの終端部
LF1 第一リードフィルム
LF2 第二リードフィルム
GR2 ガラスロール
S1 開始準備工程
S2 成膜工程
S3 終了準備工程