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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】製剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20230417BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20230417BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230417BHJP
【FI】
A01N1/02
C12N1/04
C12N5/071
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018559880
(86)(22)【出願日】2017-05-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 GB2017051324
(87)【国際公開番号】W WO2017194954
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】1608356.0
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512203687
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ リーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】517322156
【氏名又は名称】アシンプトート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ASYMPTOTE LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ムレイ,ベンジャミン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ウェール,トーマス・フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,セオドア・ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】モリス,ジョージ・ジョン
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-537047(JP,A)
【文献】国際公開第92/003046(WO,A1)
【文献】Japanese Society for Cryobiology and Cryotechnology,1980年,Vol.26,pp.46-51
【文献】Tellus,Vol.27, No.4,1975年,pp.414-427
【文献】J. Phys. Chem. A,2008年,Vol.112,pp.3965-3975
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/02
C12N 1/04
C12N 5/071
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水含有の生物学的実体を凍結処理する間に非自発的な氷の形成を促進するための製剤であって、
氷核剤として作用することができる立体網状珪酸塩鉱物、および
アンモニウム塩
を含む、製剤であって、
前記立体網状珪酸塩鉱物が立体網状アルミノ珪酸塩であり、
前記製剤が水を含有する場合におけるアリコート当たり、前記立体網状珪酸塩鉱物が、その表面積が3×10-6cmを超えるような量で前記製剤中に存在し、
前記アンモニウム塩が300mMの濃度の塩化アンモニウムであり、
前記立体網状アルミノ珪酸塩が、0.2重量%の濃度である、製剤。
【請求項2】
前記立体網状珪酸塩鉱物が多元素である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記立体網状珪酸塩鉱物が長石である、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
前記立体網状珪酸塩鉱物が、NaAlSiおよびKAlSiを主成分とする長石である、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
前記立体網状珪酸塩鉱物が、KAlSiを主成分とする長石である、請求項3または4に記載の製剤。
【請求項6】
使用時に8℃以下の過冷却で、前記水含有の分量を凍結させる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
1つ以上の凍結保護剤をさらに含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記各凍結保護剤が、複数のヒドロキシル基の存在を特徴とする、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
生物学的に許容される、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
水含有の生物学的実体を容器内で凍結処理する際の、請求項1乃至9のいずれか1項に定義されている製剤の使用。
【請求項11】
前記生物学的実体が細胞または細胞の集合体である、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水含有の分量の生物学的実体の凍結処理中の非自発的な氷の形成(核形成)を促進するための製剤、および水含有の分量の生物学的実体の凍結処理におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的物質の保存には2つの関連するプロセスがある。凍結保存では、生物学的材料を凍結して、凍結状態で保存する。凍結乾燥(リュフィリゼーション)では、凍結した生物学的サンプルから水を取り出し、その後乾燥した状態で保存する。
【0003】
凍結保存は、医学、バイオテクノロジーおよび獣医学において使用するため生物学的サンプルの長期生存性を維持するために、広く用いられている。解凍時に高い生存率を得るには、保護用化合物(凍結保護添加剤または凍結保護剤として知られている)を加えて、サンプルを制御された速度で冷却することが必要である。多くの細胞型について、制御されていない過飽和状態で自発的な氷核形成を可能にすることではなく、制御された核形成によって氷の形成を誘導することが必要である。
【0004】
凍結保存用のサンプルは、一般に以下のような専門の低温容器に入れられる:
・直径2~4mm、長さ140mmまでの薄肉のチューブで、容量0.2ml~0.5mlのストロー;
・直径約12.5mm、容量0.5ml~5.0mlの幅広の短いチューブである冷結保存バイアル;
・大容量の凍結保存用に5ml~1000mlの容量を有する可撓性バッグ;
・マイクロタイタープレート、マトリックスチューブ、およびロボット工学およびハイスループットのスクリーニングで使用される他のSBSフォーマット。
【0005】
制御された速度でストローと冷結保存バイアルを凍結するのに、様々な装置が利用可能である。これらは液体窒素を凍結剤として使用しても、機械での冷凍によって冷却してもよい。さらに、いくつかの受動冷却装置が存在する。これらの装置のいくつかは、手動または自動で行うことができる、サンプル内の氷の制御された核形成を可能にする。
【0006】
制御された速度で凍結した後、サンプルを低温(典型的には液体窒素の温度(-196℃))で凍結させたままにする。この温度では、細胞の生存率は、細胞が冷却後生存していれば、保管期間とは無関係なものとなる。使用のために必要とする場合、サンプルを急速に解凍し(一般に37℃に維持した水に浸して)、凍結保護剤を除去する。
【0007】
凍結乾燥(リュフィリゼーション)は、細胞、ワクチン、タンパク質および他の生物活性化合物の長期安定化のために、バイオテクノロジー、医学および獣医学で広く使用されている。凍結乾燥はまた、再生医学や新規なセラミックスの製造に適用するための骨格やマトリックスなどの構造化材料を生成するためにも使用される。凍結乾燥のプロセスでは、水性のサンプルを専門容器(典型的にはガラスバイアル)に入れ、凍結乾燥機内の冷却された棚で凍結させる。凍結後、局所的なガス圧が低下し、凍結サンプル内の氷が昇華する。サンプルから水を除去した後、バイアルを真空下で加温し、密封する。サンプルは周囲温度で配置することができ、水を加えることによって再構成される。
【0008】
凍結保存サンプルの制御された氷核形成について、いくつかの氷核剤(氷用核剤、氷核生成触媒、氷核生成粒子または氷晶核と呼ばれることもある)が検討されてきた。これらの氷核剤は、不均質核生成と呼ばれる現象を促進する。その例には、ヨウ化銀結晶、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)菌、コレステロールの結晶および立体網状珪酸塩クラスの鉱物が含まれる(例えば、国際公開第2014/091216号パンフレット参照)。氷核剤をサンプルに添加し、次いでそれを冷却する。十分なレベルの過冷却がサンプル内で達成されると、氷核形成が生じる。長石による氷核形成を調べたZimmermanらによるJ.Geophys.Res.Atmos.,2008,113,D23204の先行する研究では、水含有の分量の生物学的実体の凍結処理のために十分に温かい温度で氷を核化するのに、長石は効果がないことを示していた。NedavaらのSELSKOKHOZYAISVENNAYA BIOLOGIYA(Agricultural Biology),1992,No.4,20-24は、低温生物学的処置間の結果を改善する目的で、ヒツジの精子の懸濁液に、微細に分割されたシリカを添加することを記載している。これは、核形成を誘発するというよりも、むしろ精子細胞の膜を安定化させるために行われた。
【0009】
一般的に言って、アンモニウム塩の有毒な影響を知覚することが、凍結保存で使用することを強く思いとどまらせてきた。それにもかかわらず、H T Meryman(1968)Modified Model for the Mechanism of Freezing Injury in Erythrocytes.Nature 218,333-336は、凍結保護剤として高濃度(2M、3Mおよび4M)の酢酸アンモニウムの存在下で凍結した赤血球が、ナトリウム塩などの他の凍結保護剤の存在下で凍結した細胞と比較して、凍害を顕著に減少させたことを実証した。これは、浸透圧勾配に起因する物理的現象であり、核形成とは無関係である。Merymanは、塩化アンモニウムは保護剤として有用ではないと述べた。
【0010】
立体網状珪酸塩クラスの鉱物のような氷核剤の場合、過冷却の低レベル(3℃)での氷核形成を達成するために、比較的多くの量(10mg)を加えることが必要である。これは、容量が50μL~200μL(96ウェルマルチウェルプレート)または10μL(384ウェルマルチウェルプレート)であり得るマルチウェルプレートのフォーマットで凍結保存する間に使用するなどの、体積の小さいサンプルを処理するときに、限定するものとなる。さらに、凍結保存後の多くの細胞型の生存率および細胞回収率が、失望するほど低くなり得ることが、融点に近い氷核形成でさえ観察されている。凍結直後に、(色素排除アッセイによって測定されるときに)細胞生存率が高くても(95%)、細胞を24時間インキュベートした後に50%未満に低下する場合があることが、一般的に観察されているのである。細胞数密度について、同様のパターンが観察されることがあり、細胞が解凍培養後に溶解するにつれて、インキュベーション後に50%減少し得る。得られた細胞回収率(細胞生存率×細胞数密度)は、元の未凍結対照値の25%となり得る。この細胞の回収の喪失により、ハイスループットのスクリーニングや再生医療などの用途における凍結および解凍されたサンプルの有用性が制限される可能性がある。
【0011】
大気の集合体のパラダイムは、異質の氷核形成にとって溶質の同一性が重要なものではなく、溶質の束一的な効果以外効果がないということである。例えば、Zobristらの、J.Phys.Chem.A 2008,112,3965-3975は、種々の水溶液中に懸濁したノナデカノール、非晶質シリカ、ヨウ化銀およびアリゾナテストダストの不均一な氷核形成温度をそれぞれ単一のラインで、溶質の性質にかかわらず説明できると述べた。KnopfらのFaraday Discuss.,2013,165,513では、様々な水溶液に懸濁された様々な氷核剤を使用する場合、浸漬凍結温度および動力学は、温度および溶液水分活性によってのみ記述できると述べられている。ただし、必ずそれが言えるとは限らない。GobinathanらのMat.Res.Bull.,Vol 16,1527-1533では、ヨウ化鉛がある塩の存在下でより温かい温度で氷を核化することが報告されている。SalemらAtmos.Chem.Phys.7.,3923-3931.,2007では、粘土鉱物をアンモニアガスに曝し、「処理された」粘土(モンモリロナイト)が氷の核化でより良好であることが見出された。Rieschel and ValiのTellus,27(4),414(1975)では、アンモニウム塩を添加すると落葉の物質の核生成温度は一般に低下するが、アンモニウム塩を添加すると粘土の核形成温度は一般に上昇することが報告された。Abbattらの,22 Sep 2006:Vol.313,Issue 5794,pp.1770-1773では、固体の結晶の硫酸アンモニウムが水飽和の下で氷を核化できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2014/091216号
【発明の概要】
【0013】
本発明は、アンモニウム塩の存在が、水含有の分量の生物学的実体の(例えば)凍結処理中の氷核剤として水含有生成物に添加された立体網状珪酸塩鉱物による氷形成の効力の予期しない増強をもたらすという認識に基づいている。
【0014】
したがって、第1の態様から見ると、本発明は、水含有の分量の生物学的実体を凍結処理する間に非自発的な氷の形成を促進するための製剤であって、
氷核剤として作用することができる立体網状珪酸塩鉱物、および
アンモニウム塩を含む製剤を提供する。
【0015】
非自発的な氷の形成を促進することにより、製剤は、有利には、生物学的実体の完全性を維持するのに寄与する氷核形成の制御をするより大きな要素を提供する。これは、(例えば)低温保存または凍結乾燥などのプロセスにおいて有用であり得る。制御する要素は、氷結晶の数および大きさに行使でき、(例えば)氷結晶の数を増加させて、より小さな氷結晶に導くことができる。
【0016】
氷核剤として作用することにより、立体網状珪酸塩鉱物は不均一核形成に寄与する。
【0017】
好ましい実施形態では、立体網状珪酸塩鉱物は多元素である。立体網状珪酸塩鉱物は、1A族または2A族から選択される少なくとも2つ(例えば、一対)の元素(例えば、K、CaおよびNaから)を有してもよい。1A族または2A族から選択される1つ以上の元素は、アンモニウムイオンによってイオン結合により置換されていてもよい。
【0018】
立体網状珪酸塩鉱物は、(例えば)粉砕および重力、磁気または電気の分離などの1つ以上の物理的(例えば、機械的)処理によって、または化学的処理によって、鉱物源(例えば、岩石、宝石または鉱石)を処理(例えば、精製または濃縮)することで得ることができる。立体網状珪酸塩鉱物は、商用または工業用の濃縮物であってもよい。立体網状珪酸塩は合成することもできる。
【0019】
立体網状珪酸塩鉱物は、一般に特定の結晶構造が優勢であることを特徴とする。鉱物源に内在する可能性のある、立体網状珪酸塩鉱物に存在する微量の他の物質(例えば、粘土または方解石などの微量の鉱物または微量の非鉱物)がある場合がある。
【0020】
好ましくは、立体網状珪酸塩鉱物は、長石、シリカ(例えば石英、鱗石英、クリストバライト、玉髄または碧玉)、霞石、葉長石、白榴石、方曹達石、カンクリナイト(例えばカンクリナイト-ビシネフ石)、スカポライト、方沸石および沸石からなる群から選択される。
【0021】
好ましい実施形態において、立体網状珪酸塩鉱物は立体網状アルミノ珪酸塩である。
【0022】
好ましい実施形態において、立体網状珪酸塩鉱物はシリカ(例えば石英)である。
【0023】
好ましい実施形態において、立体網状珪酸塩鉱物は、長石または準長石である。特に好ましい実施形態では、立体網状珪酸塩鉱物は長石である。
【0024】
長石は、CaAlSi、NaAlSiおよびKAlSiの三元固溶体であってもよい(または本質的にそれらからなる)。
【0025】
特に好ましい実施形態では、立体網状珪酸塩鉱物は、NaAlSiおよびKAlSi(すなわち、NaおよびKカチオンの優勢-アルカリ長石)を主成分とする長石である。アルカリ長石はオルソクレアーゼ、サニジン、ミクロクリンおよびアノーソクレースからなる群から選択することができる。
【0026】
より好ましい実施形態では、立体網状珪酸塩鉱物は、KAlSi(すなわち、Kカチオンの優勢-カリウム長石またはK-spar)を主成分とする長石である。ミクロクリンが好ましい。
【0027】
特に好ましい実施形態では、立体網状珪酸塩鉱物は、CaAlSiおよびNaAlSi(すなわち、CaおよびNaカチオンの優勢-斜長石)を主成分とする長石である。斜長石は、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石および灰長石からなる群から選択することができる。
【0028】
より好ましい実施形態では、立体網状珪酸塩鉱物は、NaAlSi(すなわち、Naカチオンの優勢)を主成分とする長石である。
【0029】
立体網状珪酸塩鉱物は微粒子である場合がある。立体網状珪酸塩鉱物の平均粒径は、サブミクロンまたは1~5μmの範囲であってもよい。立体網状珪酸塩鉱物はナノ粒子であってもよい。立体網状珪酸塩鉱物は粉末であってもよい。
【0030】
立体網状珪酸塩鉱物は、別個の形態であってもよい。別個の形態は、場合により膜結合ペレット、ビーズ、錠剤または断片または粉末であってもよい。ビーズは、典型的にはミリメートルの寸法を有する。
【0031】
典型的には、製剤は水性製剤である。製剤は、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョンまたはコロイドであってもよい。
【0032】
好ましくは、製剤は生物学的に(例えば、生理学的に)許容される。特に好ましくは、製剤物は細胞によって許容される。
【0033】
製剤は、細胞内、細胞間または細胞外の流体模倣物であってもよい。
【0034】
立体網状珪酸塩鉱物は、水含有の分量のアリコート当たり3×10-6cmを超える表面積における量で製剤中に存在してもよい。
【0035】
好ましくは、立体網状珪酸塩鉱物は、製剤中に、1アリコートあたり1×10-5~400cmの表面積の範囲の量、特に好ましくは1アリコートあたり1×10-3~400cmの表面積の範囲の量、より好ましくは1アリコートあたり1~400cmの範囲の量で存在する。
【0036】
好ましくは、製剤は、1つ以上の凍結保護剤をさらに含む。
【0037】
1つ以上の凍結保護剤は、ジメチルスルホキシド、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、糖(トレハロース、スクロース、ラフィノースまたはグルコースなど)、ポリマー(ポリビニルポルリドンまたはポリプロピレングリコールなど)またはデキストランからなる群から選択することができる。
【0038】
好ましい低温保護剤は、複数のヒドロキシル基(例えば、糖またはポリアルコール)の存在を特徴とする。
【0039】
好ましくは、アンモニウム塩は、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、酢酸アンモニウムまたは水酸化アンモニウムである。
【0040】
特に好ましくは、アンモニウム塩は塩化アンモニウムである。
【0041】
好ましくは、アンモニウム塩の濃度は、1×10-5~10Mの範囲、特に好ましくは10~350mMの範囲、より好ましくは50~300mMの範囲、さらにより好ましくは100~200mM(例えば、約150mM)の範囲である。
【0042】
この製剤は、微量添加された鉱物添加剤または非鉱物添加剤をさらに含んでもよい。鉱物添加剤は、上記のような立体網状珪酸塩鉱物であってもよい。
【0043】
非自発的な氷の形成を促進することにより、本発明の製剤は、水含有の分量を減少した過冷却で凍結させる。好ましい実施形態では、製剤は、水含有の分量を10℃以下、好ましくは8℃以下、より好ましくは6℃以下の過冷却で凍結させる。
【0044】
過冷却(過冷とも呼ばれる)は、融点未満に持続する液体の温度である。例えば-5℃では、水は5℃過冷却され、10%グリセリン溶液(融点-2℃)は3℃過冷却される。
【0045】
さらなる態様から見ると、本発明は、容器中に水含有の分量の生物学的実体を凍結処理することで上に定義された製剤の使用を提供する。
【0046】
水含有の分量は、生物学的実体の溶液、懸濁液、分散液、乳濁液またはコロイドであってもよい。
【0047】
生物学的実体は、典型的には、経時的におよび/または環境刺激(例えば、熱などの物理的刺激または酵素などの化学的刺激)の存在下で完全性を失う傾向があるものである。
【0048】
生物学的実体は、植物または動物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に由来し得る。
【0049】
生物学的実体は、果物、ナッツ、ハーブまたは種子(例えば、コーヒー)のような天然食品であってもよい。
【0050】
好ましくは、生物学的実体は、細胞または細胞の凝集体(例えば、微生物、病原菌、単細胞生物、組織、器官または多細胞生物)である。
【0051】
例として、細胞は、幹細胞、卵母細胞、精子細胞または胚細胞であってもよい。
【0052】
例として、組織は、皮膚、腫瘍、胚性、精巣または卵巣であり得る。
【0053】
生物学的実体は、タンパク質、酵素、ワクチン、細菌、ウイルス、原生生物、原生動物、寄生虫、胞子、種子または真菌であり得る。
【0054】
容器は、サンプル用の容器または(例えば)ストロー、冷結保存バイアル、バッグ、マイクロタイタープレートまたは混合チャンバーのような凍結容器であってもよい。水含有の分量の生物学的実体を製剤に添加することができる。例えば、細胞懸濁液を製剤に添加してもよく、または細胞を遠心分離して製剤に再懸濁してもよい。
【0055】
凍結処理の間、容器は低温流体(典型的には液体窒素)上に浮遊させても、浸漬させてもよい。代替的に、凍結処理は、機械的冷凍(例えば凍結乾燥機または熱交換器内)または液体窒素ベースの制御速度冷凍機によって行うことができる。
【0056】
凍結処理は、-130℃未満の温度、好ましくは-150℃未満の温度、特に好ましくは約-196℃の温度に進行し得る。
【0057】
凍結処理は増加的に(例えば段階的または連続的に)行うことができる。典型的には、凍結処理は1~2℃/分の範囲の速度で連続的に実施される。
【0058】
凍結処理は、水含有の分量の生物学的実体を脱水することを含むことができる。脱水の工程は、昇華により行うことができる。昇華は、容器に圧力の低下(例えば、部分的な真空)を加えることによって誘導され得る。
【0059】
本発明の実施形態を、以下の実施例および図面を参照して例としてのみこれから説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】実施例1で検証した様々な氷核剤についての液滴画分の温度依存性を示す。
図2】実施例2で測定された細胞の生存率を示す。
図3】実施例2で測定された細胞密度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
実施例1 アンモニウム塩の存在下での長石による氷の増大
Whaleら(2015)によりTechnique for Quantifying Heterogeneous Ice Nucleation in Microlitre Supercooled Water Droplets.Atmos.Meas.Tech.8,2437-2447に詳細に記載されている浸漬粒子装置でのμL核生成実験を行った。この装置は、1μLという容量の約50滴の凍結温度を測定する。これらの実験では、立体網状珪酸塩(IceStart(商標)(Asymptote Ltd))の0.1重量%懸濁液を、純水および塩化アンモニウム、硫酸塩および水酸化物の0.07M溶液において凍結させた。結果を図1に示す。この図から、アンモニウム化合物が過冷却を約2.5℃低下させたことが見て取れる。
【0062】
実施例2 本発明の製剤による封入された肝細胞の凍結保存後の生存率および細胞数
細胞の培養および封入
HepG2細胞を単層で培養した。80~90%のコンフルエンスに達したら、細胞を継代した。2%アルギネート(Manugel、FMCバイオポリマー)を含有する水溶液を、4000000cells/mlを含有する培地で、1:1の比率で混合した。この混合物をGenialab Jetcutter封入システムに通して、0.204MのCaCl溶液で重合させた、半径500μmの球形液滴を産生した。これは個々の細胞が内部に分布したスフェロイドを産生した。スフェロイドを、T175フラスコ中の50U/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン(Invitrogen plc)、1Mの0.5%CaCl(v/v)、および10%ヒト血漿を添加した修飾α-MEMの加温培養物に、スフェロイド:培地の比1:32で添加した。これらを37℃、5%COで、加湿インキュベーター内で培養した。2~3日ごとに100%の培地交換を行った。
【0063】
凍結保存
凍結保存は、スフェロイドを4℃に冷却し、1:1の比で、以下の前冷却溶液と混合することによって実施した:
0.2wt%の長石を核剤として含有するViaspan溶液中の24%ジメチルスルホキシド(DMSO)(DMSO+Nuc)
Viaspan溶液(v/v)中の24%DMSO(DMSO-Nuc)
核剤として0.2重量%の長石を含有する300mMの塩化アンモニウム(v/v)中の24%(NHCl+Nuc)
300mMの塩化アンモニウム(v/v)中24%DMSO(NHCl-Nuc)
溶液を5分間平衡化させた。その後、1mlの上清を1.8mlの冷結保存バイアル5個に条件ごとに添加し、その後、EF600制御速度フリーザーで0.3℃/分で4℃から-100℃まで冷却した。冷却作動が完了したら、冷結保存バイアルを液体窒素貯蔵庫に移した。
【0064】
加温プロトコル
保管していた液体窒素からサンプルを取り出し、最後の氷結晶がちょうど溶けるまで37℃の水に浸して解凍した。これには330秒かかった。凍結保護剤は、4℃に冷却した培地を用いて段階的に洗い流した。凍結保護剤を洗い流した後、37℃に温めた培地を加え、ELSを37℃、5%COの加湿インキュベーターの培養物に入れた。
【0065】
解凍後の機能評価
生存率
指定された時点で、ELSを培養液から取り出し、蛍光顕微鏡下で見るためにヨウ化プロピジウム溶液(PI、1mg/ml、Sigma)20μlおよび二酢酸フルオレセイン溶液(FDA、1mg/ml、Sigma)で10μlで染色した。PIは機能しない膜で細胞の核を染色するので、死細胞の指標となる。FDAは代謝的に活性のある細胞を染色する。較正されたマクロを用いたPIとFDAの放射の強度を比較することにより、生存率を判定することができる。結果を図2に示す。
【0066】
細胞数
総細胞数は、ヌクレオカウンターシステムを使用して判定した。ELSをPBSで洗浄して脱凝集させる前に、16mMのEDTA溶液(Applichem)を用いてアルギン酸塩から遊離させた。すべての細胞を溶液で溶解し、核小体をPIで染色した。この溶液をヌクレオカセットに引き込み、染色された核を計数した。HepG2細胞は単核細胞であるため、これをELSの細胞密度に変換することができる。結果を図3に示す。
図1
図2
図3