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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】バイポーラ膜
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20230417BHJP
   B01J 43/00 20060101ALI20230417BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20230417BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20230417BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C08J5/22 101
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
B01J43/00
B01J47/12
B01D61/46 500
B32B27/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018235407
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020097648
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】岸野 剛之
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-087854(JP,A)
【文献】特開2018-003059(JP,A)
【文献】特開2017-190417(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179672(WO,A1)
【文献】特開2010-132829(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067775(WO,A1)
【文献】米国特許第04253900(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0320053(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106310950(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44 - 1/44
B01J 39/00 - 49/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とが接合されてなるバイポーラ膜において、
カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の何れか一方の樹脂が架橋構造を有する樹脂であり、他方の樹脂が非架橋構造を有する樹脂であって、
少なくとも、前記非架橋構造を有する樹脂からなる側のイオン交換樹脂層内に多孔質シートが含まれている、
ことを特徴とするバイポーラ膜。
【請求項2】
前記多孔質シートが不織布繊維シートであることを特徴とする請求項1記載のバイポーラ膜。
【請求項3】
前記多孔質シートが、カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層の両層に跨って含まれてなることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載のバイポーラ膜。
【請求項4】
カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とのT形剥離強度が、0.4~3.0N/cmであることを特徴とする請求項3に記載のバイポーラ膜。
【請求項5】
前記カチオン交換樹脂が非架橋構造を有する樹脂であり、前記アニオン交換樹脂が架橋構造を有する樹脂であることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載のバイポーラ膜。
【請求項6】
前記カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層との接合界面に、水解離促進触媒が分布してなることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のバイポーラ膜。
【請求項7】
下記の(A)~(C)の工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ膜の製造方法。
(A)多孔質シート内部に、非架橋構造のイオン交換樹脂層が形成されたイオン交換樹脂シートを用意する工程;
(B)前記イオン交換樹脂シートの、前記非架橋構造のイオン交換樹脂層面に、架橋構造を形成可能なカウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が溶解したカウンターイオン交換樹脂の有機溶媒溶液を塗布する工程;
(C)前記カウンターイオン交換樹脂の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥してカウンターイオン交換樹脂層を形成する工程;
【請求項8】
前記(A)工程が、
(a-1)多孔質シートと、剥離フィルムと、イオン交換樹脂形成用非架橋樹脂が溶解している第一の有機溶媒溶液とを用意する工程;
(a-2)前記剥離フィルムの一方の表面に、前記第一の有機溶媒溶液を塗布する工程;
(a-3)前記第一の有機溶媒溶液の塗布層に、前記多孔質シートを重ね合わせ、該多孔質シートの厚み方向途中まで、前記第一の有機溶媒溶液を含浸させる工程;
(a-4)前記多孔質シートが重ね合わされた状態で、前記第一の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥して、該重ね合わせ面から多孔質シートの厚み方向途中までの領域にイオン交換樹脂層を形成することにより、剥離フィルム、イオン交換樹脂層及び多孔質シートが積層されたイオン交換樹脂シートを得る工程;
を含んでなり、
さらに、前記(B)工程が、
(b-1)カウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が溶解している第二の有機溶媒溶液を用意する工程;
(b-2)前記第二の有機溶媒溶液を、前記(a-4)工程で得られたイオン交換樹脂シートの多孔質シートの表面に塗布して、該第二の有機溶媒溶液の塗布層を形成する工程;
を含んでなり、
さらに、前記(C)工程が、
(c-1)前記第二の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥してカウンターイオン交換樹脂層を形成する工程;
を含んでなり、
さらに、前記(c-1)工程の後、
(d-1)前記イオン交換樹脂シートに積層される剥離フィルムを剥離する工程;
を施すことにより、
多孔質シートが、カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層の両層に跨って含まれた態様のバイポーラ膜を得ることを特徴とする請求項7記載のバイポーラ膜の製造方法。
【請求項9】
前記イオン交換基材シートが有する多孔質シートとして、不織布繊維シートを使用することを特徴とする請求項7または請求項8に記載のバイポーラ膜の製造方法。
【請求項10】
請求項7記載のバイポーラ膜の製造方法において、
前記(A)工程で用意するイオン交換樹脂シートが、前記非架橋構造のイオン交換樹脂層の表面に、水解離促進触媒が分布されたものであることを特徴とする前記製造方法。
【請求項11】
請求項8記載のバイポーラ膜の製造方法において、
前記(a-4)工程の後に、
(a-5)前記イオン交換樹脂シートの多孔質シート側の表面に、水解離促進触媒が分散ないし溶解した触媒液を塗布して該多孔質シート内に侵入させ、次いで乾燥することにより、前記イオン交換樹脂層の表面に、前記触媒を分布させる工程;
を施すことを特徴とする前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン交換樹脂膜層とアニオン交換樹脂膜層とが接合され、その接合界面に水解離促進触媒が分布したバイポーラ膜及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、カチオン交換樹脂膜層とアニオン交換樹脂膜層との接着性が高められ耐久性に富む新規な構造のバイポーラ膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイポーラ膜は、カチオン交換膜とアニオン交換膜が貼り合わされた複合膜であり、水をプロトン(H)と水酸化物イオン(OH)に解離する機能を有する。この解離機能を利用して、カチオン交換膜及び/またはアニオン交換膜とともにバイポーラ膜を電気透析装置に組み込み、電気透析することにより、中性塩から酸とアルカリを製造できる。例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩から水酸化ナトリウム等のアルカリと硫酸等の酸が製造され、有機酸ナトリウム等の有機酸塩から水酸化ナトリウムと有機酸が製造される。
【0003】
上記のようなバイポーラ膜では、特にカチオン交換膜とアニオン交換膜との間に高い接着性が要求され、例えば長期に亘る電気透析や高温条件下での電気透析に供した場合に、膜の膨潤が防止され、膜の剥がれを生じることなく安定的に電気透析を行うことが望まれている。
【0004】
このような要望を満たすバイポーラ膜として、例えば、特許文献1には、カチオン交換膜とアニオン交換膜の少なくとも一方に塩素化ポリオレフィンを含有しているバイポーラ膜が開示されている。しかし、特許文献1のバイポーラ膜は、電流効率の点で不十分であった。
特許文献1の問題点を解決する方法として、カチオン交換膜中にポリ塩化ビニルとポリオレフィン製の基材(多孔質シート)を配合した特許文献2の発明が提案された。しかし、この発明においても、カチオン交換膜とアニオン交換膜との密着性が必ずしも十分と言えなかった。
ここで、特許文献1も特許文献2も、そのバイポーラ膜の製造方法は、カチオン交換樹脂の前駆樹脂形成用の重合硬化成分をポリオレフィン製基材に含侵させ、重合硬化後にカチオン交換基を導入し、さらに得られたカチオン交換膜の表面にアニオン交換樹脂形成用樹脂溶液を塗布することにより製造されている。そして、前記ポリオレフィン製基材に含侵させる重合硬化成分には、得られるバイポーラ膜の膨潤の抑止と膜強度を高める目的から、架橋性単量体が加えられている。従って、得られるバイポーラ膜は、架橋構造を有するカチオン交換樹脂層内に多孔質シートが含まれたカチオン交換樹脂層に、アニオン交換樹脂層が接合された構造をしている。
ところが、この構造では、上記カチオン交換樹脂層にアニオン交換樹脂層を接合させた際に、該カチオン交換樹脂が架橋樹脂となって剛質であるため、その表面にアニオン交換樹脂形成用樹脂溶液を塗布しても馴染みが悪く、両層界面での一体性が悪い。この結果、これらバイポーラ膜では、カチオン交換膜とアニオン交換膜との密着性が、前記の如くに十分でないものになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-132829号公報
【文献】特開2017-190417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、カチオン交換樹脂層またはアニオン交換樹脂層を構成する樹脂の架橋性に着目し、多孔質シートとこれら樹脂層の組合せについて鋭意検討を進めた。その結果、一方のイオン交換樹脂を非架橋樹脂とし、他方のイオン交換樹脂を架橋樹脂とすることにより、カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とが強固に接着することを見いだした。さらに、少なくとも非架橋樹脂層が多孔質シートを含有していれば、実用上十分な耐久性、形状や寸法安定性に優れたバイポーラ膜が得られることを発見し、本発明を完成するに至った。
さらにまた、多孔質シートを含む非架橋樹脂層を基材交換膜とし、この上にカウンターイオン交換層を設けることで、上記特性に優れたバイポーラ膜を容易に且つ安価に製造することができることを見いだしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明によれば、 カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とが接合されてなるバイポーラ膜において、
カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の何れか一方の樹脂が架橋構造を有する樹脂であり、他方の樹脂が非架橋構造を有する樹脂であって、
少なくとも、前記非架橋構造を有する樹脂からなる側のイオン交換樹脂層内に多孔質シートが含まれている、
ことを特徴とするバイポーラ膜が提供される。
【0008】
上記バイポーラ膜の発明において、
1)前記多孔質シートが不織布繊維シートであること
2)前記多孔質シートが、カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層の両層に跨って含まれること
3)カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とのT形剥離強度が、 0.4~3.0N/cmの範囲であること
4)前記カチオン交換樹脂が非架橋構造を有する樹脂であり、前記アニオン交換樹脂が架橋構造を有する樹脂であること
5)前記カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層との接合界面に、水解離促進触媒が分布してなること
が好ましい。
【0009】
本発明によれば、更に、上記バイポーラ膜の製造方法として、
下記の(A)~(C)の工程を含むことを特徴とするバイポーラ膜の製造方法:
(A)多孔質シート内部に、非架橋構造のイオン交換樹脂層が形成されたイオン交換樹脂シートを用意する工程;
(B)前記イオン交換樹脂シートの、前記非架橋構造のイオン交換樹脂層面に、架橋構造を形成可能なカウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が溶解したカウンターイオン交換樹脂の有機溶媒溶液を塗布する工程;
(C)前記カウンターイオン交換樹脂の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥してカウンターイオン層を形成する工程;
を含むバイポーラ膜の製造方法が提供される。
【0010】
上記バイポーラ膜の製造方法の発明において、
1)前記(A)工程が、
(a-1)多孔質シートと、剥離フィルムと、イオン交換樹脂形成用非架橋樹脂が溶解している第一の有機溶媒溶液とを用意する工程;
(a-2)前記剥離フィルムの一方の表面に、前記第一の有機溶媒溶液を塗布する工程;
(a-3)前記第一の有機溶媒溶液の塗布層に、前記多孔質シートを重ね合わせ、該多孔質シートの厚み方向途中まで、前記第一の有機溶媒溶液を含浸させる工程;
(a-4)前記多孔質シートが重ね合わされた状態で、前記第一の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥して、該重ね合わせ面から多孔質シートの厚み方向途中までの領域にイオン交換樹脂層を形成することにより、剥離フィルム、イオン交換樹脂層及び多孔質シートが積層されたイオン交換樹脂シートを得る工程;
を含んでなり、
さらに、前記(B)工程が、
(b-1)カウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が溶解している第二の有機溶媒溶液を用意する工程;
(b-2)前記第二の有機溶媒溶液を、前記(a-4)工程で得られたイオン交換樹脂シートの多孔質シートの表面に塗布して、該第二の有機溶媒溶液の塗布層を形成する工程;
を含んでなり、
さらに、前記(C)工程が、
(c-1)前記第二の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥してカウンターイオン交換樹脂層を形成する工程;
を含んでなり、
さらに、前記(c-1)工程の後、
(d-1)前記イオン交換樹脂シートに積層される剥離フィルムを剥離する工程;
を施すことにより、
多孔質シートが、カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層の両層に跨って含まれた態様のバイポーラ膜を得ること
2)前記イオン交換基材シートが有する多孔質シートとして、不織布繊維シートを使用すること
3)前記(A)工程で用意するイオン交換樹脂シートが、前記非架橋構造のイオン交換樹脂層の表面に、水解離促進触媒が分布されたものであること
4)前記(a-4)工程の後に、
(a-5)前記イオン交換樹脂シートの多孔質シート側の表面に、水解離促進触媒が分散ないし溶解した触媒液を塗布して該多孔質シート内に侵入させ、次いで乾燥することにより、前記イオン交換樹脂層の表面に、前記触媒を分布させる工程;
を施すこと
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバイポーラ膜は、多孔質シートを含む一方の極性を有するイオン交換樹脂層に反対の極性を有するカウンターイオン交換樹脂が接合、形成されたバイポーラ膜である。そして、多孔質シートを含む一方のイオン交換樹脂層の樹脂は非架橋樹脂であり、他方のイオン交換樹脂層の樹脂は架橋樹脂とする点に特徴がある。
上記本発明のバイポーラ膜は、代表的には、多孔質シート内部に非架橋構造のイオン交換樹脂を含侵させたイオン交換樹脂シートを作成し、該イオン交換樹脂シート上にカウンターイオン交換樹脂形成用樹脂の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥後に該カウンターイオン交換樹脂を架橋させる、或いは、乾燥と同時に該カウンターイオン交換樹脂を架橋させることで得られる。
上記方法により、アニオン交換樹脂層とカチオン交換樹脂層との強固な接合が達成され、使用時に部分的な剥がれ現象が無く耐久性に富み長期の運転が可能となる、しかも、両層間に接着剤等の接着層が無いだけでなく空隙も存在しないので、膜電圧(膜抵抗)が低いバイポーラ膜が得られる。以下、その理由を考察する。
【0012】
非架橋樹脂からなるイオン交換樹脂シート上にカウンターイオン交換樹脂形成用の有機溶媒溶液を塗布すると、非架橋樹脂が露出した表面は、樹脂成分や当該溶液に含まれる有機溶媒によって膨潤或いは溶解されて粗面化され、アンカー効果により両層の接着性が向上する。更に、樹脂成分や有機溶媒によって膨潤されたイオン交換樹脂シートの非架橋樹脂層中に、有機溶媒に溶解したカウンターイオン交換樹脂が浸透することで、あるいは、前記表層が溶解されたイオン交換樹脂シートの非架橋樹脂が、カウンターイオン交換樹脂と良好に混合され乾燥固化することで、両イオン交換樹脂が分子レベルで一体化し前記両層の高い接合性が得られるものと推定される。
なお、イオン交換樹脂シートが架橋樹脂からなる場合には、上記の推定メカニズムによる接合性の向上は果たせない。カウンターイオン交換樹脂を架橋樹脂とすることで、両樹脂の一体化された部分の機械強度が高まりより高い接合性が得られる。
本発明のバイポーラ膜では、上記非架橋樹脂からなるイオン交換樹脂シートが多孔質シートを含んでなる。非架橋樹脂は、構造上、水や有機溶媒に膨潤し易い性状を有すが、本発明では該非架橋樹脂が多孔質シート内に含侵せしめられているため、過度に膨潤することなく、カウンターイオン交換樹脂層が安定に形成でき、かつ、得られるバイポーラ膜が水溶液中などで安定して使用可能となる。
本発明では、前記した多孔質シートは、非架橋樹脂からなるイオン交換樹脂シート内だけでなく、カウンターイオン交換樹脂層との両層に跨って存在することもできる。この場合には、前記両層に跨って存在する多孔質シートが、両層間のかすがいとして機能して、より高い接合性が発揮される。
更に、本発明のイオン交換樹脂シートは、イオン交換樹脂形成用の非架橋樹脂の有機溶媒溶液を多孔質シート内に含侵させ、乾燥して有機溶媒を除去することで容易に得られる。前記特許文献1または2に例示される多段階の工程が必要ないため安価で、生産性も高い。
本発明のバイポーラ膜は、前記した効果が相乗的に組み合わさって、極性の異なる二種のイオン交換樹脂膜が強固に密着し、実用上の耐久性、形状や寸法安定性に優れ、膜の電気抵抗および水分解電圧が低いバイポーラ膜になると考えられる。また、このバイポーラ膜は、複雑な工程を経ることなく容易に製造可能で、廉価で生産性の高い工業的価値に富むバイポーラ膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の代表的なバイポーラ膜の概略断面図である。
図2】本発明のバイポーラ膜を製造する代表的なプロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<バイポーラ膜の構造>
本発明のバイポーラ膜は、図1に示すように、非架橋構造のイオン交換樹脂膜と当該イオン交換樹脂膜とイオン極性が異なる架橋構造のイオン交換樹脂からなるカウンターイオン交換膜とが対面して接合されており、少なくとも前記非架橋構造のイオン交換樹脂膜の層内には多孔質シートが内包されている。
具体的には、非架橋構造のカチオン交換樹脂層と架橋構造のアニオン交換樹脂層とが接合されたバイポーラ膜、或いは非架橋構造のアニオン交換樹脂層と架橋構造のカチオン交換樹脂層とが接合された前記構造を有するバイポーラ膜である。
多孔質シートは少なくとも前記非架橋構造のイオン交換樹脂層に内包されている。非架橋構造樹脂層が多孔質シートを内包することで、該層の形状、寸法安定性が高まり、アニオン交換樹脂層とカチオン交換樹脂層の接合性が高まり、バイポーラ膜の耐久性が高まる。当該多孔質シートは、イオン交換樹脂層とカウンターイオン交換樹脂層との接合界面に跨るようにして内包されても良く、両樹脂層がより強固に接合される点で好適である。
【0015】
非架橋イオン交換樹脂層の厚さに対する該イオン交換樹脂層に内包された部分の多孔質シートの厚さの割合は90%以上であれば良く、一方で、カウンターイオン交換樹脂層の厚さに対する該カウンターイオン交換樹脂層に含まれる部分の多孔質シートの厚さの割合は、0~100%であれば良いが、好ましくは10~100%、さらには20~100%であることがバイポーラ膜としての高電流効率と強度確保のために好適である。
【0016】
バイポーラ膜の厚みは、通常、30~500μm、好ましくは50~300μmの範囲にあることが好適である。この厚みが上記範囲未満であると強度が大きく低下する恐れがある。厚みが上記範囲を超えるとバイポーラ電圧が上昇するなどの不都合を生じる恐れがある。
非架橋構造のイオン交換樹脂層の厚みと架橋構造のカウンターイオン交換樹脂層の厚みの合計が上記バイポーラ膜の厚みとなる。両層の厚みの割合は、非架橋構造層/架橋構造層の比率で表して7/3~3/7が、両層の接合性だけでなく、電流効率や形状、寸法安定性の点で好ましい。
また、多孔質シートの厚みは、前記したバイポーラ膜の厚みの30~110%が好ましく、40~100%がより好適である。30%未満では非架橋構造のイオン交換樹脂層の膨潤抑制が不十分となったり、バイポーラ膜全体の強度が不足する恐れがある。
【0017】
バイポーラ膜の破裂強度は、厚さにもよるが、通常、30~3000kPaであり、好ましくは50~1800kPaとなるように、多孔質シートの厚さや各イオン交換樹脂層の成分構成などが調整される。
各交換樹脂層のイオン交換容量は、電圧降下や電流効率などバイポーラ膜としての特性の観点から、一般に、0.1~4.0meq/g、特に0.5~2.5meq/gの範囲にあるのがよい。これらは、各樹脂層を剥離フィルムなどの上に個別に作成し、そのイオン交換容量を測定することで評価できる。
【0018】
本発明のバイポーラ膜としては、接着層が存在することなく直接両樹脂層が強固に接着しているので、膜抵抗が通常20Ω・cm以下、特には1~10Ω・cmとなり、後述の測定方法によるバイポーラ電圧が、2.0V以下、好ましくは1.5V以下に抑制されている。
更に、非架橋のイオン交換樹脂層と架橋構造のカウンターイオン交換樹脂層が直接接合された特徴的な構造を有すことによって、後述するT形剥離強度が0.4~3.0N/cm、特には0.8~3.0N/cmの範囲の強度を有している。
水解離の電流効率は、通常96.0%以上、特には98.0%以上となる。
なお、両イオン交換樹脂層の、多孔質シート内での存在形態や厚み、両層の接合状態等々は、そのまま、あるいは適宜公知の手法により染色したバイポーラ膜の断面を電子顕微鏡やレーザー顕微鏡等で観察・分析することで把握できる。
【0019】
以下、代表して非架橋構造のカチオン交換樹脂層と架橋構造のアニオン交換樹脂層とが接合されたバイポーラ膜について詳細に説明するが、他方のバイポーラ膜についても適宜説明を加える。
【0020】
<多孔質シート>
多孔質シートは特に制限されず、従来公知の多孔質シートが採用される。具体的には、織布繊維シート、不織布繊維シート、微多孔性シート等任意の多孔性構造を有するシートが挙げられる。イオン交換樹脂層とカウンターイオン交換樹脂層の接合界面に跨って多孔質シートが存在するバイポーラ膜においては、本発明の特徴並びに効果が最大限に発揮され、両イオン交換樹脂層の接合強度が向上するという観点から不織布繊維シートが好適な多孔質シートとなる。
【0021】
特に強度を必要とする場合は織布繊維シートが好ましい。織布の単糸は、マルチフィラメントとモノフィラメントのいずれでも使用することができるが、モノフィラメントの方が強度の観点から好ましい。単糸の線径は、用途に応じて適宜選択すれば良いが、強度と膜抵抗をバランスさせる点で、10~250デニール(20~200μm)が好ましい。
【0022】
微多孔性シートは、多数の微細な孔がシートの表面から裏面に貫通した構造の多孔質シートである。一般に、除去可能なパラフィンや無機紛体等の添加剤を分散、配合した樹脂シートを延伸成形したのち、溶剤による抽出或いは酸やアルカリによる溶解によって前記添加剤を除去して、微多孔を生じせしめたシートである。当該シートとしては、特開2009-39694号公報に開示のある微多孔性質シートが何ら制限なく採用できる。
【0023】
不織布繊維シートは、好適には、繊維径が8~30μm、好ましくは10~20μmの範囲にある熱可塑性樹脂の繊維から形成されるものであり、例えばスパンボンド法により形成される。繊維径が上記範囲を超えて太くなると、繊維とイオン交換樹脂との接触面積が減少し両者の接合強度が低下する。上記範囲の下限値より小さくなり細くなると、不織布繊維シート自体の強度低下が生じる。
不織布繊維シートの目付け量は、3~50g/mで、好ましくは5~30g/mであることが好適である。50g/mを超えると、バイポーラ膜の膜抵抗が上昇して実用性に乏しくなる。3g/m未満では、シート自体の強度が小さくバイポーラ膜の強度が不足する。
不織布繊維シートの空隙率は、70~90%、好ましくは75~85%であることが好適である。90%を超えると、シート自体の強度が小さくバイポーラ膜の強度が不足し、しかも、膨潤性が高くなってイオン交換樹脂と繊維との接合強度が低下する。70%未満であると、バイポーラ膜の膜抵抗が上昇して実用性に乏しくなる。
特に、イオン交換樹脂層とカウンターイオン交換樹脂層の接合界面に跨って多孔質シートが存在するバイポーラ膜においては、上記性状の不織布繊維シートを用いることで、強度や寸法安定性、膜抵抗のバランスの取れたバイポーラ膜が得られるだけでなく、適度な大きさの空隙部を形成し、適度な量のイオン交換樹脂を浸透させることが可能となり、両イオン交換樹脂を強固に固定することができる。
【0024】
各多孔質シートの厚みは、シートの種類や必要とする強度等によって一概に決定されないが、一般には、10~500μm、好ましくは15~300μmである。
上記各シートの材質は、発明の目的からして特に制限はなく、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性の観点から、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂が使用される。
入手の容易さやカチオン交換樹脂との親和性の点から低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂が最も好ましい。前記説明の接着機構が有利に作用するという観点からは、極性有機溶媒に対する親和性が高い、ポリ塩化ビニル樹脂も好適な材料である。
【0025】
<水解離促進触媒>
本発明において、水解離電圧ひいてはバイポーラ膜電圧を低減することを目的として、水解離促進触媒が使用されることが好ましい。当該触媒として、鉄、クロム、スズ、ルテニウムなどの金属のイオン、当該金属の酸化物、当該金属の塩化物が挙げられる。好適には、酸、アルカリへの耐溶解性や低毒性の観点から、スズ、ルテニウムの金属イオン、塩化スズ、塩化ルテニウムなどの金属塩化物が挙げられる。
このような水解離促進触媒は、一般に、イオン交換樹脂層とカウンターイオン交換樹脂層との接合界面上に、金属換算で、1~5000mg/m、好ましくは5~2000mg/mの量で分布させる。
【0026】
<非架橋イオン交換樹脂>
非架橋イオン交換樹脂は、有機溶媒に溶解した後塗布して非架橋構造を有するイオン交換樹脂層を形成するものである。
非架橋イオン樹脂としては、イオン交換基を有さず、イオン交換基を導入可能な反応基を有する非架橋イオン前駆体樹脂であってもよい。当該前駆体樹脂の場合は、イオン交換基を導入するための後処理が必要である。操作が簡便で、容易に安定した非架橋イオン交換樹脂層が得られる点で、予めイオン交換基を導入させた非架橋イオン交換樹脂が好ましい。
非架橋イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂のいずれであっても、そのイオン交換容量が0.2~4.5meq/gの範囲にあることが好ましく、特に0.5~3.0meq/g、さらには0.8~2.0meq/gの範囲にあることがより好適である。イオン交換容量が0.2meq/g未満のときには膜抵抗が高く、バイポーラ電圧が高くなるおそれがあり、4.5meq/gを超えるときには電解液への溶解や膨潤がより大きくなるおそれがあって、形状変化だけでなくイオン交換樹脂層間での膜剥離を生じやすくなる。従って、このようなイオン交換容量となるように、カチオン交換基或いはアニオン交換基が導入されていることが好ましい。
【0027】
本発明における非架橋イオン交換樹脂としては、代表的には、下記二つのタイプの樹脂がある。
1)イオン交換基を有する単量体を重合して得られる非架橋イオン樹脂:
非架橋カチオン交換樹脂の場合は、カチオン交換基を有する単量体としては、α-ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体、ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体、それらの塩類およびエステル類等が挙げられ、これらを重合することにより得られる。
非架橋アニオン交換樹脂の場合は、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体、並びにそれらの塩類及びエステル類を重合することにより得られる高分子体が挙げられる。
上記単量体に加えて、可撓性の付与、イオン交換容量や含水率の調整等を目的として、スチレン、クロロメチルスチレン、アクリロニトリル、メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等の他の単量体を一部配合した高分子体としても良い。
【0028】
2)線状樹脂にイオン交換基を導入した非架橋イオン樹脂:
パーフルオロスルホン酸樹脂などのフッ素系樹脂が例示されるが、架橋型のカウンターイオン交換樹脂層との親和性が高く、両樹脂層の接合性が高められる点で、下記の、炭化水素系樹脂にイオン交換基が導入された構造を有する非架橋樹脂が好ましい。
該炭化水素系樹脂としては、例えば、ビニル系、スチレン系、アクリル系等のエチレン系不飽和二重結合を有する単量体を重合して得られるポリマー、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレンブロック共重合体やその水素添加物などのスチレン系エラストマー、または、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾールなどの芳香環を主鎖に含有する樹脂が挙げられる。
カチオン交換樹脂の場合には、上記樹脂に、スルホン化やホスホン化、加水分解などの公知の方法で、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等のカチオン交換基が導入されて非架橋カチオン交換樹脂となる。好ましくはスルホン酸基である。
非架橋アニオン交換樹脂とする場合は、上記樹脂に1~3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基等のアニオン交換基、好適には、強塩基性である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基が導入される。
また、非架橋イオン交換樹脂は、上記に例示されたいずれかの樹脂を2種類以上混合して用いても良い。
本発明における非架橋イオン交換樹脂としては、上記1)および2)のタイプの樹脂の内、有機溶媒への溶解性と、塗布乾燥後の膨潤度を低く抑えることが容易になる点で、2)のタイプの樹脂がより好ましい。
なお、本発明における非架橋イオン交換樹脂の極性はカチオン交換型であることが好ましい。後述のカウンターイオン交換樹脂層が、架橋構造の導入のしやすさの点でアニオン交換型であることが好ましいためである。
【0029】
<架橋構造を形成可能なカウンターイオン交換樹脂>
架橋構造を有するカウンターイオン交換樹脂層を形成可能な樹脂であって、通常有機溶媒に溶解した後塗布される。
カウンターイオン交換樹脂は、バイポーラ膜のカウンターイオン交換樹脂層とした時に架橋構造が導入されていれば良い。即ち、有機溶媒に溶解可能な程度に予め架橋構造を導入された樹脂の有機溶媒溶液を塗布しても良く、さらには、架橋構造を有さず、架橋反応が可能な官能基を有する非架橋の樹脂の有機溶媒溶液を塗布した後、後工程で架橋構造を導入しても良い。
前者の架橋樹脂を用いる場合には、有機溶媒への溶解を容易にする点で架橋構造に併せてイオン交換基を持つ、架橋イオン交換樹脂であることが好ましい。一方で、後者の非架橋樹脂を用いる場合には、該非架橋樹脂は架橋反応可能な官能基と併せて、予めイオン交換基を有していても、あるいはイオン交換基を導入可能な反応基を有するイオン交換前駆体樹脂であっても良いが、工程が容易になる観点から、架橋反応と同時にイオン交換基の導入が可能な官能基を有する非架橋樹脂を用いることが好ましい。当該樹脂の場合は、後述のように、イオン交換基の導入と架橋を進行させるための導入架橋剤による後処理が必要である。
【0030】
上記の架橋構造を形成可能なカウンターイオン交換樹脂により形成された架橋イオン交換樹脂は、そのイオン交換容量が0.3~5.0meq/g、特に0.8~4.0meq/gの範囲にあることが好ましい。
イオン交換容量が0.3meq/g未満のときには膜抵抗が高く、バイポーラ電圧が高くなるおそれがあり、5.0meq/gを超えるときには電解液による膨潤がより大きくなるおそれがあって、形状変化だけでなくイオン交換樹脂層間での膜剥離を生じやすくなる。架橋構造を形成後に、このようなイオン交換容量となるように、カチオン交換基或いはアニオン交換基に変換可能な反応基が導入されていることが好ましい。
【0031】
本発明における架橋構造を形成可能なカウンターイオン交換樹脂としては、代表的には、下記二つのタイプの樹脂がある。
3)イオン交換基を有する単量体と多官能単量体を共重合して得られる架橋イオン樹脂:
イオン交換基を有する単量体としては、前記したとおり、カチオン交換基の場合ではα-ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体、ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体、それらの塩類およびエステル類等が挙げられ、アニオン交換基の場合にはビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体、並びにそれらの塩類及びエステル類が挙げられる。
架橋構造を導入する多官能性単量体としては、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン等のジビニル化合物が挙げられる。
上記単量体に加えて、可撓性の付与、イオン交換容量や含水率の調整等を目的として、適宜、他の単量体を一部配合して共重合させても良い。
【0032】
4)イオン交換基へ変換可能な反応基を有する非架橋樹脂(イオン交換前駆体樹脂)であり、後処理でイオン交換基の導入と架橋を行う:
カチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂のいずれでも良いが、後述のように架橋反応の進行と同時にアニオン交換基が導入可能な非架橋アニオン交換樹脂が好ましい。
イオン交換前駆体樹脂としては、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどの単量体単位を有する高分子体、或いはポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレンブロック共重合体やその水素添加物などのスチレン系エラストマーや、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾールなどの芳香環を主鎖に含有する樹脂にクロロメチル基やブロモメチル基を導入した高分子体が好適に挙げられる。非架橋イオン交換樹脂層との接合性の点で、スチレン系エラストマーにクロロメチル基などのアニオン交換基へ変換可能な反応基を導入した高分子体が好ましく、これら1種類以上を、他のタイプの樹脂と混合して用いることもできる。
【0033】
アニオン交換基の導入と架橋を進行させる導入架橋剤は、上記前駆樹脂が有する反応基と反応する剤であり、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミンなどのアミノ化剤として作用するジアミン化合物、ジブロモブタン、ジブロモヘキサン等のアルキル化剤として機能するジハロゲンアルカン化合物が好適に使用される。
なお、上記のアニオン交換基へと変換可能な反応基と導入架橋剤の種類によるが、アニオン交換基としては、1~3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基等が、好適には、強塩基性である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基が導入される。
上記導入架橋剤は、非架橋のアニオン交換前駆体樹脂を塗布乾燥後に作用させることもできるが、好ましくは、後出の第二の有機溶媒溶液中に含有させておいて、第二の有機溶媒溶液の塗布後の乾燥時に、アニオン交換基の導入と架橋を並行して進行させることもできる。
本発明における架橋イオン交換樹脂としては、上記3)および4)のタイプの樹脂の内、有機溶媒への高い溶解性と、塗布乾燥後の低い膨潤度をバランスよく両立させることが容易になる点で、4)のタイプの樹脂がより好ましい。
【0034】
<有機溶媒>
前記各イオン交換樹脂(含む各イオン交換前駆体樹脂)を溶解し、イオン交換樹脂層を形成するための塗布用溶液とする有機溶媒である。当該有機溶媒としては、メチルアルコール、エチレンジクロライド、クロロホルム、N-メチルピロリドン、トルエン、酢酸ブチル、酢酸エチルメチルエチルケトンなどが挙げられるが、イオン交換樹脂の溶解性、溶解後の溶液粘度、乾燥速度などを勘案すると、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等の極性有機溶媒が好適である。
【0035】
<各種添加物>
前記各イオン交換樹脂(含む各イオン交換前駆体樹脂)を有機溶媒に溶解した溶液中には、粘度調整のための増粘剤や可塑剤等の公知の添加剤を配合できる。
増粘剤としては、平均粒形10μm以下のポリオレフィン粉末、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレンーブタジエン共重合体等のスチレン系ポリマーが挙げられる。可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、リン酸トリブチル、スチレンオキサイド、アセチルクエン酸トリブチル、或いは脂肪酸や芳香族酸のアルコールエステル等が挙げられる。
【0036】
<バイポーラ膜の作製>
前記構造のバイポーラ膜は、代表的には、下記の(A)~(C)の工程:
(A)多孔質シート内部に、非架橋構造のイオン交換樹脂層が形成されたイオン交換樹脂シートを用意する工程;
(B)前記イオン交換樹脂シートの、前記非架橋構造のイオン交換樹脂層面に、架橋構造を形成可能なカウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が溶解したカウンターイオン交換樹脂の有機溶媒溶液を塗布する工程;
(C)前記カウンターイオン交換樹脂の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥してカウンターイオン交換樹脂層を形成する工程;
を経て作製される。
【0037】
好適には、前記(A)工程が、
(a-1)多孔質シートと、剥離フィルムと、イオン交換樹脂形成用非架橋樹脂が溶解している第一の有機溶媒溶液とを用意する工程;
(a-2)前記剥離フィルムの一方の表面に、前記第一の有機溶媒溶液を塗布する工程;
(a-3)前記第一の有機溶媒溶液の塗布層に、前記多孔質シートを重ね合わせ、該多孔質シートの厚み方向途中まで、前記第一の有機溶媒溶液を含浸させる工程;
(a-4)前記多孔質シートが重ね合わされた状態で、前記第一の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥して、該重ね合わせ面から多孔質シートの厚み方向途中までの領域にイオン交換樹脂層を形成することにより、剥離フィルム、イオン交換樹脂層及び多孔質シートが積層されたイオン交換樹脂シートを得る工程;
を含んでなり、
さらに、前記(B)工程が、
(b-1)カウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が溶解している第二の有機溶媒溶液を用意する工程;
(b-2)前記第二の有機溶媒溶液を、前記(a-4)工程で得られたイオン交換樹脂シートの多孔質シートの表面に塗布して、該第二の有機溶媒溶液の塗布層を形成する工程;
を含んでなり、
さらに、前記(C)工程が、
(c-1)前記第二の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥してカウンターイオン交換樹脂層を形成する工程;
を含んでなり、
さらに、前記(c-1)工程の後、
(d-1)前記イオン交換樹脂シートに積層される剥離フィルムを剥離する工程;
を施す方法が採用される。
【0038】
<工程(A)と(a-1)~(a-4)>
多孔質シート内部に、非架橋構造のイオン交換樹脂層が形成されたイオン交換樹脂シートを形成する工程であり、多孔質シートの内部に前記第一の有機溶媒溶液を所定量塗布した後乾燥して樹脂層を形成する。
塗布方法としては、ドクターブレードコート、ナイフコート、ロールコート、バーコートなど公知の方法が採用されるが、下記転写法が好適に採用される。
【0039】
転写法は、剥離フィルムの一方の表面に、第一の有機溶媒溶液を塗布して第一の有機溶媒溶液の塗布層を形成した後、当該第一の有機溶媒溶液の塗布層に多孔質シートを重ね合わせて当該多孔質シートに第一の有機溶媒溶液を含浸させ、次いで多孔質シートが重ね合わされた状態で、第一の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥して非架橋イオン交換樹脂層を形成することにより、前記イオン交換樹脂シートを得る方法である。
剥離フィルム上への塗布方法は、上記公知の方法が採用される。なお、転写法の場合は、カウンターイオン交換樹脂層を形成してバイポーラ膜とした後に剥離フィルムを剥離する必要がある。
重ね合わせ操作は、適宜、加圧下に行い、これにより、多孔質シート内への第一の有機溶媒溶液の浸透を促進させることもできる。このような加圧は、ローラプレス等により行うことができ、加圧圧力は、一般に、塗布層が過度に圧縮されない程度の範囲に設定される。
剥離フィルムは、イオン交換樹脂と接着しないようなものであって、塗布層の有機溶媒に溶解せず、最期に容易に剥離し得るようなものであれば、その種類や厚みを問わないが、一般的には、耐久性、機械的強度などに優れ、繰り返し使用可能であるという観点から、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムが好適に使用される。
なお、当該第一の有機溶媒溶液の塗布層に多孔質シートを重ね合わせて当該多孔質シートに第一の有機溶媒溶液を含浸させる際には、多孔質シートの厚み方向途中まで前記第一の有機溶媒溶液を含浸させることが好ましい。これにより、第一の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥後に多孔質シートの厚み方向途中までの領域に非架橋イオン交換樹脂層を形成することが可能となり、後述の(B)工程でカウンターイオン交換樹脂層を形成させることで、多孔質シートが両層に跨った構造とすることができる。
【0040】
第一の有機溶媒溶液は、前出の非架橋イオン交換樹脂を前記有機溶媒に溶解した溶液であり、適宜増粘剤や可塑剤が配合される。
第一の有機溶媒溶液の塗布量は、形成される非架橋イオン交換樹脂層の厚みでもって決定されるが、多孔質シートの種類とその空隙率や吸液性、第一の有機溶媒溶液の粘度、乾燥による厚み減少率、目的とするイオン交換樹脂のイオン交換容量等が影響するので、これら諸因子を勘案して予め決定しておくと良い。
第一の有機溶媒溶液は、上記の通り、多孔質シート内に速やかに浸透する必要がある一方、所定の厚みを維持する必要があるため、粘度(25℃)は、1.0~60dPa・sの範囲に調整されることが好ましい。
第一の有機溶媒溶液における非架橋イオン交換樹脂の濃度は、上記粘度が得られるように調整される。粘度は、増粘剤などの添加で調整することも可能である。具体的には、非架橋イオン交換樹脂の構造や分子量、イオン交換容量にもよるが、通常、5~35質量%である。
第一の有機溶媒液の塗布後、乾燥して非架橋イオン交換樹脂層が形成され、この工程で、多孔質シート内の架橋イオン交換樹脂層との接合界面の位置並びに樹脂層の厚みが決定される。
乾燥方法は特に制限されない。有機溶媒の性状にもよるが、通常、大気圧下で、20~150℃の範囲の温度で有機溶媒が除去され、非架橋イオン交換樹脂層が固定される。
【0041】
本発明のバイポーラ膜では、前記非架橋イオン交換樹脂シートとして、カウンターイオン交換樹脂層が形成される側の表面に、水解離促進触媒が分布されてなることが好ましい。
具体的には、前述の(A)工程または(a-4)工程の後で、前出の水解離促進用触媒を、水等の溶媒に分散若しくは溶解した触媒液を、上記非架橋イオン交換樹脂シートのカウンターイオン交換樹脂層が形成される側の表面に塗布、或いは該シート表面を触媒液に浸漬させ、下地となる非架橋イオン交換樹脂層の内表面にまで触媒液を浸透させ、次いで乾燥することにより、カウンターイオン交換樹脂層との接合界面上に水解離促進触媒が分布される。
【0042】
<(B)工程と(b-1)、(b-2)工程>
この工程において、非架橋のイオン(カチオン)交換樹脂層の上に架橋型のカウンターイオン(アニオン)交換樹脂の塗布層が形成される。
具体的には、得られた非架橋イオン交換樹脂シートの表面に、カウンターイオン交換樹脂形成用樹脂(イオン交換前駆樹脂を含む)が溶解している第二の有機溶媒溶液を塗布する。
前記(A)工程において、(a-1)~(a-4)工程によって非架橋イオン交換樹脂層が多孔質シートの厚さ方向の途中まで含侵されている場合には、上記第二の有機溶媒溶液は、イオン交換樹脂シートの多孔質シートが露出している面側に塗布される。
【0043】
第二の有機溶媒溶液は、イオン交換樹脂シート非架橋イオン交換樹脂層表面近傍を部分的に溶解、あるいは膨潤させ、ここに前記カウンターイオン交換樹脂形成用樹脂が浸透し、前述の作用により、両層が高い接合力で接合する。上述のごとく、イオン交換樹脂シート表面に多孔質シートが露出している場合には、多孔質シートが両層に跨って存在する構造となることで、さらに高い接合力で接合する。
第二の有機溶媒溶液は、多孔質シート内を接合界面まで速やかに浸透する必要があるため、第一の有機溶媒溶液の粘度よりも低く調整され、通常、粘度(25℃)は、0.5~5.0dPa・sの範囲に設定される。
第二の有機溶媒溶液には、適宜増粘剤や可塑剤が配合されても良い。また、第二の有機溶媒溶液におけるカウンターイオン交換樹脂形成用樹脂の濃度は、上記粘度が得られるように調整すれば良い。粘度は、増粘剤などの添加で調整することも可能である。具体的には、カウンターイオン交換樹脂形成用樹脂の構造や分子量、イオン交換容量にもよるが、通常、3~30質量%である。
第二の有機溶媒溶液の塗布量も、第一溶液同様、形成されるカウンターイオン交換樹脂層の厚み(接合界面からの厚み)でもって決定され、多孔質シートの種類とその空隙率や吸液性、第一溶液の粘度、乾燥による厚み減少率、目的とするイオン交換樹脂のイオン交換容量等の諸因子を勘案して予め決定しておくと良い。
【0044】
<(C)工程と(c-1)工程>
本工程で、第二の有機溶媒溶液の有機溶媒が乾燥除去され、カウンターイオン交換樹脂層が前記非架橋イオン交換樹脂層の上に形成される。
カウンターイオン交換樹脂が、既に架橋構造を有している場合には、有機溶媒の乾燥除去により、そのままで架橋構造を有するカウンターイオン交換樹脂層が形成される。一方で、カウンターイオン交換樹脂としてイオン交換前駆体樹脂を用いた場合には、第二の有機溶媒溶液の塗布層を乾燥後に、前出の導入架橋剤を作用させてイオン交換前駆体樹脂の架橋とイオン交換基の導入が同時に行われ、架橋構造を有するカウンターイオン交換樹脂層が形成させる。
操作が簡便で、非架橋イオン交換樹脂層やイオン交換前駆体樹脂層を必要以上に膨潤させることで寸法変化や両樹脂層の接合性の低下を招かないように、導入架橋剤は前記の第二の有機溶媒溶液に予め混合されていることが好適である。この場合には、第二の有機溶媒溶液の塗布層の乾燥と並行して、イオン交換前駆体樹脂の架橋とイオン交換基導入が進行し、乾燥して有機溶媒の除去後にそのまま架橋構造を有するカウンターイオン交換樹脂層が形成される。
第二の有機溶媒溶液における、前記導入架橋剤の添加量は、イオン交換前駆体樹脂のイオン交換基へ変換可能な反応基数に対し、導入架橋剤の反応基のモル比で、70~150%の範囲となるように調整される。
乾燥方法は特に制限されない。有機溶媒の性状にもよるが、通常、大気圧下で、20~150℃の範囲の温度で有機溶媒が除去され、架橋構造を有するカウンターイオン交換樹脂層が固定される。
【0045】
<(d-1)工程>
本工程は、転写法によって非架橋のイオン交換樹脂層を形成させた場合に必要な工程であり、カウンターイオン交換樹脂層が形成された後に剥離フィルムを剥離してバイポーラ膜が得られる。
【0046】
このようにして得られる本発明のバイポーラ膜は、多孔質シートを含有する非架橋のイオン(カチオン)交換樹脂層の上に架橋構造を有すカウンターイオン(アニオン)交換樹脂層が形成された構造を持つため、両層の剥離が有効に防止されている。このため、長期間の運転後にも前記両層の剥離によるバイポーラ電圧の上昇が抑制され、例えば、後述の実施例で測定されるバイポーラ電圧の上昇幅が、1カ月の運転後にも通常0.5V以下、好ましくは0.3V以下に抑制されている。
また、多孔質シートが非架橋イオン交換樹脂層と架橋型のカウンターイオン交換樹脂層との間にまたがって形成された場合には、該両層の接合性が更に高まり、引っ張り速度100mm/分におけるT字剥離強度が0.4N/cm以上、好ましくは0.8N/cm以上となっている。
さらに、本発明のバイポーラ膜は、前記優れた特性を発現しながら、非架橋イオン交換樹脂およびカウンターイオン交換樹脂それぞれの有機溶媒溶液を順次、塗布乾燥するという簡便な工程で製造できるため、製造コストが低減され、工業上も極めて有意義である。
【実施例
【0047】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
各種物性の測定試験方法は、以下の通りである。
【0048】
1)バイポーラ電圧
以下の構成を有する4室セルを使用した。
陽極(Pt板)(1.0mol/L-NaOH)/ネオセプタBP-1E(株式会社アストム製)/(1.0mol/L-NaOH)/測定対象バイポーラ膜/(1.0mol/L-HCl)/ネオセプタBP-1E(株式会社アストム製)/(1.0mol/L-HCl)陰極(Pt板)
液温25℃、電流密度10A/dm2の条件でバイポーラ電圧の測定を行った。バイポーラ電圧はバイポーラ膜を挟んで設置した白金線電極によって測定した。
【0049】
2)バイポーラ膜の水解効率
有効通電面積10cm2のバイポーラ膜で隔てられた二室型のガラス製セルの両室に白金電極を設け、陽極室側に1.0mol/L-水酸化ナトリウム水溶液100mlを、また、陰極室側に1.0mol/L-塩酸水溶液を100mlそれぞれ供して、25℃で1.0Aの直流電流を20時間通電後、両室の酸、塩基の量を定量した。得られた酸、塩基の量から、それぞれ酸および塩基生成の電流効率を計算し、両者の平均値をバイポーラ膜の水解効率として求めた。
【0050】
3)バイポーラ膜の膜抵抗
白金黒電極板を有する2室セル中に、測定対象のバイポーラ膜を挟み、イオン交換膜の両側に0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、このときの電極間抵抗とバイポーラ膜を設置しない場合に測定された電極間抵抗との差を膜抵抗として記録した。
尚、上記測定に使用するバイポーラ膜は、あらかじめ0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0051】
4)バイポーラ膜の破裂強度
バイポーラ膜をイオン交換水に4時間以上浸漬し、次いで、膜を乾燥させることなく、ミューレン破裂試験機(東洋精機製)により、JIS-P8112に準拠して破裂強度を測定した。
【0052】
5)カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層のT形剥離強度
バイポーラ膜のアニオン交換樹脂面にテープ(粘着力3.2N/15mm)を貼りつけてよく圧着し、テープを部分的に剥離してアニオン交換樹脂面がテープ側に張り付いて剥離した状態でミネベア(株)製荷重測定器LTS-500NBにて引っ張り速度100mm/分にてT形剥離強度を測定した。
【0053】
6)イオン交換膜のイオン交換容量の測定
イオン交換膜を1mol/L-HCl水溶液に10時間以上浸漬した。その後、カチオン交換膜の場合には、1mol/L-NaCl水溶液でイオン交換基の対イオンを水素イオンからナトリウムイオンに置換させ、遊離した水素イオンを水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE-900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。一方、アニオン交換膜の場合には、1mol/L-NaNO3水溶液で対イオンを塩化物イオンから硝酸イオンに置換させ、遊離した塩化物イオンを硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE-900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。次に、同じイオン交換膜を1mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、その後に60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さ(Dg)を測定した。上記測定値に基づいて、イオン交換膜のイオン交換容量を次式により求めた。
イオン交換容量=A×1000/D[meq/g-乾燥質量]
【0054】
7)バイポーラ膜厚み、イオン交換樹脂層とカウンターイオン交換樹脂層の厚み
バイポーラ膜をミクロトーム(ヱルマ販売(株)製ESM-150S)にて切削し、測定断面を形成させた。次いで、カラー3Dレーザー顕微鏡VK-8700(株式会社キーエンス社製)を用い、50倍の対物レンズで膜サンプル断面を観察し、観察画像からイオン交換樹脂層とカウンターイオン交換樹脂層の厚み、それぞれのイオン交換樹脂層に含まれる部分の多孔質シートの厚みを測定した。
また、バイポーラ膜の厚みを、マイクロメ-ターMED-25PJ(株式会社ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0055】
8)第一および第二の有機溶媒溶液の粘度
回転円筒式粘度計ビスコテスタVT-04F(リオン株式会社製)を用いて、イオン交換樹脂或いはイオン交換樹脂前駆体の有機溶媒溶液(樹脂溶液)の粘度を測定した。
【0056】
9)水解離促進触媒量の測定
触媒担持処理を実施したカチオン交換膜を蛍光X線分析で測定し、硫黄元素と触媒元素のモル比を求め、硫黄元素をイオン交換容量との相対比から触媒量を算出した。触媒量は金属換算の値として表記した。
【0057】
10)バイポーラ膜の長期運転
前記1)のバイポーラ電圧の測定で使用した4室セルを用いて、同条件で1カ月運転した後のバイポーラ電圧を測定した。
【0058】
<非架橋カチオン交換樹脂の有機溶媒溶液の調製>
<調整例1>非架橋スルホン化ポリフェニレンオキシド(SPPO)溶液の調製:
非架橋のポリフェニレンオキシドをクロロホルムに溶解し、この溶液にクロロスルホン酸を加えて、ポリフェニレンオキシドにクロロスルホン酸を反応させた。次いで、水酸化ナトリウムを加えて中和し、溶媒除去することでイオン交換容量が1.6meq/gである非架橋のスルホン化ポリフェニレンオキシドを得た。
次に該スルホン化ポリフェニレンオキシドをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に28質量%または15質量%になるように溶解し非架橋のスルホン化ポリフェニレンオキシド溶液を調製した。溶液粘度は28質量%で20dPa・s、15質量%で2dPa・sであった。
【0059】
<調整例2>非架橋スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)溶液の調製:
非架橋のポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解させ、撹拌しながらスルホン化反応を行った。反応後にポリエーテルエーテルケトン/濃硫酸溶液を純水中にクエンチすることで非架橋のスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを得た。イオン交換容量は1.7meq/gであった。
次に該スルホン化ポリエーテルエーテルケトンをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に25質量%になるように溶解し非架橋のスルホン化ポリエーテルエーテルケトン溶液を調製した。溶液粘度は5dPa・sであった。
【0060】
<アニオン交換樹脂の有機溶媒溶液の調整>
<調整例3>架橋構造形成可能なアニオン交換前駆体樹脂溶液の調整:
ポリスチレンのセグメント(65質量%)とポリイソプレンの水素添加されたセグメント(35質量%)から成る共重合体100gをクロロホルム1000gに溶解し、クロロメチルメチルエーテル100gと塩化スズ10gを加え、40℃で15時間反応させた。次いで、メタノール中で沈澱、洗浄した後、乾燥させ、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体のクロロメチル化物(CMSEPS)を得た。このCMSEPSのクロロメチル基導入量は1.7meq/gであった。次に、分子量5000のクロロメチル化ポリスチレン(CMPS、クロロメチル基導入量6.6meq/g)を上記のCMSEPSと混合し、CMPSの割合が40質量%になるように調製した。このようにして得られたクロロメチル化重合体混合物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し樹脂質量20質量%の溶液とした後、この溶液にN,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミンを5.3質量%(総クロロメチル基量/アミノ基量=100モル/120モル)となるように加えて、アニオン交換前駆体樹脂およびアニオン交換基導入架橋剤を含むアニオン交換樹脂溶液(CMPS/CMSEPS)を調整した。該溶液の粘度は3dPa・sであった。また、同様にして、CMPSの割合が40質量%であるCMPS/CMSEPS混合体をTHFに25質量%となるように溶解させ、この溶液にN,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミンを6.6質量%(総クロロメチル基量/アミノ基量=100モル/120モル)となるように加えて、導入架橋剤を含む別濃度のアニオン交換樹脂溶液(CMPS/CMSEPS)を調整した。該溶液の粘度は5dPa・sであった。
このアニオン交換樹脂溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布、乾燥して得たアニオン交換膜を用いてイオン交換容量を測定した。上記2種類の濃度の溶液共に3.6meq/g-乾燥質量であった。
【0061】
<調整例4>非架橋のアニオン交換樹脂の有機溶媒溶液:
スチレンとクロロメチルスチレンのモノマーのモル比10:1をトルエン中で70℃、重合開始剤ベンゾイルパーオキシドの存在下に10時間共重合した。次いで反応液をメタノール中に注いだ後、共重合体を濾別し、この共重合体のクロロメチル基をN,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミンにて4級アンモニウム塩基化して、非架橋の部分アミノ化ポリスチレン(QPS)を得た。QPSのアニオン交換容量は、0.9meq/gであった。次いで、上記で得られたQPSを20質量%となるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、非架橋のアニオン交換樹脂溶液とした。該溶液の粘度は4dPa・sであった。
【0062】
<多孔質シート>
廣瀬製紙(株)製のポリエチレン不織布繊維シートHOP-10(目付量10g/m2、厚み0.05mm、空隙率78%、繊維径12μm)、フロイデンベルグ社製不織布繊維シートNovatexx2473(目付27g/m2、厚み0.11mm、空隙率73%、繊維径15μm、材質:ポリエチレン/ポリプロピレン)、およびポリエチレン製モノフィラメント織布(目付量32g/m2、厚み135μm、空隙率75%、繊維径67μm)を多孔質シートとして用いた。
【0063】
実施例1
〈バイポーラ膜の製造と評価〉
1.イオン交換樹脂層の形成
調製例1のSPPO溶液(濃度28質量%)を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルムに155μm液厚になるように塗布して、塗布層を形成した。
上記塗布層を形成したポリエチレンテレフタレートフィルムを50℃で5分間乾燥させ、次いで、ここに上記の不織布シートHOP-10を重ね合わせてローラ加圧により積層することで、不織布シート内にイオン交換樹脂塗布層を形成させた。
次いで、60℃で加熱乾燥して塗布層を固化せしめ、不織布繊維シートを含む非架橋のカチオン交換層を形成した。本カチオン交換層のイオン交換容量は1.2meq/gであった。
2.水解離促進触媒の付与
上記のカチオン交換層を0.4wt%の塩化スズ水溶液に60分浸漬した。次いで該カチオン交換層を取り出し60℃で乾燥した。不織布シート面の触媒量を測定したところ、スズ金属換算量で400mg/m2であった。
3.カウンターイオン交換樹脂層の形成
調製例3のCMPS/CMSEPS溶液(濃度20質量%)を、上記カチオン交換層の不織布シート面側に塗布し、50℃で30分間乾燥してカウンターイオン層の架橋4級アンモニウム塩基化を行った。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して、本発明のバイポーラ膜を得た。得られたバイポーラ膜を用いて、各イオン交換層の厚みと各イオン交換層に含まれる不織布シートの厚み、バイポーラ電圧、水解効率、膜抵抗、破裂強度、接着性、ならびに1ヵ月運転後のバイポーラ電圧を評価した。バイポーラ膜の構成を表1に、特性評価結果を表2に示した。
【0064】
実施例2~4
バイポーラ膜の調整に用いる各イオン交換層の塗布厚み、多孔質シートの種類を表1に示す通りに変えた他は実施例1と同様の手順で、本発明のバイポーラ膜を作成した。バイポーラ膜の構成を表1に、バイポーラ膜の特性を表2に示した。
【0065】
実施例5
調整例2で得た非架橋のSPEEK溶液を塗布液厚100μmで塗布した以外は実施例1と同様にして、本発明のバイポーラ膜を得た。バイポーラ膜の構成を表1に、バイポーラ膜の特性を表2に示した。
【0066】
実施例6
塩化ルテニウム(III)を1.0質量%の濃度で25℃下で水に溶解させ、これに攪拌下、水酸化ナトリウムを加えてpHを2.0に調整し、30分間放置して水分解促進触媒液を調整した。該触媒液を、塩化スズ水溶液に変えて用いる以外は実施例1と同様にして、本発明のバイポーラ膜を得た。バイポーラ膜の構成は表1に、特性は表2に示した。
【0067】
比較例1
調整例3のCMPS/CMSEPS溶液(濃度25質量%)を用いて架橋型のイオン交換樹脂層を形成し、さらに調整例1のSPPO溶液(濃度15質量%)を用いて非架橋のカウンターイオン交換樹脂層を形成した以外は実施例1と同様にしてバイポーラ膜を得た。バイポーラ膜の構成は表1に、その他の特性は表2に示した。
【0068】
比較例2
カウンターイオン交換層形成用のアニオン交換樹脂溶液に、非架橋構造を有す調整例4のQPS溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、バイポーラ膜を得た。バイポーラ膜の構成は表1に、特性は表2に示した。
【0069】
比較例3
不織布シートを用いずに、調整例1のSPPO溶液(濃度28質量%)から非架橋のイオン交換樹脂層を形成した以外は実施例1と同様にしてバイポーラ膜を得た。バイポーラ膜の構成は表1に、特性は表2に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
図1
図2