(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】マスフローコントローラ
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2018245026
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186750
【氏名又は名称】藤本 健司
(72)【発明者】
【氏名】村田 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-194421(JP,A)
【文献】特開平07-141032(JP,A)
【文献】特開2002-162280(JP,A)
【文献】特開2014-092929(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151638(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過する流体流路と、
前記流体流路を通過する流体の質量流量を測定する複数の流量センサユニットと、
前記流体流路を通過する流体の流量を調整する調整バルブと、
前記流量センサユニットで測定された流体の質量流量が所定値になるように前記調整バルブの開度を制御する制御部と、
を有する、マスフローコントローラであって、
前記流体流路は、その一部を構成するバイパス流路を有し、
各前記流量センサユニットは、前記バイパス流路の一次側で分岐して、該バイパス流路の二次側で前記流体流路に戻るセンサ流路と、該センサ流路の途中の上流側と下流側にそれぞれ設けられた発熱抵抗体と、信号出力部とを有し、該上流側と下流側の発熱抵抗体の、通電した際の抵抗値の差に比例する信号を出力し、
前記制御部は、前記複数の流量センサユニットの出力信号を加算した加算出力信号から質量流量を算出して、該質量流量が所定値になるように前記調整バルブの開度を制御する
ことを特徴とする、マスフローコントローラ。
【請求項2】
前記複数の流量センサユニットは、センサとして実質的同一な特性を有するものであることを特徴とする、請求項1に記載のマスフローコントローラ。
【請求項3】
互いに対向する上面および底面、前記上面から前記底面側に向けて延びる側面を有するボディを有し、前記流体流路は、前記底面に並行して長手方向に設けられ、
前記複数の流量センサユニットは、前記底面に直交しかつ前記長手方向に延びる仮想中央平面に関して対称に配置されたことを特徴とする、請求項1又は2に記載のマスフローコントローラ。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の流量センサユニットの出力信号をデジタル信号の状態で加算し、該加算したデジタル信号に基づいて質量流量を算出することを特徴とする、請求項1 ~3のいずれかに記載のマスフローコントローラ。
【請求項5】
複数の流体機器が配列された流体制御装置であって、
前記複数の流体機器は、請求項1~4のいずれかに記載マスフローコントローラを含む、流体制御装置。
【請求項6】
密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの制御に請求項1~4のいずれかに記載のマスフローコントローラを用いる、半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスフローコントローラ、流体制御装置、及び半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造プロセスに用いられるプロセスガス等の質量流量制御装置として、マスフローコントローラ(MFC)が用いられており、特に精密な流量測定のために熱式MFCが多く用いられている。
この熱式MFCは、熱式の流量センサで測定した流量に基づいて調整弁をフィードバック制御し、一次側から供給された流体(ガス等)を、指示された流量だけ二次側へ送出する装置である。
【0003】
熱式流量センサは、流量測定のためにMFCを通過する流体の一部を流すセンサ流路を有し、その上流側と下流側に設けた発熱抵抗体で通電加熱しつつ、両発熱抵抗体の抵抗値差として検出される温度差から、センサ流路を流れる流体の質量流量を測定する。
センサ流路は、他の大部分の流体を流すバイパス流路と並列に接続され、センサ流路とバイパス流路との流量の比率は既知で圧力によらずほぼ一定であるため、センサの検出流量から、MFCを流れる流体の質量流量が算出できる(たとえば特許文献1)。
【0004】
このような、熱式流量センサでは、センサ流路を流れる流量が大きすぎると、該センサ流路を流れる流体が、上流側発熱抵抗体から熱を十分に受け取れず、また下流側発熱熱抵抗体へ十分に熱を伝えられず、その結果、流量に比例した出力が得られない。
一方、センサ流路を通る流体の流量が小さすぎると、センサの出力する電圧ΔVと、センサ自身に起因するノイズ (ホワイトノイズ、センサの巻き線は抵抗値を持つためホワイトノイズ源である)とのS/N比が低下し、その結果、測定精度が低下する。
これらの理由で、熱式流量センサは、その使用可能な流量範囲が限られている。
【0005】
特許文献2では、センサ流路の形状が異なる2つの流量センサユニットを並列に設けて、制御部は、信号を採用する流量センサユニットを、流量によって切り替えることにより、ダイナミックレンジ(測定できる最大値と最小値の比)を広げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-162064号公報
【文献】特開2012-226627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
供給圧力が低い状態でも同等のダイナミックレンジを持つMFCが要求されている。たとえば、従来、圧力差400kPaで1200sccmの最大流量を実現していたMFCに対し、圧力差300kPaで1200sccmの最大流量を実現する要求もある。圧力差が小さい仕様の場合、MFC全体の流量については、バイパス流路の抵抗を減らすことにより従来の流量を確保できるが、センサ流路を流れるガスの最大流量(100%流量)を下げざるを得ない。しかし、測定できる最小流量は電気的ノイズに起因するため変わらず、ダイナミックレンジが狭くなってしまう。
ストレートフォワードな解決方法はセンサ流路の形状を変更して、低い圧力差でも流量が取れる流量センサを新たに作ることだが、生産量の少ない特殊仕様品においてこの解決策は非実用的である。新しいセンサを作るためには、センサの出力電圧ΔVから流量Qへの変換パラメータを測定する必要があるが、この変換パラメータはガスの種類ごとに異なり、十分な測定精度を保証するためにはMFCが使用されうる全てのガスを用意してパラメータを実測しなければならない。さらに、温度や圧力の影響も完全に理論式通りではなく、これらのガス全てに対して温度や動作圧力を変えながら補正値を取得していく必要があり、開発コストが大きい。また、生産性の観点からも複数種類のセンサの在庫を用意する必要が出てしまい望ましくない。また、製品保証の観点からも採用実績のないセンサを使うことはリスクが大きい。つまり、熱式のMFCはセンサの種類を一種類に抑えることができる点が、製品の信頼性や量産性に寄与する重要な要素である。
特許文献2に記載の2つのセンサユニットを切り替えている上記先行技術でも、新しいセンサを作る必要が出てくる点が課題となる。
【0008】
本発明の目的は、このような課題を解決し、MFCの両側の圧力差が低くセンサ流路の流量が小さい場合でも、センサ信号のS/N比を向上できるMFCを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマスフローコントローラは、
流体が通過する流体流路と、
前記流体流路を通過する流体の質量流量を測定する複数の流量センサユニットと、
前記流体流路を通過する流体の流量を調整する調整バルブと、
前記流量センサユニットで測定された流体の質量流量が所定値になるように前記調整バルブの開度を制御する制御部と、
を有する、マスフローコントローラであって、
前記流体流路は、その一部を構成するバイパス流路を有し、
各前記流量センサユニットは、前記バイパス流路の一次側で分岐して、該バイパス流路の二次側で前記流体流路に戻るセンサ流路と、該センサ流路の途中の上流側と下流側にそれぞれ設けられた発熱抵抗体と、信号出力部とを有し、該上流側と下流側の発熱抵抗体の、通電した際の抵抗値の差に比例する信号を出力し、
前記制御部は、前記複数の流量センサユニットの出力信号を加算した加算出力信号から質量流量を算出して、該質量流量が所定値になるように前記調整バルブの開度を制御することを特徴とする。
【0010】
前記複数の流量センサユニットは、センサとして実質的同一な特性を有するものであることが好ましい。ここで、「実質的同一な特性を有するもの」とは、例えば、センサ流路形状や発熱抵抗体の仕様などが共通であるものや、同一のメーカー型番を有するものなどが挙げられる。
【0011】
前記マスフローコントローラは、互いに対向する上面および底面、前記上面から前記底面側に向けて延びる側面を有するボディを有し、前記流体流路は、前記底面に並行して長手方向に設けられ、
前記複数の流量センサユニットは、前記底面に直交しかつ前記長手方向に延びる仮想中央平面に関して対称に配置された、構成を採用できる。
【0012】
前記制御部は、前記制御部は、前記複数の流量センサユニットの出力信号をデジタル信号の状態で加算し、該加算したデジタル信号に基づいて質量流量を算出する、構成を採用できる。
【0013】
本発明の流体制御装置は、複数の流体機器が配列された流体制御装置であって、
前記複数の流体機器は、上記いずれかのマスフローコントローラを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の半導体製造装置は、密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの制御に上記いずれかのマスフローコントローラ又は上記流体制御装置を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の熱式流量センサユニットを用い、制御部は、前記複数の流量センサユニットの出力信号を加算した出力信号から質量流量を算出することとしたので、出力信号のうち、相関度の高い信号成分の出力が大きくなる一方、相関のないノイズ成分の出力があまり増大せず、その結果、センサ信号のS/N比を向上させることができる。
したがって、MFCの両側の圧力差が低く流量が小さい場合でも、十分なS/N比を得ることができる。
【0016】
特に、前記複数の流量センサユニットとして、センサとして実質的同一な特性を有するものを用いた場合は、上記S/N比の向上効果が最大になるとともに、流量センサユニットの製造時に各ガスに対する校正値の測定工程等が低減できるため、製造コストと製造の柔軟性の点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るMFCを示す縦断面図。
【
図3】センサユニットのブリッジ回路を示す説明図。
【
図4】第1の実施形態の信号処理システムを示すブロック図。
【
図5】第2の実施形態の信号処理システムを示すブロック図。
【
図6】本発明の実施形態に係る流体制御装置を示す概略斜視図。
【
図7】本発明の実施形態に係る半導体製造装置を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態のMFCについて図面を参照して説明する。本実施形態は、実質的に同一な流量センサユニットを2つ配置し、2つのセンサユニットの出力信号を、デジタル信号に変換した後に加算し、処理する実施形態である。
図1に本実施形態のMFC1の縦断面図を示し、
図2は、MFC1の流量センサユニット部分の横断面図を示す。
【0019】
MFC1は、ボディ10と、流量センサユニット20と、制御部3と、流量調整バルブ4とを主に備える。
【0020】
ボディ10は、ステンレス等の鋼材により構成され、外形が直方体形状をなし、その両端面には継手11が取り付けられている。ボディ10には、流入路10aと、バイパス流路10bと、センサ流入路10cと、センサ流出路10dと、合流路10eと、弁室10fと、流出路10gとが形成されている。
【0021】
バイパス流路10bへは、流入路10aを通過した流体が流入する。センサ流入路10cは、バイパス流路10bから分岐し、流量センサユニット20へ流体を流す。センサ流出路10dは、流量センサユニット20を通過した流体を流出させる。合流路10eでは、バイパス流路10bを通過した流体とセンサ流出路10dを通過した流体とが合流する。流入路10aと合流路10eは、流路中心線が同一直線上にある円形断面の流路である。
【0022】
また、バイパス流路10bおよびセンサ流入路10cは、所定の流量比(例えば、1:2~1:1000)で流体が流れるように構成されている。バイパス流路10b内には、複数枚のバイパスシート12が設けられている。弁室10f内には、流量調整バルブ4のバルブ本体4Aが配置されている。
【0023】
流量センサユニット20は、熱式流量センサユニットであり、センサベース本体21と、細管からなるセンサ流路22と、該センサ流路22の上流側及び下流側に巻き付けられた発熱コイルからなる一対の発熱抵抗体23a,23bと、一対のセンサフランジ24と、センサカバー25と、一対のガスケット26と、締結手段であるボルト27と、出力部であるブリッジ回路28を備える。
【0024】
ブリッジ回路28は、
図3に示すように、前記発熱抵抗体23a,23bと基準抵抗R1,R2とをこの順にダイヤモンド状に接続した回路であり、接続点P1~P2間に入力電圧を加え、接続点P3~P4間から出力電圧を得るようになっている。なお、ブリッジ回路28は、物理的には、制御部3のボードに設けられているが、機能的には流量センサユニット20の出力部と考えられるので、本明細書では、流量センサユニット20の構成要素として取り扱う。
【0025】
本実施形態では、2つの流量センサユニット20が並列に設けられている。
これらの流量センサユニット20のセンサ流路22の管径、長さ、形状、材質は同一である。また、それぞれのセンサ流路22の流入路10aからの流入地点及び流体流路への合流地点は、流路方向で同一に設定されている。
2つの流量センサユニット20は、
図2に示すように、底面10hに直交しかつ長手方向に延びる(つまり、流入路10aや合流路10eの流路中心線を含む平面である)仮想中央平面Cpに関して対称に配置されている。すなわち、
図2で左右対称に設けられている。この配置は、MFCが水平に置かれた場合や、流路方向に立てて置かれた場合に、両流量センサユニットが受ける重力が同一または対称になるので、それぞれの流量センサユニット20の出力信号が受ける重力の影響が平等になり、後述する信号加算によるノイズ成分低減効果が損なわれない点で好ましい。
【0026】
制御部3は、流量センサユニット20からの信号に基づいて流体の流量を算出し、バイパス流路10bを流れる流体が所定の流量となるように流量調整バルブ4へ制御信号を出力するフィードバック制御を行う。制御部3は、
図4に示すように、増幅器31,AD変換器32,加算部33、比較制御部34,DA変換器35,増幅器36を含む。なお、加算部33と比較制御部34は、マイコンCPUにより実行されるプログラムであり、物理的なユニットではない。
【0027】
流量調整バルブ4は、制御部3からの制御信号に基づいて流体の流路を開閉するバルブであり、
図1に示すように、バルブ本体4Aと駆動アクチュエータ4Bとからなる。
【0028】
次に、このように構成された本実施形態のMFC1の動作について、
図3及び
図4を参照して説明する。
各流量センサユニット20A、20Bにおいて、ブリッジ回路28の接続点P1~P2間に電圧V
inを加え、上流側と下流側の発熱抵抗体23a、23bに通電して発熱させるとともに、これらの発熱抵抗体の抵抗値Ra,Rb(温度に比例する)を検出する。センサ流路22内に流体が流れると、上流側の発熱抵抗体23aは、流れてくる流体で冷やされて温度の上昇が抑えられ、下流側の発熱抵抗体23bは、上流側発熱抵抗体23aで加熱された流体が流れてくるので、温度の上昇が大きく、その結果、両発熱抵抗体23a、23bの間で温度差が生ずる。この温度差は、ある流量の範囲では流体の質量流量に比例すると見なせる。ブリッジ回路28は、この温度差の指標となる発熱抵抗体23a、23bの抵抗値差Ra-Rbを、接続点P3~P4間の出力電圧V
outに変換して出力している。
(基準抵抗値R1とR2が等しい場合、V
out=V
in×(Rb-Ra)/(Ra+Rb)となり、V
outはRb-Raにほぼ比例する。)
【0029】
それぞれの流量センサユニット20A、20Bのブリッジ回路28からの出力側信号線は、
図3のように、オペアンプからなる増幅器31に入力される。増幅されたそれぞれの出力信号は、AD変換器32でデジタル化され、加算部33で加算される。加算された信号(デジタルデータ)は、さらに処理されて流量値が算出される。算出された流量値は、比較制御部34に入力される。
なお、加算部33での加算の直後に2で割る処理を加えると、両出力信号の平均を計算したのと等価な処理になる。また、両出力信号を入力として流量値を推定して出力するカルマンフィルタを構成した場合も、2つのセンサが同一の特性を持つ場合は、2つの測定値の和を入力にしてカルマンフィルタを構成したものと等価なシステムが、カルマンゲインの計算結果として得られる。
比較制御部34は、算出された流量値と外部のコントローラ(図示省略)から入力された流量設定値とを比較し、制御信号を出力する。この制御信号は、算出された流量値と流量設定値との単なる差分信号でもよいが、差分とその積分と微分に基づくPID制御信号であることが好ましい。
この制御信号は、DA変換器35でアナログ電圧に変換され、さらにオペアンプからなる増幅器36で増幅されて、流量調整バルブ4を駆動する。
このような、フィードバック制御を行うことにより、MFCを流れる流体の質量流量が所定値になるように調整する。
【0030】
本発明では、2つの実質的に同一の流量センサを用い、これらの出力信号を加算した信号を用いているが、その場合に信号のS/N比が改善される理由は、以下のように説明される。
ある時点での1つのセンサの実測定値は、信号とノイズの和と考えられる。
ノイズゼロの時に得られるべき真の値がμXである場合、実測定値Xの確率分布は、平均値μXと分散σXを持つ正規分布で十分近似できる。
X = N(μX,σX) = μX + N(0,σX)
これを、シグナル μX の周りに、正規分布のノイズN(0,σX)を持つと見た場合、XのS/N比は、信号のパワーをノイズの分散で割ることにより、
S/N = μX
2 / σX
2 - (1)
で表される。
次に、センサxとセンサyの出力値を加算した信号X + Yを同様に考える。
センサxとセンサyが同じ特性を持つ場合、即ち、μX = μY、σX = σY である場合、加算した信号のS/N比は、
S/N = (μX + μX)2 / (σX
2 + σX
2) = (2μX)2 / 2σX
2 = 2 (μX
2 / σX
2) - (2)
となる。ただし、センサxとセンサyのノイズは独立と仮定して、X+Yの分散はσx+σyとなることを利用した。
(1)式と比較すると、センサ1個のときよりもS/N比が2倍に改善することがわかる。これはパワーにおいて2倍の改善なので、電圧振幅において√2倍、デシベルにして約3dBの改善に相当する。
2つの各センサが異なるS/N比を持っている際にもこのS/N比改善効果は発揮されることが同様の計算からわかるが、最もこの効果が大きいのは2つのセンサが同一の特性を持つ場合である。
【0031】
(第2の実施形態)
本実施形態は、制御部での信号処理をアナログ回路によって行う実施形態である。この点以外の構成については、第1の実施形態と同一なので、説明は省略する。
【0032】
本実施形態のMFC1の制御部3の構成と信号処理動作について、
図4を参照して説明する。
本実施形態の制御部3は、増幅器31,加算回路37、比較制御回路38,増幅器36を含む。
各流量センサユニット20A、20Bとそれらのブリッジ回路28の構成及び動作は、第1の実施形態と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0033】
それぞれの流量センサユニット20A、20Bのブリッジ回路28からの出力側信号線は、
図4のように、オペアンプからなる増幅器31に入力される。増幅されたそれぞれの出力信号は、オペアンプからなる加算回路37で加算される。加算された信号(アナログ信号)は、流量測定値として外部出力されるとともに、比較制御回路38に入力される。
比較制御回路38は、オペアンプからなり、算出された流量値と外部のコントローラ(図示省略)からアナログ信号として入力された流量設定値とを比較し、制御信号を出力する。この制御信号は、算出された流量値と流量設定値との単なる差分信号でもよいが、微分回路と成分回路(いずれも図示省略)を設けて、差分とその積分と微分に基づくPID制御信号であることが好ましい。
この制御信号は、さらにオペアンプからなる増幅器36で増幅されて、流量調整バルブ4を駆動する。
このような、制御を行うことにより、MFCを流れる流体の質量流量が所定値になるように調整する。
この実施形態でも、2つの流量センサを用い、これらの出力信号を加算した信号を用いているので、信号のS/N比が改善される。
【0034】
なお、上記各実施形態では、2つの流量センサを用い、これらの出力信号を加算した信号を用いたが、3つ以上の同一の流量センサを用い、これらの出力信号を加算して流量を算出してもよい。N個の同一の流量センサを用いた場合、前記の式(2)より、パワーのS/N比はN倍に改善し、電圧振幅のS/N比は√N倍に、デシベルで10log10N改善する。
【0035】
また、上記各実施形態では、2つの実質的に同一の特性を有する流量センサを用い、これらの出力信号を加算した信号を用いたが、異なる特性を有する流量センサを複数用いてもよい。異なる特性を有するセンサであっても、信号成分同士の相関の方がノイズ成分同士の相関より高いので、信号の加算により一定程度のS/N比改善効果は得られる。
【0036】
また、第1の実施形態では、加算部33と比較制御部34は、マイコンCPUにより実行されるプログラムで構成し、第2の実施形態では、これらを加算回路37と比較制御回路38というアナログ回路で構成したが、これに限られず、例えば、加算部を加算回路37というアナログ回路で構成し、比較制御部34をマイコンCPUにより実行されるプログラムで構成してもよい。
【0037】
次に、本発明の流体制御装置について説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る流体制御装置の概略斜視図である。
図6に示す流体制御装置には、幅方向W1、W2に沿って配列され長手方向G1、G2に延びる金属製のベースプレートBSが設けられている。なお、W1は正面側、W2は背面側、G1は上流側、G2は下流側の方向を示している。ベースプレートBSには、複数の流路ブロック992を介して各種流体機器991A~991Eが設置され、複数の流路ブロック992には、上流側G1から下流側G2に向かって流体が流通する図示しない流路がそれぞれ形成されている。
【0038】
ここで、「流体機器」とは、流体の流れを制御する流体制御装置に使用される機器であって、流体流路を画定するボディを備え、このボディの表面で開口する少なくとも2つの流路ロを有する機器である。具体的には、開閉弁(2方弁)991A、レギュレータ991B、プレッシャーゲージ991C、開閉弁(3方弁)991D、マスフローコントローラ991E等が含まれるが、これらに限定されるわけではない。なお、導入管993は、上記した図示しない流路の上流側の流路口に接続されている。
本発明は、上記したマスフローコントローラ991Eに適用可能である。
【0039】
次に、本発明の半導体製造装置について説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係る半導体製造装置のブロック図である。
図7に示す半導体製造装置980は、原子層堆積法(ALD:Atomi c Layer Deposition 法)による半導体製造プロセスを実行するための装置であり、981はプロセスガス供給源、982はガスボックス、983はタンク、984は開閉バルブ、985は制御部、986は処理チャンバ、987は排気ポンプを示している。例えば、ALD法等においては、基板に膜を堆積させる処理プロセスに使用する処理ガスをより大きな流量で安定的に供給することが求められている。
ガスボックス982は、正確に計量したプロセスガスを処理チャンバ986に供給するために、開閉バルブ、レギュレータ、マスフローコントローラ等の各種の流体機器を集積化してボックスに収容した集積化ガスシステム(流体制御装置)である。
タンク983は、ガスボックス982から供給される処理ガスを一時的に貯留するバッフアとして機能する。
開閉バルブ984は、上記した変位拡大機構を内蔵したダイヤフラムバルブである。
制御部985は、開閉バルブ984への操作ガスの供給制御による流量調整制御を実行する。
処理チャンバ986は、ALD法による基板への膜形成のための密閉処理空間を提供する。
排気ポンプ987は、処理チャンバ986内を真空引きする。
本発明は、上記したガスボックス982(流体制御装置)の構成要素としてのマスフローコントローラに適用可能である。
【0040】
上記のようなシステム構成によれば、制御部985から開閉バルブ984に制御指令を送れば、処理ガスの流量制御が可能になる。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 :マスフローコントローラ(MFC)
3 :制御部
4 :流量制御機構
4A :流量制御弁
10 :ボディ
11 :継手
10a :流入路
10b :バイパス流路
10c :センサ流入路
10d :センサ流出路
10e :合流路
10f :弁室
10g :流出路
12 :バイパスシート
20,20A,20B :流量センサユニット
21 :センサベース本体
22 :センサ流路
23a,23b:発熱抵抗体(発熱コイル)
24 :センサフランジ
25 :センサカバー
26 :ガスケット
27 :ボルト
28 :ブリッジ回路
31 :増幅器
32 :AD変換器
33 :加算部
34 :比較制御部
35 :DA変換器
36 :増幅器
37 :加算回路
38 :比較制御回路
980 :半導体製造装置
981 :プロセスガス供給源
982 :ガスボックス
983 :タンク
984 :開閉バルブ
985 :制御部
986 :処理チャンバ
987 :排気ポンプ
991A~991E :流体機器
992 :流路ブロック
993 :導入管
BS :ベースプレート
GI、G2:長手方向
L0 :初期長さ
L1 :第1の圧電アクチュエータの長さ
L2 :第2の圧電アクチュエータの長さ
W1、W2:幅方向