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特許7262779異方性ナノ構造体及びその製造方法並びに触媒
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】異方性ナノ構造体及びその製造方法並びに触媒
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20230417BHJP
   B22F 9/18 20060101ALI20230417BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20230417BHJP
   B22F 1/145 20220101ALI20230417BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20230417BHJP
   B01J 23/52 20060101ALI20230417BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230417BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20230417BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F9/18
B22F1/054
B22F1/145
B01J23/46 301M
B01J23/46 311M
B01J23/52 M
B01J35/02 H
B01J37/16
C22C5/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019562093
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047807
(87)【国際公開番号】W WO2019131744
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2017249511
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「元素間融合技術の確立と理論予測に基づく固溶型ナノ合金の構築」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 冬霜
(72)【発明者】
【氏名】草田 康平
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150596(WO,A1)
【文献】特開2016-204746(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039361(WO,A1)
【文献】特開2016-160478(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045570(WO,A1)
【文献】特開2017-127799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/18
B01J 23/46
B01J 23/52
B01J 35/02
B01J 37/16
C22C 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Ru1-x(式中、0.6≦x≦0.999、MはIr、Rh、Pt、Pd及びAuからなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。)で表わされ、RuとMが原子レベルで固溶し、かつ、異方性の六方最密構造(hcp)を有し、且つ、下記式(I)
Z/Y≧1.5 (I)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し 、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす、異方性ナノ構造体。
【請求項2】
0001面が主要な面として露出したナノシート又はナノプレートが積み重なった2次元 シート構造を有する、請求項1に記載の異方性ナノ構造体。
【請求項3】
異方性の六方最密構造を有する異方性ナノ構造体が、下記式(Ia)
Z/Y≧2.5 (Ia)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し 、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす、請求項1又は2に記載の異方性ナノ構造体。
【請求項4】
異方性の六方最密構造を有する異方性ナノ構造体が、下記式(Ib)
Z/Y≧3 (Ib)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し 、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
【請求項5】
0001面の全表面積に対する露出割合((0001面の面積)/(全表面積))が60~99%である、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
【請求項6】
異方性ナノ構造体を構成する[0001]面が主要な面として露出したナノシート又はナノプレートの厚さが0.2~20nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の異方 性ナノ構造体。
【請求項7】
MがIrである、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
【請求項8】
0.8≦x≦0.995である、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のナノ構造体を含む、触媒。
【請求項10】
OER(酸素発生反応)又はHER(水素発生反応)用電極触媒である、請求項に記載の触媒。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体を製造する方法であって、還元剤を含む215~230℃の溶液に、Ru化合物とM化合物とを含む溶液を添加する工程を含むことを特徴とする、異方性ナノ構造体の製造方法。
【請求項12】
前記溶液におけるRu化合物とM化合物との合計の濃度が0.55C~2C(C=1mmol/15ml)である請求項11に記載の異方性ナノ構造体の製造方法。
【請求項13】
Ru化合物とM化合物とを含む溶液の添加速度が0.5r~5r(r=1ml/min)である請求項11又は12に記載の異方性ナノ構造体の製造方法。
【請求項14】
0001面内の結晶構造の長さが5nm以上、0001面外の結晶構造の長さが5nm以下、0001面内と0001面外の結晶構造の長さの比(0001面内の結晶の長さ/0001面外の結晶の長さ)=1.5~50である、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性ナノ構造体及びその製造方法並びに触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
Ir触媒は高い酸素発生反応(OER)の触媒活性を有することが知られているが(非特許文献1~5)、250mV以上の過電圧が必要である。
【0003】
RuOxはOER高活性な触媒であるが、酸性溶液中ではその活性は急激に低下する。非特許文献6は、RuベースOER触媒としてY2Ru2O7‐δ を報告しているが、1 mA cm-2 での活性は8時間しか保持されない。
【0004】
非特許文献7は、酸性溶液中でOERと水素発生反応(HER)の両反応に活性を持つ触媒として、RuO2-CNxを報告しているが、過電圧はOERで250mV、またHER活性は市販のPt/Cに劣っている。
【0005】
非特許文献8は、ソルボサーマル法によるナノシート型のRu、それを空気中で酸化したナノシート型のRuO2を開示しているが、それらのHER活性、OER活性はいずれも低いものであった。
【0006】
非特許文献9は、酸性溶液中でのIrOx/SrIrO3の酸素発生反応(OER)触媒を開示しているが、10mA/cm2oxide に達するまでに270mVの過電圧が必要である。
【0007】
特許文献1は、PdRu固溶体合金ナノ粒子を開示しているが、異方的な結晶構造についての開示はない。
【0008】
特許文献2は、PdRu合金電極材料が示されているが、実施例では反応温度が200℃で製造され、図6において耐久性が劣ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5737699号
【文献】特開2016-160478
【非特許文献】
【0010】
【文献】J. Zhang, et al., Nano Energy, 40, 27-33 (2017).
【文献】L.Fu, et al., Sustainable Energy Fuels, 1, 1199-1203, (2017)
【文献】Y. Pi, et al., Nano Lett., 16, 4424-4430, (2016)
【文献】P. Lettenmeier, Angew. Chem. Int. Ed., 55, 742-746, (2016)
【文献】H. N. Nong, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 54, 2975-2979, (2015)
【文献】J. Kim et al., J. Am. Chem. Soc., 139, 12076-12083, (2017)
【文献】T. Bhowmik, et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 8, 28678-28688, (2016)
【文献】X. Kong, et al., ACS Catal., 6, 1487-1492, (2016)
【文献】L. C. Seitz, et al., Science, 353, 1011-1014, (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い活性と耐久性を兼ね備えた酸素発生反応(OER) 触媒活性及び水素発生反応(HER)触媒活性を有する新規材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の異方性ナノ構造体及びその製造方法並びに触媒を提供するものである。
項1. 式RuxM1-x(式中、0.6≦x≦0.999、MはIr、Rh、Pt、Pd及びAuからなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。)で表わされ、 RuとMが原子レベルで固溶し、かつ、異方性の六方最密構造(hcp)を有する異方性ナノ構造体。
項2. 0001面が主要な面として露出したナノシート又はナノプレートが積み重なった2次元シート構造を有する、項1に記載の異方性ナノ構造体。
項3. 異方性の六方最密構造を有する異方性ナノ構造体が、下記式(I)
Z/Y≧1.5 (I)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす、項1又は2に記載の異方性ナノ構造体。
項4. 異方性の六方最密構造を有する異方性ナノ構造体が、下記式(Ia)
Z/Y≧2.5 (Ia)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす、項3に記載の異方性ナノ構造体。
【0013】
項5. 異方性の六方最密構造を有する異方性ナノ構造体が、下記式(Ib)
Z/Y≧3 (Ib)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす、項3に記載の異方性ナノ構造体。
項6. 0001面の全表面積に対する露出割合が60~99%である、項1~5のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
項7. 異方性ナノ構造体を構成する[0001]面が主要な面として露出したナノシート又はナノプレートの厚さが0.2~20nmである、項1~6のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
項8. MがIrである、項1~7のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
項9. 0.8≦x≦0.995である、項1~8のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
項10. 樹枝状、珊瑚状、網目状又はフラワー状の形状を有する項1~9のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体。
項11. 項1~10のいずれか1項に記載のナノ構造体を含む、触媒。
項12. OER(酸素発生反応)又はHER(水素発生反応)用電極触媒である、項11に記載の触媒。
項13. 項1~10のいずれか1項に記載の異方性ナノ構造体を製造する方法であって、還元剤を含む215~230℃の溶液に、Ru化合物とM化合物とを含む溶液を添加する工程を含むことを特徴とする、異方性ナノ構造体の製造方法。
項14. 前記溶液におけるRu化合物とM化合物との合計の濃度が0.55 C0~ 2C0(C0 = 1 mmol / 15ml)である項13に記載の異方性ナノ構造体の製造方法。
項15. Ru化合物とM化合物とを含む溶液の添加速度が0.5 r0~ 5r0(r0 = 1 ml / min)である項13又は14に記載の異方性ナノ構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
固体高分子型水電解システムはOER触媒の性能により、その効率が制限されている。本明細書で開示する異方性ナノ構造体から構成される触媒により酸性溶液中でも極めて低い過電圧で10mA/cm2の電流密度に達することが可能となる。また、従来Ru系触媒は高活性を示すが、耐久性が極めて低いことが知られていたが、本明細書で開示する触媒はRuが主成分であるにもかかわらず、従来の高耐久性Ir系触媒よりも優れた耐久性を実現することが可能となる。加えて、従来のIr系触媒に比べRuは安価である。更に、HERにも高活性を示し、Pt/Cよりも優れた活性を示すため少量で有効であり、触媒製造の面でもコスト削減が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】水の電気分解におけるHERとOER。
図2】実施例における本発明の異方性ナノ構造体(N-RuIr)と従来の等方性ナノ粒子(S-RuIr、Ru、Ir)の製造法。
図3】本発明の異方性ナノ構造体(N-RuIr、#39)、等方性ナノ粒子(S-RuIr)、Ruナノ粒子(Ru NPs)、Irナノ粒子(Ir NPs)のTEM像、形状、サイズ、Ru/Ir比。N-RuIrは均質なナノフラワー様の構造を有し、S-RuIr、Ru NPs及びIr NPsは球状に近い形状を有する。また、XRF分析によるN-RuIrとS-RuIrのRuとIrの比率は類似している。Scale bar: 100 nm。図3中の表において、[1] Average sized obtained by counting at least 200 NPs [2] Atomic ratio obtained by XRF
図4】N-RuIr、S-RuIr、Ru NPs、Ir NPsの粉末X線回折(PXRD)パターン。N-RuIrとS-RuIrはRu NPs、Ruバルクと同様に六方最密構造(hcp)を有する。N-RuIrは、特定の回折ピークで大きな結晶子サイズ、(01-10) (13.5 nm)と(11-20) (11.5 nm)を示し、他のピークの結晶子サイズ(2nm以下)と異なることから示唆されるように異方性構造を有する。
図5】N-RuIrのHAADF-STEMおよびEDXマップ。 RuIrはナノコーラル(NC)様の構造を有する。RuとIrは構造物中で均質に分布しており、固溶体であることが示された。
図6A】(a) N-RuIrのHAADF-STEM像。(b) HADDF像(上)内、1から3の四角の拡大図。拡大図1-3において明るい原子がIr原子であり、Ir原子はhcp Ru格子内に均質に分布している。ナノフラワーは露出した(0001)面を有する薄いシートが積み重なっていることが分かる。[0001]面に特有の6角形のパターンが見え、どのシートも[0001]面が主要な露出面の構造であることが確認された。(c) シートを横から見た図。モデルと原子の配列が一致することが分かる。厚みは3nm程である。
図6B】N-RuIrのHAADF-STEM像。(a)無傾斜と(b)45°傾斜の比較から、本発明のナノ構造体が多数の平面のナノシートから構成されることが示されている。(b)45°傾斜において、針状に見える部分はナノプレート/ナノシートが電子線入射方向に水平になっている。
図6C】N-RuIrのHAADF-STEM像
図7】S-RuIrのSTEM-EDXマップ。(a)HAADF、(b)重ね合わせ、(c)Ru L、(d)Ir M。S-RuIrはN-RuIrと同様に固溶体構造を有することが明らかになった。
図8】酸性水溶液中でのOER活性及び安定性。(a)OER分極曲線、(b) 1.43VRHEでの電流密度、(c)電流密度1mA/cm2でのクロノポテンシオメトリー曲線。試験条件:Ar-purged 0.05 M H2SO4 溶液, 1600 rpm, 5 mV/s。IrO2とRuO2は、各々Sigma-Aldrichと和光純薬工業から購入した。(a, b) N-RuIr shows the highest activity with an overpotential of 170 mV to achieve 10 mA cm-2. (c) N-RuIr shows high stability. There is no obvious change in the potential even around 90 h.
図9】第1、第2、第4回目のOER分極曲線、(a) (a-1)ナノ構造体N-RuIrは1回目と4回目でカーブが変わらないのに対し、(a-2)球状のS-RuIrは回数を重ねるごとにカーブの立ち上がりが高電位側にシフトし、活性が落ちている。(b) (b-1)異方性Ruナノ構造体は、N-RuIrに比べ回数を重ねるごとに活性が落ちているが、(b-2)球状のRu(Ru NPs)は活性の落ち方が極めて速い。(a)、(b)より特異なナノ構造と合金の効果により高い耐久性が実現している事がわかる。
図10】酸性水溶液中でのHER活性。(a)HER分極曲線、(b) 10mA/cm2での過電圧。試験条件: Ar-purged 0.05 M H2SO4 溶液, 1600 rpm, 5 mV/s。N-RuIrはS-RuIr、金属単体(Ru、Ir) よりも高いHER 活性を示す。またN-RuIrの活性は市販の Pt/Cよりも高い。
図11】PXRDパターン。(a)S-RuIr、(b)N-RuIr。黒丸(black circles)はPXRDの測定値であり、赤太線(red line)はPXRDのフィッティングカーブである。灰色三角(gray triangle)の下のプロファイルは測定値とフィッティングカーブの差異であり、ライトブルーの細線(light-blue)はバックグラウンドを示す。S-RuIrは結晶性が低いのに対し、N-RuIrは異方性成長のために特定の結晶方位で高い結晶性を示す。より良い結晶性と低次元の異方性成長は安定性に寄与すると考えられる。
図12】ナノ構造体の合成条件。金属塩溶液の濃度を変化させた(C0= 1 mmol/15 ml)。濃度の上昇につれて、異方性成長が促進した。合成条件:230℃、TEG(100 ml) 、添加速度 (1 ml/min)、PVP/Metal = 5
図13】ナノ構造体の下記の合成条件において、合成中の平均温度を変化させた。215~230℃が異方性成長に最適な温度範囲であることが明らかになった。合成条件:2C0、TEG(100 ml) 、添加速度 (1 ml/min)、PVP/Metal = 5
図14】ナノ構造体の合成条件。異方性成長したRuIrナノ構造体合成における金属塩溶液の注入速度の影響(r0=1.00ml/min)。異方性成長は、0.5r0~5r0で生じ、注入速度を速めると結晶サイズが低下した。合成条件:2C0、TEG(100 ml) 、230℃、PVP/Metal = 5
図15】異方性成長したRuIrナノ構造体におけるIr含量の影響(TEM像)。#6(24 at.% Ir)、#5(32 at.% Ir)、#24(36 at.% Ir)、#25(38 at.% Ir)は実施例5で得られたN-RuIrであり、#27(47 at.% Ir)は比較例2で得られたS-RuIrである。スプレー法を用いた以外の製造条件は、#39と同じである。矢印で示す粒子は異方的に成長している。
図16】異方性成長したRuIrナノ構造体におけるIr含量の影響(XRD)。Ir含量が40原子%を超えると異方性成長が見られなくなる。図15~16よりIr含量が0原子%超かつ40原子%以下の範囲であれば、異方性成長することが明らかとなった。矢印で示すピークが異方的に成長していることを示唆。
図17】異方性成長したRuPd、RuPt、RuRh、RuAuナノ構造体のTEM像。
図18】異方性成長したRuPd、RuPt、RuRh、RuAuナノ構造体のXRDパターンと結晶子サイズ解析。
図19】異方性成長したRuIrナノ構造体をさまざまな角度から撮影したHAADF-STEM像から再構成された3Dトモグラフィー像を異なる角度から見た図。
図20】XRDから得られた11-20(面内方向)の結晶子サイズを平均的なシートの広さと仮定して、円盤シートを想定。相似関係より、10-11の√(9/32)≒0.53倍が円盤シートの厚みとなる。なお、10-11と図20の01-11は等価な面である。
図21】HER触媒活性。第2金属Mが5原子%程度でもRuナノ粒子(Ru NP)に対し有意に触媒活性を高めることが明らかになった。
図22】異なるIr組成を有するRuIr NCsの合成法
図23】異なるIr%のRuIr NanocoralのXRDパターンと結晶子サイズ解析
図24図22で合成されたRuIr Nanocoral のTEM像
図25図22で合成されたRuIr Nanocoral の酸性水溶液中でのOER活性及び安定性。(a)OER分極曲線(試験条件:Ar-purged 0.05 M H2SO4溶液, 1600 rpm, 5 mV/s。)、(b)電流密度1mA/cm2でのクロノポテンシオメトリー曲線。Ir量が多くなりすぎると、やや活性が下がる。Ir 30at%までRuIr球状粒子、Irナノ粒子よりもRuIr Nanocoralは高い安定性を示す。
図26】異方性の異なるRuIr触媒の合成法
図27】Sample 1,2のXRDパターン、結晶子サイズ及びTEM像
図28】酸性水溶液中でのOER活性及び安定性。(a)OER分極曲線(試験条件:Ar-purged 0.05 M H2SO4溶液, 1600 rpm, 5 mV/s。)、(b)電流密度1mA/cm2でのクロノポテンシオメトリー曲線。高い異方性を有するSample 1の方がSample 2よりも高活性・高安定性を示す
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい1つの実施形態において、ナノ構造体は、異方性の六方最密構造(hcp)を主構造とし、0001面が主要な面として露出した固溶体構造を有する。異方性の六方最密構造(hcp)と固溶体構造の組み合わせにより、高い活性と耐久性を兼ね備えた酸素発生反応(OER) 触媒活性及び水素発生反応(HER)触媒活性が付与される。該ナノ構造体の結晶の成長方向は、0001面に平行で、0001面を広くする方向である。好ましい1つの実施形態において、本発明のナノ構造体は、その構成要素として0001面の露出割合が大きくなるようにナノシート又はナノプレートが、積み重なった2次元シート構造を有する。ここで、「積み重なった」とは、隣接する2つのナノシート又はナノプレートの0001面が重なっている部分も存在するが、その割合は比較的少ないものを意味する。好ましい1つの実施形態では、本発明のナノ構造体を構成するナノシート又はナノプレートは、0001面の重なりが少なく0001面の全表面積に対する露出割合が高いものである(図6A図19図20)。本発明の好ましい1つの実施形態において、本発明の異方性ナノ構造体における0001面の全表面積に対する露出割合の下限は、好ましくは60%以上、或いは62%以上、64%以上、66%以上、68%以上、70%以上、72%以上、或いは74%以上である。本発明の異方性ナノ構造体における0001面の全表面積に対する露出割合の上限は、特に限定されないが、例えば99%以下、98%以下、96%以下、94%以下、92%以下、90%以下、88%以下、86%以下、84%以下又は82%以下である。
【0017】
本発明の好ましい1つの実施形態において、2次元シート構造は、0001面外には好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下、さらに好ましくは3nm以下の結晶構造を有し、0001面内には好ましくは5nm以上、より好ましくは7.5nm以上、さらに好ましくは10nm以上の結晶構造を持つ。0001面内の結晶構造の上限は、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。また、2次元シート構造において、0001面内と0001面外の結晶構造の長さの比(0001面内の結晶の長さ/0001面外の結晶の長さ)=1.5~50、好ましくは2~10である。図6Cの下図には、0001面の面外に2nmのナノシートの結晶構造が示されている。また、図6A(c)には、0001面の面外に3.06nmのナノシートの結晶構造が示されている。
【0018】
異方性ナノ構造体を構成する主要な面として露出したナノシート又はナノプレートの厚さは0.2~20nm、好ましくは0.2~18nm、より好ましくは0.2~15nm、さらに好ましくは0.2~12nm、特に0.2~10nmである。ナノシート又はナノプレートの厚さは、ナノシート又はナノプレートの10-11ピークから算出された結晶子の大きさから推定することができる。
【0019】
多数のシート(ナノシート、ナノプレート)は0001面が広くなるように成長し、多数のシートが放射状かつ立体的に幾重にも積み重なった場合、鞠のようなコーラル状(珊瑚状)もしくはフラワー状の形状になり(図6A)、多数のシートが放射状かつ平面的に成長した場合にはシート状の積層体になる。多数のシートが様々な方向を向き、0001面又は側面で接するもしくは絡み合っている場合、ナノ構造体は、樹枝状、珊瑚状(図19)、網目状などの隙間の多い形状になる。本発明のナノ構造体は、これらの形状を全て含む。樹枝状の場合、シートの方向によっては電子顕微鏡観察にて[01-10]の方向に軸を伸ばした棒状の構造のように観測されることがある。図6B図6Cから、ナノシート/ナノプレートが縦になると(ナノシート/ナノプレートを厚さ方向に交差する方向から見ると)[01-10]方向に伸びたバー状に見えることが確認できる。なお、上記に例示される各形状は厳密な違いはなく、1つのナノ構造体を複数の形状で表現し得る。例えば図6Aのナノ構造体はナノフラワー状であり、かつ、ナノコーラル状である。本発明の1つの特に好ましい実施形態において、本発明のナノ構造体はナノコーラル状である。
【0020】
本発明の1つの好ましい実施形態において、異方性の六方最密構造を有する異方性ナノ構造体は、下記式(I)
Z/Y≧1.5 (I)
(式中、YはX線回折パターンの10-11ピークから算出された結晶子の大きさを表し、Zは11-20ピークから算出された結晶子の大きさを表す。)
の関係を満たす。
【0021】
Z/Yは好ましくは1.5以上、より好ましくは1.7以上、2.0以上、2.5以上であり、最も好ましくは3以上である。Z/Yの値が高くなるほど、耐久性が高くなるので、好ましい。
【0022】
Ruはhcp構造を有し、M(Ir、Rh、Pt、Pd、Au)はfcc構造を有する。本発明のナノ構造体は、Ruを主成分として含み、基本的にhcp構造を有する。Ruの割合が多くなると異方性成長が促進される。一方、金属Mの割合が少なすぎると、本発明のナノ構造体をOER用触媒として使用した場合に耐久性が向上しない結果となるため、Ruと金属Mの割合(原子%)には最適な範囲が存在する。本発明のナノ構造体は、式RuxM1-x(0.6≦x≦0.999)で表わされる。xの好ましい範囲は、0.7≦x≦0.995、より好ましくは0.8≦x≦0.995、さらに好ましくは0.85≦x≦0.99、特に好ましくは0.9≦x≦0.98、最も好ましくは0.92≦x≦0.97である。RuとM(Pd、Au)は相互に混ざらない金属の組み合わせであるが、本発明のナノ構造体は、固溶体で構成される。
【0023】
本発明のナノ構造体の平均粒径は、5~500 nm程度、好ましくは10~400 nm程度、より好ましくは20~300 nm程度、さらに好ましくは25~250nm程度、最も好ましくは30~200nm程度である。平均粒径が5nm以上の場合には、本発明のナノ構造体をOER用触媒又はHER用触媒として使用した場合に、酸性条件下でのOER反応又はHER反応において溶液中に溶解し難くなり、触媒の耐久性が向上する。平均粒径が500nm以下の場合には、触媒活性が高く維持される。平均粒径(ナノシート集合体としての2次粒径)は、200個以上の粒子をTEM像から粒径を実測し、算術平均を取ることで決定することができる。
【0024】
本発明のナノ構造体は、担体に担持されていてもよい。担体は特に制限はないが、具体的には酸化物類、窒化物類、炭化物類、単体炭素、単体金属などが担体として挙げられ、中でも酸化物類、単体炭素が好ましく、単体炭素類が特に好ましい担体である。本発明のナノ構造体を電極触媒用途に使用する場合には、導電性を有する担体が好ましく、単体炭素が好ましい。
【0025】
酸化物類としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、ニオビアなどの酸化物や、シリカ-アルミナ、チタニア-ジルコニア、セリア-ジルコニア、チタン酸ストロンチウムなどの複合酸化物などが挙げられる。単体炭素としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、活性炭素繊維などが挙げられる。窒化物類としては、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化タングステン、窒化モリブデン、窒化チタン、窒化ニオブが挙げられる。炭化物類としては、炭化ケイ素、炭化ガリウム、炭化インジウム、炭化アルミニウム、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化チタン、炭化ニオブ、炭化ホウ素が挙げられる。単体金属としては、鉄、銅、アルミニウムなどの純金属及びステンレスなどの合金が挙げられる。
【0026】
本発明のナノ構造体は、表面保護剤により被覆されていてもよい。表面保護剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリマー類、オレイルアミンなどのアミン類、オレイン酸などのカルボン酸類が挙げられる。
【0027】
本発明のナノ構造体は、酸性条件下での酸素発生反応(OER)用触媒及び水素発生反応(HER)用触媒として特に優れている。本発明のナノ構造体は、アルカリ条件下又は海水条件下の電解にも適している。触媒は、好ましくは電極触媒である。
【0028】
本発明のナノ構造体の製造は、以下のようにして行うことができる。
【0029】
先ず、Ru化合物とM化合物(Ir化合物、Rh化合物、Pt化合物、Pd化合物、Au化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種)を含む金属化合物溶液(好ましくは水溶液)及び還元剤溶液を準備する。なお、還元剤溶液は、液体還元剤を含み、更に任意成分として保護剤、水を含んでいてもよい。還元剤溶液は予め加熱し、還元剤の加熱溶液に金属化合物溶液を加えることが好ましい。還元剤溶液の温度は205~240℃、好ましくは210~235℃、より好ましくは215~230℃である。還元剤溶液の温度が215~230℃のときに、本発明のナノ構造体が最も多く得られる。還元剤溶液の温度が205℃未満、特に200℃以下であると、得られたナノ構造体の0001面の全表面積に対する露出割合が低下することにより耐久性が低下する。還元剤溶液が水を含む場合、上記の温度に調整できる程度の量の水であることが必要である。水が多量に含まれる場合には、還元剤溶液を上記の温度に加熱して、所望の温度が保持できるまで水を蒸発させれば、還元剤溶液として使用できる。液体還元剤が空気中の水分を吸収する場合には、上記の温度(少なくとも205℃)が実現できる限り、吸湿した液体還元剤を使用することができる。また、フロー合成で高圧力で反応が行える場合、水が大量に含まれていても上記の温度に調節できるのであれば蒸発の必要はない。例えば10MPaの場合、水が90%、エタノールが10%の混合溶液を用いても良い。
【0030】
金属化合物溶液は、加熱された還元剤溶液にスプレー、或いは、注射器などで一定の速度で還元剤溶液に加えられることが好ましい。金属化合物溶液は、通常水溶液を使用するので、温度は室温(20℃)から80℃程度が例示できる。反応時間は、1分~12時間程度であり、反応は撹拌下に行うことが好ましい。金属化合物溶液の濃度は、好ましくは0.55 C0~ 2C0程度(C0 = 1 mmol / 15ml)であり、金属化合物溶液の添加速度は、好ましくは0.2 r0 ~5 r0程度(r0 = 1 ml / min)、より好ましくは0.5 r0 ~4 r0程度である。
【0031】
なお、C0はRu化合物とM化合物の合計の濃度を示す。本発明のナノ構造体は、反応温度、金属化合物溶液の濃度と添加速度が全て上記の範囲内であり、かつ、Ruが60~99.9原子%である場合により効率的に製造することができる。
【0032】
金属化合物溶液の濃度と添加速度が上記の範囲にあれば、本発明のナノ構造体の収量が増大するので好ましい。金属化合物溶液の濃度と添加速度が低すぎると球状のRuM固溶体ナノ粒子が得られる。
【0033】
反応終了後、放冷し、遠心分離することにより、Ruと金属Mの固溶体であり、かつ、0001面が露出した異方性を有する本発明のナノ構造体を得ることができる。液体還元剤とRu化合物、M化合物の反応を担体の存在下に行うと、担体に、異方性であり、かつ、RuとMの固溶体が担持されたナノ構造体が得られる。
【0034】
液体還元剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジアルキレングリコール類、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコールなどのトリアルキレングリコール類、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコールなどのテトラアルキレングリコール類、グリセリンなどの多価アルコールが挙げられる。高圧下で反応を行う場合は低沸点のメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低沸点の1価アルコールも含まれる。
【0035】
Ru化合物、M化合物としては、以下のものが挙げられる:
Ru化合物: [Ru(NH3)6]Cl3, [Ru(C5H7O2)3], K2[RuCl5(NO)], K2[RuCl6]、Na2[RuCl6]、(NH4)3[RuCl6]、、RuCl3、RuBr3、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウムなど、
Ir化合物: IrCl4, IrBr4などのハロゲン化ルテニウム、K2[IrCl6]、硝酸イリジウム、イリジウムアセチルアセトナート、イリジウムシアン酸カリウム、イリジウム酸カリウムなど、
Pd化合物: K2PdCl4, Na2PdCl4, K2PdBr4, Na2PdBr4、硝酸パラジウムなど
Rh化合物: 酢酸ロジウム、硝酸ロジウム、塩化ロジウムなど
Pt化合物: K2PtCl4、(NH4)2K2PtCl4、(NH4)2PtCl6、Na2PtCl6など、ビスアセチルアセトナト白金(II)、
Au化合物: HAuCl4、HAuBr4、K2AuCl6、Na2AuCl6、酢酸金など、
Ru化合物とM化合物の溶媒溶液中の濃度としては、各々0.01~1000mmol/L程度、好ましくは0.05~100 mmol/L 程度、より好ましくは0.1~50 mmol/L程度である。Ru化合物とM化合物の濃度が0.01~1000mmol/L程度である場合にはRuとMの原子レベルで均一性が保たれる。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0037】
実施例において、以下の装置を用いた。
(i)Powder X-ray Diffraction (PXRD)
Rigaku Miniflex600 (Cu Kα)
(ii)Transmission electron microscope (TEM)
Hitachi HT7700 (accelerating voltage: 100 kV)
(iii)High-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy (HAADF-STEM)
JEOL JEM-ARM200F (accelerating voltage: 200 kV)
(iv)X-ray photoelectron spectroscopy (XPS)
Shimadzu ECSA-3400 (The data were calibrated by carbon 1s signal)
(v)Electrocatalytic process
ALS CHI electrochemical analyzer Model 760E
Rotating Ring Disk Electrode RRDE-3A (ALS Japan(BAS社))
【0038】
比較例1
テトラエチレングリコール(TEG)50 ml、PVP(5mmol)、IrCl4(0.1mmol)、RuCl3・nH2O(0.9mmol)を100mlのナス型フラスコに室温で加え、撹拌下にオイルバスで230℃まで加熱し、3時間反応させた。得られた反応液を遠心分離して沈殿した球状のRuIr固溶体ナノ粒子(Ru:Ir=93:7、粒径=4.0nm)を得た。以下、得られたナノ粒子をS-RuIrと略記する。得られたS-RuIrのTEM像と蛍光X線分析(XRF)の結果を図3に示す。また、Ruナノ粒子およびIrナノ粒子を上記と同様の方法で作製した。ただし、金属塩はRuナノ粒子ではRuCl3・nH2O(3.0mmol)、Irナノ粒子ではIrCl4(1.0 mmol)を使用した。得られたナノ粒子(Ir NPsとRu NPs)についてのTEM像とXRFの結果を図3に示す。
【0039】
実施例1
TEG(100ml)とPVP(10mmol)を200mlのビーカーに加え、撹拌下にオイルバスで230℃に加熱した。IrCl4(0.16mmol)とRuCl3・nH2O (1.84mmol)を15mlの水に溶解した溶液(合計の濃度は2C0、C0=1mmol/15ml)を上記のTEGとPVPを含む230℃の加熱溶液に撹拌下に0.5r0(r0=1.00ml/min)の速度で注入装置(商品名KDS200シリンジポンプ、KD Scientific社製)により注入し、30分間反応させた。得られた反応液を遠心分離して沈殿した固溶体であるRuIrナノ構造体(Ru:Ir=94:6)を得た(#39)。以下、得られたナノ構造体をN-RuIrと略記する。得られたN-RuIrのTEM像とXRFの結果を図3に示す。
【0040】
試験例1
実施例1で得られたN-RuIrと比較例1で得られたS-RuIr、さらにRu NPs、Ir NPs、Ruバルク(Ru bulk)、Irバルク(Ir bulk)についてのPXRDの結果を図4に示す。
【0041】
実施例1で得られたN-RuIrについてのHAADF-STEMおよびEDXマップを図5に示す。
【0042】
実施例1で得られたN-RuIrについてのHAADF-STEM像を図6A図6Cに示す。
【0043】
比較例1で得られたS-RuIrについてのHAADF-STEMおよびEDXマップを図7に示す。
【0044】
実施例1で得られたN-RuIrについてのさまざまな角度から撮影したHAADF-STEM像から再構成された3Dトモグラフィー像を様々な角度から見た図を図19に示す。
【0045】
実施例1で得られたN-RuIrと比較例1で得られたS-RuIrについてのPXRDの結果を図11に示す。
なお、PXRDの測定は、SPring-8 BL02B2 (λ = 0.58 Å)、Bruker D8 Advance (Cu Kα; λ= 1.54 Å)により行った。
【0046】
試験例2
[電極触媒の製造]
実施例1で得られたN-RuIrをカーボン粒子に担持したRuIrナノ構造体触媒(RuIr/C:金属量20wt%)を製造した。また、比較例1で得られたS-RuIrをカーボン粒子に担持したRuIr固溶体粒子触媒(RuIr/C:金属量20wt%)を製造した。さらに、N-RuIrの代わりにRu NPs、Ir NPs、IrO2(Sigma-Aldrich製)、RuO2(和光純薬工業株式会社製)、をカーボン粒子に担持した触媒およびPt/C(Johnson Matthey製)(各々Ru/C、Ir/C、IrO2/C、RuO2/C、Pt/C:金属量20wt%)を製造した。得られた触媒は回転ディスク電極(φ 5.00 mm, 0.196 cm-2)に各0.01mg塗布し触媒評価を行った。
【0047】
[OER(酸素発生反応)触媒活性]
電流測定装置:ポテンシオスタット(BAS社製 ALS760E)
測定方法:実施例1のN-RuIrをカーボンに担持した回転リングディスク電極をアノードとし、3電極式セル(対極:白金線、参照極:銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)、電解液:0.05MのHSO水溶液、25℃、Ar-パージ、1600rpm)を用いて、1Vから2.0V(vs.RHE)まで5mV/sにて電位Eを掃引したときの電流値Iを測定した。比較のために電極材料をN-RuIrに代えてS-RuIr、Ruナノ粒子(Ru NPs)、Irナノ粒子(Ir NPs)、酸化イリジウム(IrO2)、酸化ルテニウム(RuO2)を用いて同様にOER触媒活性を測定した。結果を図8aに示す。さらに、1.43VRHEでの電流密度(図8b)、電流密度1mA/cm2でのクロノポテンシオメトリー曲線(図8c)を測定した。OER分極曲線を繰り返し測定し、1回目(1st)、2回目(2nd)、4回目(4th)の結果を図9に示す。図8(a)-(b)より本発明のRuIrナノ構造体触媒が同金属組成のRuIrナノ粒子触媒および、Ruナノ粒子触媒、Irナノ粒子触媒、IrO2、RuO2触媒よりの高い活性を示し、RuIrナノ構造体触媒は電流密度10mA/cm-2までわずか170mVの過電圧で到達することが明らかとなった。図8(c)からはRuIrナノ構造体触媒が同金属組成のRuIrナノ粒子触媒および、Irナノ粒子触媒に比べはるかに高い耐久性を示すことが明らかとなった。図9(a)では、RuIrナノ構造体触媒が繰り返しの活性評価において触媒活性が低下しないことに対し、同金属組成のRuIrナノ粒子触媒では、2回目の評価ですでに活性が低下することが示されている。図9(b)では、Ruナノ構造体触媒およびRuナノ粒子触媒を比較しており、Ruナノ構造体触媒はRuナノ粒子より高い耐久性を有するが、2回目の評価で既に活性が低下している。図9の結果より、本発明のRuIrナノ構造体触媒の高い耐久性は特異なナノ構造と合金(固溶体)という2つの効果によるものであると示された。
【0048】
[HER(水素発生反応) 触媒活性]
電流測定装置:ポテンシオスタット(BAS社製 ALS760E)
測定方法:実施例1のN-RuIrをカーボン粒子に担持した回転リングディスク電極をカソードとし、3電極式セル(対極:白金線、参照極:水銀-酸化水銀電極(Hg/HgO)、電解液:0.05MのHSO水溶液、25℃、Ar-パージ、1600rpm)を用いて、-1Vから0.1V(vs.RHE)まで5mV/sにて電位Eを掃引したときの電流値Iを測定し、HER触媒活性を評価した。比較のために電極材料をN-RuIrに代えてS-RuIr、Ruナノ粒子(Ru NPs)、Irナノ粒子(Ir NPs)、白金ナノ粒子(Pt NPs)を用いて同様にHER触媒活性を測定した。結果を図10に示す。本発明のRuIrナノ構造体触媒はいずれの触媒よりも高い活性を示し、市販のPt触媒よりも高い活性を示すことが分かった。
【0049】
実施例2
IrCl4とRuCl3の濃度を0.55C0(#38)、1.00C0(#42)、2.00C0(#33)とし、注入速度を1.0r0(r0=1.00ml/min)とした以外は、実施例1と同様にしてN-RuIrを得た。得られたN-RuIrのTEM像、PXRD、XRFの結果を図12に示す。金属塩濃度が高いとより異方的成長が促されることが分かった。
【0050】
実施例3
TEGとPVPを含む加熱溶液の温度を200℃(#41)、215℃(#40)、230℃(#33)、245℃(#34)とし、注入速度を1.0r0(r0=1.00ml/min)とした以外は実施例1と同様にしてN-RuIrを得た。得られたN-RuIrのTEM像、PXRD、XRFの結果を図13に示す。加熱溶液の温度は215℃から230℃の範囲がより異方的成長を促すことが分かった。
【0051】
実施例4
IrCl4とRuCl3を含む溶液の注入速度を0.2r0(#36)、4r0(#37)、5r0(#23)とした以外は、実施例1と同様にしてN-RuIrを得た。得られたN-RuIrのTEM像、PXRD、XRFの結果を図14に示す。注入速度は0.5 r0から5 r0で異方的成長が促され、早くするほど結晶子サイズが小さくなることがわかった。
【0052】
実施例5
合成条件を「RuCl30.7 mmol、IrCl4 0.3 mmol、H2O 15 ml(#6)」又は「RuCl3 0.65 mmol、IrCl4 0.35 mmol、H2O 15 ml(#5)」、「RuCl3 0.60 mmol、IrCl4 0.40 mmol、H2O 15 ml(#24) 」又は「RuCl3 0.59 mmol、IrCl4 0.41 mmol、H2O 15 ml(#25) 」とした以外は実施例1と同様にしてN-RuIrを得た。得られたN-RuIrのTEM像、XRF PXRD、の結果を図15図16に示す。
【0053】
比較例2
合成条件をRuCl30.50 mmol、IrCl4 0.50 mmol、H2O 15 ml(#27)とした以外は実施例1と同様にして球状のRuIr固溶体ナノ粒子を得た。得られたRuIr固溶体ナノ粒子のTEM像、XRF、PXRDの結果を図15図16に示す。 実施例1の製造条件で製造した場合にも、Irの割合が40原子%を超えると(47原子%)球状のRuIr固溶体ナノ粒子が得られることから、還元剤溶液の温度、金属化合物の濃度と添加速度に加えてRuが60~99.9原子%含まれることが本発明のナノ構造体の製造に重要であることが明らかになった。
【0054】
実施例6、7
合成条件を「RuCl31.90 mmol、K2PdCl40.10 mmol、H2O 15 ml(実施例6)」又は「RuCl3 1.90 mmol、K2PtCl4 0.10 mmol、H2O 15 ml(実施例7)」とした以外は実施例1と同様にしてN-RuPd(実施例6)、N-RuPt(実施例7)を得た。得られたN-RuPd、N-RuPtのTEM像、PXRD、10-11面のサイズ、11-20面のサイズ並びにこれらの比(11-20/10-11)の結果を図17、18に示す。
【0055】
実施例8、9
合成条件を「RuCl31.90 mmol、酢酸ロジウム0.10 mmol、H2O 15 ml(実施例8)」又は「RuCl3 1.90 mmol、HAuCl4 0.10 mmol、H2O 15 ml(実施例9)」とした以外は実施例1と同様にしてN-RuRh(実施例8)、N-RuAu(実施例9)を得た。得られたN-RuRh、N-RuAuのTEM像、PXRD、10-11面のサイズ、11-20面のサイズ並びにこれらの比(11-20/10-11)の結果を図17、18に示す。
【0056】
実施例10
N-RuPd(実施例6)、N-RuIr(実施例1)並びに特許文献2の実施例において、200℃で15分間反応させて得られた比較RuPd(ナノ粒子)について、10-11面、11-20面の結晶子サイズをXRDから求め、それによりシート厚を推定した。具体的には、図20に示されるように、XRDから得られた11-20(面内方向)の結晶子サイズを平均的なシートの広さと仮定して、円盤シートを想定し、相似関係より、10-11の√(9/32)≒0.53倍が円盤シートの厚みと計算し、推定総表面積、0001面の面積、0001面の全表面積に対する露出割合を算出した。なお、10-11と図20の01-11は等価な面である。結果を表1に示す。本発明のRuPd又はRuIrナノ構造体は0001面の全表面積に対する露出割合が79.7%、74.1%と高く、耐久性が高い原因となっているが、特許文献2の実施例に従い製造された比較RuPdナノ粒子は0001面の全表面積に対する露出割合が53.5%と低く、耐久性が低いことが明確になった。また、RuPd NCs、RuIr NCs、比較RuPdナノ粒子の10-11ピークから算出された結晶子の大きさ(Y)、11-20ピークから算出された結晶子の大きさ(Z)、これらの比(Z/Y)を以下の表1に合わせて示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例11
実施例6~9で得られたN-RuPd、N-RuPt、N-RuRh、N-RuAuについて、Ru NP(Ruナノ粒子)とともに試験例2と同様にしてHER触媒活性を求めた。結果を図21に示す。N-RuPd、N-RuPt、N-RuRh、N-RuAuは、5%程度の第2金属の添加によりRu NP(Ruナノ粒子)よりも高いHER触媒活性を有することが明らかになった。
【0059】
実施例12
実施例1の製造方法に準じ、IrCl4とRuCl3・nH2Oの比率を図22に示すように変更し、保護剤(PVP)を使用せず、図22に示す実験条件で、Ir 7at%、Ir 20at%、Ir 30at%のN-RuIrを合成した。得られたN-RuIrのXRDパターン及び結晶子サイズ解析結果を図23に示し、TEM像を図24に示す。また、酸性水溶液中でのOER活性と安定性を評価した。結果を図25に示す。
【0060】
実施例13
実施例1の製造方法に準じ、IrCl4とRuCl3・nH2Oの濃度を図26に示すように変更し、図26に示す実験条件で、N-RuIrのSample 1及びSample 2を合成した。得られたSample 1及びSample 2のXRDパターン、TEM像及び結晶子サイズ解析結果を図27に示し、酸性水溶液中でのOER活性と安定性を評価した。結果を図28に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28