(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】拡張放射流動機構
(51)【国際特許分類】
F15D 1/12 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
F15D1/12
(21)【出願番号】P 2021135598
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】202110387919.0
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黎 ▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】余 徐波
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-074291(JP,A)
【文献】実開昭62-196342(JP,U)
【文献】特開昭61-254437(JP,A)
【文献】特開2004-122282(JP,A)
【文献】実開平05-041638(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張放射流動機構であって、底面を有し、前記底面に流体供給口が設けられ、使用時、前記機構の底面と被吸着物の表面との間にスリットを形成し、流体が前記流体供給口から流出して前記スリットに入り、スリットに沿って外へ流動し、前記スリットは拡張スリットであり、前記流体供給口を流動の始点とし、所定の径方向長さがあり、該長さ内では、径方向に沿って外向きに前記スリットの高さが連続的に大きくなることを満た
し、
前記機構の底面は弧状面であり、
前記径方向長さ内では、径方向に沿って外向きに前記スリットの高さは曲線状に増加することを特徴とする拡張放射流動機構。
【請求項2】
前記被吸着物の表面は平面であることを特徴とする請求項1に記載の拡張放射流動機構。
【請求項3】
前記径方向長さ外では、径方向に沿って外向きに前記スリットの高さは変化しないことを特徴とする請求項
1に記載の拡張放射流動機構。
【請求項4】
前記径方向長さは拡張スリットの流体入口でのスリットの高さの10倍以上であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の拡張放射流動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着の技術分野に属し、拡張放射流動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
平行放射流動機構は自動生産ラインで広く使用されている装置であり、非接触吸着機能を備えている。
図1は平行放射流動機構の模式図である。平面である底面を有し、底面に流体供給口が設けられる。底面が被吸着面の上方に配置され、それらの間に平行スリットが形成される。図中の矢印に示すように、高圧流体は流体供給口から流出して平行スリットに入る。スリット内では、流体は流体供給口から外周へ流動し、平行放射流動を形成する。
【0003】
平行放射流動の流通断面は流動方向に沿って徐々に大きくなり、即ち、流体供給口から遠いほど、流動の断面積が大きい。また、流体の質量保存の法則のため、流動の断面積が大きいほど、流体の速度が小さい。つまり、流体供給口から外周への流動は減速流動である。流体運動方程式(Navier-Stokes方程式)によれば、
図2に示すように、
【数1】
正の圧力勾配は平行スリット内で内側が低圧、外側が高圧の圧力分布を形成する。これは、スリット内の圧力が外周環境圧力よりも小さいことを意味し、それにより前記平行放射流動機構は被吸着面に吸着力を加えることができる。
【発明の概要】
【0004】
従来技術の欠陥に対して、本発明は、平行放射流動構造をもとに改良することで、機構の吸着力をさらに効果的に向上させることができ、その後続の応用に有利である拡張放射流動機構を提供する。
【0005】
本発明が採用する技術案は以下の通りである。
【0006】
拡張放射流動機構であって、底面を有し、前記底面に流体供給口が設けられ、使用時、前記機構の底面と被吸着物の表面との間にスリットを形成し、流体が前記流体供給口から流出して前記スリットに入り、スリットに沿って外へ流動し、前記スリットは拡張スリットであり、前記流体供給口(即ち、拡張スリットの流体入口)を始点とし、所定の径方向長さがあり、該長さ内では前記スリットの高さが径方向に沿って外向きに連続的に大きくなることを満たす。
【0007】
上記技術案では、さらに、前記被吸着物の表面は平面であってもよく、又は、前記機構の底面は平面であってもよい。
【0008】
さらに、前記径方向長さ内では、前記スリットの高さは径方向に沿って外向きに線形に増加してもよく、又は非線形に増加してもよく、よりさらに、前記径方向長さ外では、前記スリットの高さは径方向に沿って外向きに変化しなくてもよい。
【0009】
さらに、前記スリットはさらに、前記流体供給口を始点とし、前記スリットの高さが径方向に沿って外向きに連続的に線形に増加することを満たしてもよい。
【0010】
さらに、前記径方向長さは、長さが拡張スリットの流体入口でのスリットの高さの10倍以上であることを満たすべきであり、それにより、負圧及び吸着力を十分かつ効果的に向上させることができる。
【0011】
本発明は、流体の流動パターンを変更することで吸着力を高め、
図3は本発明に係る構造の原理模式図であり、
図1の平行放射流動機構に比べて、本発明の拡張放射流動機構は底面と被吸着物の表面との間に拡張スリットが形成され、即ち、少なくとも拡張スリットの初期段階では流体の流通断面の高さが流体の流動方向に沿って大きくなる。流体は流体供給口から外周へ流動して拡張放射流動を形成する。理論分析及び実験テストを行ったところ、いずれもこの拡張放射流動機構を使用する場合に発生する吸着力は、平行放射流動機構よりも遥かに大きいことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】平行放射流動機構のスリット内の圧力の径方向位置での変化曲線である。
【
図6】本発明に係る機構と平行放射流動機構のスリット内の圧力の径方向位置での変化曲線の比較である。
【
図7】本発明に係る機構の別の特定実施形態の構造模式図である。
【
図8】本発明に係る機構の別の特定実施形態の構造模式図である。
【
図9】本発明に係る機構の別の特定実施形態の構造模式図である。
【
図10】拡張放射流動の流動速度分布と半径領域の関係図であり、(a)は小半径領域、(b)は大半径領域である。
【
図11】本発明に係る機構の別の特定実施形態の構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例及び図面を参照しながら本発明の技術案をさらに説明する。
【0014】
本発明は、平行放射流動機構をもとに改良し、流体の流動パターンを変更することで吸着力を高めた拡張放射流動機構を提供し、前記機構は底面を有し、前記底面に流体供給口が設けられ、使用時、前記機構の底面と被吸着物の表面との間にスリットを形成し、流体は前記流体供給口から流出して前記スリットに入り、スリットに沿って外へ流動し、前記スリットは拡張スリットであり、前記流体供給口を始点とし、所定の径方向長さがあり、該長さ内では、前記スリットの高さは径方向に沿って外向きに連続的に大きくなる。
【0015】
以下、例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0016】
図3に示すように、この例では、機構の底面は1つのテーパー面を有し、被吸着物の表面は平面であり、テーパー面と被吸着面との間に拡張スリットが形成され、即ち、流体の流通断面の高さは流体の流動方向に沿って連続的に線形に増加する。
【0017】
流体は流体供給口から外周へ流動し、拡張放射流体を形成する。実験テストを行ったところ、拡張放射流動機構の吸着力は平行放射流動機構よりも遥かに大きいことが分かった。例えば、流体が空気、流量が26g/min、間隔(即ち、拡張スリットの流体入口でのスリットの高さ)が0.35mm、平行面の直径(底面と被吸着面の対向する平面を円形とする場合)が50mmであり、流体供給口の直径が4mm、テーパー面の拡張角が0.025radである条件では、拡張放射流動機構は0.1Nの吸着力を生成できる一方、同じ条件では平行放射流動機構の吸着力は0.05N未満である。
【0018】
研究を行ったところ、拡張放射流動機構が吸着力を大幅に向上できる要因は、拡張放射流動の径方向の速度分布が変更されたことが分かった。平行放射流動の径方向の速度分布は放物線形状に近い(
図4参照)が、拡張放射流動の径方向の速度分布は
図5に示す形状に近く、該形状の数学表現はJeffery-Hamelによって提案されたため、Jeffery-Hamel速度分布とも呼ばれる。
【数2】
図6はこれら2種の構造による圧力分布の比較であり、拡張放射流動機構はより低い圧力分布を形成できることが分かり、従って、より大きな吸着力も形成できる。
【実施例2】
【0019】
拡張放射流動の効果は放射流動の拡張程度を増加させることで向上できる。
【0020】
この例では、
図7に示すように、被吸着物の表面は平面であるが、本発明に係る装置の底面は弧状面である。テーパー面に比べて、弧状面は流体を流体供給口から拡張スリットに流入させた後、迅速に拡張させ、
【数3】
を生成し、従って、流動の慣性効果を高め、より低い圧力及びより大きな吸着力を得ることができる。
【実施例3】
【0021】
本発明では、被吸着物の表面の形状に応じて本発明に係る機構の底面の形状を設計でき、それらの間に拡張スリットを形成でき、即ち、拡張スリットの流体入口を流動の始点とし、所定の径方向長さ内では、流体の流通断面の高さが流体の流動方向に沿って大きくなることを実現できれば、吸着力を高める効果を達成できる。
【0022】
この例では、
図8に示すように、拡張放射流動機構の底面は平面であり、被吸着物の表面はテーパー面であり、それらの間に拡張スリットが形成され、流体は流体供給口から流出した後、2つの面の間のスリットを通して外周へ流れる。流体の流通断面の高さは流体の流動方向に沿って連続的に大きくなり、拡張放射流動を形成し、同様に負圧及び吸着力を向上する効果を達成できる。
【実施例4】
【0023】
この例では、
図9の構造に示すように、拡張放射流動機構の底面の内側は外側が平面である一部のテーパー面を有する。内側の小半径領域では、テーパー面と被吸着面との間に拡張放射流動が形成され、負圧及び吸着力を向上させる役割を果たす。
【0024】
さらに研究を行ったところ、拡張放射流動による流動慣性作用の向上効果は小半径領域では明らかであるが、大半径領域では弱いことが分かった。その理由として、小半径領域(
図10中のa)では、流体の流通断面積が小さいため、径方向の速度が高く、それにより明らかなJeffery-Hamel流速分布を形成でき、つまり、大きな速度変化勾配及び対応する慣性作用を生成できる。一方、大半径領域(
図10中のb)では、流体の流通断面積が大きくなり、径方向の速度が小さくなり、Jeffery-Hamel流速分布の慣性作用向上効果もその分弱くなり、速度変化勾配及び対応する慣性作用を明らかに向上させる効果を達成できない。
【0025】
また、拡張スリットの長さは重要な設計パラメータの1つである。拡張スリットの長さが小さすぎる場合、小半径領域での拡張放射流動の慣性作用を十分に利用して負圧を向上させることが不能である。理論及び実験の研究を行ったところ、拡張スリットの長さが流体入口でのスリットの高さの10倍以上である場合、拡張放射流動の慣性作用向上効果を十分に利用して負圧及び吸着力を向上させることができることが分かった。
図11に示すように、本実施例におけるテーパー面の代わりに、弧状面を使用してもよい。