(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】電動液圧アクチュエーター
(51)【国際特許分類】
F15B 15/18 20060101AFI20230417BHJP
F16D 55/224 20060101ALI20230417BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20230417BHJP
F16D 127/02 20120101ALN20230417BHJP
F16D 129/02 20120101ALN20230417BHJP
F16D 121/06 20120101ALN20230417BHJP
【FI】
F15B15/18
F16D55/224 Z
F16D65/18
F16D127:02
F16D129:02
F16D121:06
(21)【出願番号】P 2022529964
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2021041762
(87)【国際公開番号】W WO2022137882
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020213583
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021175803
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227755
【氏名又は名称】日本アイキャン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日 紀重
(72)【発明者】
【氏名】東 康弘
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第1548289(EP,A1)
【文献】特開2001-310730(JP,A)
【文献】特許第6322699(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/18
F16D 55/224
F16D 65/18
F16D 127/02
F16D 129/02
F16D 121/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力を出力するモーターと、
前記モーターによって作動される外接ギヤポンプと、
前記外接ギヤポンプが供給する加圧された作動流体によって動作する液圧アクチュエーターと、
前記液圧アクチュエーターの作動流体回路を構成する流路が組み込まれたマニフォールドブロックと、
前記モーターを収容する第1部分と、
前記外接ギヤポンプ、前記液圧アクチュエーター、及びリザーバーを収容する第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを液密状態で接続する接続部と、
を備え、
前記接続部は、前記第1部分と前記第2部分とを連絡する連絡孔を有し、
前記モーターの回転軸と前記外接ギヤポンプの駆動軸とが前記連絡孔内で連結され、
前記外接ギヤポンプは、前記マニフォールドブロックに収容されつつ、前記接続部に取り付けられている、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1に記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記接続部は、前記連絡孔内に前記モーターの前記回転軸の軸受けが配置されているとともに、内部に前記作動液体回路を構成する流路が形成され、
前記接続部に形成された前記流路は、一端が前記外接ギヤポンプにおける作動液体の吐出口に接続され、他端が前記マニフォールドブロックにおける作動液体の流入口に接続されている、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記外接ギヤポンプは、前記作動流体に浸漬された状態でマニフォールドブロック内に収納されている、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項4】
請求項3に記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記リザーバーは、前記第2部分の内方領域を占有する密閉空間であり、
当該リザーバー内に、前記マニフォールドブロック、前記外接ギヤポンプ、及び前記液圧アクチュエーターのハウジングが収納されている、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記流路は、前記液圧アクチュエーター内に前記作動流体を案内する加圧用流路と、当該液圧アクチュエーター内の作動流体を前記リザーバーに案内する減圧用流路とを含み、
前記減圧用流路は、複数の流路に分岐して、分岐した流路のそれぞれに弁機構が介在し、
前記弁機構は、開放状態において、前記リザーバーに作動流体を戻す、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記流路は、前記液圧アクチュエーター内に前記作動流体を案内する加圧用流路と、当該液圧アクチュエーター内の作動流体を前記リザーバーに案内する減圧用流路とを含み、
前記減圧用流路の途上に弁機構と絞り機構とが介在し、
前記弁機構は、開放状態において、前記リザーバーに前記作動流体を戻し、
前記絞り機構は、前記液圧アクチュエーターから前記リザーバーに向かう前記作動流体の流速を低減させる、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項7】
請求項6に記載の電動液圧アクチュエーターであって、前記絞り機構がオリフィスで構成されている電動液圧アクチュエーター。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記減圧用流路は、複数の流路に分岐して、分岐した流路のそれぞれに前記弁機構が介在する、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記接続部に形成されている前記流路を開閉するためのソレノイドバルブを備え、
前記ソレノイドバルブを構成するソレノイドが、前記リザーバーの外方に配置されている、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の電動液圧アクチュエーターであって、前記液圧アクチュエーターは、油圧シリンダーであり、
当該油圧シリンダーのピストンロッドの先端が前記第2部分の筐体から突出する、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項11】
請求項10に記載の電動液圧アクチュエーターであって、
前記ピストンロッドを常時下死点方向に付勢するスプリング機構を備え、
前記スプリング機構は、前記作動流体回路による前記油圧シリンダーのハウジング内の前記作動流体を前記リザーバーに戻す動作を補助する、
電動液圧アクチュエーター。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電動液圧アクチュエーターを備えたディスクブレーキ装置であって、
円板状のブレーキディスクの両面に対してブレーキライニングを押圧又は離隔させる制動機構を備え、
前記制動機構は、前記油圧シリンダーのピストンロッドの上昇運動に連動して前記ブレーキディスに対する制動状態を解除し、ピストンロッドが下降状態にあるときに前記ブレーキディスクを制動状態にする、
ディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動液圧アクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
電動液圧アクチュエーターは、モーターによって動作するギヤポンプと、ギヤポンプによって加圧された作動流体(作動油等)によって動作する液圧アクチュエーターとを備える。電動液圧アクチュエーターとしては、液圧アクチュエーターに油圧シリンダーを用いた電動油圧シリンダーがよく知られている。電動油圧シリンダーは、モーターによって駆動されるギヤポンプによって中空筒状のシリンダーチューブ内に作動流体となる作動油を充填し、ピストンをシリンダーチューブの軸方向に移動させる。そして、ピストンロッドの先端には、動作対象となる何らかの他の機構が連結されて、他の機構の動作が電動油圧シリンダーの動作に連動する。
【0003】
電動液圧アクチュエーターは、例えば、電動押上機ブレーキに用いられる。電動液圧アクチュエーターは、電動押上機ブレーキにおいて、通電状態では、ドラムブレーキやディスクブレーキのブレーキパッドを開放するように動作し、電源が遮断されるとスプリングなどの付勢力によってブレーキパッドがブレーキドラムやブレーキディスクに押し当てられて、ブレーキが制動状態となるように構成されている。なお、電動油圧押上機ブレーキに用いられる電動液圧油アクチュエーターについては、例えば、以下の特許文献1や特許文献2に「電気液圧式ブレーキ解除装置」として開示されている。また、特許文献2には、この電気液圧式ブレーキ解除装置を用いたブレーキ装置も開示されている。以下の特許文献3には、「スラスタ」と称する電動液圧油アクチュエーターを備えた「ディスクブレーキ装置」が開示されている。なお、以下の非特許文献1には、本発明に関連してギヤポンプの構造や特性等について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6322699号公報
【文献】特許第6353036号公報
【文献】特開平11-37186号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】株式会社ジェイテクト、”ドライブトレーン用電動ポンプの開発”、[online]、[令和2年12月15日検索]、インターネット<URL:http://eb-cat.ds-navi.co.jp/jpn/jtekt/tech/ej/img/no1003/1003_09.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載の電気液圧式ブレーキ解除装置(以下、「ブレーキ解除装置」と言うことがある。)は、「機能ユニット」と称する金属製のブロック内に内接ギヤポンプ全体とシリンダーチューブの一端側の構造とが組み込まれている。また、内接ギヤポンプからシリンダーチューブまでの複雑な作動流体の流路がこのブロック内に構築されている。そして、特許文献1に記載の機能ユニットは、ギヤポンプを用いることで、ポンプを連続動作させなくても、一度シリンダー内に作動流体を充填させれば、ブレーキを開放状態に維持することができるとしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1や2に記載のブレーキ解除装置では、多くの構成をブロックに組み込んでいるため、ブレーキ解除装置の重量が自ずと嵩む。また、複雑な流路をブロック内に高い精度で作り込む必要があることから、製造コストも増大する。そして、ブロック内に多種多様な構成を組み込んでいるため、保守や点検がし難くなる。例えば、内接ギヤポンプの点検を行うためには、ブレーキ解除装置における多くの構造が集約されたブロックを取り外すことになるため、実質的にブレーキ解除装置を全ての部材に分解することになる。また、流路の一部が破損した場合等には、機能ユニット全体を交換する必要がある。そのため、特許文献1に記載のスラスターでは、保守、点検、修理に係る費用も嵩む。
【0008】
また、特許文献1や2に記載のブレーキ解除装置に限らず、電動液圧アクチュエーターでは、油圧回路側の作動油をモーター側に漏出させないために、モーター側と油圧回路を構成する機構側との接続領域におけるシール構造に極めて高い信頼性が要求される。この点、特許文献1や2に記載のブレーキ解除装置では、内接ギヤポンプを用いており、このポンプのインナーギヤを回転させるための駆動軸とモーターシャフトとを連結する軸受けを「軸受けキャリアカバー」と称するハウジングで覆っている。しかしながら、このハウジングは、大きなブロックを囲繞しつつ当該ブロックに対してシールされているため、特許文献1や2に記載のブレーキ解除装置では、軸受けキャリアカバーとブロックとが接続される広い領域を均一の強度でシールすることが難しい。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、保守性に優れ、高い信頼性を備えた電動液圧アクチュエーターを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
回転動力を出力するモーターと、
前記モーターによって作動される外接ギヤポンプと、
前記外接ギヤポンプが供給する加圧された作動流体によって動作する液圧アクチュエーターと、
前記液圧アクチュエーターの作動流体回路を構成する流路が組み込まれたマニフォールドブロックと、
前記モーターを収容する第1部分と、
前記外接ギヤポンプ、前記液圧アクチュエーター、及びリザーバーを収容する第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを液密状態で接続する接続部と、
を備え、
前記接続部は、前記第1部分と前記第2部分とを連絡する連絡孔を有し、
前記モーターの回転軸と前記外接ギヤポンプの駆動軸とが前記連絡孔内で連結され、
前記外接ギヤポンプは、前記マニフォールドブロックに収容されつつ、前記接続部に取り付けられている、
電動液圧アクチュエーターとしている。
【0011】
また、本発明の範囲は、油圧シリンダーを液圧アクチュエーターとした電動液圧アクチュエーターを備えたディスクブレーキ装置にも及んでおり、当該ディスクブレーキ装置は、円板状のブレーキディスクの両面に対してブレーキライニングを押圧又は離隔させる制動機構を備え、前記制動機構は、前記油圧シリンダーのピストンロッドの上昇運動に連動して前記ブレーキディスに対する制動状態を解除し、ピストンロッドが下降状態にあるときに前記ブレーキディスクを制動状態にする、ディスクブレーキ装置である。
【0012】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保守性に優れ、高い信頼性を備えた電動液圧アクチュエーターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの外観を示す図である。
【
図1B】第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの内部構造の概略を示す図である。
【
図2】第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの内部構造の概略を示す図である。
【
図3】
図1Aにおけるa-a矢視断面図であり、第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの内部構造を示す図である。
【
図4A】第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターを構成するギヤポンプの外観を示す図である。
【
図4B】第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターを構成するギヤポンプの内部構造を示す図である。
【
図5】第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの油圧回路を示す図である。
【
図6A】
図3におけるb-b矢視断面を示す図である。
【
図7】オリフィスが設けられた第1の実施例に係る電動アクチュエーターの油圧回路を示す図である。
【
図8】第1の実施例に係る電動アクチュエーターに加わる衝撃の強度の測定方法を示す図である。
【
図9】第2の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの内部構造を示す断面図である。
【
図10】第2の実施例に係る電動液圧アクチュエーターの油圧回路を示す図である。
【
図11】
図9におけるc-c矢視断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
関連出願の相互参照
【0016】
この出願は、2020年12月23日に出願された日本特許出願、特願2020-213583に基づく優先権、及び2021年10月27日に出願された日本特許出願、特願2021-175803に基づく優先権を主張し、その内容を援用する。
【0017】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。また、以下では、説明を容易にするために、何らかの回転機構における回転中心、あるいは回転機構が備える構造、部位、部材などを「回転軸」と称することがある。
【0018】
===第1の実施例===
本発明の一実施形態として、液圧アクチュエーターに油圧シリンダーを用いた電動油圧シリンダーを挙げる。
図1Aは、第1の実施例に係る電動液圧アクチュエーター(以下、「スラスター1」と言うことがある。)の外観を示す図であり、
図1Bは、スラスター1の内部構造の概略を示す図である。
図1Aに示したように、スラスター1は、角筒状の外観形状を有し、一方の端面に自身を他の機器等に固定するためのクレビス11が取り付けられている。他端側には、内蔵する油圧シリンダーのピストンロッド52の先端側が軸方向に往復運動可能に突出している。ピストンロッド52の先端には、当該スラスター1の動作に連動させる機構(以下、「外部機構」と言うことがある。)に接続されるヘッド12が取り付けられている。また、ヘッド12には外部機構を取り付けるための孔(以下、「接続孔19」と言うことがある。」が形成されている。
【0019】
ピストンロッド52の往復運動方向を上下方向とし、当該ピストンロッド52がスラスター1の上方に突出していることとして上下の各方向を規定すると、スラスター1は、上下方向を厚さ方向とした扁平角筒状の金属ブロック2を介して上方の構造体と下方の構造体とが接続された全体構造を有する。スラスター1の上方の構造体は、その金属ブロック(以下、「接続ブロック2」と言うことがある。)と、中空角筒状のカバー(以下、「上カバー13」と言うことがある。)と、ピストンロッド52の挿通孔14を備えた金属プレート(以下、「上蓋プレート15」と言うことがある。)とによって構成される筐体(以下、「上側筐体」と言うことがある)内にスラスター1を構成する部材や機構が収納されてなる。下方の構造体は、接続ブロック2と、中空角筒状のカバー(以下、「下カバー16」と言うことがある。)と、クレビス11が取り付けられた金属プレート(以下、「ベースプレート17」と言うことがある。)とからなる筐体(以下、「下側筐体」と言うことがある。)を備え、この下側筐体内にスラスター1を構成する部材や機構が収納されてなる。
【0020】
図1Bに示したように、スラスター1の下側筐体内には、モーター3が設置されている。接続ブロック2とベースプレート17とは、取付ボルト18を介して接続されており、取付ボルト18が締結されることで、接続ブロック2とベースプレート17との間に下側カバーが狭持されて下側筐体が形成される。
【0021】
上側筐体は、接続ブロック2と上蓋プレート15とを接続する取付ボルト18が締結されて、接続ブロック2とベースプレート17との間に上側カバーが狭持されることで形成される。
【0022】
上側筐体内の空間は、概ね、作動油が充填されるリザーバー4で占有される。リザーバー4は、接続ブロック2の上面と、中空角筒状の上カバー13と同軸に内接する中空円筒状のリザーバーケース41と、上蓋プレート15の下面とによって形成された閉鎖空間によって形成される。第1の実施例に係るスラスター1では、リザーバー4内に、作動油の流路が形成された円柱状の金属ブロック(以下、「マニフォールドブロック6」と言うことがある。)、油圧シリンダー5、油圧回路の適所に配置される各種バルブ(61,62)等が収納されている。また、油圧シリンダー5のハウジングとなるシリンダーチューブ51の下端側や各種バルブ(61,62)がマニフォールドブロック6の上面に取り付けられている。さらに、マニフォールドブロック6の内部に形成された空間にはギヤポンプが設置されている。
【0023】
図2、
図3に、スラスター1の内部構造を示した。
図2は、スラスター1の分解斜視図であり、
図3は、
図1Aにおけるa-a矢視断面図である。なお、
図3では、スラスター1の内部構造が理解し易いように、スラスター1の一部をハッチングによって示した。以下、
図1B、
図2、
図3に基づいて、スラスター1の構成や構造について説明する。
【0024】
スラスター1は、接続ブロック2に対して上方及び下方の構造体を構成する部材や部品のそれぞれが、上方及び下方から接続ブロック2に向けて順次組み付けられることで組み立てられる。すなわち、スラスター1は、接続ブロック2に対して上方及び下方向けて部材や部品を順次取り外すことで分解できるようになっている。
【0025】
下側筐体内には、モーター3が中空円筒状のモーターケース32に覆われた状態で配置されている。モーターシャフト31は上下方向に回転軸を有してモーターケース32から上方に突出している。モーターシャフト31の下端は、ベースプレート17に設けられたボールベアリングを用いた軸受け33によって軸支されている。
【0026】
接続ブロック2には、上面と下面とを連絡する孔(以下、「連絡孔21」と言うことがある。)が形成され、この連絡孔21内にモーターシャフト31の上端側が挿通されている。接続ブロック2の内部には、ボールベアリングを用いたモーターシャフト31の軸受け22が組み込まれているとともに、油圧回路に含まれる流路の一部23が形成されている。本実施例では、ギヤポンプ7は外接ギヤポンプであり、モーターシャフト31の先端は、接続ブロック2内において、ギヤポンプ(以下、「外接ギヤポンプ7」と言うことがある。)の駆動軸71の先端と連結部材24を介して接続されている。このように、当該接続ブロック2は、自身に対して上方と下方のそれぞれの構造体を相互に接続する機能を担っている。なお、接続ブロック2やマニフォールドブロック6内の流路は、
図3において点線楕円の領域100内に例示したように、無垢の金属ブロックに外方から孔(以下、「加工孔」と言うことがある。)を形成し、加工孔の開口をプラグで封止することで形成される。
【0027】
上側筐体内に収納されている中空円筒状のリザーバーケース41の上端と下端は、接続ブロック2の上面及び上蓋プレート15の下面に当接しつつOリングなどによってシールされている。それによって、密閉空間からなるリザーバー4が形成される。
【0028】
リザーバー4内に配置される円柱状のマニフォールドブロック6は、接続ブロック2に取り付けられ、内部に作動油の流路や外接ギヤポンプ7の収納空間66が形成されている。マニフォールドブロック6の上面には、シリンダーチューブ51の下端側が挿入される円形の凹部63が形成され、この凹部63の底部に内部の流路に連絡する開口(以下、「凹部開口64」と言うことがある。)が形成され、シリンダーチューブ51の下端にはこの凹部開口64を介して作動油を流入出させるポート54が設けられている。また、マニフォールドブロック6の上面には内部の流路と連絡しているとともに、各種バルブ(61,62)が取り付けられる開口65が形成されている。また、マニフォールドブロック6の適宜な面に、流路内の作動油をリザーバー4内に戻すための開口(以下、「排出口69」と言うことがある。)が形成されている。第1の実施例に係るスラスター1ではマニフォールドブロック6の側面に排出口69が形成されている。そして、バルブ(61,62)がマニフォールドブロック6に取り付けられると、各バルブ(61,62)の弁機構が、マニフォールドブロック6内の所定の流路に介在するように設置される。
【0029】
マニフォールドブロック6の下面側には、円筒状にくり抜かれてなる外接ギヤポンプ7の収納空間66が形成されている。外接ギヤポンプ7は接続ブロック2に取り付けられつつ、当該収納空間66内に配置される。外接ギヤポンプ7は、上下方向と直交する側方に作動油の吸入口72が開口し、この開口に継ぎ手パイプ73を介してベルマウス74が取り付けられている。なお、ベルマウス74の開口端には、作動油中の異物等をろ過するサクションフィルタ75が取り付けられている。そして、円柱状のマニフォールドブロック6の側面には矩形状に切りかかれてなる開口部67が形成されている。この開口部67は、外接ギヤポンプ7の収納空間66に連絡し、外接ギヤポンプ7のベルマウス74を、リザーバー4内にて当該マニフォールドブロック6の外方に露出させる。
【0030】
図4A、
図4Bに外接ギヤポンプ7の構造を示した。
図4Aは、外接ギヤポンプ7の外観を示す図であり、
図4Bは外接ギヤポンプ7の内部構造を示す図である。
図4Aに示したように、外接ギヤポンプ7の駆動軸71は、筐体(以下、「ポンプケース171」と言うことがある。)の下面に形成された軸孔174を介して下方に突出している。また、ポンプケース171の下面には、作動油の吐出口172が開口している。さらに、ポンプケース171には、上下方向に貫通して、自身を接続ブロック2に取り付けるためのボルトの挿通孔173も形成されている。
【0031】
図4Bに示したように、ポンプケース171は、ギヤ(175a,175b)の収納空間が形成されたケース本体171aと、当該ケース本体171aの下面側を覆うカバー部171bとで構成され、ケース本体171aとカバー部171bとはボルト等によって一体的に組み付けられている。
【0032】
ケース本体171a内には、駆動軸71を軸支するギヤ(以下、駆動ギヤ175a)と、駆動ギヤ175aに噛合するギヤ(以下、従動ギヤ175b)とが内蔵されている。駆動ギヤ175aと従動ギヤ175bとが噛合する領域には、吸入口72に連絡する圧力室(以下、「吸入側圧力室176a」と言うことがある。)と、吐出口172に連絡する圧力室(以下、「吐出側圧力室176b」と言うことがある。)とが形成されている。そして、外接ギヤポンプ7は、駆動ギヤ175aが下方から見て反時計回りに回転すると、吸入口72から吸入側圧力室176aに送り込まれた作動油が、吐出側圧力室176b側に送り出されるとともに、この吐出側圧力室176bを経て吐出口172から吐出される。
【0033】
図2、
図3に戻り、スラスター1において、外接ギヤポンプ7は、接続ブロック2の上面にボルト(図示せず)によって固定されている。接続ブロック2の上面において、外接ギヤポンプ7の吐出口172に対応する位置には、自身の内部に形成された流路23の一端となる作動油の流入口25が開口している。流路23の他端は、接続ブロック2の上面において作動油の流出口26として開口している。マニフォールドブロック6が接続ブロック2に取り付けられると、接続ブロック2における上記流出口26の位置にマニフォールドブロック6における作動油の流入口が対応し、接続ブロック2における流路23とマニフォールドブロック6における流路68とが接続される。なお、接続ブロック2における作動油の流出口26にはチェックバルブ27が取り付けられて、外接ギヤポンプ7から吐出された作動油がマニフォールドブロック6側の流路68から接続ブロック2側の流路23へ逆流しないようになっている。
【0034】
図5にスラスター1における油圧回路を示した。また、
図6Aに、
図3におけるb-b矢視断面図を示し、
図6Bに
図6Aにおけるα-α線で矢視断面図を示した。なお、
図6A、
図6Bでは、マニフォールドブロック6の断面のみを示している。また、
図6A、
図6Bを含め、以下に示す各図では、流路の形状が理解し易いように、マニフォールドブロック6を作製する際の加工孔や、加工孔の開口を塞ぐプラグ等、実質的に流路として機能していない部位や部材を省略している。もちろん、
図5に示した油圧回路における流路は、実際の接続ブロック2やマニフォールドブロック6に組み込まれている実際の流路の分岐や合流の状態をそのまま反映しているわけではない。
【0035】
以下、
図2~
図5、
図6A、
図6Bを参照しつつ、スラスター1の動作について説明する。
図5に示したように、マニフォールドブロック6内において、接続ブロック2内の流路23から連続する一つの流路は、マニフォールドブロック6内で複数の流路(68b~68f)に分岐している。分岐した流路(68b~68f)の一つの68bは、マニフォールドブロック6の上面に取り付けられたシリンダーチューブ51における作動油の流入口(以下、「ポート54」と言うことがある)に案内される流路68bである。なお、以下では、外接ギヤポンプ7の吐出口172に接続された接続ブロックの流入口25から油圧シリンダー5のポート54に接続されたマニフォールドブロック6の凹部開口64に至る流路を「加圧用流路」と言うことがある。
【0036】
分岐した他の流路(68c~68f)は、シリンダーチューブ51内の作動油をリザーバー4に戻すための流路であり、本実施例では、このリザーバー4内に作動油を戻すために二種類の流路(68cと68e~68f)がマニフォールドブロック6内に形成されている。二種類の流路(68c~68eと68f)の一方(68c~68e)は、シリンダーチューブ51内の作動油をリザーバー4に戻すためのソレノイドバルブ61が介在する流路(68c~68e)である。なお、以下では、シリンダーチューブ51内の作動油をポート54からソレノイドバルブ61を経てリザーバー4内に戻すための流路を「減圧用流路」と言うことがある。
【0037】
そして第1の実施例に係るスラスター1では、では、凹部開口64からの減圧用流路がリザーバー4に至る途上で二つに分岐し、分岐した二つの流路(68d,68e)のそれぞれにソレノイドバルブ61が介在している。二種類の流路(68cと68e~68f)のうちの他方68fは、シリンダーチューブ51内の油圧を調整するリリーフバルブ62が介在する流路68fである。なお、以下では、リリーフバルブ62からリザーバー4に至る流路68fを「圧力調整用流路」と言うことがある。そして第1の実施例に係るスラスター1では、減圧用流路を構成する分岐前の流路68c、及び圧力調整用流路68fの一端が、加圧用流路に連絡し、他端がマニフォールドブロック6の上面に形成された開口(
図2,
図3、符号65)に連絡しており、この開口65のそれぞれに所定のバルブ(61,62)が取り付けられている。
【0038】
次にスラスター1の動作について説明する。スラスター1内の信号線、あるいはモーター3やソレノイドバルブ61への給電線等の電気配線は、シールされつつスラスター1の内方から外方の電気回路に案内されている。そして、スラスター1に電源が投入されると、モーター3が作動し、ソレノイドバルブ61が閉止状態となる。モーター3によって駆動される外接ギヤポンプ7は、吐出口172より作動油を送り出し、この作動油は、加圧用流路を経由して油圧シリンダー5のポート54からシリンダーチューブ51内に供給される。それによって、ピストン53が上方に押し上げられる。参考までに、
図3に、ピストン53を押し上げる際の作動油の経路を黒塗りの矢印で示した。
【0039】
シリンダーチューブ51において、ピストン53の上死点に対応する上下位置には、近接センサー55が配置されている。スラスター1には、近接センサー55からの信号によりモーター3の作動と停止を制御するリレーやコンピュータを用いた制御装置が付帯し、シリンダーチューブ51内に作動油が充填されて、近接センサー55によりピストン53が上死点にまで移動したことが検知されると、モーター3の回転動作が停止する。油圧シリンダー5のピストン53は、シリンダーチューブ51内の油圧により外部の機構からの下方への付勢力に抗して上下位置を維持する。なお、圧力調整流路68f内の油圧が所定の圧力を超えると、リリーフバルブ62が開放し、シリンダーチューブ51内の作動油がリザーバー4に戻される。
【0040】
スラスター1の電源が切断されると、ソレノイドバルブ61の弁機構が開放状態となり、ピストンロッド52の先端に取り付けられたヘッド12に接続された外部の機構による下方への付勢力により、ピストン53が押し下げられる。それによって、シリンダーチューブ51内の作動油がソレノイドバルブ61を経由する減圧用流路を介してリザーバー4に戻される。
【0041】
このように、上記構成のスラスター1では、内部にモーターシャフト31の軸受け22と、油圧回路の一部を構成する作動油の流路23とが形成された接続ブロック2を介して上方と下方の構造体が接続されている。そして、スラスター1は、上述したように、自身を構成する各種部材や部品を、接続ブロック2に対して上方や下方に向けて取り外したり、上方や下方から接続ブロックに向けて組み付けたりするだけで、容易に分解や組み立てができる簡素な構造を有するものとなっている。また、油圧回路を構成するマニフォールドブロック6と外接ギヤポンプ7が単体で取り外せる。そのため、スラスター1は、保守作業が極めて容易なものとなっている。
【0042】
さらに、第1の実施例に係るスラスター1は、油圧回路の流路(23,68)が接続ブロック2とマニフォールドブロック6とに分かれており、油圧回路全体の流路(23,68)の経路が複雑であっても、接続ブロック2及びマニフォールドブロック6に形成される流路を比較的単純な構造にすることができる。したがって、流路(23,68)を形成するための加工コストも低減される。また、油圧回路の流路(23,68)の一部に不具合があった場合、第1の実施例に係るスラスター1では、その不具合のある流路が存在する接続ブロック2、又はマニフォールドブロック6のいずれか一方のみを交換すればよく、修理に要するコストを低減することもできる。
【0043】
第1の実施例に係るスラスター1は、モーター3と油圧回路を構成する機構とが、接続ブロック2によって上下の空間のそれぞれに離隔された状態で配置されている。そして、上下の空間を連絡する経路は、接続ブロック2に形成された連絡孔21のみである。そのため、連絡孔21の周縁をOリングなどによってシールするだけで、モーター3と油圧回路を構成する機構とを確実に液密状態で離隔することができる。したがって、実施例に係るスラスター1は高い信頼性を有している。
【0044】
また、外接ギヤポンプ7を用いた第1の実施例に係るスラスター1は、内接ギヤポンプを用いたスラスターと比較して多くの利点を有する。例えば、上記非特許文献1に記載されているように、外接ギヤポンプ7は、内接ギヤポンプと比較して、油圧を高くすることができる。そのため、スラスター1におけるピストンロッド52の上昇動作とヘッド12に接続される外部の機構の動作とを確実に連動させることができる。
【0045】
外接ギヤポンプ7は、内部に異物が混入した場合でも、その異物がギヤ(175a,175b)の各歯の間に入る大きさで、吸入口72や吐出口172よりも小さければ、容易に外部に排出される。そのため、アウターローター内にインナーロータが組み込まれた内接ギヤポンプと比較して作動油のコンタミネーションに対する耐性が高い。外接ギヤポンプ7は、内周にギヤが形成された複雑な形状のアウターローターが不要であり、製造が容易で、安価に作製したり入手したりすることができる。
【0046】
第1の実施例に係るスラスター1は、作動油が充填されるリザーバー4内に、可動機構である油圧シリンダー5、外接ギヤポンプ7、各種バルブ(61,62)が収納されている。すなわち、これらの可動機構が作動油内に浸漬された構造になっている。それによって、実施例に係るスラスター1では、可動機構からの騒音が外部に漏れにくく、高い静音性を有するものとなっている。特に、外接ギヤポンプ7については、上記非特許文献1にも記載されているように、内接ポンプと比較して騒音が大きいという課題があるものの、第1の実施例に係るスラスター1では、外接ギヤポンプ7に起因する騒音も低減させることができるものとなっている。
【0047】
第1の本実施例に係るスラスター1は、減圧用流路が二つの流路(68d、69e)に分岐し、シリンダーチューブ51内の作動油が速やかにリザーバー4に戻るようになっている。そのため、シリンダーチューブ51内の油圧が速やかに減圧し、ピストン53が短時間で下死点に至る。
【0048】
ここで、第1の実施例に係るスラスター1を、例えば、上記特許文献3に記載されたディスクブレーキ装置等に適用することを考えると、油圧シリンダー5のピストンロッド52の先端に取り付けられたヘッド12は、円板状のブレーキディスクの両面に対してブレーキライニングを押圧及び離隔させる機構に接続されることになる。この機構は、ピストンロッド52の上昇運動に連動して前記ブレーキディスクに対する制動状態を解除し、ピストンロッド52が下降しているときは、前記ブレーキディスクが制動状態となるように構成されている。そのため、第1の実施例に係るスラスター1をこの種のディスクブレーキ装置に用いれば、ディスクブレーキ装置の電源が遮断された際、回転するブレーキディスクに対して急制動を掛けることができる。それによって、回転を維持しようとするブレーキディスクを速やかに停止させて、ディスクブレーキ装置の安全性を高めることができる。なお、ディスクブレーキ装置における、基本的な、構造や構成、動作については、上記特許文献3にその一例が記載されている。
【0049】
===作動液体の流速調整機構===
第1の実施例に係るスラスター1では、ピストンロッド52の先端に取り付けられたヘッド12に外部機構が接続された状態でソレノイドバルブ61が開放状態になると、外部機構によってピストンロンド52が下方へ押し下げられるとともに、シリンダーチューブ51内の作動油がリザーバー4に戻される。
【0050】
ここで、外部機構がピストンロッド52を下方に押し下げようとする付勢力が強すぎる場合、ピストンロッド52が急激に下降し、ピストンロッド52の下端がシリンダーチューブ51内の下面に激しく衝突し、スラスター1に過度な衝撃が加わる可能性がある。スラスター1に過度な衝撃が加われば、スラスター1の各部位に締結されているボルトが緩む等してスラスター1が故障する可能性がある。また、スラスター1に加わる衝撃の反力が外部機構に伝われば、外部機構に不要な振動が発生し、外部の機構を高い精度で動作させることが難しくなる可能性がある。
【0051】
そこで、
図5に示した第1の実施例に係るスラスター1の油圧回路において、減圧用流路の途上に作動油の流速を低減させるための絞り機構を設置してもよい。絞り機構は、例えば、
図5に示した油圧回路において点線の円で示した位置80a~80eのいずれかに挿入することができる。
【0052】
なお、絞り機構としてはスロットルバルブやオリフィスがある。スロットルバルブは、流速を可変調整することができることから、多種多様な外部機構に接続する用途のスラスター1や、少量多品種のスラスター1のそれぞれに採用する場合には、各スラスターに対して絞りの開度を用途に応じて微調整することができる。その反面、スロットルバルブは、開度の調整量と実際のバルブの開度との関係には個体差があり、同じスラスター1を同じ外部機構に接続する用途で複数製造する場合、製造したスラスター1のそれぞれについて、スロットルバルブの開度を調整する作業が必要となる。
【0053】
一方、固定絞りであるオリフィスは、個体差が少なく、外部機構に応じた絞りの開度を規定さえすれば、規定の開度のものを複数製造しておけばよい。そして、規定の開度に設定された複数のオリフィスのそれぞれを複数の同じスラスター1のそれぞれに組み込めばよい。このように、絞り機構としてオリフィスを用いたスラスター1は、絞りの開度を調整するためのコストを削減することができる。また、可動部のないオリフィスは、スロットルバルブよりも安価であり、スラスター1における部品コストを低減させることもできる。
【0054】
図7に絞り機構としてオリフィス80を設けたスラスター1の油圧回路の一例を示した。
図7に示した油圧回路において、凹部開口64からリザーバー4へ向かう流路(68b,68c)が二つの流路(68d,68e)に分岐し、その分岐した二つの流路(68d,68e)のそれぞれがソレノイドバルブ61を経由しつつ、再び一本の流路68gに合流して排出口69bに至っている。そして、その合流した流路68gにオリフィス80が挿入されている。なお、
図7に示した油圧回路を有するスラスター1は、オリフィス80の数が一つであり、絞り機構に掛かる部品コストをさらに低減できるものとなっている。
【0055】
ここで、オリフィス80による作動油の流速調整の効果を確認するために、
図5に示した油圧回路を有するスラスター1と、
図7に示した油圧回路を有するスラスター1とを用意し、各スラスター1のピストンロッド52の先端に設けられたヘッド12の接続孔19に外部機構として上述したディスクブレーキ装置を接続した。そして、各スラスター1のシリンダーチューブ51内に作動油が充填されてピストン53が上方に押し上げられている状態でソレノイドバルブ61を開放し、ディスクブレーキ装置によってピストンロッド52が押し下げられた際にスラスター1に加わる衝撃の強度を測定した。
【0056】
図8に衝撃の強度の測定方法を示した。
図8は、スラスター1の上側部分を拡大した図であり、
図8に示したように、外部機構91を、ヘッド12の接続孔19に軸支された柱状の部材(以下、「接続ロッド92」と言うことがある。」を介して接続し、上蓋プレート15の上面にショック・レコーダー(G-MEN GR20、株式会社スリック製、以下、「衝撃センサー9」と言うことがある。)を取り付けた。なお、第1の実施例に係るスラスター1は、ピストンロッド52の昇降方向が上下方向であり、ヘッド12に軸支された接続ロッド92の軸93が上下方向と直交する。また、上蓋プレート15の上面は、上下方向を法線とした面と平行である。
【0057】
衝撃センサー9は、所定のサンプリング周期(例えば、1ms)で、互いに直交するx、y、zの3軸方向のそれぞれの加速度を測定するとともに、測定した加速度を記録する機能を備える。ここでは、上下方向をz軸方向とし、接続ロッド92の軸93の延長方向をy軸とし、z軸とy軸の双方と直交する方向をx軸方向として、衝撃センサー9を取り付けた。そして、ピストンロッド52が、上死点から、外部機構91によって下死点まで押し下げられるまでの間におけるx軸方向とz軸方向のそれぞれの加速度を衝撃センサー9により測定した。そして、衝撃センサー9に記録された最大の加速度を衝撃の強度とした。
【0058】
なお、作動油は温度によって粘度が変化することから、速度を測定する際には、リザーバー4内に設置した温度センサーにより油温を監視した。すなわち、第1の実施例に係るスラスター1は、リザーバー4内にソレノイドバルブ61が設置され、ソレノイドバルブ61の弁機構はマニフォールドブロック6内に埋設されて流路68に介在している。周知のごとく、ソレノイドバルブ61は、電磁石を用いたソレノイドにより弁機構を駆動するように構成されており、弁機構を駆動する際に電磁石が発熱する。そのため、第1の実施例に係るスラスター1では、ソレノイドバルブ61の開閉動作に伴ってリザーバー4内の作動流体の温度が上昇する。そして、油温の上昇は作動油の粘性を低減させ、流路内の作動油の流速を増大させる。作動流体の温度が上昇すれば、ソレノイドバルブ61が開放された際に外部機構91によってピストンロッド52が押し下げられる速度が増大し、スラスター1に加わる衝撃が大きくなる。
【0059】
以下の表1に、同じ油温におけるオリフィス80の有無と衝撃の強度との関係、及びオリフィス80を備えたスラスター1における油温と衝撃の強度との関係を示した。
【表1】
【0060】
表1に示したように、減圧用流路にオリフィス80が挿入されたスラスター1では、オリフィス80を挿入していないスラスター1に対して衝撃を小さくできることが確認された。また。オリフィスを備えたスラスター1は、衝撃の強度が、油温に大きく左右されないことも確認された。このことは、オリフィス80による絞り機構では、作動油が通過する距離が短いため、流速が油温に左右され難かったためと考えることができる。
【0061】
===第2の実施例===
上述したように、第1の実施例に係るスラスター1では、ソレノイドバルブ61がリザーバー4内に設置されているため、ソレノイドバルブ61を頻繁に作動させると、作動油の油温が上昇する可能性がある。確かに、第1の実施例に係るスラスター1では、減圧用流路の途上にオリフィス80を挿入することで、作動油の流速を油温に依らず、ほぼ一定に維持することが可能となる。しかし、油温を一定の温度に維持できれば、流路内の作動油の流速をより高精度に制御することが可能となる。もちろん、スラスター1に接続される外部機構91によっては、流速を低減させる必要がなく、オリフィス80が不要となる場合もある。そこで、第2の実施例として、ソレノイドバルブ61に起因する油温の上昇を抑止することが可能なスラスターを挙げる。
【0062】
図9に第2の実施例に係るスラスター101の概略構造を示した。また、
図10にスラスター101の油圧回路を示した。
図9は、スラスター101をモーターシャフト31の回転軸を含む面で切断したときの断面図である。なお、
図9では、スラスター101の一部を拡大して示している。
【0063】
図9に示したように、第2の実施例に係るスラスター101は、第1の実施例に係るスラスター1と同様に、内部に作動油の流路(123,161)が形成された接続ブロック102とマニフォールドブロック106とを備えている。第2の実施例に係るスラスター101が備える接続ブロック102、及びマニフォールドブロック106の基本的な外観形状は、第1の実施例に係るスラスター1と同様である。接続ブロック102には、下側筐体内の空間と上側筐体内の空間とを連絡するとともに、内部にモーターシャフト31の軸受け122が組み込まれた連絡孔121が形成されている。また、マニフォールドブロック106は、上面に油圧シリンダー5の下端側が挿入される円形の凹部162が形成されているとともに、その凹部162の底部に内部の流路161に連絡する凹部開口163が形成されている。また、マニフォールドブロック106の下端側には外接ギヤポンプ7の収納空間164aと、その収納空間164aとリザーバー4とを連絡しつつ、外接ギヤポンプ7のベルマウス74をリザーバー4内に露出させるための開口部165aとが形成されている。
【0064】
しかし、第1の実施例に係るスラスター1では、油圧回路を構成する流路の大部分がマニフォールドブロック6に形成されていたのに対し、第2の実施例に係るスラスター101では、油圧回路を構成する流路の多くが接続ブロック102側に形成されている。また、油圧回路に含まれるバルブ(127,201,202)の全てが接続ブロック102側に設けられている。さらに、全てのバルブ(127,201,202)が、リザーバー4の外方に設置されている。このように、第2の実施例に係るスラスター101は、油温が上昇する原因となるソレノイドバルブ201がリザーバー4の外方に設置されているため、スラスター101の作動に伴って作動油の粘性が低下することがなく、流路内の作動油の流速をより高精度に制御することが可能となる。
【0065】
なお、接続ブロック102側に設けられたバルブ(127,201,202)のうち、油温の上昇原因となるソレノイドバルブ201以外のバルブ(127,202)については、必ずしも、リザーバー4の外方となる領域や接続ブロック102側に設置されていなくてもよい。
【0066】
次に、第2の実施例に係るスラスター101における流路の構造等について説明する。
図11に、
図9におけるc-c矢視断面を示した。また、
図12、
図13、
図14、
図15、及び
図16に、それぞれ、
図11におけるd-d矢視断面、e-e矢視断面、f-f矢視断面、g-g矢視断面、及びh-h矢視断面を示した。
【0067】
なお、
図9、
図11~
図16では、流路(123、168)の概略形状のみが示されており、接続ブロック102やマニフォールドブロック106の製造過程で金属ブロックに対して形成した加工孔や、その孔を埋めるプラグ等が省略されている。また、
図9、
図11~
図16において、接続ブロック102、及びマニフォールドブロック106に関する構成以外の構成に付した符号は、
図1~
図7に示した第1の実施例に係るスラスター1の構成に付したものと同じである。さらに、
図9、
図11~
図16において、流路(123,161)に関する説明に不要な部材や部位は、図示されていない場合がある。あるいは図中に図示されている部位や部材であっても、流路(123,161)に関する説明において不要なものでれば、符号が省略されている場合がある。もちろん、
図10に示した油圧回路における流路と、実際に作製した接続ブロック102やマニフォールドブロック106における流路とは、分岐や合流の状態が異なっている場合がある。以下、スラスター101の動作について、
図9と
図10とを参照するとともに、適宜、
図11~
図16のいずれかを参照しながら説明する。
【0068】
図9~
図16に示したように、第2の実施例に係るスラスター101では、油圧回路を構成する流路(123,161)の多くが接続ブロック2内に形成されており、流路(123,161)内の作動油をリザーバー4内に戻すための排出口(128a,128b)の全てが接続ブロック102の上面に開口している。
【0069】
図12に示したように、流入口125を一端とした接続ブロック102内の流路123aは、下方に延長した後、直角に屈曲してザーバー4の外方に向かっている。そして、
図11に示したように、接続ブロック102内の流路123は、上方から見ると、流入口125からリザーバー4の外方に案内されたのち、接続ブロック102の外周側を周回してリリーフバルブ202を経由して、あるいはリリーフバルブ202とチェックバルブ127とを経て再びリザーバー4の内方に戻る経路を辿る。なお、
図13に示したように、リリーフバルブ202からチェックバルブ127に向かう流路123aは、その途上で上方向かってクランク状に屈曲し、その屈曲した領域における上下方向の流路内にチェックバルブ127が組み込まれている。
【0070】
チェックバルブ127を経由した流路123bは、
図11、
図13、
図14に示したように、リザーバー4の内方に案内されたのち、マニフォールドブロック106の下面と対面する領域で流出口126として開口している。そして、マニフォールドブロック106の下面において、接続ブロック102の流出口126に対面する位置には、マニフォールドブロック106内に形成された流路161の一端が開口している。それによって、接続ブロック102内の流路123からマニフォールドブロック106内の流路161に案内された作動油は、マニフォールドブロック106の凹部開口163から油圧シリンダー5のポート54を経てシリンダーチューブ51内に充填され、ピストン53が押し上げられる。したがって、第2の実施例に係るスラスター101では、接続ブロック102の流入口125からマニフォールドブロック106における凹部開口163に至る流路(123a、123b、161)が加圧用流路となる。参考までに
図11、
図14に加圧用流路における作動油の流れを黒塗り矢印で示した。
【0071】
また、
図11、
図15に示したように、流入口125からチェックバルブ127に向かう流路123aは、リリーフバルブ202の内方にて圧力調整用流路123cとして分岐し、その圧力調整用流路123cが、上方から見てリザーバー4の内方にて排出口128aとして開口している。また、排出口128aは、マニフォールドブロック106が配置されている領域で開口しており、マニフォールドブロック106の下面において、排出口128aと対面する領域には、中空円筒状の空間164bが形成さている。そして、その空間164bにはリザーバー4に連絡する開口部165bが形成されている。それによって、加圧用流路内の油圧が所定の圧力を超えると、リリーフバルブ202が開放し、
図11及び
図15において網掛け矢印で示したように、作動油の一部が圧力調整用流路123cからマニフォールドブロック106の下面に形成された上記の空間に案内されるとともに、上記の開口部165bを経てリザーバー4に戻される。
【0072】
さらに、第2の実施例に係るスラスター101では、
図11、
図13に示したように、接続ブロック102内において、リリーフバルブからチェックバルブ127からマニフォールドブロック106内の流路168に接続する流路123bが分岐し、その分岐した流路123dに二つのソレノイドバルブ201が介在している。
図11、
図14に示したように、その分岐した流路123dは、リザーバー4の外方に設置されている二つのソレノイドバルブ201のそれぞれを経由した後、再び一つの流路123gに合流した上でリザーバー4の内方に案内されている。そして、この合流した流路123gがリザーバー4の内方にて排出口128bとして開口している。
【0073】
それによって、ピストン53がシリンダーチューブ51内の油圧によって押し上げられている状態で二つのソレノイドバルブ201が開放されると、作動油は、
図11、
図16において白塗り矢印で示したように、シリンダーチューブ51内の作動油がマニフォールドブロック106の凹部開口163からソレノイドバルブ202を経てリザーバー4至る減圧用流路を通ってリザーバー4に戻され、ピストン53が、ピストンロッド52の上端に接続された外部機構による付勢力により下方に押し下げられる。
【0074】
===その他の実施例===
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。そして、上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記実施形態の構成の一部について、他の構成の追加や削除、置換をすることが可能である。
【0075】
例えば、第1の実施例に係るスラスター1では、全ての作動油の流路をマニフォールドブロック6内に形成することもできる。また、上記各実施例に係るスラスター(1,101)において、油圧シリンダー5は、ピストン53が上下方向に往復運動するように配置されていたが、モーターシャフト31と交差する方向(例えば、直交方向)に往復運動するように油圧シリンダー5を配置することもできる。
【0076】
マニフォールドブロック(6,106)やシリンダーチューブ51は、リザーバー4内に配置されていなくてもよく、上側筐体内の機構や部材の一部あるいは全部がリザーバー4の外方に配置されていてもよい。例えば、外接ギヤポンプ7の収納空間(66,164a)にスリット状の開口部(67,165a)を形成せず、外接ギヤポンプ7を、接続ブロック2に取り付けつつ、マニフォールドブロック6内に液密に収納するようにしてもよい。そして、上側筐体の適所に配置したリザーバー4から収納空間66に連絡する流路をマニフォールドブロック6に形成しておく。それによって、主な騒音源となっている外接ギヤポンプ7のみを作動油内に浸漬して、騒音を抑止することができる。
【0077】
上記実施例に係るスラスター1の外接ギヤポンプ7における吸入口72の位置は、駆動軸71に対して直交する方向に開口していたが、吸入口72は、接続ブロック2に対して上方に配置される各種構成のレイアウトや、ピストンロッド52の往復運動方向などに応じて適宜な方向に開口させることができる。
【0078】
減圧用流路の分岐数は、スラスター1の用途、要求される仕様や価格等に応じて適宜に設定することができる。
【0079】
実施例に係るスラスター1は、シリンダーチューブ51内が減圧されると、ヘッド12に接続された外部の機構による下方への付勢力によって、ピストン53が下降し、シリンダーチューブ51内の作動油が減圧用流路(68c~68e)とソレノイドバルブ61とを経由してリザーバー4に戻るように構成されていた。この構成に代えて、例えば、シリンダーチューブ51内に、ピストン53を下方に付勢するスプリングを設置するなどして、外部の機構からの付勢力に頼ることなく、ピストン53が下方に押し下げられる構成にしてもよい。
【0080】
実施例に係るスラスター1の液圧アクチュエーターは油圧シリンダー5であったが、油圧によって回転する機構を備えた液圧アクチュエーター等、適宜な形式の液圧アクチュエーターに変更することも可能である。また、スラスター1の外観形状は、角筒状に限らず、内蔵する液圧アクチュエーターの形式や運動方向、内部構造等に応じて変更することができる。
【符号の説明】
【0081】
1,101 スラスター(電動液圧アクチュエーター,電動油圧シリンダー)、
2,102 接続ブロック、3 モーター、4 リザーバー、5 油圧シリンダー、
6,106 マニフォールドブロック、7 ギヤポンプ(外接ギヤポンプ)、11 クレビス、12 ヘッド、13 上カバー、 14 ピストンロッドの挿通孔、
15 上蓋プレート、16 下カバー、17 ベースプレート、18 取付ボルト、
21,121 連絡孔、22,122 接続ブロック内の軸受け、
23,123,123a~123g 接続ブロック内の流路、24 連結部材、
25,125 流入口、26,126 流出口、27,127 チェックバルブ、
31 モーターシャフト、41 リザーバーケース、51 シリンダーチューブ、
52 ピストンロッド、53 ピストン、54 (油圧シリンダー5)のポート、
55 近接センサー、61,201 ソレノイドバルブ、
62,202 リリーフバルブ、64,163 凹部開口、
66,164a 外接ギヤポンプの収納空間、
68,68a~68f,168 マニフォールドブロック内の流路、
69a,69b,128a,128b 排出口、71 駆動軸、72 吸入口、
80 絞り機構(オリフィス)、171 ポンプケース、171a ケース本体、
171b カバー部、172 吐出口、174 軸孔、175a 駆動ギヤ、
175b 従動ギヤ、176a 吸入側圧力室、176b 吐出側圧力室