IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 朝日インテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図1
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図2
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図3
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図4
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図5
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図6
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図7
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図8
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図9
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図10
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図11
  • 特許-超高感度マイクロ磁気センサ 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】超高感度マイクロ磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20230417BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L29/82 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017119171
(22)【出願日】2017-06-16
(65)【公開番号】P2019002851
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-01-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111523
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 良文
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 晋平
【合議体】
【審判長】岡田 吉美
【審判官】中塚 直樹
【審判官】濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】特許第5839527(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/060344(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061513(WO,A1)
【文献】米国特許第6194897(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に並行に配置され導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤ2本と、前記磁性ワイヤ2本の一方である第1磁性ワイヤの第1端部と第2端部と、前記磁性ワイヤ2本の他方である第2磁性ワイヤの第3端部と第4端部と、前記並行に配置された前記磁性ワイヤ2本の間に配置された絶縁性分離壁と、前記並行に配置された前記磁性ワイヤ2本及び前記絶縁性分離壁の外周を巻回して配置される周回コイルと、前記第1磁性ワイヤの前記第2端部と前記第2磁性ワイヤの前記第3端部とは接続され、前記第1端部と前記第4端部との夫々に接続される前記磁性ワイヤ通電用の第1電極と第2電極と、前記周回コイルの端部に接続されるコイル電圧検出用の第3電極と第4電極と、を設置した磁界検出素子、及び前記第1電極と前記第2電極とに接続され前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段と、前記第3電極と前記第4電極とに接続され前記2本の磁性ワイヤに逆向きに前記パルス電流を流した時に前記周回コイルに生じるコイル電圧を検知する回路と、前記コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなる磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤは、20G(20×10―4テスラ(T))以下の異方性磁界を有し、かつ円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり、
前記磁性ワイヤに通電される前記パルス電流は、換算周波数は0.2GHz~4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上とし、
前記周回コイルはコイルピッチ10μm以下とすることを特徴とするマイクロ磁気センサ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換することを特徴とするマイクロ磁気センサ。
Vs=Vo・2L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロ磁気センサにおいて、
前記パルス電流を流す手段はパルス発信回路で構成され、
前記コイル電圧を検出する回路は、前記第3電極と前記第4電極に接続される入力側回路、前記入力側回路に接続され前記コイル電圧を入力される第1アンプ回路、前記コイル電圧の出力波形のピーク電圧を検波する電子スイッチ、前記ピーク電圧を保存する容量4~100pFのコンデンサとからなるサンプルホールド回路、前記サンプルホールド回路の保持電圧を増幅する第2アンプ回路、及び前記第2アンプ回路の出力電圧をデジタルに変換するAD変換回路で構成されることを特徴とするマイクロ磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立上がりパルス検波を採用することによりGSRセンサの感度特性を改善する技術に関するものである。
ここで、GSRセンサとは超高速スピン回転効果(英語表記;GHz Spin Rotation effect)を基礎にした超高感度マイクロ磁気センサという。
【背景技術】
【0002】
高感度マイクロ磁気センサは、横型FGセンサ、縦型FGセンサ、ホールセンサ、GMRセンサ、TMRセンサ、MIセンサ、GSRセンサ、高周波キャリアセンサなどがある。現在、これらのセンサはスマートフォン、自動車、医療、ロボットなどに広く採用されている。その中でもGSRセンサは、感度面とサイズ面において優れており、最も注目されている。
【0003】
現在、生体内モーションデバイスのリモートコントロール実現のためにGSRセンサを活用する3次元磁気センサを搭載して位置や方位を求める研究が進んでいる。
モーションデバイスに搭載するためには、センササイズは小さければ小さいほど望ましいが、それに反比例して検出感度が低下する。さらに供給電源の制約もあって測定中の消費電力の低減が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5839527号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GSRセンサの検波方法には、立上がりパルス検波と立下りパルス検波の2通りの方法がある。前者は、磁界感度が後者の2.5倍ほど大きく、パルス時間を短くして消費電力を低減することができるが、直線性は1~2%程度で、後者の0.5%以下に比べて劣る。
本発明の課題は、立上がりパルス検波の直線性を0.5%以下にして立上がりパルス検波の長所を引き出すことである。
【0006】
GSRセンサのコイル出力電圧(以下、コイル電圧という。)は、パルス電流に依存する誘導電圧(a電圧という。)と外部の磁界に依存する電圧(b電圧という。)の2つの電圧からなっている。立上がりパルス検波と立下りパルス検波の両者を比較した場合、立下りパルス検波の場合の方が2つの電圧のピークが近接していてパルス電流の影響を強く受ける。しかもa電圧は、MI効果により磁界の影響で磁性ワイヤのインピーダンスが変化し、その結果、パルス電流に依存するa電圧にも磁界の影響が重なるので簡単にキャンセルできない。
つまり、a電圧が磁界の影響を受けないのであれば、H=0Gでa電圧を測定し、それをキャンセルすれば正味のb電圧を検出することができる。
【0007】
立上がりパルス検波をしたコイル電圧からパルス電流に依存する誘起電圧を取り除く研究は、20年前から取り組まれているが、いまだに解決しない難しい課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、1個のコイルに2本の磁性ワイヤを設置して逆向きにパルス電流を流すと、H=0G(0テスラ)のとき立上がりパルス検波のコイル誘導電圧が0になることを見出した(図7)。磁界Hがある場合において、電流を逆向きに流すと、コイル電圧は変化せず、b電圧のみを検出していることがわかる(図8)。つまりa電圧が消失しているように見える。
さらに、磁界を変化させてb電圧を測定したところ、磁界の正負に対して対称的に電圧が直線的に出力して、0.3%以下の優れた直線性が得られることを見出した。
磁界Hがゼロから変化した場合においても、a電圧が消失する理由は、2本ワイヤのインピーダンスの変化は電流の向きにかかわらず、磁界Hに対称的に変化するため両者のインピーダンスは常に同じで、両者に流れるパルス電流は同じとなり両者のコイルへの影響は磁場が変化してもキャンセルされることになるからであると考えられる(図9)。
【0009】
立上がりパルス検波の場合、立上がりと同時に検波するのでパルス時間を1ns(1ナノ秒)以下にすることができる。一方、立下りパルス検波の場合、立上がりコイル電圧が減衰し終わってから、立下りパルス検波を行なう必要があるのでパルス時間を10ns程度維持する必要がある。よって立上がりパルス検波を採用するとパルス消費電流を1/10以下にすることができる。
【0010】
本発明の磁性ワイヤ2本からなる素子のコイル電圧は、磁性ワイヤ1本からなる素子のコイル電圧に比べて2倍である。また、立上がりパルス検波のコイル電圧は、立下りパルス検波のコイル電圧の2.5倍である(図10)。特許文献1に記載のGSRセンサに比べて、同一サイズの素子の場合には5倍のコイル電圧が得られる。
【0011】
コイル電圧と外部磁界との関係については、特許文献1に記載のGSRセンサにおける関係式と同じであることを確認している。すなわち、
Vs=Vo・2L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
【0012】
ここで、Vsはコイル電圧、Voはワイヤ透磁率、飽和磁束密度のワイヤ素材の磁気特性およびパルス電流で決まる比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hは外部磁界、Hmはコイル出力電圧が最大値をとる外部磁界強度である。
【0013】
この式(1)の両辺を逆正弦変換して、その値を換算電圧V’とすると、
V’=arcsin(Vs/Vo・2L・πD・p・Nc・f)=(π・1/2Hm)・H (2)
H=2Hm/π×V’ (3)
として、式(3)からHを求めることができる。
V’は、磁界Hに対して-Hmから+Hmまで直線的に変化する。測定レンジはHmとなり、逆正弦変換しない場合に比べると4倍程度拡大する。なお直線性Pは、Vx=a(1-Δ)Hxとして、P=100×Δ(%)と定義する(図11)。
すなわち、Δ=0の時の関係式Vx=aHxからのずれ量Δで直線性を定義する。
【0014】
さらに直線性についてもGSRセンサの立下りパルスのずれ量である0.5%よりも0.2%と優れていることを確認した(図12)。
GSRセンサは、磁性ワイヤとコイル内径との間隔を3μm以下として磁性ワイヤとコイルとの電磁結合を強化している。本発明においても磁性ワイヤ2本の間を除いて同様の関係を保つものとする。
【0015】
電子回路は、特許文献1に記載の電子回路と同じ回路を採用する。磁性ワイヤに通電するパルス電流の換算周波数は0.2GHz~4GHz、パルス電流の強度は磁性ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な強度とする。
パルス通電時に発生するコイル電圧は、パルス対応型バッファー回路を介してサンプルホールド回路に送られる。コイルの巻き数Ncが小さい場合には、直接サンプルホールド回路に送ることも可能である。
【0016】
立上がりパルスの検波は電子スイッチにて行なうが、検波タイミングはコイル出力波形のピークタイミングで行なう。a電圧が存在しないので、ピーク電圧の時間的タイミングは磁界Hに依存せず一定である。しかしピークのタイミング時間は、a電圧が存在する場合、磁界Hに依存して変化するので、コイル出力波形のピークタイミングに合わせることは厳密にはできない。これが非直線性の原因となっている。
サンプルホールド回路のコンデンサ容量は4pF~100pFとする。望ましく電子スイッチのon-offはできる限り細かくしてコンデンサ容量も4pF~8pFと小さくすることである。これによりピークタイミングの電圧を瞬時の電圧値としてコンデンサにホールドする。このホールドされたコンデンサ電圧はプログラミングアンプを介して出力される。
【発明の効果】
【0017】
立上がりパルス検波タイプのGSRセンサは、同一素子サイズで5倍の磁界検出感度と1/10以下のパルス消費電力を実現することができ、生体内のモーションデバイス搭載の磁気センサの大幅な小型化を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態および実施例におけるGSRセンサ素子の平面図である。
図2図1におけるA1-A2線に沿うGSRセンサ素子の断面図である。
図3】実施形態および実施例における電子回路図である。
図4】実施形態および実施例におけるパルス時間とパルス電流の印加との関係図である。
図5】実施形態および実施例におけるパルス電流を印加したときのコイル電圧の波形図である。
図6】実施形態および実施例における出力波形図である。
図7】外部磁界H=0における2本の磁性ワイヤに逆向き(+向きと-向き)にパルス電流を流したときの出力Vの図である。
図8】外部磁界H=-2G~+2Gと変化させたときの出力Vの図である。
図9】外部磁界HとインピーダンスZとの関係図である。
図10】磁性ワイヤ1本および2本における立上がりパルス検波および立下りパルス検波のコイル電圧の出力図である。
図11】外部磁界の変化と出力との関係における直線性Pの説明図である。
図12】GSRセンサの立上がりパルスにおける磁界Hxとずれ量との関係図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態は次の通りである。
なお、本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つ又は二つ以上の構成を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求諸特性によって異なる。
【0020】
本発明の超高感度マイクロ磁気センサであるGSRセンサは、
基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤ2本を近接配置し、磁性ワイヤ2本を一緒に巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用の電極2個を設置した磁界検出素子および磁性ワイヤにパルス電流を流す手段と2本の磁性ワイヤに逆向きにパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなり、
磁性ワイヤは、20G(20×10 ―4 テスラ(T))以下の異方性磁界を有し、かつ円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり、
磁性ワイヤに通電するパルス電流は、該周波数は0.2GHz~4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上とし、
コイルはコイルピッチ10μm以下である。コイル平均内径を35μm以下が望ましい。また、複数の対のワイヤを配置する場合は、コイルと磁性ワイヤとの間隔は1μm~5μmとすることが望ましい。
【0021】
また、本発明の超高感度マイクロ磁気センサであるGSRセンサは、
磁性ワイヤにパルス電流を通電することによって、表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換するものである。
Vs=Vo・2L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。
【0022】
さらに、本発明の超高感度マイクロ磁気センサであるGSRセンサの電子回路は、
パルス電流を発信するパルス発信回路、コイル電圧を入力する入力回路、パルス対応型バッファー回路およびコイル電圧の出力波形のピーク電圧を検波する電子スイッチとピーク電圧を保存する容量4~100pFのコンデンサとからなるサンプルホールド回路から構成され、プログラミングアンプにて増幅し、AD(アナログデジタル)変換する電子回路に接続するものである。
【0023】
本発明の実施形態について、図1図6を用いて詳細に説明する。
GSRセンサ素子(以下、素子という。)1は、基板10の上に磁性ワイヤ2本(21および22)とその磁性ワイヤ2本を周回する1個のコイル3およびワイヤ通電用の2個の電極(24およびと25)とコイル電圧検出用の2個の電極(33および34)ならびに磁性ワイヤとワイヤ通電用電極との接続部、コイルとコイル電圧検出用電極との接続部からなる。また、素子1には磁性ワイヤ2本(21および22)に逆向きのパルス電流を流す手段23からなる。そして、パルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路5とコイル電圧を外部磁界に変換する手段から構成されている。外部磁界Hとコイル電圧Vsは、上記の式(1)のような数学的関係で表される。
【0024】
<素子の構造>
素子1の構造は、図1図2に示す通りである。
素子1のサイズは、基板10のサイズである幅0.07mm~0.4mm、長さ0.25mm~1mmからなる。素子1の中央部は、磁性ワイヤ2本(21および22)が平行に整列配置できるように幅20~60μm、深さ2~20μmの溝が基板10に形成されている。2本の磁性ワイヤ(21および22)は近接しており磁性ワイヤの間隔は1~5μmであり、磁性ワイヤ(21および22)同士は絶縁材料で隔離されていること、例えば絶縁性分離壁が好ましい。
【0025】
<磁性ワイヤ>
磁性ワイヤ2は、CoFeSiBアモルファス合金の直径5~20μmである。磁性ワイヤ2の周囲は絶縁性材料、例えば絶縁性ガラスで被覆されていることが好ましい。長さは0.07~1.0mmである。
磁性ワイヤ2の異方性磁界は20G(20×10 ―4 T)以下で、円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有する。
【0026】
<コイル>
コイル3は、コイル巻き数は6~180回、コイルピッチは5μmが好ましい。コイル3と磁性ワイヤ2との間隔は3μm以下が好ましい。コイル平均内径は10~35μmが好ましい。
【0027】
<素子の製造方法>
素子の製造方法は、図2を用いて説明する。
基板10に形成されている溝11に沿って下コイル31と基板面上に電極配線を行なう。その後、溝11の中央部に絶縁性分離壁41を形成して2つの溝形状として、そこに2本のガラス被覆した磁性ワイヤ21および22をそれぞれ整列配置する。次いで、基板全面に絶縁性レジストを塗布する。こうして磁性ワイヤ21および22は溝11内に固定される。この塗布の際に磁性ワイヤ21および22の上部は薄く塗布する。そこに上コイル32をフォトリソ技術で形成する。
なお、ガラス被覆していない磁性ワイヤ2を用いる場合には、下コイル31と磁性ワイヤ21および22とが電気的な接触が生じないように予め絶縁性材料4を塗布しておくことである。
【0028】
コイルの作製は、基板10内に形成された溝11の溝面および溝11の両側に沿って凹形状の下コイル31が形成されている。凸形状の上コイル32はジョイント部33を介して下コイルと電気的接合がされ、らせん状のコイル3となる。
【0029】
2本の磁性ワイヤ21および22の端部については、絶縁被膜のガラスを除去して金属蒸着による電気的接続ができるようにする。
【0030】
<磁性ワイヤおよびコイルの配線構造>
磁性ワイヤ2の配線構造は、図1に示すように、ワイヤ入力電極(+)24は磁性ワイヤ21の上部と接続され、磁性ワイヤ21の下部はワイヤ連結部23を介して磁性ワイヤ22の下部と接続されている。磁性ワイヤ22の上部はワイヤ出力電極(-)25と接続されている。このワイヤ連結部23により、磁性ワイヤ21では上部から下部への下向きのパルス電流が流れ、磁性ワイヤ22では下部から上部への上向き(磁性ワイヤ21とは逆向きになる。)のパルス電流を流すことができる。
【0031】
コイル3の配線構造は、図1に示すように、コイル出力電極(+)33はコイル3の下端部と接続され、コイル3の上端部はコイルグランド電極(-)34と接続されている。
【0032】
<電子回路>
電子回路5は、パルス電流を発信するパルス発信回路51、コイル電圧を入力する入力回路53、パルス対応型バッファー回路54、コイル電圧の出力波形のピーク電圧を検波する電子スイッチ56とピーク電圧を保持する容量4~100pFのコンデンサとからなるサンプルホールド回路、および増幅器58のプログラミングアンプにて増幅してAD変換を行なう。
また、電子回路5のコイル電圧を出力するGSRセンサ素子が接続されている。
【0033】
パルス電流の換算周波数は0.2~4GHzにて、パルス電流の強度は50~200mA、パルス時間は0~2nsecである。図4には、GSRセンサ素子にパルス電流を通電した時の通電時間の経過とパルス電流の印加の関係を表している。この図4の例では、通電を開始すると0.5nsecで立上がり、その印加状態で所定のパルス時間0.5nsecを保持し、通電を遮断すると0.5nsecで立ち下がる。
【0034】
<コイル電圧の波形>
図5には、上記のパルス電流を通電した際のコイル電圧の波形図を示す。
本発明では、ピーク電圧のタイミングを検波する。電子スイッチはon-offからなりその開閉時間は0.1~1.5nsecで繰り返す。
【0035】
サンプルホールド回路のコンデンサ容量は4~100pFとし、電子回路のAD変換は14~16ビットである。なお、電子スイッチのon-offを細かくするためにはコンデンサ容量は4~8pFが好ましい。
コイル出力は、図6に示すように正弦波出力にて測定レンジ3~100G(3×10 ―4 ~100×10 ―4 T)で、その感度は50mV/G~3V/G(50×10 mV/T~3×10 V/T)である。直線性は0.3%以下である。
【実施例
【0036】
実施例に係るGSRセンサ素子の平面図を図1に示し、その断面図を図2に示す。また電子回路を図5に示す。本発明のGSRセンサは、磁性ワイヤ2本(21および22)と磁性ワイヤ2本をまとめて周回する1個のコイル3およびワイヤ通電用の2個の電極(24および25)とコイル電圧検出用の電極(33および34)から構成されるGSRセンサ素子1と、磁性ワイヤ2にパルス電流を流す手段とハ゜ルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とから構成されている。外部磁界Hとコイル電圧は、式(1)に示す数学的関係で表される。
【0037】
素子1のサイズは、長さ0.12mm、幅0.20mmにて基板10の溝11の幅は40μm、深さ8μmである。ワイヤ間隔は3μmである。
【0038】
磁性ワイヤ(21および22)は、CoFeSiBアモルファス合金の直径10μm、厚み1μm以下のガラス被覆がされており、長さ0.12mmのワイヤである。
異方性磁界は15G(15×10 ―4 T)である。
【0039】
コイル3は、コイルピッチ5μmにて巻き数は14回、コイル3の平均内径は30μmでコイル3と磁性ワイヤ2との間隔は2μmである。
【0040】
素子の構造は、図2に示すように、ガラス被覆された磁性ワイヤ(21および22)の直径の半分程度を基板10に形成された溝11に埋設し、溝11の内面には下コイル31を配置し、磁性ワイヤの上部に上コイル32を配置し、両者の間には絶縁性樹脂で固定して基板平面上でジョイント部33にて接合した。
コイル3の両端部は、それぞれコイル電極との間は導電性金属蒸着膜で電気的接続部を設けた。
磁性ワイヤ2と電極は、磁性ワイヤの端部の上面部のガラス被覆材料を除去した後、被覆除去されたワイヤ面と電極との間を導電性金属蒸着膜で電気的接合部を設けた。
また、2本の磁性ワイヤ21と磁性ワイヤ22との連結部23も同様の処理により電気的接続を行なった。
【0041】
GSRセンサ素子1を電子回路5に搭載して、パルス発信回路51から換算周波数1GHz、パルス電流の強度120mAにてパルス幅0.8nnsecで通電した。その際の電子スイッチのon-offの間隔は0.2nsecである。サンプルホールド回路のコンデンサ容量は6pFである。
【0042】
AD変換により16ビットが得られた。また、正弦波出力は、測定レンジ90Gにて感度は200mVを得ることができた。その時の消費電力は0.3mWで、直線性は0.2%が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、GSRセンサのさらなる高感度化、低消費電力化を実現するもので、生体内のモーションデバイスのように超小型で高性能を要求される用途で使用が期待される。
【符号の説明】
【0044】
1:GSRセンサ素子、10:基板、11:溝、
2:磁性ワイヤ、21:磁性ワイヤ2本のうちの1本、22:磁性ワイヤ2本のうちの他の1本、23:ワイヤ連結部、24:ワイヤ入力電極(+)、25:ワイヤ出力電極(-)、
3:コイル、31:下コイル、32:上コイル、33:ジョイント部、34:コイル出力電極(+)、35:コイルグランド電極(-)、
4:絶縁性樹脂、41:絶縁性分離壁、
5:電子回路、51:パルス発信回路、52:GSRセンサ素子、53:入力側回路、54:バッファー回路、55:サンプルホールド回路、56:電子スイッチ、57:コンデンサ、58:増幅器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12