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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20230417BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20230417BHJP
   F16H 1/46 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
F16H1/28
F16H1/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019022132
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128789
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】上原 弘樹
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-156416(JP,A)
【文献】実開平03-123148(JP,U)
【文献】特開2011-256969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 1/28
F16H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受によりピニオン軸で支持されたピニオンギアを有する遊星ギアと、
前記遊星ギアのキャリアに設けられ、径方向外周側からの潤滑油をキャッチして前記軸受へ導くキャッチ部を有し、
前記遊星ギアの外周側に、前記遊星ギアの回転に伴い外周方向へ飛散した潤滑油を前記キャッチ部へ導くガイド部を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
軸受によりピニオン軸で支持されたピニオンギアを有する遊星ギアと、
前記遊星ギアのキャリアに設けられ、径方向外周側からの潤滑油をキャッチして前記軸受へ導くキャッチ部を有し、
前記キャッチ部には、キャッチした潤滑油の一部を内周側へ導く油孔が形成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
軸受によりピニオン軸で支持されたピニオンギアを有する遊星ギアと、
前記遊星ギアのキャリアに設けられ、径方向外周側からの潤滑油をキャッチして前記軸受へ導くキャッチ部を有し、
前記ピニオンギアのギア部は、一対の壁に挟まれており、
前記一対の壁の一方と前記ギア部との間の隙間は、前記キャッチ部と径方向にオーバーラップし、
前記一対の壁の他方と前記ギア部との間の隙間は、前記一対の壁の一方と前記ギア部との間の隙間よりも狭いことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記遊星ギアの上流にモータが接続され、
前記遊星ギアの下流にデファレンシャルギアが接続され、
前記デファレンシャルギアの下流に、前記モータの内周を貫通して配置されるドライブシャフトが接続されていることを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から特許文献3には、動力伝達装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-221566号公報
【文献】特開2016- 89860号公報
【文献】特開2018-103676号公報
【0004】
特許文献1の動力伝達装置は、回転伝達に関与する3つの回転軸が並列に並んでおり、縦方向(重力方向)にサイズアップしやすい(以下、3軸タイプと呼ぶこととする)。
【0005】
特許文献2の動力伝達装置は、モータのロータが中空軸となっており、この中空軸の内部をドライブシャフトが貫通している。そのため、3軸タイプと比較して縦方向のサイズダウンが可能となるが、大きなカウンタギアを配置しているため、縦方向にサイズアップしてしまう(以下、2軸タイプと呼ぶこととする)。
【0006】
特許文献3の動力伝達装置は、カウンタギアではなく、段付きピニオンを有する遊星減速ギアを用いており、2軸タイプと比較して縦方向のサイズダウンが可能となる(以下、1軸タイプと呼ぶこととする)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで。特許文献3においては、ピニオンギアの軸受けにニードルベアリング(ころ軸受)を用いている。
ニードルベアリングを軸受とすることにより、レイアウトをコンパクトにすることが考えられるが、その際の軸受の潤滑に課題がある。
そこで、軸受を効果的に潤滑する構造を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は
軸受によりピニオン軸が支持されたピニオンギアを有する遊星ギアと、
前記遊星ギアのキャリアに設けられ、径方向外周側からの潤滑油をキャッチして前記軸受へ導くキャッチ部を有し、
前記遊星ギアの外周側に、前記遊星ギアの回転に伴い外周方向へ飛散した潤滑油を前記キャッチ部へ導くガイド部を有する構成の動力伝達装置とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸受を効果的に潤滑できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態にかかる動力伝達装置を説明する図である。
図2】動力伝達装置の減速機構周りの拡大図である。
図3】動力伝達装置の差動装置周りの拡大図である。
図4】動力伝達装置のキャッチ部周りの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明する図である。
図2は、動力伝達装置1の減速機構3周りの拡大図である。
図3は、動力伝達装置1の差動装置6周りの拡大図である。
【0012】
動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動装置6に入力する減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、を有している。
【0013】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
モータ2の出力回転は、減速機構3で減速されて差動装置6に入力された後、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。図1では、ドライブシャフト8Aが、動力伝達装置1を搭載した車両の左輪に回転伝達可能に接続されていると共に、ドライブシャフト8Bが、右輪に回転伝達可能に接続されている。
【0014】
ここで、第1遊星減速ギア4は、モータ2の下流に接続されており、第2遊星減速ギア5は、第1遊星減速ギア4の下流に接続されている。差動装置6は、第2遊星減速ギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8(8A、8B)は、差動装置6の下流に接続されている。
【0015】
モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0016】
モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに外挿された状態で、ドライブシャフト8Bに対して相対回転可能に設けられている。
モータシャフト20では、長手方向の一端20a側と他端20b側の外周に、ベアリングB1、B1が外挿されて固定されている。
モータシャフト20の一端20a側は、ベアリングB1を介して、中間ケース12の円筒状のモータ支持部121で回転可能に支持されている。
モータシャフト20の他端20b側は、ベアリングB1を介して、カバー11の円筒状のモータ支持部111で回転可能に支持されている。
【0017】
モータ2は、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むモータハウジング10を有している。本実施形態では、モータハウジング10の一端10aに、中間ケース12が接合されており、モータハウジング10の他端10bに、カバー11が接合されている。
【0018】
モータハウジング10の一端10aと他端10bには、シールリングS、Sが設けられている。モータハウジング10の一端10aは、当該一端10aに設けたシールリングSにより、中間ケース12の環状の基部120に隙間なく接合されている。
モータハウジング10の他端10bは、当該他端10bに設けたシールリングSにより、カバー11の環状の接合部110に隙間なく接合されている。
【0019】
これにより、モータハウジング10の内側に、モータハウジング10とカバー11と中間ケース12とで囲まれた空間Sa(モータ室)が形成されている。
本実施形態では、モータハウジング10と、カバー11と、中間ケース12と、後記するケース13および中間カバー14とで、動力伝達装置1の本体ケース9を構成している。
本体ケース9の内部空間は、中間ケース12を境にして、モータハウジング10側の空間Saが、モータ2を収容するモータ室となっている。そして、ケース13側の空間Sb、Scが、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)を収容するギア室となっている。
そして、ギア室は、後記する中間カバー14により、第1遊星減速ギア4を収容する空間Sbと、第2遊星減速ギア5およびデフケース60を収容する空間Scとに、区画されている。
【0020】
カバー11では、接合部110とモータ支持部111とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。
本実施形態では、カバー11の接合部110をモータハウジング10の他端10bに固定すると、モータ支持部111が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0021】
この状態においてモータ支持部111は、後記するコイルエンド253bの内径側で、ロータコア21の他端部21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
そして、モータ支持部111と、カバー11の側壁部113とを接続する接続部115は、コイルエンド253bと後記する支持筒112との接触を避けて設けられている。
【0022】
中間ケース12では、環状の基部120と、モータ支持部121とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。
本実施形態では、中間ケース12をモータハウジング10の一端10aに固定すると、モータ支持部121が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0023】
この状態においてモータ支持部121は、後記するコイルエンド253aの内径側で、ロータコア21の一端部21aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される(図2参照)。
そして、図2に示すように、基部120とモータ支持部121とを接続する接続部123は、コイルエンド253aと後記する側板部452との接触を避けて設けられている。
【0024】
なお、モータ支持部121のロータコア21側の端面121aには、ベアリングリテーナ125が固定されている。
ベアリングリテーナ125は、回転軸X方向から見てリング状を成している。ベアリングリテーナ125の内径側は、モータ支持部121で支持されたベアリングB1のアウタレースB1bの側面に回転軸X方向から当接している。ベアリングリテーナ125は、モータ支持部121からのベアリングB1の脱落を阻止している。
【0025】
図1に示すように、モータハウジング10の内側では、カバー11側のモータ支持部111と、中間ケース12側のモータ支持部121との間に、ロータコア21が配置されている。
【0026】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0027】
回転軸X方向におけるロータコア21の一端部21aは、モータシャフト20の大径部203で位置決めされている。ロータコア21の他端部21bは、モータシャフト20に圧入されたストッパ23で位置決めされている。
【0028】
ステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものであり、電磁鋼板の各々は、モータハウジング10の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252を、有している。
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用しており、ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0029】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部の各々に、巻線を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0030】
モータシャフト20では、大径部203よりも一端20a側の領域の外周に、ベアリングB1が圧入されている。
図2に示すように、ベアリングB1のインナレースB1aは、回転軸X方向の一方の側面が、モータシャフト20の外周に設けた段部204に当接している。インナレースB1aは、他方の側面に、モータシャフト20の外周に圧入されたリング状のストッパ205が当接している。
ストッパ205によりベアリングB1は、インナレースB1aを、段部204に当接させた位置で位置決めされている。
【0031】
モータシャフト20の一端20aは、ストッパ205よりも差動装置6側(図中、左側)に位置している。回転軸X方向において一端20aは、第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aに、間隔をあけて対向している。
【0032】
モータシャフト20の一端20a側では、モータシャフト20の径方向外側に、円筒壁122が位置している。
円筒壁122は、モータ支持部121から差動装置6側に突出しており、円筒壁122の先端122aは、第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aに間隔をあけて対向している。
【0033】
円筒壁122は、モータシャフト20の外周を所定間隔で囲んでおり、円筒壁122とモータシャフト20との間には、リップシールRSが設置されている。
リップシールRSは、モータハウジング10の内径側の空間Sa(図1参照)と、中間ケース12の内径側の空間Sb(図1参照)とを、区画するために設けられている。
【0034】
中間ケース12の内径側の空間Sbは、後記する差動装置6を収容するケース13内の空間Scと連絡しており、差動装置6の潤滑油が封入されている。リップシールRSは、モータハウジング10の内径側の空間Saへの潤滑油の流入を阻止するために設けられている。
【0035】
図2に示すように、モータシャフト20の一端20a側の領域202は、ロータコア21が外挿された領域201よりも大きい内径で形成されている。
この一端20a側の領域202の内側には、サンギア41の円筒状の連結部411が挿入されている。この状態において、モータシャフト20の一端20a側の領域202と、サンギア41の連結部411とが、相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0036】
そのため、モータ2の出力回転が、モータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に入力されて、サンギア41がモータ2の回転駆動力で、回転軸X回りに回転する。
第1遊星減速ギア4は、サンギア41と、リングギア42と、ピニオンギア43と、キャリア45と、を有している。
【0037】
サンギア41は、内径側の側面41aから回転軸X方向に延びる連結部411を有している。連結部411は、サンギア41と一体に形成されおり、サンギア41の内径側と連結部411の内径側とに跨がって、貫通孔410が形成されている。
サンギア41は、貫通孔410を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0038】
回転軸Xの径方向におけるサンギア41の外径側には、リングギア42が位置している。リングギア42は、中間ケース12の基部120の内周にスプライン嵌合している。
中間ケース12は、固定側部材であるので、リングギア42は、回転軸X回りの回転が規制された状態で設けられている。
【0039】
回転軸Xの径方向において、サンギア41とリングギア42の間では、ピニオン軸44で回転可能に支持されたピニオンギア43が、サンギア41の外周と、リングギア42の内周に噛合している。
【0040】
ピニオンギア43は、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸44の外周で回転可能に支持されている。ピニオン軸44は、ピニオンギア43を回転軸Xに平行な軸線X1方向に貫通している。ピニオン軸44の長手方向の一端と他端は、キャリア45の一対の側板部451、452で支持されている。
【0041】
側板部451、452は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部451、452の間では、複数のピニオンギア43が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、4つ)設けられている。
【0042】
差動装置6側に位置する側板部451には、円筒状の連結部453が設けられている。
側板部451において連結部453は、回転軸Xに対して同心に配置されていると共に、回転軸Xに沿って、差動装置6に近づく方向(図中、左方向)に突出している。
【0043】
中間ケース12から見て差動装置6側には、リング状の中間カバー14が位置している。
中間カバー14の外径側の基部143は、中間ケース12とケース13との間に挟み込まれた状態で設けられている。
側板部451の内径側に設けられた連結部453は、中間カバー14の中央の開口140を、モータ2側から差動装置6側(図中、左側)に貫通している。
連結部453の先端453aは、中間カバー14内に位置している。回転軸X方向において連結部453の先端453aの延長上には、第2遊星減速ギア5のサンギア51と段付きピニオンギア53(大径歯車部531)との噛み合い部分が位置している。
【0044】
連結部453の内側には、サンギア51から延びる円筒状の連結部511が挿入されてスプライン嵌合しており、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511とが、相対回転不能に連結されている。
第1遊星減速ギア4では、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力部となっており、ピニオンギア43を支持するキャリア45(連結部453)が、入力された回転の出力部となっている。
【0045】
第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、回転の入力部となっている。
サンギア51は、内径側の側面51aから回転軸X方向に延びる連結部511を有している。連結部511は、サンギア51と一体に形成されおり、サンギア51の内径側と連結部511の内径側とに跨がって、貫通孔510が形成されている。
サンギア51は、貫通孔510を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0046】
サンギア51の差動装置6側(図中、左側)の側面51bは、後記するデフケース60の筒状の支持部601に、回転軸X方向の隙間をあけて対向しており、側面51bと支持部601との間には、ニードルベアリングNBが介在している。
【0047】
サンギア51は、前記した第1遊星減速ギア4側の連結部453の延長上で、段付きピニオンギア53の大径歯車部531に噛合している。
【0048】
段付きピニオンギア53は、サンギア51に噛合する大径歯車部531と、大径歯車部531よりも小径の小径歯車部532とを有している。
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532が、回転軸Xに平行な軸線X2方向で並んで、一体に設けられたギア部品である。
【0049】
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532の内径側を軸線X2方向に貫通した貫通孔530を有している。
段付きピニオンギア53は、貫通孔530を貫通したピニオン軸54の外周で、ニードルベアリングNBを介して回転可能に支持されている。
ピニオン軸54の長手方向の一端と他端は、デフケース60と一体に形成された側板部651と、この側板部に間隔をあけて配置された側板部551で支持されている。
【0050】
側板部651、551は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部651、551の間では、複数の段付きピニオンギア53が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
【0051】
小径歯車部532の各々は、リングギア52の内周に噛合している。リングギア52は、ケース13の内周にスプライン嵌合しており、リングギア52は、ケース13との相対回転が規制されている。
【0052】
側板部551の内径側には、第1遊星減速ギア4側に延びる筒状部552が設けられている。筒状部552は、中間カバー14の中央の開口140を、差動装置6側からモータ2側(図中、右側)に貫通している。回転軸X方向において筒状部552の先端552aは、第1遊星減速ギア4のキャリア45の側板部451に、間隔をあけて対向している。
【0053】
筒状部552は、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511との噛み合い部分の径方向外側に位置している。筒状部552の外周には、中間カバー14の開口140の内周に固定されたベアリングB3が接触している。側板部551の筒状部552は、ベアリングB3を介して、中間カバー14で回転可能に支持されている。
【0054】
第2遊星減速ギア5では、キャリア55を構成する側板部551と側板部651のうちの一方の側板部651は、差動装置6のデフケース60と一体に形成されている。
【0055】
第2遊星減速ギア5では、第1遊星減速ギア4で減速されたモータ2の出力回転が、サンギア51に入力される。
サンギア51に入力された出力回転は、サンギア51に噛合する大径歯車部531を介して、段付きピニオンギア53に入力されて、段付きピニオンギア53が軸線X2回りに回転する。
【0056】
そうすると、大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、大径歯車部531と一体に軸線X2周りに回転する。
ここで、小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、小径歯車部532が軸線X2回りに回転すると、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0057】
そうすると、図3に示すように、ピニオン軸54の一端が、デフケース60と一体に形成された側板部651に支持されているので、段付きピニオンギア53の回転軸X周りの周方向の変位に連動して、デフケース60が回転軸X回りに回転する。
【0058】
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R2が大径歯車部531の外径R1よりも小さくなっている(図3参照)。
そして、第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
そうすると、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60に出力される。
【0059】
図3に示すように、デフケース60は、シャフト61と、かさ歯車62A、62Bと、サイドギア63A、63Bとを、内部に収納する中空状に形成されている。
デフケース60では、回転軸X方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、シャフト61から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
【0060】
支持部601の外径側には、キャリア55の側板部651と側板部551とを接続する接続片56が設けられている。
接続片56のデフケース60側の一端は、側板部651とデフケース60の外周とに跨がって設けられており、他端は、回転軸X方向から側板部551に接続されている。
【0061】
接続片56は、前記した段付きピニオンギア53との干渉を避けた位置に設けられている。前記したように、段付きピニオンギア53は、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
接続片56は、回転軸X回りの周方向で隣接する段付きピニオンギア53の間に設けられている。
【0062】
デフケース60では、支持部602の外周に、ベアリングB2のインナレースB2aが圧入されている。
ベアリングB2のアウタレースB2bは、ケース13のリング状の支持部131で保持されており、デフケース60の支持部602は、ベアリングB2を介して、ケース13で回転可能に支持されている。
【0063】
支持部602には、ケース13の開口部130を貫通したドライブシャフト8Aが、回転軸X方向から挿入されており、ドライブシャフト8Aは、支持部602で回転可能に支持されている。
開口部130の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Aの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Aの外周と開口部130の内周との隙間が封止されている。
【0064】
図1に示すように、支持部601には、カバー11の開口部114を貫通したドライブシャフト8Bが、回転軸X方向から挿入されている。
ドライブシャフト8Bは、モータ2のモータシャフト20と、第1遊星減速ギア4のサンギア41の内径側と、第2遊星減速ギア5のサンギア51の内径側を回転軸X方向に横切って設けられており、ドライブシャフト8Bの先端側が、支持部601で回転可能に支持されている。
【0065】
カバー11の開口部114の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Bの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Bの外周と開口部114の内周との隙間が封止されている。
【0066】
デフケース60の内部では、ドライブシャフト8A、8Bの先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合しており、サイドギア63A、63Bとドライブシャフト8(8A、8B)とが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0067】
図3に示すように、デフケース60には、回転軸Xに直交する方向に貫通した軸孔60a、60bが、回転軸Xを挟んで対称となる位置に設けられている。
軸孔60a、60bは、回転軸Xに直交する軸線Y上に位置しており、シャフト61の一端61a側および他端61b側が挿入されている。
【0068】
シャフト61の一端61a側および他端61b側は、ピンPでデフケース60に固定されており、シャフト61は、軸線Y周りの自転が禁止されている。
【0069】
シャフト61は、デフケース60内において、サイドギア63A、63Bの間に位置しており、軸線Yに沿って配置されている。
デフケース60内においてシャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
【0070】
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。シャフト61においてかさ歯車62A、62Bは、当該かさ歯車62A、62Bの軸心を、シャフト61の軸心と一致させて設けられている。
【0071】
デフケース60内において、回転軸Xの軸方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側には、サイドギア63A、63Bが位置している。
サイドギア63A、63Bは、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸Xの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0072】
デフケース60の下部側は、ケース13内の潤滑油に浸っている。
実施の形態では、シャフト61の一端61aまたは他端61bが最も下部側に位置した際に、シャフト61の一端61aまたは他端61bが少なくとも潤滑油内に位置する高さまで、ケース13内に潤滑油が貯留されている。
【0073】
前記したようにデフケース60は、減速機構3を介して入力されるモータ2の出力回転で、回転軸X回りに回転する。この際に中空状に形成されたデフケース60の内部に、ケース13内の潤滑油が取り込まれて、デフケース60内のかさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとが潤滑される。
【0074】
さらに、第2遊星減速ギア5のキャリア55が、デフケース60と一体に形成されている。そのため、デフケース60が回転軸X回りに回転すると、第2遊星減速ギア5のキャリア55で支持された段付きピニオンギア53が、回転軸X周りの周方向に回転して、ケース13下部に貯留された潤滑油を掻き上げる。
これにより、第2遊星減速ギア5の構成要素(サンギア51、リングギア52、段付きピニオンギア53)が潤滑される。
【0075】
図4は、動力伝達装置1のキャッチ部7周りの拡大図である。
図4の(a)は、キャッチ部7が設けられた段付きピニオンギア53周りの拡大図である。図4の(b)は、図4の(a)における領域Aの拡大図である。図4の(c)は、図4の(b)におけるB-B断面図である。
【0076】
第2遊星減速ギア5の段付きピニオンギア53は、側板部651、551で支持されたピニオン軸54の外周に、ニードルベアリングNBを介して回転可能に支持されている。
ピニオン軸54の外周では、大径歯車部531の内径側と、小径歯車部532の内径側に、ニードルベアリングNBがそれぞれ設けられている。ピニオン軸54の外周においてニードルベアリングNB、NBは、軸線X2方向に直列に並んでいる。
【0077】
本実施形態では、段付きピニオンギア53を支持するニードルベアリングNB、NBの潤滑性を向上させるために、キャリア55の側板部551に、キャッチ部7が設けられている。
キャッチ部7は、回転軸X周りに回転する第2遊星減速ギア5(主として、大径歯車部531)で掻き上げられた潤滑油を補足(キャッチ)して、段付きピニオンギア53を支持するニードルベアリングNB、NBに供給するために設けられている。
【0078】
図4の(b)、(c)に示すように、キャッチ部7は、回転軸Xの径方向で間隔をあけて配置された外壁部71および内壁部72と、外壁部71と内壁部72とを接続する底壁部70と、を有している。
底壁部70は、外壁部71と内壁部72に対して直交する向きで設けられた板状部材であり、回転軸X方向から見てリング状を成している。
【0079】
底壁部70は、キャリア55の側板部551の表面(図4の(b)において、右側の表面)に、全面に亘って接触した状態で、ボルト(図示せず)により固定されている。
外壁部71は、底壁部70の外周701から内径側に離れた位置から、軸線X2に沿って底壁部70から離れる方向(第1遊星減速ギア4に近づく方向)に直線状に延びている。
【0080】
内壁部72は、底壁部70の内周702から外径側に離れた位置から、軸線X2に沿って底壁部70から離れる方向(第1遊星減速ギア4に近づく方向)に直線状に延びている。
外壁部71と内壁部72は、回転軸X方向から見て、回転軸Xを中心とした環状を成している。内壁部72は、ピニオン軸54の直径dに相当する分だけ、外壁部71よりも小さい外径で形成されている。
【0081】
図4の(b)に示すように、内壁部72は、外壁部71の先端71aよりも、中間カバー14の接続壁144側まで及んでいる。
内壁部72の先端側は、軸線X2側に折り曲げられており、内壁部72の先端には、側板部551から離れるにつれて軸線X2に近づく方向に傾斜した傾斜部73が、連続的に形成されている。
内壁部72と傾斜部73との境界72bは、外壁部71の先端71aよりも、側板部551から離れた位置に設けられている。
【0082】
傾斜部73は、後記する突出部142を通る鉛直線VLを、軸線X2方向に横切って設けられている。傾斜部73の先端73aは、鉛直線VLよりも接続壁144側で、軸線X2に交差する位置まで達している。
【0083】
図4の(b)に示すように、内壁部72では、外壁部71の先端71aの略直下の位置に油孔72aが設けられている。油孔72aは、内壁部72を厚み方向(鉛直線VL方向)に貫通して設けられている。
図4の(a)に示すように、油孔72aは、キャリア55の側板部551と、中間ケース12の開口140を囲む支持筒145との間の領域に開口している。鉛直線VL方向において、油孔72aの下方には、側板部551の下端から延びる筒状部552が位置している。
【0084】
キャッチ部7の側板部551側には、円筒状の挿入部74が設けられている。挿入部74の各々は、側板部551に設けたピニオン軸54の支持孔551aに挿入されている。
挿入部74の内周には、ピニオン軸54の端部が挿入されて固定されている。
【0085】
ピニオン軸54の中心には、油孔541が設けられている。油孔541は、ピニオン軸54の中心を通る軸線X2に沿って、ピニオン軸54を一端から他端まで貫通している。
ピニオン軸54の内部には、軸線X2に直交する向きで油孔542が設けられている。油孔542は、大径歯車部531を支持するニードルベアリングNBと、小径歯車部532を支持するニードルベアリングNBに対応する位置に、それぞれ1つずつ設けられている。
本実施形態では、油孔542は、ニードルベアリングNBの軸線X2方向の長さの略中間となる位置に設けられている。
【0086】
図3に示すように、第2遊星減速ギア5と差動装置6を収容するケース13は、デフ収容部132と、第1収容部133と、第2収容部134と、を有している。
デフ収容部132は、デフケース60を収容可能な内径で形成されている。第1収容部133は、第2遊星減速ギア5のリングギア52を収容可能な内径で形成されている。第2収容部134は、大径歯車部531を収容可能な内径で形成されている。
【0087】
ケース13は、第2収容部134に設けたフランジ部135を、中間カバー14の基部143の外周部に接合した状態で、中間カバー14に固定されている。
【0088】
ケース13は、中間カバー14に近づくにつれて内径が大きくなる形状で形成されている。図4の(a)に示すように、第2収容部134は、大径歯車部531の外周を所定間隔で囲む第1内周面134aと、大径歯車部531の一方の側面531aに沿って設けられた第2内周面134bと、を有している。
第2内周面134bは、回転軸Xおよび軸線X2に直交する向きで設けられた平坦面である。
第2内周面134bは、第1収容部133の第2収容部134側(図中、右側)の端部から、回転軸Xの径方向外側に向けて延びている。
第2内周面134bの外径側の端部は、第1内周面134aの一端に接続されており、第1内周面134aは、前記したフランジ部135の内径側まで及んでいる。
【0089】
フランジ部135が接合される中間カバー14は、大径歯車部531の外周と、第1遊星減速ギア4側(図中、右側)の側面531bとの間に、間隔をあけて配置される内周面141を有している。
内周面141は、第1内周面141aと、第2内周面141bと、第3内周面141cとを有している。
第1内周面141aは、ケース13側の第1内周面134aの延長上に位置している。第1内周面141aは、回転軸Xおよび軸線X2に平行な平坦面であり、ケース13の第1内周面134aと面一である。
【0090】
第1内周面141aのケース13とは反対側の端部には、第2内周面141bの一端が接続されている。
第2内周面141bは、ケース13から離れるにつれて内径が小さくなる向きで傾斜している。
【0091】
第2内周面141bの他端には、第3内周面141cよりも下方に突出した突出部142が設けられている。第3内周面141cは、第2内周面141bの他端側よりも外径側に位置している。
【0092】
突出部142は、第2内周面141bと面一に設けられており、鉛直線VL方向における突出部142の下方には、前記したキャッチ部7の傾斜部73が位置している。
【0093】
第3内周面141cは、突出部142から離れる方向に延びており、軸線X2方向から接続壁144に達している。接続壁144は、中間カバー14の基部143と、開口140を囲む支持筒145とを接続する環状の壁部である。
【0094】
このように、大径歯車部531の外径側には、ケース13の第1内周面134aと中間カバー14の第1内周面141aが位置している。そして、軸線X1方向の一方側には、ケース13の第2内周面134bが位置しており、他方側には、中間カバー14の第2内周面141bが位置している。
【0095】
そのため、大径歯車部531の外径側は、ケース13の第1内周面134aおよび第2内周面134bと、中間カバー14の第1内周面141aおよび第2内周面141bで囲まれている。
本実施形態では、第2内周面134bと、大径歯車部531の一方の側面531aとの間と、第2内周面141bと、大径歯車部531の他方の側面531bとの間に、隙間S1、S2が形成されている。
そして、隙間S1の軸線X2方向の離間距離が、隙間S2の軸線X2方向の離間距離よりも狭くなるように設定されている(S1<S2)。
そして、大径歯車部531の他方の側面531b側の隙間S2は、内径側(軸線X2)側に向かうにつれて、軸線X2方向の離間距離が広くなっている。
【0096】
そのため、大径歯車部531で掻き上げられた潤滑油は、ケース13側の隙間S1よりも、中間カバー14側の隙間S2のほうに流れやすくなっている。
【0097】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
【0098】
モータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に回転が入力される。
【0099】
第1遊星減速ギア4では、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力部、ピニオンギア43を支持するキャリア45が、入力された回転の出力部となっている。
【0100】
サンギア41がモータ2の出力回転で回転軸X回りに回転すると、サンギア41の外周とリングギア42の内周に噛合したピニオンギア43が、軸線X1回りに回転する。
ここで、リングギア42は、中間ケース12(固定側部材)の内周にスプライン嵌合しており、中間ケース12との相対回転が規制されている。
そのため、ピニオンギア43は、軸線X1回りに回転しながら、回転軸X周りに公転する。これにより、ピニオンギア43を支持するキャリア45(側板部451、452)が、モータ2の出力回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
【0101】
前記したようにキャリア45の連結部453は、第2遊星減速ギア5側のサンギア51の連結部511に連結されており、キャリア45の回転(第1遊星減速ギア4の出力回転)は、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力される。
【0102】
第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、第2遊星減速ギア5の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
【0103】
サンギア51が入力された回転で回転軸X回りに回転すると、段付きピニオンギア53(大径歯車部531、小径歯車部532)が、サンギア51側から入力される回転で、軸線X2回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア53の小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0104】
これにより、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55(側板部551、651)が、第1遊星減速ギア4側から入力された回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R2が大径歯車部531の外径R1よりも小さくなっている(図3参照)。
そのため、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により、第1遊星減速ギア4の場合よりも大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60(差動装置6)に出力される。
【0105】
そして、デフケース60が入力された回転で回転軸X回りに回転することにより、ドライブシャフト8(8A、8B)が回転軸X回りに回転して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0106】
デフケース60が回転軸X回りに回転すると、キャリア55がデフケース60と一体に形成された第2遊星減速ギア5は、デフケース60と一体に、回転軸X周りの周方向に回転する。
これにより、ケース13の下部に貯留された潤滑油が、第2遊星減速ギア5の構成要素(段付きピニオンギア53、キャリア55)により掻き上げられる。
この際に、段付きピニオンギア53の大径歯車部531が最も大きい外径R1で形成されているので、大径歯車部531の部分で、より多くの潤滑油OLが掻き上げられることになる。
【0107】
大径歯車部531の外径側は、ケース13の第1内周面134aおよび第2内周面134bと、中間カバー14の第1内周面141aおよび第2内周面141bで囲まれている。
本実施形態では、中間カバー14側の第2内周面141bと、大径歯車部531の他方の側面531bとの間の隙間S2が、ケース13側の第2内周面134bと、大径歯車部531の一方の側面531aとの間の隙間S1よりも、広くなるように設定されている(S2>S1)。
そのため、大径歯車部531で掻き上げられた潤滑油は、ケース13側(隙間S1側)よりも中間カバー14側(隙間S2側)に流れやすくなっている。
【0108】
本体ケース9内の上側の領域では、掻き上げられた潤滑油が、自重により、中間カバー14の内周面(第1内周面141a、第2内周面141b)を伝って、内径側(回転軸X)側に移動する。
第2内周面141bは、ケース13から離れるにつれて、回転軸Xを基準とした外径が小さくなる向きで傾斜している。そして、第2内周面141bの下端には、第3内周面141cよりも回転軸X側の下方に突出した突出部142が設けられている。
【0109】
そのため、第2内周面141bを伝って回転軸X側の下方に移動した潤滑油が少ない場合には、潤滑油が突出部142の部分に集まって液滴を肥大化させたたのち、自重により、突出部142から下方に落下する。
【0110】
鉛直線VL方向における突出部142の下方には、キャッチ部7の傾斜部73が位置しており、傾斜部73は、内壁部72に近づくにつれて回転軸Xからの離間距離が小さくなる向きで傾斜している。すなわち、傾斜部73は、段付きピニオンギア53に近づくほど、回転軸Xを基準とした径が小さくなるように設定されている。
そのため、落下した潤滑油は、傾斜部73で補足されて、外壁部71と内壁部72との間の領域(底壁部70)側に移動する。
【0111】
また、第2内周面141bを伝って回転軸X側の下方に移動した潤滑油が多い場合には、第2内周面141bの延長線L上に、キャッチ部7の傾斜部73が位置している。よって、第2内周面141bを伝って回転軸X側の下方に移動した潤滑油は、この場合にも、傾斜部73で補足されて、外壁部71と内壁部72との間の領域(底壁部70)側に移動する。
【0112】
ここで、底壁部70には、段付きピニオンギア53を支持するピニオン軸54の端部が露出している。そして、ピニオン軸54の端部には、ピニオン軸54内を軸線X2に沿って延びる油孔541が開口している。
【0113】
そのため、傾斜部73で補足されて、外壁部71と内壁部72との間の領域(底壁部70)側に移動した潤滑油の少なくとも一部が、油孔541内に流入する。
【0114】
油孔541には、大径歯車部531を支持するニードルベアリングNBに対応する油孔542と、小径歯車部532を支持するニードルベアリングNBに対応する油孔542とが連通している。
【0115】
そのため、油孔541に流入した潤滑油は、油孔542、542を介してニードルベアリングNB、NBに供給されて、段付きピニオンギア53を支持するニードルベアリングNBが潤滑される。
これにより、第2遊星減速ギア5の構成要素(段付きピニオンギア53、キャリア55)が掻き上げた潤滑油を集めて、段付きピニオンギア53を支持するニードルベアリングNBの潤滑に利用できる。
【0116】
前記したようにキャッチ部7の内壁部72には、油孔72aが設けられている。そのため、傾斜部73で補足されて、外壁部71と内壁部72との間の領域(底壁部70)側に移動した潤滑油の一部が、この油孔72aを通って、回転軸X側に移動する。
図4の(a)に示すように、油孔72aは、キャリア55の側板部551と、中間ケース12の開口140を囲む支持筒145との間の領域に開口しており、油孔72aの内径側(回転軸X側)に、ベアリングB3で支持された筒状部552が位置している。
【0117】
そのため、油孔72aを通って回転軸X側に移動した潤滑油の一部が、筒状部552を伝ってベアリングB3側に移動できるようになっている。
これにより、第2遊星減速ギア5の構成要素(段付きピニオンギア53、キャリア55)が掻き上げた潤滑油を集めて、キャリア55(筒状部552)を支持するベアリングB3の潤滑に利用できる。
【0118】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)動力伝達装置1は、
ニードルベアリングNB、NB(軸受)を介してピニオン軸54で支持された段付きピニオンギア53(ピニオンギア)を有する第2遊星減速ギア5(遊星ギア)と、
第2遊星減速ギア5のキャリア55に設けられ、径方向外周側からの潤滑油をキャッチして、ニードルベアリングNB、NBへ導くキャッチ部7と、を有する。
【0119】
キャッチ部7を設けることで、ニードルベアリングNB、NBを効果的に潤滑することができる。
【0120】
(2)本体ケース9内の上側の領域では、中間カバー14が、段付きピニオンギア53から遠ざかるほど回転軸Xを基準とした内径が小さくなる向きで傾斜した内周面141(第2内周面141b)を有している。
第2遊星減速ギア5が回転軸X回りに回転する際に掻き上げた潤滑油が、自重により、第2内周面141bを伝って内径側(回転軸X)側に移動する。
キャッチ部7は、軸線X2方向で段付きピニオンギア53に近づくにつれて、回転軸Xを基準とした径が小さくなるように設定された傾斜部73を有している。
傾斜部73は、鉛直線VL方向における第2内周面141bの端部(突出部142)の下方に位置している。
回転軸Xの径方向から見て、傾斜部73と、第2内周面141bの端部(突出部142)とが、重なる位置関係で、傾斜部73と第2内周面141bとが設けられている。
【0121】
すなわち、段付きピニオンギア53から離れた側に位置する傾斜部73の先端73aと、第2内周面141bの端部(突出部142)とは径方向にオーバーラップしている。
【0122】
このように構成すると、第2遊星減速ギア5が掻き上げた潤滑油を、ガイド部を構成する第2内周面141bと、キャッチ部7を構成する傾斜部73とを用いて回収して、段付きピニオンギア53側に供給できる。
これにより、本体ケース9内に、段付きピニオンギア53を支持するニードルベアリングNB(軸受)を潤滑するための専用の油路を設けることなく、段付きピニオンギア53を支持するニードルベアリングNB(軸受)を適切に潤滑できる。
【0123】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(3)第2遊星減速ギア5の外周側に、第2遊星減速ギア5の回転軸X周りの回転に伴い外周方向へ飛散した潤滑油を、キャッチ部7へ導くガイド部を有する。
ガイド部は、ケース13の第1内周面134aおよび第2内周面134bと、中間カバー14の第1内周面141aおよび第2内周面141bとで、構成される。
【0124】
ガイド部を、キャッチ部7に組み合わせて設けることで、より多くの潤滑油をニードルベアリングNB、NBに導くことができる。これにより、ニードルベアリングNB、NBを、さらに効果的に潤滑できる。
【0125】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(4)キャッチ部7には、キャッチした潤滑油の一部を内周側(回転軸X側)へ導く油孔72aが形成されている。
【0126】
油孔72aにより、内周側の部材(例えば、ベアリングB3(軸受)など)も潤滑できる。
【0127】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(5)段付きピニオンギア53の大径歯車部531(ギア部)は、一対の壁(ケース13の第2内周面134b、中間カバー14の第2内周面141b)に挟まれている。
一対の壁の一方であるケース13の第2内周面134bと、大径歯車部531の側面531aとの隙間S1と、一対の壁の他方である中間カバー14の第2内周面141bと、大径歯車部531の側面531bとの隙間S2は、キャッチ部7と径方向にオーバーラップしている。
ケース13の第2内周面134bと、大径歯車部531の側面531aとの隙間S1は、中間カバー14の第2内周面141bと、大径歯車部531の側面531bとの隙間S2よりも狭い(S2>S1)。
【0128】
キャッチ部7が設けられた中間カバー14側の隙間S2よりも、ケース13側の隙間S1を狭くすることにより、大径歯車部531で掻き上げられた潤滑油のうち、ケース13側に流れる潤滑油の量を少なくできる。
すなわち、ケース13側に流れる潤滑油の量を制限して、キャッチ部7が設けられた側(中間カバー14側)に、より多くの潤滑油OLが流れるようにすることができる。
これにより、キャッチ部7で補足される潤滑油OLの総量を増やして、ニードルベアリングNBやベアリングB3を効果的に潤滑できる。
【0129】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(6)第2遊星減速ギア5の上流にモータ2が接続されている。
第2遊星減速ギア5の下流に差動装置6(デファレンシャルギア)が接続されている。
差動装置6の下流に、モータ2の内周を貫通して配置されるドライブシャフト8(8A、8B)を有している。
【0130】
このように構成すると、動力伝達装置1を、縦方向(重力方向)にダウンサイジングできる。
【0131】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ2の下流に接続された第1遊星減速ギア4という場合は、モータ2から第1遊星減速ギア4へと動力が伝達されることを意味する。
また、本明細書における用語「直接接続」とは、他の減速機構、増速機構、変速機構などの減速比が変換される部材を介さずに部材同士が動力伝達可能に接続されていることを意味する。
【0132】
なお、モータ2の出力部(モータシャフト20)と第1遊星減速ギア4の入力部(サンギア41)との連結態様、第2遊星減速ギア5と差動装置6(デフケース60)との連結態様は、前記した実施形態および変形例に挙げたものに限定されない。
モータ2の出力部(モータシャフト20)と第1遊星減速ギア4の入力部(サンギア41)との連結態様と、第2遊星減速ギア5と差動装置6(デフケース60)との連結態様は、別のギア部品などを介して回転伝達可能に連結されている構成としても良い。
【0133】
さらに、実施形態では、減速機構3が、段無しのピニオンギア43を備える第1遊星減速ギア4と、段付きピニオンギア53を備える第2遊星減速ギア5と、を有しており、第1遊星減速ギア4と第2遊星減速ギア5とが、モータ2の出力回転の伝達経路上で直列に配置されている場合を例示した。
本発明は、この態様にのみ限定されない。例えば、段付きピニオンギア53を備える第2遊星減速ギア5のみを備える減速機構としても良い。
【0134】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0135】
1 動力伝達装置
10 モータハウジング
11 カバー
110 接合部
111 モータ支持部
112 支持筒
113 側壁部
114 開口部
115 接続部
12 中間ケース
120 基部
121 モータ支持部
122 円筒壁
123 接続部
125 ベアリングリテーナ
13 ケース
130 開口部
131 支持部
132 デフ収容部
133 第1収容部
134 第2収容部
134a 第1内周面
134b 第2内周面
135 フランジ部
14 中間カバー
140 開口
141 内周面
141a 第1内周面
141b 第2内周面
141c 第3内周面
142 突出部
143 基部
144 接続壁
145 支持筒
2 モータ
20 モータシャフト
203 大径部
204 段部
205 ストッパ
21 ロータコア
23 ストッパ
25 ステータコア
251 ヨーク部
252 ティース部
253 巻線
253a、253b コイルエンド
3 減速機構
4 第1遊星減速ギア(遊星ギア)
41 サンギア
410 貫通孔
411 連結部
42 リングギア
43 ピニオンギア
44 ピニオン軸
45 キャリア
451、452 側板部
453 連結部
5 第2遊星減速ギア(遊星ギア)
51 サンギア
510 貫通孔
511 連結部
52 リングギア
53 ピニオンギア(段付きピニオンギア)
530 貫通孔
531 大径歯車部
531a 側面
531b 側面
532 小径歯車部
54 ピニオン軸
541、542 油孔
55 キャリア
551 側板部
551a 支持孔
552 筒状部
56 接続片
6 差動装置
60 デフケース
601 支持部
602 支持部
61 シャフト
62A、62B かさ歯車
63A、63B サイドギア
651 側板部
7 キャッチ部
70 底壁部
71 外壁部
71a 先端
72 内壁部
72a 油孔
72b 境界
73 傾斜部
73a 先端
74 挿入部
8(8A、8B) ドライブシャフト
9 本体ケース
B1、B2、B3 ベアリング
B1b、B2b アウタレース
B1a、B2a インナレース
L 延長線
NB ニードルベアリング
OL 潤滑油
P ピン
RS リップシール
S シールリング
S1、S2 隙間
Sa 空間(モータ室)
Sb 空間(ギア室)
Sc 空間(ギア室)
VL 鉛直線
X 回転軸
X1、X2、Y 軸線
d 直径
図1
図2
図3
図4