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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】インクジェット用水系インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20230417BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230417BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018178701
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050698
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】篠原 正将
(72)【発明者】
【氏名】成宮 ひとみ
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-278259(JP,A)
【文献】特開2014-227523(JP,A)
【文献】特開2013-151593(JP,A)
【文献】特開2011-026545(JP,A)
【文献】特開2011-202089(JP,A)
【文献】特開2011-144388(JP,A)
【文献】特開2016-175265(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101899237(CN,A)
【文献】特開2014-224214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0028718(US,A1)
【文献】特開2010-222418(JP,A)
【文献】特開平05-194886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-アシルモルホリン、樹脂、及び水を含み、
前記樹脂がアクリル樹脂である、インクジェット用水系インク組成物。
【請求項2】
1~10重量%のN-ホルミルモルホリン、樹脂、及び水を含む、インクジェット用水系インク組成物。
【請求項3】
保湿作用を有する溶剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のインクジェット用水系インク組成物。
【請求項4】
N-アシルモルホリン、樹脂、前記N-アシルモルホリンに対する重量の割合が0.5以上であるジオール系有機溶剤、及び水を含む、インクジェット用水系インク組成物。
【請求項5】
沸点250℃以下の有機溶剤をさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載のインクジェット用水系インク組成物。
【請求項6】
前記沸点250℃以下の有機溶剤は、グリコールエーテル系有機溶剤である、請求項に記載のインクジェット用水系インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用水系インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニルなどのインクの吸収性の低いメディア(以下、低吸収性メディアと呼ぶ)へのインクジェット印刷のために、溶剤系インク、紫外線硬化型インク、水系インクなどが開発されている。この中でも、環境負荷の観点から、水系インクが特に注目を浴びている。
【0003】
例えば、特許文献1は、顔料を含有するポリエステル系樹脂粒子、顔料を含有しないポリエステル系樹脂粒子、有機溶媒、及び水を含有する水系インクを開示する。このインクジェットインクでは、有機溶媒として、エーテル類、アルコール類、エステル類、ラクトン類、ラクタム類、アミン類などが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-226834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、低吸収性メディアは、各種インクの中でもとりわけ水系インクを吸収する能力が低い。そのため、低吸収性メディアへのインクジェット印刷に、一般的なインクジェット用水性インク、例えば、水性顔料インクを使用すると、低吸収性メディアへの水性インクの浸透性が低いために、画像滲みや凝集班が生じる場合があった。また、低吸収性メディアへの水性インクの浸透性が低いために、印刷物の耐擦性が低くなる場合があった。こうした理由で、従来の水系インクでは、塩化ビニルメディアに好適に印刷することが困難であった。
【0006】
本発明は、塩化ビニルメディアに好適に印刷可能なインクジェット用水系インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、複素環式化合物を、インクジェット用水系インクに配合することで、塩化ビニルメディアに印刷可能なインクを製造できることを見出した。本発明者等は、さらに検討を進め、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の第1の観点に係るインクジェット用水系インク組成物は、
複素環内の窒素原子と当該窒素原子に隣接するカルボニル基とを有する複素環式化合物、樹脂、及び水を含む。
【0009】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。
【0010】
前記複素環式化合物は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び1-メチル-2-ピロリドンからなる群より選択される、ことが好ましい。
【0011】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。
【0012】
前記樹脂がアクリル樹脂である、ことが好ましい。
【0013】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。さらに、このインクは、塩化ビニルメディアに印刷したときの耐エタノール性に優れており、また、印刷時のノズル抜け率も良好である。
【0014】
保湿作用を有する溶剤をさらに含む、ことが好ましい。
【0015】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。さらに、このインクは、印刷時のノズル抜け率が良好である。
【0016】
前記保湿作用を有する溶剤がジオール系有機溶剤である、ことが好ましい。
【0017】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。さらに、このインクは、印刷時のノズル抜け率が良好である。
【0018】
沸点250℃以下の有機溶剤をさらに含む、ことが好ましい。
【0019】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。さらに、このインクは、塩化ビニルメディアに印刷したときの耐エタノール性に優れている。また、このインクによれば、印刷時のドット径を比較的に大きくできる。このため、このインクは、ドット間の隙間が小さく鮮明な画像を印刷するのに適している。
【0020】
前記沸点250℃以下の有機溶剤は、グリコールエーテル系有機溶剤である、ことが好ましい。
【0021】
上記構成のインクは、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。さらに、このインクは、塩化ビニルメディアに印刷したときの耐エタノール性に優れている。また、このインクによれば、印刷時のドット径を比較的に大きくできる。このため、このインクは、ドット間の隙間が小さく鮮明な画像を印刷するのに適している。
【発明の効果】
【0022】
本発明のインクジェット用水系インク組成物によれば、塩化ビニルメディアに好適に印刷できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のインクジェット用水系インク組成物は、複素環内の窒素原子と当該窒素原子に隣接するカルボニル基とを有する複素環式化合物、樹脂、及び水を含む。
【0024】
(複素環式化合物)
複素環式化合物は、複素環内の窒素原子と当該窒素原子に隣接するカルボニル基とを有するものであれば、任意である。
【0025】
こうした複素環式化合物としては、N-アシルモルホリン、イミダゾリジノン化合物、及びピロリドン化合物などが挙げられる。
【0026】
例えば、N-アシルモルホリンとして、以下の式(I)に示される化合物が挙げられる。
【化1】
(式中、Rは、H、又は、1から18個までのC原子を有するアルキル基であり、
、R、R、及びRは、それぞれ互いに独立して、H、又は、1から18個までのC原子を有する(シクロ)アルキル基である。)
【0027】
が、H、メチル、及びエチルからなる群より選択されてもよい。
【0028】
、R、R、及びRは、それぞれ互いに独立して、H、メチル、エチル、イソプロピル、及びシクロヘキシルからなる群より選択されてもよい。
【0029】
特に、N-アシルモルホリンとして、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン、N-プロピオニルモルホリンが挙げられる。
【0030】
例えば、イミダゾリジノン化合物として、以下の式(II)に示される化合物が挙げられる。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ互いに独立して、H、1から18個までのC原子を有するアルキル基、ヒドロキシアルキル基、又は、アシル基であり、
及びRは、それぞれ互いに独立して、H、又は、1から18個までのC原子を有する(シクロ)アルキル基である。)
【0031】
及びRは、それぞれ互いに独立して、H、メチル、及びエチルからなる群より選択されてもよい。
【0032】
は、H、メチル、エチル、イソプロピル、及びシクロヘキシルからなる群より選択されてもよい。
【0033】
特に、イミダゾリジノン化合物として、2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン、1-アセチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
例えば、ピロリドン化合物として、以下の式(III)に示される化合物が挙げられる。
【化3】
(式中、Rは、H、1から18個までのC原子を有するアルキル基、ヒドロキシアルキル基、又は、アシル基であり、
、R、及びRは、それぞれ互いに独立して、H、又は、1から18個までのC原子を有する(シクロ)アルキル基である。)
【0035】
は、H、メチル、及びエチルからなる群より選択されてもよい。
【0036】
、R、及びRは、それぞれ互いに独立して、H、メチル、エチル、イソプロピル、及びシクロヘキシルからなる群より選択されてもよい。
【0037】
特に、ピロリドン化合物として、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、5-メチル-2-ピロリドン、1-アセチル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、4,4-ペンタメチレン-2-ピロリドンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
複素環式化合物の配合量は、特に限定されないが、インク組成物中、1質量%~50質量%であると好ましく、5質量%~40質量%であるとより好ましく、約10質量%であることが特に好ましい。
【0039】
複素環式化合物の配合量を、インク組成物中、10質量%より多くするときは、インクの吐出の観点から、後述の保湿作用を有する溶剤をインク組成物に配合することが好ましい。
【0040】
(樹脂)
本発明に係る樹脂としては、特に限定されないが、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース、塩ビ酢ビ共重合体樹脂などが挙げられる。これらの中でも、インクの吐出、耐擦性の観点で、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂や塩ビ酢ビ共重合体樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0041】
樹脂の配合量は、特に限定されないが、インク組成物中、0.1質量%~50質量%であると好ましく、0.5~40質量%であるとより好ましく、1~25質量%であると特に好ましい。
【0042】
(保湿作用を有する溶剤)
インク組成物に、保湿作用を有する溶剤をさらに配合してもよい。こうした溶剤の配合により、インク組成物の良好な吐出(例えば、相対的に低い、好ましくは、実質的に零のノズル抜け率)が期待できる。
【0043】
こうした保湿作用を有する溶剤としては、特に限定されないが、ジオール系有機溶剤が好ましい。また、保湿作用を有する溶剤の沸点は、250℃以下であることが好ましい。保湿作用を有する溶剤の沸点が250℃を超えていると、保湿作用を有する溶剤が乾燥後もインク塗膜中に残存し、印刷物の耐エタノール性が悪化するおそれがある。
【0044】
ジオール系有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチルー1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
(沸点250℃以下の有機溶剤)
インク組成物に、沸点250℃以下の有機溶剤をさらに配合してもよい。こうした溶剤の配合により、耐エタノール性の向上が期待できる。有機溶剤の沸点が250℃を超えていると、有機溶剤が乾燥後もインク塗膜中に残存し、印刷物の耐エタノール性が悪化するおそれがある。
【0046】
こうした沸点250℃以下の有機溶剤としては、特に限定されないが、グリコールエーテル系有機溶剤が好ましい。グリコールエーテル系有機溶剤を配合することで、インクの表面張力を低下させ、インク組成物で印刷したときに形成されるドットの径を、グリコールエーテル系有機溶剤を配合しない場合に比べて、より大きくすることができる。
【0047】
グリコールエーテル系有機溶剤としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点210℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点193℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点248℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点133℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点149℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(沸点244℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(沸点151℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点237℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点205℃)、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(沸点229℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(沸点179℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点188℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156℃)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点192℃)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点146℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点247℃)などが挙げられ、特に、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
沸点250℃以下の有機溶剤の配合量は、特に限定されないが、インク組成物中、0.1質量%~40質量%であると好ましく、1~30質量%であるとより好ましく、5~30質量%であると特に好ましい。
【0049】
(表面張力低下成分)
インク組成物に、インクの表面張力を低下させる表面張力低下成分を配合してもよい。こうした成分の配合により、こうした成分を配合しない場合に比べて、インク組成物で印刷したときに形成されるドットの径をより大きくできる。
【0050】
表面張力低下成分は、インクの表面張力を低下させるのであれば任意であり、例えば、界面活性剤などが挙げられる。
【0051】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等)、アセチレングリコール系界面活性剤(例えば、オルフィンY、STG並びにサーフィノール82、104、440、465及び485、何れもAir Products and Chemicals Inc.製)、シリコーン系界面活性剤(BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348、BYK-349、何れもビックケミー・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、インク組成物中、0.01質量%~5質量%であると好ましく、0.05~3質量%であるとより好ましく、0.1~1質量%であると特に好ましい。
【0053】
(他の成分)
本発明の水系インク組成物は、発明を損なわない範囲で、他の成分を含有することができる。他の成分としては、色材、分散剤、可塑剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、香料、顔料誘導体などが挙げられる。
【0054】
本発明の水系インク組成物が、有色のインクの場合には、色材を含有することができる。色材としては、公知の染料及び顔料を用いることができる。中でも、顔料が好ましく、顔料としては、無機顔料や有機顔料が挙げられる。
【0055】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが挙げられる。
【0056】
有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系や、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0057】
本発明の水系インク組成物をシアンインクとする場合には、色材として、BASFジャパン社製のHeliogen Blue、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60などを配合することができる。
【0058】
本発明の水系インク組成物をマゼンタインクとする場合には、色材として、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19などを配合することができる。
【0059】
本発明の水系インク組成物をイエローインクとする場合には、色材として、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、130、138、150、151、154、155、180、185などを配合することができる。
【0060】
本発明の水系インク組成物をブラックインクとする場合には、オリオン・エンジニアドカーボンズ社製のHiBlack890、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF、キャボット社製のモナーク、リーガル、デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス、東海カーボン社製のトーカブラック、コロンビア社製のラヴェンなどを配合することができる。
【0061】
本発明の水系インク組成物中の色材の含有量は、特に限定されないが、インク組成物全量を100重量部としたときに、1~20重量部であると好ましく、1~10重量部であるとより好ましい。
【0062】
色材として顔料を用いる場合には、顔料を分散させるため、水系インク組成物に分散剤を含有させることができる。なお、マイクロカプセル化顔料などの自己分散性顔料を用いる場合は、不要である。
【0063】
分散剤としては、低分子系分散剤や高分子系分散剤が挙げられる。より具体的には、ノニオン系、カチオン系、アニオン系界面活性剤、ポリエステル系高分子分散剤、アクリル系高分子分散剤、ポリウレタン系高分子分散剤などが挙げられる。
【0064】
市販の分散剤としては、日本ルーブリゾール株式会社製の顔料分散剤(ソルスパース 44000、74000、82500、83500、V350、W200、WV 400、J180、39000)、味の素ファインテクノ株式会社製の高分子系顔料分散剤(アジスパーPB821、PB822、PB824、PB881、PN411、PA111)などが挙げられる。
【0065】
本発明の水系インク組成物は、その製造法によっては限定されないが、例えば、色材、有機溶剤、必要により加えるその他の成分を混合し、分散機を用いて混合分散することにより調製することができる。
【0066】
分散機としては、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザー、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル、サンドミルなどの高速回転ミル、攪拌槽型ミルなどの媒体攪拌ミル、ビーズミル、高圧噴射ミル、ディスパーなどが挙げられる。
【0067】
(実施例)
(インクの各成分)
インクの調製にあたっては、以下の材料を使用した。
1.顔料成分
・カーボンブラック分散液(調製法は後述)
・シアン分散液(調製法は後述)
2.樹脂成分
・アクリル樹脂(モビニール6969D、固形分濃度41.8%、ジャパンコーティングレジン社製)
・ウレタン樹脂(タケラックWS-5000、固形分濃度29.9%、三井化学社製)
3.溶剤
(複素環式化合物以外の溶剤)
・プロピレングリコール
・ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル
・グリセリン
(複素環式化合物)
・N-ホルミルモルホリン
・1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン
・1-メチル-2-ピロリドン
4.界面活性剤
・界面活性剤(BYK-349、ビックケミー社製)
5.水
・イオン交換水
【0068】
(カーボンブラック分散液の調製)
HiBlack890(オリオン・エンジニアドカーボンズ社製)225g、ソルスパース44000(ルーブリゾール社製)180g、1,2-ヘキサンジオール15g、水1080gを混合し、ビーズミルを用いて分散することで、カーボンブラック分散液を得た。
【0069】
(シアン分散液の調製)
Heliogen Blue D7088(BASFジャパン社製)225g、ソルスパース44000(ルーブリゾール社製)180g、1,2-ヘキサンジオール15g、水1080gを混合し、ビーズミルを用いて分散することで、シアン分散液を得た。
【0070】
(インクの調製)
カーボンブラック分散液23重量部、アクリル樹脂21.5重量部、プロピレングリコール17.5重量部、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル10.0重量部、N-ホルミルモルホリン10.0重量部、界面活性剤0.7重量部、水17.3重量部をスリーワンモーターにより十分に混合し、インク1を得た。同様に、成分及びその添加量を表1に記載のものに変更して、インク2-18を得た。
【0071】
【表1】
*1:インク1-3、5-18での、アクリル樹脂成分(固形分)の含量は、9重量部である。
*2:インク4での、ウレタン樹脂成分(固形分)の含量は、9重量部である。
【0072】
(印刷)
インク1をインクパックに充填し、JV400-160LX(ミマキエンジニアリング社製)に搭載した。その後、JV400-160LXを用いて、塩化ビニルメディア(PWS-G、ミマキエンジニアリング社製)上に、インク1により、所定の画像(900dpi×900dpi、3cm×15cm、印字率6.25%(ドット径を測定する場合)又は100%(耐擦性試験及び耐エタノール性試験の場合)のベタ画像)を印刷し、印刷物を得た。なお、印刷中のヒータ温度は60℃、プリンタ周囲の環境温度は25℃とした。同様に、インク2-18のいずれかによって所定の画像を印刷した印刷物も製造した。これらの印刷物を用いて、ドット径の測定、耐擦性試験、及び耐エタノール性試験を行った。
【0073】
(ドット径の測定)
印刷物上に形成された5個のドットを光学顕微鏡(VHX-2000、キーエンス社製)で観察し、その直径の相加平均値をドット径として求めた。測定したドット径を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
インク1-3のドット径の比較から、N-ホルミルモルホリンよりもジプロピレングリコールモノプロピルエーテルのほうがドット径をより大きくできることがわかる。
【0076】
この理論に本発明が拘束されることを望むものではないが、N-ホルミルモルホリン及びジプロピレングリコールモノプロピルエーテルのドット径への影響は、表面張力を介したものと推測される。一般的に、インクジェットインクにより形成されるドットの直径は、当該インクの表面張力が小さくなるほど、大きくなることが知られている。また、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルは、N-ホルミルモルホリンよりも、表面張力を低下させる能力が高い。このため、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルの添加により、ドット径が大きくなったと推測される。さらに、この理論からすると、インクの表面張力を低下させる任意の成分をインク中に添加することで、インクのドット径を当該成分を添加していないときよりも大きくできると考えられる。
【0077】
(耐擦性試験)
学振型摩擦試験機(RT-300、大栄科学精器社製)を用いて、摩擦材としてラッピングフィルム#1000(3M社製)を巻き付けた摩擦子に300gfの荷重を掛けた状態で当該摩擦子により各印刷物上の画像を10往復摩擦した。摩擦後の印刷物について、塗膜(画像)の剥がれなかった割合を、残存する塗膜の面積に基づいて、10段階で評価した。例えば、耐擦性6は、摩擦を行った塗膜の面積のうち、約6割が剥がれなかったことを意味する。
耐擦性試験の結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
N-ホルミルモルホリンを含むインク1の耐擦性が、N-ホルミルモルホリンを含まないインク2の耐擦性よりも優れていることから、N-ホルミルモルホリンが耐擦性の向上に寄与することがわかる。また、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを含まないインク3の耐擦性、及び、アクリル樹脂の代わりにウレタン樹脂を含むインク4の耐擦性が、インク1の耐擦性と同程度であることから、表面張力や樹脂成分の種類とは無関係に、N-ホルミルモルホリンの添加のみで、耐擦性を向上させることができることがわかる。
【0080】
同様に、インク14、15と、インク2との比較から、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン及び1-メチル-2-ピロリドンが耐擦性の向上に寄与することがわかる。
【0081】
この理論に本発明が拘束されることを望むものではないが、N-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び1-メチル-2-ピロリドンが有する塩化ビニルへの浸透性により、塩化ビニルメディアへのインク成分(特に、樹脂成分)の浸透が促進されることで、インク塗膜と塩化ビニルメディアとの接着性が高まるため、耐擦性が向上すると推測される。
【0082】
以下に、N-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び1-メチル-2-ピロリドンの構造を、それぞれ、式(a)、(b)、及び(c)として示す。
【0083】
【化4】
【0084】
これらの構造の比較から、塩化ビニルへの浸透性には、複素環内の窒素原子がカルボニル基(-C(=O)-)と隣接する構造が寄与しているのではないかと考えられる。従って、複素環内の窒素原子と当該窒素原子に隣接するカルボニル基とを有する複素環式化合物であれば、N-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び1-メチル-2-ピロリドンと同様に、塩化ビニルへの浸透性を有すると期待される。
【0085】
(耐エタノール性試験)
エタノール(99.5%、富士フィルム和光純薬社製)をイオン交換水で希釈し、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%のエタノールを調製した。その後、10%のエタノールに浸した綿棒で印刷物上の画像の一部を10往復擦り、インクの塗膜が剥がれ落ちるかを観察した。同様の工程を、20%から100%のエタノールについても行った。このとき、工程ごとに異なる画像の部分を擦った。インクの塗膜が剥がれ落ちなかった最大のエタノール濃度をそのインクの耐エタノール性として記録した。耐エタノール性試験の結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
まず、N-ホルミルモルホリンを含むインク1が、N-ホルミルモルホリンを含まない以外は同組成のインク2よりも、耐エタノール性が著しく高いことから、N-ホルミルモルホリンは耐エタノール性を改善することがわかる。特に、N-ホルミルモルホリンを含むものの顔料分散液中の微量の溶剤を除き溶剤を含まないインク12が、溶剤を含むもののN-ホルミルモルホリンを含まないインク2よりも、耐エタノール性が著しく高いことから、N-ホルミルモルホリンは、溶剤と無関係に、耐エタノール性を改善することがわかる。また、5重量部のN-ホルミルモルホリンを含むインク6が、N-ホルミルモルホリンを含まない以外は同様の組成のインク7よりも、耐エタノール性が著しく高いことから、N-ホルミルモルホリンが5重量部という低濃度でも耐エタノール性を劇的に改善することがわかる。さらに、10~50重量部のN-ホルミルモルホリンを含むインク8~11の結果で、N-ホルミルモルホリンの耐エタノール性の改善効果が20重量部の添加で頭打ちとなっていることを合わせると、N-ホルミルモルホリンの耐エタノールの改善効果は20重量部以下の範囲で添加量に依存して又は比例して増加すると推測される。このことから、5重量部未満のN-ホルミルモルホリンでも、添加量に応じた耐エタノール性の改善が見られると期待される。
【0088】
アクリル樹脂を含むインク1が、ウレタン樹脂を含むインク4よりも、耐エタノール性が高いことから、アクリル樹脂は、ウレタン樹脂よりも、耐エタノール性が優れていることがわかる。
【0089】
ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを含むインク1が、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを含まない以外は同組成のインク3よりも、耐エタノール性が高いことから、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルは耐エタノール性に寄与していると考えられる。
【0090】
インク13の耐エタノール性が「0%」とあるのは、インク13では溶剤としてグリセリンを用いているため、今回の印刷条件ではインク13が基材上で乾燥せず、耐エタノール性試験に供すること自体ができなかったことを示す。
【0091】
インク14は、N-ホルミルモルホリンの代わりに1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含む点以外はインク1と同様の組成であり、インク15、16、17、17は、それぞれ、N-ホルミルモルホリンの代わりに1-メチル-2-ピロリドンを含む点以外はインク5、6、11、12と同様の組成である。インク14、15、16、17、18の耐エタノール性は、インク1、5、6、11、12の耐エタノール性と同じであることから、N-ホルミルモルホリンを含むインクについての上述の考察結果は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-2-ピロリドンを含むインクについても該当すると考えられる。
【0092】
この理論に本発明が拘束されることを望むものではないが、N-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-2-ピロリドンが有する塩化ビニルへの浸透性により、塩化ビニルメディアへのインク成分(特に、樹脂成分)の浸透が促進されることで、インク塗膜と塩化ビニルメディアとの接着性が高まるため、耐エタノール性が向上すると推測される。
【0093】
(ノズル抜け率の測定)
インク1をインクパックに充填し、JV400-160LX(ミマキエンジニアリング社製)に搭載した。その後、JV400-160LXを用いて、320個のノズルから5分間間欠的に(3秒吐出後1秒休止を繰り返して)インク1を捨て紙上に吐出した。その後、JV400-160LXを用いて、塩化ビニルメディア(PSW-G、ミマキエンジニアリング社製)上に、インク1により、JV400-160LXに搭載されているテスト作図パターン(幅3mmの線分320本から構成されたパターン)を印刷した。なお、捨て紙及び基材への印刷中のプリントヘッド温度は35℃、プリンタ周囲の環境温度は25℃とした。そして、印刷された画像において、全く印刷されなかった線分及び曲がりのある線分の数を、ノズル抜けの生じたノズルの本数とみなして、ノズル抜け率を、全ノズル本数に対するノズル抜けの生じたノズルの本数の百分率として求めた。同様に、インク2-13についてもノズル抜け率を求めた。ノズル抜け率の結果を表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
まず、グリセリンを用いているためインクの乾燥やそれに伴うノズルのつまりが生じないと考えられるインク13では、予想通り、ノズル抜け率は0%であった。このことから、今回印刷に用いたプリンタにノズルの初期不良がないことが確認された。
【0096】
次に、アクリル樹脂を含むインク1が、ウレタン樹脂を含むインク4よりも、ノズル抜け率が低いことから、アクリル樹脂は、ウレタン樹脂よりも、ノズル抜け率が優れていることがわかる。
【0097】
30重量部のN-ホルミルモルホリンと15重量部のプロピレングリコールを含むインク10が、30重量部のN-ホルミルモルホリンを含むものの顔料分散液中の微量の溶剤を除き溶剤を含まないインク12よりも、ノズル抜け率が著しく低いことから、高濃度のN-ホルミルモルホリンがノズル抜け率を著しく悪化させ、プロピレングリコールがこの悪化を劇的に改善することがわかる。
【0098】
N-ホルミルモルホリンとプロピレングリコールを種々の濃度で含むインク1、3,6、6、8-11の結果から、プロピレングリコールの量を適宜調節することで、ノズル抜け率を実用的な範囲(例えば、10%以下)としつつ、N-ホルミルモルホリンを30重量部まで配合することができることがわかる。また、インク8-10の結果から、N-ホルミルモルホリンに対するプロピレングリコールの重量の割合(プロピレングリコール/N-ホルミルモルホリン)を、少なくとも0.5以上、好ましくは、1.5以上、より好ましくは3以上とすることで、ノズル抜け率を実用的な範囲(例えば、10%以下)とすることができると考えられる。また、このことから、N-ホルミルモルホリンを50重量部配合する場合でも、プロピレングリコールを25重量部以上配合すれば、ノズル抜け率を実用的な範囲(例えば、10%以下)とすることができると期待される。
【0099】
50重量部のN-ホルミルモルホリン及び10重量部のプロピレングリコールを含むインク11と、30重量部のN-ホルミルモルホリンを含むものの顔料分散液中の微量の溶剤を除き溶剤を含まないインク12との結果から、プロピレングリコールを含まないインクにおいてN-ホルミルモルホリンの添加量とノズル抜け率とは概ね比例関係にあると考えられる。従って、N-ホルミルモルホリンの添加量をインク100重量部に対して10重量部以下、より好ましくは、5重量部以下に押さえれば、ノズル抜け率を実用的な範囲(例えば、10%以下)にできるのではないかと推測される。
【0100】
インク14は、N-ホルミルモルホリンの代わりに1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含む点以外はインク1と同様の組成であり、インク15、16、17、18は、それぞれ、N-ホルミルモルホリンの代わりに1-メチル-2-ピロリドンを含む点以外はインク5、6、11、12と同様の組成である。インク14、15、16、17、18のノズル抜け率は、インク1、5、6、11、12のノズル抜け率と同じであることから、N-ホルミルモルホリンを含むインクについての上述の考察結果は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-2-ピロリドンを含むインクについても該当すると考えられる。
【0101】
N-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-2-ピロリドンがノズル抜け率を悪化させる原理は不明であるが、プロピレングリコールがドット抜け率を改善する理由は、プロピレングリコールが保湿作用を有しており、ノズル内又はノズル口周辺でのインクの乾燥及び硬化を防ぐためと考えられる。従って、プロピレングリコール以外にも、保湿作用を有する他の溶剤、例えば、ジオール系溶剤などによっても、ノズル抜け率を改善できると考えられる。また、N-ホルミルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-2-ピロリドンによるノズル抜け率の悪化も、保湿作用を有する溶剤をインクに適量配合することで相殺できると考えられる。但し、以上の理論に本発明が拘束されることを望むものではない。
【0102】
以上の結果をまとめると以下の通りである。
【0103】
N-ホルミルモルホリンをインクジェットインクに配合することで、耐擦性及び耐エタノール性が向上するが、一方、ノズル抜け率は悪化する。
【0104】
N-ホルミルモルホリンによるノズル抜け率の悪化は、保湿作用を有する溶剤をインクに添加することで相殺できる。
【0105】
また、N-ホルミルモルホリンによる耐エタノール性の改善効果は、インク100重量部に対してN-ホルミルモルホリン20重量部の量まで比例的に増加し、その後頭打ちとなるが、N-ホルミルモルホリンによるノズル抜け率の悪化は、少なくとも、インク100重量部に対してN-ホルミルモルホリン50重量部の量まで比例的に増加する。従って、N-ホルミルモルホリンの添加量を十分に少なくすれば(例えば、インク100重量部に対して1重量部~10重量部、より好ましくは、1重量部~5重量部とすれば)、耐エタノール性及びノズル抜け率をともに実用的な範囲(例えば、耐エタノール性40%以上、ノズル抜け率10%以下)とすることができると考えられる。
【0106】
また、N-ホルミルモルホリンと、耐擦性、耐エタノール、及びノズル抜け率との関係は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン又は1-メチル-2-ピロリドンと耐エタノール及びノズル抜け率との関係に適用できると考えられる。
【0107】
また、アクリル樹脂は、耐エタノール性及びノズル抜け率に優れている。
【0108】
さらに、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルは、耐エタノール性を向上させる。