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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ショーツ
(51)【国際特許分類】
   A41B 9/04 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
A41B9/04 G
A41B9/04 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018191244
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059942
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】植田 智也
(72)【発明者】
【氏名】須藤 元喜
【審査官】西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185268(JP,A)
【文献】国際公開第2006/93044(WO,A1)
【文献】特開2013-150769(JP,A)
【文献】特開2011-050683(JP,A)
【文献】登録実用新案第3037440(JP,U)
【文献】特開2003-024385(JP,A)
【文献】特開2008-206795(JP,A)
【文献】特開2000-135233(JP,A)
【文献】特開2011-168904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/04
A41C 1/00-1/04
A61F 5/00-6/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃、後身頃及びクロッチ部を有し、ウエスト開口部と一対のレッグ開口部との間に筒状の胴回り部を有するショーツであって、前記胴回り部は、該胴回り部の周方向に沿って延びる環状の胴回り伸縮領域を有し、前記胴回り伸縮領域は、前記前身頃の横方向中央域に位置する腹部中央領域と、前記後身頃の横方向中央域に位置する背部中央領域と、前記前身頃と前記後身頃との境目およびその近傍に位置する一対の脇部領域と、前記前身頃における前記腹部中央領域の両側に位置し、前記腹部中央領域および前記一対の脇部領域それぞれに挟まれる一対の腸骨領域とを有しており、
前記腹部中央領域、前記腸骨領域、前記背部中央領域及び前記脇部領域は、いずれも、前記胴回り部の周方向に伸縮性を有しており、且つ前記腸骨領域は、前記胴回り部の周方向における戻り応力が、前記腹部中央領域、前記背部中央領域及び前記脇部領域に比して高く、
前記腹部中央領域は、前記胴回り部の周方向における戻り応力が、前記背部中央領域及び前記脇部領域に比して低い、ショーツ。
【請求項2】
前記脇部領域は、前記胴回り部の周方向における戻り応力が、前記背部中央領域に比して低い、請求項1に記載のショーツ。
【請求項3】
前記脇部領域と前記背部中央領域は、前記胴回り部の周方向における戻り応力が等しく、連続する一の領域を形成している、請求項1又は2に記載のショーツ。
【請求項4】
前記ウエスト開口部の開口端に、該開口端に沿う環状のウエスト伸縮領域が形成されており、該ウエスト伸縮領域は、前記ウエスト開口部の全周に亘って等しい戻り応力を有している、請求項1~の何れか1項に記載のショーツ。
【請求項5】
前記胴回り伸縮領域は、丸編み2重構造を有する、請求項1~の何れか1項に記載のショーツ。
【請求項6】
前記胴回り伸縮領域における前記戻り応力が相互に異なる領域は、編組織又は編組織を形成する編糸が相互に異なる、請求項1~の何れか1項に記載のショーツ。
【請求項7】
前記胴回り伸縮領域が、木綿、ナイロン、ポリエステル及びポリウレタンから選択される少なくとも2種以上を繊維素材とする複合繊維から構成されている、請求項1~の何れか1項に記載のショーツ。
【請求項8】
前記胴回り伸縮領域が、消臭効果を有する消臭繊維を含んでいる、請求項1~の何れか1項に記載のショーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショーツに関する。
【背景技術】
【0002】
体型や姿勢を補正する補整下着として、体型を補正するガードルや体型や姿勢を補整するコルセットが知られている。また、特許文献1には、姿勢を補整するための補整下着として、筒状のサポート帯布をショーツ部に取り付けてなる骨盤周りのサポート帯布付きショーツが記載されており、そのサポート帯体においては、腹部、脇部及び腰部を異なる伸長性、緊締力を有する編地組織で形成し、また着用者の背中側の中央域に配される腰部の伸長性を最も低くすることによって該腰部の緊締力を最も高くする一方、脇部及び腹部の緊締力をこの順に弱くしている。同文献によれば、そのサポート帯布付きショーツによれば、着用時に腰部を支持、安定させ、姿勢を補整するとともに腹部を強く圧迫せず、好適な着心地を確保することができるとされている。
【0003】
また特許文献2には、ボトム衣類における着用者のウエストを挿通させる開口部の周縁を形成するテープ部に、低伸度の複数の第1の領域と第1の領域よりも高い伸度を有する第2の領域とから形成される食い込み軽減構造を設けることが記載されている。同文献によれば、このボトム衣類によれば、適切な着圧を維持しつつ、着用者への食い込みを緩和することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-185268号公報
【文献】国際公開2013/046457号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したガードルやコルセットは、体型や姿勢の補整効果を得るためには身体を強く締め付ける必要があった。特許文献1に記載のショーツも、姿勢の補整効果を得るためには、締め付け力を強くする必要があった。
また特許文献2には、適切な着圧を維持しつつ、着用者への食い込みを抑制することができると記載されている一方、姿勢の補整効果があることは記載されていない。
【0006】
本発明は、姿勢の補整効果を有するとともに、締め付け力を感じさせにくいショーツを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、ショーツにおける腹部中央領域と脇部領域との間であって、着用時には着用者の上前腸骨棘及び腸骨稜の前方に位置することになる腸骨領域のみを強く締め付け、その他の領域の締め付け力は、緩みやずれを防止できる程度の比較的低い締め付け力としたショーツが有効であることを見出した。
すなわち、本発明は、前身頃、後身頃及びクロッチ部を有し、ウエスト開口部と一対のレッグ開口部との間に筒状の胴回り部を有するショーツであって、前記胴回り部は、該胴回り部の周方向に沿って延びる環状の胴回り伸縮領域を有し、前記胴回り伸縮領域は、前記前身頃の横方向中央域に位置する腹部中央領域と、前記後身頃の横方向中央域に位置する背部中央領域と、前記前身頃と前記後身頃との境目およびその近傍に位置する一対の脇部領域と、前記前身頃における前記腹部中央領域の両側に位置し、前記腹部中央領域および前記一対の脇部領域それぞれに挟まれる一対の腸骨領域とを有しており、前記腹部中央領域、前記腸骨領域、前記背部中央領域及び前記脇部領域は、いずれも、前記胴回り部の周方向に伸縮性を有しており、且つ前記腸骨領域は、前記胴回り部の周方向における戻り応力が、前記腹部中央領域、前記背部中央領域及び前記脇部領域に比して高い、ショーツを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のショーツは、姿勢の補整効果を有するとともに、締め付け力を感じさせにくく、例えば、通常の下着に近い感覚で日常的に使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明のショーツの一実施形態を前身頃側から見た斜視図である。
図2図2(a)は、図1に示すショーツを、前身頃と後身頃とを重ねた平坦状態として前身頃側から見た正面図、図2(b)は、図1に示すショーツを、前身頃と後身頃とを重ねた平坦状態として後身頃側から見た背面図である。
図3図3は、図1に示すショーツの平坦状態における縦方向模式断面図である。
図4図4は、上前腸骨棘の位置を示す人体図である。
図5図5は、図1の示すショーツの着用状態を、着用者の正面から見た着用状態正面図である。
図6図6は、比較例1として用いたショーツの図1相当図である。
図7図7は、実施例及び比較例1のショーツを着用した際の骨盤角度を示すグラフである。
図8図8は、実施例のショーツを着用した際の睡眠の質について、ピッツバーグ睡眠調査票の項目別に評価した評価結果を示すグラフである。
図9図9は、図8に示すピッツバーグ睡眠調査票の総合得点の結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例のショーツの連続着用(1週間)による気分の変化について、短縮版POMS2を用いて評価した評価結果を示すグラフである。
図11図11は、比較例2として用いたショーツの図1相当図である。
図12図12は、実施例及び比較例2のショーツを着脱した際の日常動作の容易性の評価結果示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のショーツ(以下、単に「ショーツ」ともいう。)を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1ないし図3に示すように、本実施形態のショーツ1は、前身頃2、後身頃3、及びクロッチ部4を有している。本実施形態においては、前身頃2及び後身頃3における、着用者の背丈方向に沿う方向を縦方向X、それと直交する方向を横方向Yという。また、ショーツ1は、ウエスト開口部5と一対のレッグ開口部6,6とを有している。
【0011】
ショーツ1のウエスト開口部5には、その開口端に、該開口端に沿う環状のウエスト伸縮領域51が形成されている。ウエスト伸縮領域51は、所定の幅を有する環状帯の形状をしており、その周方向に沿って伸縮性を有している。またショーツ1の各レッグ開口部6には、その開口端に、フリルやレース等の装飾部材61を取り付けてもよい。
【0012】
ショーツ1は、好ましくは、丸編み機により製造した筒状の編地を、ショーツ1の一枚分の長さに切断し、切断したショーツ一枚分の編地と、クロッチ部4を構成する別の生地とを縫合して製造されたものである。したがって、ショーツ1における前身頃2と後身頃3とは、一枚の連続した編地(生地)から形成されている。すなわち、ショーツ1におけるウエスト開口部5と一対のレッグ開口部6,6との間の筒状の胴回り部7は、前身頃2を形成する編地と後身頃3を形成する編地とが連続した共通の編地から形成されており、該胴回り部7の周方向には、編地どうしを縫合等により接合した接合部が形成されていない。すなわち胴回り部7は、いわゆるシームレスの一体構造となっている。図3に示すように、本実施形態のショーツ1におけるウエスト伸縮領域51は、前身頃2及び後身頃3の他の部分と同一の一枚の連続した編地(生地)から形成されているが、ウエスト伸縮領域51を、胴回り部7の他の部分とは別の編地(生地)で構成することもできる。また、レッグ開口部6の開口端に、前述した装飾部材61に代え又は該装飾部材61とともに、該開口端に沿う環状のレッグ伸縮領域(図示せず)を設けることもできる。その場合のレッグ伸縮領域も、前身頃2及び後身頃3の他の部分とともに一枚の連続した編地(生地)から形成されていても良いし、胴回り部7の他の部分とは別の編地(生地)で構成されていても良い。レッグ伸縮領域は、レッグ開口部6の周方向に沿って伸縮性を有するもので、好ましくは、ウエスト伸縮領域51と同様に、所定の幅を有する環状帯の形状を有する。
【0013】
ショーツ1は、ウエスト開口部5の開口端に形成されるウエスト伸縮領域51、ウエスト開口部の開口端に形成されるレッグ伸縮領域、及び装飾用に付加的に設けられる装飾部材等を除く、胴回り部7の本体部分71が、丸編み機により形成されたシームレスの筒状の編地(生地)から構成されていることが、締め付け感の一層の抑制や、フィット性の向上等の観点から好ましく、前身頃2及び後身頃3それぞれの胴回り部7からクロッチ部4へと延出する部分7a,7bも、本体部分71を構成する筒状の編地(生地)からシームレスで延出する部分から構成されていることが、同様の観点から好ましい。ここでいうシームレスは、縫合以外の方法による生地どうしの接合部も有しないことを意味する。
【0014】
前身頃2と後身頃3との間に介在して配置されたクロッチ部4は、前身頃2及び後身頃3とは別の生地から構成されており、前身頃2及び後身頃3とは接合部41,42によって接合されている。接合部41,42は、例えば縫合等によって形成されている。クロッチ部4は、例えば編地から構成することができる。しかし、これに限られず、織布からクロッチ部4を構成してもよい。クロッチ部4は、伸縮性を有していることが好ましいが、伸縮性を有していなくても良い。
【0015】
ショーツ1は、胴回り部7に、胴回り部7の周方向に沿って延びる環状の胴回り伸縮領域8を有している。胴回り伸縮領域8は、図1に示すように、前身頃2の横方向中央域に位置する腹部中央領域Aと、前身頃2における腹部中央領域Aの両側に位置し、着用時に着用者の上前腸骨棘9及び腸骨稜9aの前方に位置する一対の腸骨領域B,Bと、後身頃3の横方向中央域に位置する背部中央領域Cと、一対の腸骨領域それぞれと背部中央領域Cとの間に位置する一対の脇部領域D,Dとを有している。より具体的には、胴回り伸縮領域8は、腹部中央領域A、一対の腸骨領域B,B、背部中央領域C及び一対の脇部領域D,Dから構成されている。
脇部領域D,Dは、前身頃と前記後身頃との境目およびその近傍に位置する。脇部領域D,Dは、ショーツの周方向に引っ張り力を加えない自然状態において、該ショーツを前身頃を上面に、且つ後身頃を底面にして平面に置いたとき、前身頃と後身頃との間に生じる折り目部分の近傍、すなわち、前身頃と後身頃との境目を含む領域である。
【0016】
ショーツ1における、腹部中央領域A、一対の腸骨領域B,B、背部中央領域C及び一対の脇部領域D,Dは、いずれも、胴回り部7の周方向に伸縮性を有している。なお、腹部中央領域A、一対の腸骨領域B,B、背部中央領域C及び一対の脇部領域D,Dは、丸編み機等により形成されたシームレスの筒状の編地(生地)から構成されていることが、締め付け感の一層の抑制や、フィット性の向上等の観点から好ましい。
腹部中央領域Aは、図1及び図2(a)に示すように、前身頃2の横方向Yの中央域に形成されている。腹部中央領域Aは、前身頃2の横方向Yに伸縮性を有しており、好ましくは前身頃2の縦方向X及び横方向Yに伸縮性を有している。前身頃2の横方向Y及び後身頃3の横方向Yは、それぞれ、胴回り部の周方向と一致している。
一対の腸骨領域B,Bは、図1及び図2(a)に示すように、前身頃2における腹部中央領域Aの両側に、それぞれ腹部中央領域Aに隣接した状態に形成されている。腸骨領域Bも、前身頃2の横方向Yに伸縮性を有しており、好ましくは前身頃2の縦方向X及び横方向Yに伸縮性を有している。腸骨領域Bは、図5に示すように、ショーツ1の着用時に、着用者の上前腸骨棘9及び腸骨稜9aの前方に位置する。上前腸骨棘及び腸骨稜は、解剖学の用語である。図4に示すように、腸骨は、寛骨臼の上部を作る腸骨体とそれより上方において扇状に拡がる腸骨翼とを有し、その腸骨翼の上縁が腸骨稜9aである。上前腸骨棘9は、腸骨稜9aの前方下部にある突起である。
【0017】
背部中央領域Cは、図1及び図2(b)に示すように、後身頃3の横方向Yの中央域に形成されている。背部中央領域Cは、後身頃3の横方向Yに伸縮性を有しており、好ましくは後身頃3の縦方向X及び横方向Yに伸縮性を有している。
一対の脇部領域D,Dは、それぞれ、図1図2(a)及び図2(b)に示すように、胴回り部7の周方向において、腸骨領域B及び背部中央領域Cとの間に、腸骨領域B及び背部中央領域Cと隣接した状態に形成されている。ショーツ1における脇部領域Dは、平坦状態のショーツ1において、前身頃2側に位置する部分D1と後身頃3側に位置する部分D2とを有している。脇部領域Dは、前身頃2及び後身頃3の横方向Yに伸縮性を有しており、好ましくは前身頃2及び後身頃3の縦方向X及び横方向Yに伸縮性を有している。平坦状態とは、ショーツを、前身頃と後身頃とを重ねて、自然に収縮させた状態である。
【0018】
本実施形態のショーツ1の胴回り伸縮領域8における腹部中央領域A、腸骨領域B、背部中央領域C及び脇部領域Dは、いずれも胴回り部の周方向に伸縮性を有する点では共通するが、腸骨領域Bは、胴回り部7の周方向における戻り応力が、腹部中央領域A、背部中央領域C及び脇部領域Dに比して高く、腸骨領域Bの戻り応力をPb、腹部中央領域Aの戻り応力をPa、背部中央領域Cの戻り応力をPc、脇部領域Dの戻り応力をPdとしたときに以下の関係式(1)~(3)の全てを満たしている。
(1)Pb>Pa
(2)Pb>Pc
(3)Pb>Pd
【0019】
着用者Mが、ショーツ1を装着する際には、胴回り伸縮領域8は、その全体が周方向に引き伸ばされるが、胴回り伸縮領域8に戻り応力が異なる複数の部位が存在すると、ショーツ1の着用中には、胴回り伸縮領域8における戻り応力が高い部位ほど、装着圧が高くなり、着用者の肌に強く当たる。本実施形態のショーツ1の胴回り伸縮領域8における腸骨領域Bは、胴回り部7の周方向に伸縮性を有するとともに、着用時に、着用者の上前腸骨棘9及び腸骨稜9aの前方に位置する領域であるため、腸骨領域Bの戻り応力を、胴回り伸縮領域8の他の領域である腹部中央領域A、背部中央領域C及び脇部領域Dに比して高くすることにより、ショーツ1の着用中には、腸骨領域Bが、変形しながら、着用者の上前腸骨棘9及び腸骨稜9aを有する部位に強く当接し、着用者Mの骨盤が安定に保持される。これに加え、本発明者らは、腸骨領域Bの戻り応力を、腹部中央領域A、背部中央領域C及び脇部領域Dに比して高くすることで、骨盤が着用者の前方に過度に傾く骨盤過前傾を改善できることを知見し、本発明を完成した。
【0020】
本実施形態のショーツ1によれば、上記の作用により、着用時に腸骨領域Bから脇部領域Dを経て背部中央領域Cへ至る広範囲の加圧で骨盤をサポートするため、姿勢の補整効果が得られる。ここでいう姿勢の補整効果としては、例えば歩行時の姿勢が良くなることが挙げられる。歩行時の姿勢が良くなることは、健康状態の改善や増進、見た目の美しさの向上等の効果が期待できる。
しかも、胴回り伸縮領域8が、一対の腸骨領域B間に、腸骨領域Bよりも戻り応力が低い腹部中央領域Aを有する上に、概ね着用者の胴部の側部に配される部位に、腸骨領域Bよりも戻り応力が低い脇部領域Dを有し、更に、背部中央領域Cの戻り応力も腸骨領域Bに比して低いため、従来の補整下着に比して、着用者を締め付ける程度を大幅に低減することができ、腹部に圧迫感がない楽な着用感が得られる。すなわち、姿勢の補整効果が得られるにも拘わらず、着用者に、締め付け力を感じさせにくく、通常の下着と同様の感覚で日常的に使用することも可能となる。更に、姿勢の補整効果を得つつも着用者の締め付け力を低減できるため、ショーツ1の着脱動作も容易である。例えば、ショーツ1を装着する際の腰部までの引き上げや、ショーツ1を脱ぐ際の引き下げ等の動作を容易且つスムーズに行うことができる。
【0021】
なお、ショーツ1は、その着用時に、ウエスト伸縮領域51が、着用者の腸骨稜9aより上方に位置するように構成されており、また、着用時に、一対の腸骨領域Bは、それぞれ、上前腸骨棘9及び腸骨稜9aを一体的に覆うように各部の寸法や戻り応力などが設定されており、且つ、腸骨領域Bは、上前腸骨棘9及び腸骨稜9aを覆った状態において、上前腸骨棘9より上方に位置する部分と腸骨稜9aより下方に位置する部分の両方を有するように、上下方向に充分な幅を有している。
【0022】
戻り応力は、伸長後の収縮力に対する抵抗性、すなわち着用圧を示す指標である。
腹部中央領域A、腸骨領域B、背部中央領域C及び脇部領域Dの戻り応力の高低は、下記〔戻り応力(N)の測定方法〕により測定した、戻り応力(N)値を比較することにより決定することができる。下記〔戻り応力(N)の測定方法〕においては、収縮過程における戻り応力を求めるが、前述の関係式(1)~(3)の全てを満たしていればよい。
【0023】
〔戻り応力(N)の測定方法〕
収縮状態(自然状態)のショーツの胴回り伸縮領域の腹部中央領域A、腸骨領域B、背部中央領域C及び脇部領域Dのそれぞれから縦方向Xの長さ50mm、胴回り部の周方向と一致する横方向Yの長さ30mmの寸法の測定片を切り出す。各測定片について、胴回り部の周方向に相当する測定片の短手方向を伸長方向に一致させて、テンシロン引張試験機(オリエンテック(株)製「UCT-100W」)の上下のチャック間に、チャック間距離を10mmとしてセットする。そして、チャック間距離を、測定片の初期長(自然長)である10mmから40mmまで、300mm/秒の速度で増大させ、次いで、チャック間距離を、300mm/秒の速度で40mmから10mmまで減少させる伸縮過程の応力を測定する。この伸縮過程は、チャック間距離を40mmまで増大させる伸長過程と、該伸長過程後にチャック間距離を10mmに減少させる収縮過程とを有する。この伸縮過程におけるS-S曲線(応力-歪曲線)から、収縮過程の2.4倍伸長時の応力を求め、これを戻り応力とする。2.4倍伸長時の応力は、収縮過程における初期長(10mm)の2.4倍に伸長させた時点の応力であり、「2.4倍に伸長させた時点」とは、チャック間距離が24mmの時点である。
【0024】
戻り応力を、収縮過程における「2.4倍伸長時」の応力とした理由は、ショーツ1を、周囲長89cmの円筒体モデルに装着した際、図2に示す平坦状態のショーツの収縮状態における1cmの直線が2.4cmに伸長したことにより決定した。この円筒体モデルの腸骨棘の位置における周囲長89cmは、人間生活工学研究センター発行の「日本人の人体寸法データブック2004-2006」に記載の、50代~70代の成人女性のヒップ周囲中央値(補助板なし)を基準とした。
【0025】
腹部中央領域Aは、戻り応力が背部中央領域Cに比して低いことが好ましい。すなわち、腸骨領域Bの戻り応力をPb、腹部中央領域Aの戻り応力をPa、背部中央領域Cの戻り応力をPcとしたときに、下記の関係式(4)を満たすことが好ましい。
(4)Pb>Pc>Pa
前記関係式(4)を満たすことにより、腹部中央領域Aの装着圧を背部中央領域Cの装着圧より低くすることとなり、着用者を締め付ける程度を低減する、締め付け低減効果を向上させる。また、腸骨領域Bの装着圧を腹部中央領域A及び背部中央領域Cよりも高くすることで、姿勢の補整効果が向上すると共に、日常的に姿勢を意識することができる。また、着用時の着心地、前記締め付け低減効果の観点から、前記関係式(1)~(4)を満たしていることがより好ましい。
【0026】
腹部中央領域Aは、戻り応力が背部中央領域C及び脇部領域Dに比して低いことが好ましい。すなわち、腸骨領域Bの戻り応力をPb、腹部中央領域Aの戻り応力をPa、背部中央領域Cの戻り応力をPc、脇部領域Dの戻り応力をPdとしたとき、前記関係式(4)と共に、下記の関係式(5)の関係を満たすことが好ましい。斯かる構成により、腹部中央領域Aの装着圧を、背部中央領域Cの装着圧及び脇部領域Dの装着圧より低くすることで、前記締め付け低減効果が向上する。
(5)Pb>Pd>Pa
【0027】
ショーツ1の上述した効果は、脇部領域Dと背部中央領域Cとで、脇部領域Dの戻り応力が背部中央領域Cに比して高い場合、脇部領域Dの戻り応力が背部中央領域Cに比して低い場合、及び脇部領域Dと背部中央領域Cとで戻り応力が等しい場合のいずれでも奏されるが、本実施形態のショーツ1においては、脇部領域Dの戻り応力を背部中央領域Cに比して低くしてある。ショーツ1において、脇部領域Dの戻り応力を背部中央領域Cに比して低くすることは、腸骨領域Bによる前述の骨盤過前傾改善のような姿勢の補整効果を得つつも、一対の腸骨領域Bそれぞれと背部中央領域Cとの間に装着圧が低い脇部領域Dを設けて腸骨領域Bよりも装着圧が低い領域の面積割合を高め、締め付け感を一層感じにくくする観点、あるいは、着脱動作をより容易にする観点から好ましい。
【0028】
脇部領域Dは、胴回り部の周方向における戻り応力が、背部中央領域Cに比して低いことが好ましく、腸骨領域Bの戻り応力をPb、腹部中央領域Aの戻り応力をPa、背部中央領域Cの戻り応力をPc、脇部領域Dの戻り応力をPdとしたとき、下記の関係式(6)の関係を満たすことがより好ましい。斯かる構成により、着用時の着心地、前記締め付け低減効果が向上する。
(6)Pb>Pc>Pd>Pa
【0029】
脇部領域Dと背部中央領域Cとは、戻り応力が等しくても良く、更に、脇部領域Dと背部中央領域Cとで、それぞれの構成に全く差がなくても良い。すなわち、脇部領域Dと背部中央領域Cとは、構成に全く差のない連続する一の領域を形成していても良い。
【0030】
前述した通り、ショーツ1のウエスト開口部5の開口端に、該開口端に沿う環状のウエスト伸縮領域51が形成されているところ、そのウエスト伸縮領域51は、ウエスト開口部5の全周に亘って等しい戻り応力を有している。
胴回り伸縮領域8には、戻り応力が異なる複数の領域A~Dを形成する一方、ウエスト伸縮領域51は、全周に亘って等しい戻り応力とすることにより、着用時の贅肉のはみ出しを抑制し、シルエットに響くことを抑制する。ここで、ウエスト伸縮領域51が全周に亘って等しい戻り応力を有するか否かは、以下の方法により判定する。 先ず、ウエスト伸縮領域51における前身頃2の横方向Yの中央部分、後身頃3の横方向Yの中央部分、及び脇部領域Dと横方向Yに重なる領域の該横方向Yの中央部分それぞれから、前述の〔戻り応力(N)の測定方法〕と同様にして測定片を切り出して、切り出したそれぞれの測定片について前述の「戻り応力」を測定する。ここで、ウエスト伸縮領域51の縦方向Xの長さが50mmに満たない場合は、縦方向Xの長さが最大となるように測定片を切り出す。
ウエスト伸縮領域51の戻り応力は、好ましくは1.0N以上3.0N以下である。
【0031】
本実施形態のショーツ1の胴回り伸縮領域8は、図3に示すように、丸編み2重構造を有する。より具体的には、図3に示すように、丸編み機で製造した筒状の編地の一端から所定幅の領域が、当該編地の内面側に折り返され、折り返された所定幅の領域の先端部分が、縫合による接合部74,75で、折り返されていない部分に接合されることによって、丸編み機によって製造された筒状の編地が2重構造となっている丸編み2重構造の胴回り伸縮領域8が形成されている。丸編み2重構造の胴回り伸縮領域8は、腹部中央領域A、腸骨領域B、背部中央領域C及び脇部領域Dの各領域において、2重に重なる編地のそれぞれが、他の領域とは異なる編組織を有することによって、他の領域とは戻り応力が異なる領域となっていることが好ましい。
胴回り伸縮領域8が丸編み2重構造を有することで、保温性を向上させることができ、腰の冷え対策にもなり得る。
【0032】
上述したショーツ1の効果の一又は二以上が一層確実に奏されるようにする観点から、胴回り伸縮領域8は、以下の構成を有することが好ましい。
腸骨領域Bの戻り応力Pbは、好ましくは6.0N以上であり、また好ましくは18.0N以下である。
腹部中央領域Aの戻り応力Paは、好ましくは2.0N以上であり、また好ましくは8.0N以下である。
腹部中央領域Aの戻り応力Paは、腸骨領域Bに比して小さいことを前提として、腸骨領域Bの戻り応力Pbとの差が、好ましくは2.0N以上、より好ましくは3.0N以上であり、また好ましくは8.0N以下、より好ましくは5.0N以下である。
【0033】
背部中央領域Cの戻り応力Pcは好ましくは5.0N以上であり、また好ましくは15.0N以下である。
背部中央領域Cの戻り応力Pcは、腸骨領域Bに比して小さいことを前提として、腸骨領域Bの戻り応力Pbとの差が、好ましくは0.8N以上、より好ましくは1.0N以上であり、また好ましくは3.0N以下、より好ましくは2.0N以下である。
【0034】
脇部領域Dの戻り応力Pdは好ましくは4.0N以上であり、また好ましくは10.0N以下である。
また脇部領域Dの戻り応力Pdを背部中央領域Cの戻り応力Pcよりも低くする場合、脇部領域Dの戻り応力Pdは、背部中央領域Cよりも小さいことを前提として、背部中央領域Cの戻り応力Pcとの差が、好ましくは0.3N以上、より好ましくは0.5N以上であり、また好ましくは2.0N以下、より好ましくは1.5N以下である。
腹部中央領域Aは、胴回り伸縮領域の他のいずれの領域よりも戻り応力が低いことが好ましい。腹部中央領域Aの戻り応力Paは、脇部領域D及び背部中央領域Cのいずれよりも小さいことを前提として、脇部領域D及び背部中央領域Cのうちの戻り応力が低い方との差が、好ましくは1.0N以上、より好ましくは1.3N以上であり、また好ましくは3.0N以下、より好ましくは2.5N以下である。
【0035】
腸骨領域Bを、首尾よく着用者の上前腸骨棘及び腸骨稜の前方に位置させる観点から、以下の一又は二以上の構成を具備することが好ましい。なお、特に説明しない場合の寸法は、図2に示す平坦状態のようにショーツの収縮状態における寸法である。
(i)腸骨領域Bは、図2(a)に示すように、胴回り伸縮領域8の縦方向Xの全長に亘っていることが好ましい。
(ii)胴回り伸縮領域8、特に腸骨領域Bの縦方向Xの長さL8は、胴回り部7の縦方向Xの長さL7に対して、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であり、また好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。
(iii)胴回り伸縮領域8、特に腸骨領域Bの縦方向Xの長さL8は、好ましくは50mm以上、より好ましくは55mm以上、さらに好ましくは60mm以上であり、また好ましくは70mm以下、より好ましくは65mm以下であり、また好ましくは50mm以上70mm以下、より好ましくは55mm以上65mm以下である。
(iv)ウエスト開口部の開口端5aから腸骨領域Bの縦方向Xの中心位置8cまでの距離Lcは、胴回り部7の縦方向Xの長さL7に対して、好ましくは25%以上40%以下、より好ましくは30%以上35%以下である。
(v)ウエスト開口部の開口端5aから腸骨領域Bの縦方向Xの中心位置8cまでの距離Lcは、ショーツの縦方向の長さLに対して、好ましくは15%以上30%以下、より好ましくは20%以上25%以下である。
【0036】
腸骨領域Bを、首尾よく着用者の上前腸骨棘及び腸骨稜の前方に位置させる観点及び、腸骨領域Bが胴回り伸縮領域8に占める割合を適度に抑制して、姿勢の補整機能の維持と締め付け力の抑制とを両立させる観点から、腸骨領域Bの胴回り部7の周方向の長さwbは、胴回り部7の周方向の全長(2w)の好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは8.5%以上であり、また好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは9.5%以下であり、また好ましくは5%以上10%以下、より好ましくは8%以上10%以下、さらに好ましくは8.5%以上9.5%以下である。胴回り部7の周方向の全長(2w)は、平坦状態のショーツ1における前身頃2側の部分の長さWと後身頃3側の部分の横方向の長さWの合計である。
同様の観点から、腸骨領域Bの胴回り部7の周方向の前記長さwbは、好ましくは35mm以上、より好ましくは40mm以上であり、また好ましくは55mm以下、より好ましくは50mm以下であり、また好ましくは35mm以上50mm以下、より好ましくは40mm以上45mm以下である。
以下、胴回り部7の周方向を単に「周方向」ともいう。
【0037】
また同様の観点から、ショーツ1を周長89cmの変形しない円筒体に、ウエスト開口部から挿入し、胴回り伸縮領域8を、該円筒体の外周面上に位置させた状態(以下、「疑似着用状態」ともいう。)において、胴回り伸縮領域8は、腸骨領域Bの周方向の前記長さwbが、前記円筒体の周長(89cm)の好ましくは6%以上、より好ましくは10%以上であり、また好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下であり、また好ましくは6%以上20%以下、より好ましくは10%以上15%以下である。
なお、前記疑似着用状態における円筒体の周長(89cm)は、前述の円筒体モデルの腸骨棘の位置における周囲長(89cm)に合わせている。
また同様の観点から、前記疑似着用状態において、腸骨領域Bは、上端aにおける周方向の長さと下端bにおける周方向の長さとの差が小さいことが好ましく、上端aにおける長さと下端bにおける長さとの差(絶対値)が、周方向の長さが長い方の長さの95%以内であることが好ましく、より好ましくは90%以内であり、更に好ましくは85%以内である。
なお、胴回り伸縮領域8の各領域A~Dの胴回り部の周方向の長さが、ウエスト開口部側の上端aとクロッチ部側の下端bとで相違する場合、上端と下端との中間位置における周方向の長さを、各領域A~Dの胴回り部の周方向の長さとする。
【0038】
同様の観点から、平坦状態のショーツ1において、脇部領域Dは、前身頃2側に位置する部分D1と後身頃3側に位置する部分D2とを有していることが好ましく、脇部領域Dの前身頃2側に位置する部分D1の長さwd1が、平坦状態のショーツ1における前身頃2側の部分の長さWに対して、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0039】
姿勢の補整機能の維持と締め付け力の抑制とを両立させる観点から、腹部中央領域Aの胴回り部7の周方向の長さwaは、胴回り部7の周方向の全長(2w)の好ましくは7%以上、より好ましくは8%以上であり、また好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下である。また、前記の疑似着用状態において、腹部中央領域Aは、胴回り部7の周方向の長さwaが、前記円筒体の周長(89cm)の好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、また好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下であり、また好ましくは15%以上35%以下、より好ましくは25%以上30%以下である。
【0040】
同様の観点から、背部中央領域C及び脇部領域Dの胴回り部7の周方向における合計長さ(wc+wd1+wd2)は、胴回り部7の周方向の全長(2w)の好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上であり、また好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下であり、また好ましくは40%以上50%以下、より好ましくは45%以上50%以下である。また、前記の疑似着用状態において、背部中央領域C及び脇部領域Dは、胴回り部7の周方向における合計長さ(wc+wd1+wd2)が、前記円筒体の周長(89cm)の好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上であり、また好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下であり、また好ましくは45%以上55%以下である。
【0041】
また背部中央領域Cと脇部領域Dとで戻り応力を異ならせる場合、一対の脇部領域Dは、胴回り部7の周方向の長さ(wd1+wd2)が、胴回り部7の周方向の全長(2w)の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上であり、また好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。
また背部中央領域Cは、胴回り部7の周方向の長さwcが、胴回り部7の周方向の全長(2w)の好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、また好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下である。また、前記の疑似着用状態において、背部中央領域Cは、胴回り部7の周方向の長さwcが、前記円筒体の周長(89cm)の好ましくは23%以上、より好ましくは25%以上であり、また好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下であり、また好ましくは25%以上30%以下である。
【0042】
本実施形態のショーツ1においては、胴回り伸縮領域8における腹部中央領域A、腸骨領域B、背部中央領域C及び脇部領域D、並びにウエスト伸縮領域51は、一枚の連続した編地から構成されている一方、各領域における編組織を互いに異ならせることによって、前述した戻り応力や伸縮性を相互に異ならせてある。したがって、胴回り伸縮領域8における腹部中央領域A、腸骨領域B、背部中央領域C及び脇部領域D、並びにウエスト伸縮領域51については、それぞれを構成する編組織の間に縫合部などを初めとする接合部は存在していない。また、各領域は、平編、ゴム編、パール編、フロート編、両畦編、片畦編などの編組織によって形成することができるが、戻り応力が高い領域とするには、糸として太番手のものを用いたり、弾性率の高い糸を用いたり、使用する糸の本数を多くしたりする、等の手法を採用することができる。他方、戻り応力が低い領域とするためには、糸として細番手のものを用いたり、弾性率の低い糸を用いたり、使用する糸の本数を少なくしたりする、等の手法を採用することができる。
このように胴回り伸縮領域8における戻り応力が異なる領域間では、編組織(編み方)又は編組織を形成する編糸が互いに異なっていることが好ましい。斯かる構成は、領域間の境界部に剛性が高い部位が生じることを抑制して、締め付け感の一層の抑制やフィット性の一層の向上を図る観点から、好ましい。この場合、編組織(編み方)又は編組織を形成する編糸が互いに異なっているという表現には、編組織が同じであるが編糸が異なっている場合、編糸が同じであるが編組織が異なっている場合、並びに編組織及び編糸の双方が異なっている場合が含まれる。編糸が異なっているとは、編糸の太さ、編糸の弾性率、編糸の繊維の本数(編糸の断面に現れる本数)等が異なっていることであり、これらの1又は2以上が異なっている場合を含む。
【0043】
また、ショーツ1は、胴回り部7が、木綿、ポリエステル、レーヨン、ウール、ナイロン、アクリル、シルク、テンセル及びポリウレタンから選択される、少なくとも2種以上を繊維素材とする複合繊維から構成されていることが好ましく、胴回り伸縮領域8が、斯かる複合繊維から構成されていることがより好ましい。斯かる複合繊維を用いることにより、伸縮性を保ちながら風合い、吸水性、吸湿性が付与できる。特に、胴回り伸縮領域8に斯かる複合繊維を用いることは、高い伸縮性が付与できるという利点がある。
斯かる複合繊維の例としては、ポリウレタン等からなる弾性糸に木綿を巻きつけた複合繊維が挙げられる。なお、ポリエステルとしては、衣料用繊維としての扱いやすさからポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0044】
また、ショーツ1は、その構成繊維として、消臭効果を有する消臭繊維を含んでいることが好ましい。前記消臭繊維を含むことで、汗、皮脂に由来する加齢臭として含まれるノネナール、イソ吉草酸等の不快臭成分に対する対策及び少量の失禁対策にもなりうる。消臭繊維を含む部位は、特に限定されるものではないが、着用者の肌に密着する胴回り伸縮領域8を含む胴回り部7、特に胴回り伸縮領域8、及びクロッチ部4が、斯かる消臭繊維を含んでいることが、上記の効果が一層効率よく得られる観点からより好ましい。消臭効果を有する消臭繊維としては、斯かる効果を有する公知の繊維を特に制限なく用いることができ、例えば、カテキン、フタロシアニン等のアンモニア臭に対して消臭性能を有する消臭成分を、塗布、スプレー等の任意の方法で表面に付着させた繊維、斯かる消臭成分を原料樹脂中に練り込んだ繊維等を用いることができる。これらの中でも、デオセル繊維を用いることが、コスト、工業化、機能性の点から好ましい。上記の他にアンモニア臭に対して消臭性能を有する消臭成分としては、例えば、銀、銅、活性炭等が挙げられ、これら消臭成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態のショーツ1は、ウエスト開口部の開口端に、戻り応力が周方向に亘るウエスト伸縮領域51を胴回り伸縮領域8とは別に有するものであったが、ウエスト伸縮領域51がなく、胴回り伸縮領域8が、ウエスト開口部の開口端に達していても良い。また胴回り伸縮領域8は、1層の編地から形成されていても良い。また前記実施形態のショーツ1は、そのレッグ開口部6の開口端が、着用者の大腿部の付け根付近に位置する形状のものであるが、これに代えて、レッグ開口部6の開口端が着用者の大腿部の付け根よりも下方に位置する、いわゆる一分丈と呼ばれる形状にしてもよい。また前記実施形態のクロッチ部4は、図3に示すように、二重構造であったが、これに代えて、単層構造であってもよい。
【実施例
【0046】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何ら制限されるものではない。
〔実施例〕
図1図3に示す構造のショーツを製造した。
胴回り伸縮領域8の各領域A~Dの寸法及び戻り応力は、以下の通りとした。脇部領域Dなど左右にある部位の寸法は片側のみの値を示す。
実施例及び後述する比較例に関し「戻り応力」は前記の通りである。
〔収縮状態(自然状態)の胴回り部の周方向の寸法〕
腹部中央領域A:130mm
腸骨領域B :40mm
背部中央領域C: 150mm
脇部領域D : 150mm
〔疑似着用状態の胴回り部の周方向の寸法〕
腹部中央領域A:250mm
腸骨領域B :90mm
背部中央領域C:250mm
脇部領域D :100mm
〔戻り応力〕
腹部中央領域Pa:戻り応力2.75N
腸骨領域 Pb:戻り応力6.60N
背部中央領域Pc:戻り応力5.25N
脇部領域 Pd:戻り応力4.38N
戻り応力の大小関係:Pb>Pc>Pd>Pa
【0047】
〔比較例1〕
実施例のショーツにおける胴回り伸縮領域8の構成を変更した図6に示すショーツを製造した。比較例1のショーツは、胴回り伸縮領域8において戻り応力が均一である。胴回り伸縮領域8の各領域の寸法及び戻り応力は、以下の通りとした。
〔収縮状態(自然状態)の胴回り部の周方向の寸法〕
前身頃側の部分の長さ: 340mm
後身頃側の部分の長さ: 340mm
〔疑似着用状態の胴回り部の周方向の寸法〕
前身頃側の部分の長さ: 450mm
後身頃側の部分の長さ: 440mm
〔戻り応力〕
腹部中央領域Pa:戻り応力1.875N
腸骨領域 Pb:戻り応力1.875N
背部中央領域Pc:戻り応力1.875N
脇部領域 Pd:戻り応力1.875N
戻り応力の大小関係:Pa=Pb=Pc=Pd
【0048】
〔評価〕
実施例及び比較例1のショーツについて、1.姿勢の補整性能を評価、2.立位時の着用感、3.ショーツの連続着用による効果を検証した。
【0049】
1.姿勢の補整性能
〔試験方法〕
実施例および比較例1のショーツを交互に直履きした状態において、3次元動作解析装置(VICON社製)を用いて、身体に装着したマーカー位置から骨盤角度を算出し、骨盤への影響を検証した。具体的には、実施例又は比較例1のショーツを履いた被験者の右上前腸骨棘、右上前腸骨棘、仙骨上にマーカーを取り付けて、該マーカーの座標を100Hzで計測し、被験者の骨盤角度を算出した。骨盤角度は、被験者の右上前腸骨棘、左上前腸骨棘、仙骨を頂点とする三角形を骨盤平面と定義されるHelen Hayes法を用い、該骨盤平面の実験室座標系に対する角度を骨盤角度として測定した。その結果を図7に示す。図7には、実施例の骨盤角度と比較例1の骨盤角度との統計的な差を、対応のあるt-検定によって確認した結果も併せて示してある。
【0050】
2.立位時の着用感の聴取
実施例および比較例1のショーツを交互に直履きした着用者(被験者)から、立位時の着用感を聴取した。この際、60代~70代の女性26名を被験者とした。立位時の着用感の一覧を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
3.ショーツの連続着用による効果の検証
比較対照品のショーツと実施例のショーツとを1週間交互に連続着用し、各ショーツの着用期間における睡眠状況を評価した。比較対照品のショーツとして、被験者が普段使用しているショーツを用いた。本評価において、50代~70代の女性60名を被験者とした。本評価は、ピッツバーグ睡眠調査票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)(土井由利子ら. ピッツバーグ睡眠質問票日本語版の作成. 精神科治療学 13, 755-763, 1998)により評価した。PSQIの各評価項目の結果を図8に、PSQIの総合得点の結果を図9に示す。図8及び図9に示す評価結果において、比較対照品のショーツの着用期間及び実施例のショーツの着用期間の2群間の有意差の確認はt-検定(対応あり)を用いた。PSQIは、その得点が高いほど睡眠が障害されていることを示す。
【0053】
前記睡眠状況の評価と併せて、各ショーツの着用期間における気分の変化を評価した。本評価の心理指標として、POMS2日本語版成人用短縮版(Profile of Mood States 2)(POMS2日本語版マニュアル 横山和仁監訳 渡邊一久協力 金子書房2015発行)を用いて、着用期間の1週間を経過した時点の得点から、着用期間初日の得点を減算した得点差を評価結果とした。前記得点差の数値が大きいほど、即ち前記得点差の数値が+側であるほど、怒り-敵意、混乱-当惑、抑うつ-落込み、疲労-無気力、緊張-不安の気分の改善がなかったことを示す(活気の項目は逆)。この評価結果を図10に示す。図10に示す評価結果において、ふだんのショーツの着用期間及び実施例のショーツの期間の2群間の有意差の確認はt-検定(対応あり)を用いた。
また、着用期間初日及び着用期間の1週間を経過した時点における、実施例のショーツの着用感について聴取した。着用感の一覧を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
〔評価結果〕
1.姿勢の補整性能
図7に示すように、胴回り部における腸骨領域Bの戻り応力を高めた実施例のショーツと、胴回り部の戻り応力が均一の比較例1のショーツとの骨盤角度に差が見られた。骨盤角度は、プラスであるほど骨盤がより後傾していることを示しており、マイナスであるほど骨盤がより前傾していることを示している。比較例1のショーツでは、実施例のショーツを着用した時に比して、骨盤がより前傾していた。このような結果から、実施例のショーツは比較例のショーツに比して、過度な骨盤前傾を補正し、骨盤角度の補整性能が高いことが判る。
【0056】
2.立位時の着用感の聴取
表1より、実施例のショーツでは、良好なフィット感が得られた意見と共に、「姿勢を意識する」、「背が伸びる気がする」「背中がピッとする」などの意見が上がった。これらの意見より、適度な腸骨部位への加圧(装着圧)で姿勢を意識できる可能性が示唆された。
【0057】
3.ショーツの連続着用による効果の検証
図8及び図9に示すように、睡眠の質、日中覚醒困難、睡眠困難、及びPSQIの合計得点について、実施例のショーツの着用期間では、比較対照品のショーツの着用期間よりも有意に得点が低かった。即ち、実施例のショーツの着用期間では、比較対照品のショーツの着用期間よりも質の良い睡眠が取れていた。このように睡眠の質が向上したのは、実施例のショーツが締め付け力を感じさせにくいことに起因するものと考えられる。
【0058】
図10に示すように、抑うつ-落ち込みの項目(質問内容:悲しい、希望がもてない、自分はみじめだ、自分では何もできない、自分は価値がない人間だ)については、実施例のショーツの着用期間では、比較対照品のショーツの着用期間よりも有意に得点差が低く、悲観的でなかったことが示唆された。このように気分が向上したのは、前記の睡眠の質が改善されたこと、これに連動し日中の活動量が上がったことに起因するものと考えられる。また、表2より、実施例のショーツを1週間連続着用した際の着用感として、「履き心地が良い」という意見の他に「姿勢がよくなった、歩きやすい、動きやすい」といった意見を確認できた。
【0059】
〔比較例2〕
比較例2として、実施例のショーツにおける胴回り伸縮領域8の構成を変更した図11に示すショーツを製造した。比較例2のショーツは脇部領域Dの部分が腸骨領域Bと同様の編み方(同様の編組織)で構成されており、脇部領域Dの戻り応力と腸骨領域Bの戻り応力とがほぼ同等である。この脇部領域Dと腸骨領域Bとを合わせた領域を、側部領域Eともいう。また、胴回り伸縮領域8の各領域の寸法及び戻り応力は、以下の通りとした。側部領域Eは左右にある部位であり、以下の寸法は片側のみの値を示す。
〔収縮状態(自然状態)の胴回り部の周方向の寸法〕
腹部中央領域A:130mm
側部領域E :95-100mm
背部中央領域C:150mm
〔疑似着用状態の胴回り部の周方向の寸法〕
腹部中央領域A:250mm
側部領域E :180mm
背部中央領域C:270mm
〔戻り応力〕
腹部中央領域Pa:戻り応力2.75N
腸骨領域 Pb:戻り応力6.60N
背部中央領域Pc:戻り応力5.25N
脇部領域 Pd:戻り応力6.60N
Pb=Pd>Pc>Pa
【0060】
実施例及び比較例2のショーツについて、日常動作の容易性を以下の方法により評価した。
【0061】
4.ショーツを着脱した際の日常動作の容易性の評価
30代~50代の女性6名の被験者に、実施例および比較例2のショーツを交互に直履きさせ、日常生活で起こりうる着脱、椅子の立ち座りについて、動作の容易性の評価、及び椅子の立ち座り時のショーツのズレの評価を行った。着脱の動作は、着衣時のショーツのレッグ開口部への脚入れ及び胴回り部の引き上げ、並びに脱衣時の胴回り部の引き下げの容易性について評価した。動作の容易性の評価は、「よい・ややよい・どちらともいえない・あまりよくない・よくない」の主観による5段評価とした。評価結果を図12に示す。図12では、椅子の立ち座り時のショーツのズレの評価を前記5段評価で示しているが、「よい」は「ずれない」、「ややよい」は「あまりずれない」、「あまりよくない」は「ややずれる」、「よくない」は「ずれる」にそれぞれ相当する。
【0062】
また、着脱時、椅子の立ち座り時における、実施例及び比較例2のショーツの着用感を聴取した。着用感の一覧を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
〔評価結果〕
4.ショーツを着脱した際の日常動作の容易性の評価
図12及び表3に示すように、実施例のショーツは、比較例2のショーツより伸縮性があるため着脱が容易と評価された。図12に示す結果より、特にレッグ開口部への脚入れ、胴回り部の引き上げ、胴回り部の引き下げの容易性について評価が高かった。また、実施例のショーツは、比較例2のショーツより立ち座りしやすく、立ち座り時の下着のズレもないと評価された。
【0065】
図12及び表3より、実施例のショーツは腸骨領域Bの戻り応力を最も高めに設定し、脇部領域Dの戻り応力をやや低めに設計したことにより、身体及び精神的負担が少なく、すなわち圧迫感を感じずラクであり、長時間の着用も可能である。また着脱が容易であることは転倒予防にもつながる。また座位時に贅肉が上端からはみだし難く、見た目にスッキリするので、身体にフィットする衣服を着用した際にはシルエットにも影響が少ないのではないかと予想される。
【符号の説明】
【0066】
1 ショーツ
2 前身頃
3 後身頃
4 クロッチ部
5 ウエスト開口部
6 レッグ開口部
7 胴回り部
51 ウエスト伸縮領域
71 胴回り部の本体部分
8 胴回り伸縮領域
9 上前腸骨棘
9a 腸骨稜
61 装飾部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12