(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂、その製造方法及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
C09D 151/08 20060101AFI20230417BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230417BHJP
C08F 283/12 20060101ALI20230417BHJP
C08L 51/08 20060101ALI20230417BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230417BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230417BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20230417BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20230417BHJP
B32B 21/08 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C09D151/08
C09D5/02
C08F283/12
C08L51/08
B32B27/30 A
B32B27/00 101
B32B17/10
B32B5/24
B32B21/08
(21)【出願番号】P 2018226582
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/162080(WO,A2)
【文献】特開2017-114994(JP,A)
【文献】特開2016-180119(JP,A)
【文献】特開平5-131537(JP,A)
【文献】特開平6-166803(JP,A)
【文献】特開2004-137374(JP,A)
【文献】特開2010-43172(JP,A)
【文献】特開平10-237266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオルガノシロキサン50~99質量部と(B)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体1~50質量部(但し、A成分とB成分の合計は100質量部)とが重合してなるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂をコーティング剤組成物全体の質量に対し固形分量で1~60質量%で含む、コーティング剤組成物であって、
前記(A)ポリオルガノシロキサンは、(a1)R
2SiO
1.0単位を全シロキサン単位の合計モルに対し80~99モル%有し、(a2)RSiO
1.5単位及び/又はSiO
2.0を全シロキサン単位の合計モルに対し1~20モル%有することを特徴とし、任意でR
3SiO
0.5単位を全シロキサン単位の合計モルに対し0~1モル%含んでよく(Rは互いに独立に、炭素数1~20のアルコキシ基、ヒドロキシル基、又は、非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基である)、及び、下記平均式(1)で表される、
【化1】
(式中、R
1及びR
3は互いに独立に、非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Xは互いに独立に、非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、Xで定義される基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0以上の数であり、bはa~fの合計数に対し79.9~98.9%となる正数であり、cはa~fの合計数に対し0.01~1%となる正数であり、但しa~fの合計数に対するa+b+cの合計割合は80~99%であり、d及びeは互いに独立に、a~fの合計数に対するd+eの割合が1~20%となる数であり、及びfはa~fの合計数に対し0~1%となる数である)
前記コーティング剤組成物。
【請求項2】
上記(A)ポリオルガノシロキサンは、X及びYで示されるヒドロキシル基を1分子中に少なくとも2個有する、請求項
1記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
請求項
1または
2記載のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を固形分量で、コーティング剤組成物全体の質量に対して1~40質量%と、さらに、ウレタン系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、及び塩化ビニル系樹脂エマルジョンから選ばれる樹脂エマルジョンの少なくとも1つをコーティング剤組成物全体の質量に対して60~99質量%とを含有する、請求項1または2記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
基材表面のコーティング用である、請求項
1~3のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項5】
基材と、該基材の片面又は両面に存在する請求項
4記載のコーティング剤組成物から成る皮膜とを有する、積層体。
【請求項6】
前記基材が、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂から選ばれるプラスチックである、請求項
5記載の積層体。
【請求項7】
前記基材が、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、及び無アルカリガラスから選ばれるガラスである、請求項
5記載の積層体。
【請求項8】
前記基材が、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、及びモクセイ科から選ばれる木材である、請求項
5記載の積層体。
【請求項9】
前記基材が、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、及び炭素から選ばれる繊維である、請求項
5記載の積層体。
【請求項10】
コーティング剤組成物からなる皮膜の厚さが0.5~50μmである、請求項
5~
9のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のオルガノポリシロキサンに(メタ)アクリル系単量体又はこれを主体とする混合単量体成分をグラフト共重合させたグラフト共重合樹脂であって、更に詳しくはコーティング剤として透明性を維持しながら摺動性を付与することができるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂及びその製造方法、並びに該樹脂を含有するコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコーン系樹脂は、基材に摺動性を付与することができる樹脂として知られている。しかしながら、シリコーン系の樹脂をコーティング剤として使用する場合には、塗膜が白化するなどの不具合があった。
【0003】
そこで、コーティング剤としても白化せずに摺動性を付与することができるシリコーン系のコーティング剤の開発が行なわれている。具体的には、透明性の高い皮膜を形成するシリコーン系樹脂の開発や、ウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系などの他の皮膜形成能を有するエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合することでコーティング剤を得る方法である。
【0004】
例えば、特開2013-67787号(特許文献1)では、ウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合したコーティング剤が基材に撥水性を付与できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記特許文献1に記載の樹脂では、摺動性と透明性の両立が出来ず、添加量に応じて塗膜のヘイズ値が下がってしまう(白化する)点について改善の余地があった。また、フェニル基を導入したシリコーン樹脂は透明性の改良には効果的であるが、メチル基のみのタイプのシリコーン樹脂と比べ、シリコーンが本来求められる触感、摺動性が劣るという点で改良の余地があり、必ずしも満足のいく性能が得られなかった。
【0007】
そこで本発明は、透明性と摺動性を付与することができるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂及びその製造方法、並びに該共重合体樹脂を含むコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、下記に示す特定のオルガノポリシロキサンにアクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体をグラフト共重合させたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂が、透明性及び摺動性に優れ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂、その製造方法及びコーティング剤を提供する。
(A)ポリオルガノシロキサン50~99質量部と(B)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体1~50質量部(但し、A成分とB成分の合計は100質量部)とが重合してなるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂であって、
前記(A)ポリオルガノシロキサンは、(a1)R2SiO1.0単位を全シロキサン単位の合計モルに対し80~99モル%有し、及び(a2)RSiO1.5単位及び/又はSiO2.0を全シロキサン単位の合計モルに対し1~20モル%有することを特徴とし、任意でR3SiO0.5単位を全シロキサン単位の合計モルに対し0~1モル%含んでよい、前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂
(式中、Rは互いに独立に、炭素数1~20のアルコキシ基、ヒドロキシル基、又は、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、ただし、Rの少なくとも1は、炭素数2~6のアルケニル基、又は、アルキル基の炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基である)。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は透明性及び摺動性に優れるコーティング剤を与える。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、
(A)ポリオルガノシロキサン50~99質量部と(B)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体1~50質量部(但し、A成分とB成分の合計は100質量部)とが重合してなるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂である。該ポリオルガノシロキサンは、(a1)R2SiO1.0単位を全シロキサン単位の合計モルに対し80~99モル%有し、及び(a2)RSiO1.5単位及び/又はSiO2.0を全シロキサン単位の合計モルに対し1~20モル%有することを特徴とする。任意でR3SiO0.5単位を全シロキサン単位の合計モルに対し0~1モル%含んでよい。
【0012】
上記式において、Rは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、ただし、Rの少なくとも1は、炭素数2~6のアルケニル基、又は、アルキル基の炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基である。
【0013】
上記本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、上記(A)ポリオルガノシロキサンと(B)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体とをグラフト重合させて成る共重合体である。(A)成分と(B)成分の質量比は、(A)成分50~99質量部に対し(B)成分1~50質量部であり、更に好ましくは(A)成分70~95質量部に対し(B)成分5~30質量部である(前記(A)成分と(B)成分の合計は100質量部である)。
【0014】
(A)ポリオルガノシロキサンは、(a1)R2SiO1.0単位及び(a2)RSiO1.5単位及び/又はSiO2.0単位を含む。また、任意でR3SiO1/2単位を含んでいてもよい。ここで、Rは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、好ましくは置換もしくは非置換の炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、又は、アルキル基、アルコキシ基、もしくは(メタ)アクリロキシ基で置換されたアミノ基などで置換されたものが挙げられる。Rとしては、好ましくはメチル基である。ただし、Rの少なくとも1は、アルキル基の炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~6のアルケニル基、好ましくはビニル基である。
【0015】
(A)ポリオルガノシロキサン中にある全シロキサン単位中、(a1)R2SiO1.0は80~99モル%であり、より好ましくは85~99モル%である。前記下限値未満であると滑り性の低下が著しくなり、前記上限値を越えると透明性の改善に効果がないという不具合がある。
【0016】
(A)ポリオルガノシロキサン中にある全シロキサン単位中、(a2)RSiO1.5及び/又はSiO2.0は1~20モル%であり、より好ましくは1~15モル%である。前記下限値未満であると混合時の透明性を改良する効果がなく、前記上限値を越えると乳化が難しいという不具合がある。
【0017】
(A)成分は、好ましくは、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンである。
【化1】
式中、R
1及びR
3は互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、Xで定義される基、又は-[O-Si(X)
2]
d-Xで示される基であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。
【0018】
aは0以上の数であり、bはa~fの合計数に対し79.9~98.9%となる正数であり、cはa~fの合計数に対し0.01~1%となる正数であり、但しa~fの合計数に対するa+b+cの合計割合は80~99%であり、より好ましくは85~99%である。d及びeは互いに独立に1以上の数であり、a~fの合計数に対するd+eの割合が1~20%となる数であり、より好ましくは1~15%である。fはa~fの合計数に対し0~1%となる数であり、好ましくは0~0.5%である。上記M単位を含む場合のfの下限値は0.05%以上、好ましくは0.1%以上であるのがよい。該オルガノポリシロキサンの粘度及び重量平均分子量は、上記a~fで示されるシロキサン単位の個数(モル数)が上記範囲を満たす値であればよい。例えば、該オルガノポリシロキサンは重量平均分子量10,000~500,000を有し、好ましくは15,000~300,000を有し、さらに好ましくは50,000~100,000を有する。該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として測定される値である。
【0019】
上記式(1)において、R1及びR3は、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、又は、アルキル基、アルコキシ基、もしくは(メタ)アクリロキシ基で置換されたアミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1及びR3としては、好ましくはメチル基である。
【0020】
上記式(1)において、R2は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基に置換されている、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~6のアルケニル基である。例えばメルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、ビニル基等が好ましい。
【0021】
上記式(1)において、Xは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基である。非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものが挙げられる。炭素数1~20のアルコキシ基としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、及びテトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、及びフェニル基である。
【0022】
上記式(1)において、Yは互いに独立に、Xで定義される基、又は-[O-Si(X)2]d-Xである。但し、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基である。
【0023】
上記式(1)において、Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0024】
上記平均組成式(1)で表されるポリオルガノシロキサンは、例えば下記一般式(I)で表される。
【化2】
式中、R
1、R
3、R
2、X、Y、及びZは上記の通りであり、aは0~1,000の数であり、bは100~10,000の正数であり、cは1~100の正数であり、及び、d及びeは互いに独立に1~1,000の正数である。
【0025】
aは0~1,000の数であり、好ましくは0~200の数である。aが1,000より大きくなると得られる被膜の強度が不十分となる。bは100~10,000の正数であり、好ましくは1,000~5,000の正数である。bが100未満では被膜の柔軟性が乏しいものとなる。cは1~100の正数であり、100を超えると、コーティングした際に耐摩耗性が良化しないという不具合がある。d及びeは互いに独立に1~1,000の正数であり、好ましくは1~200の正数である。また、架橋性の面から1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~4個のヒドロキシル基を有し、両末端に形成させたものを用いることがよい。
【0026】
このような(A)ポリオルガノシロキサンの製造方法は特に制限されるものでないが、エマルジョンの形態であることが好ましく、市販品を使用してもよい。製造方法は公知の乳化重合法でよく、例えば、水溶性溶剤中、界面活性剤存在下で、原料となる有機ケイ素化合物を混合し、乳化及び重合させることにより、オルガノシリコーンエマルジョン組成物として容易に製造することができる。より詳細には、(a1)R2SiO1.0単位源となる、例えばフッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、(a2)RSiO1.5単位及び/又はSiO2.0単位源となるアルコキシシラン等、及び、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤とを、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の重合触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
R3
(4-e-f)R4
fSi(OR5)e (2)
(式中、R3は重合性二重結合を有する1価有機基、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。R4は炭素数1~4のアルキル基、R5は炭素数1~4のアルキル基で、eは2~3、fは0~1の整数を示し、e+f=2~3である)
以下、各単位の原料となる有機ケイ素化合物について、より詳細に説明する。
【0027】
上記(a1)R2SiO1.0単位は、環状オルガノシロキサンを開環重合して得ることができる。原料となる環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。
【0028】
上記(a2)RSiO1.5単位(T単位)及び/又はSiO2.0単位(Q単位)はアルコキシシラン等から得られる。RSiO1.5(T単位)を形成するモノマーとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン等が挙げられる。SiO2.0単位(Q単位)を形成するモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン等が挙げられる。
【0029】
更に、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を共重合させるのが好ましい。シランカップリング剤の共重合により、(A)ポリオルガノシロキサンと(B)成分や後述する(C)成分を結合させるのを補佐する効果が得られる。
R3
(4-e-f)R4
fSi(OR5)e (2)
(式中、R3は重合性二重結合を有する1価有機基、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。R4は炭素数1~4のアルキル基、R5は炭素数1~4のアルキル基で、eは2~3、fは0~1の整数を示し、e+f=2~3である)
【0030】
一般式(2)で示されるシランカップリング剤としては、例えば3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、環状オルガノシロキサン100質量部に対し0.01~20質量部で配合することが好ましく、0.01~5質量部が更に好ましい。
【0031】
上記(A)ポリオルガノシロキサンの製造に用いる重合触媒は、公知の重合触媒であればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。酸触媒の量としては、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0032】
上記重合反応に使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤が好ましい。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、及び、ラウリル硫酸ナトリウムである。なお、アニオン系界面活性剤の量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0033】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、(A)上記ポリオルガノシロキサンが有する重合性基と(B)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体(以下、まとめて「(メタ)アクリル酸エステル単量体」という)の(メタ)アクリル基とをラジカル重合させて成る共重合体である。(A)成分は、上述した製造方法により、(A)オルガノポリシロキサンと界面活性剤とを含むエマルジョン組成物として得ることができる。本発明のグラフト共重合樹脂は、当該エマルジョン組成物と、(B)(メタ)アクリル酸エステル単量体とを混合して乳化重合させて、上記(A)成分と(B)成分とが重合してなるグラフト共重合樹脂とすることができる。
【0034】
(B)成分は、アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体であり、ヒドロキシ基、アミド基、及びカルボキシル基等の官能基を持たないアクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体である。炭素数1~10のアルキル基を有する、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、更にはアクリル成分のポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が40℃以上、好ましくは60℃以上になる単量体が好ましい。かかる単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。尚、上記ガラス転移温度はJIS K7121に基づき測定できる。
【0035】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂における、(A)ポリオルガノシロキサンと(B)(メタ)アクリル酸エステル単量体との質量比(式(1)のポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル単位との質量比)は、50:50~99:1であり、好ましくは60:40~99:1である。シリコーン成分の比率が30より少ないとコーティングした際に耐摩耗性が良化しないという不具合が生じるおそれがあるため好ましくない。
【0036】
上記(A)成分と(B)成分との重合反応にはラジカル開始剤を使用するのが好ましい。該ラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及び過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、及びアミン類等の還元剤を併用したレドックス系等を使用してもよい。これらの配合量は、従来公知の方法に従い、適宜選択されればよい。
【0037】
(A)成分を上述したエマルジョン組成物として重合反応に用いる場合、既に該エマルジョン組成物中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合することができるが、安定性向上のためさらにアニオン系界面活性剤を添加するのが好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。
【0038】
(A)成分と(B)成分との重合反応において、(B)成分と共重合可能な(C)官能基含有単量体をさらに共重合させることもできる。(C)成分としては、カルボキシル基、アミド基、水酸基、ビニル基、アリル基等を含む不飽和結合を有する単量体である。例えば、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが挙げられる。これらを共重合させることで、得られる共重合体樹脂の親水性モノマーへの相容性を向上させることができる。特にはメタクリル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸2-ヒドロエチルが好ましい。(C)成分の配合量は、本発明の効果を損ねない範囲において適宜選択されればよい。例えば、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して0.5~20質量部、好ましくは2~10質量部である。
【0039】
(B)成分及び任意的(C)成分のグラフト重合温度は25~55℃が好ましく、25~40℃が更に好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0040】
更に、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。連鎖移動剤とは、例えばノルマルオクチルメルカプタンなどが挙げられる。配合量は、従来公知の方法に従い、適宜選択されればよい。
【0041】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、(A)オルガノポリシロキサンに、(B)成分及び任意的(C)成分が、ランダムにグラフトされているポリマーである。該シリコーンアクリルグラフト共重合体樹脂は上述の方法により、エマルジョン組成物として製造されることができる。この場合、エマルジョン組成物におけるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の固形分は35~50質量%が好ましい。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、50~500mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。エマルジョンの平均粒子径は、0.1μm(100nm)~0.5μm(500nm)が好ましく、さらに好ましくは0.15μm(150nm)~0.3μm(300nm)である。
【0042】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、下記に挙げる方法で造粒し粉体化してもよい。即ち、スプレードライ乾燥、気流式乾燥等が挙げられるが、生産性を考えるとスプレードライヤーが好ましい。粉体化は熱間乾燥することが好ましく、80~150℃で処理することが好ましい。得られる粉体粒子の平均粒子径は小さいほど良く、50μm以下が好ましい。更に好ましくは、1~40μmである。なお、本発明において、上記エマルジョン及び粉体の粒子径は、レーザー回折型粒子径測定器における累積質量平均値D50として測定することができる。
【0043】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂はコーティング剤として使用できる。コーティング剤中固形分で1~60質量%であるのがよく、好ましくは5~30質量%、更に好ましくは5~20質量%である。シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂が1質量%未満であると耐摩耗性において全く改善が見られないという不具合があり、60質量%を超えると白化する上に耐摩耗性も低下していくという不具合がある。また、上述した方法により得られるようなシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョン組成物を、エマルジョン組成物のままコーティング剤として使用してもよい。また、コーティング剤は溶剤を含んでいなくてもよい。コーティング剤としての使用方法は従来公知のコーティング剤に従い適宜選択されればよい。
【0044】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂をコーティング剤として使用する際には、該シリコーンアクリルグラフト共重合体樹脂以外の樹脂エマルジョンと混合してもよい。樹脂エマルジョンは皮膜形成能を有するのがよく、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体を用いたアクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン系樹脂エマルジョン、塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル、又は塩化ビニル/(メタ)アクリル酸又はそのエステル等を用いた塩化ビニル系樹脂エマルジョンが挙げられる。これらを水系下でプロペラ式攪拌機やホモジナイザーなどの公知の混合調製方法によって混合することによって、コーティング剤組成物が得られる。皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンと混合する場合の配合量は、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を固形分量で1~40質量%に対し、ウレタン系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、塩化ビニル系樹脂エマルジョンから選ばれる樹脂エマルジョンの少なくとも1つを60~99質量%(但し、合計は100質量部)であるのがよく、好ましくは、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を固形分量で5~35質量%、より好ましくは10~30質量%で、樹脂エマルジョンを65~95質量%、より好ましくは70~90質量%(但し、合計は100質量部)であるのがよい。
【0045】
また、本発明の性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、及び、他の樹脂等を添加してもよい。
【0046】
本発明のコーティング剤組成物を、基材、例えば、プラスチック(PET、PI、合成皮革等)、硝子(汎用ガラス、SiO2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、繊維(布、糸等)、紙、セラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などの各種基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)すると、樹脂エマルジョンの長所を維持しながら、シリコーン共重合樹脂の撥水性、耐候性、耐熱性、耐寒性、ガス透過性、摺動性などの利点を、長期に亘って付与することができる。これは、皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンと本発明のシリコーン共重合樹脂が丈夫な海島構造を作っているためと考えられる。
【0047】
ここで、プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。乾燥させる方法としては、室温下で1~10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。また、前記プラスチック基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20~100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0048】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。乾燥させる方法としては、室温で1~10日程度放置したり、20~150℃、特に60~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。
【0049】
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。20~150℃、特に50~150℃で0.5~5時間熱風乾燥させる方法が好ましい。また、乾燥温度は120℃以下にすれば塗膜の変色を避けることができる。
【0050】
繊維基材としては、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0051】
本発明のコーティング剤組成物を塗布する方法は、特に限定しないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーター、刷毛塗りなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬等が挙げられる。塗布量は、特に限定しないが、通常は、防汚性、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲で形成し、自然乾燥又は100~200℃に加熱乾燥して成膜させるとよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0053】
[実施例1]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)555g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)44g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水430gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.5%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)225gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.9%であった。
【0054】
[実施例2]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン578g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)22g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.7%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)225gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.8%であった。
【0055】
[実施例3]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン542g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-04(テトラエトキシシラン)58g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.6%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)215gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.8%であった。
【0056】
[実施例4]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン566g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBM-13(メチルトリメトキシシラン)34g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.5%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)225gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は45.2%であった。
【0057】
[実施例5]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン583g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBM-13(メチルトリメトキシシラン)17g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水460gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は45.4%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)230gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は45.5%であった。
【0058】
[実施例6]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン559g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)22g、KBE-04(テトラエトキシシラン)19g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水410gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和ししてシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.8%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)215gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は45.3%であった。
【0059】
[実施例7]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン555g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)44g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水430gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.5%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)60gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.8%であった。
【0060】
[実施例8]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン450g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)150g、ラウリル硫酸ナトリウム18gをイオン交換水100gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水280gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.5%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)205gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.8%であった。
【0061】
[比較例1]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水460gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は45.3%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)230gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.7%であった。
【0062】
[比較例2]
i)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン597.6g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)2.4gラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水460gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は45.1%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
ii)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)230gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を得た。エマルジョン組成物中の不揮発分は44.7%であった。
【0063】
[比較例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン300g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)300g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込んだが、ホモミキサーで乳化することができなかった。
【0064】
[比較例4]
オクタメチルシクロテトラシロキサン555g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)44g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水430gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.5%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0065】
上記実施例及び比較例において調製したオルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物についてシロキサン単位の構成割合、各成分の質量部、及び下記方法により測定されたエマルジョンの平均粒子径、固形分量、及びpHを、表1に示す。
【0066】
上記実施例及び比較例で得た各シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物について、以下の評価試験を行った。結果を表2に示す。
<蒸発残分(固形分濃度)測定>
シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物約1gをアルミ箔製の皿に量り取り、105~110℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R : 蒸発残分(%)
W : 乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L : アルミ箔皿の質量(g)
T : 乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0067】
<平均粒子径測定>
シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物を0.01g計量し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA-950V2)を使用して、下記の条件で、エマルジョンの平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定した。
[測定条件]
測定温度:25±1℃
溶媒:イオン交換水
また(A)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物におけるエマルジョンの平均粒子径も上記と同じ方法により測定した。結果を表1に示す。
【0068】
<PH測定>
東亜ディーケーケー社製、pHメーター HM-25Rを用い、JIS Z8802:2011に基づいて25℃で、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物のpHを測定した。
【0069】
<成膜方法>
バーコーターにてシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含むエマルジョン組成物をスライドガラスに塗布し、105℃×3分で乾燥を行い、ドライで約23μmになるように塗膜を形成した。
【0070】
<ヘイズ値測定>
ヘイズメーター NDH7000(日本電色工業社製)にて上記塗膜のヘイズ値を測定した。尚、スライドガラス(ヘイズ値0.70%)でのヘイズ値の好ましい範囲は0.70~1.50である。
【0071】
<静・動摩擦係数測定>
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を上記塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。尚、スライドガラスでの静・動摩擦係数の好ましい範囲は、静摩擦係数が0.01~0.15であり、動摩擦係数が0.01~0.10である。
【0072】
【0073】
【0074】
上記表2に示す通り、(a1)単位に対する(a2)単位の割合が少ない又は(a2)単位を含まないオルガノポリシロキサンを用いて得たグラフト共重合樹脂では、塗膜のヘイズ値が高く、十分な透明性を得られない(比較例1及び2)。比較例3のオルガノポリシロキサンはメチルトリエトキシシランが多すぎるため、乳化しなかった。メタクリル酸メチル(MMA)を重合させない比較例4のオルガノポリシロキサンエマルジョン組成物から得られる塗膜は、透明性及び摺動性のいずれも劣った。これに対し、表2に示す通り、本発明のグラフト共重合樹脂は、スライドガラス(ヘイズ値0.70%)に塗布した時のヘイズ値が1.0~1.3%と透明性に優れ、且つ、静摩擦係数及び動摩擦係数が小さく、摺動性に優れる塗膜を与える。
【0075】
[実施例9~18及び比較例5~9]
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョン(パーマリンUA-368、水性塗料用樹脂、三洋化成株式会社製)と表2に記載の各シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョン組成物1~10及び12の各々とを、固形分換算で表3に示した割合で配合し、10分間、常温にて撹拌混合した後に80メッシュでろ過したものを使用して、バーコーターにてスライドガラスに塗布し、105℃×3分で乾燥を行い、ドライで約23μmになるように塗膜を形成した。
<ヘイズ値測定>
ヘイズメーター NDH7000(日本電色工業社製)にて上記塗膜のヘイズ値を測定した。スライドガラス(ヘイズ値0.70%)でのヘイズ値の好ましい範囲は0.7~6.0%である。
<静・動摩擦係数測定>
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を上記塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。スライドガラスでの静・動摩擦係数の好ましい範囲は、静摩擦係数が0.01~0.20であり、動摩擦係数が0.01~0.10である。
【0076】
【0077】
表3に示す通り、比較例1、2及び4で得たシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂のエマルジョン組成物9、10、12とポリウレタン樹脂エマルジョンとを混合しても、摺動性は改善されるが、ヘイズ値が高くなり、透明性に劣った。これに対し、本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂をポリウレタン樹脂エマルジョンと混合することにより、摺動性を改善し、且つ、透明性が良好な皮膜を形成することができる。ただし、比較例9の通り、樹脂エマルジョンと混合する際に本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の配合割合が多すぎるとヘイズ値が高くなってしまうため好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は透明性及び摺動性に優れ、各種基材表面に塗布されるコーティング剤として有用である。