(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】個別分散空調高効率制御方法、制御装置及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/46 20180101AFI20230417BHJP
F24F 11/54 20180101ALI20230417BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20230417BHJP
F24F 140/50 20180101ALN20230417BHJP
F24F 140/60 20180101ALN20230417BHJP
【FI】
F24F11/46
F24F11/54
F24F11/63
F24F140:50
F24F140:60
(21)【出願番号】P 2018248783
(22)【出願日】2018-12-29
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】藤村 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】西 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】岸本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 麻有
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-043306(JP,A)
【文献】特開2018-059703(JP,A)
【文献】特開2010-048433(JP,A)
【文献】特開2013-134019(JP,A)
【文献】特開2010-156494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1基の室外機で1台以上の室内機を個別に運転できる空調システムにおける制御方法であって、
室外機に供給される電流値を計測する計測ステップと、
計測した電流値に基づいて負荷率及びエネルギー消費効率を算出する算出ステップと、
予め設定された
異なる負荷率ゾーン
を有する複数の制御段数の内、よりエネルギー消費効率の高い制御段数での運転時間が長くなるように制御段数を切換える制御ステップ、
を備えたことを特徴とする個別分散空調高効率制御方法。
【請求項2】
前記制御ステップは、
室外機が設定された制御段数における出力上限のまま一定時間運転した場合には、より大きい負荷率ゾーンを有する制御段数、又は、負荷率の制限が無い制御段数に切換え、
室外機が設定された制御段数における出力下限のまま一定時間運転した場合には、より小さい負荷率ゾーンを有する制御段数、又は、運転を停止する制御段数に切換える、
ことを特徴とする請求項1に記載の個別分散空調高効率制御方法。
【請求項3】
前記一定時間は、制御段数の変更が、エネルギー消費効率を改善する方向への変更である場合には、エネルギー消費効率を改善しない方向への変更よりも、短時間に設定されることを特徴とする請求項
2に記載の個別分散空調高効率制御方法。
【請求項4】
前記室外機毎に
、異なる負荷率ゾーン
を有する複数の制御段数
の内、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数に、初期設定する設定ステップ、
を更に備えたことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の個別分散空調高効率制御方法。
【請求項5】
前記負荷率及び前記エネルギー消費効率を基に算出されたよりエネルギー消費効率の高い制御段数の出力上限と、目標となるデマンド値に基づく出力上限を比較して、より低い出力上限に該当する前記制御段数を選択する比較ステップを更に備えたことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の個別分散空調高効率制御方法。
【請求項6】
前記室外機が複数設けられ、前記室外機に設定された各制御段数が異なる設定値を有する場合には、室外機毎に制御が行われることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の個別分散空調高効率制御方法。
【請求項7】
1基の室外機で1台以上の室内機を個別に運転できる空調システムにおける制御装置であって、
室外機に供給される電流値を計測する計測手段と、
計測した電流値に基づいて負荷率及びエネルギー消費効率を算出する算出手段と、
予め設定された
異なる負荷率ゾーン
を有する複数の制御段数の内、よりエネルギー消費効率の高い制御段数での運転時間が長くなるように制御段数を切換える制御手段、
を備えたことを特徴とする個別分散空調高効率制御装置。
【請求項8】
前記室外機毎に
、異なる負荷率ゾーン
を有する複数の制御段数
の内、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数に、初期設定する設定手段、
を更に備えたことを特徴とする請求項7に記載の個別分散空調高効率制御装置。
【請求項9】
前記負荷率及び前記エネルギー消費効率を基に算出されたよりエネルギー消費効率の高い制御段数の出力上限と、目標となるデマンド値に基づく出力上限を比較して、より低い出力上限に該当する前記制御段数を選択する比較手段を更に備えたことを特徴とする請求
項7又は8に記載の個別分散空調高効率制御装置。
【請求項10】
請求項1~6の何れかの個別分散空調高効率制御方法における各ステップを、コンピュータに実行させるための個別分散空調高効率制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1基の室外機で1台以上の室内機を個別に運転できる空気調和装置において、省エネ性能を高める技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調機器において、室外機の出力制限を最大デマンドに応じて段階的に制御するシステムは存在する。機器の種類にもよるが、例えば、最大負荷率を70%、40%、0%と設定し、目標電力を超えそうになると上限を下げるというように制御を行う。
しかし、これはあくまでも目標となるデマンド値を超えないようにするためのものであり、エネルギー消費効率(COP:Coefficient Of Performance)に着目したものではない。
【0003】
最近の個別空調装置では、運転能力に対する負荷率が高過ぎても低過ぎてもエネルギー消費効率が低下し、特に軽負荷時においては著しく低下することが知られている。
そこで、室内の温度が設定温度に達した場合に、室外機が停止して室内を暖める動作、或は、冷やす動作を止めるサーモオフと呼ばれる制御がなされる技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。サーモオフによれば、軽負荷時におけるエネルギー消費効率の低下を防止できる。
しかしながら、空調装置におけるエネルギー消費効率を高めることは、軽負荷時に限らず、軽負荷から重負荷にいたるまで、あらゆる場合において求められるものである。
【0004】
また、一般に空調装置においては、室内機に温度計が設けられ、室内温度と設定温度の差を埋めるように、自動で温度制御がなされるが、このような温度制御を行う場合は、室内温度を早く設定温度に近づけるために、エネルギー消費効率が必ずしも高くない負荷率で運転する問題がある。この問題を解決するために、外部から制御指令を与えるために空調装置と通信を行うことで制御を行う構成では、設置コストが高くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況に鑑みて、本発明は、簡易な構成で、個別分散空調システムのエネルギー消費効率の良い制御を行うことができる個別分散空調高効率制御方法、制御装置及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の個別分散空調高効率制御方法は、1基の室外機で1台以上の室内機を個別に運転できる空調システムにおける制御方法であって、下記ステップを備える。
1)室外機に供給される電流値を計測する計測ステップ、
2)計測した電流値に基づいて負荷率及びエネルギー消費効率を算出する算出ステップ、
3)予め設定された異なる負荷率ゾーンを有する複数の制御段数の内、よりエネルギー消費効率の高い制御段数での運転時間が長くなるように制御段数を切換える制御ステップ。
【0008】
1基の室外機で1台以上の室内機を個別に運転できる空調システムとは、ビル用マルチエアコン又はパッケージエアコンのことである。パッケージエアコンは、1基の室外機で1台の室内機を運転できる空調システムである。また、ビル用マルチエアコンは、1基の室外機で複数の室内機を個別に運転できる空調システムであり、必要な部屋だけを個別に空調するといった部分的な空調ができるため、省エネ性能が高いという利点がある。本発明によれば、室外機の電流値を計測するのみで制御を行うことができるため、低コストで、さらに高効率な制御が可能となる。
制御段数は、室外機毎に設定され、接点信号のオンオフ動作により、各制御段数の切換えが行われる。
2)算出ステップでは、計測した電流値を定格電流値で割り戻した定格電流比率を算出して負荷率とみなし、当該空調システムのエネルギー消費効率曲線から室外機の負荷率及びエネルギー消費効率(COP)を算出する。3)制御ステップにおける制御段数の切換えとは、積極的に切換えを行う場合だけではなく、段数決定の結果、切換えを行わない場合も含む。
【0009】
本発明の個別分散空調高効率制御方法において、制御ステップは、室外機が設定された制御段数における出力上限のまま一定時間運転した場合には、より大きい負荷率ゾーンを有する制御段数又は負荷率の制限が無い制御段数に切換え、室外機が設定された制御段数における出力下限のまま一定時間運転した場合には、より小さい負荷率ゾーンを有する制御段数又は運転を停止する制御段数に切換えることが好ましい。
段数の変更を一定時間の経過を待って行うことにより、効率性を高めながら、快適性を維持することができる。
ここで一定時間とは、対象となる空調システムの種類や設置場所、ユーザの使用頻度等に応じて、決定される。
【0010】
本発明の個別分散空調高効率制御方法において、一定時間は、制御段数の変更が、エネルギー消費効率を改善する方向への変更である場合には、エネルギー消費効率を改善しない方向への変更よりも、短時間に設定されることが好ましい。
エネルギー消費効率曲線におけるピーク値へ近づく方向への変更は、より効率を高める変更であることから、待機時間を短くすることで、速やかに効率の高い運転を行うことができる。これに対して、ピーク値から遠退く方向への変更である場合には、効率が低下することとなるため、待機時間を長くすることで、効率の低下を遅らせることができる。
【0011】
空調システムは運転開始時に高負荷となる場合が多く、その時間のエネルギー消費効率が低下することがよくある。そこで、本発明の個別分散空調高効率制御方法は、室外機毎に、異なる負荷率ゾーンを有する複数の制御段数の内、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数に、初期設定する設定ステップを更に備えたことが好ましい。
初期設定となる制御段数を、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数とすることにより、運転開始当初から効率の高い運転が可能となる。したがって、対象となる空調システムの種類や設置場所、ユーザの使用頻度等から、より適切な制御段数が存在する場合には、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数以外の制御段数を選択してもよい。
【0012】
本発明の個別分散空調高効率制御方法は、負荷率及びエネルギー消費効率を基に算出されたよりエネルギー消費効率の高い制御段数の出力上限と、目標となるデマンド値に基づく出力上限を比較して、より低い出力上限に該当する制御段数を選択する比較ステップを更に備えたことが好ましい。
デマンド値とは、30分間の平均使用電力のことであり、1ヵ月間における最大デマンド値を基準に契約電力が決定されることから、電気料金を抑制するためには、デマンド値を下げる必要がある。そこで、空調システムにおいては、目標となるデマンド値を設定し、それを超えるデマンド値とならないような制御が行われている。
【0013】
そこで、デマンド制御が行われている場合に、よりエネルギー消費効率の高い制御段数の出力上限と、目標となるデマンド値に基づく出力上限を比較して、より低い出力上限に該当する制御段数を選択することで、目標となるデマンド値を超えることなく、エネルギー効率の良い制御を可能としたものである。
なお、制御段数の比較を容易なものとするために、室外機に設定される制御段数とデマンド制御用の制御段数は、同じ数で、かつ同一の出力上限を有することが好ましい。
【0014】
本発明の個別分散空調高効率制御方法において、室外機が複数設けられ、室外機に設定された各制御段数が異なる設定値を有する場合には、室外機毎に制御が行われることが好ましい。
室外機毎に、電流値の計測、負荷率及びエネルギー消費効率の算出及び制御段数の切換え等が行われることにより、より高効率な制御が可能となる。
【0015】
本発明の個別分散空調高効率制御装置は、1基の室外機で1台以上の室内機を個別に運転できる空調システムにおける制御装置であって、下記手段を備える。
1)室外機に供給される電流値を計測する計測手段、
2)計測した電流値に基づいて負荷率及びエネルギー消費効率を算出する算出手段、
3)予め設定された異なる負荷率ゾーンを有する複数の制御段数の内、よりエネルギー消費効率の高い制御段数での運転時間が長くなるように制御段数を切換える制御手段。
【0016】
本発明の個別分散空調高効率制御装置は、室外機毎に、異なる負荷率ゾーンを有する複数の制御段数の内、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数に、初期設定する設定手段を更に備えたことが好ましい。
【0017】
本発明の個別分散空調高効率制御装置は、負荷率及びエネルギー消費効率を基に算出されたよりエネルギー消費効率の高い制御段数の出力上限と、目標となるデマンド値に基づく出力上限を比較して、より低い出力上限に該当する制御段数を選択する比較手段を更に備えたことが好ましい。
【0018】
本発明の個別分散空調高効率制御プログラムは、上記の何れかの個別分散空調高効率制御方法における各ステップを、コンピュータに実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の個別分散空調高効率制御方法、制御装置及び制御プログラムによれば、簡易な構成で、エネルギー効率の良い制御が可能になるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1の個別分散空調高効率制御システムのシステム構成図
【
図2】個別分散空調高効率制御システムの機能ブロック図
【
図3】実施例1の個別分散空調高効率制御システムの概略フロー図
【
図4】実施例1の個別分散空調高効率制御方法における高効率制御のフロー図
【
図5】実施例2の個別分散空調高効率制御方法における高効率制御のフロー図
【
図6】実施例3の個別分散空調高効率制御システムのシステム構成図
【
図7】実施例1の室外機のエネルギー消費効率を示すグラフイメージ
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0022】
図1は、個別分散空調高効率制御システムのシステム構成図を示している。
図1に示すように、個別分散空調高効率制御システム1は、個別分散空調高効率制御装置8及び空調装置9から成る。個別分散空調高効率制御装置8は、制御デバイス2、電力量計5、コンピュータ6から成る。また、空調装置9は、1基の室外機及び3台以上の室内機4から成る。
空調装置9は、ビル用マルチエアコンであり、1基の室外機で複数の室内機を個別に運転できる構造となっている。
室外機3は、ここでは1基しか図示していないが、2基以上設けることが可能である。また、室内機4は、ここでは3台以上設けられているが、2台以下でもよい。
室内機4には、温度計(図示せず)が設けられており、図示しないが、室内温度と各室内機4の設定温度から、室内温度を自動で制御する温度制御手段が設けられている。また、空調装置9には、図示しないが、目標となるデマンド値に基づいた制御を行うデマンド制御手段が設けられている。
【0023】
電力量計5は室外機3を計測するように取り付けられており、室外機3における電流値を計測する。計測されたデータは有線または無線によりコンピュータ6へと送られる。本実施例では、有線の通信手段11aが用いられている。
コンピュータ6は、計測した電流値を定格電流値で割り戻した定格電流比率を算出して負荷率とする。コンピュータ6は、算出された負荷率の状態を基に、より効率の良い運転が可能となるように、制御デバイス2を用いて室外機3を制御する。制御デバイス2は、コンピュータ6からの通信指令を物理的なオンオフの電気信号に変換することで、室外機3を制御する。
制御デバイス2とコンピュータ6は有線の通信手段11aにより接続されており、コンピュータ6により、制御デバイス2の設定変更等を行うことが可能である。コンピュータ6には、計測されたデータを記憶できる記憶手段(図示せず)が設けられており、電力量計5によって計測されたデータや、算出された負荷率及びエネルギー消費効率、制御デバイス2から送信された制御に関するログ、制御デバイス2の設定等を記憶する。
【0024】
ここで、個別分散空調高効率制御システムの概略フローについて説明する。
図3は、実施例1の個別分散空調高効率制御システムの概略フロー図を示している。前述した制御デバイス2による室外機3の制御は、室外機3における接点信号のオンオフ動作により行う。接点信号は制御段数毎に切換えが行われるが、複数の制御段数が設けられている場合には、機種に応じた接点信号をオンする。制御段数の設定は、ユーザのニーズに応じた設定とする必要があるため、室外機毎に設定される。そこで、個別分散空調高効率制御システムの利用に当たっては、
図3に示すように、まず、室外機3における高効率制御用の制御段数を設定する(ステップS01)。下記表1は、室外機3における高効率制御用の制御段数設定を示している。
【0025】
【0026】
上記表1に示すように、段数1は、ビット1に設定され、負荷率は0~70%となっている。段数2は、ビット2に設定され、負荷率は0~40%となっている。また、段数3は、ビット3に設定され、負荷率は0%となっている。すなわち、段数3が適用され、ビット3がオンにされた場合には、室外機3の運転は停止されることとなる。なお、段数1~3が適用されない場合には負荷率0~100%で運転することが可能である。
また、段数1はビット1、段数2はビット2というように同じ番号を有するビットに段数を設定する必要はなく、例えば、段数1はビット3、段数2はビット1というように異なる番号を有するビットに設定することも可能である。
なお、ステップS01においては、負荷率ゾーン制御の制御段数を、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数に、初期設定することも可能である。
【0027】
次に、電力量計5を使用して室外機3の電流値を計測する(ステップS02)。計測された電流値を基に、コンピュータ6が、計測した電流値を定格電流値で割り戻した定格電流比率を算出して負荷率とする。算出された負荷率と、室外機3に関するエネルギー消費効率曲線からエネルギー消費効率を算出する(ステップS03)。コンピュータ6は、算出された負荷率及びエネルギー消費効率を基に、エネルギー効率の良い制御段数を決定する(ステップS04)。ここでの負荷率とは、現時点における負荷率だけではなく、一定時間内における負荷率の変動の有無等も含んでいる。
【0028】
エネルギー効率の良い制御段数の決定がどのように行われるのかについては、制御対象となる室外機3のエネルギー消費効率を分析する必要がある。
図7は、実施例1の室外機のエネルギー消費効率を示すグラフイメージである。縦軸はエネルギー消費効率(COP)、横軸は室外機の負荷率(%)を表している。また、破線は室外機3の各制御段数の境界値を示している。
図7に示すように、実施例1の室外機3のエネルギー消費効率は、40%付近で最も高くなっており、それよりも高くなっても低くなっても次第に効率が悪くなることが判る。また、負荷率が10%未満になると、負荷率が100%の場合よりも効率が悪くなることも判る。したがって、室外機3においては、できる限り負荷率が40%に近い値となるように制御することが望ましく、また、負荷率が10%未満になった場合には、室外機の運転を止めることが望ましいといえる。
【0029】
(高効率制御フローについて)
次に具体的な制御フローについて、
図4を参照しながら説明する。
図4は、実施例1の個別分散空調高効率制御方法における高効率制御のフロー図を示している。なお、
図4において出力下限とは、高効率制御用に設けられた閾値のことであり、出力制限無しの場合の出力下限は、段数1の出力上限である70%、段数1の出力下限は、段数2の出力上限である40%となっている。表1に示した負荷率の範囲内であれば、出力下限を下回った状態での運転も可能である。したがって、
図4の高効率制御フローにおける“出力下限のまま一定時間経過”とは、実際の運転状況においては、“出力下限以下の状態で一定時間経過”した場合のことを意味している。
図4に示すように、まず、出力制限を段数2に設定する(ステップS101)。本実施例では、最初に出力制限を段数2に設定しているが、設定次第では、出力制限を段数1、3又は無しに設定することも可能である。
現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過した場合(ステップS102)には、出力制限を段数3に設定する(ステップS103)。出力制限を段数3に設定した後、一定時間経過すると(ステップS104)、再度出力制限を段数2に設定する。ここでの一定時間とは、室内の在室人員や内部発熱機器の密度に応じて適宜決定される。
【0030】
現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過した場合ではないが、現在出力が出力上限のまま一定時間経過した場合(ステップS105)は、出力制限を段数1に設定する(ステップS106)。現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過した場合ではなく、現在出力が出力上限のまま一定時間経過した場合でもないときは、再度、現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過したかの判定がなされる。
【0031】
出力制限を段数1に設定した後、現在出力が出力下限のまま一定時間経過した場合(ステップS107)は、出力制限を段数2に設定する。これに対して、現在出力が出力下限のまま一定時間経過した場合ではないが、現在出力が出力上限のまま一定時間経過した場合(ステップS108)には、出力制限を無しに設定する(ステップS109)。現在出力が出力下限のまま一定時間経過した場合ではなく、現在出力が出力上限のまま一定時間経過した場合でもないときは、再度、現在出力が出力下限のまま一定時間経過したかの判定がなされる。
【0032】
出力制限を無しに設定した後、現在出力が出力下限のまま一定時間経過した場合(ステップS110)は、出力制限を段数1に設定する。これに対して、現在出力が出力下限のまま一定時間経過した場合でないときは、再度、現在出力が出力下限のまま一定時間経過したかの判定がなされる。
【0033】
(デマンド制御との優先順位判定について)
図3に示すように、コンピュータ6は、算出された負荷率の状態を基に、エネルギー効率の良い制御段数を決定する(ステップS04)が、空調装置9において、目標となるデマンド値に基づく制御が行われている場合(ステップS05)は、エネルギー効率の良い段数と、デマンド制御による段数を比較し(ステップS07)、より強い出力制限となる段数に切換える(ステップS08)。これは、デマンド制御が行われている場合には、コスト削減の観点からデマンド値を無視することはできないところ、より強い出力制限となる段数を採用していれば、デマンド値を超えることはないからである。これに対して、デマンド制御が行われていない場合には、エネルギー効率の良い段数に切換える(ステップS06)。
下記表2は、デマンド制御用の制御段数設定を示している。
【0034】
【0035】
上記表2に示すように、段数1は、ビット1に設定され、負荷率は70%以下となっている。段数2は、ビット2に設定され、負荷率は40%以下となっている。また、段数3は、ビット3に設定され、負荷率は0%となっている。段数、ビット及び負荷率のいずれの設定についても、高効率制御用の制御段数設定と同じであるが、これは、高効率制御用の制御段数設定をデマンド制御用の設定に合わせたからであり、同じ設定とすることにより、段数の比較が容易となる。
例えば、デマンド制御用の段数が段数1で、高効率制御用の段数が段数3である場合には、段数3が適用されることになる。また、デマンド制御用の段数が段数2で、高効率制御用の段数が段数1である場合には、段数2が適用されることになる。このようにより強い出力制限の段数を選択することで、デマンド値を超えることなく、エネルギー効率の良い制御を行うことが可能になる。
【0036】
図2は、個別分散空調高効率制御システムの機能ブロック図を示している。
図2に示すように、個別分散空調高効率制御システム100は、空調装置101及び個別分散空調高効率制御装置102から成る。空調装置101には、室外機103及びデマンド制御手段104が設けられている。なお、室内機等についてはここでは図示していない。個別分散空調高効率制御装置102は、計測手段105、制御デバイス106及びコンピュータ111から成り、コンピュータ111には、設定手段107、算出手段108、制御手段109、比較手段110及び記憶手段112が設けられている。
コンピュータ111は、計測手段105によって計測された室外機103の電流値を基に、エネルギー効率の良い運転となるような制御を行う。具体的には、算出手段108により算出された負荷率及びエネルギー消費効率を基に、制御手段109においてエネルギー効率の良い制御段数を決定し、制御デバイス106を用いて制御を行う。制御デバイス106は、制御手段109からの通信指令を物理的なオンオフの電気信号に変換することで、室外機103を制御する。また、制御に当たっては、比較手段110を用いることで、デマンド制御手段104における制御を超える負荷率とならないように制御する。設定手段107は、負荷率ゾーン制御の制御段数を、エネルギー消費効率が最も高い負荷率を含むゾーンの制御段数に、初期設定するためのものである。また、コンピュータ111は、制御デバイス106の設定変更等を行うことができる。
記憶手段112は、計測手段105によって計測されたデータや、算出手段108により算出された負荷率及びエネルギー消費効率、制御デバイス106により行われた制御に関するログ、制御デバイス106の設定等を記憶する。
【実施例2】
【0037】
実施例2では、実施例1とは異なり、高効率制御用の制御段数が段数1のみの場合について説明する。なお、段数1の負荷率は、0%である。
図5は、実施例2の個別分散空調高効率制御方法における高効率制御のフロー図を示している。
図5に示すように、まず、出力制限を無しに設定する(ステップS201)。現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過した場合(ステップS202)には、出力制限を段数1に設定する(ステップS203)。出力制限を段数1に設定後、一定時間が経過(ステップS204)すると、再度、出力制限を無しに設定する。
ステップS202において、現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過した場合ではないときは、再度、現在出力が10%を下回った状態で一定時間経過したかの判定がなされる。
本実施例によれば、エネルギー効率の悪い負荷率10%以下の場合のみ、運転を一時停止することで、簡易な構成で効率の良い運転が可能となる。
【実施例3】
【0038】
実施例3では、実施例1とは異なり、室外機が複数基設けられた場合について説明する。
図6は、実施例3の個別分散空調高効率制御システムのシステム構成図を示している。
図6に示すように、個別分散空調高効率制御システム10は、個別分散空調高効率制御装置80及び空調装置90から成る。個別分散空調高効率制御装置80は、制御デバイス2、電力量計(5a,5b)、コンピュータ6から成る。また、空調装置90は、室外機(3a,3b)及び室内機(4a~4f)から成る。
電力量計(5a,5b)及び制御デバイス2は、それぞれ無線の通信手段11bにより、コンピュータ6と接続されている。なお、通信手段11bの代わりに有線の通信手段を用いてもよい。
空調装置90は、実施例1と同様にビル用マルチエアコンであり、1基の室外機で複数の室内機を個別に運転できる構造である。
室外機3aには、室内機(4a~4d)が接続され、室外機3bには、室内機(4e,4f)が接続されている。また、室外機3aには電力量計5a、室外機3bには電力量計5bが接続され、室外機(3a,3b)はいずれも制御デバイス2と接続されている。制御デバイス2は、1台で32点の接点信号を出力できるが、制御に必要な接点信号数は空調装置の機種によって異なり、接続可能最大数も制御デバイスの機種によって異なる。本実施例では、1台の制御デバイス2で室外機3a及び室外機3bの制御を行う。室外機3aと室外機3bの制御段数は、同一の制御デバイス2を使用していても、それぞれ異なる段数を選択できる。したがって、例えば、実施例1で示した室外機3の制御段数と同じ段数を室外機(3a,3b)にも使用した場合、ある時点において室外機3aでは段数1、室外機3bでは段数3というように室外機毎で異なる段数が選択される場合も存在することになる。このように、異なる台数の室内機が接続された室外機であっても、室外機自体の電流値を個別に計測し、個別に制御することで効率の良い運転を行うことが可能となっている。
【0039】
個別分散空調高効率制御システム10の稼働中において、制御デバイス2は、約1秒に1回のペースで室外機(3a,3b)の制御をそれぞれ行い、約10分に1回のペースでロギングを行う。制御デバイス2には、約2週間分のログを保存することが可能であり、無線の通信手段11bにより、コンピュータ6にログを送信し、コンピュータ6内の記憶装置(図示せず)に記憶できる。コンピュータ6は、通信手段11bにより、制御デバイス2の設定変更等を個別に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ビル用マルチエアコン又はパッケージエアコンにおいて、省エネ性能を向上させるシステムとして有用である。
【符号の説明】
【0041】
1,10,100 個別分散空調高効率制御システム
2,106 制御デバイス
3,3a,3b,103 室外機
4,4a~4f 室内機
5,5a,5b 電力量計
6,111 コンピュータ
8,80,102 個別分散空調高効率制御装置
9,90,101 空調装置
11a,11b 通信手段
104 デマンド制御手段
105 計測手段
107 設定手段
108 算出手段
109 制御手段
110 比較手段
112 記憶手段