(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】燃料の着火特性を調整するための、特に燃焼装置からの有害物質放出を低下するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
F23C 13/00 20060101AFI20230417BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20230417BHJP
F02M 27/02 20060101ALI20230417BHJP
F23K 5/00 20060101ALI20230417BHJP
F23K 5/08 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
F23C13/00
F02D19/02 C
F02M27/02 C
F02M27/02 D
F02M27/02 F
F02M27/02 J
F02M27/02 Q
F02M27/02 S
F23K5/00 303
F23K5/08 Z
(21)【出願番号】P 2018526225
(86)(22)【出願日】2016-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2016078213
(87)【国際公開番号】W WO2017085301
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-08-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】102015120106.2
(32)【優先日】2015-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス アイヒャー
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト ソラク
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ズースドアフ
【合議体】
【審判長】松下 聡
【審判官】白土 博之
【審判官】平城 俊雅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3828736(US,A)
【文献】特開2009-36176(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010012945(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0040919(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006060669(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K5/00
F23K5/08
F23C13/00
F02M27/02
F02D19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの分散帯域(15)、少なくとも1つの酸化帯域(6)、および少なくとも1つの変換帯域(10)を備えるユニット(1)を用いて、燃料(3)の着火特性を調整するための方法であって、
a)分散構造物(4)を含む分散帯域(15)において、燃料(3)が分散され、
b)酸化帯域(6)において、前記燃料の少なくとも一部が、少なくとも1種の酸化剤により触媒担体上の少なくとも1種の触媒によって酸化され、
c)変換帯域(10)において、分散された燃料(3)および/または別の供給された燃料の少なくとも一部が、熱および/または触媒により変換される、前記方法において、
酸化剤(2)中に含まれる酸素の、存在する燃料(3)の完全酸化のために必要な酸素に対するモル比、および/または
ユニット(1)内の圧力
により、燃料の着火特性を調整して、高セタン価を有する燃料を、高オクタン価を有する燃料へと変換し、その際、工程b)における酸化により生じる熱の少なくとも一部を前記分散帯域(15)に伝達し、この分散帯域(15)において液状の燃料(3)が気化され、前記酸化剤は、
前記触媒担体中を通って、分散帯域(15)へと導かれ、引き続き燃料(3)と一緒に酸化帯域(6)および/または変換帯域(10)に導かれることを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程b)における酸化により生じる熱の少なくとも一部が、変換帯域(10)に伝達されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱は、対流および/または放射により伝達されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)およびc)における気化ならびに/または熱および/もしくは触媒による変換のために必要な熱は、本質的に工程b)における酸化により取得されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ユニット(1)内の圧力は、0.01bar~100barであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化剤(2)中に含まれる酸素の、存在する燃料の完全酸化のために必要とされる酸素に対するモル比は、0.03から0.9であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記着火特性は、さらに、以下のパラメーター:
・ 酸化剤入口(13)と、触媒と、分散構造物(4)との間の距離、
・ 酸化剤入口(13)および燃料入口(12)の位置および/または寸法および/または数および/または形状、
・ 酸化剤の流動場、
・ 触媒担体(5)の構造およびセル密度、
・ 触媒材料ならびに該触媒材料の触媒担体(5)上での分布、
・ 出口の配置および形状
の少なくとも1つを介して調整されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
変換された燃料(11)は、燃焼装置に供給されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記着火特性の調整は、変動し得る性能要求を考慮しながら、有害物質放出、特にNO
x放出および煤放出が低減されるように調節されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記変換された燃料(11)は、排気ガス後処理装置に供給されることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の燃料(3)の着火特性を調整して、高セタン価を有する燃料から高オクタン価を有する燃料を発生させる構成の装置であって、
・ 少なくとも1つの燃料入口(12)および少なくとも1つの酸化剤入口(13)と、
・ 燃料(3)のための少なくとも1つの分散構造物(4)を含む、燃料(3)を分散するための少なくとも1つの分散帯域(15)と、
・ 少なくとも1種の触媒を有する少なくとも1つの触媒担体(5)を含む、燃料(3)を少なくとも部分的に酸化するための少なくとも1つの酸化帯域(6)と、
・ 燃料(3)を少なくとも部分的に触媒および/または熱により変換するための少なくとも1つの変換帯域と、
・ 着火特性が変更された燃料(11)のための少なくとも1つの出口と
を備える、前記装置において、
前記酸化剤入口(13)、触媒担体(5)、および分散帯域(15)が、酸化帯域(6)中で発生する熱を、分散帯域(15)中に流れるガスまたはガス混合物(2)に伝達することができ、その際、前記分散帯域(15)は、液状の燃料(3)が、前記分散帯域(15)において気化されるように構成されており、前記触媒担体(5)は、燃料(3)のための分散構造物(4)と酸化剤入口(13)との間に、該酸化剤入口(13)から流れるガスまたはガス混合物(2)が、分散帯域(15)へと導かれ、引き続き燃料(3)と一緒に酸化帯域(6)および/または変換帯域(10)に導かれるように配置されていることを特徴とする、装置。
【請求項12】
前記触媒担体(5)は、酸化剤(2)が分散帯域(15)まで流れることを促す凹部および/または流路(14)を有することを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記触媒担体(5)は、開気孔構造または流路を含むことを特徴とする、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記燃料(3)のための分散構造物(4)および触媒担体(5)は、平面的におよび/または同心円状に構成されており、その際、複数反復する配置物を有するモジュラー式構造様式が可能であることを特徴とする、請求項11から13までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法を実施するために構成されていることを特徴とする、請求項11から14までのいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的反応、触媒的反応、および酸化反応により、液体燃料または気体燃料の着火特性を調整するための方法および装置に関する。始動後に外部からの外的エネルギーを供給する必要はない。熱的反応および/または触媒的反応のための熱は、供給された燃料の一部を、供給された酸化剤が触媒により酸化することにより提供される。前記方法および前記装置は、液体燃料を気化することができる分散構造物を含む分散帯域を備えている。前記酸化反応は同様に液状の燃料を気化するための熱を提供する。この熱はさらに、燃料を触媒および/または熱により変換するために利用される。これにより、燃料特性を、種々の用途に狙い通りに適合させることができる。本明細書に記載される方法および記載される装置は、セタン価が高く、従って短い着火遅れ時間および低い着火温度をもたらす燃料から、オクタン価が高く、従ってより長い着火遅れ時間およびより高い着火温度をもたらす燃料を生成することができる。燃料は、燃焼装置、例えば内燃機関、ガスタービンまたはガスバーナーにおいて、煤および窒素酸化物等の有害物質が減少され得るように調整することができる。さらに、効率を高めることができる。まず液状の燃料を気化させてから、ガスバーナー、ガスエンジン、およびガスタービンにおいて変更しなくても使用できるように変換することができる。本発明により燃料を、それぞれの用途に適合させることができる。
【0002】
内燃機関は、少なくともまだしばらくは主流な駆動形態となるであろう。自動車産業は、資源を節約でき、持続可能なモビリティを保証するために大きな課題に直面している。その場合に最も大きな挑戦は、窒素酸化物および煤等の温室効果ガスおよび排ガスの低減である。煤粒子およびNOx排出は、目下、費用のかかる排気ガス後処理システム、例えば煤粒子フィルター、SCR技術(選択的接触還元)および/またはNOx吸蔵触媒と、エンジン内措置(排気再循環および給気の冷却)とを組み合わせることによって低減させねばならない。排気ガス後処理システムは、触媒のその高い貴金属負荷量およびかなりの複雑性のため高価であり、重量および燃費を高めている。
【0003】
現在、数多くの会社および研究機関が、排気ガス後処理をしなくても、または排気ガス後処理を減らしても、有害物質が低減されるような代替的な燃焼法を研究している。その場合に最も大きな可能性は、均質燃焼法にあるとみなされている(S.Raming:「自動車におけるエネルギー管理(Energiemanagement in Kraftfahrzeugen)」,ユーリッヒ研究センターの出版物、Energietechnikシリーズ、第56巻,2006年,第108頁)。
【0004】
均質燃焼法によれば、窒素酸化物放出および煤放出をエンジン内で低減させることができ、同時に熱効率をさらに高めることができる。均質燃焼法の挑戦は、混合気形成、着火遅れ時間および着火温度の制御、ならびにエンジン性能における全負荷での使用および全負荷に近い運転点での使用である。均質燃焼法は、今までは1種類の燃料を用いて、エンジン性能のより低い出力レンジでしか運転できていない。出力レンジを拡大するために、燃料特性を動的に適合させねばならない(X.Luら著の早期圧縮着火燃焼方式の制御のための燃料デザインおよび管理(Fuel design and management for the control of advanced compression-ignition combustion modes).Progress in Energy and Combustion Science 37(2011)741-783)。
【0005】
先行技術における多くの用途のために、酸化可能な液状物質、例えばガソリン、ディーゼル、バイオオイル、一価および多価アルコール、アルデヒド、エーテル、カルボン酸、芳香族化合物、およびアミンを気化させることが不可欠である。さらに、幾つかの用途のために、前記物質を気化させるだけでなく、同時に出発物質の分子をより小さな高エネルギー分子、例えば水素、一酸化炭素またはC-C二重結合を有する有機分子へと分解することに関心が持たれている。それにより、出発物質の特性を狙い通りに用途に適合させることが可能となる。例えば、エンジンまたはバーナーでの燃焼に際して、改質に際して、化学合成による化合物の合成に際して、精製過程に際して、または石油化学産業において使用することができる。
【0006】
従来はそのような用途のために複数の「単位操作」を直列に接続する必要があり、その1つは物質の気化のためのものであり、1つは物質の熱分解のためのものである。
【0007】
先行技術によれば、第1工程の気化のために、電流、マイクロ波または熱の形での外部からの間接的な熱伝達によるエネルギー供給の原理を基礎とする装置が使用されている。しかしながら、これらのすべての過程で、伝熱抵抗および熱損失を被る。
【0008】
電流またはマイクロ波により加熱される場合には、これらのエネルギー形を準備するために、エクセルギー的観点では高い浪費を意味する。これらの場合にはプロセスから出る廃熱を直接的に利用することができない。電流またはマイクロ波によるエネルギー供給の場合には、電流またはマイクロ波のためのエネルギー源が必要であるが、これは例えば車載させる場合には直ちに利用可能なエネルギー量の制限をもたらす。
【0009】
プロセス技術において非常に広く知られているプロセス熱または廃熱の形でエネルギー供給を行う場合には、技術的かつ経済的に妥当な熱流を達成するために大きな伝達面積が必要である(例えば、多管式熱交換器またはプレート式熱交換器を参照)。
【0010】
先行技術では、確かに、直接的な熱伝達による幾つかの熱交換器および気化装置が記載されているが、この場合は大抵、そのエネルギーが、装置中を流れる高温のガス状媒体から提供されるにすぎない。
【0011】
第2のプロセス工程である分子の熱分解は、化学産業において、とりわけ石油化学産業において広く知られている。しかし廃棄物利用のための方法でも、熱分解とも呼ばれる熱的クラッキングが一つの役割を果たしている。
【0012】
原油留分の熱的クラッキングのために、そしてまた廃棄物(家庭廃棄物、プラスチック分画等)の熱分解のためにも、多岐にわたる先行技術が知られている。たいていの場合にはまたしても、吸熱性熱的クラッキングのために必要なエネルギーは、外部から、つまり外部熱源から供給される。
【0013】
クラッキングのために必要なエネルギーの一部が、クラッキングされる物質自身に由来する方法の概念は、例えば「冷炎」原理である。これは、Naidjaら(A.Naidja,C.R.Krishna,T.Butcher,D.Mahjan,Progr.Ener.Combust.Sci.29,2003,155-191)によって詳細に記載された。「冷炎」の原理は、空気および燃料の量論比以下の混合気が化学的に反応し、その場合に軽く青みを帯びた光、いわゆる「冷炎」を発する効果を利用している。燃料の部分的酸化に際して放出されるエネルギーは、燃料の分子を分裂させるが、それらは再び素早く再結合し、その際にアルコール、過酸化物、アルデヒドおよび一酸化炭素等の安定な有機化合物が形成される。
【0014】
この関連において、例えば欧州特許出願公開第1533494号明細書(EP1533494A2)および米国特許第6,872,482号(US6,872,482E2)は、エンジン内での燃焼過程における、または燃料電池システムのための水素生成のための化石燃料の改質における「冷炎」原理の使用に取り組んでいる。
【0015】
しかしながら、触媒を使用しない「冷炎」の原理は、約500℃という特定の温度を超過してはならないという欠点を有する。それというのも、さもなければ主熱発生が起こり得るからである。その反応器中に空気を循環させなければならない。さらに、冷炎は、圧力による影響が大きく、それにより温度範囲が大幅に狭められる。さらに、素早い始動時間は、高い始動エネルギーを用いた場合に達成できるにすぎない。それというのも、空気流を、約300℃~450℃まで加熱しなければならないからである。
【0016】
独国特許出願公開第102006060669号明細書(DE102006060669A1)から、燃料油ボイラー用途における液体燃料の触媒的気化およびガス化、ならびに燃料電池における反応のための液体燃料の改質を記載する方法が知られている。
【0017】
独国特許出願公開第102010012945号明細書(DE102010012945A1)から、液体燃料を気化するための装置が知られている。該装置は、吸気口の周りに同心円状に配置された触媒系を有する。その触媒系の周りには、燃料および/または燃焼剤を吸収することができる多孔質材料が同心円状に配置されている。該多孔質材料と該触媒系とは、その間にある空間を介して隔離されている。量論比以下の接触酸化の結果として、燃料および/または燃焼剤の気化のみが考慮に入れられている。短鎖炭化水素は、この種の反応操作の場合に、不所望な副生成物としてプロセス技術的に無視できる濃度(0.5体積%未満)で生ずるにすぎない。
【0018】
先行技術によれば、酸化可能な液状物質、例えばガソリン、ディーゼル、バイオオイル、一価および多価アルコール、アルデヒド、エーテル、カルボン酸、芳香族化合物、ならびにアミンの着火特性を、ハウジング内で外部からエネルギーを供給することなく調整することはできない。
【0019】
したがって、本発明の課題は、先行技術からの欠点を克服する、燃料の着火特性を調整するための方法および装置を提供することである。
【0020】
前記課題は、請求項1の特徴を有する燃料の着火特性を調整するための方法によって解決される。請求項16は、さらに、燃料の着火特性を調整するための相応の装置を示している。それぞれの従属形式請求項は、好ましい実施形態に相当するものである。
【0021】
本発明によれば、少なくとも1つの分散帯域、少なくとも1つの酸化帯域、および少なくとも1つの変換帯域を備えるユニットを用いて、燃料の着火特性を調整するための方法が提案される。
【0022】
その場合、分散構造物を有する分散帯域において燃料が分散される。酸化帯域においては、燃料の少なくとも一部が、少なくとも1種の酸化剤により触媒担体上の少なくとも1種の触媒上で酸化される。変換帯域においては、分散された燃料および/または別の供給された燃料の少なくとも一部が、熱的および/または触媒的に変換される。
【0023】
該方法は、酸化剤中に含まれる酸素の、存在する燃料の完全酸化のために必要な酸素に対するモル比によって、着火特性が調整されるという点で優れている。
【0024】
その代わりに、またはそれに加えて、着火特性の調整は、前記ユニット内の圧力、および/または滞留時間、および/または温度によっても調整することができる。その場合に、上記手段はしばしば互いに無関係でないことは明白である。したがって、例えば、圧力と滞留時間との間にはある程度の関係性が存在する。
【0025】
この箇所で、着火特性という概念を定義することにする。このためには、まず公知の変量である着火遅れ時間および着火温度が表されるべきである。
【0026】
着火温度は、可燃性物質が、固体、液体、その蒸気、または気体であろうと、空気の存在下で、もっぱらその温度に基づいて(点火火花のような点火源なくして)自発発火するために、加熱されなければならない物質または接触表面の温度である。しかしながら、着火温度は、物質ごとに高さが異なり、多くの場合には圧力に依存する。
【0027】
燃料/空気の混合気の噴射に際して、その噴射と主熱発生の開始との間に遅れが発生する。この時間間隔が、着火遅れ時間を意味する。着火遅れ時間は、ラジカルにより誘発される時間間隔から構成され、燃料ごとに特有であり、圧力および温度に依存している。
【0028】
セタン価は、燃料の着火性を説明するものである。セタン価が高いほど、その燃料の着火性はより高くなる。この挙動はディーゼルエンジンの場合には所望されるが、分子組成および燃焼法に基づき高い煤放出および窒素酸化物放出を引き起こす。オクタン価はセタン価と相反する関係にあり、高オクタン価は、燃料の着火性がより低いことを意味する。例えばガソリンは、高オクタン価を有し、エンジンにおいて外部着火源、通常はスパークプラグを介して着火させねばならない。代替的な燃焼法のためには、着火性を動的に適合させる必要があり、低負荷の場合に使用される燃料はどちらかと言えば着火性でなければならず、より高負荷では、それに対して着火性が下げられるべきである。セタン価は、標準化された方法においては圧力および温度により決定される。したがって、セタン価(またはオクタン価)は、全燃焼過程を説明するためには適していない。したがって、圧力および着火温度に依存する着火遅れ時間の詳細な推移を測定せねばならない。こうすることでのみ、動的な燃焼過程を十分に説明することができる。本発明においては、着火遅れ時間および着火温度を、本方法および装置により、ディーゼル、ガソリン、それ以外の間でも全体の圧力範囲および温度範囲にわたって動的に調整することができる。
【0029】
本発明では、標準条件で測定されたセタン価を一切考慮に入れずに、通常は標準条件とは異なる種々の圧力および温度の値の場合の着火遅れ時間および/または着火温度に関心が持たれる。その点では、一般的に燃料の着火特性が引き合いに出される。その着火特性から、さらにその都度の圧力および温度の値において、着火遅れ時間および/または着火温度が導き出される。
【0030】
モル比および/またはそれ以外の上述のパラメーターを適切に選択することにより、着火特性に影響を及ぼすことができる。つまり、本方法により、燃料の特性に狙い通りに影響を及ぼすことができ、それにより燃料をその都度の要求に適合させることができる。特に内燃機関の場合には、最適な燃焼のための燃料への要求は負荷に依存している。したがって、燃料をその都度の要求に適合させるための比較的容易な方法は、明らかな利点をもたらす。
【0031】
重要な一実施形態においては、分散帯域において液体燃料の気化が行われ得る。その点で、分散帯域は、気化帯域ともよぶことができる。一般的に、燃料は、酸化帯域および変換帯域において少なくとも十分に気体状で存在すべきである。以下に示されるように、それを、エネルギー的に好ましく行うこともできる。
【0032】
一実施形態においては、酸化により生ずる熱の少なくとも一部が、分散帯域および/または変換領域へと伝達される。それにより、酸化に際して放出される熱を効率的に利用することができる。分散帯域において、そこで気化が行われる場合には、とりわけ熱が必要となることは自明である。
【0033】
一実施形態においては、その熱は、対流および/または放射により伝達される。熱伝導は除外されるべきではないが、それは一般的に、それほど重要な役割を担わない。一般的に、酸化帯域、分散帯域、および変換帯域は、放射接触しているので、放射による一定の熱交換は行われる。しかしながら、さらに決定的なことは、熱交換が対流により行われることである。それはもちろん、酸化帯域から分散帯域および変換帯域への流れが起こることを前提とする。酸化帯域から変換帯域への流れは、先行技術において知られており、その流れは、変換が酸化の後に続き、部分的に酸化された燃料が変換帯域中に流れることによりもたらされるにすぎない。酸化帯域から、液体燃料の場合に上述のように同時に気化帯域でもある分散帯域への流れは、それに対して知られていない。通常の場合、せいぜい分散帯域から変換帯域中への流れが知られているにすぎない。本発明ではそのような流れが起こらなければならないとはいえ、酸化帯域から分散帯域への流れを引き起こすことも本質的な寄与となる。その場合に、酸化帯域および分散帯域の間には異なる領域が存在しなければならないので、酸化帯域から分散帯域への流れが起こる領域が存在し、かつ分散帯域から酸化帯域への流れが生ずるさらなる領域が存在することは明らかである。
【0034】
通常の条件下では、例えば熱伝達の半分は対流により行われ、一方で、もう半分は、熱放射により行われる。独国特許出願公開第102006060669号明細書(DE102006060669A1)の段落[0017]においても、触媒から、燃料蒸気および空気で満たされた間隔を経て、燃料を有する層への熱対流が述べられている。しかしながら、特に独国特許出願公開第102006060669号明細書(DE102006060669A1)の
図1をより詳細に見れば、それが副次的な効果であることを理解することができる。それに対応して、独国特許出願公開第102006060669号明細書(DE102006060669A1)の段落[0017]の最後には、熱放射が優勢であることも述べられている。
【0035】
一実施形態においては、酸化剤は、分散帯域へと導かれ、それから引き続き、この酸化剤は燃料と一緒に酸化帯域および/または変換帯域に導かれる。この場合に、その酸化剤は、混合気の一部として分散帯域に流れ得ることが顧慮されるべきである。この流れによって、前記の熱対流が達成される。
【0036】
一実施形態においては、気化ならびに熱的変換および/または触媒的変換のために必要なエネルギーは、本質的に酸化により取得される。それは、特に始動段階で追加の加熱が必要となることを除外すべきではない。酸化され得る気化された、または気化されていない燃料が存在しない限りは、気化のために利用することができる酸化による熱も存在していない。そのような特別な状況を除き、気化および変換のために必要とされるエネルギーを、酸化から取得することが可能である。
【0037】
一実施形態においては、特に酸化帯域において、酸化剤、燃料および中間生成物が混合される。それは、とりわけ上述の酸化帯域から変換帯域への流れおよびその逆の流れと関連して行われる。この流動状況によって、燃料の変換に寄与し、したがって着火特性の調整に寄与する、先行技術において知られていない特別な均質混合が行われる。その場合に生ずる流動するガス混合物は、対流による熱伝達に寄与し得る。
【0038】
一実施形態においては、酸化剤は、酸素または酸素含有媒体、特に空気または残留酸素を有する排気ガスを含む。つまり、酸化のために、特に純粋な酸素が存在する必要はない。空気で十分であり、多くの場合には、それどころか残留酸素を有する排気ガスでも十分である。
【0039】
一実施形態においては、前記ユニット内の圧力は、0.01bar~100bar、好ましくは0.01barから50barの間、特に好ましくは0.05bar~10barである。これらの圧力範囲は有用であることが分かった。示される圧力は、周囲と比べて正圧である。
【0040】
一実施形態においては、燃料は、例えばガソリン、ディーゼル、バイオオイル、熱分解油、バイオディーゼル、重油、アルコール、フィッシャー・トロプシュ燃料、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、オキシメチレンエーテル(OME1~OME10および混合物)、エステル、アルデヒド、芳香族化合物、アミン、カルボン酸、アルカン(本明細書では、とりわけ、メタン、エタン、プロパン、ブタン)、天然ガス、フレアガス、埋立地ガス、バイオガス等の燃料および該燃料からなる混合物から選択される。上述の例から、燃料は通常、液体燃料または気体燃料であることが明らかである。固体燃料の利用は、除外されるべきではないが、取り扱い上の理由から困難な状況となるであろう。
【0041】
一実施形態においては、酸化剤中に含まれる酸素の、存在する燃料の完全酸化のために必要とされる酸素に対するモル比は、0.03から0.9までであり、好ましくは0.05から0.4までであり、特に好ましくは0.1から0.3までである。そのような値は有用であることが分かった。
【0042】
一実施形態においては、着火特性は、さらに、以下のパラメーター:
酸化剤入口と、触媒と、気化構造物との間の距離、
酸化剤入口および燃料入口の位置および/または寸法および/または数および/または形状、
酸化剤の流動場、
触媒担体の構造およびセル密度、
触媒材料ならびに該触媒材料の触媒担体上での分布、
出口の配置および形状
の少なくとも1つを介して調整される。
【0043】
これについて、閉鎖および開放をすることができる複数の入口が設けられてよく、その場合に、部分的な開放または閉鎖も可能であることが示されるべきである。酸化剤入口および燃料入口は、例えば、円形、扁平形、または角張っていてもよい。それにより、本方法に影響が及ぼされる。
【0044】
酸化剤の流動場は、酸化剤が流れる位置、方向、速度を説明するものである。その流動場は、結局は、幾何学的条件、つまり前記ユニットの構造、入口等々の間隔、ならびに調整された体積流量およびかかる圧力といった条件に依存する。
【0045】
幾つかのパラメーターは、利用される装置に依存し、したがって運転の間に影響され得ないことが顧慮されるべきである。そのパラメーターには、例えば通常は、触媒担体の構造およびセル密度が該当する。例えば、運転の間に閉鎖および開放され得る入口については事情は異なる。
【0046】
出口の配置および形状も、基本的には前記ユニットにより予め決められる。もちろん、本明細書では、例えば、切り替え可能な種々の開口部を有するユニット中に突き出た管を設けることも考えられるであろう。例えば、さらに内側へ突き出ている開口部が開放される場合に、それにより、いわば変換帯域が短縮され得る。それは、幾つかの運転状態において望ましい場合がある。
【0047】
一実施形態においては、変換された燃料は、燃焼装置、好ましくは内燃機関、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、またはガスエンジン、タービンもしくはバーナーに供給される。
【0048】
一実施形態においては、着火特性の調整は、燃焼装置の変動し得る性能要求を考慮しながら、燃焼装置の有害物質放出、特にNOx放出および煤放出が低減されるように調節される。有害物質放出の低減を目的として調節することで、燃料の変換のそのような最適化が達成される。もちろん、最大の有害物質低減を得ようとすることが合理的ではない場合も幾つかはあるであろう。例えば、有害物質放出が幾らかより高くても、それが明らかにより低い消費量を可能にする場合には、それを受け入れることが合理的な場合もある。
【0049】
一実施形態においては、変換された燃料は、排気ガス後処理装置に供給される。しばしば、排気ガスに、選択された時間間隔で燃料を供給することは慣例的なことである。そのために、排気ガスにエンジンと酸化触媒との間で燃料を添加するインジェクターが広く用いられている。この燃料は、酸化触媒において高められた熱発生を引き起こし、排気ガス流を加熱することができる。この加熱された排気ガス流は、煤粒子フィルターに存在する煤を焼き払うために用いることができる。それにより、煤粒子フィルターは再生される。
【0050】
この熱発生を可能にするために、酸化触媒のいわゆるライトオフ温度を下回ってはならない。その変換された燃料を、従来の燃料の代わりに使用することによって、このライトオフ温度を下げることができる。これにより、しばしば酸化触媒を加熱する必要がなくなる。今までそのためしばしば酸化触媒の加熱が必要とされていたのは、排気ガス再循環および高負荷等のエンジン内措置により排気ガス温度がエンジン後方で一層下がるからである。
【0051】
したがって、先行技術においては効率的な排気ガス後処理はまだ可能ではない。前記変換された燃料によって、排気ガス温度の十分な上昇は、より簡単に行うことができる。それにより、有害物質放出の大幅な低下を達成することができる。それはとりわけ、低い運転温度および/または低負荷の場合にもたらされる。それは、自動車の場合には、有害物質が人間にとって特に有害である都市部の運転においてしばしば起こる。
【0052】
その変換された燃料は、さらに吸蔵触媒中の窒素酸化物を広い温度窓において還元するために用いることができる。それにより、窒素酸化物は、低い排気ガス温度でも確実に還元される。
【0053】
本発明はまた、少なくとも1種の燃料の着火特性の調整のための装置であって、少なくとも1つの燃料入口および少なくとも1つの酸化剤入口を備える装置に関する。
【0054】
さらに、燃料の分散のための少なくとも1つの分散帯域には、
燃料のための少なくとも1つの分散構造物と、
燃料の少なくとも部分的な酸化のための少なくとも1つの酸化帯域であって、少なくとも1種の触媒を有する少なくとも1つの触媒担体を備える酸化帯域と、
燃料の少なくとも部分的な触媒的変換および/または熱的変換ための少なくとも1つの変換帯域と、
着火特性が変更された燃料のための少なくとも1つの出口と
が設けられている。
【0055】
その場合に、前記酸化剤入口、触媒担体、および分散帯域は、酸化帯域中で発生する熱を、分散帯域および/または変換帯域中に流れるガスまたはガス混合物に伝達することができるように配置および構成されている。
【0056】
本方法の実施が、本明細書に記載されている装置とは別の装置を用いても可能であるかもしれないとはいえ、前記方法を実施するためには、本発明による装置が特に適している。したがって、繰り返しを避けるために、以下の考察を補うために、本方法の記載が参照される。
【0057】
まずは、前記装置も前記方法と同様に、それぞれ1種類の純粋な燃料のみに適しているわけではないことが明らかにされるべきである。種々の燃料または燃料混合物を使用することも十分に可能である。
【0058】
酸化剤入口、触媒担体、および分散帯域を、酸化帯域中で発生する熱が、分散帯域および/または変換帯域中に流れるガスまたはガス混合物に伝達されるように配置および構成することが特に重要である。それにより、酸化帯域から分散帯域への、そして変換帯域への狙い通りの熱輸送をもたらすことが可能である。酸化前の過程の進行により、まずは分散が、また液体燃料の場合には気化が分散帯域において起こるので、そのような流れは、自発的には生じず、むしろ意図的な配置が必要である。流れるガスまたはガス混合物は、一般的に、酸化剤入口から来るガスまたはガス混合物であって、酸化帯域中を通って、または酸化帯域に沿って分散帯域へと流れるガスまたはガス混合物である。もちろんまた、例えば既に酸化された燃料、または酸化の中間生成物および変換反応生成物との混合が生ずることもある。
【0059】
その場合に、該装置は、前記少なくとも1つの分散帯域、前記少なくとも1つの酸化帯域、および前記少なくとも1つの変換帯域を備える、ちょうど1つの反応室を有することが可能である。一般的に該装置は、1つのハウジング内に収容されている。
【0060】
着火特性が変更された燃料のための出口について述べられるとしても、その出口を通じて、その他のガス、例えば供給される空気中に含まれる変換されていない窒素も流れ得ることが明らかであるはずである。
【0061】
既に述べたように、一実施形態においては、分散帯域は、液体燃料が分散帯域中で気化され得るように構成されている。
【0062】
一実施形態においては、前記触媒担体は、燃料のための分散構造物と酸化剤入口との間に、該酸化剤入口から流れるガスまたはガス混合物が分散帯域へと導かれ、それから引き続き、このガスまたはガス混合物が燃料と一緒に酸化帯域および/または変換帯域に導かれるように配置されている。
【0063】
まずは、酸化剤入口では、一般的に空気、つまり酸化剤として空気を含有するガス混合物が吹き込まれることが示されるべきである。どの場合にも、吹き込まれるガスまたはガス混合物は、酸化剤、通常は酸素を含有する。しかしながら、一般的に純粋な酸素が吹き込まれるのではなく、上述のように空気が吹き込まれる。
【0064】
前記実施形態は、一般的に、空気を、触媒担体の分散帯域とは反対側で吹き込み、その触媒担体中を通って分散帯域へと流れることによって実現される。もちろん、さらなる多くの変法が存在する。従ってたとえば触媒担体については、酸化剤を含有するガスまたはガス混合物が該触媒担体により再び跳ね返されて分散帯域へと流れ、その時に、熱が触媒担体により吸収され、そして分散帯域中に輸送されるように流れることもできる。
【0065】
一実施形態においては、前記触媒担体は、酸化剤が分散帯域に流れることを促す凹部および/または流路を有する。その際にもちろん大抵は、しかも、熱が触媒担体から、流れている酸化剤へと伝達され得ることが重要である。
【0066】
一実施形態においては、前記触媒担体は、開気孔構造または流路を有する。これは、同様に酸化剤の流れを促すべきである。該触媒担体は、このために、例えばセラミック製または金属製であってよい。フォーム構造またはハニカム構造が該当する。流路は、1平方インチ当たり少なくとも50個~1000個のセルの、好ましくは1平方インチ当たり200個から600個の間のセルのセル密度で構成されていてよい。フォーム構造は、好ましくは、20%~98%の、特に好ましくは50%から95%の間の気孔率を有する。
【0067】
一実施形態においては、燃料のための分散構造物および触媒担体は、平面的に、および/または同心円状に構成されており、その際、複数反復する配置物を有するモジュラー式構造様式が可能である。それは、必要に応じて1つのスタック内で行うことができる。それにより、非常に大きな熱的入力を、1つの小型のユニット中で変換することができる。それにより、同様に、非常に大きな気化装置出力を実現することができる。それは、今までの先行技術では達成できない。
【0068】
一実施形態においては、1つのスタックとしての配置が可能である。事実上の1つのスタックとしての配置も保護されるべきである。1つのスタックとして配置することによって、コンパクトな実施が可能である。
【0069】
一実施形態においては、燃料のための分散構造物は、ハウジングの内壁に配置された不織布および/またはハウジング内壁における構造化によって形成されている。それにより、液体燃料の場合には、流動速度が低減され得るので、蒸発のためにより多くの時間を利用できる。
【0070】
一実施形態においては、複数の面領域(Ebene)において、および/または1つの面領域につき複数の場所に、複数の酸化剤入口が配置されており、その際、該酸化剤入口は、孔および/またはスリットの形で構成されていてよく、かつ酸化剤が触媒担体に沿ってまたはその中を通って流れ得るように配置されている。さらに、酸化剤が、ガスまたはガス混合物の一部として流れ得ることを明らかにすべきである。
【0071】
同様に、一実施形態においては、複数の面領域において、および/または1つの面領域につき複数の場所に、複数の燃料入口が配置されており、その際、該燃料入口は、孔および/またはスリットの形で構成されていてよく、かつ燃料が分散帯域中に流れ得るように配置されている。
【0072】
一実施形態において本装置は、垂直式に、水平式に、または傾斜式に運転することができる。それにより、該装置の取り付けのためにより大きな自由度がある。さらに、それは、既に述べたように自動車での使用を可能にする。
【0073】
一実施形態においては、追加の加熱装置、特に電気式加熱装置が存在している。加熱を支持するために高温の排気ガスを使用することも考えられる。追加の加熱装置は、とりわけ始動のために用いられる。
【0074】
一実施形態においては、本装置は、該装置から出て行く燃料が、燃焼装置、好ましくは内燃機関、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、またはガスエンジン、タービンもしくはバーナーに供給され得るように構成されている。それにより、燃焼装置の運転時に、排気ガス中の有害物質の減少が達成され得る。
【0075】
一実施形態においては、本装置は、前記方法の実施のために構成されている。
【0076】
本発明を、以下の図面に基づきより詳細に説明するが、本発明を、ここに表される具体的な実施形態に制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】
図1は、本発明による方法を概略図で示している。
【
図2】
図2は、本発明による装置の立体図を示している。
【
図4】
図4は、概略図で、本発明による装置をスタック構造様式で示している。
【
図5】
図5は、燃料中のアルカンの分散に対する圧力の影響をグラフで示している。
【
図6】
図6は、燃料中のアルケンの分散に対する圧力の影響をグラフで示している。
【
図7】
図7は、燃料中の芳香族化合物の分散に対する圧力の影響をグラフで示している。
【
図8】
図8は、アルカンの分散に対する空気係数の影響をグラフで示している。
【
図9】
図9は、スーパーガソリンと同様の着火特性を有する燃料に対するディーゼルの着火特性の変化を示している。
【0078】
図1においては、本発明による方法が概略図で表されている。そのために、ハウジング1が存在している。ハウジング1の一方の側で、酸化剤として用いられる酸素を含む空気2が吹き込まれる。もう一方の側で燃料3が導入される。燃料3は分散帯域15に達し、ここには分散構造物として用いられる不織布4が存在する。燃料3は、不織布4中で気化し、酸化帯域6中に存在する触媒担体5へと流れ、そこで酸化が行われる。触媒担体5上には、貴金属触媒材料が存在しており、例えばγ-酸化アルミニウム上に白金が存在している。同時に、空気2は、触媒担体5中を通って流れ、その際、対流により、燃料3の気化のために用いられる不織布4へ熱が伝達される。熱輸送は、さらに熱放射により行われ、それは矢印8により表される。つまり、触媒担体5および不織布4の間には、触媒担体5から不織布4への流れだけでなく、不織布4から触媒担体5への流れも存在する。そのための詳細は、後にもう一度説明する。さらに、矢印9により表される変換帯域10の方向への流れが存在する。変換帯域10においては、気化された燃料3の熱的変換および触媒的変換が行われる。最後に、変換された燃料11、つまり着火特性が変更された燃料は、ハウジング1を出て行く。
【0079】
図2においては、立体図が示されており、その図から燃料供給および酸化剤供給がより詳細に理解される。ハウジング1の壁部においては、複数の矢印により表されている多数の燃料入口12が存在する。燃料入口12を有する壁部と反対側にある壁部において、多数の酸化剤入口13が存在する。また空気入口としても述べられる場合があるのは、酸化剤として酸素を含む空気2が吹き込まれるからである。したがって、つまり、複数の面領域において、酸化剤、より正確に言えば、酸化剤として酸素を含む空気2が流れ得ることが達成される。
【0080】
改めて、燃料入口12を有する壁部および酸化剤入口13を有する壁部の間に、つまりハウジング1内に、触媒担体5が配置されていることを認識することができる。燃料入口12を有する壁部には、不織布4も認識することができる。
【0081】
ハウジング1中に生ずる流れは、
図3において認識することができる。空気2は、酸化剤入口13中を通ってハウジング1中に流れる。ここでは、例示的にのみ3つの酸化剤入口13が3つの面領域で表されている。空気2は、この範囲内で触媒担体5中を通って、燃料3が分散され、気化される不織布4にまで流れる。この範囲内で、触媒担体5中に、触媒担体5の流れを促す流路14が配置されている。触媒担体5中を通って流れる時に、空気は、酸化に際して発生する熱を取り込む。触媒担体5中の熱伝導は、熱を流路へと輸送し、そこで空気2に伝達することを可能にする。流路14中で熱された空気は、不織布4へと流れる。
【0082】
そこで、燃料3の気化が行われる。空気2および気化された燃料3からなる混合気は再び触媒担体5へと逆流し、さらにそこで燃料3の酸化が行われ得る。空気2中に存在する酸素は酸化剤として用いられる。その場合に、逆流は、見てわかるように流路14の間の領域に向かって起こる。その場合に、触媒担体5中を通って、不織布4とは反対側への流れも起こる。そこから、流路14への流れが起こる。つまり、流路14およびその延長線上に、酸化剤入口13から触媒担体5中を通って不織布4までの流れが起きるが、その他の領域では逆流が起こるように、矢印により表される循環が生ずる。
【0083】
さらに加えて、流れ9が変換帯域10の方向に起こる。したがって、変換帯域10の方向での流れが生じ、その変換帯域で、燃料は、触媒的および熱的にさらに変換され、最後には、着火特性が変更された燃料11として、示されていない出口を通ってハウジング1を出て行き、内燃機関へと導かれる。
【0084】
図4には、スタック15の構造が示される。スタック15においては、上述の複数の配置物が隣り合って配置されている。矢印は、変換された燃料11の流動方向を示している。
【0085】
ここで、行われる変換および反応を、1つの例に基づいて、より詳細に記載することにする。出発物として、ディーゼルおよび空気が使用される。その場合に、ディーゼルおよび空気の合計に対する質量割合は、以下の通りである:アルカン22.1%、アルケン0.6%、芳香族化合物7.9%、および窒素51.9%。
【0086】
酸化過程にわたって、着火特性が変更されて出て行く燃料11において、0.2%の水素および5.7%の一酸化炭素の質量割合に導く部分酸化が部分的に行われる。全酸化分は、6.9%の水および8.8%の二酸化炭素の質量割合をもたらす。クラッキング反応、つまり変換反応は、3.1%のアルカン、12.5%のアルケン、および2.8%の芳香族化合物の質量割合をもたらす。したがって、着火特性が変更されて出て行く燃料11は、供給される空気2および供給される燃料3とは明らかに異なる組成を有する。窒素の質量割合だけが、51.9%で同じままである。
【0087】
図5から、供給される燃料3としてディーゼルが使用される場合に、着火特性が変更された燃料11において、種々のアルカンの濃度が生じ得ることが明らかである。その場合に、横軸上にそれぞれのアルカンの炭素原子の数がプロットされており、縦軸上には質量流量がプロットされている。種々の濃淡は、ハウジング1中に存在する圧力を示している。つまり、着火特性が変更された燃料11の組成は、反応が行われる圧力に決定的に依存している。
【0088】
図6~
図8においては、同様に、横軸には炭素原子の数がプロットされており、かつ縦軸には質量流量がプロットされている。
図6および
図7における種々の濃淡は、反応時の種々の圧力を示している。
図6においては、アルケンの分散が示されており、
図7においては、芳香族化合物の分散が示されている。
【0089】
図8における種々の濃淡は、種々の空気係数、つまり、空気2および燃料3の種々の質量比を示している。
【0090】
図9においては、縦軸において、着火遅れ時間(ms)がプロットされており、かつ横軸においては、着火温度の逆数(1/K)がプロットされている。右側にある実線の黒い曲線は、変更されていないディーゼルの推移を示している。正方形を伴う灰色の曲線は、着火特性が変更された燃料の推移を示しており、その際、その変更は、0.3barの圧力で行われた。三角形を伴う灰色の曲線は、変換を1.1barの圧力で行った場合の推移を示している。菱形を伴う灰色の曲線は、オクタン価95を有する変更されていないスーパーガソリンの推移を示している。つまり、ディーゼルの着火特性は、本方法により、スーパーガソリンの着火特性に近づけられることを認識することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 ハウジング、 2 酸化剤、 3 燃料、 4 分散構造物、 5 触媒担体、 6 酸化帯域、 8、9 矢印、 10 変換帯域、 11 変換された燃料、 12 燃料入口、 13 酸化剤入口、 14 流路、 15 スタック