(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】制動装置及び移動式什器
(51)【国際特許分類】
F16D 59/00 20060101AFI20230417BHJP
A47B 53/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
F16D59/00 A
A47B53/00 501F
(21)【出願番号】P 2019030677
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000561
【氏名又は名称】株式会社オカムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160270(JP,A)
【文献】特開2016-116606(JP,A)
【文献】特開2007-205483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 59/00
A47B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられた車輪による走行を制動可能な制動装置であって、
前記車輪及び前記回転軸を含み前記車輪の回転に応じて回転する回転体に、前記回転体とともに回転可能、かつ、前記回転軸に直交する移動方向において、前記移動方向と重力が作用する方向との相対関係に応じて退避位置と制動位置との間を移動可能に取り付けられた移動部と、
前記退避位置にある前記移動部が回避可能であるとともに前記制動位置にある前記移動部の前記回転軸の周方向への移動を規制可能な規制部と、
前記移動部と前記移動部が取り付けられた軸部とを有する移動部材を備え、
前記回転体には、前記移動方向に沿って貫通孔が形成され、
前記軸部は、前記貫通孔に前記移動方向に沿って移動可能に挿通されていることを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記退避位置または前記制動位置における前記移動部に対する前記規制部の相対位置関係を調整する調整部が設けられている請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記回転軸に対して、複数の前記移動部が取り付けられている
請求項1に記載の制動装置。
【請求項4】
前記車輪と、
前記車輪で走行可能な什器本体と、
請求項1~
3のうちのいずれか一項に記載された制動装置と、を備える移動式什器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置及び移動式什器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャスタなどの車輪装置を備えた移動式什器が知られている(例えば、特許文献1参照)。この移動式什器は、室内に固定して載置される固定棚を有し、固定棚の下方には前方に突出して床面に敷設されるベース部を備えている。ベース部には、ガイドレールが設けられており、ガイドレール上には、幅方向に移動可能な移動棚が設けられている。移動棚が移動することにより、移動棚の背後に設けられる固定棚を露出させることにより、固定棚にとの間での物品の収容や取出を行うことができる。
【0003】
また、この移動式什器には、地震発生時などにおける移動棚の不意の移動を防止するために、ベース部におけるガイドレールの間に、出没自在の移動規制手段が設けられている。移動規制手段をベース部から突出させることにより、起動規制手段がストッパとして機能して、地震発生時などにおける移動棚の不意の移動を抑制し、移動棚を移動させたいときには、移動規制手段をベース部に埋入させてストッパとしての機能を解除する。
【0004】
ところで、移動速度が一定以上となった物体の移動を規制する遠心力ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。この遠心力ブレーキ装置は、ブレーキシューユニットを回転中心方向にバネで付勢しておき、車輪が取り付けられた物体の移動速度が上がった場合に、ブレーキシューユニットがその移動方向に応じた遠心力で外方に移動することにより、ブレーキシューユニットの外側の先端にあるライニングがさらにその外側にあるブレーキドラムの内面に押し付けられることで、制動が発生するものである。
【0005】
また、制動パッドを回転中心方向にばねで付勢しておき、制動パッドの外側に制動部材が配置された過回転制動ローラがある(例えば、特許文献3参照)。この技術では、車輪が取り付けられた物体の移動速度が上がった場合には、その移動方向に応じた遠心力により制動パッドがさらに外側にある制動部材の内面に押し付けられることによって制動が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-78427号公報
【文献】特開2016-090055号公報
【文献】特開平7-265145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示された移動式什器では、移動規制手段がストッパとして機能していないときには、長周期の地震動によって移動棚が移動してしまうが、移動規制手段をストッパとして機能させることにより、このような状況でも移動棚の移動を抑制できる。ところが、移動棚を移動させるたびに移動規制手段を突出させたり埋入させたりという作業が必要となるので、操作性が悪くなる。
このような問題を解決する方法として、走行車両に搭載されるような特許文献2、3の遠心ブレーキ装置を提供することが考えられる。しかし、特許文献2,3に開示された遠心力ブレーキ装置では、ライニングや制動パッドさらにはバネなどを設けているため、構造が複雑であるとともに、摩擦やばねの弾性力の低下による経年劣化が大きいものであった。
さらに、遠心力が十分に発生するような速度で走行し得る走行車両においては、走行と制動とを切り替えられるものの、移動式什器のような低速で移動させるものに対して通常使用時と地震時などの非常時との間で走行と制動とを適切に切り替えることができないという問題があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とするとともに、経年劣化の少ない制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明に係る制動装置は、回転軸に取り付けられた車輪による走行を制動可能な制動装置であって、前記車輪及び前記回転軸を含み前記車輪の回転に応じて回転する回転体に、前記回転体とともに回転可能、かつ、前記回転軸に直交する移動方向において、前記移動方向と重力が作用する方向との相対関係に応じて退避位置と制動位置との間を移動可能に取り付けられた移動部と、前記退避位置にある前記移動部が回避可能であるとともに前記制動位置にある前記移動部の前記回転軸の周方向への移動を規制可能な規制部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る制動装置は、車輪が回転すると、回転体に取り付けられた移動部は、回転体とともに回転する。このため、移動部は、その移動方向の向きを回転軸との回転に応じて変化させ、これにより移動方向と重力が作用する方向との相対関係が変化する。そして、移動方向と重力が作用する方向とのなす角が鋭角で90度に近ければ近いほど、移動方向に移動させる重力による分力は小さくなり、移動部の移動速度は遅くなる。また、移動方向と重力が作用する方向とのなす角が鋭角で0度に近ければ近いほど、移動方向に移動させる重力による分力は大きくなって移動部の移動速度は速くなり、なす角が0度と180度とでは移動する向きが逆転する。従って、車輪及び回転軸を含む回転体とともに回転する移動部は、回転角度に応じて重力によって作用する移動方向への分力が変化し、これにより制動位置と、退避位置との間を往復動することとなる。ここで車輪の回転速度が遅い場合には、移動部が規制部に到達する前に退避位置まで退避することができるため、車輪は回転し続けることができる。一方、車輪の回転速度が速い場合には、移動部が制動位置から退避位置まで退避するに至らずに規制部に到達してしまうため、規制部によって移動部の回転軸の周方向への移動を規制することができる。このように、回転軸の回転に応じた遠心力を利用するものでなく、移動部の重力の作用による移動のみを利用することで、比較的低速でも車輪による走行を許容する状態と、車輪を制動する状態とを切り替えることができる。また、移動部は、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。なお、制動位置とは、移動部が回転軸とともに回転したときに、移動部が規制部に接触するなどして規制部によって移動部の回転が抑制される位置をいい、退避位置とは、移動部が回転軸とともに回転したときに、規制部による抑制を回避可能とされた位置をいう。移動部の移動可能範囲に移動部が規制部より規制される範囲がある場合には、当該範囲に含まれる位置が制動位置となる。また、移動部の移動可能範囲に移動部が規制部より抑制を回避できる範囲がある場合には、当該範囲に含まれる位置が退避位置となる。
【0010】
また、本発明に係る制動装置では、前記移動部に対する前記規制部の相対位置関係を調整する調整部が設けられていることが好ましい。
【0011】
このように構成されていることにより、車輪による走行を制動するための車輪の走行速度を調整することができる。例えば、車輪がある程度の高速となったときに移動を停止させたいときには、移動部に対する規制部の移動部に対する移動方向における相対位置関係を近づけて車輪による走行を制動しやすく調整し、車輪があるかなりの高速となるまで移動を停止させたくないときには、移動部に対する規制部の移動方向における相対位置関係を遠ざけて車輪による走行を制動しにくくすることができる。
【0012】
また、本発明に係る制動装置では、前記移動部と前記移動部が取り付けられた軸部とを有する移動部材を備え、前記回転体には、前記移動方向に沿って貫通孔が形成され、前記軸部は、前記貫通孔に前記移動方向に沿って移動可能に挿通されていることが好ましい。
【0013】
このように構成されていることにより、移動部と前記移動部が取り付けられた軸部とを有する移動部材を支持する支持部材としての機能を回転体に持たせることができるので、構成の簡素化を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係る制動装置では、前記回転軸に対して、複数の前記移動部が取り付けられていることが好ましい。
【0015】
このように構成されていることにより、複数の移動部のいずれかが規制部によって移動を規制されたときに車輪による走行が制動される。このため、制動動作を行わせるときに、早期に車輪による走行を制動させるとができる。
【0016】
また、本発明に係る制動装置では、前記規制部における前記移動部との接触部は、前記移動部における前記車輪の周方向に対して移動する方向に行くにしたがって、前記回転軸に近づく傾斜が形成されていることが好ましい。
【0017】
このように構成されていることにより、規制部と移動部とが接触して車輪による走行が制動される際の規制部と移動部の接触によるエネルギーを逃がすことができる。したがって、規制部と移動部の接触による衝撃を和らげることができる。
【0018】
また、本発明に係る制動装置では、前記規制部及び前記移動部の少なくとも一方が弾性体で形成されていることが好ましい。
【0019】
このように構成されていることにより、規制部と移動部が接触して車輪による走行が制動される際の規制部と移動部の接触によるエネルギーを弾性部材によって吸収することができる。したがって、規制部と移動部の接触による衝撃を和らげることができる。
【0020】
また、本発明に係る移動式什器は、上記の制動装置を備える。前記車輪と、前記車輪で走行可能な什器本体と、前記制動装置と、を備える
【0021】
このように構成されていることにより、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とするとともに、経年劣化の少なくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とするとともに、経年劣化の少ない制動装置及び移動式什器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係る移動式什器の斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る移動式什器の移動棚における下段部の抽斗を引き抜いた状態の斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る制動装置の斜視図である。
【
図4】(A)は、第1実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第1実施形態に係る制動装置の正面図である。
【
図5】制動装置による制動動作のメカニズムを説明する説明図である。
【
図6】(A)は、第2実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第2実施形態に係る制動装置の正面図である。
【
図7】(A)は、第3実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第3実施形態に係る制動装置の正面図である。
【
図8】(A)は、第4実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第4実施形態に係る制動装置の正面図である。
【
図9】(A)は、第5実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第5実施形態に係る制動装置の正面図である。
【
図10】(A)は、第6実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第6実施形態に係る制動装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態による制動装置及び移動式什器について説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る移動式什器の斜視図、
図2は、第1実施形態に係る移動式什器の移動棚における下段部の抽斗を引き抜いた状態の斜視図、
図3は、第1実施形態に係る制動装置の斜視図、
図4(A)は、第1実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第1実施形態に係る制動装置の正面図である。
【0026】
図1に示すように、第1実施形態に係る移動式什器1は、床面Fに設置された基台11を備えている。基台11には、什器本体である固定棚21及び移動棚31が載置されている。基台11には、固定棚設置部12及び移動棚設置部13が設けられている。固定棚設置部12は、基台11は、前後方向(奥行き方向)後方に設けられており、移動棚設置部13は、固定棚設置部12の前方に設けられている。
【0027】
固定棚設置部12は、左右方向(幅方向)にわたって延在し、その上方には固定棚21が設置されている。移動棚設置部13は、その高さが固定棚設置部12よりも低くされて左右方向にわたって延在している。移動棚設置部13の上面には、一対のガイドレール14が敷設されており、ガイドレール14の上方には移動棚31が設置されている。移動式什器1を室内に設置する際には、移動棚31が室内側、固定棚21が壁側に配置される。
【0028】
一対のガイドレール14は、移動棚設置部13の上面において左右方向に延在するように、前後方向に間隔を有して設けられている。固定棚21は、物品を収納可能として固定棚設置部12に設置されている。本実施形態では3個の固定棚21が左右方向に隣接して構成されており、
図1では、そのうちの2個の固定棚21は移動棚31に隠された位置に設けられている。
【0029】
移動棚31は、物品を収納可能として移動棚設置部13のガイドレール14上に設置さている。本実施形態では、2個の移動棚31が左右方向に隣接して構成されている。また、移動棚31は、ガイドレール14に案内されて移動棚設置部13上を左右方向に移動可能とされ、その移動範囲は移動棚設置部13の両端に設けられたストッパ15により移動棚設置部13の左右方向の範囲内とされている。
【0030】
移動棚31は、ガイドレール14上に載置された下部移動棚32を備えている。下部移動棚32の上方には上部移動棚33が載置されている。下部移動棚32は、箱状に形成された下部移動棚本体34を備えている。下部移動棚本体34の内部には、前後方向に移動させて引き出し及び格納自在とされた抽斗35が設けられている。
【0031】
また、
図2に示すように、下部移動棚本体34の左右下部には、それぞれ走行装置40が設けられている。走行装置40はガイドレール14に沿って走行する走行輪を有しており、走行装置40がガイドレール14上を走行することにより、移動棚31が左右方向に移動可能とされている。また、下部移動棚本体34の奥方には、底板34Aが設けられている。
【0032】
上部移動棚33は、箱状に形成された上部移動棚本体36を備えている。上部移動棚本体36の前面側には、上部移動棚33の開口を開閉するように設けられた観音開き可能に構成された観音扉37が設けられている。なお、上部移動棚33は、下部移動棚32に対して、前後方向及び左右方向を揃えて載置されている。
【0033】
また、移動棚31は、後方に設けられた固定棚21に対して、幅寸法(左右方向の寸法)及び高さ寸法が同一で構成されている。したがって、
図1に示すように、2個の移動棚31を移動棚設置部13の左端に移動させた場合、移動棚31の右側かつ固定棚21の前方に空間が形成される。この空間を利用して、固定棚21の内部に収容された物品の出し入れが可能とされている。
【0034】
図2に示すように、移動棚31の左側に設けられた走行装置40には、制動装置50が取り付けられている。制動装置50は、
図3及び
図4(A)(B)に示すように、車輪51と、車輪51の回転中心に取り付けられた回転軸52を備えている。車輪51及び回転軸52によって回転体が形成される。回転軸52は、走行装置40における走行輪と同軸に配置されており、車輪51は、ガイドレール14の延在方向に沿って移動する。
【0035】
制動装置50は、回転軸52を支持する支持部材53を備えている。支持部材53は、天板53Aと、天板53Aの両側方から垂下する側板53B、53Bを備えており、断面略「コ」字形状をなしている。回転軸52は、支持部材53の側板53B、53Bに支持されている。車輪51は、回転軸52の長手方向略中央位置であり、側板53B、53Bの略中間位置に配置されている。
【0036】
図4(B)に示すように、回転軸52における車輪51に固定された位置の左側には左貫通孔52Aが形成され、回転軸52における車輪51に固定された位置の右側には右貫通孔52Bが設けられている。左貫通孔52A及び右貫通孔52Bは、いずれも車輪51の径方向に沿って延在しており、左貫通孔52Aには、左移動部材54が挿入されており、右貫通孔52Bには右移動部材55が挿入されている。
【0037】
左移動部材54は、軸部である左移動軸54Aを備えており、左移動軸54Aの一端及び他端には、それぞれ第1左移動部54B及び第2左移動部54Cが取り付けられている。また、右移動部材55も左移動部材54と同様に、軸部である右移動軸55Aを備えており、右移動軸55Aの一端及び他端には、それぞれ第1右移動部55B及び第2右移動部55Cが取り付けられている。
【0038】
左移動部材54の左移動軸54Aは、回転軸52に設けられた左貫通孔52Aに沿って移動可能とされている。すなわち、左移動軸54Aに取り付けられた左移動部54B、54Cは、回転軸52の回転とともに向きを変える回転軸52に貫通する方向に沿う移動方向に移動可能である。
【0039】
右移動部材55の右移動軸55Aは、回転軸52に設けられた右貫通孔52Bに沿って移動可能とされている。すなわち、右移動軸55Aに取り付けられた右移動部55B、55Cは、回転軸52の回転とともに向きを変える回転軸52に貫通する方向に沿う移動方向に移動可能である。左移動部材54の移動方向と右移動部材55の移動方向は、いずれも回転軸52に直交する方向であり、互いに回転軸52周りに90度回転した方向にずれている。
【0040】
支持部材53における天板53Aには、左規制部材56及び右規制部材57が取り付けられている。左規制部材56は、回転軸52における左貫通孔52Aが設けられた位置の直上に配置されている。また、右規制部材57は、回転軸52における右貫通孔52Bが設けられた位置の直上に配置されている。
【0041】
左規制部材56は、ネジ部56Aを備えており、支持部材53の天板53Aに形成された左ネジ孔にネジ部56Aがねじ込まれて天板53Aに取り付けられている。右規制部材57は、ネジ部57Aを備えており、支持部材53の天板53Aに形成された右ネジ孔にネジ部57Aがねじ込まれて天板53Aに取り付けられている。
【0042】
左規制部材56及び右規制部材57の下端部には、それぞれ左規制部56B及び右規制部57Bが取り付けられている。左規制部56B及び右規制部57Bは、弾性体によって構成されている。
図4(A)に示すように、左規制部56Bと回転軸52との離間距離L1は、最長でも回転軸52から飛び出した第2左移動部54Cの最大飛出し長さL2(=第1左移動部54Bの最大飛出し長さ)よりも短くされている。
【0043】
同様に、右規制部57Bと回転軸52との離間距離L1は、最長でも回転軸52から飛び出した右移動部材55の第1右移動部55Bの最大飛出し長さL2(=第2右移動部55Cの最大飛出し長さ)よりも短くされている。これにより、左移動部54B、54C及び右移動部55B、55Cは、各移動方向における位置により、規制部56B、57Bに接触しない退避位置と、規制部56B、57Bに接触する制動位置とに位置することが可能である。そして、規制部56B、57Bは、制動位置にある移動部54B、54C、55B、55Cに対して接触して移動部54B、54C、55B、55Cの回転軸52の周方向への移動を規制する。
【0044】
左規制部材56は、天板53Aに対して回転させることにより、ネジ部56Aが左ネジ孔に沿って移動し上下動して回転軸52との離間距離を変更可能とされている。右規制部材57は、天板53Aに対して回転させることにより、ネジ部57Aが左ネジ孔に沿って移動し上下動して回転軸52との離間距離を変更可能とされている。ネジ部56A、57Aは、移動部54B、54C、55B、55Cに対する規制部56B、57Bの相対位置関係を調整する調整部として機能している。
【0045】
制動装置50は、
図2に示すように、取付ブラケット45を介して天板53Aが走行装置40のケースに接続されることによって、走行装置40に固定されている。制動装置50における車輪51は、走行装置40の走行に伴って、基台11上を走行する。したがって、移動棚31を移動させると、走行装置40が走行するとともに、制動装置50の車輪51が基台11上を走行する。
【0046】
本実施形態に係る移動式什器1では、3個の固定棚21のうちの2つの手前に移動棚31が配置され、手前に移動棚31が配置されていない固定棚21に対する収容物の出し入れが可能とされている。また、手前に移動棚31が配置されていたなかった固定棚21の前に移動棚31を移動させることにより、他の固定棚21に対する収容物の出し入れが可能となる。このように、移動式什器1は、移動棚31を移動させて使用するものである。
【0047】
移動棚31は、走行装置40がガイドレール14上を走行することによって移動する。走行装置40の走行に伴い、走行装置40に固定された制動装置50は、基台11の上を走行する。移動棚31の移動は、通常、低速で実行されるので、移動棚31を移動させる通常使用時には、制動装置50も低速で移動する。
【0048】
また、地震動、特に長周期の地震動を受けた場合などの非常時には、移動棚31は、走行装置40がガイドレール14上を走行することによって通常使用時と比較して高速で移動する。走行装置40の高速走行に伴って、制動装置50も高速で移動するが、制動装置50は、低速移動中には制動動作を行わないが、高速移動中に制動動作を行う。このため、地震動を受けた場合などの非常時には、制動装置50が作用して、回転軸52に取り付けられた車輪を制動可能とされており、走行装置40の走行及び移動棚31の移動を抑制することができる。以下に、制動装置50が低速移動の際には制動動作を行わず、高速移動の際には制動動作を行うメカニズムについて説明する。
【0049】
移動棚31が低速で移動する際、
図5(A-1)に示すように、制動装置50は、例えば、左移動部材54は鉛直方向を向いており、右移動部材55は水平方向を向いている。なお、左移動部材54及び右移動部材55が向いた方向は、そのまま左移動部材54及び右移動部材55の移動方向となる。
図5(A-1)の状態では、左移動部材54の移動方向と重力が作用する方向とのなす角は90度であり、左移動部材54の移動方向と重力が作用する方向とのなす角は0度である。また、左移動部材54では、第2左移動部54Cが制動位置に位置し、第1左移動部54Bが退避位置のうち、制動位置から最も遠い位置に位置しており、右移動部材55では、第1右移動部55Bが制動位置に位置し、第2右移動部55Cは退避位置のうち、制動位置から最も遠い位置に位置している。
【0050】
この状態で、走行装置40が走行して移動棚31が移動すると、制動装置50の車輪51が回転する。
図5(A-1)に示す状態から車輪51が回転すると、制動位置に位置する第1右移動部55Bが右規制部57Bに近づいていく。第1右移動部55Bが制動位置に位置したまま右規制部57Bの位置まで到達すると、第1右移動部55Bが右規制部57Bと接触する。ところが、第1右移動部55Bには重力が作用するので、第1右移動部55Bが右規制部57Bに近づいたときには、第1右移動部55Bは移動方向に沿って下向きに移動する。このとき、車輪51の回転速度が遅いことから、第1右移動部55Bは、重力の作用によって下方向にある程度の距離を移動することができ、
図5(B-1)に示すように、退避位置に移動する。このため、車輪51がさらに回転したときには、
図5(C-1)に示すように、第1右移動部55Bが右規制部57Bとの接触を回避する。したがって、車輪51がそのまま回転を続けて走行装置40が走行して移動棚31の移動を継続することができる。その後、第1右移動部55Bは退避位置のうち、制動位置から最も遠い位置に移動し、第2右移動部55Cが制動位置に移動する。
【0051】
また、車輪51が
図5(C-1)の状態にあるときには、第2左移動部54Cが制動位置に位置しており、車輪51の回転によって左規制部56Bに近づく。このときにも、第1右移動部55Bと右規制部57Bとの関係と同様にして、第2左移動部54Cには重力が作用するので、第2左移動部54Cが左規制部56Bに近づいたときには、第2左移動部54Cは移動方向に沿って下向きに退避位置まで移動している。このため、第2左移動部54Cは左規制部56Bとの接触を回避できる。以後、制動装置50は、車輪51が低速で回転している際には、左移動部材54及び右移動部材55は、車輪51の回転に伴って交互に下方向に移動し、左規制部材56及び右規制部材57との接触が防止される。その結果、制動装置50が作用することなく、走行装置40は走行し、移動棚31の移動を継続することができる。
【0052】
また、移動棚31が地震動などに曝されて高速で移動する際、
図5(A-2)に示すように、制動装置50は、例えば、左移動部材54は鉛直方向を向いており、右移動部材55は水平方向を向いている。また、左移動部材54では、第2左移動部54Cが下方に位置し、第1左移動部54Bが上方に位置している。また、右移動部材55では、第1右移動部55Bが回転軸52から離れた位置にあり、第2右移動部55Cが回転軸52に近い位置にある。
【0053】
この状態で、走行装置40が走行して移動棚31が高速で移動すると、制動装置50の車輪51が回転する。
図5(A-2)に示す状態から車輪51が回転して、第1右移動部55Bが右規制部57Bに近づいたとき、第1右移動部55Bには重力が作用するものの、第1右移動部55Bが右規制部57Bの位置まで到達するまでの間における移動量は少なくなる。このため、車輪51が回転し第1右移動部55Bが右規制部57Bの位置に到達したときに、第1右移動部55Bが回避位置まで到達できず、
図5(B-2)に示すように、第1右移動部55Bが右規制部57Bに接触する。その結果、
図5(C-2)に示すように、第1右移動部55Bは、回転軸52の周方向への移動が規制され、車輪51の回転が停止させられる。その結果、制動装置50が走行装置40に制動をかけることになる。したがって、長周期の地震動に曝されて移動棚31が高速で移動するようなときには、制動装置50によって走行装置40の走行を中止させ、移動棚31の移動が停止させることができる。
【0054】
上記の実施形態に係る制動装置50は、移動棚31が低速で移動しているときには制動動作を行わず、移動棚31が低速で移動しているときには制動動作を行う。このため、収容物の出し入れを行う固定棚21を選ぶために移動棚31を低速で移動させるなどの通常使用時には、制動装置50が制動動作を行わず、移動棚31を容易に移動させることができる。また、地震動に見舞われ、移動棚31が高速で移動しようとするなど非常時には、制動装置50が制動動作を行うことにより、移動棚31の移動が抑制される。したがって、制動装置50により、移動式什器1の通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とすることができる。
【0055】
また、制動装置50による走行装置40による走行の制動は、回転軸52の回転に応じた遠心力を利用することなく、移動部54B、54C、55B、55Cの重力の作用による移動のみを利用することで、通常使用時に低速で車輪51による走行を許容する状態と、非常時に高速で移動しようとする車輪51を制動する状態とを切り替えることができる。また、移動部54B、54C、55B、55Cは、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。なお、制動装置50では、ライニングやブレーキシューといった高摩擦下での摩耗を伴う部材や弾性力によって制動動作を行わせるためのバネなどを用いていないが、これらの部材の使用を妨げるものではない。
【0056】
また、上記の実施形態に係る制動装置50では、規制部材56、57には、ネジ部56A、57Aが設けられており、規制部材56、57を回転(自転)させることにより、支持部材53における天板53Aからの飛出し量を調整可能とされており、規制部材56、57の下端に取り付けられた規制部56B、57Bと回転軸52の距離を調整可能とされている。このため、制動装置50が高速で移動した際に、移動部材54、55が接触部としての規制部56B、57Bに接触する際の制動装置50の移動速度を調整することができる。
【0057】
また、制動装置50が移動する際、回転軸52の回転速度が速いほど、移動部材54、55が移動を開始するタイミングが遅くなる。移動部材54、55が規制部材56、57の直下に配置されたときにおける移動部材54、55の飛出し量は、回転軸の回転速度が速いほど大きくなるので、規制部56B、57Bと回転軸52との距離を変えると、移動部材54、55が規制部56B、57Bに接触して移動が規制される際の制動装置50の移動速度が変化する。具体的に、規制部56B、57Bと回転軸52との距離を短くすると、移動部材54、55が規制部56B、57Bに接触して移動が規制される際の制動装置50の移動速度は遅くなる。また、規制部56B、57Bと回転軸52との距離を長くすると、移動部材54、55が規制部56B、57Bに接触して移動が規制される際の制動装置50の移動速度は速くなる。ここで、規制部56B、57Bと回転軸52との距離は、規制部材56、57の天板53Aからの飛出し量で定められ、規制部材56、57の天板53Aからの飛出し量は、規制部材56、57のネジ部56A、57Aを回転させて規制部材56、57と回転軸52の距離を変えるのみで調整可能である。このため、規制部材56、57の天板53Aからの飛出し量、さらには、移動部材54、55が規制部56B、57Bに接触する際の制動装置50の移動速度を容易に調整することができる。
【0058】
なお、規制部56B、57Bを車輪51の移動方向に沿った方向に移動可能としておき、規制部56B、57Bにおける天板53Aからの飛出し量の調整に代えて、車輪51の移動方向に沿った方向に対する規制部56B、57Bの移動量を調整可能としてもよい。また、天板53Aからの飛出し量及び車輪51の移動方向に沿った方向に対する移動量の両方を調整可能としてもよい。
【0059】
また、上記の実施形態に係る制動装置50では、移動部材54、55が回転軸52を貫通し、回転軸52を通して移動可能とされている。このため、制動装置50の簡素化を図ることができ、制動装置50の全体をコンパクトにすることができる。なお、移動部材は、回転軸52を貫通していなくてもよい。移動部材が回転軸52を貫通しない制動装置の例については、後の他の実施形態で説明する。
【0060】
また、上記の実施形態に係る制動装置50では、複数の移動部、上記の実施形態では4つの移動部54B、54C、55B、55Cが設けられている。このため、移動部材54、55のいずれかが制動部材に接触することで、制動装置50が制動動作を行うので、制動装置50に制動動作を行わせるときに、早期に車輪51の制動を行うことができる。
【0061】
また、移動部材54、55の2つの移動部材の移動方向は、回転軸52周りに90度ずれた方向となっている。このため、車輪51の速度が、移動部材54、55が規制部材56、57に接触する速度になった後、1/4回転する間には、移動部材54、55が規制部材56、57に接触することになる。車輪51が1/4回転する間に、制動装置50が制動動作を開始することができる。
【0062】
また、上記の実施形態に係る制動装置50では、規制部材56、57の下端部には、それぞれとりつけられた規制部56B、57Bは弾性体で構成されている。したがって、規制部材56、57に移動部材54、55が接触して車輪51が制動される際の接触によるエネルギーを吸収することができる。したがって、移動部材54、55と規制部材56、57の接触による衝撃を和らげることができる。なお、移動部54B、54C、55B、55Cが弾性体で構成されていてもよい。
【0063】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図6(A)は、第2実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第2実施形態に係る制動装置の正面図である。
図6に示すように、第2実施形態に係る制動装置60は、車輪61を備えている。
図6(B)に示すように、車輪61は、2枚の円盤を有するいわゆる双輪型の車輪である。車輪61の回転中心に回転軸62が取り付けられている。
【0064】
制動装置60は、支持部材63を備えている。支持部材63は、天板63Aと、天板63Aの両側方から垂下するブラケット63B、63Bを備えている。
図6(A)に示すように、ブラケット63Bは、略「く」字形状をなしており、車輪61の走行方向にややずれた位置から回転軸62を支持している。
【0065】
回転軸62における長手方向略中央部には、回転軸62の径方向に沿って延在する貫通孔62Aが設けられており、貫通孔62Aには、移動部材64が挿入されている。移動部材64は、移動軸64Aを備えており、移動軸64Aの一端及び他端には、それぞれ第1移動部64B及び第2移動部64Cが取り付けられている。
【0066】
支持部材63における天板63Aにおける下面(車輪61側の面)には、制動部材66が設けられている。制動部材66は、回転軸62における貫通孔62Aが形成された位置の直上に配置されている。制動部材66は、
図6(A)に示すように、下面が断面曲面状をなしており、移動部材64における車輪61の周方向に対して移動する方向に行くにしたがって、回転軸62に近づく傾斜を有している。また、制動部材66は、弾性体によって構成されている。支持部材63は、例えば第1実施形態と同様にして、取付ブラケット45(
図2参照)を介して走行装置40におけるケースに接続されている。
【0067】
上記の実施形態に係る制動装置60は、上記第1実施形態と同様、通常使用時には制動動作を行わず、移動棚31を容易に移動させることができる。また、移動棚31が高速で移動しようとするなど非常時には、制動装置60が制動動作を行うことにより、移動棚31の移動が抑制される。したがって、制動装置60により、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とすることができる。また、移動部64B、64Cは、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。
【0068】
また、上記の実施形態に係る制動装置60は、双輪型の車輪61の間に移動部材64を設けている。このため、車輪61によって移動部材64や制動部材66を見えにくくしているので、意匠性を高めることができる。また、ブラケット63B、63Bは、車輪61の走行方向にややずれた位置から回転軸62を支持している。このため、ブラケット63B、63Bが車輪61の直上位置からずれた位置に取り付けられるので、ブラケット63B、63Bの取付スペースを確保しやすくすることができる。
【0069】
また、上記の実施形態に係る制動装置60において、制動部材66は、下面が断面曲面状をなしており、移動部材64における車輪61の周方向に対して移動する方向に行くにしたがって、回転軸62に近づく傾斜を有している。このため、移動部材64と制動部材66とが接触して車輪61が制動される際の移動部材64と制動部材66の接触によるエネルギーを逃がすことができる。したがって、移動部材64と制動部材66の接触による衝撃を和らげることができる。
【0070】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図7(A)は、第3実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第3実施形態に係る制動装置の正面図である。
図7(B)に示すように、本実施形態の制動装置は、第1実施形態における走行装置40の車輪41を制動装置の車輪としても利用している。
図7(B)に示すように、車輪41は、断面略「L」字形状のガイドレール16上を走行可能である。ガイドレール16は、車輪41の外側を支持している。また、車輪41は、回転軸42を中心として回転する。
【0071】
車輪41の内側には、制動装置ケース71が取り付けられている。制動装置ケース71は、
図7(A)に示すように、車輪41と略同一径の円盤状をなしており、車輪41の内側の全面に重ねて取り付けられている。制動装置ケース71には、第1収容部71A~第4収容部71Dが設けられている。第1収容部71A~第4収容部71Dは、いずれも車輪41の径方向に沿って延在しており、車輪41の周方向に90度間隔で配置されている。第1収容部71A~第4収容部71Dには、それぞれ第1ピン72~第4ピン75が収容されている。
【0072】
第1ピン72は、移動部である頭部72Aと、脚部72Bとを備えている。第2ピン73~第4ピン75も同様に、移動部である頭部73A~75Aと、脚部73B~75Bを備えている。制動装置ケース71の外周に沿った位置における第1収容部71Aには、内側に張り出す張出突起が設けられている。張出突起の内側には開口が形成されており、この開口は、第1ピン72の脚部72Bは通過可能であるが、頭部72Aは通過不能の大きさとされている。このため、第1収容部71Aからは第1ピン72の脚部72Bが突出し、頭部72Aで支えられるようになっている。同様に、第2収容部71B~第4収容部71Dにも張出突起が設けられており、第2収容部71B~第4収容部71Dからは、第2ピン73~第4ピン75の脚部73B~75Bが突出し、頭部73A~75Aで支えられるようになっている。
【0073】
車輪41を含む制動装置70の上方近傍には、
図1に示す移動棚31における下部移動棚本体34の底板34Aが設けられている。制動装置70と下部移動棚本体34の底板34Aとの離間距離は、第1ピン72~第4ピン75における脚部72B~75Bの長さよりも短くされている。
【0074】
上記の実施形態に係る制動装置70は、第1ピン72~第4ピン75の移動方向と重力が作用する方向との相対関係により、車輪41が回転する間における第1ピン72~第4ピン75が退避位置まで移動する時間を利用して、制動動作を行うようにしている。具体的に、制動装置70が低速で移動しているときには、上方に位置する収容部(
図7(A)では第3収容部71C)において、ピン(
図7(A)では第3ピン74)が収容部に収容されて、下部移動棚本体34の底板34Aに接触することなく、車輪41が回転する。また、制動装置70が高速で移動しているときには、上方に位置する収容部(
図7(A)では第3収容部71C)において、ピン(
図7(A)では第3ピン74)が飛び出した状態となり、下部移動棚本体34の底板34Aにピンが接触して車輪41に対する制動動作が行われる。このように、制動装置70は、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とすることができる。また、ピン72~75は、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。
【0075】
また、制動装置70は、走行装置の車輪41に制動装置ケース71を取り付けて形成されている。このため、制動装置における車輪を別個に設ける必要がないので、部品点数の削減に寄与することができる。なお、本実施形態では、制動装置70が高速で移動しているときにピン72~75が下部移動棚本体34の底板34Aに接触するようにされ、底板34Aが制動部材として機能しているが、底板34Aの裏面に、下方に突出する制動部材を別途設けるようにしてもよい。
【0076】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図8(A)は、第4実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第4実施形態に係る制動装置の正面図である。
図8(B)に示すように、本実施形態の制動装置80は、第3実施形態における制動装置70と同様に、ガイドレール16上を走行する走行装置40の車輪41を制動装置の車輪としても利用している。
【0077】
車輪41の内側には、長円ロッド81が取り付けられている。長円ロッド81は、
図8(A)に示すように、移動部である長円孔82を備えており、長円孔82が車輪41の回転軸42に取り付けられている。長円孔82の長手方向は、長円ロッド81の長手方向と共通する方向に配置されている。
【0078】
図8(A)に示すように、回転軸42が長円孔82における中心から遠い側の縁(以下「外側縁」という)に接した状態にあるときには、回転軸42から長円ロッド81における遠い側の端部(以下「外側端部」という)までの長さは、車輪41の半径よりも長くされている。また、回転軸42が長円孔82における中心に近い側の縁(以下「内側縁」という)に接した状態にあるときには、回転軸42から長円ロッド81における遠い側の端部までの長さは、車輪41の半径よりも短くされている。
【0079】
上記の実施形態に係る制動装置80は、長円ロッド81の移動方向と重力が作用する方向との相対関係により、車輪41が回転する間における長円ロッド81が退避位置まで移動する時間を利用して、制動動作を行うようにしている。具体的に、制動装置80が低速で移動するときには、長円ロッド81は、外側端部の高さが回転軸42よりも高くなるあたりに差し掛かると、回転軸42が長円孔82の外側縁から離れて移動を開始し、外側端部が上方に位置するときには、長円孔82の内側縁に回転軸42が接する。このため、回転軸42と長円ロッド81の外側端部の距離は、車輪41の半径よりも短くなるので、長円ロッド81が底板34Aに接触しない。
【0080】
また、制動装置80が高速で移動するときには、長円ロッド81は、外側端部の高さが回転軸42よりも高くなるあたりに差し掛かっても移動を開始せず、外側端部が上方に位置するときには、長円孔82の内側縁に回転軸42が接しないようになる。この場合、回転軸42と長円ロッド81の外側端部の距離は、車輪41の半径よりも長くなり、長円ロッド81が底板34Aに接触するので、車輪41に対する制動動作が行われる。このように、制動装置80は、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とすることができる。また、長円ロッド81は、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。
【0081】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
図9(A)は、第5実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第5実施形態に係る制動装置の正面図である。制動装置90は、車輪91と、車輪91の回転中心に取り付けられた回転軸92と、回転軸92を支持する支持部材93と、を備えている。支持部材93は、第1実施形態と同様の天板93Aと、天板93Aの両側方から垂下する図示しない側板を備えている。回転軸92は、支持部材93に支持されている。車輪91は、回転軸92の長手方向略中央位置に配置されている。
【0082】
図9(B)に示すように、回転軸92における車輪91の左右位置には左貫通孔92A及び右貫通孔92Bが形成されている。左貫通孔92Aには、左移動部材94が挿入され、右貫通孔92Bには右移動部材95が挿入されている。左移動部材94は、左移動軸94Aを備えており、左移動軸94Aの一端には、第1左保持部94Bが設けられ、第1左保持部94Bには第1左移動部94Cが設けられている。左移動軸94Aの他端には、第2左保持部94Dが設けられ、第2左保持部94Dには第2左移動部94Eが設けられている。第1左移動部94C及び第2左移動部94Eは、回転軸92と略平行に延在する棒状の部材であり、第1左保持部94Bから車輪91の反対方向に向けて延在している。
【0083】
右移動部材95は、右移動軸95Aを備えており、右移動軸95Aの一端には、第1右保持部95Bが設けられ、第1右保持部95Bには第1右移動部95Cが設けられている。右移動軸95Aの他端には、第2右保持部95Dが設けられ、第2右保持部95Dには第2右移動部95Eが設けられている。第1右移動部95C及び第2右移動部95Eは、回転軸92と略平行に延在する棒状の部材であり、第1右保持部95Bから車輪91の反対方向に向けて延在している。
【0084】
天板93Aには、左制動部材96及び右制動部材97が取り付けられている。左制動部材96は、ネジ部96Aを備えており、天板93Aに形成された左ネジ孔に取り付けられている。右制動部材97は、ネジ部97Aを備えており、天板93Aに形成された右ネジ孔に取り付けられている。
【0085】
左制動部材96及び右制動部材97の下端部には、それぞれ左規制部96B及び右規制部97Bが取り付けられている。規制部96B、97Bと回転軸92との離間距離は、最長でも回転軸から飛び出した移動部材94、95の飛出し長さよりも短くされている。制動部材96、97は、天板93Aに対して回転させることにより、ネジ部96A、97Aがネジ孔に沿って移動して上下動可能とされている。
【0086】
上記の実施形態に係る制動装置90は、上記第1実施形態と同様、通常使用時には制動動作を行わず、移動棚31を容易に移動させることができる。また、移動棚31が高速で移動しようとするなど非常時には、制動装置90が制動動作を行うことにより、移動棚31の移動が抑制される。したがって、制動装置90により、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とすることができる。また、移動部64B、64Cは、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。
【0087】
また、上記の実施形態に係る制動装置90では、移動部材94、95は、第1保持部94B、95Bに設けられた第1移動部94C、95C及び第2保持部94D、95Dに設けられた第2移動部94E、95Eを備えている。第1移動部94C、95C及び第2移動部94E、95Eは、移動軸94A、95Aの直上位置からずれた位置まで延在している。このため、移動軸94A、95Aに制動部材を設けるスペースが取りにくい場合でも、制動部材を設けることができる。
【0088】
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態について説明する。
図10(A)は、第6実施形態に係る制動装置の側面図、(B)は、第6実施形態に係る制動装置の正面図である。制動装置100は、車輪101と、車輪101の回転中心に取り付けられた回転軸102と、回転軸102を支持する支持部材103と、を備えている。支持部材103は、第1実施形態と同様の天板103Aと、天板103Aの両側方から垂下する図示しない側板を備えている。回転軸102は、支持部材103に支持されている。車輪101は、回転軸102の長手方向略中央位置に配置されている。
【0089】
図10(B)に示すように、回転軸102における車輪101の左右位置には、それぞれ左移動部材104及び右移動部材105が設けられている。左移動部材104は、左移動軸104Aと、左移動軸104Aの一端側(一側)及び他端側(他側)にそれぞれ設けられた第1左移動部104B及び第2左移動部104Cを備えている。また、回転軸102における車輪101の左側には、回転軸102から車輪101の半径方向に延びる左板部材104Xが取り付けられており、左移動部材104の左移動軸104Aは、左板部材104Xに設けられた貫通孔104Yに貫通されている。
【0090】
右移動部材105は、右移動軸105Aと、右移動軸105Aの一端側及び他端側にそれぞれ設けられた第1右移動規制部105B及び第2右移動規制部105Cを備えている。また、回転軸102における車輪101の右側には、回転軸102から車輪101の半径方向に延びる右板部材105Xが取り付けられており、右移動部材105の右移動軸105Aは、右板部材105Xに設けられた貫通孔105Yに貫通されている。左板部材104Xと右板部材105Xの法線は直交している。
【0091】
天板103Aには、左制動部材106及び右制動部材107が取り付けられている。左制動部材106は、ネジ部106Aを備えており、天板103Aに形成された左ネジ孔に取り付けられている。右制動部材107は、ネジ部107Aを備えており、天板103Aに形成された右ネジ孔に取り付けられている。左制動部材106及び右制動部材107の下端部には、それぞれ左弾性部材106B及び右弾性部材107Bが取り付けられている。
【0092】
上記の実施形態に係る制動装置100は、上記第1実施形態と同様、通常使用時には制動動作を行わず、移動棚31を容易に移動させることができる。また、移動棚31が高速で移動しようとするなど非常時には、制動装置100が制動動作を行うことにより、移動棚31の移動が抑制される。したがって、制動装置100により、通常使用時は走行可能としつつ非常時には制動可能とすることができる。また、移動部64B、64Cは、単に重力による作用によって移動方向に往復動するだけの構成であるため、簡易な構成として経年劣化を小さくすることができる。
【0093】
また、上記の実施形態に係る制動装置100では、移動部材104、105は、移動軸104A、105Aに設けられた第1移動規制部104B、105B及び第2移動規制部104C、105Cを備えている。移動部材104、105は、回転軸102に設けられた板部材104X、105Xを貫通して設けられている。このため、回転軸102の上方に制動部材を設けるスペースが取りにくい場合でも、制動部材を設けることができる。
【0094】
なお、上記の各実施形態においては、制動装置を移動式什器1に設けたが、他の物品に設けることもできる。例えば、キャスタ付の椅子やテーブル、ホワイトボードなどにおけるキャスタに上記各実施形態の制動装置を設けてもよい。また、これらの場合にも、制動装置における車輪として、キャスタにおける車輪を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 移動式什器
11 基台
14、16 ガイドレール
21 固定棚
31 移動棚
40 走行装置
41 車輪
42 回転軸
50、60、70、80、90、100制動装置
51 車輪
52 回転軸
52A 左貫通孔
52B 右貫通孔
53 支持部材
53A 天板
53B 側板
54 左移動部材
54A 左移動軸
54B 第1左移動部
54C 第2左移動部
55 右移動部材
55A 右移動軸
55B 第1右移動部
55C 第2右移動部
56 左規制部材
56A ネジ部
56B 規制部
57 右規制部材
57A ネジ部
57B 規制部