IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大王製紙株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-吸収性物品 図1
  • 特許-吸収性物品 図2
  • 特許-吸収性物品 図3
  • 特許-吸収性物品 図4
  • 特許-吸収性物品 図5
  • 特許-吸収性物品 図6
  • 特許-吸収性物品 図7
  • 特許-吸収性物品 図8
  • 特許-吸収性物品 図9
  • 特許-吸収性物品 図10
  • 特許-吸収性物品 図11
  • 特許-吸収性物品 図12
  • 特許-吸収性物品 図13
  • 特許-吸収性物品 図14
  • 特許-吸収性物品 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/495 20060101AFI20230417BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20230417BHJP
   A61F 13/534 20060101ALI20230417BHJP
   A61F 13/535 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
A61F13/495
A61F13/511 300
A61F13/534 100
A61F13/535 200
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019030751
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020130803
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】大竹 雄也
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-18656(JP,A)
【文献】特開2017-153768(JP,A)
【文献】特開平7-184946(JP,A)
【文献】特開2017-176315(JP,A)
【文献】特開2016-52400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収体と、前記吸収体の肌側を覆う親水性の表面シートとを備えた吸収性物品において、
前記吸収体に、着用者の股下部に対応する位置又はその近傍から背側に延びる吸収体の欠損領域が形成されるとともに、前記表面シートが前記欠損領域において前記吸収体に沿って配置されており、前記欠損領域の底面及び側面に沿って配置された部分の前記表面シートが撥水処理によって撥水性を有しており、
前記欠損領域は、吸収性物品の平面視において、長手方向中心線の両側にそれぞれ、着用者の股下側から背側に向けて、吸収性物品の長手方向に長い縦長の形状で形成される長手方向平行部と、その長手方向平行部の背側の端部に連続して長手方向中心線側に傾斜する傾斜部とが配置され、前記左右の傾斜部の背側の端縁同士が長手方向中心線上において接続していることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
肌側面の背側の端部に、股下側に向けて開口するポケット空間が設けられており、前記欠損領域の背側の端縁は、前記ポケット空間の内部まで延びている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記欠損領域は、前記吸収体を厚み方向に貫通する吸収体の貫通部又は前記吸収体の肌側面に形成された吸収体の凹部からなる請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記吸収体が、肌側の上層吸収体と非肌側の下層吸収体とからなり、
前記欠損領域が、少なくとも前記上層吸収体を欠損させた部分からなる請求項1~3いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主には使い捨てパッド、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、おりものシート等の吸収性物品に係り、特に軟便を背側に拡散させるため、着用者の股下部に対応する位置から背側に延びる吸収体の欠損領域が備えられた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品は、通常、少なくとも、表面側に配置される透液性の表面シートと、裏面側に配置される不透液性の裏面シートと、これらの両シート間に介在された吸収体とにより物品本体が構成されており、前記表面シートを透過した排泄物が吸収体に吸収、保持されるようになっている。
【0003】
従来より、このような吸収性物品として、排泄物、特に軟便を外部に漏らすことなく吸収、保持できるようにしたものが種々提案されている。例えば、下記特許文献1においては、トップシートの上部に前身頃から後身頃にかけて配置され、前記前身頃から前記後身頃側にかけて複数の排泄液流入孔が形成されるとともに前記後身頃側に便通過用開口部が形成されたスキンコンタクトシートを備えた使い捨ておむつが提案されており、また、下記特許文献2においては、吸収体が、排尿域において、周囲よりも薄くなった凹型立体形状部分を有している吸収性物品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-50621号公報
【文献】特開2018-42930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、前記スキンコンタクトシートを備えることによって、着用者の肌には、まずスキンコンタクトシートが接触するため、スキンコンタクトシートの下部に配置されるトップシートは、着用者の肌と直接接触し難くなり、たとえトップシート上に便が残存していたとしても、その便と着用者の肌とが直接接触する機会を大幅に減少させるという効果が記載されている。しかしながら、仰向け寝のときなどのように、吸収性物品の肌側面に臀部の圧力がかかった状態で軟便が排泄された場合、排泄された軟便は、臀部の圧力によって前後方向への流れが塞き止められ、幅方向に流れるようになる。その結果、軟便がギャザーから浸み出したり股部から漏れたりする所謂横漏れが発生するおそれがあった。また、上記特許文献2記載の吸収性物品は、凹型立体形状部分に軟便等を捕捉することによって漏れを防止しようとしたものであるが、多量の軟便が排泄された場合、この凹型立体形状部分から溢れ出て、上述と同様に横漏れが発生するおそれがあった。
【0006】
また、近年では、長手方向への拡散を向上させることを目的として、表面シートの肌当接面に長手方向に沿って畝部と溝部とが交互に複数配置されたものが提案されているが、肌を伝って幅方向に拡散する軟便を塞き止めることは難しいという課題があった。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、多量の軟便が排泄された場合においても、横漏れが確実に防止できるようにした吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、吸収体と、前記吸収体の肌側を覆う親水性の表面シートとを備えた吸収性物品において、
前記吸収体に、着用者の股下部に対応する位置又はその近傍から背側に延びる吸収体の欠損領域が形成されるとともに、前記表面シートが前記欠損領域において前記吸収体に沿って配置されており、前記欠損領域の底面及び側面に沿って配置された部分の前記表面シートが撥水処理によって撥水性を有しており、
前記欠損領域は、吸収性物品の平面視において、長手方向中心線の両側にそれぞれ、着用者の股下側から背側に向けて、吸収性物品の長手方向に長い縦長の形状で形成される長手方向平行部と、その長手方向平行部の背側の端部に連続して長手方向中心線側に傾斜する傾斜部とが配置され、前記左右の傾斜部の背側の端縁同士が長手方向中心線上において接続していることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明では、前記吸収体に、着用者の股下部に対応する位置又はその近傍から背側に延びる吸収体の欠損領域が形成されるとともに、前記表面シートが前記欠損領域において前記吸収体に沿って配置されており、この欠損領域に配置された部分の前記表面シートが撥水性を有しているため、多量の軟便が排泄された場合においても、前記欠損領域によって形成された凹部に軟便が流れ込むとともに、撥水性を有する表面シートの表面を伝って背側に素早く流れる結果、軟便が股下部に滞留せず、横漏れが生じにくくなる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、肌側面の背側の端部に、股下側に向けて開口するポケット空間が設けられており、前記欠損領域の背側の端縁は、前記ポケット空間の内部まで延びている請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明では、肌側面の背側の端部に、股下側に向けて開口するポケット空間が設けられており、前記欠損領域の背側の端縁が前記ポケット空間の内部まで延びているため、前記欠損領域を覆う撥水性の表面シートの表面を伝って背側に向けて流れた軟便が、前記ポケット空間内に入り込んで貯留されるようになる。このため、多量の軟便が排泄された場合においても、軟便の漏れがより確実に防止できるようになる。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記欠損領域は、前記吸収体を厚み方向に貫通する吸収体の貫通部又は前記吸収体の肌側面に形成された吸収体の凹部からなる請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明では、前記欠損領域が、吸収体を厚み方向に貫通する吸収体の貫通部によって形成されるか、前記吸収体の肌側面に設けられた吸収体の凹部によって形成されている。吸収体の貫通部によって形成した場合には、軟便が流れる流路の断面積を大きくできるため、撥水性の表面シートの表面を伝ってより多くの軟便を流すことができるようになる。また、吸収体の凹部によって形成した場合には、欠損領域における吸水能力が確保されるため、表面シートを透過した若干量の水分や周囲から拡散した水分を吸収して、前記欠損領域を設けたことによる吸収体の吸収能力の低下を抑えることができるようになる。
【0014】
請求項4に係る本発明として、前記吸収体が、肌側の上層吸収体と非肌側の下層吸収体とからなり、
前記欠損領域が、少なくとも前記上層吸収体を欠損させた部分からなる請求項1~3いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0015】
上記請求項4記載の発明では、前記吸収体を上層吸収体と下層吸収体とから構成した場合において、前記欠損領域を、少なくとも前記上層吸収体を欠損させた部分によって構成している。即ち、上層吸収体のみを厚み方向に貫通させた場合には、底部に下層吸収体が配置された凹部によって前記欠損領域が形成され、前記上層吸収体及び下層吸収体を一体的に貫通させた場合には、これらの貫通部によって前記欠損領域が形成される。
【発明の効果】
【0016】
以上詳説のとおり本発明によれば、多量の軟便が排泄された場合においても、横漏れが確実に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る使い捨てパッド1の一部破断展開図である。
図2図1のII-II線矢視図である。
図3図1のIII-III線矢視図である。
図4図1のIV-IV線矢視図である。
図5図1のV-V線矢視図である。
図6図1のVI-VI線矢視図である。
図7】軟便の流れを示す、使い捨てパッド1の平面図である。
図8】従来の軟便の流れを示す、使い捨てパッドの平面図である。
図9】変形例に係る使い捨てパッド1を示す背側の平面図(その1)である。
図10】変形例に係る使い捨てパッド1を示す背側の平面図(その2)である。
図11】変形例に係る使い捨てパッド1を示す背側の平面図(その3)である。
図12】変形例に係る使い捨てパッド1を示す背側の平面図(その4)である。
図13】変形例に係る使い捨てパッド1を示す背側の平面図(その5)である。
図14】欠損領域10の横断面図である。
図15】変形例に係る欠損領域10の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0019】
〔使い捨てパッドの基本構造の一例〕
本発明に係る吸収性物品の一例として、使い捨てパッド1を例に挙げ以下に詳細に説明する。前記使い捨てパッド1は、パンツタイプ若しくはテープタイプの使い捨ておむつのインナーとして用いられるものである。なお、本発明は、使い捨てパッドに限らず、使い捨ておむつ、生理用ナプキンなど各種の吸収性物品に適用できることはいうまでもない。
【0020】
本発明に係る使い捨てパッド1は、図1図3に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる防漏シート2と、肌当接面をなし、尿などを速やかに透過させる表面シート3と、これら両シート2、3間に介装された吸収体4と、使い捨てパッド1の最外面(非肌当接面)を覆う外装シート5と、前記吸収体4の略側縁部を起立基端とし、かつ少なくとも着用者の排尿口部H及び肛門部Kを含む前後方向の所定の区間内において肌側に突出して設けられた左右一対の立体ギャザーBS、BSを形成するギャザーシート6、6とから主に構成され、かつ吸収体4の周囲においては、その上下端縁部では表面シート3及び外装シート5の外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出しているギャザーシート6及び外装シート5がホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合されている。前記吸収体4は、図示例のようにクレープ紙又は不織布などからなる被包シート8によって囲繞するのが好ましいが、前記被包シート8は設けなくてもよい。
【0021】
前記防漏シート2は、ポリエチレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、近年ではムレ防止の観点から透湿性を有するものが用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。前記防漏シート2としては、プラスチックフィルムと不織布とを積層させたポリラミ不織布を用いてもよい。
【0022】
前記表面シート3は、有孔または無孔の不織布などが用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法は嵩高で圧縮復元性が高い点で優れている。前記表面シート3に多数の透孔を形成した場合には、体液が速やかに吸収されるようになり、ドライタッチ性に優れたものとなる。不織布の繊維は、長繊維または短繊維のいずれでもよいが、好ましくはタオル地の風合いを出すため短繊維を使用するのがよい。また、エンボス処理を容易とするために、比較的低融点のポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系繊維のものを用いるのがよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維の複合繊維を好適に用いることもできる。前記表面シート3は、後段で詳述するように、所定の撥水処理により、一部が撥水性を有するようになっている。
【0023】
前記防漏シート2と表面シート3との間に介在される吸収体4は、たとえば綿状パルプと高吸水性ポリマーとにより構成されている。前記高吸水性ポリマーは吸収体を構成するパルプ中に、例えば粒状粉として混入されている。前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。前記吸収体4の目付は、250~1200g/m、好ましくは400~600g/mとするのがよい。
【0024】
また、前記吸収体4には合成繊維を混合しても良い。前記合成繊維は、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、及びこれらの共重合体などを使用することができるし、これら2種を混合したものであってもよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維も用いることができる。前記合成繊維は、体液に対する親和性を有するように、疎水性繊維の場合には親水化剤によって表面処理したものを用いるのが望ましい。
【0025】
前記吸収体4は、図示例では、肌側の上層吸収体4Aと非肌側の下層吸収体4Bとから構成されている。前記上層吸収体4Aは、着用者の排尿口部H及び肛門部Kを含む領域に配置され、下層吸収体4Bより幅寸法及び長手寸法が小さく形成されるとともに、下層吸収体4Bの長手方向両端縁及び幅方向両端縁より内側に配置されている。前記上層吸収体4Aは、後段で詳述する欠損領域10において欠損するようになっている。前記吸収体4は、このような2層構造に代えて、1層構造としてもよいし3層以上の多層構造としてもよい。
【0026】
前記吸収体4は、図示例のように、形状保持および拡散性向上のために、前記吸収体4の少なくとも肌側面及び非肌側面を、クレープ紙又は不織布などからなる被包シート8で覆うのが好ましい。吸収体4を覆う被包シート8を設ける場合には、結果的に表面シート3と吸収体4との間に被包シート8が介在することになり、前記被包シート8がクレープ紙からなる場合には、吸収性に優れる前記被包シート8によって体液を速やかに拡散させるとともに、吸収体4に吸収した体液の逆戻りを防止するようになる。
【0027】
前記外装シート5は、防漏シート2を覆って使い捨てパッド1の外面を布のような外観、肌触りとするものである。前記外装シート5としては、不織布で形成するのが好ましい。素材繊維は、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることができ、加工法は、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、エアスルー法、ニードルパンチ法等を用いて製作することができる。但し、肌触り及び強度を両立できる点でスパンボンド不織布やSMS不織布、SMMS不織布等の長繊維不織布が好ましい。
不織布は一枚で使用する他、複数枚を重ねて使用することもでき、複数枚を重ねて使用する場合は、不織布相互をホットメルト等の接着剤を介して固定するのが好ましい。また、不織布を用いる場合は、その繊維目付けは8~50g/m、特に10~30g/mが好ましい。
【0028】
前記外装シート5の非肌側面(外面)に、1または複数条の仮止め層(図示せず)を形成することにより、身体への装着時に使い捨てパッド1を下着や使い捨ておむつ等に固定するようにしてもよい。前記仮止め層としては、機械接合式のフック材を用いてもよいし、粘着剤を用いてもよい。前記仮止め層は必要に応じて設けられ、特段設けなくてもよい。
【0029】
一方、前記表面シート3の幅寸法は、図示例では、図2に示されるように、吸収体4の両側部に脚周りカットライン4aが形成された部分ではこの脚周りカットライン4aによって両側部が窪んだ吸収体4の幅寸法よりも若干長めとされる一方で、図3に示されるように、それ以外の部分では、吸収体4の幅寸法よりも若干短めとされ、吸収体4の少なくとも幅方向中央部を覆うだけに止まり、それより外方側は前記表面シート3とは別のギャザーシート6、具体的には体液が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの目的に応じて、適宜の撥水処理または親水処理を施した不織布素材を用いて構成されたギャザーシート6が配設されている。
【0030】
かかるギャザーシート6としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができるが、好ましくはゴワ付き感を無くすとともに、ムレを防止するために、坪量を抑えて通気性を持たせた不織布を用いるのがよい。具体的には、坪量を8~23g/mとして作製された不織布を用いるのが望ましく、かつ体液の透過を確実に防止するためにシリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングした撥水処理不織布が好適に使用される。
【0031】
前記ギャザーシート6の内方側部分はほぼ二重に折り返されるとともに、この二重シート内部に、その高さ方向中間部に1又は複数本の、図示例では2本の糸状弾性伸縮部材9、9が両端または長手方向の適宜の位置が固定された状態で配設されている。この二重シート部分は長手方向の両端部で、図3に示されるように、内側に倒した状態又は外側に1回折り返して積層された状態で吸収体4側に接着されることによって、少なくとも着用者の排尿口部H及び肛門部Kを含む長手方向の所定の区間内において図2に示されるように、肌側に起立する立体ギャザーBS、BSが左右対で形成されている。
【0032】
〔欠損領域〕
図1及び図4図6に示されるように、前記吸収体4には、着用者の股下部に対応する位置又はその近傍から背側に延びる吸収体の欠損領域10が形成されている。着用者の股下部に対応する位置とは、着用者の股下における前後方向の中央部、即ち着用者の排尿口部Hと肛門部Kとの間の若干肛門部K寄りの位置であって、概ね使い捨てパッド1の長手方向の長さの1/2の位置である。前記欠損領域10は、その位置又はその近傍から背側に連続して延びている。前記欠損領域10が着用者の股下部に対応する位置の近傍から背側に延びる場合とは、例えば、着用者の肛門部Kに対応する位置又はその周辺から背側に延びる場合が挙げられる。
【0033】
前記欠損領域10は、吸収体4の肌側面から厚み方向に少なくとも一部を欠損させた領域であり、図4図6に示されるように、吸収体4の肌側面に形成された吸収体の凹部によって形成することができる。吸収体4が前記上層吸収体4Aと下層吸収体4Bの2層構造からなる場合、前記欠損領域10は、前記上層吸収体4Aのみに欠損させた部分を設けることによって構成することができる。具体的には、上層吸収体4Aのみに厚み方向に貫通するスリット部を設けることができる。これによって、吸収体4の肌側面に、底部に下層吸収体4Bが配置された非肌側に窪む凹部が形成され、この凹部が前記欠損領域10を構成するようになる。
【0034】
前記表面シート3は、前記欠損領域10において前記吸収体4に沿って配置されている。即ち、前記吸収体4と表面シート3との間に空間部が形成されることなく、表面シート3が、欠損領域10に入り込むようにして、欠損領域10の底面及び側面の吸収体4に沿って配置されている。これによって、欠損領域10において、表面シート3の肌側面に非肌側に窪む凹部が形成されるようになる。
【0035】
更に、前記欠損領域10に配置された部分の前記表面シート3が、撥水性を有している。即ち、この部分の表面シート3に所定の撥水処理が施されることにより、表面シート3の一部が撥水性となっている。それ以外の部分の表面シート3は、親水性を有している。このような撥水処理が施される部分は、少なくとも表面シート3が前記欠損領域10に入り込んだ部分、即ち欠損領域10の底面及び側面に沿って配置された部分であり、好ましくはその周囲を含むようにするのがよい。
【0036】
上記の構成を備えることによって、図7に示されるように、多量の軟便が排泄された場合においても、軟便が欠損領域10によって形成された凹部に流れ込んで、この欠損領域10に沿って配置された撥水性の表面シート3の表面を伝って背側に流れるようになる。したがって、軟便が股下部に滞留せず、横漏れが生じにくくなる。これに対して、このような欠損領域10が設けられない従来の使い捨てパッドでは、図8に示されるように、軟便が背側に流れにくく、肛門部K及びその周辺に滞留する。特に、仰向け寝のときなどは、臀部の圧力によって軟便の流れが塞き止められ、幅方向外側に流れて横漏れが生じやすかった。なお、図7及び図8において、ギャザーシート6の図示を省略している。
【0037】
本発明に係る使い捨てパッド1では、図1図5及び図6に示されるように、肌側面の背側の端部に、股下側に向けて開口するポケット空間11が設けられており、前記欠損領域10が前記ポケット空間11に向けて延びるようにするのが好ましい。前記ポケット空間11は、左右のギャザーシート6、6間の肌側面にポケット空間形成用シート12が跨って配置されるとともに、股下側を除く、両側及び背側の各辺部が下層側の部材に接合されることによって、表面シート3とポケット空間形成用シート12及びギャザーシート6との間に形成される空間部である。前記ポケット空間11を設けることにより、前記欠損領域10を覆う撥水性の表面シート3の表面を伝って背側に流れた軟便が、ポケット空間11内に入り込むようになる。このポケット空間11内では、表面シート3を通過しにくい軟便の固形分がこのポケット空間11内に貯留されるとともに、液体分が表面シート3を透過して吸収体4に吸収されるようになる。したがって、多量の軟便が排泄された場合においても、軟便の漏れがより確実に防止できるようになる。
【0038】
前記ポケット空間形成用シート12の股下側端縁は、前記ギャザーシート6が糸状弾性伸縮部材9の収縮力によって肌側に起立する区間まで延在しており、一方、背側端縁は、前記ギャザーシート6の長手方向両端部が吸収体4側に接着される領域に位置している。
【0039】
前記欠損領域10の背側の端縁は、前記ポケット空間11の内部まで延びているのが好ましい。これにより、欠損領域10を覆う撥水性の表面シート3の表面を伝って背側に流れる軟便が、ポケット空間11の内部に流れ込みやすくなる。前記欠損領域10の背側の端縁は、ポケット空間11内であればいずれの位置でもよく、ポケット空間11内のパッド長手方向の中間部でもよいし、ポケット空間11の背側の端縁まで延在していてもよい。また、ポケット空間11より股下側に位置してもよい。
【0040】
前記ポケット空間形成用シート12としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができるが、好ましくはゴワ付き感を無くすとともに、ムレを防止するために、坪量を抑えて通気性を持たせた不織布を用いるのがよい。また、軟便に含まれる体液の透過を確実に防止するためにシリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングした撥水処理不織布が好適に使用される。
【0041】
次いで、前記欠損領域10の平面形状について説明する。なお、以下に説明する図9図13において、ギャザーシート6の図示を省略している。
【0042】
図1に示される実施形態例では、前記欠損領域10は、使い捨てパッド1の平面視において、長手方向中心線CLの両側にそれぞれ、着用者の股下部に対応する位置から背側に向けて、長手方向中心線CLと略平行して延びる使い捨てパッド1の長手方向に長い縦長の形状で形成される長手方向平行部13と、その長手方向平行部13の背側の端部に連続して長手方向中心線CL側に傾斜する傾斜部14とが配置されている。図示例では、左右の傾斜部14、14の背側の端縁同士が長手方向中心線CL上において接続することにより、左右の欠損領域が一体的な形状で形成されているが、左右にそれぞれ離隔して配置されるようにしてもよい。股下部において前記長手方向平行部13が左右に離隔して配置されることにより、肛門部Kから幅方向に流れた軟便が、欠損領域10によって形成された凹部に流れ込みやすくなるとともに、前記長手方向平行部13に沿って背側に流れやすくなる。また、前記長手方向平行部13の背側の端部に連続して傾斜部14が備えられることによって、欠損領域10を覆う撥水性の表面シート3の表面を伝って背側に流れる軟便が、背側で長手方向中心線CL側に集約され、前記ポケット空間11に流れ込みやすくなる。
【0043】
また、前記欠損領域10の変形例として、図9に示されるように、使い捨てパッド1の平面視において、幅方向中央部に使い捨てパッド1の長手方向に長い縦長の形状で1条の欠損領域10が形成されるようにしてもよい。前記欠損領域10の股下側の端縁は、図示例のように、肛門部Kを含む位置に配置してもよいし、肛門部Kより背側に配置してもよい。このような形態で欠損領域10を設けることにより、欠損領域10によって形成された凹部に軟便が流れ込みやすくなる。
【0044】
この形態において、前記欠損領域10の幅寸法は任意であり、図10に示されるように、上層吸収体4Aのほぼ全幅に亘って形成されるようにしてもよい。このように上層吸収体4Aのほぼ全幅に亘って欠損領域10を設けた場合には、前記欠損領域10の股下側の端縁より背側には上層吸収体4Aが設けられないようになる。このように欠損領域10を幅広に形成することにより、広い範囲で軟便をキャッチして背側に拡散させることができるようになる。
【0045】
このような長手方向に延びる欠損領域10は、図11に示されるように、幅方向に間隔を空けて複数配置してもよい。図示例では2条配置しているが、3条以上としてもよい。複数の欠損領域10…を配置することにより、1つの欠損領域10を幅広に形成するよりも、吸収体4のパルプ量が極端に減少することなく、軟便の拡散性を向上させることができるようになる。
【0046】
また、他の変形例として、図12に示されるように、使い捨てパッド1の平面視において、長手方向中心線CLの両側にそれぞれ、着用者の股下側から背側に向けて、長手方向中心線CLと略平行して延びる使い捨てパッド1の長手方向に長い縦長の長手方向平行部16と、その股下側の端部に連続して股下側に向けて長手方向中心線CL側に傾斜する傾斜部15とが配置されるようにしてもよい。前記長手方向平行部16の股下側に長手方向中心線CL側に傾斜する傾斜部15が備えられることにより、肛門部Kにおいて排泄された軟便が欠損領域10によって形成された凹部に速やかに流入しやすくなり、軟便が欠損領域10を通じて背側に拡散しやすくなる。図示例では、左右の傾斜部15、15の股下側の端縁が長手方向中心線CL上において接続することにより、左右の欠損領域が一体的な形状で形成されているが、左右にそれぞれ離隔して配置されるようにしてもよい。
【0047】
更に、他の変形例として、図13に示されるように、前記欠損領域10は、使い捨てパッド1の平面視において、背側の端部が複数に枝分かれする形状で形成してもよい。このような枝分かれ部を設けることにより、背側に向けて流れる軟便の勢いを分散させることができ、軟便がポケット空間11内により確実に収納されるようになる。
【0048】
以上の欠損領域10の平面形状は、2以上の実施形態例を組み合わせてもよい。このような組み合わせの形態としては、例えば、使い捨てパッド1の長手方向に長い縦長の形状を幅方向に間隔を空けて複数配置した場合において、各縦長形状の背側の端部が複数に枝分かれする形態、長手方向中心線CLの両側にそれぞれ長手方向平行部を形成するとともに、その背側の端部及び股下側の端部にそれぞれ連続して、長手方向中心線CL側傾斜する傾斜部を形成する形態などを挙げることができる。
【0049】
次に、前記欠損領域10に配置された部分の表面シート3に撥水処理を施す方法について説明する。前記撥水処理としては、所定領域に撥水剤を塗布する方法、図14(A)に示されるように、表面シート3の所定位置の肌側面に撥水シート17を接合する方法、図14(B)に示されるように、表面シート3の非肌側に隣接して表面シート3とほぼ同形状の親水性の不織布からなるセカンドシート18を配置し、これら表面シート3とセカンドシート18との間の所定部分に接着剤をスロットコート、カーテンスプレーなどによって全面塗布した接着剤層19を設ける方法などを挙げることができる。
【0050】
前記欠損領域10は、図15に示されるように、吸収体4を厚み方向に貫通する吸収体の貫通部によって構成してもよい。図示例では、上層吸収体4A及び下層吸収体4Bを一体的に厚み方向に貫通する吸収体の貫通部によって形成している。これにより、欠損領域10によって形成される凹部の深さが深くなり、より多くの軟便を流すことができるようになる。
【符号の説明】
【0051】
1…使い捨てパッド、2…防漏シート、3…表面シート、4…吸収体、4A…上層吸収体、4B…下層吸収体、5…外装シート、6…ギャザーシート、8…被包シート、9…糸状弾性伸縮部材、10…欠損領域、11…ポケット空間、12…ポケット空間形成用シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15