(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】車輪モジュール
(51)【国際特許分類】
H02K 5/00 20060101AFI20230417BHJP
B60B 33/00 20060101ALI20230417BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20230417BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20230417BHJP
H02K 11/40 20160101ALI20230417BHJP
【FI】
H02K5/00 A
B60B33/00 Z
B60K1/00
B60K7/00
H02K11/40
(21)【出願番号】P 2019045393
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】古崎 浩幸
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006265(JP,A)
【文献】特開2018-001776(JP,A)
【文献】特開2017-076629(JP,A)
【文献】特開2011-004523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00
B60B 33/00
B60K 1/00
B60K 7/00
H02K 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが取付けられたホイール部と、
前記ホイール部に少なくとも一部が内蔵された駆動部と、
前記駆動部と電気的に接続された接地部材と、
を備え、
前記ホイール部および前記駆動部は、第1の金属部材
と第2の金属部材とを含む複数の部材の組合せによってそれぞれ構成されており、
前記第1の金属部材は、前記第2の金属部材と導通する導電部を備え、
前記第2の金属部材は、絶縁層と、導電性を有する露出部とを備える金属基材を備え、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とが、
前記導電部の一部が、前
記露出部
と導通した状態で組み付けられる、
車輪モジュール。
【請求項2】
前記第2の金属部材の前記金属基材はアルミ合金であり、前記絶縁層は、アルマイト処理によって形成された被膜である、請求項1に記載の車輪モジュール。
【請求項3】
前記露出部は、前記絶縁層の一部を露出した露出領域であり、前記第1の金属部材
の導電部の一部は、前記露出領域を介して前記第2の金属部材の前記金属基材と接触
し、前記導電部の別の一部は、前記第2の金属部材の前記絶縁層と接触する、請求項1または2に記載の車輪モジュール。
【請求項4】
前記露出部は、ネジ穴の一部を形成しており、前記第1の金属部材
の導電部の一部は、前記第2の金属部材
の前記露出部と、導電性を有するネジ部材を介して接触する
とともに、前記導電部の別の一部は、前記第2の金属部材の絶縁層と接触する、請求項1または2に記載の車輪モジュール。
【請求項5】
前記駆動部は、モータと当該モータを収納するモータケースと前記接地部材とを備え、
前記モータが備える前記第1の金属部材であるステータコアと、前記第2の金属部材である前記モータケースとは、前記ネジ部材を介して接触する、請求項4に記載の車輪モジュール。
【請求項6】
前記第2の金属部材は、前記モータケースに加え、少なくとも前記ホイール部を含む、請求項5に記載の車輪モジュール。
【請求項7】
前記モータケースは、前記モータに加え電子部品を収納可能である、請求項5または6に記載の車輪モジュール。
【請求項8】
支持部材を介して台車裏面に取付け可能であり、前記接地部材の先端は、前記台車に接触する、請求項1から7のいずれか一つに記載の車輪モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤが取付けられたホイール部と、モータを有する駆動部とを備えた車輪モジュールが知られている。かかる車輪モジュールにおけるホイール部および駆動部は、それぞれ金属材料を含む複数の部材の組合せによって構成されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、かかる車輪モジュールにおいては、軽量化を図るために、少なくとも金属材料の一部には、防錆、耐蝕性の観点からアルマイト処理が施されたアルミニウムが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルマイト処理により形成されるアルミニウム表面の被膜は絶縁層となるため、かかるアルマイト処理された部材同士を組み付けても部材同士が互いに導通することはなく、組み合わされた部品同士が常時同電位とはなりえない。
【0006】
したがって、たとえば、ホイール部が備える絶縁体であるゴム製のタイヤが路面に接地して回転すると、タイヤと路面とが互いに擦れあい、摩擦による静電気が発生してタイヤに帯電する。そして、帯電が進むと、突然、静電放電が起こってしまい、駆動部に設けられた放電箇所近傍の電子部品などを破壊するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、静電気の帯電が進んで生じる静電放電によって電子部品などが破壊されることを未然に防止することができる車輪モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る車輪モジュールは、タイヤが取付けられたホイール部と、前記ホイール部に少なくとも一部が内蔵された駆動部と、前記駆動部と電気的に接続された接地部材と、を備える。前記ホイール部および前記駆動部は、第1の金属部材と第2の金属部材とを含む複数の部材の組合せによってそれぞれ構成されている。前記第1の金属部材は、前記第2の金属部材と導通する導電部を備え、前記第2の金属部材は、絶縁層と、導電性を有する露出部とを備える金属基材を備える。前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とが、前記露出部と導通する。そして、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とが、前記導電部の一部が、前記露出部と導通した状態で組み付けられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、静電気の帯電を要因とした静電放電によって放電箇所近傍の電子部品などが破壊されることを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車輪モジュールを備えた台車を示す斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、第1の金属部材と、表面に絶縁層が形成された第2の金属部材とを組み合わせた際に導通を有する接触状態を実現するための一例を示す説明図である。
【
図2B】
図2Bは、第1の金属部材と、表面に絶縁層が形成された第2の金属部材とを組み合わせた際に導通を有する接触状態を実現するための他の例を示す説明図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態に係る車輪モジュールの外観を示す第1の斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態に係る車輪モジュールの外観を示す第2の斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る車輪モジュールの構成を示す分解斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る車輪モジュールの駆動部の構成を示す分解斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る車輪モジュールの駆動部における電動部の構成を示す分解斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る車輪モジュールのモータケースとモータケースに収納されるステータコアとを示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、実施形態に係る車輪モジュールの一部を断面した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態に係る車輪モジュールについて説明する。なお、以下の説明で参照する各図面において、各要素の寸法の関係や比率等は実物と異なる場合がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一の役割を果たす構成要素には同一の符号が付されている。
【0012】
図1は、実施形態に係る車輪モジュール200を備えた台車100の外観を示す斜視図である。
図1に示すように、車輪モジュール200は、台車100の移動機構として用いられる。すなわち、図示するように、台車100は、荷台110と、取っ手120と、実施形態に係る車輪モジュール200とを有する。
【0013】
荷台110は、厚板状に形成された部材であり、上面に荷物が載せられる。取っ手120は、利用者が台車100を移動する際に把持するためのU字状に湾曲した棒状の部材であり、荷台110の上面に取り付けられている。
【0014】
車輪モジュール200は、図示しない電源から供給される駆動電流によって回転する車輪であり、荷台110の下面に取り付けられる。なお、実施形態に係る車輪モジュール200は、台車100に中輪として備えられている。しかし、車輪モジュール200は、台車100に前輪として備えられてもよいし、後輪として備えられてもよい。あるいは、前輪・中輪・後輪のいずれか2以上の組み合わせとして備えられてもよい。
【0015】
かかる車輪モジュール200は、たとえば、利用者が台車100の荷台110に荷物を載せて運搬する際の補助用に駆動されたり、台車100が他の台車に追従して自走する機能を有する場合には、他の台車との間の距離に応じて駆動されたりする。
【0016】
実施形態に係る車輪モジュール200の各部品は、絶縁部材と金属部材との組み合わせあるいは金属部材同士の組合せによって構成されている。ここで、第1の金属部材1と第2の金属部材2とからなる金属部材同士が組み合わされた状態の概略構成について、
図2Aおよび
図2Bを参照して説明する。
【0017】
図2Aは、第1の金属部材1と、表面に絶縁層2bが形成された第2の金属部材2とを組み合わせた際に導通を有する接触状態を実現するための一例を示す説明図、
図2Bは、第1の金属部材と、表面に絶縁層が形成された第2の金属部材とを組み合わせた際に導通を有する接触状態を実現するための他の例を示す説明図である。
【0018】
実施形態に係る車輪モジュール200の各部品は、第1の金属部材1と第2の金属部材2との組み合わせにより構成されている。たとえば、本実施形態に係る車輪モジュール200は、後述するホイール部210と、駆動部220とを備えている(
図3A及び
図3B参照)。
【0019】
かかるホイール部210および駆動部220は、軽量化を図るために、金属部品の大部分をアルミ合金によるアルミニウム製品としている。そして、外表面が外気と接触する部分のアルミニウムには、表面を保護するためにアルマイト処理を施して表面に被膜(絶縁層)を形成するようにしている。
【0020】
アルマイト処理により形成された皮膜は、絶縁層2bとなっているため、アルミニウム製品のままである第1の金属部材1と、アルマイト処理されたアルミニウム製品である第2の金属部材2とを接触させて組み合わせても互いに導通することがない。また、アルマイト処理されたアルミニウム製品である第2の金属部材2同士を接触させて組み合わせても、同じように互いに導通することはない。他方、アルマイト処理を施していないアルミニウム製品である第1の金属部材1同士の組合せであれば、互いが接触することで導通し、両者は常時同電位となる。
【0021】
そこで、本実施形態では、第1の金属部材1と第2の金属部材2とを、絶縁層2bを避けて形成された露出部4において互いに接触した状態で組み付けられるようにしている。すなわち、第1の金属部材1と、アルマイト処理されて絶縁層2bが形成されて電荷が蓄積し帯電するおそれのある第2の金属部材2とを、絶縁層2bを剥離して形成した露出部4において互いが接触する状態で組み付けるようにしている。
【0022】
本実施形態における車輪モジュール200は、アルミニウムからなる第1の金属部材1と、表面に絶縁層2bとなる被膜(絶縁層)が形成されたアルミニウムからなる第2の金属部材2とを含む複数の部材の組合せによってそれぞれ構成される。
【0023】
ここでは、第1の金属部材1も、第2の金属部材2の金属基材2aも、それぞれアルミ合金としているが、材料となる金属の種類は特に限定されるものではない。また、絶縁層2bについても絶縁性を有する被膜であれば、アルマイト処理によるものに限るものではなく、塗料などを含めて何ら限定されるものではない。
【0024】
ここで、実施形態に係る車輪モジュール200におけるアルミニウム製品である第1の金属部材1と、アルマイト処理されたアルミニウム製品である第2の金属部材2との組付構造の概略について説明する。
【0025】
図2Aおよび
図2Bに示すように、第1の金属部材1と第2の金属部材2とは、絶縁層2bを避けて形成された露出部4において互いに接触した状態で組み付けられる。すなわち、露出部4は、絶縁層2bの一部を避けて形成した露出領域であり、換言すれば、絶縁層2bの一部を剥離した剥離領域ともなる。第1の金属部材1は、かかる露出領域を介して第2の金属部材2の金属基材2aと接触する。
図2Aおよび
図2Bにおいて、符号5は、第1の金属部材1と第2の金属部材2の金属基材2aとの接触部を示す。
【0026】
図2Aにおいては、露出部4は、ネジ穴3の一部を形成しており、第1の金属部材1と第2の金属部材2とは、導電性を有するネジ部材6を介して接触部5において接触し、互いに導通している。なお、この場合の接触部5は、ネジ部材6の雄ネジ部とネジ穴3に形成された雌ネジ部との噛合部分である。
【0027】
図2Bにおいては、絶縁層2bの一部を露出した露出領域である露出部4を介して第1の金属部材1と第2の金属部材2の金属基材2aとが接触部5において接触し、互いに導通している。ここで、絶縁層2bは、数μ~数十μの被膜により形成されており、第1の金属部材1と第2の金属部材2とを所定の力で圧着すれば、両者は露出部4を介して接触する。なお、この場合の接触部5は第1の金属部材1と第2の金属部材2の金属基材2aとが直接接触している部分である。
【0028】
また、第1の金属部材1と第2の金属部材2とが、たとえば端面同士を突き合わせて組み立てるような場合、第2の金属部材2の端面については、後加工により、あるいはアルマイト処理時においてマスキングを施すなどして、金属基材2aが露出した(剥き出し状態)になる部分を形成するとよい。
【0029】
さらに、上述した構成の他、たとえば、第1の金属部材1と第2の金属部材2の金属基材2aのいずれか一方に凸部を形成し、この凸部と嵌合可能な凹部を第1の金属部材1と第2の金属部材2の金属基材2aのいずれか他方に形成する構成としてもよい。かかる構成により、凸部と凹部とを、露出部4を介して嵌合することで第1の金属部材1と第2の金属部材2の金属基材2aとを接触させることができる。
【0030】
このように、第1の金属部材1と、表面に絶縁層2bが形成された第2の金属部材2とを組み合わせたとしても、露出部を介して両者を導通させることができるため、たとえば、第2の金属部材2の絶縁層2bが帯電しても、第1の金属部材1と導通しているため第1の金属部材1と、表面に絶縁層2bが形成された第2の金属部材2は同電位となる。したがって、たとえばホイール部210が路面に接地し、回転することによって帯電しても、速やかに第1の金属部材1と、表面に絶縁層2bが形成された第2の金属部材2の接続箇所を経由して、車輪モジュール200に設けられる接地部材(接地線)となる接地用リード線7(
図3B参照)に接続される。接地用リード線7は、駆動部220と電気的に接続され、アースをとっているため静電気が通過することで、静電放電が生じることがなく、たとえば駆動部220に設けられた電子部品などを破壊するおそれを未然に防止することができる。また、実施形態に係る車輪モジュール200を、台車等の搬送装置に用いた場合であれば、電気的に壊れやすい輸送品などを破壊するおそれについても未然に防止することができる。
【0031】
ここで、本実施形態に係る車輪モジュール200について、
図3A~
図8Bを用いてより具体的に説明する。
図3Aは、実施形態に係る車輪モジュール200の外観を示す第1の斜視図、
図3Bは、同上の第2の斜視図である。また、
図4は、同上の車輪モジュール200の構成を示す分解斜視図、
図5は、同上の車輪モジュール200の駆動部の構成を示す分解斜視図、
図6は、同上の車輪モジュール200の駆動部における電動部の構成を示す分解斜視図である。また、
図7は、同上の車輪モジュール200のモータケースとモータケースに収納されるステータコアとを示す斜視図、
図8Aは、同上の車輪モジュール200の一部を断面した正面図、
図8Bは、
図8AにおけるA部の拡大図である。
【0032】
図3A、
図3Bおよび
図4に示すように、車輪モジュール200は、タイヤ211と、ホイール部210と、駆動部220と、ブレーキ部230とを有する。
【0033】
ホイール部210は、タイヤ211を装着するホイール215と、ホイール215の内側に配置されるフレーム部を構成するフロントフレーム212およびリアフレーム213とを有する。
【0034】
駆動部220は、図示しない電源から供給される駆動電流によって駆動され、回転軸を中心に回転し、ホイール部210を回転する。ブレーキ部230は、図示していない制御機構や利用者等による制御に応じて、ホイール部210の回転を停止する。
【0035】
ホイール部210に設けられるタイヤ211は、弾力性を有し、絶縁物であるゴム等の合成樹脂または電気抵抗の高い材料により、所定幅の接地面を有するとともに、直径がたとえば100~300mmの円環状に形成されている。当該タイヤ211が回転して路面との間での摩擦によって、タイヤ211に電荷がたまることになる。電荷がたまっていくと、たとえばタイヤ211に導電体である金属を近づけたり、接触させたりしたときに、電位差があれば、たまった電荷は導電体に向かって静電放電が起きる現象が生じる場合がある。なお、一定の導電性を有するタイヤを選択したとしても、本件構成を用いることで、タイヤの導電性に限らず静電放電の可能性をより低減することができるため、部材選定の自由度を向上させることができる。
【0036】
ホイール215は、タイヤ211を係止可能なフランジ部が外周面に形成された円環状の部材であり、収納したフレーム部の端部が露呈する円孔部を囲むように、フレーム部をねじ止めするための複数のネジ穴3が形成されている。
【0037】
かかるホイール215は、前述した第2の金属部材2により形成されている。すなわち、ホイール215は、アルマイト処理されたアルミニウム製品である。しかし、アルマイト処理後に、導電体であるアルミニウム部分が剥き出しになる露出部4を形成することにより、ネジ216aと接触する接触部5が設けられる。
【0038】
フレーム部は、
図4に示すように、フロントフレーム212とリアフレーム213とが軸方向に突き合わされて構成される。フロントフレーム212は、一側面が開放面となる略円筒状であり、開放面と反対側をなす一側面がネジ216aによりホイール215と締結され、開放面となる他側面はリアフレーム213とネジ216bにより締結される。リアフレーム213は、フロントフレーム212よりも扁平に形成された円環状の部材であり、フランジ部には、フロントフレーム212と締結するためのネジ216bを挿通するネジ穴3が周方向に所定の間隔をあけて形成されている。
【0039】
ここで、かかるフレーム部を構成するフロントフレーム212とリアフレーム213とは、ホイール215と同じように、それぞれ前述した第2の金属部材2により形成されている。すなわち、アルマイト処理されたアルミニウム製品である。しかし、アルマイト処理後に、ネジ穴3をさらに後加工することにより、導電体であるアルミニウム部分が剥き出しになる露出部4が形成され、ネジ216a,216bとの接触部5が設けられる。
【0040】
このように、ホイール部210を構成するホイール215、フロントフレーム212およびリアフレーム213は、それぞれアルマイト処理されたアルミニウム製品(第2の金属部材2)により形成されている。しかし、アルマイト処理された後に、導電部である露出部4を有するネジ穴3が形成されているため、アルマイト処理により形成された絶縁層2bには、導体であるアルミニウム部分(金属基材2a)が剥き出しになる露出部4が形成されることになる。したがって、導体であるネジ216a,216bがネジ穴3に挿通してホイール215、フロントフレーム212およびリアフレーム213が一体に組み付けられると、それぞれはネジ216a,216bを介して導通することになる。そのため、ホイール部210が路面に接地し回転して帯電した電荷は、ホイール215からフロントフレーム212に向かって流れ、ホイール部210とフロントフレーム212とは互いに導通されて、同電位となる。
【0041】
駆動部220は、一部がホイール部210の内部に配置されており、
図3Bに示すように、給電線223を介して供給される電源(図示せず)からの駆動電流によって駆動されて、回転軸を中心にホイール部210およびタイヤ211を回転させる。
【0042】
具体的には、駆動部220は、
図4および
図5に示すように、モータ部250と伝動部260とを備える。モータ部250は、
図6に示すように、モータケース221と、このモータケース221に内蔵されるステータ225と、ロータ226と、回転シャフト227と、ギヤベースプレート229とを備える。伝動部260は、実質的に遊星歯車機構により構成されており、
図5に示すように、遊星歯車261a、261b、261cと、これら遊星歯車261a、261b、261cを保持するギヤプレート263とを備える。
【0043】
ステータ225とロータ226とはインナーロータ型のモータを構成しており、給電線223(
図3B参照)を介して供給される駆動電流によって、回転シャフト227を中心にロータ226が回転する。ロータ226の回転によって発生した回転力は、遊星歯車261a、261b、261cを有する伝動部260を介してホイール部210に伝達される。
【0044】
図6および
図7に示すように、ステータ225は、中空の円筒状に形成されたステータコア225aの内周面に複数の突極が周方向に並べて配置された構成を有しており、各突極にコイル225bが巻回されている。コイル225bには、図示しない電源からの駆動電流を供給する給電線223(
図3B参照)が接続される。また、ステータコア225aとコイル225bとの間には絶縁体となるインシュレータ225cが配置されている。
【0045】
一方、ロータ226は、
図6に示すように、ステータ225の内側に配置されており、ステータ225に対して回転シャフト227を中心に回転することで、ホイール部210を回転させる。具体的には、ロータ226は、円柱状に形成された環状のロータコア226aの内周面に沿って複数の磁石226bが周方向に並べて配置された構成を有しており、各磁石226bが、ステータ225の各コイル225bと対向するように配置されている。これにより、ロータ226は、ステータ225のコイル225bに駆動電流が流れた際にコイルに225bに発生する電磁力によって、回転シャフト227を中心に回転する。
【0046】
また、ロータ226の中心を貫通した状態でロータ226に固定される回転シャフト227は、ロータコア226aを挟んで設けられた2つのボールベアリング228aを介して、モータケース221に回転自在に支持されている。また、ロータ226とギヤベースプレート229との間には、複数のワッシャ228bを重ねた状態で介在させている。
【0047】
ところで、ステータ225を内蔵するモータケース221は、ステータ225を内蔵する大径円筒部221aと、後述するブレーキ部230を収容する小径円筒部221bとを有する。そして、大径円筒部221aがフロントフレーム212とリアフレーム213とで構成されるフレーム部に収納され、小径円筒部221bがリアフレーム213から外部へ突出している。なお、モータケース221とリアフレーム213とは、
図5に示すようにボールベアリング214bを介して取付けられる。なお、モータケース221とボールベアリング214bとの間には、Oリング224bが介在する。
【0048】
また、
図3Bに示すように、モータケース221の小径円筒部221bには、接地部材である接地用リード線7が取付けられている。接地用リード線7は、駆動部220と電気的に接続され、アースをとっている。モータケース221は、上述のホイール215、フロントフレーム212およびリアフレーム213と同じように、アルマイト処理されたアルミニウム製品(第2の金属部材2)であり、表面には絶縁層2bが形成されている。そのため、小径円筒部221bに、金属基材2aであるアルミニウム部分を露出させる露出部4を形成し、かかる露出部4において、接地用リード線7の基端を取付けている。そして、接地用リード線7の先端が、
図1に示す台車100の荷台110の裏面に接触するようにしている。
【0049】
また、モータケース221には、
図6に示すように、伝動部260の遊星歯車261a,261b,261cを回転自在に支持するギヤベースプレート229がワッシャ付きボルト216dにより取付けられている。
【0050】
さらに、本実施形態においては、ステータ225とモータケース221の大径円筒部221aとの間には、図示しない温度センサを配置している。すなわち、本実施形態に係るモータケース221は、温度センサのような電子部品を収納可能に構成されている。モータケース221に収納された温度センサは、信号線222(
図3B参照)を介して外部と通信可能になっている。なお、信号線222は、給電線223とともに、モータケース221の小径円筒部221bに形成された引出口221cから外部へ延出している。
【0051】
モータケース221は、前述したようにアルマイト処理されたアルミニウム製品(第2の金属部材2)である。しかし、
図7、
図8Aおよび
図8Bに示すように、ステータコア225aを固定するための止めネジ8を挿通するネジ穴3aを後加工することにより、導電体であるアルミニウム部分が剥き出しになる露出部4が形成され、止めネジ8と接触する接触部5が形成される。したがって、導電性を有する止めネジ8がネジ穴3aに挿通されてステータコア225aをモータケース221に固定すると、ステータコア225aとモータケース221とは、露出部4が形成されたネジ穴3aおよび止めネジ8を介して互いに導通する。ここでは、止めネジ8の雄ネジ部とネジ穴3aに形成された雌ネジ部との噛合部分が接触部5となる。
【0052】
また、
図8Bに示すように、モータケース221の大径円筒部221aとギヤベースプレート229とが接触する箇所でも金属基材2aが露出しており、かかる露出部分が接触部5となって両者は互いに導通している。
【0053】
また、図示はしていないが、フロントフレーム212とリアフレーム213とが接触する面においても、それぞれで金属基材2aが露出しており、かかる露出部分で両者は互いに導通している。
【0054】
こうして、たとえアルマイト処理されて表面に絶縁層2b(
図2A参照)が形成されたモータケース221は、ステータコア225a側の絶縁物であるインシュレータの帯電が生じることがなくなり、モータケース221内に収納された温度センサなどの電子部品に悪影響を与えることがない。
【0055】
伝動部260を構成する遊星歯車機構は、
図5に示すように、3つの遊星歯車261a,261b,261cと、かかる3つの遊星歯車261a,261b,261cを囲むように配置されたギヤプレート263とを備える。
【0056】
遊星歯車261a、261b、261cは、ギヤベースプレート229に設けた歯車用軸受262a,262b,262cに取付けられており、それぞれが回転シャフト227の先端側に設けた太陽歯車227aと噛み合っている。また、ギヤプレート263は、フロントフレーム212に固定されるとともに、内周面には、図示しない内歯車が形成されている。そして、この内歯車に遊星歯車261a,261b,261cは、それぞれ噛合している。なお、ギヤプレート263とフロントフレーム212とは、
図5に示すように、ボールベアリング214aを介して取付けられる。なお、ギヤプレート263とボールベアリング214aとの間にはOリング224aが介在する。
【0057】
かかる構成により、ロータ226の回転に応じて回転シャフト227が回転すると、回転シャフト227に形成されている太陽歯車227aと噛合している3つの遊星歯車261a,261b,261cがそれぞれ回転する。そして、内歯車が形成されたギヤプレート263は、
図5に示すように、モータケース221に取付けられたギヤベースプレート229にワッシャ付きボルト216cにより固定されている。したがって、3つの遊星歯車261a,261b,261cが回転することで内歯車が形成されたギヤプレート263が回転し、ギヤプレート263の回転とともに、ホイール部210が回転する。つまり、ロータ226の回転によって発生した回転力が、伝動部260によって回転速度が減速されながらホイール部210に伝達されることになる。
【0058】
モータケース221の小径円筒部221bに収納され、ホイール部210の回転を停止するブレーキ部230は、
図4に示すように、円筒ケーシング233内に、図示しないブレーキシューなどを有するブレーキ機構を内蔵している。そして、ブレーキ部230を収納したモータケース221の小径円筒部221bの端部の開口部には、エンドキャップ240が取付けられる(
図3B参照)。
【0059】
かかるブレーキ部230は、図示しない制御機構と接続された信号線231(
図3A参照)を介して車輪モジュール200の回転を停止することができる。なお、信号線231は、エンドキャップ240に設けた取出口241から外部へ延出している。また、ブレーキ機構を作動させるための電力は、図示しない電源に接続された給電線232(
図3A参照)より給電される。ブレーキ機構のブレーキシューは、回転シャフト227の端部側に作用してホイール部210の回転を停止する。
【0060】
上述してきた駆動部220およびブレーキ部230は、複数の金属部材の組合せにより構成されている。その多くは、導体同士の組合せとなっているが、上述したように、絶縁層2bが形成されたアルマイト処理されたアルミニウム製品と、導体とが組み合わされる場合がある。
【0061】
その場合、本実施形態においては、アルマイト処理されたアルミニウム製品に後加工して、金属基材2aが露出する露出部4を形成し、かかる露出部4を介して、他の導体となる部材と接触するように組み合わせている。したがって、組み合わされた金属部材同士は導通することになる。
【0062】
また、本実施形態に係る車輪モジュール200は、モータケース221とフレーム部とは、金属製のボールベアリング214a,214bを介して接続されている。すなわち、
図8Aに示すように、モータケース221の大径円筒部221a側とフロントフレーム212との間にボールベアリング214aが介在するとともに、モータケース221の小径円筒部221b側とリアフレーム213との間にボールベアリング214bが介在している。
【0063】
したがって、本実施形態に係る車輪モジュール200は、タイヤ211を装着するホイール部210から接地用リード線7に至るまで導通することになる。
【0064】
ところで、車輪モジュール200は、
図8Aに示す支持部材9を介して台車100における荷台110の裏面に取り付けられている(
図1参照)。
図8Aに示すように、支持部材9は、支持台91と、ブラケット92とを有する。
【0065】
支持台91は、断面視L字状に形成された厚板の部材であり、上側面が台車100の荷台110の裏面に取り付けられる。また、支持台91の屈曲部の内側面にブラケット92が連結されている。ブラケット92も厚板の部材で形成されており、上側端部が、支持台91の屈曲部の内側面に固定され、下側端部が駆動部220の回転シャフト227と略直交するように配置されている。なお、支持部材9の形状及び構成は、図示したものに限られず、適宜設計可能である。
【0066】
上述してきた車輪モジュール200は、ホイール部210および駆動部220のいずれについても第1の金属部材1と金属基材2aの表面に絶縁層2bが形成された第2の金属部材2とを含む複数の部材の組合せによって構成されたものとした。そして、ホイール部210および駆動部220のいずれについても第1の金属部材1と第2の金属部材2とが、絶縁層2bに形成された露出部4において互いに接触した状態で組み付けられる構成とした。
【0067】
しかし、ホイール部210および駆動部220のうち、少なくとも駆動部220における第1の金属部材1と第2の金属部材2とを、絶縁層2bに形成された露出部4において互いに接触した状態で組み付けられた構成としてもよい。
【0068】
かかる構成とすれば、コストの上昇を抑えることができ、対費用効果の面において有益である。
【0069】
また、上述してきた車輪モジュール200において、駆動部220はPWM制御をしているため、駆動部220がノイズの発生源となる可能性がある。特に、グランドとアルミニウム製のフロントフレーム212やリアフレーム213やモータケース221などから構成される筐体との間で電位差が異なると、アルミニウム製の筐体をノイズが伝導する場合、電位差が異なる不連続点または面でノイズの反射を生じ、電位差が異なる不連続点または面から車輪モジュール200の外部へノイズを放射し、周辺機器に対して悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、本件構成とすることによって、アルミニウム製の筐体で覆い、さらに、筐体をグランド接続することによって、筐体からグランドまでを同電位にすることによって、外部へのノイズ放出を抑制することが可能となる。
【0070】
上述してきた実施形態から、以下の車輪モジュール200が実現される。
【0071】
(1)タイヤ211が取付けられたホイール部210と、ホイール部210に少なくとも一部が内蔵された駆動部220と、駆動部220と電気的に接続された接地用リード線7と、を備え、ホイール部210および駆動部220は、第1の金属部材1と、金属基材2aの表面にアルマイト処理により絶縁層2bが形成された第2の金属部材2とを含む複数の部材の組合せによってそれぞれ構成されており、それぞれ非導通となり得る第1の金属部材1と第2の金属部材2とが、絶縁層2bを避けて形成された導電部である露出部4において互いに接触した状態で組み付けられる車輪モジュール200。
【0072】
かかる構成によれば、接触する第1の金属部材1と第2の金属部材2とのいずれにおいても静電気による帯電が進むことがない。そのため、帯電が進んで生じる静電放電によってたとえば、放電箇所近傍に配置された電子部品などが破壊されることを未然に防止することができる。
【0073】
(2)上記(1)において、第2の金属部材2の金属基材2aはアルミ合金であり、絶縁層2bは、アルマイト処理によって形成された被膜である車輪モジュール200。
【0074】
かかる構成によれば、軽量化が図れるとともに、耐蝕性の良好な車輪モジュール200とすることができる。
【0075】
(3)上記(1)または(2)において、露出部4は、絶縁層2bの一部を露出した露出領域であり、第1の金属部材1は、露出領域を介して第2の金属部材2の金属基材2aと接触する車輪モジュール200。
【0076】
かかる構成によれば、簡単な後加工により、上記(1)または(2)の構成を実現することができる。
【0077】
(4)上記(1)または(2)において、露出部4は、ネジ穴3,3aの一部を形成しており、第1の金属部材1と第2の金属部材2とは、導電性を有するネジ部材6(止めネジ8,ネジ216a,216b,ワッシャ付きボルト216c,216d)を介して接触する車輪モジュール200。
【0078】
かかる構成によれば、部品組み立てに必要なネジ穴3,3aを後加工すれば、上記(1)または(2)の構成を実現することができる。
【0079】
(5)上記(4)において、駆動部220は、モータ(ステータ225とロータ226)とモータを収納するモータケース221と接地用リード線7とを備え、モータが備える第1の金属部材1であるステータコア225aと、第2の金属部材2であるモータケース221とは、止めネジ8を介して接触する車輪モジュール200。
【0080】
かかる構成によれば、少なくともモータケース221から接地用リード線7に至るまでは導通することになるので、モータケース221において電荷の帯電が進むことがない。そのため、帯電を要因とする静電放電によって、モータケース221内に設けたセンサ類などの電子部品が破壊されることを未然に防止することができる。
【0081】
(6)上記(5)において、第2の金属部材2は、モータケース221に加え、少なくともホイール部210を含む車輪モジュール200。
【0082】
かかる構成によれば、タイヤ211を有するホイール部210などは、地面と接触しながら回転するため帯電しやすいにも拘わらず、ホイール部210から接地用リード線7に至るまで全体的に導通することになる。したがって、この場合帯電を要因とする静電放電によってたとえば電子部品などが破壊されることを未然に防止することができる。
【0083】
(7)上記(5)または(6)において、モータケース221は、モータに加え電子部品(たとえば温度センサなど)を収納可能である車輪モジュール200。
【0084】
かかる構成によれば、モータケース221を利用して、温度センサなどをはじめ様々な電子部品を利用して、より優れた車輪モジュール200を提供することが可能になるとともに、用いる電子部品については、金属材料からの静電放電によって損傷するおそれもない。
【0085】
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、支持部材9を介して台車100の裏面に取付け可能であり、接地用リード線7の先端は、台車100に接触する車輪モジュール200。
【0086】
かかる構成によれば、上記(1)から(7)の特徴を有する車輪モジュール200を用いた台車100を提供することができる。
【0087】
なお、上述してきた実施形態により本発明が限定されるものではない。たとえば、本実施形態では、ステータ225の内側にロータ226が配置された、いわゆるインナーロータ型のモータの構成を有する場合の例を説明したが、たとえば、ロータの内側にステータが配置されるアウターロータ型のモータの構成を有する車輪モジュール200としてもよい。
【0088】
また、上述した実施形態では、モータの回転力を、遊星歯車機構を介してホイール部210に伝達する構成としたが、遊星歯車機構を用いずに、モータから直接ホイール部210に伝達する構成、いわゆるダイレクトドライブの構成の車輪モジュール200とすることもできる。
【0089】
また、上述した実施形態では、
図1に示すように、6輪の台車に車輪モジュール200を適用した例を説明したが、たとえば、2輪や4輪、あるいは6輪よりも多い数の車輪を有する台車にも適用することが可能である。
【0090】
また、上述した実施形態では、車輪モジュール200が台車100の車輪として用いられる場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。たとえば、上述の車輪モジュール200は、ベビーカー、車椅子、各種のカート類、あるいは乗用や運搬用の移動装置の車輪として用いることができる。さらに、たとえば、車輪で移動する方式の各種ロボットに用いることも可能である。
【0091】
また、これも図示はしていないが、モータケース221の大径円筒部221aがギヤベースプレート229と接触する箇所で保護層が露出しており、そこで導通している。
【0092】
また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 第1の金属部材、2 第2の金属部材、2a 金属基材、2b 絶縁層、3,3a ネジ穴、4 露出部、5 接触部、6 ネジ部材、8 止めネジ、100 台車、200 車輪モジュール、210 ホイール部、211 タイヤ、216a,216b ネジ、216c,216d ワッシャ付きボルト、220 駆動部、221 モータケース、225 ステータ、225a ステータコア、226 ロータ